(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】触覚評価装置、触覚評価方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01L 5/16 20200101AFI20240328BHJP
【FI】
G01L5/16
(21)【出願番号】P 2020090318
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】栗田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】今岡 恭司
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-004585(JP,A)
【文献】特開2012-047713(JP,A)
【文献】特開2009-034742(JP,A)
【文献】特開2017-102755(JP,A)
【文献】特開2018-146544(JP,A)
【文献】特開2015-114169(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0075250(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00- 5/28
G01N 19/00-19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体と、弾性体である擬似指とを接触させた状態で、前記被検体又は前記擬似指を動作させた際の、前記被検体にかかる力及びモーメントを計測する力センサと、
前記力センサで計測された力及びモーメントと前記被検体の厚みとを用いて算出された圧力中心の移動量に基づいて、前記被検体の触覚を評価する評価部と、を備える、
ことを特徴とする触覚評価装置。
【請求項2】
前記力センサは、6軸力センサである、
ことを特徴とする請求項1に記載の触覚評価装置。
【請求項3】
前記評価部は、
複数の評価結果を教師データとして、前記圧力中心の移動量から触覚を推定するように、機械学習により生成された推定モデルを用いて、前記被検体の触覚を推定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の触覚評価装置。
【請求項4】
被検体と、弾性体である擬似指とを接触させた状態で、前記被検体又は前記擬似指を動作させた際の、前記被検体にかかる力及びモーメントを計測する計測ステップと、
前記計測ステップで計測された力及びモーメントと前記被検体の厚みとを用いて算出された圧力中心の移動量に基づいて、前記被検体の触覚特性を評価する、評価ステップと、を含む、
ことを特徴とする触覚評価方法。
【請求項5】
コンピュータを、
被検体と、弾性体である擬似指とを接触させた状態で、前記被検体又は前記擬似指を動作させた際の、前記被検体にかかる力及びモーメントを取得する力センサ制御部、
前記力センサ制御部で取得された力及びモーメントと前記被検体の厚みとを用いて算出された圧力中心の移動量に基づいて、前記被検体の触覚特性を評価する評価部、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触覚評価装置、触覚評価方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
筆記用具、ボール、衣服等、人に触れる様々な商品では、ざらざら、さらさら等の触覚が商品価値に大きく影響するため、これらの商品の開発においては、触覚の評価が重要とされている。
【0003】
触覚の評価装置として、例えば、特許文献1の装置が開発されている。特許文献1の評価装置は、3軸力センサを覆うように形成されたエラストマを、被検体に接触させた状態で移動させて、被検体の触覚特性を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触覚評価を精度よく行うためには、指と被検体との間の初期すべりを考慮した微小変位での評価が求められる。また、触感は直線的なすべり動作のみでなく、曲線的な動作、回転動作等によっても影響を受ける。3軸力センサを用いた特許文献1の評価装置では、これら微小変位、回転動作等に基づく精度のよい触覚評価を行うことは難しい。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、被検体と擬似指との間の微小な動作、回転動作に対応可能であり、高い精度で触覚を評価することができる触覚評価装置、触覚評価方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係る触覚評価装置は、
被検体と、弾性体である擬似指とを接触させた状態で、前記被検体又は前記擬似指を動作させた際の、前記被検体にかかる力及びモーメントを計測する力センサと、
前記力センサで計測された力及びモーメントと前記被検体の厚みとを用いて算出された圧力中心の移動量に基づいて、前記被検体の触覚を評価する評価部と、を備える。
【0008】
また、前記力センサは、6軸力センサである、
こととしてもよい。
【0009】
また、前記評価部は、
複数の評価結果を教師データとして、前記圧力中心の移動量から触覚を推定するように、機械学習により生成された推定モデルを用いて、前記被検体の触覚を推定する、
こととしてもよい。
【0010】
また、本発明の第2の観点に係る触覚評価方法は、
被検体と、弾性体である擬似指とを接触させた状態で、前記被検体又は前記擬似指を動作させた際の、前記被検体にかかる力及びモーメントを計測する計測ステップと、
前記計測ステップで計測された力及びモーメントと前記被検体の厚みとを用いて算出された圧力中心の移動量に基づいて、前記被検体の触覚特性を評価する、評価ステップと、を含む。
【0011】
また、本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
被検体と、弾性体である擬似指とを接触させた状態で、前記被検体又は前記擬似指を動作させた際の、前記被検体にかかる力及びモーメントを取得する力センサ制御部、
前記力センサ制御部で取得された力及びモーメントと前記被検体の厚みとを用いて算出された圧力中心の移動量に基づいて、前記被検体の触覚特性を評価する評価部、
として機能させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の触覚評価装置、触覚評価方法及びプログラムによれば、力センサで計測された被検体にかかる力及びモーメントと、被検体の厚みとを用いて算出された圧力中心の移動量に基づいて、前記被検体の触覚特性を評価するので、精度の高い触覚評価を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係る触覚評価装置の外観を示す正面図である。
【
図2】実施の形態に係る触覚評価装置の概略構成を示す図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【
図3】実施の形態に係る触覚評価装置のブロック図である。
【
図4】計測される力、モーメント及び被検体に係る合力を示す概念図である。
【
図5】実施の形態に係る触覚評価の流れを示すフローチャートである。
【
図6】擬似指と被検体との接触面を示す図であり、(A)は応力の状態と微小変位を示す概念図、(B)は接線方向力と固着域との関係を示す概念図である。
【
図7】圧力中心の移動量と接線方向力との関係の例を示すグラフである。
【
図8】ヤング率を変更した場合における圧力中心の移動量と接線方向力との関係の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(触覚評価装置の構成)
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る触覚評価装置1について説明する。
【0015】
図1、
図2(A)、(B)に示すように、本実施の形態に係る触覚評価装置1は、擬似指10、擬似指駆動部11、力センサ12、ステージ13、制御ユニット20を備える。
【0016】
なお、触覚評価装置1の各部を説明する図では、
図2(A)に示す触覚評価装置1の正面視における左右方向をx軸方向、触覚評価装置1の奥行き方向、すなわち
図2(A)の紙面垂直方向をy軸方向、触覚評価装置1の上下方向をz軸方向とする直交座標系を設定し、適宜参照する。なお、
図2(A)の右方向を+x方向、奥行方向を+y方向、上方向を+z方向とする。
【0017】
擬似指10は、人の指を模した半球形の弾性体部材である。擬似指10の素材は、特に限定されないが、人の肌の硬度に近いゲル、例えば軟質ウレタン樹脂を用いることができる。
【0018】
擬似指駆動部11は、擬似指10を動作させるスライダ等である。本実施の形態に係る擬似指駆動部11は、擬似指10を被検体Sの表面に押圧するためにz軸方向に動作する直動アクチュエータを備える。これにより、擬似指駆動部11は、擬似指10を、x-y平面上に配置された被検体Sに対して垂直方向(以下、法線方向ともいう。)に押圧できる。
【0019】
また、擬似指駆動部11は、擬似指10を被検体Sの表面に押圧し、接触させた状態で、被検体Sの表面に平行な方向に移動させるための直動アクチュエータを備える。具体的には、擬似指駆動部11は、x-y平面上に配置された被検体Sの表面に対して、平行な方向(以下、接線方向ともいう。)となるx軸方向及びy軸方向に動作するように配置されている。これにより、擬似指駆動部11は、擬似指10を、被検体Sに対して平行に動作できる。
【0020】
ステージ13は、被検体Sとなる測定素材を載置、固定する基台である。被検体Sは、触覚を評価される対象となるものであり、例えば、皮革、ゴム、紙等のシート状部材である。
【0021】
力センサ12は、ステージ13を支持するように、ステージ13の下方(-z方向)に取り付けられており、被検体Sに係る力及びモーメントを計測する。本実施の形態に係る力センサ12はx、y、z軸方向の力及びx、y、z軸まわりのモーメントを計測する6軸力センサである。
【0022】
制御ユニット20は、例えばコンピュータ装置であり、
図3のブロック図に示すように、制御部21、記憶部22、表示部23、入力部24を備える。
【0023】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、水晶発振器等から構成されており、触覚評価装置1の動作を制御するとともに、力センサ12で計測された被検体Sにかかる力及びモーメント、被検体Sの厚さ等に基づいて擬似指10と被検体Sとの接触面の圧力中心(COP:Center Of Pressure)を算出する。また、制御部21は、算出された圧力中心の移動量に基づいて、被検体Sの触覚を推定する。
【0024】
制御部21は、制御部21のROM、記憶部22等に記憶されている各種動作プログラム及びデータをRAMに読み込んでCPUを動作させることにより、
図3に示される制御部21の各機能を実現させる。これにより、制御部21は、力センサ制御部211、評価部212として動作する。
【0025】
力センサ制御部211は、力センサ12を制御して、力センサ12から、力、モーメントの計測データを取得する。また、力センサ制御部211は、取得した計測データを記憶部22へ送信し、記憶させる。
【0026】
評価部212は、力センサ12から取得された力、モーメントの計測データに基づいて、各計測時刻tにおける擬似指10と被検体Sとの接触面の圧力中心を算出する。
図4は、力センサ12で計測される力及びモーメント、被検体Sにかかる合力等を示す図である。
図4に示すように、擬似指10から加わる圧力合力をFとした場合、圧力合力の作用点である圧力中心の座標(X
COP,Y
COP)は、以下の式(1)、(2)によって算出される。
【数1】
ただし、F
X,F
Y,F
Zは3軸方向の力、M
X,M
Y,M
Zは3軸まわりのモーメント、hは被検体Sの厚みである。
【0027】
また、評価部212は、算出された圧力中心の移動、すなわち圧力中心座標の時間変化を記憶部22へ記憶させる。また、評価部212は、記憶部22に記憶されている圧力中心座標の時間変化を読み出して、被検体Sの触覚を評価する。触覚の評価は、被検体Sの表面の凹凸、滑りやすさ等によって人が感じるざらざら感等の触感を、表すものである。
【0028】
記憶部22は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであり、力センサ12で計測された力及びモーメントから擬似指10と被検体Sとの接触面の圧力中心を算出する演算アルゴリズム、圧力中心の移動量に基づいて触覚を推定する学習済みモデル等を記憶する。
【0029】
表示部23は、コンピュータ装置である制御ユニット20に備えられた表示用デバイスであり、例えば液晶パネルである。表示部23は、力センサ12で計測された被検体Sにかかる力、モーメント、評価部212で推定された触覚の評価結果等を表示する。
【0030】
入力部24は、触覚評価装置1における評価の開始、終了指示、各種評価条件の変更等を入力するための入力デバイスである。入力部24は、制御ユニット20に備えられたキーボード、タッチパネル、マウス等である。
【0031】
(触覚評価方法)
続いて、触覚評価装置1を用いた触覚評価方法について、
図5のフローチャートを参照しつつ、具体的に説明する。
【0032】
まず、ステージ13に、触覚を評価する対象である被検体Sが載置される(ステップS11)。被検体Sが載置された後、計測ステップが開始され、制御部21は、擬似指駆動部11を制御して、擬似指10を-z方向に下降させ、予め設定されている所定の力で被検体Sを押圧する(ステップS12)。
【0033】
擬似指10の下降が完了した後、制御部21は、6軸力センサである力センサ12を制御して、擬似指10と被検体Sとの接触によって被検体Sにかかる力、モーメントの計測を開始する(ステップS13)。
【0034】
続いて、制御部21は、擬似指駆動部11を制御して、擬似指10を動作させる(ステップS14)。擬似指10の動作は、擬似指10と被検体Sとの接触を保った状態で行われるものであれば特に限定されず、例えば、x-y平面上(接線方向)の直線動作、回転動作等である。動作が開始されると、力センサ制御部211は、力センサ12から被検体Sにかかる力及びモーメントの計測データの取得を開始する(ステップS15)。
【0035】
また、評価部212は、力センサ12から取得した計測データに基づいて、擬似指10と被検体Sとの接触面の圧力中心を算出する(ステップS16)。評価部212は、算出された圧力中心の座標と、計測時刻tとを記憶部22に記憶させる。制御部21は、予め定められた計測終了条件に達していなければ(ステップS17のNO)、所定の時刻ステップごとに計測データの取得と、圧力中心の算出とを繰り返す。測定終了条件は、例えば、計測時間、計測ステップ数、擬似指10の移動量等が所定の値に到達したことである。
【0036】
予め定められた計測終了条件に達すると(ステップS17のYES)、計測ステップは終了し、評価ステップに進む。評価ステップでは、制御部21の評価部212は、圧力中心座標の時間変化から算出される圧力中心の移動量に基づいて、触覚の評価を行う(ステップS18)。触覚評価は、例えば、記憶部22に予め記憶されている、圧力中心の移動量と触覚特性との相関関係を表す相関表、圧力中心の移動量から触覚特性を推定する学習済みモデル等を用いて、行われる。
【0037】
制御部21は、評価結果を記憶部22に記憶させるとともに、表示部23へ表示させ(ステップS19)、評価処理を終了する。
【0038】
(数値例)
続いて、表面に粒径の異なるビーズが塗布された被検体Sについて、触覚評価を行った場合の例について説明する。
【0039】
被検体Sとしてのフィルムの特性は、以下の表に示すとおりである。
【表1】
【0040】
触覚評価を精度よく行うためには、擬似指10が被検体Sに対して移動を開始する初期すべり時の力と変位との関係を考慮することが求められるので、本例では、初期すべり時の動作に基づく触覚評価を行うこととする。
【0041】
図6(A)、(B)は、擬似指10が被検体Sに対して移動を開始する初期すべり時の圧力と変位との関係を示したものである。
図6(A)、(B)に示すように、初期すべり時においては、擬似指10と被検体Sとの間ですべりが生じているすべり域と、すべりが生じていない固着域とが存在する。
【0042】
本実施の形態に係る初期すべり時の触覚評価では、接線方向の力と圧力中心の移動量との関係に基づく評価を行う。本例において、擬似指10が被検体Sをz軸方向に押す法線方向力fgは10Nである。また、擬似指10はx軸方向に2.5mm/sで15mm移動する。
【0043】
擬似指10の初期すべり時の微小変位は、被検体Sにかかる法線方向力fg、接線方向力flを用いて、以下の式(3)で表すことができる。
【0044】
【数2】
ただし、μは静止摩擦係数、aは接触面半径、Gは剛性率、νはポアソン比である。
【0045】
図7のグラフは、上式から導かれる微小変位の理論値又は算出されたX
COP,Y
COPから計算される圧力中心の移動量と、接線方向力f
lとの関係を示している。式(3)に示されるように、微小変位の理論値においては、全体がμ倍されるとともに、接線方向力f
lが1/μ倍されている。すなわち、摩擦係数μの大きさによって、グラフの形状が異なり、摩擦係数μが大きいほど、縦横軸方向に大きいグラフ概形となる。
【0046】
図7に示すように、本例では、摩擦係数μの異なる複数の被検体Sにおいて、実験値と理論値とがよく一致していることがわかる。すなわち、力センサ12によって計測される接線方向力f
lと、力センサ12の計測データに基づいて算出される圧力中心の移動量との関係は、理論的に計算される接線方向力f
lと微小変位との関係に近似する。
【0047】
したがって、力センサ12の計測データに基づいて算出される圧力中心の移動量に基づいて、摩擦係数μを推定することができる。さらに、摩擦係数μと触覚との相関関係を示す相関表を予め記憶部22に記憶させておくことにより、制御部21は、算出された摩擦係数μに対応する触覚評価結果を相関表に基づいて導出することができる。
【0048】
ここで、式(3)中の剛性率Gは、ヤング率Eを用いてG=E/2(1+ν)で表される。一般的に、擬似指10の特性パラメータである剛性率Gは、擬似指10の形状、材料の組成等に大きく影響を受けるので、設計的に導出されたカタログ値と実際の値とを一致させることは難しい。例えば、
図7の理論値の計算ではヤング率E=0.31GPaを用いているが、
図8に示すように、ヤング率EをE=0.23GPaとした場合、測定値と理論値とが乖離してしまう。したがって、予め、実験によって、剛性率G又はヤング率Eをフィッティングして、実際の値に近い値を設定しておくことが好ましい。
【0049】
また、触覚評価は、摩擦係数μとこれに対応する触覚特性との相関関係を表す相関表を記憶部22に予め記憶させておき、算出された摩擦係数μに対応する触覚特性を評価結果として出力することとしたが、これに限られない。例えば、様々な触覚の被検体Sに関する複数の力及びモーメントを教師データとして学習された学習済みモデルを用いて、触覚評価を行うこととしてもよい。
【0050】
この場合、学習済みモデルは、力及びモーメントから圧力中心を算出して、被検体Sの触覚を推定するように、機械学習により生成された推定モデルとすればよい。記憶部22に予め学習済みモデルが記憶されており、評価部212は、被検体Sの厚みによって調整された学習済みモデルに、力センサ12から取得された力及びモーメントを入力することにより、学習済みモデル内部で圧力中心の移動量を算出して、触覚評価を行う。また、学習済みモデルを生成するための機械学習アルゴリズムは、特に限定されないが、例えばニューラルネットワークを用いた機械学習アルゴリズムを用いることができる。
【0051】
例えば、上記の数値例の場合、圧力中心の移動量と、被検体Sにかかる接線方向力fl、すなわちx-y平面に平行な方向の力の大きさの変化を、教師データとして、被検体Sの表面粗さ等を推定し、触覚の評価を行うこととすればよい。
【0052】
以上、説明したように、本発明に係る触覚評価装置、触覚評価方法及びプログラムによれば、力センサ12で計測された被検体Sにかかる力及びモーメントと、被検体Sの厚みとを用いて算出された圧力中心の移動量に基づいて、被検体Sの触覚特性を評価する。したがって、初期すべりに係る微小変位の範囲であっても、精度の高い触覚評価を行うことが可能である。
【0053】
本実施の形態では、擬似指10をx軸方向の一方向に動かして触覚を評価することとしたが、これに限られない。例えば、x軸方向とy軸方向の2方向に移動させて評価してもよいし、擬似指10を回転させて評価してもよい。この場合、擬似指駆動部11は、擬似指10を回転させるモータを備えることとすればよい。これにより、多面的な評価ができるので、より精度の高い触覚評価を行うことができる。
【0054】
また、本実施の形態では、擬似指10をx軸方向に一定速度で移動させることとしたが、これに限られない。例えば、擬似指10又はステージ13の移動速度は、段階的に変化させることとしてもよいし、正弦波のように曲線的な動作、往復運動等の加速度変化を生じる動作等としてもよい。これにより、複雑な動作に基づく、より精度の高い触覚評価を行うことができる。
【0055】
また、本実施の形態に係る擬似指10は、人の指を模した半球形であることとしたが、これに限られない。力センサ12による力、モーメント等のデータ取得に適した形状であればよく、例えば、楕円柱の先端がR形状であるもの、人の指のように爪側と指の腹側で曲率の異なる形状のものであってもよい。また、被検体Sに対する擬似指10の押圧方向は、被検体Sに対して垂直な方向に限られず、被検体Sに対して斜めに押圧されることとしてもよい。これらにより、実際に人が被検体Sに触れた場合に近い触覚評価を行うことができる。
【0056】
また、擬似指10は、乾いた状態に限られず、濡れた状態で触覚評価を行うこととしてもよい。例えば、乾いた状態の擬似指10を用いて触覚評価のための一連のデータ取得を行った後、水に濡れたスポンジに擬似指10を接触させ、濡れた状態の擬似指10を用いてデータ取得を行い、これらのデータに基づいて触覚評価を行うこととしてもよい。これにより、指の表面の乾燥度合いによって異なる触感を考慮した、より精度の高い触覚評価を行うことができる。
【0057】
また、本実施の形態では、被検体Sに対する擬似指10の初期すべり時の微小変位に基づいて触覚を評価することとしたが、これに限られない。例えば、微小変位の範囲と、固着領域のない、より大きな変位量の範囲と、を組み合わせて触覚を評価することとしてもよい。
【0058】
また、本実施の形態に係る触覚評価方法は、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、上記の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、USBメモリ、DVD-ROM等のコンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、コンピュータ装置を上記の触覚評価方法を実行する触覚評価装置1の制御ユニット20として機能させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、高精度に被検体の触覚を評価する触覚評価装置に好適である。特に、被検体の表面を撫でるように、指や手のひらを滑らせた場合の触覚評価を行う触覚評価装置に好適である。
【符号の説明】
【0060】
1 触覚評価装置、10 擬似指、11 擬似指駆動部、12 力センサ、13 ステージ、20 制御ユニット、21 制御部、211 力センサ制御部、212 評価部、22 記憶部、23 表示部、24 入力部、S 被検体