(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】光ファイバ母材の製造方法及び光ファイバ母材並びに光ファイバの製造方法及び光ファイバ
(51)【国際特許分類】
C03B 37/014 20060101AFI20240328BHJP
C03B 37/018 20060101ALI20240328BHJP
G02B 6/028 20060101ALI20240328BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
C03B37/014 Z
C03B37/018 C
G02B6/028
G02B6/036
(21)【出願番号】P 2019566508
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2019001344
(87)【国際公開番号】W WO2019142878
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-08-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2018007172
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 光広
(72)【発明者】
【氏名】権田 智洋
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】立木 林
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-185870(JP,A)
【文献】国際公開第2013/021759(WO,A1)
【文献】特開2002-82250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/014
C03B 37/018
G02B 6/028
G02B 6/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明ガラスからなるコア部の外周にフッ素を添加した第1クラッド層を備えるコア母材を作製する第1工程と、
前記第1クラッド層の外周に、前記第1クラッド層よりも屈折率が高いガラスからなる第2クラッド層を形成する第2工程と、
を含み、
前記第1クラッド層
では、前記第2クラッド層との境界面の少なくとも近傍において、前記第2クラッド層との境界面に対する距離が小さくなるに従って、前記第1クラッド層の屈折率と前記第2クラッド層の屈折率との屈折率差が小さくなる形状の第1屈折率分布形状と、半径方向において前記コア部から外周に向かって所定の長さだけ略一定である屈折率分布形状と、をフッ素濃度の分布によって形成し、
前記第1クラッド層における半径方向において前記第2クラッド層との境界面から前記第1クラッド層の外径の20%以上の幅の領域において、前記第1屈折率分布形状を形成し、
前記コア部の最大屈折率の、前記第2クラッド層に対する比屈折率差をΔ11とし、前記第1クラッド層の最低屈折率の、前記第2クラッド層に対する比屈折率差をΔ12とする
と、Δ11の値は、0.35%~0.5%であり、Δ12の値は、-0.15%~-0.03%であり、
前記第1クラッド層の前記第2クラッド層との界面での屈折率の、前記第1クラッド層の最低屈折率に対する比屈折率差をΔ13とすると、Δ13の値は0.005%以上0.02%以下であり、
前記第1クラッド層において前記第1屈折率分布形状
を有する領域において
は、
半径方向において位置が前記第2クラッド層に近づくにつれて、前記位置における屈折率の、前記第1クラッド層の最低屈折率に対する比屈折率差が、前記Δ13
の値まで上昇
する
ことを特徴とする光ファイバ母材の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程において、前記第1クラッド層となる領域にフッ素を添加した後に透明ガラス化を行い、前記透明ガラス化の際の加熱条件の設定によって、前記第1屈折率分布形状を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程において、前記第1クラッド層となる領域にフッ素を添加した後に透明ガラス化を行い、
前記第2工程は、前記第1クラッド層の外周に、多孔質ガラスからなる多孔質クラッド層を形成する第3工程と、前記多孔質クラッド層を加熱して透明ガラス化し前記第2クラッド層とする第4工程と、を含み、
前記第1工程及び第4工程の少なくとも一方における前記透明ガラス化の際の加熱条件の設定によって、前記第1屈折率分布形状を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項4】
前記コア部の直径に対する前記第1クラッド層の外径の比を2~5に形成する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項5】
ガラスからなるコア部と、
前記コア部の外周に形成され前記コア部の最大屈折率よりも屈折率が低くなるようにフッ素が添加された第1クラッド層と、
前記第1クラッド層の外周に形成され、前記第1クラッド層よりも軟化点が高くかつ屈折率が高いガラスからなる第2クラッド層と、
を備え、
前記第1クラッド層は、前記第2クラッド層との境界面の少なくとも近傍において、前記第2クラッド層との境界面に対する距離が小さくなるに従って、前記第1クラッド層の屈折率と前記第2クラッド層の屈折率との屈折率差が小さくなる形状の第1屈折率分布形状と、半径方向において前記コア部から外周に向かって所定の長さだけ略一定である屈折率分布形状と、を有し、
前記第1クラッド層は、半径方向において前記第2クラッド層との境界面から前記第1クラッド層の外径の20%以上の幅の領域において、前記第1屈折率分布形状を有し、
前記コア部の最大屈折率の、前記第2クラッド層に対する比屈折率差をΔ11とし、前記第1クラッド層の最低屈折率の、前記第2クラッド層に対する比屈折率差をΔ12とする
と、Δ11の値は、0.35%~0.5%であり、Δ12の値は、-0.15%~-0.03%であり、
前記第1クラッド層の前記第2クラッド層との界面での屈折率の、前記第1クラッド層の最低屈折率に対する比屈折率差をΔ13とすると、Δ13の値は0.005%以上0.02%以下であり、
前記第1クラッド層において前記第1屈折率分布形状
を有する領域において
は、
半径方向において位置が前記第2クラッド層に近づくにつれて、前記位置における屈折率の、前記第1クラッド層の最低屈折率に対する比屈折率差が、前記Δ13
の値まで上昇
する
ことを特徴とする光ファイバ母材。
【請求項6】
前記コア部の直径に対する前記第1クラッド層の外径の比が2~5である
ことを特徴とする請求項5に記載の光ファイバ母材。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一つに記載の製造方法によって製造された光ファイバ母材又は請求項5または6に記載の光ファイバ母材を用いて光ファイバを製造する
ことを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項8】
ガラスからなるコア部と、
前記コア部の外周に形成され前記コア部の最大屈折率よりも屈折率が低くなるようにフッ素が添加された第1クラッド層と、
前記第1クラッド層の外周に形成され、前記第1クラッド層よりも軟化点が高くかつ屈折率が高いガラスからなる第2クラッド層と、
を備え、
前記第1クラッド層は、前記第2クラッド層との境界面の少なくとも近傍において、前記第2クラッド層との境界面に対する距離が小さくなるに従って、前記第1クラッド層の屈折率と前記第2クラッド層の屈折率との屈折率差が小さくなる形状の第1屈折率分布形状と、半径方向において前記コア部から外周に向かって所定の長さだけ略一定である屈折率分布形状と、を有し、
前記第1クラッド層は、半径方向において前記第2クラッド層との境界面から前記第1クラッド層の外径の20%以上の幅の領域において、前記第1屈折率分布形状を有し、
前記コア部の最大屈折率の、前記第2クラッド層に対する比屈折率差をΔ11とし、前記第1クラッド層の最低屈折率の、前記第2クラッド層に対する比屈折率差をΔ12とする
と、Δ11の値は、0.35%~0.5%であり、Δ12の値は、-0.15%~-0.03%であり、
前記第1クラッド層の前記第2クラッド層との界面での屈折率の、前記第1クラッド層の最低屈折率に対する比屈折率差をΔ13とすると、Δ13の値は0.005%以上0.02%以下であり、
前記第1クラッド層において前記第1屈折率分布形状
を有する領域において
は、
半径方向において位置が前記第2クラッド層に近づくにつれて、前記位置における屈折率の、前記第1クラッド層の最低屈折率に対する比屈折率差が、前記Δ13
の値まで上昇
する
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項9】
前記コア部の直径に対する前記第1クラッド層の外径の比が2~5である
ことを特徴とする請求項8に記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材の製造方法及び光ファイバ母材、並びに、光ファイバの製造方法及び光ファイバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
石英系ガラスからなる光ファイバは、通常は石英系ガラスからなる光ファイバ母材を線引きして製造される。この光ファイバ母材を製造する際には、例えば気相軸付け法(Vapor-phase Axial Deposition:VAD)法が用いられている。VAD法では、バーナにガラス原料ガスを供給し、ガラス原料ガスを加水分解反応させ、これによってガラス微粒子を合成する。そして、出発ロッドを回転させるとともに上方に引き上げながら、ガラス微粒子を出発ロッドに堆積させ、ガラス微粒子からなる多孔質体を出発ロッドの下方に成長させることで、多孔質ガラス母材を製造する。この多孔質ガラス母材は、焼結工程(ガラス化工程とも呼ばれる)を行うことによって透明ガラス化され、コア母材とされる。コア母材は、コア部と、コア部の外周に形成された、クラッド部の一部とを含むものである。そして、このコア母材に対して、例えばOVD法を用いて外周への多孔質ガラス体の形成を行い、さらに多孔質ガラス体の透明ガラス化を行ってクラッド部の残部となる部分を形成する。これにより、線引きを行うための透明な光ファイバ母材が製造される。
【0003】
また、石英系ガラスからなる光ファイバにおいて、コア部と、コア部の外周に形成され、コア部の最大屈折率よりも低い屈折率を有する第1クラッド層と、第1クラッド層の外周に形成され、第1クラッド層よりも高い屈折率を有する第2クラッド層と、を備えた構成が知られている(特許文献1,2)。このような光ファイバの屈折率分布形状は、W型とも呼ばれ、光ファイバの低伝送損失化や低曲げ損失化を実現するために用いられる場合がある。第1クラッド層はディプレスト層とも呼ばれる。第1クラッド層には、通常は屈折率を低くするドーパントであるフッ素が添加されている。また、第2クラッド層は、第1クラッド層よりもフッ素の添加量が少なくされたり、屈折率を調整するためのドーパントを含まない純石英ガラスで構成されたりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2002-540057号公報
【文献】特開2014-71152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、W型の光ファイバにおいて、より一層の低伝送損失化(以下、低損失化とする)が望まれている。本発明者らが低損失化のために鋭意検討したところによれば、第1クラッド層と第2クラッド層との境界面で屈折率が急激に変化していると、そこに構造欠陥や歪みが発生しやすくなる。そして、この構造欠陥や歪みが伝送損失の増大を引き起こし、低損失化の妨げになることを見出した。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、光ファイバの低損失化を実現できる光ファイバ母材の製造方法及び光ファイバ母材並びに光ファイバの製造方法及び光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る光ファイバ母材の製造方法は、透明ガラスからなるコア部の外周にフッ素を添加した第1クラッド層を備えるコア母材を作製する第1工程と、前記第1クラッド層の外周に、前記第1クラッド層よりも屈折率が高いガラスからなる第2クラッド層を形成する第2工程と、を含み、前記第1クラッド層は、前記第2クラッド層との境界面の少なくとも近傍において、前記第2クラッド層との境界面に対する距離が小さくなるに従って、前記第1クラッド層の屈折率と前記第2クラッド層の屈折率との屈折率差が小さくなる形状の第1屈折率分布形状をフッ素濃度の分布によって形成することを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る光ファイバ母材の製造方法は、前記第1工程において、前記第1クラッド層となる領域にフッ素を添加した後に透明ガラス化を行い、前記透明ガラス化の際の加熱条件の設定によって、前記第1屈折率分布形状を形成することを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る光ファイバ母材の製造方法は、前記第1工程において、前記第1クラッド層となる領域にフッ素を添加した後に透明ガラス化を行い、前記第2工程は、前記第1クラッド層の外周に、多孔質ガラスからなる多孔質クラッド層を形成する第3工程と、前記多孔質クラッド層を加熱して透明ガラス化し前記第2クラッド層とする第4工程と、を含み、前記第1工程及び第4工程の少なくとも一方における前記透明ガラス化の際の加熱条件の設定によって、前記第1屈折率分布形状を形成することを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る光ファイバ母材の製造方法は、前記第1クラッド層において、屈折率が最も低い部分と、前記第2クラッド層との界面との比屈折率差を、0.005%以上に形成することを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る光ファイバ母材の製造方法は、前記コア部の直径に対する前記第1クラッド層の外径の比を2~5に形成することを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る光ファイバ母材の製造方法は、前記第1クラッド層における半径方向において前記第2クラッド層との境界面から前記第1クラッド層の外径の20%以上の幅の領域において、前記第1屈折率分布形状を形成することを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る光ファイバ母材の製造方法は、前記第1クラッド層における前記コア部と前記第2クラッド層との間の全ての領域において、前記第1屈折率分布形状を形成することを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る光ファイバ母材の製造方法は、前記第1クラッド層における前記コア部との境界面の少なくとも近傍において、前記コア部との境界面に対する距離が小さくなるに従って、前記第1クラッド層の屈折率と前記コア部の屈折率との屈折率差が小さくなる形状の第2屈折率分布形状をフッ素濃度及びゲルマニウム濃度の分布によって形成することを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る光ファイバ母材は、ガラスからなるコア部と、前記コア部の外周に形成され前記コア部の最大屈折率よりも屈折率が低くなるようにフッ素が添加された第1クラッド層と、前記第1クラッド層の外周に形成され、前記第1クラッド層よりも軟化点が高くかつ屈折率が高いガラスからなる第2クラッド層と、を備え、前記第1クラッド層は、前記第2クラッド層との境界面の少なくとも近傍において、前記第2クラッド層との境界面に対する距離が小さくなるに従って、前記第1クラッド層の屈折率と前記第2クラッド層の屈折率との屈折率差が小さくなる形状の第1屈折率分布形状を有することを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る光ファイバ母材は、前記第1クラッド層において、屈折率が最も低い部分と、前記第2クラッド層との界面との比屈折率差が、0.005%以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様に係る光ファイバ母材は、前記コア部の直径に対する前記第1クラッド層の外径の比が2~5であることを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係る光ファイバ母材は、前記第1クラッド層は、半径方向において前記第2クラッド層との境界面から前記第1クラッド層の外径の20%以上の幅の領域において、前記第1屈折率分布形状を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様に係る光ファイバ母材は、前記第1クラッド層は、前記コア部と前記第2クラッド層との間の全ての領域において、前記第1屈折率分布形状を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の一態様に係る光ファイバ母材は、前記第1クラッド層は、前記コア部との境界面の少なくとも近傍において、前記コア部との境界面に対する距離が小さくなるに従って、前記第1クラッド層の屈折率と前記コア部の屈折率との屈折率差が小さくなる形状の第2屈折率分布形状を有することを特徴とする。
【0021】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造方法は、本発明の一態様に係る製造方法によって製造された光ファイバ母材又は本発明の一態様に係る光ファイバ母材を用いて光ファイバを製造することを特徴とする。
【0022】
本発明の一態様に係る光ファイバは、ガラスからなるコア部と、前記コア部の外周に形成され前記コア部の最大屈折率よりも屈折率が低くなるようにフッ素が添加された第1クラッド層と、前記第1クラッド層の外周に形成され、前記第1クラッド層よりも軟化点が高くかつ屈折率が高いガラスからなる第2クラッド層と、を備え、前記第1クラッド層は、前記第2クラッド層との境界面の少なくとも近傍において、前記第2クラッド層との境界面に対する距離が小さくなるに従って、前記第1クラッド層の屈折率と前記第2クラッド層の屈折率との屈折率差が小さくなる形状の第1屈折率分布形状を有することを特徴とする。
【0023】
本発明の一態様に係る光ファイバは、前記第1クラッド層において、屈折率が最も低い部分と、前記第2クラッド層との界面との比屈折率差が、0.005%以上であることを特徴とする。
【0024】
本発明の一態様に係る光ファイバは、前記コア部の直径に対する前記第1クラッド層の外径の比が2~5であることを特徴とする。
【0025】
本発明の一態様に係る光ファイバは、前記第1クラッド層は、半径方向において前記第2クラッド層との境界面から前記第1クラッド層の外径の20%以上の幅の領域において、前記第1屈折率分布形状を有することを特徴とする。
【0026】
本発明の一態様に係る光ファイバは、前記第1クラッド層は、前記コア部と前記第2クラッド層との間の全ての領域において、前記第1屈折率分布形状を有することを特徴とする。
【0027】
本発明の一態様に係る光ファイバは、前記第1クラッド層は、前記コア部との境界面の少なくとも近傍において、前記コア部との境界面に対する距離が小さくなるに従って、前記第1クラッド層の屈折率と前記コア部の屈折率との屈折率差が小さくなる形状の第2屈折率分布形状を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、光ファイバの低損失化を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る光ファイバ母材の模式的な断面及び屈折率分布形状を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る光ファイバ母材の製造方法の一例のフロー図である。
【
図5】
図5は、実施形態2に係る光ファイバ母材の屈折率分布形状を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態3に係る光ファイバ母材の屈折率分布形状を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態4に係る光ファイバ母材の屈折率分布形状を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態5に係る光ファイバ母材の屈折率分布形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。また、本明細書においては、カットオフ波長とは、ITU-T(国際電気通信連合)G.650.1で定義するケーブルカットオフ波長をいう。また、その他、本明細書で特に定義しない用語についてはITU-T G.650.1における定義、測定方法に従うものとする。
【0031】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る光ファイバ母材の模式的な断面及び屈折率分布形状を示す図である。
図1に示すように、光ファイバ母材10は、コア部11と、コア部11の外周に形成された第1クラッド層12と、第1クラッド層12の外周に形成された第2クラッド層13とを備える。第1クラッド層12と第2クラッド層13とはクラッド部14を構成している。
【0032】
コア部11は、ゲルマニウムなどの屈折率を高めるドーパントを添加した石英ガラスからなる。第1クラッド層12は、第2クラッド層13の屈折率よりも屈折率が低くなるようにフッ素が添加された石英ガラスからなる。第2クラッド層13は、屈折率を調整するためのドーパントを含まない純石英ガラスからなる。従って、第2クラッド層13は第1クラッド層12よりも軟化点が高くかつ屈折率が高い。
【0033】
光ファイバ母材10は、
図1に示すようなW型の屈折率分布形状P1を有する。屈折率分布形状P11、P12、P13はそれぞれコア部11、第1クラッド層12、第2クラッド層13の屈折率分布形状である。
【0034】
図1では、屈折率分布形状を、第2クラッド層13の屈折率を基準とした比屈折率差で示している。例えば、コア部11の最大屈折率の、第2クラッド層13に対する比屈折率差をΔ11とし、第1クラッド層12の最低屈折率の、第2クラッド層13に対する比屈折率差をΔ12とする。Δ11の値は、例えば0.35%~0.5%である。Δ12の値は、例えば-0.15%~-0.03%である。また、コア部11の直径をaとし、第1クラッド層12の外径をbとする。
【0035】
光ファイバ母材10は、外径が光ファイバのクラッド径となるように線引きされて、光ファイバとなる。光ファイバ母材10の屈折率分布形状P1は、線引きして製造される光ファイバの要求特性を実現するように設計される。光ファイバの要求特性は、例えば、光ファイバ通信における標準のシングルモード光ファイバの特性である、モードフィールド径が8.6μm~9.2μm、カットオフ波長が1260nm以下という特性である。
【0036】
ここで、第1クラッド層12の屈折率分布形状P12は、半径方向においてコア部11側から外周に向かって所定の長さだけ略一定であるが、第2クラッド層13との境界面の近傍である円環状の領域A1において、第1屈折率分布形状P12aを有する。第1屈折率分布形状P12aは、第2クラッド層13との境界面に対する距離が小さくなるに従って、第1クラッド層12の屈折率と第2クラッド層13の屈折率との屈折率差が連続的に小さくなる形状を有する。具体的には、第1クラッド層12では、領域A1において屈折率が外周に向かって、下に凸の円弧状の曲線を描くように上昇している。ここで、下に凸とは、屈折率が低い方向に凸であることを意味する。第1クラッド層12は、フッ素を含んでおり、フッ素濃度が、光ファイバ母材10の半径方向において、このような屈折率分布形状P12となるように分布している。具体的には、フッ素濃度は、コア部11との境界と領域A1との境界の間の領域では略一定であるが、領域A1においては外周に向って減少している。
【0037】
例えば、
図1に示すように、領域A1において、第1クラッド層12の比屈折率差はΔ12からΔ13だけ上昇しており、第1クラッド層12と第2クラッド層13との屈折率差は、境界面において、比屈折率差で表すとΔ14まで小さくなる。
【0038】
このように、光ファイバ母材10では、第1クラッド層12と第2クラッド層13との境界面近傍において屈折率差が連続的に小さくなっているので、境界面とその近傍における屈折率の急激な変化が抑制されている。このような屈折率分布形状P12であれば、境界面とその近傍における軟化点の急激な変化が抑制されている。従って、光ファイバ母材10の製造工程や光ファイバ母材10から光ファイバを製造する工程においてガラスの加熱溶融及びその後の冷却を行った場合に、この境界面とその近傍における応力の発生やその程度が抑制される。これにより、境界面とその近傍における構造欠陥や残留歪みが抑制される。その結果、製造した光ファイバにおいても構造欠陥や残留歪みが抑制されるので、低損失化を実現できる。また、構造欠陥が抑制されているので、耐水素性評価のために光ファイバに水素エージング試験を施したとしても、水素に起因する損失の増加は抑制される。
【0039】
なお、第1クラッド層12において、屈折率が最も低い、比屈折率差がΔ12である部分と、第2クラッド層13との界面との比屈折率差であるΔ13は、0.005%以上であれば、屈折率が急激に変化しないので好ましい。また、0.02%以下であれば、第1クラッド層12内の軟化温度の違いが小さく、構造欠陥の発生が低減されるという観点から好ましい。また、Δ14については、0.02%以下であれば、第1クラッド層12と第2クラッド層13の軟化温度の違いが小さく、構造欠陥の発生が低減されるという観点から好ましい。
【0040】
また、第1クラッド層12による低曲げ損失化を好適に実現するためには、コア部11の直径aに対する第1クラッド層12の外径bの比は2~5であることが好ましい。
【0041】
また、第1クラッド層12は、半径方向において、第2クラッド層13との境界面から第1クラッド層12の直径の20%以上の幅の領域A1において、第1屈折率分布形状P12aを有することが好ましい。すなわち、光ファイバ母材10の半径方向における領域A1の幅(円環の幅)は、第1クラッド層12の外径bで表すと、0.2b以上であることが好ましい。これにより、領域A1における屈折率の変化をより一層緩やかにすることができる。従って、第2クラッド層13との境界面の近傍とは、第2クラッド層13との境界面から、0.2bの幅の円環領域である。
【0042】
(製造方法)
図2は、実施形態1に係る光ファイバ母材の製造方法の一例のフロー図である。本製造方法では、はじめにステップS101においてVAD法を用いて多孔質ガラス母材を作製する。つづいてステップS102において多孔質ガラス母材からコア母材を作製する。ステップS101及びステップS102は第1工程を構成する。つづいて、第2工程として、ステップS103においてコア母材の外周に第2クラッド層を形成する。
【0043】
はじめに、ステップS101、ステップS102について
図3Aを参照して説明する。まず、VAD法を行うための製造装置100を用いて、多孔質ガラス母材1を作製する。製造装置100は、不図示の回転引上機構と、不図示の反応容器と、バーナ101、102とを少なくとも備えている。
【0044】
回転引上機構は、製造装置100の反応容器内にて、出発ロッド2をその中心軸を回転軸として回転させるとともに、鉛直方向の上方に引き上げるように構成されている。出発ロッド2は、例えば純度の高い石英ガラス棒である。
【0045】
バーナ101、102は、ガラス原料ガスと燃焼ガスとからガラス微粒子を合成する合成用バーナである。バーナ101は、多孔質コア部3を構成するガラス微粒子を合成する。多孔質コア部3は、出発ロッド2の外周に堆積して光ファイバ母材10のコア部11となる部分である。バーナ101には、ガラス原料ガス(四塩化珪素ガス又はシロキサン等のガスと四塩化ゲルマニウムガス)、燃焼ガスとしての、水素ガス等の可燃ガス及び酸素ガス等の助燃ガス、並びにアルゴンガス等の不活性ガスである緩衝ガス、が供給される。これらのガスの火炎中の加水分解反応によって、ゲルマニウムを含む石英ガラス微粒子が合成され、回転引上機構が回転させている出発ロッド2に向けて吹き付けられて堆積し、ゲルマニウムを含む石英ガラス微粒子からなる多孔質コア部3が形成される。
【0046】
バーナ102は、第1多孔質クラッド層4を構成するガラス微粒子を合成する。第1多孔質クラッド層4は、多孔質コア部3の外周に堆積して光ファイバ母材10の第1クラッド層12となる部分である。バーナ102には、ガラス原料ガス(四塩化珪素ガス又はシロキサン等のガス)、燃焼ガス、緩衝ガス、必要に応じてフッ素を含有したガス(SF6やSiF4等)が供給される。これらのガスの火炎中の加水分解反応によって、純度の高い石英ガラス微粒子が合成され、出発ロッド2に向けて吹き付けられて堆積し、石英ガラス微粒子からなる第1多孔質クラッド層4が形成される。
【0047】
多孔質コア部3と第1多孔質クラッド層4とによって多孔質体5が構成される。多孔質コア部3と第1多孔質クラッド層4とを形成することによって、多孔質体5を出発ロッド2の下方に成長させる。また、その成長速度に応じて、回転引上機構は出発ロッド2を引き上げる。このように、出発ロッド2を回転させるとともに上方に引き上げながら、バーナ101、102によって生成したガラス微粒子を、出発ロッド2に堆積させ、多孔質体5を出発ロッド2の下方に継続して成長させる。これによって、出発ロッド2と多孔質体5とを備える多孔質ガラス母材1を作製することができる。
【0048】
なお、バーナ101と102の中間の位置には、多孔質コア部3と第1多孔質クラッド層4との境界の部分を焼き締めるためのバーナ(不図示)を設けてもよい。このバーナには、燃焼ガスが供給され、多孔質コア部3と第1多孔質クラッド層4との略境界の部分に火炎を噴射する。
【0049】
つづいて、
図3Bに示すように、加熱炉200を用いて、コア母材を作製する。加熱炉200は、不図示の回転昇降機構と、不図示の炉体と、ヒータ201とを少なくとも備えている。
【0050】
回転昇降機構は、加熱炉200内にて、多孔質ガラス母材1を出発ロッド2の中心軸を回転軸として回転させるとともに、鉛直方向で昇降させるように構成されている。
【0051】
ヒータ201は、加熱炉200内において、多孔質ガラス母材1を囲むように、一又は複数配置されている。また、加熱炉200は、炉体内に、多孔質ガラス母材1に各種処理を施すための各種処理ガスを導入できるように構成されている。
【0052】
この加熱炉200内に多孔質ガラス母材1をセットし、不活性ガスと、塩素ガス等の脱水ガスとを所定流量だけ導入し、多孔質ガラス母材1を回転昇降しながらヒータ201にて所定の温度で所定の時間だけ加熱することによって、多孔質ガラス母材1を脱水処理する。
【0053】
つづいて、加熱炉200内にフッ素ガスを所定流量だけ導入し、多孔質ガラス母材1を回転昇降しながらヒータ201にて所定の温度で所定の時間だけ加熱することによって、多孔質ガラス母材1の外周領域である第1多孔質クラッド層4にフッ素を添加する。このとき、第1多孔質クラッド層4には半径方向において略均一の濃度でフッ素が添加される。
【0054】
つづいて、加熱炉200内に不活性ガスを所定流量だけ導入し、多孔質ガラス母材1を回転昇降しながらヒータ201にて所定の温度で所定の時間だけ加熱することによって、多孔質ガラス母材1を透明ガラス化する。これにより多孔質コア部3は光ファイバ母材10のコア部11となり、第1多孔質クラッド層4は第1クラッド層12となり、コア母材が作製される。なお、第1クラッド層12は、基準となる第2クラッド層13の屈折率よりも屈折率が低くなるようにフッ素が添加された状態となる。
【0055】
つづいて、ステップS103について
図4を参照して説明する。本製造方法では、OVD(Outer Vapor Deposition)法を行うための製造装置300を用いて、コア母材の外周に第2クラッド層を作製する。製造装置300は、不図示の回転機構と、不図示の反応容器と、バーナ301とを少なくとも備えている。
【0056】
回転機構は、製造装置300の反応容器内にて、コア母材6をその中心軸を回転軸として回転させるように構成されている。
【0057】
バーナ301は、ガラス原料ガスと燃焼ガスとからガラス微粒子を合成する合成用バーナであり、第2多孔質クラッド層7を構成するガラス微粒子を合成する。第2多孔質クラッド層7は、コア母材6の外周に堆積して光ファイバ母材10の第2クラッド層13となる部分である。バーナ301には、ガラス原料ガス、燃焼ガス、緩衝ガスが供給される。これらのガスの火炎中の加水分解反応によって、純度の高い石英ガラス微粒子が合成される。バーナ301をコア母材6の長手方向に沿って相対的に往復移動させながら、石英ガラス微粒子をコア母材6に向けて吹き付けて堆積することによって、第2多孔質クラッド層7を形成する(第3工程)。
【0058】
つづいて、第2多孔質クラッド層7を形成したコア母材を、
図3Bの加熱炉200と同様の構成の加熱炉にセットし、第2多孔質クラッド層7に対して脱水工処理と透明ガラス化処理(第4工程)とを行って光ファイバ母材10の第2クラッド層13とする。これにより光ファイバ母材10が製造される。
【0059】
ここで、第1多孔質クラッド層4及び第2多孔質クラッド層7のそれぞれの透明ガラス化の際にフッ素ガスを導入しない、又は、第1多孔質クラッド層4にフッ素を添加したときよりも少ない流量で導入することによって、第1多孔質クラッド層4の外周側に添加されたフッ素の一部を脱離させ、第1クラッド層12の屈折率分布形状P12における第1屈折率分布形状P12aを形成することができる。すなわち、第1多孔質クラッド層4及び第2多孔質クラッド層7において、フッ素濃度の分布によって、第1屈折率分布形状P12aが形成される。
【0060】
なお、本製造方法では、第1多孔質クラッド層4及び第2多孔質クラッド層7のそれぞれの透明ガラス化の際の加熱条件の設定によって第1屈折率分布形状P12aを形成するが、第1多孔質クラッド層4及び第2多孔質クラッド層7の少なくとも一方の透明ガラス化の際の加熱条件の設定によって第1屈折率分布形状P12aを形成してもよい。
【0061】
また、本製造方法では、光ファイバ母材10の第2クラッド層13を形成するためにOVD法を用いているが、コア母材6の外周に、純度の高い石英ガラスパイプを被着して一体化することで、当該石英ガラスパイプを第2クラッド層13としてもよい。この場合、第1多孔質クラッド層4の透明ガラス化の際の加熱条件の設定によって第1屈折率分布形状P12aを形成してもよい。
【0062】
(その他の実施形態)
次に、その他の実施形態として、実施形態2~5に係る光ファイバ母材について説明する。実施形態2~5に係る光ファイバ母材は、実施形態1と同様にコア部と第1クラッド層と第2クラッド層とを備え、断面構造は実施形態1と同様であるが、屈折率分布形状が実施形態1とは異なる。従って、実施形態2~5に係る光ファイバ母材については、主に屈折率分布形状について説明する。
【0063】
(実施形態2)
図5は、実施形態2に係る光ファイバ母材の屈折率分布形状P2を比屈折率差で示す図である。屈折率分布形状P2は、線引きして製造される光ファイバの要求特性を実現するように設計される。屈折率分布形状P11、P22、P13はそれぞれコア部、第1クラッド層、第2クラッド層の屈折率分布形状である。屈折率分布形状P11、P13は、屈折率分布形状P1の屈折率分布形状P11、P13と同じなので、以下では第1クラッド層の屈折率分布形状P22について具体的に説明する。
【0064】
図5では、第1クラッド層の最低屈折率の、第2クラッド層に対する比屈折率差をΔ22とする。Δ22の値は、例えば-0.17%~-0.03%である。
【0065】
ここで、屈折率分布形状P22は、第2クラッド層との境界面の近傍である円環状の領域A2aにおいて、第1屈折率分布形状P22aを有する。第1屈折率分布形状P22aは、第2クラッド層との境界面に対する距離が小さくなるに従って、第1クラッド層の屈折率と第2クラッド層の屈折率との屈折率差が連続的に小さくなる形状を有する。具体的には、第1クラッド層では、領域A2aにおいて屈折率が外周に向かって、下に凸の円弧状の曲線を描くように上昇している。さらに、屈折率分布形状P22は、コア部との境界面の近傍である円環状の領域A2bにおいて、第2屈折率分布形状P22bを有する。第2屈折率分布形状P22bは、コア部との境界面に対する距離が小さくなるに従って、第1クラッド層の屈折率とコア部の屈折率との屈折率差が連続的に小さくなる形状を有する。具体的には、第1クラッド層では、領域A2bにおいて屈折率が内周に向かって、下に凸の円弧状の曲線を描くように上昇している。なお、本実施形態2では、領域A2aと領域A2bとが略連続しており、屈折率分布形状P22は第1屈折率分布形状P22aと第2屈折率分布形状P22bとによって下に凸の円弧状の曲線になっている。第1クラッド層は、領域A2aにおいてこのような第1屈折率分布形状P22aとなるように、光ファイバ母材の半径方向においてフッ素濃度が分布している。また、第1クラッド層は、領域A2bにおいてこのような第2屈折率分布形状P22bとなるように、光ファイバ母材の半径方向においてフッ素濃度とゲルマニウム濃度とが分布している。ゲルマニウムは製造時の加熱処理によってコア部から拡散したものである。
【0066】
例えば、
図5に示すように、領域A2aにおいて、第1クラッド層の比屈折率差はΔ22からΔ23だけ上昇しており、第1クラッド層と第2クラッド層との屈折率差は、境界面において、比屈折率差で表すとΔ24まで小さくなる。Δ23は、0.005%以上が好ましく、0.02%以下が好ましい。また、Δ24については、0.02%以下が好ましい。
【0067】
実施の形態2に係る光ファイバ母材においても、実施の形態1に係る光ファイバ母材と同様に、第1クラッド層と第2クラッド層との境界面近傍において屈折率差が連続的に小さくなっているので、境界面とその近傍での構造欠陥や残留歪みが抑制される。その結果、製造する光ファイバの低損失化を実現できる。また、製造した光ファイバに水素エージング試験を施したとしても、水素に起因する損失の増加は抑制される。
【0068】
また、実施の形態2に係る光ファイバ母材においては、領域A2bにおいて第2屈折率分布形状P22bを有しており、第1クラッド層とコア部との境界面近傍において屈折率差が連続的に小さくなっているので、境界面とその近傍での構造欠陥や残留歪みが抑制される観点から好ましい。
【0069】
なお、光ファイバ母材の半径方向における、第1屈折率分布形状P22aを有する領域A2aの幅は、第1クラッド層の外径bで表すと、0.2b以上であることが好ましい。
【0070】
実施形態2に係る光ファイバ母材は、実施形態1に係る光ファイバ母材10と同様の製造方法で製造することができる。なお、領域A2bにおいて第2屈折率分布形状P22bは、多孔質ガラス母材の合成時(VAD工程)のスート密度(多孔質体の密度)やコア母材のガラス化工程での温度及び引下げ速度等を適宜設定することで、所望の形状とできる。
【0071】
(実施形態3)
図6は、実施形態3に係る光ファイバ母材の屈折率分布形状P3を比屈折率差で示す図である。屈折率分布形状P11、P32、P13はそれぞれコア部、第1クラッド層、第2クラッド層の屈折率分布形状である。屈折率分布形状P3は、線引きして製造される光ファイバの要求特性を実現するように設計される。屈折率分布形状P11、P13は、屈折率分布形状P1の屈折率分布形状P11、P13と同じなので、以下では第2クラッド層の屈折率分布形状P32について具体的に説明する。
【0072】
図6では、第1クラッド層の最低屈折率の、第2クラッド層に対する比屈折率差をΔ32とする。Δ32の値は、例えば-0.17%~-0.03%である。
【0073】
ここで、屈折率分布形状P32は、コア部と第2クラッド層との間の全ての領域A3において、第1屈折率分布形状を有する。第1屈折率分布形状は、第2クラッド層との境界面に対する距離が小さくなるに従って、第1クラッド層の屈折率と第2クラッド層の屈折率との屈折率差が連続的に小さくなる形状を有する。具体的には、第1クラッド層では、領域A3において屈折率が外周に向かって直線的に上昇している。第1クラッド層は、屈折率分布形状P32が領域A3においてこのような第1屈折率分布形状となるように、光ファイバ母材の半径方向においてフッ素濃度が分布している。
【0074】
例えば、
図6に示すように、領域A3において、第1クラッド層の比屈折率差はΔ32からΔ33だけ上昇しており、第1クラッド層と第2クラッド層との屈折率差は、境界面において、比屈折率差で表すとΔ34まで小さくなる。Δ33は、0.005%以上が好ましく、0.02%以下が好ましい。また、Δ34については、0.02%以下が好ましい。
【0075】
実施の形態3に係る光ファイバ母材においても、実施の形態1に係る光ファイバ母材と同様に、第1クラッド層と第2クラッド層との境界面近傍において屈折率差が連続的に小さくなっているので、境界面とその近傍での構造欠陥や残留歪みが抑制される。その結果、製造する光ファイバの低損失化を実現できる。また、製造した光ファイバに水素エージング試験を施したとしても、水素に起因する損失の増加は抑制される。
【0076】
実施形態3に係る光ファイバ母材は、実施形態1に係る光ファイバ母材10と同様の製造方法で製造することができる。このとき、多孔質ガラス母材の合成時(VAD工程)のスート密度や、第1多孔質クラッド層にフッ素を添加する際のフッ素ガスの流量や、コア母材のガラス化工程での温度及び引下げ速度等を適宜設定することが好ましい。
【0077】
(実施形態4)
図7は、実施形態4に係る光ファイバ母材の屈折率分布形状P4を比屈折率差で示す図である。屈折率分布形状P11、P42、P13はそれぞれコア部、第1クラッド層、第2クラッド層の屈折率分布形状である。屈折率分布形状P4は、線引きして製造される光ファイバの要求特性を実現するように設計される。屈折率分布形状P11、P13は、屈折率分布形状P1の屈折率分布形状P11、P13と同じなので、以下では第1クラッド層の屈折率分布形状P42について具体的に説明する。
【0078】
図7では、第1クラッド層の最低屈折率の、第2クラッド層に対する比屈折率差をΔ42とする。Δ42の値は、例えば-0.15%~-0.03%である。
【0079】
ここで、屈折率分布形状P42は、半径方向においてコア部側から外周に向かって略一定であるが、第2クラッド層との境界面の近傍である円環状の領域A4において、第1屈折率分布形状P42aを有する。第1屈折率分布形状P42aは、第2クラッド層との境界面に対する距離が小さくなるに従って、第1クラッド層の屈折率と第2クラッド層の屈折率との屈折率差が連続的に小さくなる形状を有する。具体的には、第1クラッド層では、領域A4において屈折率が外周に向かって直線的に上昇している。第1クラッド層は、領域A4においてこのような屈折率分布形状P42となるように、光ファイバ母材の半径方向においてフッ素濃度が分布している。
【0080】
例えば、
図7に示すように、領域A4において、第1クラッド層の比屈折率差はΔ42からΔ43だけ上昇しており、第1クラッド層と第2クラッド層との屈折率差は、境界面において、比屈折率差で表すとΔ44まで小さくなる。Δ43は、0.005%以上が好ましく、0.02%以下が好ましい。また、Δ44については、0.02%以下が好ましい。
【0081】
実施の形態4に係る光ファイバ母材においても、実施の形態1に係る光ファイバ母材と同様に、第1クラッド層と第2クラッド層との境界面近傍において屈折率差が連続的に小さくなっているので、境界面とその近傍での構造欠陥や残留歪みが抑制される。その結果、製造する光ファイバの低損失化を実現できる。また、製造した光ファイバに水素エージング試験を施したとしても、水素に起因する損失の増加は抑制される。
【0082】
なお、光ファイバ母材の半径方向における、第1屈折率分布形状P42aを有する領域A4の幅は、第1クラッド層の外径bで表すと、0.2b以上であることが好ましい。
【0083】
実施形態4に係る光ファイバ母材は、実施形態1に係る光ファイバ母材10と同様の製造方法で製造することができる。このとき、多孔質ガラス母材の合成時(VAD工程)のスート密度や、第1多孔質クラッド層にフッ素を添加する際のフッ素ガスの流量や、コア母材のガラス化工程での温度及び引下げ速度等を適宜設定することが好ましい。
【0084】
(実施形態5)
図8は、実施形態5に係る光ファイバ母材の屈折率分布形状P5を比屈折率差で示す図である。屈折率分布形状P5は、線引きして製造される光ファイバの要求特性を実現するように設計される。屈折率分布形状P11、P52、P13はそれぞれコア部、第1クラッド層、第2クラッド層の屈折率分布形状である。屈折率分布形状P11、P13は、屈折率分布形状P1の屈折率分布形状P11、P13と同じなので、以下では第1クラッド層の屈折率分布形状P52について具体的に説明する。
【0085】
図8では、第1クラッド層の最低屈折率の、第2クラッド層に対する比屈折率差をΔ52とする。Δ52の値は、例えば-0.15%~-0.03%である。
【0086】
ここで、屈折率分布形状P52は、半径方向においてコア部側から外周に向かって略一定であるが、第2クラッド層との境界面の近傍である円環状の領域A5において、第1屈折率分布形状P52aを有する。第1屈折率分布形状P52aは、第2クラッド層との境界面に対する距離が小さくなるに従って、第1クラッド層の屈折率と第2クラッド層の屈折率との屈折率差が段階的に小さくなる形状を有する。具体的には、第1クラッド層では、領域A5において屈折率が外周に向かって段階的に上昇している。第1クラッド層は、領域A5においてこのような屈折率分布形状P52となるように、光ファイバ母材の半径方向においてフッ素濃度が分布している。
【0087】
例えば、
図8に示すように、領域A5において、第1クラッド層の比屈折率差はΔ52からΔ53だけ上昇しており、第1クラッド層と第2クラッド層との屈折率差は、境界面において、比屈折率差で表すとΔ54まで小さくなる。Δ53は、0.005%以上が好ましく、0.02%以下が好ましい。また、Δ54については、0.02%以下が好ましい。
【0088】
実施の形態5に係る光ファイバ母材においても、実施の形態1に係る光ファイバ母材と同様に、第1クラッド層と第2クラッド層との境界面近傍において屈折率差が小さくなっているので、境界面とその近傍での構造欠陥や残留歪みが抑制される。その結果、製造する光ファイバの低損失化を実現できる。また、製造した光ファイバに水素エージング試験を施したとしても、水素に起因する損失の増加は抑制される。
【0089】
なお、光ファイバ母材の半径方向における、第1屈折率分布形状P52aを有する領域A5の幅は、第1クラッド層の外径bで表すと、0.2b以上であることが好ましい。
【0090】
実施形態5に係る光ファイバ母材は、以下のように製造することができる。まず、実施形態1に係る光ファイバ母材10の製造方法と同様にコア母材を作製する際に、第1クラッド層における比屈折率差がΔ52の領域を作製する。つづいて、比屈折率差がΔ52の領域の外周にOVD法による多孔質ガラス層の形成とその多孔質ガラス層へのフッ素の添加と透明ガラス化とを行って第1クラッド層における領域A5を作製する。その後、第2クラッド層の形成を行う。
なお、領域A5を作製する方法としては、OVD法に限らず、フッ素を含む石英管をジャケットしてもよい。
【0091】
上記実施形態の光ファイバ母材を用いて製造した光ファイバは、当該光ファイバ母材と同様の特徴を有する。すなわち、この光ファイバは、ガラスからなるコア部と、コア部の外周に形成されコア部の最大屈折率よりも屈折率が低くなるようにフッ素が添加された第1クラッド層と、第1クラッド層の外周に形成され、第1クラッド層よりも軟化点が高くかつ屈折率が高いガラスからなる第2クラッド層と、を備え、第1クラッド層は、第2クラッド層との境界面の少なくとも近傍において、第2クラッド層との境界面に対する距離が小さくなるに従って、第1クラッド層の屈折率と第2クラッド層の屈折率との屈折率差が小さくなる形状の第1屈折率分布形状を有する。
【0092】
また、この光ファイバは、第1クラッド層において、屈折率が最も低い部分と、第2クラッド層との界面との比屈折率差が、0.005%以上であってもよい。
【0093】
また、この光ファイバは、コア部の直径に対する第1クラッド層の外径の比が2~5であってもよい。
【0094】
また、この光ファイバは、第1クラッド層は、半径方向において第2クラッド層との境界面から第1クラッド層の外径の20%以上の幅の領域において、第1屈折率分布形状を有してもよい。
【0095】
また、この光ファイバは、第1クラッド層は、コア部と第2クラッド層との間の全ての領域において、第1屈折率分布形状を有してもよい。
【0096】
また、この光ファイバは、第1クラッド層は、コア部との境界面の少なくとも近傍において、コア部との境界面に対する距離が小さくなるに従って、第1クラッド層の屈折率とコア部の屈折率との屈折率差が小さくなる形状の第2屈折率分布形状を有してもよい。
【0097】
なお、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上のように、本発明に係る光ファイバ母材の製造方法及び光ファイバ母材並びに光ファイバの製造方法及び光ファイバは、光ファイバ母材の製造及び光ファイバ母材から製造される光ファイバに有用である。
【符号の説明】
【0099】
1 多孔質ガラス母材
2 出発ロッド
3 多孔質コア部
4 第1多孔質クラッド層
5 多孔質体
6 コア母材
7 第2多孔質クラッド層
10 光ファイバ母材
11 コア部
12 第1クラッド層
13 第2クラッド層
14 クラッド部
100、300 製造装置
101、102、301 バーナ
200 加熱炉
201 ヒータ
A1、A2a、A2b、A3、A4、A5 領域
P1、P11、P12、P13、P2、P22、P3、P32、P4、P42、P5、P52 屈折率分布形状
P12a、P22a、P42a、P52a 第1屈折率分布形状
P22b 第2屈折率分布形状