IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三星エスディアイ株式会社の特許一覧

特許7461110非水電解質二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー、二次電池用負極、および二次電池
<>
  • 特許-非水電解質二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー、二次電池用負極、および二次電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー、二次電池用負極、および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240327BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20240327BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240327BHJP
   C08F 220/44 20060101ALI20240327BHJP
   C08F 212/08 20060101ALI20240327BHJP
   C08F 265/08 20060101ALI20240327BHJP
   C08F 2/20 20060101ALI20240327BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/1395
H01M4/134
C08F220/44
C08F212/08
C08F265/08
C08F2/20
C08F220/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019086616
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020184414
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】深谷 倫行
(72)【発明者】
【氏名】干場 弘治
(72)【発明者】
【氏名】福地 巌
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/186363(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/080938(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/026462(WO,A1)
【文献】特開2015-115109(JP,A)
【文献】特開2018-101519(JP,A)
【文献】特開2012-051999(JP,A)
【文献】国際公開第2012/091001(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-62
C08F 220/44
C08F 212/08
C08F 265/08
C08F 2/20
C08F 220/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に不溶な分散粒子が高分子分散安定剤によって水に分散された水分散型共重合体(B)であって、
前記高分子分散安定剤は、前記高分子分散安定剤の全質量100質量%に対して、(メタ)アクリル酸系単量体35質量%以上65質量%以下、(メタ)アクリロニトリル35質量%以上65質量%以下、及びこれらと共重合可能な他の単量体0質量%以上20質量%以下の共重合体からなる水溶性共重合体(A)であり、
前記分散粒子は、エチレン性不飽和単量体;又はエチレン性不飽和単量体及びアクリロニトリルの共重合体からなり、
前記エチレン性不飽和単量体は、芳香族ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリル酸系単量体、及び不飽和カルボン酸アミド単量体からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記(メタ)アクリル酸系単量体は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩および(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記芳香族ビニル系単量体は、スチレン、α-メチルスチレン、メトキシスチレン、トリフルオロメチルスチレン、ジビニルベンゼンからなる群から選択される少なくとも1種である、非水電解質二次電池用バインダー組成物。
【請求項2】
前記水分散型共重合体(B)の全質量100質量部に対して、前記水溶性共重合体(A)を50質量部以上95質量部以下含有する、請求項1に記載の非水電解質二次電池用バインダー組成物。
【請求項3】
前記水分散型共重合体(B)と別途の水溶性共重合体(A)をさらに含む、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用バインダー組成物。
【請求項4】
前記水溶性共重合体(A)が、固形分7質量%の水溶液において粘度500mPa・s以上3000mPa・s以下の範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用バインダー組成物。
【請求項5】
前記水分散型共重合体(B)が、固形分7質量%の水溶液において粘度500mPa・s以上3000mPa・s以下の範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用バインダー組成物。
【請求項6】
前記水分散型共重合体(B)は、前記水分散型共重合体(B)の合計100質量%中、前記分散粒子を5質量%以上含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用バインダー組成物。
【請求項7】
前記分散粒子のガラス転移点が15℃以上100℃以下の範囲である、請求項6に記載の非水電解質二次電池用バインダー組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用バインダー組成物と、負極活物質と、を含有し、前記負極活物質はケイ素原子を含有する活物質を含む、二次電池負極用スラリー。
【請求項9】
集電体と、該集電体に上に形成された、請求項1~7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用バインダー組成物を含む負極活物質層と、を備える、二次電池用負極。
【請求項10】
請求項9に記載の二次電池用負極を備える、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー、二次電池用負極、および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池をはじめとする非水電解質二次電池は、スマートフォンやノート型パソコン等の電源として広く用いられている。これら電子機器の小型化と軽量化が進むにつれて、二次電池にはさらなる高エネルギー密度化が求められている。また、近年、非水電解質二次電池は、電気自動車やハイブリット自動車等の電源としての需要も高まっている。また、非水電解質二次電池には、従来のガソリンエンジン車と同等の性能を確保するための高容量化とともに長期の寿命特性も求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の高容量化の方法の1つとして、ケイ素原子を含有する活物質を負極に用いることが挙げられる。従来の黒鉛系活物質に比べてリチウム吸蔵量の多いケイ素含有活物質を適用することができれば、電池容量の大幅な向上を期待できる。しかしながら、ケイ素含有活物質はリチウム吸蔵・放出に伴う体積変化が大きいため、充放電時に負極活物質層が激しく膨張収縮する。その結果、負極活物質-負極活物質間における電子伝導性の低下や、負極活物質-集電体間での導電パスの遮断が起こり、二次電池のサイクル特性が悪くなるという課題があった。
【0004】
前述した課題を改善する取り組みとして、負極バインダーに関する提案がなされている(例えば、特許文献1~特許文献4参照)。
【0005】
特許文献1では、架橋ポリアクリル酸ナトリウム系コポリマーの水溶液を用いることで、10サイクル充放電後の容量維持率が改善されることが開示されている。ポリアクリル酸ナトリウムは水溶性の高強度・高弾性率バインダーとして知られ、これを用いることでケイ素含有活物質の充放電に伴う体積変化を抑制し、サイクル特性が向上することが期待される。しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載のような、ポリアクリル酸ナトリウムを主成分とした共重合体の水溶液を用いた場合、負極スラリーの塗工、乾燥工程において電極にクラックが発生するため、実用に供することが難しいことが分かった。
【0006】
特許文献2では、アクリル酸ナトリウムとビニルアルコールの共重合体の水溶液を用いることで、従来の負極バインダー(カルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエン共重合体の併用系)と比較して優れたサイクル特性が得られると記載されている。しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献2に記載のバインダーでは、負極スラリーの塗布、乾燥工程でのクラック発生の問題はないものの、サイクル改善効果は不十分であることが分かった。
【0007】
特許文献3および特許文献4では、従来のスチレンブタジエンゴムに代わる重合体粒子のラテックスが提案されているが、ケイ素含有活物質に対する膨張抑制のデータは示されていない。また、これらラテックスは、低分子の界面活性剤を使用した乳化重合によって合成されるため、電気化学的に不安定、かつ電解液への溶出が懸念される界面活性剤が負極中に混入することになり、サイクル性能の悪化を引き起こすこともある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2015/163302号
【文献】国際公開第2014/207967号
【文献】国際公開第2016/039067号
【文献】国際公開第2016/170768号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、少ない添加量でも負極の電極膨れを抑制し、且つサイクル特性を向上することが可能な非水電解質二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー、二次電池用負極、及びこれを用いた二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、高分子分散安定剤と、該高分子分散安定剤によって水に分散された水に不溶な分散粒子と、を含み、前記高分子分散安定剤は、前記高分子分散安定剤の全質量100質量%に対して、(メタ)アクリル酸系単量体35質量%以上65質量%以下、(メタ)アクリロニトリル35質量%以上65質量%以下、及びこれらと共重合可能な他の単量体0質量%以上20質量%以下の共重合体からなる水溶性共重合体(A)であり、前記分散粒子は、芳香族ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリル酸系単量体、及び不飽和カルボン酸アミド単量体からなる群から選択される少なくとも1種であるエチレン性不飽和単量体の共重合体からなる水分散型共重合体(B)である、非水電解質二次電池用バインダー組成物が提供される。
【0011】
この観点による非水電解質二次電池用バインダー組成物は、少ない添加量でも負極の電極膨れを抑制し、且つサイクル特性を向上することが可能となる。
【0012】
前記水分散型共重合体(B)が、前記水分散型共重合体(B)の全質量100質量部に対して、前記水溶性共重合体(A)を50質量部以上95質量部以下含有してもよい。
【0013】
この観点によれば、少ない添加量でも負極の電極膨れを抑制し、且つサイクル特性を向上することが可能となる。
【0014】
さらに前記水溶性共重合体(A)を含んでいてもよい。
【0015】
この観点によれば、少ない添加量でも負極の電極膨れを抑制し、且つサイクル特性を向上することが可能となる。
【0016】
前記(メタ)アクリル酸系単量体が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩および(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種でああってもよい。
【0017】
この観点によれば、二次電池の特性が更に向上する。
【0018】
前記水溶性共重合体(A)が、固形分7質量%の水溶液において粘度500mPa・s以上3000mPa・s以下の範囲であってもよい。
【0019】
この観点によれば、良好な密着性を維持しながら、サイクル特性に優れた負極を得ることができる。
【0020】
前記水分散型共重合体(B)が、固形分7質量%の水溶液において粘度500mPa・s以上3000mPa・s以下の範囲であってもよい。
【0021】
この観点によれば、良好な密着性を維持しながら、サイクル特性に優れた負極を得ることができる。
【0022】
前記エチレン性不飽和単量体は、芳香族ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリル酸系単量体、及び不飽和カルボン酸アミド単量体からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0023】
この観点によれば、二次電池の特性が更に向上する。
【0024】
前記水分散型共重合体(B)は、前記水分散型共重合体(B)の合計100質量%中、前記エチレン性不飽和単量体に由来する水に不溶な分散粒子成分を5質量%以上含んでいてもよい。
【0025】
この観点によれば、良好な密着性を維持しながら、サイクル特性に優れた負極を得ることができる。
【0026】
前記分散粒子成分のガラス転移点が15℃以上100℃以下の範囲であってもよい。
【0027】
この観点によれば、良好な密着性を維持しながら、サイクル特性に優れた負極を得ることができる。
【0028】
本発明の他の観点によれば、上記の非水電解質二次電池用バインダー組成物と、負極活物質と、を含有し、前記負極活物質はケイ素原子を含有する活物質を含む、二次電池負極用スラリーが提供される。
【0029】
この観点によれば、良好な密着性を維持しながら、サイクル特性に優れた負極を得ることができる。
【0030】
本発明の他の観点によれば、集電体と、該集電体に上に形成された、上記の非水電解質二次電池用バインダー組成物を含む負極活物質層と、を備える、二次電池用負極が提供される。
【0031】
この観点による二次電池用負極では、非水電解質二次電池用バインダー組成物によって、少ない添加量でも負極の電極膨れを抑制することが可能となる。また、非水電解質二次電池用バインダー組成物によって、電極の構成要素同士が良好に密着される。
【0032】
本発明の他の観点によれば、上記の二次電池用負極を備える、二次電池が提供される。
【0033】
この観点による二次電池では、非水電解質二次電池用バインダー組成物によって、少ない添加量でも負極の電極膨れを抑制し、且つサイクル特性を向上することが可能となる。また、非水電解質二次電池用バインダー組成物によって、電極の構成要素同士が良好に密着される。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、少ない非水電解質二次電池用バインダー組成物の添加量でも負極の電極膨れを抑制し、且つサイクル特性を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】リチウムイオン二次電池の構成を概略的に示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0037】
<1.非水電解質二次電池用バインダー組成物>
本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池用バインダー組成物について説明する。本実施形態に係る非水電解質二次電池用バインダー組成物は、二次電池用電極(負極)を形成するために用いられる。本実施形態に係る非水電解質二次電池用バインダー組成物は、高分子分散安定剤と、高分子分散安定剤によって水に分散された水に不溶な分散粒子と、を含み、高分子分散安定剤は、前記高分子分散安定剤の全質量100質量%に対して、(メタ)アクリル酸系単量体35質量%以上65質量%以下、(メタ)アクリロニトリル35質量%以上65質量%以下、及びこれらと共重合可能な他の単量体0質量%以上20質量%以下の共重合体からなる水溶性共重合体(A)であり、分散粒子は、芳香族ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリル酸系単量体、及び不飽和カルボン酸アミド単量体からなる群から選択される少なくとも1種であるエチレン性不飽和単量体の共重合体からなる水分散型共重合体(B)である。
【0038】
(1-1.水溶性共重合体)
水溶性共重合体(A)は、水溶性共重合体(A)の全質量100質量%に対して、(メタ)アクリル酸系単量体35質量%以上65質量%以下と、(メタ)アクリロニトリル35質量%以上65質量%以下と、(メタ)アクリル酸系単量体及び(メタ)アクリロニトリルと共重合可能な他の単量体0質量%以上20質量%以下との共重合体からなる。詳細には、水溶性共重合体(A)は、水溶性共重合体(A)の全質量100質量%に対して、(メタ)アクリル酸系単量体に由来する構造単位35質量%以上65質量%以下と、(メタ)アクリロニトリルに由来する構造単位35質量%以上65質量%以下と、(メタ)アクリル酸系単量体及び(メタ)アクリロニトリルと共重合可能な他の単量体に由来する構造単位0質量%以上20質量%以下と、を含む共重合体である。
【0039】
水溶性共重合体(A)における(メタ)アクリル酸系単量体に由来する構造単位の含有量が、水溶性共重合体(A)の全質量100質量%に対して、35質量%未満では、共重合体(A)が水に不溶性となり、負極活物質の分散性低下並びに負極スラリーの保存安定性低下を引き起こす。一方、水溶性共重合体(A)における(メタ)アクリル酸系単量体に由来する構造単位の含有量が、水溶性共重合体(A)の全質量100質量%に対して、65質量%を超えると、負極スラリーの塗布、乾燥工程において電極にクラックが発生し、実用に供する負極が得られなくなる。
【0040】
水溶性共重合体(A)における(メタ)アクリロニトリルに由来する構造単位の含有量が、水溶性共重合体(A)の全質量100質量%に対して、35質量%未満では、負極合剤層の基材に対する密着性が低下する。一方、水溶性共重合体(A)における(メタ)アクリロニトリルに由来する構造単位の含有量が、水溶性共重合体(A)の全質量100質量%に対して、65質量%を超えると、共重合体(A)が水に不溶性となり、負極活物質の分散性低下並びに負極スラリーの保存安定性低下を引き起こす。
【0041】
水溶性共重合体(A)における(メタ)アクリル酸系単量体及び(メタ)アクリロニトリルと共重合可能な他の単量体に由来する構造単位の含有量が、水溶性共重合体(A)の全質量100質量%に対して、20質量%を超えると、負極の電極膨れを抑制する効果が低下する。
【0042】
(メタ)アクリル酸系単量体が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩および(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸のことである。
(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩としては、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸リチウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸カルシウム、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸リチウム、メタクリル酸カリウム、メタクリル酸カルシウム等が挙げられるが、とりわけアクリル酸ナトリウムが好ましい。
(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩としては、(メタ)アクリル酸のアンモニア中和物、モノエタノールアミン中和物、ジエタノールアミン中和物、ヒドロキシルアミン中和物等が挙げられるが、とりわけアクリル酸のアンモニア中和物が好ましい。
【0043】
水溶性共重合体(A)は、固形分7質量%の水溶液において粘度500mPa・s以上3000mPa・s以下の範囲であることが好ましく、750mPa・s以上2500mPa・s以下の範囲であることがより好ましい。
水溶性共重合体(A)の粘度が500mPa・s以上であれば、負極合剤層が基材に対して良好な密着性を発現する。一方、水溶性共重合体(A)の粘度が3000mPa・s以下であれば、活物質が良好に分散され、サイクル特性に優れた負極が得られる。
【0044】
また、本実施形態の非水電解質二次電池用バインダー組成物は、さらに水溶性共重合体(A)を含むことが好ましい。
非水電解質二次電池用バインダー組成物中の水溶性共重合体(A)の含有量は、非水電解質二次電池用バインダー組成物の合計100質量%中、0質量%以上75質量%以下であることが好ましく、0質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
(1-2.水分散型共重合体(B))
水分散型共重合体(B)は、芳香族ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリル酸系単量体、及び不飽和カルボン酸アミド単量体からなる群から選択される少なくとも1種であるエチレン性不飽和単量体からなる共重合体である、水に不溶な分散粒子からなる。水分散型共重合体(B)は、水溶性共重合体(A)からなる高分子分散安定剤の存在下に水中でエチレン性不飽和単量体を共重合させて生成される。
【0046】
水分散型共重合体(B)は、水分散型共重合体(B)の全質量100質量部に対して、水溶性共重合体(A)を50質量部以上95質量部以下含有することが好ましく、60質量部以上90質量部以下含有することがより好ましい。
水溶性共重合体(A)の含有量が、水分散型共重合体(B)の全質量100質量部に対して、50質量部以上であれば、バインダーの強度・弾性率が向上し、負極の電極膨れを抑制することができる。一方、水溶性共重合体(A)の含有量が、水分散型共重合体(B)の全質量100質量部に対して、95質量部以下であれば、バインダーの可撓性が得られ、負極スラリーの塗布、乾燥工程においてクラックが発生することなく電極が得られる。
【0047】
エチレン性不飽和単量体は、芳香族ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリル酸系単量体、及び不飽和カルボン酸アミド単量体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、メトキシスチレン、トリフルオロメチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、とりわけスチレンが好ましい。
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボロニル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸グリジジル等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-ヒドロキシブチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0048】
水分散型共重合体(B)は、その合計100質量%中、前記エチレン性不飽和単量体に由来する水に不溶な分散粒子成分を5質量%以上含むことが好ましい。
前記エチレン性不飽和単量体に由来する水に不溶な分散粒子成分の含有量が、水分散型共重合体(B)の合計100質量%中、5質量%以上であれば、バインダーの可撓性が得られ、負極スラリーの塗布、乾燥工程においてクラックが発生することなく電極が得られる。
【0049】
水分散型共重合体(B)は、固形分7質量%の水溶液において粘度500mPa・s以上3000mPa・s以下の範囲であることが好ましく、750mPa・s以上2500mPa・s以下の範囲であることがより好ましい。
水分散型共重合体(B)の粘度が500mPa・s以上であれば、負極合剤層が基材に対して良好な密着性を発現する。一方、水分散型共重合体(B)の粘度が3000mPa・s以下であれば、活物質が良好に分散され、サイクル特性に優れた負極が得られる。
【0050】
水分散型共重合体(B)を構成する水に不溶な分散粒子のガラス転移点が15℃以上100℃以下の範囲であることが好ましく、20℃以上50℃以下の範囲であることがより好ましい。
分散粒子のガラス転移点が15℃以上であれば、電解液に対する耐膨潤性を良好にし易い。一方、分散粒子のガラス転移点が100℃以下であれば、負極圧延工程後の密着性が良好となる。
【0051】
非水電解質二次電池用バインダー組成物中の水分散型共重合体(B)の含有量は、非水電解質二次電池用バインダー組成物中の固形分に対し、例えば50質量%以上100質量%以下である。
非水電解質二次電池用バインダー組成物は、上述のように、水分散型共重合体(B)以外に水溶性共重合体(A)を含んでもよく、上述した成分の他に、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド等の増粘剤や、スチレン-ブタジエンゴム粒子、エチレン-アクルリ酸エステル粒子等のバインダー樹脂等を含んでもよい。
【0052】
以上説明した本実施形態に係る非水電解質二次電池用バインダー組成物においては、高分子分散安定剤と、高分子分散安定剤によって水に分散された水に不溶な分散粒子と、を含み、高分子分散安定剤は、高分子分散安定剤の全質量100質量%に対して、(メタ)アクリル酸系単量体35質量%以上65質量%以下、(メタ)アクリロニトリル35質量%以上65質量%以下、及びこれらと共重合可能な他の単量体0質量%以上20質量%以下の共重合体からなる水溶性共重合体(A)であり、分散粒子は、芳香族ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリル酸系単量体、及び不飽和カルボン酸アミド単量体からなる群から選択される少なくとも1種であるエチレン性不飽和単量体の共重合体からなる水分散型共重合体(B)である。したがって、少ない添加量でも負極の電極膨れを抑制し、且つサイクル特性を向上することが可能である。
【0053】
<2.負極>
本実施形態に係る二次電池負極は、上述の非水電解質二次電池用バインダー組成物と、負極活物質と、を含有する。負極活物質はケイ素原子を含有する活物質を含む。
【0054】
本実施形態の二次電池負極中の非水電解質二次電池用バインダー組成物の含有量は、二次電池負極の合計100質量%中、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上6質量%以下であることがより好ましい。
非水電解質二次電池用バインダー組成物の含有量が、二次電池負極の合計100質量%中、1質量%以上であれば、密着性に優れ、サイクル性能が良好な負極を得ることができる。一方、非水電解質二次電池用バインダー組成物の含有量が、二次電池負極の合計100質量%中、10質量%以下であれば、電極抵抗が過度に大きくなることなく、サイクル性能が良好な負極を得ることができる。
【0055】
(2-1.負極活物質)
負極活物質は、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、ケイ素もしくはスズもしくはそれらの酸化物の微粒子と黒鉛活物質との混合物、ケイ素もしくはスズの微粒子、ケイ素もしくはスズを基本材料とした合金、及びLiTi12等の酸化チタン系化合物、リチウム窒化物等が考えられる。ケイ素の酸化物は、SiO(0≦x≦2)で表される。負極活物質としては、これらの他に、例えば、金属リチウム等があげられる。本実施形態の二次電池負極用スラリーでは、負極活物質は、ケイ素原子を含有する活物質を含む。ケイ素原子を含有する活物質としては、ケイ素の微粒子、ケイ素の酸化物(SiO(0≦x≦2))、ケイ素の酸化物と導電性カーボンの複合材料、ケイ素含有材料と導電性カーボンの複合材料、ケイ素を含む合金(例えば、ケイ素とアルミニウムとの合金材料等)が挙げられる。負極活物質の合計100質量%中、ケイ素原子を含有する活物質を5質量%以上30質量%以下含有することが好ましく、10質量%以上20質量%以下含有することがより好ましい。
【0056】
本実施形態の二次電池負極における負極活物質の含有量は、二次電池負極の合計100質量%中、90質量%以上99質量%以下であることが好ましく、94質量%以上98質量%以下であることがより好ましい。
負極活物質の含有量が、二次電池負極の合計100質量%中、94質量%以上であれば、電極抵抗が過度に大きくなることなく、サイクル性能が良好な負極を得ることができる。一方、負極活物質の含有量が、二次電池負極の合計100質量%中、98質量%以下であれば、密着性に優れ、サイクル性能が良好な負極を得ることができる。
【0057】
以上説明した本実施形態に係る二次電池負極においては、本実施形態の非水電解質二次電池用バインダー組成物と、負極活物質と、を含有する。したがって、良好な密着性を維持しながら、サイクル特性に優れた負極を得ることができる。
【0058】
<3.二次電池>
以下では、図1を参照して、上述した本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池10の具体的な構成について説明を行う。図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を説明する説明図である。また、リチウムイオン二次電池10は、本発明の一実施形態に係る二次電池用電極としての負極30を有している。
【0059】
図1に示すリチウムイオン二次電池10は、本実施形態に係る二次電地の一例である。図1に示すように、リチウムイオン二次電池10は、正極20と、負極30と、セパレータ(separator)40と、非水電解液と、を備える。リチウムイオン二次電池10の充電到達電圧(酸化還元電位)は、例えば、4.0V(vs.Li/Li)以上5.0V以下、特に4.2V以上5.0V以下となる。リチウムイオン二次電池10の形態は、特に限定されないが、例えば、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形、またはボタン(button)形等のいずれであってもよい。
【0060】
(3-1.正極20)
正極20は、集電体21と、正極活物質層22とを備える。集電体21は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム(aluminum)、ステンレス(stainless)鋼、及びニッケノレメッキ(nickel coated)鋼等で構成される。
【0061】
正極活物質層22は、少なくとも正極活物質を含み、導電剤と、正極用バインダーとをさらに含んでいてもよい。正極活物質は、例えばリチウムを含む固溶体酸化物であるが、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質であれば特に制限されない。固溶体酸化物は、例えば、LiMnCoNi(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMnCoNi(0.3≦x≦0.85、0.10≦y≦0.3、0.10≦z≦0.3)LiMn1.5Ni0.5となる。
【0062】
導電剤は、例えば、ケッチェンブラック(ketjen black)、アセチレンブラック(acetylene black)等のカーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等であるが、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。
【0063】
正極用バインダーは、例えばポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、エチレンプロピレンジエン三元共重合体(ethylene-propylene-diene terpolymer)、スチレンブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitile-butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluororubber)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ニトロセルロース(nitrocelluose)等であるが、正極活物質及び導電剤を集電体21上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。
【0064】
正極活物質層22は、例えば、以下の製法により作製される。すなわち、まず、正極活物質、導電剤、及び正極用バインダーを乾式混合することで正極合剤を作製する。ついで、正極合剤を適当な有機溶媒に分散させることで正極合剤スラリー(slurry)を作製し、この正極合剤スラリーを集電体21上に塗工し、乾燥、圧延することで正極活物質層が作製される。
【0065】
(3-2.負極30)
負極30は、集電体31と、負極活物質層32とを含む。集電体31は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成される。負極活物質層32は、非水電解質二次電池用バインダー組成物と、負極活物質とを含む。
【0066】
(3-3.セパレータ)
セパレータ40は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate)、ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体(vinylidene difluoride-perfluoroninylether copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-fluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoroacetone copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体(vinylidene difluoride-propylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoro propylene copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene-tetrafluoroethylene copolymer)等を挙げることができる。なお、セパレータの気孔率は、特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池のセパレータが有する気孔率を任意に適用することが可能である。
【0067】
(3-4.非水電解液)
非水電解液は、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。非水電解液は、非水溶媒に電解質塩を含有させた組成を有する。非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(butylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル類、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、γ-バレロラクトン(γ-valerolactone)等の環状エステル類、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethylmethyl carbonate)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル(methylformate)、酢酸メチル(methylacetate)、酪酸メチル(methylbutyrate)等の鎖状エステル類、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)またはその誘導体、1,3-ジオキサン(1,3-dioxane)、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)、1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane)、1,4-ジブトキシエタン(1,4-dibutoxyethane)、またはメチルジグライム(methyldiglyme)等のエーテル類、アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル類、ジオキソラン(dioxolane)またはその誘導体、エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)またはその誘導体等を、単独で、またはそれら2種以上を混合して使用することができる。なお、溶媒を2種以上混合して使用する場合、各溶媒の混合比は、従来のリチウムイオン二次電池で用いられる混合比が適用可能である。
【0068】
電解質塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LIPF6-x(C2n+1[但し、1<x<6、n=1or2]、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n-CNClO、(n-CNI、(CN-maleate、(CN-benzoate、(CN-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(stearyl sulfonic acid lithium)、オクチルスルホン酸リチウム(octyl sulfonic acid lithium)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(dodecyl benzeneulfonic acid lithium)等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。なお、電解質塩の濃度は、従来のリチウムイオン二次電池で使用される非水電解液と同様でよく、特に制限はない。本実施形態では、適当なリチウム化合物(電解質塩)を0.8mol/L以上1.5mol/L以下程度の濃度で含有させた非水電解液を使用することができる。
【0069】
なお、非水電解液には、各種の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、負極作用添加剤、正極作用添加剤、エステル系の添加剤、炭酸エステル系の添加剤、硫酸エステル系の添加剤、リン酸エステル系の添加剤、ホウ酸エステル系の添加剤、酸無水物系の添加剤、及び電解質系の添加剤等が挙げられる。これらのうちいずれか1種を非水電解液に添加しても良いし、複数種類の添加剤を非水電解液に添加してもよい。
【0070】
以上説明した本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、負極30の製造時において、本実施形態に係る非水電解質二次電池用バインダー組成物を用いている。したがって、少ない添加量でも負極活物質層32の不本意な層厚の増大が抑制されている。
【0071】
<4.リチウムイオン二次電池の製造方法>
次に、リチウムイオン二次電池10の製造方法について説明する。正極20は、以下のように作製される。まず、正極活物質、導電剤、及び正極用バインダーを上記の割合で混合したものを、溶媒(例えばN-メチル- 2-ピロリドン)に分散させることでスラリーを形成する。次いで、スラリーを集電体21上に塗布し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成する。なお、塗布の方法は、特に限定されない。塗布の方法としては、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法等が考えられる。以下の各塗布工程も同様の方法により行われる。次いで、プレス(press)機により正極活物質層22を上記の範囲内の密度となるようにプレスする。これにより、正極20が作製される。
【0072】
負極30も、正極20と同様に作製される。まず、第一の負極活物質層32を構成する材料を混合したものを、溶媒(例えば水)に分散させることで、第1の負極合剤スラリーを作製する。次いで、第1の負極合剤スラリーを集電体31上に塗布し、乾燥させることで、負極活物質層32を形成する。乾燥時の温度は150℃以上が好ましい。次いで、プレス機により負極活物質層32を上記の範囲内の密度となるようにプレスする。これにより、負極30が作製される。
【0073】
次いで、セバレータ40を正極20及び負極30で挟むことで、電極構造体を作製する。次いで、電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、当該形態の容器に挿入する。次いで、当該容器内に非水電解液を注入することで、セパレータ40内の各気孔に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池が作製される。
【0074】
以上により、本実施形態によれば、非水電解質二次電池用バインダー組成物として、(メタ)アクリル酸系単量体35質量%以上65質量%以下、(メタ)アクリロニトリル35質量%以上65質量%以下、及びこれらと共重合可能な他の単量体0質量%以上20質量%以下の共重合体からなる水溶性共重合体(A)を高分子分散安定剤として用いて、該高分子分散安定剤の存在下に水中でエチレン性不飽和単量体を共重合させた水に不溶な分散粒子からなる水分散型共重合体(B)を含むものを使用する。この非水電解質二次電池用バインダー組成物は、少量であっても良好な密着性を有し、かつ、サイクル特性に優れた負極を得ることができる。
【実施例
【0075】
以下、本発明を具体的な実施例に基づきより詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は、あくまでも本発明の一例であり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
<リチウムイオン二次電池用負極バインダー組成物の合成>
(水溶性共重合体aの合成)
メカニカルスターラー、撹拌棒、温度計を装着した2000mLのセパラブルフラスコ内に、アクリル酸44.0g、アクリロニトリル55.0g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1.0g、N,N´-メチレンビスアクリルアミド0.25g、4mol/L水酸化ナトリウム水溶液122.1mL、イオン交換水757.9gを仕込んで450rpmにて撹拌した後、系内を窒素置換し、ジャケット温度を85℃の設定にして昇温した。系内温度が60℃になった時点で、2,2´-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1194mgをイオン交換水20.0gに溶解した開始剤水溶液を添加した。ジャケット温度85℃の設定にて、前述の開始剤添加から12時間撹拌を継続して、薄黄色のポリマー水溶液を得た。反応後の水溶液の不揮発分を測定したところ、9.8質量%であった。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を7質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体aの水溶液を得た。
【0077】
(水分散型共重合体Aの合成)
メカニカルスターラー、撹拌棒、温度計を装着した2000mLのセパラブルフラスコ内に、水溶性共重合体aの水溶液571.4g(固形分濃度7質量%、pH7.5)、スチレン5.0g、アクリル酸2-エチルヘキシル2.5g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル2.5g、イオン交換水127.9gを仕込んで600rpmにて撹拌した後、系内を窒素置換し、ジャケット温度を80℃の設定にして昇温した。系内温度が60℃になった時点で、過硫酸アンモニウム98mgをイオン交換水5.0gに溶解した開始剤水溶液を添加した。ジャケット温度80℃の設定にて、前述の開始剤添加から12時間撹拌を継続して、乳白色の水分散体を得た。反応後の水分散体の不揮発分を測定したところ、6.9質量%であった。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、水分散型共重合体Aの固形分濃度およびpHを調整して、水分散型共重合体Aを7質量%含有するpH7.5の水分散型共重合体Aの分散液を得た。
【0078】
<リチウムイオン二次電池の作製>
(負極作製)
シリコン-黒鉛複合活物質(シリコン含有量60%)、人造黒鉛活物質、上述の水分散型共重合体Aを固形分の質量比14.55:82.45:3.0で水溶媒中に分散させて混合することで、負極合剤スラリーを作製した。次いで、乾燥後の合剤塗布量(面密度)が両面20.2mg/cmになるように負極合剤スラリーを銅箔上の両面に塗工乾燥させた後、ロールプレス機で合剤層密度が1.65g/ccとなるようにプレスし、負極(両面負極電極)を作製した。
【0079】
(正極作製)
Li1.0Ni0.88Co0.1Al0.01Mg0.01、アセチレンブラック、ボリフッ化ビニリデンを固形分の質量比97.7:1.0:1.3でN-メチル-2-ピロリドン溶媒中に分散させて混合することで、正極合剤スラリーを作製した。次いで、乾燥後の合剤塗布量(面密度)が片面20.0mg/cmになるように正極合剤スラリーをアルミニウム集電箔上の片面に塗工乾燥させた後、ロールプレス機で合剤層密度が3.65g/ccとなるようにプレスし、正極(片面正極電極)を作製した。
【0080】
(二次電池セル作製)
上述の両面負極電極、片面正極電極にそれぞれニッケル及びアルミリード線を溶接した後、ポリエチレン製多孔質セパレータを介して両面負極電極1枚を片面正極電極2枚で挟む形で積層させることで、電極積層体を作製した。次いで、アルミラミネートフィルム内に上記の電極積層体を、リード線を外部に引き出した状態で収納し、電解液を注液して減圧封止することで初期充電前二次電池セルを作製した。電解液には、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネートを3:7(体積比)で混合した溶媒に1MのLiPFおよび1%質量%のビニレンカーボネートを溶解させたものを使用した。
【0081】
(金属リチウム対極セル作製)
上述のセル作製において、片面正極電極を金属リチウム貼り合わせ銅箔に変更した以外は同様の手順で、初期充電前の金属リチウム対極セルを作製した。
【0082】
(実施例2)
実施例1の水溶性共重合体aの合成において、原料の仕込みをアクリル酸49.0g、アクリロニトリル50.0g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1.0g、N,N´-メチレンビスアクリルアミド0.3g、4mol/L水酸化ナトリウム水溶液136.0mL、イオン交換水744.0gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水溶性共重合体b、水分散型共重合体B、負極および二次電池を作製した。
【0083】
(実施例3)
実施例1の水溶性共重合体aの合成において、原料の仕込みをアクリル酸59.0g、アクリロニトリル40.0g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1.0g、N,N´-メチレンビスアクリルアミド0.4g、4mol/L水酸化ナトリウム水溶液163.8mL、イオン交換水716.2gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水溶性共重合体c、水分散型共重合体C、負極および二次電池を作製した。
【0084】
(実施例4)
実施例2の水分散型共重合体aの合成において、単量体の仕込みをスチレン7.0g、アクリル酸2-エチルヘキシル1.5g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1.5gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水分散型共重合体D、負極および二次電池を作製した。
【0085】
(実施例5)
実施例2の水分散型共重合体aの合成において、単量体の仕込みをスチレン5.0g、アクリル酸2-エチルヘキシル3.0g、アクリロニトリル2.0gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水分散型共重合体E、負極および二次電池を作製した。
【0086】
(実施例6)
実施例1の負極合剤スラリー作製において、水分散型共重合体Aを用いる代わりに水分散型共重合体Aと水溶性共重合体aをともに用い、シリコン-黒鉛複合活物質(シリコン含有量60%)、人造黒鉛活物質、水分散型共重合体A、水溶液共重合体aの固形分質量比を14.55:82.45:1.5:1.5に変更した以外は、実施例1と同様の手順で負極および二次電池を作製した。
【0087】
(実施例7)
実施例2の負極合剤スラリー作製において、水分散型共重合体Bを用いる代わりに水分散型共重合体Bと水溶性共重合体bをともに用い、シリコン-黒鉛複合活物質(シリコン含有量60%)、人造黒鉛活物質、水分散型共重合体B、水溶液共重合体bの固形分質量比を14.55:82.45:1.5:1.5に変更した以外は、実施例2と同様の手順で負極および二次電池を作製した。
【0088】
(実施例8)
実施例3の負極合剤スラリー作製において、水分散型共重合体Cを用いる代わりに水分散型共重合体Cと水溶性共重合体cをともに用い、シリコン-黒鉛複合活物質(シリコン含有量60%)、人造黒鉛活物質、水分散型共重合体C、水溶液共重合体cの固形分質量比を14.55:82.45:1.5:1.5に変更した以外は、実施例3と同様の手順で負極および二次電池を作製した。
【0089】
(実施例9)
実施例1の水溶性共重合体aの合成において、原料の仕込みをアクリル酸75.0g、アクリロニトリル75.0g、4mol/L水酸化ナトリウム水溶液208.2mL、イオン交換水641.8gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水溶性共重合体f、水分散型共重合体F、負極および二次電池を作製した。
【0090】
(実施例10)
実施例1の水溶性共重合体aの合成において、原料の仕込みをアクリル酸90.0g、アクリロニトリル60.0g、4mol/L水酸化ナトリウム水溶液249.8mL、イオン交換水600.2gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水溶性共重合体g、水分散型共重合体G、負極および二次電池を作製した。
【0091】
(実施例11)
実施例2の水分散型共重合体aの合成において、単量体の仕込みをスチレン6.0g、アクリル酸2-エチルヘキシル4.0gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水分散型共重合体H、負極および二次電池を作製した。
【0092】
(比較例1)
実施例1の負極合剤スラリー作製において、水分散型共重合体Aを用いる代わり水溶液共重合体aを用いた以外は同様の手順で、負極合剤スラリーの銅箔上への塗工乾燥を行ったが、塗工乾燥中に負極合剤層に亀裂(クラック)が発生したため、その後の評価に供する負極を作製することができなかった。
【0093】
(比較例2)
実施例3の負極合剤スラリー作製において、水分散型共重合体Cを用いる代わり水溶液共重合体cを用いた以外は同様の手順で、負極合剤スラリーの銅箔上への塗工乾燥を行ったが、塗工乾燥中に負極合剤層に亀裂(クラック)が発生したため、その後の評価に供する負極を作製することができなかった。
【0094】
(比較例3)
実施例1の水溶性共重合体の合成において、原料の仕込みをアクリル酸79.0g、アクリロニトリル20.0g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1.0g、N,N´-メチレンビスアクリルアミド0.5g、4mol/L水酸化ナトリウム水溶液219.3mL、イオン交換水660.7gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水溶性共重合体iを合成した。実施例1の負極合剤スラリー作製において水分散型共重合体Aを用いる代わりに、前述の水溶性共重合体iを用いた以外は同様の手順で、負極合剤スラリーの銅箔上への塗工乾燥を行ったが、塗工乾燥中に負極合剤層に亀裂(クラック)が発生したため、その後の評価に供する負極を作製することができなかった。
【0095】
(比較例4)
実施例1の水溶性共重合体の合成において、原料の仕込みをアクリル酸99.0g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1.0g、N,N´-メチレンビスアクリルアミド0.6g、4mol/L水酸化ナトリウム水溶液274.8mL、イオン交換水605.2gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水溶性共重合体jを合成した。実施例1の負極合剤スラリー作製において水分散型共重合体Aを用いる代わりに、前述の水溶性共重合体jを用いた以外は同様の手順で、負極合剤スラリーの銅箔上への塗工乾燥を行ったが、塗工乾燥中に負極合剤層に亀裂(クラック)が発生したため、その後の評価に供する負極を作製することができなかった。
【0096】
(比較例5)
実施例1の水溶性共重合体の合成において、原料の仕込みをアクリル酸69.0g、アクリロニトリル30.0g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1.0g、N,N´-メチレンビスアクリルアミド0.4g、4mol/L水酸化ナトリウム水溶液191.5mL、イオン交換水688.5gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水分散型共重合体K、負極および二次電池を作製した。
【0097】
(比較例6)
実施例1の水溶性共重合体の合成において、原料の仕込みをアクリル酸79.0g、アクリロニトリル20.0g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1.0g、N,N´-メチレンビスアクリルアミド0.5g、4mol/L水酸化ナトリウム水溶液219.3mL、イオン交換水660.7gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水分散型共重合体L、負極および二次電池を作製した。
【0098】
(比較例7)
実施例2の水溶性共重合体の合成において、原料にN,N´-メチレンビスアクリルアミドを仕込まずに行った以外は、実施例1と同様の手順で水分散型共重合体M、負極および二次電池を作製した。
【0099】
(比較例8)
実施例2の水溶性共重合体の合成において、原料のN,N´-メチレンビスアクリルアミドの仕込み量を0.8gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水分散型共重合体N、負極および二次電池を作製した。
【0100】
(比較例9)
実施例2の水分散型共重合体の合成において、単量体の仕込みをスチレン3.0g、アクリル酸2-エチルヘキシル6.5g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.5gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水分散型共重合体O、負極および二次電池を作製した。
【0101】
(比較例10)
実施例2の水分散型共重合体の合成において、単量体の仕込みをスチレン3.0g、アクリル酸ノルマルブチル6.5g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.5gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で水分散型共重合体P、負極および二次電池を作製した。
【0102】
(比較例11)
実施例1の負極合剤スラリー作製において、水分散型共重合体Aを用いる代わりにカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC)と変性スチレンブタジエン共重合体(SBR)をともに用い、シリコン-黒鉛複合活物質(シリコン含有量60%)、人造黒鉛活物質、CMC、SBRの固形分質量比を14.55:82.45:1.0:2.0に変更した以外は、実施例1と同様の手順で負極および二次電池を作製した。
【0103】
(比較例12)
国際公開第2014/207967号の実地例中の製造例1および製造例2に従い、アクリル酸ナトリウムとビニルアルコールの共重合体の水溶液を合成した(アクリル酸ナトリウムとビニルアルコールの共重合組成比はモル比で6:4)。実施例1の負極合剤スラリー作製において、水分散型共重合体Aを用いる代わりに、前述のアクリル酸ナトリウムとビニルアルコールの共重合体を用いた以外は、実施例1と同様の手順で負極および二次電池を作製した。
【0104】
<バインダー組成物、負極合剤スラリー、負極、二次電池の評価>
(ガラス転移点(Tg))
実施例1~実施例5、実施例9~実施例11および比較例5~比較例10で合成した水分散型共重合体について、示差走査熱量計(DSC)を用いて分析したところ、150℃~250℃以上で1つ、100℃以下に1つの吸熱ピークが観測された。水分散型共重合体の合成に用いた水溶性共重合体を同様に分析したところ、150℃~250℃以上に1つの吸熱ピークが観測されるのみであった。そのため、前述の水分散型共重合体の分析において100℃以下で観測された吸熱ピークの温度を水不溶分散粒子成分に由来するTgとした。
【0105】
(粘度)
実施例1~実施例5、実施例9~実施例11および比較例3~比較例10で合成した水溶性共重合体の水溶液並びに水分散型共重合体の分散液の、固形分7質量%における粘度を25℃にて測定した。
【0106】
(塗工適性)
実施例1~実施例11および比較例1~比較例12において、負極合剤スラリーを銅箔上に塗工乾燥する工程において、塗工乾燥中に負極合剤層に亀裂(クラック)発生の有無を見ることで、塗工適性を評価した。評価基準を以下に示す。
○:クラック発生無し
×:クラック発生有り
【0107】
(密着性)
実施例1~実施例11および比較例5~比較例12で作製した負極を幅25mm、長さ100mmの短冊状に切り出した。ついで、両面テープを用いてステンレス板に活物質面を被着面として張り合わせ、密着性評価用サンプルとした。剥離試験機(株式会社島津製作所製SHIMAZU EZ-S)にサンプルを装着し、180度ピール強度を測定した。
【0108】
(初回充電後の負極膨張率)
実施例1~実施例11および比較例5~比較例12で作製した金属リチウム対極セルを、25℃の恒温槽内で設計容量の0.1CA(1CAは1時間放電率)で0.005Vまで定電流充電を行い、引き続き0.005Vで0.01CAになるまで定電圧充電を行った。その後、電池を解体し、負極を取出し、マイクロメーターにて負極の厚みを測定し、予め測定しておいた初回充電前の負極の厚みと比較することで、初回充電後の負極膨張率を評価した。ここで、膨張率の値は((充電後の負極厚み)-(充電前の負極厚み)/(充電前の負極厚み))×100として算出した。
【0109】
(初回充電後の負極合剤層剥離)
前述の初回充電後負極膨張率評価において、初回充電後に取り出した負極を目視観察し、以下の基準で評価した。
○:基材銅箔に対する負極合剤層の剥離無し
△:基材銅箔に対して負極合剤層が一部剥離
×:基材銅箔に対して負極合剤層が全面剥離
【0110】
(サイクル特性)
実施例1~実施例11および比較例5~比較例12で作製した二次電池セルを、25℃の恒温槽内で設計容量の0.1CAで4.3Vまで定電流充電を行い、引き続き4.3Vで0.05CAになるまで定電圧充電を行った。その後0.1CAで2.5Vまで定電流放電を行った。さらに、25℃の恒温槽内で、充電終止電圧4.3V、放電終止電圧2.5Vの条件で0.2CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電、0.2CAで定電流放電を1サイクル行い、初期放電容量を測定した。この二次電池を、25℃の温度下、充電終止電圧4.3V、放電終止電圧2.5Vの条件で0.5CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電、0.5CAで定電流放電する寿命試験を100サイクル実施した。そして、100サイクル後、定電流充電0.2CA、定電圧充電0.05CA、放電0.2CAでの放電容量を計測し、初期放電容量で除算することで、100サイクル後の容量維持率を測定した。
【0111】
(評価結果)
実施例1~実施例5、実施例9~実施例11および比較例1~比較例10で使用した重合体組成を表1に示す。また、各実施例および比較例の評価結果を表2に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
なお、表1中、「AA」はアクリル酸を示し、「AN」はアクリロニトリルを示し、「その他成分」は水溶性共重合体合成において仕込んだアクリル酸2-ヒドロキシエチルとN,N´-メチレンビスアクリルアミドの合計量を示し、「St」はスチレンを示し、「2-EHA」はアクリル酸2-エチルヘキシルを示し、「HEA」はアクリル酸2-ヒドロキシエチルを示し、「BA」はアクリル酸ノルマルブチルを示す。
【0114】
【表2】
【0115】
まず、ポリアクリル酸ナトリウム共重合体の水溶液を負極バインダーに用いた比較例1~比較例4では、負極合剤スラリーの塗布乾燥工程において負極合剤層にクラックが発生して、実用に供する負極が得られなかった。ポリアクリル酸は高弾性率であることが知られているが、屈曲性に乏しいため、負極バインダーとして求められるに充分な柔軟性軟性が得られなかったと考えられる。一方、実施例1~実施例11および比較例5~比較例10では、ポリアクリル酸ナトリウム共重合体水溶液を分散安定剤に用いて合成した水分散型共重合体の分散液を負極バインダーとして使用することで、前述のクラック発生の問題が解決されている。これは、該水分散型共重合体においては、ポリアクリル酸ナトリウム共重合体に比べて弾性率は低いものの破断伸びは大きい粒子成分が導入されたことで、バインダーとしての柔軟性が改善された効果だと思われる。
【0116】
次に、実施例1~実施例11に示した本発明に係るバインダー組成物は、比較例5~比較例10のバインダー組成物と比較して、優れたサイクル特性を示すことが分かる。これは、該水分散型共重合体の水溶性シェル成分となる水溶性共重合体のアクリル酸ナトリウムとアクリロニトリルの共重合比率(実施例1~実施例3と比較例5および比較例6の対比)、該共重合体水溶液および分散液の粘度(実施例2と比較例7および比較例8の対比)、および該水分散型共重合体のコア成分となる疎水性共重合体粒子のTg(実施例2、実施例4、実施例5と比較例9の対比)を適切に設計することで、充電後の負極膨張並びに合剤層剥離が抑制されたためだと推測される。
【0117】
そして、実施例1~実施例11に示した本発明に係るバインダー組成物は、リチウムイオン二次電池の水系負極バインダーとして一般的に用いられているCMCとSBR(比較例11)や、本発明とは異なるポリアクリル酸ナトリウム系バインダーであるアクリルナトリウム-ビニルアルコール共重合体(比較例12)に比べてサイクル性能が更に向上することが判明した。
【0118】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0119】
10 リチウムイオン二次電池
20 正極
30 負極
40 セパレータ
図1