(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】成形性に優れた生分解性フック型成形面ファスナー
(51)【国際特許分類】
A44B 18/00 20060101AFI20240327BHJP
C08L 3/02 20060101ALI20240327BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20240327BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
A44B18/00
C08L3/02
C08L29/04 B
C08L67/02
(21)【出願番号】P 2021509575
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013591
(87)【国際公開番号】W WO2020196722
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2019062679
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 宣広
(72)【発明者】
【氏名】小野 悟
(72)【発明者】
【氏名】井出 潤也
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 佳克
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-26538(JP,A)
【文献】特開2001-192401(JP,A)
【文献】特開平11-124494(JP,A)
【文献】特開平2-298525(JP,A)
【文献】特開2013-49759(JP,A)
【文献】特開2015-48445(JP,A)
【文献】特開平6-38811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B18/00
B29D5/00-5/10
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板およびその表面から突出する多数のフック型係合素子を有し、該基板および該フック型係合素子が、ともに、ポリブチレンサクシネート(A)を連続相、澱粉(B)を分散相とする樹脂混合物からなり、以下の条件(1)~(3)
及び(ア),(イ)を同時に満足するフック型成形面ファスナー。
(1)分散相がポリビニルアルコール(C)を含むこと、
(2)澱粉(B)が変性澱粉を含み、かつ澱粉(B)のアミロース含有量が45重量%以上であること、
(3)フック型係合素子が、基板表面から先端部に行くに従って細くなっており、かつ途中から徐々に曲がり、先端部は基板表面に僅かに近づく方向を向いている形状を有していること、
(ア)澱粉(B)とポリビニルアルコール(C)の合計重量に対するポリビニルアルコール(C)の割合が2~75重量%であること、
(イ)ポリブチレンサクシネート(A)、澱粉(B)およびポリビニルアルコール(C)の合計重量に対するポリブチレンサクシネート(A)の割合が45~92重量%であること。
【請求項2】
変性澱粉がヒドロキシアルキル基を含有するエーテル化澱粉である請求項
1に記載のフック型成形面ファスナー。
【請求項3】
分散相が粘土を含む請求項1
または2に記載のフック型成形面ファスナー。
【請求項4】
分散相が澱粉(B)に対して3~30重量%の水分を含んでいる請求項1~
3のいずれかに記載のフック型成形面ファスナー。
【請求項5】
分散相が飽和脂肪酸またはその金属塩を含む請求項1~
4のいずれかに記載のフック型成形面ファスナー。
【請求項6】
下記(4)および(5)を満足するフック型係合素子形状のキャビティを表面に多数有する金属ロールの表面を、溶融した下記(6)の樹脂混合物でシート状に覆うと同時に該キャビティに溶融した下記(6)の樹脂混合物を圧入し、該樹脂混合物が固化した後に金属ロール表面から同樹脂混合物のシートを剥がすと共に該キャビティから同樹脂混合物を引き抜く工程を有するフック型成形面ファスナーの製造方法。
(4)該キャビティは、金属ロール面から先端部に行くに従って細くなっており、かつ途中から徐々に金属ロール円周方向に沿って曲がり、先端部は金属ロール面に僅かに近づく方向を向いていること、
(5)金属ロール表面には、複数のキャビティが該金属ロール円周方向に列をなして並んでおり、更にそのような列が金属ロール幅方向に複数列存在しており、円周方向に伸びる1列または複数例のフック型係合素子形状のキャビティと円周方向に伸びる1列または複数例の逆方向に曲がったフック型係合素子形状のキャビティが交互に配置されていること、
(6)前記樹脂混合物が、ポリブチレンサクシネート(A)を連続相、澱粉(B)を分散相としており、分散相にはポリビニルアルコール(C)が混合され、かつ澱粉(B)が変性澱粉を含み、かつ澱粉(B)のアミロース含有量が45重量%以上であり、
澱粉(B)とポリビニルアルコール(C)の合計重量に対するポリビニルアルコール(C)の割合が2~75重量%であり、
ポリブチレンサクシネート(A)、澱粉(B)およびポリビニルアルコール(C)の合計重量に対するポリブチレンサクシネート(A)の割合が45~92重量%であること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造中にフック型係合素子が破断したりすることが殆どなく、その結果、得られた成形面ファスナーの外観がよく、使用中には高い係合力が得られ、廃棄された後に適当な期間で自然に分解し、その結果、環境破壊をもたらすことがないフック型成形面ファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、2つの物体を互いに取り付ける手段の一つとして、一方の物体の表面にフック型係合素子を有する面ファスナーを固定するとともに、他方の物体の表面にループ型係合素子を有する面ファスナーを固定し、両方の面ファスナーの係合素子面を重ね合わせて両方の係合素子を係合させることにより、2つの物体を固定する方法が用いられている。また、棒状の物体や線状の物体を結束する結束バンドとして、テープの一方の端部の表面にループ状係合素子を有する面ファスナーを取り付け、他方の端部の裏面にフック型係合素子を有する面ファスナーを取り付けたテープが広く知られている。
【0003】
近年、自然界に廃棄されたプラスチック製品が、分解されることなく自然界に蓄積されて環境を汚染することが問題になっており、自然環境を汚染しない生分解性の樹脂からなる製品が求められている。面ファスナーにおいても、特に農林水産業、土木建築、使い捨て用品等の分野に用いられる面ファスナーにおいて、使用後に自然環境中に廃棄されても比較的短期間で分解してしまう、いわゆる生分解性を有する面ファスナーが求められている。
【0004】
このような要求に応える生分解性の面ファスナーとして、特許文献1には、ポリブチレンサクシネートまたはポリエチレンアジペートを主体とする生分解性樹脂からなる成形面ファスナーが提案されている。
【0005】
ポリブチレンサクシネートやポリエチレンアジペ―トなどからなる成形面ファスナーは、生分解性を有するため環境汚染を防ぐことができると言われている。しかし、実際には自然環境中での分解速度が遅く、例えば土中に廃棄された場合、これらの樹脂製の成形面ファスナーは、1年経過後においても、成形面ファスナーの当初の形を保持したままである。従って、速やかに分解して環境汚染を防止するという要求に必ずしも合致しない。
【0006】
さらに、特許文献1には、このような生分解性樹脂からなる成形面ファスナーは強度が高いと記載されている。
フック型係合素子を表面に有する成形面ファスナーの製造方法の一つとして、金型表面に溶融樹脂をシート状に流すとともに、金型表面に空けたフック形状のキャビティに溶融樹脂を圧入し、冷却後にキャビティから引き抜くとともに金型表面からシートを剥がす方法(“引き抜き成形方法”と後述することもある)が知られている。
本発明者らは、特許文献1に記載の成形面ファスナーをこの方法で製造すると、キャビティからの引き抜きの際にフック型係合素子が折れることを見出した。
折れたフック型係合素子を有する成形面ファスナーの外観は悪く、商品価値が大きく低下する。
【0007】
一方、このような生分解性樹脂製の成形面ファスナーの機械的強度を高める方法として、特許文献2には、ポリブチレンサクシネートと澱粉からなり、澱粉がポリブチレンサクシネート中に粒子状に分散している樹脂材料からなる成形面ファスナーが提案されている。
【0008】
特許文献2に記載されている樹脂材料からなる成形面ファスナーは自然環境中での分解速度が高く、上記した分解速度が遅いという問題は解決される。しかし、特許文献2の成形面ファスナーも、引き抜き成形で製造すると、キャビティから引き抜く際にフック型係合素子が折れ易く、強度に関しては殆ど改善されていない。むしろ、ポリブチレンサクシネート単独からなる樹脂材料を用いる場合よりも強度が低下することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-124494号公報
【文献】特開平11-181261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、
廃棄された後に自然環境中で速やかに分解して環境破壊を起こすことがなく、
前記引き抜き成形方法で製造する際に、フック形状のキャビティから引き抜く際にフック型係合素子が折れることが殆どなく、また、基板シートを金型表面から剥離する際に基板シートに裂け目が入ることが殆どなく、その結果、成形面ファスナーの外観がよく、かつ
ループ状係合素子と係合して高い係合力を示す
フック型成形面ファスナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、下記(I)~(VIII)を提供する。
【0012】
(I)基板およびその表面から突出する多数のフック型係合素子を有し、該基板および該フック型係合素子が、ともに、ポリブチレンサクシネート(A)を連続相、澱粉(B)を分散相とする樹脂混合物からなり、以下の条件(1)~(3)を同時に満足するフック型成形面ファスナー。
(1)分散相がポリビニルアルコール(C)を含むこと、
(2)澱粉(B)が変性澱粉を含み、かつ澱粉(B)のアミロース含有量が45重量%以上であること、
(3)フック型係合素子が、基板表面から先端部に行くに従って細くなっており、かつ途中から徐々に曲がり、先端部は基板表面に僅かに近づく方向を向いている形状を有していること。
【0013】
(II)澱粉(B)とポリビニルアルコール(C)の合計重量に対するポリビニルアルコール(C)の割合が2~75重量%である(I)のフック型成形面ファスナー。
【0014】
(III)ポリブチレンサクシネート(A)、澱粉(B)およびポリビニルアルコール(C)の合計重量に対するポリブチレンサクシネート(A)の割合が45~90重量%である(I)または(II)のフック型成形面ファスナー。
【0015】
(IV)変性澱粉が、ヒドロキシアルキル基を含有するエーテル化澱粉である(I)~(III)のいずれかのフック型成形面ファスナー。
【0016】
(V)分散相が粘土を含む(I)~(IV)のいずれかのフック型成形面ファスナー。
【0017】
(VI)分散相が澱粉(B)に対して3~30重量%の水分を含んでいる(I)~(V)のいずれかのフック型成形面ファスナー。
【0018】
(VII)分散相が飽和脂肪酸またはその金属塩を含む(I)~(VI)のいずれかにのフック型成形面ファスナー。
【0019】
(VIII)下記(4)および(5)を満足するフック型係合素子形状のキャビティを表面に多数有する金属ロールの表面を、溶融した下記(6)の樹脂混合物でシート状に覆うと同時に該キャビティに溶融した下記(6)の樹脂混合物を圧入し、
該樹脂混合物が固化した後に金属ロール表面から同樹脂混合物のシートを剥がすと共に該キャビティから同樹脂混合物を引き抜く工程を有するフック型成形面ファスナーの製造方法。
(4)該キャビティは、金属ロール面から先端部に行くに従って細くなっており、かつ途中から徐々に金属ロール円周方向に沿って曲がり、先端部は金属ロール面に僅かに近づく方向を向いていること、
(5)金属ロール表面には、複数のキャビティが該金属ロール円周方向に列をなして並んでおり、更にそのような列が金属ロール幅方向に複数列存在しており、円周方向に伸びる1列または複数例のフック型係合素子形状のキャビティと円周方向に伸びる1列または複数例の逆方向に曲がったフック型係合素子形状のキャビティが交互に配置されていること、
(6)前記樹脂混合物が、ポリブチレンサクシネート(A)を連続相、澱粉(B)を分散相としており、分散相にはポリビニルアルコール(C)が混合され、かつ澱粉(B)が変性澱粉を含み、かつ澱粉(B)のアミロース含有量が45重量%以上であること。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、ポリブチレンサクシネート(A)、澱粉(B)、およびポリビニルアルコール(C)を含む樹脂混合物を成形材料として用いる。ポリブチレンサクシネート(A)が連続相、澱粉(B)が分散相を形成し、該分散相にはポリビニルアルコール(C)が混合されている。澱粉(B)は変性澱粉を含み、かつ、澱粉(B)のアミロース含有量は45重量%以上である。このような樹脂混合物を成形材料として用いることにより、ポリブチレンサクシネート単独の場合と比べて樹脂混合物の分解速度が速くなり、自然界に廃棄された後、速やかに生分解して自然界に戻るので環境汚染や環境破壊を防ぐことができる。
【0021】
また、前記樹脂混合物をフック型成形面ファスナーの材料として用いることにより、キャビティからフック型係合素子を引き抜く際に、フック型係合素子がその途中で折れ易い問題や金型表面から面ファスナーの基板シートを剥離する際に裂け目が入り易い問題が解消できる。
これらの効果は、澱粉(B)にポリビニルアルコール(C)が混合されていること、澱粉(B)が変性澱粉を含むこと、さらに澱粉(B)のアミロース含有量が45重量%以上であることの3つの要件が組み合わされて初めて高度に達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のフック型成形面ファスナーの一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明のフック型成形面ファスナーの一例を模式的に示した斜視図である。基板1の表面から多数のフック型係合素子2が立ち上がっている。
図1に示すように、曲がっている方向(
図1に示す手前の列のフック型係合素子は
図1に示すQの方向に曲がっている)が同一である複数のフック型係合素子が一列に並んでいる。さらに1列おきにあるいは複数列おきに(
図1では1列おきに)曲がっている方向が逆(すなわち
図1に示すPの方向)である複数のフック型係合素子が一列に並んでいる。フック型係合素子は、根元から先端部に行くに従って細くなっており、かつ途中から徐々に曲がり、先端部は基板表面に僅かに近づく方向を向いている(以下、この形状を“波型”と称すことがある)。
【0024】
このような波型のフック型成形面ファスナーは、波型のキャビティを表面に多数有する金属ロールの表面を、溶融樹脂でシート状に覆うと同時に該キャビティにも溶融した同じ樹脂を圧入して、該樹脂が固化した後に金属ロール表面からシート状に固化した樹脂を剥がすと共に波型のフック型係合素子を該キャビティからも引き抜くことにより得られる。
【0025】
前記以外の金型内のキャビティからフック型係合素子を引き抜く工程を含む成形面ファスナーを製造する方法として、金型表面から垂直方向にまっすぐに伸びる棒状キャビティ内で樹脂を固化し、該キャビティから棒状に固化した樹脂を引き抜き、該棒状に固化した樹脂の頂部を加熱し、押し曲げてフック型係合素子を製造する方法もある。この方法の場合には、引き抜き時にフック型係合素子が折れる可能性が少ないが、キャビティから引き抜き後に加熱して先端を曲げる工程が必要となる。さらに、フック型係合素子の形状は、上記製造方法で得られたフック型係合素子に比べると不揃いであり、外観が悪い。しかも、フック型係合素子は途中で膨らんでいるので、上記製造方法で得られたフック型係合素子(本発明のフック型係合素子)とは著しく相違する。
【0026】
本発明のフック型成形面ファスナーを形成する樹脂混合物は、前記したように、ポリブチレンサクシネート(A)、澱粉(B)およびポリビニルアルコール(C)を必須成分として含む。
【0027】
ポリブチレンサクシネート(A)は、1,4-ブタンジオールとコハク酸から合成される脂肪族ポリエステル系樹脂である。生分解性の樹脂として広く一般に市販されており、本発明ではそれらを使用することができる。
ポリブチレンサクシネート(A)は、上記原料モノマー成分以外の共重合モノマー成分を少量、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよく、また各種安定剤や顔料、染料等が添加されていてもよい。
【0028】
生分解性樹脂としては、ポリブチレンサクシネートの他に、ポリ乳酸、ポリエチレンアジペ―ト、ポリカプロラクトン等が代表例として挙げられる。しかし、澱粉及びポリビニルアルコールとの親和性、成形性等の点で、本発明ではポリブチレンサクシネートが用いられる。もちろん、ポリブチレンサクシネート以外の生分解性樹脂を少量、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0029】
澱粉(B)は未変性澱粉と変性澱粉を含み、好ましくは変性澱粉100重量部に対して未変性澱粉を好ましくは0~122重量部、より好ましくは0~100重量部、さらに好ましくは0~82重量部、特に好ましくは0重量部(すなわち、澱粉(B)の全量が変性澱粉)含む。変性澱粉としては、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉および架橋澱粉からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられ、後述する澱粉を変性することにより得られる。
【0030】
澱粉としては、キャッサバ、トウモロコシ、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、豆、ハス、小麦、コメ、オート麦等に由来する澱粉が挙げられる。中でもトウモロコシ澱粉およびキャッサバ澱粉が好ましく、高アミロースのトウモロコシ澱粉がさらに好ましい。澱粉は単独または2種以上の混合物であってよい。これらの澱粉を変性して変性澱粉とする。なお、上記澱粉の大半はアミロペクチンを主成分とするものであり、アミロースを主成分とする澱粉はわずかである。本発明で規定する条件「澱粉(B)のアミロース含有量が45重量%以上である」を満足するためには、高アミロース澱粉を選択する必要がある。
【0031】
エーテル化澱粉としては、メチルエーテル化澱粉で代表されるアルキルエーテル化澱粉;カルボキシメチルエーテル化澱粉で代表されるカルボキシアルキルエーテル化澱粉;炭素原子数が2~6個であるヒドロキシアルキル基を有するエーテル化澱粉で代表されるヒドロキシアルキルエーテル化澱粉;アリルエーテル化澱粉等が挙げられる。
【0032】
エステル化澱粉としては、酢酸等のカルボン酸由来の構造単位を有するエステル化澱粉;マレイン酸無水物、フタル酸無水物、オクテニルスクシン酸無水物等のジカルボン酸無水物由来の構造単位を有するエステル化澱粉;硝酸、リン酸等の無機酸由来の構造単位を有するエステル化澱粉;尿素リン酸エステル化澱粉;キサントゲン酸エステル化澱粉;アセト酢酸エステル化澱粉等が挙げられる。
【0033】
カチオン化澱粉としては、澱粉と2-ジエチルアミノエチルクロライドとの反応物;澱粉と2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドとの反応物等が挙げられる。
【0034】
架橋澱粉としては、ホルムアルデヒド架橋澱粉、エピクロルヒドリン架橋澱粉、リン酸架橋澱粉、アクロレイン架橋澱粉等が挙げられる。
【0035】
本発明の効果を達成する上で、炭素原子数が2~6個であるヒドロキシアルキル基を有するエーテル化澱粉が好ましく、プロピレンオキサイドを反応させることにより変性したヒドロキシプロピル基を含有するエーテル化澱粉が特に好ましい。
【0036】
澱粉(B)のアミロース含有量(アミロース系澱粉の含有量)は45重量%以上である。アミロース含有量が45重量%未満の場合には、金型のキャビティから引き抜く際に、フック型係合素子が折れたり、フック型係合素子又は基板に裂け目が入ったりする。
アミロース含有量は、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは55重量%以上である。
【0037】
前述したように、澱粉(B)は全量が変性澱粉であることが好ましい。この場合、変性澱粉が含むアミロースの含有量が澱粉(B)のアミロース含有量である。
澱粉(B)が変性澱粉と未変性澱粉を含む場合は、変性澱粉と未変性澱粉の合計重量に対する変性澱粉中のアミロースと未変性澱粉中のアミロースの合計重量の割合が澱粉(B)のアミロース含有量である。
【0038】
したがって、澱粉(B)は、高アミロース含有量の変性澱粉と低アミロース含有量の未変性澱粉、あるいは、低アミロース含有量の変性澱粉と高アミロース含有量の未変性澱粉を澱粉(B)のアミロース含有量が45重量%以上となる割合で含む混合物であってもよい。未変性澱粉を含んでいる場合であっても、澱粉(B)のアミロース含有量は45重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは55重量%以上である。
【0039】
なお、天然由来の澱粉のアミロース含有量は通常90重量%を超えることは殆どない。したがって、澱粉(B)のアミロース含有量は、通常90重量%以下である。
【0040】
本発明で使用する未変性澱粉及び変性澱粉は市販品から選ぶことができる。
【0041】
ポリビニルアルコール(C)の鹸化度は85~99.8モル%であることが好ましい。特に、鹸化度が99.0~99.8モル%である完全鹸化の未変性ポリビニルアルコールが、引き抜き成形時のフック型係合素子の折れや基板シートの裂けの発生を高度に阻止できるので好ましい。
ポリビニルアルコール(C)は、JIS Z 8803に準拠して測定したポリビニルアルコール(C)の4%水溶液の20℃での粘度が3mPa・s~60Pa・sであることが好ましい。
【0042】
本発明のフック型成形面ファスナーの基板及びフック型係合素子は、ポリブチレンサクシネート(A)、澱粉(B)およびポリビニルアルコール(C)を含む樹脂混合物により形成され、ポリブチレンサクシネート(A)が連続相、澱粉(B)が分散相を形成し、ポリビニルアルコール(C)が分散相(澱粉(B))に混合されている。
【0043】
ポリブチレンサクシネート(A)が連続相、澱粉(B)が分散相を形成することにより、引き抜き成形時のフック型係合素子の折れや基板シートの裂けの発生を高度に阻止できる。ポリブチレンサクシネート(A)が連続相、澱粉(B)が分散相を形成するためには、ポリブチレンサクシネート(A)、澱粉(B)、およびポリビニルアルコール(C)の合計重量に対するポリブチレンサクシネート(A)の割合が好ましくは45重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは55重量%以上であればよい。
【0044】
ポリブチレンサクシネート(A)の割合が高過ぎ、澱粉(B)割合が低過ぎる場合には、生分解速度が遅くなり、自然界に廃棄された後、自然的副産物に分解されるまでに長時間を要する。したがって、ポリブチレンサクシネート(A)、澱粉(B)、およびポリビニルアルコール(C)の合計重量に対するポリブチレンサクシネート(A)の割合は、92重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましく、85重量%以下がさらに好ましい。
すなわち、ポリブチレンサクシネート(A)、澱粉(B)、およびポリビニルアルコール(C)の合計重量に対するポリブチレンサクシネート(A)の割合は、好ましくは45、50または55重量%以上、かつ、85、90または92重量%以下であり、特に好ましくは55~85重量%である。
【0045】
澱粉(B)とポリビニルアルコール(C)の合計重量に対するポリビニルアルコール(C)の重量は2~75重量%が好ましい。2重量%未満であると、引き抜き成形時のフック型係合素子の折れを阻止することが難く、75重量%を超えると、分解速度が遅くなり、自然界に廃棄された後、自然的副産物に分解されるまでに長時間を要する。より好ましくは5~70重量%である。
【0046】
引き抜き成形時のフック型係合素子の折れや基板シートの裂けの発生を阻止するために、分散相中には粘土が混合されているのが好ましい。粘土としては、合成または天然の層状ケイ酸塩粘土、例えばモンモリロナイト、ベントナイト、バイデライト、雲母(マイカ)、ヘクトライト、サポナイト、ノントロナイト、ソーコナイト、バーミキュライト、レディカイト、マガダイト、ケニヤアイト、スチーブンサイト、ヴォルコンスコイト等が挙げられ、これらの粘土の変性物でもよい。前記粘土の分散相への添加量は澱粉(B)に対して0.1~5重量%が好ましく、より好ましくは0.5~2重量%である。
【0047】
引き抜き成形時のフック型係合素子の折れや基板シートの裂けの発生を阻止するために、分散相中には飽和脂肪酸またはその金属塩が添加されているのが好ましい。飽和脂肪酸またはその金属塩が添加されていることにより、澱粉分子間の滑りが良くなり、その結果、引き抜き成形時のフック型係合素子の折れや基板シートの裂けを防ぐことができる。
【0048】
飽和脂肪酸またはその金属塩として、炭素原子数が12~22個である脂肪酸とその金属塩が挙げられ、例えばステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、リノレイン酸、ベヘニン酸、およびこれら酸のナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩等が挙げられる。飽和脂肪酸またはその金属塩の添加量は成分(B)に対して0.01~5重量%である。
【0049】
分散相が澱粉(B)に対して3~30重量%の水分を含んでいるのが、引き抜き成形時のフック型係合素子の折れの発生を阻止する上で好ましい。5~20重量%の水分を含んでいることがより好ましい。
【0050】
ポリブチレンサクシネート(A)、澱粉(B)、ポリビニルアルコール(C)、および前記任意成分(粘土、飽和脂肪酸、その金属塩)を混合する方法としては、面ファスナーを成形する際に同時に混合する方法、面ファスナーの成形に先立って全ての成分を同時にブレンドしてペレット化しておく方法がある。
【0051】
しかし、澱粉(B)(以下、“成分(B)”と記載することもある)、ポリビニルアルコール(C)(以下、“成分(C)”と記載することもある)および任意成分を予め溶融混合してペレット化しておき、このペレットとポリブチレンサクシネート(A)(以下、“成分(A)”と記載することもある)のペレットを混合して溶融し、面ファスナーの成形に使用する方法が、強度等の物性値の高い面ファスナーが得られるので好ましい。
この際、成分(B)、成分(C)および任意成分からなるペレットと成分(A)のペレットを溶融混合して一旦ペレット化し、このペレットを面ファスナーの成形に使用しても、あるいは、成分(B)、成分(C)および任意成分からなるペレットと成分(A)のペレットを溶融混合し、ペレット化することなく面ファスナーの成形に用いてもよい。
【0052】
成分(B)、成分(C)および任意成分を予め溶融混合してペレット化する方法としては、
成分(B)、成分(C)および任意成分を加熱溶融しながら混合する工程(a)、
溶融混合物をダイから押出す工程(b)、および
押出された溶融混合物を冷却および乾燥する工程(c)
を順次行う方法が好適に用いられる。
【0053】
工程(a)は、通常、押出機を用いて行う。押出機中では、スクリューにより各成分にせん断応力を与え、外部から加熱したバレルの熱により加熱しながら成分(B)、成分(C)および任意成分を均質に混合する。押出機としては、1軸または2軸スクリュー押出機を用いることができる。2軸スクリュー押出機は、共回転式または逆回転式のいずれであってもよい。スクリュー直径は20~150mmが好ましく、押出機長さ(L)とスクリュー直径(D)の比L/Dは20~50が好ましい。スクリューの回転速度は80rpm以上が好ましく、より好ましくは100rpm以上である。押出圧力は5バール(0.5MPa)以上が好ましく、より好ましくは10バール(1.0MPa)以上である。成分(B)、成分(C)および任意成分は、別々に、押出機中へ直接供給してもよいし、これらの成分をミキサーにより予備混合した後に押出機中へ供給してもよい。
【0054】
前記工程(a)は120~180℃で行うことが好ましく、より好ましくは160~180℃で行う。120℃以上で行うことにより、成分(C)が粗大粒子化することを抑えて、適度の粒径の粒子が分散した状態にすることができる。この工程により、成分(B)中の澱粉粒子が破砕されゲル化される。この澱粉粒子の破砕とゲル化により成形面ファスナーの強度等の物性値が向上する。
【0055】
工程(a)において、押出機の比較的初期段階において水を導入してもよい。例えば、上記加熱温度に達する前の100℃以下のときに水を導入してもよいし、上記加熱温度(120~180℃)に到達した後に水を導入してもよい。成分(B)は、水分、熱およびせん断応力の組み合わせにより、ゼラチン(ゲル)化される。また、水を導入することにより、成分(C)を溶解し、成分(B)と成分(C)からなる樹脂混合物を軟化させ、モジュラスおよび脆性を低下させることができる。その結果、成形面ファスナーの強度等の物性を高めることができる。
【0056】
工程(a)で加熱溶融した成分(B)、成分(C)および任意成分の混合物は、発泡を防止するため、好ましくは85~120℃、より好ましくは100~120℃の温度に低下させながら、ダイの方へ送ることが好ましい。バレルから排気することにより発泡を防止すると共に水分を除去してもよい。押出機中の滞留時間は、温度プロファイルやスクリュー速度に応じて設定されるが、好ましくは1~2.5分である。
【0057】
溶融混合物を押出す工程(b)では、押出機中をスクリューにより移動してきた溶融混合物をダイから押出す。ダイの温度は85~120℃が好ましく、より好ましくは90~110℃である。工程(b)で押出された混合物中の含水量は10~50重量%が好ましく、より好ましくは20~40重量%、さらに好ましくは22~40重量%、最も好ましくは25~35重量%である。溶融混合物を複数穴のストランドノズルから押出すことが好ましい。
【0058】
ノズルから押出された溶融混合物を冷却および乾燥する工程(c)では、ストランドノズルから押出されたストランドを80~100℃に冷却し、回転カッターで切断してペレットにする。その際に、ペレットの膠着を防ぐために、定期的もしくは定常的に振動し、熱風、脱湿空気、赤外線ヒーター等によりペレット中の水分を除去するのが好ましい。
【0059】
このようにして得られた成分(B)、成分(C)および任意成分からなる樹脂混合物のペレットは、成分(A)のペレットとブレンドされて溶融され、ペレット化され、あるいはペレット化することなく直接、成形面ファスナーの成形に使用される。成分(B)、成分(C)および任意成分からなるペレットと成分(A)のペレットを溶融する際に水分を添加してもよい。
【0060】
次に、前記樹脂混合物を用いて波型のフック型係合素子を有する成形面ファスナーの製造方法について説明する。
一例として、
フック型係合素子の形状をしたキャビティを表面に多数有する金属ロールを用い、
該金属ロールの表面に該樹脂混合物の溶融物をシート状に流すとともに該キャビティ内に該樹脂混合物の溶融物を圧入させ、
該溶融物が固化した後に、金属ロール面からシートを剥がすと同時にキャビティからフック型係合素子を引き抜いて、表面にフック型係合素子を多数有するシートを製造する方法について説明する。
【0061】
フック型係合素子の形状を有する複数のキャビティを円周方向に沿って彫った厚さ0.2~0.5mmのリング状金型(a)、
キャビティを彫っていない金属製リング(b)、
上記フック型係合素子形状とは逆の方向に曲がっているフック型係合素子の形状を有する複数のキャビティを円周方向に沿って彫った厚さ0.2~0.5mmのリング状金型(c)、および
キャビティを彫っていない金属製リング(b)
をこの順で順次重ね合わせることにより金型ロールを作製する。
【0062】
このようにして得られた金型ロールの外表面には、フック型係合素子形状のキャビティが円周方向に並んだ列と逆方向に曲がったフック型係合素子形状のキャビティが円周方向に並んだ列が幅方向(長さ方向)に交互に配列されている。
リング状金型(a)、金属製リング(b)、リング状金型(a)、金属製リング(b)、リング状金型(c)、金属製リング(b)、リング状金型(c)、金属製リング(b)・・・・・の順にリングを重ね合わせることによって、円周方向に伸びる2列のフック型係合素子形状のキャビティと円周方向に伸びる2列の逆方向に曲がったフック型係合素子形状のキャビティを交互に配置してもよい。
【0063】
該キャビティは、金属ロール面から先端部に行くに従って細くなっており、かつ途中から徐々に金属ロール円周方向に沿って曲がり、先端部は金属ロール面に僅かに近づく方向を向いている。キャビティがこのように曲がっているので、通常は、キャビティから固化したフック型係合素子を引き抜く際に、係合素子が切断され易い。しかし、本発明では、前記した樹脂混合物を用いるので、フック型係合素子の切断を防ぐことができる。
【0064】
金属ロール表面に溶融した樹脂混合物を流し成形することによりフック型成形面ファスナーを得ることができる。
流し成形は、
金属ロールとこれに相対する位置に配置した別のドラムロールとの隙間に前記樹脂混合物の溶融物を押し出し、
該溶融物を圧迫することにより、キャビティ内に該溶融物を充填させると共にロール表面に均一な厚さを有する該溶融物のシートを形成し、
金型ロールが回転している間に、ロール内を常時循環している冷媒によりキャビティ内の該溶融物を冷却固化させるとともに、隙間調整したニップローラーを用いて、該溶融物のシートを得られる成形フック型面ファスナーの基板が均一な厚さとなるように引き延ばし、
冷却固化したシートを金型ロール表面から引き剥がすとともに、該キャビティからフック型係合素子を無理やり引き抜く。
これにより、表面に多数のフック型係合素子を有する成形面ファスナーが得られる。
【0065】
得られた成形面ファスナーは、ポリブチレンサクシネート(A)、澱粉(B)、ポリビニルアルコール(C)、および前記任意成分(粘土、飽和脂肪酸、その金属塩)を含む。ポリブチレンサクシネート(A)、澱粉(B)、およびポリビニルアルコール(C)の合計重量に対するポリブチレンサクシネート(A)の割合、澱粉(B)とポリビニルアルコール(C)の合計重量に対するポリビニルアルコール(C)の割合、澱粉(B)に対する粘土の割合、澱粉(B)に対する飽和脂肪酸またはその金属塩の割合は樹脂混合物に関して上記したとおりである。
【0066】
このようにして得られる成形面ファスナーでは、
(1)フック型係合素子が根元から先端部に行くに従って細くなっており、かつ途中から徐々に曲がり、先端部は基板表面に僅かに近づく方向を向いており、
(2)同じ方向に曲がっている複数のフック型係合素子が曲がっている方向に列をなして並んでおり、
(3)1列または複数列のフック型係合素子と1列または複数列のそれとは逆方向に曲がっているフック型係合素子が交互に配置されている。
【0067】
なお、上記フック型係合素子の先端部が基板に僅かに近づく方向を向いているとは、フック型係合素子の先端部の高さ(基板表面からの高さ)が湾曲部内面の頂部の高さ(基板表面からの高さ)の85~98%であることを意味する。この値は、任意に選んだ10本のフック型係合素子の平均値から算出した値である。
【0068】
本発明において、好ましいフック型係合素子の高さは1.0~2.0mmであり、フック型係合素子は付け根から係合素子高さの1/2~3/4の付近から徐々に曲がり始めているのが好ましい。
【0069】
フック型係合素子の太さは、曲がっている方向に直交する方向から見たときに、フック型係合素子の付け根から先端部に行くほど細くなっている。前記したリング状金型を用いる場合には、必然的にフック型係合素子の幅はリング状金型の厚さによって制限されるので、フック型係合素子の幅は付け根から先端部に至るまでほぼ一定である。
本発明のフック型成形面ファスナーを構成する個々のフック型係合素子は、付け根から先端部に至るまで複数本に分かれることなく(枝分かれすることなく)、根元部の太さから広がっていないことが重要である。
【0070】
フック型整合素子が立ち上がるベースとなる基板は、厚さが0.1~0.3mmの範囲であることが柔軟性と強度の点で好ましい。基板上に存在するフック型係合素子の密度は、好ましくは60~160個/cm2、より好ましくは80~140個/cm2である。
【0071】
本発明のフック型成形面ファスナーは、フック成形面ファスナー同士の係合も可能であるが、通常、ループ状係合素子を有する面ファスナーと組み合わせで用いられる。したがって、組み合わせで用いられるループ状係合素子を有する面ファスナーも生分解性を有していることが好ましい。ループ状係合素子を有する面ファスナーは、通常、細い繊維製の面ファスナーであるので、通常の生分解性樹脂からなる繊維を用いることにより、本発明のフック型成形面ファスナーと同等の生分解性速度を得ることができる。
したがって、ループ状係合素子を有する面ファスナーを形成する繊維に、本発明のように生分解性の樹脂に澱粉やポリビニルアルコールを添加して生分解速度を加速させることは必ずしも必要がない。
【0072】
具体的には、ポリブチレンアジペ―ト、ポリ乳酸等の繊維形成性の生分解性樹脂100%からなる繊維から製造されたもので充分である。例えば、前記生分解性樹脂からなるマルチフィラメント糸を用いて織編物を製造し、前記生分解性樹脂からなるマルチフィラメント糸を同織編物中に織り込むあるいは編み込むとともにループ状に同織編物の表面に突出させることにより製造した面ファスナーが代表例として挙げられる。またこれら生分解性樹脂からなる繊維を不織布状にするとともにその表面に同繊維をループ状に突出させたものでもよい。
【0073】
通常、ループ状係合素子を有する面ファスナーの場合、係合を剥離する際の引っ張りによりループ状係合素子が織編物や不織布の表面から引き抜かれるのを防止するために、織編物や不織布の裏面に接着剤を塗布すること、織編物や不織布を構成する繊維の一部として熱融着性の繊維を用い、熱融着性繊維を融着してループ状係合素子を織編物や不織布に固定することが行われる。前記接着剤や熱融着性繊維にも生分解性の樹脂を用いることが好ましい。
【0074】
以上述べたように、本発明のフック型成形面ファスナーは、係合力が充分に高いにもかかわらず、廃棄された場合に自然環境中で速やかに正分解して環境破壊をもたらすことがない。したがって、高い係合力が必要とされ、かつ使用後は自然環境中に廃棄されるような用途分野、例えば、農林漁業や土木建築等の分野や使い捨て用品等の分野に用いられる面ファスナーとして適している。具体的には、果実袋の縛りテープ、収穫作物の縛り紐、農林業で用いられる仮固定用のテープ。土木分野や建築分野で用いられる縛り紐、苗木カバー固定用面ファスナー、苗木固定用面ファスナー、オムツの固定テープ等に用いられる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明する。
実施例および比較例において:
係合力は、JIS L3416の方法に従い、係合相手となるループ状係合素子を有する面ファスナーとして織面ファスナー(クラレファスニング社製マジックテープ(登録商標)B2790Y.11)を用いてシアーとピールの両方を測定した。
生分解性は40℃の土中に埋設し、フック型成形面ファスナーが分解されてフック型係合素子や基板シートが強度を失い、簡単にバラバラとなり面ファスナーの形態が消失するのに要する期間を測定した。
【0076】
実施例1~3、比較例1~5
成形用樹脂の原料
成分(A)
ポリブチレンサクシネート:三菱ケミカル社製のBio-PBS、
成分(B)
澱粉:アミロース含有量80重量%のヒドロキシプロピルエーテル変性の
トウモロコシ澱粉、および
アミロース含有量20重量%のヒドロキシプロピルエーテル変性の
キャッサバ澱粉、
成分(C)
ポリビニルアルコール:ケン化度99.3%の完全鹸化ポリビニルアルコール、
粘土
天然モンモリロナイト
飽和脂肪酸
ステアリン酸
【0077】
成形用金型の作製
金型として、
フック型係合素子の形状を有するキャビティを外円周上に彫った厚さ0.30mmで直径212mmのリング状金型;
キャビティを形成していない外周面がフラットな厚さ0.30mmで直径212mmの金属製リング;
上記フック型係合素子形状とは逆の方向に曲がっているフック型係合素子の形状を有するキャビティを外円周上に彫った厚さ0.30mmで直径212mmのリング状金型;および
キャビティを形成していない外周面がフラットな厚さ0.30mmで直径212mmの金属製リング
をこの順で順次重ね合わせることにより幅120mmの金型ロールを作製した。
該金型ロールの外表面には、フック型係合素子形状のキャビティが円周方向に並んだ列および逆方向に曲がったフック型係合素子形状のキャビティが円周方向に並んだ列が幅方向に交互に配列されている。
【0078】
フック型成形面ファスナーの製造
前記成分(B)、成分(C)、粘土、および飽和脂肪酸を前記工程(a)、工程(b)および工程(c)を順次行う方法を用いてペレット化した。各工程の条件は前記した範囲から選択した。
得られたペレットを成分(A)のペレットとブレンドし、溶融し、ペレット化して各組成物を得た。このとき、水を添加した。得られた各組成物の各成分の割合を表1に示した。
得られた各組成物を105℃で溶融し、溶融物を上記の金型ロールと相対する位置に配置された別のドラムロールとの隙間に押し出した。圧迫することにより、キャビティ内に該溶融物を充填させると共にロール表面に均一な厚さを有するシートを形成した。金型ロールが回転している間、ロール内に常時循環されている水によりキャビティ内の溶融物を冷却した。基板厚さが0.20mmとなるように隙間を調整したニップロールにより引き延ばすとともに冷却固化したシートを金型ロール表面から引き剥がして、フック型成形面ファスナーを製造した。
実施例1~3および比較例4~5のフック型成形面ファスナーでは、成分(A)が連続相、成分(B)が分散相を形成していた。比較例1のフック型成形面ファスナーでは、逆に成分(A)が分散相、成分(B)が連続相を形成していた。
【0079】
【表1】
粘土の含有量(実施例1~3、比較例1~5):成分(B)の2.2重量%
ステアリン酸の含有量(実施例1~3、比較例1~5):成分(B)の0.2重量%
【0080】
得られたフック型成形面ファスナーの形状
実施例1~3で得られたフック型成形面ファスナーは、
図1に示すような形状をしていた。なわち、いずれのフック型係合素子も、基板表面から先端部に行くに従って細くなっており、かつ、つけ根から係合素子高さの2/3の高さの付近から徐々に曲がり始めており、先端部は基板表面に僅かに近づく方向を向いている波型の形状を有していた。フック型係合素子の高さは基板表面から1.25mmであった。フック型係合素子の先端部の高さは、湾曲部内面の頂部の高さの95%であった。すなわち、先端部は、湾曲部内面の頂部に対して、高さ方向に5%基板に近づいていた。
【0081】
実施例1~3のフック型成形面ファスナーでは、フック型係合素子の密度は110個/cm2、基板の厚さは0.20mm、同じ列中の隣り合うフック型係合素子の間隔は1.47mm、隣り合うフック型係合素子列の間隔は、0.60mmであった。
【0082】
得られたフック型成形面ファスナーを成形する際の成形性(フック型係合素子が折れることなくキャビティから引き抜けるか、引き抜けたとしても途中で裂け目が入っていないか等)、得られたフック型成形面ファスナーの係合力、および生分解性を測定した。得られた結果を以下の表2に示す。
【0083】
【表2】
A:フック型係合素子の形成性および面ファスナーの引き抜き性に全く問題なく成形できた。
B:はわずかにフック型係合素子の折れが観測された。
C:フック型係合素子の折れが多く見られ、さらに金型面からの面ファスナーの剥離が困難で、所々で面ファスナーの基板シートの裂けが生じた。
D:フック型係合素子の引き抜きができず、さらに金型へ面ファスナーの巻き付きが生じ、面ファスナーを製造できなかった。
【0084】
実施例1~3で得られたフック型成形面ファスナーの成形性に関しては全く問題なく、フック型係合素子が途中で折れることもなく、金型面から剥がす際に面ファスナーが裂けることも全くなかった。係合力の点でも優れており、さらに生分解に要する時間は1年以内であり、好適な範囲であった。
【0085】
それに対して、ポリブチレンサクシネートの混合割合が少ない比較例1では、フック型成形面ファスナーを得ることができたが、係合力が低く、力の掛かる分野への使用には適さなかった。さらに、生分解速度が速すぎ、汎用的な用途には向かないものであった。
ポリブチレンサクシネートが混合されていない比較例2では、フック型成形面ファスナーに成形することができなかった。
【0086】
変性澱粉とポリビニルアルコールが添加されていない比較例3では、得られたフック型成形面ファスナーの係合力は高かったが、成形性に劣り、さらに分解に要する時間が長すぎて、廃棄しても自然環境中に長時間当初の形状のまま存在して、環境破壊をもたらすことが予想された。
【0087】
アミロース含有量が低い変性澱粉を使用した比較例4と5では、ポリブチレンサクシネートとポリビニルアルコールが所定量添加されているにも拘らず、フック型成形面ファスナーが成形できなかった(比較例4)、あるいは、何とか成形できたとしても(比較例5)、得られたフック型成形面ファスナーは、面ファスナーとして使用するには余りにも係合力が低く、商品価値のないものであった。
【0088】
実施例4~6、比較例6~7
前記したアミロース含有量80重量%のヒドロキシプロピルエーテル変性のトウモロコシ澱粉およびアミロース含有量20重量%のヒドロキシプロピルエーテル変性のキャッサバ澱粉を等量混ぜ合わせて、アミロース含有量50重量%の変性澱粉を調製した。この変性澱粉を用いて、以下の表3に示す組成を有するフック型成形面ファスナーを実施例1~3と同様の方法で作製した。なお、ポリビニルアルコールをブレンドしない比較例7では、全ての成分を成形時にブレンドする方法を用いた。
フック型成形面ファスナーの形状は、フック型係合素子の高さが実施例1~3のときの1.2倍であり、かつフック型係合素子の曲がっている方向を2列ごとに逆にした以外は実施例1~3と同一である。
【0089】
【表3】
粘土の含有量(実施例4~6、比較例6~7):成分(B)の2.2重量%
ステアリン酸の含有量(実施例4~6、比較例6~7):成分(B)の0.2重量%
【0090】
得られたフック型成形面ファスナーの成形性、係合力および生分解性を前記実施例1~3と同様にして測定した。その結果を以下の表4に示す。なお、実施例4~6および比較例7のフック型成形面ファスナーでは、ポリブチレンサクシネートが連続相、変性澱粉が分散相を形成していた。比較例6ではその逆であった。
【0091】
【表4】
判定基準A~Dは表2で記載したとおりである。
【0092】
実施例4~6のフック型成形面ファスナーの成形性は全く問題なく、係合力も優れており、さらに生分解に要する時間も1年以内の好適な時間であった。それに対して、ポリブチレンサクシネートの混合割合が少ない比較例6の場合には、成形性および係合力の点で問題を有し、さらに分解速度も速すぎるので汎用的な用途には向かないものであった。また、ポリビニルアルコールを添加しない比較例7の場合には、成形性が悪く、係合力が測定できるようなフック型成形面ファスナーを得ることができなかった。
【0093】
比較例8
変性澱粉に代えて、アミロース含有量が80重量%の未変性澱粉を使用した以外は実施例1と同様にしてフック型成形面ファスナーを作製した。しかし、成形性が悪く、引き抜き成形時にフック型係合素子の折れや基板シートの裂けが発生した。苦労して得られたフック型成形面ファスナーには折れたフック型係合素子が所々に見られ、商品価値のあるものではなかった。
【0094】
比較例9~10
比較例9では、前記したアミロース含有量80重量%のヒドロキシプロピルエーテル変性のトウモロコシ澱粉とアミロース含有量20重量%のヒドロキシプロピルエーテル変性のキャッサバ澱粉をアミロース含有量が35重量%となるように混合した混合変性澱粉を用いたこと、
比較例10では変性澱粉を使用せず、全ての成分を面ファスナーの成形時にブレンドする方法を用いたこと
以外は実施例1~3と同様にしてフック型成形面ファスナーを作製した。
比較例9のフック型成形面ファスナーでは、ポリブチレンサクシネートが連続相、変性澱粉が分散相を形成していた。比較例10ではポリビニルアルコールが分散相を形成していた
【0095】
【表5】
粘土の含有量(比較例9~10):成分(B)の2.2重量%
ステアリン酸の含有量(比較例9~10):成分(B)の0.2重量%
【0096】
比較例9および10で得られたフック型成形面ファスナーの成形性、係合力および生分解性を実施例1~3と同様に測定した。結果を以下の表6に示す。
【0097】
【表6】
判定基準Cは表2で記載したとおりである。
【0098】
比較例9のフック型成形面ファスナーは折れたフック型係合素子が所々に存在し、商品価値が低く、さらに係合力も満足できるものではなかった。比較例10のフック型成形面ファスナーも、折れたフック型係合素子が所々に存在し、商品価値が低かった。さらに、生分解速度が遅く、社会のニーズにマッチするものではなかった。
【符号の説明】
【0099】
1:基板
2:フック型係合素子
PQ:フック型係合素子の曲がっている方向