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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】質量分析装置及び質量分析方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/14 20060101AFI20240328BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20240328BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20240328BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240328BHJP
【FI】
H01J49/14 500
H01J49/04 770
G01N30/02 N
G01N27/62 G
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022579619
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2022004433
(87)【国際公開番号】W WO2022168943
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2021017547
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】豊田 岐聡
(72)【発明者】
【氏名】本堂 敏信
(72)【発明者】
【氏名】中山(古谷) 浩志
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0301530(US,A1)
【文献】Toshinobu HONDO et al.,“Analysis of Nonvolatile Molecules in Supercritical Carbon Dioxide Using Proton-Transfer-Reaction Ionization Time-of-Flight Mass Spectrometry”,Analytical Chemistry,2021年04月23日,Vol. 93,No. 17,p.6589-6593,DOI: 10.1021/acs.analchem.1c00898
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/14
H01J 49/04
G01N 30/02
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析のための対象化合物が溶解した超臨界流体を真空中に導入して解放するために設けられた超臨界流体導入部と、
前記超臨界流体に溶解した対象化合物をプロトンの移動を伴う分子反応により前記真空中でイオン化するイオン化部と、
前記イオン化された対象化合物の質量を測定する質量測定部とを備えることを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
前記超臨界流体を真空中に導入する前に、前記超臨界流体を生成して前記対象化合物を前記超臨界流体に溶解させて抽出する超臨界流体抽出部をさらに備える請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記イオン化部は、前記対象化合物にプロトンを付加するか、又は、前記対象化合物からプロトンを引き抜く反応イオンを生成する反応イオン生成部と、
前記反応イオンが前記対象化合物と分子反応するために設けられた反応部と、
前記分子反応によりイオン化された対象化合物を前記質量測定部に導入する導入部とを含む請求項1又は2に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記超臨界流体導入部は、前記超臨界流体を加熱して前記真空中に導入する請求項1から3の何れか一項に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記超臨界流体導入部は、前記超臨界流体の圧力をバルブで維持しながら前記真空中に導入する請求項1から3の何れか一項に記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記超臨界流体のプロトン親和力が、前記反応イオンのプロトン親和力以下である請求項3に記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記反応イオンがHを含み、
前記超臨界流体が、二酸化酸素を含む請求項3に記載の質量分析装置。
【請求項8】
前記反応イオンがHを含み、
前記対象化合物のプロトン親和力が、水のプロトン親和力よりも大きい請求項3に記載の質量分析装置。
【請求項9】
前記反応イオンがHを含み、
前記イオン化部は、前記Hから前記対象化合物へのプロトンの移動により前記対象化合物をイオン化する請求項3に記載の質量分析装置。
【請求項10】
前記超臨界流体導入部は、前記超臨界流体を移動相としたクロマトグラフィーで分離した後、前記真空中に導入する請求項1から9の何れか一項に記載の質量分析装置。
【請求項11】
質量分析のための対象化合物が溶解した超臨界流体を真空中に導入して解放する超臨界流体導入工程と、
前記超臨界流体に溶解した対象化合物をプロトンの移動を伴う分子反応により前記真空中でイオン化するイオン化工程と、
前記イオン化された対象化合物の質量を測定する質量測定工程とを包含することを特徴とする質量分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、質量分析のための対象化合物が溶解した超臨界流体を対象とする質量分析装置及び質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SFC(超臨界流体クロマトグラフィー)、SFE(超臨界流体抽出)を用いて試料から可溶物質を抽出し、オンラインでこの抽出物をクロマトグラフに導いて成分に分離し、この成分を分取する抽出・クロマトグラフ分離・取得装置が知られている(特許文献1)。
【0003】
そして、大気中の揮発性有機酸化物を測定するためのプロトン移動反応(Proton-Transfer Reaction:PTR)イオン化イオン源を有する質量分析装置が従来技術として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国「特公平7-15458号公報」(特許第1987559号明細書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のSFE/SFC-質量分析装置(MS)では、大気圧中に導入する超臨界流体の超臨界状態を維持するために、エタノールやアセトニトリル等の有機溶媒をエントレーナとして導入して、ESI(エレクトロスプレーイオン化)として噴霧・イオン化する方法、若しくは、APCI(大気圧化学イオン化法)を用いてイオン化する方法が広く採用されてきた。ESIは極性の有機溶媒の存在が必要であるが、APCIはその必要がない。にもかかわらず、高圧化の超臨界流体を大気圧でイオン化する際の減圧過程での溶質の析出を回避する目的でトルエンやイソプロピルアルコールをはじめとした有機溶媒の添加が必要であった。これにより、SFCのメリットである高い分離効率(高理論段数)や、温度と圧力だけを制御することで幅広い分析を対象とでき得るという特徴を殺してしまって網羅性を失ってしまっているという問題があった。
【0006】
そして、従来のLC-MS(液体クロマトグラフ質量分析装置)では、油脂、多環芳香族炭化水素、直鎖炭化水素、ポリマー、及び、可塑剤等の非極性物質を検出することが困難もしくは不可能であった。
【0007】
また、従来のPTRイオン化イオン源を有する質量分析装置は、大気中の揮発性有機化合物を高感度に測定する目的などに用いられてきたが、SFEやSFCが主に対象とする高分子化合物、とりわけ揮発性が低い若しくは揮発しない物質の測定には実施されてこなかった。
【0008】
即ち、これまでPTRイオン化イオン源を用いた質量分析計は、大気・排ガスなどに含まれる揮発性有機化合(VOC)の現場測定のために用いられている場合が殆どであり、液体クロマトグラフィやガスクロマトグラフィと接続し、物質分離・物質同定のための分析装置として用いられた例は殆どなかった。
【0009】
本発明の一態様は、超臨界流体に溶解した幅広い分析対象の対象化合物を質量分析することができる質量分析装置及び質量分析方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る質量分析装置は、質量分析のための対象化合物が溶解した超臨界流体を真空中に導入して解放するために設けられた超臨界流体導入部と、前記超臨界流体に溶解した対象化合物をプロトンの移動を伴う分子反応により前記真空中でイオン化するイオン化部と、前記イオン化された対象化合物の質量を測定する質量測定部とを備えることを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る質量分析方法は、質量分析のための対象化合物が溶解した超臨界流体を真空中に導入して解放する超臨界流体導入工程と、前記超臨界流体に溶解した対象化合物をプロトンの移動を伴う分子反応により前記真空中でイオン化するイオン化工程と、前記イオン化された対象化合物の質量を測定する質量測定工程とを包含することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、超臨界流体に溶解した幅広い分析対象の対象化合物を質量分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係る質量分析装置の構成図である。
図2】上記質量分析装置の超臨界流体導入部を示す画像である。
図3】上記超臨界流体導入部に設けられた加熱部を示す画像である。
図4】上記加熱部の構成図である。
図5】上記加熱部の他の例の構成図である。
図6】上記超臨界流体導入部に設けられたソレノイドバルブの概略構成を示す図である。
図7】上記ソレノイドバルブの詳細構成を示す図である。
図8】上記ソレノイドバルブの他の例の概略構成を示す図である。
図9】上記ソレノイドバルブの他の例とイオン化部との関係を示す図である。
図10】上記加熱部のさらに他の例を示す図である。
図11】実施形態2に係る質量分析装置の構成図である。
図12】実施形態3に係る質量分析装置の構成図である。
図13】上記質量分析装置の動作を説明するための図である。
図14】対象化合物をカフェインとしたときの上記質量分析装置による質量分析結果を示すグラフである。
図15】対象化合物をカフェインとしたときのフローインジェクションプロファイルを示すグラフである。
図16】対象化合物をオリザノールとしたときの上記質量分析装置による質量分析結果を示すグラフである。
図17】対象化合物をオリザノールとしたときのフローインジェクションプロファイルを示すグラフである。
図18】上記オリザノールの化学的構成を示す図である。
図19】実施形態5に係る質量分析装置の超臨界流体抽出/クロマトグラフィー分離部を示す構成図である。
図20】実施形態5に係る質量分析装置の超臨界流体抽出/クロマトグラフィー分離部を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0015】
「超臨界流体」(Supercritical Fluid)とは、特定の物質の臨界温度・臨界圧力を超えた状態にある物質を示す。但し、本明細書においては、「超臨界流体」は、応用に重要な亜臨界状態およびエントレーナを含む状態にある物質も含むものとする。
【0016】
図1は実施形態1に係る質量分析装置1の構成図である。
【0017】
質量分析装置1は、超臨界流体抽出部2と、超臨界流体導入部3と、イオン化部4と、質量測定部5とを備える。超臨界流体抽出部2は、超臨界流体を生成して質量分析のための対象化合物を超臨界流体に溶解させて抽出する。超臨界流体導入部3は、対象化合物が溶解した超臨界流体を真空中に導入して解放する。イオン化部4は、超臨界流体に溶解した対象化合物をプロトンの移動を伴う分子反応により真空中でイオン化する。質量測定部5は、イオン化された対象化合物の質量を測定する。
【0018】
イオン化部4は、反応イオン生成部9と、反応部10と、導入部11とを含む。反応イオン生成部9は、対象化合物にプロトンを付加するか、又は、対象化合物からプロトンを引き抜く反応イオンを生成する。反応部10は、反応イオンが対象化合物と分子反応するために設けられる。導入部11は、この分子反応によりイオン化された対象化合物を質量測定部5に導入する。
【0019】
上記対象化合物にプロトンを付加する分子反応は、
[HO] + R → [RH] + HO (式1)、
R:対象化合物、
により表される。対象化合物のプロトン親和力が水のプロトン親和力よりも大きければ、上記(式1)の反応は対象化合物にプロトンを付加する右方向に進む。
【0020】
そして、上記対象化合物からプロトンを引き抜く分子反応は、
[OH] + RH → [R] + HO (式2)、
RH:対象化合物、
により表される。この対象化合物としては、例えば、γオリザノール(γ-Oryzanol A)が挙げられる。
【0021】
超臨界流体導入部3は、超臨界流体を加熱してイオン化部4の真空中に導入するために設けられた加熱部7を含む。
【0022】
反応イオンはHを含むことが好ましい。反応イオンの例としては、Hの他、NH+、OHなどが挙げられる。反応部10の例としては、フローチューブやドリフトチューブが挙げられる。超臨界流体のプロトン親和力は、水のプロトン親和力以下であることが好ましい。
【0023】
超臨界流体は、水のプロトン親和力以下のプロトン親和力を有する二酸化酸素を含むことが好ましい。超臨界流体は、水のプロトン親和力以下のプロトン親和力を有する窒素、酸素、メタン、アルゴンでもよい。また、超臨界流体は、キセノン、水、アンモニアでもよい。
【0024】
対象化合物のプロトン親和力は、水のプロトン親和力よりも大きいことが好ましい。
【0025】
イオン化部4は、Hから対象化合物へのプロトンの移動により対象化合物をイオン化することが好ましい。
【0026】
質量分析装置1は、超臨界二酸化炭素をキャリアとして用いるフローインジェクション-PTRイオン化質量分析の構成例である。
【0027】
超臨界流体抽出部2は、二酸化炭素を供給するためのシリンダ12と、シリンダ12から供給された二酸化炭素を冷却する冷却部13と、冷却部13により冷却された二酸化炭素を加圧するポンプ14と、ポンプ14により加圧された二酸化炭素を加熱して超臨界二酸化炭素を生成するサーモスタット式のオーブン15と、オーブン15により生成された超臨界二酸化炭素に質量分析のための対象化合物を溶解させるための流路切替バルブ16とを含む。
【0028】
流路切替バルブ16は、通常の高速液体クロマトグラフィーで使用されるインジェクタバルブを用いる(置き換える)ことで、ヘキサンやメタノールなどに溶解した対象化合物を超臨界二酸化炭素に注入する。
【0029】
冷却部13は、例えば、Ethanol/dry ice bathにより-25℃に二酸化炭素を冷却する。ポンプ14は、液体の二酸化炭素をオーブン15に供給する。
【0030】
反応イオン生成部9が反応イオンを生成する方法の例としてはコロナ放電、熱電子を照射する方法、放射性物質から放射線を照射する方法、グロー放電等が挙げられる。
【0031】
PTRイオン源としてのイオン化部4内の真空度は1~100Pa程度とすることが多い。
【0032】
質量測定部5は、公知の質量分析装置を使用することができる。また、超臨界流体抽出部2は、超臨界流体を生成するための公知の装置を使用することができる。
【0033】
図2は質量分析装置1の超臨界流体導入部3を示す画像である。図3は超臨界流体導入部3に設けられた加熱部7を示す画像である。図4は加熱部7の構成図である。
【0034】
超臨界流体導入部3は、対象化合物が溶解した超臨界二酸化炭素がイオン化部4の反応部10に向かって流れる導入管17を含む。導入管17は、例えば、直径20μmの毛細管により構成される。加熱部7は、導入管17の中途に設けられ、導入管17を流れる超臨界二酸化炭素を加熱するために導入管17の外周面に吹き付ける加熱ガスを供給する供給管18を有する。加熱ガスは、プロトン親和力が水よりも小さいガス、例えば、窒素、二酸化炭素であることが好ましい。加熱ガスの温度は例えば約60℃を選択することができる。
【0035】
このように構成された質量分析装置1の動作を説明する。
【0036】
まず、シリンダ12、冷却部13、ポンプ14、及びオーブン15により超臨界二酸化炭素を生成して、質量分析のための対象化合物を流路切替バルブ16により超臨界二酸化炭素に溶解させて抽出する(超臨界流体抽出工程)。
【0037】
そして、対象化合物が溶解した超臨界二酸化炭素を、加熱部7により加熱しながら反応部10の真空中に導入して解放する(超臨界流体導入工程)。
【0038】
次に、超臨界二酸化炭素に溶解した対象化合物が、プロトンの移動を伴う分子反応により反応部10の真空中でイオン化する(イオン化工程)。このイオン化工程は、反応イオン生成工程、試料導入工程、及び反応工程を含んでいてよい。まず、対象化合物にプロトンを付加するか、又は、対象化合物からプロトンを引き抜く反応イオンが反応イオン生成部9により生成される(反応イオン生成工程)。この反応イオンが対象化合物と分子反応し(反応工程)、この分子反応によりイオン化された対象化合物を質量測定部5に導入する(導入工程)。
【0039】
対象化合物が溶解した超臨界二酸化炭素は、プロトン親和力が水よりも小さいので、反応部10の真空中でイオン化しない。従って、超臨界二酸化炭素は対象化合物のイオン化を阻害しないので、対象化合物を効率よくイオン化することができる。
【0040】
その後、反応部10によりイオン化された対象化合物の質量を質量測定部5が測定する(質量測定工程)。
【0041】
このように、超臨界流体に溶解した対象化合物を真空中に導入し、この対象化合物をプロトンの移動を伴う分子反応により真空中でイオン化する。このため、従来のLC-MS(液体クロマトグラフ質量分析装置)では検出することが困難もしくは不可能であった油脂、多環芳香族炭化水素、直鎖炭化水素、ポリマー、可塑剤等の非極性物質を高感度で検出することができる。
【0042】
従来のPTRによる質量分析装置は大気中の揮発性有機酸化物を対象としていたが、本実施形態によれば、不揮発性の物質を超臨界流体に溶解させて真空中に導入し、イオン化して質量を分析することができる。
【0043】
そして、超臨界流体抽出の物質選択性によりクロマトグラフィー分離を行わなくても迅速かつ短い操作時間で分析が可能となる。
【0044】
従来は条件を変えて抽出実験を行い、オフラインで実験室での分析によって抽出物の組成変化を確認していたが、オンラインリアルタイムに溶出条件を観察することが可能となり、超臨界流体抽出プラントの運転条件を迅速に決定することができる。従来からUV/Vis(紫外可視光、Ultraviolet/Visible wavelength)スペクトルや蛍光スペクトルを測定する方法で同様のことが行われてきたが、油脂性物質や原油成分の直鎖炭化水素はそれらの方法では溶出物の組成変化を捉えることができなかった。
【0045】
また、PTRイオン化では、真空下の閉空間に試料を導入するため、高感度が得られ、また、イオン分子反応を利用した化学イオン化であるため、イオンの断片化が起こりにくい。
【0046】
さらに、試料分子はマイクロリットル以下の小さい容量のバンドに濃縮状態でイオン化試薬と反応することで反応速度が上昇することから感度の向上が見込まれる。
【0047】
図5は加熱部の他の例の構成図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0048】
超臨界流体導入部3Aは、対象化合物が溶解した超臨界二酸化炭素がイオン化部4の反応部10に向かって流れる導入管17と、導入管17を流れる超臨界二酸化炭素を加熱する加熱部7Aを有する。加熱部7Aは、導入管17の外周面を覆うように設けられたヒータブロック19を含む。
【0049】
図6は超臨界流体導入部3に設けられたソレノイドバルブ8の概略構成を示す図である。図7はソレノイドバルブ8の詳細構成を示す図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0050】
前述した加熱部7・7Aの代わりにソレノイドバルブ8を超臨界流体導入部3に設けてもよい。ソレノイドバルブ8は、ソレノイドバルブを通過する前の超臨界流体の圧力を維持しながら超臨界流体を反応部10の真空中に導入するために設けられる。
【0051】
ソレノイドバルブ8は、ソレノイド27と、真空チャンバ26と、ソレノイド27に連結されて真空チャンバ26にエアタイトシール25を通って挿入される弁棒24と、弁棒24に対応して真空チャンバ26内に設けられた弁座23とを備える。
【0052】
超臨界流体導入部3は、超臨界流体抽出部2に結合されて真空チャンバ26に挿入される導入管20と、真空チャンバ26の弁座23に結合されてイオン化部4の反応部10に接続される導入管21とを有する。
【0053】
図8はソレノイドバルブの他の例の概略構成を示す図である。図9はソレノイドバルブの他の例とイオン化部4との関係を示す図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0054】
超臨界流体導入部3Cは、イオン化部4と連通する真空チャンバ26Cと、超臨界流体の圧力を維持しながらイオン化部4に設けられた反応部10の真空中に超臨界流体を導入するためのソレノイドバルブ8Cと、超臨界流体抽出部2の流路切替バルブ16に接続されて真空チャンバ26Cに挿入される導入管20とを有する。ソレノイドバルブ8Cは、ソレノイド27と、ソレノイド27に連結されて真空チャンバ26Cにエアタイトシール25を通って挿入される弁棒24と、弁棒24に対応して真空チャンバ26C内に設けられた弁座23と、を備える。
【0055】
超臨界流体導入部3Cは、弁座23を通って導入管20から流れ出る超臨界流体を加熱する加熱ガスを供給する供給管18をさらに有する。
【0056】
弁棒24は、ソレノイド27の代わりに空気圧により駆動してもよい。
【0057】
また、ソレノイドバルブの代わりに他のタイプのバルブを用いてもよい。
【0058】
図10は加熱部のさらに他の例を示す図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0059】
超臨界流体導入部3Dは、イオン化部4と連通する真空チャンバ26Dと、超臨界流体抽出部2の流路切替バルブ16に接続されて真空チャンバ26Dに挿入される導入管20と、導入管20から流れ出る超臨界二酸化炭素を加熱する炭酸ガスレーザを真空チャンバ26Dに形成された光学窓29を通して照射するレーザ照射器28とを有する。
【0060】
このように、炭酸ガスレーザにより超臨界二酸化炭素を加熱してもよい。
【0061】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0062】
図11は実施形態2に係る質量分析装置1Aの構成図である。質量分析装置1Aは超臨界流体抽出部2Aを備える。超臨界流体抽出部2Aは、流路切替バルブ16により質量分析のための対象化合物が溶解した超臨界二酸化炭素を分離するクロマトグラフィーカラム6を有する。流路切替バルブ16及びクロマトグラフィーカラム6は、オーブン15Aの中に配置される。超臨界流体抽出部2Aには、バルブ31を通して溶媒を供給するためのポンプ30が設けられる。
【0063】
超臨界流体導入部3は、クロマトグラフィーカラム6から供給される超臨界二酸化炭素をイオン化部4に設けられた反応部10の真空中に導入する。
【0064】
超臨界クロマトグラフィーは、(理論上)液体クロマトグラフィー(HPLC)の1/10の測定時間で分離を達成でき、さらに一般に用いられる超臨界二酸化炭素(scCO)は溶媒自身のバックグラウンドが低く高感度分析に適する。
【0065】
超臨界流体抽出部2Aは、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)のための公知の装置を使用することができる。
【0066】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0067】
図12は実施形態3に係る質量分析装置1Bの構成図である。図13は質量分析装置1Bの動作を説明するための図である。
【0068】
質量分析装置1Bは超臨界流体抽出部2Bを備える。超臨界流体抽出部2Bはオーブン15Bを有する。オーブン15Bは、抽出ベッセル32とインジェクションバルブ33とを有する。
【0069】
抽出ベッセル32にセットした固体試料の超臨界流体抽出(SFE)を行い、インジェクションバルブ33のサンプルループに温度・圧力差を生じさせて溶質を保持・濃縮する。続いて、図13に示すように、サンプルループ内のサンプルを超臨界状態で保持しながら、流路を超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)のためのクロマトグラフィーカラム6側に切り替える。続いて、クロマトグラフィーカラム6の平衡化を待って、インジェクションバルブ33内の試料を注入しクロマトグラムを得る。
【0070】
なお、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)流路用に別の超臨界二酸化炭素(scCO)の送液システムを用いることで操作を簡略化できる。
【0071】
超臨界流体抽出部2Bは、超臨界流体抽出(SFE)、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)のための公知の装置を使用することができる。
【0072】
図14は対象化合物をカフェインとしたときの質量分析装置1Bによる質量分析結果を示すグラフである。図15は対象化合物をカフェインとしたときのフローインジェクションプロファイルを示すグラフである。
【0073】
質量分析装置1Bの抽出ベッセル32にセットする固体試料(対象化合物)は例えばカフェインとすることができる。
【0074】
カフェインのプロトン親和力は水のプロトン親和力よりも大きいので、前述した下記(式1)の反応は、
[HO] + R → [RH] + HO (式1)、
対象化合物(カフェイン)にプロトンを付加する右方向に進む。
【0075】
図14及び図15に示すように、SFC(超臨界流体クロマトグラフィー)に基づく超臨界流体抽出部2Bとイオン化部4と質量測定部5とを含む質量分析装置1Bによりカフェインの質量分析をすることができた。
【0076】
図16は対象化合物をオリザノールとしたときの質量分析装置1Bによる質量分析結果を示すグラフである。図17は対象化合物をオリザノールとしたときのフローインジェクションプロファイルを示すグラフである。図18はオリザノールの化学的構成を示す図である。
【0077】
対象化合物からプロトンを引き抜く分子反応を表す前述した下記(式2)
[OH] + RH → [R] + HO (式2)、
において、対象化合物RHは、図18に示すオリザノールとすることができる。そして、図16及び図17に示すように、SFC(超臨界流体クロマトグラフィー)に基づく超臨界流体抽出部2Bとイオン化部4と質量測定部5とを含む質量分析装置1Bによりオリザノールの質量分析をすることができた。
【0078】
〔実施形態4〕
実施形態1~3では、オーブン15、15A、15Bにおいて、二酸化炭素を臨界圧力以上で臨界温度以上に保つことにより超臨界状態とする例を説明したが、オーブン15、15A、15Bは、二酸化炭素を亜臨界状態にする温度に調節してもよい。具体的には、冷却部13より-50℃より冷却された二酸化炭素をオーブン15、15A、15Bによって-50℃以上0℃以下の温度にしてもよい。
【0079】
また、実施形態2、3のように、クロマトグラフィーカラム6を備える場合は、クロマトグラフィーカラム6の温度が0℃以下となるようオーブン15A、15Bの温度が調節されてもよい。クロマトグラフィーカラム6に使用されうるカラム(例えば、ODS(C18)カラム)では、低温領域(例えば、0℃以下)において、粒径の小さな充填材を用いることで一例として、多環芳香族であるピレンと、フェナントレンとで高い分離効率(高理論段数)を維持できることが考えられる。クロマトグラフィーにおけるカラム6の操作温度範囲を拡大することにより、分離選択性を拡大することができ、有機溶媒を用いることなく化合物を分離できる可能性を拡大でき、有機溶媒によるPTRイオン化の阻害を低減することができる。なお、この場合、後段の加熱部7において、流体の温度を40℃程度にまで上昇させ、超臨界流体にする構成であってもよい。
【0080】
〔実施形態5〕
実施形態1~4では、超臨界流体抽出(SFE)の流路と、SFC(超臨界流体クロマトグラフィー)の流路とが直列しており、1つの送液システムで動作する態様について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。超臨界流体抽出(SFE)の流路と、SFC(超臨界流体クロマトグラフィー)の流路とは、それぞれが独立していてもよい。図19及び図20は、実施形態5に係る質量分析装置への試料導入部である超臨界流体抽出/クロマトグラフィー部2Cを示す構成図である。以降、超臨界流体抽出/クロマトグラフィー部2Cを試料導入部2Cとも称する。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0081】
質量分析装置への試料導入部2Cは、超臨界流体抽出(SFE)の流路と、SFC(超臨界流体クロマトグラフィー)の流路とが独立した送液システムで構成される。例えば、図19及び図20において、試料導入部2Cは、超臨界流体抽出(SFE)のためのSFE流路41と、SFC(超臨界流体クロマトグラフィー)のためのSFC流路40とを備える。質量分析装置への試料導入部2Cは、流路切替バルブ16と、流路切替バルブ34とを備えており、流路切替バルブ34には試料保持ループ35を備え、その後段は、クロマトグラフィーカラム6に接続し、イオン源へと接続される。
【0082】
図19の試料導入部2Cは、流路切替バルブ16での超臨界流体抽出(SFE)による抽出(超臨界流体抽出工程)を行うためのSFE流路41からの抽出物を含む流体を、それとは独立したSFC流路40に設置した流路切替バルブ34の試料保持ループ35を経由して背圧レギュレータ42を経てドレインに破棄するための流路を有する。SFE開始から一定時間後に流路切替バルブ34をロードからインジェクトに位置変更することにより、その時点で試料保持ループ35に保持していたSFE抽出物がSFC流路に移動しクロマトグラフィー分離が開始される。背圧レギュレータ42の圧力の設定によって、事実上SFE流路41の出口を閉鎖することも可能な構成である。
【0083】
図19の超臨界流体抽出/クロマトグラフィー部2Cにおいて、SFC流路40のオーブン15を通過した超臨界流体は、流路切替バルブ34のポート34Aとポート34Bとを接続する流路を通過し、クロマトグラフィーカラム6へ注入される。また、SFE流路41のオーブン15を通過した超臨界流体は、流路切替バルブ16で試料をSFE抽出し、流路切替バルブ34のポート34Dとポート34Cとを接続する流路、ポート34Cとポート34Fとを接続する試料保持ループ35、及びポート34Fとポート34Eとを接続する流路を通過する。その後、超臨界流体は背圧レギュレータ42から分岐流路43へ導入される。
【0084】
図20の超臨界流体抽出/クロマトグラフィー部2Cにおいて、SFC流路40のオーブン15を通過した超臨界流体は、流路切替バルブ34を切り替え、試料保持ループ36をインラインとすることによりクロマトグラフィーカラム6へ注入される。また、SFE流路41のオーブン15を通過した超臨界流体は、背圧レギュレータ42から分岐流路43へ導入される。
【0085】
超臨界流体によりSFE抽出された試料から、その一部を試料保持ループ36によってクロマトグラフィーカラムに狭い試料バンドとしてクロマトグラフィーカラム6に導入することができる。
【0086】
なお、SFC流路40は、クロマトグラフィーカラム6及び流路切替バルブ34を含めて、同じ温度に維持されることが好ましい。実施形態2及び3のように、ポンプ14の後段から、クロマトグラフィーカラム6までの流路がオーブン内に設置され、温度が一定に保たれてもよい。
【0087】
このように流路切替バルブ16による超臨界流体抽出(SFE)のSFE流路41と、クロマトグラフィーカラム6によるSFC(超臨界流体クロマトグラフィー)のSFC流路40とがそれぞれ独立していることにより、質量分析のスループットを向上させることができる。また、超臨界流体抽出(SFE)による分離過程における所定の段階の試料をSFC(超臨界流体クロマトグラフィー)に導入することができ、対象化合物の分離効率を向上させることができる。
【0088】
超臨界流体抽出(SFE)においては、固体試料(例えば、細胞を固定したセルロースアセテート膜、ろ紙皿など)、又は水系の液体試料中の脂溶性成分などが抽出可能である。しかし、多種多様な物質がPTRイオン源としてイオン化部4に導入されることにより、分析系を汚染し、質量分析のスループットを阻害する虞がある。本実施形態に係る質量分析装置1Cによれば、流路を切り替える流路切替バルブ34によって、SFE抽出された試料の選択及び希釈が可能であり、不要な物質、及び高濃度の分析対象化合物が直接イオン化部4に導入されることを低減することができる。
【0089】
SFC(超臨界流体クロマトグラフィー)のSFC流路40が備えるクロマトグラフィーカラム6とは別に、超臨界流体抽出(SFE)のSFE流路41の一部に超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)のための他のクロマトグラフィーカラムを設置してもよい。
【0090】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0091】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る質量分析装置は、質量分析のための対象化合物が溶解した超臨界流体を真空中に導入して解放するために設けられた超臨界流体導入部と、前記超臨界流体に溶解した対象化合物をプロトンの移動を伴う分子反応により前記真空中でイオン化するイオン化部と、前記イオン化された対象化合物の質量を測定する質量測定部とを備えることを特徴とする。
【0092】
この特徴によれば、真空中に導入されて解放された超臨界流体に溶解した対象化合物が、プロトンの移動を伴う分子反応により真空中でイオン化される。このため、超臨界流体に溶解した幅広い分析対象の対象化合物の質量分析をすることができる。
【0093】
本発明の一態様に係る質量分析装置は、前記超臨界流体を真空中に導入する前に、前記超臨界流体を生成して前記対象化合物を前記超臨界流体に溶解させて抽出する超臨界流体抽出部をさらに備えることが好ましい。
【0094】
上記構成によれば、質量分析のための対象化合物が溶解した超臨界流体を容易に供給することができる。
【0095】
本発明の一態様に係る質量分析装置は、前記イオン化部は、前記対象化合物にプロトンを付加するか、又は、前記対象化合物からプロトンを引き抜く反応イオンを生成する反応イオン生成部と、前記反応イオンが前記対象化合物と分子反応する反応部と、前記分子反応によりイオン化された対象化合物を前記質量測定部に導入する導入部とを含むことが好ましい。
【0096】
上記構成によれば、プロトンの移動を伴う対象化合物の分子反応を生じさせることができる。
【0097】
本発明の一態様に係る質量分析装置は、前記超臨界流体導入部は、前記超臨界流体を加熱して前記真空中に導入することが好ましい。
【0098】
上記構成によれば、超臨界流体を加熱することにより超臨界流体中に溶解する対象化合物を速やかに空間中に拡散させ、安定的に真空中に導入することができる。
【0099】
本発明の一態様に係る質量分析装置は、前記超臨界流体導入部は、前記超臨界流体の圧力をバルブで維持しながら前記真空中に導入することが好ましい。
【0100】
上記構成によれば、超臨界流体の圧力を維持することにより超臨界流体を安定的に真空中に導入することができる。
【0101】
本発明の一態様に係る質量分析装置は、前記超臨界流体のプロトン親和力が、前記反応イオンのプロトン親和力以下であることが好ましい。
【0102】
上記構成によれば、超臨界流体は、プロトン親和力が反応イオンのプロトン親和力以下であるので、プロトンの移動を伴う分子反応が発生しない。このため、プロトンの移動を伴う分子反応による対象化合物のイオン化が、大量に導入される超臨界流体のイオン化により阻害されることが回避される。従って、対象化合物が効率よくイオン化される。
【0103】
本発明の一態様に係る質量分析装置は、前記反応イオンがHを含み、前記超臨界流体が、二酸化酸素を含むことが好ましい。
【0104】
上記構成によれば、二酸化酸素は、プロトン親和力が水のプロトン親和力以下であるので、プロトンの移動を伴う分子反応が発生しない。このため、プロトンの移動を伴う分子反応による対象化合物のイオン化を超臨界二酸化酸素が妨げることがない。従って、対象化合物が効率よくイオン化される。
【0105】
本発明の一態様に係る質量分析装置は、前記反応イオンがHを含み、前記対象化合物のプロトン親和力が、水のプロトン親和力よりも大きいことが好ましい。
【0106】
上記構成によれば、対象化合物は、プロトン親和力が水のプロトン親和力よりも大きいので、Hが対象化合物にプロトンを付加するか、又は、Hが対象化合物からプロトンを引き抜く分子反応が発生し、これにより、対象化合物が真空中でイオン化する。
【0107】
本発明の一態様に係る質量分析装置は、前記反応イオンがHを含み、前記イオン化工程は、前記Hから前記対象化合物へのプロトンの移動により前記対象化合物をイオン化することが好ましい。
【0108】
上記構成によれば、プロトン親和力が水のプロトン親和力よりも大きい対象化合物をイオン化することができる。
【0109】
本発明の一態様に係る質量分析装置は、前記超臨界流体導入部は、前記超臨界流体を移動相としたクロマトグラフィーで分離した後、前記真空中に導入することが好ましい。
【0110】
上記構成によれば、クロマトグラフィーで分離した後の超臨界流体に溶解した対象化合物の質量分析をすることができる。
【0111】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る質量分析方法は、質量分析のための対象化合物が溶解した超臨界流体を真空中に導入して解放する超臨界流体導入工程と、前記超臨界流体に溶解した対象化合物をプロトンの移動を伴う分子反応により前記真空中でイオン化するイオン化工程と、前記イオン化された対象化合物の質量を測定する質量測定工程とを包含することを特徴とする。
【符号の説明】
【0112】
1 質量分析装置
2 超臨界流体抽出部
3 超臨界流体導入部
4 イオン化部
5 質量測定部
6 クロマトグラフィーカラム
7 加熱部
8 ソレノイドバルブ
9 反応イオン生成部
10 反応部
11 導入部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図11
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