(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】クロロプレン系重合体ラテックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 6/14 20060101AFI20240326BHJP
C08F 36/18 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C08F6/14
C08F36/18
(21)【出願番号】P 2021522188
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2020019042
(87)【国際公開番号】W WO2020241251
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019103105
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】橋本 悠治
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭一
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-011878(JP,A)
【文献】特表2012-524132(JP,A)
【文献】特表2010-537011(JP,A)
【文献】特開昭56-41212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/14
C08F 36/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン系重合体ラテックスの製造方法において、
前記ラテックスに含まれる残留揮発性有機物質を揮発させて除去する際に、該ラテックス液温における飽和水蒸気圧より高い気圧下で、前記ラテックスに、不活性ガス及び空気から選ばれる1種以上のガスと、水との混合流体を接触させ、
前記混合流体の気圧を、前記飽和水蒸気圧よりも0.1~30.0kPa高く、
前記混合流体の温度を、前記気圧での水の沸点よりも低い温度とする、
クロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
【請求項2】
前記混合流体と接触させる前記ラテックスの温度が10~60℃である、請求項1に記載のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
【請求項3】
前記ラテックスに接触させる前記混合流体の温度が10~60℃である、請求項1又は2に記載のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
【請求項4】
前記混合流体を前記ラテックスの液中に吹き込むことにより、前記ラテックスに接触させる、請求項1~3のいずれか1項に記載のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
【請求項5】
前記混合流体と接触させる前の前記ラテックスに含まれる残留揮発性有機物質の濃度が、該ラテックスの総質量を基準として150~10000質量ppmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
【請求項6】
前記ラテックスに含まれる残留揮発性有機物質の濃度を、該ラテックスの総質量を基準として150質量ppm未満に低減させる、請求項1~5のいずれか1項に記載のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
【請求項7】
前記残留揮発性有機物質が、前記ラテックスの製造における重合反応での残留モノマーである、請求項1~6のいずれか1項に記載のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
【請求項8】
前記混合流体の温度が、該混合流体をラテックスに接触させる際の気圧での水の沸点よりも0.5~50℃低い、請求項1~7のいずれか1項に記載のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残留モノマーや残留有機溶媒等の残留揮発性有機物質を効率的に除去することができるクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレン系重合体ラテックスは、一般に、その製造過程において、ストリッピング工程等を経ることにより、重合反応での未反応モノマー(残留モノマー)等の残留揮発性有機物質の濃度が1質量%以下に低減されている。
しかしながら、近年、揮発性有機物質が環境や人体に及ぼす影響に対する意識が高まり、それに伴って、クロロプレン系重合体ラテックス中の残留揮発性有機物質についても、さらなる低減が求められている。
【0003】
クロロプレン系重合体ラテックスから残留揮発性有機物質を除去する技術としては、加熱蒸発や減圧下での蒸留、水蒸気をラテックスに導入するストリッピング、ラテックスの噴霧による揮発促進等が知られている。
例えば、特許文献1には、重合体ラテックスを循環回路に強制循環させて、外部熱交換器により加熱して、残留モノマーを蒸発除去させる方法が記載されている。
また、特許文献2には、重合物分散液を容器内で垂直(鉛直下方)に放射状に噴霧して、気化したモノマーを前記容器上方から排出させることにより、残留モノマーを低減させる方法が記載されている。
また、特許文献3には、ストリッピング塔内で、ポリクロロプレン分散体に水蒸気を供給し、残留モノマーのクロロプレンを塔頂部から排出させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-147016号公報
【文献】特開昭51-37175号公報
【文献】特開2012-524132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1~3に記載されているような方法では、いずれも、クロロプレン系重合体ラテックスは、60℃を超える高温での処理が施されることにより、残留揮発性有機物質が除去される。
しかしながら、クロロプレン系重合体ラテックスを高温で処理すると、水分の蒸発によって凝集物が析出しやすくなり、固形分濃度の低下や、該クロロプレン系重合体ラテックスやガスが流通する配管が閉塞して処理を停止しなければならない等の課題を有していた。このため、クロロプレン系重合体ラテックスの性状を保持しつつ、残留揮発性有機物質を安全に除去するには、高温のクロロプレン系重合体ラテックス中及び処理系内の凝集物を除去する作業を頻繁に行う必要があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、クロロプレン系重合体ラテックスから、凝集物の析出を抑制しつつ、残留揮発性有機物質を効率よく除去することができるクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、不活性ガス等と水との混合流体によるストリッピングによれば、例えば60℃以下のような比較的低温でも、クロロプレン系重合体ラテックスから、残留揮発性有機物質を効率よく除去することができ、かつ、凝集物の析出を抑制できることを見出したことに基づくものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]を提供するものである。
[1]クロロプレン系重合体ラテックスの製造方法において、前記ラテックスに含まれる残留揮発性有機物質を揮発させて除去する際に、該ラテックス液温における飽和水蒸気圧より高い気圧下で、前記ラテックスに、不活性ガス及び空気から選ばれる1種以上のガスと、水との混合流体を接触させ、前記混合流体の温度を、前記気圧での水の沸点よりも低い温度とする、クロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
[2]前記混合流体と接触させる前記ラテックスの温度が10~60℃である、上記[1]に記載のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
[3]前記ラテックスに接触させる前記混合流体の温度が10~60℃である、上記[1]又は[2]に記載のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
[4]前記混合流体を前記ラテックスの液中に吹き込むことにより、前記ラテックスに接触させる、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
[5]前記混合流体と接触させる前の前記ラテックスに含まれる残留揮発性有機物質の濃度が、該ラテックスの総質量を基準として150~10000質量ppmである、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
[6]前記ラテックスに含まれる残留揮発性有機物質の濃度を、該ラテックスの総質量を基準として150質量ppm未満に低減させる、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
[7]前記残留揮発性有機物質が、前記ラテックスの製造における重合反応での残留モノマーである上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クロロプレン系重合体ラテックスの製造において、該ラテックスから、凝集物の析出を抑制しつつ、残留揮発性有機物質を効率よく除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例において、クロロプレン系重合体ラテックス中の残留揮発性有機物質の除去試験の実施に使用した装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法を詳細に説明する。なお、本発明で言う「除去」とは、少なくとも一部を取り除くことを意味する。
【0012】
本発明のクロロプレン系重合体ラテックスの製造方法は、クロロプレン系重合体ラテックス(以下、単に、ラテックスとも言う。)に含まれる残留揮発性有機物質を揮発させて除去する際に、前記ラテックスに、該ラテックス液温における飽和水蒸気圧より高い気圧下で、不活性ガス及び空気から選ばれる1種以上のガス(以下、不活性ガス等とも言う。)と、水との混合流体を接触させ、前記混合流体の温度を、前記気圧での水の沸点よりも低い温度とすることを特徴とする。
上記製造方法によれば、不活性ガス等と水との混合流体を、所定の気圧及び温度の条件下で、ラテックスと接触させることにより、凝集物の析出を抑制して、ラテックス中の残留揮発性有機物質を効率よく除去することができる。
【0013】
[クロロプレン系重合体ラテックス]
クロロプレン系重合体ラテックスとは、クロロプレン系重合体が水中に安定に分散した乳濁液である。ラテックスの固形分濃度は、安定な分散状態が保持されている限り、特に限定されるものではない。好ましくは40~70質量%であり、より好ましくは42~65質量%、さらに好ましくは45~62質量%である。
なお、本明細書におけるラテックスの固形分濃度は、ラテックスを140℃で25分間加温して乾燥させたときの、乾燥前のラテックスの質量に対する乾燥残分の質量の割合である。
【0014】
クロロプレン系重合体とは、モノマーとしてクロロプレン(2-クロロ-1,3-ブタジエン)を用いた重合体であり、モノマーがクロロプレンのみである単独重合体でもよく、また、クロロプレンと他のモノマーとの共重合体でもよい。
クロロプレンと共重合する前記他のモノマーは、特に限定されるものではないが、例えば、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸及びそのエステル類、メタクリル酸及びそのエステル類等が挙げられる。これらは、1種単独であっても、2種以上が併用されてもよい。
前記共重合体を構成するモノマーは、クロロプレンが主成分であることが好ましく、該共重合体を構成する全モノマーの合計含有量100質量%中、クロロプレンが70.0~99.9質量%であることが好ましく、より好ましくは75.0~99.8質量%、さらに好ましくは80.0~99.7質量%である。
【0015】
なお、本発明におけるクロロプレン系重合体ラテックスの合成方法は、特に限定されるものではなく、本発明の製造方法は、公知の合成方法で得られるクロロプレン系重合体ラテックスに適用することができる。クロロプレン系重合体ラテックスは、例えば、後述する合成例に記載の方法により合成することができる。
【0016】
[残留揮発性有機物質]
クロロプレン系重合体ラテックスに含まれる残留揮発性有機物質としては、例えば、該ラテックスの製造における重合反応での未反応モノマー(残留モノマー)、該ラテックスの製造過程で使用された有機溶媒(残留有機溶媒)等が挙げられる。
前記残留モノマーは、上述したクロロプレン系重合体を構成するモノマーのうちの未反応モノマーであり、主に、クロロプレン系重合体の主成分であるクロロプレンモノマーである。ラテックスの品質及び性状等を良好に保持する観点から、これらの残留モノマーが除去されることが好ましい。特に、クロロプレンモノマーは、主成分として最も多く含まれ得る残留モノマーであり、ラテックス中から、できる限り除去されることが好ましい。
前記残留有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、4-メチルシクロヒドロピラン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン等のケトン系溶媒等が挙げられる。
【0017】
前記混合流体と接触させる前のラテックスに含まれる残留揮発性有機物質の濃度は、該ラテックスの総質量を基準として150~10000質量ppmであることが好ましく、より好ましくは175~5000質量ppm、さらに好ましくは200~1000質量ppmである。
本発明は、前記残留揮発性有機物質の濃度が150質量ppm以上である場合に、前記濃度をより低減させるために適用することが有利である。また、前記濃度が10000質量ppm以下であれば、該濃度のさらなる低減を効率よく行うことができる。
【0018】
本発明によれば、ラテックス中の残留揮発性有機物質が除去され、該残留揮発性有機物質の濃度が低減する。前記残留揮発性有機物質の濃度は、該ラテックスの総質量を基準として、好ましくは150質量ppm未満に低減され、より好ましくは140質量ppm以下、さらに好ましくは100質量ppm以下、よりさらに好ましくは50質量ppm以下に低減される。
【0019】
[不活性ガス等]
本発明で言う不活性ガス等とは、クロロプレン系重合体ラテックスとの化学反応をほとんど生じないガスであればよく、不活性ガス及び空気から選ばれる。前記不活性ガスとしては、アルゴン等の希ガス、窒素ガスが挙げられる。空気は、大気でもよいが、より反応性が低いものとして、二酸化炭素等の酸性ガスを含まないことが好ましく、酸素ガス及び窒素ガスが人工的に混合された合成空気がより好ましい。
前記不活性ガス等は、1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、取り扱い容易性やコスト等の観点から、窒素ガス及び/又は空気が好ましい。
【0020】
[混合流体]
前記ラテックスに接触させる混合流体は、前記不活性ガス等と水との混合流体である。なお、前記混合流体における「水」には、液体も気体(水蒸気)も含まれる。
水(水蒸気)のみをラテックスに接触させる従来のストリッピングでは、ラテックスに接触させる際の水及びラテックスの温度を水の沸点に近づくか超えるよう高温にする必要があり、凝集物が析出しやすくなる。
一方、不活性ガス等のみをラテックスに接触させた場合、ラテックス中の水分が不活性ガス等の雰囲気中に蒸発して、凝集物が析出しやすくなる。この場合に凝集物が析出する要因としては、不活性ガス等と接触するラテックス表面の局所的な乾燥によるラテックス粒子のミセルの不安定化や破壊等が考えられる。
このため、本発明においては、不活性ガス等を接触させて凝集物の析出を抑制するのに際し、不活性ガス等と接触するラテックス表面を乾燥させない程度に、不活性ガス等とともに、水をラテックスに接触させる。
【0021】
前記混合流体中の水の量は、ラテックスの組成や固形分濃度等によって異なるため、一概には決められないが、例えば、標準状態(0℃、101.3kPa)における窒素流量と水流量の容積比にて定めることができる。
窒素流量と水流量の容積比(N2流量/H2O流量)は、ラテックスからの凝集物の析出抑制の観点から、0.05~1.00であることが好ましく、より好ましくは0.10~0.75、さらに好ましくは0.15~0.50である。
【0022】
前記混合流体の温度は、残留揮発性有機物質を揮発させて効率よく除去するためには、高温であることが好ましいが、一方で、ラテックスから凝集物が析出しないようにする観点からは、できるだけ低温であることが好ましい。
本発明では、前記混合流体を、該ラテックス液温における飽和水蒸気圧より高い気圧下で、該気圧での水の沸点よりも低い温度でラテックスに接触させることにより、従来よりも低い処理温度で、残留揮発性有機物質を効率よく除去することができる。
【0023】
前記混合流体をラテックスに接触させる際の該混合流体の気圧が、該ラテックス液温における飽和水蒸気圧よりも低い場合、水が沸騰することによって、ラテックス表面が局所的に乾燥し、凝集物が析出しやすくなる。ただし、残留揮発性有機物質の除去操作に要する時間が長くなりすぎないようにする観点からは、前記混合流体の気圧が該ラテックス液温における飽和水蒸気圧よりも高すぎないことが好ましい。
前記混合流体の気圧が飽和水蒸気圧よりも高く、両者の気圧差が0.1~30.0kPaであることが好ましく、より好ましくは0.2~20.0kPaであり、さらに好ましくは0.3~10.0kPaである。
【0024】
前記混合流体をラテックスに接触させる際の該混合流体の温度が、接触させる際の気圧での水の沸点よりも高い場合、ラテックス中の水分が局所的に蒸発しやすくなり、凝集物が析出しやすくなる。ただし、残留揮発性有機物質の除去操作に要する時間が長くなりすぎないようにする観点からは、前記混合流体の温度が、接触させる際の気圧での水の沸点よりも低すぎないことが好ましい。
前記混合流体をラテックスに接触させる際の該混合流体の温度が、接触させる際の気圧での水の沸点よりも低く、両者の温度差が0.5~50.0℃であること好ましく、より好ましくは1.0~30.0℃、さらに好ましくは1.2~10.0℃である。
【0025】
なお、クロロプレン系重合体ラテックスの温度は、高いほど、重合体中の塩素原子が経時的に塩化水素として脱離しやすく、pHの低下による分散状態の不安定化や、架橋点の減少によって、変性や品質の低下を生じやすくなる。塩化水素の脱離の進行の程度は、ほぼ温度にのみ依存すると考えられる。
このため、前記重合体からの塩化水素の脱離を抑制する観点から、前記ラテックスの温度は低くすることが好ましい。
前記塩化水素の脱離量は、ラテックス中の塩素イオン濃度やpH、アルカリ残分(水酸化物イオン)の濃度等の変化を指標として、確認することができる。
【0026】
前記混合流体と接触させるラテックスの温度は、10~60℃に保持することが好ましく、より好ましくは20~55℃、さらに好ましくは30~50℃である。
また、ラテックスに接触させる前記混合流体の温度は、10~60℃であることが好ましく、より好ましくは20~55℃、さらに好ましくは30~50℃である。
残留揮発性有機物質の除去操作における温度制御の容易性の観点からは、前記ラテックスの温度と前記混合流体の温度は、同等程度とすることが好ましい。
【0027】
[方法・装置]
前記混合流体をラテックスに接触させる方法及び装置は、特に限定されるものではなく、上記の気圧及び温度の条件でラテックス中の残留揮発性有機物質の除去操作を行うことができるものであればよい。例えば、配管内でのミキシング、タンク等の容器内への混合流体の吹き込み、ストリッピング塔を用いた向流接触等の方法が挙げられる。これらのうち、装置のメンテナンスや増設のしやすさ、コスト等の観点から、容器内への混合流体の吹き込みが好ましい。この場合、ラテックスに満遍なく、効率的に前記混合流体を接触させる観点から、前記混合流体をラテックスの液中に吹き込む、いわゆるバブリングを行うことが好ましい。その際、ラテックスを撹拌することが好ましい。
なお、本発明の製造方法においては、ラテックスからの凝集物の析出を抑制するという本発明の効果を妨げない範囲内であれば、ラテックス中の残留揮発性有機物質を除去するために、例えば、蒸留や吸着、噴霧等の他の方法を併用してもよい。
【0028】
前記混合流体をラテックスに接触させる際のラテックスの加温方法は、特に限定されるものではない。例えば、容器のジャケット、容器内外の熱交換器、水蒸気接触、ヒーター等によって加温することができる。過度な温度上昇を抑制する観点から、容器のジャケット又は/及び容器外の熱交換器にて温水により加温することが好ましい。
前記混合流体の加温方法も、特に限定されるものではなく、例えば、熱交換器やヒーターによって加温することができる。操作容易性やコスト等の観点から、不活性ガス等と水とを混合する際に、水蒸気により、所望の温度に調整することが好ましい。
【0029】
前記混合流体とラテックスとの接触時間は、ラテックスの量やラテックス中の残留揮発性有機物質の濃度、装置規模等に応じて適宜設定されるが、残留揮発性有機物質の除去効率やコスト、凝集体の析出の抑制、加温によるクロロプレン系重合体からの塩化水素の脱離の抑制等の観点から、0.5~20.0時間程度であることが好ましく、より好ましくは1.0~15.0時間、さらに好ましくは1.5~12.0時間である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0031】
[クロロプレン系重合体ラテックスの合成例]
内容積60Lの反応器に、モノマーとして2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(東京化成工業株式会社製)18.2kg及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(東京化成工業株式会社製)1.8kgと、純水18kgと、不均化ロジン酸(荒川化学工業株式会社製、「R-300」)860gと、n-ドデシルメルカプタン(東京化成工業株式会社製)20.0gと、水酸化カリウム(純正化学工業株式会社製)240gと、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製)160gとを仕込んだ。
これらの仕込み原料を乳化させて、不均化ロジン酸をロジン石鹸とした後、開始剤として過硫酸カリウム(三菱ガス化学株式会社製)を加えて、窒素雰囲気下、40℃で重合を行った。重合転化率が88.1%に達したところで、直ちにフェノチアジンの乳濁液を添加して重合を停止した。
次いで、水蒸気蒸留にて残留モノマーの除去処理を行い、クロロプレン系重合体ラテックス(固形分濃度59質量%)を得た。
【0032】
なお、前記固形分濃度は、重合後のラテックスを採取して質量M1を測定し、また、この採取したラテックスを140℃で25分乾燥した後の固形分の質量M2を測定し、下記式より求めた。
固形分濃度[質量%]=M2/M1×100
【0033】
また、重合転化率は、モノマー仕込み量に対するクロロプレン系重合体の生成量の割合として求めた。なお、クロロプレン系重合体の生成量は、重合後の固形分からクロロプレン系重合体以外の固形分(乳化剤等)を差し引いた量とした。前記クロロプレン系重合体以外の固形分は、前記仕込み原料から、前記モノマー以外に140℃で揮発しない成分を差し引いた量とした。
【0034】
[ラテックス中の残留揮発性有機物質の除去試験]
上記合成例で得られたクロロプレン系重合体ラテックスを用いて、残留揮発性有機物質の除去試験を実施した。
図1に、下記実施例及び比較例で用いた装置の概略を示す。
図1に示す装置においては、容器1としてセパラブルフラスコを用い、該容器1は、外部モーター(図示せず)によって回転する撹拌翼2、容器1内の底部近傍から混合流体を導入する混合流体導入管4、容器1上部に減圧用配管5、温度計(図示せず)及び圧力計(図示せず)を備えている。
混合流体導入管4には、気化器及び圧力計が接続されている。ラテックス6の加温はウォーターバスを用いて行い、また、容器1内の減圧は、減圧用配管5を通じて、ダイアフラムポンプ8を用いて行った。
混合流体3としては、窒素ガス9及び水の混合流体を用いた。窒素ガス9の流量は、マスフローメーター10で調整した。水は、純水11を送液ポンプ12で気化器13へ送り、気化器13で加熱し、気化器13に窒素ガス9を導入して混合流体3とした。水の流量は、気化器13へ送る純水11の量を調節することにより調整した。混合流体3の温度は、混合流体導入管4に巻いたテープヒーター(図示せず)を用いて調節した。
【0035】
上記のような構成を備えた装置で、容器1内にラテックス6を入れ、撹拌翼2で撹拌しながら、窒素ガス9と水との混合流体3を混合流体導入管4からラテックス6に吹き込み、減圧用配管5を通じて、容器1内の気圧(操作気圧)を調節した。
【0036】
(実施例1)
ラテックス6 500mLを40℃に加温して、操作気圧P1を8.0kPaに減圧した。窒素ガス9(N2;流量5.2mL/min(標準状態:0℃、101.3kPa))及び水(H2O;流量34.5mL/min(標準状態))の混合流体3を、温度TGを40℃として、ラテックス6に吹き込んだ。
【0037】
(実施例2~7及び比較例1~4)
実施例1において、ラテックス6の液温及び液量、操作気圧P1、窒素ガス9及び水の流量、並びに混合流体3の温度TGのそれぞれを、下記表1に示すような試験条件に変更し、それ以外は実施例1と同様にして各試験を実施した。
【0038】
比較例1は、混合流体3を吹き込まなかった場合(混合流体未導入)のブランクである。
比較例2では、試験開始から約30分後に混合流体導入管4が凝集物により閉塞したため、試験を中止した。
また、比較例4では、試験開始直後から容器1内での発泡が増大したため、10分後に試験を中止した。
【0039】
[各種分析評価]
上記実施例及び比較例で実施した各試験について、下記の各項目についての分析評価を行った。これらの分析評価結果を、下記表1にまとめて示す。なお、表1における「-」との表記は、未測定であることを示している。
【0040】
(温度)
温度は、測定部位に内挿管を通して、JIS C 1602:2015に規定されるK熱電対にて測定した。
【0041】
(操作気圧)
操作気圧は、ピラニー式デジタル真空計(バキューブランド株式会社製、「DVR2pro」)にて測定した。
【0042】
(残留揮発性有機物質の定量)
上記合成例の重合反応後の残留モノマーであるクロロプレンを残留揮発性有機物質とみなして、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の測定条件で測定した。
<測定条件>
・測定試料:ラテックス0.1gにシクロヘキサン(純正化学株式会社製)20gを添加混合して得られたクロロプレンの抽出液と、プロピオン酸ブチルを100倍(質量基準)のシクロヘキサンで希釈した溶液とを、質量比9:1で混合して調製したもの
・測定機器:高速液体クロマトグラフ;株式会社島津製作所製、「Prominence(登録商標)」
・検出器:UV 220nm
・カラム:昭和電工株式会社製、「Shodex(登録商標) Asahipak(登録商標) ODP-50 4D」
・カラム温度:40℃
・溶離液:アセトニトリル/水=6/4(体積比)
・流速:0.8mL/min
・注入量:10μL
・内部標準物質:プロピオン酸ブチル
【0043】
除去試験を実施した時間t[h]後におけるラテックス6中の残留揮発性有機物質の濃度C(t)[質量ppm]は、除去試験前の残留揮発性有機物質の濃度をC0[質量ppm]、及び除去速度定数をk[h-1]として、下記式(2)に従って減衰することが認められた。
C(t)=C0・exp(-k・t) (2)
除去速度定数kは、残留揮発性有機物質の除去効率の指標であり、値が大きいほど、残留揮発性有機物質の除去効率が高いことを示している。
【0044】
(凝集物の有無)
除去試験後のラテックス6中における凝集物の析出の有無、また、容器1の内壁、撹拌翼2、及び混合流体導入管4における凝集物の付着の有無を目視で確認した。
【0045】
(アルカリ残分減少量)
塩酸による中和滴定により、ラテックス6中のアルカリ残分(水酸化物イオン量)Aを求め、除去試験前のアルカリ残分A0からの減少量(A0-A)を算出して、該ラテックス6中のクロロプレン系重合体からの塩化水素の脱離量の指標とした。上記除去試験においては、試験開始から6時間後のアルカリ残分減少量を求めた。
前記アルカリ残分減少量の値が大きいほど、クロロプレン系重合体からの塩化水素の脱離量が多く、ラテックスの変性が進んでいると言える。
【0046】
アルカリ残分Aは、具体的には、ラテックス6 100gに、滴定時の分散状態を保持するために、界面活性物質としてエマルゲン(登録商標)709(花王株式会社製)を20mL加えた後、ビュレットを用いて、0.5mol/Lの塩酸(ファクター:f)をpH10.5(第一中和点)となるまで滴下し、この滴下量D[mL]から、下記式(3)より求めた。
A[mmol/100g]=f・D・0.5 (3)
【0047】
【0048】
表1に示した結果から分かるように、窒素ガスと水との混合流体を、ラテックス液温における飽和水蒸気圧よりも高い操作気圧下で、前記操作気圧での水の沸点よりも低い温度でラテックスに導入することにより、該ラテックス及び装置内で凝集物が析出することなく、残留揮発性有機物質を効率よく除去できることが認められた。
また、ラテックス及び混合流体の温度40℃、試験時間6時間でのアルカリ残分減少量が、実施例1、6及び7においては、混合流体を未導入のブランク(比較例1)と同等程度もしくはそれ以下であり、クロロプレン系重合体からの塩化水素の脱離によってラテックスが著しく変性することはないと言える。
【0049】
混合流体の温度TGが操作気圧での水の沸点TBよりも高い場合(比較例3:TG-TB>0)は、残留揮発性有機物質の除去効率が高いものの、ラテックス中に凝集物が析出した。また、アルカリ残分減少量が、混合流体未導入のブランク(比較例1)に比べて著しく多く、クロロプレン系重合体からの塩化水素の脱離によるラテックスの変性が著しいと言える。
また、操作気圧P1とラテックス液温での飽和水蒸気圧Psが等しい場合(比較例4:P1-PS=0)は、上述したように、発泡が増大したため試験を中止したが、容器内壁への凝集物の付着も確認された。
【符号の説明】
【0050】
1 容器
2 撹拌翼
3 混合流体
4 混合流体導入管
5 減圧用配管
6 ラテックス
7 ウォーターバス
8 ダイアフラムポンプ
9 窒素ガス
10 マスフローコントローラー
11 純水
12 送液ポンプ
13 気化器