(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】制振材、制振材の製造方法、積層体、及び、制振性向上方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20240327BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240327BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20240327BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240327BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20240327BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20240327BHJP
C08F 297/02 20060101ALI20240327BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20240327BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
B32B27/30 B
B32B27/32 C
B32B27/34
B32B15/08 101A
B32B15/085 Z
B32B15/088
C08F297/02
C08L53/02
F16F15/02 Q
(21)【出願番号】P 2020167665
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千田 泰史
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108226(JP,A)
【文献】特開2011-089547(JP,A)
【文献】特開平09-295382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08F 297/02
C08L 53/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振層(AL)と、制振層(AL)に積層された拘束層(BL)とを備えた制振材であって、
制振層(AL)が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-1)と共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-2)とを有するブロック共重合体(A)を含有する熱可塑性樹脂組成物(AC)からなり、
拘束層(BL)が熱可塑性樹脂組成物(BC)からなり、
以下の条件(1)~(3)を満たす、制振材。
(1)熱可塑性樹脂組成物(AC)のガラス転移温度が-40~+30℃である。
(2)熱可塑性樹脂組成物(BC)のガラス転移温度及び融点のうち少なくとも一方が100℃以上である。
(3)制振層(AL)の厚さH(AL)に対する拘束層(BL)の厚さH(BL)の比H(BL)/H(AL)が3~200である。
【請求項2】
ブロック共重合体(A)のガラス転移温度が-40~+30℃である、請求項1に記載の制振材。
【請求項3】
ブロック共重合体(A)における重合体ブロック(A-1)の含有量が22質量%以下である、請求項1又は2に記載の制振材。
【請求項4】
ブロック共重合体(A)の重量平均分子量が30,000~200,000である、請求項1~3のいずれか1項に記載の制振材。
【請求項5】
ブロック共重合体(A)は水素添加物であり、重合体ブロック(A-2)の水素添加率が85モル%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の制振材。
【請求項6】
ブロック共重合体(A)における重合体ブロック(A-2)が下記式(X)で表される1種以上の脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の制振材。
【化1】
(上記式(X)中、R
1~R
3は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基を示し、複数あるR
1~R
3はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項7】
前記脂環式骨格(X)において、前記R
1~R
3のうち少なくとも1つがメチル基である脂環式骨格(X’)を含む、請求項6に記載の制振材。
【請求項8】
前記重合体ブロック(A-2)中に前記脂環式骨格(X)又は(X’)を1モル%以上含有する、請求項6又は7に記載の制振材。
【請求項9】
熱可塑性組成物(AC)の、JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における引張貯蔵弾性率E’(AC)が100MPa以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の制振材。
【請求項10】
熱可塑性組成物(AC)の、JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における損失正接tanδが0.3以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の制振材。
【請求項11】
制振層(AL)の厚さH(AL)が0.3mm以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の制振材。
【請求項12】
熱可塑性樹脂組成物(BC)の、JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における引張貯蔵弾性率E’(BC)が1,000MPa以上である、請求項1~11のいずれか1項に記載の制振材。
【請求項13】
JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における熱可塑性樹脂組成物(BC)の損失弾性率E’’(BC)が10MPa以上である、請求項1~12のいずれか1項に記載の制振材。
【請求項14】
熱可塑性樹脂組成物(BC)がオレフィン系樹脂及びポリアミド樹脂のうち少なくとも一方を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の制振材。
【請求項15】
拘束層(BL)の厚さH(BL)が0.4mm以上である、請求項1~14のいずれか1項に記載の制振材。
【請求項16】
それぞれ、JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における、熱可塑性組成物(AC)の引張貯蔵弾性率E’(AC)及び熱可塑性組成物(BC)の引張貯蔵弾性率E’(BC)が、E’(BC)/E’(AC)≧50の関係を満たす、請求項1~15のいずれか1項に記載の制振材。
【請求項17】
制振層(AL)の厚さH(AL)に対する拘束層(BL)の厚さH(BL)の比H(BL)/H(AL)が8~100である、請求項1~16のいずれか1項に記載の制振材。
【請求項18】
制振層(AL)が拘束層(BL)とともに共押出しされた層である、請求項1~17のいずれか1項に記載の制振材。
【請求項19】
制振層(AL)と拘束層(BL)とを熱融着してなる、請求項1~17のいずれか1項に記載の制振材。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の制振材の製造方法であって、制振層(AL)と拘束層(BL)とを共押出して形成することにより前記制振材を製造する、制振材の製造方法。
【請求項21】
請求項1~19のいずれか1項に記載の制振材の製造方法であって、制振層(AL)と拘束層(BL)をそれぞれ成形した後に積層して熱融着することにより前記制振材を製造する、制振材の製造方法。
【請求項22】
請求項1~19のいずれか1項に記載の制振材と、該制振材に積層された金属板とを含む、積層体。
【請求項23】
請求項1~19のいずれか1項に記載の制振材を金属板に貼付して前記金属板の制振性を高める、制振性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材、制振材の製造方法、積層体、及び、制振性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の制振性を高める方法として、制振性の高いエラストマー材料を貼り付ける方法が知られている。
しかし、制振性エラストマーからなる制振層を鋼板に貼り付けて、いわゆる「非拘束型」の制振鋼板とする場合、高い制振性を発現させるためには、制振層の厚みを少なくとも鋼板の2倍以上にする必要がある。このため、非拘束型の制振鋼板には、十分な制振性を確保しようとすると、厚さの増大、重量の増加、及び、材料価格の上昇等の問題を招きやすいという問題がある。また、制振層が露出した構成であるため、耐熱性を高くしづらいという問題もある。これらのことから、非拘束型の制振鋼板は、適用可能な製品の種類や技術分野が限られている。
一方、制振層の厚みが薄くても鋼板の制振性を高め得る方法として、非拘束型の制振鋼板の制振層側に拘束層を貼り付けた構成とすることによって、いわゆる「拘束型」の制振鋼板とすることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体又はその水素添加物からなる樹脂層を含む拘束型制振鋼板用の制振性フィルムが記載されている。特許文献1には、この制振性フィルムの両面にそれぞれ鋼板を貼付することが記載されている。
【0004】
拘束型の制振鋼板は、制振層が鋼板や拘束層の1/10程度の厚さでも制振性を発現し得るため、制振層の重量増加を抑える観点からは好ましいものである。しかし、拘束層として鋼板を用いると「鋼板/制振層/鋼板」の構成を持つ積層体となり、積層体全体の重量が増大しやすくなる。このため、積層体の製造が難しくなったり、拘束型の制振鋼板が適用される製品の重量が増大しやすくなったりするという問題を生じる。
【0005】
特許文献2には、拘束層と、拘束層に積層された、0℃以上にガラス転移点を有する第1粘弾性層と、第1粘弾性層に積層された、0℃未満にガラス転移点を有する第2粘弾性層とを備える貼着型制振材が記載されている。特許文献2には、この貼着型制振材の第2粘弾性層をステンレス等に貼着して使用すること、及び、拘束層として、ガラスクロス、樹脂含浸ガラスクロス、金属箔、合成樹脂不織布、カーボンファイバー等が挙げられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-238193号公報
【文献】特開2013-18242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載された貼着型制振材は、拘束層として繊維状の素材や金属箔を用いているので、特許文献1に記載された拘束型の制振鋼板に比べると、軽量性の点では有利である。しかしながら、特許文献2に記載されるような材料で拘束層を構成すると、十分な剛性を得ることが難しいため、必要な制振性を確保できない恐れがある。また、ガラスクロスのような特殊な材料を用いると、共押出しや熱融着等によって制振材を製造することが難しくなるという問題がある。
このように、拘束型の制振性積層体を得るための制振材には改善の余地があり、制振性及び軽量性に優れ、かつ、容易に拘束型の積層体を得ることができる新規な制振材が求められている。
【0008】
そこで、本発明の課題は、制振性及び軽量性に優れ、かつ、容易に拘束型の積層体を得ることができる制振材、その製造方法、及び、それを用いた積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロックと共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロックとを有するブロック共重合体(A)を含有する熱可塑性樹脂組成物を制振層として用いるとともに、所定の物性を有する熱可塑性樹脂組成物を拘束層として用い、上記各層の厚さを所定の関係とすることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、下記[1]~[23]に関する。
[1]制振層(AL)と、制振層(AL)に積層された拘束層(BL)とを備えた制振材であって、
制振層(AL)が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-1)と共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-2)とを有するブロック共重合体(A)を含有する熱可塑性樹脂組成物(AC)からなり、
拘束層(BL)が熱可塑性樹脂組成物(BC)からなり、
以下の条件(1)~(3)を満たす、制振材。
(1)熱可塑性樹脂組成物(AC)のガラス転移温度が-40~+30℃である。
(2)熱可塑性樹脂組成物(BC)のガラス転移温度及び融点のうち少なくとも一方が100℃以上である。
(3)制振層(AL)の厚さH(AL)に対する拘束層(BL)の厚さH(BL)の比H(BL)/H(AL)が3~200である。
[2]ブロック共重合体(A)のガラス転移温度が-40~+30℃である、上記[1]に記載の制振材。
[3]ブロック共重合体(A)における重合体ブロック(A-1)の含有量が22質量%以下である、上記[1]又は[2]に記載の制振材。
[4]ブロック共重合体(A)の重量平均分子量が30,000~200,000である、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の制振材。
[5]ブロック共重合体(A)は水素添加物であり、重合体ブロック(A-2)の水素添加率が85モル%以上である、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の制振材。
[6]ブロック共重合体(A)における重合体ブロック(A-2)が下記式(X)で表される1種以上の脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有する、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の制振材。
【化1】
(上記式(X)中、R
1~R
3は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基を示し、複数あるR
1~R
3はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
[7]前記脂環式骨格(X)において、前記R
1~R
3のうち少なくとも1つがメチル基である脂環式骨格(X’)を含む、上記[6]に記載の制振材。
[8]前記重合体ブロック(A-2)中に前記脂環式骨格(X)又は(X’)を1モル%以上含有する、上記[6]又は[7]に記載の制振材。
[9]熱可塑性組成物(AC)の、JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における引張貯蔵弾性率E’(AC)が100MPa以下である、上記[1]~[8]のいずれか一つに記載の制振材。
[10]熱可塑性組成物(AC)の、JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における損失正接tanδが0.3以上である、上記[1]~[9]のいずれか一つに記載の制振材。
[11]制振層(AL)の厚さH(AL)が0.3mm以下である、上記[1]~[10]のいずれか一つに記載の制振材。
[12]熱可塑性樹脂組成物(BC)の、JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における引張貯蔵弾性率E’(BC)が1,000MPa以上である、上記[1]~[11]のいずれか一つに記載の制振材。
[13]JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における熱可塑性樹脂組成物(BC)の損失弾性率E’’(BC)が10MPa以上である、上記[1]~[12]のいずれか一つに記載の制振材。
[14]熱可塑性樹脂組成物(BC)がオレフィン系樹脂及びポリアミド樹脂のうち少なくとも一方を含む、上記[1]~[13]のいずれか一つに記載の制振材。
[15]拘束層(BL)の厚さH(BL)が0.4mm以上である、上記[1]~[14]のいずれか一つに記載の制振材。
[16]それぞれ、JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における、熱可塑性組成物(AC)の引張貯蔵弾性率E’(AC)及び熱可塑性組成物(BC)の引張貯蔵弾性率E’(BC)が、E’(BC)/E’(AC)≧50の関係を満たす、上記[1]~[15]のいずれか一つに記載の制振材。
[17]制振層(AL)の厚さH(AL)に対する拘束層(BL)の厚さH(BL)の比H(BL)/H(AL)が8~100である、上記[1]~[16]のいずれか一つに記載の制振材。
[18]制振層(AL)が拘束層(BL)とともに共押出しされた層である、上記[1]~[17]のいずれか一つに記載の制振材。
[19]制振層(AL)と拘束層(BL)とを熱融着してなる、上記[1]~[17]のいずれか一つに記載の制振材。
[20]上記[1]~[19]のいずれか一つに記載の制振材の製造方法であって、制振層(AL)と拘束層(BL)とを共押出して形成することにより前記制振材を製造する、制振材の製造方法。
[21]上記[1]~[19]のいずれか一つに記載の制振材の製造方法であって、制振層(AL)と拘束層(BL)をそれぞれ成形した後に積層して熱融着することにより前記制振材を製造する、制振材の製造方法。
[22]上記[1]~[19]のいずれか一つに記載の制振材と、該制振材に積層された金属板とを含む、積層体。
[23]上記[1]~[19]のいずれか一つに記載の制振材を金属板に貼付して前記金属板の制振性を高める、制振性向上方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、制振性及び軽量性に優れ、かつ、容易に拘束型の積層体を得ることができる制振材、その製造方法、及び、それを用いた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】制振材及び積層体の一例を示す模式的な断面図である。
【
図2】制振材及び積層体の他の例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本明細書における記載事項を任意に選択した態様又は任意に組み合わせた態様も本発明に含まれる。
本明細書において、好ましいとする規定は任意に選択でき、好ましいとする規定同士の組み合わせはより好ましいといえる。
本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
【0014】
[制振材]
本発明の実施形態に係る制振材は、制振層(AL)と、制振層(AL)に積層された拘束層(BL)とを備えた制振材であって、
制振層(AL)が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-1)と共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-2)とを有するブロック共重合体(A)を含有する熱可塑性樹脂組成物(AC)からなり、
拘束層(BL)が熱可塑性樹脂組成物(BC)からなり、
以下の条件(1)~(3)を満たす。
(1)熱可塑性樹脂組成物(AC)のガラス転移温度が-40~+30℃である。
(2)熱可塑性樹脂組成物(BC)のガラス転移温度及び融点のうち少なくとも一方が100℃以上である。
(3)制振層(AL)の厚さH(AL)に対する拘束層(BL)の厚さH(BL)の比H(BL)/H(AL)が3~200である。
【0015】
条件(1)を満たすことによって、熱可塑性樹脂組成物(AC)が適度な粘弾性特性(例えば、引張貯蔵弾性率や損失正接)を有するため、制振層(AL)が高い制振性を発現する。
また、条件(2)を満たすことによって、熱可塑性樹脂組成物(BC)が概して良好な力学特性(例えば、引張貯蔵弾性率や損失弾性率)を有するため、拘束層(BL)の力学特性が高くなる。
更に、条件(3)を満たすことによって、拘束層(BL)が、制振層(AL)に比べて十分厚くなり、軽量でありながら十分な剛性を有するようになる。
したがって、上記の条件(1)~(3)を満たすことにより、上記制振材を制振性及び軽量性に優れたものとしつつ、当該制振材を鋼板等の金属板に貼付することで、制振性及び軽量性に優れた「金属板/制振層(AL)/拘束層(BL)」の構成を有する拘束型の積層体を容易に作製することができる。
【0016】
図1は、制振材及び積層体の一例を示す模式的な断面図である。また、
図2は、制振材及び積層体の他の例を示す模式的な断面図である。
図1及び
図2に基づいて、制振材及び積層体の具体的な構成の一例を説明する。なお、本発明は、
図1及び
図2に示すものに限定されない。
図1(A)に示す制振材100は、制振層(AL)と、制振層(AL)に積層された拘束層(BL)とを備えている。
制振材100の拘束層(BL)とは反対側の面(つまり、制振層(AL))を、対象物である鋼板等の金属板に貼付することで、「金属板/制振層(AL)/拘束層(BL)」の構成を有する拘束型の積層体を得ることができる。
拘束層(BL)が熱可塑性樹脂組成物(BC)からなるものであるため、軽量な制振材とすることができる。また、制振材が軽量であることにより、「鋼板/制振層/鋼板」の構成を有する拘束型の制振鋼板を製造するのに比べて、積層体の製造が容易になる。
【0017】
図1(B)に示す積層体200は、
図1(A)に示した制振材100と、金属板10とを含む。
積層体200は、上述したように、制振材100の拘束層(BL)とは反対側の面(つまり、制振層(AL))を金属板10に貼付することによって得られる。
積層体200は、「金属板/制振層(AL)/拘束層(BL)」という拘束型の構造を有しているため、高い制振性を備えている。加えて、拘束層(BL)が熱可塑性樹脂組成物(BC)からなるものであることにより、「鋼板/制振層/鋼板」の構成を持つ制振鋼板に比べて、積層体を軽量なものとすることができる。
【0018】
本発明の実施形態に係る制振材は、拘束層(BL)と制振層(AL)とが繰り返し積層された構造を有するものであってもよい。
図2(A)に示す制振材101は、第1の拘束層(BL1)、第1の制振層(AL1)、第2の拘束層(BL2)、第2の制振層(AL2)、及び、第3の拘束層が、この順に積層された構造を備えている。
制振材101の第1の拘束層(BL1)又は第3の拘束層(BL3)を、対象物である鋼板等の金属板に貼付することで、「金属板/拘束層(BL1)/制振層(AL1)/拘束層(BL2)/制振層(AL2)/拘束層(BL3)」の構成を有する拘束型の積層体を得ることができる。
最も外側に位置する第1の拘束層(BL1)及び第3の拘束層(BL3)のうち一方が省略された構成を有していてもよい。この場合、最も外側に位置する第1の制振層(AL1)又は第3制振層(AL3)を金属板10に貼付すればよい。
制振材が、拘束層(BL)と制振層(AL)とが、3回以上繰り返して積層された構成を有していてもよい。
制振材を、拘束層(BL)と制振層(AL)とが繰り返し積層された構造とすることにより、制振材の制振性や機械的強度を高めたり、積層する繰り返し数を変えることで制振材の制振性や機械的強度を調整したりすることができる。
【0019】
図2(B)に示す積層体201は、
図2(A)に示した制振材101と、金属板10とを含む。
積層体201は、制振材101の第1の拘束層(BL1)を金属板10に貼付することによって得られる。上述したように、第3の拘束層(BL3)を金属板10に貼付するようにしてもよい。
積層体201は、拘束層(BL)と制振層(AL)とが繰り返し積層された構造を有するため、制振性をより高めやすくなる。また、拘束層(BL)が熱可塑性樹脂組成物(BC)からなるものであり、拘束層(BL)と制振層(AL)からなる繰り返し単位を軽量にすることができるため、積層体の重量増大を抑制しつつ、制振性を高められる。
【0020】
なお、制振材には保護層が設けられていてもよい。具体的には、
図1の制振材100の制振層(AL)の表面及び拘束層(BL)のうち少なくとも一方の表面、
図2の制振材101の拘束層(BL1)及び拘束層(BL3)のうち少なくとも一方の表面に保護層が設けられていてもよい。上記保護層を設けることにより、金属板に貼付される前の制振材の制振層(AL)や拘束層(BL)を外部環境や外部の物体から保護することができる。上記保護層のうち、金属板に貼付される側の面に位置する保護層は、金属板への貼付前に剥離して除去すればよい。また、上記保護層のうち、金属板に貼付される側の面に位置する保護層は、金属板への貼付前、貼付時、貼付後のいずれかのタイミングで剥離して除去すればよい。
以下、制振材及び積層体を構成する各層について具体的に説明する。
【0021】
<制振層(AL)>
制振層(AL)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-1)と共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-2)とを有するブロック共重合体(A)を含有する熱可塑性樹脂組成物(AC)からなる。
制振層(AL)は、制振材を金属板に貼付し得られる拘束型の積層体において、制振性を付与する働きを有する層である。また、制振層(AL)は、拘束層(BL)とは異なる材質であって、少なくとも拘束層(BL)に比べて高い制振性を有する材質からなる層である。
【0022】
制振層(AL)を構成する熱可塑性樹脂組成物(AC)は、ブロック共重合体(A)単独からなるものでもよいし、ブロック共重合体(A)と他の樹脂成分のみからなるものでもよいし、これらの樹脂成分に加えて各種の添加剤を含むものでもよい。熱可塑性樹脂組成物(AC)に含まれ得る樹脂成分以外の成分については後述する。
【0023】
制振層(AL)の厚さH(AL)は、積層体の力学物性の観点から、好ましくは0.3mm以下、より好ましくは0.25mm以下、更に好ましくは0.15mm以下であり、また、十分な制振性を確保する観点から、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.02mm以上、更に好ましくは0.03mm以上である。換言すれば、制振層(AL)の厚さH(AL)は、積層体の制振性と力学物性の両立の観点から、好ましくは0.01~0.3mmである。
【0024】
制振層(AL)は、後述するように、拘束層(BL)とともに共押出しされた層とすることができる。
また、後述するように、制振層(AL)と拘束層(BL)とが熱融着してなるものとすることもできる。
【0025】
(熱可塑性樹脂組成物(AC))
制振層(AL)を構成する熱可塑性樹脂組成物(AC)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-1)と共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-2)とを有するブロック共重合体(A)を含有する。
熱可塑性樹脂組成物(AC)は、熱可塑性樹脂組成物(BC)とは異なる種類の組成物であり、少なくとも熱可塑性樹脂組成物(BC)に比べて高い制振性を有する。熱可塑性樹脂組成物(AC)は、ブロック共重合体(A)単体からなるものであってもよいし、ブロック共重合体(A)以外の樹脂成分を含むものであってもよい。ブロック共重合体(A)以外の樹脂成分については後述する。
上記の条件(1)で規定するように、熱可塑性樹脂組成物(AC)のガラス転移温度Tgは-40~+30℃である。
熱可塑性樹脂組成物(AC)のTgが上記範囲にあることで、熱可塑性樹脂組成物(AC)が適度な粘弾性特性(例えば、引張貯蔵弾性率や損失正接)を有するようになる。このため、制振層(AL)が高い制振性を発現する。
熱可塑性樹脂組成物(AC)のTgは、適度な粘弾性特性を確保しやすくする観点から、好ましくは-35~+25℃、より好ましくは-30~+20℃、更に好ましくは-20~+15℃である。また、高温での制振性向上の観点からは、好ましくは-10~+30℃、より好ましくは-5~+30℃、更に好ましくは0~+30℃である。
熱可塑性樹脂組成物(AC)のガラス転移温度は、例えば、熱可塑性樹脂組成物(AC)に含まれるブロック共重合体(A)における重合体ブロック(A-2)の共役ジエンのビニル結合量を適切な値に制御することにより、上記範囲とすることができる。
なお、本明細書において、熱可塑性樹脂組成物(AC)のTgは、示差走査熱量計(DSC)を用いて作成されるDSC曲線において、ベースラインのシフトが生じた温度をTgとしており、具体的には、実施例に記載の方法によって測定される。熱可塑性樹脂組成物(AC)が後述する添加剤のうち不融性のものを含む場合も、上記方法によって測定される温度を熱可塑性樹脂組成物(AC)のTgとしている。
【0026】
熱可塑性樹脂組成物(AC)の、JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における引張貯蔵弾性率E’(AC)は、制振性確保の観点から、好ましくは800MPa以下、より好ましくは300MPa以下、更に好ましくは100MPa以下、特に好ましくは50MPa以下であり、また、積層体の力学物性向上の観点から、好ましくは1MPa以上、より好ましくは3MPa以上、更に好ましくは5MPa以上である。換言すれば、熱可塑性樹脂組成物(AC)の上記引張貯蔵弾性率E’(AC)は、好ましくは1~800MPaである。
熱可塑性樹脂組成物(AC)の上記引張貯蔵弾性率E’は、例えば、熱可塑性樹脂組成物(AC)に含まれるブロック共重合体(A)における重合体ブロック(A-1)の含有量を適切な値に制御することにより、上記範囲とすることができる。
【0027】
熱可塑性組成物(AC)の、JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における損失正接tanδは、制振性確保の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上、特に好ましくは0.4以上であり、また、力学物性と制振性の両立の観点から、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2.0以下である。換言すれば、熱可塑性樹脂組成物(AC)の上記tanδは、好ましくは0.1~3.0である。
【0028】
熱可塑性樹脂組成物(AC)の上記引張貯蔵弾性率E’及びtanδは、例えば、熱可塑性樹脂組成物(AC)のTgを上述した範囲のものとすることにより、上記範囲とすることができる。
【0029】
次に、熱可塑性樹脂組成物(AC)に含まれるブロック共重合体(A)の構成要素、ブロック共重合体(A)の物性、ブロック共重合体(A)の製造方法等について詳述する。
【0030】
(ブロック共重合体(A))
ブロック共重合体(A)は、重合体ブロック(A-1)と重合体ブロック(A-2)とを有するブロック共重合体であり、好ましくはブロック共重合体の水素添加物である。本明細書において、ブロック共重合体の水素添加物を「水添ブロック共重合体」とも称することがある。
熱可塑性樹脂組成物(AC)に含まれるブロック共重合体(A)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-1)と、共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-2)とを有する。
【0031】
ブロック共重合体(A)又はその水素添加物のTgは、適度な粘弾性特性を発現させやすくする観点から、好ましくは-40~+30℃、より好ましくは-35~+25℃、更に好ましくは-30~+20℃、より更に好ましくは-20~+15℃である。また、高温での制振性向上の観点からは、好ましくは-10~+30℃、より好ましくは-5~+30℃、更に好ましくは0~+30℃である。
ブロック共重合体(A)又はその水素添加物のTgは、例えば、ブロック共重合体(A)における重合体ブロック(A-2)の共役ジエンのビニル結合量を適切な値に制御することにより、上記範囲とすることができる。
【0032】
(重合体ブロック(A-1))
重合体ブロック(A-1)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位(以下、「芳香族ビニル化合物単位」と略称することがある)を含有し、機械物性の観点から、好ましくは70モル%超、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは85モル%以上、より更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上であり、実質的に100モル%であってもよい。
【0033】
上記芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチル-o-メチルスチレン、α-メチル-m-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、β-メチル-o-メチルスチレン、β-メチル-m-メチルスチレン、β-メチル-p-メチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチル-2,6-ジメチルスチレン、α-メチル-2,4-ジメチルスチレン、β-メチル-2,6-ジメチルスチレン、β-メチル-2,4-ジメチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、α-クロロ-o-クロロスチレン、α-クロロ-m-クロロスチレン、α-クロロ-p-クロロスチレン、β-クロロ-o-クロロスチレン、β-クロロ-m-クロロスチレン、β-クロロ-p-クロロスチレン、2,4,6-トリクロロスチレン、α-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、α-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、o-ブロモメチルスチレン、m-ブロモメチルスチレン、p-ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレンなどが挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。中でも、製造コストと物性バランスの観点から、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、及びこれらの混合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0034】
但し、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、重合体ブロック(A-1)は芳香族ビニル化合物以外の他の不飽和単量体に由来する構造単位(以下、「他の不飽和単量体単位」と略称することがある)を30モル%未満の割合で含有していてもよい。該他の不飽和単量体としては、例えばブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、イソブチレン、メタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、N-ビニルカルバゾール、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフランなどからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。重合体ブロック(A-1)が該他の不飽和単量体単位を含有する場合の結合形態は特に制限はなく、ランダム、テーパー状のいずれでもよい。
重合体ブロック(A-1)における前記他の不飽和単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは0モル%である。
【0035】
ブロック共重合体(A)は、上記重合体ブロック(A-1)を少なくとも1つ有していればよい。ブロック共重合体(A)が重合体ブロック(A-1)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(A-1)は、同一であっても異なっていてもよい。なお、本明細書において「重合体ブロックが異なる」とは、重合体ブロックを構成するモノマー単位、重量平均分子量、立体規則性、及び複数のモノマー単位を有する場合には各モノマー単位の比率及び共重合の形態(ランダム、グラジェント、ブロック)のうち少なくとも1つが異なることを意味する。
ブロック共重合体(A)は、重合体ブロック(A-1)を2つ有していることが好ましい。
【0036】
重合体ブロック(A-1)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、ブロック共重合体(A)が有する前記重合体ブロック(A-1)のうち、少なくとも1つの重合体ブロック(A-1)の重量平均分子量が、好ましくは3,000~60,000、より好ましくは4,000~50,000である。ブロック共重合体(A)が、上記範囲内の重量平均分子量である重合体ブロック(A-1)を少なくとも1つ有することにより、機械強度がより向上し、フィルム成形性にも優れる。
【0037】
なお、本明細書及び特許請求の範囲に記載の「重量平均分子量」は全て、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量であり、詳細な測定方法は実施例に記載の方法に従うことができる。ブロック共重合体(A)が有する各重合体ブロックの重量平均分子量は、製造工程において各重合体ブロックの重合が終了する都度、サンプリングした液を測定することで求めることができる。また、例えば、2種類の重合体ブロック(A-1)を「A1」「A2」、1種類の重合体ブロック(A-2)を「B」で表したときに、A1-B-A2の構造を有するトリブロック共重合体の場合は、重合体ブロック「A1」及び重合体ブロック「B」の重量平均分子量を上記方法により求め、ブロック共重合体の重量平均分子量からそれらを引き算することにより、重合体ブロック「A2」の重量平均分子量を求めることができる。また、他の方法として、上記A1-B-A2構造を有するトリブロック共重合体の場合は、重合体ブロック「A1」及び「A2」の合計の重量平均分子量は、ブロック共重合体の重量平均分子量と1H-NMR測定で確認する重合体ブロック「A1」及び「A2」の合計含有量から算出し、GPC測定によって、失活した最初の重合体ブロック「A1」の重量平均分子量を算出し、これを引き算することによって重合体ブロック「A2」の重量平均分子量を求めることもできる。
【0038】
ブロック共重合体(A)における重合体ブロック(A-1)の含有量(複数の重合体ブロック(A-1)を有する場合はそれらの合計含有量)は、制振性の観点から、好ましくは22質量%以下、より好ましくは18質量%以下、更に好ましくは15質量%以下であり、また、力学物性の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上である。換言すれば、ブロック共重合体(A)における重合体ブロック(A-1)の含有量は、好ましくは3~22質量%である。
なお、ブロック共重合体(A)における重合体ブロック(A-1)の含有量は、1H-NMR測定により求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0039】
(重合体ブロック(A-2))
重合体ブロック(A-2)は、共役ジエン化合物に由来する構造単位(以下、「共役ジエン化合物単位」と略称することがある)を含有する。制振性及び熱安定性の観点から、重合体ブロック(A-2)の共役ジエン化合物単位の含有量は、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは65モル%以上、より更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、最も好ましくは実質的に100モル%含有する。
なお、上記「共役ジエン化合物単位」は、共役ジエン化合物1種に由来する構造単位であっても、共役ジエン化合物2種以上に由来する構造単位であってもよい。
【0040】
上記共役ジエン化合物は、優れた制振性及び熱安定性を両立する観点から、好ましくはイソプレン、又は、イソプレン及びブタジエンを含有する。また共役ジエン化合物として、後述するとおりイソプレン及びブタジエン以外の共役ジエン化合物を含有してもよい。一方で、優れた制振性及び熱安定性を発現しやすくする観点から、共役ジエン化合物におけるイソプレンの含有量が、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上、より更に好ましくは55質量%以上、より更に好ましくは75質量%以上、特に好ましくは100質量%、すなわち共役ジエン化合物としてイソプレンを用いることが特に好ましい。
【0041】
また、共役ジエン化合物がブタジエンとイソプレンの混合物である場合、それらの混合比率[イソプレン/ブタジエン](質量比)は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に制限はないが、好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、更に好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~65/35である。なお、該混合比率[イソプレン/ブタジエン]をモル比で示すと、好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、更に好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~55/45である。
【0042】
共役ジエン化合物としては、上記イソプレン及びブタジエン以外に、ヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、ミルセン等を挙げることができる。共役ジエン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0043】
また、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、重合体ブロック(A-2)は共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位を含有してもよい。この場合、重合体ブロック(A-2)において、共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは70モル%未満、より好ましくは50モル%未満、更に好ましくは35モル%未満、特に好ましくは20モル%未満である。共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量の下限値に特に制限はないが、0モル%であってもよいし、5モル%であってもよいし、10モル%であってもよい。
【0044】
該他の重合性の単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、ビニルナフタレン及びビニルアントラセン等の芳香族ビニル化合物、並びにメタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、N-ビニルカルバゾール、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1,3-シクロヘプタジエン、1,3-シクロオクタジエン等からなる群から選択される少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられる。なかでも、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。
【0045】
またブロック共重合体(A)は、重合体ブロック(A-2)を少なくとも1つ有していればよい。ブロック共重合体(A)が重合体ブロック(A-2)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(A-2)は、同一であっても異なっていてもよい。重合体ブロック(A-2)が、2種以上の構造単位を有している場合は、それらの結合形態はランダム、テーパー、完全交互、一部ブロック状、ブロック、又はそれらの2種以上の組み合わせからなっていてもよい。
【0046】
本発明の目的及び効果を損なわない限りにおいて、共役ジエン化合物の結合形態に特に制限はない。例えば、重合体ブロック(A-2)を構成する構成単位が、イソプレン単位、イソプレン及びブタジエンの混合物単位のいずれかである場合、イソプレン及びブタジエンそれぞれの結合形態としては、ブタジエンの場合には1,2-結合、1,4-結合、イソプレンの場合には1,2-結合、3,4-結合、1,4-結合のビニル結合をとることができる。これらの結合形態の1種のみが存在していても、2種以上が存在していてもよい。
【0047】
重合体ブロック(A-2)は、共役ジエン化合物に由来する構造単位であって、下記式(X)で表される1種以上の脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有していてもよい。
【化2】
(上記式(X)中、R
1~R
3は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基を示し、複数あるR
1~R
3はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
上記炭化水素基の炭素数は、好ましくは炭素数1~5であり、より好ましくは1~3であり、更に好ましくは1(すなわち、メチル基)である。
また、上記炭化水素基は、直鎖又は分岐鎖であってもよく、飽和又は不飽和炭化水素基であってもよい。物性及び脂環式骨格(X)形成の観点から、R
1~R
3は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であることが特に好ましい。
【0048】
制振性向上の観点から、脂環式骨格(X)において、前記R1~R3のうち少なくとも1つがメチル基である脂環式骨格(X’)を含んでいてもよい。
【0049】
制振性向上の観点から、重合体ブロック(A-2)中における前記脂環式骨格(X)又は(X’)の含有量は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは1.1モル%以上、更に好ましくは1.4モル%以上、より更に好ましくは1.8モル%以上、より更に好ましくは4モル%以上、より更に好ましくは10モル%以上、特に好ましくは13モル%以上である。また、重合ブロック(A-2)中の脂環式骨格(X)又は(X’)の含有量の上限は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に制限はないが、生産性の観点から、40モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であってもよく、20モル%以下であってもよく、18モル%以下であってもよい。換言すれば、重合体ブロック(A-2)中における脂環式骨格(X)又は(X’)の含有量は、好ましくは1~40モル%である。
【0050】
脂環式骨格(X)は、後述するように、共役ジエン化合物のアニオン重合で生成し、用いる共役ジエン化合物に応じて少なくとも1種の脂環式骨格(X)が脂環式骨格含有単位の主鎖に導入される。脂環式骨格(X)が、重合体ブロック(A-2)に含まれる構造単位の主鎖に組み込まれていることにより、分子運動が小さくなるためガラス転移温度が上がり、室温付近でのtanδのピークトップ強度が高くなり、優れた制振性を発現させやすくなる。
【0051】
具体例として、共役ジエン化合物としてブタジエン、イソプレン、又はブタジエンとイソプレンとの併用を使用する場合の、主に生成する脂環式骨格(X)について説明する。
共役ジエン化合物としてブタジエンを単独で使用した場合、下記(i)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格(X)が生成される。すなわちこの場合、脂環式骨格(X)はR1~R3が同時に水素原子である脂環式骨格のみとなる。したがって、重合体ブロック(A-2)が、R1~R3が同時に水素原子である1種の脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有する、ブロック共重合体又はその水素添加物を得ることができる。
また、共役ジエン化合物としてイソプレンを単独で使用する場合、下記(v)及び(vi)の置換基の組み合わせを有する2種の脂環式骨格(X)が主に生成される。
また、共役ジエン化合物としてブタジエンとイソプレンとを併用する場合、下記(i)~(vi)の置換基の組み合わせを有する6種の脂環式骨格(X)が主に生成される。
(i) :R1=水素原子、R2=水素原子、R3=水素原子
(ii) :R1=水素原子、R2=メチル基、R3=水素原子
(iii) :R1=水素原子、R2=水素原子、R3=メチル基
(iv) :R1=メチル基、R2=水素原子、R3=水素原子
(v) :R1=メチル基、R2=メチル基、R3=水素原子
(vi) :R1=メチル基、R2=水素原子、R3=メチル基
【0052】
特にR1~R3が、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、かつR1~R3が同時に水素原子でない脂環式骨格であることがより好ましい。すなわち、重合体ブロック(A-2)は、上記(ii)~(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格のうち、いずれか1種以上を主鎖に含む構成単位を有することがより好ましい。
【0053】
なお、ブロック共重合体(A)を水素添加した場合、上記式(X)におけるビニル基は水素添加されて水素添加体となり得る。そのため、水素添加物における脂環式骨格(X)の意味するところには、上記式(X)におけるビニル基が水素添加された骨格も含まれる。
また、ブロック共重合体(A)又はその水添添加物に含まれる上記脂環式骨格(X)含有量は、ブロック共重合体(A)の13C-NMR測定により、重合体ブロック(A-2)中の脂環式骨格(X)由来の積分値から求めた値である。
【0054】
(重合体ブロック(A-2)のビニル結合量)
重合体ブロック(A-2)を構成する構成単位が、イソプレン単位、イソプレン及びブタジエンの混合物単位のいずれかである場合、イソプレン及びブタジエンそれぞれの結合形態としては、ブタジエンの場合には1,2-結合、1,4-結合を、イソプレンの場合には1,2-結合、3,4-結合、1,4-結合をとることができる。
ブロック共重合体(A)においては、重合体ブロック(A-2)中の3,4-結合単位及び1,2-結合単位の含有量(つまりビニル結合量)の合計が、制振性の観点から、好ましくは35モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上、より更に好ましくは60モル%以上である。また、特に制限されるものではないが、重合体ブロック(A-2)中のビニル結合量の上限値は、95モル%であってもよいし、92モル%であってもよいし、90モル%であってもよい。換言すれば、重合体ブロック(A-2)中のビニル結合量は、好ましくは35~95モル%である。ここで、ビニル結合量は、実施例に記載の方法に従って、1H-NMR測定によって算出した値である。
【0055】
ブロック共重合体(A)が有する重合体ブロック(A-2)の合計の重量平均分子量は、制振性などの観点から、水素添加前の状態で、好ましくは15,000~800,000であり、より好ましくは20,000~400,000であり、さらに好ましくは20,000~300,000、特に好ましくは30,000~300,000、最も好ましくは40,000~300,000である。
【0056】
重合体ブロック(A-2)は、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、上記共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。この場合、重合体ブロック(A-2)において、上記共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは70モル%以下、より好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは35モル%以下、特に好ましくは20モル%以下である。共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量の下限値に特に制限はないが、0モル%であってもよいし、5モル%であってもよいし、10モル%であってもよい。
該他の重合性の単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、ビニルナフタレン及びビニルアントラセンなどの芳香族ビニル化合物、並びにメタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、N-ビニルカルバゾール、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1,3-シクロヘプタジエン、1,3-シクロオクタジエンなどからなる群から選択される少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられる。中でも、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。
重合体ブロック(A-2)が、共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位を含有する場合、その結合形態は特に制限はなく、ランダム、テーパー状のいずれでもよいが、ランダムが好ましい。
【0057】
ブロック共重合体(A)は、上記重合体ブロック(A-2)を少なくとも1つ有していればよい。ブロック共重合体(A)が重合体ブロック(A-2)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(A-2)は、同一であっても異なっていてもよい。
ブロック共重合体(A)は、上記重合体ブロック(A-2)を1つだけ有することが好ましい。
【0058】
なお、上記熱可塑性樹脂組成物(AC)に含まれるブロック共重合体(A)においては、重合体ブロック(A-2)が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含まないことが望ましい。重合体ブロック(A-2)に芳香族ビニル化合物に由来する構造単位が含まれていると、制振性が低下する場合がある。
【0059】
(重合体ブロック(A-1)と重合体ブロック(A-2)の結合様式)
ブロック共重合体(A)は、重合体ブロック(A-1)と重合体ブロック(A-2)とが結合している限りは、その結合形式は限定されず、直鎖状、分岐状、放射状、又はこれらの2つ以上が組合わさった結合様式のいずれでもよい。中でも、重合体ブロック(A-1)と重合体ブロック(A-2)の結合形式は直鎖状であることが好ましく、その例としては重合体ブロック(A-1)を「A」で、また重合体ブロック(A-2)を「B」で表したときに、A-Bで示されるジブロック共重合体、A-B-A又はB-A-Bで示されるトリブロック共重合体、A-B-A-Bで示されるテトラブロック共重合体、A-B-A-B-A又はB-A-B-A-Bで示されるペンタブロック共重合体、(A-B)nX型共重合体(Xはカップリング剤残基を表し、nは3以上の整数を表す)などを挙げることができる。中でも、直鎖状のトリブロック共重合体、又はジブロック共重合体が好ましく、A-B-A型のトリブロック共重合体が、柔軟性、製造の容易性などの観点から好ましく用いられる。
ここで、本明細書においては、同種の重合体ブロックが二官能のカップリング剤などを介して直線状に結合している場合、結合している重合体ブロック全体は一つの重合体ブロックとして取り扱われる。これに従い、上記例示も含め、本来、厳密にはY-X-Y(Xはカップリング残基を表す)と表記されるべき重合体ブロックは、特に単独の重合体ブロックYと区別する必要がある場合を除き、全体としてYと表示される。本明細書においては、カップリング剤残基を含むこの種の重合体ブロックを上記のように取り扱うので、例えば、カップリング剤残基を含み、厳密にはA-B-X-B-A(Xはカップリング剤残基を表す)と表記されるべきブロック共重合体はA-B-Aと表記され、トリブロック共重合体の一例として取り扱われる。
【0060】
ブロック共重合体(A)は好ましくは水素添加物である。また、重合体ブロック(A-2)の水素添加率は、好ましくは85モル%以上である。つまり、重合体ブロック(A-2)が有する炭素-炭素二重結合の85モル%以上が水素添加されていることが好ましい。
重合体ブロック(A-2)の水素添加率が高いと、幅広い温度における制振性、耐熱性及び耐候性に優れる。同様の観点から、重合体ブロック(A-2)の水素添加率は、より好ましくは87モル%以上、より好ましくは88モル%以上、更に好ましくは89モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。なお、該値を水素添加率(水添率)と称することがある。水素添加率の上限値に特に制限はないが、上限値は99モル%であってもよく、98モル%であってもよい。換言すれば、ブロック共重合体(A-2)の水素添加率は、好ましくは85~99モル%である。
なお、上記の水素添加率は、重合体ブロック(A-2)中の共役ジエン化合物由来の構造単位中の炭素-炭素二重結合の含有量を、水素添加後の1H-NMR測定によって求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0061】
(ブロック共重合体(A)の重量平均分子量(Mw))
ブロック共重合体(A)又はその水素添加物のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算で求めた重量平均分子量(Mw)は、耐熱性及び成形性の観点から、好ましくは20,000~500,000、より好ましくは25,000~400,000、更に好ましくは28,000~350,000、特に好ましくは29,000~300,000、最も好ましくは30,000~200,000である。
ブロック共重合体(A)又はその水素添加物の重量平均分子量は、例えば、重合開始剤に対するモノマー量を調整することにより、上記範囲とすることができる。
【0062】
ブロック共重合体(A)は、本発明の目的及び効果を損なわない限り、分子鎖中及び/又は分子末端に、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基などの官能基を、1種又は2種以上を有していてもよく、また官能基を有さないものであってもよい。
【0063】
ブロック共重合体(A)又はその水素添加物の、JIS K 7244-4(1999年)に準じて測定されたtanδのピークトップ温度は、-50℃以上であれば、実使用環境下において十分な制振性を得ることができ、また、+50℃以下であれば、制振材として必要な柔軟性を確保しやすい。
また、ブロック共重合体(A)又はその水素添加物の、JIS K 7244-4(1999年)に準じて測定されたtanδのピークトップ強度は、数値が大きいほど、その温度における制振性等の物性に優れることを示し、1.0以上であれば、実使用環境下において十分な制振性を得ることができる。上記tanδのピークトップ強度は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.9以上である。
なお、tanδのピークトップ強度とは、tanδのピークが最大となるときのtanδの値のことである。また、tanδのピークトップ温度とは、tanδのピークが最大となるときの温度のことである。ブロック共重合体(A)又はその水素添加物の上記tanδのピークトップ温度及びtanδのピークトップ強度は、具体的には実施例に記載された方法で測定される。これらの値を上記範囲とするためには、例えば、重合体ブロック(A-2)を構成するためのモノマーとして、イソプレンの比率を調整することが挙げられる。
【0064】
(他の樹脂成分)
制振層(AL)を構成する熱可塑性樹脂組成物(AC)に含まれ得るブロック共重合体(A)以外の樹脂成分としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリカーボネート、ゴム材料及びエラストマー材料が挙げられる。これらのうちいずれか1種又は2種以上を含有する樹脂組成物とすることができる。
また、熱可塑性樹脂組成物(AC)には、ブロック共重合体(A)以外の樹脂成分として、本発明の効果が損なわれない範囲において、水添クマロン・インデン樹脂、水添ロジン系樹脂、水添テルペン樹脂、脂環族系水添石油樹脂などの水添系樹脂;オレフィン及びジオレフィン重合体からなる脂肪族系樹脂などの粘着付与樹脂;水添ポリイソプレン、水添ポリブタジエン、ブチルゴム、ポリイソブチレン、ポリブテンなどの他の重合体がふくまれていてもよい。
熱可塑性樹脂組成物(AC)が、ブロック共重合体(A)以外の樹脂成分を含有する場合、特に制限されるわけではないが、該組成物におけるブロック共重合体(A)以外の樹脂成分の含有量は50質量%以下とすることが好ましい。そして、この場合、該組成物におけるブロック共重合体(A)の含有量は、制振性の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上である。
【0065】
(添加剤)
制振層(AL)を構成する熱可塑性樹脂組成物(AC)に含まれ得る樹脂成分以外の成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、遮熱材料、アンチブロッキング剤、顔料、染料、軟化剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、充填剤等の添加剤が挙げられるが、特にこれらに制限されるものではない。これらは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤などの他、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、マロン酸エステル化合物、シュウ酸アニリド化合物なども使用できる。
光安定剤としては、例えばヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられる。
遮熱材料としては、例えば、樹脂又はガラスに熱線遮蔽機能を有する熱線遮蔽粒子、熱線遮蔽機能を有する有機色素化合物を含有させた材料などが挙げられる。熱線遮蔽機能を有する粒子としては、例えば、錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、アルミニウムドープ酸化亜鉛、錫ドープ酸化亜鉛、珪素ドープ酸化亜鉛などの酸化物の粒子、LaB6(六ホウ化ランタン)粒子などの熱線遮蔽機能を有する無機材料の粒子などが挙げられる。また、熱線遮蔽機能を有する有機色素化合物としては、例えば、ジイモニウム系色素、アミニウム系色素、フタロシアニン系色素、アントラキノン系色素、ポリメチン系色素、ベンゼンジチオール型アンモニウム系化合物、チオ尿素誘導体、チオール金属錯体などが挙げられる。
アンチブロッキング剤としては、無機粒子、有機粒子が挙げられる。無機粒子としては、IA族、IIA族、IVA族、VIA族、VIIA族、VIIIA族、IB族、IIB族、IIIB族、IVB族元素の酸化物、水酸化物、硫化物、窒素化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、燐酸塩、亜燐酸塩、有機カルボン酸塩、珪酸塩、チタン酸塩、硼酸塩及びそれらの含水化合物、並びにそれらを中心とする複合化合物及び天然鉱物粒子が挙げられる。有機粒子としては、フッ素樹脂、メラミン系樹脂、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、アクリル系レジンシリコーン及びそれらの架橋体が挙げられる。
顔料としては、有機系顔料、無機系顔料が挙げられる。有機系顔料としては、例えば、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、フタロシアニン系顔料などが挙げられる。無機系顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、カーボンブラック、鉛系顔料、カドミウム系顔料、コバルト系顔料、鉄系顔料、クロム系顔料、群青、紺青などが挙げられる。
染料としては、例えば、アゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、ペリレン系、ジオキサジン系、アンスラキノ系、インドリノン系、イソインドリノ系、キノンイミン系、トリフェニルメタン系、チアゾール系、ニトロ系、ニトロソ系などの染料が挙げられる。
軟化剤としては、例えばパラフィン系、ナフテン系、芳香族系などの炭化水素系油;落花生油、ロジンなどの植物油;リン酸エステル;低分子量ポリエチレングリコール;流動パラフィン;低分子量ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合オリゴマー、液状ポリブテン、液状ポリイソプレン又はその水素添加物、液状ポリブタジエン又はその水素添加物、などの炭化水素系合成油などの公知の軟化剤を用いることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0067】
架橋剤としては、例えばラジカル発生剤、硫黄及び硫黄化合物などが挙げられる。
ラジカル発生剤としては、例えば、ジクミルペルオキシド、ジt-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシドなどのジアルキルモノペルオキシド;2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、ビス(t-ブチルジオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレートなどのジペルオキシド;ベンゾイルペルオキシド、p-クロロベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド;t-ブチルペルオキシベンゾエートなどのモノアシルアルキルペルオキシド;t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネートなどの過炭酸;ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシドなどの有機過酸化物が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジクミルペルオキシドが反応性の観点から好ましい。
硫黄化合物としては、例えば、一塩化硫黄、二塩化硫黄などが挙げられる。
架橋剤としては、その他に、アルキルフェノール樹脂、臭素化アルキルフェノール樹脂などのフェノール系樹脂;p-キノンジオキシムと二酸化鉛、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシムと四酸化三鉛の組み合わせなども使用することができる。
【0068】
架橋助剤としては、公知の架橋助剤を使用することができ、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸トリアリルエステル、トリアリルイソシアヌレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、グリセロールジメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピルメタクリレートなどの多官能性単量体;塩化第一錫、塩化第二鉄、有機スルホン酸、ポリクロロプレン、クロロスルホン化ポリエチレンなどが挙げられる。架橋助剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0069】
架橋促進剤としては、例えば、N,N-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾール-スルフェンアミド、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(4-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなどのチアゾール類;ジフェニルグアニジン、トリフェニルグアニジンなどのグアニジン類;ブチルアルデヒド-アニリン反応物、ヘキサメチレンテトラミン-アセトアルデヒド反応物などのアルデヒド-アミン系反応物又はアルデヒド-アンモニア系反応物;2-メルカプトイミダゾリンなどのイミダゾリン類;チオカルバニリド、ジエチルウレア、ジブチルチオウレア、トリメチルチオウレア、ジオルソトリルチオウレアなどのチオウレア類;ジベンゾチアジルジスルフィド;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどのチウラムモノスルフィド類又はチウラムポリスルフィド類;ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、ジエチルジチオカルバミン酸テルルなどのチオカルバミン酸塩類;ジブチルキサントゲン酸亜鉛などのキサントゲン酸塩類;亜鉛華などが挙げられる。架橋促進剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0070】
充填剤としては、例えば、タルク、クレー、マイカ、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラス中空球、ガラス繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ホウ酸亜鉛、ドーソナイト、ポリリン酸アンモニウム、カルシウムアルミネート、ハイドロタルサイト、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化アンチモン、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、活性炭、炭素中空球、チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、炭化ケイ素、雲母等の無機フィラー、木粉、でんぷん等の有機フィラー、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ等の導電性フィラー、銀粉末、銅粉末、ニッケル粉末、錫粉末、銅繊維、ステンレス鋼繊維、アルミニウム繊維、鉄繊維等の金属フィラー等が挙げられる。
【0071】
制振層(AL)に含まれる上記添加剤の含有量に特に制限はなく、当該添加剤の種類等に応じて適宜調整することができる。制振層(AL)が上記添加剤を含有する場合、上記添加剤の含有量は制振層(AL)の全質量に対して、例えば50質量%以下、45質量%以下、30質量%以下であってもよく、また、0.01質量%以上、0.1質量%以上、1質量%以上であってもよい。
【0072】
(ブロック共重合体(A)の製造方法)
ブロック共重合体(A)は、例えば、溶液重合法、乳化重合法又は固相重合法などにより製造することができる。中でも溶液重合法が好ましく、例えば、アニオン重合、カチオン重合などのイオン重合法、ラジカル重合法などの公知の方法を適用できる。中でも、アニオン重合法が好ましい。アニオン重合法では、溶媒、アニオン重合開始剤、及び必要に応じてルイス塩基の存在下、芳香族ビニル化合物と、共役ジエン化合物及びイソブチレンからなる群から選択される少なくとも1種を逐次添加して、ブロック共重合体(A)を得、必要に応じてカップリング剤を添加して反応させる。さらに、ブロック共重合体(A)を水素添加することにより、水添ブロック共重合体を得ることができる。
【0073】
ブロック共重合体(A)の製造方法として、例えば、1種以上の共役ジエン化合物をモノマーとしてアニオン重合法により重合させることにより、上述した脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有する重合体ブロック(A-2)を形成し、重合体ブロック(A-1)のモノマーを添加し、また必要に応じてさらに重合体ブロック(A-1)のモノマー及び共役ジエン化合物を逐次添加することにより、脂環式骨格(X)を含むブロック共重合体(A)を得ることができる。
上記アニオン重合法により脂環式骨格を生成させる方法は公知の技術を用いることができる(例えば、米国特許第3966691号明細書参照)。脂環式骨格はモノマーの枯渇によってポリマーの末端に形成され、これにさらにモノマーを逐次添加することで該脂環式骨格から再び重合を開始させることができる。そのため、モノマーの逐次添加時間、重合温度、あるいは触媒の種類や添加量、モノマーと触媒との組合せ等により、該脂環式骨格の生成の有無やその含有量を調整することができる。また、アニオン重合法では、アニオン重合開始剤、溶媒、及び必要に応じてルイス塩基を用いることができる。
【0074】
上記方法においてアニオン重合の重合開始剤として使用し得る有機リチウム化合物としては、例えばメチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウムなどが挙げられる。また、重合開始剤として使用し得るジリチウム化合物としては、例えばナフタレンジリチウム、ジリチオヘキシルベンゼンなどが挙げられる。
上記カップリング剤としては、例えばジクロロメタン、ジブロモメタン、ジクロロエタン、ジブロモエタン、ジブロモベンゼン、安息香酸フェニルなどが挙げられる。
これらの重合開始剤及びカップリング剤の使用量は、目的とするブロック共重合体(A)の所望とする重量平均分子量により適宜決定される。通常は、アルキルリチウム化合物、ジリチウム化合物などの開始剤は、重合に用いる芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物などの単量体の合計100質量部あたり0.01~0.2質量部の割合で用いられるのが好ましく、カップリング剤を使用する場合は、上記単量体の合計100質量部あたり0.001~0.8質量部の割合で用いられるのが好ましい。
【0075】
溶媒としては、アニオン重合反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ペンタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。また、重合反応は、通常0~100℃、好ましくは10~70℃の温度で、0.5~50時間、好ましくは1~30時間行う。
【0076】
また、重合の際に共触媒(ビニル化剤)としてルイス塩基を添加することにより、重合体ブロック(A-2)の3,4-結合及び1,2-結合の含有量(ビニル結合量)や上記脂環式骨格(X)の含有量を高めることができる。
当該ルイス塩基としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン(DTHFP)等のエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、N-メチルモルホリン等のアミン類;ナトリウムt-ブチレート、ナトリムt-アミレート又はナトリウムイソペンチレート等の脂肪族アルコールのナトリウム又はカリウム塩、あるいは、ジアルキルナトリウムシクロヘキサノレート、例えば、ナトリウムメントレートのような脂環式アルコールのナトリウム又はカリウム塩等の金属塩;等が挙げられる。
上記ルイス塩基のなかでも、制振性と熱安定性の観点から、テトラヒドロフラン及びDTHFPを用いることが好ましい。また、高いビニル結合量とすることができ、過剰量の水添触媒を用いずとも高い水素添加率を達成しやすく、より優れた制振性と熱安定性の両立を実現し得ることからDTHFPを用いることがより好ましい。
これらのルイス塩基は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
ルイス塩基の添加量は、重合体ブロック(A-2)が、特にイソプレン及び/又はブタジエンに由来する構造単位を含む場合には、重合体ブロック(A-2)を構成するイソプレン単位及び/又はブタジエン単位のビニル結合量をどの程度に制御するかにより決定される。そのため、ルイス塩基の添加量に厳密な意味での制限はないが、重合開始剤として用いられるアルキルリチウム化合物又はジリチウム化合物に含有されるリチウム1グラム原子当たり、通常0.1~1,000モル、好ましくは1~100モルの範囲内で用いるのが好ましい。
上記した方法により重合を行なった後、アルコール類、カルボン酸類、水等の活性水素化合物を添加して重合反応を停止させることにより、ブロック共重合体(A)を得ることができる。
【0078】
上記した方法により重合を行った後、アルコール類、カルボン酸類、水などの活性水素化合物を添加して重合反応を停止させる。その後、不活性有機溶媒中で水添触媒の存在下に水素添加反応(水添反応)を行うことで、水素添加された共重合体を得ることができる。水素添加反応は、水素圧力を0.1~20MPa、好ましくは0.5~15MPa、より好ましくは0.5~5MPa、反応温度を20~250℃、好ましくは50~180℃、より好ましくは70~180℃、反応時間を通常0.1~100時間、好ましくは1~50時間として実施することができる。
水添触媒としては、上記芳香族ビニル化合物の核水添を抑制しながら重合体ブロック(A-2)の水素添加反応を行うという観点から、例えば、ラネーニッケル;遷移金属化合物とアルキルアルミニウム化合物、アルキルリチウム化合物などとの組み合わせからなるチーグラー系触媒;メタロセン系触媒などが挙げられる。前記同様の観点から、中でも、チーグラー系触媒が好ましく、遷移金属化合物とアルキルアルミニウム化合物との組み合わせからなるチーグラー系触媒がより好ましく、ニッケル化合物とアルキルアルミニウム化合物との組み合わせからなるチーグラー系触媒(Al/Ni系チーグラー触媒)がさらに好ましい。
【0079】
このようにして得られた水添ブロック共重合体は、重合反応液をメタノールなどに注ぐことにより凝固させた後、加熱又は減圧乾燥させるか、重合反応液をスチームとともに熱水中に注ぎ、溶媒を共沸させて除去するいわゆるスチームストリッピングを施した後、加熱又は減圧乾燥することにより取得することができる。
【0080】
(熱可塑性樹脂組成物(AC)の製造方法)
熱可塑性脂組成物(AC)として、ブロック共重合体(A)又はその水素添加物を単独で使用する場合は、上述した製造方法によって得られたブロック共重合体(A)又はその水素添加物をそのまま熱可塑性樹脂組成物(AC)として使用することができる。
熱可塑性脂組成物(AC)として、ブロック共重合体(A)又はその水素添加物とブロック共重合体(A)以外の樹脂成分とを含むものを得る場合、製造方法に特に制限はなく、公知の方法を採用できる。例えば、ブロック共重合体(A)又はその水素添加物と他の樹脂成分とを、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、コニカルブレンダーなどの混合機を用いて混合することによって製造するか、又はその混合後、一軸押出機、二軸押出機、ニーダーなどにより溶融混練することによって製造することができる。
熱可塑性脂組成物(AC)として、ブロック共重合体(A)又はその水素添加物に添加物を含むものを用いる場合や、ブロック共重合体(A)又はその水素添加物とブロック共重合体(A)以外の樹脂成分と添加物とを含む場合も、これらの成分を上述した混合機で混合したり、混合後に上述した装置で溶融混練したりすることで熱可塑性脂組成物(AC)を製造することができる。
【0081】
<拘束層(BL)>
拘束層(BL)は、制振材を金属板に貼付し得られる拘束型の積層体において、積層体に適度な剛性を付与するとともに、制振層による制振性の発現を補助する働きを有する層である。また、拘束層(BL)は、制振層(AL)とは異なる材質であって、少なくとも制振層(AL)に比べて高い引張貯蔵弾性率を有する材質からなる層である。
本発明の実施形態に係る拘束層(BL)は、熱可塑性樹脂組成物(BC)からなる。拘束層(BL)が熱可塑性樹脂組成物(BC)からなるものであるため、「鋼板/制振層/鋼板」の構成を有する制振鋼板に用いられる制振材に比べて、制振材の重量を軽くすることができる。
拘束層(BL)を構成する熱可塑性樹脂組成物(BC)は、樹脂成分のみからなるものでもよいし、樹脂成分以外の各種の添加剤を含むものでもよい。熱可塑性樹脂組成物(BC)に含まれ得る樹脂成分以外の成分については後述する。
【0082】
上記の条件(3)で規定するように、拘束層(BL)は、制振層(AL)の厚さH(AL)に対する拘束層(BL)の厚さH(BL)の比H(BL)/H(AL)が3~200となる厚さを有する。拘束層(BL)の厚さH(BL)が制振層(AL)の厚さH(AL)に対して上記関係にあると、拘束層(BL)が制振層(AL)に比べて十分厚くなり、制振材が軽量でありながら十分な剛性を有するようになる。
上記H(BL)/H(AL)は、成形性の観点から、好ましくは5~150であり、更に制振性の観点から、より好ましくは8~100、更に好ましくは10~60、より更に好ましくは13~40である。
【0083】
なお、制振材が、制振層(AL)と拘束層(BL)とが繰り返し積層される構成を有する場合、上記H(BL)/H(AL)における、H(BL)は複数の拘束層(BL)の合計の厚さであり、H(AL)は複数の制振層(AL)の合計の厚さである。例えば、
図2(A)に示す制振材101の場合、H(AL)は、第1の制振層の厚さH(AL1)と第2の制振層の厚さH(AL2)の合計、つまり、H(AL)=H(AL1)+H(AL2)である。また、H(BL)は、第1の拘束層の厚さH(BL1)と第2の拘束層の厚さH(BL2)と第3の拘束層の厚さH(BL3)の合計、つまり、H(BL)=H(BL1)+H(BL2)+H(BL3)である。
厚さH(AL)とH(BL)は、例えば、制振層(AL)と拘束層(BL)を成形する際の成形条件(例えば、押出成形における押出成形機からの吐出量)を制御することにより、上述した厚さH(AL)や後述する厚さH(BL)に調整することができ、また、それによって、上記の関係とすることができる。
【0084】
拘束層(BL)の厚さH(BL)は、機械的強度の確保及び制振性等の観点から、好ましくは0.4mm以上、好ましくは0.6mm以上、好ましくは0.8mm以上であり、制振材の重量や厚さが過度に大きくならないようにする等の観点から、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下、更に好ましくは3mm以下である。換言すれば、拘束層(BL)の厚さH(BL)は、機械的強度の確保及び制振性等の観点から、好ましくは0.4~5mmである。
【0085】
拘束層(BL)は、制振材の構成を簡素なものとし、また、制振材の製造を容易にする観点から、制振層(AL)とともに共押出しされた層とすることができる。
拘束層(BL)が制振層(AL)とともに共押出しされた層であれば、必要最小限の層で制振層が拘束層に密着固定された制振材を構成することができ、制振材の構成を簡素なものとすることができる。また、制振層を拘束層に固定するために他の層を設ける必要がなく、制振材を容易かつ迅速に製造することができる。加えて、制振材の構成が簡素であることにより、制振材に意図した制振性能を発揮させやすい。
【0086】
拘束層(BL)を、制振層(AL)に熱融着してなるものとすることもできる。
拘束層(BL)が制振層(AL)に熱融着していれば、上述した共押出しの場合と同様に、制振材の構成を簡素化することができ、意図した制振性能を発揮させやすくなる。また、接着層等を設ける必要がなく、制振材を容易に製造することができる。
【0087】
(熱可塑性樹脂組成物(BC))
熱可塑性樹脂組成物(BC)は、拘束層(BL)に高い力学特性を与え得る材料である。熱可塑性樹脂組成物(BC)は、熱可塑性樹脂組成物(AC)とは異なる種類の組成物であり、少なくとも熱可塑性樹脂組成物(AC)に比べて高い引張貯蔵弾性率を有する。熱可塑性樹脂組成物(BC)は、単一の樹脂からなるものであってもよいし、特定の複数種類の樹脂を含むものであってもよい。
上記の条件(2)で規定するように、熱可塑性樹脂組成物(BC)のガラス転移温度Tg及び融点Tmのうち少なくとも一方が100℃以上である。
熱可塑性樹脂組成物(BC)のTg又はTmが、上記範囲であることにより、熱可塑性樹脂組成物(BC)が概して良好な力学特性(例えば、引張貯蔵弾性率や損失弾性率)を有するようになる。このため、拘束層(BL)の力学特性を高くすることができる。
熱可塑性樹脂組成物(BC)のガラス転移温度及び融点のうち少なくとも一方は、力学強度の観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは140℃以上であり、また、成形性の観点から、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下、更に好ましくは280℃以下である。換言すれば、熱可塑性樹脂組成物(BC)のガラス転移温度及び融点のうち少なくとも一方は、力学強度及び成形性の観点から、好ましくは100~350℃である。
なお、本明細書において、熱可塑性樹脂組成物(BC)のTg及びTmは、示差走査熱量計(DSC)を用いて作成されるDSC曲線において、ベースラインのシフトが生じた温度をTg、吸熱ピークが認められた温度をTmとしており、具体的には、実施例に記載の方法によって測定される。熱可塑性樹脂組成物(BC)が後述する添加剤のうち不融性のものを含む場合も、上記方法によって測定される温度を熱可塑性樹脂組成物(BC)のTg及びTmとしている。
【0088】
熱可塑性樹脂組成物(BC)の、JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における引張貯蔵弾性率E’(BC)は、積層体の制振性の観点から、好ましくは1,000MPa以上、より好ましくは1,500MPa以上、更に好ましくは2,000MPa以上であり、また、加工性の観点から、好ましくは100,000MPa以下、より好ましくは50,000MPa以下、更に好ましくは30,000MPa以下である。換言すれば、上記引張貯蔵弾性率E’(BC)は、積層体の制振性及び加工性の観点から、好ましくは1,000~100,000MPaである。
【0089】
JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における熱可塑性樹脂組成物(BC)の損失弾性率E’’(BC)は、積層体の制振性の観点から、好ましくは10MPa以上、より好ましくは30MPa以上、更に好ましくは50MPa以上であり、また、力学物性の観点から、好ましくは10,000MPa以下、より好ましくは5,000MPa以下、更に好ましくは1,000MPa以下である。換言すれば、上記損失弾性率E’’(BC)は、制振性と力学物性の両立の観点から、好ましくは10~10,000MPaである。
【0090】
それぞれ、JIS K7244-4(1999年)に準じて、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で引張振動による動的粘弾性試験を行うことで測定される20℃における、熱可塑性組成物(AC)の引張貯蔵弾性率E’(AC)及び熱可塑性組成物(BC)の引張貯蔵弾性率E’(BC)が、積層体の制振性の観点から、好ましくはE’(BC)/E’(AC)≧50、より好ましくはE’(BC)/E’(AC)≧100、更に好ましくはE’(BC)/E’(AC)≧120の関係を満たし、また、積層体の成形性の観点から、好ましくはE’(BC)/E’(AC)≦100,000、より好ましくはE’(BC)/E’(AC)≦10,000、更に好ましくはE’(BC)/E’(AC)≦10,000の関係を満たす。換言すれば、上記引張貯蔵弾性率E’(BC)は、積層体の制振性と成形性の観点から、好ましくは100,000≧E’(BC)/E’(AC)≧50の関係を満たす。
【0091】
熱可塑性樹脂組成物(BC)は、成形性および制振層(AL)との接着性の観点から、好ましくはオレフィン系樹脂及びポリアミド樹脂のうち少なくとも一方を含み、より好ましくはオレフィン系樹脂を含む。
【0092】
上記オレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、エチレン酢酸ビニル共重合体、及び、これらのうち複数種類を組み合わせた樹脂が挙げられる。
上記ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、エチレン等のα-オレフィンとのブロック共重合体であるブロックポリプロピレン、エチレン等のα-オレフィンとのランダム共重合体であるランダムポリプロピレン等が挙げられる。
上記ポリエチレンとしては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン等が挙げられる。
上記ポリメチルペンテンとしては、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体や、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位及び炭素原子数2~20のα-オレフィン(但し、4-メチル-1-ペンテンを除く。)から導かれる構成単位を有する共重合体等が挙げられる。
上記エチレン酢酸ビニル共重合体としては、酢酸をコモノマーとしてエチレンと共重合した樹脂であれば特に限定されず、種々の酢酸ビニル基含有率(VA含有率)のものを用いることができる。
また、α-オレフィンの単独重合体又は共重合体、プロピレン及び/又はエチレンとα-オレフィンとの共重合体 等もポリオレフィン系樹脂(B)として使用できる。
上記α-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどの炭素数20以下のα-オレフィンが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0093】
上記ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド6・10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6・12、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンジアミンイソフタルアミド、キシレン基含有ポリアミドなどが挙げられる。
【0094】
(添加剤)
拘束層(BL)に含まれ得る熱可塑性樹脂成分(BC)以外の樹脂材料としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、遮熱材料、アンチブロッキング剤、顔料、染料、軟化剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤等の添加剤が挙げられるが、特にこれらに制限されるものではない。これらは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの添加剤としては、上述した制振層(AL)で説明したものと同様のものを使用することができる。
【0095】
また、拘束層(BL)には、充填剤、補強材、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤、撥水剤、防水剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、電磁波シールド性付与剤、蛍光剤、防菌剤等の添加剤が含まれていてもよい。
充填剤としては、上述した制振層(AL)で説明したものと同様のものを使用することができる。
ガラス繊維強化樹脂等の、樹脂に添加剤が配合された市販の樹脂材料を熱可塑性樹脂組成物(BC)として用いることもできる。
【0096】
(熱可塑性樹脂組成物(BC)の製造方法)
熱可塑性脂組成物(BC)の製造方法に特に制限はなく、公知の方法を採用できる。例えば、Tg及びTmのうち少なくとも一方が100℃以上の樹脂を単独で、あるいは、特定の複数種類を、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、コニカルブレンダーなどの混合機を用いて混合することによって製造するか、又はその混合後、一軸押出機、二軸押出機、ニーダーなどにより溶融混練することによって製造することができる。
熱可塑性脂組成物(BC)として、樹脂と添加物を含むものを用いる場合は、これらの成分を上述した混合機で混合したり、混合後に上述した装置で溶融混練したりすることで熱可塑性脂組成物(BC)を製造することができる。
【0097】
<制振材の製造方法>
上記制振材は、制振材の製造を容易にするとともに、制振材の構成を簡素なものとする観点から、好ましくは、制振層(AL)と拘束層(BL)とを共押出して形成することにより製造する。
具体的には、熱可塑性樹脂組成物(AC)と、熱可塑性樹脂組成物(BC)とを、それぞれ溶融し、更に必要に応じて添加剤等の他の成分をそれぞれ添加して、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、コニカルブレンダー等の混合機を用いて混合することによって製造するか、又はその混合後、一軸押出機、二軸押出機、ニーダーなどにより溶融混練した上で、射出成型機から層状に共押出しして、ローラー対で押圧することにより、制振材を作製することができる。
【0098】
制振材の製造方法の他の態様においては、制振層(AL)と拘束層(BL)をそれぞれ成形した後に積層して熱融着することにより、制振材を製造する。
具体的には、熱可塑性樹脂組成物(AC)と、熱可塑性樹脂組成物(BC)とをそれぞれシート状に成形した後、両者を重ねて熱ローラー対で押圧する等の方法により、両者のうち少なくとも一方を熱溶融して他方に熱融着することにより、制振材を作製することができる。
【0099】
[積層体]
本発明の実施形態に係る積層体は、上記制振材と、当該制振材に積層された金属板とを含む。
上記制振材が、
図1(A)に示すように、制振層(AL)と拘束層(BL)とが積層された構造を一つだけ含むものである場合、得られる積層体は、
図1(B)に示すように、上記制振材と、当該制振材の拘束層(BL)とは反対側の面に積層された金属板とを含む。
上記制振材が、
図2(A)に示すように、制振層(AL)と拘束層(BL)とが複数繰り返し積層された構造を有するものであって、上面及び下面に拘束層(BL)が位置するものである場合、得られる積層体は、
図2(B)に示すように、上記制振材と、当該制振材の拘束層(BL)に積層された金属板とを含む。
上記制振材が、制振層(AL)と拘束層(BL)とが複数繰り返し積層された構造を有するものであり、上面又は下面に制振層(AL)が位置するものである場合、得られる積層体は、上記制振材と、当該制振材の制振層(AL)に積層された金属板とを含む。
【0100】
上記金属板としては、ステンレス鋼板、冷延鋼板、合金化亜鉛メッキ鋼板、SECC(ボンデ鋼板)等が挙げられる。
【0101】
図2(B)に示す積層体201のように、制振材の上面又は下面に位置する拘束層(BL)が金属板に貼付された積層体においては、当該拘束層(BL)と金属板との間に両者を密着させる中間層を設けることが好ましい。
上記中間層としては、例えば、上記拘束層(BL)を金属層に貼付する前に、上記拘束層(BL)及び金属層のうち少なくとも一方に、粘着材料や接着材料を塗布するなどして形成した粘着層や接着層が挙げられる。また、接着補助層やスキン層が形成された金属板を用いることにより、当該補助層やスキン層を中間層としてもよい。
上記中間層としては、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。中間層には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の接着力調整剤や、可塑剤が含まれていてもよい。
【0102】
[制振性向上方法]
本発明の実施形態に係る制振性向上方法は、上記制振材を金属板に貼付して、上記金属板の制振性を高める制振性向上方法である。
ここで、制振材が、
図1(A)に示すように、制振層(AL)と拘束層(BL)とが積層された構造を一つだけ含むものである場合、上記制振性向上方法においては、上記制振材の拘束層(BL)とは反対側の面(つまり、制振層(AL))を金属板に貼付する。
制振材を金属板に貼付する際には、上記制振材の制振層(AL)が金属板の表面に接するように、上記制振材を金属板上に載置し、熱ローラーを含むローラー対で押圧する等の方法により、上記制振材を金属板に貼付することができる。
このようにして金属板に制振材を貼付すると、「拘束層(BL)/制振層(AL)/金属板」の構成を有する積層体となり、金属板の制振性を向上することができる。拘束層(BL)が熱可塑性樹脂組成物(BC)からなるものであるため、積層体全体の重量が大きくなることを抑制することができる。制振材と金属板とが直接熱圧着されているので、構成が簡素であり、得られる積層体に意図した制振性を付与しやすい。
また、制振材と金属板とを熱圧着する方法に比べると、積層体を構成する層の数が増加するが、粘着層や接着層を介して制振材を金属板に貼付する方法を採用することもできる。
なお、制振層(AL)と拘束層(BL)とが複数繰り返し積層された構造を有しており、制振材の上面又は下面に制振層(AL)が位置するものである場合も、当該制振層(AL)を金属板の表面に接するように載置して、上述したのと同様の手順で制振材を金属板に貼付することができる。
【0103】
上記制振材が、
図2(A)に示すように、制振層(AL)と拘束層(BL)とが複数繰り返し積層された構造を有するものであって、上面及び下面に拘束層(BL)が位置するものである場合は、当該拘束層(BL)と金属板のうち少なくとも一方に、両者を密着させるため中間層を設ける。予め、接着補助層やスキン層が形成された金属板を準備しておき、その金属板を用いるようにしてもよい。
その上で、上記制振材の拘束層(BL)を金属板の表面に対向させ、上記中間層を介して両者を重ね、必要に応じて加熱しながら、ローラー対で押圧する等の方法により、上記制振材を金属板に貼付することができる。
【実施例】
【0104】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0105】
[製造例1]
<ブロック共重合体(A)の水素添加物TPE-1の製造>
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、モレキュラーシーブスA4にて乾燥したシクロヘキサン(溶媒)50kg、アニオン重合開始剤として濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液0.101kg(sec-ブチルリチウムの実質的な添加量:10.6g)を仕込んだ。
耐圧容器内を50℃に昇温した後、スチレン(1)1.7kgを加えて30分間重合させた後、40℃に降温し、テトラヒドロフラン(THF)0.29kgを加えてから、イソプレン13.3kgを5時間かけて加え、1時間重合させた。その後、50℃に昇温し、スチレン(2)1.7kgを加えて30分間重合させ、メタノールを投入して反応を停止し、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレンのトリブロック共重合体を含む反応液を得た。
該反応液に、オクチル酸ニッケル及びトリメチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下で添加し、水素圧力1MPa、80℃の条件で5時間反応させた。該反応液を放冷及び放圧させた後、水洗により上記触媒を除去し、真空乾燥させることにより、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレンのトリブロック共重合体の水素添加物(TPE-1)を得た。
【0106】
[製造例2~5]
<ブロック共重合体(A)の水素添加物TPE-2~5の製造>
原料及びその使用量を表1に示すものとした以外は、製造例1と同様の手順で、水添ブロック共重合体TPE-2~TPE-5を製造した。
【0107】
【0108】
<水添ブロック共重合体の物性>
水添ブロック共重合体TPE-1~TPE-5について、以下の測定方法に従って各物性を測定した。その結果を表2に示す。
【0109】
(重合体ブロック(A-1)の含有量)
水添ブロック共重合体をCDCl3に溶解して1H-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行い、スチレンに由来するピーク強度から重合体ブロック(A-1)の含有量を算出した。
【0110】
(重合体ブロック(A-2)のビニル結合量)
水添前のブロック共重合体をCDCl3に溶解して1H-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行った。イソプレン及び/又はブタジエン由来の構造単位の全ピーク面積に対する、イソプレン構造単位における3,4-結合単位及び1,2-結合単位並びにブタジエン構造単位における1,2-結合単位に対応するピーク面積の比から、ビニル結合量(3,4-結合単位と1,2-結合単位の含有量の合計)を算出した。
【0111】
(重合体ブロック(A-2)の水素添加率)
水添ブロック共重合体をCDCl3に溶解して1H-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行い、イソプレン又はブタジエンの残存オレフィン由来のピーク面積と、エチレン、プロピレン及びブチレン由来のピーク面積比から水素添加率を算出した。
【0112】
(重量平均分子量(Mw))
下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により、ブロック共重合体、及び、水添ブロック共重合体のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
<<GPC測定装置及び測定条件>>
・装置 :GPC装置「HLC-8020」(東ソー株式会社製)
・分離カラム :東ソ-株式会社製の「TSKgel G4000HX」2本を直列に連結した。
・溶離液 :テトラヒドロフラン
・溶離液流量 :0.7mL/min
・サンプル濃度:5mg/10mL
・カラム温度 :40℃
・検出器:示差屈折率(RI)検出器
・検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
【0113】
(損失正接(tanδ)のピークトップ温度及びピークトップ強度)
JIS K 7244-4(1999年)に従って、測定を行った。具体的には、得られた水添ブロック共重合体を、230℃で3分間プレス処理して、縦50mm×横30mm×厚み1mmのシートを作製した。このシートを長さ30mm×幅5mm×厚1mmに切り抜いてサンプルとし、NETZSCH社製DMA242を用いて、測定温度-80℃~100℃、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で、測定することにより損失正接(tanδ)のピークトップ温度及びピークトップ強度を測定した。
【0114】
【0115】
[実施例1~10、比較例1~3]
<制振材の製造とその物性測定>
上記水添ブロック共重合体TPE-1TPE-5を、制振層(AL)を形成するための熱可塑性樹脂組成物(AC)として用いた。また、ポリプロピレン(PP)(株式会社プライムポリマー製「E-200GP」)、ガラス繊維強化ポリプロピレン(GFPP)(株式会社プライムポリマー製「R-300G」)、ガラス繊維強化6ナイロン(GFPA6)(BASF社製「B3EG6」)を、拘束層(BL)を形成するための熱可塑性樹脂組成物(BC)として用いた。
そして、実施例1においては、制振層(AL)用の熱可塑性樹脂組成物(AC)を、スクリューの直径50mmのベント式単軸押出機を用いて、吐出量2kg/時の条件でTダイ(マルチマニホールドタイプ:幅500mm)に導入し、拘束層(BL)用の熱可塑性樹脂組成物(BC)を、スクリューの直径65mmのベント式単軸押出機を用いて、吐出量80kg/時の条件で該Tダイに導入した。
該Tダイから共押出しされた成形物を、一方を50℃、他方を60℃とした2つの金属鏡面ロールによってニップし、制振層(AL)/拘束層(BL)(厚さ50μm/2000μm)という2層構成の制振材(合計厚さ2,050μm)を作製した。
上記ベント式単軸押出機の吐出量を表3に記載のように変更した以外は実施例1と同様の手順で、実施例2~10及び比較例3の制振材を作製した。なお、比較例1、2は、拘束層(BL)を設けなかった。
【0116】
(ガラス転移温度及び融点)
熱可塑性樹脂組成物(AC)のTg、及び、熱可塑性樹脂組成物(BC)のTgとTmは、ティー・エイ・インスツルメント社製DSC250を用いて、-100℃から350℃まで10℃/minで昇温することにより測定し、DSC曲線のベースラインのシフト位置(具体的には、比熱変化が出る前と出た後のベースラインの中間点の線とDSC曲線との交点)をTgとし、吸熱ピークのピーク温度をTmとした。
【0117】
(損失正接(tanδ)、引張貯蔵弾性率E’、損失弾性率E’’)
制振層(AL)用の上記水添ブロック共重合体、及び、拘束層(BL)用の各熱可塑性樹脂組成物を、プレス成形装置により、温度230℃、圧力10MPaで3分間加圧することで、厚さ1mmのシートを作製し、該シートを30mm×5mmの大きさに切り出したものを試験片とした。
JIS K7244-4(1999年)に準じて、動的粘弾性装置「DMA242」(NETZSCH社製)を使用し、-80℃から100℃まで、3℃/分で昇温しながら、歪み量0.2%、周波数10Hzの条件で、引張モードで動的粘弾性試験を行うことにより、20℃における、tanδ、引張貯蔵弾性率E’、及び、損失弾性率E’’を測定した。
【0118】
<積層体の製造とその物性測定>
長さ200mm×幅10mm×厚さ0.8mmのSECC(ボンデ鋼板)と、上記で作製したシート状の制振材とを、東亞合成株式会社製アロンアルファEXTRAを用いて制振層(AL)が鋼板側になるように接着することで、「拘束層(BL)/制振層(AL)/接着層/鋼板」の構成を有する積層体を得た。但し、比較例1、2については、「制振層(AL)/接着層/鋼板」の構成を有する非拘束型の積層体とした。上記接着層の厚みは0.05mmである。
【0119】
(積層体の損失係数)
上記で作製した積層体の中央部にα-シアノアクリレートを主成分とする接着剤を用いてコンタクトチップを接着することでサンプルとし、損失係数計測システム(ブリュエルケアー社製 加振器4809型;インピーダンスヘッド8001型;チャージコンバータ2647A型)にセットした。具体的には、上記装置の加振器のインピーダンスヘッドに内蔵された加振力検出器の先端部に、サンプルの中央部の鋼板側を固定した。そして、周波数0~8,000Hzの範囲で、サンプルの中央部に振動を与えることにより、中央加振法による、測定用サンプルのダンピング試験を行い、上記中央部における加振力と加速度波形を表す加速度信号とを検出した。各サンプルについて、温度20℃で測定を行った。
得られた加振力と、加速度信号を積分して得られた速度信号に基づいて、加振点(振動を加えた積層体の中央部)の機械インピーダンスを求めた。そして、横軸を周波数、縦軸を上記機械インピーダンスとして得られるインピーダンス曲線を作成し、低周波数側から数えて二つ目のピーク(2nd mode)の半値全幅から、積層体の20℃での損失係数を求めた。
測定結果を以下の表3に示す。
【0120】
【0121】
表3から明らかなように、実施例1~10の積層体は、拘束層(BL)を有していない比較例1、2の積層体に比べて、20℃における損失係数の値が大きく、制振性に優れていることが判る。
また、実施例1~10の積層体は、比較例3の積層体、つまり、Tgが-40℃より低く、かつ、20℃におけるtanδが0.3未満である水添ブロック共重合体を制振層(AL)として用いる積層体に比べても、20℃における損失係数の値が大きく、制振性に優れていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の制振材及び積層体は、自動車用筐体、自動車に搭載される各種部品やそのハウジング等に用いることができる。また、家電分野におけるテレビ、ブルーレイレコーダーやHDDレコーダーなどの各種レコーダー類、プロジェクター、ゲーム機、デジタルカメラ、ホームビデオ、アンテナ、スピーカー、電子辞書、ICレコーダー、FAX、コピー機、電話機、ドアホン、炊飯器、電子レンジ、オーブンレンジ、冷蔵庫、食器洗い機、食器乾燥機、IHクッキングヒーター、ホットプレート、掃除機、洗濯機、充電器、ミシン、アイロン、乾燥機、電動自転車、空気清浄機、浄水器、電動歯ブラシ、照明器具、エアコン、エアコンの室外機、除湿機、加湿機などの各種電気製品等に用いることができる。
【符号の説明】
【0123】
AL、AL1、AL2:制振層
BL、BL1、BL2、BL3:拘束層
10:金属板
100、101:制振材
200、201:積層体