(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】磁気マーカシステム、及び磁気マーカシステムの設計方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20240327BHJP
E01F 11/00 20060101ALI20240327BHJP
E01F 9/512 20160101ALI20240327BHJP
G05D 1/244 20240101ALI20240327BHJP
G05D 1/646 20240101ALN20240327BHJP
【FI】
G08G1/00 X
E01F11/00
E01F9/512
G05D1/244
G05D1/646
(21)【出願番号】P 2022210152
(22)【出願日】2022-12-27
(62)【分割の表示】P 2018188906の分割
【原出願日】2018-10-04
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 道治
(72)【発明者】
【氏名】長尾 知彦
(72)【発明者】
【氏名】青山 均
【審査官】田中 将一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/209112(WO,A1)
【文献】特開2003-109173(JP,A)
【文献】特開2009-301243(JP,A)
【文献】特開2002-260154(JP,A)
【文献】特開2002-063682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
E01F 9/00 - 11/00
G05D 1/00 - 1/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による車両の運転操作の支援、あるいは運転者の操作に依らない自動運転のための車両制御を実現するために、車両側の磁気センサで検出可能なように道路に沿って敷設された磁気マーカを含む磁気マーカシステムの設計方法であって、
当該磁気マーカ
システムは、道路に沿って交互に磁極の向きが反転するように
前記磁気マーカが敷設
された磁気マーカシステムであり、
道路に沿って敷設された前記磁気マーカの間隔である配置ピッチを設定する
に際して、
道路に沿って
等しい間隔で配置された磁気マーカ
が前記磁気センサに作用する磁界の強さをシミュレーションあるいは実測により求める処理と、
当該処理により求められた第1の磁界の強さと、単体の磁気マーカが前記磁気センサに作用する第2の磁界の強さと、を比較する処理と、
前記配置ピッチを設定する処理と、を実行し、
当該設定する処理では、隣り合う磁気マーカの
間の磁界の干渉により、
前記第2の磁界の強さよりも前記第1の磁界の強さの方が強くなる
磁気マーカの間隔を、前記配置ピッチ
として設定する
、磁気マーカシステムの設計方法。
【請求項2】
運転者による車両の運転操作の支援、あるいは運転者の操作に依らない自動運転のための車両制御を実現するために、車両側の磁気センサで検出可能なように道路に沿って敷設された磁気マーカを含む磁気マーカシステムの設計方法であって、
当該磁気マーカ
システムは、道路に沿って交互に磁極の向きが反転するように
前記磁気マーカが敷設
された磁気マーカシステムであり、
道路に沿って敷設された前記磁気マーカの間隔である配置ピッチを設定する
に際して、
道路に沿って
等しい間隔で配置された磁気マーカが前記磁気センサに作用する磁気の大きさの道路の方向における分布をシミュレーションあるいは実測により求める処理と、
当該処理により求められた道路の方向における分布と正弦波との相関係数を求める処理と、
前記配置ピッチを設定する処理と、を実行し、
当該設定する処理では、隣り合う磁気マーカの間での磁界の干渉によ
り単体の
磁気マーカよりも前記磁気センサに作用する磁界
を強く
するための磁気マーカの間隔として、前記相関係数が第1の閾値を超える磁気マーカの間隔を前記配置ピッチ
として設定する
、磁気マーカシステムの設計方法。
【請求項3】
請求項2において、前記設定する処理では、隣り合う磁気マーカの近づき過ぎにより、磁気マーカ単体の場合よりも却って前記磁気センサに作用する磁界を弱くしないための前記磁気マーカの間隔として、前記相関係数が、完全な正弦波である場合の相関係数である1よりも小さい閾値である第2の閾値未満となる磁気マーカの間隔を前記配置ピッチとして設定する、磁気マーカシステムの設計方法。
【請求項4】
運転者による車両の運転操作の支援、あるいは運転者の操作に依らない自動運転のための車両制御を実現するために、車両側の磁気センサで検出可能なように道路に沿って敷設された磁気マーカを含む磁気マーカシステムの設計方法であって、
当該磁気マーカ
システムは、道路に沿って交互に磁極の向きが反転するように
前記磁気マーカが敷設
された磁気マーカシステムであり、
道路に沿って敷設された前記磁気マーカの間隔である配置ピッチを設定する
に際して、
道路に沿って
等しい間隔で磁気マーカ
が配置されたときの隣り合う2つの磁気マーカの隙間の長さを求める処理と、
前記配置ピッチを設定する処理と、を実行し、
前記隙間の長さを求める処理は、前記磁気マーカの道路の方向の寸法を、前記配置ピッチに等しい長さから差し引くことで、道路に沿って隣り合う2つの前記磁気マーカの隙間の長さを求める処理であり、
前記設定する処理では、隣り合う磁気マーカの間での磁界の干渉によ
り単体の
磁気マーカの場合よりも前記磁気センサに作用する磁界
を強く
するための磁気マーカの間隔として、前記隙間の長さが、車両側において想定される前記磁気センサの取付高さの1/3倍以上、かつ、1倍未満に相当する長さになる磁気マーカの間隔を、前記配置ピッチとして設定する、磁気マーカシステムの設計方法。
【請求項5】
請求項1
~4のいずれか1項において、車両側において想定される前記磁気センサの取付高さの2倍未満に相当する長さになるように前記配置ピッチを設定する磁気マーカシステムの設計方法。
【請求項6】
運転者による車両の運転操作の支援、あるいは運転者の操作に依らない自動運転のための車両制御を実現するために、車両側の磁気センサで検出可能なように道路に沿って敷設された磁気マーカを含む磁気マーカシステムであって、
前記磁気マーカは、道路に沿って交互に磁極の向きが反転するように敷設されており、
道路に沿って隙間を空けて隣り合う磁気マーカの磁界の干渉により、該磁気マーカ単体の場合よりも、前記磁気センサに作用する磁界が強くなるように、道路に沿って
隣り合う2つの前記磁気マーカの
隙間の長さが設定されて
おり、
当該隙間の長さは、車両側において想定される前記磁気センサの取付高さの1/3倍以上、かつ、1倍未満に相当する長さである磁気マーカシステム。
【請求項7】
請求項6において、道路に沿って敷設された前記磁気マーカの間隔である配置ピッチは、前記磁気センサの取付高さの2/3倍以上3/2倍未満に相当する長さである磁気マーカシステム。
【請求項8】
運転者による車両の運転操作の支援、あるいは運転者の操作に依らない自動運転のための車両制御を実現するために、車両側の磁気センサで検出可能なように道路に沿って敷設された磁気マーカを含む磁気マーカシステムであって、
前記磁気マーカは、道路に沿って交互に磁極の向きが反転するように
一定の間隔を空けて敷設されており、
道路に沿って隙間を空けて隣り合う磁気マーカの
間で磁界の干渉
が生じており、これにより、車両が道路を走行する際に前記磁気センサに作用する磁気の大きさの変化と、正弦波と、の相関の度合いが強くなっており、
前記磁気の大きさの変化と正弦波との相関係数は、車両が道路を走行中に前記磁気センサに作用する磁界が、
磁気マーカ単体の場合よりも強くなる
第1の閾値以上である磁気マーカシステム。
【請求項9】
請求項8において、隣り合う磁気マーカの近づき過ぎにより前記磁気センサに作用する磁界が、磁気マーカ単体の場合よりも却って弱くなってしまうことがないよう、前記相関係数は、完全な正弦波である場合の相関係数である1よりも小さい閾値である第2の閾値未満である磁気マーカシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路を走行する車両側で検出可能なように道路に敷設される磁気マーカを含む磁気マーカシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路に敷設された磁気マーカを利用する車両用の磁気マーカ検出システムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このような磁気マーカ検出システムは、磁気センサを備える車両を対象として、磁気マーカを利用する自動操舵制御や車線逸脱警報等、各種の運転支援の提供を目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の車両用の磁気マーカ検出システムでは、次のような問題がある。すなわち、車両側の磁気センサは、路面から100~250mm程度の高い位置に取り付けられるため、磁気マーカの磁力をある程度、強くする必要がある一方、磁気マーカの磁力を強くすると、例えば釘やボルトなど路面に落ちた金属物が吸着されて車両タイヤのパンク等のトラブルを誘発するおそれが生じる。
【0005】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、磁気マーカの磁力を抑えつつ車両側で磁気マーカを確実性高く検出できるようにするための磁気マーカシステム、及び設計方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は運転者による車両の運転操作の支援、あるいは運転者の操作に依らない自動運転のための車両制御を実現するために、車両側の磁気センサで検出可能なように道路に沿って敷設された磁気マーカを含む磁気マーカシステムの設計方法であって、
前記磁気マーカは、道路に沿って交互に磁極の向きが反転するように敷設されており、
道路に沿って敷設された前記磁気マーカの間隔である配置ピッチを設定する際、道路に沿って隙間を空けて隣り合う磁気マーカの磁界の干渉により、該磁気マーカ単体の場合よりも、前記磁気センサに作用する磁界が強くなるように前記配置ピッチを設定する磁気マーカシステムの設計方法にある。
本発明の一態様は、運転者による車両の運転操作の支援、あるいは運転者の操作に依らない自動運転のための車両制御を実現するために、車両側の磁気センサで検出可能なように道路に沿って敷設された磁気マーカを含む磁気マーカシステムであって、
前記磁気マーカは、道路に沿って交互に磁極の向きが反転するように敷設されており、
道路に沿って隙間を空けて隣り合う磁気マーカの磁界の干渉により、該磁気マーカ単体の場合よりも、前記磁気センサに作用する磁界が強くなるように、道路に沿って敷設された前記磁気マーカの間隔である配置ピッチが設定されている磁気マーカシステムにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る磁気マーカシステムでは、道路に沿って交互に磁極の向きが反転するように磁気マーカが敷設される。本発明の磁気マーカシステム、及びその設計方法では、道路に沿って隙間を空けて隣り合う磁気マーカの磁界が干渉し合うように配置ピッチが設定される。
【0008】
本発明の磁気マーカシステム、及び磁気マーカシステムの設計方法は、隣り合う磁気マーカの磁界の干渉を利用し、車両側に作用する磁界が強くなっているシステム、あるいは磁界を強くするための設計方法である。このような配置ピッチの設定により、磁界の干渉を利用して車両側に作用する磁界を強くできれば、磁気マーカの検出のために車両側で要求される磁界の強さに対して、磁気マーカ表面の磁力の強さを相対的に抑制可能である。
【0009】
以上の通り、本発明の磁気マーカシステム、及び磁気マーカシステムの設計方法は、磁気マーカの磁力を抑えつつ車両側で磁気マーカを確実性高く検出できるという特性を実現できる優れたシステム、あるいは設計方法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1における、車両が磁気マーカを検出する様子を示す説明図。
【
図2】実施例1における、磁気マーカシステムを示す説明図。
【
図4】実施例1における、磁気マーカの鉛直方向の磁界分布を示すグラフ。
【
図5】実施例1における、磁気センサの電気的構成を示すブロック図。
【
図6】実施例1における、磁気マーカを通過する際のセンサ出力の変化の説明図。
【
図7】実施例1における、磁気マーカの配置ピッチ及び隙間Gの説明図。
【
図8】実施例1における、磁気マーカの敷設仕様の説明図。
【
図9】実施例1における、磁気センサの取付高さと、センサ出力(p-p)と、の関係を示すグラフ。
【
図10a】実施例1における、磁気マーカの配置ピッチ=100cmのとき、車両の進行方向におけるセンサ出力の変化を示すグラフ。
【
図10b】実施例1における、磁気マーカの配置ピッチ=50cmのとき、車両の進行方向におけるセンサ出力の変化を示すグラフ。
【
図10c】実施例1における、磁気マーカの配置ピッチ=30cmのとき、車両の進行方向におけるセンサ出力の変化を示すグラフ。
【
図10d】実施例1における、磁気マーカの配置ピッチ=20cmのとき、車両の進行方向におけるセンサ出力の変化を示すグラフ。
【
図10e】実施例1における、磁気マーカの配置ピッチ=10cmのとき、車両の進行方向におけるセンサ出力の変化を示すグラフ。
【
図11】実施例1における、磁気マーカの配置ピッチと、センサ出力(p-p)と、の関係を示すグラフ。
【
図12a】実施例1における、磁気マーカが単独で形成する磁界の説明図。
【
図12b】実施例1における、配置ピッチ=10cmのとき、磁気マーカが形成する磁界の説明図。
【
図12c】実施例1における、配置ピッチ=20cmのとき、磁気マーカが形成する磁界の説明図。
【
図13a】実施例2における、センサ出力波形を構成するデータ系列を示す図。
【
図13b】実施例2における、正弦波形を構成するデータ系列を示す図。
【
図14a】実施例2における、磁気マーカの配置ピッチと相関係数との関係を示すグラフ。
【
図14b】実施例2における、高相関範囲のセンサ出力(p-p)を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、車両5側で検出可能なように道路に沿って敷設された磁気マーカ10を含む磁気マーカシステム1、及びその設計方法の例である。この内容について、
図1~
図12を用いて説明する。
【0012】
図1及び
図2の磁気マーカ10は、例えば、車両5が走行する車線530の中央に沿って敷設される。このように路面53に敷設された磁気マーカ10は、例えば車両5の底面をなす車体フロア50に取り付けられる磁気センサ2により検出可能である。磁気センサ2による磁気マーカ10の検出信号は、例えば車両5側の図示しないECU等に入力され、車線維持のための自動操舵制御や、車線逸脱警報などの運転支援制御や、自動走行制御など、車両5側の各種の制御に利用できる。
【0013】
磁気マーカ10は、
図3のごとく、直径100mm、最大厚さ約2.0mmの扁平な円形状のマーカである。磁気マーカ10は、直径100mm、厚さ1.0mmの扁平な磁石シート11を含んでいる。磁気マーカ10では、磁石シート11の表裏の両面側が、厚さ0.5mmの樹脂モールド12によって覆われている。磁石シート11は、酸化鉄の磁性粉末にゴムを混ぜて成形した等方性フェライトラバーマグネットのシートであり、最大エネルギー積(BHmax)が6.4kJ/立方mとなっている。
【0014】
磁気マーカ10では、表裏両面のうちの一方の面がN極の面であり、もう一方の面がS極の面になっている。この磁気マーカ10は表裏の区別がなく、N極を上面にする敷設態様、及びS極を上面にする敷設態様のいずれかを択一的に採用可能である(
図2参照。)。
【0015】
磁気マーカ10の路面53への施工は、例えば接着材による接着固定により実施される。なお、磁気マーカ10の外周側面にも樹脂モールドを施すことも良い。また、路面53の一部をなす磁石シート11の表面側の樹脂モールド12は、ガラス繊維で強化された樹脂モールドであっても良い。
【0016】
ここで、本例の磁気マーカ10が備える磁石シート11の形状仕様、磁気的な仕様の一部を表1に示す。
【表1】
【0017】
磁気マーカ10が鉛直方向に作用する磁界分布は
図4の通りである。同図は、有限要素法を用いた軸対称3次元静磁場解析によるシミュレーション結果を示す片対数グラフである。なお、このコンピュータシミュレーションを実行するに当たっては、実証実験によりシミュレーションの精度を予め確認済みのシミュレーションプログラムを用い、同図に示す一部のデータについては実証実験により値を確認している。
【0018】
図4では、鉛直方向に作用する磁気の磁束密度の対数目盛を縦軸に設定し、磁気マーカ10の表面を基準とした鉛直方向の高さ(マーカ表面からの高さ)を横軸に設定している。同図中、マーカ表面からの高さ=0mmのときの磁束密度が表1中の「表面磁束密度Gs」となる。この磁気マーカ10では、磁気センサ2の取付高さ(以下、センサ高さという。)として想定される範囲100~250mmにおいて、8マイクロテスラ以上の磁束密度が確保されている。
【0019】
磁気センサ2は、
図5のブロック図の通り、MI素子21と駆動回路とが一体化された1チップのMI(Magneto Impedance)センサである。MI素子21は、CoFeSiB系合金製のほぼ零磁歪であるアモルファスワイヤ(感磁体の一例)211と、このアモルファスワイヤ211の周囲に巻回されたピックアップコイル213と、を含む素子である。磁気センサ2は、アモルファスワイヤ211にパルス電流を印加したときにピックアップコイル213に発生する電圧を計測することで、感磁体であるアモルファスワイヤ211に作用する磁気を検出する。
【0020】
駆動回路は、アモルファスワイヤ211にパルス電流を供給するパルス回路23と、ピックアップコイル213で生じた電圧を所定タイミングでサンプリングして出力する信号処理回路25と、を含めて構成されている。パルス回路23は、パルス電流の元となるパルス信号を生成するパルス発生器231を含む回路である。信号処理回路25は、パルス信号に連動して開閉される同期検波251を介してピックアップコイル213の誘起電圧を取り出し、増幅器253により所定の増幅率で増幅する回路である。この信号処理回路25で増幅された信号がセンサ信号として外部に出力される。
【0021】
この磁気センサ2の仕様の一部を表2に示す。
【表2】
【0022】
磁気センサ2は、磁束密度の測定レンジが±0.6ミリテスラであって、測定レンジ内の磁束分解能が0.02マイクロテスラという高感度のセンサである。このような高感度は、アモルファスワイヤ211のインピーダンスが外部磁界に応じて敏感に変化するというMI効果を利用するMI素子21により実現されている。磁束分解能が0.02マイクロテスラ(表2参照。)の磁気センサ2によれば、センサ高さの想定範囲である100~250mmにおいて少なくとも磁束密度8マイクロテスラ(
図4参照。)の磁気を作用する磁気マーカ10を確実性高く検出可能である。
【0023】
磁気センサ2は、アモルファスワイヤ211の長手方向に感度を有している。本例の構成では、アモルファスワイヤ211の長手方向が車両5の前後方向に沿うように磁気センサ2が車載されている。この磁気センサ2は、車両5の進行方向に感度を有し、この方向に作用する磁界の成分を計測可能である。なお、本例では、N極の磁気マーカ10に車両5が接近するとき、磁気センサ2の出力(以下、センサ出力)が正値となるように構成されている。
【0024】
磁気センサ2に作用する磁界のうち車両5の進行方向に沿う成分は、磁気マーカ10の手前の位置と、磁気マーカ10を通過した後の位置と、で、作用する方向が反転する。そして、磁気マーカ10の真上の位置では、磁気センサ2に作用する磁界のうち車両5の進行方向に沿う成分の大きさはゼロとなる。例えば、N極の磁気マーカ10を車両5が通過する際には、
図6のごとく、正値のセンサ出力が次第に大きくなって極大値となった後、磁気マーカ10の真上の位置の手前で減少に転じて次第に小さくなる。そして、磁気マーカ10の真上の位置でセンサ出力がゼロとなった後、磁気マーカ10から離れるに従って負値のセンサ出力が次第に負側に大きくなって極小値となる。その後、さらに磁気マーカ10から離れるにつれて、負値のセンサ出力がゼロに近づいていく。このようにして、車両5が磁気マーカ10を通過する際のセンサ出力の波形(以下、センサ出力波形)は、磁気マーカ10の真上の位置でゼロクロスを呈すると共に、このゼロクロスを基準として点対称の関係をなす正負の山の波形となる。なお、
図6のグラフでは、車両5の進行方向の位置が横軸に規定され、縦軸にセンサ出力が規定されている。同図中のセンサ出力の単位は、センサ出力をデジタイズする際の最小ビット(LSB)となっている。本例の図におけるセンサ出力あるいはセンサ出力(p-p)の単位は、全てこの最小ビット(LSB)となっている。
【0025】
本例の磁気マーカシステム1では、
図7のごとく、道路に沿って20cmの配置ピッチで磁気マーカ10が配置されている。磁気マーカ10は直径100mm(10cm)であるので、道路に沿って隣り合う2つの磁気マーカ10の隙間(ギャップ)Gは10cmとなる。さらに、本例の構成では、道路に沿って磁極の向きが交互に反転するよう、上面がN極の磁気マーカ10と、上面がS極の磁気マーカ10と、が交互に配置され、磁気マーカ10の磁極性が交互に切り替わっている。本例では、このように磁気マーカ10の配置ピッチを比較的狭く設定すると共に、磁気マーカ10の磁極性を交互に切り替えることで、磁気センサ2に作用する磁界の強度(磁気の大きさ)を高めようとしている。
【0026】
次に、上記のような磁気マーカ10の敷設態様によって磁気センサ2に作用する磁界の強度を向上できる旨を、
図8及び
図9を参照して説明する。
図8は、4種類の敷設仕様を示している。
図9は、各敷設仕様について、センサ高さ(縦軸)と、センサ出力(p-p)(横軸)と、の関係を例示している。なお、センサ出力(p-p)は、センサ出力波形のpeak-to-peakである振幅を示している。
【0027】
図8の4種類の敷設仕様は、以下の通りである。
(第1の敷設仕様)磁気マーカ10の磁極性が交互に切り替わるよう、道路に沿って20cm毎に磁気マーカ10が配置された本例の敷設仕様。上記の通り、磁気マーカ10は直径10cmであるから、道路に沿って隣り合う2つの磁気マーカ10の隙間Gの長さが10cmとなる(
図7参照。)。
(第2の敷設仕様)磁気マーカ10の磁極性の切替なしに、道路に沿って20cm毎にS極の磁気マーカ10が配置された敷設仕様。
(第3の敷設仕様)磁気マーカ10の磁極性が交互に切り替わるよう、道路に沿って10cm毎に磁気マーカ10が配置された敷設仕様。磁気マーカ10が直径10cmであるから、道路に沿って隣り合う2つの磁気マーカ10が隙間なく外接する状態となる。
(第4の敷設仕様)隣り合う磁気マーカ10が十分離間して配置され、各磁気マーカ10が孤立している敷設仕様。
【0028】
図9によると、上記の第1の敷設仕様のときのセンサ出力(p-p)が最も大きくなっている。特に、センサ高さとして想定される100mm~250mmに属する150mm、200mm、250mmの各センサ高さでは、他の敷設仕様に比べて第1の敷設仕様の場合のセンサ出力が大きくなる傾向が顕著である。
【0029】
このように第1の敷設仕様では、磁気マーカ10が孤立している第4の敷設仕様よりもセンサ出力が大きくなる傾向にある。一方、磁極性の交互の切替がない第2の敷設仕様では、上記の4種類の敷設仕様の中でセンサ出力が最も小さくなっている。また、磁極性の切替はあるが隙間なく磁気マーカ10が配列された第3の敷設仕様もまた、磁気マーカ10が孤立している第4の敷設仕様よりもセンサ出力が小さくなっている。
【0030】
発明者らは、隣り合う磁気マーカ10の磁界が干渉して、上記のようなセンサ出力の大小が生じていると考察している。さらに、発明者らは、磁気マーカ10の磁極性の交互の切替がある第1及び第3の敷設仕様について、配置ピッチの違いによってセンサ出力の大小が生じていると考察している。より詳細には、発明者らは、配置ピッチが20cmの場合、隣り合う磁気マーカ10の磁界の干渉により磁気センサ2に作用する磁界が強くなり、センサ出力が大きくなっていると考察している。さらに発明者らは、配置ピッチが10cmの場合、隣り合う磁気マーカ10の磁界の干渉により磁気センサ2に作用する磁界が弱くなり、センサ出力が小さくなっていると考察している。
【0031】
発明者らは、隣り合う磁気マーカ10の磁界の相互の干渉度合いと、センサ出力の大きさと、の関係を調べるため、センサ出力のシミュレーション試験を実施している。このシミュレーション試験では、磁気マーカ10が配列された敷設ラインに沿って磁気センサ2(センサ高さ200mm)が通過する場合のセンサ出力のシミュレーションを行っている。シミュレーション試験の結果は、以下に説明する
図10a~e及び
図11の通りである。
【0032】
シミュレーション試験では、まず、上記のシミュレーションプログラムを利用し、磁気マーカ10により形成される磁界分布を求めている。
図10a~eの各図は、センサ高さ=200mmで磁気センサ2が、この磁界分布の中を上記の敷設ラインに沿って移動したときに予測されるセンサ出力波形のシミュレーションの結果である。
【0033】
図10a~eの各図は、いずれも、磁極性が道路に沿って交互に切り替わる磁気マーカ10の敷設仕様に対応している。一方、磁気マーカ10の配置ピッチは、
図10a~eの図毎に異なっている。
図10aは配置ピッチが100cm、
図10bは50cm、
図10cは30cm、
図10dは20cm、
図10eは10cmとなっている。
【0034】
図10aの配置ピッチ100cmの場合、隣り合う磁気マーカ10の隙間Gが90cmとなり、磁界の干渉の度合いが無視できるほど小さくなると予想できる。一方、
図10eの配置ピッチ10cmの場合、隣り合う磁気マーカ10が外接する状態となり、磁界の干渉の度合いが最も高くなると予想できる。
【0035】
図10aの配置ピッチ100cmの場合のセンサ出力波形では、各磁気マーカ10の磁界の干渉がほとんど生じておらず、車両5の進行方向に感度を有する磁気センサ2が磁気マーカ10を通過する際のセンサ出力の正負の山が、磁気マーカ10毎に個別に現れている。なお、センサ出力波形を構成する正負の山のうち、ゼロクロスの位置が磁気マーカ10の真上に当たっている。
【0036】
一方、
図10eの配置ピッチ10cmの場合のセンサ出力波形では、正弦波に近いセンサ出力の波形が現れている。このセンサ出力の波形では、磁気マーカ10毎の正負の山が相互に干渉し、区別がなくなって一体的となっている。なお、同図eのセンサ出力の波形においても、波形の中の各ゼロクロスの位置が各磁気マーカ10の真上に当たっている。
【0037】
図10b~dの中間的な配置ピッチのうち、50cmの配置ピッチである同図bのセンサ出力波形では、隣り合う磁気マーカ10の正負の山の干渉が生じている一方、センサ出力波形が正弦波の波形にはなっていない。一方、30cm、20cmの配置ピッチである同図c及びdでは、10cmの配置ピッチの場合と同様、センサ出力波形が正弦波に近い波形になっている。
【0038】
このように本例の磁気マーカ10の場合、配置ピッチが30cm以下の範囲において、各磁気マーカ10の磁界が相互に干渉して一体的になっており、センサ出力波形が正弦波に近い波形になっている。一方、配置ピッチが50cm以上の範囲では、各磁気マーカ10の磁界の相互の干渉が不十分で、センサ出力波形が一体的な正弦波の波形にはなっていない。
【0039】
図11は、磁気マーカ10の配置ピッチ(横軸)と、センサ出力(p-p)の大きさ(縦軸)と、の関係を示すシミュレーション結果である。配置ピッチ50cmの場合のセンサ出力(p-p)の大きさは、配置ピッチ100cmの場合と大差がない一方、配置ピッチ30cmに近づくにつれてセンサ出力(p-p)が次第に大きくなっている。配置ピッチ25cm辺りでセンサ出力(p-p)がピーク値をとった後、配置ピッチがさらに短くなると、センサ出力(p-p)が再び減少している。そして、20cmよりも配置ピッチが短くなると、配置ピッチが50cmあるいは100cmの場合よりもセンサ出力(p-p)が却って小さくなる。例えば配置ピッチ10cmの場合のセンサ出力は、配置ピッチが50cmあるいは100cmの場合のセンサ出力に比べて格段に小さくなっている。
【0040】
発明者らは、このようなセンサ出力の傾向が生じる理由を以下のように考察している。すなわち、発明者らは、磁気マーカ10の配置ピッチの長短に応じて、磁気マーカ10の周囲に形成される磁界のループの大きさが変動し(
図12a~c)、これにより、センサ出力の大小が生じていると考察している。ここで、
図12a~cは、磁気マーカ10の周辺に形成される磁界を模式的に示す図である。
図12aは配置ピッチ100cmに対応し、
図12bは配置ピッチ10cmに対応し、
図12cは配置ピッチ20cmに対応している。
【0041】
配置ピッチ10cmのときの磁界のループは、
図12a及び
図12bのごとく、配置ピッチ100cmのときの磁界のループよりも小さくなっている。また、配置ピッチ20cmのときの磁界のループは、
図12a及び
図12cのごとく、配置ピッチ100cmの磁界のループよりも大きくなっている。発明者らは、配置ピッチ10cmの場合、磁界のループが小さくなったことで、路面53よりも高く位置する磁気センサ2に作用する磁界の強さが損なわれ、センサ出力が小さくなっていると考察している。また、配置ピッチ20cmの場合、磁界のループが大きくなったことで、路面53よりも高く位置する磁気センサ2に作用する磁界が強くなり、センサ出力が大きくなっていると考察している。
【0042】
本例では、
図10及び
図11の結果に鑑みて、磁気マーカ10の配置ピッチとして、以下の3つの条件を充足する配置ピッチ=20cmを設定している。
(条件1)センサ高さとして想定される100~250mmの上限高さであるHmax=250mmを基準として、配置ピッチが2/3Hmax以上3/2×Hmax以内の範囲にあること。
(条件2)センサ高さとして想定される100~250mmの上限高さであるHmax=250mmを基準として、隣り合う磁気マーカ10の隙間Gの長さが1/3×Hmax以上1×Hmax以内の範囲にあること。
(条件3)隣り合う2つの磁気マーカ10を含めて道路に沿って配列された磁気マーカ10が車両側に作用する磁界の大きさが、道路に沿って正弦波形の分布を呈していること。ここで、車両側に作用する磁界の大きさは、車幅方向の磁界分布の最大値を意味している。したがって、上記の「道路に沿って正弦波形の分布を呈している」は、道路に沿って配列された磁気マーカ10の真上を通過する磁気センサ2によるセンサ出力波形が正弦波になることに相当している。
【0043】
上記の条件1について、2/3×Hmax=167mm未満の配置ピッチは、
図11中のグラフのピーク値の左側の領域に属し、隣り合う磁気マーカ10が接近し過ぎてセンサ出力が低下するおそれがある。一方、3/2×Hmax=375mmを超える配置ピッチは、
図11中のグラフの右側の領域に属し、隣り合う磁気マーカ10が離れ過ぎるためにセンサ出力が低下するおそれがある。
【0044】
また、上記の条件2について、隣り合う磁気マーカ10の隙間Gの長さが1/3×Hmax=83mm未満であると、隣り合う磁気マーカ10が接近し過ぎてセンサ出力が却って小さくなるおそれがある。一方、隣り合う磁気マーカ10の隙間Gの長さが1×Hmax=250mmを超えると、隣り合う磁気マーカ10が離れ過ぎるためにセンサ出力が低下するおそれがある。
【0045】
さらに、条件3について、道路に沿って配列された磁気マーカ10が磁気センサ2に作用する磁界分布(磁気の大きさの分布)が正弦波形から乖離している場合には、道路に沿って配列された各磁気マーカ10が磁気的に孤立している可能性がある。このように各磁気マーカ10が孤立している状態では、隣り合う2つの磁気マーカ10の磁界の干渉度合いが十分でなくなり、
図11中のグラフの右側の領域のようにセンサ出力が小さくなるおそれがある。
【0046】
このように磁気マーカシステム1では、隣り合っており磁極性が異なる2つの磁気マーカ10の磁界が相互に干渉するように磁気マーカ10の配置ピッチ(
図7参照。)が適切に設定されている。この磁気マーカシステム1では、隣り合う磁気マーカ10の磁界の相互干渉により、磁界のループが磁気マーカ10単体の場合よりも拡大しており、路面53よりも高い位置の磁気センサ2に作用する磁界が強くなっている。
【0047】
本例の磁気マーカシステム1によれば、磁気マーカ10自体の磁力(例えば表面磁束密度など)を抑えつつ、車両5に取り付けられた磁気センサ2に作用する磁界の強度を向上できる。この磁気マーカシステム1は、磁気マーカ10の磁力を抑えつつ車両5側で磁気マーカ10を確実性高く検出できるという優れた特性を有するシステムになっている。
【0048】
なお、本例では、磁気マーカ10としてシート状のものを例示したが、磁気マーカ10の形状的な仕様はシート状に限定されない。例えば直径20mm、高さ28mmという柱状の磁気マーカであっても良い。磁気マーカの上面形状についても、円形状に限らず、三角形状、矩形状、五角形以上の多角形状等を採用しても良い。さらに、磁気マーカの上面形状は、中心あるいは重心を介して点対称の形状、あるいは点対称に近い形状であると良い。磁気マーカの上面形状は、外周の少なくとも一部が曲線により形成された形状であっても良く、曲線のみにより滑らかに構成されて角部がない外周形状を呈する形状であっても良い。
【0049】
また、本例では、磁気マーカ10として、フェライトラバーマグネットを利用したものを例示したが、磁石の種類については、本例に限定されない。フェライトプラスチックマグネットであっても良いし、ネオジウム等の磁石であっても良い。さらに、本例では、収納ケースを持たない磁気マーカ10を例示したが、磁石を収納ケースに収めた磁気マーカであっても良い。例えばネオジウムなど耐腐食性が十分でない磁石の場合、気密性あるいは液密性の高い収納ケースに収納する必要がある。
【0050】
なお、本例では、磁気マーカ10の配置ピッチを選択的に決定するための条件として、上記の条件1~3の3種類の条件を例示し、条件1~3の全てを充足する配置ピッチを設定している。3種類の条件のうちのいずれか1つまたは2つの条件のみを採用することも良い。採用する条件は、条件1~3のうちのいずれの条件であっても良い。ただし、条件3については、配置ピッチの下限が定まらないおそれがある。そこで例えば、隣り合う磁気マーカ10の間に隙間G(G>0)を確保できること等の条件を組み合わせると良い。
【0051】
本例では、配置ピッチを選定するための条件として、配置ピッチが2/3Hmax以上3/2×Hmax以内の範囲にある旨の上記の条件1、隣り合う磁気マーカ10の隙間Gの長さが1/3×Hmax以上1×Hmax以内の範囲にある旨の上記の条件2等を例示している。配置ピッチに関する条件としては、上記の条件1に代えて、磁気センサ2の取付高さの2倍未満に相当する長さの配置ピッチであること、という条件を設定しても良い。もし配置ピッチが取付高さの2倍以上であると、隣り合う磁気マーカ10の磁界の干渉度合いが少なくなり、磁気センサ2に作用する磁界を強くする効果が十分に発揮されなくなるおそれがある。
【0052】
また、本例では、隣り合う磁気マーカ10の隙間Gに関する条件として、隙間Gの長さが1/3×Hmax以上1×Hmax以内の範囲にある旨の上記の条件2を例示している。基準となる取付高さとしては、センサ高さとして想定される100~250mmの上限高さであるHmaxに代えて、中間的な取付高さを設定しても良い。さらには、最も台数の多い一般的な車種における磁気センサ2の取付高さを、基準となる取付高さとして設定しても良い。
【0053】
なお、道路に沿って配列された磁気マーカ10のうちの少なくとも一部に、RF-IDタグを取り付けることも良い。RF-IDタグは、磁気マーカ10の特定に供する情報を提供する情報提供部として利用可能である。RF-IDタグと通信可能なタグリーダユニットを備える車両であれば、RF-IDタグが無線送信する情報を取得できる。この情報は、RF-IDタグの識別情報であっても良い。例えば、この識別情報をひも付けて磁気マーカ10の位置情報を記憶するデータベースを、車両5から無線通信によってアクセス可能なサーバ装置、あるいは車両5に設けることも良い。この場合には、磁気マーカ10を検出したとき、RF-IDタグから受信した識別情報を利用して磁気マーカ10の位置を特定できる。RF-IDタグの送信情報としては、対応する磁気マーカ10の位置情報そのものであっても良い。
【0054】
このように一部の磁気マーカ10にRF-IDタグを取り付け、対応する磁気マーカ10の位置を特定可能とする構成を採用した場合、位置が特定された磁気マーカ10を基準とて磁気マーカ10の通過数(検出回数)を計数することも良い。磁気マーカ10の配置ピッチが定められていれば、磁気マーカ10の通過数に配置ピッチを乗じることで、特定された位置を基準とした移動距離を精度高く算出できる。
【0055】
本例では、車両5の前後方向(進行方向)に感度を持つ磁気センサ2を例示したが、車幅方向に感度を持つ磁気センサであっても良く、鉛直方向に感度を持つ磁気センサであっても良い。さらに、例えば車幅方向と進行方向の2軸方向や、進行方向と鉛直方向の2軸方向に感度を持つ磁気センサを採用しても良く、例えば車幅方向と進行方向と鉛直方向の3軸方向に感度を持つ磁気センサを採用しても良い。複数の軸方向に感度を持つ磁気センサを利用すれば、磁気の大きさと共に磁気の作用方向を計測でき、磁気ベクトルを生成できる。磁気ベクトルの差分や、その差分の進行方向の変化率を利用して、磁気マーカ10の検出精度の向上を図ることも良い。
【0056】
(実施例2)
本例は、実施例1の磁気マーカシステム1に基づき、磁気マーカ10の配置ピッチを決定するための条件を変更した例である。この内容について、
図13及び
図14を参照して説明する。
本例の磁気マーカシステムでは、配置ピッチを選択的に設定するために、センサ出力波形と正弦波との類似度合いを表す指標値を利用している。指標値としては、例えば、センサ出力波形と正弦波との相関係数や、センサ出カ波形と正弦波との誤差量などを利用できる。
【0057】
例えば、相関係数としては、
図13aの1周期分のセンサ出力波形のサンプリングデータであるデータ系列xi(データ数はn)と、
図13bの1周期分の正弦波のサンプリングデータであるデータ系列yi(データ数はn)と、の相関係数を利用できる。ここで、
図13bの正弦波は、相関を調べる対象の
図13aのセンサ出力波形に対して、位相及び周期を一致させたものであり、ゼロクロスの間隔及び位置が一致している。なお、
図13aには、配置ピッチ=50cmのときのセンサ出力波形を例示している。
【0058】
図13aのセンサ出力波形のデータ系列xiと、
図13bの正弦波のデータ系列yiと、の相関係数rは、例えば、次式により演算可能である。ここで、Sxyは、データ系列xiとデータ系列yiとの共分散であり、Sxはデータ系列xiの標準偏差、Syはデータ系列yiの標準偏差である。xavはデータ系列xiの平均値、yavはデータ系列yiの平均値である。
【数1】
【0059】
センサ出力波形が完全な正弦波であれば、上記の相関係数rが1となる。センサ出力波形と正弦波との差異が大きくなると、相関係数rが次第に小さくなる。
図14a及び
図14bのごとく、センサ出力波形と正弦波の差異が大きく相関係数rが低い場合、磁気センサ2に作用する磁界が弱くなり、センサ出力が小さくなる傾向にある。また、センサ出力波形が正弦波の波形に近く相関係数rがほぼ1であっても、配置ピッチが短すぎると、センサ出力が小さくなっている。そこで、例えば相関係数rが0.8等の閾値以上を実現する配置ピッチの範囲(
図14中に示す高相関範囲)のうちで最も長い配置ピッチを、磁気マーカ10を敷設する際の配置ピッチとして設定することも良い。例えば相関係数rが0.8等の閾値以上であるとき、センサ出力波形が正弦波を呈していると判断しても良い。ここで、センサ出力波形は、磁気センサに作用する磁界の強さ(磁気の大きさ)の分布に相当している。
なお、上記の相関係数rに関する閾値として例えば0.9を設定し、相関係数rが閾値以上のときにセンサ出力波形が正弦波を呈していると判断することも良い。この場合には、例えば閾値が0.8の場合と比較して、センサ出力波形と正弦波との一致度をより厳密に判断できる。さらに、相関係数rがほぼ1である一方、配置ピッチが短すぎてセンサ出力が小さくなる配置ピッチの設定を未然に排除することを目的として、相関係数rの範囲として例えば0.8以上0.9未満の範囲や、0.9以上0.95未満の範囲等を設定することも良い。このように相関係数rの上限として1よりも小さい閾値を設定すれば、センサ出力が小さくなってしまうような狭い配置ピッチを未然に排除できる。
【0060】
なお、相関係数rを演算するために必要なセンサ出力波形については、シミュレーション計算により求めることができる。あるいは、例えば10個程度の磁気マーカ10を配列した試験区間を設け、この試験区間における磁気センサ2による実測によってセンサ出力波形のデータ系列xiを取得することも良い。正弦波のデータ値については、演算等により求めることができる。
【0061】
本例では、センサ出力波形と正弦波との類似度合いを表す指標値として、センサ出力波形と正弦波との相関係数rを例示している。この指標値としては、例えば、センサ出カ波形と、正規化された正弦波と、の最小二乗誤差の総和などの誤差量を採用しても良い。この誤差量が小さいほど、センサ出力波形と正弦波との類似度が高いということになる。この誤差量について閾値処理を行い、予め設定された閾値よりも誤差量が少ないとき、センサ出力波形が正弦波の波形を呈していると判断すると良い。
【0062】
なお、例えば取付高さが20cmの磁気センサのセンサ出力波形と、同10cmの場合のセンサ出力波形と、を比較したとき、同20cmの場合のセンサ出力波形の方が滑らかな波形となって正弦波形に近くなる場合がある。同20cmの場合の方が、磁気マーカと磁気センサとの間隔が適度になるためである。そこで、センサ出力波形が正弦波形に近いか否かを判断するための閾値処理につき、磁気センサの取付高さに応じて閾値処理の判断条件を変更することも良い。例えば、磁気センサの取付高さが低い場合には、この取付高さが高い場合に比べて上記の閾値処理の判断条件を緩和すると良い。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。
【0063】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0064】
1 磁気マーカシステム
10 磁気マーカ
11 磁石シート
2 磁気センサ
21 MI素子
211 アモルファスワイヤ(感磁体)
213 ピックアップコイル
23 パルス回路
231 パルス発生器
5 車両
53 路面
530 車線