(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】チョコレート
(51)【国際特許分類】
A23G 1/36 20060101AFI20240326BHJP
A23G 1/54 20060101ALI20240326BHJP
A23L 19/18 20160101ALN20240326BHJP
【FI】
A23G1/36
A23G1/54
A23L19/18
(21)【出願番号】P 2020055583
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】397059157
【氏名又は名称】大東カカオ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大野 勇司
(72)【発明者】
【氏名】春成 麻未
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/115063(WO,A1)
【文献】特開2014-187919(JP,A)
【文献】国際公開第2012/114914(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/194081(WO,A1)
【文献】特開2009-284899(JP,A)
【文献】国際公開第2006/022210(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/130954(WO,A1)
【文献】米国特許第04199611(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00 - 9/06
A23G 1/00 - 9/52
A23L 2/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョコレートに含まれる油脂が下記油脂組成物Aを30~70質量%、乳脂を5~20質量%含有するチョコレート。
油脂組成物A:下記の(a)~(g)の条件を満たす油脂である。
(a)X3を5質量%以下含有する。
(b)X2Uを65~90質量%含有する。
(c)X2O/X2Uの質量比が0.75以上である。
(d)XOX/X2Oの質量比が0.85以上である。
(e)St2O/X2Oの質量比が
0.60~0.68である。
(f)XU2を8.5~20質量%含有する。
(g)U3を5質量%以下含有する。
上記の(a)から(g)の条件において、X、U、St、O、X3、X2U、X2O、XOX、St2O、XU2、U3はそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16~20の直鎖飽和脂肪酸
U:炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸
St:ステアリン酸
O:オレイン酸
X3:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2U:Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
X2O:Xが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド
XOX:1位と3位にX、2位にOが結合しているトリグリセリド
St2O:Stが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
【請求項2】
前記油脂組成物Aが、さらに下記の(h)の条件を満たす油脂である請求項1に記載のチョコレート。
(h)C32~46TGを0.5~10質量%含有する。
上記の(h)の条件において、C32~46TGは以下のものを示す。
C32~46TG:飽和脂肪酸が3分子結合し、構成する脂肪酸残基の総炭素数が32~46であるトリグリセリド
【請求項3】
ポリグリセリンベヘン酸エステルを0.1~5質量%含有する請求項1又は請求項2に記載のチョコレート。
【請求項4】
前記チョコレートが、油脂を15~45質量%含有する食品用に使用される請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のチョコレート。
【請求項5】
前記チョコレートが、被覆用に使用される請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のチョコレート。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のチョコレートと食品を組み合わせた複合食品。
【請求項7】
前記食品が、油脂を15~45質量%含有する請求項6に記載の複合食品。
【請求項8】
前記チョコレートが、前記食品に被覆されている請求項6又は請求項7に記載の複合食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂含有量の高い食品用に適したチョコレートに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
チョコレートは、チョコレートのみからなる製品以外に、チョコレートと他の食品とを組み合わせた製品にも利用されている。チョコレートと他の食品とを組み合わせた製品のうち、ドーナツ、パン、ケーキ、シュー、エクレア、ビスケット等の食品をチョコレートで被覆した製品は、非常に人気のある製品であり、需要が高く、広く市場に流通している。他の食品と組みあわせて使用されるチョコレートとしては、例えば、特許文献1~5のチョコレートが提案されている。
【0003】
チョコレートと他の食品とを組み合わせた製品の中でも、ポテトチップをチョコレートで被覆した製品は、非常に人気のある製品の1つである。ポテトチップは、通常油脂で揚げて製造されるため、比較的油脂含有量の高い食品である。そして、チョコレートと油脂含有量の高い食品とを組み合わせると、食品からチョコレート部分への油脂移行が起こりやすいことが知られている。そのため、チョコレートと油脂含有量の高い食品とを組みわせた製品では、チョコレート部分によりブルームが発生しやすい。
【0004】
以上のような背景から、油脂含有量の高い食品と組み合わせてもブルームが発生しにくいチョコレートの開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-227001号公報
【文献】特開2008-113570号公報
【文献】特開2005-185153号公報
【文献】特開2003-284497号公報
【文献】特開2003-274855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、油脂含有量の高い食品と組み合わせても、ブルームが発生しにくいチョコレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、チョコレートに特定のトリグリセリド組成を有する油脂組成物及び乳脂を特定量配合すると、油脂含有量の高い食品と組み合わせても、ブルームが発生しにくいチョコレートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明は、チョコレートに含まれる油脂が下記油脂組成物Aを30~70質量%、乳脂を5~20質量%含有するチョコレートである。
油脂組成物A:下記の(a)~(g)の条件を満たす油脂である。
(a)X3を5質量%以下含有する。
(b)X2Uを65~90質量%含有する。
(c)X2O/X2Uの質量比が0.75以上である。
(d)XOX/X2Oの質量比が0.85以上である。
(e)St2O/X2Oの質量比が0.60~0.68である。
(f)XU2を8.5~20質量%含有する。
(g)U3を5質量%以下含有する。
上記の(a)から(g)の条件において、X、U、St、O、X3、X2U、X2O、XOX、St2O、XU2、U3はそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16~20の直鎖飽和脂肪酸
U:炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸
St:ステアリン酸
O:オレイン酸
X3:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2U:Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
X2O:Xが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド
XOX:1位と3位にX、2位にOが結合しているトリグリセリド
St2O:Stが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
本発明の第2の発明は、前記油脂組成物Aが、さらに下記の(h)の条件を満たす油脂である第1の発明に記載のチョコレートである。
(h)C32~46TGを0.5~10質量%含有する。
C32~46TG:飽和脂肪酸が3分子結合し、構成する脂肪酸残基の総炭素数が32~46であるトリグリセリド
本発明の第3の発明は、ポリグリセリンベヘン酸エステルを0.1~5質量%含有する第1の発明又は第2の発明に記載のチョコレートである。
本発明の第4の発明は、前記チョコレートが、油脂を15~45質量%含有する食品用に使用される第1の発明~第3の発明のいずれか1つの発明に記載のチョコレートである。
本発明の第5の発明は、前記チョコレートが、被覆用に使用される第1の発明~第4の発明のいずれか1つの発明に記載のチョコレートである。
本発明の第6の発明は、第1の発明~第5の発明のいずれか1つの発明に記載のチョコレートと食品を組み合わせた複合食品である。
本発明の第7の発明は、前記食品が、油脂を15~45質量%含有する第6の発明に記載の複合食品である。
本発明の第8の発明は、前記チョコレートが、前記食品に被覆されている第6の発明又は第7の発明に記載の複合食品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、油脂含有量の高い食品と組み合わせても、ブルームが発生しにくいチョコレートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂が下記油脂組成物Aを30~70質量%、乳脂を5~20質量%含有する。
油脂組成物A:下記の(a)~(g)の条件を満たす油脂である。
(a)X3を5質量%以下含有する。
(b)X2Uを65~90質量%含有する。
(c)X2O/X2Uの質量比が0.75以上である。
(d)XOX/X2Oの質量比が0.85以上である。
(e)St2O/X2Oの質量比が0.50~0.69である。
(f)XU2を8.5~20質量%含有する。
(g)U3を5質量%以下含有する。
【0011】
本発明で、チョコレートとは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)乃至法規上の規定により限定されるものではなく、食用油脂、糖類を主原料とし、必要によりカカオ成分(カカオマス、ココアパウダー等)、乳製品、香料、乳化剤等を加え、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化工程、精練工程、調温工程、成形工程、冷却工程等の全部乃至一部)を経て製造され、油脂が連続相をなし、実質的に水を含まない(水分が好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。)食品のことである。また、本発明で、チョコレートは、ダークチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート、カラーチョコレートのいずれであってもよい。
【0012】
本発明で、油脂は、チョコレートに含まれる油脂の全てを合わせた全油脂分である。例えば、チョコレートがカカオマス、全脂粉乳、油脂aを含む場合、油脂は、カカオマスに含まれるココアバターと、全脂粉乳に含まれる乳脂と、油脂aとの混合油である。すなわち、本発明で、油脂は、配合される油脂の他に、含油原料(カカオマス、ココアパウダー、全脂粉乳等)に含まれる油脂(ココアバター、乳脂等)を含む。
【0013】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、下記の(a)~(g)の条件を満たす油脂組成物である。
(a)X3を5質量%以下含有する。
(b)X2Uを65~90質量%含有する。
(c)X2O/X2Uの質量比が0.75以上である。
(d)XOX/X2Oの質量比が0.85以上である。
(e)St2O/X2Oの質量比が0.50~0.69である。
(f)XU2を8.5~20質量%含有する。
(g)U3を5質量%以下含有する。
【0014】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、X3を5質量%以下含有し、好ましくは1~5質量%含有し、より好ましくは1~4質量%含有する(条件(a))。
なお、本発明でX3はXが3分子結合しているトリグリセリド(XXX)である(トリグリセリドとは、グリセロールに3分子の脂肪酸が結合したトリアシルグリセロールのことである。)。また、本発明で、Xは炭素数16~20の直鎖飽和脂肪酸である。
【0015】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、X2Uを65~90質量%含有し、好ましくは70~88質量%含有し、より好ましくは75~85質量%含有する(条件(b))。
なお、本発明で、X2UはXが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド(XUX+XXU+UXX)である。また、本発明で、Uは炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸である。
【0016】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、X2O/X2Uの質量比が0.75以上であり、好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.90~0.97である(条件(c))。
なお、本発明で、X2O/X2Uの質量比は、X2U含有量(質量%)に対するX2O含有量(質量%)の比のことである。また、本発明で、X2OはXが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド(XXO+XOX+OXX)である。また、本発明で、Oはオレイン酸(炭素数18の1価の直鎖不飽和脂肪酸)である。
【0017】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、XOX/X2Oの質量比が0.85以上であり、好ましくは0.90以上であり、より好ましくは0.90~0.98である(条件(d))。
なお、本発明で、XOX/X2Oの質量比は、X2O含有量(質量%)に対するXOX含有量(質量%)の比のことである。また、本発明で、XOXは1位と3位にX、2位にOが結合しているトリグリセリドである。
【0018】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、St2O/X2Oの質量比が0.50~0.69であり、好ましくは0.55~0.69であり、より好ましくは0.60~0.68である(条件(e))。
なお、本発明で、St2O/X2Oの質量比は、X2O含有量(質量%)に対するSt2O含有量(質量%)の比のことである。また、本発明で、St2OはStが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド(StStO+StOSt+OStSt)である。また、本発明で、Stはステアリン酸(炭素数18の直鎖飽和脂肪酸)である。
【0019】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、XU2を8.5~20質量%含有し、好ましくは9.5~17質量%含有し、より好ましくは10.5~15質量%含有する(条件(f))。
なお、本発明で、XU2はXが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド(XUU+UXU+UUX)である。
【0020】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、U3を5質量%以下含有し、好ましくは0.3~5質量%含有し、より好ましくは0.5~3質量%含有する(条件(g))。
なお、本発明で、U3はUが3分子結合しているトリグリセリド(UUU)である。
【0021】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、飽和脂肪酸が3分子結合し、構成する脂肪酸残基の総炭素数が32~46であるトリグリセリドを好ましくは0.5~10質量%含有し、より好ましくは0.7~7質量%含有し、さらに好ましくは0.8~5質量%含有する(条件(h))。
なお、本発明で、飽和脂肪酸が3分子結合し、構成する脂肪酸残基の総炭素数が32~46であるトリグリセリドはC32~46TGと記載することもある。
【0022】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、X2Oを好ましくは65~90質量%含有し、より好ましくは68~85質量%含有し、さらに好ましくは70~83質量%含有する。
【0023】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、XOXを好ましくは65~85質量%含有し、より好ましくは68~83質量%含有し、さらに好ましくは70~80質量%含有する。
【0024】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、St2Oを好ましくは40~60質量%含有し、より好ましくは43~58質量%含有し、さらに好ましくは45~55質量%含有する。
【0025】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、P2Oを好ましくは5~25質量%含有し、より好ましくは7~23質量%含有し、さらに好ましくは10~20質量%含有する。また、本発明で、P2OはPが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド(PPO+POP+OPP)である。また、本発明で、Pはパルミチン酸(炭素数16の直鎖飽和脂肪酸)である。
【0026】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、P2O/X2Oの質量比が0.16~0.30であり、好ましくは0.16~0.28であり、より好ましくは0.17~0.25である。
なお、本発明で、P2O/X2Oの質量比は、X2O含有量(質量%)に対するP2O含有量(質量%)の比のことである。
【0027】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、飽和脂肪酸が3分子結合し、構成する脂肪酸残基の総炭素数が42~46であるトリグリセリドを好ましくは0.1~7質量%含有し、より好ましくは0.2~5質量%含有し、さらに好ましくは0.3~3質量%含有する。
なお、本発明で、飽和脂肪酸が3分子結合し、構成する脂肪酸残基の総炭素数が42~46であるトリグリセリドはC42~46TGと記載することもある。
【0028】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、C42~46TG/C32~46TGの質量比が好ましくは0.25~0.55であり、より好ましくは0.30~0.50であり、さらに好ましくは0.35~0.45である。
なお、本発明で、C42~46TG/C32~46TGの質量比は、C32~46TG(質量%)に対するC42~46TG含有量(質量%)の比のことである。
【0029】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、構成脂肪酸として炭素数16~18の脂肪酸を好ましくは85質量%以上含有し、より好ましくは90質量%以上含有し、さらに好ましくは95~99質量%含有する。
なお、本発明で、炭素数16~18の脂肪酸はC16~18FAと記載することもある。
【0030】
本発明の実施の形態に係るチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、構成脂肪酸におけるP/Stの質量比が好ましくは0.25~0.55であり、より好ましくは0.30~0.50であり、より好ましくは0.35~0.48である。
なお、本発明で、P/Stの質量比は、St含有量(質量%)に対するP含有量(質量%)の比のことである。
【0031】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、構成脂肪酸として炭素数14以下の脂肪酸を好ましくは5質量%以下含有し、より好ましくは4量%以下含有し、さらに好ましくは0.1~3質量%含有する。
なお、本発明で、炭素数14以下の脂肪酸はC14以下FAと記載することもある。
【0032】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、構成脂肪酸として炭素数20以上の脂肪酸を好ましくは5質量%以下含有し、より好ましくは4量%以下含有し、さらに好ましくは0.5~3質量%含有する。
なお、本発明で、炭素数20以上の脂肪酸はC20以上FAと記載することもある。
【0033】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、構成脂肪酸としてトランス脂肪酸を好ましくは5質量%未満含有し、より好ましくは3質量%未満含有し、さらに好ましくは1質量%未満含有する。なお、本発明で、トランス脂肪酸はTFAと記載することもある。
【0034】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂が油脂組成物Aを30~70質量%含有し、好ましくは35~65質量%含有し、より好ましくは40~60質量%含有し、更に好ましくは45~55質量%含有する。チョコレートに含まれる油脂が油脂組成物Aを前記範囲で含有すると、油脂含有量の高い食品と組み合わせても、ブルームが発生しにくいチョコレートが得られる。
【0035】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、トリグリセリドの組成、構成脂肪酸の組成等が前記範囲であれば、特に制限されることなく、通常の食用油脂を使用して製造することができる。前記油脂組成物Aの製造に使用される食用油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、シア脂、サル脂、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油等や、これらの加工油脂(水素添加油、分別油、エステル交換油)等が挙げられる。前記食用油脂は2種以上組み合せて使用することもできる。
【0036】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、例えば、テンパリング型ココアバター代用脂(以下、テンパリング型ココアバター代用脂は、CBEとする。)、パーム分別軟質油、C32~46TG高含有油脂等を使用することで製造することができる。なお、本発明で、C32~46TG高含有油脂とは、C32~46TGの含有量の高い油脂のことである。
【0037】
上記CBEとしては、例えば、パーム中融点部、シア分別油(シアステアリン等)、サル分別油(サルステアリン等)、イリッペ脂、高オレイン酸油(ハイオレイン酸ヒマワリ油等)と脂肪酸エステル(ステアリン酸エチルエステル等)との1,3位特異的エステル交換油の分別油等のXUXの含有量が高い油脂を使用することができる。上記CBEは、XUXを好ましくは50質量%以上含有し、より好ましくは70~95質量%含有し、さらに好ましくは80~90質量%含有する。なお、本発明で、XUXは1位と3位にX、2位にUが結合しているトリグリセリドである。
【0038】
本発明でパーム分別軟質油とは、パーム油やパーム分別油を分別して得られる軟質部(オレイン部)のことである。パーム分別軟質油としては、例えば、パームオレイン、パームスーパーオレイン等が挙げられる。パーム分別軟質油のヨウ素価は、好ましくは50~70であり、より好ましくは60~70である。
【0039】
上記C32~46TG高含有油脂としては、例えば、炭素数16~18の飽和脂肪酸高含有油脂(パーム系油脂、菜種油、大豆油等の極度硬化油等)と炭素数12以下の飽和脂肪酸高含有油脂(中鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、MCTとする。)、ラウリン系油脂等)とのランダムエステル交換油等を使用することができる。上記C32~46TG高含有油脂は、好ましくは菜種油の極度硬化油とMCTとのランダムエステル交換油である。上記C32~46TG高含有油脂は、C32~46TGを好ましくは50質量%以上含有し、より好ましくは60~85質量%含有し、さらに好ましくは65~80質量%含有する。また、上記C32~46TG高含有油脂は、C42~46TGを好ましくは15~45質量%含有し、より好ましくは20~40質量%含有し、さらに好ましくは25~35質量%含有する。また、上記C32~46TG高含有油脂は、C42~46TG/C32~46TGの質量比が好ましくは0.25~0.55であり、より好ましくは0.30~0.50であり、さらに好ましくは0.35~0.45である。
【0040】
上記C32~46TG高含有油脂が、炭素数16~18の飽和脂肪酸高含有油脂と炭素数12以下の飽和脂肪酸高含有油脂とのランダムエステル交換油である場合、ランダムエステル交換油の原料油脂の炭素数16~18の飽和脂肪酸高含有油脂と炭素数12以下の飽和脂肪酸高含有油脂との配合比は、炭素数16~18の飽和脂肪酸高含有油脂:炭素数12以下の飽和脂肪酸高含有油脂の質量比で、好ましくは65:35~35:65であり、より好ましくは60:40~40:60であり、さらに好ましくは55:45~45:55である。
【0041】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂組成物Aは、好ましくはCBEを70~98質量%、パーム分別軟質油を2~15質量%、C32~46TG高含有油脂を0~10質量%含有し、より好ましくはCBEを75~96質量%、パーム分別軟質油を3~12質量%、C32~46TG高含有油脂を0.5~7質量%含有し、さらに好ましくはCBEを80~94質量%、パーム分別軟質油を5~10質量%、C32~46TG高含有油脂を0.8~5質量%含有する。
【0042】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂が乳脂を5~20質量%含有し、好ましくは6~18質量%含有し、より好ましくは7~15質量%含有する。チョコレートに含まれる油脂が乳脂を前記範囲で含有すると、油脂含有量の高い食品と組み合わせても、ブルームが発生しにくいチョコレートが得られる。
なお、本発明で、乳脂は、配合される乳脂の他に、全脂粉乳等の含油原料含まれる乳脂を含む。
【0043】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂がココアバターを好ましくは20~55質量%含有し、より好ましくは25~50質量%含有し、さらに好ましくは30~45質量%含有する。
なお、本発明で、ココアバターは、配合されるココアバターの他に、カカオマス、ココアパウダー等の含油原料含まれるココアバターを含む。
【0044】
本発明の実施の形態のチョコレートは、油脂を好ましくは30~60質量%含有し、より好ましくは35~58質量%含有し、さらに好ましくは45~55質量%含有する。
【0045】
油脂のトリグリセリド組成の分析は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)準拠)及び銀イオンカラム-HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995)準拠)を用いて行うことができる。
油脂の構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96準拠)を用いて行うことができる。
油脂のヨウ素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準じて測定することができる。
【0046】
本発明の実施の形態のチョコレートは、好ましくはポリグリセリンベヘン酸エステルを含有する。
本発明の実施の形態のチョコレートは、ポリグリセリンベヘン酸エステルを好ましくは0.1~5質量%含有し、より好ましくは0.2~3質量%含有し、さらに好ましくは0.3~1質量%含有する。
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用されるポリグリセリンベヘン酸エステルは、好ましくはHLBが5以下であり、より好ましくはHLBが1~5であり、さらに好ましくはHLBが1~3である。
チョコレートと油脂含有量の高い食品とを組み合わせた複合食品は、経時的にチョコレート部分にべたつきが発生することがある。しかしながら、本発明の実施の形態のチョコレートがポリグリセリンベヘン酸エステルを前記範囲で含有すると、油脂含有量の高い食品と組み合わせても、べたつきの発生が少ないチョコレートが得られる。
【0047】
本発明の実施の形態のチョコレートは、好ましくは糖質を含有する。なお、本発明で、糖質は、炭水化物から食物繊維を除いたもののことである。糖質の具体例は、糖類、糖アルコール(マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、ラクチトール、マンニトール、還元水飴等)、でんぷん、オリゴ糖、デキストリン等である。また、本発明で、糖類は、単糖類、二糖類(ブドウ糖、果糖、ガラクトース、砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖等)のことである。
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される糖質は、好ましくは糖類であり、より好ましくは砂糖、乳糖である。
本発明の実施の形態のチョコレートは、糖質を好ましくは20~60質量%含有し、より好ましくは23~50質量%含有し、さらに好ましくは25~40質量%含有する。
【0048】
本発明の実施の形態のチョコレートは、油脂、ポリグリセリンベヘン酸エステル、糖質以外にも、チョコレートに一般的に配合される原料を使用することができる。具体的には、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳等の乳製品、カカオマス、ココアパウダー等のカカオ成分、ポリグリセリンベヘン酸エステル以外の乳化剤、大豆粉、大豆蛋白、果実加工品、野菜加工品、抹茶粉末、コーヒー粉末等の各種粉末、ガム類、澱粉類、酸化防止剤、着色料、香料等を使用することができる。
【0049】
本発明の実施の形態のチョコレートは、従来公知の方法により製造することができる。本発明の実施の形態のチョコレートは、例えば、油脂、カカオ成分、糖質、乳製品、乳化剤等を原料として、混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)、冷却工程等を経て製造することができる。本発明の実施の形態のチョコレートは、好ましくは微粒化工程を経て製造される。
【0050】
本発明の実施の形態のチョコレートは、好ましくはテンパリング型チョコレートである。
【0051】
本発明の実施の形態のチョコレートは、油脂含有量の高い食品と組み合わせても、ブルームが発生しにくいことから、油脂含有量の高い食品用に適している。本発明の実施の形態のチョコレートと組み合わせられる食品の油脂含有量は、好ましくは15~45質量%であり、より好ましくは20~40質量%であり、さらに好ましくは25~35質量%であり、最も好ましくは25~33質量%である。従って、本発明の実施の形態のチョコレートは、好ましくは油脂を15~45質量%含有する食品用に使用され、より好ましくは油脂を20~40質量%含有する食品用に使用され、さらに好ましくは油脂を25~35質量%含有する食品用に使用され、最も好ましくは油脂を25~33質量%含有する食品用に使用される。
【0052】
本発明の実施の形態のチョコレートと食品とを組み合わせる方法は、被覆、注入、巻く、挟む、付着等が挙げられ、好ましくは被覆である。従って、本発明の実施の形態のチョコレートは、好ましくは被覆用に使用される。
【0053】
本発明の実施の形態の複合食品は、本発明の実施の形態のチョコレートと食品を組み合わせた複合食品である。本発明で、食品は、チョコレート以外の食品のことである。本発明の実施の形態の複合食品の製造に使用される食品としては、例えば、ドーナツ、食パン、コッペパン、フルーツブレッド、バターロール、フランスパン、ロールパン、菓子パン、スイートドウ、乾パン、マフィン、ベーグル、クロワッサン、デニッシュペーストリー等のベーカリー製品、カステラ、ワッフル、ボーロ、八つ橋、あられ、揚げせんべい、かりんとう、スポンジケーキ、ロールケーキ、パウンドケーキ、バウムクーヘン、フルーツケーキ、マドレーヌ、シュー、エクレア、ミルフィーユ、パイ、タルト、マカロン、ビスケット、クッキー、クラッカー、サブレ、蒸しパン、プレッツェル、ウエハース、スナック菓子、クレープ、スフレ、ポテトチップス等の菓子、バナナ、りんご、イチゴ等の果物等が挙げられる。
【0054】
本発明の実施の形態の複合食品の製造に使用される食品は、油脂を好ましくは15~45質量%含有し、より好ましくは20~40質量%含有し、さらに好ましくは25~35質量%含有し、最も好ましくは25~33質量%含有する。本発明の実施の形態の複合食品の製造に使用される食品は、好ましくはクロワッサン、デニッシュペーストリー、揚げせんべい、スナック菓子、パイ、ドーナツ、ポテトチップスであり、より好ましくはポテトチップスである。
【0055】
本発明の実施の形態の複合食品は、従来公知の複合食品の製造方法を用いることによって、本発明の実施の形態のチョコレートと食品とを組み合わせることで製造することができる。本発明の実施の形態のチョコレートと食品とを組み合わせる方法としては、例えば、被覆、注入、巻く、挟む、付着等が挙げられる。本発明の実施の形態の複合食品の製造において、本発明の実施の形態のチョコレートと食品とを組み合わせる方法は、好ましくは被覆である。従って、本発明の実施の形態の複合食品は、好ましくは本発明の実施の形態のチョコレートが、食品に被覆されている。
【0056】
本発明の実施の形態の複合食品は、食品の油脂含有量が高くても、チョコレート部分にブルームが発生しにくい。
【実施例】
【0057】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
〔分析方法〕
油脂のトリグリセリド組成の分析は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)準拠)及び銀イオンカラム-HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995)準拠)を用いて行った。
油脂の構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96準拠)を用いて行った。
油脂のヨウ素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準じて測定した。
【0058】
<使用油脂>
CBE1:XUX含有量 85.3質量%、St2O/X2O質量比 0.803、
P2O/X2O質量比 0.040
CBE2:XUX含有量 84.3質量%、St2O/X2O質量比 0.395、
P2O/X2O質量比 0.445
PSO:ヨウ素価67のパームスーパーオレイン
PMF:ヨウ素価45のパーム中融点部
C32~46TG高含有油脂(51質量部の菜種油の極度硬化油と49質量部のMCTとのランダムエステル交換油):C32~46TG含有量 72.7質量%、C42~46TG含有量 30.3質量%、C42~46TG/C32~46TG 0.418
<使用乳化剤>
PGBE:ポリグリセリンベヘン酸エステル(デカグリセリンドデカベヘン酸エステル)、HLB2.5
【0059】
<油脂組成物の製造>
表1、2の配合で融解させた原料油脂を混合することで、各油脂組成物を製造した。各油脂組成物のトリグリセリド組成及び脂肪酸組成を表1、2に示した。なお、配合の単位は質量部であり、含有量の単位は質量%である(質量比の単位はなし。)。
【0060】
【0061】
【0062】
〔チョコレートの製造〕
各油脂組成物を使用し、表3、4に示された配合のチョコレートを、通常のチョコレートの製造方法(混合、微粒化、精練、冷却)により製造した(全てのチョコレートは、水分が3質量%以下だった。)。なお、配合の単位は質量部であり、含有量の単位は質量%である。
【0063】
〔複合食品の製造及び評価〕
完全に融解させた各チョコレートにテンパリングを行った後、ポテトチップス(油脂含有量31質量%)の片側に各チョコレートを被覆し、チョコレートを冷却固化させた後、20℃で2日間保存することで、チョコレートが被覆されたポテトチップスを得た。各チョコレートが被覆されたポテトチップスを20℃、22℃、28℃又は20~28℃のサイクルで180日間保存した後、チョコレート部分のブルームの発生及びべたつきを下記評価基準にて評価した。なお、20~28℃のサイクルは、20℃で12時間保存後に28℃で12時間保存することを1サイクルとし、このサイクルを繰り返して保存した。評価結果が◎又は○である場合、良好であると判断した。評価結果を表5、6に示した。
【0064】
<ブルームの評価>
◎:ブルームが発生していない。
○:ブルームが部分的に発生している。
×:ブルームが全体に発生している。
【0065】
<べたつきの評価>
◎:べたつきがない。
○:少しべたつきがある。
×:かなりべたつきがある。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
表5から分かるように、実施例のチョコレートが被覆されたポテトチップスは、チョコレート部分にブルームが発生しにくかった。また、チョコレートにPGBEが配合された実施例1のチョコレートが被覆されたポテトチップスは、他の実施例のチョコレートが被覆されたポテトチップスと比べて、べたつきが少なかった。
一方、表5、6から分かるように、比較例のチョコレートが被覆されたポテトチップスは、チョコレート部分にブルームが発生した。