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特許7460252リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法、正極活物質前駆体、それを用いて製造された正極活物質、正極、およびリチウム二次電池
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  • 特許-リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法、正極活物質前駆体、それを用いて製造された正極活物質、正極、およびリチウム二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法、正極活物質前駆体、それを用いて製造された正極活物質、正極、およびリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240326BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240326BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022535670
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 KR2021003526
(87)【国際公開番号】W WO2021187963
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】10-2020-0034381
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・ウク・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウン・ジュ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ウ・ヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】サン・スン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ギル・キム
(72)【発明者】
【氏名】ギョン・イル・ヨ
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-536972(JP,A)
【文献】特開2013-246983(JP,A)
【文献】特開2015-003838(JP,A)
【文献】特開2019-153567(JP,A)
【文献】特開2019-021424(JP,A)
【文献】特開2013-134822(JP,A)
【文献】特開2016-044120(JP,A)
【文献】特開2012-004097(JP,A)
【文献】特開2001-167761(JP,A)
【文献】特開2015-026454(JP,A)
【文献】特開2000-243394(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110422889(CN,A)
【文献】特開2014-129188(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110828817(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 25/00-47/00
49/10-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル原料物質、コバルト原料物質、およびマンガン原料物質を含む遷移金属水溶液を準備する第1ステップと、
反応器内にアンモニウムカチオン錯体形成剤、塩基性化合物、および水を投入して反応母液を準備する第2ステップと、
前記反応母液が収容された反応器内に前記遷移金属水溶液、アンモニウムカチオン錯体形成剤、および塩基性化合物を投入して反応溶液を形成し、前記反応溶液を共沈反応させ、正極活物質前駆体粒子のコアを形成する第3ステップと、
前記反応溶液のpHを前記第3ステップの反応溶液のpHよりも高くなるように調節して正極活物質前駆体粒子を成長させる第4ステップと、
前記第4ステップで成長させた正極活物質前駆体粒子を、0.10μm/hr以下の平均粒径成長率でさらに反応させることによって、前記正極活物質前駆体粒子を安定化させる第5ステップと、を含む、正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記第2ステップにおいて、反応母液のpHが11.7~11.9である、請求項1に記載の正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記第3ステップにおいて、反応溶液のpHが10.5~11.2である、請求項1または2に記載の正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記第4ステップにおいて、反応溶液のpHが11.2超11.5以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記第3ステップにおいて、単位時間当たりに投入される遷移金属水溶液のモル濃度に対する、単位時間当たりに投入されるアンモニウムカチオン錯体形成剤のモル濃度の比が0.2以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項6】
前記第2ステップにおいて、前記反応母液は、前記塩基性化合物を0.01モル/L以下で含み、前記アンモニウムカチオン錯体形成剤を0.3~0.6モル/Lで含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項7】
前記反応器は、濾過装置を備えた反応器である、請求項1から6のいずれか一項に記載の正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項8】
前記第5ステップにおいて、前記安定化は、前記第3ステップおよび前記第4ステップの反応時間の総和の10%以上になる時間の間行われる、請求項1からのいずれか一項に記載の正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項9】
ニッケル、コバルト、およびマンガンを含む正極活物質前駆体であって、
前記正極活物質前駆体は、下記[式1]および[式2]を満たし、
[式1]
2.5≦C(100)/C(001)≦5.0
[式2]
1.0≦C(101)/C(001)≦3.0
前記[式1]および前記[式2]中、C(001)は(001)面での結晶粒サイズ、C(100)は(100)面での結晶粒サイズ、C(101)は(101)面での結晶粒サイズである、正極活物質前駆体。
【請求項10】
前記正極活物質前駆体の(001)面での結晶粒サイズが100Å以下である、請求項に記載の正極活物質前駆体。
【請求項11】
前記正極活物質前駆体は、ニッケル‐コバルト‐マンガン水酸化物、ニッケル‐コバルト‐マンガンオキシ水酸化物、またはこれらの混合物である、請求項または10に記載の正極活物質前駆体。
【請求項12】
前記ニッケル‐コバルト‐マンガン水酸化物およびニッケル‐コバルト‐マンガンオキシ水酸化物の全体遷移金属中のニッケルのモル比が60モル%以上である、請求項11に記載の正極活物質前駆体。
【請求項13】
請求項から12のいずれか一項に記載の正極活物質前駆体を用いて製造された正極活物質。
【請求項14】
請求項13に記載の正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
【請求項15】
請求項14に記載のリチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2020年3月20日付けの韓国特許出願第10-2020-0034381号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法、前記方法により製造された正極活物質前駆体、前記正極活物質前駆体を用いて製造された正極活物質、正極、およびリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に対する技術開発と需要が増加するにつれて、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加している。かかる二次電池の中でも、高いエネルギー密度および電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が商用化されて広く用いられている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられており、中でも、作用電圧が高く、容量特性に優れたLiCoOなどのリチウムコバルト複合金属酸化物が主に用いられている。しかし、LiCoOは、脱リチウムに応じた結晶構造の不安定化により熱的特性が非常に劣悪である。また、前記LiCoOは、高価であるため、電気自動車などのような分野の動力源として大量使用するには限界がある。
【0005】
前記LiCoOを代替するための材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnOまたはLiMnなど)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePOなど)、またはリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiOなど)などが開発された。中でも、約200mAh/gの高い可逆容量を持って大容量の電池の実現が容易なリチウムニッケル複合金属酸化物に対する研究開発がさらに活発に行われている。しかし、前記LiNiOは、LiCoOに比べて熱安定性が劣り、充電状態で外部からの圧力などにより内部短絡が発生すると、正極活物質それ自体が分解されて電池の破裂および発火を招くという問題があった。そこで、前記LiNiOの優れた可逆容量は維持しながらも低い熱安定性を改善するための方法として、Niの一部をCo、Mn、またはAlに置換したリチウム遷移金属酸化物が開発された。
【0006】
目標とする電気化学的性能を有する正極活物質を製造するためには、正極活物質を製造するための前駆体の結晶学的特性を正確に把握することが重要である。
したがって、正極活物質前駆体粒子の結晶学的特性を制御する方法に対する開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような問題を解決するために、本発明の第1技術的課題は、(001)面の成長を抑制できる正極活物質前駆体の製造方法を提供することにある。
本発明の第2技術的課題は、上述した製造方法により製造されて(001)面の成長が抑制された正極活物質前駆体を提供することにある。
【0008】
本発明の第3技術的課題は、(003)面の成長が最小化された正極活物質を提供することにある。
本発明の第4技術的課題は、前記正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供することにある。
本発明の第5技術的課題は、前記二次電池用正極を含むリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ニッケル原料物質、コバルト原料物質、およびマンガン原料物質を含む遷移金属水溶液を準備する第1ステップと、反応器内にアンモニウムカチオン錯体形成剤、塩基性化合物、および水を投入して反応母液を準備する第2ステップと、前記反応母液が収容された反応器内に前記遷移金属水溶液、アンモニウムカチオン錯体形成剤、および塩基性化合物を投入して反応溶液を形成し、前記反応溶液を共沈反応させ、正極活物質前駆体粒子のコア(core)を形成する第3ステップと、前記反応溶液のpHを前記第3ステップの反応溶液のpHよりも高くなるように調節して正極活物質前駆体粒子を成長させる第4ステップと、前記正極活物質前駆体粒子を安定化させる第5ステップと、を含む、正極活物質前駆体の製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、ニッケル、コバルト、およびマンガンを含む正極活物質前駆体であって、前記正極活物質前駆体は、下記式1および式2を満たすものである、正極活物質前駆体を提供する。
【0011】
[式1]
2.5≦C(100)/C(001)≦5.0
【0012】
[式2]
1.0≦C(101)/C(001)≦3.0
【0013】
前記[式1]および[式2]中、C(001)は(001)面での結晶粒サイズ、C(100)は(100)面での結晶粒サイズ、C(101)は(101)面での結晶粒サイズである。
【0014】
また、本発明は、前記正極活物質前駆体を用いて製造された正極活物質を提供する。
また、本発明は、前記正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供する。
また、本発明は、前記正極を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、正極活物質前駆体の製造時、安定化ステップを有することで、正極活物質前駆体の結晶方向を制御して特定の結晶面の成長を最小化することにより、それを電池に適用時に電気化学的特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】正極活物質前駆体の製造ステップに応じた正極活物質前駆体粒子の形状変化を示した簡略図である。
図2】実施例1~2および比較例1~2で製造した正極活物質前駆体のXRDパターンを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本明細書および請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
【0018】
正極活物質前駆体の製造方法
本発明者らは、正極活物質前駆体の製造時、安定化ステップを追加することで、正極活物質前駆体の特定の結晶面への成長を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
具体的には、本発明に係る正極活物質前駆体の製造方法は、(1)ニッケル原料物質、コバルト原料物質、およびマンガン原料物質を含む遷移金属水溶液を準備するステップ(第1ステップ)と、(2)反応器内にアンモニウムカチオン錯体形成剤、塩基性化合物、および水を投入して反応母液を準備するステップ(第2ステップ)と、(3)前記反応母液が収容された反応器内に前記遷移金属水溶液、アンモニウムカチオン錯体形成剤、および塩基性化合物を投入して反応溶液を形成し、前記反応溶液を共沈反応させ、正極活物質前駆体粒子のコア(core)を形成するステップ(第3ステップ)と、(4)前記反応溶液のpHを前記第3ステップの反応溶液のpHよりも高くなるように調節して正極活物質前駆体粒子を成長させるステップ(第4ステップ)と、(5)前記正極活物質前駆体粒子を安定化させるステップ(第5ステップ)と、を含む。
【0020】
以下、本発明に係る正極活物質の製造方法をより詳細に説明する。
(1)遷移金属水溶液の準備ステップ
先ず、ニッケル原料物質、コバルト原料物質、およびマンガン原料物質を含む遷移金属水溶液を準備する(第1ステップ)。
【0021】
前記ニッケル原料物質は、Ni(OH)、NiO、NiOOH、NiCO・2Ni(OH)・4HO、NiC・2HO、Ni(NO・6HO、NiSO、NiSO・6HO、脂肪酸ニッケル塩、またはニッケルハロゲン化物などであってもよく、この中の何れか1つまたは2つ以上の混合物が用いられてもよい。
【0022】
前記コバルト原料物質は、Co(OH)、CoSO、CoOOH、Co(OCOCH・4HO、Co(NO・6HO、またはCoSO・7HOなどであってもよく、この中の何れか1つまたは2つ以上の混合物が用いられてもよい。
【0023】
前記マンガン原料物質は、Mn、MnO、およびMnなどのマンガン酸化物;MnCO、Mn(NO、MnSO、酢酸マンガン、ジカルボン酸マンガン塩、クエン酸マンガン、および脂肪酸マンガン塩のようなマンガン塩;オキシ水酸化物、または塩化マンガンなどであってもよく、この中の何れか1つまたは2つ以上の混合物が用いられてもよい。
【0024】
また、前記遷移金属水溶液は、ニッケル、コバルト、およびマンガンの他に、ドーピング元素(M)をさらに含むことができる。この際、前記MはW、Mo、Cr、Zr、Ti、Mg、Ta、およびNbからなる群から選択される1つ以上を含むことができる。前記正極活物質がドーピング元素をさらに含む場合、寿命特性、放電特性、および/または安定性などを改善するという効果を達成することができる。
【0025】
前記遷移金属水溶液が前記ドーピング元素Mをさらに含む場合、前記遷移金属水溶液の製造時に、前記ドーピング元素M含有原料物質を選択的にさらに添加することができる。
前記ドーピング元素M含有原料物質としては、ドーピング元素Mを含む酢酸塩、硫酸塩、硫化物、水酸化物、酸化物、またはオキシ水酸化物からなる群から選択される1つ以上が用いられてもよい。
【0026】
例えば、本発明に係る遷移金属水溶液は、遷移金属の全モル数に対して、ニッケルの含量が60モル%以上、より好ましくは80モル%以上になるようにニッケル原料物質を含むことができる。遷移金属水溶液中のニッケル含有量が前記範囲を満たす場合、容量特性をさらに改善することができる。
【0027】
(2)反応母液の準備ステップ
次に、反応器内にアンモニウムカチオン錯体形成剤、塩基性化合物、および水を投入して反応母液を準備する(第2ステップ)。
【0028】
この際、前記反応器は、濾過装置を備えた反応器、例えば、連続濾過タンク反応器(continuous filtered tank reactor、CFTR)であってもよい。連続濾過タンク反応器を用いる場合、同じ反応器サイズで同じ時間で多量の正極活物質前駆体を製造することができるため、バッチ式反応器(batch type reactor)に比べて生産性の面で有利であり、均一な粒度分布を示すため、連続撹拌タンク反応器(continuous stirred tank reactor、CSTR)に比べて品質特性の面でさらに有利である。
【0029】
一方、前記アンモニウムカチオン錯体形成剤は、NHOH、(NHSO、NHNO、NHCl、CHCOONH、およびNHCOからなる群から選択される1つ以上であってもよく、前記化合物を溶媒に溶解させた溶液の形態で反応器内に投入されてもよい。この際、前記溶媒としては、水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的に、アルコールなど)と水との混合物が用いられてもよい。
【0030】
次に、前記塩基性化合物は、NaOH、KOH、およびCa(OH)からなる群から選択される1つ以上であってもよく、前記化合物を溶媒に溶解させた溶液の形態で反応器内に投入されてもよい。この際、溶媒としては、水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的に、アルコールなど)と水との混合物が用いられてもよい。
【0031】
一方、本発明において、前記反応母液のpHは11.7~11.9であることが好ましい。従来は、ニッケル-コバルト‐マンガン系正極活物質前駆体の製造時に、反応母液のpHを12以上になるように形成することが一般的であった。しかし、本発明者らの研究によると、反応母液のpHを11.7~11.9の範囲に形成して前駆体を形成する場合、正極活物質前駆体の(001)面の成長が抑制されることが明らかになった。
【0032】
一方、前記反応母液は、塩基性化合物を0.01モル/L以下、好ましくは0.001モル/L~0.01モル/Lで含み、前記アンモニウムカチオン錯体形成剤を0.3~0.6モル/Lで含むことが好ましい。反応母液中の塩基性化合物およびアンモニウムカチオン錯体形成剤の濃度が前記範囲を満たす際、反応母液のpHを所望の範囲に形成することができ、後述のコア形成ステップで生成される一次粒子の表面エネルギーを最小化することで、(001)面の結晶粒サイズが最小化された前駆体を製造することができる。
【0033】
(3)正極活物質前駆体粒子のコアを形成するステップ
次に、前記反応母液が収容された反応器内に前記遷移金属水溶液、アンモニウムカチオン錯体形成剤、および塩基性化合物を投入して反応溶液を形成し、前記反応溶液を共沈反応させ、正極活物質前駆体のコアを形成する(第3ステップ)。
【0034】
図1には、本発明に係る正極活物質前駆体粒子の形成過程が示されている。
反応母液が収容された反応器に遷移金属水溶液、アンモニウムカチオン、および塩基性水溶液を投入しつつ共沈反応を始めると、図1の(a)に示されたように、一次粒子形態の正極活物質前駆体粒子の核が生成(nucleation)される。共沈反応が進行するにつれ、前記一次粒子形態の核が凝集しつつ、図1の(b)に示されたように、二次粒子形態のシード(seed)を形成するようになり、前記二次粒子形態のシード(seed)が凝集し、図1の(c)に示されたような前駆体粒子のコア(core)を形成するようになる。その後、後述の第4ステップによりコア上で粒子成長がなされるようになり、その結果、図1の(d)に示されたように、前駆体粒子が製造される。
【0035】
第3ステップで用いられる遷移金属水溶液は、上記した第1ステップで準備された遷移金属水溶液であり、アンモニウムカチオン錯体形成剤および塩基性化合物は、第2ステップで用いられたアンモニウムカチオン錯体形成剤および塩基性化合物と同様である。
【0036】
一方、前記コア形成ステップにおいて、前記反応溶液は、pHを10.5~11.2に維持することが好ましい。反応溶液のpHが前記範囲を満たす場合には、反応溶液中に正極活物質前駆体の核が形成され、前記核が凝集してコアを形成する一連の過程が円滑に行われることができ、(001)面の成長が抑制された正極活物質前駆体粒子を製造することができる。pHが前記範囲を脱する場合には、前駆体粒子のコアが十分に形成されず、粒子の成長が遅延し、所望の最終製品の粒度に達することが難くなり得る。また、正極活物質前駆体粒子の(001)面の成長抑制の面で効果的ではない。
【0037】
本発明者らの研究によると、初期の反応溶液中の物質の濃度、投入量、反応温度、および/または混合速度などを制御することで、正極活物質前駆体の結晶面が特定の方向に成長するかまたは抑制するように制御することができる。例えば、前記初期の反応溶液に投入される遷移金属水溶液、塩基性化合物、および/またはアンモニウムカチオン錯体形成剤の投入速度を適切に制御することで、熱力学的に(001)結晶面が高い表面エネルギーを有する環境を作り、(001)結晶面の成長が抑制された正極活物質前駆体粒子コアを形成することができる。
【0038】
具体的には、前記正極活物質前駆体粒子のコアを形成する第3ステップにおいて、単位時間当たりに投入される遷移金属水溶液のモル濃度に対する、単位時間当たりに投入されるアンモニウムカチオン錯体形成剤のモル濃度の比(すなわち、単位時間当たりに投入される金属水溶液のモル濃度/単位時間当たりに投入されるアンモニウムカチオン錯体形成剤のモル濃度)は0.2以上、好ましくは0.25~0.4であってもよい。
【0039】
前記第3ステップにおいて、投入する金属水溶液およびアンモニウムカチオン錯体形成剤の投入量の比が上述した範囲を満たす場合、シード(seed)結晶の格子定数と新たに生成された結晶の格子定数とをマッチング(matching)して変形エネルギー(strain energy)を最小化する状態を作り、(001)結晶面の成長が最小化された前駆体を形成することができる。
【0040】
(4)正極活物質粒子の成長ステップ
次に、上記のような過程を経て前駆体コア粒子が形成されると、反応溶液のpHを前記第3ステップのpHよりも高くなるように調節して前駆体粒子を成長させる(第4ステップ)。
【0041】
前記第4ステップにおいて、反応溶液のpHは、例えば、pH11.2超pH13以下、好ましくは、pH11.3~pH11.4を維持するように制御されてもよい。上記のように、反応溶液のpHが高くなるように調節すると、新たな粒子の生成は抑制され、既に生成された粒子表面において結晶成長および粒子凝集が発生する粒子成長が優先的に起こって粒子サイズが大きくなるようになる。
前記pHの調節は、例えば、塩基性化合物の投入量を調節する方法により行われてもよい。
【0042】
(5)安定化ステップ
前記第4ステップを経て前駆体粒子が所望のサイズだけ成長すると、前駆体粒子を安定化させる安定化ステップを行う(第5ステップ)。
【0043】
前記安定化ステップは、前駆体粒子の結晶方向性を付与するためのものであり、前記安定化ステップにおいては、粒子凝集が抑制されて前駆体粒子の成長は微々たるものであるが、既に成長した結晶面に沿って結晶成長がなされて特定の結晶面の優先方向性が付与される。このため、(001)面以外の面での結晶成長が促進され、(001)面の成長を最小化することができる。
具体的には、前記安定化ステップは、前駆体粒子の平均粒径(D50)成長率が0.10μm/hr以下の区間である。
【0044】
一方、前記安定化ステップは、前記第3ステップおよび第4ステップの総反応時間の10%以上、好ましくは10~25%の時間の間行われることが好ましい。安定化時間が前記範囲を満たす際、経済的でありながらも(001)面の成長が効果的に抑制された正極活物質前駆体を得ることができる。
【0045】
一方、本発明の前記第3ステップ~第5ステップは、反応器の内部に濾過装置が備えられた反応器、例えば、連続濾過タンク反応器(continuous filtered tank reactor、CFTR)内で行われてもよい。
【0046】
上記のように、濾過装置を備えた反応器を用いて正極活物質前駆体を製造する場合、反応器内に反応溶液が満液になると、前記濾過装置を介して、反応溶液中の固形分(すなわち、前駆体粒子)を除いた濾液を反応器の外部に連続的に排出しながら反応を進行することができるため、原料供給が連続的になされることができる。これにより、同じ体積のバッチ式反応器(batch type reactor)を用いる場合に比べて優れた生産性を得ることができる。また、前記濾過装置を備えた反応器を用いて反応を進行する場合、連続撹拌タンク反応器(continuous stirred tank reactor、CSTR)とは異なり、反応溶液が反応器の内部に継続して滞留しつつ反応が進行するため、前駆体粒子の品質均一性に優れる。
【0047】
正極活物質前駆体
次に、本発明に係る正極活物質前駆体について説明する。
本発明の正極活物質前駆体は、上記した本発明の製造方法により製造されてもよく、ニッケル、コバルト、およびマンガンを含む正極活物質前駆体であって、下記[式1]および[式2]を満たす結晶粒サイズを有する。
【0048】
[式1]
2.5≦C(100)/C(001)≦5.0
【0049】
[式2]
1.0≦C(101)/C(001)≦3.0
【0050】
前記[式1]および[式2]中、C(001)は(001)面での結晶粒サイズ、C(100)は(100)面での結晶粒サイズ、C(101)は(101)面での結晶粒サイズである。
【0051】
本発明の方法により製造された正極活物質前駆体の場合、(001)結晶面の成長が抑制されることで、相対的に(100)および(101)結晶のサイズが優勢に成長し、これにより、上述した式1および式2を満たす。
具体的には、本発明の正極活物質の前駆体は、(001)面での結晶粒サイズが150Å以下、好ましくは100Å以下、より好ましくは50~100Åである。
【0052】
前記正極活物質前駆体の(001)結晶面は、それを用いて製造した正極活物質の(003)結晶面に該当するが、正極活物質の(003)結晶面は、熱力学的に安定し、電気化学的に不活性な特性により、リチウムイオンの移動通路(path)として作用しなくなる。本発明のように、(001)結晶面での結晶粒サイズが小さい正極活物質前駆体を用いて製造された正極活物質は、(003)結晶面の成長が抑制され、リチウム移動通路である他の結晶面の面積が広くなってリチウムイオン移動度が改善されており、それを電池に適用する場合、リチウムイオン移動度の改善に応じた容量および抵抗特性がさらに改善される。
【0053】
一方、本発明に係る正極活物質前駆体は、ニッケル‐コバルト‐マンガン水酸化物、ニッケル‐コバルト‐マンガンオキシ水酸化物、またはこれらの混合物であってもよく、前記水酸化物またはオキシ水酸化物中の全体遷移金属中のニッケルのモル比が60モル%以上、好ましくは80モル%以上であってもよい。前駆体中のニッケル含有量が前記範囲を満たす場合、優れた容量特性を実現することができる。
【0054】
正極活物質の製造方法
上記で製造した(001)結晶面の成長が抑制された正極活物質前駆体と、リチウム原料物質とを混合して焼成し、正極活物質を製造する。
【0055】
前記リチウム原料物質は、リチウム源を含む化合物であれば特に制限されずに用いられ得て、好ましくは、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化リチウム(LiOHHO)、LiNO、CHCOOLi、およびLi(COO)からなる群から選択される少なくとも1つを用いてもよい。
【0056】
例えば、前記前駆体に含まれる遷移金属元素とリチウム原料物質を遷移金属(Me):リチウム(Li)のモル比が1:1~1:1.3になるように混合することができる。前記リチウム原料物質が前記範囲未満で混合される場合には、製造される正極活物質の容量が低下する恐れがあり、前記リチウム原料物質が前記範囲を超えて混合される場合には、焼成過程で粒子が焼結して正極活物質の製造が難しくなり得るし、容量低下および焼成後の正極活物質粒子の分離が発生し得る。
【0057】
前記焼成は、730℃~800℃で10~15時間、好ましくは、750℃~780℃で12~14時間行われてもよい。本願の正極活物質前駆体の場合、(001)面の成長が抑制されることで、リチウムイオンが移動できる経路(path)が最大限外部に露出されるため、リチウムイオンの拡散が容易であり、従来の正極活物質の製造時の焼成温度および時間に比べて低い温度および短時間で焼成を行うことができる。
【0058】
正極活物質
また、本発明は上述した正極活物質前駆体を用いて製造された正極活物質を提供する。
具体的に、本発明に係る正極活物質は、(001)結晶面の成長が抑制された正極活物質前駆体を用いて製造することにより、リチウムイオンの移動通路(path)になれない(003)結晶面の成長が抑制されたリチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物であってもよい。
より具体的には、本発明の正極活物質は、下記化学式1で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物であってもよい。
【0059】
[化学式1]
Li1+aNiCoMn
【0060】
前記化学式1中、前記MはW、Mo、Cr、Zr、Ti、Mg、Ta、およびNbからなる群から選択される1種以上であってもよい。
前記1+aは、リチウム遷移金属酸化物中のリチウムのモル比を示すものであって、0≦a≦0.3、好ましくは0≦a≦0.2であってもよい。
【0061】
前記xは、全遷移金属中のニッケルのモル比を示すものであって、0.60≦x<1.0、0.70≦x≦0.99、または0.80≦x≦0.99であってもよい。ニッケル含有量が前記範囲を満たす場合、優れた容量特性を実現することができる。
前記yは、全遷移金属中のコバルトのモル比を示すものであって、0<y<0.40、0<y<0.30、または0.01≦y≦0.20であってもよい。
【0062】
前記zは、全遷移金属中のマンガンのモル比を示すものであって、0<z<0.40、0<z<0.30、または0.01<z<0.20であってもよい。
前記wは、全遷移金属中のMのモル比を示すものであって、0≦w≦0.1、または0≦w≦0.05であってもよい。
【0063】
本発明の正極活物質は、リチウムイオンの移動通路(path)になれない(003)結晶面の面積が最小化されており、リチウムイオン移動度に優れる。よって、本発明の正極活物質を電池に適用すると、優れた容量特性および抵抗特性を実現することができる。
【0064】
正極
また、本発明は、上述した方法により製造された正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供する。
具体的に、前記正極は、正極集電体、および前記正極集電体の少なくとも一面に位置し、上記した正極活物質を含む正極活物質層を含む。
【0065】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発せず且つ導電性を有したものであれば特に制限されず、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものが用いられてもよい。また、前記正極集電体は通常3~500μmの厚さを有してもよく、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めてもよい。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態で用いられてもよい。
【0066】
前記正極活物質層は、前記正極活物質とともに、導電材およびバインダーを含むことができる。
この際、前記正極活物質は、正極活物質層の総重量に対して80~99重量%、より具体的には85~98重量%の含量で含まれてもよい。上記した含量範囲で含まれる際、優れた容量特性を示すことができる。
【0067】
この際、前記導電材は、電極に導電性を付与するために用いられるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こさず電子伝導性を有するものであれば特に制限されずに使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの導電性高分子などが挙げられ、この中の1種の単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記導電材は、正極活物質層の総重量に対して1~30重量%で含まれてもよい。
【0068】
前記バインダーは、正極活物質粒子間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割をする。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF‐co‐HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体などが挙げられ、この中の1種の単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して1~30重量%で含まれてもよい。
【0069】
前記正極は、上記した正極活物質を用いることを除いては、通常の正極製造方法により製造されてもよい。例えば、前記正極は、上記した正極活物質、および選択的に、バインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した正極合材を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することで製造するか、前記正極合材を別の支持体上にキャスティングした後、該支持体から剥離して得たフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造してもよい。この際、前記正極活物質、バインダー、導電材の種類および含量は前述したとおりである。
【0070】
前記溶媒としては、当該技術分野で一般的に用いられる溶媒であってもよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N‐メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)、または水などが挙げられ、この中の1種の単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造収率を考慮して、前記正極活物質、導電材、およびバインダーを溶解または分散させ、その後、正極製造のための塗布時に優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば充分である。
【0071】
リチウム二次電池
また、本発明は、前記正極を含む電気化学素子を製造することができる。前記電気化学素子は、具体的には電池、キャパシタなどであってもよく、より具体的にはリチウム二次電池であってもよい。
【0072】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極、前記正極と対向して位置する負極、前記正極と負極との間に介在するセパレータ、および電解質を含み、前記正極は前述したものと同様であるため、具体的な説明は省略し、以下では残りの構成についてのみ具体的に説明する。
【0073】
また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0074】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体、および前記負極集電体上に位置する負極活物質層を含む。
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発せず且つ高い導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが用いられてもよい。また、前記負極集電体は通常3μm~500μmの厚さを有してもよく、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させてもよい。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態で用いられてもよい。
【0075】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに選択的にバインダーおよび導電材を含む。
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が用いられてもよい。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金、またはAl合金などのリチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープおよび脱ドープが可能な金属酸化物;またはSi‐C複合体またはSn‐C複合体のように前記金属質化合物と炭素質材料とを含む複合物などが挙げられ、これらの何れか1つまたは2つ以上の混合物が用いられてもよい。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料としては、低結晶性炭素および高結晶性炭素などの何れが用いられてもよい。低結晶性炭素としては、ソフトカーボン(soft carbon)およびハードカーボン(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球状、または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソフェーズピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソカーボンマイクロビーズ(meso‐carbon microbeads)、メソフェーズピッチ(Mesophase pitches)、および石油または石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
前記負極活物質は、負極活物質層の総重量に対して80重量%~99重量%で含まれてもよい。
【0076】
前記バインダーは、導電材、活物質、および集電体間の結合に助力をする成分であり、通常、負極活物質層の総重量に対して0.1重量%~10重量%で添加される。かかるバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン‐ブタジエンゴム、ニトリル‐ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの多様な共重合体などが挙げられる。
【0077】
前記導電材は、負極活物質の導電性をさらに向上させるための成分であり、負極活物質層の総重量に対して10重量%以下、好ましくは5重量%以下で添加されてもよい。かかる導電材は、当該電池に化学的変化を誘発せず且つ導電性を有したものであれば特に制限されず、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性材料などが用いられてもよい。
【0078】
前記負極は、負極集電体上に負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極合材を塗布し乾燥するか、または前記負極合材を別の支持体上にキャスティングした後、該支持体から剥離して得たフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されてもよい。
【0079】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離しリチウムイオンの移動通路を提供するものであり、通常、二次電池においてセパレータとして用いられるものであれば特に制限されずに使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗であり、且つ、電解液含湿能力に優れることが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、およびエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子から製造した多孔性高分子フィルム、またはこれらの2層以上の積層構造体が用いられてもよい。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が用いられてもよい。また、耐熱性または機械的強度を確保するためにセラミック成分または高分子物質含みのコーティングされたセパレータが用いられてもよく、選択的に単層または多層構造として用いられてもよい。
【0080】
また、本発明で用いられる電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0081】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動可能な媒質の役割を行うことができるものであれば特に制限されずに用いられてもよい。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ‐ブチロラクトン(γ‐butyrolactone)、ε‐カプロラクトン(ε‐caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R‐CN(Rは炭素数2~20の直鎖状、分岐状、または環状構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含んでもよい)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3‐ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが用いられてもよい。この中でもカーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートなど)との混合物がより好ましい。
【0082】
前記リチウム塩としては、リチウム二次電池で用いられるリチウムイオンを提供可能な化合物であれば特に制限されずに用いられてもよい。具体的に、前記リチウム塩としては、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが用いられてもよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0Mの範囲内で用いることが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度および粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0083】
前記電解質には、前記電解質の構成成分の他にも電池の寿命特性の向上、電池容量の減少抑制、電池の放電容量の向上などを目的に、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グリム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾリジノン、N,N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2‐メトキシエタノール、または三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれてもよい。この際、前記添加剤は、電解質の総重量100重量部に対して0.1~5重量部で含まれてもよい。
【0084】
上記のように、本発明に係る正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性、および寿命特性を安定的に示すため、携帯電話、ノートブック型コンピュータ、デジタルカメラなどの携帯用機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車の分野などに有用である。
【0085】
これにより、本発明の他の一実施形態によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよびそれを含む電池パックが提供される。
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug‐in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのうち何れか1つ以上の中大型デバイスの電源として用いられてもよい。
【0086】
本発明のリチウム二次電池の外形は特に制限されないが、缶を用いた円筒型、角型、パウチ(pouch)型、またはコイン(coin)型などであってもよい。
本発明に係るリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として用いられる電池セルに用いられるだけでなく、複数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池として好ましく用いられてもよい。
【0087】
[実施例]
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明に系る実施例は多様な他の形態に変形可能であり、本発明の範囲が以下に詳述する実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0088】
実施例1
NiSO、CoSO、およびMnSOをニッケル:コバルト:マンガンのモル比が88:5:7になるようにする量で水中で混合して遷移金属水溶液を準備した(第1ステップ)。
前記遷移金属水溶液が入っている容器と、追加的にNaOH溶液とNHOH水溶液とを350Lの濾過装置(フィルタ)が備えられた連続濾過タンク反応器(CFTR)にそれぞれ連結した。
【0089】
次いで、前記反応器に脱イオン水86Lを入れた後、窒素ガスを反応器に20L/分の速度でパージして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気に作った。その後、NaOH水溶液およびNHOH水溶液を投入した後、700rpmの撹拌速度で撹拌し、pH11.7~pH11.9の反応母液を準備した(第2ステップ)。
【0090】
その後、前記反応器内に前記遷移金属水溶液、NHOH水溶液、およびNaOH水溶液を投入し、ニッケルコバルトマンガン水酸化物粒子の形成および粒子凝集を誘導して前駆体コアを形成した(第3ステップ)。この際、前記遷移金属水溶液およびNHOH水溶液は、単位時間当たりに投入される遷移金属水溶液のモル濃度に対するNHOH水溶液のモル濃度の比が0.3になるように投入し、前記NaOH水溶液は、投入量を調節して反応溶液のpHが10.5~11.2を維持できるようにした。
【0091】
次いで、反応溶液のpHが11.3~pH11.5になるようにNaOH水溶液の投入量を調節しつつ反応を進行し、ニッケルコバルトマンガン水酸化物粒子を成長させた(第4ステップ)。
前記前駆体コア形成ステップ(第3ステップ)および粒子成長反応ステップ(第4ステップ)を合わせた総反応時間は40時間であった。
その次に、成長が完了したニッケルコバルトマンガン水酸化物粒子を8時間さらに反応させて安定化させた(第5ステップ)。
【0092】
一方、前記反応は、反応器が満液になると、反応器内の濾過装置を介して濾液を連続的に排出しながら行われた。次に、前記過程により形成されたニッケルコバルトマンガン水酸化物粒子を分離し水洗した後に乾燥し、Ni0.88Co0.05Mn0.07(OH)およびNi0.88Co0.05Mn0.07OOH相が混合された前駆体を製造した。
【0093】
実施例2
前駆体コア形成ステップ(第3ステップ)および粒子成長反応ステップ(第4ステップ)を合計53時間行い、安定化反応(第5ステップ)を15時間行ったことを除いては、前記実施例1と同様の方法により正極活物質前駆体を製造した。
【0094】
比較例1
NiSO、CoSO、およびMnSOをニッケル:コバルト:マンガンのモル比が88:5:7になるようにする量で水中で混合して遷移金属水溶液を準備した。
【0095】
次に、濾過装置(フィルタ)が備えられた連続濾過タンク反応器(CFTR)に脱イオン水86Lを入れた後、窒素ガスを反応器に20L/分の速度でパージして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気に作った。その後、NaOH水溶液およびNHOH水溶液を投入した後、700rpmの撹拌速度で撹拌し、pHが12.1の反応母液を準備した。
【0096】
前記反応器内に前記遷移金属水溶液、NHOH水溶液、およびNaOH水溶液を投入し、ニッケルコバルトマンガン水酸化物粒子の形成および粒子凝集を誘導して前駆体コアを形成した。この際、遷移金属水溶液およびNHOH水溶液は、単位時間当たりに投入される遷移金属水溶液のモル濃度に対するNHOH水溶液のモル濃度の比が0.5になるように投入し、前記NaOH水溶液は、投入量を調節して反応溶液のpHが11.7~11.9を維持できるようにした。
【0097】
次いで、pH12になるようにNaOH水溶液の投入量を調節しつつ反応を進行し、ニッケルコバルトマンガン水酸化物粒子を成長させた。
前記前駆体コア形成ステップおよび粒子成長反応ステップを合わせた総反応時間は48時間であった。
一方、前記反応は、反応器が満液になると、反応器内の濾過装置を介して濾液を連続的に排出しながら行われた。
【0098】
その次に、前記過程により形成されたニッケルコバルトマンガン水酸化物粒子を分離し水洗した後に乾燥し、Ni0.88Co0.05Mn0.07(OH)およびNi0.88Co0.05Mn0.07OOH相が混合された前駆体を製造した。
【0099】
比較例2
成長が完了したニッケルコバルトマンガン水酸化物粒子の安定化ステップを行わないことを除いては、前記実施例1と同様の方法により正極活物質前駆体を製造した。
【0100】
実験例1:粒子の特性分析
(1)前駆体の結晶粒サイズ
前記実施例1~2および比較例1~2で製造した正極活物質前駆体粒子の結晶粒サイズを下記方法により測定した。
【0101】
X線回折分析器(Rikaku社)を用いて、実施例1~2および比較例1~2で製造した前駆体のXRDパターンを測定した。図2には、実施例1~2および比較例1~2で製造された正極活物質前駆体粒子のXRDパターンが示されている。
【0102】
測定されたXRDパターンから各結晶面別にピークの半値幅を得た後、楕円形モデリング(ellipsoid modelling)により、前駆体の各結晶面での結晶粒サイズをScherrer式を用いて計算した。
測定結果を下記表1に示した。
【0103】
【表1】
【0104】
前記[表1]に示されたように、実施例1~2で製造した正極活物質前駆体は、比較例1~2で製造した正極活物質前駆体に比べて、(001)結晶面の成長が抑制されたことを確認することができた。
【0105】
(2)平均粒径
前記実施例1~2および比較例1~2で製造した正極活物質前駆体粒子の粒度分布を確認するために、粒度分布測定装置(Microtrac S3500、Microtrac社)を用いて、実施例1~2および比較例1~2で生成した正極活物質前駆体の粒度を測定し、その結果を下記[表2]に示した。
【0106】
(3)BET比表面積
前記実施例1および比較例1~2で製造した正極活物質前駆体のBET比表面積を確認した。正極活物質前駆体の比表面積は、BET法により測定したものであって、具体的には、BEL Japan社のBELSORP-mini IIを用いて、液体窒素温度下(77K)での窒素ガス吸着量から算出し、それを下記[表2]に示した。
【0107】
(4)タップ密度
200ccの容器に実施例1~2および比較例1~2でそれぞれ得た正極活物質前駆体50gを充填した後、一定の条件で振動させて得られる粒子の見掛け密度を測定した。具体的に、タップ密度試験器(KYT-5000、Seishin社)を用いて、前記リチウム遷移金属酸化物粒子のタップ密度を測定した。測定結果を下記[表2]に示した。
【0108】
【表2】
【0109】
実験例2:初期効率
前記実験例1のように製造した実施例1~2および比較例1~2の正極活物質前駆体を用い、リチウム二次電池を製造した。
【0110】
具体的に、実施例1~2および比較例1~2で製造した正極活物質前駆体とLiOHをLi:遷移金属のモル比が1.07:1になるように混合し、それを770℃で12時間焼成することで、正極活物質を製造した。
【0111】
上記で製造した正極活物質、導電材、およびバインダーを溶媒中で混合し、正極スラリーを製造した。前記正極スラリーをアルミニウム集電体の一面に塗布し乾燥した後に圧延し、正極を製造した。
一方、負極としてLi金属を用いた。
【0112】
上記で製造した正極と負極との間にポリエチレンセパレータを介在して電極組立体を製造した後、それを電池ケースの内部に位置させた後、前記ケースの内部に電解液を注入し、リチウム二次電池を製造した。この際、電解液としてエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC):ジエチルカーボネート(DEC)を3:4:3の体積比で混合した有機溶媒に1MのLiPFを溶解させた電解液を注入し、実施例1~2および比較例1~2に係るリチウム二次電池を製造した。
【0113】
次いで、前記実施例1~2および比較例1~2で製造したリチウム二次電池それぞれに対して、25℃、0.1Cの定電流で4.25Vまで充電を実施した。次いで、0.1Cの定電流で3.0Vになるまで放電を実施し、前記実施例1~2および比較例1~2に係るリチウム二次電池の初期充電容量、初期放電容量、および初期効率を確認し、それを下記表3に示した。
【0114】
【表3】
【0115】
実験例3:寿命特性
前記実験例2と同様の方法により製造した実施例1~2および比較例1~2の正極活物質を含むリチウム二次電池を、45℃、0.1Cの定電流で4.25Vまで充電を実施した。次いで、0.1Cの定電流で3.0Vになるまで放電を実施した。前記充電および放電を1サイクルとし、かかるサイクルを30回繰り返し実施した後、実施例1~2および比較例1~2のリチウム二次電池の30回サイクルでの容量維持率および抵抗特性を測定し、それを下記表4に示した。
【0116】
【表4】
【0117】
前記表3および表4から、実施例1~2のリチウム二次電池に比べて、比較例1のリチウム二次電池は、初期効率が低下し、30サイクル以後の抵抗が大きく増加し、比較例2のリチウム二次電池は、30サイクル以後の容量維持率が実施例1~2に比べて大きく低下することを確認することができる。これに対し、実施例1~2のリチウム二次電池は、初期効率および寿命特性の何れにも優れるものであった。
図1
図2