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特許7460015貴金属吸着剤、貴金属回収方法及び貴金属吸着剤の再生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】貴金属吸着剤、貴金属回収方法及び貴金属吸着剤の再生方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20230101AFI20240326BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20240326BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240326BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20240326BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240326BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20240326BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C02F1/28 B
B01J20/02 A
B01J20/28 Z
B01J20/34 G
B01J20/34 H
B01J20/30
C22B11/00 101
C22B3/24
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023509163
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022012954
(87)【国際公開番号】W WO2022202738
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2021050484
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】水田 清嗣
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-147702(JP,A)
【文献】特表2006-512484(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109706315(CN,A)
【文献】特公昭49-043472(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第109652647(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109797281(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105753053(CN,A)
【文献】国際公開第2021/060377(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/059325(WO,A1)
【文献】特表2015-500399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/02
B01J 20/28
B01J 20/34
C02F 1/28
C22B 3/06
C22B 3/24
C22B 11/00
C22B 34/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二硫化モリブデン粒子で構成される金属硫化物を含有する貴金属吸着剤に、を吸着させた後に、前記貴金属吸着剤を酸化性溶液で溶解させることで前記を回収する、回収方法。
【請求項2】
二硫化モリブデン粒子で構成される金属硫化物を含有する貴金属吸着剤に、を吸着させた後に、前記貴金属吸着剤を酸素存在下で加熱し揮発させることにより、前記を回収する、回収方法。
【請求項3】
動的光散乱法により求められる前記二硫化モリブデン粒子のメディアン径D50が10nm以上1000nm以下である、請求項1又は2記載の回収方法。
【請求項4】
前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状が、円盤状、リボン状またはシート状であり、厚さが、3~100nmの範囲である、請求項1又は2記載の回収方法。
【請求項5】
BET法で測定される、前記二硫化モリブデン粒子の比表面積が10m/g以上である、
請求項1又は2記載の回収方法。
【請求項6】
請求項2に記載の貴金属回収方法によって揮発したモリブデン酸化物を回収した後に、前記モリブデン酸化物を硫化させることにより、二硫化モリブデン粒子で構成される貴金属吸着剤を再生する、貴金属吸着剤の再生方法。
【請求項7】
前記貴金属吸着剤を構成する二硫化モリブデンの粒子動的光散乱法により求められるメディアン径D50が10nm以上1000nm以下であり、
一次粒子の形状が、円盤状、リボン状またはシート状であり、
厚さが、3~100nmの範囲であり、
且つBET法で測定される比表面積が10m/g以上であり、
前記貴金属吸着剤1gあたり、を0.56g以上吸着させてから回収するものである請求項1又は2記載の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属吸着剤、貴金属回収方法及び貴金属吸着剤の再生方法に関する。
本出願は、2021年3月24日に、日本に出願された特願2021-050484に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
金、銀、白金といった貴金属は、その希少性と耐久性から古来より高い価値を見いだされてきた。現代においては、さらに触媒等工業用途としても重要な位置を有している。しかしながら、例えば金の採掘量は年々増加し、可採年数は2013年基準で後18年程度とも言われている。また社会不安と共に、その価格は乱高下を繰り返しながら長期的に見て上昇傾向にある。
【0003】
その一方で、近年の精密機器には大量の金や銀が含まれ、これらの廃棄物は都市鉱山とも形容される。日本の都市鉱山には、2006年現存埋蔵量の金16%、銀22%が存在すると目され、その有効活用は重要な課題である。
【0004】
従来の一般的な貴金属の回収方法として、溶媒抽出法やイオン交換樹脂法が挙げられる。溶媒抽出法は工程が複雑であるとともに、大量に発生する廃液の処理が問題となる。一方、イオン交換樹脂法は、特定の官能基を導入した合成樹脂を使用すること、樹脂からの脱離プロセスが煩雑であるため高コストになりやすい。
【0005】
これに代わる手段として、近年、各種新しい形での貴金属吸着材料の検討が行われており、例えば、平均重合度が3~4のプロアントシアニジンオリゴマーに対して等モルのグルタルアルデヒドを架橋剤として加えて架橋してなる不溶性ゲルを用いて金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)を吸着可能であることが開示されている(特許文献1)。
また、他の手段として、特定の構造式で表される多孔性ポルフィリン高分子を用いた貴金属回収が開示されている。この手段では、海水のような低濃度であっても、貴金属が濃縮可能であるほどの吸着性能であり、かつ吸着後酸処理することによって吸着剤として再使用可能であるとされている(特許文献2)。
【0006】
また、硫化銅を水銀吸着剤に用いた例や(特許文献3)、有機硫黄化合物であるチオウレア骨格のハイドロゲルを金、白金、パラジウムの吸着剤に用いた例が報告されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-72722号公報
【文献】特開2019-104911号公報
【文献】特開2019-171257号公報
【文献】特開2011-183376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、ブドウ種子由来のポリフェノールを原料としたゲルが金を選択的に吸着することが開示されているが、金の吸着量の定量的な知見や、吸着した金の回収方法に関する知見は無い。
また、特許文献2では、吸着剤である多孔性ポルフィリン高分子の合成難易度は高く、また、吸着後の金を酸処理で回収するため、溶解している金イオンを0価の金に還元しなければならず、金の還元処理が煩雑である。更に、吸着対象が金イオンの場合、ポルフィリン高分子1mg当たり1.617mg、プラチナイオンの場合、ポルフィリン高分子1mg当たり0.1968mgが吸着できるとされているが、更なる高吸着能を実現するためには、48時間程の長い時間で光照射することが必要であり、より短時間かつ簡易な方法での吸着性能が望まれている。
更に、特許文献3では、硫化銅を水銀以外の貴金属の吸着に用いることやその場合の吸着性能についての開示は無い。特許文献4でも、有機硫黄化合物であるであるチオウレア骨格のハイドロゲルを用いた場合の金等の吸着量が十分では無く、また吸着限界濃度についての開示は無く、改善の余地がある。
【0009】
本発明は、貴金属に対する高い吸着性能を実現しつつ、貴金属を容易に回収することできる貴金属吸着剤、貴金属回収方法及び貴金属吸着剤の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、金属硫化物を貴金属吸着剤、特に二硫化モリブデン粒子を貴金属吸着剤として用いると、金属硫化物の貴金属に対する選択性により、高い吸着性能を実現できることを見出した。なかでも、二硫化モリブデン粒子を金の吸着剤として用いると、二硫化モリブデン粒子の金に対する選択性が極めて高く、二硫化モリブデン粒子の単位質量当たりの貴金属の吸着量が従来の貴金属吸着剤よりも大幅に増大し、吸着性能を向上できることを見出した。
【0011】
また、本出願人が保有する技術「nmサイズの酸化モリブデン微粒子」を原料として二硫化モリブデン粒子を製造すると、粒子含有樹脂組成物の鉱山品の粉砕や汎用酸化モリブデン(μmスケール)からの合成では達成困難な、板状構造をもち且つ単位重量当たりの表面積が大きいnmサイズの二硫化モリブデン粒子が得られる。よってこの二硫化モリブデン粒子を貴金属吸着剤、特に金吸着剤として用いると、二硫化モリブデン粒子の大きい比表面積及び金と硫黄との親和性により、金吸着速度及び金吸着量が格段に増大することを見出した。
【0012】
更に、上記貴金属吸着剤に貴金属を吸着させた後に、貴金属吸着剤を酸素存在下で加熱し揮発させることにより、貴金属の価数を変化させずに0価のまま当該貴金属を回収できる。このため、貴金属元素の還元処理が不要となって貴金属を容易に回収でき、また、還元処理に伴う環境負荷を無くすことができることを見出した。特に、二硫化モリブデン粒子に貴金属を吸着させた後に、二硫化モリブデン粒子を酸素存在下で加熱すると、二硫化モリブデンが酸化された酸化モリブデン粒子の高い揮発性により、貴金属をより容易に回収できることを見出した。
【0013】
また、揮発した金属酸化物を回収した後に、硫黄源の存在下で加熱するなどの方法で金属酸化物を硫化させることにより金属硫化物が得られることから、貴金属吸着剤としての金属硫化物を容易に再生することができ、得られた金属硫化物を再利用することで金属資源の消費を抑制できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は以下の構成を提供する。
[1]金属硫化物を含有する、貴金属吸着剤。
【0015】
[2]前記金属硫化物が二硫化モリブデン粒子で構成される、上記[1]に記載の貴金属吸着剤。
【0016】
[3]動的光散乱法により求められる前記二硫化モリブデン粒子のメディアン径D50が10nm以上1000nm以下である、上記[2]に記載の貴金属吸着剤。
【0017】
[4]前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状が、円盤状、リボン状またはシート状であり、厚さが、3~100nmの範囲である、上記[2]又は[3]に記載の貴金属吸着剤。
【0018】
[5]BET法で測定される、前記二硫化モリブデン粒子の比表面積が10m/g以上である、上記[2]~[4]のいずれかに記載の貴金属吸着剤。
【0019】
[6]前記二硫化モリブデン粒子の、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルから得られる動径分布関数において、Mo-Sに起因するピークの強度IとMo-Moに起因するピーク強度IIとの比(I/II)が、1.0より大きい、上記[2]~[5]のいずれかに記載の貴金属吸着剤。
【0020】
[7]前記二硫化モリブデン粒子が、二硫化モリブデンの2H結晶構造及び3R結晶構造を有し、
前記二硫化モリブデン粒子の、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるプロファイルにおいて、39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークが前記2H結晶構造に由来し、32.5°付近のピーク、39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークが前記3R結晶構造に由来し、
39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークの半値幅が1°以上である、上記[2]~[6]のいずれかに記載の貴金属吸着剤。
【0021】
[8]前記金属硫化物に吸着される貴金属が金である、上記[2]~[7]のいずれかに記載の貴金属吸着剤。
【0022】
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の貴金属吸着剤に貴金属を吸着させた後に、前記貴金属吸着剤を酸化性溶液で溶解させることで前記貴金属を回収する、貴金属回収方法。
【0023】
[10]上記[1]~[8]のいずれかに記載の貴金属吸着剤に貴金属を吸着させた後に、前記貴金属吸着剤を酸素存在下で加熱し揮発させることにより、前記貴金属を回収する、貴金属回収方法。
【0024】
[10]上記[9]に記載の貴金属回収方法によって揮発した金属酸化物を回収した後に、前記金属酸化物を硫化させることにより、金属硫化物で構成される貴金属吸着剤を再生する、貴金属吸着剤の再生方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、貴金属に対する高い吸着性能を実現しつつ、貴金属を容易に回収することできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、二硫化モリブデン粒子の原料である三酸化モリブデン粒子の製造に用いられる装置の一例を示す概略図である。
図2図2は、市販の二硫化モリブデン粒子のX線回折(XRD)パターンの結果を、二硫化モリブデン(MoS)の2H結晶構造の回折パターンと共に示す図である。
図3図3は、合成例1で得られた二硫化モリブデン粒子のX線回折(XRD)パターンの結果を、二硫化モリブデン(MoS)の3R結晶構造の回折パターン、二硫化モリブデン(MoS)の2H結晶構造の回折パターン及び二酸化モリブデン(MoO)の回折パターンと共に示す図である。
図4図4は、合成された二硫化モリブデン粒子のAFM像である。
図5図5は、図4に示す二硫化モリブデン粒子の断面を示すグラフである。
図6図6は、合成例1で得られた二硫化モリブデン粒子を用いて測定された、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルである。
図7図7は、実施例2で、合成例1で得られた貴金属吸着剤に金を吸着させたときのX線回折(XRD)パターンを示す図である。
図8図8は、実施例2で二硫化モリブデン粒子に金を吸着させたときのXPSパターンを示す図である。
図9図9は、実施例6,7で金吸着後の二硫化モリブデン粒子から金を回収したときのX線回折(XRD)パターンを示す図である。
図10図10は、合成例1で得られた二硫化モリブデン粒子をカラムに充填し、該カラムに金を含む溶液を通液したときの、金イオン漏洩濃度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
<貴金属吸着剤>
本実施形態に係る貴金属吸着剤は、金属硫化物を含有しており、好ましくは金属硫化物で構成される。本実施形態の貴金属吸着剤は、貴金属に対する選択性を有し、貴金属の高い吸着性能を発揮する。金属硫化物は、二硫化モリブデン粒子を主成分とするのが好ましく、二硫化モリブデン粒子で構成されるのがより好ましい。貴金属の吸着性能が高い点は、例えば前記二硫化モリブデン粒子の前記メディアン径D50が1000nm以下と小さいことに起因すると考えられる。貴金属の上記選択的な吸着性能は、例えば金属硫化物中の硫黄元素が貴金属に対して高い親和性を示すことに起因すると考えられる。貴金属吸着剤の形態としては、例えば金属硫化物粒子が挙げられ、二硫化モリブデン粒子が好ましい。金属硫化物粒子は、二硫化モリブデン粒子を含有するのが好ましく、二硫化モリブデン粒子で構成されるのがより好ましい。
【0029】
本実施形態の貴金属吸着剤が吸着できる貴金属としては、例えば銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)等の貴金属が挙げられ、本実施形態の貴金属吸着剤は、特に金の吸着性能に優れる。金の吸着性能に優れる点は、前記二硫化モリブデン粒子の前記メディアン径D50が1000nm以下と小さいこと、二硫化モリブデンの3R結晶構造、及び/又は、金と硫黄の親和性が非常に高いことに起因すると考えられる。
貴金属吸着剤として二硫化モリブデン粒子を用いる場合には、二硫化モリブデン粒子に吸着される貴金属としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)から選択される1種又は複数種が好ましい。
【0030】
本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子の、動的光散乱法により求められるメディアン径D50は10nm以上1000nm以下であり、前記の効果の点から、600nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、400nm以下が特に好ましい。前記二硫化モリブデン粒子のメディアン径D50は10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよく、40nm以上であってもよい。二硫化モリブデン粒子のメディアン径D50は、例えば動的光散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル社製、Nanotrac WaveII)やレーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製 SALD-7000)等を用いて測定される。
【0031】
本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子は、二硫化モリブデンの3R結晶構造を含むことが好ましい。3R結晶構造を含むことにより、二硫化モリブデン粒子の結晶のエッジ部分が増加し、イオン吸着サイトが増加することが、貴金属の吸着性能の更なる向上に寄与すると考えられる。また、3R結晶構造を含むことにより、貴金属のうち、特に金の吸着性能が格段に向上する。二硫化モリブデン粒子のナノ構造に由来する比表面積が起因していると推測される。
【0032】
前記二硫化モリブデン粒子が、準安定構造の3R結晶構造を含む点は、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるスペクトルにおいて、32.5°付近のピーク、39.5°付近のピーク、及び、49.5°付近のピークが共に2H結晶構造及び3R結晶構造の合成ピーク(ブロードピーク)からなることで区別することができる。
【0033】
さらに、本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子は、二硫化モリブデンの2H結晶構造及び3R結晶構造を含むことが好ましい。一般に市販されている二硫化モリブデン粒子は、粒径が1μmを超える大きさのものを多く含み、また、六方晶固体であり、図2に示されるように、結晶構造としてほぼ2H結晶構造を有する。これに対して、後述する「三酸化モリブデン粒子の製造方法」及び「二硫化モリブデン粒子の製造方法」を経て製造する二硫化モリブデン粒子は、2H結晶構造及び3R結晶構造を含み、メディアン径D50を10nm以上1000nm以下に、容易に調整可能である。
【0034】
二硫化モリブデン粒子が2H結晶構造及び3R結晶構造を有していることは、例えば結晶子サイズを考慮できるリートベルト解析ソフト(パナリティカル社製、ハイスコアプラス)を使用して確認することができる。このリートベルト解析ソフトでは、結晶子サイズを含めた結晶構造モデルを用いてXRDの回折プロファイル全体をシミュレートして、実験で得られるXRDの回折プロファイルと比較し、実験で得られた回折プロファイルと計算で得られた回折プロファイルの残差が最小になるように結晶構造モデルの結晶格子定数、原子座標などの結晶構造因子、重量分率(存在比)等を最小二乗法で最適化し、2H結晶構造及び3R結晶構造の各相を高精度に同定、定量することにより、通常のリートベルト解析によって算出される結晶構造タイプ及びその比率に加えて、結晶子サイズを算出することができる。以下、本特許では、上記のハイスコアプラスを用いた解析手法を「拡張型リートベルト解析」と呼ぶ。
【0035】
さらに、本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子は、前記二硫化モリブデン粒子の、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるプロファイルにおいて、39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークが前記2H結晶構造に由来し、32.5°付近のピーク、39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークが前記3R結晶構造に由来し、39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークの半値幅が1°以上であることが好ましい。さらに、前記二硫化モリブデン粒子は、1H結晶構造など、二硫化モリブデンの2H結晶構造、3R結晶構造以外の結晶構造を含んでいても良い。
【0036】
透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影したときの二次元画像における前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状は、粒子状、球状、板状、針状、紐形状、リボン状またはシート状であっても良く、これらの形状が組み合わさって含まれていても良い。前記二硫化モリブデン粒子の一時粒子の形状は、円盤状、リボン状またはシート状であることが好ましい。また、二硫化モリブデン粒子50個の一次粒子の形状が、平均で、長さ(縦)×幅(横)=50~1000nm×50~1000nmの範囲の大きさを有することが好ましく、100~500nm×100~500nmの範囲の大きさを有することがより好ましく、50~200nm×50~200nmの範囲の大きさを有することが特に好ましい。また、前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状は、原子間力顕微鏡(AFM)で測定される厚さが、3nm以上の範囲の大きさを有することが好ましく、5nm以上の範囲の大きさを有することがより好ましい。また、前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状は、原子間力顕微鏡(AFM)で測定される厚さが、100nm以下の範囲の大きさを有することが好ましく、50nm以下の範囲の大きさを有することがより好ましく、20nm以下の範囲の大きさを有することが特に好ましい。また、前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状は、原子間力顕微鏡(AFM)で測定される厚さが、40mn以下の範囲の大きさを有していてもよく、30mn以下の範囲の大きさを有していてもよい。前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状が、円盤状、リボン状またはシート状であることで、二硫化モリブデン粒子の比表面積を大きくすることができる。また、前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状が、円盤状、リボン状またはシート状であり、且つ、厚さが3~100nmの範囲であるのが好ましい。ここで、円盤状、リボン状またはシート状であるとは、薄層形状であることをいう。円盤状、リボン状、シート状の明確な区別は無いが、例えば厚みが10nm以下の場合はシート状、厚みが10nm以上で、長さ÷幅≧2の場合はリボン状、厚みが10nm以上で、長さ÷幅<2の場合は円盤状とすることができる。二硫化モリブデン粒子の一次粒子のアスペクト比、すなわち、(長さ(縦横の大きさ))/厚み(高さ))の値は、50個の平均で、1.2~1200であることが好ましく、2~800であることがより好ましく、5~400であることが更に好ましく、10~200であることが特に好ましい。二硫化モリブデン粒子50個の一次粒子の形状は、原子間力顕微鏡(AFM)による観察でも形状、長さ、幅、厚みを測定することが可能であり、測定結果からアスペクト比を算出することも可能である。
【0037】
前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状が、単純な球状ではなく、アスペクト比の大きな円盤状、リボン状もしくはシート状であることにより、二硫化モリブデン粒子と放射性物質との接触面積が増大することが期待でき、放射性物質の吸着量の増大に寄与すると考えられる。
【0038】
本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子の、BET法で測定される比表面積は10m/g以上であることが好ましく、20m/g以上であることがより好ましく、30m/g以上であることが特に好ましい。また、前記二硫化モリブデン粒子の、BET法で測定される比表面積は40m/g以上であってもよいし、50m/g以上であってもよいし、60m/g以上であってもよい。前記二硫化モリブデン粒子の、BET法で測定される比表面積は300m/g以下であってもよく、200m/g以下であってもよく、100m/g以下であってもよい。
【0039】
本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子の、BET法で測定される比表面積が10m/g以上に大きい貴金属吸着剤は、貴金属との接触面積を大きくできるので、貴金属の吸着性能が向上すると考えられる。
【0040】
本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子の、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルから得られる動径分布関数において、Mo-Sに起因するピークの強度IとMo-Moに起因するピーク強度IIとの比(I/II)は、1.0より大きいことが好ましく、1.1以上であることがより好ましく、1.2以上であることが特に好ましい。
【0041】
二硫化モリブデンの結晶構造が、2H結晶構造であれ3R結晶構造であれ、Mo-S間の距離は共有結合のためほぼ同じなので、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルにおいて、Mo-Sに起因するピークの強度は同じである。 一方、二硫化モリブデンの2H結晶構造は六方晶(hexagonal)のため、Mo原子の六角形の90°真下に同じ六角形が位置するため、Mo-Mo間の距離が近くなり、Mo-Moに起因するピーク強度IIは強くなる。
逆に、二硫化モリブデンの3R結晶構造は菱面体晶(rhombohedral)のため、六角形の90°真下ではなく、半分ずれて六角形が存在するため、Mo-Mo間の距離が遠くなり、Mo-Moに起因するピーク強度IIは弱くなる。
二硫化モリブデンの純粋な2H結晶構造では前記比(I/II)が小さくなるが、3R結晶構造を含むにつれ前記比(I/II)が大きくなる。
3R結晶構造では、3層のそれぞれのMo原子の六角形が互いに六角形の半分だけずれているため、2層のMo原子の六角形が垂直に規則正しく並んでいる2H結晶構造に比べて、各層の間の相互作用が小さく、貴金属を吸着しやすくなることが期待できる。
【0042】
本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子のMoSへの転化率Rは、三酸化モリブデンの存在が貴金属吸着性能に悪影響を及ぼすと考えられるため70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子は、MoSへの転化率Rが100%近い数字を示せることにより、三酸化モリブデンを副生もしくは含有しうる他の二硫化モリブデン素材やその前駆体より貴金属吸着性能が優れるものとすることができる。
【0043】
本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子のMoSへの転化率Rは、二硫化モリブデン粒子をX線回折(XRD)測定することにより得られるプロファイルデータから、後述するRIR(参照強度比)法により求めることができる。
【0044】
尚、本実施形態の放射性物質吸着剤は、二硫化モリブデン粒子(MoS)で構成されるのが好ましいが、これに限らず、MoS(X=1~3)で表される硫化モリブデン粒子で構成されてもよいし、MoS(X=1~3)で表される硫化モリブデン粒子の1種又は複数種で構成されてもよい。
【0045】
本実施形態の貴金属吸着剤は、貴金属含有溶液、例えば貴金属含有水溶液に含まれる貴金属イオン、貴金属又は貴金属化合物を吸着し、除去又は回収するものとすることができる。また、本実施形態の貴金属吸着剤は、貴金属含有ガスに含まれる貴金属又は貴金属化合物を吸着し、除去又は回収するものとすることができる。
【0046】
本実施形態の貴金属吸着剤を用いる場合、貴金属の初期濃度が極めて低い溶液から当該貴金属を回収することができる。例えば、処理対象となる貴金属溶液における貴金属の初期濃度を10ppm以下、1ppm以下、或いは100ppb以下とすることができる。特に、金属が金である場合、初期濃度を10ppb以下、或いは5ppb以下とすることができる。
【0047】
<貴金属吸着剤の製造方法>
本実施形態に係る貴金属吸着剤の製造方法は、特に制限されないが、例えば金属酸化物を、硫黄源の存在下で加熱することにより製造することができる。また、本実施形態の貴金属吸着剤は、上記製造方法によって得られたものに限らず、本発明の吸着性能を発現できれば、市販の金属硫化物、例えば市販の二硫化モリブデン粒子であってもよい。
【0048】
(貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子の製造方法)
本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子は、例えば、三酸化モリブデン粒子を、硫黄源の存在下、温度200~1000℃で加熱することにより製造することができる。
【0049】
三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒径は、2nm以上1000nm以下であるのが好ましい。三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒径とは、三酸化モリブデン粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影し、二次元画像上の凝集体を構成する最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、その長径(観察される最も長い部分のフェレ径)と短径(その最も長い部分のフェレ径に対して、垂直な向きの短いフェレ径)を計測し、その平均値を一次粒子径としたとき、ランダムに選ばれた50個の一次粒子の一次粒子径の平均値を云う。
【0050】
本実施形態の二硫化モリブデン粒子の製造方法において、前記三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒径は1μm以下であることが好ましい。硫黄との反応性の点から、600nm以下がより好ましく、400nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましい。前記三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒径は2nm以上であってもよく、5nm以上であってもよく、10nm以上であってもよい。
【0051】
本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子の製造に用いる三酸化モリブデン粒子は、三酸化モリブデンのβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなることが好ましい。前記三酸化モリブデン粒子は、結晶構造としてα結晶のみからなる従来の三酸化モリブデン粒子に比べて、硫黄との反応性が良好であり、三酸化モリブデンのβ結晶構造を含むので、硫黄源との反応において、MoSへの転化率Rを大きくすることができる。
【0052】
三酸化モリブデンのβ結晶構造は、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるスペクトルにおいて、MoOのβ結晶の(011)面に帰属する、(2θ:23.01°付近、No.86426(無機結晶構造データベース、ICSD))のピークの存在によって、確認することができる。三酸化モリブデンのα結晶構造は、MoOのα結晶の(021)面(2θ:27.32°付近、No.166363(無機結晶構造データベース、ICSD))のピークの存在によって、確認することができる。
【0053】
前記三酸化モリブデン粒子は、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるプロファイルにおいて、MoOのβ結晶の(011)面に帰属する(2θ:23.01°付近、No.86426(無機結晶構造データベース(ICSD)))ピーク強度の、MoOのα結晶の(021)面に帰属する(2θ:27.32°付近、No.166363(無機結晶構造データベース(ICSD)))ピーク強度に対する比(β(011)/α(021))が0.1以上であることが好ましい。
【0054】
MoOのβ結晶の(011)面に帰属するピーク強度、及び、MoOのα結晶の(021)面に帰属するピーク強度は、それぞれ、ピークの最大強度を読み取り、前記比(β(011)/α(021))を求める。
【0055】
前記三酸化モリブデン粒子において、前記比(β(011)/α(021))は、0.1~10.0であることが好ましく、0.2~10.0であることがより好ましく、0.4~10.0であることが特に好ましい。
【0056】
三酸化モリブデンのβ結晶構造は、ラマン分光測定から得られるラマンスペクトルにおいて、波数773、848cm-1及び905cm-1でのピークの存在によっても、確認することができる。三酸化モリブデンのα結晶構造は、波数663、816cm-1及び991cm-1でのピークの存在によって、確認することができる。
【0057】
本実施形態の製造方法において、前記三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒径が5nm以上2000nm以下であってもよい。
【0058】
硫黄源としては、例えば、硫黄、硫化水素等が挙げられ、これらは単独でも二種を併用しても良い。
【0059】
本実施形態の製造方法は、三酸化モリブデンのβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなる三酸化モリブデン粒子を、硫黄源の不存在下、温度100~800℃で加熱し、次いで、硫黄源の存在下、温度200~1000℃で加熱することを含むものであってもよい。
【0060】
硫黄源の存在下の加熱時間は、硫化反応が充分に進行する時間であればよく、1h~20hであってもよく、2h~15hであってもよく、3h~10hであってもよい。
【0061】
本実施形態の二硫化モリブデン粒子の製造方法において、前記三酸化モリブデン粒子のMoO量に対する、前記硫黄源のS量の仕込み比は、硫化反応が充分に進行する条件であることが好ましい。前記三酸化モリブデン粒子のMoO量100モル%に対して、前記硫黄源のS量が450モル%以上であることが好ましく、600モル%以上であることが好ましく、700モル%以上であることが好ましい。前記三酸化モリブデン粒子のMoO量100モル%に対して、前記硫黄源のS量が3000モル%以下であってもよく、2000モル%以下であってもよく、1500モル%以下であってもよい。
【0062】
本実施形態の製造方法において、前記硫黄源の存在下の加熱温度は、硫化反応が充分に進行する温度であればよく、320℃以上であることが好ましく、340℃以上であることがより好ましく、360℃以上であることが特に好ましい。320~1000℃であってもよく、340~800℃であってもよく、360~600℃であってもよい。
前記硫黄源の存在下の加熱温度は、320~1000℃の温度範囲において、高いほど結晶性に優れた二硫化モリブデン粒子を合成することができる。また、前記硫黄源の存在下の加熱温度は、320~1000℃の温度範囲において、低いほど比表面積の高い二硫化モリブデン粒子を合成することができる。
【0063】
本実施形態の二硫化モリブデン粒子の製造方法において、前記三酸化モリブデン粒子は、蛍光X線(XRF)で測定されるMoOの含有割合が99.5%以上であることが好ましく、これにより、MoSへの転化率Rを大きくすることができ、高純度な、不純物由来の硫化物が生成するおそれがない、保存安定性の良好な二硫化モリブデンを得ることができる。
【0064】
前記三酸化モリブデン粒子は、BET法で測定される比表面積が10m/g以上100m/g以下であることが好ましい。
【0065】
前記三酸化モリブデン粒子において、前記比表面積は、硫黄との反応性が良好になることから、10m/g以上であることが好ましく、20m/g以上であることが好ましく、30m/g以上であることが好ましい。前記三酸化モリブデン粒子において、製造が容易になることから、100m/g以下であることが好ましく、90m/g以下であってもよく、80m/g以下であってもよい。
【0066】
前記三酸化モリブデン粒子は、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルから得られる動径分布関数において、Mo-Oに起因するピークの強度IとMo-Moに起因するピーク強度IIとの比(I/II)が、1.1より大きいことが好ましい。
【0067】
Mo-Oに起因するピークの強度I、及び、Mo-Moに起因するピーク強度IIは、それぞれ、ピークの最大強度を読み取り、前記比(I/II)を求める。前記比(I/II)は、三酸化モリブデン粒子において、MoOのβ結晶構造が得られていることの目安になると考えられ、前記比(I/II)が大きいほど、硫黄との反応性に優れる。
【0068】
前記三酸化モリブデン粒子において、前記比(I/II)は、1.1~5.0であることが好ましく、1.2~4.0であってもよく、1.2~3.0であってもよい。
【0069】
(三酸化モリブデン粒子の製造方法)
前記三酸化モリブデン粒子は、三酸化モリブデン前駆体化合物を気化させて、三酸化モリブデン蒸気を形成し、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却することにより製造することができる。
【0070】
前記三酸化モリブデン粒子の製造方法は、三酸化モリブデン前駆体化合物、及び、前記三酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を含む原料混合物を焼成し、前記三酸化モリブデン前駆体化合物を気化させて、三酸化モリブデン蒸気を形成することを含み、前記原料混合物100質量%に対する、前記金属化合物の割合が、酸化物換算で70質量%以下であることが好ましい。
【0071】
前記三酸化モリブデン粒子の製造方法は、図1に示す製造装置1を用いて好適に実施することができる。
【0072】
図1は、前記三酸化モリブデン粒子の製造に用いられる装置の一例の概略図である。製造装置1は、三酸化モリブデン前駆体化合物、又は、前記原料混合物を焼成し、前記三酸化モリブデン前駆体化合物を気化させる焼成炉2と、前記焼成炉2に接続され、前記焼成により気化した三酸化モリブデン蒸気を粒子化する十字(クロス)型の冷却配管3と、前記冷却配管3で粒子化した三酸化モリブデン粒子を回収する回収手段である回収機4と、を有する。この際、前記焼成炉2および冷却配管3は、排気口5を介して接続されている。また、前記冷却配管3は、左端部には外気吸気口(図示せず)に開度調整ダンパー6が、上端部には観察窓7がそれぞれ配置されている。回収機4には、第1の送風手段である排風装置8が接続されている。当該排風装置8が排風することにより、回収機4および冷却配管3が吸引され、冷却配管3が有する開度調整ダンパー6から外気が冷却配管3に送風される。すなわち、排風装置8が吸引機能を奏することによって、受動的に冷却配管3に送風が生じる。なお、製造装置1は、外部冷却装置9を有していてもよく、これによって焼成炉2から生じる三酸化モリブデン蒸気の冷却条件を任意に制御することが可能となる。
【0073】
開度調整ダンパー6により、外気吸気口からは空気を取り入れ、焼成炉2で気化した三酸化モリブデン蒸気を空気雰囲気下で冷却し、三酸化モリブデン粒子とすることで、前記比(I/II)を1.1より大きくすることができ、三酸化モリブデン粒子において、MoOのβ結晶構造が得られ易い。三酸化モリブデン蒸気を、液体窒素を用いて冷却した場合など、窒素雰囲気下の酸素濃度が低い状態での三酸化モリブデン蒸気の冷却は、酸素欠陥密度を増加させ、前記比(I/II)を低下させ易い。
【0074】
三酸化モリブデン前駆体化合物としては、三酸化モリブデンのβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなる三酸化モリブデン粒子を形成するための前駆体化合物であれば特に制限されない。
【0075】
前記三酸化モリブデン前駆体化合物としては、焼成することで三酸化モリブデン蒸気を形成するものであれば特に制限されないが、金属モリブデン、三酸化モリブデン、二酸化モリブデン、二硫化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸(HPMo1240)、ケイモリブデン酸(HSiMo1240)、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸ケイ素、モリブデン酸マグネシウム(MgMo3n+1(n=1~3))、モリブデン酸ナトリウム(NaMo3n+1(n=1~3))、モリブデン酸チタニウム、モリブデン酸鉄、モリブデン酸カリウム(KMo3n+1(n=1~3))、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸ホウ素、モリブデン酸リチウム(LiMo3n+1(n=1~3))、モリブデン酸コバルト、モリブデン酸ニッケル、モリブデン酸マンガン、モリブデン酸クロム、モリブデン酸セシウム、モリブデン酸バリウム、モリブデン酸ストロンチウム、モリブデン酸イットリウム、モリブデン酸ジルコニウム、モリブデン酸銅等が挙げられる。これらの三酸化モリブデン前駆体化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。三酸化モリブデン前駆体化合物の形態は、特に限定されず、例えば、三酸化モリブデンなどの粉体状であっても良く、モリブデン酸アンモニウム水溶液のような液体であっても良い。好ましくは、ハンドリング性かつエネルギー効率の良い粉体状である。
【0076】
三酸化モリブデン前駆体化合物として、市販のα結晶の三酸化モリブデンを用いることが好ましい。また、酸化モリブデン前駆体化合物として、モリブデン酸アンモニウムを用いる場合には、焼成により熱力学的に安定な三酸化モリブデンに変換されることから、気化する酸化モリブデン前駆体化合物は前記三酸化モリブデンとなる。
【0077】
三酸化モリブデン前駆体化合物、及び、前記三酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を含む原料混合物混合物を焼成することでも、三酸化モリブデン蒸気を形成することができる。
【0078】
これらのうち、得られる三酸化モリブデン粒子の純度、一次粒子の平均粒径、結晶構造を制御しやすい点では、酸化モリブデン前駆体化合物は、三酸化モリブデンを含むことが好ましい。
【0079】
三酸化モリブデン前駆体化合物と前記三酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物とが中間体を生成する場合があるが、この場合でも焼成により中間体が分解して、三酸化モリブデンを熱力学的に安定な形態で気化させることができる。
【0080】
三酸化モリブデン前駆体化合物、及び、前記三酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を含む原料混合物を焼成するに際して、前記原料混合物100質量%に対する、前記三酸化モリブデン前駆体化合物の含有割合は、40~100質量%であることが好ましく、45~100質量%であってもよく、50~100質量%であってもよい。
【0081】
焼成温度としては、使用する三酸化モリブデン前駆体化合物、金属化合物、および所望とする三酸化モリブデン粒子等によっても異なるが、通常、中間体が分解できる温度とすることが好ましい。例えば、三酸化モリブデン前駆体化合物としてモリブデン化合物を、金属化合物としてアルミニウム化合物を用いる場合には、中間体として、モリブデン酸アルミニウムが形成されうることから、焼成温度は500~1500℃であることが好ましく、600~1550℃であることがより好ましく、700~1600℃であることがさらに好ましい。
【0082】
焼成時間についても特に制限はなく、例えば、1min~30hとすることができ、10min~25hとすることができ、100min~20hとすることができる。
【0083】
昇温速度は、使用する三酸化モリブデン前駆体化合物、前記金属化合物、および所望とする三酸化モリブデン粒子の特性等によっても異なるが、製造効率の観点から、0.1℃/min以上100℃/min以下であることが好ましく、1℃/min以上50℃/min以下であることがより好ましく、2℃/min以上10℃/min以下であることがさらに好ましい。
【0084】
次に、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却して粒子化する。
三酸化モリブデン蒸気の冷却は、冷却配管を低温にすることにより行われる。この際、冷却手段としては、上述のように冷却配管中への気体の送風による冷却、冷却配管が有する冷却機構による冷却、外部冷却装置による冷却等が挙げられる。
【0085】
三酸化モリブデン蒸気の冷却は、空気雰囲気下で行うことが好ましい。三酸化モリブデン蒸気を空気雰囲気下で冷却し、三酸化モリブデン粒子とすることで、前記比(I/II)を1.1より大きくすることができ、三酸化モリブデン粒子において、MoOのβ結晶構造が得られ易い。
【0086】
冷却温度(冷却配管の温度)は、特に制限されないが、-100~600℃であることが好ましく、-50~400℃であることがより好ましい。
【0087】
三酸化モリブデン蒸気の冷却速度は、特に制限されないが、100℃/s以上100000℃/s以下であることが好ましく、1000℃/s以上50000℃/s以下であることがより好ましい。なお、三酸化モリブデン蒸気の冷却速度が早くなるほど、粒径の小さく、比表面積の大きい三酸化モリブデン粒子が得られる傾向がある。
【0088】
冷却手段が、冷却配管中への気体の送風による冷却である場合、送風する気体の温度は-100~300℃であることが好ましく、-50~100℃であることがより好ましい。
【0089】
三酸化モリブデン蒸気を冷却して得られた粒子は、回収機に輸送されて回収される。
【0090】
前記三酸化モリブデン粒子の製造方法は、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却して得られた粒子を、再度、100~320℃の温度で焼成してもよい。
【0091】
すなわち、前記三酸化モリブデン粒子の製造方法で得られた三酸化モリブデン粒子を、再度、100~320℃の温度で焼成してもよい。再度の焼成の焼成温度は、120~280℃であってもよく、140~240℃であってもよい。再度の焼成の焼成時間は、例えば、1min~4hとすることができ、10min~5hとすることができ、100min~6hとすることができる。ただし、再度、焼成することにより、三酸化モリブデンのβ結晶構造の一部は、消失してしまい、350℃以上の温度で4時間焼成すると、三酸化モリブデン粒子中のβ結晶構造は消失して、前記比(β(011)/α(021))が0になって、硫黄との反応性が損なわれる。
【0092】
前記貴金属吸着剤の製造方法により、本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子を製造することができる。
また、前記三酸化モリブデン粒子の製造方法により、本実施形態の貴金属吸着剤における二硫化モリブデン粒子の製造に好適な、三酸化モリブデン粒子を製造することができる。
【0093】
<貴金属回収方法>
本実施形態に係る貴金属回収方法は、上記貴金属吸着剤に貴金属を吸着させた後に、前記貴金属吸着剤を酸化性溶液で溶解させることで前記貴金属を回収する。また、本実施形態に係る貴金属回収方法は、上記貴金属吸着剤に貴金属を吸着させた後に、前記貴金属吸着剤を酸素存在下で加熱し揮発させることにより、前記貴金属を回収する。
【0094】
貴金属吸着剤に貴金属が吸着した状態で、当該貴金属吸着剤を酸或いは熱によって除去することにより、簡単なプロセスで容易に貴金属を回収することができる。また、貴金属吸着剤として二硫化モリブデン粒子を用いると、貴金属、特に金は、0価に還元されているので、貴金属元素の還元処理が不要となり、二硫化モリブデン粒子を除去するだけで純度の高い金を容易に回収することが可能となり、また、還元処理に伴う環境負荷をなくすことができる。
【0095】
前記貴金属吸着剤を酸化性溶液で溶解させる場合、酸化性溶液としては例えば硝酸、過酸化水素水などを用いることができる。
【0096】
前記貴金属吸着剤としての二硫化モリブデン粒子を酸素存在下で加熱する場合、加熱温度は400~1500℃であるのが好ましく、650~1200℃であるのがより好ましく、750~950℃であるのが更に好ましい。酸素存在下で二硫化モリブデン粒子を加熱すると、二硫化モリブデンが酸化されて三酸化モリブデンに変わり、三酸化モリブデンの高い揮発性により、比較的低い加熱温度で三酸化モリブデンが気化する。このため、貴金属と二硫化モリブデン粒子とを容易に分離することができ、貴金属を容易に回収することができる。エネルギー効率の観点からはなるべく低温が好ましいものの、三酸化モリブデンの揮発速度が十分な温度が好ましい。400℃は二硫化モリブデンが酸化される温度であり、750℃以上で三酸化モリブデンが円滑に揮発する。
【0097】
<貴金属吸着剤の再生方法>
本実施形態の貴金属吸着剤の再生方法は、上記貴金属回収方法によって揮発した金属酸化物を回収した後に、前記金属酸化物を硫化させることにより、金属硫化物で構成される貴金属吸着剤を再生する。
【0098】
本再生方法において、上記貴金属回収方法によって得られた金属酸化物蒸気をそのまま硫化させてもよいし、一旦冷却して金属酸化物粒子とした後、金属酸化物粒子を硫黄源の存在下で前記金属酸化物を加熱することにより、金属酸化物粒子を硫化させてもよい。
【0099】
貴金属吸着剤として二硫化モリブデン粒子を用いた場合、上記貴金属回収方法によって揮発した三酸化モリブデンを回収し、その後回収された三酸化モリブデン粒子を、例えば上述の二硫化モリブデン粒子の製造方法と同様の方法で硫化することができる。これにより、貴金属吸着剤としての二硫化モリブデン粒子を容易に再生することができ、また、得られた二硫化モリブデン粒子を貴金属吸着剤として再利用することで、モリブデン資源の消費を抑制することができる。
【実施例
【0100】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0101】
[三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒径の測定方法]
三酸化モリブデン粒子を構成する三酸化モリブデン粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した。二次元画像上の凝集体を構成する最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、その長径(観察される最も長い部分のフェレ径)及び短径(その最も長い部分のフェレ径に対して、垂直な向きの短いフェレ径)を計測し、その平均値を一次粒子径とした。同様の操作をランダムに選ばれた50個の一次粒子に対して行い、その一次粒子の一次粒子径の平均値から、一次粒子の平均粒径を算出した。
【0102】
[三酸化モリブデンの純度測定:XRF分析]
蛍光X線分析装置(リガク社製、PrimusIV)を用い、回収した三酸化モリブデン粒子の試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。XRF分析結果により求められるモリブデン量を、三酸化モリブデン粒子100質量%に対する三酸化モリブデン換算(質量%)により求めた。
【0103】
[結晶構造解析:XRD法]
回収した三酸化モリブデン粒子、又は、その硫化物の試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(リガク社製、UltimaIV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2°/min、走査範囲10°以上70°以下の条件で測定を行った。
【0104】
[比表面積測定:BET法]
三酸化モリブデン粒子又は二硫化モリブデン粒子の試料について、比表面積計(マイクロトラックベル社製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m/g)として算出した。
【0105】
[MoSへの転化率R
RIR(参照強度比)法により、二硫化モリブデン(MoS)のRIR値Kおよび二硫化モリブデン(MoS)の(002)面または(003)面に帰属される、2θ=14.4°±0.5°付近のピークの積分強度I、並びに、各酸化モリブデン(原料であるMoO、および反応中間体であるMo25、Mo11、MoOなど)のRIR値Kおよび各酸化モリブデン(原料であるMoO、および反応中間体であるMo25、Mo11、MoOなど)の最強線ピークの積分強度Iを用いて、次の式(1)からMoSへの転化率Rを求めた。
(%)=(I/K)/(Σ(I/K))×100 ・・・(1)
ここで、RIR値は、無機結晶構造データベース(ICSD)に記載されている値をそれぞれ用い、解析には、統合粉末X線解析ソフトウェア(PDXL)(リガク社製)を用いた。
【0106】
[広域X線吸収微細構造(EXAFS)測定]
二硫化モリブデン粉末36.45mgと窒化ホウ素(キシダ化学社製)333.0mgとを乳鉢で混合した。この混合物123.15mgを量り取り、φ8mmの錠剤に圧縮成形し、測定サンプルを得た。この測定サンプルを用いて、あいちシンクロトロン光センターのBL5S1にて透過法で広域X線吸収微細構造(EXAFS)を測定した。解析にはAthena(インターネット<URL: https://bruceravel.github.io/demeter/>)を用いた。
【0107】
[二硫化モリブデン粒子のメディアン径D50の測定]
アセトン20ccに二硫化モリブデン粉末0.1gを添加し、氷浴中で4時間超音波処理を施した後、さらにアセトンで、動的光散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル社製、Nanotrac WaveII)の測定可能範囲の濃度に適宜調整し、測定サンプルを得た。この測定サンプルを用い、上記動的光散乱式粒子径分布測定装置により、粒径0.0001~10μmの範囲の粒子径分布を測定し、メディアン径D50を算出した。
ただし、メディアン径D50が10μmを超えるものについては、同様に溶液を調整し、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD-7000)により、粒径0.015~500μmの範囲の粒子径分布を測定し、メディアン径D50を算出した。
【0108】
[二硫化モリブデン粒子の粒子形状観察方法]
二硫化モリブデン粒子を、原子間力顕微鏡(AFM)(Oxfоrd Cypher-ES)で測定し、粒子形状を観察した。
【0109】
(市販の三酸化モリブデン粒子)
市販の二硫化モリブデン試薬(関東化学社製)のX線回折(XRD)パターンの結果を、2H結晶構造の二硫化モリブデンの回折パターンと共に、図2に示す。この市販の二硫化モリブデン試薬は、2H結晶構造が99%以上の二硫化モリブデンであることが分かった。39.5°付近のピーク、49.5°付近のピークの半値幅は、それぞれ0.23°、0.22°であった。
【0110】
市販の二硫化モリブデン粒子について、比表面積(SA)、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)の測定から得られる、Mo-Sに起因するピークの強度IとMo-Moに起因するピーク強度IIとの比(I/II)は、1.2であった。
市販の二硫化モリブデン粒子の比表面積をBET法により測定したところ、5.6m/gであった。
また、市販の二硫化モリブデン粒子の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、13340nmであった。
【0111】
(合成例1)
(三酸化モリブデン粒子の製造)
遷移酸化アルミニウム(和光純薬工業社製、活性アルミナ、平均粒径45μm)1kgと、三酸化モリブデン(太陽鉱工社製)1kgと、を混合し、次いでサヤに仕込み、図1に示す製造装置1のうち焼成炉2で、温度1100℃で10時間焼成した。焼成中、焼成炉2の側面および下面から外気(送風速度:50L/min、外気温度:25℃)を導入した。三酸化モリブデンは、焼成炉2内で蒸発した後、回収機4付近で冷却され、粒子として析出した。焼成炉2としてRHKシミュレーター(ノリタケカンパニーリミテド社製)を用い、回収機4としてVF-5N集塵機(アマノ社製)を用いた。
【0112】
焼成後、サヤから1.0kgの青色の粒子である酸化アルミニウムと、回収機4で回収した三酸化モリブデン粒子0.85kgを取り出した。回収した三酸化モリブデン粒子は、一次粒子の平均粒径が80nmであり、蛍光X線(XRF)測定にて、三酸化モリブデンの純度は99.7%であることが確認できた。この三酸化モリブデン粒子の、BET法で測定される比表面積(SA)は、44.0m/gであった。
【0113】
(二硫化モリブデン粒子の製造)
磁性坩堝中で、三酸化モリブデン粒子1.00gと、硫黄粉末(関東化学社製)1.57gとを、粉末が均一になるように攪拌棒にて混合し、窒素雰囲気下、500℃で4時間の焼成を行い、黒色粉末を得た。ここで、前記三酸化モリブデン粒子のMoO量100モル%に対して、前記硫黄のS量は705モル%である。この黒色粉末(合成例1の二硫化モリブデン粒子)のX線回折(XRD)パターンの結果を、無機結晶構造データベース(ICSD)に記されている二硫化モリブデン(MoS)の3R結晶構造の回折パターン、二硫化モリブデン(MoS)の2H結晶構造の回折パターン及び二酸化モリブデン(MoO)の回折パターンと共に、図3に示す。二酸化モリブデン(MoO)は、反応中間体である。
【0114】
図3のX線回折(XRD)パターンでは、二硫化モリブデン(MoS)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO)などの反応中間体ピークが観察されず、二硫化モリブデン(MoS)に帰属されるピークのみが観察されたことから、合成例1の二硫化モリブデン粒子は、MoSへの転化率が99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
この合成例1の二硫化モリブデン粒子をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。39.5°付近のピーク、49.5°付近のピークの半値幅は、それぞれ2.36°、3.71°であり、市販の三酸化モリブデン粒子よりも広かった。
【0115】
合成例1の二硫化モリブデン粒子の比表面積をBET法により測定したところ、67.8m/gであった。
【0116】
合成例1の二硫化モリブデン粒子の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、170nmであった。
【0117】
合成された二硫化モリブデン粒子のAFM像を図4に示す。図4は測定して得られたAFM像であり二硫化モリブデン粒子の上面を示している。このAFM像より長さ(縦)×幅(横)を求めたところ、180nm×80nmであった。図5図4に示す二硫化モリブデン粒子の断面を示すグラフである。この断面図より厚み(高さ)を求めたところ、16nmであった。したがって、二硫化モリブデン粒子の一次粒子のアスペクト比(長さ(縦)/厚み(高さ))の値は、11.25であった。
【0118】
図4に示した二硫化モリブデン粒子を含む二硫化モリブデン粒子50個の平均値は、長さ(縦)×幅(横)×厚み(高さ)=198nm×158nm×19nmであった。
【0119】
二硫化モリブデン粒子のAFM測定結果の代表例を表1に示す。表中、「二硫化モリブデン粒子(1)」は、図3に記載の二硫化モリブデン粒子である。「二硫化モリブデン粒子(2)」は、測定した二硫化モリブデン粒子の中で、最も長さが長い粒子であり、「二硫化モリブデン粒子(3)」は、最も長さが短い粒子である。「二硫化モリブデン粒子(4)は、比較的厚みが厚い粒子であり、「二硫化モリブデン粒子(5)」は、最も厚みが薄い粒子である。「二硫化モリブデン粒子(6)」は、最もアスペクト比が大きい粒子である。「二硫化モリブデン粒子(7)」は、最も厚みが厚い粒子であり、かつ、最もアスペクト比が小さい粒子である。
【0120】
【表1】
【0121】
合成例1の二硫化モリブデン粒子の、広域X線吸収微細構造(EXAFS)を測定した。モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルを図4に示す。このスペクトルから得られる動径分布関数において、Mo-Sに起因するピークの強度IとMo-Moに起因するピーク強度IIとの比(I/II)は、1.2であった。
【0122】
(合成例2)
焼成温度を400℃に変更した以外は、合成例1と同様の方法、条件にて二硫化モリブデン粒子を製造した。
【0123】
合成例2の二硫化モリブデン粒子の比表面積をBET法により測定したところ、80.4m/gであった。
【0124】
合成例2の二硫化モリブデン粒子の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、270nmであった。
【0125】
[貴金属(金)吸着評価]
<実施例1>
1000ppm金標準液(ナカライテスク社製)をイオン交換水を用いて希釈し、初期金濃度が561ppmとなるように希釈溶液を調製した。
得られた希釈溶液30gを容積50mLのポリ試験管に入れ、吸着剤として市販の二硫化モリブデン粉末(関東化学社製、二硫化モリブデン試薬)を30mg投入し、転倒回転型撹拌器(トーワラボ社製、ロータ・ミックスRKVSD)で15rpmの回転速度で、24時間撹拌した。
3時間、6時間、24時間の各撹拌時間経過後、0.2μmのシリンジフィルターで濾過を行い、試料溶液中に残存する金濃度を、ICP発光分光分析装置(ICP-OES、パーキンエルマー社製、Optima8300)で定量した。また、24時間後の試料溶液中の金残存濃度と、二硫化モリブデン粉末の投入量を用い、以下の式から吸着剤1gあたりの24時間での金吸着量(g/g)を算出した。
24時間金吸着量=(初期金濃度-24時間後金濃度)×液量/二硫化モリブデン粉末投入量
【0126】
<実施例2>
市販の二硫化モリブデン粉末に代えて合成例1で得られた二硫化モリブデン粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、24時間後の試料溶液中の金残存濃度と、吸着剤1gあたりの24時間での金吸着量(g/g)を算出した。
【0127】
<実施例3>
初期金濃度470ppmの希釈溶液50gに合成例1の二硫化モリブデン粉末10mgを投入したこと以外は、実施例1と同様にして、24時間後の試料溶液中の金残存濃度と、吸着剤1gあたりの24時間での金吸着量を算出した。
【0128】
<実施例4>
合成例1の二硫化モリブデン粉末の投入量を5mgに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、24時間後の試料溶液中の金残存濃度と、吸着剤1gあたりの24時間での金吸着量を算出した。
【0129】
<比較例1>
市販の二硫化モリブデン粉末に代えてカーボン(クラレ社製、クラレコール(登録商標))を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、吸着剤1gあたりの24時間での金吸着量を算出した。
【0130】
【表2】
【0131】
表2の結果から、実施例1では、吸着剤として市販の二硫化モリブデン粉末を30mg使用したときの24時間後の溶液中の金濃度は555ppm、金吸着量は0.006(g/g)であった。
【0132】
実施例2では、合成例1の二硫化モリブデン粉末を30mg使用したときの24時間後の溶液中の金濃度が0.1ppm未満、金吸着量は0.56(g/g)であり、実施例1の市販の二硫化モリブデン粒子と比較して金の吸着性能が格段に高いことが分かった。
実施例2において、金吸着後の二硫化モリブデン粉末をXRD測定したところ、図5に示すように、金吸着前の二硫化モリブデン粉末(合成例1)の回折パターン及び金(0価)のスペクトルピークから、金吸着後の二硫化モリブデン粉末が、nmサイズの二硫化モリブデン粒子(MoS)と0価の金との混合物であることが確認された。
また実施例2において金吸着後の二硫化モリブデン粉末のXPSを3点で測定したところ、図6に示すように、Au 4f7/2におけるピークトップの平均値が84.4eVであることから、二硫化モリブデン粉末に吸着している金の価数が0であることが確認された。
【0133】
実施例3では、合成例1の二硫化モリブデン粉末を10mg使用し、二硫化モリブデン粉末の投入量を少なくしたときの24時間後の溶液中の金濃度が0.1ppm未満、金吸着量は2.35(g/g)であり、実施例2と比較して少量の二硫化モリブデンで検出限界まで金を吸着可能であり、金の吸着性能が格段に高いことが分かった。
【0134】
実施例4では、合成例1の二硫化モリブデン粉末を5mg使用し、二硫化モリブデン粉末の投入量を更に少なくしたときの24時間後の溶液中の金濃度が67ppm、金吸着量は4.03(g/g)であった。実施例2と比較して、24時間の吸着では検出限界まで金を吸着できなかったものの、初期濃度470ppmの溶液を用いた場合の24時間後の溶液中の金吸着量は4g程度であり、上記特許文献に記載された吸着剤よりも金吸着性能が格段に高いことが分かった。
【0135】
ここで実施例1と実施例4の結果の24時間後の金吸着量の差について考察する。実施例1で用いた市販の二硫化モリブデン粉末は、2H結晶構造が99%以上の二硫化モリブデンである。また、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測したメディアン径D50は13340nmである。一方、実施例4で用いた合成例1の二硫化モリブデン粉末は、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれている二硫化モリブデンである。また、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測したメディアン径D50は170nmである。実施例1における24時間後の金吸着量が0.006g/gであるのに対し、実施例4における24時間後の金吸着量が4.03g/gと極めて高いのは、合成例1の二硫化モリブデン粉末が2H結晶構造及び3R結晶構造を含むことと、メディアン径D50が170nmであることのそれぞれが寄与しているためと推察される。したがって、例えば、2H結晶構造が99%以上であり、メディアン径D50が170nm程度の二硫化モリブデン粉末であっても、比較的高い金吸着量を示すと考えられる。また、2H結晶構造及び3R結晶構造を含み、メディアン径D50は13340nm程度である二硫化モリブデン粉末であっても、比較的高い金吸着量を示すと考えられる。
【0136】
一方、比較例1では、吸着剤としてカーボンを用いたときの24時間後の溶液中の金濃度は555ppm、金吸着量は0.006(g/g)であり、吸着剤として市販の二硫化モリブデン粉末を用いた実施例1と比較して金吸着量は同等であった。
【0137】
[低濃度の貴金属(金)吸着評価]
<実施例5>
1000ppm金標準液(ナカライテスク社製)を用い、約5ppbの金溶液を作成した。この溶液40gに対し、合成例1で得られた二硫化モリブデン粉末400mgを吸着剤として添加し、5日間撹拌した。また、対照実験として、吸着剤を添加しない溶液を撹拌し、初期濃度とした。濃度測定には、質量分析装置(アジレント・テクノロジー社製、ICP-MS Agilent 8900)を用いた。結果を表3に示す。
【0138】
【表3】
【0139】
表3の結果から、実施例5では、初期濃度4.28ppbの金溶液を用いた場合、5日間経過後の金濃度は0.01ppb未満であった。このことから、合成例1で得られた二硫化モリブデン粉末を用いると、極めて低濃度の金溶液、例えば都市鉱山から排出される金溶液、メッキ廃液からの金溶液、或いは海水、火山性熱水など自然から採取される金溶液から、金を回収できることが分かった。
【0140】
[吸着後の金の回収]
<実施例6>
1000ppm金標準液100mL(ナカライテスク社製)を用い(金の実量として100mg)、100mLのイオン交換水で希釈した。この希釈溶液に合成例1で得られた二硫化モリブデン粉末50mgを吸着剤として添加し、金を吸着させるために24時間撹拌した。吸着終了後、二硫化モリブデン粒子を瀘別した。
瀘別した二硫化モリブデン粒子を硝酸1.40(関東化学社製)20mLで2回洗浄し、二硫化モリブデンのみを溶解させた。その後沈殿物をイオン交換水で洗浄し、75.8mgの黄色粉末を得た。得られた黄色粉末をXRD測定したところ、図7に示すように金のピークトップと一致したことから、回収された黄色粉末は金(0価)であることが確認された。金の回収率は76%であった。
また、回収された黄色粉末を蛍光X線分析装置(リガク社製、PrimusIV)により組成分析したところ、金の含有率は99.7質量%であった。含有率99.0質量%を超える金は、再精錬して純金とすることが容易である。
【0141】
<実施例7>
実施例6の硝酸洗浄の代わりに、瀘別した二硫化モリブデン粒子を坩堝に入れ、空気雰囲気下で900℃、4時間で加熱し、88.8mgの黄色粉末を得た。得られた黄色粉末をXRD測定したところ、図7に示すように金のピークトップと一致したことから、回収された黄色粉末は金(0価)であることが確認された。金の回収率は89%であり、実施例6よりも高い回収率であった。実施例6における金の回収率が80%程度であるのは、実験スケールが小さいことに加え、洗浄処理時に二硫化モリブデンの微細粒子が容器に付着し取れなくなってしまうこと、二硫化モリブデンを瀘別回収するときに濾紙に取られてしまうこと、微細粒子が十分に沈殿せずに回収できないこと等が挙げられる。一方、実施例7の回収方法では、容器や濾紙への付着が無く、沈殿せずに未回収となる金も無いため、実施例6の回収方法よりも優れていると考えられる。
実施例7で回収された黄色粉末を蛍光X線分析装置(リガク社製、PrimusIV)により組成分析したところ、金の含有率は99.2質量%であった。
【0142】
[比表面積の大きい二硫化モリブデン粒子の金吸着評価]
<実施例8>
合成例2の二硫化モリブデン粉末の投入量を4.5mgに変更したこと以外は、実施例4と同様にして、24時間後の試料溶液中の金残存濃度と、吸着剤1gあたりの24時間での金吸着量を算出した。結果を表4に示す。
【0143】
【表4】
【0144】
表4の結果から、実施例8では、合成例2の二硫化モリブデン粉末を4.5mg使用したときの24時間後の溶液中の金濃度が0.1ppm未満、金吸着量は5.17g/gであり、実施例4で使用した合成例1の二硫化モリブデン粉末と比較して金の吸着性能が高いことが確認された。
【0145】
[通液試験による金吸着評価]
<実施例9>
1000ppm金標準液(ナカライテスク社製)をイオン交換水を用いて希釈し、初期金濃度が100ppmとなるように希釈溶液を調製した。
得られた希釈溶液を3.6mL/分の速度で送液し、合成例1の二硫化モリブデン粉末を充填した内容積3.6cmのカラムに通した。二硫化モリブデン粉末の充填量は3.6cmである。
カラムを通過した希釈溶液をサンプリングし、サンプリング溶液中に残存する金濃度を、ICP発光分光分析装置(ICP-OES、パーキンエルマー社製、Optima8300)で定量した。この時のICP-OESの金濃度検出限界は0.1ppmである。
【0146】
この通液試験による金吸着評価結果を図10に示す。同図の横軸はカラムでの処理液量を示し、通液総量(l)/二硫化モリブデン充填量(l-r)で定義される。この横軸を処理液量(無単位)と呼ぶ。また、同図の縦軸はサンプリング溶液中に残存する金濃度を示し、これを金イオン漏洩濃度と呼ぶ。
【0147】
処理液量が1070までにおける金イオン漏洩濃度はICP-OESの検出限界未満であったことから、サンプリング溶液中に残存する金濃度は0.1ppm未満であることが確認された。
【0148】
処理液量1430以降はサンプリング溶液中に残存する金濃度が徐々に上昇するものの、処理液量3410においても残留する金濃度はわずか7.3ppmであり、92.7ppmは二硫化モリブデン粉末に吸着されていることが確認された。
【0149】
都市鉱山やメッキ廃液から金回収する場合、或いは、金鉱石精錬工程で排出される金含有廃液から金回収する場合、本実施例のように貴金属(金)吸着剤を充填したカラムに、金を含む溶液を連続的に通液して吸着・回収される。したがって、本発明の貴金属(金)吸着剤は、都市鉱山やメッキ廃液、或いは金鉱石精錬工程で排出される金含有廃液からの金回収に好適であると言える。
【0150】
[海水中での金吸着評価]
<実施例10>
1000ppm金標準液(ナカライテスク社製)を疑似海水を用いて希釈し、初期金濃度が100pptとなるように希釈溶液を調製した。
疑似海水とは、イオン交換水1リットル中に、NaClを24.53g、MgClを5.20g、NaSOを4.09g、CaClを1.16g、KClを0.695g、NaHCOを0.201g、KBrを0.101g、HBOを0.027g、SrClを0.025g及びNaFを0.003g溶解させたものであり、溶解後にNaOH水溶液を加えてpHを8.1に調整することで、海水と同等の組成、pHとした。
得られた希釈溶液200gをポリ試験管に入れ、吸着剤として合成例1の二硫化モリブデン粉末を200mg投入し、転倒回転型撹拌器(トーワラボ社製、ロータ・ミックスRKVSD)で15rpmの回転速度で、168時間撹拌した。
168時間の撹拌時間経過後、0.2μmのシリンジフィルターで濾過を行い、試料溶液中に残存する金濃度を、トリプル四重極型誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS/MS)(アジレント・テクノロジー社製、Agilent8900)で定量した。この時のICP-MS/MSの金濃度検出限界は30pptである。結果を表5に示す。
【0151】
【表5】
【0152】
表5の結果から、実施例10では、168時間後に溶液中に残存する金濃度はICP-MS/MSの検出限界未満であったことから、30ppt未満であることが確認された。したがって、少なくとも70pptの金は吸着・回収されていることになる。
【0153】
海水中に含まれる金の濃度は、ppt(parts per trillion)オーダーである。実施例10の結果から、本発明の貴金属(金)吸着剤は、海水中からpptオーダーの金を吸着回収する用途に好適であると言える。また、海水に限らず、火山性熱水など自然に排出される低濃度の金を含有する溶液からの回収にも好適であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明の貴金属吸着剤は、貴金属の吸着性能が大きいので、都市鉱山からの回収、メッキ廃液からの回収、金鉱石精錬工程で排出される金含有廃液からの回収、或いは海水、火山性熱水など自然に排出される金含有溶液からの回収などを行う際に、貴金属回収材料として好適に利用することができる。なかでも、金の吸着性能が格段に優れることから、高濃度~極低濃度で金を含有する溶液からの金の回収材料として特に好適に利用することができる。
また、本発明の貴金属回収方法及び貴金属吸着剤の再生方法は、貴金属の回収及び貴金属吸着剤の再生を容易に行うことができ、環境負荷の低減や金属資源の消費の抑制を実現できることから、海、河川、或いは廃棄物等から貴金属を回収する方法として極めて有用である。
【符号の説明】
【0155】
1 製造装置
2 焼成炉
3 冷却配管
4 回収機
5 排気口
6 開度調整ダンパー
7 観察窓
8 排風装置
9 外部冷却装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10