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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】薬剤感受性の検査方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20240328BHJP
   G01N 23/2251 20180101ALI20240328BHJP
【FI】
C12Q1/06
G01N23/2251
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021517917
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 FR2019050576
(87)【国際公開番号】W WO2020183072
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2020-12-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(73)【特許権者】
【識別番号】520483800
【氏名又は名称】アイエイチユー メディテラニー インフェクション
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】松原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】大南 祐介
(72)【発明者】
【氏名】今井 恭子
(72)【発明者】
【氏名】入江 隆史
(72)【発明者】
【氏名】ディディエ, ラウルト
(72)【発明者】
【氏名】ジャック, ブカリル
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】田中 耕一郎
【審判官】天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-136876(JP,A)
【文献】国際公開第2018/174784(WO,A1)
【文献】特開2001-275696(JP,A)
【文献】特開平10-14595(JP,A)
【文献】国際公開第2018/096153(WO,A1)
【文献】特表2009-529888(JP,A)
【文献】特開2009-036694(JP,A)
【文献】国際公開第2017/061155(WO,A1)
【文献】特開2015-177768(JP,A)
【文献】特開2002-205902(JP,A)
【文献】特開2012-153687(JP,A)
【文献】特開2010-213598(JP,A)
【文献】特表2017-518768(JP,A)
【文献】特表2007-514952(JP,A)
【文献】特表2003-505106(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0278136(US,A1)
【文献】国際公開第2013/038925(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の抗菌剤に対する感受性を検査する検査方法において、
抗菌剤と微生物含有液体を混合した第1試料を調製する第1のステップと、
前記第1試料を所定温度で保温すると共に、抗菌剤を含まず、前記第1試料中の第1微生物と同一株の第2微生物を含有する液体である第2試料を所定温度で保温する第2のステップと、
前記第1試料中の第1微生物を、該第1微生物が抗菌剤の影響を受けない初期状態を含む複数の予め設定された時点において顕微鏡により観察すると共に、前記第2微生物を、前記複数の予め設定された時点のうちの少なくとも一つにおいて顕微鏡により観察する第3のステップと、
観察された前記第1微生物の外観を解析すると共に、前記複数の予め設定された時点のうちの少なくとも一つにおいて前記第1微生物の外観に係る第1画像と前記第2微生物の外観に係る第2画像を比較する第4のステップと、
観察された前記第1微生物の外観変化に基づいて、該第1微生物の抗菌剤に対する薬剤感受性を判断する第5のステップと、を備え、
前記顕微鏡は、走査型電子顕微鏡である、検査方法。
【請求項2】
前記第1のステップは、前記抗菌剤と前記微生物含有液体を所定比率で混合するステップ、もしくは、所定濃度の前記抗菌剤と任意濃度の前記微生物含有液体を混合するステップである、請求項1記載の検査方法。
【請求項3】
耐性菌であることが確認済の微生物の複数画像をデータベース化する第6のステップと、
抗菌剤に対する感受性を持つことが確認済みの微生物の複数画像をデータベース化する第7のステップと、
前記データベース中の複数画像の特徴を機械学習により取得する第8のステップと、を備え、
前記第5のステップは、前記特徴に基づいて、前記第3のステップで観察した微生物の画像と前記データベースの画像とを比較して、前記観察した微生物の抗菌剤に対する薬剤感受性を判断するステップである、請求項1又は2記載の検査方法。
【請求項4】
前記第6及び第7のステップは、適時画像を追加することが可能であり、
前記第8のステップは、前記追加される画像に基づいて、前記特徴を機械学習により継続
的に取得するステップである、請求項3記載の検査方法。
【請求項5】
前記第4のステップは、前記抗菌剤と前記微生物含有液体を混合してから所定時間が経過した時点において、前記顕微鏡視野内の微生物の数をカウントする第9のステップと、
前記初期状態から外観変化した微生物を判別する第10のステップと、
前記視野内の微生物のうち外観変化した微生物の存在比率を算出する第11のステップと、を備え、
前記第5のステップは、前記存在比率に基づいて、該微生物の抗菌剤に対する薬剤感受性を判断するステップである、請求項1又は2記載の検査方法。
【請求項6】
前記微生物の外観とは、前記微生物の形態、及び/又は、前記微生物が存在する領域の明るさを示す、請求項1又は2記載の検査方法。
【請求項7】
前記微生物の形態とは、複数の微生物が集団を形成している場合の該集団の形態、及び/又は、該集団とは独立した個々の微生物の形態を示す、請求項6記載の検査方法。
【請求項8】
前記第3のステップは、同一の試料を前記顕微鏡により複数の視野で観察するステップであり、
前記第11のステップは、前記複数の視野内の微生物数の合計から外観変化した微生物の存在比率を算出するステップである、請求項5記載の検査方法。
【請求項9】
前記第5のステップは、前記存在比率の時間変化から該微生物の抗菌剤に対する感受性を判断するステップである、請求項1又は2記載の検査方法。
【請求項10】
前記第4のステップは、観察される微生物の外観データを集めて構築される微生物全体の外観情報を取得して該外観情報を解析するステップであり、
前記第5のステップは、所定の人が備える微生物に対して前記抗菌剤が投与された場合の外観情報と、前記所定の人が備える微生物に対して前記抗菌剤が投与されていない場合の外観情報を比較し、該比較の結果に基づいて、該所定の人が有する微生物の前記抗菌剤に対する感受性を判断するステップである、請求項1又は2記載の検査方法。
【請求項11】
予め定められた基準の微生物と予め定められた所定濃度の抗菌剤に基づいて作成された、外観変化の存在比率に係る判断基準を取得する第12のステップを更に備え、
前記第5のステップは、前記判断基準に基づいて、所定の人が有する微生物の感受性を判断するステップである、請求項1又は2記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤感受性の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検査室で使用され、分離培養の自動化・省力化を図るための検査装置として、培養シャーレ中の微生物コロニーの画像を取得して微生物や細胞を計測する装置が開示されている(特許文献1)。また、検査に必要とする時間を短縮するために、複数のウェルを有し、各ウェルに細菌または真菌を含む培養液を保持する培養プレートの各々のウェルに含まれる培養液中の細菌または真菌を顕微鏡観察する検査装置も開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-261260号公報
【文献】特開2015-177768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1による装置では、判定可能になるまで微生物が増殖する必要があるため、例えば緑膿菌のような増殖の遅い菌の場合、単独コロニーが得られてから最短でも8時間以上の培養が必要となる。
【0005】
また、特許文献2による装置では、微生物を顕微鏡観察することで微生物個々の形状を判定に利用して検査時間を短縮しているが、複雑な機構を備えた専用装置と専用の培養プレートが必要であり、検査コストの上昇が避けられない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、微生物の薬剤感受性の判定を迅速化する汎用性の高い安価な検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の検査方法は、顕微鏡で観察した微生物の外観変化に基づいて、該微生物の抗菌剤に対する薬剤感受性を判断するステップを含む。該判断するステップでは、耐性菌であることが確認済の微生物の複数画像と抗菌剤に対する感受性を持つことが確認済みの微生物の複数画像に係るデータベース中の複数画像の特徴を機械学習により取得し、該特徴に基づいて、微生物の画像と該データベースの画像とを比較することにより判断してもよい。また、顕微鏡の視野内の微生物のうち外観変化した微生物の存在比率により判断してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微生物の薬剤感受性の判定を迅速化する汎用性の高い安価な検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】微生物薬剤感受性の検査方法の判定フローを示す図。
図2】実施例1による検査方法の詳細判定フローを示す図。
図3】実施例2による検査方法の詳細判定フローを示す図。
図4】主たる対象とする微生物と抗生物質を示す図。
図5】電子顕微鏡画像の例1を示す図。
図6】電子顕微鏡画像の例2を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施例について説明する。図1は、微生物薬剤感受性の検査方法の判定フローを示す図である。
【0011】
ここで、微生物薬剤感受性検査とは、同一株の微生物を、様々な抗菌剤を所定の濃度で含む培養液で培養し、どの条件で増殖したかによって微生物が薬剤耐性を持つかを検査すること、あるいは、微生物の最小発育阻止濃度MIC(Minimum Inhibitory Concentration)を判定する検査を意味する。尚、微生物は、微生物や真菌を含むものとする。また、本方法により検査を行う細菌の対象は、特に制限されない。例えば、黄色ブドウ球菌、腸球菌、肺炎球菌、大腸菌、緑膿菌、肺炎桿菌などが挙げられる。
【0012】
本方法により検査を行う際には、臨床検体から分離培養によって得られた単独コロニーを用いて微生物懸濁液を調製することが多い。但し、臨床検体にコンタミネーションの可能性が低く単独の微生物を含む場合には微生物懸濁液を調製せず、検体をそのままあるいは適宜希釈して使用しても良い。また、検体の採取・運搬、分離培養、抗菌剤の調製や培地の調製、培養温度、培養液等については、CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute, Wayne, P.A)で推奨されている方法に従うことが望ましいが、これに限るものではない。
【0013】
次に、培養の手順について説明する。まず、培養容器(以下、単に「容器」と称する)に検体から調製した微生物懸濁液を導入する(S101)。次に、各々の容器に含まれ、容器毎に異なる抗菌剤が特定の濃度で含まれるように設定されている培養液と混ぜ合わせた状態で、35℃程度に設定した恒温槽内でインキュベーションして培養する(S102)。この際、抗菌剤を含まない培養液と混ぜ合わせた試料を対照試料として同時に培養する。そして、予め設定された所定時間が経過したか否かを判断する(S103)。所定時間が経過した場合、容器を恒温槽から取り出し、容器内の培養液と微生物懸濁液を混ぜ合わせた試料をスライドガラスに塗布して、顕微鏡で観察する。この際に染色等の前処理は必ずしも必要としない。そして、顕微鏡の画像から微生物の薬剤感受性(以下、単に「感受性」と称する)を判断する(S104)。その後、判定を終了すべきか否かを判断し(S106)、終了すべきと判断すれば処理を終了する。
【0014】
尚、上記観察は、インキュベーション開始から終了までの間、予め設定した時間毎に行い、微生物増殖の様子を連続的にモニタしても良い。また、適切な時間を設定してその設定時間にモニタを行い、インキュベーション開始時のモニタ結果と比較しても良い。また、特定の抗菌剤濃度が含まれる微生物懸濁液を含む培養容器を予め複数用意して、所定時間が経過する毎に異なる容器内の微生物懸濁液を観察しても良い。また、抗菌剤の濃度を特定するのではなく、微生物懸濁液と抗菌剤の比率を特定しても良い。
【実施例1】
【0015】
図2は、実施例1による検査方法の詳細判定フローを示す図である。実施例1では、特定の抗菌剤に対して耐性菌であることが確認済みの微生物の複数画像、及び、該抗菌剤に対する感受性を持つことが確認済みの微生物の複数画像をデータベース化して備える。
【0016】
まず、抗菌剤の希釈系列を5濃度用意して、各濃度を含む容器を5個ずつ用意する(S201)。これは、それぞれの系列に対して、所定時間毎に(例えば30分毎)に5回観察できるようにするためである。しかし、観察の間隔時間や観察回数はこれに限定するものではない。次に、各容器に微生物懸濁液を導入して撹拌し(S202)、35℃に設定した恒温槽に25個の容器を設置して、恒温槽内でインキュベートする(S203)。次に、予め設定された所定時間が経過したか否かを判断する(S204)。所定時間が経過した場合、5濃度の容器をそれぞれ一つずつ取り出し、取り出した容器内の試料をスライドガラスに塗布して、電子顕微鏡で観察する(S205)。そして、顕微鏡の画像をデータベースの画像と比較して、微生物の感受性、即ち、該微生物が耐性菌か感受性を持つ菌かを判定する(S206)。
【0017】
ここで、該微生物に感受性があるか否かを判定し(S207)、感受性ありと判定した場合は、再度(2回連続して)、感受性があるか否かを判定する(S208)。特定の抗菌剤濃度の試料において2回とも感受性ありと判定した場合、感受性を持つと判定された試料のうち最も低い抗菌剤濃度をMICと判定し(S211)、処理を終了する。
【0018】
S207において、該微生物に感受性なしと判定した場合、5回観察したか否かを判定する(S209)。5回観察した場合は感受性なしとして(S210)処理を終了し、5回観察していない場合はS204に処理を戻す。
【0019】
S207又はS208において感受性なしと判定した場合は、更に所定時間経過後に同様に電子顕微鏡によって観察した画像を取得し、データベースの画像と比較して耐性菌か感受性を持つ菌かを判定する。以降所定時間経過毎に観察画像を取得する。そして、全ての抗菌剤濃度について感受性を持つと判定された場合、もしくは全ての容器の試料の観察が完了した場合に、感受性を持つと判定された試料のうち最も低い抗菌剤濃度をMICと判定することになる。
【0020】
データベースの画像と電子顕微鏡取得画像との比較には、自動判別可能なソフトウェアを使用してもよい。該ソフトウェアは、データベース内の画像の特徴を機械学習することによって、判別アルゴリズムを自動的に作成してもよい。また、データベースには適時、耐性菌であることが確認済みの微生物の画像、及び/又は抗菌剤に対する感受性を持つことが確認済みの微生物の画像を追加登録しても良い。また、該ソフトウェアは、追加登録された画像を含めてデータベース内の画像の特徴を機械学習して、判別アルゴリズムを継続的に更新してもよい。
【実施例2】
【0021】
図3は、実施例2による検査方法の詳細判定フローを示す図である。
【0022】
まず、抗菌剤の希釈系列を5濃度用意して、各濃度を含む容器5個ずつと抗菌剤を含まない容器を1個用意する(S301)。観察の間隔時間や観察回数は実施例1と同様である。次に、各容器に微生物懸濁液を導入して撹拌し(S302)、抗菌剤を含まない培養容器内の試料をスライドガラスに塗布して電子顕微鏡により観察し、初期状態の画像を取得する(S303)。
【0023】
次に、35℃に設定した恒温槽に25個の培養容器を設置し、恒温槽内でインキュベートする(S304)。所定時間経過後(S305)に5濃度の培養容器をそれぞれ一つずつ取り出し、取り出した培養容器内の試料をスライドガラスに塗布して電子顕微鏡で観察する(S306)。そして、観察される微生物の外観データを集めて構築される微生物全体の外観情報を取得し、視野内の全微生物数を記録すると共に、電子顕微鏡観察によって取得した画像と初期状態の画像とを比較して、外観変化のある微生物が存在するかを確認する(S307)。
【0024】
ここで、微生物の外観とは、微生物の形態、及び/又は、微生物が存在する領域の明るさを示す。形態とは、例えば、円形度、長軸/短軸の比率、占有面積、複数の微生物が形成する集団の面積、集団内の微生物数、集団内の微生物密度等が挙げられ、明るさとは、例えば、明度、コントラスト比等が挙げられる。また、上記形態とは、複数の微生物が集団を形成している場合の該集団の形態、及び/又は、該集団とは独立した個々の微生物の形態を示す。
【0025】
外観変化のある微生物が存在する場合、視野内に存在する外観変化のある微生物数を記録して、全微生物数と外観変化のある微生物数とから、外観変化した微生物の存在比率を算出する。
算出した存在比率が予め設定された所定値を超えた場合に、抗菌剤に対する感受性を持つと判定する。さらに60分経過後に電子顕微鏡によって観察した画像を取得し、外観変化した微生物数の存在比率を算出して、耐性菌か感受性を持つ菌かを判定する(S308)。以降の処理は、実施例1と同様である。
【0026】
一つの試料観察に対して、複数視野の画像を取得して、それぞれの視野について全微生物数と外観変化した微生物数とを記録し、全視野の微生物数を合計して外観変化した微生物の存在比率を算出してもよい。全微生物数の合計は1,000以上であることが望ましいが、その数に限定するものではない。
【0027】
尚、微生物が耐性菌か否かの判定では、算出した存在比率の時間変化(例えば、存在比率の初期状態からの変化率)が予め設定された所定値を超えた場合に、抗菌剤に対する感受性を持つと判定しても良い。また、例えば、30分経過後は存在比率で判断し、60分経過後は存在比率の変化率で判断するなど、判定の仕方を組み合わせて用いても良い。
【0028】
また、所定の人が備える微生物に対して抗菌剤が投与された場合の外観情報と、所定の人が備える微生物に対して抗菌剤が投与されていない場合の外観情報を比較し、該比較の結果に基づいて、該所定の人が有する微生物の抗菌剤に対する感受性を判断しても良い。
【0029】
また、予め定められた基準の微生物と予め定められた所定濃度の抗菌剤に基づいて作成された、外観変化の存在比率に係る判断基準を取得し、該判断基準に基づいて、所定の人が有する微生物の感受性を判断しても良い。
【0030】
画像中の外観変化のある微生物の判別には、自動判別可能なソフトウェアを使用してもよい。該ソフトウェアは、予め用意した初期状態の微生物画像のデータベースと抗菌剤の影響によって外観が変化した微生物画像のデータベースから、外観変化の特徴を機械学習することによって、判別アルゴリズムを自動的に作成してもよい。また、微生物数を自動的に判断して記録するソフトウェアを使用してもよい。
【0031】
図4は、主たる対象とする微生物と抗生物質を示す図である。後から現れる外観上の特徴には、抗生物質に対する感受性または耐性を検出可能な兆候がみられる。以下にこれまでに確認された、いくつかの例を示す。
【0032】
グラム陰性菌では増殖期に強い電子線の屈折または屈折角が細胞分裂の両端にみられる。微生物が検査対象の抗生物質に対して感受性を持つ場合は、電子線の屈折のある外観をもつ微生物は少なく、屈折のない菌とある菌との比率は顕著な初期における兆候である。さらに後の段階では、感受性菌では菌体の伸長、三分岐、二分岐、微小化、球形化がみられる。
【0033】
ブドウ球菌(Staphylococcus)のようなグラム陽性球菌では、感受性菌では菌体が肥大化することが観察されている。
【0034】
図5は、電子顕微鏡画像の例1を示す図であり、大腸菌(Escherichia coli)を1mg/Lのイミペネムを含む培養液中で培養した結果を示している。(a)(b)はイミペネム耐性を持つことが確認されている菌、(c)(d)はイミペネム感受性をもつことが確認されている菌の画像であり、それぞれ培養開始から(a)30分、(b)120分、(c)30分、(d)120分の状態を示している。耐性菌では(a)(b)とも集団を形成しているに対して、(c)では集団が非常に小さくなり(d)では集団を形成しなくなっている。また(a)(b)のに対して(c)(d)は菌の明度が高くなっている。光学顕微鏡では無染色の状態では微生物の輪郭は確認できるものの、個々の微生物についてそれ以上の外観情報を得ることは難しい。
【0035】
図6は、電子顕微鏡画像の例2を示す図であり、Klebsiella pneumoniaを1mg/Lのイミペネムを含む培養液中で培養した結果を示している。(a)(b)はイミペネム耐性を持つことが確認されている菌、(c)(d)はイミペネム感受性を持つことが確認されている菌の画像であり、それぞれ培養開始から(a)30分、(b)120分、(c)30分、(d)120分の状態を示している。(a)(b)では菌が形成している集団の密度が低いのに対し、(c)(d)では高密度の状態で集団を形成していることが確認できる。また、(a)(b)では分裂増殖する菌が多く確認できるが、(c)(d)では分裂するものがなく、個々の菌の外観形態も、長軸が短くなり円に近い形状になっていることが確認できる。さらに(a)(b)に対して(c)(d)では、個々の菌におけるコントラスト比が低くなっていることも確認できる。
【0036】
本実施例では、電子顕微鏡を用いて観察すると説明したが、電子顕微鏡としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、卓上走査型電子顕微鏡、大気圧下で観察可能な走査型電子顕微鏡等が挙げられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6