(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】増幅装置
(51)【国際特許分類】
H03F 3/34 20060101AFI20240326BHJP
H03F 1/26 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H03F3/34 210
H03F1/26
(21)【出願番号】P 2020104540
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 俊章
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-228388(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0197574(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0127526(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F1/00-3/72
H03L5/00-5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電圧を増幅する演算増幅器と、
前記演算増幅器のオフセット電圧をサンプリングするオートゼロ回路と、
前記オートゼロ回路によるサンプリングを行うオートゼロ動作と、前記演算増幅器による増幅を行うアンプ動作とを切り替える動作切替スイッチと、を備え、
前記オートゼロ回路は、
前記オフセット電圧を充電するサンプリングキャパシタと、
前記サンプリングキャパシタにサンプリング電圧をチャージする第1相の帰還ループと、前記第1相の帰還ループをオンオフする第1のフェーズスイッチと、
前記サンプリングキャパシタに対する第1のキャパシタ分圧用のキャパシタを接続する第2相の帰還ループと、前記第2相の帰還ループをオンオフする第2のフェーズスイッチと、
前記サンプリングキャパシタに対する第2のキャパシタ分圧用のキャパシタを接続する第3相の帰還ループと、前記第3相の帰還ループをオンオフする第3のフェーズスイッチと、を有し、
前記オートゼロ回路の帰還ループの利得帯域幅積を切り替える帯域切替器が接続さ
れ、
前記帯域切替器は、前記オートゼロ回路における前記第3相の帰還ループがオンのときに利得帯域幅積を小さく切り替える、
増幅装置。
【請求項2】
請求項1に記載の増幅装置であって、
前記オートゼロ回路は、
前記オートゼロ動作において第1相、第2相、第3相の3つのフェーズを有し、
前記第1相の期間に前記第1相の帰還ループをオンし、前記第2相の期間に前記第2相の帰還ループをオンし、前記第3相の期間に前記第3相の帰還ループをオンするように、前記第1ないし第3のフェーズスイッチを第1のフェーズスイッチ、第2のフェーズスイッチ、第3のフェーズスイッチの順に順次切り替えてオンさせる、
増幅装置。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の増幅装置であって、
前記帯域切替器は、
直列接続されたキャパシタとスイッチとを有し、
前記オートゼロ回路の帰還ループに前記キャパシタの一端が接続され、前記スイッチの一端が接地され、
前記第3相の帰還ループがオンのときに前記スイッチがオンして前記第3相の帰還ループとグランド間に前記キャパシタを接続する、
増幅装置。
【請求項4】
請求項
1又は2に記載の増幅装置であって、
前記帯域切替器は、
直列接続されたキャパシタとスイッチとを有し、
前記オートゼロ回路の帰還ループ内にミラー補償容量として前記キャパシタ及び前記スイッチが接続され、
前記第3相の帰還ループがオンのときに前記スイッチがオンして前記第3相の帰還ループに対して前記キャパシタを並列接続する、
増幅装置。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか一項に記載の増幅装置であって、
前記オートゼロ回路は、
演算増幅器と、前記オートゼロ動作のときに前記演算増幅器の出力が入力端に接続される増幅器と、
前記演算増幅器の非反転入力端に接続される基準電圧源と、を有し、
前記演算増幅器の反転入力端に前記サンプリングキャパシタが接続され、
前記増幅器の入力端又は出力端と前記演算増幅器の反転入力端とが前記第1のフェーズスイッチを介して接続されて前記第1相の帰還ループを構成し、
前記増幅器の出力端と前記演算増幅器の反転入力端との間に、前記第1のキャパシタ分圧用のキャパシタとしての第1のキャパシタ及び第2のキャパシタが接続されて前記第2のキャパシタが接地され、前記増幅器の出力端と前記演算増幅器の反転入力端とが前記第2のフェーズスイッチを介して接続されて前記第2相の帰還ループを構成し、
前記増幅器の出力端と前記演算増幅器の反転入力端との間に、前記第2のキャパシタ分圧用のキャパシタとしての第3のキャパシタ及び第4のキャパシタが接続されて前記第4のキャパシタが接地され、前記増幅器の出力端と前記演算増幅器の反転入力端とが前記第3のフェーズスイッチを介して接続されて前記第3相の帰還ループを構成する、
増幅装置。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の増幅装置であって、
前記第1のキャパシタ分圧用のキャパシタは、前記第2のキャパシタ分圧用のキャパシタに比べて、容量値が大きくなっている、
増幅装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業機器のオートメーション化、電気自動車の普及などのトレンドにより、モータを制御するための電流検出、センサの微細な電圧を検出する用途などにおいて、より高精度な演算増幅器が求められている。このような要求に対して、半導体装置メーカーによってゼロドリフト演算増幅器などの高精度の増幅器が製品化されている。ゼロドリフト演算増幅器は、入力オフセット電圧を回路の動作によって限りなく最少にしている。オフセットのキャンセル機構には、大まかにオートゼロ方式とチョッパー方式の2種類が存在する。オートゼロ方式は、サンプリング&ホールド回路によって入力オフセット電圧をサンプリングして、そのサンプリング電圧を基にオフセット電圧をキャンセルする。一方、チョッパー方式は、変調・復調回路によって、入力信号と入力オフセット電圧を周波数的に分離し、入力オフセット電圧をフィルタで遮断して所望の入力信号のみを復調することで、オフセット電圧をキャンセルする。両方式の演算増幅器の違いとしてはノイズが挙げられる。オートゼロ方式は、サンプリング&ホールド回路を用いるため、折り返しノイズが生じ、サンプリング周波数より低周波のノイズ量が一般的なオペアンプよりも多い。一方、チョッパー方式は、低周波のノイズは少ないが、チョッパー周波数に大きなノイズ量のピークを持つ。
【0003】
オートゼロ方式の演算増幅器として、例えば特許文献1に開示されているオートゼロ回路がある。このオートゼロ回路は、2相又は3相のマルチフェーズ動作を行う回路を持ち、サンプリング動作時のスイッチの切り替えによるチャージインジェクションをキャパシタ分圧によって低減する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オートゼロ方式の演算増幅器においては、オフセット電圧のサンプリングによるオートゼロ機能の高精度化とともに、折り返しノイズによる低周波のノイズを低減することが課題となっている。このため、オフセット電圧のサンプリング電圧の誤差低減と、低周波のノイズ量の低減との両立が求められている。
【0006】
本発明は、オートゼロ機能の高精度化とノイズ低減の両立を図ることが可能な増幅装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、入力電圧を増幅する演算増幅器と、前記演算増幅器のオフセット電圧をサンプリングするオートゼロ回路と、前記オートゼロ回路によるサンプリングを行うオートゼロ動作と、前記演算増幅器による増幅を行うアンプ動作とを切り替える動作切替スイッチと、を備え、前記オートゼロ回路は、前記オフセット電圧を充電するサンプリングキャパシタと、前記サンプリングキャパシタにサンプリング電圧をチャージする第1相の帰還ループと、前記第1相の帰還ループをオンオフする第1のフェーズスイッチと、前記サンプリングキャパシタに対する第1のキャパシタ分圧用のキャパシタを接続する第2相の帰還ループと、前記第2相の帰還ループをオンオフする第2のフェーズスイッチと、前記サンプリングキャパシタに対する第2のキャパシタ分圧用のキャパシタを接続する第3相の帰還ループと、前記第3相の帰還ループをオンオフする第3のフェーズスイッチと、を有し、前記オートゼロ回路の帰還ループの利得帯域幅積を切り替える帯域切替器が接続され、前記帯域切替器は、前記オートゼロ回路における前記第3相の帰還ループがオンのときに利得帯域幅積を小さく切り替える、増幅装置を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記の増幅装置であって、前記オートゼロ回路は、前記オートゼロ動作において第1相、第2相、第3相の3つのフェーズを有し、前記第1相の期間に前記第1相の帰還ループをオンし、前記第2相の期間に前記第2相の帰還ループをオンし、前記第3相の期間に前記第3相の帰還ループをオンするように、前記第1ないし第3のフェーズスイッチを第1のフェーズスイッチ、第2のフェーズスイッチ、第3のフェーズスイッチの順に順次切り替えてオンさせる、増幅装置を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記いずれかの増幅装置であって、前記帯域切替器は、直列接続されたキャパシタとスイッチとを有し、前記オートゼロ回路の帰還ループに前記キャパシタの一端が接続され、前記スイッチの一端が接地され、前記第3相の帰還ループがオンのときに前記スイッチがオンして前記第3相の帰還ループとグランド間に前記キャパシタを接続する、増幅装置を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記いずれかの増幅装置であって、前記帯域切替器は、直列接続されたキャパシタとスイッチとを有し、前記オートゼロ回路の帰還ループ内にミラー補償容量として前記キャパシタ及び前記スイッチが接続され、前記第3相の帰還ループがオンのときに前記スイッチがオンして前記第3相の帰還ループに対して前記キャパシタを並列接続する、増幅装置を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記いずれかの増幅装置であって、前記オートゼロ回路は、演算増幅器と、前記オートゼロ動作のときに前記演算増幅器の出力が入力端に接続される増幅器と、前記演算増幅器の非反転入力端に接続される基準電圧源と、を有し、前記演算増幅器の反転入力端に前記サンプリングキャパシタが接続され、前記増幅器の入力端又は出力端と前記演算増幅器の反転入力端とが前記第1のフェーズスイッチを介して接続されて前記第1相の帰還ループを構成し、前記増幅器の出力端と前記演算増幅器の反転入力端との間に、前記第1のキャパシタ分圧用のキャパシタとしての第1のキャパシタ及び第2のキャパシタが接続されて前記第2のキャパシタが接地され、前記増幅器の出力端と前記演算増幅器の反転入力端とが前記第2のフェーズスイッチを介して接続されて前記第2相の帰還ループを構成し、前記増幅器の出力端と前記演算増幅器の反転入力端との間に、前記第2のキャパシタ分圧用のキャパシタとしての第3のキャパシタ及び第4のキャパシタが接続されて前記第4のキャパシタが接地され、前記増幅器の出力端と前記演算増幅器の反転入力端とが前記第3のフェーズスイッチを介して接続されて前記第3相の帰還ループを構成する、増幅装置を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記いずれかの増幅装置であって、前記第1のキャパシタ分圧用のキャパシタは、前記第2のキャパシタ分圧用のキャパシタに比べて、容量値が大きくなっている、増幅装置を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、オートゼロ機能の高精度化とノイズ低減の両立を図ることが可能な増幅装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態のオートゼロ増幅器の構成を示す回路図である。
【
図2】実施形態のオートゼロ増幅器の動作タイミングの一例を示すタイミング図である。
【
図3】実施形態及び比較例のオートゼロ増幅器における動作時のサンプリング電圧の一例を示す特性図である。
【
図4】実施形態及び比較例のオートゼロ増幅器におけるオフセット電圧及びノイズ量の一例を示す特性図である。
【
図5】第1の実施形態のオートゼロ増幅器の別の構成を示す回路図である。
【
図6】実施形態のオートゼロ増幅器の概略構成を示すブロック図である。
【
図7】実施形態のオートゼロ増幅器の第1例を示すブロック図である。
【
図8】実施形態のオートゼロ増幅器の第2例を示すブロック図である。
【
図9】第2の実施形態のオートゼロ増幅器の構成を示す回路図である。
【
図10】第2の実施形態のオートゼロ増幅器の別の構成を示す回路図である。
【
図11】ピンポンオートゼロ増幅器の構成例を示すブロック図である。
【
図12】オートゼロ増幅器の回路構成例を示す回路図である。
【
図13】比較例のオートゼロ増幅器の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る増幅装置を具体的に開示した実施形態(以下、「本実施形態」という)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
(本実施形態に至る背景)
オートゼロ方式の演算増幅器(以下、「オートゼロ増幅器」と記載する)におけるオフセット電圧のサンプリング電圧の誤差と、折り返しノイズによる低周波のノイズについて、以下に具体例を挙げて説明する。ここでは比較例として、特許文献1に示されたオートゼロ回路を用いる。
【0018】
図11は、ピンポンオートゼロ増幅器の構成例を示すブロック図である。ここでは、3段アンプの初段にピンポン方式のオートゼロ増幅器を使用した構成を例示する。ピンポンオートゼロ増幅器は、2つのオートゼロ増幅器AZ081,AZ082を並列接続し、スイッチSW081~SW086によってスイッチφ1とスイッチφ2をオンオフする構成である。この構成により、第1のオートゼロ増幅器AZ081と第2のオートゼロ増幅器AZ082において時間的に交互にオートゼロ動作とアンプ動作とを切り替え、オフセット電圧を補正しながら高精度の増幅動作が可能となっている。
【0019】
スイッチφ1がオンでスイッチφ2がオフの場合、オートゼロ増幅器AZ081の入力部はショートされ、かつ入力IN-に接続され、入力オフセット電圧情報のサンプリングを行う(オートゼロ動作)。次に、スイッチφ1がオフでスイッチφ2がオンになると、オートゼロ増幅器AZ081が、ホールドしている入力オフセット電圧の情報を元に、オフセット電圧をキャンセルしながら演算増幅器の初段としての動作を行う(アンプ動作)。このとき、オートゼロ増幅器AZ082は、オートゼロ増幅器AZ081と同様の動作を逆のタイミングで行う。オートゼロ増幅器AZ081とオートゼロ増幅器AZ082が交互にオートゼロ動作とアンプ動作を行うことにより、オフセット電圧をキャンセルしながら高精度の演算増幅器としての役割を果たすものである。
【0020】
図12は、オートゼロ増幅器の回路構成例を示す回路図である。
図12では、
図11のオートゼロ増幅器AZ081,AZ082の内部回路の構成例を示している。
図12のオートゼロ増幅器において、スイッチφ1(SW092,SW094)がオン、スイッチφ2(SW091,SW093)がオフとなり、オートゼロ動作を行うとき、増幅器A091の入力間がショートし、キャパシタC091にオフセット電圧がチャージされる。このときチャージされる電圧Vc1は、次の式(1)のようになる。なお、本明細書において、「*」は乗算の演算子、「/」は除算の演算子を表すものとする。
【0021】
Vc1={Av1*Vos1+Av2*(Vos2+Vref)}
/(1+Av2) …(1)
【0022】
ここで、Av1は増幅器A091の利得、Av2は増幅器A092の利得、Vc1はキャパシタC091の電圧値、Vos1は増幅器A091の入力オフセット電圧、Vos2は増幅器A092の入力オフセット電圧、Vrefは基準電圧源V091の電圧値である。
【0023】
その後、スイッチφ1がオフ、スイッチφ2がオンに切り替わり、アンプ動作を行うとき、式(1)の電圧値Vc1をキャパシタC091がホールドしたまま、差動増幅器として動作を始める。このとき、出力VOUTから出力される出力電圧Voは、次の式(2),(3)のようになる。
【0024】
Vo=Av1(VIN+Vos1)+Av2[Vos2+Vref-
{(Av1*Vos1+Av2*Vos2+Av2*Vref)/(1+Av2)}]
…(2)
=Av1*VIN+{1-Av2/(1+Av2)}
*(Av1*Vos1+Av2*Vos2+Av2*Vref)
≒Av1*VIN (Av2→∞) …(3)
【0025】
ここで、VINはオートゼロ増幅器の2つの入力VIN+とVIN-の電圧値の差である。
【0026】
このように、キャパシタC091のチャージ電圧によって増幅器A091の入力オフセット電圧Vos1がキャンセルされた出力電圧となる。
【0027】
しかしながら、
図12の回路では、スイッチSW094を構成するMOSスイッチからのチャージインジェクションによって、キャパシタC091にチャージされる電圧値に誤差が生じてしまう。チャージインジェクションとは、MOSスイッチがオフする時に反転層内部の電荷がソース端子又はドレイン端子に抜ける現象である。すなわち、半導体スイッチの切替時に過渡的にゲートから信号ラインに注入される電荷のことであり、このチャージインジェクションによってサンプリング電圧(キャパシタC091の電圧値Vc1)が変動する。より高精度のオートゼロ増幅器を実現するためには、チャージインジェクションの影響を低減する必要がある。
【0028】
図13は、比較例のオートゼロ増幅器の構成を示す回路図である。
図13では、チャージインジェクションの低減を行う回路の比較例として、特許文献1に示された3phase Auto Zeroingを用いたオートゼロ増幅器の構成を示している。3phase Auto Zeroingは、3相のマルチフェーズ動作によるオートゼロ動作を行うものである。
【0029】
図13のオートゼロ増幅器は、
図11のオートゼロ増幅器にキャパシタ分圧付きの負帰還ループを2つ追加した回路構成となっている。この比較例のオートゼロ増幅器は、スイッチφA1、φA2、φA3を順次切り替えて各ループを順番に動作させ、段階的にチャージインジェクションによるサンプリング電圧の誤差を打ち消すようになっている。
【0030】
比較例のオートゼロ増幅器は、スイッチφ1(SW111,SW113)がオン、スイッチφ2(SW112,SW114)がオフとなるオートゼロ動作の間に、次のようにスイッチφA1、φA2、φA3を順次切り替えてオンオンさせる。
【0031】
まず、スイッチφA1(SW115)がオン、スイッチφA2(SW116)とスイッチφA3(SW117)がオフとなり、オフセット電圧情報をキャパシタC111へサンプリングする(1st phase、第1相)。次に、スイッチφA1がオフ、スイッチφA2がオン、スイッチφA3がオフとなり、スイッチφA1からのチャージインジェクションがキャパシタC111にチャージされる。このとき、スイッチφA2がオンしてできる帰還ループによって、チャージインジェクションによるサンプリング電圧の電圧変動はキャンセルされる(2nd phase、第2相)。
【0032】
その後、スイッチφA1とスイッチφA2がオフ、スイッチφA3がオンとなり、スイッチφA2からのチャージインジェクションが生じる。ただし、キャパシタC111,C113,C115によるキャパシタ分圧により、チャージインジェクションは低減される。またこのとき、スイッチφA3がオンしてできる帰還ループによって、チャージインジェクションによるサンプリング電圧の電圧変動はキャンセルされ、キャンセル後のオフセット電圧情報がキャパシタC111にサンプリングされる(3rd phase、第3相)。
【0033】
最後に、スイッチφA1とスイッチφA2とスイッチφA3の全てがオフし、このときスイッチφA3からのチャージインジェクションが生じる。ただし、キャパシタC111,C114,C116によるキャパシタ分圧により、チャージインジェクションは低減される。このため、誤差としては非常に小さな電圧値だけがキャパシタC111のサンプリング電圧に加算される。
【0034】
そして、スイッチφ1がオフ、スイッチφ2がオンとなり、キャパシタC111に高精度なオフセット電圧情報をホールドした状態で、アンプ動作に切り替わり、入力オフセット電圧がキャンセルされた演算増幅器として動作する。
【0035】
しかしながら、
図12及び
図13に示したオートゼロ増幅器において、オフセット電圧サンプリングの時定数と折り返しノイズとがトレードオフとなる。
【0036】
図12の構成では、増幅器A092の相互コンダクタンスgmと、キャパシタC091の容量とによって、次の式(4),(5)のように時定数が決定される。
【0037】
τ1=C091/gm …(4)
GB1=gm/C091 …(5)
【0038】
ここで、τ1はオートゼロ増幅器の帰還ループの時定数、C091はキャパシタC091の容量、GB1はオートゼロ増幅器の帰還ループの利得帯域幅積(GB積)である。
【0039】
このように、
図12のオートゼロ増幅器の回路構成では、オフセット電圧サンプリングの時定数と利得帯域幅積は一意に決まる。帰還ループの利得帯域幅積はローパスフィルタの役割を持つため、利得帯域幅積によって折り返しノイズのノイズ量が決定される。
【0040】
一方、
図13の構成では、オフセット電圧サンプリングの時定数は各ループ毎に決定されるが、折り返しノイズのノイズ量は、第3相のスイッチφA3がオンしたときの帰還ループによって決定される。
【0041】
図13のオートゼロ増幅器において、第1相のスイッチφA1(SW115)のオンによる帰還ループの時定数τ2は、次の式(6)のように決定される。
【0042】
τ2=(C111+C112)/gm1 …(6)
【0043】
ここで、τ2はスイッチSW115による帰還ループの時定数、C111,C112はそれぞれキャパシタC111,C112の容量、gm1は増幅器A112の相互コンダクタンスである。
【0044】
第2相のスイッチφA2(SW116)のオンによる帰還ループの時定数τ3は、次の式(7)のように決定される。
【0045】
τ3=(1+C111/C113)*C112/(gm1*gm2*Ro2)
…(7)
【0046】
ここで、τ3はスイッチSW116による帰還ループの時定数、C113はキャパシタC113の容量、gm2は増幅器A113の相互コンダクタンス、Ro2は増幅器A113の出力抵抗値である。
【0047】
第3相のスイッチφA3(SW117)のオンによる帰還ループの時定数τ4は、次の式(8)のように決定される。
【0048】
τ4=(1+C111/C114)*C112/(gm1*gm2*Ro2)
…(8)
【0049】
ここで、τ4はスイッチSW117による帰還ループの時定数、C114はキャパシタC114の容量である。
【0050】
また、
図13のオートゼロ増幅器における全体の折り返しノイズを決めるのは、第3相のスイッチφA3(SW117)のオンによる帰還ループの利得帯域幅積GB2である。この利得帯域幅積GB2は、次の式(9)のように求められる。
【0051】
GB2=(gm1*gm2*Ro2)/C112 …(9)
【0052】
上記のように、
図13のオートゼロ増幅器では、増幅器A113の入力端に接続されるキャパシタC112の容量の値が第1相~第3相の全てのフェーズの時定数と利得帯域幅積を決める要素となっている。キャパシタC112の容量は、小さくなると帰還ループの時定数が小さくなり、利得帯域幅積が大きくなるため、キャパシタC111への充電時間(すなわちサンプリング時間)が短くなり、サンプリング電圧の精度(すなわちオートゼロ機能の精度)が向上する。一方、利得帯域幅積が大きくなると、折り返しノイズのノイズ量が増加するため、帰還ループの時定数及び利得帯域幅積と折り返しノイズのノイズ量とがトレードオフの関係となる。
【0053】
上記比較例のオートゼロ増幅器では、サンプリング時間及び精度と折り返しノイズのノイズ量とが完全にトレードオフとなってしまい、これらの両立が困難であった。
【0054】
本実施形態では、上記事情に鑑み、オートゼロ機能の高精度化と折り返しノイズの低減とを両立でき、高精度で折り返し雑音の少ないオートゼロ増幅器の構成例を示す。
【0055】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態のオートゼロ増幅器の構成を示す回路図である。本実施形態のオートゼロ増幅器10Aは、例えば
図11に示したような3段アンプ又は4段アンプ等の多段増幅装置の初段に設けられるピンポン方式のオートゼロ増幅器における内部回路等として利用される。オートゼロ増幅器10Aは、ピンポン方式で交互に動作する2つのオートゼロ増幅器のそれぞれの増幅器等に適用可能である。
【0056】
オートゼロ増幅器10Aは、2つの演算増幅器A011,A012、加算器P011、増幅器A013を有する。また、オートゼロ増幅器10Aは、キャパシタC011,C012,C013,C014,C015,C016、及び電圧源V011を有する。また、オートゼロ増幅器10Aは、スイッチφ1(SW011,SW013)、スイッチφ2(SW012,SW014)、スイッチφA1(SW015)、スイッチφA2(SW016)、スイッチφA3(SW017,SW018)を有する。スイッチSW011~SW018は、MOSFET等による半導体スイッチ素子が用いられる。ここで、スイッチφ1(SW011、SW013)、スイッチφ2(SW012、SW014)がオートゼロ動作とアンプ動作とを切り替える動作切替スイッチとしての機能を有する。
【0057】
演算増幅器A011は、非反転入力端に一方の入力VIN+の入力端が接続され、反転入力端にスイッチφ2(SW012)を介して他方の入力VIN-の入力端が接続され、非反転入力端と反転入力端とがスイッチφ1(SW011)を介して接続される。演算増幅器A012は、非反転入力端に基準電圧源としての電圧源V011が接続され、反転入力端にサンプリングキャパシタとしてのキャパシタC011が接続される。演算増幅器A011の出力端と演算増幅器A012の出力端とは加算器P011に接続され、加算器P011の出力端がスイッチφ2(SW014)を介して出力VOUTを出力するオートゼロ増幅器10Aの出力端に接続される。
【0058】
増幅器A013は、入力端がスイッチφ1(SW013)を介して加算器P011の出力端と接続されるとともに、第1相の帰還ループをオンオフする第1のフェーズスイッチとしてのスイッチφA1(SW015)を介して演算増幅器A012の反転入力端と接続される。ここで、演算増幅器A012の出力端、加算器P011、スイッチSW013、スイッチSW015、演算増幅器A012の非反転入力端が第1相の帰還ループとなる。
【0059】
増幅器A013の出力端は、第2相の帰還ループをオンオフする第2のフェーズスイッチとしてのスイッチφA2(SW016)を介して第1のキャパシタ分圧用のキャパシタとしてのキャパシタC013(第1のキャパシタ)及びキャパシタC015(第2のキャパシタ)と接続される。そして、キャパシタC013の他端が演算増幅器A012の反転入力端と接続され、キャパシタC015の他端が接地される。また、増幅器A013の出力端は、第3相の帰還ループをオンオフする第3のフェーズスイッチとしてのスイッチφA3(SW017)を介して第2のキャパシタ分圧用のキャパシタとしてのキャパシタC014(第3のキャパシタ)及びキャパシタC016(第4のキャパシタ)と接続される。そして、キャパシタC014の他端が演算増幅器A012の反転入力端と接続され、キャパシタC016の他端が接地される。すなわち、演算増幅器A012及び増幅器A013に対して第2相の帰還ループと第3相の帰還ループとが並列に接続される。
【0060】
また、増幅器A013の入力端には、キャパシタC012、スイッチφA3(SW018)が直列接続され、キャパシタC012の他端がスイッチSW018を介して接地される。このキャパシタC012、スイッチSW018によって、オートゼロ増幅器の利得帯域幅積を切り替える帯域切替器を構成する。帯域切替器は、帰還ループの極(1st pole)の周波数を切り替えるものである。本実施形態では、第3相のみキャパシタC012を接続し、利得帯域幅積を小さくする。
【0061】
上記の演算増幅器A012、増幅器A013、電圧源V011、キャパシタC011,C013~C016、スイッチSW015~SW017により、オートゼロ動作において3つのフェーズで帰還ループをオンオフして演算増幅器A011の入力オフセット電圧をキャパシタC011にサンプリングするオートゼロ回路20Aが構成される。
【0062】
上記構成において、各帰還ループの利得は、第1相の帰還ループの利得に対して、第2相の帰還ループの利得は例えば約100倍程度、第3相の帰還ループの利得は例えば約1000倍程度など、段階的に利得を高く設定している。また、キャパシタ分圧の容量については、サンプリング用のキャパシタC011に比べて、第2相の帰還ループのキャパシタC013及び第3相の帰還ループのキャパシタC014の容量を小さくしている。また、第2相の帰還ループのキャパシタC013と第3相の帰還ループのキャパシタC014の容量の関係は、C013>C014とし、段階的に容量を小さく設定している。これにより、第1相から第3相にかけてフェーズ毎にサンプリング精度を高めている。
【0063】
次に、実施形態のオートゼロ増幅器10Aにおける動作を説明する。
【0064】
図2は、実施形態のオートゼロ増幅器の動作タイミングの一例を示すタイミング図である。
図2において、オートゼロ増幅器におけるオートゼロ動作とアンプ動作を切り替えるスイッチφ1,φ2、及びオートゼロ動作における3つのフェーズを切り替えるスイッチφA1,φA2,φA3の動作を示している。
【0065】
オートゼロ増幅器10Aにおいて、スイッチφ1(SW011,SW013)がオン、スイッチφ2(SW012,SW014)がオフとなるオートゼロ動作の間に、次のようにスイッチφA1、φA2、φA3を順次オンオフする動作を行う。
【0066】
まず、第1相(1st phase)において、スイッチφA1(SW015)がオン、スイッチφA2(SW016)とスイッチφA3(SW017,SW018)がオフとなり、オフセット電圧情報をキャパシタC011へサンプリングする。
【0067】
次に、第2相(2nd phase)において、スイッチφA1(SW015)がオフ、スイッチφA2(SW016)がオン、スイッチφA3(SW017,SW018)がオフとなり、スイッチφA1(SW015)からのチャージインジェクションによる電圧変動がキャパシタC011にチャージされる。このとき、スイッチφA2(SW016)がオンしてできる帰還ループによって、チャージインジェクションによる影響がキャンセルされる。
【0068】
その後、第3相(3rd phase)において、スイッチφA1(SW015)とスイッチφA2(SW016)がオフ、スイッチφA3(SW017,SW018)がオンとなり、スイッチφA2(SW016)からのチャージインジェクションが生じる。ただし、キャパシタC011,C013,C015によるキャパシタ分圧により、チャージインジェクションによるキャパシタC011の電圧変動は低減される。またこのとき、スイッチφA3(SW017)がオンしてできる帰還ループによって、チャージインジェクションによる電圧変動はキャンセルされ、キャンセル後のオフセット電圧情報がキャパシタC011にサンプリングされる。
【0069】
また、このとき同時に、スイッチφA3(SW018)がオンとなり、キャパシタC012を付加して帰還ループの利得帯域幅積を低下させる。これにより、オートゼロ増幅器における折り返しノイズが低減する。
【0070】
最後に、スイッチφA1(SW015)とスイッチφA2(SW016)とスイッチφA3(SW017,SW018)の全てがオフし、このときスイッチφA3(SW017)からのチャージインジェクションが生じる。ただし、キャパシタC011,C014,C016によるキャパシタ分圧により、チャージインジェクションは低減される。このため、誤差としては非常に小さな電圧値だけがキャパシタC011のサンプリング電圧に加算される。
【0071】
そして、スイッチφ1(SW011,SW013)がオフ、スイッチφ2(SW012,SW014)がオンとなり、キャパシタC011に高精度に充電されたオフセット電圧情報をホールドした状態で、アンプ動作に切り替わる。このとき、演算増幅器の入力オフセット電圧がキャンセルされ、ほとんど誤差のない出力VOUTが出力される。
【0072】
上記のオートゼロ動作において、第1相及び第2相は帰還ループの時定数が小さくなっており、それぞれのフェーズの期間は短く設定され、例えば10μsec程度である。一方、第3相は帯域切替用のキャパシタC012の付加により、第1相及び第2相に比べて帰還ループの時定数が大きくなっており、フェーズの期間は長めに設定され、例えば50μsec程度である。なお、第1相、第2相、第3相のフェーズは、それぞれ任意に期間を設定してよい。
【0073】
本実施形態では、第1相及び第2相における帰還ループの時定数を小さくし、利得帯域幅積を大きくすることにより、サンプリング電圧の充電速度を上げてチャージインジェクションの低減能力を高め、サンプリング精度を向上させる。これと共に、第3相のときだけキャパシタC012を接続して利得帯域幅積を小さくし、折り返しノイズを軽減させる。
【0074】
図3は、実施形態及び比較例のオートゼロ増幅器における動作時のサンプリング電圧の一例を示す特性図である。
図3では、
図1の本実施形態と
図13の比較例のそれぞれの構成において、オートゼロ動作時のサンプリング電圧の時間変化を模式的に示している。
【0075】
第3相(3rd phase)の終了時のサンプリング電圧が、アンプ動作時に入力オフセット電圧をキャンセルするために使われる。サンプリング電圧の目標値に対して、各フェーズの間でパルス的にサンプリング電圧が上昇しているのは、チャージインジェクションの影響である。第1相(1st phase)の後よりも第2相(2nd phase)の後の方がチャージインジェクションによる電圧変化が小さいのは、キャパシタ分圧の有無による。第3相(3rd phase)の後にも同様の電圧変動があるが、第3相の帰還ループのキャパシタC014は第2相の帰還ループのキャパシタC013よりも容量が十分に小さいため、第2相の後の電圧変動よりもはるかに小さくなる。
【0076】
図3において、破線で示した比較例(容量大)は、比較例の構成において折り返しノイズを低減するためにキャパシタC112の値を大きくした場合である。この場合、特に第2相の時定数が大きく、サンプリング速度が遅くなるため、第3相の終了時の最終的なサンプリング電圧の誤差(目標値との差)が他の場合に比べて大きくなる。サンプリング電圧の誤差は直接、入力オフセット電圧に関わってくるため、オートゼロ機能の精度が低下する。
【0077】
また、点線で示した比較例(容量小)は、比較例の構成において折り返しノイズの低減を考慮せず、サンプリング速度を上げるために、キャパシタC112の値を小さくした場合である。この場合、どのフェーズにおいても、時定数が小さくサンプリング時間が十分に足りており、サンプリング精度は高い。一方、利得帯域幅積が大きくなり、折り返しノイズのノイズ量が増加する。
【0078】
これに対し、実線で示した実施形態は、キャパシタC012をスイッチSW018によりオンオフして第3相において接続した場合である。スイッチSW018は、第1相、第2相ではオフ、第3相ではオンとなる。この場合、第2相までは比較例(容量小)と同様の波形となっており、第3相だけ比較例(容量大)と同様の時定数が適用される。このため、比較例(容量小)よりもサンプリング精度は若干劣るが、第2相までに十分に目標値に近づけているので、サンプリング精度としては十分高い結果が得られる。比較例(容量大)の場合の最終値に比べて大幅にサンプリング精度が向上している。また、第3相の利得帯域幅積が小さいため、比較例(容量小)よりも折り返しノイズのノイズ量が低減する。
【0079】
このように、サンプリング精度、すなわち入力オフセット電圧のキャンセル能力については、比較例(容量大)が最も悪く、比較例(容量小)が良く、実施形態は比較例(容量小)より若干悪い程度である。
【0080】
図4は、実施形態及び比較例のオートゼロ増幅器におけるオフセット電圧及びノイズ量の一例を示す特性図である。
図4では、
図11に示したピンポンオートゼロ増幅器に、
図3と同様の各条件のオートゼロ増幅器を適用した場合の、入力オフセット電圧と低周波でのノイズ量の一例を比較して示している。ここでは、低周波のノイズ量として10Hzの雑音レベル(nV/√Hz)を例示する。
【0081】
比較例(容量大)の場合、低周波のノイズ量が小さいが、入力オフセット電圧が大きく、サンプリング精度が低下している。比較例(容量小)の場合、サンプリング精度が良好であるが、低周波のノイズ量が大きくなっている。実施形態の場合、比較例(容量大)と比較例(容量小)の双方の良い面を取り、サンプリング精度が良好で、かつ低周波のノイズ量が小さい結果が得られた。
【0082】
本実施形態では、スイッチSW018の切り替えによってキャパシタC012をオンオフすることにより、第1相及び第2相の時定数を下げるとともに、第3相の利得帯域幅積を小さくして折り返しノイズを軽減させることが可能である。
【0083】
また、
図5は第1の実施形態のオートゼロ増幅器の別の構成を示す回路図である。オートゼロ回路20Aにおいて、第1相の帰還ループをオンオフするスイッチφA1(SW015)が、増幅器A013の出力端と演算増幅器A012の反転入力端の間に挿入される点が
図1に示した回路図と異なっており、本構成において場合も、
図1と同様の効果を発揮する。
【0084】
なお、本実施形態では、第1相~第3相の3つの帰還ループを備える構成を示しているが、4つ以上の帰還ループを備える増幅器の構成であっても同様に適用可能である。
【0085】
(変形例)
図6は、実施形態のオートゼロ増幅器の概略構成を示すブロック図である。
図6では、
図1のオートゼロ増幅器10AにおけるキャパシタC012、スイッチSW018を一般化した帯域切替器を備える構成を示している。
【0086】
オートゼロ増幅器10は、演算増幅器A011の出力部の加算器P011とスイッチφ1,φ2との間に、オートゼロ回路20を有する。オートゼロ回路20は、
図1のオートゼロ増幅器10Aのオートゼロ回路20Aと同様、オートゼロ動作において3つのフェーズで帰還ループをオンオフして演算増幅器A011の入力オフセット電圧をキャパシタC011にサンプリングする。オートゼロ回路20には、オートゼロ増幅器の帰還ループの利得帯域幅積を切り替える帯域切替器30が接続される。帯域切替器30は、帰還ループの容量を変更可能なものであれば、キャパシタとスイッチを含む素子、回路デバイスなど、いずれであってもよい。
【0087】
帯域切替器30によって、
図1のオートゼロ増幅器10Aと同様、帰還ループの極(1st pole)の周波数を切り替えて利得帯域幅積を変更する。このとき、オートゼロ動作の3つのフェーズにおいて、第1相及び第2相の時定数を下げるとともに、第3相の利得帯域幅積を小さくして折り返しノイズを軽減させる。
【0088】
図7は、実施形態のオートゼロ増幅器の第1例を示すブロック図である。
図7では、
図6の構成における帯域切替器30の第1例を含む構成を示している。この
図7の構成は、
図1に示したオートゼロ増幅器10Aと同様に構成となっている。
【0089】
オートゼロ増幅器10Aは、演算増幅器A011の出力部の加算器P011とスイッチφ1,φ2との間に、
図1と同様のオートゼロ回路20Aと、帯域切替器30Aとを有する。帯域切替器30Aは、キャパシタC012、スイッチSW018が直列接続されて構成され、キャパシタC012の一端がオートゼロ回路20Aの増幅器A013の入力端に接続され、スイッチSW018の他端が接地される。この構成において、スイッチSW018をオンオフしてキャパシタC012を接続又は遮断することにより、オートゼロ増幅器10Aの帰還ループの極の周波数を切り替え、利得帯域幅積を変更して折り返しノイズを軽減させる。
【0090】
図8は、実施形態のオートゼロ増幅器の第2例を示すブロック図である。
図8では、
図6の構成における帯域切替器30の第2例を含む構成を示している。この
図8の構成は、オートゼロ回路の帰還ループにおいてミラー補償容量を切り替える構成例を示すものである。
【0091】
オートゼロ増幅器10Bは、演算増幅器A011の出力部の加算器P011とスイッチφ1,φ2との間に、オートゼロ回路20Bと、帯域切替器30Bとを有する。帯域切替器30Bは、キャパシタC012、スイッチSW018が直列接続されて構成され、オートゼロ回路20Bの帰還ループに両端が接続される。この構成において、スイッチSW018をオンオフしてキャパシタC012によるミラー補償容量を接続又は遮断することにより、オートゼロ増幅器10Bの帰還ループの極の周波数を切り替え、利得帯域幅積を変更して折り返しノイズを軽減させる。
【0092】
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態のオートゼロ増幅器の構成を示す回路図である。第2の実施形態は、
図8に示したオートゼロ回路20Bの具体的な構成例を示すものである。ここでは、
図1に示した第1の実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様の構成要素については説明を省略する。
【0093】
オートゼロ増幅器10Bは、演算増幅器A011、加算器P011、スイッチφ1、スイッチφ2を有する。また、オートゼロ増幅器10Bは、オートゼロ回路20Bとして、演算増幅器A012、増幅器A013、キャパシタC011,C013,C014,C015,C016、電圧源V011、スイッチφA1(SW015)、スイッチφA2(SW016)、スイッチφA3(SW017)を有する。オートゼロ回路20Bは、
図1の構成と比較して、スイッチφA1(SW015)を含む第1相の帰還ループの接続構成が異なっている。
【0094】
オートゼロ回路20Bにおいて、増幅器A013の入力端は、第1相の帰還ループをオンオフするスイッチφA1(SW015)を介して演算増幅器A012の反転入力端と接続される。また、増幅器A013の出力端は、第2相の帰還ループをオンオフするスイッチφA2(SW016)と、第3相の帰還ループをオンオフするスイッチφA3(SW017)とに接続され、それぞれキャパシタC013,C015、又はキャパシタC014,C016と接続される。そして、増幅器A013の入力端と出力端との間には、帰還ループのミラー補償容量を切り替える帯域切替器30Bが接続される。
【0095】
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様、帯域切替器30Bによって帰還ループの利得帯域幅積を切り替え、オートゼロ動作の3つのフェーズにおいて、第1相及び第2相の時定数を下げるとともに、第3相の利得帯域幅積を小さくする。これにより、サンプリング精度を良好に保ちつつ、折り返しノイズを軽減させることができる。
【0096】
また、
図10は第2の実施形態のオートゼロ増幅器の別の構成を示す回路図である。オートゼロ回路20Bにおいて、第1相の帰還ループをオンオフするスイッチφA1(SW015)が、増幅器A013の出力端と演算増幅器A012の反転入力端の間に挿入される点が
図9に示した回路図と異なっており、本構成においても、
図9と同様の効果を発揮する。
【0097】
なお、本実施形態においても、第1相~第3相の3つの帰還ループを備える構成を示しているが、4つ以上の帰還ループを備える増幅器の構成であっても同様に適用可能である。
【0098】
以上説明したように、本実施形態では、3つのフェーズを有するオートゼロ動作を行うオートゼロ増幅器において、利得帯域幅積を決めるためのキャパシタ又はミラーキャパシタをオンオフする帯域切替器を備える。帯域切替器は、スイッチを有し、オートゼロ動作の各フェーズにおいて、スイッチの切り替えによってキャパシタを付加するか否かを選択可能となっている。帯域切替器によって、第1相及び第2相ではキャパシタを外し、帰還ループの時定数を下げてオフセット電圧サンプリング用のキャパシタへの充電速度を高めることにより、サンプリング精度を向上させることができる。また、第3相ではキャパシタを付加して利得帯域幅積を下げることにより、折り返しノイズを低減し、低周波のノイズ量を低減することができる。
【0099】
したがって、本実施形態によれば、オートゼロ増幅器の高精度化と折り返しノイズ低減とを両立することができ、高精度かつ低ノイズのオートゼロ増幅器を実現できる。
【0100】
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、オートゼロ機能の高精度化とノイズ低減の両立を図ることができる効果を有し、例えば高精度の電流検出や電圧検出が要求される増幅器を備えた増幅装置に有用である。
【符号の説明】
【0102】
10,10A,10B:オートゼロ増幅器
20,20A,20B:オートゼロ回路
30,30A,30B:帯域切替器
A011,A012:演算増幅器
A013:増幅器
P011:加算器
V011:電圧源
C011,C012,C013,C014,C015,C016:キャパシタ
SW011,SW012,SW013、SW014,SW015,SW016,SW017,SW018:スイッチ