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特許7460843(メタ)アクリル系重合体の再生システム、(メタ)アクリル系重合体の再生方法、および(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法
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  • 特許-(メタ)アクリル系重合体の再生システム、(メタ)アクリル系重合体の再生方法、および(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル系重合体の再生システム、(メタ)アクリル系重合体の再生方法、および(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/12 20060101AFI20240326BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C08J11/12 CEY
C07C69/54
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023184770
(22)【出願日】2023-10-27
【審査請求日】2023-10-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角谷 英則
(72)【発明者】
【氏名】安富 陽一
(72)【発明者】
【氏名】塚本 昌利
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特許第7297134(JP,B1)
【文献】特許第7304500(JP,B1)
【文献】特開2009-112902(JP,A)
【文献】特開2015-168798(JP,A)
【文献】特許第7297177(JP,B2)
【文献】特許第7233594(JP,B2)
【文献】特許第7304477(JP,B2)
【文献】国際公開第2014/040934(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1579116(KR,B1)
【文献】特開平11-106427(JP,A)
【文献】特表2013-531088(JP,A)
【文献】特表2022-520072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/12
C07C 69/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行う熱分解部と、前記熱分解部で発生する熱分解ガスを処理する熱分解ガス処理部と、前記熱分解部と前記熱分解ガス処理部とを連結する連結部と、を備え、
前記熱分解部は、(メタ)アクリル系重合体を含む原料を投入する原料投入口と、熱分解ガスを抜き出すガス抜き出し口と、を備える熱分解機を含み、
前記連結部は、前記熱分解機のガス抜き出し口から抜き出された熱分解ガスに含まれる不純物を除去する除去部を含み、
前記除去部は、熱分解ガスを流通させる管と、前記管の内部に配置されて不純物を吸着又は吸収する吸着剤又は吸収剤と、を含む、(メタ)アクリル系重合体の再生システム。
【請求項2】
前記連結部における前記熱分解機のガス抜き出し口から前記除去部までの部分は、Ti、ZrおよびTaからなる群より選択される材質からなる、請求項1に記載の再生システム。
【請求項3】
前記熱分解部と前記除去部との間、または前記除去部と前記熱分解ガス処理部との間に配置される圧力計をさらに備える、請求項1に記載の再生システム。
【請求項4】
前記連結部は、前記除去部と前記熱分解ガス処理部との間に配置されて熱分解ガスを冷却する冷却部をさらに含む、請求項1に記載の再生システム。
【請求項5】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の再生システムにおける熱分解部に(メタ)アクリル系重合体を含む原料を投入する工程と、
前記熱分解部で発生する熱分解ガスに含まれる不純物を前記除去部において除去する工程と、
前記除去部において不純物が除去された熱分解ガスを前記熱分解ガス処理部において処理する工程と、を含む、(メタ)アクリル系重合体の再生方法。
【請求項6】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の再生システムにおける熱分解部に(メタ)アクリル系重合体を含む原料を投入する工程と、
前記熱分解部で発生する熱分解ガスに含まれる不純物を前記除去部において除去する工程と、
前記除去部において不純物が除去された熱分解ガスを前記熱分解ガス処理部において処理する工程と、を含む、(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、(メタ)アクリル系重合体の再生システム、(メタ)アクリル系重合体の再生方法、および(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル基を有するモノマーを重合して得られる(メタ)アクリル系重合体は、透明性に優れており、さらには耐候性にも優れている。よって、(メタ)アクリル系重合体は、自動車用部品、看板標識、表示装置等を構成する部材の材料として、広く用いられている。
【0003】
近年の資源価格の高騰、さらには環境問題に対する意識の高まりに伴って、上記のとおりの種々の用途に用いられた(メタ)アクリル系重合体を含む製品(成形体)を回収してリサイクル(再資源化)する動きが広まっている。
【0004】
(メタ)アクリル系重合体を含む成形体のリサイクルの方法としては、例えば、回収された成形体に対し、再度、成形工程を実施して新たな成形体を製造するマテリアルリサイクル、回収された成形体を熱分解(解重合)して得られる熱分解物としてのモノマーを回収し、このモノマーを用いて新たな成形体を製造するケミカルリサイクル、および回収された成形体を燃焼して得られる燃焼エネルギーを直接的な熱源あるいは発電機により変換された電力として利用するサーマルリサイクルが挙げられる。
【0005】
(メタ)アクリル系重合体は、300℃から500℃程度の比較的低い温度で加熱することによって熱分解物であるモノマーを高収率で回収することができる。このため、(メタ)アクリル系重合体は、ケミカルリサイクルによるリサイクルに適している。
【0006】
(メタ)アクリル系重合体を含む成形体は、ポリ塩化ビニルのような塩素を含む樹脂からなる部材(ガスケット等)が付随していたり、水分が付着していたりする場合がある。このような状態の成形体の熱分解を実施すると、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーを含む熱分解ガスとともに塩素ガス、水蒸気等の不純物ガスが発生するおそれがある。熱分解ガスに不純物ガスが混入すると、熱分解ガスをリサイクルして得られる製品の品質が低下するおそれがある。
さらに、塩素ガスと水蒸気とが反応して発生する塩酸がリサイクル処理装置の腐食の原因となるおそれがある。
【0007】
特許文献1には、被処理物の熱分解を実施する前に、被処理物の熱分解が促進される温度よりも低い温度で熱分解炉を一定時間維持することで、塩素を含むガスをあらかじめ発生させる装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-11299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された装置では、被処理物を熱分解する工程が塩素を含むガスを発生させる工程によって中断されるため、作業効率に改善の余地がある。
本開示は、(メタ)アクリル系重合体から得られる熱分解ガスへの不純物ガスの混入を抑制でき、かつ作業効率に優れる(メタ)アクリル系重合体の再生システム、(メタ)アクリル系重合体の再生方法、および(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
<1>(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行う熱分解部と、前記熱分解部で発生する熱分解ガスを処理する熱分解ガス処理部と、前記熱分解部と前記熱分解ガス処理部とを連結する連結部と、を備え、
前記熱分解部は、(メタ)アクリル系重合体を含む原料を投入する原料投入口と、熱分解ガスを抜き出すガス抜き出し口と、を備える熱分解機を含み、
前記連結部は、前記熱分解機のガス抜き出し口から抜き出された熱分解ガスに含まれる不純物を除去する除去部を含む、(メタ)アクリル系重合体の再生システム。
<2>前記連結部における前記熱分解機のガス抜き出し口から前記除去部までの部分は、Ti、Zr、Taおよびハステロイからなる群より選択される材質からなる、<1>に記載の再生システム。
<3>前記除去部は、熱分解ガスを流通させる管と、前記管の内部に配置されて不純物を吸着又は吸収する吸着剤又は吸収剤と、を含む、<1>または<2>に記載の再生システム。
<4>前記熱分解部と前記除去部との間、または前記除去部と前記熱分解ガス処理部との間に配置される圧力計をさらに備える、<1>~<3>のいずれか1項に記載の再生システム。
<5>前記連結部は、前記除去部と前記熱分解ガス処理部との間に配置されて熱分解ガスを冷却する冷却部をさらに含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の再生システム。
<6><1>~<5>のいずれか1項に記載の再生システムにおける熱分解部に(メタ)アクリル系重合体を含む原料を投入する工程と、
前記熱分解部で発生する熱分解ガスに含まれる不純物を前記除去部において除去する工程と、
前記除去部において不純物が除去された熱分解ガスを前記熱分解ガス処理部において処理する工程と、を含む、(メタ)アクリル系重合体の再生方法。
<6><1>~<5>のいずれか1項に記載の再生システムにおける熱分解部に(メタ)アクリル系重合体を含む原料を投入する工程と、
前記熱分解部で発生する熱分解ガスに含まれる不純物を前記除去部において除去する工程と、
前記除去部において不純物が除去された熱分解ガスを前記熱分解ガス処理部において処理する工程と、を含む、(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、(メタ)アクリル系重合体から得られる熱分解ガスへの不純物ガスの混入を抑制でき、かつ作業効率に優れる(メタ)アクリル系重合体の再生システム、(メタ)アクリル系重合体の再生方法、および(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】再生システムの構成の一例を示す概略的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示において「(メタ)アクリル」には、アクリル、メタクリルおよびこれらの組み合わせが含まれる。
【0014】
本開示において「(メタ)アクリル系重合体」は、(メタ)アクリル基を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体を意味する。
(メタ)アクリル系重合体としては、例えば、炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルに由来する単量体単位のみを含む(メタ)アクリル単独重合体;炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルに由来する単量体単位を、85質量%以上100質量%未満と、炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルに由来する単量体単位と共重合可能な他のビニル単量体に由来する単量体単位を0質量%を超えて15質量%以下とを有する(メタ)アクリル共重合体が挙げられる。
【0015】
炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル」とは、例えばCH=C(CH)COOR(Rは炭素原子数1~4のアルキル基である。)で表される化合物である。
【0016】
炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルと共重合可能なビニル単量体とは、炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能であり、かつビニル基を有する単量体である。
【0017】
炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、およびメタクリル酸イソブチルが挙げられる。炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルは、好ましくはメタクリル酸メチルである。
【0018】
炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルと共重合可能なビニル単量体としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸モノグリセロールなどのメタクリル酸エステル(ただし、炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルを除く。);アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸モノグリセロール等のアクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸またはこれらの酸無水物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等の窒素含有モノマー;アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有単量体;スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体が挙げられる。
【0019】
<(メタ)アクリル系重合体の再生システム>
本開示の一実施形態は、
(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行う熱分解部と、前記熱分解部で発生する熱分解ガスを処理する熱分解ガス処理部と、前記熱分解部と前記熱分解ガス処理部とを連結する連結部と、を備え、
前記熱分解部は、(メタ)アクリル系重合体を含む原料を投入する原料投入口と、熱分解ガスを抜き出すガス抜き出し口と、を備える熱分解機を含み、
前記連結部は、前記熱分解機のガス抜き出し口から抜き出された熱分解ガスに含まれる不純物を除去する除去部を含む、(メタ)アクリル系重合体の再生システムである。
【0020】
本開示の再生システムは、(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行うことで(メタ)アクリル系重合体の再生処理を行う。すなわち、本開示の再生システムによれば、(メタ)アクリル系重合体の熱分解物としての(メタ)アクリル基を有するモノマーを得ることができる。
本開示の再生システムは、原料の熱分解工程を中断することなく熱分解ガスから不純物を取り除くことができるため、作業効率に優れている。
【0021】
(熱分解部)
本開示の再生システムは、(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行う熱分解部を含む。
熱分解部は、(メタ)アクリル系重合体を含む原料を投入する原料投入口と、熱分解ガスを抜き出すガス抜き出し口と、を備える熱分解機を含む。
【0022】
本開示において熱分解部とは、熱分解機を含む。熱分解機としては、押出機、ニーダー、および流動床加熱器が挙げられる。本開示の実施形態において、熱分解機は、押出機を含むことが好ましい。押出機とは、筒状の部材(シリンダ)の内部に配置されたスクリューを回転させて、シリンダの上流側から投入された原料を溶融状態にして下流側に搬送する機構を備える装置を意味する。本開示の実施形態において、熱分解機として好適に適用できるニーダーとしては、例えば、米国特許第10301235号明細書に記載の装置が挙げられる。本開示の実施形態において、熱分解機として好適に適用できる流動床加熱器としては、例えば、特開2009-112902号公報に記載の装置が挙げられる。
本開示では、熱分解機として押出機を採用することが好ましい。(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行う装置(熱分解機)として押出機を採用することで、熱分解処理を効率よく行うことができる。
【0023】
熱分解部に含まれる押出機の種類は特に制限されず、公知の二軸押出機または一軸押出機を利用できる。(メタ)アクリル系重合体を含む原料の熱分解を効率よく行う観点からは、押出機は、二軸同方向回転押出機、二軸異方向回転押出機などの二軸押出機であることが好ましい。
押出機を構成するシリンダ、スクリュー等の構成要素としては、公知の構成を特に制限なく採用することができる。
【0024】
熱分解機は、原料投入口およびガス抜き出し口をこの順に(すなわち、原料の流動方向の上流側から)備える。原料投入口およびガス抜き出し口の構成は特に制限されず、公知の構成を特に特に制限なく採用することができる。
【0025】
熱分解機が押出機である場合、その原料投入口は、(メタ)アクリル系重合体を含む原料を押出機のシリンダ内に投入するのに適した状態であれば特に制限されない。
熱分解ガスの回収効率の観点からは、原料投入口は、熱分解機の上流側の端部近傍に配置されることが好ましい。原料投入口の向きは、重力方向において上向きであることが好ましい。
【0026】
熱分解機のガス抜き出し口は、(メタ)アクリル系重合体の熱分解ガスを熱分解機から抜き出すのに適した構成であれば、特に制限されない。
熱分解ガスの回収効率の観点からは、ガス抜き出し口は、熱分解機の下流側の端部近傍に配置されることが好ましい。ガス抜き出し口の向きは、重力方向において上向きであることが好ましい。
【0027】
熱分解機の材質は特に制限されず、公知の材質を特に制限なく採用することができる。
ただし、熱分解機に供給される原料が塩素および水を含有する場合は、塩素と水分との反応により塩酸が発生するおそれがある。
【0028】
熱分解機の原料投入口とガス抜き出し口との間には、不純物ガスを排出するための不純物ガス排出口が設けられていてもよい。これにより、原料投入口から投入された原料に含まれうる不純物が熱分解ガスに混入するのを抑制できる。その結果、後述する除去部における不純物の除去をより確実に行うことができる。
【0029】
不純物ガスと熱分解ガスとの混合を抑制する観点から、熱分解機は、原料投入口と不純物ガス排出口との間の領域の温度と、不純物ガス排出口とガス抜き出し口との間の領域の温度とを、それぞれ独立して調節可能であってもよい。すなわち、原料投入口と不純物ガス排出口との間の領域の温度と、不純物ガス排出口とガス抜き出し口との間の領域の温度とは、異なる温度に設定されることができる。不純物ガス排出口とガス抜き出し口との間の領域の温度は、原料投入口と不純物ガス排出口との間の領域の温度よりも高温に設定されることが好ましい。
【0030】
例えば、原料投入口と不純物ガス排出口との間の領域の温度を不純物ガスが発生する温度以上、かつ(メタ)アクリル系重合体の熱分解開始温度未満となるように調節し、不純物ガス排出口とガス抜き出し口との間の領域の温度を(メタ)アクリル系重合体の熱分解開始温度となるように調節してもよい。
【0031】
原料投入口と不純物ガス排出口との間の領域の温度を不純物ガスが発生する温度以上、かつ(メタ)アクリル系重合体の熱分解開始温度未満となるように調節することで、当該領域における原料から不純物ガスを選択的に発生させ、除去することができる。その結果、熱分解機内を搬送される原料から発生する不純物ガスの熱分解ガスへの混入を効果的に避けることができる。
熱分解機の温度を調節する手段としては、公知の手段を特に制限されず採用することができる。
【0032】
不純物ガスの熱分解ガスへの混入を避ける観点から、熱分解機は、不純物ガス排出口とガス抜き出し口との間に配置されるシール部材を有してもよい。
熱分解機が押出機である場合、シール部材は、押出機のスクリューの軸の周囲に設けられる。シール部材は、例えば、不純物ガス排出口から排出されずにシリンダ内に残存する不純物ガスがガス抜き出し口まで移動するのを抑制することができる。
シール部材としては、スクリューのエレメントを導入することが挙げられる。スクリューのエレメントとしては、シールリング、逆フライト構造を有するエレメント、および逆ニーディング構造を有するエレメントが挙げられる。これらは、樹脂の流動を滞留又は逆転させることで樹脂だまりを形成し、これにより不純物ガスが不純物ガス排出口から排出しやすくなる。シール部材としては、大きさや材質を考慮して適宜の市販品を採用すればよい。
【0033】
熱分解機は、上述した構成要素以外の構成要素を含んでいてもよい。
例えば、熱分解機は、残渣排出口をさらに備えていてもよい。残渣排出口は、(メタ)アクリル系重合体を含む原料の熱分解処理で生じた未分解成分を含む残渣を熱分解機外に排出する。
残渣排出口は、熱分解機の下流側の端部近傍に設けられることが好ましい。残渣排出口の向きは、重力方向において下向きであることが好ましい。
【0034】
熱分解機に投入される(メタ)アクリル系重合体を含む原料としては、(メタ)アクリル系重合体の成形体が挙げられる。成形体の種類は特に制限されず、キャスト成形体、押出成形体等の公知の成形体から選択できる。
熱分解処理の費用対効果などの観点からは、(メタ)アクリル系重合体の成形体はキャスト成形体であることが好ましい。
【0035】
(メタ)アクリル系重合体を含む原料は、(メタ)アクリル系重合体のみからなっても、(メタ)アクリル系重合体と、(メタ)アクリル系重合体と異なる成分を含んでいてもよい。
(メタ)アクリル系重合体と異なる成分としては、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリエステル等の(メタ)アクリル系重合体と異なる重合体、添加剤等が挙げられる。
添加剤としては、フィラー、着色剤、紫外線防止剤、離型剤等が挙げられる。
【0036】
原料に含まれる(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸メチル(MMAまたはMA)の重合体であるポリ(メタ)アクリル酸メチル(PMMAまたはPMA)であってもよい。
【0037】
(メタ)アクリル系重合体を含む原料は、スクラップの状態であってもよい。
本開示において「スクラップ」とは、所定の用途に使用された後に回収された廃棄品、製品の製造工程時に発生する不良品や端材などであって、熱分解処理の原料として用いることができるように形状およびサイズが調整されたものを意味する。
【0038】
熱分解機を用いて原料の熱分解を実施する際の条件は特に限定されず、処理対象の原料の性状、組成等を考慮して設定できる。
【0039】
熱分解工程における圧力は、空気の系内への漏れ込み防止および分解ガスの系外への漏洩防止の観点から、好ましくは0.005MPa~1.5MPaであり、より好ましくは0.01MPa~0.3MPaである。
【0040】
熱分解工程における熱分解部の温度(例えば、押出機のシリンダ温度)は、熱分解効率の観点から、通常は400℃~500℃とすることができる。原料が純粋な(メタ)アクリル系重合体である場合には、好ましくは450℃~470℃である。
【0041】
熱分解工程における押出機のスクリュー回転数は、押出機の安定運転の観点から、通常は500rpm~1500rpmとすることができる。原料が純粋な(メタ)アクリル系重合体である場合には、好ましくは500rpm~1000rpmである。
【0042】
熱分解工程における原料の供給量は、熱分解部の規模(例えば、押出機のシリンダの径)によって異なり、通常は10kg/時間~5000kg/時間とすることができる。例えば、シリンダの径が47mmである場合には、好ましくは40kg/時間~90kg/時間である。
【0043】
(熱分解ガス処理部)
熱分解ガス処理部は、熱分解部で発生する熱分解ガスを処理する。
熱分解ガスの処理方法は特に制限されず、公知の方法から選択できる。
熱分解ガスを処理する手段としては、熱分解ガスを冷却して液化する冷却器、熱分解ガスに含まれる(メタ)アクリル基を有するモノマーの純度を高めるための精製器、冷却により液化した(メタ)アクリル基を有するモノマーを貯蔵するタンク等の公知の手段を特に制限なく、必要に応じて組み合わせて採用することができる。
【0044】
(連結部)
連結部は、熱分解部と熱分解ガス処理部とを連結する。より詳細には、連結部は、熱分解部に含まれる熱分解機のガス抜き出し口と熱分解ガス処理部とを連結する。
連結部の形態は特に制限されず、公知の配管等の連結手段を特に制限なく採用することができる。
【0045】
連結部は、熱分解機のガス抜き出し口から抜き出された熱分解ガスに含まれる不純物を除去する除去部を含む。
除去部により除去される不純物としては、塩素、水、塩素と水とが反応して生成した塩化水素等が挙げられる。
【0046】
除去部は、例えば、熱分解ガスを流通させる管と、前記管の内部に配置されて不純物を吸着又は吸収する吸着剤又は吸収剤と、を含む。
除去部を上記構成とすることで、熱分解部から熱分解ガス処理部への熱分解ガスの移送を継続しながら不純物の除去を行うことができる。
【0047】
除去部に含まれる吸着剤の種類は特に制限されず、除去対象の不純物の種類、濃度等に応じて選択できる。
吸着剤として具体的には、アルミナ、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化鉄、水酸化鉄、炭素、ゼオライト、酸化鉄および/または金属鉄と炭素とからなる複合体、酸化カルシウムと炭素とからなる複合体、酸化鉄および/または金属鉄と炭酸カルシウムおよび/または酸化カルシウムと炭素とからなる複合体などが挙げられる。
吸収剤として具体的には、還元剤と塩基とを含む水溶液が挙げられる。この水溶液と熱分解ガスとを接触させることで、熱分解ガス中の不純物を吸収することができる。塩基は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウム(NaHCO)からなる群から選択することが好ましい。また還元剤は、亜硫酸ナトリウム、過酸化水素、チオ硫酸ナトリウム及び重亜硫酸(又は亜硫酸水素)ナトリウム(NaHSO)からなる群から選択することが好ましい。
除去部に含まれる吸着剤又は吸収剤は、1種でも2種以上であってもよい。
【0048】
除去部を通過する熱分解ガスからの不純物の除去効率を高める観点からは、吸着剤は、熱分解ガスとの接触面積が大きいことが好ましい。かかる観点から、吸着剤は粒子状であることが好ましい。
【0049】
熱分解部に供給される原料が塩素および水を含有する場合は、塩素と水分との反応により塩酸が発生するおそれがある。このため、連結部における熱分解機のガス抜き出し口から除去部までの部分は、耐腐食性に優れる材質からなることが好ましい。耐腐食性に優れる材質としては、Ti、Zr、Ta、ハステロイ(登録商標)等が挙げられる。
【0050】
連結部は、熱分解部と除去部との間、または除去部と熱分解ガス処理部との間に配置される圧力計をさらに備えてもよい。
連結部を移送される熱分解ガスは重合性物質を含むため、重合性物質に起因する管の閉塞が生じるおそれがある。連結部に圧力計を設けることで、重合性物質の重合に伴う管の閉塞の発生を差圧の発生によって予知することができ、管の交換を計画的に行うことができる。
【0051】
連結部は、熱分解ガスを冷却するための冷却部を備えていてもよい。
連結部が冷却部を備えていることで、熱分解部から熱分解ガス処理部に移送される熱分解ガスの発火爆発を効果的に防止することができる。
【0052】
連結部が冷却部を備える場合、冷却部は、不純物の除去部と熱分解ガス処理部との間に設けられることが好ましい。
【0053】
冷却部は、熱分解ガスを流通させる管の外表面に冷媒が接触した状態か、または管の内部を冷媒が通過して熱分解ガスを冷却する状態であってよい。冷却部として具体的には、内部に冷媒)を流通させることができる二重管熱交換器が挙げられる。
冷媒としては、水、空気、油、溶融塩および水蒸気からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0054】
熱分解ガスを流通させる管は、1つの管部からなっても、2以上の管部が接続部で接続された状態であってもよい。接続部として具体的には、フランジ接続部およびねじ込み接続部が挙げられる。
熱分解ガスを流通させる管が接続部を含む場合、熱分解部から最も近い位置の接続部と、熱分解部との間の領域の少なくとも一部(好ましくは全領域)に、冷却部を設けることが好ましい。
充分な冷却効果を得ながら熱分解ガスの発火爆発を効果的に防止する観点からは、熱分解部から最も近い位置の接続部と、熱分解部との間の領域の長さは、熱分解ガスを流通させる管の全長を100%としたときに、5%~50%であることが好ましく、5%~15%であることがより好ましい。
【0055】
冷却部は、熱分解ガスを、熱分解ガスの沸点以上かつ発火点未満の温度まで冷却することができるものであることが好ましい。
具体的には、(メタ)アクリル酸メチルを含む熱分解ガスの沸点(100℃程度)以上かつ(メタ)アクリル酸メチルを含む熱分解ガスの発火点(421℃程度)未満の温度まで熱分解ガスを冷却できることが好ましい。
冷却部によって冷却された後の熱分解ガスの温度は、例えば、200℃~410℃とすることが好ましく、300℃~400℃とすることがより好ましい。
【0056】
再生システムは、熱分解部、熱分解ガス処理部および連結部に加え、各種の構成要素を備えてもよい。
例えば、再生システムは熱分解装置に原料を供給する原料供給部、熱分解装置から排出された残渣を貯蔵する残渣貯蔵部等を備えてもよい。
【0057】
(原料供給部)
原料供給部は、熱分解装置に原料を供給する。
熱分解装置に原料を供給する方法は特に制限されず、公知の方法から選択できる。
原料供給部は、原料の破砕等の加工を行う加工器、原料に含まれる異物を検知する検知器、原料の投入量を制御する計量器等を備えてもよい。
【0058】
(残渣貯蔵部)
残渣貯槽部は、熱分解装置から排出された残渣を貯蔵する。
残渣の貯蔵方法は特に制限されず、公知の方法から選択できる。
残渣貯蔵部は、残渣を処分可能な状態に加工する加工器等を備えてもよい。
【0059】
<(メタ)アクリル系重合体の再生方法>
本開示の一実施形態は、
上述した本開示の再生システムにおける熱分解部に(メタ)アクリル系重合体を含む原料を投入する工程と、
前記熱分解部で発生する熱分解ガスに含まれる不純物を前記除去部において除去する工程と、
前記除去部において不純物が除去された熱分解ガスを前記熱分解ガス処理部において処理する工程と、を含む、(メタ)アクリル系重合体の再生方法である。
【0060】
本開示の再生方法によれば、(メタ)アクリル系重合体を熱分解して得られる熱分解ガスへの不純物の混入を抑制しながら(メタ)アクリル系重合体の再生処理を効率的に行うことができる。
【0061】
作業効率の観点からは、熱分解部に原料を投入する工程と、熱分解部で発生する熱分解ガスに含まれる不純物を除去する工程と、不純物が除去された熱分解ガスを処理する工程とは、並行して実施することが好ましい。
【0062】
本開示の再生方法によれば、原料に含まれる(メタ)アクリル系重合体が熱分解によって(メタ)アクリル基を有するモノマーの状態に再生される。
再生された(メタ)アクリル基を有するモノマーは、例えば、(メタ)アクリル系重合体の原料モノマーとして利用される。
【0063】
本開示の再生方法で得られる(メタ)アクリル基を有するモノマーは、(メタ)アクリル酸メチルを含んでもよい。
本開示の再生方法で得られる(メタ)アクリル基を有するモノマーは、(メタ)アクリル酸メチルと、不可避的に含まれうる(メタ)アクリル酸メチル以外のモノマー(イソ酪酸メチル、プロピオン酸メチル、アクリル酸メチル等)との混合物であってもよい。この場合、混合物中の(メタ)アクリル酸メチル以外のモノマーは除去しても、除去しなくてもよい。
【0064】
<(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法>
本開示の一実施形態は、
上述した本開示の再生システムにおける熱分解部に(メタ)アクリル系重合体を含む原料を投入する工程と、
前記熱分解部で発生する熱分解ガスに含まれる不純物を前記除去部において除去する工程と、
前記除去部において不純物が除去された熱分解ガスを前記熱分解ガス処理部において処理する工程と、を含む、(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法である。
【0065】
本開示の製造方法によれば、(メタ)アクリル系重合体を熱分解して得られる熱分解ガスへの不純物の混入を抑制しながら(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造を効率的に行うことができる。
【0066】
作業効率の観点からは、熱分解部に原料を投入する工程と、熱分解部で発生する熱分解ガスに含まれる不純物を除去する工程と、不純物が除去された熱分解ガスを処理する工程とは、並行して実施することが好ましい。
【0067】
不純物を除去する工程は、塩素及びこれに由来する不純物を除去する工程(以下、塩素除去工程ともいう)であってもよいし、水及びこれに由来する不純物を除去する工程(以下、水除去工程ともいう)であってもよいし、これらの工程を両方備える工程であってもよい。不純物を除去する工程が塩素除去工程と水除去工程の両方を備える場合、塩素除去工程と水除去工程の順番は特に限定されず、採用する吸着剤又は吸収剤の性質を考慮して適宜決めることができるが、塩素除去工程を先に行うのが好ましい。不純物として塩素及び水の両方を除去する場合、装置の腐食等の劣化を抑制する観点から、熱分解ガスを高温に維持した状態で行うのが好ましい。
【0068】
本開示の製造方法によれば、原料に含まれる(メタ)アクリル系重合体の熱分解物としての(メタ)アクリル基を有するモノマーが得られる。
熱分解物として得られた(メタ)アクリル基を有するモノマーは、例えば、(メタ)アクリル系重合体の原料モノマーとして利用される。
【0069】
本開示の製造方法で得られる(メタ)アクリル基を有するモノマーは、例えば、(メタ)アクリル系重合体の原料モノマーとして利用される。
【0070】
本開示の製造方法で得られる(メタ)アクリル基を有するモノマーは、(メタ)アクリル酸メチルを含んでもよい。
本開示の製造方法で得られる(メタ)アクリル基を有するモノマーは、(メタ)アクリル酸メチルと、不可避的に含まれうる(メタ)アクリル酸メチル以外のモノマー(イソ酪酸メチル、プロピオン酸メチル、アクリル酸メチル等)との混合物であってもよい。この場合、混合物中の(メタ)アクリル酸メチル以外のモノマーは除去しても、除去しなくてもよい。
【0071】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について具体的に説明する。なお、各図面に示される構成要素は本開示の要旨から逸脱しない範囲で改変可能である。
【0072】
図1は、本開示の再生システムの構成の一例を概略的に示す図である。
図1に示されるように、再生システム100は、熱分解部10と、熱分解ガス処理部20と、連結部30と、原料供給部40と、残渣貯蔵部50と、を含んでいる。
連結部30は、熱分解ガスに含まれる不純物を除去する除去部30Aと、熱分解ガスを冷却する冷却部30Bと、を含んでいる。
【0073】
熱分解部10は、図示しない熱分解機を含んでいる。
熱分解ガス処理部20は、熱分解部10に含まれる熱分解機のガス抜き出し口と接続される。
原料供給部40は、熱分解部10に含まれる熱分解機の原料投入口と接続される。
残渣貯蔵部50は、熱分解部10に含まれる熱分解機の残渣排出口と接続される。
【0074】
熱分解部10に含まれる熱分解機の原料投入口から投入される(メタ)アクリル系重合体を含む原料は、熱分解機の内部(例えば、押出機のシリンダの内部)で軟化して流動性を発現し、例えば熱分解機内にある回転するスクリューなどの手段によって熱分解機のガス抜き出し口に向けて搬送される。
熱分解機のガス抜き出し口から抜き出された熱分解ガスは、熱分解ガス処理部20に移送される際に、連結部30に設けられた除去部30Aおよび冷却部30Bを通過する。
熱分解ガスが除去部30Aを通過することで、熱分解ガスに含まれる不純物が除去される。
熱分解ガスが冷却部30Bを通過することで、熱分解ガスの発火爆発が防止される。
【符号の説明】
【0075】
10:熱分解部
20:熱分解ガス処理部
30:連結部
30A:除去部
30B:冷却部
40:原料供給部
50:残渣貯蔵部
100:再生システム
【要約】
【課題】(メタ)アクリル系重合体から得られる熱分解ガスへの不純物ガスの混入を抑制でき、かつ作業効率に優れる(メタ)アクリル系重合体の再生システム、(メタ)アクリル系重合体の再生方法、および(メタ)アクリル基を有するモノマーの製造方法を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル系重合体の熱分解を行う熱分解部10と、前記熱分解部10で発生する熱分解ガスを処理する熱分解ガス処理部20と、前記熱分解部10と前記熱分解ガス処理部20とを連結する連結部30と、を備え、前記熱分解部10は、(メタ)アクリル系重合体を含む原料を投入する原料投入口と、熱分解ガスを抜き出すガス抜き出し口と、を備える熱分解機を含み、前記連結部30は、前記熱分解機のガス抜き出し口から抜き出された熱分解ガスに含まれる不純物を除去する除去部30Aを含む、(メタ)アクリル系重合体の再生システム。
【選択図】図1
図1