(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】正極活物質、正極、リチウムイオン二次電池及び正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240326BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240326BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240326BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240326BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240326BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240326BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240326BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M10/0562
H01M10/052
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2020077998
(22)【出願日】2020-04-27
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】門脇 拓也
(72)【発明者】
【氏名】川上 義貴
(72)【発明者】
【氏名】今成 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 力
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】是津 信行
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-18874(JP,A)
【文献】特開2020-43053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
H01M 4/62
H01M 4/131
H01M 10/0562
H01M 10/052
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属複合酸化物を形成材料とするコア粒子と、
前記コア粒子の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状の結晶構造を有し、且つ少なくともリチウムと遷移金属とを含み、
前記被覆層は、下記(1)~(3)を満たす正極活物質。
(1)前記被覆層は、Nb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr及びGeからなる群から選ばれる少なくとも1種の被覆元素を含む酸化物を形成材料とする。
(2)前記被覆層の平均厚みは、1nm以上100nm未満である。
(3)前記被覆層のXPS分析結果から得られたSi元素比αと、前記被覆層のXPS分析結果から得られた前記遷移金属及び前記被覆元素の元素比の合計βと、から得られたα/(α+β)は0.02以上である。
【請求項2】
前記被覆層のXPS分析において、前記Si元素比αと、前記被覆元素の元素比の合計Aとから得られたA/αが1.0以上10.0以下である請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記被覆層は、Nb
2O
5,Ta
2O
5、TiO
2,Al
2O
3,B
2O
3,WO
3,ZrO
2及びGeO
2からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を主成分とし、
前記主成分は非晶質である請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記遷移金属が、Ni、Co、Mn、Fe、Cu、Mg、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Nb及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1から3のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記リチウム金属複合酸化物は、下記式(1)で表される請求項4に記載の正極活物質。
Li[Li
x(Ni
(1-y-z-w)Co
yMn
zM
w)
1-x]O
2 …(1)
(ただし、MはFe、Cu、Mg、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Nb及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、-0.10≦x≦0.30、0<y≦0.40、0≦z≦0.40及び0≦w≦0.10を満たす。)
【請求項6】
上記式(1)において1-y-z-w≧0.50、かつy≦0.30を満たす請求項5に記載の正極活物質。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の正極活物質を含む正極活物質層を有する正極。
【請求項8】
固体電解質をさらに含む請求項7に記載の正極。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の正極と、負極と、前記正極と前記負極とに挟持された非水電解質と、を有するリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記非水電解質が、固体電解質である請求項9に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
前記正極は、前記非水電解質を構成する前記固体電解質と同じ物質を含む請求項10に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
前記正極活物質層は、前記正極活物質と、前記固体電解質とを含む請求項11に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
前記非水電解質を構成する前記固体電解質は、非晶質構造を有する請求項10から12のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項14】
前記非水電解質を構成する前記固体電解質は、酸化物固体電解質である請求項10から13のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項15】
第1分散液に分散したリチウム金属複合酸化物の粒子と、表面処理剤とを反応させ、第1の反応生成物を得る工程と、
前記第1の反応生成物を分散媒に分散させた第2分散液に、Nb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr及びGeからなる群から選ばれる少なくとも1種の被覆元素を含む化合物を加える工程と、
前記化合物を加えた前記第2分散液に水又は塩基性水溶液を滴下し、第2の反応生成物を得る工程と、
前記第2の反応生成物を乾燥させる工程と、を有し、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状の結晶構造を有し、且つ少なくともリチウムと遷移金属とを含み、
前記表面処理剤は、前記被覆元素に配位可能な第1の官能基と、前記リチウム金属複合酸化物に結合可能な第2の官能基とを有するシランカップリング剤である正極活物質の製造方法。
【請求項16】
前記第2の反応生成物を得る工程において、前記塩基性水溶液を滴下する請求項15に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項17】
前記乾燥させる工程の後に、前記乾燥させる工程で得られた乾燥物を100℃以上800℃以下で熱処理する工程を有する請求項15又は16に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項18】
前記第1の官能基が、アミノ基である請求項15から17のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項19】
前記第2の官能基が、アルコキシ基である請求項15から18のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項20】
前記化合物は、前記被覆元素を含むアルコキシドである請求項15から19のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項21】
前記化合物を加える工程と前記第2の反応生成物を得る工程との間に、前記第2分散液に単座配位子を加える工程をさらに有する請求項15から20のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項22】
前記単座配位子がアセトニトリルである請求項21に記載の正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質、正極、リチウムイオン二次電池及び正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、既に携帯電話用途やノートパソコン用途などの小型電源だけでなく、自動車用途や電力貯蔵用途などの中・大型電源においても、実用化が進んでいる。リチウムイオン二次電池としては、正極活物質を有する正極と、負極と、正極及び負極に接する電解質と、を有する構成が知られている。
【0003】
リチウムイオン二次電池に用いられる電解質としては、有機溶媒を含む電解液や、固体電解質が知られている。以下の説明においては、電解液と固体電解質とをあわせて「非水電解質」と称することがある。
【0004】
正極と非水電解質との界面においては、正極が有する正極活物質と非水電解質とが接している。リチウムイオン二次電池では、電池の充放電に応じて、非水電解質から正極活物質へのリチウムイオンの挿入と、正極活物質から非水電解質へのリチウムイオンの脱離とが行われている。
【0005】
従来、リチウムイオン二次電池の開発においては、上記イオンの挿入及び脱離に密接にかかわる正極活物質の粒子表面を、リチウム金属複合酸化物の被覆層で被覆し、リチウムイオン二次電池の電池性能を向上させる検討がなされている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-170715号公報
【文献】特開2018-116903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リチウムイオン二次電池の応用分野が進む中、リチウムイオン二次電池の正極活物質にはさらなる充放電特性の向上が求められる。例えば、電気自動車や電気自動二輪などの移動体用のバッテリーには、高電圧運転時に大きな出力が得られることや、急速充電が可能であること求められる。このような用途に用いられるリチウムイオン二次電池には、大電流(ハイレート)での放電や充電を可能とする特性、いわゆる「レート特性」が求められる。「レート特性がよい」とは、大電流での放電や充電がしやすいことを意味する。
【0008】
リチウムイオン二次電池のレート特性をより向上させるため、特許文献1,2に記載の正極活物質には、さらなる改良の余地がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、優れたレート特性を示す正極活物質を提供することを目的とする。また、このような正極活物質を有する正極、リチウムイオン二次電池を提供することを併せて目的とする。また、優れたレート特性を有する正極活物質を効率的に製造可能とする正極活物質の製造方法を提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は、以下の態様を包含する。
【0011】
[1]リチウム金属複合酸化物を形成材料とするコア粒子と、前記コア粒子の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、前記リチウム金属複合酸化物は、層状の結晶構造を有し、且つ少なくともリチウムと遷移金属とを含み、前記被覆層は、下記(1)~(3)を満たす正極活物質。
(1)前記被覆層は、Nb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr及びGeからなる群から選ばれる少なくとも1種の被覆元素を含む酸化物を形成材料とする。
(2)前記被覆層の平均厚みは、1nm以上100nm未満である。
(3)前記被覆層のXPS分析結果から得られたSi元素比αと、前記被覆層のXPS分析結果から得られた前記遷移金属及び前記被覆元素の元素比の合計βと、から得られたα/(α+β)は0.02以上である。
【0012】
[2]前記被覆層のXPS分析において、前記Si元素比αと、前記被覆元素の元素比の合計Aとから得られたA/αが1.0以上10.0以下である[1]に記載の正極活物質。
【0013】
[3]前記被覆層は、Nb2O5,Ta2O5、TiO2,Al2O3,B2O3,WO3,ZrO2及びGeO2からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を主成分とし、前記主成分は非晶質である[1]又は[2]に記載の正極活物質。
【0014】
[4]前記遷移金属が、Ni、Co、Mn、Fe、Cu、Mg、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Nb及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種である[1]から[3]のいずれか1項に記載の正極活物質。
【0015】
[5]前記リチウム金属複合酸化物は、下記式(1)で表される[4]に記載の正極活物質。
Li[Lix(Ni(1-y-z-w)CoyMnzMw)1-x]O2…(1)
(ただし、MはFe、Cu、Mg、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Nb及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、-0.10≦x≦0.30、0<y≦0.40、0≦z≦0.40及び0≦w≦0.10を満たす。)
【0016】
[6]上記式(1)において1-y-z-w≧0.50、かつy≦0.30を満たす[5]に記載の正極活物質。
【0017】
[7][1]から[6]のいずれか1項に記載の正極活物質を含む正極活物質層を有する正極。
【0018】
[8]固体電解質をさらに含む[7]に記載の正極。
【0019】
[9][7]又は[8]に記載の正極と、負極と、前記正極と前記負極とに挟持された非水電解質と、を有するリチウムイオン二次電池。
【0020】
[10]前記非水電解質が、固体電解質である[9]に記載のリチウムイオン二次電池。
【0021】
[11]前記正極は、前記非水電解質を構成する前記固体電解質と同じ物質を含む[10]に記載のリチウムイオン二次電池。
【0022】
[12]前記正極活物質層は、前記正極活物質と、前記固体電解質とを含む[11]に記載のリチウムイオン二次電池。
【0023】
[13]前記非水電解質を構成する前記固体電解質は、非晶質構造を有する[10]から[12]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【0024】
[14]前記非水電解質を構成する前記固体電解質は、酸化物固体電解質である[10]から[13]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【0025】
[15]第1分散液に分散したリチウム金属複合酸化物の粒子と、表面処理剤とを反応させ、第1の反応生成物を得る工程と、前記第1の反応生成物を分散媒に分散させた第2分散液に、Nb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr及びGeからなる群から選ばれる少なくとも1種の被覆元素を含む化合物を加える工程と、前記化合物を加えた前記第2分散液に水又は塩基性水溶液を滴下し、第2の反応生成物を得る工程と、前記第2の反応生成物を乾燥させる工程と、を有し、前記リチウム金属複合酸化物は、層状の結晶構造を有し、且つ少なくともリチウムと遷移金属とを含み、前記表面処理剤は、前記被覆元素に配位可能な第1の官能基と、前記リチウム金属複合酸化物に結合可能な第2の官能基とを有するシランカップリング剤である正極活物質の製造方法。
【0026】
[16]前記第2の反応生成物を得る工程において、前記塩基性水溶液を滴下する[15]に記載の正極活物質の製造方法。
【0027】
[17]前記乾燥させる工程の後に、前記乾燥させる工程で得られた乾燥物を100℃以上800℃以下で熱処理する工程を有する[15]又は[16]に記載の正極活物質の製造方法。
【0028】
[18]前記第1の官能基が、アミノ基である[15]から[17]のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。
【0029】
[19]前記第2の官能基が、アルコキシ基である[15]から[18]のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。
【0030】
[20]前記化合物は、前記被覆元素を含むアルコキシドである[15]から[19]のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。
【0031】
[21]前記化合物を加える工程と前記第2の反応生成物を得る工程との間に、前記第2分散液に単座配位子を加える工程をさらに有する[15]から[20]のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。
【0032】
[22]前記単座配位子がアセトニトリルである[21]に記載の正極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、優れたレート特性を示す正極活物質を提供できる。また、このような正極活物質を有する正極、リチウムイオン二次電池を提供できる。また、優れたレート特性を有する正極活物質を効率的に製造可能とする正極活物質の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、本実施形態の正極活物質のSTEM-EDXの分析結果の一例を示すラインプロファイルである。
【
図2】
図2は、本実施形態の正極活物質のSTEM-EDXの分析結果の一例を示すラインプロファイルである。
【
図3A】
図3Aは、リチウムイオン二次電池の一例を示す模式図である。
【
図3B】
図3Bは、リチウムイオン二次電池の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、全固体リチウムイオン二次電池が備える積層体を示す模式図である。
【
図5】
図5は、全固体リチウムイオン二次電池の全体構成を示す模式図である。
【
図6】
図6は、レート特性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<正極活物質>
本実施形態の正極活物質は、リチウム金属複合酸化物を形成材料とするコア粒子と、コア粒子の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有する。
【0036】
また、本実施形態の正極活物質は、下記(1)~(3)の要件を満たす。
(1)被覆層は、Nb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr及びGeからなる群から選ばれる少なくとも1種の被覆元素を含む酸化物を形成材料とする。
(2)被覆層の平均厚みは、1nm以上100nm未満である。
(3)被覆層のXPS分析結果から得られたSi元素比αと、被覆層のXPS分析結果から得られた遷移金属、Al及びBの合計元素比βと、から得られたα/(α+β)は0.1以上である。
以下、順に説明する。
【0037】
(リチウム金属複合酸化物)
本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物は、層状の結晶構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含む。
【0038】
本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物は、遷移金属として、Ni、Co、Mn、Fe、Cu、Mg、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La,Ti,Nb及びVからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0039】
本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物が、遷移金属としてNi、Co、Mn、Fe、Cu、Mg、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La,Ti,Nb及びVからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことにより、得られるリチウム金属複合酸化物は、Liイオンが脱離可能又は挿入可能な安定した結晶構造を形成する。そのため、本実施形態の正極活物質を二次電池の正極に用いた場合、高い充放電容量が得られる。
【0040】
また、本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物が、Ni、Co、Mn、Fe、Cu、Mg、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La,Ti,Nb及びVからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことにより、得られるリチウム金属複合酸化物は、結晶構造が強固となる。そのため、本実施形態の正極活物質は、ハイレートで充電及び放電した場合にも結晶構造が壊れにくい正極活物質となる。
【0041】
さらに詳しくは、リチウム金属複合酸化物は、下記組成式(1)で表される。
Li[Lix(Ni(1-y-z-w)CoyMnzMw)1-x]O2 …(1)
(ただし、MはFe、Cu、Mg、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La,Ti,Nb及びVからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦x≦0.30、0≦y≦0.40、0≦z≦0.40及び0≦w≦0.10を満たす。)
【0042】
(xについて)
サイクル特性がよいリチウムイオン二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるxは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウムイオン二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるxは0.25以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましい。
【0043】
なお、本明細書において「サイクル特性がよい」とは、充放電の繰り返しにより、電池容量の低下量が低い特性を意味し、初期容量に対する再測定時の容量比が低下しにくいことを意味する。
【0044】
また、本明細書において「初回クーロン効率」とは「(初回放電容量)/(初回充電容量)×100(%)」で求められる値である。初回クーロン効率が高い二次電池は、初回の充放電時の不可逆容量が小さく、体積及び重量あたりの容量がより大きくなりやすい。
【0045】
xの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(1)において、xは、-0.10以上0.25以下であってもよく、-0.10以上0.10以下であってもよい。
【0046】
xは、0を超え0.30以下であってもよく、0を超え0.25以下であってもよく、0を超え0.10以下であってもよい。
【0047】
xは、0.01以上0.30以下であってもよく、0.01以上0.25以下であってもよく、0.01以上0.10以下であってもよい。
【0048】
xは、0.02以上0.3以下であってもよく、0.02以上0.25以下であってもよく、0.02以上0.10以下であってもよい。
【0049】
本実施形態においては、0<x≦0.30であることが好ましい。
【0050】
(yについて)
また、電池の内部抵抗が低いリチウムイオン二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるyは0を超えることが好ましく、0.005以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましく、0.05以上であることが特に好ましい。また、熱的安定性が高いリチウムイオン二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるyは0.35以下であることがより好ましく、0.33以下であることがさらに好ましく、0.30以下であることがよりさらに好ましい。
【0051】
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(1)において、yは、0以上0.35以下であってもよく、0以上0.33以下であってもよく、0以上0.30以下であってもよい。
【0052】
yは、0を超え0.40以下であってもよく、0を超え0.35以下であってもよく、0を超え0.33以下であってもよく、0を超え0.30以下であってもよい。
【0053】
yは、0.005以上0.40以下であってもよく、0.005以上0.35以下であってもよく、0.005以上0.33以下であってもよく、0.005以上0.30以下であってもよい。
【0054】
yは、0.01以上0.40以下であってもよく、0.01以上0.35以下であってもよく、0.01以上0.33以下であってもよく、0.01以上0.30以下であってもよい。
【0055】
yは、0.05以上0.40以下であってもよく、0.05以上0.35以下であってもよく、0.05以上0.33以下であってもよく、0.05以上0.30以下であってもよい。
【0056】
本実施形態においては、0<y≦0.40であることが好ましい。
【0057】
本実施形態においては、組成式(1)において、0<x≦0.10であり、0<y≦0.40であることがより好ましい。
【0058】
(zについて)
また、サイクル特性が高いリチウムイオン二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるzは0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。また、高温(例えば60℃環境下)での保存性が高いリチウムイオン二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるzは0.39以下であることが好ましく、0.38以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましい。
【0059】
zの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(1)において、zは、0以上0.39以下であってもよく、0以上0.38以下であってもよく、0以上0.35以下であってもよい。
【0060】
zは、0.01以上0.40以下であってもよく、0.01以上0.39以下であってもよく、0.01以上0.38以下であってもよく、0.01以上0.35以下であってもよい。
【0061】
zは、0.02以上0.40以下であってもよく、0.02以上0.39以下であってもよく、0.02以上0.38以下であってもよく、0.02以上0.35以下であってもよい。
【0062】
zは、0.10以上0.40以下であってもよく、0.10以上0.39以下であってもよく、0.10以上0.38以下であってもよく、0.10以上0.35以下であってもよい。
【0063】
(wについて)
また、電池の内部抵抗が低いリチウムイオン二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるwは0を超えることが好ましく、0.0005以上であることがより好ましく、0.001以上であることがさらに好ましい。また、高い電流レートにおいて放電容量が多いリチウムイオン二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるwは0.09以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.07以下であることがさらに好ましい。
【0064】
wの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(1)において、wは、0以上0.09以下であってもよく、0以上0.08以下であってもよく、0以上0.07以下であってもよい。
【0065】
wは、0を超え0.10以下であってもよく、0を超え0.09以下であってもよく、0を超え0.08以下であってもよく、0を超え0.07以下であってもよい。
【0066】
wは、0.0005以上0.10以下であってもよく、0.0005以上0.09以下であってもよく、0.0005以上0.08以下であってもよく、0.0005以上0.07以下であってもよい。
【0067】
wは、0.001以上0.10以下であってもよく、0.001以上0.09以下であってもよく、0.001以上0.08以下であってもよく、0.001以上0.07以下であってもよい。
【0068】
(y+z+wについて)
また、電池容量が大きいリチウムイオン二次電池を得る観点から、本実施形態においては、前記組成式(1)におけるy+z+wは0.50以下が好ましく、0.48以下がより好ましく、0.46以下がさらに好ましい。
【0069】
本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物は、組成式(1)において1-y-z-w≧0.50、かつy≦0.30を満たすと好ましい。すなわち、本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物は、組成式(1)においてNiの含有モル比が0.50以上、かつCoの含有モル比が0.30以下であると好ましい。
【0070】
(Mについて)
前記組成式(1)におけるMはFe、Cu、Mg、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La,Ti,Nb及びVからなる群より選択される1種以上の元素を表す。
【0071】
また、サイクル特性が高いリチウムイオン二次電池を得る観点から、組成式(1)におけるMは、Mg、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましく、Al、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることがより好ましい。また、熱的安定性が高いリチウムイオン二次電池を得る観点から、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましい。
【0072】
上述したx、y、z、wについて好ましい組み合わせの一例は、xが0.02以上0.3以下であり、yが0.05以上0.30以下であり、zが0.02以上0.35以下であり、wが0以上0.07以下である。
【0073】
x、y、z、wについて好ましい組み合わせを有するリチウム金属酸化物として、例えば、x=0.05、y=0.20、z=0.30、w=0であるリチウム金属複合酸化物や、x=0.05、y=0.08、z=0.04、w=0であるリチウム金属複合酸化物や、x=0.25、y=0.07、z=0.02、w=0であるリチウム金属複合酸化物が挙げられる。
【0074】
本実施形態において、リチウム金属複合酸化物の組成分析は、リチウム金属複合酸化物を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行うことができる。
【0075】
(結晶構造)
本実施形態において、リチウム金属複合酸化物の結晶構造は、層状である。リチウム金属複合酸化物の結晶構造は、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0076】
六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P-3、R-3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P-6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcm及びP63/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0077】
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/c及びC2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0078】
これらのうち、放電容量が高いリチウムイオン二次電池を得るため、結晶構造は、空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0079】
(被覆層:要件(1))
本実施形態の正極が有する被覆層は、Nb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr及びGeからなる群から選ばれる少なくとも1種の被覆元素を含む酸化物を形成材料とする。
【0080】
被覆層に上記被覆元素が含まれていることは、走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)-エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)を用いた分析により確認できる。
【0081】
具体的には、リチウム金属複合酸化物の粒子を、収束イオンビーム(FIB)など通常知られた方法で薄膜化して試料を調製する。次いで、得られた試料をCuメッシュ上にのせ、加速電圧が200kVの電子線を照射して、STEM観察(明視野像及び暗視野像の撮影)を行う。
【0082】
続けて、STEM観察した範囲と同じ視野範囲にてEDX分析を行う。視野に含まれる各粒子について電子線励起により特性X線を発生させ、測定位置に含まれる複数の元素の特性X線が含まれるX線スペクトルを得る。測定されたスペクトルに含まれる各元素の特性X線の数(カウント数、強度)は、各元素の濃度に対応する。
【0083】
次いで、視野に含まれる任意の粒子について、粒子外側から粒子中心にかけて設定した仮想線に沿って、被覆層に含まれる被覆元素(Nb、Ta、Ti,Al,B,W,Zr及びGe)の濃度のラインプロファイルを得る。同時に、コア粒子に含まれる遷移金属の濃度のラインプロファイルを得る。
【0084】
ラインプロファイルは、粒子外側から中心にかけて設定した仮想線に沿った粒子外側からの距離を横軸(単位:nm)とし、粒子の外縁及び被覆層が確認できる範囲で各元素の特性X線スペクトル強度(単位:X線のカウント数であり任意単位a.u.)を縦軸として、粒子外側からの距離ごとにX線スペクトル強度をプロットして作成する。
【0085】
このとき、被覆元素のラインプロファイルと、コア粒子に含まれる元素のラインプロファイルとを比較し、被覆元素のラインプロファイルが、コア粒子の外側にピークを持つ連続した形状で得られれば、検出された被覆元素が含まれた被覆層がコア粒子の表面に存在すると判断できる。
ラインプロファイルを用いた「コア粒子の表面」の規定方法については、後述する。
「コア粒子の外側」とは、後述の方法で規定されるコア粒子の表面よりも正極活物質の粒子表面側を意味する。
【0086】
このような被覆層の形成材料としては、Nb2O5,Ta2O5、TiO2、Al2O3、WO3、B2O3,ZrO3及びGeO2からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を主成分とすることが好ましい。これらの酸化物(被覆層の主成分)は非晶質であると好ましい。これらの酸化物が非晶質であることは、上述した方法で特定した被覆層において、STEM観察により被覆層を1000万倍に拡大観察した際、結晶構造に由来する規則的な原子配列が観察されないことから判断できる。
【0087】
なお、被覆層の形成材料について、上記酸化物を「主成分とする」とは、被覆層の形成材料のうち上記酸化物の含有率が最も多いことを意味する。被覆層全体に対する上記酸化物の含有率は、50mol%以上が好ましく、60mol%以上がより好ましい。また、被覆層全体に対する上記酸化物の含有率は、90mol%以下が好ましい。
【0088】
被覆層の形成材料のうち、上記酸化物を除いた残部は、被覆層の形成時に生じる反応残渣である。詳しくは、後述する製造方法によって生じる反応残渣が挙げられる。
【0089】
(被覆層:要件(2))
本実施形態の正極活物質が有する被覆層の平均厚みは、1nm以上100nm未満である。被覆層の平均厚みは、1.5nm以上であることが好ましく、2.0nm以上であることがより好ましい。また、被覆層の平均厚みは、50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましい。
【0090】
被覆層の平均厚みの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。本実施形態の正極活物質において、被覆層の平均厚みは、1.5nm以上100nm以下であってもよく、2.0nm以上100nm以下であってもよい。また、被覆層の平均厚みは、1nm以上50nm以下であってもよく、1.5nm以上50nm以下であってもよく、2.0nm以上50nm以下であってもよい。さらに、被覆層の平均厚みは、1nm以上30nm以下であってもよく、1.5nm以上30nm以下であってもよく、2.0nm以上30nm以下であってもよい。
【0091】
本実施形態において、被覆層の平均の厚みは、走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)-エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)を用いた分析結果により求める。
【0092】
図1,2は、本実施形態の正極活物質のSTEM-EDXの分析結果の一例を示すラインプロファイルである。横軸は、粒子の外側から粒子中心に向かう測定位置(単位:nm)を示す。横軸の原点側が粒子外側、横軸の+側が粒子中心側である。また、縦軸は、各元素の検出量(単位:X線のカウント数であり任意単位a.u.)である。
【0093】
図1では、遷移金属としてNiを含むリチウム金属複合酸化物をコア粒子とし、コア粒子の表面に被覆元素としてNbを含む被覆層を有する正極活物質について分析した場合を示す。
図1は、Nbが被覆層にしか存在しない場合を示す。
【0094】
(コア粒子の表面の特定)
まず、コア粒子の表面の位置を特定する。
正極活物質について断面のSTEM-EDX分析を行い、被覆層には含まれずコア粒子にのみ含まれる遷移金属のうち、最も高感度に検出される元素、すなわち最も高濃度に含まれる元素を特定する。本明細書の説明においては、上記最も高感度に検出される元素がNiであることとする。
【0095】
次いで、Niについて、粒子外側から粒子中心に向かってSTEM-EDXの分析結果に基づくラインプロファイルを作成する。Niのラインプロファイルについて、粒子外側から粒子中心に向かって30nm以上連続して正の値を検出する範囲を確認し、当該範囲の粒子外側の始点Aを定める。
【0096】
次いで、始点Aから粒子中心側に20nmの位置BでのNiの検出量をXとしたとき、Niの検出量がX/2となる位置であって、最も始点Aに近い位置Cをコア粒子の表面と定める。
【0097】
(被覆層の表面の特定)
次いで、被覆層の表面の位置を特定する。
位置Cと重なって、粒子外側から粒子中心側に向けて、連続的に正の値が検出される被覆元素について、STEM-EDXの分析結果に基づくラインプロファイルを作成する。本明細書の説明においては、Nbのラインプロファイルを作成するものとする。
【0098】
次いで、Nbのラインプロファイルの最大値が位置Cよりも粒子外側に位置する場合に、被覆層が存在すると定義する。
図1では、Nbのラインプロファイルのピーク位置Dが位置Cよりも粒子外側にあることから、被覆層が存在していると判断できる。
【0099】
次いで、位置DにおけるNbの検出量をYとしたとき、Nbの検出量が位置Dよりも粒子外側でY/2となる位置であって、最も位置Dに近い位置Eを被覆層の表面と定める。
【0100】
次いで、位置Eと位置Cとの距離Lを被覆層の厚さとする。
【0101】
上記測定を3回行い、求められた各被覆層の厚さの算術平均値を、求める被覆層の厚さとする。平均値を求める際、被覆層が存在しない場合には、0nmとして取り扱う。
【0102】
図2は、遷移金属としてNiとNbとを含むリチウム金属複合酸化物をコア粒子とし、コア粒子の表面に被覆元素としてNbを含む被覆層を有する正極活物質について分析した場合を示す。
【0103】
図に示すように、リチウム金属複合酸化物と、被覆層とが共通する元素Nbを含む場合、Nbのラインプロファイルが粒子外側から粒子中心側に向けて途切れることなく連続することが考えられる。そのため、Nbにのみ着目すると、コア粒子の表面を検出できず、被覆層の厚さを測定できない。
【0104】
一方、上記方法によれば、コア粒子にのみ含まれる遷移金属のラインプロファイルからまずコア粒子の表面を定め、その後被覆層の表面を規定することとしているため、コア粒子と被覆層とで共通する元素を含む場合にも被覆層の厚さを求めることができる。
【0105】
(被覆層:要件(3))
本実施形態の正極活物質が有する被覆層は、被覆層のXPS分析において、Si元素が検出される。
【0106】
詳しくは後述するが、本実施形態の正極活物質の被覆層は、シランカップリング剤を用いる方法で製造される。そのため、被覆層を有する正極活物質についてXPS分析すると、シランカップリング剤の使用の痕跡として、Si元素の結合エネルギーに対応する光電子が検出される。本実施形態の正極活物質においては、要件(3)を満たす程度の量のシランカップリング剤を用いて作製した被覆層であれば、コア粒子の表面を所望の状態で被覆層が覆っていると判断する。
【0107】
本実施形態において、被覆層に含まれるSiは、XPSを用いた分析結果により求める。
【0108】
具体的には、下記条件で正極活物質の表面組成分析を行い、正極活物質の表面における元素のナロースキャンスペクトルを得る。
測定方法:X線光電子分光法(XPS)
X線源:AlKα線(1486.6eV)
X線スポット径:100μm
中和条件:中和電子銃(加速電圧0.3V、電流100μA)
【0109】
上記条件におけるXPSの検出深さは、正極活物質の表面から内部に約3nmの範囲である。正極活物質において、被覆層が薄い又は被覆層が無い部分では、被覆層のみならず、コア粒子の表面についても分析される。
【0110】
Siの光電子強度としてはSi2pの波形の積分値を用いる。
【0111】
また、同じXPS分析において、被覆層の内部に存在するリチウム金属複合酸化物に含まれる遷移金属、被覆層に含まれるNb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr及びGeについても、各元素の結合エネルギーに対応する光電子が検出される。
【0112】
各元素が対応するピークについては、既存のデータベースを用いて同定できる。
例えば、Niの光電子強度としてはNi2p3/2の波形の積分値を用いる。
【0113】
Coの光電子強度としてはCo2p3/2の波形の積分値を用いる。
【0114】
Mnの光電子強度としてはMn2p1/2の波形の積分値を用いる。
【0115】
Nbの光電子強度としてはNb3dの波形の積分値を用いる。
【0116】
Tiの光電子強度としてはTi2pの波形の積分値を用いる。
【0117】
Taの光電子強度としてはTa4fの波形の積分値を用いる。
【0118】
Alの光電子強度としてはAl2pの波形の積分値を用いる。
【0119】
Bの光電子強度としてはB1sの波形の積分値を用いる。
【0120】
Wの光電子強度としてはW4fの波形の積分値を用いる。ただしGeと同時に計測する場合はW4dの背景の積分値を用いる。
【0121】
Zrの光電子強度としてはZr3dの波形の積分値を用いる。
【0122】
Geの光電子強度としてはGe2pの波形の積分値を用いる。
【0123】
得られたスペクトルにおける各元素の光電子強度の比は、XPS測定によって求められる正極活物質の元素比に該当する。
【0124】
本実施形態の正極活物質は、上述の方法で測定した被覆層のXPS分析結果から得られた「Si元素比α」と「遷移金属及び被覆元素の元素比の合計β」の合計に対する「Si元素比α」の割合(α/(α+β))が0.02以上となる程度にケイ素原子を含んでいる。
【0125】
なお、測定対象となる正極活物質において、被覆層とリチウム金属複合酸化物とのそれぞれに共通する元素が含まれる場合がありうる。この場合、上記XPS分析の結果における元素比について、被覆層が有している元素であるか、リチウム金属複合酸化物が有している元素であるかを区別することなく取り扱う。
【0126】
例えば、被覆層とリチウム金属複合酸化物との両方に、Tiが含まれている場合、XPS分析の結果求められるTiの元素比は、リチウム金属複合酸化物に含まれるTiと被覆層に含まれるTiとの合計の元素比として取り扱う。
【0127】
α/(α+β)は、0.05以上であると好ましい。また、α/(α+β)は、0.5以下であると好ましく、0.3以下であるとより好ましく、0.2以下であるとさらに好ましい。
【0128】
α/(α+β)の上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。組み合わせ例を示すと、α/(α+β)は、0.02以上0.3以下が好ましく、0.05以上0.2以下がさらに好ましい。
【0129】
(被覆層:その他の規定)
また、本実施形態の正極活物質は、上述の方法で測定した被覆層のXPS分析において求められる、「Si元素比α」に対する「被覆元素の元素比の合計A」の割合(A/α)が1.0以上10.0以下であると好ましい。被覆元素の元素比の合計Aは、詳しくは「Nb元素比と、Ta元素比と、Ti元素比と、Al元素比と、B元素比と、W元素比と、Zr元素比と、Ge元素比との合計」である。
【0130】
A/αは、1.2以上であると好ましく、1.5以上であるとより好ましい。また、A/αは、8.0以下であると好ましく、5.0以下であるとより好ましい。
【0131】
A/αの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。組み合わせ例を示すと、A/αは、1.2以上8.0以下が好ましく、1.5以上5.0以下がより好ましい。
【0132】
以上のような構成の正極活物質は、リチウム金属複合酸化物の粒子(コア粒子)の表面を、被覆元素の酸化物で被覆している。そのため、正極活物質を正極に用いた場合に、リチウム金属複合酸化物と電解質との直接接触を抑制でき、リチウム金属複合酸化物の変質や、電解質の分解などの副反応を抑制できる。
【0133】
また、上述する被覆層の形成材料は、化学的に安定な酸化物であり、酸化反応に対して耐性を有する。そのため、上述の被覆層を有する正極活物質においては、被覆層が、リチウム金属複合酸化物を形成材料とするコア粒子を好適に保護し、コア粒子の変質を顕著に抑制する。これにより、本実施形態の正極活物質が電池の正極の材料に用いられ、高電圧が印加された場合、正極活物質の変質に起因した性能低下を抑制できる。
【0134】
さらに、正極活物質を正極に用い電圧が印加されたときに、正極活物質では、コア粒子を構成するリチウム金属複合酸化物から被覆層にリチウムイオンが拡散すると考えられる。また、上述のような平均厚みの被覆層を有する正極活物質では、リチウムイオンが被覆層の全体に好適に拡散すると考えられる。そのため、上述のような平均厚みの被覆層を有する正極活物質では、被覆層を構成する酸化物のリチウムイオン伝導性が低い場合であっても、リチウムイオン伝導性が発現すると考えられる。
【0135】
このとき、Nb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr及びGeからなる群から選ばれる少なくとも1種の被覆元素を含む酸化物を形成材料とする被覆層では、リチウムイオンが層全体に拡散することで、高いリチウムイオン伝導性が得られる。
【0136】
以上より、上述した構成の正極活物質は、優れたレート特性を示し、正極に用いた場合に電池性能を向上させることができる。
【0137】
<正極活物質の製造方法>
次に、本実施形態の正極活物質の製造方法を説明する。本実施形態の正極活物質は、まず、粒子状のリチウム金属複合酸化物を製造した後に、粒子表面に被覆層を形成することで製造する。
【0138】
(リチウム金属複合酸化物の製造方法1)
本実施形態の正極活物質が含有するリチウム金属複合酸化物を製造するにあたって、まず、リチウム以外の金属、すなわち、Ni、Co、Mn、Fe、Cu、Mg、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Nb及びVのうちいずれか1種以上の任意金属を含む金属複合化合物を調製し、当該金属複合化合物を適当なリチウム塩と、不活性溶融剤と焼成することが好ましい。金属複合化合物としては、金属複合水酸化物又は金属複合酸化物が好ましい。
【0139】
以下に、リチウム金属複合酸化物の製造方法の一例を、金属複合化合物の製造工程と、リチウム金属複合酸化物の製造工程とに分けて説明する。
【0140】
(金属複合化合物の製造工程)
金属複合化合物は、通常公知のバッチ共沈殿法又は連続共沈殿法により製造することが可能である。以下、金属として、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む金属複合水酸化物を例に、その製造方法を詳述する。
【0141】
まず共沈殿法、特に特開2002-201028号公報に記載された連続法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、及び錯化剤を反応させ、NiaCobMnc(OH)2(式中、a+b+c=1)で表される金属複合水酸化物を製造する。
【0142】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れか1種又は2種以上を使用できる。
【0143】
上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、及び酢酸コバルトのうちの何れか1種又は2種以上を使用できる。
【0144】
上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、及び酢酸マンガンのうちの何れか1種又は2種以上を使用できる。
【0145】
以上の金属塩は、上記NiaCobMnc(OH)2の組成比に対応する割合で用いられる。また、溶媒として水が使用される。
【0146】
錯化剤は、水溶液中で、ニッケル、コバルト、及びマンガンのイオンと錯体を形成可能な化合物である。例えば、アンモニウムイオン供給体(水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等のアンモニウム塩)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。錯化剤は含まれていなくてもよく、錯化剤が含まれる場合、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、任意金属M塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。
【0147】
沈殿に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要ならばアルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加する。
【0148】
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給させると、ニッケル、コバルト、及びマンガンが反応し、NiaCobMnc(OH)2が製造される。
【0149】
反応に際しては、反応槽の温度を、例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30~70℃の範囲内で制御する。
【0150】
反応槽内のpH値を、例えばpH9以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御する。
なお、本明細書におけるpHの値は、水溶液の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。
【0151】
反応槽内の物質は、適宜撹拌して混合する。反応槽は、形成された反応沈殿物を分離のためオーバーフローさせるタイプのものである。
【0152】
反応槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、下記工程で最終的に得られるリチウム金属複合酸化物の二次粒子径、細孔半径等の各種物性を制御できる。
【0153】
上記の条件の制御に加えて、各種気体、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス、空気、酸素等の酸化性ガス、又はそれらの混合ガスを反応槽内に供給し、得られる反応生成物の酸化状態を制御してもよい。
【0154】
得られる反応生成物を酸化する化合物として、過酸化水素などの過酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン、オゾンなどを使用できる。
【0155】
得られる反応生成物を還元する化合物として、シュウ酸、ギ酸などの有機酸、亜硫酸塩、ヒドラジンなどを使用する事ができる。
【0156】
以上の反応後、得られた反応沈殿物を水で洗浄した後、乾燥することで、金属複合化合物が得られる。本実施形態では、金属複合化合物として、ニッケルコバルトマンガン複合化合物としてのニッケルコバルトマンガン水酸化物が得られる。また、必要に応じて、反応沈殿物を、弱酸水や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含むアルカリ溶液で洗浄してもよい。
【0157】
本実施形態において、乾燥して得られた金属複合化合物に適正な外力を加えて粉砕し、粒子の分散状態を調整することにより、前記要件(2)及び要件(3)を本実施形態の範囲内に制御しやすい金属複合水酸化物が得られる。
【0158】
「適正な外力」とは、金属複合化合物の結晶子を破壊することなく、凝集状態を分散させる程度の外力を指す。本実施形態においては、上記粉砕の際、粉砕機として磨砕機を用いることが好ましく、石臼式磨砕機が特に好ましい。石臼式磨砕機を用いる場合、上臼と下臼のクリアランスは、金属複合水酸化物の凝集状態に応じて調整することが好ましい。
上臼と下臼のクリアランスは、例えば、10μm以上200μm以下の範囲が好ましい。
【0159】
なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。
【0160】
例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を焼成することによりニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製できる。焼成時間は、昇温開始から達温して温度保持が終了するまでの合計時間を1時間以上30時間以下とすることが好ましい。最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は180℃/hr以上が好ましく、200℃/hr以上がより好ましく、250℃/hr以上が特に好ましい。
【0161】
本明細書における最高保持温度とは、焼成工程における焼成炉内雰囲気の保持温度の最高温度であり、焼成工程における焼成温度を意味する。複数の加熱工程を有する本焼成工程の場合、最高保持温度とは、各加熱工程のうちの最高温度を意味する。
【0162】
本明細書における昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から最高保持温度に到達するまでの時間と、焼成装置の焼成炉内の昇温開始時の温度から最高保持温度までの温度差と、から算出される。
【0163】
(リチウム金属複合酸化物の製造工程)
リチウム金属複合酸化物は、金属複合酸化物又は金属複合水酸化物と、リチウム塩と混合し、得られた混合物を焼成するにより製造できる。
【0164】
まず、上記金属複合酸化物又は金属複合水酸化物を乾燥させた後、リチウム塩と混合する。また、本実施形態においては、金属複合酸化物又は金属複合水酸化物とリチウム塩との混合物に、さらに不活性溶融剤を混合することが好ましい。
【0165】
金属複合酸化物又は金属複合水酸化物と、リチウム塩と、不活性溶融剤とを含む混合物を焼成することにより、金属複合酸化物又は金属複合水酸化物と、リチウム塩との混合物を、不活性溶融剤の存在下で焼成することになる。不活性溶融剤の存在下で焼成することにより、焼成で生じるリチウム金属複合酸化物の一次粒子同士が焼結し、二次粒子が生成することを抑制できる。また、リチウム金属複合酸化物の一次粒子が、二次粒子から独立したまま成長しやすくなる。
【0166】
本実施形態においては、凝集することなく、他の粒子から独立して存在する一次粒子のことを「単粒子」と称する。
また、反応で生じる一次粒子が凝集して生じる凝集粒子を「二次粒子」と称する。
すなわち、反応で生じる粒子は、単粒子と二次粒子とからなる。
【0167】
本実施形態において、乾燥条件は特に制限されない。
例えば、金属複合酸化物又は金属複合水酸化物が酸化又は還元されない条件(酸化物が酸化物のまま維持される、水酸化物が水酸化物のまま維持される)、金属複合水酸化物が酸化される条件(水酸化物が酸化物に酸化される)、金属複合酸化物が還元される条件(酸化物が水酸化物に還元される)のいずれの条件でもよい。
【0168】
金属複合酸化物又は金属複合水酸化物が酸化又は還元がされないためには、窒素、ヘリウム及びアルゴン等の不活性ガスを使用した環境下で乾燥させるとよい。
【0169】
金属複合水酸化物が酸化されるためには、酸素又は空気を使用した環境下で乾燥させるとよい。
【0170】
また、金属複合酸化物が還元されるためには、不活性ガス雰囲気下において、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を使用した環境下で乾燥させるとよい。
【0171】
リチウム塩としては、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酸化リチウムのうち何れか一つ、又は、二つ以上を混合して使用できる。
【0172】
金属複合酸化物又は金属複合水酸化物の乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
【0173】
以上のリチウム塩と金属複合水酸化物とは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を用いる場合、リチウム塩と当該金属複合水酸化物は、LiNiaCobMncO2(式中、a+b+c=1)の組成比に対応する割合で用いられる。また、最終目的物であるリチウム金属複合酸化物において、リチウムが過剰(含有モル比が1超)である場合には、リチウム塩に含まれるリチウムと、金属複合水酸化物に含まれる金属元素とのモル比が1を超える比率で混合する。
【0174】
ニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物及びリチウム塩の混合物を焼成することによって、リチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物が得られる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられ、必要ならば複数の加熱工程が実施される。
【0175】
本実施形態においては、不活性溶融剤の存在下で混合物の焼成を行ってもよい。不活性溶融剤の存在下で焼成を行うことにより、混合物の反応を促進させることができる。不活性溶融剤は、焼成後のリチウム金属複合酸化物に残留していてもよいし、焼成後に水やアルコールで洗浄すること等により除去されていてもよい。本実施形態においては、焼成後のリチウム金属複合酸化物は水やアルコールを用いて洗浄することが好ましい。
【0176】
焼成における保持温度を調整することにより、得られるリチウム金属複合酸化物の単粒子の粒子径を本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
【0177】
通常、保持温度が高くなればなるほど、リチウム金属複合酸化物の単粒子の粒子径は大きくなり、BET比表面積は小さくなる傾向にある。焼成における保持温度は、用いる遷移金属の種類、沈殿剤、不活性溶融剤の種類、量に応じて適宜調整すればよい。
【0178】
本実施形態においては、保持温度の設定は、後述する不活性溶融剤の融点を考慮すればよく、不活性溶融剤の融点マイナス100℃以上不活性溶融剤の融点プラス100℃以下の範囲で行うことが好ましい。
【0179】
保持温度として、具体的には、200℃以上1150℃以下の範囲を挙げることができ、300℃以上1050℃以下が好ましく、500℃以上1000℃以下がより好ましい。
【0180】
また、前記保持温度で保持する時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられ、0.5時間以上10時間以下が好ましい。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃/時間以上400℃/時間以下であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガスを使用できる。
【0181】
焼成によって得たリチウム金属複合酸化物は、粉砕後に適宜分級され、リチウムイオン二次電池に適用可能な正極活物質とされる。
【0182】
本実施形態において、焼成によって得たリチウム金属複合酸化物に適正な外力を加えて粉砕し、粒子の分散状態を調整することにより、前記要件(2)及び要件(3)を本実施形態の範囲内に制御したリチウム金属複合酸化物を得ることができる。
【0183】
本実施形態において、焼成によって得たリチウム金属複合酸化物に適正な外力を加えて粉砕し、粒子の分散状態を調整することにより、前記要件(2)及び要件(3)を本実施形態の範囲内に制御したリチウム金属複合酸化物を得ることができる。
【0184】
「適正な外力」とは、リチウム金属複合酸化物の結晶子を破壊することなく、凝集状態を分散させる程度の外力を指す。本実施形態においては、上記粉砕の際、粉砕機として磨砕機を用いることが好ましく、石臼式磨砕機が特に好ましい。石臼式磨砕機を用いる場合、上臼と下臼のクリアランスは、リチウム金属複合酸化物の凝集状態に応じて調整することが好ましい。上臼と下臼とのクリアランスは、例えば、10μm以上200μm以下の範囲が好ましい。
【0185】
本実施形態に使用できる不活性溶融剤は、焼成の際に混合物と反応し難いものであれば特に限定されない。本実施形態においては、Na、K、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr及びBaからなる群より選ばれる1種以上の元素(以下、「A」と称する。)のフッ化物、Aの塩化物、Aの炭酸塩、Aの硫酸塩、Aの硝酸塩、Aのリン酸塩、Aの水酸化物、Aのモリブデン酸塩及びAのタングステン酸塩からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0186】
Aのフッ化物としては、NaF(融点:993℃)、KF(融点:858℃)、RbF(融点:795℃)、CsF(融点:682℃)、CaF2(融点:1402℃)、MgF2(融点:1263℃)、SrF2(融点:1473℃)及びBaF2(融点:1355℃)を挙げられることができる。
【0187】
Aの塩化物としては、NaCl(融点:801℃)、KCl(融点:770℃)、RbCl(融点:718℃)、CsCl(融点:645℃)、CaCl2(融点:782℃)、MgCl2(融点:714℃)、SrCl2(融点:857℃)及びBaCl2(融点:963℃)が挙げられる。
【0188】
Aの炭酸塩としては、Na2CO3(融点:854℃)、K2CO3(融点:899℃)、Rb2CO3(融点:837℃)、Cs2CO3(融点:793℃)、CaCO3(融点:825℃)、MgCO3(融点:990℃)、SrCO3(融点:1497℃)及びBaCO3(融点:1380℃)が挙げられる。
【0189】
Aの硫酸塩としては、Na2SO4(融点:884℃)、K2SO4(融点:1069℃)、Rb2SO4(融点:1066℃)、Cs2SO4(融点:1005℃)、CaSO4(融点:1460℃)、MgSO4(融点:1137℃)、SrSO4(融点:1605℃)及びBaSO4(融点:1580℃)が挙げられる。
【0190】
Aの硝酸塩としては、NaNO3(融点:310℃)、KNO3(融点:337℃)、RbNO3(融点:316℃)、CsNO3(融点:417℃)、Ca(NO3)2(融点:561℃)、Mg(NO3)2、Sr(NO3)2(融点:645℃)及びBa(NO3)2(融点:596℃)が挙げられる。
【0191】
Aのリン酸塩としては、Na3PO4、K3PO4(融点:1340℃)、Rb3PO4、Cs3PO4、Ca3(PO4)2、Mg3(PO4)2(融点:1184℃)、Sr3(PO4)2(融点:1727℃)及びBa3(PO4)2(融点:1767℃)が挙げられる。
【0192】
Aの水酸化物としては、NaOH(融点:318℃)、KOH(融点:360℃)、RbOH(融点:301℃)、CsOH(融点:272℃)、Ca(OH)2(融点:408℃)、Mg(OH)2(融点:350℃)、Sr(OH)2(融点:375℃)及びBa(OH)2(融点:853℃)が挙げられる。
【0193】
Aのモリブデン酸塩としては、Na2MoO4(融点:698℃)、K2MoO4(融点:919℃)、Rb2MoO4(融点:958℃)、Cs2MoO4(融点:956℃)、CaMoO4(融点:1520℃)、MgMoO4(融点:1060℃)、SrMoO4(融点:1040℃)及びBaMoO4(融点:1460℃)が挙げられる。
【0194】
Aのタングステン酸塩としては、Na2WO4(融点:687℃)、K2WO4、Rb2WO4、Cs2WO4、CaWO4、MgWO4、SrWO4及びBaWO4が挙げられる。
【0195】
本実施形態においては、これらの不活性溶融剤を2種以上用いることもできる。2種以上用いる場合は、融点が下がることもある。また、これらの不活性溶融剤の中でも、より結晶性が高いリチウム金属複合酸化物を得るための不活性溶融剤としては、Aの炭酸塩及び硫酸塩、Aの塩化物のいずれか又はその組み合わせであることが好ましい。また、Aとしては、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)のいずれか一方又は両方であることが好ましい。すなわち、上記の中で、とりわけ好ましい不活性溶融剤は、NaCl、KCl、Na2CO3,K2CO3、Na2SO4、及びK2SO4からなる群より選ばれる1種以上である。
これらの不活性溶融剤を用いることにより、得られるリチウム金属複合酸化物の平均圧壊強度を本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
【0196】
本実施形態において、不活性溶融剤として、K2SO4及びNa2SO4のいずれか一方又は両方を用いた場合には、得られるリチウム金属複合酸化物の平均圧壊強度を本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
【0197】
本実施形態において、焼成時の不活性溶融剤の存在量は適宜選択すればよい。得られるリチウム金属複合酸化物の平均圧壊強度を本実施形態の範囲とするためには、焼成時の不活性溶融剤の存在量はリチウム化合物100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、必要に応じて、上記に挙げた不活性溶融剤以外の不活性溶融剤を併せて用いてもよい。該溶融剤としては、NH4Cl、NH4Fなどのアンモニウム塩等が挙げられる。
【0198】
(リチウム金属複合酸化物の製造方法2)
本実施形態の正極活物質が単粒子及び二次粒子を含む場合、上述したリチウム金属複合酸化物の製造方法1から、以下の変更を行うことで、リチウム金属複合酸化物を製造してもよい。
【0199】
(金属複合化合物の製造工程)
リチウム金属複合酸化物の製造方法2においては、金属複合化合物の製造工程において、最終的に単粒子を形成する金属複合化合物と、二次粒子を形成する金属複合化合物をそれぞれ製造する。以下において、最終的に単粒子を形成する金属複合化合物を「単粒子前駆体」と記載することがある。また、最終的に二次粒子を形成する金属複合化合物を「二次粒子前駆体」と記載することがある。
【0200】
リチウム金属複合酸化物の製造方法2においては、上述の共沈殿法により金属複合化合物を製造する際、単粒子前駆体を製造する第1の共沈槽と、二次粒子前駆体を形成する第2の共沈槽を用いる。
【0201】
第1の共沈槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、単粒子前駆体を製造できる。
【0202】
具体的には、反応槽の温度が例えば30℃以上80℃以下が好ましく、40~70℃の範囲内で制御されることがより好ましく、後述する第2の反応槽に対し±20℃の範囲であることがさらに好ましい。また、反応槽内のpH値は例えばpH10以上pH13以下が好ましく、pH11以上pH12.5以下の範囲内で制御されることがより好ましく、後述する第2の反応槽に対し±pH2以内の範囲であることがさらに好ましく、第2の反応槽よりも高いpHであることが特に好ましい。
【0203】
このようにして得られる反応生成物を水で洗浄した後、乾燥させることで、ニッケルコバルトマンガン水酸化物の単粒子前駆体を単離する。単粒子前駆体は、乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
【0204】
また、第2の共沈槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、二次粒子前駆体を製造できる。
【0205】
具体的には、反応槽の温度が例えば20℃以上80℃以下が好ましく、30~70℃の範囲内で制御されることがより好ましく、後述する第2の反応槽に対し±20℃の範囲であることがさらに好ましい。また、反応槽内のpH値は例えばpH10以上pH13以下が好ましく、pH11以上pH12.5以下の範囲内で制御されることがより好ましく、後述する第2の反応槽に対し±pH2以内の範囲であることがさらに好ましく、第2の反応槽よりも低いpHであることが特に好ましい。
【0206】
このようにして得られる反応生成物を水で洗浄した後、乾燥させることで、ニッケルコバルトマンガン水酸化物の二次粒子前駆体を単離する。二次粒子前駆体は、乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
【0207】
なお、上記の例では、単粒子前駆体及び二次粒子前駆体としてニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。
【0208】
(リチウム金属複合酸化物の製造工程)
リチウム金属複合酸化物の製造工程においては、上述の工程で得られた単粒子前駆体と、二次粒子前駆体と、リチウム塩とを混合する。
【0209】
単粒子前駆体及び二次粒子前駆体を混合時に所定の質量比で混合することで、得られるリチウム金属複合酸化物の単粒子と二次粒子との存在比率をおおよそ制御できる。
【0210】
なお、混合以降の工程においては、単粒子前駆体が凝集して生じる二次粒子前駆体や、二次粒子前駆体が分離して生じる単粒子前駆体も存在し得る。しかし、単粒子前駆体と二次粒子前駆体との混合比率及び混合以降の工程の条件を調整することで、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物における単粒子と二次粒子の存在比率を制御できる。
【0211】
焼成における保持温度を調整することにより、得られるリチウム金属複合酸化物の単粒子の平均粒子径と二次粒子の平均粒子径を本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
【0212】
(リチウム金属複合酸化物の製造方法3)
また、本実施形態の正極活物質が単粒子及び二次粒子を含む場合、正極活物質が含有するリチウム金属複合酸化物は、リチウム金属複合酸化物の単粒子と、リチウム金属複合酸化物の二次粒子とをそれぞれ製造し、得られた単粒子と二次粒子とを混合することにより製造できる。リチウム金属複合酸化物の単粒子(第1のリチウム金属複合酸化物)と、リチウム金属複合酸化物の二次粒子(第2のリチウム金属複合酸化物)とは、上述したリチウム金属複合酸化物の製造方法1により製造できる。
【0213】
リチウム金属複合酸化物の製造方法3においては、リチウム金属複合酸化物の製造工程において、第1のリチウム金属複合酸化物を焼成する際の保持温度を、第2のリチウム金属複合酸化物を焼成する際の保持温度よりも高くするとよい。詳しくは、第1のリチウム金属複合酸化物を製造する場合には第2のリチウム金属複合酸化物の保持温度よりも、30℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがより好ましく、80℃以上高いことがさらに好ましい。
【0214】
得られた第1のリチウム金属複合酸化物及び第2のリチウム金属複合酸化物を所定の割合で混合することにより、単粒子及び二次粒子を含むリチウム金属複合酸化物を得ることができる。
【0215】
上述のリチウム金属複合酸化物の製造方法1~3のいずれかの方法を採用することによって、層状の結晶構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含むリチウム金属複合酸化物を製造できる。
【0216】
(被覆層の形成工程)
次いで、上述のように製造したリチウム金属複合酸化物の粒子(コア粒子)の表面に被覆層を形成する。本実施形態においては、下記(1)~(3)を行うことにより、リチウム金属複合酸化物の粒子表面に被覆層を形成する。
(1)第1分散液に分散したアルカリ金属複合酸化物の粒子と、表面処理剤とを反応させ、第1の反応生成物を得る工程
(2)第1の反応生成物を分散媒に分散させた第2分散液に、Nb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr及びGeからなる群から選ばれる少なくとも1種の被覆元素を含む化合物を加える工程
(3)被覆元素を含む化合物を加えた第2分散液に水又は塩基性水溶液を滴下し、第2の反応生成物を得る工程
(4)第2の反応生成物を乾燥させる工程
【0217】
(工程(1))
分散媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール、N-メチルピロリドン(NMP)、トルエン、アセトンを用いることができる。
【0218】
上述の方法で製造したリチウム金属複合酸化物の粒子を、分散媒に分散させて第1分散液を調製し、得られた第1分散液に表面処理剤を滴下して混合する。これにより、リチウム金属複合酸化物と表面処理剤とが反応し、第1の反応生成物が得られる。
【0219】
用いる表面処理剤は、上述した被覆層に特徴的に含まれるNb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr及びGeからなる群から選ばれる少なくとも1種の被覆元素に配位可能な第1の官能基と、用いるリチウム金属複合酸化物に結合可能な第2の官能基とを有するシランカップリング剤である。
【0220】
第1の官能基が有する配位原子としては、窒素、酸素、硫黄、リンが挙げられる。第1の官能基としては、これらの配位原子を1つ有していてもよく、複数有していてもよい。1つの官能基が複数の被覆元素に配位可能であることから、第1の官能基としては、配位原子を複数有する方が好ましい。
【0221】
配位原子としては、窒素が好ましい。第1の官能基としては、アンモニア、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどの組成式NH2(CH2CH2NH)nH(nは0以上の整数)で表される化合物から、末端窒素原子に結合する水素原子を一つ取り去った基を有する官能基が挙げられる。「組成式NH2(CH2CH2NH)nH(nは0以上の整数)で表される化合物から、末端窒素原子に結合する水素原子を一つ取り去った基」は、本発明における「アミノ基」に該当する。
【0222】
シランカップリング剤が第1の官能基を複数有する場合、複数の第1の官能基は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0223】
第2の官能基としては、シランカップリング剤が有するケイ素原子に直接結合するヒドロキシ基、アルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が挙げられる。
【0224】
シランカップリング剤が第2の官能基を複数有する場合、複数の第2の官能基は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0225】
このようなシランカップリング剤としては、例えば、下記式(A)で表されるN-(3-trimethoxysilylpropyl)diethylenetriamineを好適に用いることができる。
【0226】
【0227】
リチウム金属複合酸化物の分散液に上記シランカップリング剤を加え、シランカップリング剤が有する第2の官能基とリチウム金属複合酸化物との反応が十分に進行するまで撹拌する。撹拌後、得られた分残液を吸引ろ過又は遠心分離して固体を回収し、濾別した固体を乾燥させる。
【0228】
乾燥は、加熱、減圧、送風及びこれらの組み合わせにより行うことができる。例えば、常温で真空乾燥させた後に、100℃に加熱した状態で真空乾燥させるなど、複数の乾燥条件で乾燥を行ってもよい。
【0229】
得られた固体は、適宜、乳鉢や粉砕機を用いて粉砕してもよい。
【0230】
工程(1)により、上記シランカップリング剤は、第2の官能基であるエトキシシリル基においてリチウム金属複合酸化物の粒子表面と反応し、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にシランカップリング剤の層が形成された反応生成物が得られる。例えば、シランカップリング剤として上記式(1)で表される化合物を用いると、工程(1)により、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にアミノ基が導入された反応生成物が得られる。
【0231】
(工程(2))
次いで、工程(1)で得られた第1の反応生成物を分散媒に分散させ、第2分散液を調製する。第2分散液の調整に用いる分散媒としては、上述の第1分散液の調整に使用可能な分散媒と同じものを例示できる。
【0232】
次いで、第2分散液に、Nb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr及びGeからなる群から選ばれる少なくとも1種の被覆元素を含む化合物を加える。以下の説明では、「被覆元素を含む化合物を加えた第2分散液」を「第3分散液」と称することがある。
【0233】
本工程で用いる、「被覆元素を含む化合物」としては、Nb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr又はGeの塩を例示できる。このような塩としては、例えば、Nb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr又はGeの水酸化物、アルコキシド、酢酸塩などが挙げられる。
第3分散液において、被覆元素を含む化合物は、液中に均一に分散している。
【0234】
(工程(3))
本工程において用いる水は、Nb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr又はGeの塩の加水分解と、加水分解によって生じる水酸化物の脱水縮合反応とを生じさせる。
【0235】
本工程においては、第3分散液のpHを上昇させる機能を有する触媒を用いてもよい。触媒としては、水に溶解することで得られる水溶液が塩基性を示す化合物を用いることができる。触媒としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、アルカリ金属炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム)が挙げられる。
【0236】
本工程において水と触媒とを同時に用いる際には、上記触媒を水に溶解した水溶液として用いるとよい。このような水溶液は塩基性水溶液である。
【0237】
被覆元素を含む化合物として、水酸化物以外の塩、例えばアルコキシドや酢酸塩を用いる場合、第3分散液に上記塩基性水溶液を添加すると、水によって塩が加水分解する。これにより、被覆元素を含む水酸化物が生じる。
【0238】
生じた水酸化物は、リチウム金属複合酸化物の表面に導入されたアミノ基に静電的に引き寄せられ、リチウム金属複合酸化物の表面に静電的に付着する。
【0239】
また、被覆元素を含む水酸化物は、系中に存在する水によって脱水縮合反応が進行し、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面において被覆元素の酸化物となる。
【0240】
ここで、上述の加水分解反応は、反応系が中性であるよりも塩基性である方が進行しやすい。そのため、本工程においては、水のみを滴下するよりも、塩基性の水溶液を滴下する方が好ましい。
【0241】
さらに、被覆元素を含む水酸化物を静電的に吸着するアミノ基が塩基触媒となり、被覆元素を含む水酸化物の脱水縮合反応を促進する。
なお、被覆元素を含む化合物の脱水縮合反応は、反応系が酸性である場合も進行しやすい。しかし、酸性環境であると被覆元素を含む水酸化物の加水分解も進行しやすく、被覆元素を含む水酸化物がリチウム金属複合酸化物の表面に付着する前に分散液中で加水分解する副反応が生じやすい。そのため、工程(3)は、触媒を添加して反応系をアルカリ性に制御することが好ましい。
【0242】
以上の反応により、被覆元素の酸化物の生成をリチウム金属複合酸化物の粒子の表面に限定させることができ、粒子表面以外で上記酸化物が生じる副反応を抑制できる。
【0243】
なお、工程(2)と工程(3)との間に、第2分散液に単座配位子を加える工程を有することが好ましい。第2分散液に単座配位子を加えることにより、触媒を加えた際に液全体での副反応が抑制され、塩の縮合反応をよりリチウム金属複合酸化物の粒子の表面に限定させることができる。これにより、リチウム金属複合酸化物の粒子の被覆率が向上する。
【0244】
単座配位子としては、アセトニトリルが挙げられる。
【0245】
(工程(4))
本工程においては、工程(3)で得られた反応生成物を分散液から濾別し、反応生成物を乾燥させる。これにより、リチウム金属複合酸化物の粒子表面では、工程(3)で粒子表面に縮合した化合物(水酸化物)が酸化され、Nb,Ta,Ti,Al,B,W,Zr又はGeからなる群から選ばれる少なくとも1種の被覆元素を含む酸化物の膜が生じる。
【0246】
乾燥は、酸化雰囲気下で行ってもよく、非酸化性雰囲気下で行ってもよい。酸化雰囲気下には大気雰囲気下を含む。後述する熱処理を行う場合、本工程の乾燥は、非酸化性雰囲気下で行ってもよい。
【0247】
乾燥は、加熱、減圧、送風及びこれらの組み合わせにより行うことができる。例えば、120℃に加熱した状態で1時間真空乾燥させてもよい。
【0248】
得られた固体は、適宜、乳鉢や粉砕機を用いて粉砕してもよい。
【0249】
工程(4)の後に、工程(4)で得られた乾燥物を100℃以上800℃以下で熱処理する工程をさらに有することとしてもよい。熱処理温度は、200℃以上であることが好ましい。また、熱処理温度は、700℃以下であることが好ましい。
【0250】
上述した熱処理温度の上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。すなわち、上述の熱処理する工程における熱処理温度は、100℃以上700℃以下であってもよく、200℃以上800℃以下であってもよく、200℃以上700℃以下であってもよい。
【0251】
上述の熱処理では、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に縮合した化合物を酸化しやすく酸化物を生成させやすいことから、酸化雰囲気下で行うことが好ましい。
【0252】
工程(1)におけるシランカップリング剤の使用量、工程(2)における被覆元素を含む化合物の使用量、工程(3)における水又は塩基性水溶液の使用量及び工程(3)における触媒の使用量は、いずれも調整することにより、得られる正極活物質の被覆層の平均厚み、α/(α+β)及びA/αが変動する。
各試薬の使用量と、正極活物質の被覆層の平均厚み、α/(α+β)又はA/αとのそれぞれの対応関係については、予め予備実験を行い、傾向を確認しておくと良い。
【0253】
以上のような製造方法により、本実施形態の正極活物質を得ることができる。
【0254】
以上のような構成の正極活物質の製造方法によれば、リチウム金属複合酸化物の粒子表面に、容易にかつ均一に被覆層を形成できる。そのため、以上のような構成の正極活物質の製造方法によれば、優れたレート特性を有する正極活物質を効率的に製造可能となる。
【0255】
<リチウムイオン二次電池>
次いで、リチウムイオン二次電池の構成を説明しながら、本発明の一態様に係る正極活物質を用いた正極、及びこの正極を有するリチウムイオン二次電池について説明する。
【0256】
本実施形態の正極活物質は、リチウムイオン二次電池の正極に好適に用いることができる。また、このような正極は、電解質として電解液を用いたリチウムイオン二次電池、及び電解質として固体電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池のいずれにも好適に用いることができる。以下の説明では、全固体リチウムイオン二次電池と区別するため、「電解液を用いたリチウムイオン二次電池」を「液系リチウムイオン二次電池」と称する。
【0257】
以下、液系リチウムイオン二次電池と、全固体リチウムイオン二次電池とについて、それぞれ構成を説明する。
【0258】
<液系リチウムイオン二次電池>
本実施形態の正極活物質の用途として好適なリチウムイオン二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0259】
リチウムイオン二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0260】
図3A、
図3Bは、リチウムイオン二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウムイオン二次電池10は、次のようにして製造する。
【0261】
まず、
図3Aに示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、及び一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0262】
次いで、
図3Bに示すように、電池缶5に電極群4及び不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7及び封口体8で封止することで、リチウムイオン二次電池10を製造できる。
【0263】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形、角を丸めた長方形となるような柱状の形状が挙げられる。
【0264】
また、このような電極群4を有するリチウムイオン二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用できる。例えば、円筒型、角型などの形状が挙げられる。
【0265】
さらに、リチウムイオン二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウムイオン二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、ペーパー型(又はシート型)電池を例示できる。
【0266】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
正極は、まず正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極合剤を調整し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造できる。
【0267】
(導電材)
正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などが挙げられる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率及び出力特性を向上させることができるが、多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着力、及び正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0268】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0269】
(バインダー)
正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;が挙げられる。
【0270】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂及びポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極集電体との密着力及び正極合剤内部の結合力がいずれも高い正極合剤を得ることができる。
【0271】
(正極集電体)
正極が有する正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0272】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、正極合剤を正極集電体上で加圧成型する方法が挙げられる。また、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体に正極合剤を担持させてもよい。
【0273】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0274】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
以上に挙げられた方法により、正極を製造できる。
【0275】
(負極)
リチウムイオン二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、及び負極活物質単独からなる電極が挙げられる。
【0276】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0277】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維及び有機高分子化合物焼成体が挙げられる。
【0278】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO2、TiOなど式TiOx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V2O5、VO2など式VOx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe3O4、Fe2O3、FeOなど式FeOx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO3、WO2など一般式WOx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li4Ti5O12、LiVO2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する複合金属酸化物;が挙げられる。
【0279】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti2S3、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V3S4、VS2、VSなど式VSx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe3S4、FeS2、FeSなど式FeSx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo2S3、MoS2など式MoSx(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnSx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS2など式WSx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb2S3など式SbSx(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se5S3、SeS2、SeSなど式SeSx(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;が挙げられる。
【0280】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li3N、Li3-xAxN(ここで、AはNi及びCoのいずれか一方又は両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物が挙げられる。
【0281】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0282】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属及びスズ金属などが挙げられる。
【0283】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li-Al、Li-Ni、Li-Si、Li-Sn、Li-Sn-Niなどのリチウム合金;Si-Znなどのシリコン合金;Sn-Mn、Sn-Co、Sn-Ni、Sn-Cu、Sn-Laなどのスズ合金;Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金;を挙げることもできる。
【0284】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0285】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0286】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられる。
【0287】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材が挙げられる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0288】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0289】
(セパレータ)
リチウムイオン二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。
【0290】
本実施形態において、セパレータは、電池使用時(充放電時)に電解質を良好に透過させるため、JIS P 8117で定められるガーレー法による透気抵抗度が、50秒/100cc以上、300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上、200秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0291】
また、セパレータの空孔率は、好ましくは30体積%以上80体積%以下、より好ましくは40体積%以上70体積%以下である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0292】
(電解液)
リチウムイオン二次電池が有する電解液は、電解質及び有機溶媒を含有する。
【0293】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(COCF3)、Li(C4F9SO3)、LiC(SO2CF3)3、Li2B10Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。
なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2及びLiC(SO2CF3)3からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0294】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。
【0295】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒及び環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒を用いた電解液は、動作温度範囲が広く、高い電流レートにおける充放電を行っても劣化し難く、長時間使用しても劣化し難く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという多くの特長を有する。
【0296】
また、電解液としては、得られるリチウムイオン二次電池の安全性が高まるため、LiPF6などのフッ素を含むリチウム塩及びフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、高い電流レートにおける充放電を行っても容量維持率が高いため、さらに好ましい。
【0297】
本実施形態においては、以上のような構成の正極及びリチウムイオン二次電池について、以下の方法で電池性能を確認することができる。
【0298】
<液系リチウムイオン二次電池の製造>
(リチウムイオン二次電池用正極の作製)
後述する製造方法で得られる正極活物質と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の割合で加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製する。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いる。
【0299】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウムイオン二次電池用正極を得る。このリチウムイオン二次電池用正極の電極面積は1.65cm2とする。
【0300】
(リチウムイオン二次電池(コイン型ハーフセル)の作製)
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行う。
【0301】
(リチウムイオン二次電池用正極の作製)で作製したリチウムイオン二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上にセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム)を置く。
【0302】
ここに電解液を300μl注入する。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、LiPF6を1.0mol/lとなるように溶解したものを用いる。
【0303】
次に、負極として金属リチウムを用いて、前記負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウムイオン二次電池リチウムイオン二次電池(コイン型ハーフセルR2032。以下、「ハーフセル」と称することがある。)を作製する。
【0304】
<充放電試験>
上記の方法で作製したハーフセルを用いて、以下に示す条件で充放電試験を実施し、初回充放電容量と、レート特性とを評価する。
【0305】
(充放電条件:初回充放電容量)
試験温度25℃
充電最大電圧4.5V、充電電流密度0.2C、カットオフ電流密度0.05C、定電流-定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流密度0.2C、定電流放電
【0306】
(充放電条件:レート特性)
試験温度25℃
充電最大電圧4.5V、充電電流密度1C、カットオフ電流密度0.05C、定電流-定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流密度0.2C,0.5C,1C,2C,3C,5C,10C
【0307】
充放電試験結果について、横軸を電流密度(単位:mA/cm2)、縦軸を放電容量(単位:mAh/g)であるグラフを作成する。グラフから、運転電圧を高電圧に変更したときに放電容量が低下する様子を評価して、レート特性を評価する。
【0308】
以上のような構成の正極は、上述した構成の正極活物質を有するため、リチウムイオン二次電池のレート特性を向上させることができる。
【0309】
さらに、以上のような構成のリチウムイオン二次電池は、上述した正極を有するため、レート特性の高い二次電池となる。
【0310】
<全固体リチウムイオン二次電池>
図4、5は、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池1000の一例を示す模式図である。
図4は、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池1000が備える積層体を示す模式図である。
図5は、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池1000の全体構成を示す模式図である。
【0311】
以下の説明では、全固体リチウムイオン二次電池1000を単に「全固体二次電池1000」と称する。
【0312】
全固体二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。
各部材を構成する材料については、後述する。
【0313】
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。その他、全固体二次電池1000は、正極110と負極120との間に、従来の液系リチウムイオン二次電池で用いられるようなセパレータを有していてもよい。
【0314】
全固体二次電池1000は、積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーターや、外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
【0315】
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルめっき鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
【0316】
全固体二次電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(又はシート型)、円筒型、角型などの形状が挙げられる。
【0317】
全固体二次電池1000は、積層体100を1つ有することとして図示しているが、これに限らない。全固体二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
【0318】
以下、各構成について順に説明する。
【0319】
(正極)
本実施形態の正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。
【0320】
正極活物質層111は、上述した本発明の一態様である正極活物質を含む。また、正極活物質層111は、固体電解質(第2の固体電解質)、導電材、バインダーを含むこととしてもよい。
【0321】
(固体電解質)
本実施形態の正極活物質層111が有してもよい固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、公知の全固体電池に用いられる固体電解質を採用できる。このような固体電解質としては、無機電解質、有機電解質が挙げられる。無機電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質が挙げられる。有機電解質としては、ポリマー系固体電解質が挙げられる。
【0322】
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物、ガーネット型酸化物などが挙げられる。
【0323】
ペロブスカイト型酸化物としては、LiaLa1-aTiO3(0<a<1)などのLi-La-Ti系酸化物、LibLa1-bTaO3(0<b<1)などのLi-La-Ta系酸化物及びLicLa1-cNbO3(0<c<1)などのLi-La-Nb系酸化物などが挙げられる。
【0324】
NASICON型酸化物としては、Li1+dAldTi2-d(PO4)3(0≦d≦1)などが挙げられる。NASICON型酸化物は、LimM1
nM2
oPpOq(式中、M1は、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeからなる群から選ばれる1種以上の元素。M2は、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlからなる群から選ばれる1種以上の元素。m、n、o、p及びqは、任意の正数。)で表される酸化物である。
【0325】
LISICON型酸化物としては、Li4M3O4-Li3M4O4(M3は、Si、Ge、及びTiからなる群から選ばれる1種以上の元素。M4は、P、As及びVからなる群から選ばれる1種以上の元素。)で表される酸化物などが挙げられる。
【0326】
ガーネット型酸化物としては、Li7La3Zr2O12(LLZ)などのLi-La-Zr系酸化物などが挙げられる。
【0327】
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質(アモルファス)材料であってもよい。非晶質(アモルファス)固体電解質として、例えばLi3BO3、Li2B4O7、LiBO2などのLi-B-O化合物が挙げられる。酸化物系固体電解質は、非晶質材料が含まれることが好ましい。
【0328】
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、Li2S-P2S5系化合物、Li2S-SiS2系化合物、Li2S-GeS2系化合物、Li2S-B2S3系化合物、Li2S-P2S3系化合物、LiI-Si2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5及びLi10GeP2S12からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0329】
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「Li2S」「P2S5」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、Li2S-P2S5系化合物には、Li2SとP2S5とを含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。また、Li2S-P2S5系化合物には、Li2SとP2S5との混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
【0330】
Li2S-P2S5系化合物としては、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI及びLi2S-P2S5-ZmSn(m、nは正の数。Zは、Ge、Zn又はGa)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0331】
Li2S-SiS2系化合物としては、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li2SO4及びLi2S-SiS2-LixMOy(x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はIn)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0332】
Li2S-GeS2系化合物としては、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-P2S5などが挙げられる。
【0333】
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質(アモルファス)材料であってもよい。硫化物系固体電解質は、非晶質材料が含まれることが好ましい。
【0334】
(水素化物系固体電解質)
水素化物系固体電解質材料としては、LiBH4、LiBH4-3KI、LiBH4-PI2、LiBH4-P2S5、LiBH4-LiNH2、3LiBH4-LiI、LiNH2、Li2AlH6、Li(NH2)2I、Li2NH、LiGd(BH4)3Cl、Li2(BH4)(NH2)、Li3(NH2)I及びLi4(BH4)(NH2)3からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0335】
ポリマー系固体電解質として、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖及びポリオキシアルキレン鎖からなる群から選ばれる1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質が挙げられる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。
【0336】
固体電解質は、発明の効果を損なわない範囲において、2種以上を併用できる。
【0337】
(導電材)
本実施形態の正極活物質層111が有してもよい導電材としては、炭素材料や金属化合物を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などが挙げられる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、適切な量を正極活物質層111に添加することにより正極110の内部の導電性を高め、充放電効率及び出力特性を向上させることができる。一方、カーボンブラックの添加量が多すぎると、正極活物質層111と正極集電体112との結着力、及び正極活物質層111内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。金属化合物としては電気導電性を有する金属、金属合金や金属酸化物が挙げられる。
【0338】
正極活物質層111中の導電材の割合は、炭素材料の場合は正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0339】
(バインダー)
正極活物質層111がバインダーを有する場合、バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、上述の液系リチウムイオン二次電池で用いられるバインダーとして挙げた各材料を用いることができる。
【0340】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂及びポリオレフィン樹脂を用い、正極活物質層111全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極活物質層111と正極集電体112との密着力、及び正極活物質層111内部の結合力がいずれも高い正極活物質層111となる。
【0341】
正極活物質層111は、予め正極活物質を含むシート状の成型体として加工し、本発明における「電極」として使用してもよい。また、以下の説明において、このようなシート状の成型体を「正極活物質シート」と称することがある。正極活物質シートに集電体を積層した積層体を、電極としてもよい。
【0342】
正極活物質シートは、上述の固体電解質、導電材及びバインダーからなる群から選ばれるいずれか1つ以上を含むこととしてもよい。
【0343】
正極活物質シートは、例えば、正極活物質と、焼結助剤と、上述の導電材と、上述のバインダーと、可塑剤と、溶媒とを混合してスラリーを調製し、得られたスラリーをキャリアフィルム上に塗布して乾燥させることで得られる。
【0344】
焼結助剤としては、例えばLi3BO3やAl2O3を用いることができる。
【0345】
可塑剤としては、例えばフタル酸ジオクチルを用いることができる。
【0346】
溶媒としては、例えばアセトン、エタノール及びN-メチル-2-ピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0347】
スラリーの調製時において、混合はボールミルを用いることができる。得られた混合物には、混合時に混入した気泡が含まれることが多いため、減圧して脱泡するとよい。脱泡すると、一部の溶媒が揮発し濃縮することで、スラリーが高粘度化する。
【0348】
スラリーの塗布は、公知のドクターブレードを用いて行うことができる。
【0349】
キャリアフィルムとしては、PETフィルムを用いることができる。
【0350】
乾燥後に得られる正極活物質シートは、キャリアフィルムから剥離され、適宜打ち抜き加工により必要な形状に加工されて用いられる。また、正極活物質シートは、適宜厚み方向に一軸プレスしてもよい。
【0351】
(正極集電体)
本実施形態の正極110が有する正極集電体112としては、Al、Ni、ステンレス又はAuなどの金属材料を形成材料とするシート状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0352】
正極集電体112に正極活物質層111を担持させる方法としては、正極集電体112上で正極活物質層111を加圧成型する方法が挙げられる。加圧成型には、冷間プレスや熱間プレスを用いることができる。
【0353】
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材、バインダーの混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0354】
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材の混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、焼結することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0355】
正極合剤に用いることができる有機溶媒としては、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0356】
正極合剤を正極集電体112へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法又は静電スプレー法が挙げられる。
【0357】
以上に挙げられた方法により、正極110を製造できる。
【0358】
(負極)
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質、導電材を含むこととしてもよい。固体電解質、導電材、バインダーは、上述したものを用いることができる。
【0359】
(負極活物質)
負極活物質層121が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極110よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0360】
負極活物質として使用可能な炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物、金属、合金としては、上述の液系リチウムイオン二次電池で用いられる負極活物質として挙げた各材料を用いることができる。
【0361】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極120の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0362】
また、上記負極活物質の中では、熱的安定性が高い、Li金属によるデンドライト(樹枝状晶)が生成しがたいなどの理由から、酸化物が好ましく用いられる。酸化物の形状としては、繊維状、又は微粉末の凝集体などが好ましく用いられる。
【0363】
(負極集電体)
負極120が有する負極集電体122としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材が挙げられる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0364】
負極集電体122に負極活物質層121を担持させる方法としては、正極110の場合と同様に、加圧成型による方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後、焼結する方法が挙げられる。
【0365】
(固体電解質層)
固体電解質層130は、上述の固体電解質(第1の固体電解質)を有している。正極活物質層111に固体電解質が含まれる場合、固体電解質層130を構成する固体電解質(第1の固体電解質)と、正極活物質層111に含まれる固体電解質(第2の固体電解質)とが同じ物質であってもよい。固体電解質層130は、リチウムイオンを伝達する媒質として機能するとともに、正極110と負極120とを分けるセパレータとしても機能する。
【0366】
固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、無機物の固体電解質をスパッタリング法により堆積させることで形成できる。
【0367】
また、固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、固体電解質を含むペースト状の合剤を塗布し、乾燥させることで形成できる。乾燥後、プレス成型し、さらに冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧して固体電解質層130を形成してもよい。
【0368】
さらに、固体電解質層130は、固体電解質を予めペレット状に形成し、固体電解質のペレットと、上述の正極活物質シートとを重ねて積層方向に一軸プレスすることで形成できる。正極活物質シートは、正極活物質層111になる。
【0369】
得られた正極活物質層111と固体電解質層130との積層体に対し、さらに正極活物質層111に正極集電体112を配置する。積層方向に一軸プレスして、さらに焼結することで、固体電解質層130と正極110とを形成できる。
【0370】
積層体100は、上述のように正極110上に設けられた固体電解質層130に対し、公知の方法を用いて、固体電解質層130の表面に負極活物質層121を接触させ負極120を積層させることで製造できる。
【0371】
本実施形態においては、以上のような構成の正極及びリチウムイオン二次電池について、以下の方法で電池性能を確認することができる。
【0372】
<硫化物系全固体リチウムイオン二次電池の製造>
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行う。
【0373】
(正極合材の作製)
上述の方法で得られた正極活物質0.222gと、導電材(アセチレンブラック)0.01gと、固体電解質(MSE社製、75Li2S・25P2S5)0.120gとを秤量する。正極活物質、導電材及び固体電解質を、乳鉢で15分間混合し、正極合材を作製する。
【0374】
(固体電解質、正極合材層一体型ペレット作成)
次に、φ15mmのペレット成型用金型(ラボネクト製)内に、固体電解質(MSE社製、75Li2S・25P2S5)を0.3g入れ、上下ポンチを金型内に押し込み、一軸プレス機で5MPaまで加圧する。
【0375】
次いで、上部ポンチを引き抜き、金型内で成型された固体電解質の上に、上述の正極合材を0.250g入れる。上ポンチを再度挿入し、一軸プレス機で5MPaまで加圧する。
【0376】
一度プレス圧を開放(プレス圧0MPa)した後、さらに一軸プレス機で120MPaまで加圧して、5分間加圧状態を維持する。
【0377】
除圧後、金型内部から、固体電解層と正極合材層が一体化された成型ペレットを取り出す。作製するペレットは、例えば直径15mm、厚さ2.0mm程度である。
【0378】
(電池作製)
全固体電池用電池セル(宝泉株式会社製、電極サイズφ15mm用)を用いる。
筒状の絶縁体の内部に、上述の成型ペレットを正極合材層が下になるように入れる。さらに、上側の固体電解質層の上に、φ13.5mmで打ち抜いたリチウム金属(厚さ300μm)を負極として挿入する。
【0379】
さらに、負極に重ねてφ15mm、厚さ50μmのSUS箔を挿入した後、電池セルのポンチを入れてケースのねじを締め上げ、硫化物系全固体リチウムイオン二次電池を作製する。
【0380】
<充放電試験>
上記の方法で作製した全固体電池を用いて、以下に示す条件で充放電試験を実施する。
【0381】
(充放電条件)
試験温度:60℃
(充放電1回目(初回))
充電最大電圧4.5V、充電電流密度0.01C、カットオフ電流密度0.002C、定電流-定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流密度0.01C、定電流放電
(充放電2回目)
充電最大電圧4.5V、充電電流密度0.10C、カットオフ電流密度0.002C、定電流-定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流密度0.10C、定電流放電
【0382】
初回放電容量(0.01C放電容量)に対する2回目放電容量(0.10C放電容量)の割合を、レート特性として評価する。
【0383】
<酸化物系全固体リチウムイオン二次電池の製造>
(正極活物質シートの製造)
前述した製造方法で得られる正極活物質と、Li3BO3とを正極活物質:Li3BO3=80:20(モル比)の組成で混合し、混合粉を得る。得られた混合粉に、樹脂バインダー(ポリプロピレンカーボネート)と、溶媒(1,4-ジオキサン)とを、混合粉:樹脂バインダー:溶媒=100:20:80(質量比)の割合で加え、遊星式攪拌・脱泡装置を用いて混合する。
【0384】
得られたスラリーを遊星式攪拌・脱泡装置を用いて脱泡し、正極合剤スラリーを得る。
【0385】
ドクターブレードを用い、得られた正極合剤スラリーをPETフィルム上に塗布して、塗膜を乾燥させて、厚さ50μmの正極膜を形成する。
【0386】
正極膜をPETフィルムから剥離して、直径14.5mmの円形に打ち抜き加工し、さらに、正極膜の厚さ方向に20MPa、1分間一軸プレスすることで、厚さ40μmの正極活物質シートを得る。正極活物質シートに含まれるLi3BO3は、正極活物質シート内で正極活物質と接する固体電解質として機能する。また、Li3BO3は、正極活物質シート内で正極活物質をつなぎとめるバインダーとして機能する。
【0387】
(全固体リチウムイオン二次電池の製造)
正極活物質シートと、Li6.75La3Zr1.75Nb0.25O12の固体電解質ペレット(株式会社豊島製作所製)とを積層し、積層方向と平行に一軸プレスして積層体を得る。用いる固体電解質ペレットは、直径14.5mm、厚み0.5mmである。
【0388】
得られた積層体の正極活物質シートに、さらに正極集電体(金箔、厚さ500μm)を重ね、110gfで加圧した状態で、300℃で1時間加熱して有機分を焼失させる。さらに5℃/分で800℃まで昇温した後、800℃で1時間焼結して、固体電解質層と正極との積層体を得る。
【0389】
次いで、以下の操作をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行う。
【0390】
固体電解質層と正極との積層体の固体電解質層に、さらに、負極(Li箔、厚さ300μm)、負極集電体(ステンレス板、厚さ50μm)、ウェーブワッシャー(ステンレス製)を重ねる。
【0391】
正極からウェーブワッシャーまで重ねた積層体について、正極をコイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋に置き、ウェーブワッシャーに重ねて上蓋をして、かしめ機でかしめることで、酸化物系全固体リチウムイオン二次電池を作製する。
【0392】
<充放電試験>
上記の方法で作製した全固体電池を用いて、以下に示す条件で充放電試験を実施する。
【0393】
(充放電条件)
試験温度:60℃
(充放電1回目(初回))
充電最大電圧4.5V、充電電流密度0.01C、カットオフ電流密度0.002C、定電流-定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流密度0.01C、定電流放電
(充放電2回目)
充電最大電圧4.5V、充電電流密度0.10C、カットオフ電流密度0.002C、定電流-定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流密度0.10C、定電流放電
【0394】
初回放電容量(0.01C放電容量)に対する2回目放電容量(0.10C放電容量)の割合を、レート特性として評価する。
【0395】
以上のような構成の電極によれば、上述の正極活物質を有するため、レート特性が改善されリチウムイオン二次電池の電池性能を向上させることができる。
【0396】
以上のような構成のリチウムイオン二次電池によれば、上述の正極活物質を有するため、優れた電池性能を示す。
【0397】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0398】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0399】
<リチウム金属複合酸化物の組成分析>
後述の方法で製造されるリチウム金属複合酸化物の組成分析は、得られたリチウム金属複合酸化物の粒子を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。
【0400】
<被覆層に含まれる被覆元素の確認>
被覆層に含まれる被覆元素は、STEM-EDXにより確認した。
具体的には、正極活物質の粒子を薄膜化して試料を調製した。次いで、得られた試料をCuメッシュ上にのせ、加速電圧が200kVの電子線を照射して、STEM-EDM分析を行った。測定で用いるCuメッシュは、測定結果に影響しない。そのため、通常STEM-EDXで用いられるCuメッシュであればいずれも用いることができる。
【0401】
STEM観察に用いた測定装置及び測定条件は、以下のとおりである。
分析電子顕微鏡:ARM200F(日本電子株式会社製)
EDX検出器:JED-2300T(日本電子株式会社製)
加速電圧 :200kV
【0402】
続けて、STEM観察した範囲と同じ視野範囲にてEDX分析を行った。視野に含まれる各粒子について電子線励起により特性X線を発生させ、測定位置に含まれる複数の元素の特性X線が含まれるX線スペクトルを得た。測定されたスペクトルに含まれる各元素の特性X線の数(カウント数、強度)は、各元素の濃度に対応する。
【0403】
次いで、視野に含まれる任意の粒子について、粒子外側から粒子中心にかけて設定した仮想線に沿って、被覆層に含まれる被覆元素(Nb、Ta、Ti,Al,B,W,Zr及びGe)の濃度のラインプロファイルを得た。同時に、コア粒子に含まれる遷移金属の濃度のラインプロファイルを得た。
【0404】
ラインプロファイルは、粒子外側から中心にかけて設定した仮想線に沿った粒子外側からの距離を横軸(単位:nm)とし、粒子の外縁及び被覆層が確認できる範囲で各元素の特性X線スペクトル強度を縦軸(単位:X線のカウント数であり任意単位a.u.)として、粒子外側からの距離ごとにX線スペクトル強度をプロットして作成した。
【0405】
このとき、被覆元素のラインプロファイルと、コア粒子に含まれる元素のラインプロファイルとを比較し、被覆元素のラインプロファイルが、コア粒子の外側にピークを持つ連続した形状で得られれば、検出された被覆元素が含まれた被覆層がコア粒子の表面に存在すると判断した。
【0406】
<被覆層の厚みの測定>
被覆層の厚みは、STEM-EDXにより求めた。
上述の条件でEDX分析を行い、被覆層には含まれずコア粒子にのみ含まれる遷移金属のうち、EDX分析結果において最も高感度に検出される元素について、粒子外側から粒子中心に向かってラインプロファイルを作成した。得られたラインプロファイルについて、粒子外側から粒子中心に向かって30nm以上連続して正の値を検出する範囲を確認し、当該範囲の粒子外側の始点を定めた。後述する実施例で作製した正極活物質では、「EDX分析結果において最も高感度に検出される元素」はNiであった。
【0407】
次いで、始点から粒子中心側に20nmの位置でのNiの検出量をXとしたとき、Niの検出量がX/2となる位置であって、最も始点に近い位置をコア粒子の表面と定めた。
【0408】
次いで、コア粒子の表面と重なって、粒子外側から粒子中心側に向けて連続的に正の値が検出される被覆元素について、ラインプロファイルを作成した。得られた被覆元素のラインプロファイルについて、最大値がコア粒子の表面よりも粒子外側に位置する場合に、被覆層が存在すると定義した。
【0409】
次いで、被覆元素のラインプロファイルが最大値を示す位置(ピーク位置)における被覆元素の検出量をYとしたとき、被覆元素の検出量がピーク位置よりも粒子外側でY/2となる位置であって、最もピーク位置に近い位置を被覆層の表面と定めた。
【0410】
次いで、被覆層の表面とコア粒子の表面との距離を被覆層の厚さとした。上記測定を3回行い、求められた各被覆層の厚さの算術平均値を、求める被覆層の厚さとした。
【0411】
<被覆層表面のSi元素比及び遷移金属の元素比の合計に対するSi元素比の割合の測定>
下記条件で正極活物質の表面のXPS分析を行い、正極活物質の表面における元素のナロースキャンスペクトルを得た。
測定方法:X線光電子分光法(XPS)
X線源:AlKα線(1486.6eV)
X線スポット径:400μm
中和条件:中和電子銃(加速電圧0.2V、電流100μA)
【0412】
Siの光電子強度としてはSi2pの波形の積分値を用いた。
【0413】
Niの光電子強度としてはNi2p3/2の波形の積分値を用いた。
【0414】
Coの光電子強度としてはCo2p3/2の波形の積分値を用いた。
【0415】
Mnの光電子強度としてはMn2p1/2の波形の積分値を用いた。
【0416】
Nbの光電子強度としてはNb3dの波形の積分値を用いた。
【0417】
Tiの光電子強度としてはTi2pの波形の積分値を用いた。
【0418】
Taの光電子強度としてはTa4fの波形の積分値を用いた。
【0419】
「遷移金属の元素比」をβとしたとき、測定結果に基づいて、「Si元素比α及び遷移金属の元素比βの合計」に対する「Si元素比α」の比(α/(α+β))を算出した。
【0420】
<被覆層表面の被覆元素の元素比の合計と、Si元素比との割合の測定>
上述の測定条件によるXPSの測定結果に基づいて、「Si元素比α」に対する「被覆元素の元素比の合計A」の割合(A/α)を算出した。
【0421】
<実施例1>
(リチウム金属複合酸化物の製造)
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0422】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比で0.50:0.20:0.30の割合で混合して、混合原料液を調製した。
【0423】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、窒素ガスを反応槽内に連続通気させた。反応槽内の溶液のpHが11.1になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、洗浄した後、遠心分離機で脱水し、洗浄、脱水、単離して120℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。
【0424】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子1と水酸化リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05の割合で秤量して混合した後、大気雰囲気下970℃で4時間焼成し、層状の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物1を得た。リチウム金属複合酸化物1の粒子は、本発明における「コア粒子」に該当する。
【0425】
リチウム金属複合酸化物1の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=1.05、y=0.20、z=0.30、w=0であった。
【0426】
(第1の反応生成物の製造)
次に、撹拌器を備えた反応容器にエタノール1600mlを入れた後、エタノールにリチウム金属複合酸化物1を20gと、下記式(A)で表されるシランカップリング剤200μlとを加え、18時間撹拌した。得られた分散液は、本発明における「第1分散液」に該当する。
【0427】
【0428】
撹拌後、得られた分散液を吸引ろ過した。濾別した固体を常温で1時間真空乾燥させ、さらに、100℃で1時間真空乾燥させた。
【0429】
得られた乾燥物を乳鉢で解砕し、リチウム金属複合酸化物1の表面をシランカップリング剤で被覆した反応生成物1を得た。反応生成物1は、本発明における「第1の反応生成物」に該当する。
【0430】
(正極活物質の製造)
次に、撹拌器を備えた反応容器にエタノール36mlを入れた後、エタノールに反応生成物1を5gと、Nb(OC2H5)5を1gとを加え、撹拌速度400rpmで15分間撹拌した。
Nb(OC2H5)5は、本発明における「被覆元素を含む化合物」に該当する。得られた分散液は、本発明における「第2分散液」に該当する。
【0431】
次いで、得られた分散液を撹拌しながら、分散液に単座配位子であるアセトニトリル40mlを加えた。
【0432】
次いで、分散液を撹拌しながら、別途用意した液状の触媒を55.6μl/分の追加速度で分散液に加えた。触媒は、エタノール80ml、28%アンモニア水溶液50μl、水175μlとを混合して調製したものを用いた。
【0433】
触媒追加後、分散液を撹拌速度400rpmで19時間撹拌した。
【0434】
撹拌後、得られた分散液を吸引ろ過した。濾別した固体を120℃で1時間真空乾燥させた。これにより、コア粒子の粒子表面に被覆層を形成した。
【0435】
得られた乾燥物を乳鉢で解砕し、正極活物質1を得た。
【0436】
<実施例2>
上述の(正極活物質の製造)において、用いたすべての材料の仕込み量を1.4倍にしたこと、及び濾別した固体を120℃で1時間真空乾燥させた後に、さらに、大気雰囲気下にて500℃で2時間熱処理したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の正極活物質2を得た。
【0437】
<実施例3>
Nb(OC2H5)5の代わりにTi(OC2H5)4を1g用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の正極活物質3を得た。
【0438】
<実施例4>
Nb(OC2H5)5の代わりにTa(OC2H5)5を1.4g用いたこと以外は実施例2と同様にして、実施例4の正極活物質4を得た。
【0439】
<比較例1>
リチウム金属複合酸化物1を比較例1の正極活物質C1として用いた。
【0440】
<比較例2>
反応生成物1の代わりに、リチウム金属複合酸化物1とNb(OC2H5)5とを反応させたこと、すなわちリチウム金属複合酸化物1に対してシランカップリング剤を反応させることなく、直接Nb(OC2H5)5とを反応させたこと以外は実施例2と同様にして、比較例2の正極活物質C2を得た。
【0441】
<液系リチウムイオン二次電池の製造>
(リチウムイオン二次電池用正極の作製)
後述する製造方法で得られる正極活物質と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の割合で加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いた。
【0442】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウムイオン二次電池用正極を得た。このリチウムイオン二次電池用正極の電極面積は1.65cm2とした。
【0443】
(リチウムイオン二次電池(コイン型ハーフセル)の作製)
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0444】
(リチウムイオン二次電池用正極の作製)で作製したリチウムイオン二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上にセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム)を置いた。
【0445】
ここに電解液を300μl注入した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、LiPF6を1.0mol/lとなるように溶解したものを用いた。
【0446】
次に、負極として金属リチウムを用いて、前記負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウムイオン二次電池リチウムイオン二次電池(コイン型ハーフセルR2032。以下、「ハーフセル」と称することがある。)を作製した。
【0447】
<充放電試験>
上記の方法で作製したハーフセルを用いて、以下に示す条件で充放電試験を実施し、初回充放電容量と、レート特性とを評価した。
【0448】
(充放電条件:初回充放電容量)
試験温度25℃
充電最大電圧4.5V、充電電流密度0.2C、カットオフ電流密度0.05C、定電流-定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流密度0.2C、定電流放電
【0449】
(充放電条件:レート特性)
試験温度25℃
充電最大電圧4.5V、充電電流密度1C、カットオフ電流密度0.05C、定電流-定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流密度0.2C,0.5C,1C,2C,3C,5C,10C
【0450】
評価結果を下記表1,2に示す。表1は、被覆層についての各測定結果を示す。表2は、実施例1,2、比較例1,2の各正極活物質を用いたハーフセルの電池特性を示す。
【0451】
【0452】
【0453】
図6は、レート特性の評価結果を示すグラフである。
図6の横軸は電流密度(単位:mA/cm
2)、縦軸は放電容量(単位:mAh/g)を示す。図には、代表サンプルとして、実施例1,2、比較例1,2を示す。
【0454】
評価の結果、実施例1,2の正極活物質では、高電圧運転時においても放電容量が低下しにくく、レート特性に優れることが分かった。
【0455】
<硫化物系全固体リチウムイオン二次電池の製造>
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0456】
(正極合材の作製)
上述の方法で得られた正極活物質0.222gと、導電材(アセチレンブラック)0.01gと、固体電解質(MSE社製、75Li2S・25P2S5)0.120gとを秤量した。正極活物質、導電材及び固体電解質を、乳鉢で15分間混合し、正極合材を作製した。
【0457】
(固体電解質、正極合材層一体型ペレット作成)
次に、φ15mmのペレット成型用金型(ラボネクト製)内に、固体電解質(MSE社製、75Li2S・25P2S5)を0.3g入れ、上下ポンチを金型内に押し込み、一軸プレス機で5MPaまで加圧した。
【0458】
次いで、上部ポンチを引き抜き、金型内で成型された固体電解質の上に、上述の正極合材を0.250g入れた。上ポンチを再度挿入し、一軸プレス機で5MPaまで加圧した。
【0459】
一度プレス圧を開放(プレス圧0MPa)した後、さらに一軸プレス機で120MPaまで加圧して、5分間加圧状態を維持した。
【0460】
除圧後、金型内部から、固体電解層と正極合材層が一体化された成型ペレットを取り出した。作製したペレットは直径15mm、厚さ2.0mm程度であった。
【0461】
(電池作製)
全固体電池用電池セル(宝泉株式会社製、電極サイズφ15mm用)を用いた。
筒状の絶縁体の内部に、上述の成型ペレットを正極合材層が下になるように入れた。さらに、上側の固体電解質層の上に、φ13.5mmで打ち抜いたリチウム金属(厚さ300μm)を負極として挿入した。
【0462】
さらに、負極に重ねてφ15mm、厚さ50μmのSUS箔を挿入した後、電池セルのポンチを入れてケースのねじを締め上げ、硫化物系全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0463】
<充放電試験>
上記の方法で作製した全固体電池を用いて、以下に示す条件で充放電試験を実施した。
【0464】
(充放電条件)
試験温度:60℃
(充放電1回目(初回))
充電最大電圧4.5V、充電電流密度0.01C、カットオフ電流密度0.002C、定電流-定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流密度0.01C、定電流放電
(充放電2回目)
充電最大電圧4.5V、充電電流密度0.10C、カットオフ電流密度0.002C、定電流-定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流密度0.10C、定電流放電
【0465】
初回放電容量(0.01C放電容量)に対する2回目放電容量(0.10C放電容量)の割合を、レート特性として評価した。
【0466】
評価結果を下記表3に示す。実施例2、比較例1の各正極活物質を用いた電池特性を示す。表3に示す「レート特性」とは、「0.01C放電容量に対する0.10C放電容量の割合」を百分率(%)で表した値を示す。
【0467】
【0468】
評価の結果、実施例2の正極活物質を用いた全固体リチウムイオン二次電池は、比較例1の正極活物質を用いた全固体リチウムイオン二次電池よりレート特性が大幅に高く、レート特性に優れていることがわかった。
【0469】
<酸化物系全固体リチウムイオン二次電池の製造>
(正極活物質シートの製造)
前述した製造方法で得られる正極活物質と、Li3BO3とを正極活物質:Li3BO3=80:20(モル比)の組成で混合し、混合粉を得た。得られた混合粉に、樹脂バインダー(ポリプロピレンカーボネート)と、溶媒(1,4-ジオキサン)とを、混合粉:樹脂バインダー:溶媒=100:20:80(質量比)の割合で加え、遊星式攪拌・脱泡装置を用いて混合した。
【0470】
得られたスラリーを遊星式攪拌・脱泡装置を用いて脱泡し、正極合剤スラリーを得た。
【0471】
ドクターブレードを用い、得られた正極合剤スラリーをPETフィルム上に塗布して、塗膜を乾燥させて、厚さ50μmの正極膜を形成した。
【0472】
正極膜をPETフィルムから剥離して、直径14.5mmの円形に打ち抜き加工し、さらに、正極膜の厚さ方向に20MPa、1分間一軸プレスすることで、厚さ40μmの正極活物質シートが得られた。正極活物質シートに含まれるLi3BO3は、正極活物質シート内で正極活物質と接する固体電解質として機能する。また、Li3BO3は、正極活物質シート内で正極活物質をつなぎとめるバインダーとして機能する。
【0473】
(全固体リチウムイオン二次電池の製造)
正極活物質シートと、Li6.75La3Zr1.75Nb0.25O12の固体電解質ペレット(株式会社豊島製作所製)とを積層し、積層方向と平行に一軸プレスして積層体を得た。用いた固体電解質ペレットは、直径14.5mm、厚み0.5mmであった。
【0474】
得られた積層体の正極活物質シートに、さらに正極集電体(金箔、厚さ500μm)を重ね、110gfで加圧した状態で、300℃で1時間加熱して有機分を焼失させた。さらに5℃/分で800℃まで昇温した後、800℃で1時間焼結して、固体電解質層と正極との積層体を得た。
【0475】
次いで、以下の操作をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0476】
固体電解質層と正極との積層体の固体電解質層に、さらに、負極(Li箔、厚さ300μm)、負極集電体(ステンレス板、厚さ50μm)、ウェーブワッシャー(ステンレス製)を重ねた。
【0477】
正極からウェーブワッシャーまで重ねた積層体について、正極をコイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋に置き、ウェーブワッシャーに重ねて上蓋をして、かしめ機でかしめることで、酸化物系全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0478】
<充放電試験>
上記の方法で作製した全固体電池を用いて、以下に示す条件で充放電試験を実施した。
【0479】
(充放電条件)
試験温度:60℃
(充放電1回目(初回))
充電最大電圧4.5V、充電電流密度0.01C、カットオフ電流密度0.002C、定電流-定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流密度0.01C、定電流放電
(充放電2回目)
充電最大電圧4.5V、充電電流密度0.10C、カットオフ電流密度0.002C、定電流-定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流密度0.10C、定電流放電
【0480】
初回放電容量(0.01C放電容量)に対する2回目放電容量(0.10C放電容量)の割合を、レート特性として評価した。
【0481】
評価結果を下記表4に示す。実施例2、比較例1の各正極活物質を用いた電池特性を示す。表4に示す「レート特性」とは、「0.01C放電容量に対する0.10C放電容量の割合」を百分率(%)で表した値を示す。
【0482】
【0483】
評価の結果、実施例2の正極活物質を用いた全固体リチウムイオン二次電池は、比較例1の正極活物質を用いた全固体リチウムイオン二次電池よりレート特性が大幅に高く、レート特性に優れていることがわかった。
【符号の説明】
【0484】
1…セパレータ、2…正極、3…負極、4…電極群、5…電池缶、6…電解液、7…トップインシュレーター、8…封口体、10…リチウムイオン二次電池、21…正極リード、31…負極リード、100…積層体、110…正極、111…正極活物質層、112…正極集電体、113…外部端子、120…負極、121…負極活物質層、122…負極集電体、123…外部端子、130…固体電解質層、200…外装体、200a…開口部、1000…全固体二次電池