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特許7461300化合物、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び、電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】化合物、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び、電子機器
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/91 20060101AFI20240327BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20240327BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240327BHJP
【FI】
C07D307/91 CSP
H05B33/22 D
H05B33/14 A
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2020557867
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2019046861
(87)【国際公開番号】W WO2020111251
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2018225423
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019069354
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕勝
(72)【発明者】
【氏名】羽毛田 匡
(72)【発明者】
【氏名】工藤 裕
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑典
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/164239(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/059099(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/178544(WO,A2)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0061077(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0041607(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0112962(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
H10K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】

[式(1)において、
Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。
Ar~Arは、それぞれ独立に、水素原子;置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を示す。Ar~Arのそれぞれは、互いに結合して環を形成せず、R~R20とも互いに結合して環を形成しない。
~Rは、それぞれ独立に、水素原子;ニトロ基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基;置換もしくは無置換の環形成炭素数3~30のシクロアルキル基;置換もしくは無置換の炭素数7~36のアラルキル基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルコキシ基;置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリールオキシ基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基及び置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基から選ばれる置換基を有するモノ、ジ又はトリ置換シリル基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のハロアルキル基;及び無置換の環形成炭素数6~30のアリール基から選択される。
~R 12 は、それぞれ独立に、水素原子;シアノ基;ニトロ基;ハロゲン原子;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基;置換もしくは無置換の環形成炭素数3~30のシクロアルキル基;置換もしくは無置換の炭素数7~36のアラルキル基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルコキシ基;置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリールオキシ基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基及び置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基から選ばれる置換基を有するモノ、ジ又はトリ置換シリル基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のハロアルキル基;及び置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基から選択される。
13~R20は、それぞれ独立に、水素原子;シアノ基;ニトロ基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基;置換もしくは無置換の環形成炭素数3~30のシクロアルキル基;置換もしくは無置換の炭素数7~36のアラルキル基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルコキシ基;置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリールオキシ基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基及び置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基から選ばれる置換基を有するモノ、ジ又はトリ置換シリル基;及び置換もしくは無置換の炭素数1~30のハロアルキル基から選択される。R~R20のそれぞれは、互いに結合して環を形成しない。
*a、*bはベンゼン環上の結合位置を表す。R13~R16のうち一つは*aに結合する単結合を示す。R~R12のうち一つは*bに結合する単結合を示す。]
【請求項2】
下記式(1)で表される化合物。
【化2】

[式(1)において、
Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。
Ar~Arは、それぞれ独立に、水素原子;置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を示す。Ar~Arのそれぞれは、互いに結合して環を形成せず、R~R20とも互いに結合して環を形成しない。
~Rは、それぞれ独立に、水素原子;及び無置換の炭素数1~30のアルキル基から選択される。
~R12は、それぞれ独立に、水素原子;シアノ基;ニトロ基;ハロゲン原子;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基;置換もしくは無置換の環形成炭素数3~30のシクロアルキル基;置換もしくは無置換の炭素数7~36のアラルキル基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルコキシ基;置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリールオキシ基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基及び置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基から選ばれる置換基を有するモノ、ジ又はトリ置換シリル基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のハロアルキル基;及び置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基から選択される。
13~R20は、それぞれ水素原子を表す。R~R20のそれぞれは、互いに結合して環を形成しない。
*a、*bはベンゼン環上の結合位置を表す。R13~R16のうち一つは*aに結合する単結合を示す。R~R12のうち一つは*bに結合する単結合を示す。]
【請求項3】
*bと結合しないR~R12は、水素原子を示す、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
下記式(1-1)で表される請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【化3】

[式(1-1)において、
X、Ar~Ar、R~R、R11~R20及び*aは、式(1)における、X、Ar~Ar、R~R、R11~R20及び*aと同じである。]
【請求項5】
下記式(1-2a)で表される請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物。
【化4】

[式(1-2a)において、
X、Ar~Ar、R~R、R11、R12及びR14~R20は、式(1)における、X、Ar~Ar、R~R、R11、R12及びR14~R20と同じである。]
【請求項6】
下記式(1-2b)で表される請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物。
【化5】

[式(1-2b)において、
X、Ar~Ar、R~R、R11~R13及びR15~R20は、式(1)における、X、Ar~Ar、R~R、R11~R13及びR15~R20と同じである。]
【請求項7】
、R、R11、R12は、水素原子を示す、請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
Ar~Arのうち少なくとも一つは、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を示す請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
Ar~Arのうち一つは、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を示し、他は水素原子を示す請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
Ar~Arのうち少なくとも一つは、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、フェニルナフチル基、及びフェナントリル基から選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項11】
Ar~Arのうち一つは、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基及びフェナントリル基から選択され、他はそれぞれ水素原子を示す請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項12】
~Rは、水素原子を示す、請求項1~11のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項13】
Ar~Ar及びR~R12のうちいずれかが置換基を有する基である場合、当該置換基は、
シアノ基、
ハロゲン原子、
炭素数1~30のアルキル基、
環形成炭素数3~30のシクロアルキル基、
炭素数7~36のアラルキル基、
炭素数1~30のアルコキシ基、
環形成炭素数6~30のアリールオキシ基、
炭素数1~30のアルキル基、及び、環形成炭素数6~30のアリール基から選ばれる置換基を有するモノ、ジ又はトリ置換シリル基、
炭素数1~30のハロアルキル基、
環形成炭素数6~30のアリール基、
環形成炭素数6~30のアリール基で置換された、ボリル基、
炭素数1~30のアルキルチオ基、及び、
環形成炭素数6~30のアリールチオ基
からなる群から選ばれる少なくとも一つの置換基である、請求項1~12のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項14】
式(1)において、
13又はR14が*aに結合し、R又はR10が*bに結合し、
~R、及び、*bに結合しないR~R12が、それぞれ水素原子を表し、
Ar~Arのうち一つは、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を表し、他は水素原子を表し、
Ar~Arのいずれか一つが置換基を有する基である場合、当該置換基は、
シアノ基、
ハロゲン原子、
炭素数1~30のアルキル基、
環形成炭素数3~30のシクロアルキル基、
炭素数7~36のアラルキル基、
炭素数1~30のアルコキシ基、
環形成炭素数6~30のアリールオキシ基、
炭素数1~30のアルキル基、及び、環形成炭素数6~30のアリール基から選ばれる置換基を有するモノ、ジ又はトリ置換シリル基、
炭素数1~30のハロアルキル基、
環形成炭素数6~30のアリール基、
環形成炭素数6~30のアリール基で置換された、ボリル基、
炭素数1~30のアルキルチオ基、及び、
環形成炭素数6~30のアリールチオ基
からなる群から選ばれる少なくとも一つの置換基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項15】
式(1)において、
13又はR14が*aに結合し、R又はR10が*bに結合し、
~R、及び、*bに結合しないR~R12が、それぞれ水素原子を表し、
Ar~Arのうち少なくとも一つは、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、フェニルナフチル基、及びフェナントリル基から選択され、
Ar~Arのいずれか一つが置換基を有する基である場合、当該置換基は、
シアノ基、
ハロゲン原子、
炭素数1~30のアルキル基、
環形成炭素数3~30のシクロアルキル基、
炭素数7~36のアラルキル基、
炭素数1~30のアルコキシ基、
環形成炭素数6~30のアリールオキシ基、
炭素数1~30のアルキル基、及び、環形成炭素数6~30のアリール基から選ばれる置換基を有するモノ、ジ又はトリ置換シリル基、
炭素数1~30のハロアルキル基、
環形成炭素数6~30のアリール基、
環形成炭素数6~30のアリール基で置換された、ボリル基、
炭素数1~30のアルキルチオ基、及び、
環形成炭素数6~30のアリールチオ基
からなる群から選ばれる少なくとも一つの置換基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項16】
前記式(1)で表される化合物が少なくとも1個の重水素原子を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項17】
下記の化合物群から選択される請求項1又は2に記載の化合物。
【化7】
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の化合物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【請求項19】
陽極、陰極、及び該陽極と陰極の間に有機層を有し、該有機層が発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子であって、該有機層の少なくとも1層が請求項1~17のいずれか1項に記載の化合物を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項20】
前記有機層が前記陽極と前記発光層の間に正孔輸送帯域を含み、該正孔輸送帯域が前記化合物を含む請求項19に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項21】
前記正孔輸送帯域に含まれる式(1)で表される化合物が少なくとも1個の重水素原子を有する、請求項20に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項22】
前記正孔輸送帯域が陽極側の第1正孔輸送層と陰極側の第2正孔輸送層を含み、該第1正孔輸送層、該第2正孔輸送層、又は双方が前記化合物を含む請求項20又は21に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項23】
前記第1正孔輸送層が前記化合物を含む請求項22に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項24】
前記第2正孔輸送層が前記化合物を含む請求項22に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項25】
前記第2正孔輸送層が前記発光層に隣接している請求項22~24のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項26】
前記発光層が蛍光ドーパント材料を含む請求項19~25のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項27】
前記発光層が燐光ドーパント材料を含む請求項19~25のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項28】
請求項19~27のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、それを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子用材料、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)は陽極、陰極、及び陽極と陰極に挟まれた有機層から構成されている。両電極間に電圧が印加されると、陰極側から電子、陽極側から正孔が発光領域に注入され、注入された電子と正孔は発光領域において再結合して励起状態を生成し、励起状態が基底状態に戻る際に光を放出する。したがって、電子又は正孔を効率よく発光領域に輸送し、電子と正孔との再結合を促進する化合物の開発は高性能有機EL素子を得る上で重要である。また、近年、有機EL素子を使用した、スマートフォーン、有機ELテレビ、有機EL照明等のさらなる普及にあたり、高効率と同時に十分な素子寿命を満たす化合物の要求がある。
【0003】
例えば、特許文献1~6には、有機EL素子で用いる芳香族アミン化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-066723号公報
【文献】特開2016-086142号公報
【文献】韓国公開10-2017-0094665号公報
【文献】国際公開第2010/061824号公報
【文献】国際公開第2017/012687号公報
【文献】国際公開第2017/148564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、有機EL素子製造用の材料として多くの化合物が報告されているが、有機EL素子の特性をさらに向上させる化合物が依然として求められている。有機EL素子で用いる芳香族アミン化合物についても、有機EL素子の特性をさらに向上させる化合物、特に、高性能の長寿命化と高効率化とをさらに高いレベルで両立し得る化合物が依然として求められている。
【0006】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、高性能化された有機EL素子、より具体的には、長寿命化及び高効率化を実現する有機EL素子、及び、そのような有機EL素子を実現する新規化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、下記式(1)で表される化合物は、高性能化された有機EL素子を実現し得ること、より具体的には、長寿命化、及び、高効率化を実現する有機EL素子を実現し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
一態様において、本発明は、式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と称することもある)を提供する。
【化1】

[式(1)において、
Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。
Ar~Arは、それぞれ独立に、水素原子;置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を示す。Ar~Arのそれぞれは、他の基と結合して環を形成しない。
~R20は、それぞれ独立に、水素原子;シアノ基;ニトロ基;ハロゲン原子;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基;置換もしくは無置換の環形成炭素数3~30のシクロアルキル基;置換もしくは無置換の炭素数7~36のアラルキル基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルコキシ基;置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリールオキシ基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基及び置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基から選ばれる置換基を有するモノ、ジ又はトリ置換シリル基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のハロアルキル基;及び置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基から選択される。R~R20のそれぞれは、他の基と結合して環を形成しない。
*a、*bはベンゼン環上の結合位置を表す。R13~R16のうち一つは*aに結合する単結合を示す。R~R12のうち一つは*bに結合する単結合を示す。]
【0009】
他の態様において、本発明は、化合物(1)を含む有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を提供する。
【0010】
さらに他の態様において、本発明は、陰極、陽極、及び該陰極と該陽極の間に配置された有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、該有機層が発光層を含み、該有機層の少なくとも1層が化合物(1)を含む有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【0011】
さらに他の態様において、本発明は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を含む電子機器を提供する。
【発明の効果】
【0012】
化合物(1)は、高性能化された有機EL素子を実現する。より具体的には、長寿命化及び高効率化を実現し得る有機EL素子を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子の層構成の一例を示す概略図である。
図2】本発明の実施態様に係る有機EL素子の層構成の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「置換もしくは無置換の炭素数XX~YYのZZ基」という表現における「炭素数XX~YY」は、ZZ基が無置換である場合の炭素数を表すものであり、置換されている場合の置換基の炭素数は含めない。
【0015】
本明細書において、「置換もしくは無置換の原子数XX~YYのZZ基」という表現における「原子数XX~YY」は、ZZ基が無置換である場合の原子数を表すものであり、置換されている場合の置換基の原子数は含めない。
【0016】
本明細書において、「置換もしくは無置換のZZ基」という場合における「無置換ZZ基」とは、ZZ基の水素原子が置換基で置換されていないことを意味する。
【0017】
本明細書において、「水素原子」とは、中性子数が異なる同位体、すなわち、軽水素(protium)、重水素(deuterium)、及び三重水素(tritium)を包含する。
【0018】
本明細書において、「環形成炭素数」とは、原子が環状に結合した構造の化合物(例えば、単環化合物、縮合環化合物、架橋化合物、炭素環化合物、複素環化合物)の当該環自体を構成する原子のうちの炭素原子の数を表す。当該環が置換基によって置換される場合、置換基に含まれる炭素は環形成炭素には含まない。以下で記される「環形成炭素数」については、特筆しない限り同様とする。例えば、ベンゼン環は環形成炭素数が6であり、ナフタレン環は環形成炭素数が10であり、ピリジン環は環形成炭素数5であり、フラン環は環形成炭素数4である。また、ベンゼン環やナフタレン環に置換基として例えばアルキル基が置換している場合、当該アルキル基の炭素数は、環形成炭素数の数に含めない。また、フルオレン環に置換基として例えばフルオレン環が結合している場合(スピロフルオレン環を含む)、置換基としてのフルオレン環の炭素数は環形成炭素数に含めない。
【0019】
本明細書において、「環形成原子数」とは、原子が環状に結合した構造(例えば単環、縮合環、環集合)の化合物(例えば単環化合物、縮合環化合物、架橋化合物、炭素環化合物、複素環化合物)の当該環自体を構成する原子の数を表す。環を構成しない原子(例えば環を構成する原子の結合手を終端する水素原子)や、当該環が置換基によって置換される場合の置換基に含まれる原子は環形成原子数には含まない。以下で記される「環形成原子数」については、特筆しない限り同様とする。例えば、ピリジン環の環形成原子数は6であり、キナゾリン環の環形成原子数は10であり、フラン環の環形成原子数は5である。ピリジン環やキナゾリン環の環形成炭素原子にそれぞれ結合している水素原子や置換基を構成する原子は、環形成原子数の数に含めない。また、フルオレン環に置換基として例えばフルオレン環が結合している場合(スピロビフルオレン環を含む)、置換基としてのフルオレン環の原子数は環形成原子数の数に含めない。
【0020】
本明細書において、「アリール基」とは、芳香族炭化水素環に結合する水素原子を一つ除いて生じる残基を表し、炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基(ヘテロアリール基)を含まない。
【0021】
本明細書中、好ましいとする態様(例えば、化合物、各種基、数値範囲等)は、他のあらゆる態様(例えば、化合物、各種基、数値範囲等)と任意に組み合わせることができ、また、好ましいとする態様(より好ましい態様、さらに好ましい態様、特に好ましい態様を含む。)の組み合わせはより好ましいと言える。
【0022】
本発明の一態様に係る化合物(1)は式(1)で表される。
【化2】
【0023】
本発明の一態様において、化合物(1)は、好ましくは下記式(1-1)で表される。
【化3】
【0024】
本発明の一態様において、化合物(1)は、より好ましくは下記式(1-2a)又は下記式(1-2b)で表される。
【化4】
【0025】
【化5】
【0026】
次に、式(1)、式(1-1)、式(1-2a)、及び、式(1-2b)(以下、式(1)~式(1-2b)と記載する)の各記号を説明する。
【0027】
Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。
Ar~Arは、それぞれ独立に、水素原子;置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を示す。Ar~Arのそれぞれは、互いに結合して環を形成しない。また、Ar~Arのそれぞれは、下記のR~R20とも互いに結合して環を形成しない。
【0028】
~R20は、それぞれ独立に、水素原子;シアノ基;ニトロ基;ハロゲン原子;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基;置換もしくは無置換の環形成炭素数3~30のシクロアルキル基;置換もしくは無置換の炭素数7~36のアラルキル基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルコキシ基;置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリールオキシ基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基及び置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基から選ばれる置換基を有するモノ、ジ又はトリ置換シリル基;置換もしくは無置換の炭素数1~30のハロアルキル基;及び置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基から選択される。R~R20のそれぞれは、互いに結合して環を形成しない。
【0029】
*a、*bはベンゼン環上の結合位置を表す。R13~R16のうち一つは*aに結合する単結合を示す。R~R12のうち一つは*bに結合する単結合を示す。
【0030】
本発明の一態様において、式(1-1)における、*aと結合しないR13~R16は、水素原子を示す。
また、本発明の一態様において、式(1-2a)における、R14~R20は、水素原子を示す。
さらに、本発明の一態様において、式(1-2b)における、R13、R15~R20は、水素原子を示す。
【0031】
本発明の一態様において、式(1)において、*bと結合しないR~R12は、水素原子を示す。
また、本発明の一態様において、式(1)~式(1-2b)において、R、R、R11、R12は、水素原子を示す。
【0032】
本発明の一態様において、式(1)~式(1-2b)におけるR~Rは、水素原子を示す。
【0033】
Ar~Arが表す置換もしくは無置換の環形成原子数が6~30のアリール基において、当該環形成炭素数6~30のアリール基は、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ビフェニレニル基、ナフチル基、アントリル基、ベンゾアントリル基、フェナントリル基、ベンゾフェナントリル基、フェナレニル基、ピセニル基、ペンタフェニル基、ピレニル基、クリセニル基、ベンゾクリセニル基、フルオレニル基、フルオランテニル基、ペリレニル基、トリフェニレニル基、又は、ベンゾトリフェニレニル基である。
好ましくは、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、フェナントリル基、ベンゾフェナントリル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、又は、ベンゾトリフェニレニル基であり、より好ましくは、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、又は、フェナントリル基である。
該ターフェニリル基は、1,1’:4’,1”-ターフェニル基、1,1’:3’,1”-ターフェニル基、又は1,1’:2’,1”-ターフェニル基であり、1,1’:4’,1”-ターフェニル-2-イル基、1,1’:4’,1”-ターフェニル-3-イル基、1,1’:4’,1”-ターフェニル-4-イル基、1,1’:3’,1”-ターフェニル-2-イル基、1,1’:3’,1”-ターフェニル-3-イル基、1,1’:3’,1”-ターフェニル-4-イル基、1,1’:2’,1”-ターフェニル-2-イル基、1,1’:2’,1”-ターフェニル-3-イル基、又は1,1’:2’,1”-ターフェニル-4-イル基、1,1’:3’,1”-ターフェニル-5’-イル基が好ましく、1,1’:4’,1”-ターフェニル-2-イル基、1,1’:4’,1”-ターフェニル-3-イル基、1,1’:4’,1”-ターフェニル-4-イル基、又は1,1’:3’,1”-ターフェニル-5’-イル基がより好ましい。
該ナフチル基は、1-ナフチル基及び2-ナフチル基を含む。
該フェナントリル基は、1-、2-、3-、4-、又は9-フェナントリル基であり、好ましくは2-又は9-フェナントリル基である。
該トリフェニレニル基は、好ましくは2-トリフェニレニル基である。
前記置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基は、存在する場合には異性体基を含む。
【0034】
Ar~Arのうち少なくとも一つは、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を示すことが好ましい。Ar~Arのうち一つ又は二つが、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を示し、他の全てが水素原子を示すことがより好ましく、Ar~Arのうち一つが置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を示し、他の全てが水素原子を示すことがさらに好ましい。
【0035】
本発明の一態様において、化合物(1)のAr~Arを含むベンゼン環部分が、下記式(2a)、式(2b)、式(2c)、式(2d)、式(2e)、式(2f)、式(2g)、式(2h)、又は式(2i)で表される。
【0036】
【化6】

[式(2a)~(2i)において、
Ar~Arは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を示す。
*cは、窒素原子に結合する単結合を示す。]
【0037】
本発明の好ましい一態様において、化合物(1)のAr~Arを含むベンゼン環部分は、上記式(2a)~式(2g)のいずれかの構造を有する。
化合物(1)が上記式(2a)~式(2c)のいずれかの構造を有している場合の一態様において、Ar、Ar、Arは、好ましくは環形成炭素数が10~30のアリール基であり、より好ましくは、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、フェナントリル基から選択される。
また、化合物(1)が上記式(2a)~式(2c)のいずれかの構造を有している場合の好ましい一態様において、Ar、Ar、Arは、置換基を有する環形成炭素数が6~30のアリール基であり、より好ましくは、炭素数1~18のアルキル基又は環形成炭素数が6~18のアリール基を置換基として有する環形成炭素数が6~30のアリール基である。
【0038】
化合物(1)が上記式(2d)~式(2g)の構造を有している場合の一態様において、Ar~Arのうち二つが、環形成炭素数6~30のアリール基であり、好ましくはAr~Arのうち二つが同一である。
【0039】
式(1)~式(1-2b)、式(2d)~式(2i)において、Ar~Arのうち二つ以上が置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基である場合、それらは互いに同一の又は異なる構造を有する。
【0040】
~R20となり得るハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
~R20となり得る炭素数1~30のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、又はドデシル基であり、好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、又はペンチル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、又はt-ブチル基であり、さらに好ましくは、メチル基又はt-ブチル基である。
前記炭素数1~30のアルキル基は、存在する場合には異性体基を含む。
~R20となり得る環形成炭素数3~30のシクロアルキル基は、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、又はシクロヘプチル基であり、好ましくは、シクロペンチル基又はシクロヘキシル基である。
前記環形成炭素数3~30のシクロアルキル基は、存在する場合には異性体基を含む。
~R20となり得る炭素数7~36のアラルキル基において、当該炭素数7~36のアラルキル基のアリール部位は、環形成炭素数6~30、好ましくは6~25、より好ましくは6~18のアリール基から選択され、アルキル部位は炭素数1~30、好ましくは1~18、より好ましくは1~8のアルキル基から選択される。該炭素数7~36のアラルキル基は、例えば、ベンジル基、フェネチル基、又は、フェニルプロピル基であり、ベンジル基が好ましい。
前記炭素数7~36のアラルキル基は、存在する場合には異性体基を含む。
~R20となり得る炭素数1~30のアルコキシ基において、当該炭素数1~30のアルコキシ基のアルキル部位は上記置換もしくは無置換の炭素数1~30、好ましくは1~18、より好ましくは1~8のアルキル基から選択される。該炭素数1~30のアルコキシ基は、例えば、t-ブトキシ基、プロポキシ基、エトキシ基、又はメトキシ基であり、好ましくは、エトキシ基又はメトキシ基であり、より好ましくは、メトキシ基である。
前記炭素数1~30のアルコキシ基は、存在する場合には異性体基を含む。
~R20となり得る環形成炭素数6~30のアリールオキシ基において、当該環形成炭素数6~30アリールオキシ基のアリール部位は環形成炭素数6~30、好ましくは6~25、より好ましくは6~18のアリール基から選択される。該環形成炭素数6~30のアリールオキシ基は、例えば、ターフェニルオキシ基、ビフェニルオキシ基、又はフェノキシ基であり、好ましくは、ビフェニルオキシ基又はフェノキシ基であり、より好ましくは、フェノキシ基である。
前記環形成炭素数6~30のアリールオキシ基は、存在する場合には異性体基を含む。
~R20となり得るモノ、ジ又はトリ置換シリル基が有する置換基は、炭素数1~30、好ましくは1~18、より好ましくは1~8のアルキル基、及び、上記環形成炭素数6~30、好ましくは6~25、より好ましくは6~18のアリール基から選択される。トリ置換シリル基が好ましく、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、プロピルジメチルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、又はトリトリルシリル基がより好ましい。
前記モノ、ジ又はトリ置換シリル基は、存在する場合には異性体基を含む。
~R20となり得る炭素数1~30のハロアルキル基は、炭素数1~30、好ましくは1~18、より好ましくは1~8のアルキル基の少なくとも1個の水素原子、好ましくは1~7個の水素原子、又は全ての水素原子をハロゲン原子で置換して得られる基である。該ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子から選ばれ、好ましくはフッ素原子である。該ハロアルキル基は炭素数1~30、好ましくは1~18、より好ましくは1~8のフルオロアルキル基が好ましく、ヘプタフルオロプロピル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、又はトリフルオロメチル基がより好ましく、ペンタフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、又はトリフルオロメチル基がさらに好ましく、トリフルオロメチル基が特に好ましい。
前記炭素数1~30のハロアルキル基は、存在する場合には異性体基を含む。
~R20となり得る環形成炭素数6~30のアリール基は、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ビフェニレニル基、ナフチル基、アントリル基、ベンゾアントリル基、フェナントリル基、ベンゾフェナントリル基、フェナレニル基、ピセニル基、ペンタフェニル基、ピレニル基、クリセニル基、ベンゾクリセニル基、フルオレニル基、フルオランテニル基、ペリレニル基、トリフェニレニル基、又は、ベンゾトリフェニレニル基である。
フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、又はナフチル基が好ましく、フェニル基、又は、ナフチル基がより好ましい。
【0041】
Ar~Ar及びR~R20の定義において、「置換もしくは無置換」というときの任意の置換基は、
シアノ基、
ハロゲン原子、
炭素数1~30、好ましくは1~18、より好ましくは1~6、特に好ましくは1~3のアルキル基、
環形成炭素数3~30、好ましくは3~10、より好ましくは3~8、さらに好ましくは5又は6のシクロアルキル基、
炭素数7~36、好ましくは7~26、より好ましくは7~20のアラルキル基、
炭素数1~30、好ましくは1~18、より好ましくは1~6、特に好ましくは1~3のアルコキシ基、
環形成炭素数6~30、好ましくは6~25、より好ましくは6~18、特に好ましくは6~10のアリールオキシ基、
炭素数1~30、好ましくは1~18、より好ましくは1~6、特に好ましくは1~3のアルキル基、及び、環形成炭素数6~30、好ましくは6~25、より好ましくは6~18、特に好ましくは6~10のアリール基から選ばれる置換基を有するモノ、ジ又はトリ置換シリル基、
炭素数1~30、好ましくは1~18、より好ましくは1~8、特に好ましくは1~3のハロアルキル基、
環形成炭素数6~30、好ましくは6~25、より好ましくは6~18、特に好ましくは6~10のアリール基、
環形成炭素数6~30、好ましくは6~25、より好ましくは6~18、特に好ましくは6~10のアリール基で置換された、ボリル基、
炭素数1~30、好ましくは1~18、より好ましくは1~6、特に好ましくは1~3のアルキルチオ基、及び、
環形成炭素数6~30、好ましくは6~25、より好ましくは6~18、特に好ましくは6~10のアリールチオ基
からなる群から選ばれる少なくとも一つの置換基Aである。上記置換基Aがさらに置換基Aなどの任意の置換基で置換されていてもよい。
【0042】
置換基Aとなり得る、炭素数1~30のアルキル基、環形成炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数7~36のアラルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、環形成炭素数6~30のアリールオキシ基、炭素数1~30のアリール基から選ばれる置換基を有するモノ、ジ又はトリ置換シリル基、炭素数1~30のハロアルキル基、及び、環形成炭素数6~30のアリール基としては、R~R20について説明したものと同様の基が挙げられる。
上記置換基Aとなり得るボリル基が有する置換基は、環形成炭素数6~30、好ましくは6~25、より好ましくは6~18のアリール基から選択される。環形成炭素数6~30のアリール基で置換されたボリル基は、例えば、ジフェニルボリル基である。
上記置換基Aとなり得る炭素数1~30のアルキルチオ基は、当該炭素数1~30のアルキルチオ基のアルキル基部位が、炭素数1~30、好ましくは1~18、より好ましくは1~8のアルキル基から選択される。該アルキルチオ基は、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基である。
上記置換基Aとなり得る環形成炭素数6~30のアリールチオ基は、当該環形成炭素数6~30のアリールチオ基のアリール部位が、環形成炭素数6~30、好ましくは6~25、より好ましくは6~18のアリール基から選択される。該アリールチオ基は、例えば、フェニルチオ基、トリルチオ基である。
【0043】
上述した各式に示される化合物においては、一つのジベンゾフラニル骨格とフェニル基とが立体障害を持つ形態でアミン骨格に直結されるともに、もう一つのジベンゾフラニル骨格又はジベンゾチエニル骨格がフェニレン基を介してアミン骨格に接続されることで、励起子を発光層に閉じ込める障壁能を高くしながら、電子や励起子に対して非常に安定な化合物となっているものと推測される。
【0044】
本発明の好ましい一態様においては、Ar~Ar、R~R、R~R12のうち*bに結合する単結合ではないもの、R13~R16のうち*aに結合する単結合ではないもの、及び、R17~R20の全てが置換基を有していない。
また、本発明の好ましい一態様においては、R~R、R~R12のうち*bに結合する単結合ではないもの、R13~R16のうち*aに結合する単結合ではないもの、及び、R17~R20の全てが水素原子である。
【0045】
上記したように、本明細書において使用する「水素原子」は軽水素原子、重水素原子、及び三重水素原子を包含する。したがって、化合物(1)は天然由来の重水素原子を含んでいてもよい。
また、原料化合物の一部又は全てに重水素化した化合物を使用することにより、化合物(1)に重水素原子を意図的に導入してもよい。したがって、本発明の一態様において、化合物(1)は少なくとも1個の重水素原子を含む。すなわち、化合物(1)は、式(1)又はその好ましい態様の式で表される化合物であって、該化合物に含まれる水素原子の少なくとも一つが重水素原子である化合物であってもよい。
さらに、本発明の一態様において、式(1)において、(i)R~R、*bに結合する単結合ではないR~R12、*aに結合する単結合ではないR13~R16、及び、R17~R20が表す水素原子、(ii)R~R、*bに結合する単結合ではないR~R12、*aに結合する単結合ではないR13~R16、及び、R17~R20が表すアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジ又はトリ置換シリル基、ハロアルキル基、及び、アリール基が有する水素原子、(iii)Ar~Arが表す水素原子、(iv)Ar~Arが表すアリール基が有する水素原子から選ばれる少なくとも一つの水素原子が重水素原子である。
【0046】
本発明の一態様においては、化合物(1)が重水素を含んでおり、その場合の重水素化率(化合物(1)中の全水素原子数に対する重水素原子数の割合)は使用する原料化合物の重水素化率に依存する。使用する全ての原料化合物の重水素化率を100%にすることは通常困難であるので、化合物(1)の重水素化率は100%未満、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは80%以下である。
【0047】
化合物(1)が重水素を包含する場合の重水素化率(化合物(1)中の全水素原子数に対する重水素原子数の割合)は、1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上である。
【0048】
化合物(1)は、重水素化された化合物と重水素化されていない化合物を含む混合物、異なる重水素化率を有する2以上の化合物の混合物であってもよい。このような混合物の重水素化率(混合物に含まれる化合物(1)中の全水素原子数に対する重水素原子数の割合)は、1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、かつ、100%未満、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。
【0049】
本発明の一態様においては、化合物(1)が重水素を含んでおり、R~Rが表す水素原子が有する水素原子、及び、R~Rが表すアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジ又はトリ置換シリル基、ハロアルキル基、及び、アリール基が有する水素原子から選ばれる少なくとも一つの水素原子が重水素原子である。重水素化率(R~Rが表す全水素原子、及び、R~Rが表すアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジ又はトリ置換シリル基、ハロアルキル基、及び、アリール基が有する全水素原子の数に対する重水素原子数の割合)は、1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、かつ、100%未満、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。
【0050】
本発明の一態様においては、化合物(1)が重水素を含んでおり、*bに結合する単結合ではないR~R12が表す水素原子、及び、及び、*bに結合する単結合ではないR~R12が表すアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジ又はトリ置換シリル基、ハロアルキル基、及び、アリール基が有する水素原子から選ばれる少なくとも一つの水素原子が重水素原子である。重水素化率(*bに結合する単結合ではないR~R12が表す全水素原子及び*bに結合する単結合ではないR~R12が表すアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジ又はトリ置換シリル基、ハロアルキル基、及び、アリール基が有する全水素原子の数に対する重水素原子数の割合)は、1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、かつ、100%未満、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。
【0051】
本発明の一態様においては、化合物(1)が重水素を含んでおり、*aに結合する単結合ではないR13~R16、及び、R17~R20が表す水素原子、及び、*aに結合する単結合ではないR13~R16及びR17~R20が表す、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジ又はトリ置換シリル基、ハロアルキル基、及び、アリール基が有する水素原子から選ばれる少なくとも一つの水素原子が重水素原子である。重水素化率(*aに結合する単結合ではないR13~R16、及び、R17~R20が表す全水素原子、及び、*aに結合する単結合ではないR13~R16及びR17~R20が表す、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジ又はトリ置換シリル基、ハロアルキル基、及び、アリール基が有する全水素原子の数に対する重水素原子数の割合)は、1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、かつ、100%未満、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。
【0052】
本発明の一態様においては、化合物(1)が重水素を含んでおり、Ar~Arが表す水素原子、及び、Ar~Arが表すアリール基が有する水素原子から選ばれる少なくとも一つの水素原子が重水素原子である。重水素化率(Ar~Arが表す全水素原子、及び、Ar~Arが表すアリール基が有する全水素原子の数に対する重水素原子数の割合)は、1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、かつ、100%未満、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。
【0053】
本発明の特に好ましい態様においては、化合物(1)は、下記の化合物群から選択される。
【化7】
【0054】
本発明に係る化合物の具体例を以下に挙げるが、特にこれらに制限されるものではない。
【0055】
【化8】
【0056】
【化9】
【0057】
【化10】
【0058】
【化11】
【0059】
【化12】
【0060】
【化13】
【0061】
【化14】
【0062】
【化15】
【0063】
【化16】
【0064】
【化17】
【0065】
【化18】
【0066】
【化19】
【0067】
【化20】
【0068】
【化21】
【0069】
【化22】
【0070】
【化23】
【0071】
【化24】
【0072】
【化25】
【0073】
【化26】
【0074】
【化27】
【0075】
【化28】
【0076】
【化29】
【0077】
【化30】
【0078】
【化31】
【0079】
【化32】
【0080】
【化33】
【0081】
【化34】
【0082】
【化35】
【0083】
【化36】
【0084】
【化37】
【0085】
【化38】
【0086】
【化39】
【0087】
【化40】
【0088】
【化41】
【0089】
【化42】
【0090】
【化43】
【0091】
化合物(1)の製造方法は特に制限されず、当業者であれば以下の実施例に記載する方法により、あるいは、該方法を公知の合成方法を参考にして変更した方法により容易に製造することができる。
【0092】
有機EL素子用材料
本発明の有機EL素子用材料は、化合物(1)を含む。本発明の有機EL素子用材料における化合物(1)の含有量は、特に制限されず、例えば、化合物(1)が含まれる層の全質量に対して、1質量%以上(100%を含む)であり、10質量%以上(100%を含む)であることが好ましく、50質量%以上(100%を含む)であることがより好ましく、80質量%以上(100%を含む)であることがさらに好ましく、90質量%以上(100%を含む)であることが特に好ましい。本発明の有機EL素子用材料は、有機EL素子の製造に有用である。
【0093】
有機EL素子
次に、本発明の有機EL素子について説明する。
有機EL素子は、陰極、陽極、及び、陰極と陽極の間に有機層を含む。該有機層は発光層を含み、該有機層の少なくとも一層が化合物(1)を含む。
化合物(1)が含まれる有機層の例としては、陽極と発光層との間に設けられる正孔輸送帯域(正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層、励起子阻止層等)、発光層、スペース層、陰極と発光層との間に設けられる電子輸送帯域(電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層等)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。化合物(1)は、好ましくは蛍光又は燐光EL素子の正孔輸送帯域又は発光層の材料、より好ましくは正孔輸送帯域の材料、さらに好ましくは正孔輸送層又は電子阻止層の材料、特に好ましくは正孔輸送層の材料として用いられる。
【0094】
本発明の有機EL素子は、蛍光又は燐光発光型の単色発光素子であっても、蛍光/燐光ハイブリッド型の白色発光素子であってもよいし、単独の発光ユニットを有するシンプル型であっても、複数の発光ユニットを有するタンデム型であってもよく、中でも、蛍光発光型の素子であることが好ましい。ここで、「発光ユニット」とは、有機層を含み、そのうちの少なくとも一層が発光層であり、注入された正孔と電子が再結合することにより発光する最小単位をいう。
【0095】
例えば、シンプル型有機EL素子の代表的な素子構成としては、以下の素子構成を挙げることができる。
(1)陽極/発光ユニット/陰極
また、上記発光ユニットは、燐光発光層や蛍光発光層を複数有する積層型であってもよく、その場合、各発光層の間に、燐光発光層で生成された励起子が蛍光発光層に拡散することを防ぐ目的で、スペース層を有していてもよい。シンプル型発光ユニットの代表的な層構成を以下に示す。括弧内の層は任意である。
(a)(正孔注入層/)正孔輸送層/蛍光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(b)(正孔注入層/)正孔輸送層/燐光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(c)(正孔注入層/)正孔輸送層/第1蛍光発光層/第2蛍光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(d)(正孔注入層/)正孔輸送層/第1燐光発光層/第2燐光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(e)(正孔注入層/)正孔輸送層/燐光発光層/スペース層/蛍光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(f)(正孔注入層/)正孔輸送層/第1燐光発光層/第2燐光発光層/スペース層/蛍光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(g)(正孔注入層/)正孔輸送層/第1燐光発光層/スペース層/第2燐光発光層/スペース層/蛍光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(h)(正孔注入層/)正孔輸送層/燐光発光層/スペース層/第1蛍光発光層/第2蛍光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(i)(正孔注入層/)正孔輸送層/電子阻止層/蛍光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(j)(正孔注入層/)正孔輸送層/電子阻止層/燐光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(k)(正孔注入層/)正孔輸送層/励起子阻止層/蛍光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(l)(正孔注入層/)正孔輸送層/励起子阻止層/燐光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(m)(正孔注入層/)第1正孔輸送層/第2正孔輸送層/蛍光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(n)(正孔注入層/)第1正孔輸送層/第2正孔輸送層/燐光発光層(/電子輸送層/電子注入層)
(o)(正孔注入層/)第1正孔輸送層/第2正孔輸送層/蛍光発光層/第1電子輸送層/第2電子輸送層(/電子注入層)
(p)(正孔注入層/)第1正孔輸送層/第2正孔輸送層/燐光発光層/第1電子輸送層/第2電子輸送層(/電子注入層)
(q)(正孔注入層/)正孔輸送層/蛍光発光層/正孔阻止層(/電子輸送層/電子注入層)
(r)(正孔注入層/)正孔輸送層/燐光発光層/正孔阻止層(/電子輸送層/電子注入層)
(s)(正孔注入層/)正孔輸送層/蛍光発光層/励起子阻止層(/電子輸送層/電子注入層)
(t)(正孔注入層/)正孔輸送層/燐光発光層/励起子阻止層(/電子輸送層/電子注入層)
【0096】
上記各燐光又は蛍光発光層は、それぞれ互いに異なる発光色を示すものとすることができる。具体的には、上記積層発光ユニット(f)において、(正孔注入層/)正孔輸送層/第1燐光発光層(赤色発光)/第2燐光発光層(緑色発光)/スペース層/蛍光発光層(青色発光)/電子輸送層といった層構成等が挙げられる。
なお、各発光層と正孔輸送層あるいはスペース層との間には、適宜、電子阻止層を設けてもよい。また、各発光層と電子輸送層との間には、適宜、正孔阻止層を設けてもよい。電子阻止層や正孔阻止層を設けることで、電子又は正孔を発光層内に閉じ込めて、発光層における電荷の再結合確率を高め、発光効率を向上させることができる。
【0097】
タンデム型有機EL素子の代表的な素子構成としては、以下の素子構成を挙げることができる。
(2)陽極/第1発光ユニット/中間層/第2発光ユニット/陰極
ここで、上記第1発光ユニット及び第2発光ユニットとしては、例えば、それぞれ独立に上述の発光ユニットから選択することができる。
上記中間層は、一般的に、中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層とも呼ばれ、第1発光ユニットに電子を、第2発光ユニットに正孔を供給する、公知の材料構成を用いることができる。
【0098】
図1は、本発明の実施形態に係る有機EL素子の層構成の一例を示す概略図である。本例の有機EL素子1は、基板2、陽極3、陰極4、及び該陽極3と陰極4との間に配置された発光ユニット10とを有する。発光ユニット10は、発光層5を有する。発光層5と陽極3との間に正孔輸送帯域6(正孔注入層、正孔輸送層等)、発光層5と陰極4との間に電子輸送帯域7(電子注入層、電子輸送層等)を有する。また、発光層5の陽極3側に電子阻止層(図示せず)を、発光層5の陰極4側に正孔阻止層(図示せず)を、それぞれ設けてもよい。これにより、電子や正孔を発光層5に閉じ込めて、発光層5における励起子の生成効率をさらに高めることができる。
【0099】
図2は、本発明の実施形態に係る有機EL素子の層構成の他の例を示す概略図である。本例の有機EL素子11は、基板2、陽極3、陰極4、及び該陽極3と陰極4との間に配置された発光ユニット20とを有する。発光ユニット20は、発光層5を有する。陽極3と発光層5の間に配置された正孔輸送帯域は、第1正孔輸送層6a及び第2正孔輸送層6bから形成されている。また、発光層5と陰極4の間に配置された電子輸送帯域は、第1電子輸送層7a及び第2電子輸送層7bから形成されている。有機EL素子11において、単層の電子輸送層と複数層からなる正孔輸送層の組み合わせとしてもよいし、単層の正孔輸送層と複数層からなる電子輸送層の組み合わせとしてもよい。また、有機EL素子11に、正孔阻止層や電子阻止層を設けてもよい。
【0100】
なお、本願明細書において、蛍光ドーパント(蛍光発光材料)と組み合わされたホストを蛍光ホストと称し、燐光ドーパントと組み合わされたホストを燐光ホストと称する。蛍光ホストと燐光ホストは分子構造のみにより区分されるものではない。すなわち、燐光ホストとは、燐光ドーパントを含有する燐光発光層を形成する材料を意味し、蛍光発光層を形成する材料として利用できないことを意味しているわけではない。蛍光ホストについても同様である。
【0101】
以下、有機EL素子を構成する各層及び各部材について説明する。
基板
基板は、有機EL素子の支持体として用いられる。基板としては、例えば、ガラス、石英、プラスチックなどの板を用いることができる。また、可撓性基板を用いてもよい。可撓性基板としては、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニルからなるプラスチック基板等が挙げられる。また、無機蒸着フィルムを用いることもできる。
【0102】
陽極
基板上に形成される陽極には、仕事関数の大きい(具体的には4.0eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物、及びこれらの混合物などを用いることが好ましい。具体的には、例えば、酸化インジウム-酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide)、珪素もしくは酸化珪素を含有した酸化インジウム-酸化スズ、酸化インジウム-酸化亜鉛、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム、グラフェン等が挙げられる。この他、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、チタン(Ti)、又は前記金属の窒化物(例えば、窒化チタン)等が挙げられる。
【0103】
これらの材料は、通常、スパッタリング法により成膜される。例えば、酸化インジウム-酸化亜鉛は、酸化インジウムに対し1~10wt%の酸化亜鉛を加えたターゲットを、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウムは、酸化インジウムに対し酸化タングステンを0.5~5wt%、酸化亜鉛を0.1~1wt%含有したターゲットを用いることにより、スパッタリング法で形成することができる。その他、真空蒸着法、塗布法、インクジェット法、スピンコート法などにより作製してもよい。
【0104】
陽極に接して形成される正孔注入層は、陽極の仕事関数に関係なく正孔注入が容易である材料を用いて形成されるため、電極材料として一般的に使用される材料(例えば、金属、合金、電気伝導性化合物、及びこれらの混合物、元素周期表の第1族又は第2族に属する元素)を用いることができる。
仕事関数の小さい材料である、元素周期表の第1族又は第2族に属する元素、すなわちリチウム(Li)やセシウム(Cs)等のアルカリ金属、及びマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属、及びこれらを含む合金(例えば、MgAg、AlLi)、ユーロピウム(Eu)、イッテルビウム(Yb)等の希土類金属及びこれらを含む合金等を用いることもできる。なお、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びこれらを含む合金を用いて陽極を形成する場合には、真空蒸着法やスパッタリング法を用いることができる。さらに、銀ペーストなどを用いる場合には、塗布法やインクジェット法などを用いることができる。
【0105】
正孔注入層
正孔注入層は、正孔注入性の高い材料(正孔注入性材料)を含む層である。正孔注入性材料を単独で又は複数組み合わせて正孔注入層に用いることができる。
【0106】
正孔注入性材料としては、モリブデン酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、レニウム酸化物、ルテニウム酸化物、クロム酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、タンタル酸化物、銀酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物等を用いることができる。
【0107】
低分子の有機化合物である4,4’,4’’-トリス(N,N-ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’-トリス[N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4,4’-ビス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DPAB)、4,4’-ビス(N-{4-[N’-(3-メチルフェニル)-N’-フェニルアミノ]フェニル}-N-フェニルアミノ)ビフェニル(略称:DNTPD)、1,3,5-トリス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]ベンゼン(略称:DPA3B)、3-[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA1)、3,6-ビス[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA2)、3-[N-(1-ナフチル)-N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)アミノ]-9-フェニルカルバゾール(略称:PCzPCN1)等の芳香族アミン化合物等も正孔注入層材料として挙げられる。
【0108】
高分子化合物(オリゴマー、デンドリマー、ポリマー等)を用いることもできる。例えば、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(略称:PVK)、ポリ(4-ビニルトリフェニルアミン)(略称:PVTPA)、ポリ[N-(4-{N’-[4-(4-ジフェニルアミノ)フェニル]フェニル-N’-フェニルアミノ}フェニル)メタクリルアミド](略称:PTPDMA)、ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)ベンジジン](略称:Poly-TPD)などの高分子化合物が挙げられる。また、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリ(スチレンスルホン酸)(PAni/PSS)等の酸を添加した高分子化合物を用いることもできる。
【0109】
さらに、下記式(K)で表されるヘキサアザトリフェニレン(HAT)化合物などのアクセプター材料を他の化合物と組み合わせて用いることも好ましい。
【化44】
【0110】
(上記式(K)において、R21~R26は、それぞれ独立にシアノ基、-CONH、カルボキシ基、又は-COOR27(R27は炭素数1~20のアルキル基又は炭素数3~20のシクロアルキル基を表す)を表す。また、R21及びR22、R23及びR24、及びR25及びR26から選ばれる隣接する二つが互いに結合して-CO-O-CO-で示される基を形成してもよい。)
27としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
正孔輸送層に上記化合物(1)が含まれていてもよく、例えば、上記アクセプター材料と組み合わせて用いることができる。
【0111】
正孔輸送層
正孔輸送層は、正孔輸送性の高い材料(正孔輸送性材料)を含む層である。正孔輸送層は、陽極と発光層との間に設けられ、正孔注入層が存在する場合は正孔注入層と発光層との間に設けられる。正孔輸送層には、正孔輸送材料を単独又は複数組み合わせて用いることができる。正孔輸送性材料としては、例えば、芳香族アミン化合物、カルバゾール誘導体、アントラセン誘導体等を使用する事ができる。
芳香族アミン化合物としては、例えば、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)やN,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニル-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジアミン(略称:TPD)、4-フェニル-4’-(9-フェニルフルオレン-9-イル)トリフェニルアミン(略称:BAFLP)、4,4’-ビス[N-(9,9-ジメチルフルオレン-2-イル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DFLDPBi)、4,4’,4”-トリス(N,N-ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4”-トリス[N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、及び、4,4’-ビス[N-(スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-イル)-N―フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)が挙げられる。これらの芳香族アミン化合物は、10-6cm/Vs以上の正孔移動度を有する。
【0112】
カルバゾール誘導体としては、例えば、4,4’-ジ(9-カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)、9-[4-(9-カルバゾリル)フェニル]-10-フェニルアントラセン(略称:CzPA)、及び、9-フェニル-3-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール(略称:PCzPA)が挙げられる。
アントラセン誘導体としては、例えば、2-t-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(略称:t-BuDNA)、9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(略称:DNA)、及び、9,10-ジフェニルアントラセン(略称:DPAnth)が挙げられる。
ポリ(N-ビニルカルバゾール)(略称:PVK)やポリ(4-ビニルトリフェニルアミン)(略称:PVTPA)等の高分子化合物を用いることもできる。
但し、電子輸送性よりも正孔輸送性の方が高い化合物であれば、上記以外の化合物を用いてもよい。
【0113】
正孔輸送層は、単層構造でもよく、2以上の層を含む多層構造でもよい。例えば、正孔輸送層は第1正孔輸送層(陽極側)と第2正孔輸送層(陰極側)を含む2層構造であってもよい。
【0114】
2層構造の正孔輸送層において、化合物(1)を第1正孔輸送層と第2正孔輸送層の一方に含んでいてもよいし、双方に含んでいてもよい。
本発明の一態様においては、化合物(1)が第2正孔輸送層に含まれるのが好ましく、他の態様においては、化合物(1)が第1正孔輸送層に含まれ、さらに他の態様においては、化合物(1)が第1正孔輸送層と第2正孔輸送層に含まれる。
【0115】
本発明の一態様において、前記正孔輸送帯域に含まれる化合物(1)や、前記第1正孔輸送層と前記第2正孔輸送層の一方に含まれる化合物(1)は、製造コストの観点から、軽水素体(1)であることが好ましい。
前記軽水素体(1)とは、式(1)中の全ての水素原子が軽水素原子である化合物(1)のことである。
したがって、本発明は、前記正孔輸送帯域に含まれる化合物(1)、又は、前記第1正孔輸送層と前記第2正孔輸送層の一方が、実質的に軽水素体(1)のみからなる化合物(1)を含む有機EL素子を含む。「実質的に軽水素体(1)のみからなる化合物(1)」とは、式(1)で表される化合物の総量に対する軽水素体(1)の含有割合が、90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは99モル%以上(それぞれ100%を含む)であることを意味する。
【0116】
発光層のドーパント材料
発光層は、発光性の高い材料(ドーパント材料)を含む層であり、種々の材料を用いることができる。例えば、蛍光発光材料や燐光発光材料をドーパント材料として用いることができる。蛍光発光材料は一重項励起状態から発光する化合物であり、燐光発光材料は三重項励起状態から発光する化合物である。
【0117】
発光層に用いることができる青色系の蛍光発光材料として、ピレン誘導体、スチリルアミン誘導体、クリセン誘導体、フルオランテン誘導体、フルオレン誘導体、ジアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体等が使用できる。具体的には、N,N’-ビス[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-N,N’-ジフェニルスチルベン-4,4’-ジアミン(略称:YGA2S)、4-(9H-カルバゾール-9-イル)-4’-(10-フェニル-9-アントリル)トリフェニルアミン(略称:YGAPA)、4-(10-フェニル-9-アントリル)-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBAPA)などが挙げられる。
【0118】
発光層に用いることができる緑色系の蛍光発光材料として、芳香族アミン誘導体等を使用できる。具体的には、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,9-ジフェニル-9H-カルバゾール-3-アミン(略称:2PCAPA)、N-[9,10-ビス(1,1’-ビフェニル-2-イル)-2-アントリル]-N,9-ジフェニル-9H-カルバゾール-3-アミン(略称:2PCABPhA)、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン(略称:2DPAPA)、N-[9,10-ビス(1,1’-ビフェニル-2-イル)-2-アントリル]-N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン(略称:2DPABPhA)、N-[9,10-ビス(1,1’-ビフェニル-2-イル)]-N-[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-N-フェニルアントラセン-2-アミン(略称:2YGABPhA)、N,N,9-トリフェニルアントラセン-9-アミン(略称:DPhAPhA)などが挙げられる。
【0119】
発光層に用いることができる赤色系の蛍光発光材料として、テトラセン誘導体、ジアミン誘導体等が使用できる。具体的には、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)テトラセン-5,11-ジアミン(略称:p-mPhTD)、7,14-ジフェニル-N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)アセナフト[1,2-a]フルオランテン-3,10-ジアミン(略称:p-mPhAFD)などが挙げられる。
【0120】
発光層に用いることができる青色系の燐光発光材料として、イリジウム錯体、オスミウム錯体、白金錯体等の金属錯体が使用される。具体的には、ビス[2-(4’,6’-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C2’]イリジウム(III)テトラキス(1-ピラゾリル)ボラート(略称:FIr6)、ビス[2-(4’,6’-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C2’]イリジウム(III)ピコリナート(略称:FIrpic)、ビス[2-(3’,5’ビストリフルオロメチルフェニル)ピリジナト-N,C2’]イリジウム(III)ピコリナート(略称:Ir(CF3ppy)2(pic))、ビス[2-(4’,6’-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C2’]イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:FIracac)などが挙げられる。
【0121】
発光層に用いることができる緑色系の燐光発光材料として、イリジウム錯体等が使用される。トリス(2-フェニルピリジナト-N,C2’)イリジウム(III)(略称:Ir(ppy)3)、ビス(2-フェニルピリジナト-N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(ppy)2(acac))、ビス(1,2-ジフェニル-1H-ベンゾイミダゾラト)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(pbi)2(acac))、ビス(ベンゾ[h]キノリナト)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(bzq)2(acac))などが挙げられる。
【0122】
発光層に用いることができる赤色系の燐光発光材料として、イリジウム錯体、白金錯体、テルビウム錯体、ユーロピウム錯体等の金属錯体が使用される。具体的には、ビス[2-(2’-ベンゾ[4,5-α]チエニル)ピリジナト-N,C3’]イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(btp)2(acac))、ビス(1-フェニルイソキノリナト-N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(piq)2(acac))、(アセチルアセトナート)ビス[2,3-ビス(4-フルオロフェニル)キノキサリナト]イリジウム(III)(略称:Ir(Fdpq)2(acac))、2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィリン白金(II)(略称:PtOEP)等の有機金属錯体が挙げられる。
【0123】
また、トリス(アセチルアセトナート)(モノフェナントロリン)テルビウム(III)(略称:Tb(acac)3(Phen))、トリス(1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオナト)(モノフェナントロリン)ユーロピウム(III)(略称:Eu(DBM)3(Phen))、トリス[1-(2-テノイル)-3,3,3-トリフルオロアセトナト](モノフェナントロリン)ユーロピウム(III)(略称:Eu(TTA)3(Phen))等の希土類金属錯体は、希土類金属イオンからの発光(異なる多重度間の電子遷移)であるため、燐光発光材料として用いることができる。
【0124】
発光層のホスト材料
発光層は、上述したドーパント材料を他の材料(ホスト材料)に分散させた構成としてもよい。ホスト材料としては、ドーパント材料よりも最低空軌道準位(LUMO準位)が高く、最高占有軌道準位(HOMO準位)が低い材料を用いることが好ましい。
【0125】
ホスト材料としては、例えば
(1)アルミニウム錯体、ベリリウム錯体、又は亜鉛錯体等の金属錯体、
(2)オキサジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、又はフェナントロリン誘導体等の複素環化合物、
(3)カルバゾール誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、ピレン誘導体、又はクリセン誘導体等の縮合芳香族化合物、
(4)トリアリールアミン誘導体又は縮合多環芳香族アミン誘導体等の芳香族アミン化合物が使用される。
【0126】
例えば、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(III)(略称:Alq)、トリス(4-メチル-8-キノリノラト)アルミニウム(III)(略称:Almq3)、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(II)(略称:BeBq2)、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(4-フェニルフェノラト)アルミニウム(III)(略称:BAlq)、ビス(8-キノリノラト)亜鉛(II)(略称:Znq)、ビス[2-(2-ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(略称:ZnPBO)、ビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(略称:ZnBTZ)などの金属錯体;
2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(略称:PBD)、1,3-ビス[5-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン(略称:OXD-7)、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール(略称:TAZ)、2,2’,2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)(略称:TPBI)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)などの複素環化合物;
9-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール(略称:CzPA)、3,6-ジフェニル-9-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール(略称:DPCzPA)、9,10-ビス(3,5-ジフェニルフェニル)アントラセン(略称:DPPA)、9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(略称:DNA)、2-tert-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(略称:t-BuDNA)、9,9’-ビアントリル(略称:BANT)、9,9’-(スチルベン-3,3’-ジイル)ジフェナントレン(略称:DPNS)、9,9’-(スチルベン-4,4’-ジイル)ジフェナントレン(略称:DPNS2)、3,3’,3’’-(ベンゼン-1,3,5-トリイル)トリピレン(略称:TPB3)、9,10-ジフェニルアントラセン(略称:DPAnth)、6,12-ジメトキシ-5,11-ジフェニルクリセンなどの縮合芳香族化合物;及び
N,N-ジフェニル-9-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン(略称:CzA1PA)、4-(10-フェニル-9-アントリル)トリフェニルアミン(略称:DPhPA)、N,9-ジフェニル-N-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン(略称:PCAPA)、N,9-ジフェニル-N-{4-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]フェニル}-9H-カルバゾール-3-アミン(略称:PCAPBA)、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,9-ジフェニル-9H-カルバゾール-3-アミン(略称:2PCAPA)、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB又はα-NPD)、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニル-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジアミン(略称:TPD)、4,4’-ビス[N-(9,9-ジメチルフルオレン-2-イル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DFLDPBi)、4,4’-ビス[N-(スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-イル)-N―フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)などの芳香族アミン化合物を用いることができる。ホスト材料は複数種用いてもよい。
【0127】
特に、青色蛍光素子の場合には、下記のアントラセン化合物をホスト材料として用いることが好ましい。
【0128】
【化45】
【0129】
【化46】
【0130】
【化47】
【0131】
電子輸送帯域は、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層等から構成される。また、電子輸送帯域のいずれかの層、特に電子輸送層は、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物、希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属を含有する有機錯体、アルカリ土類金属を含有する有機錯体、及び希土類金属を含有する有機錯体からなる群から選択される1以上を含有する。
【0132】
電子輸送層
電子輸送層は電子輸送性の高い材料(電子輸送性材料)を含む層である。電子輸送層は、陰極と発光層との間に設けられ、電子注入層が存在する場合は電子注入層と発光層との間に設けられる。電子輸送層には、例えば、
(1)アルミニウム錯体、ベリリウム錯体、亜鉛錯体等の金属錯体、
(2)イミダゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、アジン誘導体、カルバゾール誘導体、フェナントロリン誘導体等の複素芳香族化合物、
(3)高分子化合物を使用することができる。
【0133】
金属錯体としては、例えば、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(III)(略称:Alq)、トリス(4-メチル-8-キノリノラト)アルミニウム(略称:Almq3)、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(略称:BeBq2)、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(4-フェニルフェノラト)アルミニウム(III)(略称:BAlq)、ビス(8-キノリノラト)亜鉛(II)(略称:Znq)、ビス[2-(2-ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(略称:ZnPBO)、ビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(略称:ZnBTZ)が挙げられる。
【0134】
複素芳香族化合物としては、例えば、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(略称:PBD)、1,3-ビス[5-(ptert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン(略称:OXD-7)、3-(4-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-5-(4-ビフェニリル)-1,2,4-トリアゾール(略称:TAZ)、3-(4-tert-ブチルフェニル)-4-(4-エチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,2,4-トリアゾール(略称:p-EtTAZ)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)、4,4’-ビス(5-メチルベンゾオキサゾール-2-イル)スチルベン(略称:BzOs)が挙げられる。
【0135】
高分子化合物としては、例えば、ポリ[(9,9-ジヘキシルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(ピリジン-3,5-ジイル)](略称:PF-Py)、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(2,2’-ビピリジン-6,6’-ジイル)](略称:PF-BPy)が挙げられる。
【0136】
上記材料は、10-6cm/Vs以上の電子移動度を有する材料である。なお、正孔輸送性よりも電子輸送性の高い材料であれば、上記以外の材料を電子輸送層に用いてもよい。
【0137】
電子輸送層は、単層でもよく、2以上の層を含む多層でもよい。例えば、電子輸送層は第1電子輸送層(陽極側)と第2電子輸送層(陰極側)を含む層であってもよい。2以上の電子輸送層は、それぞれ前記電子輸送性材料により形成される。
【0138】
電子注入層
電子注入層は、電子注入性の高い材料を含む層である。電子注入層には、リチウム(Li)、セシウム(Cs)、カルシウム(Ca)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化カルシウム(CaF2)、リチウム酸化物(LiOx)等のアルカリ金属、アルカリ土類金属、又はそれらの化合物を用いることができる。その他、電子輸送性を有する材料にアルカリ金属、アルカリ土類金属、又はそれらの化合物を含有させたもの、具体的にはAlq中にマグネシウム(Mg)を含有させたもの等を用いてもよい。なお、この場合には、陰極からの電子注入をより効率よく行うことができる。
あるいは、電子注入層に、有機化合物と電子供与体(ドナー)とを混合してなる複合材料を用いてもよい。このような複合材料は、有機化合物が電子供与体から電子を受け取るため、電子注入性及び電子輸送性に優れている。この場合、有機化合物としては、受け取った電子の輸送に優れた材料であることが好ましく、具体的には、例えば上述した電子輸送層を構成する材料(金属錯体や複素芳香族化合物等)を用いることができる。電子供与体としては、有機化合物に対し電子供与性を示す材料であればよい。具体的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属が好ましく、リチウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、エルビウム、イッテルビウム等が挙げられる。また、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物が好ましく、リチウム酸化物、カルシウム酸化物、バリウム酸化物等が挙げられる。また、酸化マグネシウムのようなルイス塩基を用いることもできる。また、テトラチアフルバレン(略称:TTF)等の有機化合物を用いることもできる。
【0139】
陰極
陰極には、仕事関数の小さい(具体的には3.8eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物、及びこれらの混合物などを用いることが好ましい。このような陰極材料の具体例としては、元素周期表の第1族又は第2族に属する元素、すなわちリチウム(Li)やセシウム(Cs)等のアルカリ金属、及びマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属、及びこれらを含む合金(例えば、MgAg、AlLi)、ユーロピウム(Eu)、イッテルビウム(Yb)等の希土類金属及びこれらを含む合金等が挙げられる。
なお、アルカリ金属、アルカリ土類金属、これらを含む合金を用いて陰極を形成する場合には、真空蒸着法やスパッタリング法を用いることができる。また、銀ペーストなどを用いる場合には、塗布法やインクジェット法などを用いることができる。
なお、電子注入層を設けることにより、仕事関数の大小に関わらず、Al、Ag、ITO、グラフェン、珪素もしくは酸化珪素を含有した酸化インジウム-酸化スズ等様々な導電性材料を用いて陰極を形成することができる。これらの導電性材料は、スパッタリング法やインクジェット法、スピンコート法等を用いて成膜することができる。
【0140】
絶縁層
有機EL素子は、超薄膜に電界を印加するために、リークやショートによる画素欠陥が生じやすい。これを防止するために、一対の電極間に絶縁性の薄膜層からなる絶縁層を挿入してもよい。
絶縁層に用いられる材料としては、例えば、酸化アルミニウム、弗化リチウム、酸化リチウム、弗化セシウム、酸化セシウム、酸化マグネシウム、弗化マグネシウム、酸化カルシウム、弗化カルシウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化珪素、酸化ゲルマニウム、窒化珪素、窒化ホウ素、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化バナジウム等が挙げられる。なお、これらの混合物や積層物を用いてもよい。
【0141】
スペース層
上記スペース層とは、例えば、蛍光発光層と燐光発光層とを積層する場合に、燐光発光層で生成する励起子を蛍光発光層に拡散させない、あるいは、キャリアバランスを調整する目的で、蛍光発光層と燐光発光層との間に設けられる層である。また、スペース層は、複数の燐光発光層の間に設けることもできる。なお、ここでいう「キャリア」とは、物質中の電荷担体の意味である。
スペース層は発光層間に設けられるため、電子輸送性と正孔輸送性を兼ね備える材料であることが好ましい。また、隣接する燐光発光層内の三重項エネルギーの拡散を防ぐため、三重項エネルギーが2.6eV以上であることが好ましい。スペース層に用いられる材料としては、上述の正孔輸送層に用いられるものと同様のものが挙げられる。
【0142】
阻止層
電子阻止層、正孔阻止層、励起子阻止層などの阻止層を発光層に隣接して設けてもよい。電子阻止層とは発光層から正孔輸送層へ電子が漏れることを防ぐ層である。正孔輸送層が多層構造である場合は、発光層に最も近い正孔輸送層が電子阻止層として機能してもよい。正孔阻止層とは発光層から電子輸送層へ正孔が漏れることを防ぐ層である。電子輸送層が多層構造である場合は、発光層に最も近い電子輸送層が正孔阻止層として機能してもよい。励起子阻止層は発光層で生成した励起子が周辺の層へ拡散することを防止し、励起子を発光層内に閉じ込める機能を有する。
【0143】
前記有機EL素子の各層は従来公知の蒸着法、塗布法等により形成することができる。例えば、真空蒸着法、分子線蒸着法(MBE法)などの蒸着法、あるいは、層を形成する化合物の溶液を用いた、ディッピング法、スピンコーティング法、キャスティング法、バーコート法、ロールコート法等の塗布法による公知の方法で形成することができる。
【0144】
各層の膜厚は特に制限されないが、一般に膜厚が薄すぎるとピンホール等の欠陥が生じやすく、逆に厚すぎると高い駆動電圧が必要となり効率が悪くなるため、通常5nm~10μmであり、10nm~0.2μmがより好ましい。
【0145】
前記有機EL素子は、有機ELパネルモジュール等の表示部品、テレビ、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の表示装置、及び、照明、車両用灯具の発光装置等の電子機器に使用できる。
【実施例
【0146】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0147】
後述する実施例1~12の有機EL素子の製造に用いた、式(1)及び式(1-1)で表される化合物を以下に示す。
【化48】
【0148】
実施例1~12の有機EL素子の製造に用いた、式(1-2a)で表される化合物を以下に示す。
【化49】
【0149】
実施例1~12の有機EL素子の製造に用いた、式(1-2b)で表される化合物を以下に示す。
【化50】
【0150】
比較例1~12の有機EL素子の製造に用いた化合物を以下に示す。
【化51】
【0151】
実施例1~6及び比較例1~6の有機EL素子の製造に用いた、他の化合物を以下に示す。
【化52】
【0152】
【化53】
【0153】
【化54】
【0154】
実施例7~12及び比較例7~12の有機EL素子の製造に用いた、他の化合物を以下に示す。
【化55】
【0155】
<有機EL素子の作製>
有機EL素子を以下のように作製した。
【0156】
(実施例1)
25mm×75mm×厚さ1.1mmのITO透明電極付きガラス基板(ジオマテック株式会社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行った。ITO透明電極の厚さは130nmとした。
洗浄後のITO透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まずITO透明電極ラインが形成されている側の面上に、上記透明電極を覆うようにして上記化合物HT-1及び上記化合物HI-1を共蒸着して、膜厚10nmの共蒸着膜を成膜することにより、正孔注入層を形成した。正孔注入層におけるHI-1の濃度は3質量%であった。
次に、この正孔注入層上に、第1正孔輸送層材料として上記化合物HT-1を蒸着して膜厚75nmの第1正孔輸送層を形成した。
次に、この第1正孔輸送層上に、第2正孔輸送層材料として、下記合成例1で合成した化合物1を蒸着して膜厚15nmの第2正孔輸送層を形成した。
次に、この第2正孔輸送層上に、上記化合物BH-1(ホスト材料)と上記化合物BD-1(ドーパント材料)とを共蒸着し、膜厚25nmの共蒸着膜を形成した。この共蒸着膜における化合物BD-1の濃度は4質量%であった。この共蒸着膜は発光層として機能する。
次に、この発光層の上に、上記化合物ET-1を蒸着して膜厚5nmの膜を成膜し、第1電子輸送層を形成した。
次に、この第1電子輸送層の上に、上記化合物ET-2及び上記化合物ET-3を共蒸着して膜厚25nmの共蒸着膜を成膜し、第2電子輸送層を形成した。第2電子輸送層における化合物ET-3の濃度は33質量%であった。
次に、この第2電子輸送層上に、LiFを蒸着して膜厚1nmのLiF膜を成膜し、電子注入性電極(陰極)を形成した。
そして、このLiF膜上に金属Alを蒸着して膜厚50nmの金属Al膜を成膜し、金属Al陰極を形成し、実施例1の有機EL素子を得た。
実施例1の素子構成を略式的に示すと、次のとおりである。
ITO(130)/HT-1:HI-1(10:3%)/HT-1(75)/化合物1(15)/BH-1:BD-1(25:4%)/ET-1(5)/ET-2:ET-3(25:33%)/LiF(1)/Al(50)
なお、括弧内の数字は、膜厚(単位:nm)を示す。また、同じく括弧内において、パーセント表示された数字は、その層における、右側に記載した化合物の割合(質量%)を示す。以下の実施例及び比較例の対応する記載についても同様である。
【0157】
(実施例2~6)
実施例1の第2正孔輸送層に用いた化合物1に代えて、下記合成例2~6で合成した化合物2~6を、それぞれ第2正孔輸送層の正孔輸送材料として用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製し、実施例2~6の有機EL素子とした。
【0158】
(比較例1~6)
実施例1の第2正孔輸送層に用いた化合物1に代えて、上記比較化合物1~6を、それぞれ第2正孔輸送層の正孔輸送材料として用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製し、比較例1~6の有機EL素子とした。
【0159】
(実施例7)
25mm×75mm×厚さ1.1mmのITO透明電極付きガラス基板(ジオマテック株式会社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行った。ITO透明電極の厚さは130nmとした。
洗浄後のITO透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まずITO透明電極ラインが形成されている側の面上に、上記透明電極を覆うようにして合成例1で合成した化合物1及び上記化合物HI-1を共蒸着して、膜厚10nmの共蒸着膜を成膜することにより、正孔注入層を形成した。正孔注入層におけるHI-1の濃度は15質量%であった。
次に、この正孔注入層上に、第1正孔輸送層材料として合成例1で合成した化合物1を蒸着して膜厚80nmの第1正孔輸送層を形成した。
次に、この第1正孔輸送層上に、第2正孔輸送層材料として、上記化合物HT-2を蒸着して膜厚10nmの第2正孔輸送層を形成した。
次に、この第2正孔輸送層上に、上記化合物BH-1(ホスト材料)と上記化合物BD-1(ドーパント材料)とを共蒸着し、膜厚25nmの共蒸着膜を形成した。この共蒸着膜における化合物BD-1の濃度は4質量%であった。この共蒸着膜は発光層として機能する。
次に、この発光層の上に、上記化合物ET-4及び上記化合物ET-5を共蒸着して膜厚20nmの共蒸着膜を成膜し、電子輸送層を形成した。電子輸送層における化合物ET-5の濃度は50質量%であった。
次に、この電子輸送層上に、LiFを蒸着して膜厚1nmのLiF膜を成膜し、電子注入性電極(陰極)を形成した。
そして、このLiF膜上に金属Alを蒸着して膜厚50nmの金属Al膜を成膜し、金属Al陰極を形成し、実施例7の有機EL素子を得た。
実施例7の素子構成を略式的に示すと、次のとおりである。
ITO(130)/化合物1:HI-1(10:15%)/化合物1(80)/HT-2(10)/BH-1:BD-1(25:4%)/ET-4:ET-5(20:50%)/LiF(1)/Al(50)
【0160】
(実施例8~12)
実施例7の正孔注入層及び第1正孔輸送層に用いた化合物1に代えて、上記合成例2~6で合成した化合物2~6を、それぞれ、正孔注入層及び第1正孔輸送層の正孔輸送材料として用いた以外は実施例7と同様にして有機EL素子を作製し、実施例8~12の有機EL素子とした。
【0161】
(比較例7~12)
実施例7の正孔注入層及び第1正孔輸送層に用いた化合物1に代えて、上記比較化合物1~6を、それぞれ、正孔注入層及び第1正孔輸送層の正孔輸送材料として用いた以外は実施例7と同様にして有機EL素子を作製し、比較例7~12の有機EL素子とした。
【0162】
<有機EL素子の評価1>
実施例1~12及び比較例1~12で作製した有機EL素子について、電流密度が10mA/cmとなるように有機EL素子に電圧を印加し、外部量子効率の評価を行った。
<有機EL素子の評価2>
実施例1~12及び比較例1~12の有機EL素子について、電流密度が50mA/cmとなるように有機EL素子に電圧を印加し、95%寿命(LT95)の評価を行った。ここでLT95とは、定電流駆動時において、輝度が初期輝度の95%に低下するまでの時間(hr)をいう。
上記評価1及び評価2の結果を表1、表2に示す。
【0163】
【表1】
【0164】
【表2】
【0165】
表1及び表2から明らかなように、特定の構造を有する式(1)に包含される化合物1~6を有機EL素子の正孔輸送材料として用いることにより、比較化合物1~6を用いた有機EL素子では実現されない、長寿命化及び高効率化を両立し得る有機EL素子が得られることが分かる。
化合物1~6を用いた有機EL素子が、比較化合物1~6を用いた有機EL素子に比べて、寿命及び外部量子効率の両方の性能が高い理由は、これに限られるものではないが、本願に規定される化合物が、励起子を発光層に閉じ込める障壁能を高くしながら、電子や励起子に対して非常に安定な化合物となっていることによるものと推測される。
一方、比較例1~12の有機EL素子は、外部量子効率及び寿命のいずれか一方、又は、両方の性能が実施例1~12よりも低くなっている。これは、比較化合物1~6の分子構造が、化合物(1)で規定される構造から外れていることが原因で、障壁能及び安定性のうち少なくとも一方が損なわれることによるものと考えられる。
【0166】
<中間体の合成例>
(1)中間体合成例A 中間体Aの合成
【化56】
【0167】
(1-1)中間体A-1の合成
アルゴン雰囲気下、4-ブロモジベンゾフラン1200g(4.86mol)、アセトアミド573g(9.71mol)、ヨウ化銅(I)184.98g(971mmol)、N,N’-ジメチルエチレンジアミン85.62g(971mmol)、炭酸カリウム1342g(97.1mol)及びキシレン6Lの混合物を135℃にて5時間反応させた。反応液を室温まで冷却後、水4L加え1時間撹拌して結晶を析出させ、析出結晶を濾取し、水、n-ヘプタンで洗浄して、中間体A-1 950gを得た。収率は75%であった。
【0168】
(1-2)中間体A-2の合成
アルゴン雰囲気下、(1-1)で合成した中間体A-1 950g(4.22mol)の酢酸7.1L溶液に、臭素809g(5.06mol)を添加し室温で6時間撹拌した。得られた溶液に水7Lを滴下し、チオ硫酸ナトリウム63gを添加後、室温で終夜撹拌し、結晶を析出させた。析出結晶を濾取し、水、メタノール、トルエン、n-ヘプタンで順次洗浄し、中間体A-2 1044gを得た。収率は78%であった。
【0169】
(1-3)中間体A-3の合成
(1-2)で合成した中間体A-2 1044g(3.43mmol)の、キシレン5L及びエチレングリコール700mLの混合液の溶液に、水酸化カリウム1925g(34.3mmol)を添加し、130℃で24時間撹拌した。得られた溶液にエチレングリコール500mLを添加し130℃でさらに3日間撹拌し反応させた。反応液を冷却し、水3Lを加え分液し有機層を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、中間体A-3 721gを得た。収率は80%であった。
【0170】
(1-4)中間体Aの合成
アルゴン雰囲気下、(1-3)で合成した中間体A-3 721g(2.75mol)のアセトニトリル3.6Lおよび水3.6Lの溶液に、-5~15℃で濃硫酸2698g(27.5mmol)を滴下し、-5℃で30分間撹拌した。次に、得られた溶液に、-3℃以下に温度を維持しながら亜硝酸イソアミル483g(4.13mol)を滴下し、-5℃で1時撹拌した。次いで-2℃以下を維持しながら次亜リン酸908g(13.8mol)を溶液に滴下した。次いで溶液にメタノールを3L加え、室温で終夜撹拌して反応させた。反応液にトルエンを加えて分液し、トルエン層を飽和食塩水で洗浄した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、中間体A 418gを得た。収率は61.4%であった。
【0171】
(2)中間体合成例B 中間体Bの合成
(2-1)中間体B-1の合成
【化57】

アルゴン雰囲気下、国際公開第2019/146781号公報に記載の方法に準じて合成した4-(1-ナフタレニル)フェニルボロン酸 3.72g(15mmol)、4-ブロモクロロベンゼン2.87g(15mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)347mmol(0.30mmol),2M炭酸ナトリウム水溶液22.5mLおよびトルエン45mLの混合物を100℃にて7時間攪拌した。室温に戻し、水を加え、トルエンで抽出を行い、得られたトルエン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、白色固体 3.07gを得た。収率65%であった。
【0172】
(2-2)中間体Bの合成
【化58】

アルゴン雰囲気下、国際公開第2016/006711号公報に記載の方法に準じて合成した4-(ジベンゾ[b,d]フラン-4-イル)ベンゼンアミン 67g(258 mmol)、(2-1)で合成した中間体B-1 54g(172 mmol)のキシレン 1.2L溶液を100℃に加熱し、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 3.14g(3.43 mmol)、XPhos 3.27g(6.86 mmol)、ナトリウム-t-ブトキシド 19.78g(206 mmol)を加え130℃にて3時間攪拌し反応させた。反応液を室温に冷却し、メタノールを加え濾過した。得られた残渣をトルエンに溶解させ、シリカゲルを加え30分撹拌したのち濾過した。得られた濾液にメタノールを加え、濾過することで、白色固体70gを得た。収率は76%であった。
【0173】
(3)中間体合成例C 中間体Cの合成
【化59】

窒素雰囲気下、1-アミノジベンゾフラン 3.66g(20 mmol)、4-ブロモ-1,1’-ビフェニル 4.66g(20 mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 0.366g(0.40 mmol)、BINAP 0.498g(0.80 mmol)、ナトリウム-t-ブトキシド 2.307g(24 mmol)のトルエン 100mL溶液を110℃にて、7時間攪拌し反応させた。反応液を室温に冷却し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび再結晶にて精製し、白色固体4.88gを得た。収率は73%であった。
【0174】
(4)中間体合成例D 中間体Dの合成
【化60】

窒素雰囲気下、1-アミノジベンゾフラン 3.66g(20 mmol)、4-ブロモ-1,1’-ビフェニルの代わりに4-ブロモ-1,1':4',1''-ターフェニル 6.18g(20 mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 0.366g(0.40 mmol)、BINAP 0.498g(0.80 mmol)、ナトリウム-t-ブトキシド 2.307g(24 mmol)のトルエン 100mL溶液を110℃にて、7時間攪拌し反応させた。反応液を室温に冷却し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび再結晶にて精製し、白色固体6.25gを得た。収率は76%であった。
【0175】
(5)中間体合成例E 中間体Eの合成
【化61】

アルゴン雰囲気下、国際公開第2016/006711号公報に記載の方法に準じて合成した4-(ジベンゾ[b,d]フラン-4-イル)ベンゼンアミン 3.89g(15 mmol)、国際公開第2012/091471号公報に記載の方法に準じて合成した4”-ブロモ-1,1’:4’,1”-ターフェニル-2,3,4,5,6-d5 4.71g(15 mmol)のキシレン 75 mL溶液を100℃に加熱し、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 0.274g(0.30 mmol)、XPhos 0.572g(1.2 mmol)、ナトリウム-t-ブトキシド 2.16g(22.5 mmol)を加え130℃にて3時間攪拌し反応させた。反応液を室温に冷却し、メタノールを加え濾過した。得られた残渣をトルエンに溶解させ、シリカゲルを加え30分撹拌したのち濾過した。得られた濾液にメタノールを加え、濾過することで、白色固体5.25gを得た。収率は71%であった。
【0176】
<合成実施例1(化合物1の合成)>
【化62】

アルゴン雰囲気下、中間体合成例Aで合成した中間体A 14.9g(60.3 mmol)、国際公開第2007/125714号公報に記載の方法に準じて合成したN-(4-(ジベンゾ[b,d]フラン-4-イル)フェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4-アミン 23.6g(57.4 mmol)、酢酸パラジウム(II) 0.258g(1.149 mmol)、トリ-t-ブチルホスフィン 0.465g(2.298 mmol)のキシレン 436mL溶液を120℃に加熱し、ナトリウム-t-ブトキシド 6.62g(68.9 mmol)を加え1時間撹拌し反応させた。反応液を室温に冷却し、セライト濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび再結晶にて精製し、白色固体20.6gを得た。
得られた物質は、マススペクトル分析の結果、上記化学構造式で示される化合物1であると同定され、分子量577.20に対しm/e=577であった。収率は62%であった。
【0177】
<合成実施例2(化合物2の合成)>
【化63】

アルゴン雰囲気下、中間体合成例Aで合成した中間体A 14.9g(60.3 mmol)、国際公開第2010/061824号公報に記載の方法に準じて合成したN-(4-(ジベンゾ[b,d]フラン-4-イル)フェニル)-[1,1’:4’,1’’-ターフェニル]-4-アミン 28.0g(57.4 mmol)、酢酸パラジウム(II) 0.258g(1.149 mmol)、トリ-t-ブチルホスフィン 0.465g(2.298 mmol)のキシレン 436mL溶液を120℃に加熱し、ナトリウム-t-ブトキシド 6.62g(68.9 mmol)を加え1時間撹拌した。反応液を室温に冷却し、セライト濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび再結晶にて精製し、白色固体25.6gを得た。
得られた物質は、マススペクトル分析の結果、上記化学構造式で示される化合物2であると同定され、分子量653.24に対しm/e=653であった。収率は68%であった。
【0178】
<合成実施例3(化合物3の合成)>
【化64】

アルゴン雰囲気下、中間体合成例Aで合成した中間体A 47.87g(89 mmol)、中間体合成例Bで合成した中間体B 22g(89 mmol)、酢酸パラジウム(II) 0.4g(1.781 mmol)、トリ-t-ブチルホスフィン 0.72g(3.56 mmol)のキシレン 700mL溶液を90℃に加熱し、ナトリウム-t-ブトキシド 10.27g(107 mmol)を加え110℃にて22時間攪拌し反応させた。反応液を室温に冷却し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび再結晶にて精製し、白色固体46gを得た。
得られた物質は、マススペクトル分析の結果、上記化学構造式で示される化合物3であり、分子量703.84に対しm/e=704であった。収率は73%であった。
【0179】
<合成実施例4(化合物4の合成)>
【化65】

アルゴン雰囲気下、中間体合成例Cで合成した中間体C 4.2g(12.52 mmol)、国際公開第2018/164239号公報に記載の方法に準じて合成した3-(4-クロロフェニル)ジベンゾ[b,d]フラン 3.84g(13.77 mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 0.229g(0.250 mmol)、トリ-t-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート 0.291g(1.00 mmol)、ナトリウム-t-ブトキシド 3.61g(37.6 mmol)のキシレン 62.6mL溶液を125℃にて7時間攪拌し反応させた。反応液を室温に冷却し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび再結晶にて精製し、白色固体3.99gを得た。
得られた物質は、マススペクトル分析の結果、上記化学構造式で示される化合物4であり、分子量577.68に対しm/e=578であった。収率は53%であった。
【0180】
<合成実施例5(化合物5の合成)>
【化66】

アルゴン雰囲気下、中間体合成例Dで合成した中間体D 4.12g(10.0 mmol)、国際公開第2016/199784号公報に記載の方法に準じて合成した4-(4-ブロモフェニル)ジベンゾ[b,d]チオフェン 3.46g(10.2 mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 0.183g(0.20 mmol)、トリ-t-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート 0.232g(0.80 mmol)、ナトリウム-t-ブトキシド 1.44g(15 mmol)のトルエン 50mL溶液を100℃にて7時間攪拌し反応させた。反応液を室温に冷却し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび再結晶にて精製し、白色固体1.66gを得た。
得られた物質は、マススペクトル分析の結果、上記化学構造式で示される化合物5であり、分子量669.84に対しm/e=670であった。収率は25%であった。
【0181】
<合成実施例6(化合物6の合成)>
【化67】

アルゴン雰囲気下、中間体合成例Aで合成した中間体A 2.47g(10 mmol)、中間体合成例Eで合成した中間体E 4.93g(10 mmol)、酢酸パラジウム(II) 0.045g(0.2 mmol)、トリ-t-ブチルホスフィン 0.162g(0.8 mmol)のキシレン 700mL溶液を90℃に加熱し、ナトリウム-t-ブトキシド 1.44g(15 mmol)を加え110℃にて4時間攪拌し反応させた。反応液を室温に冷却し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび再結晶にて精製し、白色固体4.28gを得た。
得られた物質は、マススペクトル分析の結果、上記化学構造式で示される化合物6であり、分子量658.81に対しm/e=659であった。収率は65%であった。
【符号の説明】
【0182】
1、11 有機EL素子
2 基板
3 陽極
4 陰極
5 発光層
6 正孔輸送帯域(正孔輸送層)
6a 第1正孔輸送層
6b 第2正孔輸送層
7 電子輸送帯域(電子輸送層)
7a 第1電子輸送層
7b 第2電子輸送層
10、20 発光ユニット

図1
図2