(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】完全閉鎖セル式水銀分析装置および完全閉鎖セル式水銀分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/31 20060101AFI20240327BHJP
G01N 21/03 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
G01N21/31 610D
G01N21/03 B
(21)【出願番号】P 2020045407
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小▲崎▼ 大輔
(72)【発明者】
【氏名】森 勝伸
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 真一
(72)【発明者】
【氏名】土居 睦卓
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-269657(JP,A)
【文献】特開2013-205128(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0019189(US,A1)
【文献】特開2009-019886(JP,A)
【文献】特開2011-174852(JP,A)
【文献】米国特許第09658144(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/83
G01N 31/00 - G01N 31/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の波
長の光を透過させ、かつ検液と還元剤を充填するための吸光セルと、
前記吸光セルの上開口部を塞ぎ、当該吸光セルを密閉するためのキャップと、
原子蛍光を測定する装置または原子吸光を測定する装置と、
を有し、
原子蛍光を測定する装置または原子吸光を測定する装置は、前記吸光セル内の、検液と還元剤とを反応させて発生した水銀蒸気に光を照射した際の原子蛍光または原子吸光を測定する、完全閉鎖セル式水銀分析装置。
【請求項2】
検液が充填される第1室と還元剤が充填される第2室とを有し、密閉状態で検液と還元剤とを混合して水銀蒸気を発生させるための溶液充填部と、
前記溶液充填部の開口部と接続され、当該溶液充填部から水銀蒸気が導入される測定用吸光セルと、
前記測定用吸光セル内の水銀蒸気に光を照射した際の原子蛍光を測定する装置または原子吸光を測定する装置と、
を有する、完全閉鎖セル式水銀分析装置。
【請求項3】
水銀を含む検液をセルに入れ、密閉する準備ステップと、
密閉状態を保った状態で前記セル内に、還元剤を添加し、水銀蒸気を発生させ、で水銀蒸気を前記セル内に充満させる気化ステップと、
前記水銀蒸気に光を照射した際の原子蛍光を測定するまたは原子吸光を測定する、測定ステップと、を含む、完全閉鎖セル式水銀分析方法。
【請求項4】
還元剤をセルに入れ、密閉する準備ステップと、
密閉状態を保った状態で前記セル内に、水銀を含む検液を添加し、水銀蒸気を発生させ、で水銀蒸気を前記セル内に充満させる気化ステップと、
前記水銀蒸気に光を照射した際の原子蛍光を測定するまたは原子吸光を測定する、測定ステップと、を含む、完全閉鎖セル式水銀分析方法。
【請求項5】
水銀を含む検液をいれ、その後完全密閉状態で還元剤をいれ、または、還元剤をいれ、その後完全密閉状態で水銀を含む検液をいれ、還元気化して水銀蒸気を発生させ、前記水銀蒸気に光を照射した際の原子蛍光を測定するまたは原子吸光を測定するために使用される、吸光セルまたは
測定用セル
と、前記還元剤と、前記吸光セルまたは前記測定用セルの形状に対応する固定部を有する台座と、を有する、測定用セルキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、完全閉鎖セル式水銀分析装置および完全閉鎖セル式水銀分析方法に関し、特に水銀還元気化原子吸光光度法(AAS)を用いた水銀の分析に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の水銀分析装置は、大きく分けて4種類あり、水銀の気化法(加熱気化式、還元気化式)と測定原理(原子蛍光検出、原子吸光検出)の組み合わせである。通常、上述の装置は、開放系セルでの測定で、かつ水銀蒸気が発生するため、局所排気装置の設置が前提となっており、一般的にはラボ設置型が主流である。
また、水銀蒸気を送気するためのガスボンベや、煩雑なガラス器具を用いた操作が必要であり、現地でのオンサイト水銀測定には適していない。
【0003】
特許文献1は、ゲル相の色で濃度を測定した後、そのゲル相をそのまま使用して、さらに吸光分析を行うこと、を開示する。
特許文献2は、排気設備を必要とすることなく、従来よりも簡易且つ低コストに、しかも短時間で、石炭灰中水銀の測定用試料を作製する方法を開示する。
【0004】
非特許文献1~3は、水銀蒸気の発生装置を備える閉鎖型セルを用い、実験室内で水銀分析を行う方法を開示する。非特許文献1の水銀蒸気の発生装置は、開放系にて石英製セルに液体試料を入れ、その後、還元剤を投入し、水銀蒸気の発生を開始させた後、閉鎖系に移行し、セルに所定波長領域の紫外線を当てて水銀を測定する。非特許文献2および3の水銀蒸気の発生装置は、開放系の反応槽に液体試料、試薬、還元剤を入れ、水銀ガスの発生を開始させた後、閉鎖系に移行し、磁気かき混ぜ器、回転子を回転させてそれらを混合し、水銀の還元気化を進行させ、セルに所定波長領域の紫外線を当てて水銀を測定する。
【0005】
非特許文献1~3の水銀分析装置は、発明者の知る限り市販されていない。また、市販されている携帯型水銀測定装置(例えば、日本インスツルメンツ株式会社製、EMPシリーズ等)は、いずれも、既にガス化している大気中の水銀を吸光セルにガスを吸引し(または送り込み)、吸光セルから排気する経路を備える。経路上には、吸引ポンプを必要とする。水試料の場合は水銀のガス化のための測定用プローブまたは前処理用のガラス器具による還元気化操作や前処理装置も必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-108065号公報
【文献】特開2014-173878号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】東京工業試験所「分析化学」講演会の速報、1412~1413頁、「有機水銀化合物により水銀の揮散について」、下村滋、喜瀬明美、1969年6月29日受理
【文献】東京工業試験所「分析化学」講演会の速報、847~848頁、「揮散現象を応用した水銀の微量定量法」、下村滋、服部禎一、1970年3月2日受理
【文献】東京工業試験所「分析化学」講演会の速報 Vol.27、666~668頁、「鉄(III)と水酸化ホウ酸ナトリウムを用いた総水銀の原資吸光定量法」、三橋隆夫、森田秀芳、下村滋、1978年4月3日受理
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、上記特許文献1、2、非特許文献1~3、市販の装置ではなし得ない、オンサイトでのガラス器具製を使用しない簡便かつ効率的な水銀分析の実施という課題がある。
そこで、本発明は、液体試料の検液を、オンサイトでも簡便に分析でき、キャリアガス、吸引ポンプ、局所排気、回転子や磁気かき混ぜ器を必要としない、完全閉鎖セル式水銀分析装置および完全閉鎖セル式水銀分析方法を提供することを目的とする。なお「完全閉鎖」は、解放系とは異なる閉鎖系を意図しており、経時的なガスのセル透過や、蓋など密閉手段でセルの開口部を閉鎖するなど構成を排除するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の完全閉鎖セル式水銀分析方法は、
水銀を含む検液をセルに入れ、密閉する準備ステップと、
密閉状態を保った状態で前記セル内に(例えば注射器などを用い)、還元剤を添加し、水銀蒸気を発生させ、水銀蒸気を前記セル内に充満させる気化ステップと、
前記水銀蒸気に光を照射した際の原子蛍光を測定するまたは原子吸光を測定する、測定ステップと、を含む。
前記セルは、当該セルを密閉するための密閉手段(例えばキャップなど)をさらに有していてもよい。
【0010】
また、他発明の完全閉鎖セル式水銀分析方法は、
還元剤をセルに入れ、密閉する準備ステップと、
密閉状態を保った状態で前記セル内に(例えば注射器などを用い)、水銀を含む検液を添加し、水銀蒸気を発生させ、水銀蒸気を前記セル内に充満させる気化ステップと、
前記水銀蒸気に光を照射した際の原子蛍光を測定するまたは原子吸光を測定する、測定ステップと、を含む。
【0011】
前記測定ステップは、前記セルに所定の波長(波長253.7nm)の光を透過させることで、前記セル内の水銀蒸気を測定するステップであってもよい。
前記セルは、2室を有する溶液充填部と測定用セルとを有し、溶液充填部の2室に検液と還元剤と充填し、密閉状態で検液と還元剤を混合し、還元気化させた水銀蒸気を前記測定用セルへ移動させて、当該測定用セル内の水銀蒸気を測定してもよい。
【0012】
他の発明の完全閉鎖セル式水銀分析装置は、
所定の波長(波長253.7nm)の光を透過させ、かつ検液と還元剤を充填するためのセルと、
前記セルの上開口部を塞ぎ、当該セルを密閉するためのキャップと、
原子蛍光を測定する装置または原子吸光を測定する装置(例えば、原子吸光光度計)と、
を有し、
原子蛍光を測定する装置または原子吸光を測定する装置は、前記セル内の、検液と還元剤とを反応させて発生した水銀蒸気に光を照射した際の原子蛍光または原子吸光を測定する。
【0013】
他の発明の閉鎖セル式水銀分析装置は、
検液が充填される第1室と還元剤が充填される第2室とを有し、密閉状態で検液と還元剤とを混合して水銀蒸気を発生させるための溶液充填部と、
前記溶液充填部の開口部と接続され、当該溶液充填部から水銀蒸気が導入される測定用セルと、
前記測定用セル内の水銀蒸気に光を照射した際の原子蛍光を測定する装置または原子吸光を測定する装置と、
を有する。
【0014】
前記溶液充填部は、溶液充填部の開口部を塞ぎ、当該溶液充填部を密閉するためのキャップを有していてもよい。
前記溶液充填部は、底部から突設され天面まで達しない高さの仕切壁を有していてもよい。仕切壁の高さは、還元剤と検液の注入量に応じて設定されてもよい。
また、別実施形態として、前記溶液充填部は、第1室と第2室とは仕切るための仕切壁であって、底部から突設され天面まで達する高さの仕切壁を有していてもよい。この場合の仕切壁は、第1室と第2室との気相(検液と還元剤の充填高さより高い位置の空間)とで、両者の液が往来して混合するための開口部を有していてもよい。開口部の形状は特に制限されない。
前記溶液充填部と前記測定用セルで、完全閉鎖セルを構成していてもよい。容器充填部の開口部と測定用セルの開口部同士が螺合手段で連結されていてもよく、別体のコネクターなどで両者を接続する構成であってもよい。
前記溶液充填部は、側面断面視L字状の横長の形状であってもよい。
【0015】
前記キャップは、例えば、PTFEやシリコン製のセプタムが設けられていてもよい。
前記セルまたは測定用セルは、矩形断面(例えば、1cm正方形)で所定高さ(例えば4cm~10cm)の例えば、石英ガラス製のセルであってもよい。
【0016】
測定後のセル(あるいは溶液充填部および測定用セル)は、密閉状態で保管されてもよい。
【0017】
測定用セルキットは、
水銀を含む検液をいれ、その後完全密閉状態で還元剤をいれ、または、還元剤をいれ、その後完全密閉状態で水銀を含む検液をいれ、還元気化して水銀蒸気を発生させ、前記水銀蒸気に光を照射した際の原子蛍光を測定するまたは原子吸光を測定するために使用される、前記セルまたは前記測定用セルを有する。
前記測定用セルキットは、前記セルまたは前記測定用セルの形状に対応する固定部を有する台座を有していてもよい。
前記測定用セルキットは、前記キャップを有していてもよい。
前記測定用セルキットは、還元剤を有していてもよい。還元剤は、袋、プラスチック容器、ガラス容器に封入されていてもよい。
前記固定部は、前記セルまたは前記測定用セルの形状に対応した開口部であり、当該開口部に前記セルまたは前記測定用セルの下部を挿入して固定する構成であってもよい。
【0018】
(作用効果)
本発明によれば、以下の作用効果がある。
(1)閉鎖式のセル中または溶液充填部中で水銀を還元気化させ、気化した水銀蒸気をセルまたは測定用セル内にそのまま封入した状態で測定できる。
(2)キャリアガス、吸引、局所排気、捕集装置、加熱装置、ガスボンベ、回転子や磁気かき混ぜ器などを必要とせず、また、従来のガラス器具の操作が不要であり、簡単に水銀を測定でき、オンサイト測定も可能となる。
(3)簡単な装置構成であるが、従来の測定と同程度の精度で測定できる。
(4)検液の容量を少なくでき(例えば、従来の1/20)、廃液量を減らせる。
(5)従来は検液に対し一回測定しかできなかったが、本発明では水銀蒸気を、閉鎖式のセル内で保管できるので、測定回数を問わず、いつでも何回でも再測定をすることができる。
(6)装置コストを大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態1の完全閉鎖セル式水銀分析装置を示す図である。
【
図2】実施形態2の完全閉鎖セル式水銀分析装置を示す図である。
【
図3】実施例1と比較例1の検量線による評価を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0021】
(実施形態1)
実施形態1の完全閉鎖セル式水銀分析装置について
図1を用いて説明する。
完全閉鎖セル式水銀分析装置20は、吸光度分析装置であって、水銀放電管21、レンズ22、ハーフミラー23、第一光電管24、第一プリアンプ25、第二光電管26、第二プリアンプ27、分析部28を有する。また、不図示の入力部、出力部、メモリ、バッテリーなどを備えている。セルは、石英ガラス製の吸光セルである。
【0022】
(準備ステップ)
セル10は、セル本体11、セプタム付きキャップ12を有し、密閉された完全閉鎖系である。
セル10は、矩形断面(例えば、1cm正方形)で所定高さ(例えば4cm~10cm)である。
注射装置で、セプタムを貫通させて、還元剤13と検液(水銀を含む)14をセル本体11へ注入する。検液14を先にいれ、後から還元剤13をいれてもよく、その逆でもよい。なお、別実施形態として、キャップ12を外し、還元剤13を先に入れて置き、キャップ12で密閉し、その後、検液14を注射装置などでセル本体11へ導入してもよい。
キャップ12で密封した状態のセル10内で、還元剤13で検液14中の水銀が還元気化し、水銀蒸気15がセル本体の気相空間に滞留する。還元気化反応を促進するために、セル10内の還元剤13と検液14を1分間程度静かに混合させた後、静置させることが好ましい。
【0023】
(還元剤)
本実施形態の還元剤は、特に制限されないが、工場排水試験法(JIS K 0102)、公定法などに使用される還元剤が好ましい。
【0024】
(測定ステップ)
完全閉鎖セル式水銀分析装置20の所定の測定エリアに、セル10をセットする。
水銀放電管21で発生した所定の波長の光Lが、レンズ22を通過してハーフミラー23へ進む。ハーフミラー23で反射した光は、第一光電管24で読み取られ電気信号(S1)に変換され、その電気信号(S1)は第一プリアンプ25で増幅されて分析部28へ入力される。
ハーフミラー23を透過した光は、第二光電管26で読み取られ電気信号(S2)に変換され、その電気信号(S2)は第二プリアンプ27で増幅されて分析部28へ入力される。
分析部28は、電気信号(S1)と電気信号(S2)との差をとり、その差に基づいて吸光度を求める。なお、ハーフミラー23を透過した光は、参照用セル(不図示)を通過させた後で第二光電管26に読み取られる構成でもよく、参照用セルを置かずに分析部28において予め設定された参照用セルの補正係数で増幅された電気信号(S2)を補正する構成でもよい。
分析部28は、プロセッサーと所定の演算手順を記述したソフトウエアプログムを記憶するメモリとで構成されていてもよく、ファームウエア、専用回路などで構成されていてもよい。
測定された吸光度の数値は、メモリに記憶されてもよく、表示部に表示されてもよく、外部装置へ送信されてもよく、印刷されてもよい。
【0025】
(実施形態2)
実施形態2の完全閉鎖セル式水銀分析装置について
図2を用いて説明する。実施形態1と同一の符号は同一の構成であるため、説明を省略または簡単にする。
【0026】
(準備ステップ)
セル30は、側面視でL字状の溶液充填部31と、連結部33と、測定用セル32を有する。本実施形態では、測定用セル32は石英ガラス製の吸光セルである。
溶液充填部31は、底部から突設した仕切り壁311を有し、その左側の第1室に検液14を入れ、その右側の第2室に還元剤13を充填される。ただし、その逆であってもよい。検液14を先にいれ、後から還元剤13を充填してもよく、その逆でもよい。
溶液充填部31の開口部と、測定用セル32とを、連結部33で連結する。連結部33は、篏合構造、ねじ構造のいずれでもよく、溶液充填部31の開口部、測定用セル32の開口部同士を連結して密封状態を維持できる構造であればよい。
なお、測定用セル32と連結していないときに、溶液充填部31の開口部(または連結部33)を塞ぎ、溶液充填部31を密封するためのキャップ(不図示)で、密封して保管することもできる。
【0027】
測定用セル32と連結して密封した状態のセル30内で、還元剤13で検液14中の水銀が還元気化し、水銀蒸気15がセル本体31の気相空間と、測定用セル32の気相空間に滞留する。還元気化反応を促進するために、溶液充填部31内の還元剤13と検液14を1分間程度静かに混合させた後、静置させることが好ましい。
【0028】
(測定ステップ)
完全閉鎖セル式水銀分析装置20は、吸光度分析装置であって、実施形態1と同様の構成を有する。
実施形態2のセル30は、測定用セル32と溶液充填部31とが連結部33で連結され密封状態になっている。
図2では、この測定用セル32が、装置20の下側から測定エリアへ挿入されセットされているが、これに限定されず、装置上方または側方からセットされてもよい。
測定は、実施形態1と同様である。
【0029】
実施形態2では、溶液充填部31内で、還元剤と検液を混合させることで、測定用セル32の内側面に液滴が付着することを抑制できる。
また、実施形態1よりも、検液の量を増加させることで、検出感度を上げることができる。
また、測定用セルのサイズを大きくし光路長を長くすることで、検出感度を上げることができる。
【0030】
実施形態1、2において、吸光度分析装置を用いてセルまたは測定セル内の水銀蒸気を測定したが、これに制限されず、原子蛍光検出測定装置を用いて水銀蒸気を測定してもよい。原子蛍光検出装置は、例えば、水銀ランプで上記セル(10、30)を照射して、水銀原子から253.7nmの蛍光を発生させ、この蛍光の強度を検出することで水銀を測定できる。
【0031】
(実施例1)
実施例として、実施形態1の装置構成と方法で水銀を分析する。
試料:水銀標準液
水銀測定条件は以下の通りである。
原子吸光光度計:AAnalyst200(PerkinElmer社製)
閉鎖式石英セルサイズ:セル長:1.0 cm、体積:2.997 cm3
測定試料量:400μL
還元剤:10% HCl中に10%のSnCl2
還元剤量:40μL
元素:Hg
ランプ:EDL system (高輝度ランプシステム)
ランプ電流値:220 mA
波長:253.65 nm
測定時間:30 sec
測定モード:ピーク高さにより測定
検出限界値:0.0431 μg/L (blank methodにより測定)
【0032】
(従来例:比較例)
比較例として公定法に準拠したMHS-15型水銀還元気化装置による分析を行う。
工場排水試験法(JIS K 0102)に準じた水銀の測定をした。従来のガラス器具、吸引ポンプ、T字吸光セルなどを用いた。
試料:水銀標準液
水銀測定条件は以下の通りである。
原子吸光光度計:AAnalyst200PerkinElmer社製)
水銀還元気化装置:MHS-15型(PerkinElmer製)
開放式T字石英セルサイズ:セル長:12.2 cm、体積:7.76 cm3
測定試料量:10 mL
還元剤:10% HCl中に10%のSnCl2
還元剤量:2.5 mL
元素:Hg
ランプ:EDL system (高輝度ランプシステム)
ランプ電流値:220 mA
波長:253.65 nm
水銀ガス移動用キャリアガス:N2
ガス流速 (L/min):1.1 L/min
測定時間:30 sec
測定モード:ピーク高さにより測定
検出限界値:0.0431 μg/L (blank methodにより測定)
【0033】
(評価:検量線の精度)
実施例(□)と、従来例(〇)の検量線を求め、その精度を評価した(
図3参照)。実施例と比較例ともに検量線は直線で示され、従来の比較例に対して低濃度領域においても1/6程度の感度で水銀を検出できた。
【0034】
(実施例2)
河川水試料に対して水銀標準液を2ppbになるように添加し、夾雑物存在下における実施例1及び比較例1の添加回収率に基づく水銀測定精度の評価を行ったところ、実施例1は100%、比較例1は99.6%であった。
【符号の説明】
【0035】
10 吸光セル
11 セル本体
12 キャップ
13 還元剤
14 検液
20 完全閉鎖セル式水銀分析装置
21 水銀放電管
22 レンズ
23 ハーフミラー
24 第一光電管
25 第一プリアンプ
26 第二光電管
27 第二プリアンプ
28 分析部
30 セル
31 溶液充填部
32 測定用吸光セル
33 連結部