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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】半芳香族ポリアミド繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/60 20060101AFI20240326BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
D01F6/60 361A
D01F6/60 311Z
C08G69/26
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020027639
(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2021130891
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】津高 剛
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】和志武 洋祐
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/087886(WO,A1)
【文献】特開2005-132941(JP,A)
【文献】国際公開第2012/098840(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/180107(WO,A1)
【文献】特開2020-029538(JP,A)
【文献】特開2020-029539(JP,A)
【文献】特開2020-029540(JP,A)
【文献】特開2005-178078(JP,A)
【文献】特表2011-506646(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033982(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸単位及びジアミン単位を有し、
該ジカルボン酸単位の60モル%以上100モル%以下がナフタレンジカルボン酸単位であり、
該ジアミン単位が、分岐状脂肪族ジアミン単位を少なくとも含み、該ジアミン単位において分岐状脂肪族ジアミン単位と直鎖状脂肪族ジアミン単位の合計含有量が60モル%以上100モル%以下であり、かつ該分岐状脂肪族ジアミン単位と該直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計を100モル%とした時の分岐状脂肪族ジアミン単位の割合が60モル%以上である、半芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
前記分岐状脂肪族ジアミン単位の炭素数が4以上18以下である、請求項1に記載の半芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
前記分岐状脂肪族ジアミン単位が、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、及び2-メチル-1,9-ノナンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンに由来する構成単位である、請求項1または請求項2に記載の半芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
前記直鎖状脂肪族ジアミン単位が、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、及び1,12-ドデカンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンに由来する構成単位である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の半芳香族ポリアミド繊維。
【請求項5】
ISO 6721:1994に準拠して測定した動的粘弾性のα緩和温度が165℃以上である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の半芳香族ポリアミド繊維。
【請求項6】
JIS L 1013に準拠して測定した繊維の弾性率が60cN/dtex以上である、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の半芳香族ポリアミド繊維。
【請求項7】
濃硫酸中で測定した極限粘度[η]が0.6~2.0dl/gである、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の半芳香族ポリアミド繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐薬品性、耐熱水性に優れ、高弾性率を有する半芳香族ポリアミド繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミド繊維としてはナイロン6、ナイロン66がよく知られており、高強力で強靭性、耐久性に優れているため、種々の産業資材用途に用いられてきた。しかし、これらのような従来のポリアミド繊維では耐熱性や耐薬品性が不足していることや、吸水による寸法安定性が低いことが課題であった。特に自動車部品、電気・電子部品などの用途においては、耐熱性や耐酸性等の耐薬品性が求められている。
【0003】
耐熱性に優れるポリアミドとしては、例えば特許文献1(特開昭50-67393号公報)において、2,6-ナフタレンジカルボン酸と炭素数9~13の直鎖状脂肪族ジアミンから得られる半芳香族ポリアミド繊維が開示されている。特許文献1には、当該半芳香族ポリアミドが、耐熱性の他に、耐薬品性、ヤング率(弾性率)などにも優れることが記載されている。一方、特許文献1には、側鎖を有する脂肪族ジアミンを用いると、得られるポリアミドの結晶性が低下するなどして好ましくないことが記載されている。
【0004】
また、特許文献2(特開平9-12715号公報)には、ジカルボン酸単位の60~100モル%が2,6-ナフタレンジカルボン酸単位からなり、ジアミン単位の60~100モル%が1,9-ノナンジアミン単位及び2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位からなり、かつ1,9-ノナンジアミン単位と2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位のモル比が60対40~99対1であるポリアミドが開示されている。特許文献2には、当該ポリアミドは、耐熱性の他に、力学特性、耐熱分解性、低吸水性、耐薬品性などに優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭50-67393号公報
【文献】特開平9-12715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2のポリアミドは、耐熱性、力学特性、低吸水性及び耐薬品性などの物性を有するものの、例えば、エンジンルームなど高温環境で使用されるフィルターなどの部品や、ゴム補強用繊維などの用途として用いる場合、耐熱性、耐薬品性、耐熱水性及び力学特性が不足する場合があった。
【0007】
そこで本発明の目的は、上記の課題を解決し、耐熱性、耐薬品性、耐熱水性に優れ、高弾性率を有する半芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
[1]ジカルボン酸単位及びジアミン単位を有し、該ジカルボン酸単位の60モル%以上100モル%以下がナフタレンジカルボン酸単位であり、該ジアミン単位が、分岐状脂肪族ジアミン単位を少なくとも含み、該ジアミン単位において分岐状脂肪族ジアミン単位と直鎖状脂肪族ジアミン単位の合計含有量が60モル%以上100モル%以下であり、かつ該分岐状脂肪族ジアミン単位と該直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計を100モル%とした時の分岐状脂肪族ジアミン単位の割合が60モル%以上である、半芳香族ポリアミド繊維。
[2]前記分岐状脂肪族ジアミン単位の炭素数が4以上18以下である、前記[1]に記載の半芳香族ポリアミド繊維。
[3]前記分岐状脂肪族ジアミン単位が、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン及び2-メチル-1,9-ノナンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンに由来する構成単位である、前記[1]または[2]に記載の半芳香族ポリアミド繊維。
[4]前記直鎖状脂肪族ジアミン単位が、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン及び1,12-ドデカンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンに由来する構成単位である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド繊維。
[5]ISO 6721:1994に準拠して測定した動的粘弾性のα緩和温度が165℃以上である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド繊維。
[6]JIS L 1013に準拠して測定した繊維の弾性率が60cN/dtex以上である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド繊維。
[7]濃硫酸中で測定した極限粘度[η]が0.6~2.0dl/gである、前記[1]~[6]のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性、耐薬品性、耐熱水性に優れ、高弾性率を有する半芳香族ポリアミド繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0011】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維を構成するポリアミドは、ジカルボン酸単位及びジアミン単位を有する。そして、該ジカルボン酸単位の40モル%以上100モル%以下がナフタレンジカルボン酸単位である。また、該ジアミン単位が、分岐状脂肪族ジアミン単位を少なくとも含み、該ジアミン単位において分岐状脂肪族ジアミン単位と直鎖状脂肪族ジアミン単位の合計含有量が60モル%以上100モル%以下であり、かつ分岐状脂肪族ジアミン単位と直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計を100モル%とした時の分岐状脂肪族ジアミン単位の割合が60モル%以上である。
上記のような構成を有することにより、耐熱性、耐薬品性、耐熱水性に優れ、高弾性率を有する半芳香族ポリアミド繊維が得られる。
【0012】
(ジカルボン酸単位)
本発明の半芳香族ポリアミド繊維を構成するポリアミドのジカルボン酸単位は、40モル%以上100モル%以下がナフタレンジカルボン酸単位である。ジカルボン酸単位におけるナフタレンジカルボン酸単位の含有量が40モル%未満であると、ポリアミドにおける耐熱性、耐薬品性及び耐熱水性の向上効果を発現することが困難となる。
耐熱性、耐薬品性及び耐熱水性の観点から、ジカルボン酸単位におけるナフタレンジカルボン酸単位の含有量は、60モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%であることがさらに好ましい。
【0013】
前記ナフタレンジカルボン酸単位としては、例えば、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位が挙げられる。これらの構成単位は1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。上記ナフタレンジカルボン酸の中でも、耐熱性、耐薬品性及び耐熱水性の向上効果の発現及びジアミンとの反応性などの観点から、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
上記と同様の観点から、ナフタレンジカルボン酸単位中、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位の含有量は、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、実質的に100モル%であることがさらに好ましい。
【0014】
前記ジカルボン酸単位は、本発明の効果を損なわない範囲で、ナフタレンジカルボン酸以外の他のジカルボン酸に由来する構成単位を含むことができる。
ナフタレンジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ジメチルマロン酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸、シクロオクタンジカルボン酸、シクロデカンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。これらの他のジカルボン酸に由来する構成単位は1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
ジカルボン酸単位における上記ナフタレンジカルボン酸以外のジカルボン酸に由来する構成単位の含有量は、60モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
(ジアミン単位)
本発明の半芳香族ポリアミド繊維を構成するポリアミドのジアミン単位は、分岐状脂肪族ジアミン単位を含み、分岐状脂肪族ジアミン単位と直鎖状脂肪族ジアミン単位の合計含有量が60モル%以上100モル%以下である。すなわち、ジアミン単位は、分岐状脂肪族ジアミン単位を含み直鎖状脂肪族ジアミン単位を含まなくともよく、または分岐状脂肪族ジアミン単位と直鎖状脂肪族ジアミン単位との両方を含んでもよい。そして、ジアミン単位における分岐状脂肪族ジアミン単位と、直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計含有量が60モル%以上100モル%以下である。ジアミン単位における分岐状脂肪族ジアミン単位及び直鎖状脂肪族ジアミン単位の合計含有量が60モル%未満であると、ポリアミドにおける耐熱性、耐薬品性、耐熱水性及び弾性率の向上効果を発現することが困難となる。
耐薬品性、力学特性、耐熱性及び耐熱水性の観点から、ジアミン単位における分岐状脂肪族ジアミン単位及び直鎖状脂肪族ジアミン単位の合計含有量は、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
前記分岐状脂肪族ジアミンとは、含まれる2つのアミノ基がそれぞれ結合している炭素原子を両端の炭素原子とする直鎖状の脂肪族鎖を想定した際に、当該直鎖状の脂肪族鎖(想定脂肪族鎖)の水素原子の1つ以上が分岐鎖によって置換された構造を有する脂肪族ジアミンを意味する。すなわち、例えば、1,2-プロパンジアミン(H2N-CH(CH3)-CH2-NH2)は、想定脂肪族鎖としての1,2-エチレン基の水素原子の1つが分岐鎖としてのメチル基に置換された構造を有するため、本発明における分岐状脂肪族ジアミンに分類される。
【0016】
前記ジアミン単位において、分岐状脂肪族ジアミン単位と直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計を100モル%とした時の分岐状脂肪族ジアミン単位の割合は60モル%以上である。上記分岐状脂肪族ジアミン単位の割合が60モル%未満であると、ポリアミドの耐熱性、耐薬品性及び耐熱水性の向上効果を発現することが困難となる。
耐熱性、耐薬品性及び耐熱水性が向上しやすく、ポリアミドまたはポリアミド組成物の成形性が向上するなどの観点から、分岐状脂肪族ジアミン単位と直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計を100モル%とした時の分岐状脂肪族ジアミン単位の割合は、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。当該割合は100モル%であってもよいが、成形性やジアミンの入手性なども考慮すると、98モル%以下であってもよい。
【0017】
前記分岐状脂肪族ジアミン単位の炭素数は、4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、8以上であることがさらに好ましい。また、18以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。分岐状脂肪族ジアミン単位の炭素数が上記範囲内であれば、ジカルボン酸とジアミンとの重合反応が良好に進行し、ポリアミドの結晶性も良好となり、ポリアミドの物性がより向上しやすい。
【0018】
分岐状脂肪族ジアミン単位における分岐鎖の種類に特に制限はなく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の各種脂肪族基とすることができるが、当該分岐状脂肪族ジアミン単位は、分岐鎖としてメチル基及びエチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するジアミンに由来する構成単位であることが好ましい。分岐鎖としてメチル基及びエチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するジアミンを用いると、ジカルボン酸とジアミンとの重合反応が良好に進行し、ポリアミドの耐薬品性がより向上しやすい。当該観点から、分岐鎖はメチル基であることがより好ましい。
分岐状脂肪族ジアミン単位を形成する分岐状脂肪族ジアミンが有する分岐鎖の数に特に制限はないが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、3つ以下であることが好ましく、2つ以下であることがより好ましく、1つであることがさらに好ましい。
【0019】
前記分岐状脂肪族ジアミン単位としては、例えば、1,2-プロパンジアミン、1-ブチル-1,2-エタンジアミン、1,1-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1-エチル-1,4-ブタンジアミン、1,2-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1,3-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1,4-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、2-メチル-1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,4-ブタンジアミン、2,3-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2,5-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、3,3-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4-ジエチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-エチル-1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、3-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,3-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、1,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、2,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、3,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、4,5-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、2,2-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、3,3-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、4,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,9-ノナンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン等の分岐状脂肪族ジアミンに由来する構成単位が挙げられる。これらの構成単位は1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
上記分岐状脂肪族ジアミン単位の中でも、耐熱性、耐薬品性及び耐熱水性がより顕著に奏されると共に原料入手性にも優れるなどの観点から、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン及び2-メチル-1,9-ノナンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンに由来する構成単位が好ましく、2-メチル-1,8-オクタンジアミンに由来する構成単位がより好ましい。
【0020】
前記直鎖状脂肪族ジアミン単位の炭素数は、4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、8以上であることがさらに好ましく、また18以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。直鎖状脂肪族ジアミン単位の炭素数が上記範囲内であれば、ジカルボン酸とジアミンとの重合反応が良好に進行し、ポリアミドの結晶性も良好となり、ポリアミドの物性が向上しやすい。 なお、直鎖状脂肪族ジアミン単位と分岐状脂肪族ジアミン単位の炭素数は、同一であっても異なっていてもよいが、耐熱性、耐薬品性及び耐熱水性がより顕著に奏されることなどから同一であることが好ましい。
【0021】
前記直鎖状脂肪族ジアミン単位としては、例えば、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、1,13-トリデカンジアミン、1,14-テトラデカンジアミン、1,15-ペンタデカンジアミン、1,16-ヘキサデカンジアミン、1,17-ヘプタデカンジアミン、1,18-オクタデカンジアミン等の直鎖状脂肪族ジアミンに由来する構成単位が挙げられる。これらの構成単位は1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
上記直鎖状脂肪族ジアミン単位の中でも、耐熱性、耐薬品性及び耐熱水性がより顕著に奏され、特に得られるポリアミドの耐熱性が向上するなどの観点から、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン及び1,12-ドデカンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンに由来する構成単位が好ましく、1,9-ノナンジアミンに由来する構成単位がより好ましい。
【0022】
ジアミン単位は、本発明の効果を損なわない範囲で、分岐状脂肪族ジアミン及び直鎖状脂肪族ジアミン以外の他のジアミンに由来する構成単位を含むことができる。当該他のジアミンとしては、例えば、脂環式ジアミン、芳香族ジアミンなどが挙げられる。
脂環式ジアミンとしては、例えば、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルジアミンなどが挙げられる。
芳香族ジアミンとしては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルなどが挙げられる。
これらの他のジアミンに由来する構成単位は1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
ジアミン単位における上記他のジアミンに由来する構成単位の含有量は、40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
(ジカルボン酸単位及びジアミン単位)
本発明の半芳香族ポリアミド繊維を構成するポリアミドにおける前記ジカルボン酸単位と前記ジアミン単位とのモル比[ジカルボン酸単位/ジアミン単位]は、45/55~55/45であることが好ましい。ジカルボン酸単位とジアミン単位とのモル比が上記範囲であれば、重合反応が良好に進行し、所望する物性に優れたポリアミドが得られやすい。
なお、ジカルボン酸単位とジアミン単位とのモル比は、原料のジカルボン酸と原料のジアミンとの配合比(モル比)に応じて調整することができる。
【0024】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維を構成するポリアミドにおける前記ジカルボン酸単位及び前記ジアミン単位の合計割合(ポリアミドを構成する全構成単位のモル数に対するジカルボン酸単位及びジアミン単位の合計モル数の占める割合)は、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、95モル%以上であることが特に好ましく、100モル%であることが最も好ましい。ジカルボン酸単位及びジアミン単位の合計割合が上記範囲にあることにより、耐熱性、耐薬品性及び耐熱水性がより優れたポリアミドとなる。
【0025】
(アミノカルボン酸単位)
本発明のポリアミドは、ジカルボン酸単位及びジアミン単位の他に、アミノカルボン酸単位をさらに含んでもよい。
前記アミノカルボン酸単位としては、例えば、カプロラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム;11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸などから誘導される構成単位を挙げることができる。本発明のポリアミドにおけるアミノカルボン酸単位の含有量は、本発明のポリアミドを構成するジカルボン酸単位とジアミン単位の合計100モル%に対して、40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
【0026】
(多価カルボン酸単位)
本発明のポリアミドには、本発明の効果を損なわず、溶融成形が可能な範囲で、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸に由来する構成単位を含んでもよい。
【0027】
(末端封止剤単位)
本発明の半芳香族ポリアミド繊維を構成するポリアミドは末端封止剤に由来する構成単位(末端封止剤単位)を含んでもよい。
前記末端封止剤単位は、ジアミン単位100モル%に対して、1.0モル%以上であることが好ましく、1.2モル%以上であることがより好ましく、1.5モル%以上であることがさらに好ましい。また、10モル%以下であることが好ましく、7.5モル%以下であることがより好ましく、6.5モル%以下であることがさらに好ましい。末端封止剤単位の含有量が上記範囲にあると、力学強度と流動性により優れたポリアミドとなる。末端封止剤単位の含有量は、重合原料を仕込む際に末端封止剤の量を適宜調整することにより上記所望の範囲内とすることができる。なお、重合時に単量体成分が揮発することを考慮して、得られるポリアミドに所望量の末端封止剤単位が導入されるように末端封止剤の仕込み量を微調整することが望ましい。
本発明の半芳香族ポリアミド繊維を構成するポリアミド中の末端封止剤単位の含有量を求める方法としては、例えば、特開平7-228690号公報に示されているように、溶液粘度を測定し、これと数平均分子量との関係式から全末端基量を算出し、ここから滴定によって求めたアミノ基量とカルボキシル基量を減じる方法や、1H-NMRを用い、ジアミン単位と末端封止剤単位のそれぞれに対応するシグナルの積分値に基づいて求める方法などが挙げられ、後者が好ましい。
【0028】
前記末端封止剤としては、末端アミノ基または末端カルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物を用いることができる。具体的には、モノカルボン酸、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類、モノアミンなどが挙げられる。反応性及び封止末端の安定性などの観点から、末端アミノ基に対する末端封止剤としては、モノカルボン酸が好ましく、末端カルボキシル基に対する末端封止剤としては、モノアミンが好ましい。取り扱いの容易さなどの観点からは、末端封止剤としてはモノカルボン酸がより好ましい。
【0029】
前記末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0030】
前記末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらの中でも、反応性、高沸点、封止末端の安定性及び価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0031】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維を構成するポリアミド樹脂の極限粘度(濃硫酸中30℃で測定した値)は0.6~2.0dl/gであることが好ましく、0.8~2.0dl/gであることがより好ましく、0.9~1.8dl/gであることが特に好ましい。上記範囲内の極限粘度のポリアミド樹脂は、繊維への成形性が良好である。
【0032】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維を構成するポリアミド樹脂の融点に特に制限はなく、例えば、260℃以上、270℃以上、さらには280℃以上とすることができるが、耐熱性がより顕著に奏されることなどから、290℃以上であることが好ましく、295℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましく、310℃以上であることがよりさらに好ましい。ポリアミド樹脂の融点の上限に特に制限はないが、成形性なども考慮すると、330℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましい。ポリアミド樹脂の融点は、示差走査熱量分析(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温した時に現れる融解ピークのピーク温度として求めることができ、より具体的には実施例に記載した方法により求めることができる。
【0033】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維を構成するポリアミド樹脂のガラス転移温度に特に制限はなく、例えば、100℃以上、さらには120℃以上とすることができるが、耐熱性がより顕著に奏されることなどから、130℃以上であることが好ましく、135℃以上であることがより好ましく、138℃以上であることがさらに好ましい。ポリアミド樹脂のガラス転移温度の上限に特に制限はないが、成形性なども考慮すると、200℃以下であることが好ましく、190℃以下であることがより好ましい。ポリアミド樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量分析(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温した時に現れる変曲点の温度として求めることができ、より具体的には実施例に記載した方法により求めることができる。
【0034】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維を構成するポリアミド樹脂の製造方法は特に制限されず、結晶性ポリアミドを製造する方法として公知である任意の方法を用いることができる。例えば、酸クロライドとジアミンとを原料とする溶液重合法あるいは界面重合法、ジカルボン酸またはジカルボン酸のアルキルエステルとジアミンとを原料とする溶融重合法、固相重合法等の方法により製造することができる。
【0035】
製造方法の一例を挙げると、末端封止剤、触媒、ジアミン成分及びジカルボン酸成分を一括して反応させ、ナイロン塩を製造した後、一旦280℃以下の温度において極限粘度が0.15~0.30dl/gのプレポリマーとし、さらに固相重合するか、あるいは溶融押出機を用いて重合を行うことにより、容易に製造することができる。重合の最終段階を固相重合により行う場合、減圧下または不活性ガス流通下にて行うのが好ましく、重合温度が200~250℃の範囲であれば、重合速度が大きく、生産性に優れ、着色やゲル化を有効に抑制することができるので好ましい。重合の最終段階を溶融押出機により行う場合、重合温度が370℃以下であるとポリアミドの分解がほとんどなく、劣化のないポリアミド樹脂が得られるので好ましい。重合触媒としてはリン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらのアンモニウム塩、それらの金属塩、それらのエステル類を挙げることができ、なかでも次亜リン酸ナトリウムが入手のし易さ、取扱性等の点で好ましい。
【0036】
また、本発明の半芳香族ポリアミド繊維には、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、熱老化剤、可塑剤、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤等を添加することができる。
【0037】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維は、単糸繊度が0.1~100dtexであることが好ましい。より好ましくは0.1~30dtex、さらに好ましくは0.1~20dtexである。本発明の半芳香族ポリアミド繊維を得る手法としては、特に制限はなく、直紡方式、分割方式を採用することができる。0.5~100dtexの単糸繊度の繊維を得る方法としては直紡方式が好ましく、0.1~1dtexの単糸繊度の繊維を得る方法としては分割方式が好ましい。
【0038】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維の融点に特に制限はなく、例えば、260℃以上、270℃以上、さらには280℃以上とすることができるが、耐熱性の効果がより顕著に奏されることなどから、290℃以上であることが好ましく、295℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましく、310℃以上であることがよりさらに好ましい。半芳香族ポリアミド繊維の融点の上限に特に制限はないが、樹脂の熱分解温度なども考慮すると、330℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましい。半芳香族ポリアミド繊維の融点は、示差走査熱量分析(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温した時に現れる融解ピークのピーク温度として求めることができ、より具体的には実施例に記載した方法により求めることができる。
【0039】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維は、室温における強度が3.5cN/dtex以上であることが好ましい。より好ましくは4cN/dtex以上、さらに好ましくは4.2cN/dtex以上であり、特に好ましくは4.2cN/dtex以上である。上限について特に制限はないが、12cN/dtex以下である。
【0040】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維は、室温における弾性率が60cN/dtex以上が好ましい。より好ましくは62cN/dtex以上である。上限について特に制限はないが、100cN/dtex以下である。
【0041】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維は、260℃乾熱条件下30分で測定した収縮率(乾熱寸法変化率)が25%以下であることが好ましい。より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下である。上記上限値を超える場合、高温下での形態維持性が不足する可能性がある。
【0042】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維は、150℃酸性水溶液条件下1000時間浸漬後に測定した強力保持率が75%以上であることが好ましい。より好ましくは80%以上である。上記下限値を下回る場合、酸性雰囲気下で繊維が脆化する可能性がある。
【0043】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維は、150℃熱水条件下1000時間浸漬後測定した強力保持率が75%以上であることが好ましい。より好ましくは80%以上である。上記下限値を下回る場合、熱水下で繊維が脆化する可能性がある。
【0044】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維は、ISO6721:1994に準拠して、引張モード、窒素気流下、3℃/分の昇温速度、10.0Hzで測定したときのα緩和温度が165℃以上であることが好ましく、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは175℃以上である。上記下限値を下回る場合、高温環境下での力学物性や寸法安定性に劣る可能性がある。α緩和温度の上限に特に制限はないが、200℃程度であってもよい。
【0045】
以下、本発明の半芳香族ポリアミド繊維の製造方法について説明する。
半芳香族ポリアミド樹脂は、通常、溶融押出機を用いて溶融紡糸され、必要に応じて延伸が施されるが、溶融押出機としては、スクリュー型押出機を使用することが好ましい。溶融紡糸工程では、例えば、半芳香族ポリアミド樹脂の融点以上350℃以下(好ましくは340℃以下)の紡糸温度で溶融し、30分以内の溶融滞留時間で口金ノズルより紡出することにより繊維化し、紡糸原糸(未延伸糸)を得ることができる。
【0046】
前述のごとく紡出した糸条を引取りローラ等により引き取る。この時、必要に応じてノズル直下に加熱または保温ゾーンを設けたり、吹き付けチャンバー等による冷却ゾーンを設けたり、紡出した糸条に油剤を塗布してもよい。延伸は加熱浴、加熱蒸気吹き付け、ローラヒーター、接触プレートヒーター、非接触プレートヒーター等を使用して270℃以下で行うことが好ましく、120~240℃の範囲で行うことがより好ましい。さらに延伸倍率は2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましい。この時、270℃より高い温度で延伸を行うと半芳香族ポリアミド繊維の劣化や結晶の再組織化等が起こり、繊維強度が低下する場合がある。必要に応じて、延伸に引き続いて、さらに120~280℃で定長熱処理、緊張熱処理または弛緩熱処理を行うことができる。上記の方法以外にも紡糸直結延伸を行うことも可能である。
【0047】
このようにして得られた半芳香族ポリアミド繊維は、その特性を生かして繊維の形態のままでプラスチック用補強材(FRP)、セメント用補強材(FRC)、ゴム用補強材(FRR)、タイヤコード、スクリーン紗、エアーバッグ等の用途に好適に用いられる。また織物、不織布、編物及び組物の形態に加工される。不織布においてはアルカリ電池用セパレータ等のアルカリ電池構造品、液体フィルター、エアフィルター、ジオテキスタイル、抄紙用カンバス等に好適に使用される。
【0048】
上述の半芳香族ポリアミド繊維からなる不織布は任意の製造方法で得ることができる。まず繊維ウエッブ(不織布の絡合または結合前のもの)を形成して、繊維ウエッブ内の繊維を接着または絡合させることにより不織布化するといった一般的な手段で製造することができる。得られた不織布はそのまま使用してもよいし、複数枚の積層体として使用してもよい。繊維ウエッブの形成方法としては、例えばカード法やエアレイ法等の乾式法、抄紙法等の湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法等があり、これらの中でも湿式法やメルトブロー法によって得られる繊維ウエッブは緻密で、均一な表面状態を有し、電池用セパレータとして使用すると、金属の析出や電極活物質の移動を防止できるため、好適な繊維ウエッブの形成方法である。また、上記各々の方法により形成された繊維ウエッブを組み合わせて積層して使用することもできる。
【実施例
【0049】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお、実施例中の測定値は以下の方法により測定した値である。
【0050】
(1)ガラス転移温度、融点(℃)
ポリアミドの融点及びガラス転移温度は、(株)日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量分析装置「DSC7020」を使用して測定した。
融点は、ISO11357-3に準拠して測定を行った。具体的には、窒素雰囲気下で、30℃から340℃へ10℃/分の速度で試料(ポリアミド)を加熱し、340℃で5分間保持して試料を完全に融解させた後、10℃/分の速度で50℃まで冷却し50℃で5分間保持した。再び10℃/分の速度で340℃まで昇温した時に現れる融解ピークのピーク温度を融点(℃)とし、融解ピークが複数ある場合は最も高温側の融解ピークのピーク温度を融点(℃)とした。
ガラス転移温度(℃)はISO11357-2に準拠して測定を行った。具体的には、窒素雰囲気下で、30℃から340℃へ20℃/分の速度で試料(ポリアミド)を加熱し、340℃で5分間保持して試料を完全に融解させた後、20℃/分の速度で50℃まで冷却し50℃で5分間保持した。再び20℃/分の速度で200℃まで昇温した時に現れる変曲点をガラス転移温度(℃)とした。
【0051】
(2)繊度(dtex)
JIS L 1013に準拠して測定した。
【0052】
(3)強度、弾性率(cN/dtex)
JIS L 1013に準拠して測定した。
【0053】
(4)乾熱寸法変化率(%)
JIS L 1013に準拠して260℃における乾熱寸法変化率を測定した。
【0054】
(5)耐酸性(耐薬品性)
濃度5.0×10-4mol/Lの硫酸からなるpH=3の酸性水溶液200cc中に繊維を5g入れ、オートクレーブ容器中150℃で100時間処理した前後の強度保持率(処理後の強度/処理前の強度×100)で評価した。
【0055】
(6)耐熱水性
純水200cc中に繊維を5g入れ、オートクレーブ容器中150℃で100時間処理した前後の強度保持率(処理後の強度/処理前の強度×100)で評価した。
【0056】
(7)損失正接(α緩和温度)
繊維を(株)ユービーエム製「Rheogel E4000」を使用して、ISO 6721:1994に準拠して、引張モード、窒素気流下、3℃/分の昇温速度、10.0Hzで測定し、損失弾性率を貯蔵弾性率で割った損失正接の最も高温側のピーク温度(℃)をα緩和温度(℃)として求めた。
【0057】
(実施例1)
2,6-ナフタレンジカルボン酸(ナフタレンジカルボン酸単位)9110.2g(42.14モル)、1,9-ノナンジアミン(直鎖状脂肪族ジアミン単位)と2-メチル-1,8-オクタンジアミン(分岐状脂肪族ジアミン単位)の混合物[前者/後者=4/96(モル比)]6853.7g(43.30モル)、安息香酸210.0g(1.72モル)(末端封止剤)、次亜リン酸ナトリウム一水和物16.2g(原料の総質量に対して0.1質量%)及び蒸留水8.3リットルを内容積40リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間撹拌し、2時間かけてオートクレーブ内部の温度を220℃に昇温した。この時、オートクレーブ内部の圧力は2MPaまで昇圧した。そのまま5時間、圧力を2MPaに保ちながら加熱を続け、水蒸気を徐々に抜いて反応させた。次に、30分かけて圧力を1.3MPaまで下げ、さらに1時間反応させて、プレポリマーを得た。得られたプレポリマーを、100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の粒径まで粉砕した。これを230℃、13Pa(0.1mmHg)にて10時間固相重合しポリアミドを得た。得られたポリマーを2軸押出機にて0.15mmΦ×100ホールの丸孔ノズルより紡糸温度320℃で吐出し、吐出速度と巻取速度との比(ドラフト)を64に調節し、巻取速度500m/分で巻き取った。得られた原糸の単糸繊度は5.0dtexであった。ついで、1炉180℃での乾熱延伸にて延伸倍率3.0倍で延伸を施したのち、220℃において熱処理を行い、170dtex/100フィラメントの繊維を得た。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの比率が[前者/後者=15/85(モル比)]である混合物を用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリアミドを得て、同様の手法で繊維化した。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0059】
(実施例3)
1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの比率が[前者/後者=30/70(モル比)]である混合物を用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリアミドを得て、同様の手法で繊維化した。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0060】
(比較例1)
1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの比率が[前者/後者=50/50(モル比)]である混合物を用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリアミドを得て、同様の手法で繊維化した。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0061】
(比較例2)
1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの比率が[前者/後者=85/15(モル比)]である混合物を用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリアミドを得て、同様の手法で繊維化した。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0062】
(比較例3)
テレフタル酸8190.7g(49.30モル)、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの混合物[前者/後者=4/96(モル比)]7969.4g(50.35モル)、安息香酸171.0g(1.40モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物16.3g(原料の総質量に対して0.1質量%)及び蒸留水5.5リットルを内容積40リットルのオートクレーブに入れ、以降は実施例1と同様にしてポリアミドを得て、同様の手法で繊維化した。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から、実施例1~3の半芳香族ポリアミド繊維は、比較例1~3に比べ、150℃酸性水溶液、熱水に浸漬後の強度保持率にも優れることが分かる。このことから、本発明の半芳香族ポリアミド繊維は耐薬品性、耐熱水性(特に長期での耐薬品性、耐熱水性)に優れることが分かる。
また、実施例1~3の半芳香族ポリアミド繊維は、弾性率、乾熱収縮率の各評価結果がいずれも優れていて、力学特性、高温強度、耐熱性に優れており、これらの総合的なバランスの点で比較例1~3よりも優れていることが分かる。
一方、比較例1はジアミン単位が1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの混合物(前者/後者=50/50(モル比))であるため、ガラス転移温度及び融点が低く、乾熱収縮率から示される耐熱性が低いだけでなく、弾性率、耐薬品性や耐熱水性も低い。比較例2は、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの混合物(前者/後者=85/15(モル比))であるため、ガラス転移温度及び融点がやや低く、乾熱収縮率から示される耐熱性が実施例1~3に比べて低いだけでなく、弾性率、耐薬品性や耐熱水性も低い。特許文献1に記載されているように、直鎖状脂肪族ジアミンの代わりに側鎖を有する脂肪族ジアミンを用いた場合には、得られるポリアミドの結晶性が低下することが知られており、耐熱性、耐薬品性などの面で好ましくない。しかしながら、本発明では側鎖を有する脂肪族ジアミンを多く含むポリアミドが優れた耐熱性、耐薬品性を示すことを見出している。比較例3は、ジカルボン酸単位にテレフタル酸を100モル%用いているため、ガラス転移温度及び融点が低く、乾熱収縮率から示される耐熱性が低いだけでなく、弾性率、耐薬品性や耐熱水性も低い。