IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インテグリス・インコーポレーテッドの特許一覧

特許7460771フッ化マグネシウム領域が形成させる金属体
<>
  • 特許-フッ化マグネシウム領域が形成させる金属体 図1
  • 特許-フッ化マグネシウム領域が形成させる金属体 図2A
  • 特許-フッ化マグネシウム領域が形成させる金属体 図2B
  • 特許-フッ化マグネシウム領域が形成させる金属体 図3
  • 特許-フッ化マグネシウム領域が形成させる金属体 図4
  • 特許-フッ化マグネシウム領域が形成させる金属体 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】フッ化マグネシウム領域が形成させる金属体
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20240326BHJP
   C23C 8/08 20060101ALI20240326BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/302 101B
C23C8/08
C22C21/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022539332
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-09
(86)【国際出願番号】 US2020065684
(87)【国際公開番号】W WO2021138068
(87)【国際公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】62/954,798
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505307471
【氏名又は名称】インテグリス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ウォルドフリード, カルロ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリックス, ブライアン シー.
【審査官】山口 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-218620(JP,A)
【文献】特開平04-066657(JP,A)
【文献】特開2009-256800(JP,A)
【文献】国際公開第2018/132789(WO,A1)
【文献】特開平04-120728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
C23C 8/08
C22C 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体を含む物品であって、金属体が、
マグネシウムを含む金属合金を含むバルク領域と、
金属体の表面におけるフッ化マグネシウムを含む表面不動態化領域と、
バルク領域と表面不動態化領域との間の遷移領域であって、バルク領域から表面不動態化領域の方向に向かって、金属合金に対するフッ化マグネシウムの比が徐々に増加する遷移領域とを含金属体の表面が、20:1~500:1の範囲のアスペクト比を有する高アスペクト比形体を含み、表面不動態化領域が高アスペクト比形体に適合する、
物品。
【請求項2】
バルク領域と、遷移領域と、金属体の表面の表面不動態化領域との間に個別の境界が存在しない、請求項1記載の物品。
【請求項3】
金属合金が、少なくとも0.5重量%のマグネシウムを含む、請求項1記載の物品。
【請求項4】
金属合金が、少なくとも93重量%のアルミニウム、マグネシウム、及び少なくとも0.5重量%の非マグネシウム不純物を含む、請求項1記載の物品。
【請求項5】
表面不動態化領域の厚さが1~200nmの範囲であり、表面不動態化領域の厚さが、金属体の表面から金属体の遷移領域内のフッ化マグネシウム対金属合金の比が50:50である点まで測定される、請求項1記載の物品。
【請求項6】
金属体が半導体処理デバイスの構成要素である、請求項1記載の物品。
【請求項7】
金属体の表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成する方法であって、マグネシウム含有金属体を少なくとも200℃の温度で1~15時間の範囲の期間、分子フッ素源蒸気に曝露することを含み、分子フッ素蒸気源からのフッ化物が、マグネシウム含有金属体内のマグネシウムと反応して、金属体の表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を所望の厚さで形成金属体の表面が、20:1~500:1の範囲のアスペクト比を有する高アスペクト比形体を含み、表面不動態化領域が高アスペクト比形体に適合する、方法。
【請求項8】
分子フッ素源蒸気が、フッ素化ポリマーを加熱することによって誘導される、請求項記載の方法。
【請求項9】
マグネシウム含有金属体がアルミニウム合金を含む、請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年12月30日に出願された米国仮出願第62/954,798号の利益及び優先権を主張し、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、マグネシウム含有金属から作製され、金属体の表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域が形成された金属体、それらの金属体の使用、及び金属体の表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
半導体及びマイクロ電子デバイスの製造方法は、プラズマなどの高反応性プロセス材料を含む様々な処理工程を必要とする。反応性プロセス材料を使用する例示的なプロセスは、プラズマエッチング工程、プラズマ堆積工程及びプラズマ洗浄工程を含む。これらのプロセスは、仕掛品及び反応性プロセス材料を収容するプロセスチャンバの内部で実行される。プロセスチャンバはまた、プロセスチャンバを画定する様々な構造物及び構成要素(通称、「プロセスチャンバ構成要素」)と、動作に必要なプロセスチャンバの内部のアイテムとを含む。これらは、チャンバ壁、流導管(例えば、フローライン、フローヘッド、パイピング、チュービングなど)、締め具、トレイ、支持体、及び仕掛品を支持するため、又はプロセスチャンバに関連する反応性プロセス材料を送達又は収容するために使用される他の構造物を含むことができる。
【0004】
プロセスチャンバの一部として使用するために、プロセスチャンバ構成要素は、プロセスチャンバ内で使用される反応性プロセス材料に耐性があるべきである。プロセスチャンバ構成要素は、プロセス材料と接触することによって、特に実行されているプロセスに組み込まれ、処理されている仕掛品を汚染する可能性があるデブリ又は微粒子を生成するような様式で劣化又は損傷するべきではない。
【0005】
半導体及びマイクロ電子デバイスを製造するための半導体処理装置に使用されるプロセスチャンバ構成要素は、固体材料(「基板」又は「ベース」)、例えば金属(例えば、ステンレス鋼、場合により陽極酸化されていてもよいアルミニウム合金、タングステン)、鉱物、又はセラミック材料などで作られることが多い。基板は、通常、基板材料よりも反応性プロセス材料に対して耐性がある保護層でコーティングされる。従来、このような保護薄膜コーティング又は層は、様々な有用な方法、典型的には(例えば、陽極酸化アルミニウムを製造するための)陽極酸化、噴霧コーティング、又は物理蒸着(PVD)のプロセスによって典型的に基板上に配置されてきた。
【発明の概要】
【0006】
以下に説明する開示は、マグネシウム含有金属で作製され、金属体の表面に形成されたフッ化マグネシウム表面不動態化領域を有する金属体に関する。本開示はまた、金属体の表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成する方法、表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を有する金属体を含む物品及び構造物、並びに記載された物品及び構造物を使用する方法に関する。
【0007】
方法は、フッ素源と金属体のマグネシウム含有金属中に存在するマグネシウムとの間の化学反応によって金属体内にフッ化マグネシウム領域を形成することを含む。金属体は、少なくとも少量のマグネシウムを含む任意の金属で作製されてもよい。例えば、アルミニウム合金、マグネシウム合金、ステンレス鋼、ステンレスマグネシウム、並びに他の金属、例えばバナジウム、クロム、亜鉛、チタン及びニッケルの合金が挙げられる。
【0008】
この方法は、別個に生成された保護材料の層又はコーティングを金属体の表面上に堆積させる従来の方法とは異なる。具体的には、この方法は、例えば化学蒸着法、物理蒸着法、原子層堆積法、又は任意の類似の方法、又はこれらのいずれか1つの改変などの堆積法によって、外因性保護材料を含むコーティング又は層を表面上に配置することによって行われるのではない。代わりに、記載された方法は、金属基板内に元々存在するマグネシウム(すなわち、内因性マグネシウム)、及び別個に提供されるフッ素(すなわち、外因性フッ素)からフッ化マグネシウム層を形成する。
【0009】
さらに、この方法は、金属体表面にフッ化マグネシウムを形成する方法の一部としてプラズマを使用又は形成することを含まない。本明細書に記載の方法は、金属体表面を高温の分子フッ素蒸気源に曝露することによってフッ化マグネシウムを形成することを含む。これらの非プラズマ法は、高アスペクト比を有する形体を含む、金属体のすべての露出表面(例えば、穴、チャネル、内部プレナム、金属膜)上に均一な厚さを有する高度にコンフォーマルなフッ化マグネシウム表面不動態化領域を生成することができる。例示的な金属体は、少なくとも20:1、50:1,100:1,200:1、又はさらには500:1のアスペクト比を有する高アスペクト比の形体を含むことができる。
【0010】
フッ化マグネシウム表面不動態化領域は、化学的不活性、及び化学的劣化に対する耐性を提供する。表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を有する金属体は、化学的に不活性な表面が有用であるか又は望ましい、任意の用途に有用であり得る。例としては、半導体処理ツールの構成要素のコーティングなど、製造装置の一部分の保護表面が挙げられる。半導体処理ツール部品は、一般に、アルミニウム、例えばアルミニウム6061で作られる。そのような使用のために、アルミニウムの表面は保護表面処理を必要とし、これは、典型的には、陽極酸化、保護噴霧コーティングの塗布、又は物理蒸着、原子層蒸着、化学蒸着などによって堆積された保護コーティングによるものであってもよい。例としては、アルミナ、イットリア、ジルコニアなどの酸化物が挙げられる。例示的なコーティングとしては、AlF又はYFなどのフッ化物が挙げられ、これらはより安定であり得、エッチング及び耐食に対する比較的大きな耐性を提供し得る。しかし、フッ化物の形成はより困難である。
【0011】
金属表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成するのに有効な方法、並びに有用なフッ化マグネシウム表面不動態化領域を含む金属体、並びに金属体を含む物品、装置、及び方法が本明細書に記載される。フッ化マグネシウム表面不動態化領域は、金属体中に形成された連続的又は非連続的な層の形態で金属体の表面に現れる場合がある。
【0012】
一態様では、本開示は、表面と、表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域とを有するアルミニウム合金体に関する。アルミニウム合金は、少なくとも93重量%のアルミニウム、マグネシウム、及び少なくとも0.5重量%の非マグネシウム不純物を含む。
【0013】
別の態様では、本開示は、マグネシウム含有金属合金領域と、表面のフッ化マグネシウム表面不動態化領域とを含む金属体に関する。マグネシウム含有金属合金は、95重量%未満のアルミニウムを含有する。
【0014】
さらに別の態様では、本開示は、マグネシウム含有金属基板の表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成する方法に関する。この方法は、高温で分子フッ素源蒸気に表面を曝露して、マグネシウム含有金属基板の表面にフッ化マグネシウムの連続的又は非連続的な領域を形成することを含む。
【0015】
本開示は、添付の図面に関連して様々な例示的な実施形態の以下の説明を考慮して、より完全に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の様々な実施形態による、金属体の表面に形成されたフッ化マグネシウム表面不動態化領域の概略図である。
図2A】本開示の一実施形態に従って製造された金属試験クーポンの断面のFIB-SEM画像である。
図2B】FIB-SEMによって撮影された、図2Aの金属試験クーポン断面のトップダウン画像である。
図3】本開示の一実施形態に従って製造された金属試験クーポンの組成のX線光電子分光法(XPS)深さプロファイルである。
図4】本開示の一実施形態に従って製造された金属試験クーポンのX線回折(XRD)スペクトルである。
図5】金属試験クーポンの表面に形成されたフッ化マグネシウム表面不動態化領域の厚さをエッチング時間の関数として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、様々な変更及び代替形態を受け入れることができるが、その詳細は、例として図面に示されており、詳細に説明される。しかしながら、本開示の態様を記載された特定の例示的な実施形態に限定することを意図するものではないことを理解されたい。それどころか、本開示の精神及び範囲内に入るすべての修正、等価物、及び代替物を網羅することを意図している。
【0018】
以下の説明は、マグネシウム含有金属で作製され、表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域が形成された金属体;金属体の表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成する方法;表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を有する金属体を含む物品、デバイス、及び装置、例えば半導体製造装置のプロセスチャンバ構成要素;及び関連する使用方法に関する。図1は、本開示の様々な実施形態による、本明細書に記載される金属体の表面に形成されたフッ化マグネシウム表面不動態化領域4を有する金属体2の概略図である。様々な実施形態によれば、フッ化マグネシウム表面不動態化領域4は、マグネシウム含有金属から作製される金属体2の表面に形成され、それによって金属体2の表面を不動態化する。本明細書で使用される場合、マグネシウム含有金属は、一定量のマグネシウムを含有する任意の金属又は金属合金として定義される。フッ化マグネシウム表面不動態化領域4は、分子フッ素源のフッ素が金属体2の金属中に存在するマグネシウムと反応してフッ化マグネシウム表面不動態化領域4を形成するように、高温で分子フッ素源に表面を曝すことによって金属体2の表面に形成される。その結果、金属体2は、金属体2の表面に形成されたフッ化マグネシウム表面不動態化領域4と、マグネシウム含有金属で構成されるバルク領域8と、表面不動態化領域とバルク領域との間の遷移領域6とを含む。遷移領域6では、バルク領域8からフッ化マグネシウム表面不動態化領域4に向かって、マグネシウム含有金属に対するフッ化マグネシウムの比率が徐々に高くなっている。
【0019】
有利には、固体物の表面上に耐薬品性コーティング材料を添加する他の従来の方法と比較して、記載されるフッ化マグネシウム表面不動態化領域は、金属体の金属中に元々存在するマグネシウムから、すなわち内因性マグネシウムから金属体の表面(その下を含む)に形成され得る。反応中、マグネシウム含有金属体に含まれるマグネシウムは、金属結晶粒界に沿って表面まで移動し、金属体の表面にフッ化マグネシウム不動態化領域を形成し得る。フッ化マグネシウム不動態化領域は、コーティング又は別の堆積技術、例えば化学蒸着、物理蒸着、原子層堆積などによって表面に添加される組成物又は材料として表面に塗布されるコーティング又は層ではない。その代わりに、表面でフッ化マグネシウム表面不動態化領域の一部となるフッ化マグネシウムは、金属体表面に曝露した分子フッ素源からのフッ素が、マグネシウム含有金属中に元々存在するマグネシウムと反応した反応生成物である。フッ化マグネシウム表面不動態化領域は、それが形成される金属体の表面全体を覆う連続領域であってもよく、又はフッ化マグネシウム表面不動態化領域は、それが形成される金属体の一部のみを覆う非連続領域であってもよい。金属体の表面に形成されたフッ化マグネシウム表面不動態化領域は、金属体の表面を不動態化する。
【0020】
さらに、本開示によるフッ化マグネシウム表面不動態化領域は、プロセスチャンバ構成要素の使用中又は使用前の「シーズニング」工程においてプロセスチャンバ構成要素の表面に化学的に形成される、フッ化マグネシウムを含み得るそのような層を含む反応生成物とは異なる。半導体処理装置の特定の使用は、処理ツールの使用中に、処理ツール内に動作可能に設置され、ツールの機能を実行するプロセスチャンバ構成要素を反応性プロセス材料、例えばプラズマの形態のフッ素などに曝露することを伴う。プラズマのフッ素は、ツールの使用中にプロセスチャンバ構成要素に接触することができ、表面にフッ化マグネシウムを形成する可能性がある。
【0021】
プロセスチャンバ構成要素又は他の金属体上にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成する本開示の方法は、以前のタイプの「使用中」の形成とは異なる。1つの違いとして、本発明で説明されている方法は、ツールの使用中に半導体処理ツール内で実行されるのではなく、取り付けられたプロセスチャンバ構成要素、すなわち処理ツールの動作可能な構成要素によって実行される。本発明で説明されている方法は、使用中にプロセスツール内に動作可能に取り付けられないが、異なるタイプのプロセスチャンバ内に非機能的に収容及び支持されているプロセスチャンバ構成要素上にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成し、プロセスチャンバ構成要素表面上にフッ化マグネシウムを形成する工程を実行するように適合されているものである。さらに、本発明で説明されているフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成する方法は、フッ素源としてプラズマを使用せず、代わりにフッ素源として分子フッ素を使用し、異なる時間、圧力、及び温度条件で、例えば分子フッ素源蒸気を加えた空気などの非プラズマ材料の存在下で実行することができる。さらに、半導体処理ツールの使用中に形成されるフッ化マグネシウム表面不動態化領域を有するプロセスチャンバ構成要素と、本開示の方法によってフッ化マグネシウム表面不動態化領域を含むように調製された金属体との間には、構造的及び組成的な一定の相違も存在し得る。
【0022】
フッ化マグネシウム表面不動態化領域が形成されたマグネシウム含有金属は、本明細書では「金属体」又は「基板」と呼ばれることがある。金属体の「表面」にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成することは、金属体の露出した表面及び表面の下にフッ化マグネシウムを形成することを指す。露出した金属の組成はマグネシウムを含むが、露出した金属表面は、表面を酸素に曝露することによって形成された金属酸化物化合物を含み得ることが理解される。金属酸化物化合物の種類及び量は、金属合金の自然酸化表面と一致し得る。表面での好ましい酸化は、記載されるようなプロセスによる表面でのフッ化マグネシウムの所望の形成に干渉しないタイプ及び程度であり得る。好ましくは、表面に存在する任意の酸化は、自然に形成され得、陽極酸化又は表面を他の方法で化学的若しくは電気化学的に処理して意図的に金属酸化物を表面に意図的に形成する、などの意図的な化学的酸化プロセスによっては形成されない。
【0023】
本明細書に記載のフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成する有用な方法は、分子フッ素源蒸気のフッ素を金属体の金属中に元々存在するマグネシウムと反応させる温度で、マグネシウム含有金属体の表面を分子フッ素源蒸気に曝露して、表面(その下を含む)にフッ化マグネシウムを形成する方法を含む。本明細書で使用される場合、「分子フッ素源蒸気」は、プラズマとは見なされない、蒸気(ガス状)形態の非プラズマ(すなわち、分子)化学分子である。「プラズマ」は、プラズマ前駆体化合物をイオンに分解して仕掛品の加工のためにイオンを使用する目的で、エネルギー(例えば、高周波電源から)に意図的に曝された1つ以上のプラズマ前駆体化合物に由来する高密度のイオン性断片を含む非固体気相組成物である。プラズマとは対照的に、有用又は好ましい分子フッ素源蒸気は、10E-6原子%未満のイオン化材料、例えば10E-6原子%未満のイオン性種を含有し得る。
【0024】
分子フッ素源蒸気は、任意の方法によって、又は任意の有用かつ効果的な発生源又は場所から、フッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成するためにプロセスチャンバに供給されてもよい。好ましい方法では、分子フッ素源蒸気は、マグネシウム金属含有体の表面上にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成するプロセス中、及び表面上にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成するために使用されるプロセスチャンバ内を意味する、in situで生成され得る。分子フッ素源蒸気は、非ガス状フッ素源を加熱して非ガス状フッ素源の分子をガス状、すなわち分子蒸気にすることによって、非ガス状フッ素源からin situで生成され得る。非ガス状フッ素源は、液体又は固体フッ素含有物質であってもよく、加熱工程は、液体又は固体フッ素源の分子の著しい劣化又はイオン化を引き起こすことなく、分子のガス状形態を生成する。いくつかの実施形態では、分子のガス状形態は、少なくとも99.9999原子%の分子、すなわち液体又は固体のフッ素含有物質の非化学的変化分子であり得、10E-6原子%未満のイオン性種など、10E-6原子%未満のイオン化又は分解材料を含有してもよい。
【0025】
加熱工程は、様々な半導体処理工程で使用されるプラズマを生成する工程とは異なり、分子フッ素源蒸気を生成する。一般に、プラズマ生成工程は、一般にガス状化学物質であるプラズマ源に1つ以上の形態のエネルギーを印加して、プラズマ源をイオン化し、プラズマ源の分子を化学的に分解して分子のイオン性断片を生成することを含む。エネルギーは、熱エネルギー(高温)、電磁照射、例えばRF(高周波電源によって生成される照射)、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0026】
具体的な比較として、分子フッ素源蒸気を生成するために使用される本開示の加熱工程は、プラズマエッチング、プラズマ洗浄、又は半導体処理ツールのプロセスチャンバの「シーズニング」の工程のために半導体処理ツールにおいて使用する、フッ素含有プラズマを生成する工程とは異なる。本発明に記載されている加熱工程とは異なるプラズマ生成工程の例は、米国特許第5,756,222号に記載され、それは、プラズマエッチング又はプラズマ洗浄プロセス用に設計された反応チャンバ内で生成されたフッ素含有プラズマを記載している。プラズマは、フッ素前駆体をRF電力に曝露することによって調製される。
【0027】
マグネシウム含有金属体の表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成するための本開示の方法は、取り外し可能で仮設的な、非動作可能な様式で金属体をプロセスチャンバ内に配置すること;分子フッ素源蒸気をプロセスチャンバ内に分配すること、又はプロセスチャンバ内で非ガス状フッ素源を加熱して非ガスフッ素源の分子をガス状、すなわち蒸気にすることによってプロセスチャンバ内で分子フッ素源蒸気を生成すること;及びプロセスチャンバ、金属体、分子フッ素源蒸気、又はそれらの組み合わせの温度を上昇させて、分子フッ素源蒸気のフッ素と、金属体の表面に存在するマグネシウムとの反応を引き起こして、金属体の表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成することによって、プロセスチャンバ内において高温で実行することができる。
【0028】
フッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成する工程の間、プロセスチャンバは、分子フッ素源蒸気、任意選択的に非蒸気フッ素源、及び各々表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域が形成される1つ以上のマグネシウム含有金属体を含む、プロセス材料を収容することができる。チャンバの内部空間及び雰囲気は、排気又は減圧される必要はなく、一定量の大気を含むことができる。空気若しくは酸素の排除、又はプロセスチャンバへの不活性ガス(パージガス、例えばN)の導入は、形成工程に必要ではない。プロセスチャンバは、空気及び分子フッ素源蒸気以外の任意の他のガス状又は液体プロセス材料を含む必要はなく、排除してもよく、例えば、他の半導体処理工程のガス状雰囲気で使用されることがある、不活性ガス又はガス状共反応物などの他のガス状材料を排除することができる。
【0029】
プロセスチャンバは、半導体処理ツールの一部ではなく、別途処理されている半導体デバイス又はその前駆体などの任意の他の仕掛品を収容する必要はなく、好ましくは収容しない。プロセスチャンバはまた、高周波電源などのプラズマを発生させるための手段、又は構成要素若しくは仕掛品に電位(電圧)を印加するための手段の使用を必要とせず、その使用を含まない。
【0030】
有用なプロセスチャンバは、好ましくは、チャンバ内の温度を制御するための温度制御;チャンバ内部の環境の組成及び純度を制御する手段、例えば圧力制御、フィルタなど;1つ又は複数の金属体を、フッ化マグネシウム表面不動態化領域を本体上に形成する期間中、チャンバ内に一時的に収容及び支持するための構成要素;及びプロセスチャンバ内の分子フッ素源の量を供給し、濃度を制御することを含む、プロセスチャンバ内の雰囲気の組成を制御するための構成要素を含むことができる。有用なプロセスチャンバは、高周波電源などのプラズマを生成するための手段を必要とせず、排除することができる。
【0031】
特定の実施形態によれば、分子フッ素源蒸気は、ガス状フッ素化又は過フッ素化有機化合物、例えばフッ素化又は過フッ素化アルカン又はアルケンであり得、そのいずれも直鎖又は分岐であり得る。例として、とりわけ、それぞれ分子形態であるCF、C、C、C、CHF、C、C、HF、CHFが挙げられ、実質的に非イオン性であり、分解又はプラズマを形成するために(熱以外のエネルギーを加えることによって)処理されないことを意味する。
【0032】
他の実施形態によれば、分子フッ素源蒸気は、プラズマを形成するためにエネルギーで処理されていないガス状フッ素化ポリマーであり得る。ガス状フッ素化ポリマーは、例えばプロセスチャンバ内で、フッ化マグネシウムの形成が所望されるマグネシウム含有金属体の表面の存在下で、非ガス状(例えば、液体又は固体)フッ素化ポリマーから、非ガス状フッ素化ポリマーを加熱することによって誘導することができる。
【0033】
フッ素化ポリマーは、マグネシウム含有金属体の表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成するための、記載された方法に従って有効である任意のフッ素化ポリマーであり得る。有用なフッ素化ポリマーの例としては、重合フルオロオレフィンモノマー及び任意選択の非フッ素化コモノマーを含むホモポリマー及び共重合体が挙げられる。ポリマーは、フッ素化(すなわち、部分的にフッ素化)されていても、過フッ素化されていてもよく、又は塩素などの非フッ素ハロゲン原子を含んでいてもよい。分子フッ素源は、室温では液体であっても固体であってもよいが、記載の方法に従って使用されるプロセスチャンバの温度では蒸気になる。
【0034】
具体的なフルオロポリマーの非限定的な例としては、C-C10ペルフルオロアルキル基を有する重合ペルフルオロアルキルエチレン;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE);テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA);テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP);テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EPA);ポリヘキサフルオロプロピレン;エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE);ポリトリフルオロエチレン;ポリビニリデンフルオリド(PVDF);ポリビニルフルオリド(PVF);ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE);エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE);又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
記載されるフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成する工程は、フッ素源蒸気からのフッ素と、マグネシウム含有金属体の表面のマグネシウムとを反応させるのに効果的な任意の温度で行うことができる。比較的高い高温が一般に有用であるか、又は好ましく、温度範囲は、いくつかのタイプの半導体処理工程、例えば堆積工程、プラズマエッチング工程、及びプラズマ洗浄工程で使用される例示的又は典型的な温度と少なくとも同じ、又はそれより高くてもよい温度を含む。例示的な温度は、少なくとも200,250,300、又は350℃、又はそれ以上であってもよく、例えば、350~500℃の範囲の温度、例えば375又は400~425又は450℃であってもよい。
【0036】
プロセスチャンバは、任意の有用な圧力で動作することができ、例示的な圧力は、ほぼ大気圧(760トル)、例えば100~1500トル、例えば250又は500~1000又は1250トルである。金属体上にフッ化マグネシウムを形成するためのプロセスチャンバ内の雰囲気は、分子フッ素源蒸気と相まって、空気である部分を含んでもよい。
【0037】
記載される方法によって金属体の表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成するために使用される時間の量は、温度、プロセスチャンバ内の分子フッ素源蒸気の種類及び量(濃度)、マグネシウム含有金属の種類、並びにフッ化マグネシウム不動態化領域の所望の厚さなどの要因に基づくことができる。有用な時間量の例は、1~15時間、例えば2~13時間、又は3~12時間の範囲であり得る。有用な時間は、有用な、又は好ましい厚さのフッ化マグネシウム不動態化領域を生成する時間であり得る。金属体を分子フッ素源蒸気に継続的に曝露すると、厚さは経時的に増加するが、一定時間後、例えば12時間後、フッ化マグネシウム不動態化領域の厚さはもはや増加し続けない。
【0038】
本明細書で使用される場合、金属体の表面に形成されたフッ化マグネシウムの「領域」を説明する際の「領域」という用語は、金属体の表面及びその下にあり、フッ化マグネシウムを任意に指定された最小濃度で含む金属体の一部を指す。領域は、非連続又は連続領域であり得る。フッ化マグネシウム不動態化領域中のフッ化マグネシウムの濃度は、高く、例えば、少なくとも50、70、90、又は90%であってもよく、典型的には表面でより高く、又は最も高く、表面から遠くなるにつれて徐々に低くなってもよい。表面及びその下にフッ化マグネシウム不動態化領域を形成することは、金属体の表面の上に形成されるのと比較して、表面の上に保護コーティングを形成又は配置することに関与する特定の難事、例えば基板表面の清浄度、(コーティング前の)基板表面調整、コーティング材料と基板との熱膨張係数(CTE)不一致、表面へのコーティングの接着、インターフェース工学などを有利に排除することができる。
【0039】
フッ化マグネシウム不動態化領域は、金属体の表面下で任意の有用な又は所望の厚さに形成することができる。フッ化マグネシウムが表面下に形成される深さ(厚さ)は、形成の時間及び温度、分子フッ素源の種類、並びに金属体の化学組成(例えば、そのマグネシウム含有量)などの要因によって影響を受ける可能性がある。フッ化マグネシウム不動態化領域の有用な又は好ましい厚さは、表面下の指定された深さまでのフッ化マグネシウムの濃度、例えば少なくとも10、20、40、50%のフッ化マグネシウムの濃度の存在によって測定される場合、1~200ナノメートル、例えば5~150ナノメートル、又は25~130ナノメートルの範囲であってもよい。
【0040】
指定された深さ(厚さ)で測定されたフッ化マグネシウムの濃度に基づくフッ化マグネシウム不動態化領域の厚さは、既知の技術によって測定することができる。厚さは、SEM(走査型電子顕微鏡)断面;XPS(X線光電子分光法)深さプロファイリング;及びEDAX(エネルギー破壊型X線マイクロ分析)技術を使用して測定又は推定することができる。
【0041】
フッ化マグネシウム不動態化領域の形成中、金属体のバルク金属領域内のマグネシウムは、金属結晶粒界に沿って金属体の表面に向かって移動する。これにより、フッ化マグネシウム表面不動態化領域、マグネシウム含有金属又は金属合金(例えば、アルミニウム合金)から構成されるバルク領域、及びフッ化マグネシウム表面不動態化領域とバルク領域との間の遷移領域を含む3つの領域を有する金属体が得られる。様々な実施形態によれば、遷移領域では、バルク領域からフッ化マグネシウム表面不動態化領域に向かって、マグネシウム含有金属に対するフッ化マグネシウムの比率が徐々に高くなっている。場合によっては、マグネシウム表面不動態化領域の厚さは、金属体中のフッ化マグネシウムとマグネシウム含有金属との比が約50:50である遷移領域内の点から測定することができる。
【0042】
フッ化マグネシウム不動態化領域は、プロセスチャンバ構成要素、又は望ましくは耐薬品性表面を含むことができる他の物品若しくはデバイスの耐薬品性層として有効である。有用なフッ化マグネシウム不動態化領域は、半導体処理ツールのプロセスチャンバ内で使用されるプロセス材料、例えば、限定されないが酸及びプラズマの、特に長期間の曝露に対する有利なレベルの耐性を示す。他の用途では、フッ化マグネシウム不動態化領域は、生物学的環境を含み得る使用雰囲気(医療用インプラントの表面など)又は周囲空気雰囲気において金属合金の酸化から表面を保護することができる。
【0043】
半導体処理ツールの状況では、「耐性」コーティングとは、半導体処理ツールのプロセスチャンバ内で、酸、塩基、ガスプラズマ、又は他の反応性化学材料などのプロセス材料に曝露されると、使用、特に数週間又は数ヶ月にわたる長期間にわたる使用中、商業的に有用な少量の、好ましくは、以前に使用されていた他の保護コーティング、例えば半導体処理ツールのプロセスチャンバで使用された以前のコーティング、例えば物理蒸着(PVD)又は原子層堆積(ALD)によって塗布されたイットリア又はアルミナコーティングを含むコーティング、及び陽極酸化によって形成された酸化アルミニウム層に比べて一致するか、減少した量の劣化又は化学変化を経験するコーティングである。本開示の好ましいフッ化マグネシウム表面不動態化領域は、半導体処理ツールのプロセスチャンバ内の保護コーティングとして有利に長い耐用寿命、最も好ましくは前述の保護コーティングよりも著しく長い耐用寿命を有することができる。記載されるフッ化マグネシウム表面不動態化領域の劣化の有無は、亀裂、割れ目、又は他の欠陥の領域が検査される光学又は走査電子顕微鏡などの視覚的手段を含む、保護コーティング技術において一般的に使用される様々な技術のいずれかを使用して測定され得る。
【0044】
本明細書に記載されるように、フッ化マグネシウム表面不動態化領域は、半導体処理ツールのプロセス構成要素とは異なる他の製品構造及び種類、例えば医療用デバイス若しくはインプラント、航空機若しくは他の乗り物部品、又は他の構造的若しくは機能的デバイス、物品、又は構造物などで有用であり得、それらは、好ましくは適切な使用環境において不活性である表面を経時的に有する、例えば、劣化若しくは酸化せず、又は環境と、若しくは環境中で反応しない。
【0045】
本明細書に記載の有用なフッ化マグネシウム表面不動態化領域はまた、半導体処理ツールにおける高温(例えば、350~500℃の範囲)での使用中を含む、長期間にわたって耐熱性であり得る。より一般的には、有用又は好ましいフッ化マグネシウム表面不動態化領域は、最大200,300,400,450又は500℃又はそれ以上の温度で長期間にわたって熱劣化への耐性を有し得る。金属体の表面上に堆積された他のタイプの保護コーティングと比較して、本開示のフッ化マグネシウム表面不動態化領域は、高温(例えば、200,300,400,450又は500℃)に長期間曝された場合、CTE誘導熱応力及び/又は他の機構に起因する亀裂、膨れ、又は層間剥離などの減少を示すことによって、高温に対する耐性が改善されたことを示す。
【0046】
本明細書に記載のようにフッ化マグネシウム表面不動態化領域が中に形成されるマグネシウム含有金属は、金属体が記載の方法によって処理されると金属体の表面にフッ化マグネシウム(MgF)を形成させることができる、任意の量のマグネシウムを含有することができる。マグネシウム含有金属中のマグネシウムの有用な濃度は、0.01重量%程度、又はそれ以下であり得、最大濃度は本質的に100%のマグネシウムであり得る。例示的な範囲は、金属体の総重量に基づいて、0.01、0.1、0.5、1、3、又は5重量%~80、90、95、又は99重量超のマグネシウムであってもよい。
【0047】
有用なマグネシウム含有金属合金の例には、商業的及び工業的なデバイス及び構造物において公知かつ有用な一般的及び特別なタイプが含まれる。これらには、純粋なマグネシウム、比較的多量のマグネシウム(例えば、50重量%超)を含有するマグネシウム合金、並びに、より少量のマグネシウム、例えば元素のマグネシウムとして50、40、30、20、又は10%未満のマグネシウムを含有する様々な他の金属合金が含まれる。例の短いリストは、とりわけ、ステンレス鋼、アルミニウム合金、バナジウム合金、マグネシウム合金(例えば、「ステンレスマグネシウム」)、他の種類の鉄合金、ニッケル合金、クロム合金、亜鉛合金を含む。
【0048】
鉄合金、例えば少なくとも少量のマグネシウムも含有する鋼又はステンレス鋼は、金属体として有用であり得る。鋼合金、例えばステンレス鋼は、それぞれ元素形態のクロム(16.5~18.5重量%)、ニッケル(10.5~13.5重量%)、モリブデン(2.0~2.5重量%)、マグネシウム(例えば、少なくとも0.01、0.1、又は1重量%)、炭素、及び残部の鉄の混合物を含むことができる。
【0049】
ニッケル、バナジウム、クロム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、チタン、又は他の金属の有用な合金は、少なくとも40、50、60、70、又は80重量%の単一のそのような卑金属、追加の金属の既知のブレンド、及び少なくとも0.01、0.1、又は1重量%の量のマグネシウムをそれぞれ元素形態で含むことができる。
【0050】
有用なマグネシウム合金は、最大50、60、70、80、90、95、又は99重量%、又はそれ以上のマグネシウムを含有することができる。特定の種類の有用なマグネシウム合金は、「ステンレスマグネシウム」と呼ばれることがあり、マグネシウムとリチウムの組み合わせ、又はマグネシウムとアルミニウムの組み合わせを優勢な量(例えば、少なくとも50、60、70、80、90、95、又は99重量%)で含む。マグネシウムは、酸化マグネシウムの形態ではないことが好ましい。好ましい合金は、わずかな量以下の酸化マグネシウム(MgO)、例えば、1、0.5、0.1、又は0.05重量%未満の酸化マグネシウムを含有することができる。
【0051】
金属体に有用な合金には、アルミニウム合金も含まれ、それは最大40、50、60、70、80、90、93、又は95重量%、又はそれ以上のアルミニウム、一定量のマグネシウム、及び非マグネシウム元素、例えばケイ素、鉄、銅、クロム、亜鉛、チタン、マンガン、又は他の金属のうちの1つ又は混合物を含有する合金を含み得る。
【0052】
半導体処理ツールのプロセスチャンバ構成要素で使用されるアルミニウム合金の例は、アルミニウム6061であり、これは、少なくとも96、97、97.5重量%のアルミニウム、残部のマグネシウム(例えば、0.5又は0.8~1.2重量パーセント)、ケイ素(例えば、0.4~0.8重量パーセント)、鉄(0.0~0.7重量%)、銅(例えば、0.15~0.4重量パーセント)、クロム(例えば、0.04~0.35重量パーセント)、亜鉛(例えば、0.0~0.25重量パーセント)、チタン(例えば、0.0~0.25重量パーセント)及びマンガン(例えば、0.0~0.15重量パーセント)のような量で成分を含有するアルミニウム合金であると考えることができる。より具体的には、アルミニウム6061と呼ばれるアルミニウム合金の例は、約98重量%のアルミニウム、約0.60重量%のケイ素、約0.28重量%の銅、約1.0重量%のマグネシウム、及び約0.2重量%のクロムを含むことができる。
【0053】
アルミニウム6061及び類似のアルミニウム合金(例えば、他の6000系アルミニウム合金)などのアルミニウム合金では、アルミニウム以外及びマグネシウム以外の金属成分の量は、任意の量、例えば本明細書に記載の量であり得る。アルミニウム合金のこのような非マグネシウム成分は、「非マグネシウム不純物」又は「移動性不純物」と呼ぶことができ、アルミニウムマトリックス中に容易に拡散するアルミニウム又はマグネシウム以外の金属種を含む。このような移動性不純物としては、金属、遷移金属、半導体、ガリウム、アンチモン、テルル、ヒ素、ポロニウムなどの半導体化合物を形成し得る元素、例えば、ケイ素、鉄、銅、クロム、亜鉛、チタン、マンガン、又は他の金属の混合物が挙げられる。本開示の方法は、アルミニウム合金が、アルミニウム6061には比較的高いと考えられるそのような不純物の総量を含有しても、例えばアルミニウム合金の0.2、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0又は5.0重量%を超える非マグネシウム不純物又は「移動性不純物」の濃度であっても、アルミニウム合金体の表面に有用なフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成するのに有効である。
【0054】
記載の金属体は、その中にフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成することができ、典型的には、金属表面と大気酸素との接触から形成された一定量の1つ又は複数の金属酸化物を表面上に含むことができる。酸化層は存在する必要はなく、好ましくは最小限に抑えることができる。十分に薄い又は分散した酸化層は、フッ素源への曝露による下地の金属合金表面でのフッ化マグネシウムの形成を過度に妨害又は防止しない。特にアルミニウム6061又は別の6000系アルミニウム合金などのアルミニウム合金の場合、金属酸化物は、例えば表面を陽極酸化することによって、表面に人工的に配置されていないタイプのものであることが好ましい。
【0055】
自然発生する金属酸化物の例示的な厚さは、酸化物の形成中に存在する特定の条件、並びに合金の種類及び特定の組成などの様々な要因に依存する。一般的な金属合金、特にアルミニウム6061又は別の6000系アルミニウム合金などのアルミニウム合金の場合、表面の金属酸化物の厚さは、5、10、又は100、又は500オングストローム程度、最大1000オングストロームであってもよい。ナノメートルの値域、例えば最大3、5、又は10ナノメートル、又はそれ以上など、増加した厚さも可能である。
【0056】
自然発生する金属酸化物は、より少ない量で存在し、陽極酸化などによって合金表面に人工的に生成された金属酸化物の層よりも薄い厚さを有する。アルミニウムの場合、アルミニウム表面(例えば、アルミニウム6061又は別の600系アルミニウム合金)を陽極酸化することによって形成された酸化アルミニウム層は、5又は10ミクロンを超える範囲であってもよい。
【0057】
記載されるようなフッ化マグネシウム表面不動態化領域を有する金属体は、使用環境において望ましくは不活性、耐薬品性であるか、そうでなければ安定である表面を含む任意の構造体、デバイス、物品、又は装置の一部として有用であり得る。金属体は、処理若しくは製造装置、貯蔵容器又は貯蔵装置、医療(生物学的)インプラントなどの医療デバイス、航空機などの乗り物、その他の一部であってもよい。
【0058】
特定の使用では、記載されるフッ化マグネシウム表面不動態化領域を有する金属体は、反応性化学材料を含む液体又はガス状環境内で使用又は動作する製造又は処理装置に有用であり得る。この種の装置の一例は、半導体処理ツールである。
【0059】
本開示の範囲を限定するものではないが、半導体処理ツールは、典型的には、真空で動作するプロセスチャンバを含むことができ、その中で半導体基板が処理される。プロセスチャンバは、半導体基板に適用されるプラズマ、イオン、又はガス若しくは蒸気の形態の分子化合物などの高純度プロセス材料に基板を曝露することによる半導体基板処理を収容し、可能にするために高レベルの真空で動作する。プロセスチャンバは、基板を中へと収容し、外へ運搬し、中で保持し、固定し、支持し、又は移動させるのに有用な構成要素及び表面を含まなければならない。プロセスチャンバはまた、プロセスチャンバに関係するプロセス材料(例えば、プラズマ、イオン、ガス状堆積材料など)を収容、送達、生成、又は除去するのに効果的な構造物のシステムを収容しなければならない。これらの異なるタイプのプロセスチャンバ構成要素の例には、プロセスチャンバの内面を画定する側壁又はライナー、並びにフローヘッド(シャワーヘッド)、シールド、トレイ、支持体、ノズル、バルブ、導管、基板のハンドリング又は保持用のステージ、ウェハハンドリング固定具、セラミックウェハキャリア、ウェハホルダ、サセプター、スピンドル、チャック、リング、バッフル、及び様々なタイプのファスナ(ねじ、ナット、ボルト、クランプ、リベットなど)が含まれる。これらの又は他のタイプのプロセスチャンバ構成要素のいずれも、本明細書に記載されるように、その表面にフッ化マグネシウム表面不動態化領域が形成された金属体の形態で調製することができる。
【0060】
プロセスチャンバ構成要素として有用である金属体は、それとは別に、任意の形状又は任意の形態、例えば平らで平坦な表面(ライナー又は側壁用)を有し得るか、又は追加的若しくは代替的に、開口部、アパーチャー、チャネル、トンネル、ねじ山付きねじ、ねじ山付きナット、多孔質膜、フィルタ、三次元ネットワーク、穴などを含む物理的形状若しくは形態を有することができ、高いアスペクト比を有すると考えられるそのような形体を含む。金属体の表面を高温で分子フッ素源に曝露することによって、本明細書に記載のフッ化マグネシウム表面不動態化領域を形成する方法は、均一で高品質のフッ化マグネシウム表面不動態化領域をそのような表面上、例えば少なくとも20:1、50:1,100:1,200:1、又はさらには500:1のアスペクト比を有する構造物を有する構成要素上に提供するのに有効であり得る。
【0061】
記載されるフッ化マグネシウム表面不動態化領域を有する金属体は、任意のタイプの半導体処理ツールのプロセスチャンバ構成要素、及び任意の温度及び他のプロセス条件で動作する半導体処理ツールで有用であり得る。
【0062】
本開示は、半導体処理ツールを用いた半導体製造プロセス(例えば、イオン注入、堆積工程)で使用されるプロセスチャンバ構成要素の金属体上のフッ化マグネシウム表面不動態化領域の使用に言及することが多いが、フッ化マグネシウム表面不動態化領域を有する記載された金属体は、これらの品目及び用途に限定されない。記載される固体物の他の用途の例には、他の環境、例えば、高真空環境、生物学的環境、又は周囲(例えば、空気)環境における、金属体の表面の不活性及び耐薬品性を高めるための使用が含まれる。
【実施例
【0063】
実施例1
フッ化マグネシウム表面不動態化領域を、アルミニウム合金(6061Al)試験クーポンの表面に、試験クーポンを400℃で約4時間フッ素含有蒸気に曝露することによって形成した。次いで、集束イオンビーム走査電子顕微鏡(FIB SEM)、X線粉末回折(XRD)及びX線光電子分光法(XPS)を使用して試験クーポンを評価した。試験クーポンを、反応性イオンエッチング(RIE-F)に対する耐性及び濃硝酸(HNO)に対する耐性についても評価した。
【0064】
図2Aは、金属試験クーポンの断面のFIB-SEM画像である。FIB-SEM分析を行うために必要な導電性コーティング10が断面に見える。金属試験クーポンの表面に形成されたフッ化マグネシウムを含む表面不動態化領域12は、導電性コーティング10の下に存在する。金属試験クーポン内の表面不動態化領域12の厚さは、約100nmである。フッ化マグネシウムで装飾された結晶粒界14、及びアルミニウム合金(6061Al)を含むバルク領域16も見える。
【0065】
図2Bは、FIB-SEMによって撮影された金属試験クーポン断面のトップダウン画像である。トップダウン画像には、サイズが約50~100nmの範囲の微結晶が見える。
【0066】
X線光電子分光法(XPS)及びX線粉末回折(XRD)も使用して、金属試験クーポンを評価した。XPSにより得られたスペクトルを図3に示す。図3のスペクトルから分かるように、表面外因性炭素及び酸素を含む非常に薄い層があり、これは10秒未満でエッチング除去される。次の80nmは、15at%未満のAlを含むMgFである。表面が深くエッチングされるにつれて、MgFとAlとの混合はよりAlリッチになり、200nmの深さで約50at%に達する。表面がさらに深くエッチングされるにつれて、Al含有量が増加し、F:Mg比は2:1付近に留まり、MgFがMgの主要な状態であることを示す。
【0067】
XRDスペクトルを図4に示す。XRDスペクトルは、FIB-SEM及びXPS分析と一致するアルミニウム及びフッ化マグネシウムの符号を示し、表面不動態化層中のフッ化マグネシウムが多結晶性であり、セラアイト(MgF)、粉末回折ファイル072-2231と一致する結晶構造を有することを明らかにする。
【0068】
試験クーポンを反応性イオンエッチング(RIE-F)に供した。フッ化マグネシウム表面不動態化領域の厚さをエッチング時間の関数としてプロットして、図5に示すチャートを作成した。データは、6061アルミニウム試験クーポンの表面に形成されたフッ化マグネシウム表面不動態化領域のエッチング速度が1μm/時間未満、特に約0.06μm/時間であることを実証している。
【0069】
実施例2
6061Alの試験クーポンには、種々の処理を施して表面を保護した。次いで、各試験クーポンを濃縮HNO溶液に浸し、溶液をICP-MSによって金属含有量について分析した。酸浸漬に供した種々の試験クーポンの金属含有量を表1に示す。
【0070】
表1のデータは、フッ化マグネシウム表面不動態化領域を含む試験クーポンでは、2つの方法のいずれかによって陽極酸化された同等の試験クーポン又は未処理の試験クーポンよりも、浸出した金属のレベルが低いことを示す。特に、試験データは、未処理の6061Al試験クーポンが、アルミニウム(Al)の予想される浸出に加えて、銅(Cu)、鉛(Pb)、及びマグネシウム(Mg)を高レベルで浸出することを明らかにする。タイプII陽極酸化は、マグネシウム(Mg)浸出を改善するが、他の望ましくない不純物、例えばビスマス(Bi)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、及び亜鉛(Zn)が増える。シュウ酸による陽極酸化は、タイプIIよりも清浄な表面を生成するが、依然として卑金属中に存在しない新たな不純物が加わる。フッ化マグネシウム表面不動態化領域は、アルミニウムを下げるとともに、マグネシウム、銅及び鉛のほとんどすべてを除去するのに有効である。
【0071】
このように本開示のいくつかの例示的な実施形態を説明してきたが、当該技術分野の当業者は、添付の特許請求の範囲内でさらに他の実施形態を作成及び使用することができることを容易に理解するであろう。本文書によって網羅される本開示の多くの利点は、前述の説明に記載されている。しかしながら、本開示は、多くの点で例示にすぎないことが理解されよう。本開示の範囲を超えることなく、詳細、特に部品の形状、サイズ、及び配置に関して変更を加えることができる。本開示の範囲は、当然のことながら、添付の特許請求の範囲が表現される言語で定義される。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5