(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】積層体およびこれを含む楕円偏光板
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240327BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20240327BHJP
G02F 1/13363 20060101ALI20240327BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240327BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/1335 510
G02F1/13363
B32B7/023
(21)【出願番号】P 2019168579
(22)【出願日】2019-09-17
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】大川 春樹
(72)【発明者】
【氏名】阪上 智恵
(72)【発明者】
【氏名】幡中 伸行
(72)【発明者】
【氏名】村野 耕太
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/159887(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/001582(WO,A1)
【文献】特開2019-020725(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0334001(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
H05B 33/02
H10K 50/10
H05B 33/14
G02F 1/1335
G02F 1/13363
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平配向液晶硬化膜、粘接着剤層および垂直配向液晶硬化膜
がこの順に
互いに隣接して存在し、
前記水平配向液晶硬化膜が、下記式(X)で表される化合物を含む重合性液晶化合物を配向した状態で硬化してなり、かつ、下記式(2)および式(3)を満たす膜であり、
前記粘接着剤層が活性エネルギー線硬化型接着剤から形成され、かつ、その厚みが0.1μm以上2μm以下であり、
前記粘接着剤層の面内屈折率と前記垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率とが、式(1)の関係を満たす積層体。
〔式(X)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族基を有する二価の基を表し、
G
1
およびG
2
はそれぞれ独立に、二価の芳香族基または二価の脂環式炭化水素基を表し、該二価の芳香族基または二価の脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフルオロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、シアノ基またはニトロ基に置換されていてもよく、該二価の芳香族基または二価の脂環式炭化水素基を構成する炭素原子は、酸素原子、硫黄原子または窒素原子に置換されていてもよく、
L
1
、L
2
、B
1
およびB
2
はそれぞれ独立に、単結合または二価の連結基であり、
k、lは、それぞれ独立に0~3の整数を表し、1≦k+lの関係を満たし、2≦k+lである場合、B
1
およびB
2
、G
1
およびG
2
は、それぞれ互いに同一であってもよく、異なっていてもよく、
E
1
およびE
2
はそれぞれ独立に、炭素数1~17のアルカンジイル基を表し、アルカンジイル基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該アルカンジイル基に含まれる-CH
2
-は、-O-、-S-、-C(=O)-で置換されていてもよく、P
1
およびP
2
は互いに独立に、重合性基または水素原子を表し、少なくとも1つは重合性基である。〕
|((n2x+n2y)/2)-((n3x+n3y)/2)|≦0.03 (1)
〔式(1)中、n2xは粘接着剤層の面内において最大の屈折率を生じる方向の波長λnmでの屈折率を表し、n2yはn2xと同一面内でn2xの方向に対して直交する方向の波長λnmでの屈折率を表し、n3xは垂直配向液晶硬化膜の面内において最大の屈折率を生じる方向の波長λnmでの屈折率を表し、n3yはn3xと同一面内でn3xの方向に対して直交する方向の波長λnmでの屈折率を表す。〕
Re(450)/Re(550)≦1.00 (2)
100nm<Re(550)<160nm (3)
〔式(2)および(3)中、Re(λ)は波長λnmにおける水平配向液晶硬化膜の面内位相差値を表す。〕
【請求項2】
垂直配向液晶硬化膜が式(4)および(5)を満たす、請求項
1に記載の積層体。
n3x≒n3y<n3z (4)
-150nm<Rth(550)<-30nm (5)
〔式(4)中、n3xは垂直配向液晶硬化膜の面内において最大の屈折率を生じる方向の波長λnmでの屈折率を表し、n3yはn3xと同一面内でn3xの方向に対して直交する方向の波長λnmでの屈折率を表し、n3zは垂直配向液晶硬化膜の膜厚方向の波長λnmにおける屈折率を表し、≒は両者の屈折率の差が0.01以下であることを表し、
式(5)中、Rth(550)は垂直配向液晶硬化膜の波長550nmにおける厚み方向の位相差値を表す。〕
【請求項3】
請求項1
または2に記載の積層体と偏光フィルムとを積層してなる楕円偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平配向液晶硬化膜、粘接着剤層および垂直配向液晶硬化膜を含む積層体、並びに、前記積層体を含む楕円偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
楕円偏光板は、偏光板と位相差板とが積層された光学部材であり、例えば、有機EL画像表示装置等の平面状態で画像を表示する装置において、該装置を構成する電極での光反射を防止するために用いられている。この楕円偏光板を構成する位相差板としては、一般に、いわゆるλ/4板が用いられる。そのような位相差板として、重合性液晶化合物を位相差板の平面に対して水平方向に配向させた状態で重合し、硬化させた水平配向液晶硬化膜からなる位相差板が知られている。また、斜め方向から見た場合にも、正面方向から見た場合と同様の光学性能を発揮させるための光学補償機能を有する楕円偏光板が求められており、水平配向液晶硬化膜と共に、重合性液晶化合物を位相差板の平面に対して垂直方向に配向させた状態で重合し硬化させた垂直配向液晶硬化膜をさらに備えた位相差板が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の水平配向液晶硬化膜と垂直配向液晶硬化膜とを含む楕円偏光板においては、一般に、水平配向液晶硬化膜と垂直配向液晶硬化膜とが粘接着剤層を介して積層されている。このような楕円偏光板では、水平配向液晶硬化膜と粘接着剤層との界面、および、粘接着剤層と垂直配向液晶硬化膜との界面でそれぞれ界面反射が起こりやすく、これらの界面反射が相互に干渉し合うことにより干渉ムラを生じることがある。干渉ムラは、楕円偏光板を画像表示装置などのディスプレイに用いる場合の視認性を低下させる原因となり得る。
【0005】
本発明は、水平配向液晶硬化膜、粘接着剤層および垂直配向液晶硬化膜の各界面における反射に起因する干渉ムラが生じ難い積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]水平配向液晶硬化膜、粘接着剤層および垂直配向液晶硬化膜をこの順に含み、
前記粘接着剤層の面内屈折率と前記垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率とが、式(1)の関係を満たす積層体。
|((n2x+n2y)/2)-((n3x+n3y)/2)|≦0.03 (1)
〔式(1)中、n2xは粘接着剤層の面内において最大の屈折率を生じる方向の波長λnmでの屈折率を表し、n2yはn2xと同一面内でn2xの方向に対して直交する方向の波長λnmでの屈折率を表し、n3xは垂直配向液晶硬化膜の面内において最大の屈折率を生じる方向の波長λnmでの屈折率を表し、n3yはn3xと同一面内でn3xの方向に対して直交する方向の波長λnmでの屈折率を表す。〕
[2]水平配向液晶硬化膜が式(2)および(3)を満たす、前記[1]に記載の積層体。
Re(450)/Re(550)≦1.00 (2)
100nm<Re(550)<160nm (3)
〔式中、Re(λ)は波長λnmにおける水平配向液晶硬化膜の面内位相差値を表す。〕
[3]垂直配向液晶硬化膜が式(4)および(5)を満たす、前記[1]または[2]に記載の積層体。
n3x≒n3y<n3z (4)
-150nm<Rth(550)<-30nm (5)
〔式(4)中、n3xは垂直配向液晶硬化膜の面内において最大の屈折率を生じる方向の波長λnmでの屈折率を表し、n3yはn3xと同一面内でn3xの方向に対して直交する方向の波長λnmでの屈折率を表し、n3zは垂直配向液晶硬化膜の膜厚方向の波長λnmにおける屈折率を表し、≒は両者の屈折率の差が0.01以下であることを表し、
式(5)中、Rth(550)は垂直配向液晶硬化膜の波長550nmにおける厚み方向の位相差値を表す。〕
[4]粘接着剤層の厚みが0.1μm以上2μm以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載の積層体と偏光フィルムとを積層してなる楕円偏光板。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水平配向液晶硬化膜、粘接着剤層および垂直配向液晶硬化膜の各界面における反射に起因する干渉ムラが生じ難い積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の積層体は、水平配向液晶硬化膜と、粘接着剤層と、垂直配向液晶硬化膜とをこの順に含む。本発明の積層体においては、粘接着剤層の面内屈折率と垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率とが式(1)の関係を満たす。
|((n2x+n2y)/2)-((n3x+n3y)/2)|≦0.03 (1)
式(1)中、n2xは粘接着剤層の面内において最大の屈折率を生じる方向の波長λnmでの屈折率を表し、n2yはn2xと同一面内でn2xの方向に対して直交する方向の波長λnmでの屈折率を表す。n3xは垂直配向液晶硬化膜の面内において最大の屈折率を生じる方向の波長λnmでの屈折率を表し、n3yはn3xと同一面内でn3xの方向に対して直交する方向の波長λnmでの屈折率を表す。
【0009】
式(1)は、粘接着剤層の面内屈折率と垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率との差が0.03以下である、すなわちその差が小さいことを意味する。
水平配向液晶硬化膜と、粘接着剤層と、垂直配向液晶硬化膜とをこの順で積層してなる積層体においては、水平配向液晶硬化膜と粘接着剤層との界面、および、粘接着剤層と垂直配向液晶硬化膜との界面で、それぞれ界面反射が起こりやすい。このような積層体を構成する各液晶硬化膜と粘接着剤層間の界面で生じる界面反射は、各液晶硬化膜の屈折率と粘接着剤層の屈折率とが異なることに起因して生じるものであり、水平配向液晶硬化膜および粘接着剤層間の界面反射と、垂直配向液晶硬化膜および粘接着剤層間の界面反射とが相互に干渉し合うことにより干渉ムラが生じやすくなる。本発明の積層体においては、粘接着剤層の面内屈折率と垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率との差が、上記式(1)の関係を満たすことにより、粘接着剤層および垂直配向液晶硬化膜間の界面反射が生じ難くなり、これにより、水平配向液晶硬化膜および粘接着剤層間の界面反射と干渉し合うことにより生じる干渉ムラを抑制することができる。
【0010】
水平配向液晶硬化膜、粘接着剤層および垂直配向液晶硬化膜から構成される積層体において生じる干渉ムラを抑制するためには、一界面を構成する水平配向液晶硬化膜および粘接着剤層間の面内屈折率の差を小さくすることも考えられる。しかしながら、水平配向液晶硬化膜の面内には遅相軸と進相軸とが存在するため、粘接着剤層の面内屈折率と水平配向液晶硬化膜の面内屈折率との差を小さくしたとしても、水平配向液晶硬化膜面内で粘接着剤層の屈折率との差が小さい方向では干渉ムラを抑えることができるが、同一面内に粘接着剤層の屈折率との差が大きい方向が存在しており、かかる方向において干渉ムラを抑制することは困難である。これに対して、垂直配向液晶硬化膜は、一般に、その膜厚方向(液晶硬化膜面に対して垂直方向)に大きな屈折率を有する一方、垂直配向液晶硬化膜面内の屈折率にはほとんど差がないため、粘接着剤層および垂直配向液晶硬化膜間の面内屈折率の差を小さくすることにより、積層体の面内全域において干渉ムラの発生を抑制することができる。
【0011】
本発明の積層体において、粘接着剤層の面内屈折率と垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率との差(絶対値)〔|((n2x+n2y)/2)-((n3x+n3y)/2)|の値〕は、0.03以下であり、好ましくは0.025以下、より好ましくは0.02以下である。その差の下限値は特に限定されるものではないが、差が小さいほど干渉ムラの抑制効果が向上しやすい観点から、前記面内屈折率の差は理想的には0である。
【0012】
粘接着剤層の面内屈折率と垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率との差は、粘接着剤層を形成する粘接着剤の種類および垂直配向液晶硬化膜を構成する重合性液晶化合物の種類や重合性液晶組成物の組成等を適宜選択して、粘接着剤層の面内屈折率および/または垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率をそれぞれ調整することにより制御し得る。特に、光吸収異方性を有しない粘接着剤層の面内屈折率を、垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率に近似させるよう調整することにより、光学フィルムとして求められる高い光学特性を確保しながら、粘接着剤層と垂直配向液晶硬化膜との界面で生じる界面反射を効果的に抑制し得る。
【0013】
本発明の積層体を構成する水平配向液晶硬化膜は、式(2)および(3)を満たすことが好ましい。
Re(450)/Re(550)≦1.00 (2)
100nm<Re(550)<160nm (3)
式(2)および(3)中、Re(λ)は波長λnmにおける水平配向液晶硬化膜の面内位相差値を表す。
【0014】
水平配向液晶硬化膜が式(2)を満たす場合、当該水平配向液晶硬化膜は、短波長での面内位相差値が長波長での面内位相差値よりも小さくなる、いわゆる逆波長分散性を示す。逆波長分散性を示す場合、可視光の広い波長範囲で一様の位相差性能を発揮しやすい傾向にあり、積層体の光学特性が向上しやすい。一方、逆波長分散性を示す液晶硬化膜では、その特性を得るために屈折率が高くなる傾向にあり、粘接着剤層の屈折率との差が生じやすくなる結果、干渉ムラがより顕著に現れやすい。このような場合であっても、本発明においては、垂直配向液晶硬化膜の屈折率と粘接着剤層の屈折率との差を制御することにより、垂直配向液晶硬化膜と粘接着剤層との界面における界面反射を効果的に抑制することができるため、逆波長分散性を示す液晶硬化膜が発現し得る高い光学特性を確保しながら、干渉ムラの生じ難い積層体を得ることができる。
【0015】
逆波長分散性が向上し、水平配向液晶硬化膜の正面方向の反射色相の向上効果をより高めることができるため、Re(450)/Re(550)は、好ましくは0.70以上、より好ましくは0.78以上であり、また、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.92以下である。
【0016】
上記面内位相差値は、水平配向液晶硬化膜の厚みd1によって調整することができる。水平配向液晶硬化膜の面内位相差値は、式Re1(λ)=(n1x(λ)-n1y(λ))×d1〔式中、n1xは、水平配向液晶硬化膜の面内において最大の屈折率を生じる方向の波長λnmでの屈折率を表し、n1yはn1xと同一面内でn1xの方向に対して直交する方向の波長λnmの屈折率を表し、d1は水平配向液晶硬化膜の膜厚を示す〕によって決定されることから、所望の面内位相差値(Re1(λ):波長λ(nm)における水平配向液晶硬化膜の面内位相差値)を得るには、3次元屈折率と膜厚d1とを調整すればよい。
【0017】
水平配向液晶硬化膜が式(3)を満たすと、該水平配向液晶硬化膜を含む積層体(楕円偏光板)を有機EL表示装置に適用した場合の黒表示時の正面反射色相が向上しやすくなる。面内位相差値のさらに好ましい範囲は、130nm≦ReA(550)≦150nmである。
【0018】
本発明の積層体を構成する垂直配向液晶硬化膜は、式(4)および(5)を満たすことが好ましい。
n3x≒n3y<n3z (4)
-150nm<Rth(550)<-30nm (5)
式(4)中、n3xは垂直配向液晶硬化膜の面内において最大の屈折率を生じる方向の波長λnmでの屈折率を表し、n3yはn3xと同一面内でn3xの方向に対して直交する方向の波長λnmでの屈折率を表し、n3zは垂直配向液晶硬化膜の膜厚方向の波長λnmにおける屈折率を表し、≒は両者の屈折率の差が0.01以下であることを表す。式(5)中、Rth(550)は垂直配向液晶硬化膜の波長550nmにおける厚み方向の位相差値を表す。
【0019】
式(4)は、垂直配向液晶硬化膜の膜厚方向の波長λnmにおける屈折率(n3z)が、垂直配向液晶硬化膜面内の波長λnmにおける屈折率(n3xおよびn3y)よりも大きく、n3xとn3yとの差が0.01以下であり、垂直配向液晶硬化膜面内に屈折率の差がほぼないことを意味する。式(4)を満たす垂直配向液晶硬化膜は、面内に屈折率の差がないか、面内における屈折率の差が非常に小さいため、垂直配向液晶硬化膜面内の屈折率の差に起因して生じ得る、粘接着剤層の面内屈折率と垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率との部分的なズレの発生が生じ難くなる。これにより、上記式(1)の関係を満たすように粘接着剤層の面内屈折率と垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率との差を制御することによって、粘接着剤層および垂直配向液晶硬化膜間の界面反射が生じ難くなり、積層体の面内全域において干渉ムラの発生を抑制する効果がより向上しやすい。
【0020】
垂直配向液晶硬化膜が式(5)を満たすと、該垂直配向液晶硬化膜を構成する重合性液晶化合物は液晶硬化膜の垂直方向に高い秩序度をもって配向し、該垂直配向液晶硬化膜を含む積層体を有機EL表示装置に組み込んだ場合に、黒表示時の斜方反射色相変化の抑制効果に優れる傾向にある。積層体の光学特性をさらに向上させ得る観点から、垂直配向液晶硬化膜の膜厚方向の位相差値Rth(550)は、より好ましくは-100nm以上、さらに好ましくは-90nm以上であり、また、より好ましくは-40nm以下、さらに好ましくは-50nm以下である。
【0021】
垂直配向液晶硬化膜の膜厚方向の位相差値Rth(λ)は、垂直配向液晶硬化膜の厚さd3によって、調整することができる。面内位相差値は、下記式:
Rth(λ)=((n3x(λ)+n3y(λ))/2-n3z(λ))×d3
(式中n3x(λ)、n3y(λ)およびn3z(λ)は上記と同じ意味である)
によって決定されることから、所望の膜厚方向の位相差値Rth(λ)を得るためには、3次元屈折率と膜厚d3とを調整すればよい。
【0022】
本発明の積層体において、水平配向液晶硬化膜と粘接着剤層と垂直配向液晶硬化膜とは、それぞれ他の層を介して積層されていてもよいが、粘接着剤層と垂直配向液晶硬化膜とが隣接して存在することが好ましい。粘接着剤層と垂直配向液晶硬化膜とが隣接して存在すると、他の層に由来する面内屈折率の影響を受けることなく、粘接着剤層の面内屈折率と垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率との差を制御することにより、干渉ムラを低減することができる。さらに、粘接着剤層や水平配向液晶硬化膜との関係において生じ得る界面反射を抑えるために、水平配向液晶硬化膜と粘接着剤層および粘接着剤層と垂直配向液晶硬化膜とが、それぞれ互いに隣接して存在することがより好ましい。
前記他の層としては、例えば、水平配向膜、垂直配向膜、保護層やハードコート層などの硬化樹脂層が挙げられる。
【0023】
本発明において、水平配向液晶硬化膜および水平配向液晶硬化膜は、それぞれ、少なくとも1種の重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物の硬化物からなる。重合性液晶化合物としては、所望する光学特性を有する液晶硬化膜を形成し得るものであれば特に限定されず、位相差フィルムの分野において従来公知の重合性液晶化合物を用いることができる。
【0024】
重合性液晶化合物は、重合性基を有する液晶化合物である。重合性液晶化合物としては、一般に、該重合性液晶化合物を単独で特定方向に配向した状態で重合することにより得られる重合体(硬化物)が、正波長分散性を示す重合性液晶化合物と逆波長分散性を示す重合性液晶化合物とが挙げられる。本発明においては、どちらか一方の種類の重合性液晶化合物のみを使用してもよく、両方の種類の重合性液晶化合物を混合して用いてもよい。また、水平配向液晶硬化膜を構成する重合性液晶化合物と、垂直配向液晶硬化膜を構成する重合性液晶化合物とが同じであってもよく、異なっていてもよい。上記式(2)を満たす液晶硬化膜が得られやすく、積層体としての光学特性を向上させやすい観点から、本発明の積層体において水平配向液晶硬化膜は、逆波長分散性を示す重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物の硬化物であることが好ましい。
【0025】
重合性基とは、重合反応に関与し得る基をいう。本発明において液晶硬化膜を形成する重合性液晶化合物が有する重合性基は、好ましくは光重合性基である。光重合性基とは、重合性基であって、光重合開始剤から発生した反応活性種、例えば活性ラジカルや酸などによって重合反応に関与し得る基のことをいう。光重合性基としては、例えばビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基が挙げられる。中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基、オキシラニル基およびオキセタニル基が好ましく、アクリロイルオキシ基がより好ましい。重合性液晶化合物が示す液晶性はサーモトロピック性液晶であってもよいし、リオトロピック性液晶であってもよいが、緻密な膜厚制御が可能な点でサーモトロピック性液晶が好ましい。また、サーモトロピック性液晶における相秩序構造としてはネマチック液晶でもスメクチック液晶でもディスコチック液晶でもよい。重合性液晶化合物は単独または二種以上組み合わせて使用できる。
【0026】
いわゆるT字型またはH型の分子構造を有する重合性液晶化合物は逆波長分散性を発現しやすく、T字型の分子構造を有する重合性液晶化合物はより強い逆波長分散性を発現する傾向にある。
【0027】
逆波長分散性を示す重合性液晶化合物としては、下記(A)~(D)の特徴を有する化合物であることが好ましい。
(A)ネマチック相またはスメクチック相を形成し得る化合物である。
(B)該重合性液晶化合物の長軸方向(a)上にπ電子を有する。
(C)長軸方向(a)に対して交差する方向〔交差方向(b)〕上にπ電子を有する。
(D)長軸方向(a)に存在するπ電子の合計をN(πa)、長軸方向に存在する分子量の合計をN(Aa)として下記式(i)で定義される重合性液晶化合物の長軸方向(a)のπ電子密度:
D(πa)=N(πa)/N(Aa) (i)
と、交差方向(b)に存在するπ電子の合計をN(πb)、交差方向(b)に存在する分子量の合計をN(Ab)として下記式(ii)で定義される重合性液晶化合物の交差方向(b)のπ電子密度:
D(πb)=N(πb)/N(Ab) (ii)
とが、式(iii)
0≦〔D(πa)/D(πb)〕<1 (iii)
の関係にある〔すなわち、交差方向(b)のπ電子密度が、長軸方向(a)のπ電子密度よりも大きい〕。上記記載のように長軸およびそれに対して交差方向上にπ電子を有する重合性液晶化合物は、一般にT字構造となりやすい。
【0028】
上記(A)~(D)の特徴において、長軸方向(a)およびπ電子数Nは以下のように定義される。
・長軸方向(a)は、例えば棒状構造を有する化合物であれば、その棒状の長軸方向である。
・長軸方向(a)上に存在するπ電子数N(πa)には、重合反応により消失するπ電子は含まない。
・長軸方向(a)上に存在するπ電子数N(πa)には、長軸上のπ電子およびこれと共役するπ電子の合計数であり、例えば長軸方向(a)上に存在する環であって、ヒュッケル則を満たす環に存在するπ電子の数が含まれる。
・交差方向(b)に存在するπ電子数N(πb)には、重合反応により消失するπ電子は含まない。
上記を満たす重合性液晶化合物は、長軸方向にメソゲン構造を有している。このメソゲン構造によって、液晶相(ネマチック相、スメクチック相)を発現する。
【0029】
上記(A)~(D)を満たす重合性液晶化合物を、相転移温度以上に加熱することにより、ネマチック相やスメクチック相を形成することが可能である。この重合性液晶化合物が配向して形成されたネマチック相またはスメクチック相では通常、重合性液晶化合物の長軸方向が互いに平行になるように配向しており、この長軸方向がネマチック相またはスメクチック相の配向方向となる。このような重合性液晶化合物を膜状とし、ネマチック相またはスメクチック相の状態で重合させると、長軸方向(a)に配向した状態で重合した重合体からなる重合体膜を形成することができる。この重合体膜は、長軸方向(a)上のπ電子と交差方向(b)上のπ電子により紫外線を吸収する。ここで、交差方向(b)上のπ電子により吸収される紫外線の吸収極大波長をλbmaxとする。λbmaxは通常300nm~400nmである。π電子の密度は、上記式(iii)を満足していて、交差方向(b)のπ電子密度が長軸方向(a)のπ電子密度よりも大きいので、交差方向(b)に振動面を有する直線偏光紫外線(波長はλbmax)の吸収が、長軸方向(a)に振動面を有する直線偏光紫外線(波長はλbmax)の吸収よりも大きな重合体膜となる。その比(直線偏光紫外線の交差方向(b)の吸光度/長軸方向(a)の吸光度の比)は、例えば1.0超、好ましくは1.2以上、通常30以下であり、例えば10以下である。
【0030】
上記特徴を有する重合性液晶化合物は、一般に、一方向に配向した状態で重合させたときにその重合体の複屈折率が逆波長分散性を示すものであることが多い。具体的には、例えば、下記式(X)で表される化合物(以下、「重合性液晶化合物(X)」ともいう)が挙げられる。
【化1】
【0031】
式(X)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族基を有する二価の基を表す。ここでいう芳香族基とは、例えば後述する(Ar-1)~(Ar-23)で例示される基が挙げられる。またArは芳香族基を2個以上有していてもよい。該芳香族基中には窒素原子、酸素原子、硫黄原子のうち少なくとも1つ以上が含まれていてもよい。Arに含まれる芳香族基が2つ以上である場合、2つ以上の芳香族基は互いに単結合、-CO-O-、-O-などの二価の結合基で結合していてもよい。
G1およびG2はそれぞれ独立に、二価の芳香族基または二価の脂環式炭化水素基を表す。ここで、該二価の芳香族基または二価の脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフルオロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、シアノ基またはニトロ基に置換されていてもよく、該二価の芳香族基または二価の脂環式炭化水素基を構成する炭素原子が、酸素原子、硫黄原子または窒素原子に置換されていてもよい。
L1、L2、B1およびB2はそれぞれ独立に、単結合または二価の連結基である。
k、lは、それぞれ独立に0~3の整数を表し、1≦k+lの関係を満たす。ここで、2≦k+lである場合、B1およびB2、G1およびG2は、それぞれ互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
E1およびE2はそれぞれ独立に、炭素数1~17のアルカンジイル基を表し、炭素数4~12のアルカンジイル基がより好ましい。また、アルカンジイル基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該アルカンジイル基に含まれる-CH2-は、-O-、-S-、-C(=O)-で置換されていてもよい。
P1およびP2は互いに独立に、重合性基または水素原子を表し、少なくとも1つは重合性基である。
【0032】
G1およびG2は、それぞれ独立に、好ましくは、ハロゲン原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい1,4-フェニレンジイル基、ハロゲン原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい1,4-シクロヘキサンジイル基であり、より好ましくはメチル基で置換された1,4-フェニレンジイル基、無置換の1,4-フェニレンジイル基、または無置換の1,4-trans-シクロヘキサンジイル基であり、特に好ましくは無置換の1,4-フェニレンジイル基、または無置換の1,4-trans-シクロへキサンジイル基である。
また、複数存在するG1およびG2のうち少なくとも1つは二価の脂環式炭化水素基であることが好ましく、また、L1またはL2に結合するG1およびG2のうち少なくとも1つは二価の脂環式炭化水素基であることがより好ましい。
【0033】
L1およびL2はそれぞれ独立に、好ましくは、単結合、炭素数1~4のアルキレン基、-O-、-S-、-Ra1ORa2-、-Ra3COORa4-、-Ra5OCORa6-、-Ra7OC=OORa8-、-N=N-、-CRc=CRd-、または-C≡C-である。ここで、Ra1~Ra8はそれぞれ独立に単結合、または炭素数1~4のアルキレン基を表し、RcおよびRdは炭素数1~4のアルキル基または水素原子を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に、より好ましくは単結合、-ORa2-1-、-CH2-、-CH2CH2-、-COORa4-1-、または-OCORa6-1-である。ここで、Ra2-1、Ra4-1、Ra6-1はそれぞれ独立に単結合、-CH2-、-CH2CH2-のいずれかを表す。L1およびL2はそれぞれ独立に、さらに好ましくは単結合、-O-、-CH2CH2-、-COO-、-COOCH2CH2-、または-OCO-である。
【0034】
B1およびB2はそれぞれ独立に、好ましくは、単結合、炭素数1~4のアルキレン基、-O-、-S-、-Ra9ORa10-、-Ra11COORa12-、-Ra13OCORa14-、または-Ra15OC=OORa16-である。ここで、Ra9~Ra16はそれぞれ独立に単結合、または炭素数1~4のアルキレン基を表す。B1およびB2はそれぞれ独立に、より好ましくは単結合、-ORa10-1-、-CH2-、-CH2CH2-、-COORa12-1-、または-OCORa14-1-である。ここで、Ra10-1、Ra12-1、Ra14-1はそれぞれ独立に単結合、-CH2-、-CH2CH2-のいずれかを表す。B1およびB2はそれぞれ独立に、さらに好ましくは単結合、-O-、-CH2CH2-、-COO-、-COOCH2CH2-、-OCO-、または-OCOCH2CH2-である。
【0035】
kおよびlは、逆波長分散性発現の観点から2≦k+l≦6の範囲が好ましく、k+l=4であることが好ましく、k=2かつl=2であることがより好ましい。k=2かつl=2であると対称構造となるため好ましい。
【0036】
P1またはP2で表される重合性基としては、エポキシ基、ビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、およびオキセタニル基等が挙げられる。中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基およびビニルオキシ基が好ましく、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
【0037】
Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、置換基を有していてもよい芳香族複素環、および電子吸引性基から選ばれる少なくとも1つを有することが好ましい。当該芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられ、ベンゼン環、ナフタレン環が好ましい。当該芳香族複素環としては、フラン環、ベンゾフラン環、ピロール環、インドール環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアゾール環、トリアジン環、ピロリン環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、チエノチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、およびフェナンスロリン環等が挙げられる。なかでも、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、またはベンゾフラン環を有することが好ましく、ベンゾチアゾール環を有することがさらに好ましい。また、Arに窒素原子が含まれる場合、当該窒素原子はπ電子を有することが好ましい。
【0038】
式(X)中、Arで表される基が有するπ電子の合計数Nπは、通常6以上であり、8以上が好ましく、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは14以上であり、特に好ましくは16以上である。また、好ましくは32以下であり、より好ましくは26以下であり、さらに好ましくは24以下である。
【0039】
Arに含まれる芳香族基としては、例えば以下の基が挙げられる。
【0040】
【0041】
式(Ar-1)~式(Ar-23)中、*印は連結部を表し、Z0、Z1およびZ2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~12のアルキルスルフィニル基、炭素数1~12のアルキルスルホニル基、カルボキシル基、炭素数1~12のフルオロアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数1~12のアルキルチオ基、炭素数1~12のN-アルキルアミノ基、炭素数2~12のN,N-ジアルキルアミノ基、炭素数1~12のN-アルキルスルファモイル基または炭素数2~12のN,N-ジアルキルスルファモイル基を表す。また、Z0、Z1およびZ2は、重合性基を含んでいてもよい。
【0042】
Q1およびQ2は、それぞれ独立に、-CR2’R3’-、-S-、-NH-、-NR2’-、-CO-または-O-を表し、R2’およびR3’は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0043】
J1およびJ2は、それぞれ独立に、炭素原子、または窒素原子を表す。
【0044】
Y1、Y2およびY3は、それぞれ独立に、置換されていてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
【0045】
W1およびW2は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、メチル基またはハロゲン原子を表し、mは0~6の整数を表す。
【0046】
Y1、Y2およびY3における芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ビフェニル基等の炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられ、フェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。芳香族複素環基としては、フリル基、ピロリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基等の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも1つ含む炭素数4~20の芳香族複素環基が挙げられ、フリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基が好ましい。
【0047】
Y1、Y2およびY3は、それぞれ独立に、置換されていてもよい多環系芳香族炭化水素基または多環系芳香族複素環基であってもよい。多環系芳香族炭化水素基は、縮合多環系芳香族炭化水素基、または芳香環集合に由来する基をいう。多環系芳香族複素環基は、縮合多環系芳香族複素環基、または芳香環集合に由来する基をいう。
【0048】
Z0、Z1およびZ2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~12のアルコキシ基であることが好ましく、Z0は、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基がさらに好ましく、Z1およびZ2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル基、シアノ基がさらに好ましい。また、Z0、Z1およびZ2は重合性基を含んでいてもよい。
【0049】
Q1およびQ2は、-NH-、-S-、-NR2’-、-O-が好ましく、R2’は水素原子が好ましい。中でも-S-、-O-、-NH-が特に好ましい。
【0050】
式(Ar-1)~(Ar-23)の中でも、式(Ar-6)および式(Ar-7)が分子の安定性の観点から好ましい。
【0051】
式(Ar-16)~(Ar-23)において、Y1は、これが結合する窒素原子およびZ0と共に、芳香族複素環基を形成していてもよい。芳香族複素環基としては、Arが有していてもよい芳香族複素環として前記したものが挙げられるが、例えば、ピロール環、イミダゾール環、ピロリン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、インドール環、キノリン環、イソキノリン環、プリン環、ピロリジン環等が挙げられる。この芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。また、Y1は、これが結合する窒素原子およびZ0と共に、前述した置換されていてもよい多環系芳香族炭化水素基または多環系芳香族複素環基であってもよい。例えば、ベンゾフラン環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環等が挙げられる。
【0052】
本発明において液晶硬化膜を形成する重合性液晶化合物として、例えば、下記式(Y)で表される基を含む化合物(以下、「重合性液晶化合物(Y)」ともいう)を用いてもよい。重合性液晶化合物(Y)は一般に正波長分散性を示す傾向にある。これらの重合性液晶化合物は単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
P11-B11-E11-B12-A11-B13- (Y)
[式(Y)中、P11は、重合性基を表わす。
A11は、2価の脂環式炭化水素基または2価の芳香族炭化水素基を表わす。
B11は、-O-、-S-、-CO-O-、-O-CO-、-O-CO-O-、-CO-NR16-、-NR16-CO-、-CO-、-CS-または単結合を表わす。R16は、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表わす。
B12およびB13は、それぞれ独立に、-C≡C-、-CH=CH-、-CH2-CH2-、-O-、-S-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=O)-O-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-C(=O)-NR16-、-NR16-C(=O)-、-OCH2-、-OCF2-、-CH2O-、-CF2O-、-CH=CH-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH=CH-、-H、-C≡Nまたは単結合を表わす。
E11は、炭素数1~12のアルカンジイル基を表わし、該アルカンジイル基に含まれる水素原子は、炭素数1~5のアルコキシ基で置換されていてもよく、該アルコキシ基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。また、該アルカンジイル基を構成する-CH2-は、-O-または-CO-に置き換わっていてもよい。]
【0054】
A11の芳香族炭化水素基および脂環式炭化水素基の炭素数は、3~18の範囲であることが好ましく、5~12の範囲であることがより好ましく、5または6であることが特に好ましい。A11で表される2価の脂環式炭化水素基および2価の芳香族炭化水素基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6アルコキシ基、シアノ基またはニトロ基で置換されていてもよく、該炭素数1~6のアルキル基および該炭素数1~6アルコキシ基に含まれる水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。A11としては、シクロヘキサン-1,4-ジイル基、1,4-フェニレン基が好ましい。
【0055】
E11としては、直鎖状の炭素数1~12のアルカンジイル基が好ましい。該アルカンジイル基を構成する-CH2-は、-O-に置き換っていてもよい。
具体的には、メチレン基、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、へキサン-1,6-ジイル基、へプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、ノナン-1,9-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基、ウンデカン-1,11-ジイル基およびドデカン-1,12-ジイル基等の炭素数1~12の直鎖状アルカンジイル基;-CH2-CH2-O-CH2-CH2-、-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-および-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-等が挙げられる。
B11としては、-O-、-S-、-CO-O-、-O-CO-が好ましく、中でも、-CO-O-がより好ましい。
B12およびB13としては、それぞれ独立に、-O-、-S-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=O)-O-が好ましく、中でも、-O-または-O-C(=O)-O-がより好ましい。
【0056】
P11で示される重合性基としては、重合反応性、特に光重合反応性が高いという点で、ラジカル重合性基またはカチオン重合性基が好ましく、取り扱いが容易な上、液晶化合物の製造自体も容易であることから、重合性基は、下記の式(P-11)~式(P-15)で表わされる基であることが好ましい。
【化3】
[式(P-11)~(P-15)中、
R
17~R
21はそれぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基または水素原子を表わす。]
【0057】
式(P-11)~式(P-15)で表わされる基の具体例としては、下記式(P-16)~式(P-20)で表わされる基が挙げられる。
【化4】
【0058】
P11は、式(P-14)~式(P-20)で表わされる基であることが好ましく、ビニル基、p-スチルベン基、エポキシ基またはオキセタニル基がより好ましい。
P11-B11-で表わされる基が、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基であることがさらに好ましい。
【0059】
重合性液晶化合物(Y)としては、式(I)、式(II)、式(III)、式(IV)、式(V)または式(VI)で表わされる化合物が挙げられる。
P11-B11-E11-B12-A11-B13-A12-B14-A13-B15-A14-B16-E12-B17-P12 (I)
P11-B11-E11-B12-A11-B13-A12-B14-A13-B15-A14-F11 (II)
P11-B11-E11-B12-A11-B13-A12-B14-A13-B15-E12-B17-P12 (III)
P11-B11-E11-B12-A11-B13-A12-B14-A13-F11 (IV)
P11-B11-E11-B12-A11-B13-A12-B14-E12-B17-P12 (V)
P11-B11-E11-B12-A11-B13-A12-F11 (VI)
[式中、
A11、B11~B13およびP11は上記と同義であり、
A12~A14はそれぞれ独立に、A11と同義であり、B14~B16はそれぞれ独立に、B12と同義であり、B17はB11と同義であり、E12はE11と同義であり、P12はP11と同義である。
F11は、水素原子、炭素数1~13のアルキル基、炭素数1~13のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、ジメチルアミノ基、ヒドロキシル基、メチロール基、ホルミル基、スルホ基(-SO3H)、カルボキシル基、炭素数1~10のアルコキシカルボニル基またはハロゲン原子を表わし、該アルキル基およびアルコキシ基を構成する-CH2-は、-O-に置き換っていてもよい。]
【0060】
重合性液晶化合物(Y)の具体例としては、液晶便覧(液晶便覧編集委員会編、丸善(株)平成12年10月30日発行)の「3.8.6 ネットワーク(完全架橋型)」、「6.5.1 液晶材料 b.重合性ネマチック液晶材料」に記載された化合物の中で重合性基を有する化合物、特開2010-31223号公報、特開2010-270108号公報、特開2011-6360号公報および特開2011-207765号公報記載の重合性液晶が挙げられる。
【0061】
重合性液晶化合物(Y)の具体例としては、下記式(I-1)~式(I-4)、式(II-1)~式(II-4)、式(III-1)~式(III-26)、式(IV-1)~式(IV-26)、式(V-1)~式(V-2)および式(VI-1)~式(VI-6)で表わされる化合物が挙げられる。なお、下記式中、k1およびk2は、それぞれ独立して、2~12の整数を表わす。これらの重合性液晶化合物(Y)は、その合成の容易さ、または、入手の容易さの点で好ましい。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
重合性液晶化合物(X)および(Y)は、いずれも、水平配向させて使用することも垂直配向して使用することもできる。
【0072】
重合性液晶組成物中の重合性液晶化合物の含有量は、重合性液晶組成物の固形分100質量部に対して、例えば70~99.5質量部であり、好ましくは80~99質量部であり、より好ましくは85~98質量部であり、さらに好ましくは90~95質量部である。重合性液晶化合物の含有量が上記範囲内であれば、得られる液晶硬化膜の配向精度の観点から有利である。なお、重合性液晶組成物が2種以上の重合性液晶化合物を含む場合、重合性液晶組成物に含まれる全ての液晶化合物の総量が上記含有量の範囲内であることが好ましい。また、本明細書において、重合性液晶組成物の固形分とは、重合性液晶組成物から有機溶媒等の揮発性成分を除いた全ての成分を意味する。
【0073】
重合性液晶組成物は、重合性液晶化合物に加えて、溶媒、重合開始剤、レベリング剤、酸化防止剤、光増感剤、反応性添加剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。これらの成分は、それぞれ、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
重合性液晶組成物は、通常、溶媒に溶解した状態で基材フィルム等に塗布されるため、溶媒を含むことが好ましい。溶媒としては、重合性液晶化合物を溶解し得る溶媒が好ましく、また、重合性液晶化合物の重合反応に不活性な溶媒であることが好ましい。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノールおよびプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートおよび乳酸エチル等のエステル溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;ペンタン、ヘキサンおよびヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル溶媒;テトラヒドロフランおよびジメトキシエタン等のエーテル溶媒;クロロホルムおよびクロロベンゼン等の塩素含有溶媒;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルミアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、単独または二種以上組み合わせて使用できる。中でも、フィルムコーティングの観点から、アルコール溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒、塩素含有溶媒、アミド系溶媒および芳香族炭化水素溶媒から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、重合性液晶化合物の溶解性の観点から、エステル溶媒、ケトン溶媒、アミド系溶媒および芳香族炭化水素溶媒から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0075】
重合性液晶組成物中の溶媒の含有量は、重合性液晶組成物100質量部に対して、好ましくは50~98質量部、より好ましくは70~95重量部である。したがって、重合性液晶組成物100質量部に占める固形分は、2~50質量部が好ましい。固形分が50質量部以下であると、重合性液晶組成物の粘度が低くなることから、膜の厚みが略均一になり、ムラが生じ難くなる傾向がある。上記固形分は、製造しようとする重合性液晶硬化膜の厚みを考慮して適宜定めることができる。
【0076】
重合開始剤は、熱または光の寄与によって反応活性種を生成し、重合性液晶化合物等の重合反応を開始し得る化合物である。反応活性種としては、ラジカルまたはカチオンまたはアニオン等の活性種が挙げられる。中でも反応制御が容易であるという観点から、光照射によってラジカルを発生する光重合開始剤が好ましい。
【0077】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、ベンジルケタール化合物、オキシム化合物、α-ヒドロキシケトン化合物、α-アミノケトン化合物、トリアジン化合物、ヨードニウム塩およびスルホニウム塩が挙げられ、市販品を用いてもよい。具体的には、イルガキュア(Irgacure、登録商標)907、イルガキュア184、イルガキュア651、イルガキュア819、イルガキュア250、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア127、イルガキュア2959、イルガキュア754、イルガキュア379EG(以上、BASFジャパン株式会社製)、セイクオールBZ、セイクオールZ、セイクオールBEE(以上、精工化学株式会社製)、カヤキュアー(kayacure)BP100(日本化薬株式会社製)、カヤキュアーUVI-6992(ダウ社製)、アデカオプトマーSP-152、アデカオプトマーSP-170、アデカオプトマーN-1717、アデカオプトマーN-1919、アデカアークルズNCI-831、アデカアークルズNCI-930(以上、株式会社ADEKA製)、TAZ-A、TAZ-PP(以上、日本シイベルヘグナー社製)およびTAZ-104(三和ケミカル社製)等が挙げられる。
重合性液晶組成物において含まれる光重合開始剤は、少なくとも1種類であり、複数種を組み合わせて用いてもよく、重合性液晶組成物に含まれる重合性液晶化合物との関係において適宜選択すればよい。
【0078】
光重合開始剤は、光源から発せられるエネルギーを十分に活用でき、生産性に優れるため、極大吸収波長が300nm~400nmであると好ましく、300nm~380nmであるとより好ましく、中でも、α-アセトフェノン系重合開始剤、オキシム系光重合開始剤が好ましい。
【0079】
α-アセトフェノン化合物としては、2-メチル-2-モルホリノ-1-(4-メチルスルファニルフェニル)プロパン-1-オン、2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジルブタン-1-オンおよび2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-2-(4-メチルフェニルメチル)ブタン-1-オン等が挙げられ、より好ましくは2-メチル-2-モルホリノ-1-(4-メチルスルファニルフェニル)プロパン-1-オンおよび2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジルブタン-1-オンが挙げられる。α-アセトフェノン化合物の市販品としては、イルガキュア369、379EG、907(以上、BASFジャパン(株)製)およびセイクオールBEE(精工化学社製)等が挙げられる。
【0080】
オキシムエステル系光重合開始剤は、光が照射されることによってフェニルラジカルやメチルラジカル等のラジカルを生成させる。このラジカルにより重合性液晶化合物の重合が好適に進行するが、中でもメチルラジカルを発生させるオキシムエステル系光重合開始剤は重合反応の開始効率が高い点で好ましい。また、重合反応をより効率的に進行させるという観点から、波長350nm以上の紫外線を効率的に利用可能な光重合開始剤を使用することが好ましい。波長350nm以上の紫外線を効率的に利用可能な光重合開始剤としては、オキシムエステル構造を含むトリアジン化合物やカルバゾール化合物が好ましく、感度の観点からはオキシムエステル構造を含むカルバゾール化合物がより好ましい。オキシムエステル構造を含むカルバゾール化合物としては、1,2-オクタンジオン、1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。オキシムエステル系光重合開始剤の市販品としては、イルガキュアOXE-01、イルガキュアOXE-02、イルガキュアOXE-03(以上、BASFジャパン株式会社製)、アデカオプトマーN-1919、アデカアークルズNCI-831(以上、株式会社ADEKA製)等が挙げられる。
【0081】
光重合開始剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、通常、0.1~30質量部であり、好ましくは1~20質量部であり、より好ましくは1~15質量部である。上記範囲内であれば、重合性基の反応が十分に進行し、かつ、重合性液晶化合物の配向を乱し難い。
【0082】
レベリング剤は、重合性液晶組成物の流動性を調整し、組成物を塗布して得られる塗膜をより平坦にする機能を有する添加剤である。例えば、シリコーン系、ポリアクリレート系およびパーフルオロアルキル系のレベリング剤が挙げられる。レベリング剤として市販品を用いてもよく、具体的には、DC3PA、SH7PA、DC11PA、SH28PA、SH29PA、SH30PA、ST80PA、ST86PA、SH8400、SH8700、FZ2123(以上、全て東レ・ダウコーニング(株)製)、KP321、KP323、KP324、KP326、KP340、KP341、X22-161A、KF6001(以上、全て信越化学工業(株)製)、TSF400、TSF401、TSF410、TSF4300、TSF4440、TSF4445、TSF-4446、TSF4452、TSF4460(以上、全てモメンティブ パフォーマンス マテリアルズ ジャパン合同会社製)、フロリナート(fluorinert)(登録商標)FC-72、同FC-40、同FC-43、同FC-3283(以上、全て住友スリーエム(株)製)、メガファック(登録商標)R-08、同R-30、同R-90、同F-410、同F-411、同F-443、同F-445、同F-470、同F-477、同F-479、同F-482、同F-483、同F-556(以上、いずれもDIC(株)製)、エフトップ(商品名)EF301、同EF303、同EF351、同EF352(以上、全て三菱マテリアル電子化成(株)製)、サーフロン(登録商標)S-381、同S-382、同S-383、同S-393、同SC-101、同SC-105、KH-40、SA-100(以上、全てAGCセイミケミカル(株)製)、商品名E1830、同E5844((株)ダイキンファインケミカル研究所製)、BM-1000、BM-1100、BYK-352、BYK-353およびBYK-361N(いずれも商品名:BM Chemie社製)等が挙げられる。レベリング剤は単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0083】
レベリング剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.05~3質量部がさらに好ましい。レベリング剤の含有量が、上記範囲内であると、重合性液晶化合物を配向させることが容易であり、かつ得られる液晶硬化膜がより平滑となる傾向にあるため好ましい。
【0084】
酸化防止剤を配合することにより、重合性液晶化合物の重合反応をコントロールすることができる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、キノン系酸化防止剤、ニトロソ系酸化防止剤から選ばれる一次酸化防止剤であってもよいし、リン系酸化防止剤および硫黄系酸化防止剤から選ばれる二次酸化防止剤であってもよい。重合性液晶化合物の配向を乱すことなく、重合性液晶化合物を重合するためには、酸化防止剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、通常0.01~10質量部であり、好ましくは0.1~5質量部であり、さらに好ましくは0.1~3質量部である。酸化防止剤は単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0085】
光増感剤を用いることにより、光重合開始剤を高感度化することができる。光増感剤としては、例えば、キサントン、チオキサントン等のキサントン類;アントラセンおよびアルキルエーテル等の置換基を有するアントラセン類;フェノチアジン;ルブレンが挙げられる。光増感剤は単独または2種以上を組み合わせて使用できる。光増感剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、通常0.01~10質量部であり、好ましくは0.05~5質量部であり、さらに好ましくは0.1~3質量部である。
【0086】
反応性添加剤としては、その分子内に炭素-炭素不飽和結合と活性水素反応性基とを有するものが好ましい。なお、ここでいう「活性水素反応性基」とは、カルボキシル基(-COOH)、水酸基(-OH)、アミノ基(-NH2)等の活性水素を有する基に対して反応性を有する基を意味し、グリシジル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジン基、イミド基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、無水マレイン酸基等がその代表例である。反応性添加剤が有する、炭素-炭素不飽和結合または活性水素反応性基の個数は、通常、それぞれ1~20個であり、好ましくはそれぞれ1~10個である。
【0087】
反応性添加剤において、活性水素反応性基が少なくとも2つ存在することが好ましく、この場合、複数存在する活性水素反応性基は同一でも、異なるものであってもよい。
【0088】
反応性添加剤が有する炭素-炭素不飽和結合とは、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、またはそれらの組み合わせであってよいが、炭素-炭素二重結合であることが好ましい。中でも、反応性添加剤としては、ビニル基および/または(メタ)アクリル基として炭素-炭素不飽和結合を含むことが好ましい。さらに、活性水素反応性基が、エポキシ基、グリシジル基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種である反応性添加剤が好ましく、アクリル基とイソシアネート基とを有する反応性添加剤がより好ましい。
【0089】
反応性添加剤の具体例としては、メタクリロキシグリシジルエーテルやアクリロキシグリシジルエーテル等の、(メタ)アクリル基とエポキシ基とを有する化合物;オキセタンアクリレートやオキセタンメタクリレート等の、(メタ)アクリル基とオキセタン基とを有する化合物;ラクトンアクリレートやラクトンメタクリレート等の、(メタ)アクリル基とラクトン基とを有する化合物;ビニルオキサゾリンやイソプロペニルオキサゾリン等の、ビニル基とオキサゾリン基とを有する化合物;イソシアナトメチルアクリレート、イソシアナトメチルメタクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレートまたは2-イソシアナトエチルメタクリレート等の、(メタ)アクリル基とイソシアネート基とを有する化合物のオリゴマー等が挙げられる。また、メタクリル酸無水物、アクリル酸無水物、無水マレイン酸またはビニル無水マレイン酸等の、ビニル基やビニレン基と酸無水物とを有する化合物等が挙げられる。中でも、メタクリロキシグリシジルエーテル、アクリロキシグリシジルエーテル、イソシアナトメチルアクリレート、イソシアナトメチルメタクリレート、ビニルオキサゾリン、2-イソシアナトエチルアクリレート、2-イソシアナトエチルメタクリレートまたは上記のオリゴマーが好ましく、イソシアナトメチルアクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレートまたは上記のオリゴマーが特に好ましい。
【0090】
前記反応性添加剤として、市販品をそのまま、または必要に応じて精製して用いることができる。市販品としては、例えば、Laromer(登録商標)LR-9000(BASF社製)が挙げられる。
【0091】
重合性液晶組成物が反応性添加剤を含む場合、反応性添加剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、通常0.01~10質量部であり、好ましくは0.1~7質量部である。
【0092】
水平配向液晶硬化膜および垂直配向液晶硬化膜を形成するための重合性液晶組成物は、それぞれ、重合性液晶化合物と、溶媒や重合開始剤などの成分とを所定温度で撹拌等することにより得ることができる。
【0093】
水平配向液晶硬化膜および垂直配向液晶硬化膜は、例えば、
基材または後述する配向膜などの上に、少なくとも1種の重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物の塗膜を形成し、該塗膜を乾燥し、かつ、該重合性液晶組成物中の重合性液晶化合物を配向させる工程、および、
配向状態を保持したまま重合性液晶化合物を重合させ、液晶硬化膜を形成する工程
を含む方法により製造することができる。
【0094】
重合性液晶組成物の塗膜は、基材または後述するような基材上に形成された配向膜などの上に重合性液晶組成物を塗布することにより形成することができる。
基材としては、例えば、ガラス基材やフィルム基材等が挙げられるが、加工性の観点から樹脂フィルム基材が好ましい。フィルム基材を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびノルボルネン系ポリマーのようなポリオレフィン;環状オレフィン系樹脂;ポリビニルアルコール;ポリエチレンテレフタレート;ポリメタクリル酸エステル;ポリアクリル酸エステル;トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、およびセルロースアセテートプロピオネートのようなセルロースエステル;ポリエチレンナフタレート;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリフェニレンスルフィドおよびポリフェニレンオキシドのようなプラスチックが挙げられる。このような樹脂を、溶媒キャスト法、溶融押出法等の公知の手段により製膜して基材とすることができる。基材表面には、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等から形成される保護層を有していてもよく、シリコーン処理のような離型処理、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0095】
基材として市販の製品を用いてもよい。市販のセルロースエステル基材としては、例えば、フジタックフィルムのような富士写真フィルム株式会社製のセルロースエステル基材;「KC8UX2M」、「KC8UY」、および「KC4UY」のようなコニカミノルタオプト株式会社製のセルロースエステル基材などが挙げられる。市販の環状オレフィン系樹脂としては、例えば、「Topas(登録商標)」のようなTicona社(独)製の環状オレフィン系樹脂;「アートン(登録商標)」のようなJSR株式会社製の環状オレフィン系樹脂;「ゼオノア(ZEONOR)(登録商標)」、および「ゼオネックス(ZEONEX)(登録商標)」のような日本ゼオン株式会社製の環状オレフィン系樹脂;「アペル」(登録商標)のような三井化学株式会社製の環状オレフィン系樹脂が挙げられる。市販されている環状オレフィン系樹脂基材を用いることもできる。市販の環状オレフィン系樹脂基材としては、「エスシーナ(登録商標)」および「SCA40(登録商標)」のような積水化学工業株式会社製の環状オレフィン系樹脂基材;「ゼオノアフィルム(登録商標)」のようなオプテス株式会社製の環状オレフィン系樹脂基材;「アートンフィルム(登録商標)」のようなJSR株式会社製の環状オレフィン系樹脂基材が挙げられる。
【0096】
基材は、本発明の積層体から最終的に剥離可能なものであることが好ましい。基材の剥離容易性やハンドリング性、積層体の薄型化等の観点から、基材の厚みは、通常、5~300μmであり、好ましくは10~150μmである。
【0097】
重合性液晶組成物を基材等に塗布する方法としては、スピンコーティング法、エクストルージョン法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法、アプリケータ法などの塗布法、フレキソ法などの印刷法等の公知の方法が挙げられる。
【0098】
次いで、溶媒を乾燥等により除去することにより、乾燥塗膜が形成される。乾燥方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥および減圧乾燥法等が挙げられる。この際、重合性液晶組成物から得られた塗膜を加熱することにより、塗膜から溶媒を乾燥除去させるとともに、重合性液晶化合物を塗膜平面に対して所望の方向(例えば、水平または垂直方向)に配向させることができる。塗膜の加熱温度は、用いる重合性液晶化合物および塗膜を形成する基材等の材質などを考慮して適宜決定し得るが、重合性液晶化合物を液晶相状態へ相転移させるために、通常、液晶相転移温度以上の温度であることが必要である。重合性液晶組成物に含まれる溶媒を除去しながら、重合性液晶化合物を所望の配向状態とするため、例えば、前記重合性液晶組成物に含まれる重合性液晶化合物の液晶相転移温度(スメクチック相転移温度またはネマチック相転移温度)程度以上の温度まで加熱することができる。加熱温度は、好ましくは重合性液晶化合物の液晶相転移温度よりも3℃以上高い、より好ましくは5℃以上高い温度である。加熱温度の上限値は特に限定されないが、加熱による塗膜や基材等への損傷を避けるため、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。
なお、液晶相転移温度は、例えば、温度調節ステージを備えた偏光顕微鏡や、示差走査熱量計(DSC)、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)等を用いて測定することができる。また、重合性液晶化合物として2種以上を組み合わせて用いる場合、上記相転移温度は、重合性液晶組成物を構成する全重合性液晶化合物を重合性液晶組成物における組成と同じ比率で混合した重合性液晶化合物の混合物を用いて、1種の重合性液晶化合物を用いる場合と同様にして測定される温度を意味する。また、一般に重合性液晶組成物中における重合性液晶化合物の液晶相転移温度は、重合性液晶化合物単体としての液晶相転移温度よりも下がる場合があることが知られている。
【0099】
加熱時間は、加熱温度、用いる重合性液晶化合物の種類、溶媒の種類やその沸点およびその量等に応じて適宜決定し得るが、通常、0.5~10分であり、好ましくは0.5~5分である。
【0100】
塗膜からの溶媒の除去は、重合性液晶化合物の液晶相転移温度以上への加熱と同時に行ってもよいし、別途で行ってもよいが、生産性向上の観点から同時に行うことが好ましい。重合性液晶化合物の液晶相転移温度以上への加熱を行う前に、重合性液晶組成物から得られた塗膜中に含まれる重合性液晶化合物が重合しない条件で塗膜中の溶媒を適度に除去させるための予備乾燥工程を設けてもよい。かかる予備乾燥工程における乾燥方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥および減圧乾燥法等が挙げられ、該乾燥工程における乾燥温度(加熱温度)は、用いる重合性液晶化合物の種類、溶媒の種類やその沸点およびその量等に応じて適宜決定し得る。
【0101】
次いで、得られた乾燥塗膜において、重合性液晶化合物の配向状態を保持したまま、光照射により重合性液晶化合物を重合させることにより、所望の配向状態で存在する重合性液晶化合物の重合体である液晶硬化膜が形成される。重合方法としては、通常、光重合法が用いられる。光重合において、乾燥塗膜に照射する光としては、当該乾燥塗膜に含まれる光重合開始剤の種類、重合性液晶化合物の種類(特に、該重合性液晶化合物が有する重合性基の種類)およびその量に応じて適宜選択される。その具体例としては、可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線およびγ線からなる群より選択される1種以上の光や活性電子線等の活性エネルギー線が挙げられる。中でも、重合反応の進行を制御し易い点や、光重合装置として当分野で広範に用いられているものが使用できるという点で、紫外光が好ましく、紫外光によって、光重合可能なように、重合性液晶組成物に含有される重合性液晶化合物や光重合開始剤の種類を選択しておくことが好ましい。また、重合時に、適切な冷却手段により乾燥塗膜を冷却しながら光照射することで、重合温度を制御することもできる。このような冷却手段の採用により、より低温で重合性液晶化合物の重合を実施すれば、基材が比較的耐熱性が低いものを用いたとしても、適切に液晶硬化膜を形成できる。また、光照射時の熱による不具合(基材の熱による変形等)が発生しない範囲で重合温度を高くすることにより重合反応を促進することも可能である。光重合の際、マスキングや現像を行うなどによって、パターニングされた硬化膜を得ることもできる。
【0102】
前記活性エネルギー線の光源としては、例えば、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマレーザー、波長範囲380~440nmを発光するLED光源、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等が挙げられる。
【0103】
紫外線照射強度は、通常、10~3,000mW/cm2である。紫外線照射強度は、好ましくは光重合開始剤の活性化に有効な波長領域における強度である。光を照射する時間は、通常0.1秒~10分であり、好ましくは0.1秒~5分、より好ましくは0.1秒~3分、さらに好ましくは0.1秒~1分である。このような紫外線照射強度で1回または複数回照射すると、その積算光量は、10~3,000mJ/cm2、好ましくは50~2,000mJ/cm2、より好ましくは100~1,000mJ/cm2である。
【0104】
液晶硬化膜の厚みは、液晶硬化膜の種類、適用される表示装置等に応じて適宜選択できる。好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.2~4μm、さらに好ましくは0.2~3μmである。
【0105】
水平配向液晶硬化膜および/または垂直配向液晶硬化膜を、配向膜上に形成してもよい。配向膜は、重合性液晶化合物を所望の方向に液晶配向させる、配向規制力を有するものである。重合性液晶化合物を水平方向に配向させる配向規制力を有する水平配向膜や、垂直方向に配向させる配向規制力を有する垂直配向膜を利用して液晶硬化膜を形成することにより、重合性液晶化合物を所望の方向により高い精度で配向させることができ、表示装置等に組み込んだ際に優れた光学特性を示す液晶硬化膜を得ることができる。配向規制力は、配向膜の種類、表面状態やラビング条件等によって任意に調整することが可能であり、配向膜が光配向性ポリマーから形成されている場合は、偏光照射条件等によって任意に調整することが可能である。
【0106】
配向膜としては、重合性液晶組成物の塗布等により溶解しない溶媒耐性を有し、また、溶媒の除去や重合性液晶化合物の配向のための加熱処理における耐熱性を有するものが好ましい。配向膜としては、配向性ポリマーを含む配向膜、光配向膜および表面に凹凸パターンや複数の溝を有するグルブ配向膜、配向方向に延伸してある延伸フィルム等が挙げられ、配向角の精度および品質の観点から光配向膜が好ましい。
【0107】
配向性ポリマーとしては、例えば、分子内にアミド結合を有するポリアミドやゼラチン類、分子内にイミド結合を有するポリイミドおよびその加水分解物であるポリアミック酸、ポリビニルアルコール、アルキル変性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾール、ポリエチレンイミン、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびポリアクリル酸エステル類が挙げられる。中でも、ポリビニルアルコールが好ましい。配向性ポリマーは単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0108】
配向性ポリマーを含む配向膜は、通常、配向性ポリマーが溶媒に溶解した組成物(以下、「配向性ポリマー組成物」ともいう)を基材フィルム等の配向膜を形成すべき表面に塗布し、溶媒を除去する、または、配向性ポリマー組成物を基材に塗布し、溶媒を除去し、ラビングする(ラビング法)ことで得られる。溶媒としては、重合性液晶組成物に用い得る溶媒として先に例示した溶媒と同様のものが挙げられる。
【0109】
配向性ポリマー組成物中の配向性ポリマーの濃度は、配向性ポリマー材料が、溶媒に完溶できる範囲であればよいが、溶液に対して固形分換算で0.1~20%が好ましく、0.1~10%程度がさらに好ましい。
【0110】
配向性ポリマー組成物として、市販の配向膜材料をそのまま使用してもよい。市販の配向膜材料としては、サンエバー(登録商標、日産化学工業(株)製)、オプトマー(登録商標、JSR(株)製)などが挙げられる。
【0111】
配向性ポリマー組成物を基材フィルム等の配向膜を形成すべき表面に塗布する方法としては、重合性液晶組成物を基材フィルムへ塗布する方法として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0112】
配向性ポリマー組成物に含まれる溶媒を除去する方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥および減圧乾燥法等が挙げられる。
【0113】
配向膜に配向規制力を付与するために、必要に応じてラビング処理を行うことができる(ラビング法)。ラビング法により配向規制力を付与する方法としては、ラビング布が巻きつけられ、回転しているラビングロールに、配向性ポリマー組成物を基材に塗布しアニールすることで基材表面に形成された配向性ポリマーの膜を接触させる方法が挙げられる。ラビング処理を行う時に、マスキングを行えば、配向の方向が異なる複数の領域(パターン)を配向膜に形成することもできる。
【0114】
光配向膜は、通常、光反応性基を有するポリマーおよび/またはモノマーと溶媒とを含む組成物(以下、「光配向膜形成用組成物」ともいう)を、配向膜を形成すべき基材表面に塗布し、溶媒を除去後に偏光(好ましくは、偏光UV)を照射することで得られる。光配向膜は、照射する偏光の偏光方向を選択することにより、配向規制力の方向を任意に制御することができる点でも有利である。
【0115】
光反応性基とは、光照射することにより液晶配向能を生じる基をいう。具体的には、光照射により生じる分子の配向誘起または異性化反応、二量化反応、光架橋反応もしくは光分解反応等の液晶配向能の起源となる光反応に関与する基が挙げられる。中でも、二量化反応または光架橋反応に関与する基が、配向性に優れる点で好ましい。光反応性基として、不飽和結合、特に二重結合を有する基が好ましく、炭素-炭素二重結合(C=C結合)、炭素-窒素二重結合(C=N結合)、窒素-窒素二重結合(N=N結合)および炭素-酸素二重結合(C=O結合)からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する基が特に好ましい。
【0116】
C=C結合を有する光反応性基としては、ビニル基、ポリエン基、スチルベン基、スチルバゾール基、スチルバゾリウム基、カルコン基およびシンナモイル基等が挙げられる。C=N結合を有する光反応性基としては、芳香族シッフ塩基、芳香族ヒドラゾンなどの構造を有する基が挙げられる。N=N結合を有する光反応性基としては、アゾベンゼン基、アゾナフタレン基、芳香族複素環アゾ基、ビスアゾ基、ホルマザン基、および、アゾキシベンゼン構造を有する基等が挙げられる。C=O結合を有する光反応性基としては、ベンゾフェノン基、クマリン基、アントラキノン基およびマレイミド基等が挙げられる。これらの基は、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリルオキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、ハロゲン化アルキル基などの置換基を有していてもよい。
【0117】
中でも、光二量化反応に関与する光反応性基が好ましく、光配向に必要な偏光照射量が比較的少なく、かつ、熱安定性や経時安定性に優れる光配向膜が得られやすいという点で、光反応性基はシンナモイル基およびカルコン基が好ましい。特に、液晶硬化膜が重合性基として(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性液晶化合物から形成される場合、配向膜を形成する光反応性基を有するポリマーとしてポリマー側鎖の末端部が桂皮酸構造となるようなシンナモイル基を有するものを用いると液晶硬化膜との密着性を向上させることができる。
【0118】
光配向膜形成用組成物に含まれる溶媒としては、重合性液晶組成物に用い得る溶媒として先に例示した溶媒と同様のものが挙げられ、光反応性基を有するポリマーあるいはモノマーの溶解性に応じて適宜選択することができる。
【0119】
光配向膜形成用組成物中の光反応性基を有するポリマーまたはモノマーの含有量は、ポリマーまたはモノマーの種類や目的とする光配向膜の厚みによって適宜調節できるが、光配向膜形成用組成物の質量に対して、少なくとも0.2質量%とすることが好ましく、0.3~10質量%の範囲がより好ましい。光配向膜の特性が著しく損なわれない範囲で、光配向膜形成用組成物は、ポリビニルアルコールやポリイミドなどの高分子材料や光増感剤を含んでいてもよい。
【0120】
配向膜を形成すべき表面に光配向膜形成用組成物を塗布する方法としては、配向性ポリマー組成物を塗布する方法と同様の方法が挙げられる。塗布された光配向膜形成用組成物から、溶媒を除去する方法としては例えば、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥及び減圧乾燥法等が挙げられる。
【0121】
偏光を照射するには、基板上に塗布された光配向膜形成用組成物から、溶媒を除去したものに直接、偏光UVを照射する形式でも、基材側から偏光を照射し、偏光を透過させて照射する形式でもよい。また、当該偏光は、実質的に平行光であると特に好ましい。照射する偏光の波長は、光反応性基を有するポリマーまたはモノマーの光反応性基が、光エネルギーを吸収し得る波長領域のものがよい。具体的には、波長250~400nmの範囲のUV(紫外線)が特に好ましい。当該偏光照射に用いる光源としては、キセノンランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、KrF、ArFなどの紫外光レーザーなどが挙げられ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプおよびメタルハライドランプがより好ましい。これらの中でも、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプおよびメタルハライドランプが、波長313nmの紫外線の発光強度が大きいため好ましい。前記光源からの光を、適当な偏光子を通過して照射することにより、偏光UVを照射することができる。かかる偏光子としては、偏光フィルターやグラントムソン、グランテーラーなどの偏光プリズムやワイヤーグリッドタイプの偏光子を用いることができる。
【0122】
なお、ラビングまたは偏光照射を行う時に、マスキングを行えば、液晶配向の方向が異なる複数の領域(パターン)を形成することもできる。
【0123】
グルブ(groove)配向膜は、膜表面に凹凸パターンまたは複数のグルブ(溝)を有する膜である。等間隔に並んだ複数の直線状のグルブを有する膜に重合性液晶化合物を塗布した場合、その溝に沿った方向に液晶分子が配向する。
【0124】
グルブ配向膜を得る方法としては、感光性ポリイミド膜表面にパターン形状のスリットを有する露光用マスクを介して露光後、現像およびリンス処理を行って凹凸パターンを形成する方法、表面に溝を有する板状の原盤に、硬化前のUV硬化樹脂の層を形成し、形成された樹脂層を基材等へ移してから硬化する方法、および、配向膜を形成すべき表面に形成した硬化前のUV硬化樹脂の膜に、複数の溝を有するロール状の原盤を押し当てて凹凸を形成し、その後硬化する方法等が挙げられる。
【0125】
配向膜(配向性ポリマーを含む配向膜または光配向膜)の厚みは、通常10~10000nmの範囲であり、好ましくは10~2500nmの範囲であり、より好ましくは10~1000nm以下であり、さらに好ましくは10~500nm、特に好ましい50~250nmの範囲である。
【0126】
本発明の積層体において、水平配向液晶硬化膜と垂直配向液晶硬化膜との間に位置する粘接着剤層を形成する粘接着剤は、垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率との関係において式(1)を満たす屈折率を有する層を形成し得る限り、特に限定されるものではなく、例えば光学フィルムの分野において従来公知の粘接着剤を用いることができる。
【0127】
本発明においては、光学特性を高める観点から積層体を構成する垂直配向液晶硬化膜の位相差値を、例えば上記式(5)のような特定の範囲に制御することが好ましく、それに伴い垂直配向液晶硬化膜の屈折率も特定の範囲となる。このため、式(1)を満たすよう粘接着剤層の面内屈折率と垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率との差を制御する際、垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率に粘接着剤層の面内位相差値を近似させるよう調整することが好ましい。
【0128】
粘接着剤としては、例えば、化学反応型接着剤、乾燥固化型接着剤および感圧式粘着剤が挙げられる。化学反応型接着剤としては、例えば、活性エネルギー線硬化型接着剤が挙げられる。本発明の一態様においては、粘接着剤層を形成する粘接着剤が活性エネルギー線硬化型接着剤であることが好ましい。
【0129】
活性エネルギー線硬化型接着剤とは、活性エネルギー線の照射を受けて硬化する接着剤である。活性エネルギー線硬化型接着剤としては、その硬化様式により分類すると、硬化性化合物としてカチオン重合性化合物を含むカチオン重合型接着剤、硬化性化合物としてラジカル重合性化合物を含むラジカル重合型接着剤、カチオン重合性化合物およびラジカル重合性化合物の双方を含むハイブリッド型硬化性接着剤等が挙げられる。カチオン重合性化合物の具体例としては、分子内に1個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物、分子内に1個以上のオキセタン環を有するオキセタン化合物、ビニル化合物等が挙げられる。また、ラジカル重合性化合物の具体例としては、分子内に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル系化合物、ビニル化合物等が挙げられる。活性エネルギー線硬化型接着剤は、カチオン重合性化合物を1種または2種以上含むことができ、および/または、ラジカル重合性化合物を1種または2種以上含むことができる。
【0130】
カチオン重合型接着剤の主成分となるカチオン重合性化合物は、紫外線、可視光、電子線、X線等の活性エネルギー線の照射や加熱によりカチオン重合反応が進行し、硬化する化合物またはオリゴマーをいい、エポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニル化合物等を例示することができる。中でも、好ましいカチオン重合性化合物はエポキシ化合物である。
【0131】
エポキシ化合物とは、分子内に1個以上、好ましくは2個以上のエポキシ基を有する化合物である。エポキシ化合物は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。エポキシ化合物としては、脂環式エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、水素化エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物等を挙げることができる。
【0132】
脂環式エポキシ化合物は、脂環式環に結合したエポキシ基を分子内に1個以上有する化合物である。具体的には、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル) アジペート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル) アジペート、ジエチレングリコールビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、エチレングリコールビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、2,3,14,15-ジエポキシ-7,11,18,21-テトラオキサトリスピロ[5.2.2.5.2.2]ヘンイコサン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-8,9-エポキシ-1,5-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、4-ビニルシクロヘキセンジオキサイド、リモネンジオキサイド、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル、ジシクロペンタジエンジオキサイドが挙げられる。
【0133】
芳香族エポキシ化合物は、分子内に芳香族環とエポキシ基とを有する化合物である。その具体例としては、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールSのジグリシジルエーテル等のビスフェノール型エポキシ化合物またはそのオリゴマー;フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型のエポキシ樹脂;2,2’,4,4’-テトラヒドロキシジフェニルメタンのグリシジルエーテル、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル等の多官能型のエポキシ化合物;エポキシ化ポリビニルフェノール等の多官能型のエポキシ樹脂が挙げられる。
【0134】
水素化エポキシ化合物は、脂環式環を有するポリオールのグリシジルエーテルであり、芳香族ポリオールを触媒の存在下、加圧下で芳香環に選択的に水素化反応を行うことにより得られる核水添ポリヒドロキシ化合物をグリシジルエーテル化したものであり得る。芳香族ポリオールの具体例は、例えば、ビスフェノールA、ビスフェールF、ビスフェノールS等のビスフェノール型化合物;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂;テトラヒドロキシジフェニルメタン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、ポリビニルフェノール等の多官能型の化合物を含む。芳香族ポリオールの芳香環に水素化反応を行って得られる脂環式ポリオールにエピクロロヒドリンを反応させることにより、グリシジルエーテルとすることができる。
【0135】
脂肪族エポキシ化合物は、脂肪族炭素原子に結合するオキシラン環(3員の環状エーテル)を分子内に少なくとも1個有する化合物である。例えば、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル等の単官能のエポキシ化合物;1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等の2官能のエポキシ化合物;トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等の3官能以上のエポキシ化合物;4-ビニルシクロヘキセンジオキサイド、リモネンジオキサイド等の、脂環式環に直接結合するエポキシ基1個と、脂肪族炭素原子に結合するオキシラン環とを有するエポキシ化合物等が挙げられる。
【0136】
カチオン重合性化合物の1つであるオキセタン化合物は、分子内に1個以上のオキセタン環(オキセタニル基)を含有する化合物である。具体的には、例えば、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(オキセタンアルコールとも呼ばれる。)、2-エチルヘキシルオキセタン、1,4-ビス〔{(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ}メチル〕ベンゼン(キシリレンビスオキセタンとも呼ばれる。)、3-エチル-3〔{(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ}メチル〕オキセタン、3-エチル-3-(フェノキシメチル)オキセタン、3-(シクロヘキシルオキシ)メチル-3-エチルオキセタンが挙げられる。オキセタン化合物は、カチオン重合性化合物の主成分として用いてもよいし、エポキシ化合物と併用してもよい。
【0137】
カチオン重合性化合物となり得るビニル化合物としては、脂肪族または脂環式のビニルエーテル化合物が挙げられ、その具体例は、例えば、n-アミルビニルエーテル、i-アミルビニルエーテル、n-ヘキシルビニルエーテル、n-オクチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、n-ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、オレイルビニルエーテル等の炭素数5~20のアルキルまたはアルケニルアルコールのビニルエーテル;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル;シクロヘキシルビニルエーテル、2-メチルシクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル等の脂肪族環または芳香族環を有するモノアルコールのビニルエーテル;グリセロールモノビニルエーテル、1,4-ブタンジオールモノビニルエーテル、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、ペンタエリトリトールジビニルエーテル、ペンタエリトリトールテトラビニルエーテル、トリメチロールプロパンジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、1,4-ジヒドロキシシクロヘキサンモノビニルエーテル、1,4-ジヒドロキシシクロヘキサンジビニルエーテル、1,4-ジヒドロキシメチルシクロヘキサンモノビニルエーテル、1,4-ジヒドロキシメチルシクロヘキサンジビニルエーテル等の多価アルコールのモノ~ポリビニルエーテル;ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルモノビニルエーテル等のポリアルキレングリコールモノ~ジビニルエーテル;グリシジルビニルエーテル、エチレングリコールビニルエーテルメタクリレート等のその他のビニルエーテルを含む。ビニル化合物は、カチオン重合性化合物の主成分として用いてもよいし、エポキシ化合物、またはエポキシ化合物およびオキセタン化合物と併用してもよい。
【0138】
主成分となるカチオン重合性化合物の種類や組み合わせ、それらの含有量等を適宜選択することにより、該カチオン重合性化合物を含む活性エネルギー線硬化型接着剤から形成される粘接着剤層の面内屈折率を所望の範囲に制御することができる。
例えば、芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物を含むことにより、得られる粘接着剤層の面内屈折率は高くなる傾向にある。例えば、脂肪族エポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニル化合物を含むことにより、得られる粘接着剤層の面内屈折率は低くなる傾向にある。このような面内屈折率が高くなる傾向にある化合物と面内屈折率が低くなる傾向にある化合物とを適宜組み合わせて含むことにより、得られる粘接着剤層の面内屈折率を所望の範囲に制御しやすくなる。
【0139】
カチオン重合型接着剤(ハイブリッド型の硬化性接着剤である場合を含む)におけるカチオン重合性化合物の含有量は、カチオン重合型接着剤に含まれる硬化性化合物の総量100質量%に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。なお、カチオン重合型接着剤に2種以上のカチオン重合性化合物が含まれる場合には、それらの合計量が上記範囲内にあることが好ましい。
【0140】
活性エネルギー線硬化型接着剤がカチオン重合性化合物を含む場合、光カチオン重合開始剤を含有することが好ましい。光カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、または電子線のような活性エネルギー線の照射によって、カチオン種またはルイス酸を発生し、カチオン硬化性化合物の重合反応を開始させるものである。光カチオン重合開始剤は、光で触媒的に作用するため、光カチオン重合性化合物に混合しても保存安定性や作業性に優れる。活性エネルギー線の照射によりカチオン種またはルイス酸を生じる化合物として、例えば、芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、鉄-アレーン錯体等を挙げることができる。
【0141】
芳香族ヨードニウム塩は、ジアリールヨードニウムカチオンを有する化合物であり、当該カチオンとして、典型的にはジフェニルヨードニウムカチオンを挙げることができる。芳香族スルホニウム塩は、トリアリールスルホニウムカチオンを有する化合物であり、当該カチオンとして、典型的にはトリフェニルスルホニウムカチオンや4,4’-ビス(ジフェニルスルホニオ)ジフェニルスルフィドカチオン等を挙げることができる。芳香族ジアゾニウム塩は、ジアゾニウムカチオンを有する化合物であり、当該カチオンとして、典型的にはベンゼンジアゾニウムカチオンを挙げることができる。また、鉄-アレーン錯体は、典型的にはシクロペンタジエニル鉄(II)アレーンカチオン錯塩である。
【0142】
上に示したカチオンは、アニオン(陰イオン)と対になって光カチオン重合開始剤を構成する。光カチオン重合開始剤を構成するアニオンの例を挙げると、特殊リン系アニオン[(Rf)nPF6-n]-、ヘキサフルオロホスフェートアニオンPF6
-、ヘキサフルオロアンチモネートアニオンSbF6
-、ペンタフルオロヒドロキシアンチモネートアニオンSbF5(OH)-、ヘキサフルオロアーセネートアニオンAsF6
-、テトラフルオロボレートアニオンBF4
-、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンB(C6F5)4
-等がある。中でも、カチオン重合性化合物の硬化性および得られる接着剤層の安全性の観点から、特殊リン系アニオン[(Rf)nPF6-n]-、ヘキサフルオロホスフェートアニオンPF6
-であることが好ましい。
【0143】
光カチオン重合開始剤は、1種のみを単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。中でも、芳香族スルホニウム塩は、300nm付近の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械的強度や接着強度を有する硬化物を与えることができるため好ましく用いられる。
【0144】
カチオン重合型接着剤における光カチオン重合開始剤の配合量(固形分量)は、カチオン重合性化合物100質量部に対して、通常、0.5~10質量部であり、好ましくは6質量部以下である。光カチオン重合開始剤の含有量が上記範囲内であると、カチオン重合性化合物を十分に硬化させることができる。
【0145】
カチオン重合型接着剤に、カチオン重合性化合物に加えてラジカル重合性化合物を含有させることによりハイブリッド型の接着剤とすることもできる。ラジカル重合性化合物を併用することにより、粘接着剤層の面内屈折率の調整がしやすくなる場合がある。
【0146】
ラジカル重合型接着剤の主成分であるラジカル重合性化合物は、紫外線、可視光、電子線、X線等の活性エネルギー線の照射や加熱によりラジカル重合反応が進行し、硬化する化合物またはオリゴマーをいい、具体的にはエチレン性不飽和結合を有する化合物を挙げることができる。エチレン性不飽和結合を有する化合物としては、分子内に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル系化合物の他、スチレン、スチレンスルホン酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N-ビニル-2-ピロリドンのようなビニル化合物等が挙げられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0147】
(メタ)アクリル系化合物としては、分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリルアミドモノマー、および、官能基含有化合物を2種以上反応させて得られ、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルオリゴマー等の(メタ)アクリロイル基含有化合物を挙げることができる。(メタ)アクリルオリゴマーは好ましくは、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーである。
【0148】
活性エネルギー線硬化型接着剤がラジカル重合性化合物を含有する場合、光ラジカル重合開始剤を含有することが好ましい。光ラジカル重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、または電子線のような活性エネルギー線の照射によって、ラジカル硬化性化合物の重合反応を開始させるものである。光ラジカル重合開始剤は、1種のみを単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0149】
光ラジカル重合開始剤の具体例は、アセトフェノン、3-メチルアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等のアセトフェノン系開始剤;ベンゾフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン系開始剤;ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインエーテル系開始剤;4-イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系開始剤;その他、キサントン、フルオレノン、カンファーキノン、ベンズアルデヒド、アントラキノンを含む。
【0150】
ラジカル重合型接着剤における光ラジカル重合開始剤の配合量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して通常、0.5~20質量部であり、好ましくは1~6質量部である。光ラジカル重合開始剤の含有量が上記範囲内であると、ラジカル重合性化合物を十分に硬化させることができる。
【0151】
活性エネルギー線硬化型接着剤は、必要に応じて、オキセタン、ポリオール等のカチオン重合促進剤、光増感剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤、帯電防止剤、レベリング剤、および/または溶剤等の添加剤を含み得る。
【0152】
活性エネルギー線硬化型接着剤を用いる場合には、活性エネルギー線を照射することによって活性エネルギー線硬化型接着剤を硬化させることにより粘接着剤層が得られる。活性エネルギー線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する活性エネルギー線が好ましく、紫外線がより好ましい。光源としては、具体的に、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、およびメタルハライドランプなどが挙げられる。
【0153】
活性エネルギー線硬化型接着剤への光照射強度は、活性エネルギー線硬化型接着剤の組成によって適宜決定され、特に限定されないが、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度は、通常、10~3,000mW/cm2である。活性エネルギー線硬化型接着剤への光照射時間は、硬化させる活性エネルギー線硬化型接着剤によって適宜選択すればよく、特に制限されるものではないが、通常0.1秒~10分であり、好ましくは1秒~5分、より好ましくは5秒~3分、さらに好ましくは10秒~1分である。このような紫外線照射強度で1回または複数回照射すると、その積算光量は、通常10~3,000mJ/cm2、好ましくは50~2,000mJ/cm2、より好ましくは100~1,000mJ/cm2である。
【0154】
乾燥固化型接着剤としては、水酸基、カルボキシル基またはアミノ基等のプロトン性官能基とエチレン性不飽和基とを有するモノマーの重合体、または、ウレタン樹脂を主成分として含有し、さらに、多価アルデヒド、エポキシ化合物、エポキシ樹脂、メラミン化合物、ジルコニア化合物、および亜鉛化合物等の架橋剤または硬化性化合物を含有する組成物等が挙げられる。水酸基、カルボキシル基またはアミノ基等のプロトン性官能基とエチレン性不飽和基とを有するモノマーの重合体としては、エチレン-マレイン酸共重合体、イタコン酸共重合体、アクリル酸共重合体、アクリルアミド共重合体、ポリ酢酸ビニルのケン化物、および、ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。
【0155】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、および、アミノ基変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。水系の乾燥固化型接着剤におけるポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、水100質量部に対して、通常、1~10質量部であり、好ましくは1~5質量部である。
【0156】
ウレタン樹脂としては、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂等が挙げられる。ここでいうポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とは、ポリエステル骨格を有するウレタン樹脂であって、その中に少量のイオン性成分(親水成分)が導入された樹脂である。係るアイオノマー型ウレタン樹脂は、乳化剤を使用せずに、水中で乳化してエマルジョンとなるため、水系の粘接着剤とすることができる。ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂を用いる場合は、架橋剤として水溶性のエポキシ化合物を配合することが有効である。
【0157】
エポキシ樹脂としては、ジエチレントリアミンまたはトリエチレンテトラミン等のポリアルキレンポリアミンとアジピン酸等のジカルボン酸との反応で得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドエポキシ樹脂等が挙げられる。係るポリアミドエポキシ樹脂の市販品としては、“スミレーズレジン(登録商標)650”および“スミレーズレジン675”(以上、住化ケムテックス株式会社製)、“WS-525”(日本PMC株式会社製)等が挙げられる。エポキシ樹脂を配合する場合、その添加量は、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、通常、1~100質量部であり、好ましくは1~50質量部である。
【0158】
乾燥固化型接着剤は、溶媒を含んでいてよい。溶媒としては、水、水と親水性有機溶媒(例えばアルコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒等)との混合溶媒、有機溶媒等が挙げられる。接着剤成分として、例えばポリビニルアルコール系樹脂またはウレタン樹脂を含む接着剤が挙げられる。
【0159】
乾燥固化型接着剤を用いる場合、乾燥固化型接着剤の塗膜を乾燥して硬化させることにより、粘接着剤層を得ることができる。この乾燥処理は、例えば熱風を吹き付けることにより行うことができ、その温度は、溶媒の種類にもよるが、通常30~200℃、好ましくは35~150℃、より好ましくは40~100℃、さらに好ましくは60~100℃の範囲内である。また、乾燥時間は通常10秒~30分程度である。
【0160】
感圧式粘着剤は、通常、ポリマーを含み、溶媒を含んでいてもよい。ポリマーとしては、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、またはポリエーテル等が挙げられる。中でも、アクリル系ポリマーを含むアクリル系の粘着剤は、光学的な透明性に優れ、粘着性や耐熱性等を向上させやすい点で好ましい。
【0161】
アクリル系ポリマーとしては、エステル部分のアルキル基がメチル基、エチル基またはブチル基等の炭素数1~20のアルキル基である(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリル酸やヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーとの共重合体が好ましい。アクリル系ポリマーのガラス転移温度は、25℃以下が好ましく、0℃以下がより好ましい。このようなアクリル系ポリマーの質量平均分子量は、10万以上であることが好ましい。
【0162】
溶媒としては、重合性液晶組成物等に用い得る溶媒として挙げられた溶媒等が挙げられる。感圧式粘着剤は、光拡散剤を含有していてもよい。光拡散剤は、粘着剤に光拡散性を付与する添加剤であり、粘着剤が含むポリマーの屈折率と異なる屈折率を有する微粒子であればよい。光拡散剤としては、無機化合物からなる微粒子、および有機化合物(ポリマー)からなる微粒子が挙げられる。アクリル系ポリマーを含めて、粘着剤が有効成分として含むポリマーの多くは1.4~1.6程度の屈折率を有するため、その屈折率が1.2~1.8である光拡散剤から適宜選択することが好ましい。粘着剤が有効成分として含むポリマーと光拡散剤との屈折率差は、通常、0.01以上であり、表示装置の明るさと表示性の観点からは、0.01~0.2が好ましい。光拡散剤として用いる微粒子は、球形の微粒子、それも単分散に近い微粒子が好ましく、平均粒径が2~6μmである微粒子がより好ましい。屈折率は、一般的な最小偏角法またはアッベ屈折計によって測定される。
【0163】
無機化合物からなる微粒子としては、酸化アルミニウム(屈折率1.76)および酸化ケイ素(屈折率1.45)等が挙げられる。有機化合物(ポリマー)からなる微粒子としては、メラミンビーズ(屈折率1.57)、ポリメタクリル酸メチルビーズ(屈折率1.49)、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体樹脂ビーズ(屈折率1.50~1.59)、ポリカーボネートビーズ(屈折率1.55)、ポリエチレンビーズ(屈折率1.53)、ポリスチレンビーズ(屈折率1.6)、ポリ塩化ビニルビーズ(屈折率1.46)、およびシリコーン樹脂ビーズ(屈折率1.46)等が挙げられる。光拡散剤の含有量は、通常、ポリマー100質量部に対して、3~30質量部である。
【0164】
粘接着剤層の厚みは、粘接着剤層を構成する粘接着剤の種類、所望する粘接着力等に応じて適宜決定することができるが、通常、0.01μm以上20μm以下であり、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは0.2μm以上であり、また、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下、特に好ましくは2μm以下、とりわけ好ましくは1.5μm以下である。
一般に、水平配向液晶硬化膜と垂直配向液晶硬化膜との間に位置する粘接着剤層の厚みが薄くなるほど、水平配向液晶硬化膜と粘接着剤層との界面で生じる界面反射と、垂直配向液晶硬化膜と粘接着剤層との界面で生じる界面反射とが互いに干渉しやすくなり、干渉ムラが生じやすくなる傾向にある。このような場合においても、本発明の積層体は、垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率と粘接着剤層の面内屈折率との差を小さくし、垂直配向液晶硬化膜と粘接着剤層との界面における反射の発生を抑制しているため、粘接着剤層の厚みが薄くなっても、干渉ムラの発生を効果的に抑制することができるため有利である。したがって、本発明の好適な一態様において、粘接着剤層の厚みは、好ましくは0.1μm以上2μm以下、より好ましくは0.2μm以上1.5μm以下である。粘接着剤層の厚みが上記範囲内であると、干渉ムラが生じ難く、高い粘接着性を確保しながら積層体の薄型化を図ることができる。
【0165】
本発明の積層体は、例えば、水平配向液晶硬化膜と垂直配向液晶硬化膜とを、上記粘接着剤層を介して積層(貼合)することにより製造することができる。
【0166】
本発明は、本発明の積層体と偏光フィルムとを含む楕円偏光板を包含する。
偏光フィルムは、偏光機能を有するフィルムであり、吸収異方性を有する色素を吸着させた延伸フィルムや吸収異方性を有する色素を塗布したフィルムを偏光子として含むフィルム等が挙げられる。吸収異方性を有する色素としては、例えば、二色性色素が挙げられる。
【0167】
吸収異方性を有する色素を吸着させた延伸フィルムを偏光子として含むフィルムは通常、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより、その二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、およびホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造された偏光子の少なくとも一方の面に接着剤を介して透明保護フィルムで挟み込むことで作製される。
【0168】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することによって得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルの他、酢酸ビニルとそれに共重合可能な他の単量体との共重合体が用いられる。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。
【0169】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85~100モル%程度であり、好ましくは98モル%以上である。ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールも使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1,000~10,000程度であり、好ましくは1,500~5,000の範囲である。
【0170】
このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光フィルムの原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は、特に限定されるものでなく、公知の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系原反フィルムの膜厚は、例えば、10~150μm程度とすることができる。
【0171】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一軸延伸は、二色性色素による染色の前、染色と同時、または染色の後で行うことができる。一軸延伸を染色の後で行う場合、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。また、これらの複数の段階で一軸延伸を行うことも可能である。一軸延伸にあたっては、周速の異なるロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また一軸延伸は、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶媒を用い、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常3~8倍程度である。
【0172】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの二色性色素による染色は、例えば、二色性色素を含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する方法によって行われる。
【0173】
二色性色素として、具体的には、ヨウ素や二色性の有機染料が用いられる。二色性の有機染料としては、C.I.DIRECT RED 39などのジスアゾ化合物からなる二色性直接染料および、トリスアゾ、テトラキスアゾなどの化合物からなる二色性直接染料等が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理前に、水への浸漬処理を施しておくことが好ましい。
【0174】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は通常、ヨウ素およびヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は、水100質量部あたり、通常、0.01~1質量部程度である。またヨウ化カリウムの含有量は、水100質量部あたり、通常、0.5~20質量部程度である。染色に用いる水溶液の温度は、通常20~40℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常20~1,800秒程度である。
【0175】
一方、二色性色素として二色性の有機染料を用いる場合は通常、水溶性二色性染料を含む水溶液にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性有機染料の含有量は、水100質量部あたり、通常、1×10-4~10質量部程度であり、好ましくは1×10-3~1質量部であり、さらに好ましくは1×10-3~1×10-2質量部である。この水溶液は、硫酸ナトリウム等の無機塩を染色助剤として含んでいてもよい。染色に用いる二色性染料水溶液の温度は、通常、20~80℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常、10~1,800秒程度である。
【0176】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は通常、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液に浸漬する方法により行うことができる。このホウ酸水溶液におけるホウ酸の含有量は、水100質量部あたり、通常2~15質量部程度であり、好ましくは5~12質量部である。二色性色素としてヨウ素を用いた場合には、このホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有することが好ましく、その場合のヨウ化カリウムの含有量は、水100質量部あたり、通常0.1~15質量部程度であり、好ましくは5~12質量部である。ホウ酸水溶液への浸漬時間は、通常60~1,200秒程度であり、好ましくは150~600秒、さらに好ましくは200~400秒である。ホウ酸処理の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50~85℃、さらに好ましくは60~80℃である。
【0177】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬する方法により行うことができる。水洗処理における水の温度は、通常5~40℃程度である。また浸漬時間は、通常1~120秒程度である。
【0178】
水洗後に乾燥処理が施されて、偏光子が得られる。乾燥処理は例えば、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行うことができる。乾燥処理の温度は、通常30~100℃程度であり、好ましくは50~80℃である。乾燥処理の時間は、通常60~600秒程度であり、好ましくは120~600秒である。乾燥処理により、偏光子の水分率は実用程度にまで低減される。その水分率は、通常5~20質量%程度であり、好ましくは8~15質量%である。水分率が上記範囲内であると、適度な可撓性を有し、かつ、熱安定性に優れる偏光子を得られる。
【0179】
こうしてポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色、ホウ酸処理、水洗および乾燥をして得られる偏光子の厚さは好ましくは5~40μmである。
【0180】
吸収異方性を有する色素を塗布したフィルムとしては、液晶性を有する二色性色素を含む組成物または、二色性色素と重合性液晶とを含む組成物を塗布して得られるフィルム等が挙げられる。当該フィルムは、好ましくは、その片面または両面に保護フィルムを有する。当該保護フィルムとしては、水平配向液晶硬化膜の製造に用い得る基材として先に例示した樹脂フィルムと同一のものが挙げられる。
【0181】
吸収異方性を有する色素を塗布したフィルムは薄い方が好ましいが、薄すぎると強度が低下し、加工性に劣る傾向がある。当該フィルムの厚みは、通常20μm以下であり、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは0.5~3μmである。
【0182】
前記吸収異方性を有する色素を塗布したフィルムとしては、具体的には、特開2012-33249号公報等に記載のフィルムが挙げられる。
【0183】
このようにして得られた偏光子の少なくとも一方の面に、接着剤を介して透明保護フィルムを積層することにより偏光フィルムが得られる。透明保護フィルムとしては、水平配向液晶硬化膜等の製造に用い得る基材として先に例示した樹脂フィルムと同様の透明フィルムを好ましく用いることができる。
【0184】
本発明の楕円偏光板は、本発明の積層体と偏光フィルムとを含んで構成されるものであり、例えば、本発明の積層体と偏光フィルムとを粘接着剤層等を介して積層させることにより本発明の楕円偏光板を得ることができる。粘接着剤層としては、当該分野で従来公知の粘接着剤を用いることができ、例えば、水平配向液晶硬化膜と垂直配向液晶硬化膜とを積層するために用い得る粘接着剤として先に例示したものと同様の粘接着剤が挙げられる。
【0185】
本発明の一態様においては、本発明の積層体と偏光フィルムとが積層される場合、積層体を構成する水平配向液晶硬化膜の遅相軸(光軸)と偏光フィルムの吸収軸との成す角が45±5°となるように積層することが好ましい。
【0186】
本発明の楕円偏光板は、従来の一般的な楕円偏光板、または偏光フィルムおよび位相差フィルムが備えるような構成を有していてよい。そのような構成としては、例えば、楕円偏光板を有機EL等の表示素子に貼合するための粘着剤層(シート)、偏光フィルムや位相差フィルムの表面を傷や汚れから保護する目的で用いられるプロテクトフィルム等が挙げられる。
【0187】
本発明の楕円偏光板は、さまざまな表示装置に用いることができる。
表示装置とは、表示素子を有する装置であり、発光源として発光素子または発光装置を含む。表示装置としては、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、無機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、タッチパネル表示装置、電子放出表示装置(例えば電場放出表示装置(FED)、表面電界放出表示装置(SED))、電子ペーパー(電子インクや電気泳動素子を用いた表示装置、プラズマ表示装置、投射型表示装置(例えばグレーティングライトバルブ(GLV)表示装置、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を有する表示装置)および圧電セラミックディスプレイなどが挙げられる。液晶表示装置は、透過型液晶表示装置、半透過型液晶表示装置、反射型液晶表示装置、直視型液晶表示装置および投写型液晶表示装置などのいずれをも含む。これらの表示装置は、2次元画像を表示する表示装置であってもよいし、3次元画像を表示する立体表示装置であってもよい。特に本発明の楕円偏光板は有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置および無機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置に好適に用いることができ、本発明の積層体は液晶表示装置およびタッチパネル表示装置に好適に用いることができる。これらの表示装置は、干渉ムラの生じ難い本発明の積層体を備えることにより、良好な画像表示特性を発現することができる。
【実施例】
【0188】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。なお、例中の「%」および「部」は、特記ない限り、それぞれ質量%および質量部を意味する。
【0189】
1.粘接着剤の調製
(1)活性エネルギー線硬化型接着剤の調製
表1に示す組成(表1中の単位は質量部)に従い、カチオン重合性化合物(モノマー(A-1)~(A-6))およびカチオン重合開始剤を混合した後、脱泡して、活性エネルギー線硬化型接着剤A~Fを調製した。なお、カチオン重合性化合物であるモノマー(A-1)~(A-6)は、それぞれ、以下に示す成分であり、カチオン重合開始剤(B)は、50質量%プロピレンカーボネート溶液として配合し、表1中にはその固形分量を示した。
【0190】
<カチオン重合性化合物(モノマー)>
A-1:3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(商品名:CEL2021P、(株)ダイセル製)
A-2:1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(商品名:EX-212L、ナガセケムテックス(株)製)
A-3:4-ヒドロキシブチルビニルエーテル(商品名:HBVE、丸善石油化学(株)製)
A-4:p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル(商品名:EX-146、ナガセケムテックス(株)製)
A-5:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名:EXA-830CRP、DIC(株)製)
A-6:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル(商品名:EX-121、ナガセケムテックス(株)製)
【0191】
<カチオン重合開始剤>
B:カチオン重合開始剤(商品名:CPI-100P、サンアプロ(株)製、50質量%溶液)
【0192】
【0193】
(2)屈折率の測定方法
上記で調製した接着剤A~Fを、それぞれ、シクロオレフィンポリマーフィルム(COP:ZF-14 日本ゼオン株式会社製)の片面に、バーコーター〔第一理化(株)製〕を用いて塗工し、紫外線照射装置〔フュージョンUVシステムズ(株)製〕で積算光量600mJ/cm2(UV-B)で紫外線を照射し硬化物を得た。得られた硬化物の膜厚を接触式膜厚計でシクロオレフィンポリマーフィルムとの厚みの差分から測定したところ、約30μmであった。得られた硬化物からCOPを剥離し、硬化物の屈折率n2(589nm)を25℃環境下で多波長アッベ屈折計〔(株)アタゴ製“DR-M4”〕を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0194】
2.垂直配向液晶硬化膜形成用組成物の調製
(1)垂直配向液晶硬化膜形成用組成物1の調製
表2に記載の組成に従って各成分を混合し、得られた溶液を80℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却して垂直配向液晶硬化膜形成用組成物1を調製した。
なお、表2中の各成分は、それぞれ以下に示す成分であり、配合量は調製した組成物の総量に対する各成分の配合割合を表す。
【0195】
【0196】
Irg907:カチオン重合開始剤〔イルガキュア907(BASFジャパン社製)〕
BYK-361N:レベリング剤(ビックケミージャパン製)
LR-9000:反応性添加剤〔Laromer(登録商標)LR-9000(BASFジャパン社製)〕
PGMEA:溶媒(プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート)
LC242:重合性液晶化合物〔下記式で表される重合性液晶化合物(BASF社製)〕
【化14】
(2)水平配向液晶硬化膜形成用組成物1および垂直配向液晶硬化膜形成用組成物2の調製
以下に示す重合性液晶化合物A、および重合性液晶化合物Bを90:10の質量比で混合した混合物に対して、レベリング剤(F-556;DIC社製)を1質量部、および重合開始剤である2-ジメチルアミノ-2-ベンジル-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン(「イルガキュア369(Irg369)」、BASFジャパン株式会社製)を6質量部添加した。
【0197】
さらに、固形分濃度が13%となるようにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加し、80℃で1時間攪拌することにより、水平配向液晶硬化膜形成用組成物1および垂直配向液晶硬化膜形成用組成物2を得た。
【0198】
重合性液晶化合物Aは特開2010-31223号公報に記載の方法に準じて製造した。また、重合性液晶化合物Bは、特開2009-173893号公報に記載の方法に準じて製造した。以下にそれぞれの分子構造を示す。
【0199】
【0200】
【0201】
3.配向膜形成用組成物の調製
(1)垂直配向膜形成用組成物1の調製
市販の配向性ポリマーであるサンエバーSE-610(日産化学工業株式会社製)1質量部(固形分換算)に2-ブトキシエタノール99質量部を加えて混合し、垂直配向膜形成用組成物を得た。SE-610の固形分量については、納品仕様書に記載の濃度から換算した。
【0202】
(2)垂直配向膜形成用組成物2の調製
信越化学工業株式会社製のシランカップリング剤「KBE-9103」を、エタノールと水を9:1(質量比)の割合で混合した混合溶媒に溶解させ、固形分0.5%の垂直配向膜形成用組成物を得た。
【0203】
(3)水平配向膜形成用組成物の調製
下記構造の光配向性材料5質量部(重量平均分子量:30000)とシクロペンタノン(溶媒)95質量部とを成分として混合し、得られた混合物を80℃で1時間攪拌することにより、水平配向膜形成用組成物を得た。
【0204】
【0205】
4.偏光フィルムの製造
厚さ30μmのポリビニルアルコールフィルム(平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%以上)を、乾式延伸により約5倍に一軸延伸し、さらに緊張状態を保ったまま、40℃の純水に40秒間浸漬した。その後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の質量比が0.044/5.7/100の染色水溶液に28℃で30秒間浸漬して染色処理を行った。次に、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の質量比が11.0/6.2/100のホウ酸水溶液に70℃で120秒間浸漬した。引き続き、8℃の純水で15秒間洗浄した後、300Nの張力で保持した状態で、60℃で50秒間、次いで75℃で20秒間乾燥して、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素が吸着配向している厚さ12μmの偏光子を得た。
得られた偏光子に対して、前面透明保護層として一方の面にトリアセチルセルロースフィルム(TAC;KC2UA;コニカミノルタ株式会社製、厚さ:25μm)をケン化処理したフィルムを、もう一方の面にコロナ処理した波長550nmにおける位相差値が略0であるシクロオレフィンポリマーフィルム(COP:ZF-14 日本ゼオン株式会社製)を、間に得られる接着剤層の厚みが50nμmとなるよう調製した水系接着剤を注入し、ニップロールで貼り合わせた。得られた貼合物の張力を430N/mに保ちながら、60℃で2分間乾燥して、片面に透明保護フィルムとしてTACを、片面にCOPを有する偏光フィルムを得た。なお、前記水系接着剤は水100質量部に、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(クラレ製 クラレポバール KL318)3質量部と、水溶性ポリアミドエポキシ樹脂(住化ケムテックス製 スミレーズレジン650 固形分濃度30%の水溶液〕1.5質量部を添加して調製した。
【0206】
5.基材、水平配向膜、水平配向液晶硬化膜からなる積層体の製造
(1)基材、水平配向膜、水平配向液晶硬化膜からなる積層体1の製造
日本ゼオン株式会社製のCOPフィルム(ZF-14)上にコロナ処理を実施した後、コロナ処理を施した表面に、上記で調製した水平配向膜形成用組成物をバーコーターで塗布し、80℃で1分間乾燥した。次いで、偏光UV照射装置(「SPOT CURE SP-9」、ウシオ電機株式会社製)を用いて、波長313nmにおける積算光量:100mJ/cm2で軸角度45°にて偏光UV露光を実施して水平配向膜を得た。得られた水平配向膜の膜厚をエリプソメータで測定したところ、100nmであった。
【0207】
続いて、水平配向膜に、水平配向液晶硬化膜形成用組成物1を、バーコーターを用いて塗布し、120℃で1分間乾燥した後、高圧水銀ランプ(「ユニキュアVB-15201BY-A」、ウシオ電機株式会社製)を用いて、紫外線を照射(窒素雰囲気下、波長365nmにおける積算光量:500mJ/cm2)することにより、水平配向液晶硬化膜1を形成し、基材、水平配向膜および水平配向液晶硬化膜1からなる積層体1を得た。得られた積層体1における水平配向液晶硬化膜1の膜厚をエリプソメータで測定したところ、2.3μmであった。
【0208】
(2)水平配向液晶硬化膜1の位相差および三次元屈折率の測定
上記方法にて製造した水平配向液晶硬化膜1の面内位相差値Re(λ)は、粘着剤を介して積層体をガラスに貼合した後、基材であるCOPを剥離した後に、測定機(「KOBRA-WPR」、王子計測機器株式会社製)により測定した。各波長における位相差値Re(λ)の測定結果は、Re(450)=121nm、Re(550)=142nm、Re(650)=146nm、Re(450)/Re(550)=0.85であった。エリプソメータで得られた水平配向液晶硬化膜1の平均屈折率および位相差値より589nmにおける三次元屈折率を求めた。結果を表3に示す。
【0209】
6.基材、垂直配向膜、垂直配向液晶硬化膜からなる積層体の製造
(1)基材、垂直配向膜および垂直配向液晶硬化膜1からなる積層体2の製造
日本ゼオン株式会社製のCOPフィルム(ZF-14)上にコロナ処理を実施した後、コロナ処理を施した表面に、垂直配向膜形成用組成物1を、バーコーターを用いて塗布し、90℃で1分間乾燥し、垂直配向膜を形成した。得られた垂直配向膜の膜厚をエリプソメータで測定したところ70nmであった。また、得られた垂直配向膜の波長550nmにおける位相差値を測定(測定機:王子計測機器社製、KOBRA-WR)したところ、R0(550)=0.7nmであった。なお、前記COPの波長550nmにおける位相差値は略0であるため、当該位相差値には影響しない。続いて、得られた垂直配向膜上に、垂直配向液晶硬化膜形成用組成物1を、バーコーターを用いて塗布し、90℃で1分間乾燥し、高圧水銀ランプ(ウシオ電機株式会社製、ユニキュアVB―15201BY-A)を用いて紫外線を照射(窒素雰囲気下、波長365nmにおける積算光量:1000mJ/cm2)することにより垂直配向液晶硬化膜1を形成し、基材、垂直配向膜および垂直配向液晶硬化膜1からなる積層体2を得た。得られた積層体2における垂直配向液晶硬化膜1の膜厚をエリプソメータで測定したところ534nmであった。
【0210】
(2)垂直配向液晶硬化膜1の位相差および三次元屈折率の測定
垂直配向液晶硬化膜1の位相差値を測定するために、上記と同様の手順で日本ゼオン株式会社製のCOPフィルム(ZF-14)上に垂直配向膜、および垂直配向液晶硬化膜を製造し、粘着剤(リンテック社製感圧式粘着剤 15μm)を介して垂直配向液晶硬化膜をガラスと貼合し、COPに位相差がないことを確認した上で、エリプソメータによりサンプルへの光の入射角を変えて位相差値を測定した。得られた膜厚、平均屈折率およびエリプソメータの測定結果から算出される位相差値は、R0(550)=1.3nm、R40(550)=21.9nm、Rth(450)=-91nm、Rth(550)=-84nm、Rth(450)/Rth(550)=1.09であった。エリプソメータで得られた平均屈折率および位相差値より589nmにおける三次元屈折率n3x、n3yおよびn3zを求めた。結果を表3に示す。
【0211】
(3)基材、垂直配向膜、垂直配向液晶硬化膜2からなる積層体3の製造
前述の方法と同様にコロナ処理を施した基材上に、垂直配向膜形成用組成物2をバーコーターで塗布し、80℃で1分間乾燥し、垂直配向膜を得た。得られた垂直配向膜の膜厚をエリプソメータで測定したところ、50nmであった。
【0212】
続いて、得られた垂直配向膜に垂直配向液晶硬化膜形成用組成物2をバーコーターにより塗布し、120℃で1分間乾燥した後、高圧水銀ランプ(「ユニキュアVB-15201BY-A」、ウシオ電機株式会社製)を用いて、紫外線を照射(窒素雰囲気下、波長365nmにおける積算光量:500mJ/cm2)することにより、垂直配向液晶硬化膜2を形成し、基材、垂直配向膜および垂直配向液晶硬化膜2からなる積層体3を得た。得られた積層体3における垂直配向液晶硬化膜2の膜厚をエリプソメータで測定したところ、1.2μmであった。
【0213】
(4)垂直配向液晶硬化膜2の位相差および三次元屈折率の測定
垂直配向液晶硬化膜2の位相差値を測定するために、上記と同様の手順で日本ゼオン株式会社製のCOPフィルム(ZF-14)上に垂直配向膜、及び垂直配向液晶硬化膜を製造し、粘着剤(リンテック社製感圧式粘着剤 15μm)を介して垂直配向液晶硬化膜をガラスと貼合し、COPに位相差がないことを確認した上で、エリプソメータによりサンプルへの光の入射角を変えて位相差値を測定した。得られた膜厚、平均屈折率、及びエリプソメータの測定結果から算出される位相差値はそれぞれ、Rth(450)=-63nm、Rth(550)=-73nmであり、Rth(450)/Rth(550)=0.85であった。エリプソメータで得られた平均屈折率および位相差値より589nmにおける三次元屈折率n3x、n3yおよびn3zを求めた。結果を表3に示す。
【0214】
7.水平配向液晶硬化膜、粘接着剤層および垂直配向液晶硬化膜を含む積層体の作製
(1)実施例1
(a)積層体(楕円偏光板)の作製
上記で作製した偏光フィルムのシクロオレフィンフィルム側と、基材、水平配向膜および水平配向液晶硬化膜1からなる積層体1の水平配向液晶硬化膜1側とを粘着剤(リンテック社製感圧式粘着剤 15μm)を介して貼合した後基材を水平配向膜とともに剥離した。続いて、基材、垂直配向膜および垂直配向液晶硬化膜1からなる積層体2の垂直配向液晶硬化膜1側にコロナ処理を施した後表1に記載の接着剤Aを塗工し、該接着剤Aの塗工面と上記積層体1の水平配向液晶硬化膜1側とを積層し、垂直配向液晶硬化膜1側から、紫外線照射装置〔フュージョンUVシステムズ(株)製〕を用いて積算光量400mJ/cm2 (UV-B)で紫外線を照射し、接着剤Aを硬化させた。その後、垂直配向液晶硬化膜1の作製に用いた基材を垂直配向膜とともに剥離することにより、偏光フィルム/粘着剤/水平配向液晶硬化膜1/接着剤層/垂直配向液晶硬化膜1の積層構造を有する積層体(楕円偏光板)を得た。
なお、接触式膜厚計で測定した接着剤層の厚みは1.4μmであった。
【0215】
(b)干渉ムラの評価
上記で作製した積層体(楕円偏光板)を、アクリル系粘着剤(膜厚25μm)を介してアルミ反射板に貼りつけ、3波長形蛍光灯下で斜め方向から360°回して目視観察し、以下の基準に基づいて評価した。評価結果を表3に示す。
A:干渉ムラが視認されない
B:干渉ムラがわずかに視認される
C:干渉ムラが視認される
【0216】
(2)実施例2
接着剤を接着剤Bに変更した以外は、実施例1と同様に積層体(楕円偏光板)を作製し、干渉ムラの評価を実施した。結果を表3に示す。
【0217】
(3)実施例3
接着剤を接着剤Cに変更した以外は、実施例1と同様に積層体(楕円偏光板)を作製し、干渉ムラの評価を実施した。結果を表3に示す。
【0218】
(4)実施例4
接着剤を接着剤Dに変更し、積層体2を積層体3に変更した以外は、実施例1と同様に積層体(楕円偏光板)を作製し、干渉ムラの評価を実施した。結果を表3に示す。
【0219】
(5)比較例1
接着剤を接着剤Dに変更した以外は、実施例1と同様に積層体(楕円偏光板)を作製し、干渉ムラの評価を実施した。結果を表3に示す。
【0220】
(6)比較例2
接着剤を接着剤Eに変更した以外は、実施例1と同様に積層体(楕円偏光板)を作製し、干渉ムラの評価を実施した。結果を表3に示す。
【0221】
(7)比較例3
接着剤を接着剤Fに変更した以外は、実施例1と同様に積層体(楕円偏光板)を作製し、干渉ムラの評価を実施した。結果を表3に示す。
【0222】
【0223】
本発明に従い、垂直配向液晶硬化膜の面内屈折率と粘接着剤層の面内屈折率との差が制御された積層体(実施例1~4)では、干渉ムラの発生が抑えられることが確認された。