(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】触覚センサ
(51)【国際特許分類】
G01L 1/02 20060101AFI20240328BHJP
G01L 1/14 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
G01L1/02
G01L1/14 B
(21)【出願番号】P 2020049840
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2023-01-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】石原 尚
(72)【発明者】
【氏名】川節 拓実
(72)【発明者】
【氏名】堀井 隆斗
(72)【発明者】
【氏名】細田 耕
(72)【発明者】
【氏名】濱口 翔大
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/164320(WO,A1)
【文献】特開2017-083180(JP,A)
【文献】特開2016-081715(JP,A)
【文献】特開2014-173844(JP,A)
【文献】特開2005-241364(JP,A)
【文献】特開昭60-131306(JP,A)
【文献】特開昭63-091530(JP,A)
【文献】特開昭49-075184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00 - 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の接触に応じて弾性変形可能に柔軟素材で形成された第1貯蔵室と、
前記第1貯蔵室に接触した対象物を検知するために前記第1貯蔵室から離れた位置に形成された第2貯蔵室と、
前記第1貯蔵室と前記第2貯蔵室とを連通する流路と、
前記第2貯蔵室に対向する位置に形成されたコイルと、
前記対象物の接触に応じて前記コイルの誘導係数を変化させるために、前記第1貯蔵室から前記流路及び前記第2貯蔵室に亘って封入された
導電性を有する流動体とを備え、
前記第2貯蔵室が、前記コイルの誘導係数を変化させるために前記流路に対向して配置されて前記流動体の変位に応じて撓み変形可能に形成された柔軟薄壁を有することを特徴とする触覚センサ。
【請求項2】
前記流動体が、液体を含む請求項1に記載の触覚センサ。
【請求項3】
前記液体が、導電性を有する液体金属を含む請求項2に記載の触覚センサ。
【請求項4】
前記流動体は、前記第1貯蔵室から前記第2貯蔵室の前記柔軟薄壁に亘って封入されており、
前記柔軟薄壁が、前記流動体を前記第2貯蔵室の外の大気から区切るように形成される請求項1に記載の触覚センサ。
【請求項5】
前記柔軟薄壁が、前記第2貯蔵室を分割するように形成されており、
前記流動体は、前記第1貯蔵室から前記第2貯蔵室の前記柔軟薄壁に亘って封入されており、
前記第2貯蔵室が、前記柔軟薄壁の前記流路と反対側を大気と連通させる連通孔を有する請求項1に記載の触覚センサ。
【請求項6】
前記第1貯蔵室が、前記柔軟素材に円筒状に形成され、
前記対象物が、前記円筒の端面の一方に接触する請求項1に記載の触覚センサ。
【請求項7】
対象物の接触に応じて弾性変形可能に柔軟素材で形成された第1貯蔵室と、
前記第1貯蔵室に接触した対象物を検知するために前記第1貯蔵室から離れた位置に形成された第2貯蔵室と、
前記第1貯蔵室と前記第2貯蔵室とを連通する流路と、
前記第2貯蔵室に対向する位置に形成されたコイルと、
前記対象物の接触に応じて前記コイルの誘導係数を変化させるために、前記第1貯蔵室から前記流路及び前記第2貯蔵室に亘って封入された流動体とを備え、
前記第2貯蔵室が、前記コイルの誘導係数を変化させるために前記流路に対向して配置されて前記流動体の変位に応じて撓み変形可能に形成された柔軟薄壁を有し、
前記第2貯蔵室が、前記柔軟素材に半円筒状に形成され、
前記流路が、前記半円筒の周面に接続され、
前記柔軟薄壁が、前記半円筒の前記流路と反対側の平面に形成される
ことを特徴とする触覚センサ。
【請求項8】
対象物の接触に応じて弾性変形可能に柔軟素材で形成された第1貯蔵室と、
前記第1貯蔵室に接触した対象物を検知するために前記第1貯蔵室から離れた位置に形成された第2貯蔵室と、
前記第1貯蔵室と前記第2貯蔵室とを連通する流路と、
前記第2貯蔵室に対向する位置に形成されたコイルと、
前記対象物の接触に応じて前記コイルの誘導係数を変化させるために、前記第1貯蔵室から前記流路及び前記第2貯蔵室に亘って封入された流動体とを備え、
前記第2貯蔵室が、前記コイルの誘導係数を変化させるために前記流路に対向して配置されて前記流動体の変位に応じて撓み変形可能に形成された柔軟薄壁を有し、
前記第1貯蔵室、前記第2貯蔵室、及び前記流路が前記柔軟素材で一体に形成される
ことを特徴とする触覚センサ。
【請求項9】
前記コイルを形成するために前記第2貯蔵室に対向する位置に配置された基板と、
前記コイルの誘導係数の変化を計測するために前記コイルに接続された計測回路とをさらに備える請求項1に記載の触覚センサ。
【請求項10】
前記コイルが渦巻きコイルを含み、
前記基板が、フレキシブル基板を含む請求項9に記載の触覚センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形検知機能を備えた柔軟素材により構成される触覚センサに関する。
【背景技術】
【0002】
肉厚柔軟素材に変形検知機能を与える場合、変形検知機能の柔軟性及び耐久性と感度との両立が課題となる。例えば、肉厚柔軟素材の中に配線、センサ素子を埋め込むと、肉厚柔軟素材の柔軟性が失われてしまうし、また、肉厚柔軟素材の大変形時に配線、センサ素子が容易に破壊されてしまう。しかしながら、配線、センサ素子の容易な破壊を回避するために配線、センサ素子を肉厚柔軟素材の底面に配置すると、肉厚柔軟素材の表面部における微小な変形に対するセンサ素子の感度が損なわれる。
【0003】
この問題に対して、肉厚柔軟素材の中に磁石を配置し、肉厚柔軟素材の変形に伴う磁石の移動を、肉厚柔軟素材の底面に配置した磁気検知センサ素子によって遠隔で検出する仕組みとすることで、耐久性と感度との両立を図る触覚センサが知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、特許文献1のように磁石をそのまま肉厚柔軟素材の中に配置した場合には肉厚柔軟素材に対する触感が損なわれる。この問題を回避するため、微細粒子とした磁石を肉厚柔軟素材の表面に分散させる触覚センサが知られている(特許文献2)。
【0005】
そして、肉厚柔軟素材の底面に配置した磁気検知センサ素子の付近に磁石を配置することで、肉厚柔軟素材中の磁性粒子を磁化させる工程を省略している触覚センサが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-153826号公報(2011年8月11日公開)
【文献】特開2015-202821号公報(2015年11月16日公開)
【文献】特開2018-17536号公報(2018年2月1日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の上述のような触覚センサは、肉厚柔軟素材の中に磁石が存在するため、以下の問題がある。
【0008】
まず、磁石となる素材の磁化方向を触覚センサの表面形状に沿って揃える製造工程が触覚センサの高感度化には必須であるため、曲面形状等の複雑な形状をした触覚センサの製造が困難である。
【0009】
また、触覚センサの外に漏れる磁束の量が多いため、磁気に弱い対象に触覚センサを接触させることが困難である。また、触覚センサ表面付近にあって表面には触れていない金属が存在すると、漏れる磁束の量に応じて磁場が変化してしまうため、触覚センサの応答が変化してしまう。
【0010】
そして、磁気の変化を計測するセンサを用いているため、地磁気中でセンサ自体の傾きが変化する状況や、磁場を発する磁石や電気モータが近くに存在する状況での使用に難がある。
【0011】
また、特許文献3に記載の触覚センサは、GMR(Giant Magneto Resistive effect、巨大磁気抵抗効果)センサ、ホールセンサのような電気機械的に繊細なセンサ素子が必要であり、また、これらのセンサ素子を対象物が接触する位置の近くに配置する必要があるため、対象物の接触を感知する接触部の領域付近の構造が複雑になり、また、接触部を柔軟な構造にすることができない。
【0012】
そして、特許文献1及び2に記載の触覚センサにおいても、接触部の柔軟素材の底面に硬質素材であるセンサ素子を配置する必要があるため、接触部を柔軟な構造にすることができない。
【0013】
本発明の一態様は、対象物が接触する接触部を柔軟な構造にすることができる触覚センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る触覚センサは、対象物の接触に応じて弾性変形可能に柔軟素材で形成された第1貯蔵室と、前記第1貯蔵室に接触した対象物を検知するために前記第1貯蔵室から離れた位置に形成された第2貯蔵室と、前記第1貯蔵室と前記第2貯蔵室とを連通する流路と、前記第2貯蔵室に対向する位置に形成されたコイルと、前記対象物の接触に応じて前記コイルの誘導係数を変化させるために、前記第1貯蔵室から前記流路及び前記第2貯蔵室に亘って封入された流動体とを備え、前記第2貯蔵室が、前記コイルの誘導係数を変化させるために前記流路に対向して配置されて前記流動体の変位に応じて撓み変形可能に形成された柔軟薄壁を有することを特徴とする。
【0015】
この特徴によれば、対象物の接触に応じて弾性変形可能に柔軟素材で形成された第1貯蔵室と、第1貯蔵室に接触した対象物を検知するための第2貯蔵室とが、互いに離れた位置に配置される。この結果、対象物が接触する第1貯蔵室を含む接触部を柔軟な構造にすることができる。
【0016】
本発明の一態様に係る触覚センサは、前記流動体が、液体を含むことが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、第1貯蔵室から流路及び第2貯蔵室に亘って封入された液体が、対象物の接触に応じた第1貯蔵室の弾性変形により、第1貯蔵室から流路及び第2貯蔵室に向かって流動する。このため、流路に対向して配置された柔軟薄壁を液体の変位に応じて撓み変形させることができる。
【0018】
本発明の一態様に係る触覚センサは、前記液体が、導電性を有する液体金属を含むことが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、導電性を有する液体金属の変位により、渦巻きコイルの誘導係数を変化させることができる。
【0020】
本発明の一態様に係る触覚センサは、前記流動体は、前記第1貯蔵室から前記第2貯蔵室の前記柔軟薄壁に亘って封入されており、前記柔軟薄壁が、前記流動体を前記第2貯蔵室の外の大気から区切るように形成されることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、第1貯蔵室から柔軟薄壁に亘って封入された流動体の変位により、柔軟薄壁の撓み変形が容易になる。
【0022】
本発明の一態様に係る触覚センサは、前記柔軟薄壁が、前記第2貯蔵室を分割するように形成されており、前記流動体は、前記第1貯蔵室から前記第2貯蔵室の前記柔軟薄壁に亘って封入されており、前記第2貯蔵室が、前記柔軟薄壁の前記流路と反対側を大気と連通させる連通孔を有することが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、柔軟薄壁の流路と反対側から連通孔を通って空気が出ていくことができるので、対象物の接触に応じて流動体が柔軟薄壁を押すことにより、柔軟薄壁の撓み変形が容易になる。
【0024】
本発明の一態様に係る触覚センサは、前記第1貯蔵室が、前記柔軟素材に円筒状に形成され、前記対象物が、前記円筒の端面の一方に接触することが好ましい。
【0025】
上記構成によれば、第1貯蔵室が、簡素な構成となり、容易に製作することができる。
【0026】
本発明の一態様に係る触覚センサは、前記第2貯蔵室が、前記柔軟素材に半円筒状に形成され、前記流路が、前記半円筒の周面に接続され、前記柔軟薄壁が、前記半円筒の前記流路と反対側の平面に形成されることが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、第2貯蔵室、流路、及び柔軟薄壁が、簡素な構成となり、容易に製作することができる。
【0028】
本発明の一態様に係る触覚センサは、前記第1貯蔵室、前記第2貯蔵室、及び前記流路が前記柔軟素材で一体に形成されることが好ましい。
【0029】
上記構成によれば、第1貯蔵室、第2貯蔵室、及び流路が、簡素な構成となり、容易に製作することができる。
【0030】
本発明の一態様に係る触覚センサは、前記コイルを形成するために前記第2貯蔵室に対向する位置に配置された基板と、前記コイルの誘導係数の変化を計測するために前記コイルに接続された計測回路とをさらに備えることが好ましい。
【0031】
上記構成によれば、簡素な構成で、コイルを保持しコイルの誘導係数を測定することができる。
【0032】
本発明の一態様に係る触覚センサは、前記コイルが渦巻きコイルを含み、前記基板が、フレキシブル基板を含むことが好ましい。
【0033】
上記構成によれば、渦巻きコイルに関連する構成を薄くすることができ、コンパクトな触覚センサを提供することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一態様によれば、対象物が接触する接触部を柔軟な構造にすることができる触覚センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】実施形態に係る触覚センサの外観を示す画像である。
【
図2】上記触覚センサに設けられた液体金属が封入された流路とコイル回路とを示す画像である。
【
図6】上記触覚センサの外観を示す平面画像である。
【
図7】上記触覚センサの最上部の蓋を外した状態の平面画像である。
【
図8】上記触覚センサの動作原理を説明するための平面図である。
【
図9】上記触覚センサの上記第1貯蔵室、第2貯蔵室、及び流路の製造方法を示す斜視図である。
【
図10】上記第1貯蔵室、第2貯蔵室、及び流路に液体金属を注入する工程を示す斜視図である。
【
図11】上記触覚センサの柔軟層のカバーを製作する工程を示す斜視図である。
【
図12】上記第1貯蔵室、第2貯蔵室、及び流路の寸法の一例を説明するための平面図である。
【
図13】上記触覚センサに設けられたコイルを説明するための平面図である。
【
図14】上記触覚センサの第1貯蔵室、第2貯蔵室、及び流路を示す平面図である。
【
図15】上記第1貯蔵室、第2貯蔵室、及び流路を示す側面断面図である。
【
図16】上記触覚センサの押込み試験の実験環境を示す図である。
【
図17】流路厚み1mmの実験試料の触覚センサを示す斜視図である。
【
図18】流路厚み2mmの実験試料の触覚センサを示す斜視図である。
【
図19】流路厚み3mmの実験試料の触覚センサを示す斜視図である。
【
図20】上記流路厚み1mmの触覚センサの押込力と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
【
図21】上記流路厚み2mmの触覚センサの押込力と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
【
図22】上記流路厚み3mmの触覚センサの押込力と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
【
図23】直径5mmの第1貯蔵室を備えた触覚センサの押込力と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
【
図24】直径10mmの第1貯蔵室を備えた触覚センサの押込力と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
【
図25】直径15mmの第1貯蔵室を備えた触覚センサの押込力と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
【
図26】鉛直上向きへの曲げを加えた触覚センサの曲率と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
【
図27】上記鉛直上向きへの曲げを加えた触覚センサの外観を示す画像である。
【
図28】水平方向への曲げを加えた触覚センサの曲率と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
【
図29】上記水平方向への曲げを加えた触覚センサの外観を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
図1は実施形態に係る触覚センサ1の外観を示す画像である。
図2は触覚センサ1に設けられた液体金属6が封入された流路4とコイル回路11とを示す画像である。
図3は触覚センサ1の側面図である。
図4は触覚センサ1の平面図である。
図5は触覚センサ1の斜視図である。
【0037】
触覚センサ1は、シリコンゴムにより形成された板状の柔軟層12(柔軟素材)を備える。柔軟層12には、対象物の接触に応じて弾性変形可能に形成された第1貯蔵室2と、第1貯蔵室2に接触した対象物を検知するために第1貯蔵室2から離れた位置に形成された第2貯蔵室3と、第1貯蔵室2と第2貯蔵室3とを連通する直線状の流路4とが設けられる。第1貯蔵室2、第2貯蔵室3、及び流路4は、柔軟層12で一体に形成されることが好ましい。
【0038】
触覚センサ1はコイル回路11をさらに備える。コイル回路11は、第2貯蔵室3に対向する位置に配置されたフレキシブル基板7と、フレキシブル基板7に形成された渦巻きコイル5とを含む。
【0039】
そして、対象物の接触に応じて渦巻きコイル5の誘導係数(インダクタンス、inductance)を変化させるための導電性を有する液体金属6(流動体、液体)が、第1貯蔵室2から流路4及び第2貯蔵室3に亘って封入される。
【0040】
第2貯蔵室3は、渦巻きコイル5の誘導係数を変化させるために流路4に対向して配置されて液体金属6の変位に応じて撓み変形可能に形成された柔軟薄壁9を有する。柔軟薄壁9は、例えばシリコンゴムにより形成される。
【0041】
液体金属6は、第1貯蔵室2から第2貯蔵室3の柔軟薄壁9に亘って封入されており、柔軟薄壁9が、液体金属6を第2貯蔵室3の外の大気から区切るように形成されていてもよい。
【0042】
また、柔軟薄壁9が、第2貯蔵室3を分割するように形成されており、液体金属6は、第1貯蔵室2から第2貯蔵室3の柔軟薄壁9に亘って封入されており、第2貯蔵室3が、柔軟薄壁9の流路4と反対側を大気と連通させる連通孔を有していてもよい。
【0043】
第1貯蔵室2は、例えば、柔軟層12に円筒状に形成され、対象物は、この円筒の端面の一方に接触する。第2貯蔵室3は、例えば、柔軟層12に半円筒状に形成され、流路4が、この半円筒の周面に接続され、柔軟薄壁9が、この半円筒の流路4と反対側の平面に形成される。
【0044】
触覚センサ1は、渦巻きコイル5の誘導係数の変化を計測するために渦巻きコイル5に接続された計測回路8をさらに備える。
【0045】
渦巻きコイル5は、第2貯蔵室3の半径と同程度の半径を有し、第2貯蔵室3に対向する位置に配置される。
【0046】
流路4の一部と第2貯蔵室3とコイル回路11とを保護するためにプラスチック製のカバー18が設けられる。
【0047】
触覚センサ1は、コイル式触覚センサの柔軟素材である柔軟層12と硬質素材であるコイル回路11とを分離する構造に着目し、液体金属6を封入した流路4と渦巻きコイル5とを組み合わせて構成される。柔軟層12には、液体金属6を封入した流路4のみが埋め込まれ、硬質素材は一切埋め込まれない。液体金属6は電極等で電気的に接続する構成が不要であり、柔軟層12の外部に配置された渦巻きコイル5により、液体金属6の変位が非接触で検知される。
【0048】
柔軟層12は、流路4を安定に密封可能で、容易に変形可能な素材であればよく、例えば、エラストマを用いて構成することができる。
【0049】
図6は触覚センサ1の外観を示す平面画像である。
図7は触覚センサ1の最上部の蓋を外した状態の平面画像である。
図8は触覚センサの動作原理を説明するための平面図である。
【0050】
触覚センサ1は、下記の動作原理に基づいて、第2貯蔵室3内の液体金属6の変位を測定することにより、第1貯蔵室2に作用する垂直抗力を評価することができる。第1貯蔵室2に垂直抗力が作用すると、第1貯蔵室2内の液体金属6が流路4を通って第2貯蔵室3に向かって押し出される。そして、押し出された液体金属6が第2貯蔵室3の柔軟薄壁9を押し出すことにより柔軟薄壁9を撓み変形により膨らませる。柔軟薄壁9は薄いため柔軟層12の他の部分よりも容易に歪むので、柔軟薄壁9の膨張方向は、
図4の矢印Aに示されるように、-X方向(左方向)に限定される。このため、渦巻きコイル5に重なる液体金属6の量が、第1貯蔵室2に作用する垂直抗力に応じて増大する。ここで、渦巻きコイル5は、渦電流効果を用いることによる金属検出器として使用することができる。つまり、渦巻きコイル5の誘導係数は、渦巻きコイル5の近くの導体の位置に応じて変化する。実施形態に係る触覚センサ1では、渦巻きコイル5に重なる液体金属6の量が増大すると、液体金属6の中の渦電流が増加し、このため、渦巻きコイル5の誘導係数が減少する。このように、渦巻きコイル5の誘導係数の変化を監視することにより、第1貯蔵室2に作用する垂直抗力を評価することができる。
【0051】
このように、第1貯蔵室2の付近に外力が加わった場合、液体金属6が流路4を通って渦巻きコイル5の上方に移動する。渦巻きコイル5の誘導係数の値は、付近の導電体の空間分布によって変化する。このため、計測回路8によって渦巻きコイル5の誘導係数を計測すると、第1貯蔵室2に外力が加わったことを検出することができる。また、加わる外力又は生じた変位と誘導係数の値との間の関係を把握しておけば、加えられた外力の大きさ又は変位の大きさを推定することができる。
【0052】
コイルに交流電流を流すとコイルから交流磁界が発生し、その交流磁界が導電体を貫くと導電体に渦電流が生じ誘導係数が減少する。この現象は、渦電流センサとして金属探知機に用いられる。本実施形態に係る触覚センサ1では、第1貯蔵室2への対象物の接触に基づく液体金属6の分布変化を、渦巻きコイル5の誘導係数の変化から検知している。
【0053】
本発明者らは、基板上に形成された非磁性柔軟層と、鉄粒子が分散され、非磁性柔軟層により支持されるように形成された磁性柔軟層と、基板に形成されて、磁性柔軟層に作用する外力による鉄粒子の変位に基づいて誘導係数が変化するコイルと、コイルの誘導係数の変化を計測する誘導係数計測回路とを備える接触センサを提案しているが(国際公開第2019/049888号パンフレット)、さらに本発明者らは、鉄粒子が分散されたシリコンゴム(MRE)の接触センサと、それを液体金属に置き換えた接触センサとでセンサ感度を比較すると、MREを液体金属に置き換えることでおよそ感度が7倍弱になるとの知見を見出している。本願発明は上記知見に基づいて、高度に創造されたものである。
【0054】
第1貯蔵室2は、円筒状に限定されず、例えば直方体形状に形成されてもよい。第2貯蔵室3も、半円筒状に限定されず、例えば直方体形状に形成されてもよい。
【0055】
第2貯蔵室3は、第1貯蔵室2のようにシリコンゴムのような柔軟層12で形成されていなくてもよく、柔軟薄壁9が柔軟素材で形成されていればよい。
【0056】
流路4は、第1貯蔵室2と第2貯蔵室3とを連通すればよく、柔軟層12で形成されていなくてもよい。例えば流路4は、第1貯蔵室2と第2貯蔵室3とを接続するチューブ状に形成されていてもよい。
【0057】
また、流路4内の流動体の移動を大きく妨げない限りは、流路4には流動体の変位に応じて撓み変形可能に形成された柔らかい薄膜状の隔壁が設けられていてもよい。この隔壁の第2貯蔵室3側に液体金属6を注入すれば、この隔壁の第1貯蔵室2側に注入する流動体は水などでも済ませられる。これにより、流動体漏洩の際にも安全が確保され、流動体の材料費も安価になる。
【0058】
流路4は、1個の渦巻コイル5に対して1本形成される例を示したが、複数本の流路4が形成されてもよい。
【0059】
渦巻コイル5を用いる例を示したが、四角形状のコイル、三角形状のコイルを用いてもよいし、螺旋コイルを用いてもよい。1本の流路4に対して1個の渦巻コイル5を設ける例を示したが、複数個の渦巻コイル5を設けてもよい。
【0060】
柔軟薄壁9は、対象物が接触して液体金属6が変位する前は平面状になっている例を示したが、液体金属6が変位する前に曲面状になっていてもよいし、液体金属6が変位する前に波形形状になっていてもよい。
【0061】
第2貯蔵室3の柔軟薄壁9の流路4と反対側は、大気と連通している例を示したが、密封されて減圧されるように構成してもよいし、低弾性材料で構成されていてもよい。
【0062】
流路4のY方向の寸法は、第1貯蔵室2及び第2貯蔵室3のY方向の寸法よりも小さい。流路4のZ方向の寸法は、第1貯蔵室2及び第2貯蔵室3のZ方向の寸法と等しい例を示しているが、第1貯蔵室2及び第2貯蔵室3のZ方向の寸法よりも小さくてもよい。
【0063】
円筒状の第1貯蔵室2に、円筒の一対の端面を接続する支柱をシリコンゴムにより形成してもよい。これにより、接触力がより大きい対象物の接触も検知することができる。
【0064】
以下、触覚センサ1の感度調整の方法を説明する。触覚センサ1の感度を高めるためには、第1貯蔵室2の剛性を低くしてもよいし、第2貯蔵室3の柔軟薄壁9の変形量が大きくなるように第1貯蔵室2の円柱の直径や流路4の厚みを調節すればよい。あるいは、渦巻コイル5を自己誘導係数の高いものにしてもよいし、渦巻コイル5の電流を大きくしてもよい。また、液体金属6を導電性の高いものにしてもよい。
【0065】
次に、
図9~
図11を参照して、触覚センサ1の製造方法を説明する。
【0066】
図9は触覚センサ1の第1貯蔵室2、第2貯蔵室3、及び流路4の製造方法を示す斜視図である。
図10は第1貯蔵室2、第2貯蔵室3、及び流路4に液体金属6を注入する工程を示す斜視図である。
図11は触覚センサ1の柔軟層12のカバー18を製作する工程を示す斜視図である。
【0067】
まず、
図9に示すように、未硬化シリコンゴム13を3次元プリントの雌型14に流し込むことにより、第1貯蔵室2、第2貯蔵室3、及び流路4のための溝が形成されたシリコンゴムシート15を製造する。未硬化シリコンゴム13は、例えば、プラチナを触媒として硬化する性質を有する未硬化シリコンゴム(Ecoflex 00-30, Smooth-On Inc., USA)を使用することができる。
【0068】
シリコンゴムシート15は、硬化した後、他の3次元プリントの雌型17にセットする。その後、
図10に示すように、シリコンゴムシート15内の溝に液体金属6を流し込む。液体金属6は、例えば、融点15.5℃の共晶ガリウム-インジウム(eGaIn [23]; 75 wt.%. Ga and 25 wt.% In))、融点-19℃のガリンスタン(Galinstan;68.5 wt.%. Ga, 21.5 wt.%. In, and 10 wt.%. Sn)、及び融点30℃のガリウム(Ga)のうちの少なくとも一つを用いることができる。
【0069】
最後に、
図11に示すように、雌型17にセットされたシリコンゴムシート15上に未硬化シリコンゴム13を流し込んで液体金属6を封入するためのカバー18を形成する。ここで、第2貯蔵室3が
図4の矢印Aの方向に容易に膨張できるようにするための空間を形成するために、プラスチック製の直方体状のブロックパーツ16が第2貯蔵室3の脇に配置される。未硬化シリコンゴム13が硬化した後、ブロックパーツ16はシリコンゴムシート15から除去される。これにより、第1貯蔵室2、第2貯蔵室3、及び流路4に液体金属6が封入された柔軟層12が製造される。そして、この柔軟層12をコイル回路11、計測回路8と組み合わせることにより触覚センサ1が完成する。
【0070】
図12は第1貯蔵室2、第2貯蔵室3、及び流路4の寸法の一例を説明するための平面図である。本実施形態では、寸法パラメータとセンサの応答特性との間の関係を検討するために9種類の触覚センサ1を製作した。これらの9種類の触覚センサ1は、第1貯蔵室2の直径と流路4の厚みtとの組み合わせが異なっている。
【0071】
第1貯蔵室2の直径は5mm、10mm、及び15mmから選択される。流路4の厚みtは、1mm、2mm、及び3mmから選択される。これらを組み合わせた9種類の触覚センサ1の他の構造パラメータは共通している。
【0072】
第2貯蔵室3の直径は10mmである。これは、渦巻コイル5の直径と同じである。柔軟薄壁9の厚みt2は1mmである。直線状の流路4の幅Wは2mmであり、流路4の長さL1は、第1貯蔵室2の中心と第2貯蔵室3の中心との間で92.5mmである。
【0073】
柔軟層12の長辺L2は140mmであり、短辺L3は30mmである。流路4の上側の柔軟層12の厚みt3及び流路4の下側の柔軟層12の厚みt4は、それぞれ1mmである。従って、柔軟層12のトータルの厚みt5は、流路4の厚みt=2mmと、流路4の上側の柔軟層12の厚みt3=1mmと、流路4の下側の柔軟層12の厚みt4=1mmとの合計の4mmになる。従って、流路4の厚みtが3mmであれば、柔軟層12のトータルの厚みt5は5mmになる。
【0074】
図13は触覚センサ1に設けられた渦巻コイル5を説明するための平面図である。フレキシブル基板7に形成された複数層平面型の渦巻コイル5が、液体金属6の変位の検出に用いられる。渦巻コイル5の直径Dは例えば10mmである。渦巻コイル5の巻き数Nは、例えば1層当たり16である。トレース幅W1及びトレース間隔W2は共に0.1mmである。そして、330pFのセラミックキャパシタが、渦巻コイル5に並列に接続される。
【0075】
図14は触覚センサ1の第1貯蔵室2、第2貯蔵室3、及び流路4を示す平面図である。
図15は第1貯蔵室2、第2貯蔵室3、及び流路4を示す側面断面図である。
【0076】
流路4の先端の第1貯蔵室2の形状と触覚センサ1の応答特性との間の関係を確認するために、異なるサイズの第1貯蔵室2を備える触覚センサ1を用意した。第1貯蔵室2の寸法が大きいほど、移動する液体金属6の量が多いため、触覚センサ1が高感度になると予想される。上記寸法は小さい方が空間分解能の向上には有利であり、SN比も計算して実用上の第1貯蔵室2の直径を求める。
【0077】
流路4の厚みtと触覚センサ1の応答特性との間の関係を確認するために、異なる厚みtの流路4を備える触覚センサ1を用意した。流路4の厚みtが大きい方が、移動する液体金属6の量が多いため、高感度になると想定される。一方、厚みtが薄い方が触覚センサ1のアクチュエータへの埋め込みに有利となる可能性が有り、SN比も計算して実用上の流路4の厚みtを求める。
【0078】
また、触覚センサ1を曲げた際の影響を確認する。触覚センサ1をアクチュエータに埋め込んだ場合、曲げによる触覚センサ1の応答が接触力測定に影響するかを検討する。曲げても液体金属6の移動は生じるので、渦巻コイル5の誘導係数も変化するはずであり、曲げによる変化量が押込みによる変化量よりも大きければ補償する必要があると考えられる。
【0079】
図16は触覚センサ1の押込み試験の実験環境を示す図である。
図17は流路4の厚みt=1mmの実験試料の触覚センサ1を示す斜視図である。
図18は流路4の厚みt=2mmの実験試料の触覚センサ1を示す斜視図である。
図19は流路4の厚みt=3mmの実験試料の触覚センサ1を示す斜視図である。
【0080】
第1貯蔵室2の直径が5mm、10mm、及び15mmから選択され、流路4の厚みtが1mm、2mm、及び3mmから選択される前述した9種類の触覚センサ1に対して、渦巻コイル5の誘導係数と第1貯蔵室2に作用する垂直抗力又は曲げ応力との間の関係を調べるために、
図16に示す実験環境を用いて押込試験を実施した。
【0081】
触覚センサ1は、3軸のロボットステージ19(TTA-C3-WA-30-25-10, IAI Corp.,Japan)上に搭載される。ロボットステージ19は、円柱状プラスチック製で直径20mmの圧子20を保持する。
【0082】
そして、触覚センサ1に作用する垂直抗力を測定するために、力トルクセンサ21(F/T sensor; Mini 2/10-A, BL Autotech Ltd., Japan)が3軸のロボットステージ19と圧子20との間に挿入される。
【0083】
力トルクセンサ21の出力はアナログデジタルコンバータ22(AI-1664LAX-USB, CONTEC Corp, Japan)を用いて取得され、触覚センサ1の渦巻コイル5の誘導係数はインダクタンスデジタルコンバータ23(LDC1614, Texas Instruments Inc., USA)を用いて取得される。サンプリング期間は20msに設定された。パーソナルコンピュータ24は、アナログデジタルコンバータ22を用いて取得された力トルクセンサ21の出力と、インダクタンスデジタルコンバータ23を用いて取得された渦巻コイル5の誘導係数との間の関係を解析する。
【0084】
触覚センサ1は、作用する垂直抗力が25Nに到達するまで0.1mm/sの接触速度で圧子20により押し込まれた。この測定は、9種類の触覚センサ1のそれぞれに対して10回繰り返された。
【0085】
図20は流路4の厚みt=1mmの触覚センサ1の押込力と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
図21は流路4の厚みt=2mmの触覚センサ1の押込力と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
図22は流路4の厚みt=3mmの触覚センサ1の押込力と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
【0086】
横軸は力トルクセンサ21を用いて測定された垂直抗力に相当する押込力を示し、縦軸は渦巻コイル5の誘導係数の初期値からの変化を示す。
【0087】
【0088】
図20~
図22及び(表1)に示すように、渦巻きコイル5の誘導係数は、押込力が増大するに従って減少し、そして、いずれの厚みtにおいても、第1貯蔵室2の直径が大きい程、誘導係数の変化が大きくなり、高SN比を示すことが分かる。
【0089】
このように、触覚センサ1の感度は第1貯蔵室2の形状寸法に依存し、第1貯蔵室2の直径が大きい程感度が大きくなる。これは、対象物の第1貯蔵室2への接触に伴って移動する液体金属6の量が増えるためであると考えられる。
【0090】
図23は直径5mmの第1貯蔵室2を備えた触覚センサ1の押込力と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
図24は直径10mmの第1貯蔵室2を備えた触覚センサ1の押込力と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
図25は直径15mmの第1貯蔵室2を備えた触覚センサ1の押込力と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
【0091】
図23~
図25に示すように、第1貯蔵室2の直径が同じであれば、流路4の厚みt=2mmの時が、厚み1mmの時、厚み3mmの時よりも誘導係数の変化が大きいことが分かる。
【0092】
このように、流路4の厚みtは2mmの時が、感度最大となった。流路4の厚みtが増大する程感度が大きくなると想定していたが、想定外の結果である。流路4の厚みtが増すと、直線状の流路4を移動する液体金属6による流路4の膨らみが大きくなって損失が発生した可能性が考えられる。
【0093】
図26は鉛直上向きへの曲げを加えた触覚センサ1の曲率と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
図27は鉛直上向きへの曲げを加えた触覚センサ1の外観を示す画像である。
図28は水平方向への曲げを加えた触覚センサ1の曲率と誘導係数の変化との間の関係を示すグラフである。
図29は水平方向への曲げを加えた触覚センサ1の外観を示す画像である。
【0094】
流路4の厚みt=2mmの触覚センサ1を、
図27に示すように鉛直上向きに曲げた際は、
図26に示すように、渦巻コイル5の誘導係数は、曲げられた触覚センサ1の曲率が増大するに従って減少した。
【0095】
この触覚センサ1を、
図29に示すように柔軟層12の側面が鉛直下向きになるように配置して水平方向に曲げた際は、
図28に示すように、曲げられた触覚センサ1の曲率にかかわらず、渦巻コイル5の誘導係数は、ほぼ変化しなかった。
【0096】
このように、触覚センサ1は曲げ自体には大きく反応しないと判断される。水平方向に曲げた場合は、曲率と誘導係数の変化との間に明確な相関は見られない。鉛直上向きに曲げた場合は、曲率に応じて誘導係数が減少する。
【0097】
以上のように本実施形態に係る触覚センサ1は、第1貯蔵室2付近に加わった外力の大きさ、又は第1貯蔵室2付近の変位自体を、渦巻きコイル5の誘導係数の変化を計測する計測回路8により取得可能な値に変換するものである。この触覚センサ1は、外力により変形が生じる流路4と柔軟層12との中に、渦巻きコイル5及び計測回路8を埋め込む必要が無い。また、流路4は、完全に密封されており、電極等の配線や電気回路を接続する必要も無い。このため、触覚センサ1は外力に対する耐久性が高い。
【0098】
さらに、渦巻きコイル5は、第2貯蔵室3に向かって積みあがるように巻かれたコイルではないため、フレキシブル基板7のような薄い柔軟シート上にも実装することができる。
【0099】
そして、触覚センサ1の対象物が接触する第1貯蔵室2は、柔軟素材の柔軟層12で形成されるので対象物の形状に馴染み、また、固形物が存在しないため、対象物を傷つける恐れが少ない。さらに、柔軟層12が傷んだ場合であっても、渦巻きコイル5を含むコイル回路11に何ら変更を加えることなく柔軟層12を新しいものと交換することができる。
【0100】
なお、液体金属6を封入する例を示したが、本発明はこれに限定されない。液体金属6に限らず、第1貯蔵室2への対象物の接触に応じて渦巻きコイル5の誘導係数を変化させる流動体を封入すればよい。例えば、液体金属6に限らず、導電率の高い導電性液体を封入してもよいし、強磁性を示す有機化合物が溶解した溶剤を封入してもよい。また、鉄粉を分散させたシリコンオイルを封入してもよい。さらに、対象物の接触に応じて渦巻きコイル5の誘導係数を変化させることができるのであれば、気体を封入してもよい。
【0101】
流路4の内部に流動体の移動を大きく妨げることのない柔らかい薄膜状の隔壁が設けられている場合には、この隔壁の第2貯蔵室3の側にのみ上記のような流動体を注入すればよい。この隔壁の第1貯蔵室2側に注入する流動体は、対象物の接触に応じてこの隔壁を変位または変形させられるのであればどのようなものであってもよい。例えば、水やシリコンオイルなどをこの隔壁の第1貯蔵室2側に注入することが可能である。
【0102】
本実施形態に係る触覚センサ1は、例えば以下の用途に適用することができる。
【0103】
まず、本実施形態に係る触覚センサ1は、温度変化の激しい場所で接触を検知する用途に用いることができる。
【0104】
コイル回路11に含まれるセラミックキャパシタは、熱に弱く、熱により電気的特性が変化してしまうので、従来の接触センサは温度変化の激しい場所で接触を検知することが困難であった。これに対して、本実施形態に係る触覚センサ1は、柔軟素材である柔軟層12と硬質素材であるコイル回路11とが互いに離れた位置に配置されるので、柔軟層12の第1貯蔵室2を温度変化の激しい場所に配置し、渦巻きコイル5、セラミックキャパシタを含むコイル回路11を温度変化の激しくない場所に配置することができる。このため、触覚センサ1は、温度変化の激しい場所で接触を検知する用途に用いることが可能である。
【0105】
また、ロボット用皮膚センサとして、様々な部位における要求感度や想定外力に合わせて柔軟層12の硬度や厚みを調整して効果的に触覚センサ1を用いることができる。
【0106】
例えば、ロボットの指先であれば、高い感度が必要であるものの衝撃分散性は要求されないため、柔軟層12を薄くすればよい。大きな衝撃や負荷に耐える必要があるロボットの足裏であれば、柔軟層12の硬度と厚みを増せばよい。高い衝撃分散性が求められるロボットの臀部には、柔軟層12の硬度を下げ、厚みを増せば良い。
【0107】
また、第1貯蔵室2の面方向の幅を変えることで、部位ごとに適した触覚センサ1の空間解像度を容易に実現し、不要なセンサチャンネル数を省くことができる。例えば、高い空間解像度が求められるロボットの指先では狭い幅の第1貯蔵室2とし、ロボットの背中や臀部では広い幅の第1貯蔵室2とすればよい。
【0108】
さらに、介護ロボットやペットロボットのような人が触れ合うロボットの表面に触覚センサ1を用いる場合には、安全かつ感度の良い触覚表面とすることができる。これと同時に、柔軟層12の硬度や厚みの分布を変えたり、柔軟層12中に繊維や柔軟管を配置することによって、触覚センサ1のさわり心地を動物の皮膚に近づけるなどの工夫を凝らすことができる。
【0109】
安全性と衛生性とが求められる、人の体や臓器に触れる医療器具の先端に設けられる接触センサとしての活用にも触覚センサ1は適している。例えば、内視鏡や腹腔鏡手術の際に、手術対象部の組織の硬さを測ったり、手術中に過度な負荷を人体に与えていないかを把握するといったことが触覚センサ1により可能になる。このような用途においては、使用した後に柔軟層12を新品に交換するだけで衛生性が保たれる。触覚センサ1の柔軟層12には人体を傷つける恐れのある突起物や大電流回路がないため、強く押し付けても安全である。
【0110】
乱暴に扱われ得る玩具に触覚センサ1を搭載すると、玩具の柔らかい感触と安全性とを損なわずに触覚機能を玩具に追加し、エンターテインメント性や教育効果などの玩具の付加価値を高めることができる。例えば、握ることでストレスを解消するような弾力感のあるボールに触覚センサ1を搭載し、握られた強さに応じて音や光の演出を行うことで、ストレス解消効果の増加が期待できる。また、子供が遊ぶ人形の柔らかい部分にこの触覚センサ1を搭載すれば、強く握ったり乱暴に扱った際に、「痛いよ」と人形に言わせるような機能が追加できる。
【0111】
マッサージチェアや操縦席シート、枕など、心地よさが必要な人との接触面に触覚センサ1を搭載することで、心地よさを損なわず、人の接触状態を検知し、より快適な状態へと誘導することが可能になる。例えば、接触状態の記録と、人の心地よさの評価とを対応付けてデータを蓄積することで、心地よくない状態になってしまっている場合に、どうすれば心地よい状態になるか(もう少し右に寄るとよい、など)を人にアドバイスする機能がマッサージチェア等に搭載できる。
【0112】
筋肉トレーニング機器や美顔器などの健康器具に、接触状態を加味した動作調整機能を搭載し、効果を高める用途で触覚センサ1を使用できる。例えば、体の一部に押し当てた状態で振動したり電気刺激を与えることで筋肉トレーニング効果や美顔効果を与える機器の接触面に触覚センサ1を搭載し、強く接触している箇所とそうでない箇所で、振動や刺激の量を変えることが可能になる。
【0113】
食品を扱うロボットのエンドエフェクタに取り付ける触覚センサとしても触覚センサ1は適している。触覚センサ1の柔軟層12が柔軟であるため、柔らかい食品を傷つけにくい。触覚センサ1は柔軟層12の洗浄や交換が容易であるため、衛生性も確保できる。触覚センサ1は柔軟層12の素材として、調理器具にも使用されているシリコンゴムが利用できるため、安全適合性も高い。
【0114】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0115】
1 触覚センサ
2 第1貯蔵室
3 第2貯蔵室
4 流路
5 渦巻きコイル(コイル)
6 液体金属(流動体、液体)
7 フレキシブル基板
8 計測回路
9 柔軟薄壁
11 コイル回路
12 柔軟層(柔軟素材)