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  • 特許-フッ素含有排水の処理装置及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】フッ素含有排水の処理装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/52 20230101AFI20240326BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20240326BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20240326BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20240326BHJP
【FI】
C02F1/52 J
B01D21/01 102
B01D61/58
C02F1/44 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023050168
(22)【出願日】2023-03-27
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】田力 弘道
(72)【発明者】
【氏名】中里 寛時
(72)【発明者】
【氏名】石井 一輝
(72)【発明者】
【氏名】塚本 和巳
【審査官】▲高▼橋 明日香
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-143919(JP,A)
【文献】特開2010-082546(JP,A)
【文献】特開2014-213264(JP,A)
【文献】特開平10-094787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/01
C02F 1/52-1/56
B01D 53/22,61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有排水を無機凝集剤及びカルシウム化合物により凝集処理する第1の凝集処理手段と、第1の凝集処理手段からの凝集反応液を沈殿分離する第1の沈殿処理手段と、
該第1の沈殿処理手段からの処理水の少なくとも一部に無機凝集剤を添加し凝集処理する第2の凝集処理手段と、
該第2の凝集処理手段からの凝集反応液を膜分離処理する除濁膜装置と、
該除濁膜装置の膜透過水が供給され、透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜装置と、
該逆浸透膜装置からの透過水を取り出す手段と、
該逆浸透膜装置からの濃縮水を無機凝集剤により凝集処理する、前記第1の凝集処理手段とは別個に設置された第3の凝集処理手段と、第3の凝集処理手段からの凝集反応液を沈殿分離する第2の沈殿処理手段と、
前記第2の凝集処理手段、前記除濁膜装置及び前記逆浸透膜装置が稼動停止しているときに、前記第1の沈殿処理手段からの処理水を前記第3の凝集処理手段に送水するためのバイパス手段と
を有するフッ素含有水排水の処理装置。
【請求項2】
前記逆浸透膜装置の一次側に希薄水供給手段を設けた請求項1のフッ素含有水の処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2のフッ素含有排水の処理装置によってフッ素含有水を処理するフッ素含有水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有排水の処理装置及び方法に係り、特にフッ素含有排水を凝集処理、膜分離処理等で処理して回収する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶や半導体の製造工程から排出されるフッ素含有排水の処理装置及び方法として、カルシウム塩による凝集沈殿処理と、その処理水をさらにアルミニウム塩により凝集沈殿処理する二段沈殿処理がある。
【0003】
フッ素含有排水の凝集沈殿処理水をさらに膜分離処理する方法及び装置が特許文献1,2に記載されている。
【0004】
特許文献1では、フッ素含有排水をカルシウム塩で凝集して固液分離し、この処理水を鉄塩で凝集して固液分離し、この処理水をRO(逆浸透)処理する。
【0005】
特許文献1には、固液分離した汚泥の一部をCa反応槽に導入してCa化合物を添加して汚泥を改質(高密度化)して凝集反応槽に返送・投入する方法が記載されている。この方法は一般に高密度汚泥法として知られている。
【0006】
特許文献2では、フッ素含有排水をカルシウム塩で凝集処理した後、沈殿処理し、この処理水をRO処理し、透過水を処理水として取り出す。RO装置の濃縮水は凝集槽に移送される。特許文献2の図2の態様では、凝集及び沈殿処理のラインを2系列設け、一方の系列からの沈殿処理水をRO処理して透過水と濃縮水とに分離し、この濃縮水を他方の系列の凝集槽に移送する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-213264号公報
【文献】特開2018-143919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フッ素含有排水の凝集沈殿処理水は、フッ化カルシウムが飽和状態にあるので、ROで処理すると短時間のうちにフッ化カルシウムのスケールが析出し、RO膜が閉塞する。また、沈殿処理水中には、凝集剤に由来するコロイドや高分子凝集剤が含まれているので、これらによりRO膜が閉塞し易い。
【0009】
本発明は、フッ素含有排水を凝集沈殿処理及びRO(逆浸透)処理等によって処理する装置及び方法において、RO膜の閉塞を十分に抑制すると共に、処理水の水質を良好とし、またRO処理水を回収して再利用することも可能となるフッ素含有排水の処理装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフッ素含有排水の処理装置及び方法の要旨は以下の通りである。
【0011】
[1] フッ素含有排水を無機凝集剤及びカルシウム化合物により凝集処理する第1の凝集処理手段と、第1の凝集処理手段からの凝集反応液を沈殿分離する第1の沈澱処理手段と、
該第1の沈殿処理手段からの処理水の少なくとも一部に無機凝集剤を添加し凝集処理する第2の凝集処理手段と、
該第2の凝集処理手段からの凝集反応液を膜分離処理する除濁膜装置と、
該除濁膜装置の膜透過水が供給され、透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜装置と、
該逆浸透膜装置からの透過水を取り出す手段と、
該逆浸透膜装置からの濃縮水を無機凝集剤により凝集処理する、前記第1の凝集処理手段とは別個に設置された、第3の凝集処理手段と、該第3の凝集処理手段からの凝集反応液を沈殿分離する第2の沈澱処理手段と
を有するフッ素含有水排水の処理装置。
【0012】
[2] 前記第2の凝集処理手段、前記除濁膜装置及び前記逆浸透膜装置が稼動停止しているときに、前記第1の沈殿処理手段からの処理水を前記第3の凝集処理手段に送水するためのバイパス手段を有する[1]のフッ素含有水の処理装置。
【0013】
[3] 前記逆浸透膜装置の一次側に希薄水供給手段を設けた[1]又は[2]のフッ素含有水の処理装置。
【0014】
[4] [1]又は[2]のフッ素含有排水の処理装置によってフッ素含有水を処理するフッ素含有水の処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフッ素含有排水の処理装置及び方法では、フッ素含有排水を無機凝集剤及びカルシウム化合物を用いて凝集及び沈殿処理し、さらに無機凝集剤を用いて凝集処理した後、固液分離処理してRO処理し、RO透過水を回収する。また、RO濃縮水についてはさらに無機凝集剤により凝集及び沈殿処理する。
【0016】
このようにして凝集及び固液分離処理を2段階行ってからRO処理するので、RO膜の閉塞が抑制される。RO処理された透過水は、回収して再利用することができる。
【0017】
RO濃縮水については、さらに凝集及び固液分離処理(第3段階目の凝集及び固液分離処理)するので、この処理水中のフッ素濃度は十分に低いものとなる。
【0018】
本発明の一態様では、第2段階目の凝集・固液分離処理とRO処理とのラインを停止しているときには、第1段階の凝集・固液分離処理水を第3段階の凝集・固液分離処理に送水することにより、フッ素濃度の低い処理水とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態に係るフッ素含有排水の処理装置のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明のフッ素含有排水の処理装置の実施の形態を示すフロー図である。
【0021】
本発明で処理対象とするフッ素含有排水は、電子ディスプレイ、半導体などの電子工業分野等から排出されるものが好適である。フッ素含有排水中のフッ素濃度は通常20~1000mg-F/L、特に150~800mg-F/L程度である。
【0022】
原水(フッ素含有排水)は、第1反応・凝集槽1において、FeCl、FeSOなどのFe塩又はPAC、硫酸バンドなどのAl塩と、アニオン系ポリマー(有機高分子)凝集剤と、pH調整剤と、第1化学反応槽3から循環されるカルシウム化合物との反応により高密度化された改質汚泥とが添加され、pH8~11で処理されることにより、フッ化カルシウム等の不溶化物が生成する。
【0023】
なお、pH調整剤として用いる酸、アルカリとしては、通常の水処理に一般的に使用されているものを用いることができ、例えば、塩酸、硫酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物といったアルカリを用いることができる。
【0024】
第1反応・凝集槽1からの凝集液は、次いで第1沈殿槽2で固液分離される。固液分離された分離汚泥のうち余剰汚泥は、汚泥処理工程に送泥されるが、分離汚泥の一部は第1化学反応槽3に送給され、カルシウム化合物と混合される。汚泥とカルシウム化合物との反応により高密度化された改質汚泥は、第1反応・凝集槽1に循環される。
【0025】
カルシウム化合物としては、水酸化カルシウム、塩化カルシウムなどを用いることができる。カルシウム化合物の添加量は、第1反応・凝集槽1内に流入するフッ化物イオンの反応当量の120~1500%特に130~280%程度が好適である。ただし、原水にリン酸や硫酸などのカルシウムを消費する物質が含まれる場合は、これらによる消費分を考慮するのが好ましい。
【0026】
第1沈殿槽2で固液分離された第1固液分離水(上澄水)は、中継槽4を経て第2反応・凝集槽5に送給される。なお、この第1固液分離水中のF濃度は、5~50mg/L程度であることが好ましい。また、第1固液分離水の流量は、30~500m/h程度が好ましい。
【0027】
第2反応・凝集槽5には、FeCl、FeSOなどのFe塩又はPAC、硫酸バンドなどのAl塩と、アニオン系ポリマー(有機高分子)凝集剤と、pH調整剤が添加されてpH5~9に調整されて凝集処理が行なわれる。
【0028】
凝集液はMF膜、UF膜等の除濁膜装置6で除濁された後、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸等のホスホン酸やポリアクリル酸等のスケール分散剤が添加され、次いでRO装置7でRO処理され、透過水と濃縮水とに分離される。RO装置7の回収率(透過水/流入水×100%)は50~90%程度が好適である。透過水は、設備用水又は超純水製造用の原水として再利用可能である。なお、スケール分散剤の添加量は10~1000mg/L程度である。
【0029】
除濁膜装置6は逆洗機構を備えており、間欠的に逆洗が行われる。この逆洗排水は第1反応・凝集槽1に送水される。
【0030】
RO装置7は、希薄水によるフラッシング機構付きRO装置であってもよい。フラッシング機構付きRO装置は、フラッシングによりCaFスケールの付着が抑制される。
【0031】
フラッシングは、RO膜装置の一次側を5~60分程度希薄水を、膜面流速が0.001~1m/s程度にとなるように通水することが好ましい。希薄水としては、スケール種(ここではフッ化カルシウム)の飽和指数がゼロ未満である未飽和液であって、RO膜装置の透過水を用いることが好ましいが、別途準備した純水や市水、工業用水なども用いることができる。また、pHは3.2以下とすることが好ましい。
【0032】
また、フラッシングは、予め設定した所定時間毎に実施してよいが、RO膜装置にスケールが生成したタイミングで実施することが好ましい。
【0033】
RO装置7の濃縮水は、第3反応・凝集槽8に送水され、該第3反応・凝集槽8において、FeCl、FeSOなどのFe塩又はPAC、硫酸バンドなどのAl塩と、アニオン系ポリマー(有機高分子)凝集剤と、pH調整剤と、第2化学反応槽10からの改質汚泥と必要に応じてカルシウム塩が添加され、pH8~11で処理されることにより、フッ化カルシウム等の不溶化物が生成する。
【0034】
第3反応・凝集槽8からの凝集液は、次いで第2沈殿槽9で固液分離される。固液分離された分離汚泥のうち余剰汚泥は、汚泥処理工程に送泥されるが、分離汚泥の一部は第2化学反応槽10に送給され、NaOH等のpH調整剤と混合される。第2化学反応槽10において、NaOHと混合されることにより、汚泥がNaOHと反応して高密度化された改質汚泥となる。この改質汚泥は、第3反応・凝集槽8に循環される。
【0035】
第2沈殿槽9で固液分離された上澄水は放流工程に送られる。該放流工程では、pH調整槽(図示略)で中性pHに調整され、監視槽(図示略)を経て河川等に放流される。
【0036】
この実施の形態では、第2反応・凝集槽5、除濁膜装置6及びRO装置7を稼働させないときに、中継槽4内の水を第3反応・凝集槽8へ移送するためのバイパスライン20が設けられている。第2反応・凝集槽5、除濁膜装置6及びRO装置7を稼働させない場合、第2沈殿槽9のLVは0.5~4m/h程度が好ましい。
【0037】
このように構成されたフッ素含有排水の処理装置及びこの装置を用いた処理方法によると、フッ素含有排水を第1反応・凝集槽1、沈殿槽2及び第1化学反応槽3による第1の凝集沈殿処理で処理し、この沈殿槽2からの上澄水をさらに第2反応・凝集槽5で凝集処理し、この凝集液を除濁膜装置6で処理してRO装置7でRO処理するので、RO装置7からの処理水(透過水)のF濃度が十分に低くなる。また、RO装置7の流入水は、2段階にわたって凝集処理及び固液分離処理されたものであるから、RO膜の閉塞が抑制される。特に、RO装置をフラッシング機構付きのものとしたり、RO流入水にスケール防止剤を添加することにより、RO装置のスケールリスクがさらに低減される。
【0038】
また、この実施の形態では、RO装置7の流入水が凝集液を除濁膜で除濁したものであるので、残留コロイド成分や高分子凝集剤に由来するポリマーによる膜閉塞が抑制される。
【0039】
この実施の形態では、RO濃縮水を第3反応・凝集槽8、沈殿槽9及び第2化学反応槽10により処理してF濃度を十分に低下させた放流水を得ることができる。
【0040】
また、この実施の形態では、第2反応・凝集槽5、除濁膜装置6及びRO装置7を稼働停止している場合、第2凝集沈殿槽9の設計LVを0.5~4m/hとすることにより、第2凝集沈殿槽9からの上澄水のF濃度を十分に低いものとすることができる。
【0041】
本発明では、RO装置7を並列に複数個設けてもよい。この場合、一部のRO装置に被処理水を通水して脱塩水を生産している間に他のRO装置に希薄水タンクから希薄水を通水して洗浄を行い、洗浄排水を該希薄水タンクに返送する。
【0042】
希薄水タンク内の希薄水の水質が所定値よりも高塩類濃度側となった場合、希薄水の一部を排出して原水槽又は中継槽に合流させると共に、新たな希薄水を補給する。希薄水としてはRO装置の透過水が用いられる。
【0043】
上記の実施の形態では、第1反応・凝集槽1と第3反応・凝集槽8はともに、高密度汚泥法(HDS法)によるものであるが、いずれか一方、或いは、両方の反応・凝集槽を、沈澱槽からの汚泥を返送しない単なる凝集槽としても良い。第1反応・凝集槽1を単なる凝集槽とした場合には、水酸化カルシウムなどのカルシウム化合物が第1反応・凝集槽1に添加される。
【符号の説明】
【0044】
1 第1反応・凝集槽
2 第1沈殿槽
3 第1化学反応槽
5 第2反応・凝集槽
6 除濁膜装置
7 RO装置
8 第3反応・凝集槽
9 第2沈殿槽
10 第2化学反応槽
20 バイパスライン
【要約】      (修正有)
【課題】RO膜の閉塞を十分に抑制すると共に、処理水の水質を良好とし、またRO処理水を回収して再利用することも可能となるフッ素含有排水の処理装置及び方法を提供する。
【解決手段】フッ素含有排水を無機凝集剤及びカルシウム化合物により凝集処理する第1の凝集処理手段と、第1の凝集処理手段からの凝集反応液を沈殿分離する第1の沈澱処理手段と、第1の沈殿処理手段からの処理水の少なくとも一部に無機凝集剤を添加し凝集処理する第2の凝集処理手段と、第2の凝集処理手段からの凝集反応液を膜分離処理する除濁膜装置と、除濁膜装置の膜透過水が供給され、透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜装置と、逆浸透膜装置からの透過水を取り出す手段と、逆浸透膜装置からの濃縮水を無機凝集剤により凝集処理する、第3の凝集処理手段と、第3の凝集処理手段からの凝集反応液を沈殿分離する第2の沈澱処理手段とを有するフッ素含有水排水の処理装置。
【選択図】図1
図1