(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1391 20100101AFI20240326BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240326BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240326BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20240326BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/525
H01M4/505
H01G11/30
(21)【出願番号】P 2023503486
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 KR2021011173
(87)【国際公開番号】W WO2022039576
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】10-2020-0105291
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・シグ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ヨ・ジュン・ユン
(72)【発明者】
【氏名】カン・ヒョン・イ
(72)【発明者】
【氏名】テ・ヨン・リ
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ジョ・ジュン
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-507671(JP,A)
【文献】特表2018-532236(JP,A)
【文献】特開2017-188292(JP,A)
【文献】特開2017-130411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/1391
H01M 4/525
H01M 4/505
H01G 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1または下記化学式2で表される組成を有する正極活物質前駆体、リチウム含有原料物質およびホウ素含有原料物質を混合した後、焼成して、表面にリチウムボレート化合物が形成されたリチウム遷移金属酸化物を含むケーキを製造する第1ステップと、
前記ケーキを粉砕した後、水洗して、前記リチウムボレート化合物が除去されたリチウム遷移金属酸化物を製造する第2ステップとを含み、
[化学式1]
[Ni
aCo
bM
1
cM
2
d](OH)
2
[化学式2]
[Ni
aCo
bM
1
cM
2
d]O・OH
前記化学式1および前記化学式2中、
前記M
1は、MnおよびAlから選択される1種以上であり、
前記M
2は、B、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Zn、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、TaおよびWから選択される1種以上であり、
0.6≦a<1、0<b≦0.4、0<c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1である、正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記ホウ素含有原料物質は、ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ素のオキソ酸、ホウ素のオキソ酸塩から選択される1種以上である、請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記ホウ素含有原料物質は、前記正極活物質前駆体100重量部に対して0.01重量部~5重量部の含量で混合される、請求項1または2に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記正極活物質前駆体と前記リチウム含有原料物質は、1:0.9~1:1.2のモル比で混合される、請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記第1ステップの焼成は、600℃~1000℃で行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記第1ステップの焼成は、酸素または大気雰囲気で行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記第1ステップの焼成は、3時間~30時間行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記リチウムボレート化合物は、Li
3BO
3、Li
2B
4O
7、LiBO
2、Li
6B
4O
9、Li
2B
8O
13、Li
3B
7O
12、LiB
3O
5およびLi
4B
2O
5から選択される1種以上である、請求項1から7のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記第2ステップの水洗は、5℃~40℃で行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記第2ステップの水洗は、3分~30分間行われる、請求項1から9のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記第2ステップの水洗は、水洗溶液を、前記ケーキ100重量部に対して50重量部~200重量部添加して行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記水洗溶液の溶媒は、脱イオン水、蒸留水、エタノール、酸性水溶液および塩基性水溶液から選択される1種以上である、請求項11に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項13】
前記リチウムボレート化合物が除去されたリチウム遷移金属酸化物を乾燥する第3ステップと、
乾燥したリチウム遷移金属酸化物にコーティング元素含有原料物質を混合し、熱処理して、コーティング層を形成する第4ステップとをさらに含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項14】
前記第2ステップを行った後の前記リチウムボレート化合物の含量は、前記正極活物質に対して100ppm以下である、請求項1から13のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年8月21日付けの韓国特許出願第10-2020-0105291号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に関する技術開発と需要の増加に伴い、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池のうち、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が商用化し、広く使用されている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられており、中でも、作用電圧が高く容量特性に優れたLiCoO2のリチウムコバルト複合金属酸化物が主に使用されている。しかし、LiCoO2は、脱リチウムによる結晶構造の不安定化のため、熱的特性が非常に劣っており、また、高価であるため、電気自動車などの分野における動力源として大量使用するには限界がある。
【0005】
前記LiCoO2の代わりに使用するための材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnO2またはLiMn2O4など)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePO4など)またはリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiO2など)などが開発されている。中でも、約200mAh/gの高い可逆容量を有することで大容量の電池の実現が容易なリチウムニッケル複合金属酸化物に関する研究および開発がより活発になされている。しかし、前記LiNiO2は、LiCoO2に比べて熱安定性が劣り、充電状態で外部からの圧力などによって内部短絡が生じると、正極活物質自体が分解し、電池の破裂および発火を引き起こす問題があった。
【0006】
そのため、LiNiO2の優れた可逆容量は維持し、且つ低い熱安定性を改善するための方法として、Niの一部をMnとCoで置換したニッケルコバルトマンガン系リチウム複合遷移金属酸化物、Niの一部をMnとAlで置換したニッケルコバルトアルミニウム系リチウム複合遷移金属酸化物が開発されている。
【0007】
前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面には、その製造過程で反応が行われていないLiOH、Li2CO3、焼成時に高温で製造されたLi2Oなどのリチウム副生成物が存在する。このようなリチウム副生成物は、リチウム複合遷移金属酸化物を含むケーキ強度を増加させる。具体的には、高温で製造されたLi2Oは、温度が低くなるにつれて大気に露出し、Li2CO3またはLiOHに変わり、LiOH、Li2CO3がリチウム複合遷移金属酸化物粒子の間で接着剤の役割を果たし、リチウム複合遷移金属酸化物粒子間の強度が増加する。これにより、リチウム複合遷移金属酸化物を含むケーキ強度が増加し、粉砕および篩い分けなどの後工程に問題が発生し得る。また、粉砕条件が強化するに伴い、リチウム複合遷移金属酸化物が割れてセル性能も低下し得る。
【0008】
したがって、リチウム複合遷移金属酸化物の表面に残り得る残留リチウムを最小化し、例えば、残留リチウムの化学的組成を変更して、リチウム複合遷移金属酸化物を含むケーキの強度を減少させることができる正極活物質の製造方法が必要な状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、リチウム遷移金属酸化物の製造時に、正極活物質前駆体、リチウム含有原料物質とともに残留リチウムと反応することができるホウ素含有原料物質をさらに混合した後、焼成して、表面にリチウムボレート化合物が形成されたリチウム遷移金属酸化物を含むケーキを製造することで、前記ケーキの強度および強度の経時変化を低下させることができる正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記化学式1または下記化学式2で表される組成を有する正極活物質前駆体、リチウム含有原料物質およびホウ素含有原料物質を混合した後、焼成して、表面にリチウムボレート化合物が形成されたリチウム遷移金属酸化物を含むケーキを製造する第1ステップと、
前記ケーキを粉砕した後、水洗して、前記リチウムボレート化合物が除去されたリチウム遷移金属酸化物を製造する第2ステップとを含む正極活物質の製造方法を提供する。
[化学式1]
[NiaCobM1
cM2
d](OH)2
[化学式2]
[NiaCobM1
cM2
d]O・OH
前記化学式1および化学式2中、
前記M1は、MnおよびAlから選択される1種以上であり、
前記M2は、B、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Zn、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、TaおよびWから選択される1種以上であり、
0.6≦a<1、0<b≦0.4、0<c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の正極活物質の製造方法によると、リチウム遷移金属酸化物の製造時に、正極活物質前駆体、リチウム含有原料物質とともに残留リチウムと反応することができるホウ素含有原料物質をさらに混合した後、焼成して、表面にリチウムボレート化合物が形成されたリチウム遷移金属酸化物を含むケーキを製造することで、前記ケーキの強度および強度の経時変化を低下させることができる。これにより、ケーキの粉砕工程を容易に行うことができ、生産性を改善するだけでなく、品質に優れた正極活物質を提供することができる。
【0012】
また、前記リチウムボレート化合物は、水洗により容易に除去することが可能であり、本発明による方法で製造した正極活物質を二次電池に適用する時に、電池の性能が改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書および請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0014】
本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、ステップ、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定するものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、ステップ、構成要素、またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加可能性を予め排除しないものと理解すべきである。
【0015】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0016】
正極活物質の製造方法
本発明による正極活物質の製造方法は、下記化学式1または下記化学式2で表される組成を有する正極活物質前駆体、リチウム含有原料物質およびホウ素含有原料物質を混合した後、焼成して、表面にリチウムボレート化合物が形成されたリチウム遷移金属酸化物を含むケーキを製造する第1ステップと、前記ケーキを粉砕した後、水洗して、前記リチウムボレート化合物が除去されたリチウム遷移金属酸化物を製造する第2ステップとを含む。
[化学式1]
[NiaCobM1
cM2
d](OH)2
[化学式2]
[NiaCobM1
cM2
d]O・OH
前記化学式1および化学式2中、
前記M1は、MnおよびAlから選択される1種以上であり、
前記M2は、B、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Zn、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、TaおよびWから選択される1種以上であり、
0.6≦a<1、0<b≦0.4、0<c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1である。
【0017】
本発明による正極活物質の製造方法は、前記リチウムボレート化合物が除去されたリチウム遷移金属酸化物を乾燥する第3ステップと、乾燥したリチウム遷移金属酸化物にコーティング元素含有原料物質を混合し、熱処理して、コーティング層を形成する第4ステップとをさらに含むことができる。
【0018】
以下、正極活物質の製造方法の各ステップについて具体的に説明する。
【0019】
第1ステップ
前記第1ステップは、下記化学式1または下記化学式2で表される組成を有する正極活物質前駆体、リチウム含有原料物質およびホウ素含有原料物質を混合した後、焼成して、表面にリチウムボレート化合物が形成されたリチウム遷移金属酸化物を含むケーキを製造するステップである。
【0020】
[化学式1]
[NiaCobM1
cM2
d](OH)2
【0021】
[化学式2]
[NiaCobM1
cM2
d]O・OH
【0022】
前記化学式1および化学式2中、
前記M1は、MnおよびAlから選択される1種以上であり、
前記M2は、B、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Zn、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、TaおよびWから選択される1種以上であり、
0.6≦a<1、0<b≦0.4、0<c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1である。
【0023】
本発明の正極活物質の製造方法によると、リチウム遷移金属酸化物の製造時に、正極活物質前駆体、リチウム含有原料物質とともに残留リチウムと反応することができるホウ素含有原料物質をさらに混合した後、焼成して、表面に前記リチウムボレート化合物が形成されたリチウム遷移金属酸化物を含むケーキを製造することで、ケーキの強度および強度の経時変化を低下させることができる。これにより、ケーキの粉砕工程を容易に行うことができ、生産性を改善するだけでなく、品質に優れた正極活物質を提供することができる。
【0024】
既存の正極活物質の製造方法は、前記焼成工程でホウ素含有原料物質を混合しなかったため、リチウム複合遷移金属酸化物の表面に焼成過程で反応が行われていないLiOH、Li2CO3、焼成時に高温で製造されたLi2Oなどのリチウム副生成物などが存在していた。一方、表面に前記リチウム副生成物が形成されたリチウム遷移金属酸化物を含むケーキは、ケーキ強度が高く、焼成工程後に行われる粉砕工程、篩い分け工程などの後工程に問題が発生した。
【0025】
しかし、本発明の正極活物質の製造方法によると、前記第1ステップにより、前記リチウム副生成物と前記ホウ素含有原料物質が反応して、表面に前記リチウムボレート化合物が形成されたリチウム遷移金属酸化物を含むケーキが製造される。前記リチウムボレート化合物が形成されたリチウム遷移金属酸化物を含むケーキは、ケーキ強度が低く、ケーキ強度の経時変化も小さく、粉砕工程、篩い分け工程などの後工程が容易であるという利点がある。
【0026】
前記aは、前駆体内の金属元素のうちニッケルの原子分率を意味し、0.6≦a<1、0.6≦a≦0.98、または0.7≦a≦0.95であることができる。
【0027】
前記bは、前駆体内の金属元素のうちコバルトの原子分率を意味し、0<b≦0.4、0.01≦b≦0.4または0.01≦b≦0.3であることができる。
【0028】
前記cは、前駆体内の金属元素のうちM1元素の原子分率を意味し、0<c≦0.4、0.01≦c≦0.4または0.01≦c≦0.3であることができる。
【0029】
前記dは、前駆体内の金属元素のうちM2元素の原子分率を意味し、0≦d≦0.1または0≦d≦0.05であることができる。
【0030】
前記リチウム含有原料物質は、リチウム含有炭酸塩(例えば、炭酸リチウム(Li2CO3など)、水和物(例えば、水酸化リチウム水和物(LiOH・H2Oなど)、水酸化物(例えば、水酸化リチウムなど)、硝酸塩(例えば、硝酸リチウム(LiNO3)など)および塩化物(例えば、塩化リチウム(LiCl)など)などであることができる。前記リチウム含有原料物質は、具体的には、水酸化リチウム水和物、さらに具体的には、LiOH・H2Oであることができる。この場合、前駆体内の金属元素のうちニッケルの原子分率が高い前駆体とリチウム含有原料物質の反応性が改善することができる。
【0031】
正極活物質の製造時に、前記正極活物質前駆体とリチウム含有原料物質は、1:0.9~1:1.2、好ましくは1:0.95~1:1.15、さらに好ましくは1:1~1:1.1のモル比で混合されることができる。リチウム含有原料物質が前記範囲未満で混合される場合、製造される正極活物質の容量が低下する恐れがあり、リチウム含有原料物質が前記範囲を超えて混合される場合、未反応のLiが副生成物として残り、容量低下および焼成後の正極活物質粒子の分離(正極活物質凝集現象誘発)が発生し得る。
【0032】
前記ホウ素含有原料物質は、ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ素のオキソ酸、ホウ素のオキソ酸塩から選択される1種以上であることができる。前記ホウ素含有原料物質は、例えば、B2O3、B(OH)3などであることができる。この場合、前記ホウ素含有原料物質の融点が低くて反応性が改善することができる。
【0033】
前記ホウ素含有原料物質は、前記正極活物質前駆体100重量部に対して0.01重量部~5重量部、好ましくは0.01重量部~2重量部、さらに好ましくは0.1重量部~2重量部の含量で混合されることができる。ホウ素含有原料物質の含量が前記範囲内である場合、焼成過程への直接な影響が最小化し、正極活物質の性能改善の面で有利である。
【0034】
前記第1ステップの焼成は、600℃~1000℃で行うことができる。前記焼成温度は、好ましくは650℃~950℃、さらに好ましくは700℃~900℃であることができる。焼成温度が前記範囲内である場合、製造されるリチウム遷移金属酸化物の相に、LiMO2相(Mは、遷移金属)以外の他の相(LiM2O4、MOなどのキュービック構造)が存在せず、構造的に安定することから、電池の容量および寿命の改善、抵抗増加防止などの面で有利な効果がある。
【0035】
前記第1ステップの焼成は、酸素または大気雰囲気で行うことができる。具体的には、前記第1ステップの焼成は、酸素濃度20体積%以上の酸素雰囲気、さらに具体的には、前記第1ステップの焼成は、酸素濃度50体積%以上の酸素雰囲気で行うことができる。一方、酸素以外の気体は、不活性気体である窒素、ヘリウムアルゴンなどであることができる。この場合、製造されるリチウム遷移金属酸化物の相に、LiMO2相(Mは、遷移金属)以外の他の相(LiM2O4、MOなどのキュービック構造)が存在せず、構造的に安定することから、電池の容量および寿命の改善、抵抗増加防止などの面で有利な効果がある。
【0036】
前記第1ステップの焼成は、3時間~30時間行うことができる。前記焼成は、好ましくは5時間~20時間、さらに好ましくは7時間~15時間行うことができる。焼成時間が前記範囲内である場合、焼成位置別に偏差なく(均一に)リチウム遷移金属酸化物の結晶成長が十分に行われることができ、生産性が増加する面で有利な効果がある。
【0037】
前記リチウムボレート化合物は、Li2O、LiOH、Li2CO3などの残留リチウムが前記ホウ素含有原料物質と反応して形成された化合物であり、例えば、Li3BO3、Li2B4O7、LiBO2、Li6B4O9、Li2B8O13、Li3B7O12、LiB3O5およびLi4B2O5から選択される1種以上であることができる。前記リチウムボレート化合物は、水洗溶液、特に、脱イオン水、蒸留水などの溶媒を含む水洗溶液に容易に溶解されることができる。これにより、下記第2ステップで水洗工程により容易に除去されることができる。
【0038】
本発明の第1ステップにより製造されたリチウム遷移金属酸化物は、表面に存在し得る残留リチウムが、前記ホウ素含有原料物質とほぼすべて反応し、表面に残留リチウムが残っていないことができる。
【0039】
前記第1ステップにより製造された前記表面に前記リチウムボレート化合物が形成されたリチウム遷移金属酸化物を含むケーキ、すなわち、焼成直後の前記ケーキは、IMADA社製のZTA-2500NにA型(s-5)チップを取り付けたた機器で測定したケーキ強度が600N以下と小さいことができる。
【0040】
また、前記ケーキは、下記式1による値が、0.7以下、好ましくは0.65以下、さらに好ましくは0.55以下であることができる。すなわち、ケーキ強度の経時変化が小さいことができる。
【0041】
[式1]
(25℃および相対湿度20%の条件で1週間放置した後のケーキ強度-焼成直後のケーキ強度)/(焼成直後のケーキ強度)
【0042】
前記25℃および相対湿度20%の条件で1週間放置した後のケーキ強度は、前記焼成直後のケーキを25℃および相対湿度20%の条件で1週間放置した後、IMADA社製のZTA-2500NにA型(s-5)チップを取り付けたた機器で測定した値である。
【0043】
第2ステップ
前記第2ステップは、前記ケーキを粉砕した後、水洗して、前記リチウムボレート化合物が除去されたリチウム遷移金属酸化物を製造するステップである。
【0044】
前記粉砕は、第1ステップの焼成によって凝集したリチウム遷移金属酸化物を含むケーキを正極活物質として使用するのに適するサイズの粉末にする工程である。前記第1ステップにより製造された前記表面に前記リチウムボレート化合物が形成されたリチウム遷移金属酸化物を含むケーキには、上述のように、Li2O、LiOH、Li2CO3などの残留リチウムがほとんど存在せず、前記ケーキの強度が小さいため、粉砕条件がマイルドであることができる。具体的には、前記粉砕は、前記ケーキを粉砕機を用いて、10,000rpm以下で、好ましくは8,000rpm以下の条件で行うことができる。前記粉砕機は、Retsch社製のZM-200であることができる。
【0045】
前記水洗は、水洗溶液で、前記リチウム遷移金属酸化物の表面に存在する不純物であるリチウムボレート化合物を除去する工程である。前記リチウムボレート化合物は、水洗により容易に除去が可能であり、本発明による方法で製造した正極活物質を二次電池に適用する時に、電池の性能が改善することができる。
【0046】
前記水洗溶液の溶媒は、脱イオン水、蒸留水、エタノール、酸性水溶液および塩基性水溶液から選択される1種以上であることができる。前記酸性水溶液は、蒸留水にリン酸、酢酸、シュウ酸およびホウ酸から選択される1種以上を溶解した溶液であることができる。前記塩基性水溶液は、蒸留水に水酸化リチウムおよび炭酸リチウムから選択される1種以上を溶解した溶液であることができる。前記水洗溶液の溶媒は、好ましくは、脱イオン水および/または蒸留水であることができる。この場合、前記リチウムボレート化合物が水洗溶液に容易に溶解されることができる。
【0047】
前記第2ステップの水洗は、水洗溶液を、前記ケーキ100重量部に対して50重量部~200重量部、好ましくは80重量部~200重量部、さらに好ましくは80重量部~150重量部の含量で添加して行うことができる。水洗溶液の含量が前記範囲内である場合、不純物であるリチウムボレート化合物が十分に洗浄されることができ、生産性が向上することができる。
【0048】
前記第2ステップの水洗は、5℃~40℃、好ましくは20℃~30℃で行うことができる。また、前記第2ステップの水洗は、3分~30分、好ましくは3分~20分、さらに好ましくは3分~10分間行うことができる。水洗工程の遂行温度および時間が前記範囲内である場合、リチウム遷移金属酸化物の表面に存在する前記リチウムボレート化合物を容易に除去することができる。これにより、正極スラリーの製造時にゲル化(gelation)現象が発生しないことができ、電池に適用時にガスが発生しないことができる。また、水洗時に酸化物の内部に存在するリチウムが漏れず、電池の性能が低下しないことができる。
【0049】
前記第2ステップを行った後、前記リチウムボレート化合物の含量は、前記正極活物質に対して100ppm以下、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下であることができる。すなわち、前記第2ステップを経ると、前記リチウムボレート化合物が形成されたリチウム遷移金属酸化物から前記リチウムボレート化合物がほぼすべて除去されることができる。これにより、本発明による方法で製造した正極活物質を二次電池に適用する時に、電池の性能が改善することができる。
【0050】
第3ステップ
本発明による正極活物質の製造方法は、前記リチウムボレート化合物が除去されたリチウム遷移金属酸化物を乾燥するステップをさらに含むことができる。
【0051】
前記乾燥工程は、水洗工程を経て水分を含む正極活物質から水分を除去するための工程であり、真空ポンプを使用して水分を除去した後、30℃~200℃の温度条件下で、具体的には100℃~150℃の温度条件下で、12時間以上乾燥することができる。
【0052】
第4ステップ
本発明による正極活物質の製造方法は、乾燥したリチウム遷移金属酸化物にコーティング元素含有原料物質を混合し、熱処理して、コーティング層を形成するステップをさらに含むことができる。これにより、前記リチウム遷移金属酸化物の表面にコーティング層が形成された正極活物質を製造することができる。
【0053】
前記コーティング元素含有原料物質に含まれる金属元素は、Zr、B、W、Mo、Cr、Nb、Mg、Hf、Ta、La、Ti、Sr、Ba、Ce、F、P、SおよびYなどであることができる。前記コーティング元素含有原料物質は、前記金属元素を含む酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などであることができる。例えば、前記金属元素がBである場合、ホウ酸(B(OH)3)などが使用されることができる。
【0054】
前記コーティング元素含有原料物質は、前記乾燥したリチウム遷移金属酸化物に対して、200ppm~2000ppmの重量で含まれることができる。コーティング元素含有原料物質の含量が前記範囲内である場合、電池の容量が改善することができ、生成されたコーティング層が、電解液とリチウム遷移金属酸化物との直接な反応を抑制して、電池の長期性能特性が改善することができる。
【0055】
前記熱処理は、200℃~400℃の温度で行うことができる。熱処理温度が前記範囲内である場合、リチウム遷移金属酸化物の構造的安定性を維持しながらコーティング層を形成させることができる。
【0056】
前記熱処理は、1時間~10時間行うことができる。熱処理時間が前記範囲内である場合、適切なコーティング層が形成されることができ、生産効率が改善することができる。
【0057】
正極
また、本発明は、上述の方法により製造された正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供することができる。
【0058】
前記正極活物質は、下記化学式3で表される組成を有することができる。
【0059】
[化学式3]
Lix[NiaCobM1
cM2
d]O2
【0060】
前記化学式3中、
前記M1は、MnおよびAlから選択される1種以上であり、
前記M2は、B、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Zn、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、TaおよびWから選択される1種以上であり、
0.9≦x≦1.2、0.6≦a<1、0<b≦0.4、0<c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1である。
【0061】
具体的には、前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一面に位置し、前記正極活物質を含む正極活物質層とを含む。
【0062】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したものなどが使用されることができる。また、前記正極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有することができ、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など、様々な形態で使用されることができる。
【0063】
前記正極活物質層は、正極活物質とともに、導電材およびバインダーを含むことができる。
【0064】
前記正極活物質は、正極活物質層の全重量に対して80重量%~99重量%、より具体的には85重量%~98重量%の含量で含まれることができる。前記の含量範囲で含まれる時に、優れた容量特性を示すことができる。
【0065】
前記導電材は、電極に導電性を与えるために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こさず、電子伝導性を有するものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記導電材は、正極活物質層の全重量に対して1重量%~30重量%含まれることができる。
【0066】
前記バインダーは、正極活物質粒子の間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF‐co‐HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの様々な共重合体などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記バインダーは、正極活物質層の全重量に対して1重量%~30重量%含まれることができる。
【0067】
前記正極は、上記の正極活物質を用いる以外は、通常の正極の製造方法により製造されることができる。具体的には、上記の正極活物質、および、選択的に、バインダーおよび導電材を溶媒の中に溶解または分散させて製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することで製造することができる。この際、前記正極活物質、バインダー、導電材の種類および含量は、上述のとおりである。
【0068】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に使用される溶媒であることができ、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N‐メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造歩留まりを考慮して、前記正極活物質、導電材およびバインダーを溶解または分散させ、以降、正極の製造のための塗布時に、優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0069】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造されることもできる。
【0070】
リチウム二次電池
また、本発明は、前記正極を含む電気化学素子を製造することができる。前記電気化学素子は、具体的には、電池、キャパシタなどであることができ、より具体的には、リチウム二次電池であることができる。
【0071】
前記リチウム二次電池は、具体的には、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と負極との間に介在されるセパレータおよび電解質とを含み、前記正極は、上述のとおりであるため、具体的な説明を省略し、以下、残りの構成についてのみ具体的に説明する。
【0072】
また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0073】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含む。
【0074】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが使用されることができる。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有することができ、正極集電体と同様、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して、負極活物質の結合力を強化することもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など、様々な形態で使用されることができる。
【0075】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに、選択的に、バインダーおよび導電材を含む。
【0076】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が使用されることができる。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質の材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金など、リチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のように、リチウムをドープおよび脱ドープすることができる金属酸化物;またはSi‐C複合体またはSn‐C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されることができる。また、前記負極活物質として、金属リチウム薄膜が使用されることもできる。また、炭素材料は、低結晶性炭素および高結晶性炭素などがいずれも使用可能である。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)および硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso‐carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0077】
前記負極活物質は、負極活物質層の全重量に対して80重量%~99重量%含まれることができる。
【0078】
前記バインダーは、導電材、活物質および集電体の間の結合を容易にする成分であり、通常、負極活物質層の全重量に対して0.1重量%~10重量%添加されることができる。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン‐ブタジエンゴム、ニトリル‐ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの様々な共重合体などが挙げられる。
【0079】
前記導電材は、負極活物質の導電性をより向上させるための成分であり、負極活物質層の全重量に対して10重量%以下、具体的には5重量%以下で添加されることができる。このような導電材は、当該電池において化学的変化を引き起こさず、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用されることができる。
【0080】
前記負極活物質層は、負極集電体上に、負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒の中に溶解または分散させて製造した負極合材を塗布し乾燥することで製造されるか、または前記負極合材を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されることができる。
【0081】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであり、通常、リチウム二次電池においてセパレータとして使用されるものであれば、特に制限なく使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対して低抵抗であるとともに、電解液含湿能に優れたものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用されることができる。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が使用されることもできる。また、耐熱性または機械的強度の確保のために、セラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされたセパレータが使用されることもでき、選択的に、単層または多層構造で使用されることができる。
【0082】
また、本発明で使用される電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0083】
具体的には、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
【0084】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関わるイオンが移動することができる媒質の役割を果たすものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ‐ブチロラクトン(γ‐butyrolactone)、ε‐カプロラクトン(ε‐caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R‐CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3‐ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが使用されることができる。中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと直鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して使用することが、電解液が優れた性能を示すことができる。
【0085】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記リチウム塩としては、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAl04、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiCl、LiI、またはLiB(C2O4)2などが使用可能である。前記リチウム塩は、0.1M~2.0Mの濃度範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度および粘度を有することから、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0086】
前記電解質には、前記電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池の容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などのために、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾリジノン、N,N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2‐メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれることもできる。この際、前記添加剤は、電解質の全重量に対して0.1重量%~5重量%含まれることができる。
【0087】
前記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性および容量維持率を安定的に示すことから、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなどのポータブル機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などにおいて有用である。
【0088】
したがって、本発明の他の一具現例によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよびこれを含む電池パックが提供される。
【0089】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug‐in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのいずれか一つ以上の中大型デバイスの電源として用いられることができる。
【0090】
本発明のリチウム二次電池の外形は、特に制限されないが、缶を使用した円筒型、角型、パウチ(pouch)型またはコイン(coin)型などであることができる。
【0091】
本発明によるリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用されるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく使用されることができる。
【0092】
以下、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施することができるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は、様々な相違する形態に実現されることができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0093】
実施例および比較例
Ni0.88Co0.05Mn0.07(OH)2で表される組成を有する正極活物質前駆体を準備した。
【0094】
リチウム含有原料物質としてLiOH・H2Oを、前記正極活物質前駆体とLiOH・H2Oのモル比が1:1.05になるようにする量で準備した。
【0095】
実施例1
ホウ素含有原料物質としてB(OH)3を、前記正極活物質前駆体に対して1,000ppmになるようにする量で準備した。
【0096】
前記正極活物質前駆体、前記LiOH・H2Oおよび前記B(OH)3を混合した後、酸素濃度90体積%の酸素雰囲気で、780℃で13時間焼成して、表面にリチウムボレート化合物が形成されたLiNi0.88Co0.05Mn0.07O2組成を有するリチウム遷移金属酸化物ケーキを製造した。前記リチウムボレート化合物は、LiBO2、Li3BO3とLi2B4O7であった。
【0097】
前記ケーキを粉砕機(ZM-200、Retsch社製)を用いて、8,000rpm下で粉砕した粉砕物と脱イオン水を1:1の重量比で混合し、25℃で5分間水洗して前記リチウムボレート化合物を除去した後、真空ポンプを使用して3分間フィルタリングし、130℃の真空オーブンで12時間以上乾燥して、LiNi0.88Co0.05Mn0.07O2組成を有するリチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0098】
前記リチウム遷移金属酸化物とコーティング元素含有原料物質としてB(OH)3(前記リチウム遷移金属酸化物に対して1,000ppmになるようにする量)を混合した後、酸素雰囲気で、300℃で5時間熱処理して、前記リチウム遷移金属酸化物の表面にホウ素含有コーティング層が形成された正極活物質を製造した。
【0099】
実施例2
ホウ素含有原料物質としてB(OH)3を、前記正極活物質前駆体に対して5,000ppmになるようにする量で準備して使用した以外は、実施例1と同一の方法で正極活物質を製造した。
【0100】
実施例3
ホウ素含有原料物質としてB(OH)3を、前記正極活物質前駆体に対して20,000ppmになるようにする量で準備して使用した以外は、実施例1と同一の方法で正極活物質を製造した。
【0101】
比較例1
前記正極活物質前駆体および前記LiOH・H2Oを混合した後、酸素濃度90体積%の酸素雰囲気で、780℃で13時間焼成して、LiNi0.88Co0.05Mn0.07O2組成を有するリチウム遷移金属酸化物ケーキを製造した。前記リチウム遷移金属酸化物ケーキには、反応していない前記LiOH・H2Oおよびリチウム副生成物などの残留リチウムが存在していた。
【0102】
前記ケーキを粉砕機(ZM-200、Retsch社製)を用いて、8,000rpm下で粉砕した粉砕物と脱イオン水を1:1の重量比で混合し、25℃で5分間水洗して前記残留リチウムを除去した後、真空ポンプを使用して3分間フィルタリングし、130℃の真空オーブンで12時間以上乾燥して、LiNi0.88Co0.05Mn0.07O2組成を有するリチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0103】
前記リチウム遷移金属酸化物とコーティング元素含有原料物質としてB(OH)3(前記リチウム遷移金属酸化物に対して1,000ppmになるようにする量で)を混合した後、酸素雰囲気で300℃に5時間熱処理して、前記リチウム遷移金属酸化物の表面にホウ素含有コーティング層が形成された正極活物質を製造した。
【0104】
実験例
実験例1:リチウム遷移金属酸化物ケーキの強度の評価
実施例1~3および比較例1のリチウム遷移金属酸化物ケーキそれぞれに対して、製造直後のケーキ強度、25℃および相対湿度20%の条件で1日放置した後のケーキ強度および1週間放置した後のケーキ強度を測定した。
【0105】
また、実施例1~3および比較例1の粉砕物それぞれに対して、25℃および相対湿度20%の条件で1週間放置した後の強度を測定した。
【0106】
ケーキ強度は、IMADA社製のZTA-2500NにA型(s-5)チップを取り付けたた機器に各試料に対して3回ずつ測定し、平均値を表1に示した。
【0107】
【0108】
前記表1を参照すると、リチウム遷移金属酸化物の製造時に、残留リチウムと反応することができるホウ素含有原料物質をさらに混合した後、焼成して、表面にリチウムボレート化合物を形成させて、表面に残り得る残留リチウムを最小化した実施例1~3のリチウム遷移金属酸化物ケーキは、強度が弱く、経時変化に伴う強度増加量も小さいことを確認することができる。
【0109】
一方、比較例1のリチウム遷移金属酸化物ケーキは、残留リチウムが存在してケーキ強度が大きく、経時変化に伴うケーキ強度の増加量も大きいことを確認することができる。
【0110】
実験例2:半電池の特性評価
実施例1~3および比較例1で製造した正極活物質を用いて、リチウム二次電池を製造し、リチウム二次電池それぞれに対して、初期充電容量、容量維持率を評価した。
【0111】
具体的には、実施例1~3および比較例1で製造した正極活物質それぞれと、カーボンブラック導電材およびPVDFバインダーを97.5:1.0:1.5の重量比でNMP溶媒の中で混合して正極スラリーを製造した。前記正極スラリーをアルミニウム集電体の一面に塗布し、130℃で乾燥した後、圧延して正極を製造した。一方、負極活物質としてLi metal diskを使用した。前記で製造した正極と負極との間にセパレータを介在して電極組立体を製造した後、これを電池ケースの内部に位置させてから前記ケースの内部に電解液を注入してリチウム二次電池を製造した。この際、電解液としてEC/EMC/DEC(3/3/4、vol%)有機溶媒に1MのLiPF6を溶解させた電解液を注入して、リチウム二次電池を製造した。
【0112】
前記のように製造されたリチウム二次電池を25℃で、0.1Cの電流で電圧が4.25Vになるまで定電流充電し、その後、電圧が3.0Vに至るまで0.1Cの定電流で放電した。初期充電容量値を表3に示した。
【0113】
また、45℃、3.0~4.25Vの範囲で、0.33Cの定電流で充放電サイクルを30回繰り返して実施してリチウム二次電池の容量を測定し、特に、1回目のサイクル容量に対する30回目のサイクル容量の比率を容量維持率として、これを下記表2に示した。
【0114】
【0115】
前記表2を参照すると、実施例1~3で製造した正極活物質を含む二次電池の場合、比較例1で製造した正極活物質を含む二次電池に比べて、初期充電容量が同等な水準であり、容量維持率に優れることを確認することができる。これは、上述のように、実施例1~3のリチウム遷移金属酸化物ケーキは、強度が弱くて粉砕が生じやすく、粉砕工程時にケーキの強度が強い場合に発生し得るリチウム遷移金属酸化物の割れなどが発生しないためである。
【0116】
したがって、本発明は、リチウム遷移金属酸化物の製造時に、正極活物質前駆体、リチウム含有原料物質とともに、残留リチウムと反応することができるホウ素含有原料物質をさらに混合した後、焼成して、表面にリチウムボレート化合物が形成されたリチウム遷移金属酸化物を含むケーキを製造することにより、前記ケーキの強度および強度の経時変化を低下させることができるということが分かる。また、これにより、粉砕工程を容易に行うことができ、生産性を改善するだけでなく、品質に優れた正極活物質を提供することができるということが分かる。また、本発明による方法で製造した正極活物質を二次電池に適用する時に、電池の性能が改善する効果を得ることができることを確認することができる。