(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】多層麺類及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20240327BHJP
【FI】
A23L7/109 B
(21)【出願番号】P 2020060837
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敦行
(72)【発明者】
【氏名】堀米 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】豊田 肇
(72)【発明者】
【氏名】針谷 康平
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-196168(JP,A)
【文献】特開2019-176814(JP,A)
【文献】特開昭54-135247(JP,A)
【文献】特開昭62-228240(JP,A)
【文献】特開平4-210570(JP,A)
【文献】特開2008-29273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109-7/113
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層麺類であって、
2つのA層の間にB層が配置された積層構造を有し、該2つのA層と該B層との厚さの比が、A層/B層/A層=2~10:1:2~10であり、
該B層中の澱粉類の含有量は、該A層中の澱粉類の含有量よりも10質量%以上多く、かつ、該B層における穀粉類と澱粉類の合計量中30~90質量%である、
多層麺類。
【請求項2】
前記A層中の澱粉類の含有量が、該A層における穀粉類と澱粉類の合計量中15~50質量%である、請求項1記載の多層麺類。
【請求項3】
前記A層及びB層が小麦粉を含有する、請求項1又は2記載の多層麺類。
【請求項4】
三層麺である、請求項1~3のいずれか1項記載の多層麺類。
【請求項5】
多層麺類の製造方法であって、
2つのA層用麺帯の間にB層用麺帯が配置された積層構造を有する多層麺帯を作製することと、該多層麺帯を圧延して製麺することとを含み、
該多層麺帯における該2つのA層用麺帯と該B層用麺帯との厚さの比が、A層/B層/A層=2~10:1:2~10であり、
該B層用麺帯中の澱粉類の含有量は、該A層用麺帯中の澱粉類の含有量よりも10質量%以上多く、かつ、該B層用麺帯における穀粉類と澱粉類の合計量中30~90質量%である、
方法。
【請求項6】
前記A層用麺帯における穀粉類と澱粉類の合計量に対する澱粉類の含有量が15~50質量%である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記A層用麺帯及びB層用麺帯が小麦粉を含有する、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
前記多層麺類が三層麺である、請求項5~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項記載の多層麺類を加熱調理して冷蔵することを含む、冷蔵調理麺類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層麺類及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層構造を有する麺類(多層麺類)が従来製造されている。特許文献1には、タピオカ澱粉とα化澱粉を含む澱粉類を主体とする材料から得られる外層と、小麦粉を主体とし蛋白質を添加された材料から得られた内層からなり、外層と内層の厚さの比率が外層/内層/外層=1.5~2.5/1/1.5~2.5の範囲である三層麺が記載され、また、該三層麺が、表面がソフトで中心部にコシがあることが記載されている。特許文献2には、A層とB層からなり、該A層は小麦粉及びタピオカ澱粉を含み、該B層は小麦粉、タピオカ澱粉及びグルテンを含み、該A層の粗蛋白質含量は該B層よりも少なく、該A層の加水量は該B層よりも多く、層の厚さの比率がA層/B層/A層=1:1:1~1:6:1である多層麺が記載され、また、該多層麺から製造した調理麺が、麺のほぐれ及び食感が良好で、麺の老化が遅いことが記載されている。特許文献3には、可食性酸類で処理した三層麺の包装茹麺に関し、該三層麺が、小麦粉及び澱粉類を含有する外層と、小麦粉、澱粉類及び加熱凝固性蛋白質を含有する内層を有するものであること、該内層の厚みを全体の1/4~3/4とすることが好ましいことが記載されている。特許文献4、5には、中層に澱粉類を多く含有する多層麺が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-029273号公報
【文献】特開2012-196168号公報
【文献】特開平4-252149号公報
【文献】特開昭54-107537号公報
【文献】特開昭54-135247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、食感が改良された多層麺類、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、多層麺類の内側の層(B層)に、その外側の層(A層)よりも多くの澱粉類を含有させ、さらに該B層の厚さを、該A層よりも薄くすることによって、該多層麺類における食感の粘りと噛み応えを改良することができることを見出した。
【0006】
したがって、本発明は、多層麺類であって、
2つのA層の間にB層が配置された積層構造を有し、該2つのA層と該B層との厚さの比が、A層/B層/A層=2~10:1:2~10であり、
該B層中の澱粉類の含有量は、該A層中の澱粉類の含有量よりも10質量%以上多く、かつ、該B層における穀粉類と澱粉類の合計量中30~90質量%である、
多層麺類を提供する。
また本発明は、多層麺類の製造方法であって、
2つのA層用麺帯の間にB層用麺帯が配置された積層構造を有する多層麺帯を作製することと、該多層麺帯を圧延して製麺することとを含み、
該多層麺帯における該2つのA層用麺帯と該B層用麺帯との厚さの比が、A層/B層/A層=2~10:1:2~10であり、
該B層用麺帯中の澱粉類の含有量は、該A層用麺帯中の澱粉類の含有量よりも10質量%以上多く、かつ、該B層用麺帯における穀粉類と澱粉類の合計量中30~90質量%である、
方法、を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、多層麺類における食感の粘りと噛み応えを改良することができる。本発明の多層麺類は、冷蔵又は冷凍保存しても食感の粘りと噛み応えが改良された状態を保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の多層麺類の種類としては、特に限定されず、例えば、パスタ類、うどん、中華麺、冷や麦、素麺、そばなどが挙げられ、このうち、うどんが好ましい。該麺類は、麺線であっても麺皮であってもよい。例えば、該パスタ類は、ショートパスタ、ロングパスタ、平打ちパスタなどのいずれの形状であってもよい。
【0009】
本発明の多層麺類は、2つのA層の間にB層が配置された積層構造を有する。すなわち、該積層構造において、該A層は該B層に対して外層であり、該B層は該A層に対して内層である。
【0010】
本発明の多層麺類における該A層及び該B層は、穀粉類及び/又は澱粉類を含有する。該A層及びB層に用いられる穀粉類の例としては、小麦粉、米粉、大麦粉、モチ大麦粉、そば粉、大豆粉、コーンフラワー、オーツ麦粉、ライ麦粉、ふすま粉などが挙げられ、好ましくは小麦粉、米粉、大麦粉、及びモチ大麦粉、そば粉が挙げられる。これらの穀粉類は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。該A層及びB層に用いられる穀粉類の組成は、同じであっても異なっていてもよい。
【0011】
好ましくは、該A層及びB層に用いられる穀粉類は、小麦粉を含む。該穀粉類における小麦粉の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。該小麦粉は、麺類の製造に一般に使用されるものであればよく、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉、ふすま粉、熱処理小麦粉(例えば、α化小麦粉、部分α化小麦粉、乾熱処理小麦粉等)などが挙げられる。これらの小麦粉は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。製麺性の観点からは、熱処理小麦粉の含有量は全穀粉類中20質量%以下であることが好ましい。また好ましくは、原料粉中の乾熱処理小麦粉の含有量は1質量%未満である。
【0012】
該A層及びB層に用いられる澱粉類の例としては、特に限定されず、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉などの未加工澱粉、及びそれらを加工(例えば、架橋化、リン酸化、アセチル化、エーテル化、酸化、α化など)した加工澱粉が挙げられる。本発明において、これら未加工澱粉及び加工澱粉は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。好ましくは、該澱粉類はタピオカ澱粉である。また好ましくは、該澱粉類は加工澱粉である。より好ましくは、該澱粉類は加工タピオカ澱粉であり、さらに好ましくは、アセチル化、エーテル化及び架橋化からなる群より選択される1種以上の加工を行った加工タピオカ澱粉である。該A層及びB層に用いられる澱粉類の組成は、同じであっても異なっていてもよい。
【0013】
該A層は、穀粉類を含有し、澱粉類を含有していなくともよいが、好ましくは穀粉類と澱粉類の両方を含有する。一方、該B層は、澱粉類を含有し、穀粉類を含有していなくともよいが、好ましくは穀粉類と澱粉類の両方を含有する。本発明の多層麺類において、該B層中の澱粉類の含有量は、該A層中の澱粉類の含有量よりも多い。言い換えると、該B層の原料粉中の澱粉類の含有量は、該A層の原料粉中の澱粉類の含有量よりも多い。
【0014】
該B層中の澱粉類の含有量は、該B層における穀粉類と澱粉類の合計量中、好ましくは30~90質量%、より好ましくは35~90質量%、さらに好ましくは50~90質量%である。一方、該A層中の澱粉類の含有量は、該B層と比べて少なければよく、かつ該A層における穀粉類と澱粉類の合計量中、好ましくは0~55質量%、より好ましくは15~50質量%である。好ましくは、該B層における穀粉類と澱粉類の合計量中の澱粉類の含有量(b)は、該A層における穀粉類と澱粉類の合計量中の澱粉類の含有量(a)と比べて10質量%以上多い。さらに好ましくは、該A層とB層の間での澱粉類の含有量の差(すなわち、b-a)は、好ましくは10~65、より好ましくは10~50、さらに好ましくは15~45での範囲である。該B層中の澱粉類の含有量が少なすぎる場合、又は該A層とB層の間での澱粉類の含有量の差(上記のb-a)が小さ過ぎる場合、得られた多層麺類の食感が充分に改良されない。他方、該B層における澱粉類の含有量が多過ぎると、多層麺類の製麺性が低下する。
【0015】
該A層及びB層の原料粉は、上述の穀粉類又は澱粉類に加えて、麺類の製造に従来用いられている他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分としては、小麦蛋白質(グルテン)、大豆蛋白質、乳蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材、ならびに、油脂類、かんすい、焼成カルシウム、食物繊維、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン、ミネラル、栄養強化剤、色素、香料、デキストリン(難消化性含む)、膨張剤、増粘剤、乳化剤、保水剤、保存剤、酵素剤、pH調整剤、酸化還元剤などが挙げられる。該A層及びB層の原料粉における該他の成分の含有量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは0~10質量%である。したがって、該A層及びB層の原料粉における穀粉類と澱粉類の合計含有量は、該原料粉の全量中、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0016】
本発明の多層麺類は、上述した組成を有するA層とB層を含む積層構造を作製すること以外は、従来の多層麺類の製造方法と同様の手順で製造することができる。好適には、上述した組成で穀粉類、澱粉類、及び必要に応じて他の成分を含有する該A層及びB層の原料粉のそれぞれに、常法に従って加水し、混捏することにより、A層用生地及びB層用生地を作製する。次いで、得られたA層用生地及びB層用生地をそれぞれ圧延して、各々が上述した組成で穀粉類及び澱粉類を含有するA層用麺帯及びB層用麺帯を得る。該B層用麺帯を該A層用麺帯で両側から挟み込んで、2つのA層用麺帯の間にB層用麺帯が配置された積層構造を有する多層麺帯を作製する。該多層麺帯を圧延し、製麺することにより、2つのA層の間にB層が配置された積層構造を有する多層麺類を製造することができる。圧延と製麺の手段としては、例えば、押出し、ロールによる圧延と切出し等の公知の方法を使用することができるが、特に限定されない。
【0017】
該多層麺類における2つのA層とB層との厚さの比は、好ましくは、A層/B層/A層=2~10:1:2~10、より好ましくは、A層/B層/A層=4~9:1:4~9である。B層が厚くなりすぎると、得られた多層麺類の食感が充分に改良されない。2つのA層の厚みは、互いに異なっていてもよいが、同程度であることが好ましい。該多層麺類におけるA層とB層の厚さの比は、該麺類の製造工程においてA層用麺帯とB層用麺帯の厚さの比を変更することによって、調整することができる。例えば、A層用麺帯と該B層用麺帯との厚さの比を、好ましくは、A層/B層/A層=2~10:1:2~10、より好ましくは、A層/B層/A層=4~9:1:4~9に調整する。各麺帯の厚みは、それぞれ1~15mmが好ましく、またこれらを重ねた多層麺帯の厚みは、5~31.5mmが好ましい。これらを積層し、圧延、製麺することによって、同じA層とB層の厚さ比を有する多層麺類を製造することができる。本発明の多層麺類の厚み(太さ)は、麺類の種類に応じて適宜変更すればよく、例えばうどんの場合、5~30mmが好ましい。
【0018】
本発明の多層麺類は、2つのA層の間にB層を含む三層以上の積層構造を有していればよい。一例において、該多層麺類は、2つのA層と、その間のB層からなる三層麺である。別の例において、該多層麺類は、該A層の一方もしくは両方の外側や、該A層とB層の間にさらに別の層を有する、四層又は五層以上の麺である。好ましくは、該多層麺類は三層麺である。該多層麺類が四層以上の構造を有する場合、上述した多層麺類の製造工程において、別の層用の麺帯を作製し、それを該A層用麺帯の上、又は該A層用麺帯と該B層用麺帯の間に重ねて、多層麺帯を作製する。該多層麺帯を圧延し、製麺することにより、内側にB層、その外側にA層及び別の層を有する多層麺類を製造することができる。
【0019】
以上の手順により製造される本発明の多層麺類は、生麺、半乾燥麺、乾麺、茹麺や蒸麺等のα化麺、冷凍麺、即席麺などの形態にして保存、流通、販売することができる。好ましくは、本発明の多層麺類は、加熱調理された後、冷蔵又は冷蔵保存され、冷蔵又は冷蔵調理済み麺類として提供される。本発明の多層麺類は、冷蔵又は冷蔵保存後にも、食感の粘りと噛み応えが改良された状態を保つことができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0021】
(材料)
小麦粉 中力粉(金すずらん、日清製粉(株))
澱粉 アセチル化タピオカ澱粉(A700、Jオイルミルズ)
グルテン AグルG(グリコ栄養食品)
【0022】
試験1
1)多層麺の製造
A層:表1に示す組成で原料粉に練水を加え、減圧(-0.093MPa)下で混捏して生地を調製した。圧延してA層用麺帯を得た。
B層:表1に示す組成で原料粉に練水を加え、減圧(-0.093MPa)下で混捏して生地を調製した。圧延してB層用麺帯を得た。
2枚のA層用麺帯とB層用麺帯の厚さの合計が20mmとなり、かつそれらの厚さ比が表1の値となるように、各麺帯の厚さを調整した。得られた2枚のA層用麺帯の間にB層用麺帯を配置して積層し、圧延して、表1に示すA層とB層の厚さ比を有する三層麺帯を作製した。得られた麺帯を切り刃(♯9角)で切り出してうどん(三層麺)を製造した(麺厚3mm)。
【0023】
2)評価 得られたうどんを茹で歩留170%となるように茹で、24時間冷蔵(4℃)保存した。冷蔵保存後のうどんの食感を、訓練されたパネラー10人により下記評価基準で官能評価し、その平均点を求めた。結果を表1に示す。
<評価基準>
7点:粘りが非常に強く、柔らかさが目立ち不良である。
6点:粘りが強く、柔らかさがやや目立ちやや不良である。
5点:やや粘りが強いが、噛み応えを感じる。
4点:粘りのバランスが良く、茹でたてのような噛み応えを感じ、非常に良好である。
3点:やや粘りが弱いが、噛み応えを感じる。
2点:粘り、噛み応えが弱く、やや不良である。
1点:粘り、噛み応えが非常に弱く、不良である。
平均点3.5未満又は4.5超:不良
平均点3.5~4.5:良
平均点3.8~4.2:特良
【0024】
【0025】
試験2
表2~4に示す組成の原料粉を用いて、試験1と同様の手順でうどん(三層麺:厚比 A層/B層/A層=4:1:4)を製造し、評価した。結果を表2~4に示す。
【0026】
【0027】
【0028】