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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】試料分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20240328BHJP
   G01N 21/39 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
G01N21/3504
G01N21/39
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021519434
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2020018928
(87)【国際公開番号】W WO2020230775
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2019092441
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】内原 博
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 享司
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第4216508(DE,A1)
【文献】国際公開第2012/120957(WO,A1)
【文献】特開2012-2799(JP,A)
【文献】特開2013-50403(JP,A)
【文献】特開2011-43461(JP,A)
【文献】特開2013-134236(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108458984(CN,A)
【文献】国際公開第2015/045869(WO,A1)
【文献】特開2019-27867(JP,A)
【文献】特開平6-265475(JP,A)
【文献】特開2011-169753(JP,A)
【文献】特開2011-220758(JP,A)
【文献】特開2007-40995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を保持する試料保持体により保持された前記試料を加熱する加熱炉と、
前記試料の加熱により生じた1又は複数の干渉成分を含むガス中の測定対象成分を測定して前記試料中の元素を分析するガス分析部とを備える試料分析装置であって、
前記ガス分析部は、
所定の変調周波数で波長が変調された変調光を射出するレーザ光源と、
前記変調光が前記ガスを透過したサンプル光の強度を検出する光検出器と、
前記サンプル光の強度に関連する強度関連信号と、当該強度関連信号に対して所定の相関が得られる特徴信号とを用いて、前記測定対象成分の濃度に依存するサンプル代表値を算出する第1算出部と、
前記測定対象成分及び前記各干渉成分が単独で存在する場合のそれぞれの前記強度関連信号と前記特徴信号とを用いて算出された単独代表値と、前記第1算出部により得られた複数のサンプル代表値とに基づいて、前記測定対象成分の濃度を算出する第2算出部とを備える、試料分析装置。
【請求項2】
前記第1算出部は、前記サンプル代表値として前記強度関連信号と前記特徴信号との相関値であるサンプル相関値を算出するものであり、
前記第2算出部は、前記測定対象成分及び前記各干渉成分が単独で存在する場合のそれぞれの前記強度関連信号と前記特徴信号との相関値である単独相関値と、前記第1算出部により得られた複数のサンプル相関値とに基づいて、前記測定対象成分の濃度を算出する、請求項1記載の試料分析装置。
【請求項3】
前記ガスに含まれる複数の測定対象成分を分析するものであって、
前記レーザ光源が、複数設けられており、
前記複数のレーザ光源は、それぞれ異なる測定対象成分に対応した発振波長のレーザ光を射出するものである、請求項1又は2に記載の試料分析装置。
【請求項4】
前記複数の測定対象成分はCO、CO、SO、HO、NOの少なくとも1つである、請求項に記載の試料分析装置。
【請求項5】
前記ガス分析部とは別に非分散型赤外吸収法を用いた分析計をさらに備える、請求項1乃至4の何れか一項に記載の試料分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に含まれる測定対象成分を分析する試料分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼、非鉄金属、セラミックス又はコークス等の固体試料中の炭素(C)や硫黄(S)を分析するものとしては、特許文献1に示すように、るつぼに収容された固体試料を燃焼炉内で燃焼させて、固体試料から発生する燃焼ガスに含まれる二酸化炭素(CO)や一酸化炭素(CO)、二酸化硫黄(SO)を非分散赤外吸収(NDIR)分析計で分析するものがある。
【0003】
このNDIR分析計を用いて固体試料を分析するものでは、赤外線ランプを用いており、赤外線ランプからは測定対象成分の吸収波長域を含むブロードな赤外光が射出されるため、測定対象成分の濃度を測定するためには、光検出器の前方に波長選択フィルタを設ける必要がある。この波長選択フィルタを設けることにより、光検出器で検出される光量が低下してしまい、SN比が悪くなってしまう。その結果、特に低濃度領域において測定対象成分の分析精度が悪くなってしまう。
【0004】
一方で、特許文献2に示すように、紫外蛍光法を用いて燃焼ガスに含まれるSO濃度を測定するものがある。この赤外吸収よりも感度の高い紫外蛍光法を用いることにより、SOを低濃度領域でも精度良く分析することができる。
【0005】
しかしながら、紫外蛍光法を用いられる紫外線光源は、経年劣化により光量が低下しやすく、頻繁に紫外線光源を交換する必要があり、メンテナンスの頻度が多いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-265475号公報
【文献】特開2011-169753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は上記の問題点を解決すべくなされたものであり、試料分析装置においてメンテナンスの頻度を減らしつつ、確実に測定対象成分を分析できることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る試料分析装置は、試料を保持する試料保持体により保持された前記試料を加熱する加熱炉と、前記試料の加熱により生じたガスに含まれる測定対象成分を分析するガス分析部とを備え、前記ガス分析部は、前記ガスにレーザ光を照射するレーザ光源と、前記レーザ光が前記ガスを透過したサンプル光の強度を検出する光検出器とを備えることを特徴とする。
【0009】
この試料分析装置であれば、ガス分析部が、ガスにレーザ光を照射するレーザ光源と、レーザ光がガスを透過したサンプル光の強度を検出する光検出器とを備えているので、測定対象成分に合わせた発振波長のレーザ光を照射することで、光検出器の前に波長選択フィルタを設ける必要がなく、波長選択フィルタによる光量低下を防ぎ、SN比を大きくすることができる。その結果、測定対象成分を確実に分析することができる。また、レーザ光源を用いているので、メンテナンス頻度を低減することができる。このように本発明によれば、試料分析装置においてメンテナンスの頻度を減らしつつ、確実に測定対象成分を分析できることができる。
【0010】
レーザ光源としては、所定の変調周波数で波長が変調された変調光を射出するものであることが望ましい。
この構成であれば、所定の変調周波数で波長が変調された変調光を射出して得られた強度関連信号を用いる波長変調方式(WMS:Wavelength Modulation Spectroscopy)により測定対象成分を分析することができる。その結果、測定対象成分の濃度に与える干渉成分の影響を低減することができる。
【0011】
前記ガス分析部は、前記サンプル光の強度に関連する強度関連信号と、当該強度関連信号に対して所定の相関が得られる特徴信号とを用いて、前記測定対象成分の濃度に依存する代表値を算出する第1算出部と、前記第1算出部により得られた代表値を用いて前記測定対象成分の濃度を算出する第2算出部とをさらに備えることが望ましい。
この構成であれば、波長変調方式において、サンプル光の強度に関連する強度関連信号から測定対象成分の濃度に依存する代表値を算出して、当該代表値を用いて測定対象成分の濃度を算出するので、従来のWMSで必要であった濃度定量のためのスペクトル演算処理を不要にしつつ、固体試料に含まれる測定対象成分を確実に分析することができる。また、紫外蛍光法を用いていないので紫外線光源を用いる必要がなく、紫外線光源を頻繁に交換するというメンテナンスを不要にすることができる。
【0012】
具体的に前記第1算出部は、前記代表値として前記強度関連信号と前記特徴信号との相関値であるサンプル相関値を算出するものであり、前記第2算出部は、前記サンプル相関値を用いて前記測定対象成分の濃度を算出するものであることが望ましい。なお、本発明において、相関値を算出することには、強度関連信号と特徴信号との相関を取ることの他に、強度関連信号と特徴信号との内積を取ることを含む。
このような構成であれば、サンプル光の強度に関連する強度関連信号と特徴信号とのサンプル相関値を算出し、算出されたサンプル相関値を用いて測定対象成分の濃度を算出するので、吸収信号を吸収スペクトルへ変換することなく、吸収信号の特徴を劇的に少ない変数で捉えることができ、複雑なスペクトル演算処理をすることなく、測定対象成分の濃度を簡単な演算で測定できる。例えば一般的なスペクトルフィッティングで用いるデータ点数は数百点必要だが、本発明ではせいぜい数個から数十個程度の相関値を使えば同等の精度で濃度の算出が可能となる。その結果、演算処理の負荷を劇的に小さくすることができ、高度な演算処理装置が不要となり、分析装置のコストを削減することができるとともに、小型化が可能となる。
【0013】
本発明の試料分析装置は、前記ガスに含まれる複数の測定対象成分を分析するものであって、前記レーザ光源が、複数設けられており、前記複数のレーザ光源は、それぞれ異なる測定対象成分に対応した発振波長のレーザ光を射出するものであることが望ましい。
【0014】
前記複数の測定対象成分はCO、CO、SO、HO、NOの少なくとも1つであることが望ましい。
【0015】
NDIR分析計を用いる場合には、ガス中に含まれる水(HO)が干渉成分となり、CO濃度、CO濃度、SO濃度に測定誤差が生じてしまう。このため、NDIR分析計の上流側にガスに含まれる水分を除去するための脱水剤が設けられている。
本発明の試料分析装置ではNDIR分析計を用いる必要がないので、ガス分析部の上流側に脱水剤を設ける構成にしなくても良い。このため、本発明の試料分析装置は、前記加熱炉及び前記ガス分析部を接続して、前記加熱炉からのガスを脱水剤により脱水すること無く前記ガス分析部に導入するガス流路をさらに備えることが望ましい。
この構成であれば、脱水剤を不要にすることができ、定期的に脱水剤を交換するというメンテナンスを不要にすることができる。また、脱水剤を不要にできるので、装置構成を簡略化することができる。
【0016】
さらに、本発明の試料分析装置は、前記ガス分析部とは別に非分散型赤外吸収法を用いた分析計(NDIR分析計)をさらに備えることが望ましい。このように上述したガス分析部とNDIR分析計とを併用することにより、測定レンジを広げることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上に述べた本発明によれば、試料分析装置においてメンテナンスの頻度を減らしつつ、確実に測定対象成分を分析できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る試料分析装置の全体模式図である。
図2】同実施形態のガス分析部の全体模式図である。
図3】同実施形態における信号処理装置の機能ブロック図である。
図4】同実施形態におけるレーザ発振波長の変調方法を示す模式図である。
図5】同実施形態における発振波長、光強度I(t)、対数強度L(t)、特徴信号F(t)、相関値Sの一例を示す時系列グラフである。
図6】同実施形態の単独相関値及びサンプル相関値を用いた濃度算出の概念図を示す図である。
図7】高濃度領域と低濃度領域とにおける従来の金属分析装置と本発明の金属分析装置とで検出されたピーク波形を示す図である。
図8】SO濃度が0.48ppmである場合における従来の金属分析装置と本発明の試料分析装置とで検出されたピーク波形を示す図である。
図9】従来の金属分析装置と本発明の試料分析装置との線形性について検討した結果を示す図である。
図10】従来の金属分析装置と本発明の試料分析装置とにおいて除湿器を設けた場合と設けない場合とにおけるSO濃度の測定結果を示す図である。
図11】第2実施形態における信号処理装置の機能ブロック図である。
図12】第2実施形態における変調信号、光検出器の出力信号、測定結果の一例を示す時系列グラフである。
図13】疑似連続発振における駆動電流(電圧)及び変調信号を示す図である。
図14】疑似連続発振による測定原理を示す模式図である。
図15】変形実施形態に係るガス分析部の全体模式図である。
図16】変形実施形態における信号処理装置の機能ブロック図である。
図17】変形実施形態における複数の半導体レーザのパルス発振タイミング及び光強度信号の一例を示す模式図である。
図18】変形実施形態に係る試料分析装置の全体模式図である。
【符号の説明】
【0019】
100・・・試料分析装置
W ・・・試料
R ・・・容器(試料保持体)
2 ・・・加熱炉
3 ・・・ガス分析部
6 ・・・ガス流路
11 ・・・セル
12 ・・・レーザ光源(半導体レーザ)
13 ・・・光検出器
162・・・相関値算出部(第1算出部)
164・・・濃度算出部(第2算出部)
167・・・同期検波信号生成部(第1算出部)
168・・・濃度算出部(第2算出部)
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る試料分析装置100について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
本実施形態の試料分析装置100は、鉄鋼、非鉄金属、セラミックス又はコークス、有機物、鉱物、重油等の試料中の炭素や硫黄を分析するものである。なお、以下では試料分析装置の一例として、固体試料W中の炭素や硫黄を分析する金属分析装置について説明する。
【0022】
具体的に試料分析装置100は、固体試料Wを酸素気流中で燃焼させて、当該燃焼により生じるガスに含まれる測定対象成分を赤外吸収法を用いて分析するものであり、図1に示すように、固体試料Wを収容して保持する容器Rを加熱して固体試料Wを燃焼させる加熱炉2と、固体試料Wの燃焼により生じたガスに含まれる測定対象成分を分析するガス分析部3とを備えている。なお、試料保持体である本実施形態の容器Rは、セラミックス等の磁性材料からなるるつぼと称されるものである。
【0023】
加熱炉2は、固体試料Wを収容した容器Rが配置される加熱空間2Sを有しており、当該加熱空間2Sには、キャリアガスとして酸素ガス(O)が供給される。このため、加熱炉2には、キャリアガス供給路4が接続されている。また、キャリアガス供給路4には、ガスボンベ41からのキャリアガス(酸素ガス)を精製するためのキャリアガス精製器42が設けられている。なお、ガスボンベ41のキャリアガスが清浄なガスであれば、キャリアガス精製器42は無くても良い。さらに、キャリアガス供給路4には、必要に応じて、開閉弁43、調圧弁44、例えばキャピラリー等の流量調整器45を設けても良い。
【0024】
また、加熱炉2は、高周波誘導加熱炉式のものであり、加熱空間2Sに配置された容器R内の固体試料Wを高周波誘導加熱するための加熱機構5が設けられている。この加熱機構5は、コイル51と、当該コイル51に高周波交流電圧を印加する図示しない電源とを有している。コイル51は、加熱炉2における側周壁に沿って巻回して設けられている。また、コイル51は、加熱空間2Sに配置された容器Rを取り囲む高さ位置に設けられている。
【0025】
そして、コイル51に高周波交流電圧が印加されると、磁性材料からなる容器Rに収容された固体試料Wの表面近傍に誘導電流が流れて、固体試料Wがジュール発熱する。そして、発熱に伴い酸素による燃焼反応が生じて固体試料Wが燃焼してガス(以下、試料ガスともいう。)を発生する。なお、容器R内に固体試料Wとともに助燃材を収容して、助燃材に誘導電流を流し、当該助燃材により固体試料Wを加熱してもよい。
【0026】
加熱炉2により生じた試料ガスは、ガス流路6を通じて、ガス分析部3に導入される。ガス流路6は、一端が加熱炉2に接続されており、流路上流側からダストフィルタ61及びガス分析部3が設けられている。なお、ガス流路6の他端は大気に開放されている。本実施形態では、ダストフィルタ61及びガス分析部3の間に調圧弁62及び例えばキャピラリー等の流量調整器63を設けているが、これらは必須の構成ではない。また、ガス分析部3の下流側に例えばキャピラリー等の流量調整器64及び流量計65を設けているが、これらも必須の構成ではない。さらに、本実施形態のガス流路6は、除湿器が設けられていないので、試料ガスに含まれる水分が結露しないようにするために、少なくともガス分析部3までは、加熱機構6Hによって例えば100℃以上に加熱されている。この加熱機構6Hにより少なくともダストフィルタ61も100℃以上に加熱されている。
【0027】
ガス分析部3は、試料ガスに含まれる測定対象成分(ここでは、例えばCO、CO又はSO等)の濃度を測定する濃度測定装置であり、図2に示すように、試料ガスが導入されるセル11と、セル11に変調するレーザ光を照射するレーザ光源たる半導体レーザ12と、セル11を透過したレーザ光であるサンプル光の光路上に設けられてサンプル光を受光する光検出器13と、光検出器13の出力信号を受信し、その値に基づいて測定対象成分の濃度を算出する信号処理装置14とを備えている。
【0028】
各部を説明する。
セル11は、測定対象成分の吸収波長帯域において光の吸収がほとんどない石英、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の透明材質で光の入射口及び出射口が形成されたものである。このセル11には、図示しないが、試料ガスを内部に導入するためのインレットポートと、内部の試料ガスを排出するためのアウトレットポートとが設けられており、試料ガスは、このインレットポートからセル11内に導入されて封入される。
【0029】
半導体レーザ12は、ここでは半導体レーザ12の一種である量子カスケードレーザ(QCL:Quantum Cascade Laser)であり、中赤外(4~12μm)のレーザ光を発振する。この半導体レーザ12は、与えられた電流(又は電圧)によって、発振波長を変調(変える)ことが可能なものである。なお、発振波長が可変でさえあれば、他のタイプのレーザを用いても良く、発振波長を変化させるために、温度を変化させる等しても構わない。
【0030】
光検出器13は、ここでは、比較的安価なサーモパイル等の熱型のものを用いているが、その他のタイプのもの、例えば、応答性がよいHgCdTe、InGaAs、InAsSb、PbSe等の量子型光電素子を用いても構わない。
【0031】
信号処理装置14は、バッファ、増幅器等からなるアナログ電気回路と、CPU、メモリ等からなるデジタル電気回路と、それらアナログ/デジタル電気回路間を仲立ちするADコンバータ、DAコンバータ等とを具備したものであり、前記メモリの所定領域に格納した所定のプログラムに従ってCPUやその周辺機器が協働することによって、図3に示すように、半導体レーザ12の出力を制御する光源制御部15や、光検出器13からの出力信号を受信し、その値を演算処理して測定対象成分の濃度を算出する信号処理部16としての機能を発揮する。
【0032】
以下に各部を詳述する。
光源制御部15は、電流(又は電圧)制御信号を出力することによって半導体レーザ12の電流源(又は電圧源)を制御するものである。具体的に光源制御部15は、半導体レーザ12の駆動電流(又は駆動電圧)を所定周波数で変化させ、半導体レーザ12から出力されるレーザ光の発振波長を中心波長に対して所定周波数で変調させる。これによって、半導体レーザ12は、所定の変調周波数で変調された変調光を射出することになる。
【0033】
この実施形態においては、光源制御部15は駆動電流を三角波状に変化させ、発振周波数を三角波状に変調する(図5の「発振波長」参照)。実際には、発振周波数が三角波状になるように、駆動電流の変調を別の関数で行う。また、レーザ光の発振波長は、図4に示すように、測定対象成分の光吸収スペクトルのピークを中心波長として変調されるようにしてある。その他、光源制御部15は、駆動電流を正弦波状や鋸波状、または任意の関数状に変化させ、発振周波数を正弦波状や鋸波状、または任意の関数状に変調してもよい。
【0034】
信号処理部16は、対数演算部161、相関値算出部(第1算出部)162、格納部163、濃度算出部(第2算出部)164等からなる。
【0035】
対数演算部161は、光検出器13の出力信号である光強度信号に対数演算を施すものである。光検出器13により得られる光強度信号の継時変化を示す関数I(t)は、図5の「光強度I(t)」のようになり、対数演算を施すことにより、図5の「対数強度L(t)」のようになる。
【0036】
相関値算出部162は、サンプル光の強度に関連する強度関連信号と複数の所定の特徴信号とのそれぞれの相関値を算出するものである。特徴信号とは、強度関連信号と相関を取ることで、強度関連信号の波形特徴を抽出するための信号である。特徴信号としては、例えば正弦波信号や、それ以外の強度関連信号から抽出したい波形特徴に合わせた様々な信号を用いることができる。
【0037】
以下では、特徴信号に正弦波信号以外のものを用いた場合の例を説明する。相関値算出部162は、サンプル光の強度に関連する強度関連信号と、当該強度関連信号に対して正弦波信号(正弦関数)とは異なる相関が得られる複数の特徴信号とのそれぞれの相関値を算出する。ここでは、相関値算出部162は、対数演算された光強度信号(対数強度L(t))を強度関連信号として用いる。
【0038】
また、相関値算出部162は、測定対象成分の種類数及び干渉成分の種類数を合わせた数以上の数の特徴信号F(t)(i=1,2,・・・,n)を用いて、下式(数1)により、サンプル光の強度関連信号と複数の特徴信号とのそれぞれの相関値である複数のサンプル相関値Sを算出するものである。なお、数1におけるTは、変調の周期である。
【0039】
【数1】
相関値算出部162は、サンプル相関値を算出する時、数1のように、サンプル光の強度関連信号L(t)と複数の特徴信号F(t)との相関値Sからリファレンス光の強度関連信号L(t)と複数の特徴信号F(t)との相関値であるリファレンス相関値Rを差し引く補正をしたサンプル相関値S’を算出することが望ましい。これにより、サンプル相関値に含まれるオフセットを除去し、測定対象成分及び干渉成分の濃度に比例した相関値となり、測定誤差を低減できる。なお、リファレンス相関値を差し引かない構成であっても良い。
【0040】
ここで、リファレンス光の取得タイミングは、サンプル光と同時、測定の前後又は任意のタイミングである。リファレンス光の強度関連信号又はリファレンス相関値は、予め取得して格納部163に記憶させておいても良い。また、リファレンス光を同時に取得する方法は、例えば、光検出器13を2つ設けて、半導体レーザ12からの変調光をビームスプリッタなどにより分岐させて、一方をサンプル光測定用とし、他方をリファレンス光測定用とすることが考えられる。
【0041】
本実施形態では、相関値算出部162は、複数の特徴信号F(t)として、正弦関数よりも対数強度L(t)の波形特徴を捉えやすい関数を用いている。測定対象成分(例えばSO)及び1つの干渉成分(例えばHO)を含む試料ガスの場合には、2つ以上の特徴信号F(t)、F(t)を用いることが考えられ、2つの特徴信号F(t)、F(t)としては、例えば、吸収スペクトルの形に近いローレンツ関数に基づいた関数と、当該ローレンツ関数に基づいた関数の微分関数とを用いることが考えられる。また、特徴信号としては、ローレンツ関数に基づいた関数の代わりに、フォークト関数に基づいた関数、又はガウス関数に基づいた関数等を用いることもできる。このような関数を特徴信号に用いることで、正弦関数を用いた時よりもより大きな相関値を得ることができ、測定精度を向上させることができる。
【0042】
ここで、特徴信号は、直流成分を除去、すなわち変調周期で積分した時にゼロになるようにオフセットを調整することが望ましい。こうすることで、光強度の変動による強度関連信号にオフセットが乗った時の影響を除去することができる。なお、特徴信号の直流成分を除去する代わりに、強度関連信号の直流成分を除去してもよいし、特徴信号と強度関連信号の両方とも直流成分を除去してもよい。その他、特徴信号として、測定対象成分及び/又は干渉成分の吸収信号の実測値、またはそれらを模したものをそれぞれ用いてもよい。
【0043】
なお、2つの特徴信号F(t)、F(t)を互いに直交する直交関数列又は直交関数列に近い関数列とすることにより、対数強度L(t)の特徴をより効率的に抽出することができ、後述する連立方程式により得られる濃度を精度良くすることができる。
【0044】
格納部163は、測定対象成分及び各干渉成分が単独で存在する場合のそれぞれの強度関連信号と複数の特徴信号F(t)とから求められた測定対象成分及び各干渉成分それぞれの単位濃度当たりの相関値である単独相関値を格納するものである。この単独相関値を求めるのに用いる複数の特徴信号F(t)は、相関値算出部162で用いる複数の特徴信号F(t)と同一である。
【0045】
ここで、格納部163は、単独相関値を格納する時、測定対象成分及び各干渉成分が単独で存在する場合の相関値からリファレンス相関値を差し引いた上で、単位濃度当たりに換算する補正をした単独相関値を格納することが望ましい。これにより、単独相関値に含まれるオフセットを除去し、測定対象成分及び干渉成分の濃度に比例した相関値となり、測定誤差を低減できる。なお、リファレンス相関値を差し引かない構成であっても良い。
【0046】
濃度算出部164は、相関値算出部162により得られた複数のサンプル相関値を用いて測定対象成分の濃度を算出するものである。
【0047】
具体的に濃度算出部164は、相関値算出部162により得られた複数のサンプル相関値と、格納部163に格納された複数の単独相関値とに基づいて、測定対象成分の濃度を算出するものである。より詳細には、濃度算出部164は、相関値算出部162により得られた複数のサンプル相関値と、格納部163に格納された複数の単独相関値と、測定対象成分及び各干渉成分それぞれの濃度とからなる連立方程式を解くことにより、測定対象成分の濃度を算出するものである。
【0048】
次に、前記各部の詳細説明を兼ねて、この分析装置100の動作の一例を説明する。以下では、試料ガス中に1つの測定対象成分(例えばSO)と1つの干渉成分(例えばHO)とが含まれる場合を想定している。
【0049】
<リファレンス測定>
まず、光源制御部15が、半導体レーザ12を制御し、変調周波数で且つ測定対象成分の吸収スペクトルのピークを中心に、レーザ光の波長を変調する。なお、スパンガスを用いたリファレンス測定の前に、ゼロガスを用いたリファレンス測定を行い、リファレンス相関値の測定を行ってもよい。
【0050】
次に、オペレータにより又は自動的に、セル11内にスパンガス(成分濃度既知のガス)が導入されて、リファレンス測定が行われる。このリファレンス測定は、測定対象成分が単独で存在するスパンガスと、干渉成分が単独で存在するスパンガスとのそれぞれにおいて行われる。
【0051】
具体的には、リファレンス測定において、対数演算部161が光検出器13の出力信号を受信して対数強度L(t)を算出する。そして、相関値算出部162は、その対数強度L(t)と2つの特徴信号F(t)、F(t)との相関値を算出し、その相関値からリファレンス相関値を差し引いたものをスパンガスの濃度で割ることにより、単位濃度当たりの各スパンガスの相関値である単独相関値を算出する。なお、単独相関値を算出する代わりに、スパンガス濃度と当該スパンガスの相関値との関係を記憶させておいても良い。
【0052】
具体的には以下の通りである。
測定対象成分が単独で存在するスパンガスをセル1内に導入することにより、相関値算出部162により測定対象成分の相関値S1t、S2tを算出する(図6参照)。ここで、S1tは、第1の特徴信号との相関値であり、S2tは、第2の特徴信号との相関値である。そして、相関値算出部162は、それら相関値S1t、S2tからリファレンス相関値Rを差し引いたものを測定対象成分のスパンガス濃度cで割ることにより、単独相関値s1t、s2tを算出する。なお、測定対象成分のスパンガス濃度cは、予めユーザ等により信号処理部16に入力される。
【0053】
また、干渉成分が単独で存在するスパンガスをセル1内に導入することにより、相関値算出部162により干渉成分の相関値S1i、S2iを算出する(図6参照)。ここで、S1iは、第1の特徴信号との相関値であり、S2iは、第2の特徴信号との相関値である。そして、相関値算出部162は、それら相関値S1i、S2iからリファレンス相関値を差し引いたものを干渉成分の スパンガス濃度cで割ることにより、単独相関値s1i、s2iを算出する。なお、干渉成分のスパンガス濃度cは、予めユーザ等により信号処理部16に入力される。
【0054】
上記により算出された単独相関値s1t、s2t、s1i、s2iは、格納部163に格納される。なお、このリファレンス測定は、製品出荷前に行うようにしても良いし、定期的に行うようにしてもよい。
【0055】
<サンプル測定>
光源制御部15が、半導体レーザ12を制御し、変調周波数で且つ測定対象成分の吸収スペクトルのピークを中心に、レーザ光の波長を変調する。
【0056】
次に、オペレータにより又は自動的に、セル11内に加熱炉2で発生した試料ガスがガス流路6を介して導入されて、サンプル測定が行われる。
【0057】
具体的には、サンプル測定において、対数演算部161が光検出器13の出力信号を受信して対数強度L(t)を算出する。そして、相関値算出部162は、その対数強度L(t)と複数の特徴信号F(t)、F(t)とのサンプル相関値S、Sを算出し、その相関値からリファレンス相関値Rを差し引いたサンプル相関値S’、S’を算出する(図6参照)。
【0058】
そして、濃度算出部164は、相関値算出部162が算出したサンプル相関値S’、S’と、格納部163の単独相関値s1t、s2t、s1i、s2iと、測定対象成分及び各干渉成分それぞれの濃度Ctar、Cintとからなる以下の二元連立方程式を解く。
【0059】
【数2】
【0060】
これにより、上式(数2)の連立方程式を解くという簡単かつ確実な演算により、干渉影響が取り除かれた測定対象成分の濃度Ctarを決定することができる。
【0061】
なお、干渉成分が2以上存在すると想定し得る場合でも、干渉成分の数だけ、単独相関値を追加して、成分種の数と同じ元数の連立方程式を解くことで、同様に干渉影響が取り除かれた測定対象成分の濃度を決定することができる。
【0062】
すなわち、一般に測定対象成分と干渉成分を合わせてn種のガスが存在する場合、m番目の特徴信号におけるk番目のガス種の単独相関値をsmk、k番目のガス種の濃度をC、m番目の特徴信号F(t)におけるサンプル相関値をS’とすると、以下の式(数3)が成り立つ。
【0063】
【数3】
【0064】
この式(数3)で表されるn元連立方程式を解くことで、測定対象成分及び干渉成分の各ガスの濃度を決定することができる。
【0065】
次に、本実施形態のガス分析部3を用いた試料分析装置100(以下、「本実施例」とも記す。)と、従来のNDIR分析計を用いた金属分析装置(以下、「NDIR」とも記す。)とのSO濃度の分析精度の違いについて説明する。なお、従来のNDIR分析計を用いた金属分析装置では、NDIR分析計の上流側に除湿器を設けている。
【0066】
図7には、高濃度領域(2.4~20.10ppm)と低濃度領域(0.48~2.4ppm)とにおけるNDIRと本実施例とで検出されたピーク波形を示す。この図7から分かるように、低濃度領域において、本実施例で検出されたピーク波形の方が、NDIRで検出されたピーク波形よりも滑らかである。
【0067】
また、図8には、SO濃度が0.48ppmである場合におけるNDIRと本実施例とで検出されたピーク波形を示す。この図8から分かるように、NDIRでは、SN比が1.3であるのに対して、本実施例では、SN比が35.9となっている。このように、本実施例を用いることによって、NDIRに比べて、SN比が約27倍となっている。
【0068】
次に、NDIRと本実施例との線形性について検討した結果を図9に示す。なお、図9に示すグラフは、縦軸が測定された濃度であり、横軸が理論的な濃度である。この図9から分かるように、NDIRでは、1ppm以下の濃度では検出が難しく、また、NDIRの検出濃度はばらつきが大きい。一方、本実施例では、1ppm以下の濃度であっても、それ以上の濃度と同様にばらつき無く検出されている。
【0069】
さらに、NDIRと本実施例とにおいて除湿器を設けた場合と設けない場合とにおけるSO濃度の測定結果を図10に示す。NDIRでは、除湿器を設けた場合と設けない場合との測定結果の比(「除湿器を設けない場合のSO濃度」/「除湿器を設けた場合のSO濃度」)が121.4%であったのに対して、本実施例では、それらの比が100.9%であった。これにより、本実施例では、除湿器を設けること無く、水による干渉影響が除去されていることが分かった。
【0070】
<第1実施形態の効果>
このように構成した本実施形態の試料分析装置100によれば、ガス分析部3が、ガスにレーザ光を照射するレーザ光源12と、レーザ光がガスを透過したサンプル光の強度を検出する光検出器13とを備えているので、測定対象成分に合わせた発振波長のレーザ光を照射することで、光検出器13の前に波長選択フィルタを設ける必要がなく、波長選択フィルタによる光量低下を防ぎ、SN比を大きくすることができる。その結果、測定対象成分を確実に分析することができる。また、レーザ光源12を用いているので、メンテナンス頻度を低減することができる。このように本実施形態によれば、試料分析装置100においてメンテナンスの頻度を減らしつつ、確実に測定対象成分を分析できることができる。
また、本実施形態によれば、所定の変調周波数で変調された変調光を射出して得られた強度関連信号を用いるWMSにおいて、サンプル光の強度に関連する強度関連信号から測定対象成分の濃度に依存する代表値を算出して、当該代表値を用いて測定対象成分の濃度を算出するので、従来のWMSで必要であった濃度定量のためのスペクトル演算処理を不要にしつつ、固体試料Wに含まれる測定対象成分を確実に分析することができる。具体的に本実施形態では、サンプル光の強度に関連する強度関連信号である対数強度L(t)と、当該対数強度L(t)に対して複数の特徴信号F(t)とのそれぞれの相関値Sを算出し、算出された複数の相関値Sを用いて測定対象成分の濃度を算出するので、吸収信号を吸収スペクトルへ変換することなく、吸収信号の特徴を劇的に少ない変数で捉えることができ、複雑なスペクトル演算処理をすることなく、測定対象成分の濃度を簡単な演算で測定できる。例えば一般的なスペクトルフィッティングで用いるデータ点数は数百点必要だが、本発明ではせいぜい数個から数十個程度の相関値を使えば同等の精度で濃度の算出が可能となる。その結果、演算処理の負荷を劇的に小さくすることができ、高度な演算処理装置が不要となり、試料分析装置100のコストを削減することができるとともに、小型化が可能となる。
【0071】
また、本実施形態の試料分析装置100であれば、紫外蛍光法を用いていないので、紫外線光源を用いる必要がなく、紫外線光源を頻繁に交換するというメンテナンスを不要にすることができる。
【0072】
さらに、本実施形態の試料分析装置100であれば、NDIR分析計を用いること無く測定対象成分を分析することができるので、脱水剤を不要にすることができ、定期的に脱水剤を交換するというメンテナンスを不要にすることができる。また、脱水剤を不要にできるので、装置構成を簡略化することができる。つまり、本実施形態のガス流路6を、脱水剤を設けない構成にすることができる。
【0073】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態に係る試料分析装置100について、図面を参照しながら説明する。
【0074】
第2実施形態の試料分析装置100は、前記第1実施形態とは、信号処理装置14の構成が異なる。なお、その他の構成は、前記第1実施形態と同じであり、以下では説明を省略する。
【0075】
信号処理装置14は、バッファ、増幅器などからなるアナログ電気回路と、CPU、メモリなどからなるデジタル電気回路と、それらアナログ/デジタル電気回路間を仲立ちするADコンバータ、DAコンバータなどとを具備したものであり、前記メモリの所定領域に格納した所定のプログラムに従ってCPUやその周辺機器が協働することによって、図11に示すように、半導体レーザ12の出力を制御する光源制御部15や、光検出器13からの出力信号を受信し、その値を演算処理して測定対象成分の濃度を算出する信号処理部16としての機能を発揮する。
【0076】
以下に各部を詳述する。
光源制御部15は、電流(又は電圧)制御信号を出力することによって半導体レーザ12の電流源(又は電圧源)を制御するものであり、このことによって、その駆動電流(又は駆動電圧)を所定周波数で変化させ、ひいては、半導体レーザ12から出力されるレーザ光の発振波長を前記所定周波数で変調させる。
【0077】
この実施形態においては、光源制御部15は駆動電流を正弦波状に変化させ、発振周波数を正弦波状に変調する(図12の変調信号参照)。また、レーザ光の発振波長は、図4に示すように、測定対象成分の光吸収スペクトルのピークを中心にして変調されるようにしてある。
【0078】
信号処理部16は、吸光度信号算出部166、同期検波信号生成部(第1算出部)167、濃度算出部(第2算出部)168等からなる。
【0079】
吸光度信号算出部166は、サンプルガスが封入され、その中の測定対象成分による光吸収が生じる状態でのセル11を透過したレーザ光(以下、透過光ともいう。)の光強度と、光吸収が実質的にゼロ状態でのセル11を透過したレーザ光(以下、リファレンス光ともいう。)の光強度との比の対数(以下、強度比対数ともいう。)を算出するものである。
【0080】
より詳細に説明すると、透過光の光強度及びリファレンス光の光強度のいずれも光検出器13により測定され、その測定結果データはメモリの所定領域に格納されるところ、吸光度信号算出部166は、この測定結果データを参照して強度比対数(以下、吸光度信号ともいう。)を算出する。
【0081】
しかして、前者の測定(以下、サンプル測定ともいう。)は、当然のことながら、サンプルガスごとに都度行われる。後者の測定(以下、リファレンス測定ともいう。)は、サンプル測定の前後にいずれかに都度行ってもよいし、適宜のタイミングで、例えば1回だけ行い、その結果をメモリに記憶させて各サンプル測定に共通に用いてもよい。
【0082】
なお、この実施形態においては、光吸収が実質的にゼロとなる状態とするために、測定対象成分の光吸収がみられる波長帯域において、光吸収が実質的にゼロとなるゼロガス、例えばNガスをセル11に封入しているが、その他のガスでもよいし、セル11内を真空にしても構わない。
【0083】
同期検波信号生成部167は、吸光度信号算出部66が算出した吸光度信号を、変調周波数のn倍(nは1以上の整数)の周波数を有する正弦波信号(リファレンス信号)でロックイン検波して、当該吸光度信号からリファレンス信号の有する周波数成分を抽出して、同期検波信号を生成するものである。なお、ロックイン検波は、デジタル演算で行ってもよいし、アナログ回路による演算で行ってもよい。また、周波数成分の抽出は、ロックイン検波のみならず、例えばフーリエ級数展開といった方式を用いても構わない。
【0084】
濃度算出部168は、同期検波信号生成部167による同期検波結果に基づいて、測定対象成分の濃度を算出するものである。
【0085】
次に、上記各部の詳細説明を兼ねて、この分析装置100の動作の一例を説明する。
【0086】
まず、光源制御部15が、前述したように、半導体レーザ12を制御し、前記変調周波数で、かつ測定対象成分の吸収スペクトルのピークを中心に、レーザ光の波長を変調する。
【0087】
次に、オペレータにより又は自動的に、セル11内にゼロガスが封入されると、これを検知した吸光度信号算出部166は、リファレンス測定を行う。
【0088】
具体的には、ゼロガスがセル11に封入された状態での光検出器13からの出力信号を受信し、その値を測定結果データ格納部に格納する。このリファレンス測定における光検出器13の出力信号の値、すなわちリファレンス光強度を時系列グラフで表すと、図12(a)のようになる。すなわち、レーザの駆動電流(電圧)の変調による光出力の変化のみが光検出器13の出力信号に表れている。
【0089】
そこで、オペレータにより又は自動的にセル11内にサンプルガスが封入されると、吸光度信号算出部166は、サンプル測定を行う。具体的には、サンプルガスがセル11に封入された状態での光検出器13からの出力信号を受信し、その値をメモリの所定領域に格納する。このサンプル測定における光検出器13の出力信号の値、すなわち透過光強度を時系列グラフで表すと、図12(b)のようになる。変調の半周期ごとに吸収によるピークが現れることがわかる。
【0090】
次に、吸光度信号算出部166は、各測定データを変調周期に同期させ、透過光の光強度と、リファレンス光の光強度との強度比対数(吸光度信号)を算出する。具体的には、以下の式(数4)と均等な演算を行う。
【0091】
【数4】
ここで、D(t)は透過光強度、D(t)はリファレンス光強度、A(t)は強度比対数(吸光度信号)である。この吸光度信号を時間を横軸にとってグラフに表すと図12(c)のようになる。
【0092】
このとき、透過光強度とリファレンス光強度との比を算出してからその対数を求めてもよいし、透過光強度の対数及びリファレンス光強度の対数をそれぞれ求め、それらを差し引いても構わない。
【0093】
次に、同期検波信号生成部167が、吸光度信号を変調周波数の2倍の周波数を有するリファレンス信号でロックイン検波、すなわち、変調周波数の2倍の周波数成分を抽出し、その同期検波信号(以下、ロックインデータともいう。)を、メモリの所定領域に格納する。
【0094】
このロックインデータの値が、測定対象成分の濃度に比例した値となり、濃度算出部168が、このロックインデータの値に基づいて、測定対象成分の濃度を示す濃度指示値を算出する。
【0095】
しかして、このような構成によれば、何らかの要因でレーザ光強度が変動したとしても前述した強度比対数には、一定のオフセットが加わるだけで、波形は変化しない。したがって、これをロックイン検波して算出された各周波数成分の値は変化せず、濃度指示値は変化しないため、精度のよい測定が期待できる。
【0096】
その理由を詳細に説明すると以下のとおりである。
一般的に、吸光度信号A(t)をフーリエ級数展開すると、次式(数5)で表される。
なお、式(数5)におけるaが測定対象成分の濃度に比例する値であり、この値aに基づいて濃度算出部168が測定対象成分の濃度を示す濃度指示値を算出する。
【0097】
【数5】
ここで、fは変調周波数であり、nは変調周波数に対する倍数である。
【0098】
一方、A(t)は、前記式(数1)とも表される。
【0099】
次に、測定中に何らかの要因でレーザ光強度がα倍変動した場合の、吸光度信号A’(t)は、以下の式(数6)のように表される。
【0100】
【数6】
【0101】
この式(数6)から明らかなように、A’(t)は、レーザ光強度の変動のない場合の吸光度信号A(t)に一定値である-ln(α)が加わるだけとなり、レーザ光強度が変化しても各周波数成分の値aは変化しないことがわかる。
【0102】
よって、変調周波数の2倍の周波数成分の値に基づいて決定している濃度指示値には影響はでない。
以上が、サンプルガスに測定対象成分以外の干渉成分が含まれていない場合の試料分析装置100の動作例である。
【0103】
次に、測定対象成分のピーク光吸収波長に光吸収を有する1又は複数の干渉成分(例えばHO)がサンプルガスに含まれている場合の試料分析装置100の動作例について説明する。
【0104】
まず、原理を説明する。
測定対象成分と干渉成分の光吸収スペクトルは形状が違うため、それぞれの成分が単独で存在する場合の吸光度信号は波形が異なり、各周波数成分の割合が異なる(線形独立)。このことを利用し、測定された吸光度信号の各周波数成分の値と、あらかじめ求めた測定対象成分と干渉成分の吸光度信号の各周波数成分との関係を用いて、連立方程式を解くことにより、干渉影響が補正された測定対象成分の濃度を得ることができる。
【0105】
測定対象成分、干渉成分のそれぞれが単独で存在する場合の単位濃度当たりの吸光度信号をそれぞれA(t)、A(t)とし、それぞれの吸光度信号の各周波数成分をanm、aniとすると、以下の式(数7、数8)が成り立つ。
【0106】
【数7】
【0107】
【数8】
【0108】
測定対象成分、干渉成分の濃度がそれぞれC、Cで存在する場合の吸光度信号値A(t)は、各吸光度の線形性により、以下の式(数9)で表される。
【0109】
【数9】
【0110】
ここで、A(t)のfと2fの周波数成分をそれぞれa、aとすれば、上式(数9)より、以下の連立方程式(数10)が成り立つ。
【0111】
【数10】
【0112】
測定対象成分、干渉成分のそれぞれが単独で存在する場合の各周波数成分anm、ani(nは自然数、ここではn=1,2)は、あらかじめ、各スパンガスを流して求めておくことができるので、上式(数10)の連立方程式を解くという簡単かつ確実な演算により、干渉影響が取り除かれた測定対象ガスの濃度Cを決定することができる。
【0113】
上述した原理に基づいて分析装置100は動作する。
すなわち、この場合の分析装置100は、メモリの所定領域に、例えば事前にスパンガスを流して予め測定するなどして、測定対象成分及び干渉成分が単独で存在する場合のそれぞれの吸光度信号の周波数成分a1m、a2m、a1i、a2iを記憶している。具体的には、前例同様、測定対象成分及び干渉成分それぞれにおいて、測定対象光強度とリファレンス光強度とを測定して、それらの強度比対数(吸光度信号)を算出し、この強度比対数からロックイン検波するなどして周波数成分a1m、a2m、a1i、a2iを求め、これらを記憶する。なお、前記周波数成分ではなく、単位濃度当たりの吸光度信号A(t)、A(t)を記憶して、前記式(数7、数8)から周波数成分a1m、a2m、a1i、a2iを算出するようにしてもよい。
【0114】
そして、該分析装置100は、オペレータからの入力などによって、測定対象成分及び干渉成分を特定する。
【0115】
次に、吸光度信号算出部166が、式(数4)に従って強度比対数A(t)を算出する。
その後、同期検波信号生成部167が、強度比対数を変調周波数f及びその2倍の周波数2fを有するリファレンス信号でロックイン検波して、各周波数成分a、a(ロックインデータ)を抽出し、メモリの所定領域に格納する。
【0116】
そして、濃度算出部168が、ロックインデータの値a、a及びメモリに記憶された周波数成分a1m、a2m、a1i、a2iの値を前記式(数10)に当てはめ、あるいはこれと均等な演算を行って、干渉影響が取り除かれた測定対象ガスの濃度を示す濃度(又は濃度指示値)Cを算出する。このとき、各干渉成分の濃度(又は濃度指示値)Cを算出してもよい。
【0117】
なお、干渉成分が2以上存在すると想定し得る場合でも、干渉成分の数だけ、より高次の周波数成分を追加して、成分種の数と同じ元数の連立方程式を解くことで、同様に干渉影響が取り除かれた測定対象成分の濃度を決定することができる。
【0118】
すなわち、一般に測定対象成分と干渉成分を合わせてn種のガスが存在する場合、k番目のガス種のi×fの周波数成分を、aik、k番目のガス種の濃度をCとすると、以下の式(数11)が成り立つ。
【0119】
【数11】
【0120】
この式(数11)で表されるn元連立方程式を解くことで、測定対象成分及び干渉成分の各ガスの濃度を決定することができる。
【0121】
またnより大きい次数の高調波成分も追加して、ガス種の数より大きい元数の連立方程式を作り、最小二乗法で、各ガス濃度を決定してもよく、こうすることで、より測定ノイズに対しても誤差の小さい濃度決定が可能となる。
【0122】
<第2実施形態の効果>
本実施形態の試料分析装置100によれば、ガス分析部3が、ガスにレーザ光を照射するレーザ光源12と、レーザ光がガスを透過したサンプル光の強度を検出する光検出器13とを備えているので、測定対象成分に合わせた発振波長のレーザ光を照射することで、光検出器13の前に波長選択フィルタを設ける必要がなく、波長選択フィルタによる光量低下を防ぎ、SN比を大きくすることができる。その結果、測定対象成分を確実に分析することができる。また、レーザ光源12を用いているので、メンテナンス頻度を低減することができる。このように本実施形態によれば、試料分析装置100においてメンテナンスの頻度を減らしつつ、確実に測定対象成分を分析できることができる。
また、本実施形態によれば、所定の変調周波数で変調された変調光を射出して得られた強度関連信号を用いるWMSにおいて、サンプル光の強度に関連する強度関連信号から測定対象成分の濃度に依存する代表値を算出して、当該代表値を用いて測定対象成分の濃度を算出するので、従来のWMSで必要であった濃度定量のためのスペクトル演算処理を不要にしつつ、固体試料Wに含まれる測定対象成分を確実に分析することができる。具体的に本実施形態では、吸光度信号A(t)から変調周波数のn倍の周波数成分を抽出し、抽出した周波数成分を用いて測定対象成分の濃度を算出するので、複雑なスペクトル演算処理をすることなく、測定対象成分の濃度を簡単な演算で測定できる。その結果、高度な演算処理装置が不要となり、試料分析装置100のコストを削減することができるとともに、小型化が可能となる。
【0123】
また、本実施形態の試料分析装置100であれば、紫外蛍光法を用いていないので、紫外線光源を用いる必要がなく、紫外線光源を頻繁に交換するというメンテナンスを不要にすることができる。
【0124】
さらに、本実施形態の試料分析装置100であれば、NDIR分析計を用いること無く測定対象成分を分析することができるので、脱水剤を不要にすることができ、定期的に脱水剤を交換するというメンテナンスを不要にすることができる。また、脱水剤を不要にできるので、装置構成を簡略化することができる。つまり、本実施形態のガス流路6を、脱水剤を設けない構成にすることができる。
【0125】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0126】
例えば、前記第1実施形態の対数演算部161は、光検出器13の光強度信号を対数演算するものであったが、光検出器13の光強度信号を用いて、サンプル光の強度とリファレンス光の強度との比の対数(いわゆる吸光度)を算出するものであってもよい。このとき、対数演算部161は、サンプル光の強度の対数を演算し、リファレンス光の強度の対数を演算した後にそれらを差し引くことで吸光度を算出しても良いし、サンプル光の強度とリファレンス光の強度との比を求めた後にその比の対数を取ることで吸光度を算出してもよい。
【0127】
また、前記第1実施形態の相関値算出部162は、強度関連信号と特徴信号との相関値を算出するものであったが、強度関連信号と特徴信号との内積値を算出するものであってもよい。
【0128】
また、前記第1実施形態では、格納部163はリファレンス相関値を用いて補正した単独相関値を格納するものであったが、格納部163に補正前の単独相関値を格納しておき、濃度算出部164が、補正前の単独相関値からリファレンス相関値を差し引いた上で、単位濃度当たりに換算する補正をした単独相関値を求める構成としても良い。
【0129】
複数の特徴信号は、前記第1実施形態に限られず、互いに異なる関数であれば良い。また、特徴信号として、例えば濃度既知のスパンガスを流して得られた光強度や対数強度又は吸光度の波形(実測スペクトル)を示す関数を用いてもよい。また、1つの測定対象成分の濃度を測定する場合には、特徴信号は少なくとも1つあれば良い。
【0130】
前記各実施形態の光源制御部15は半導体レーザを連続発振(CW)させるものであったが、図13に示すように、疑似連続発振(疑似CW)させるものであってもよい。この場合、光源制御部15は、電流(又は電圧)制御信号を出力することによって各半導体レーザ12の電流源(又は電圧源)を制御して、電流源(又は電圧源)の駆動電流(駆動電圧)をパルス発振させるための所定のしきい値以上とする。具体的に光源制御部15は、所定の周期(例えば1~5MHz)で繰り返される所定のパルス幅(例えば10~50ns、Duty比5%)のパルス発振で疑似連続発振させるものである。そして、光源制御部15は、電流源(又は電圧源)の駆動電流(駆動電圧)を前記パルス発振用のしきい値未満である波長掃引用の値で、所定周波数で変化させることにより温度変化を発生させてレーザ光の発振波長の掃引を行うものである。駆動電流を変調させる変調信号としては、三角波状、鋸波状又は正弦波状で変化するとともに、その周波数は例えば1~100Hzである。
【0131】
このように半導体レーザを疑似連続発振させて光検出器13により得られる光強度信号は、図14のようになる。このようにパルス列全体で吸収スペクトルを取得することができる。疑似連続発振は連続発振に比べて光源の消費電力が小さく排熱処理も容易となり、さらに光源の長寿命化もできる。
【0132】
また、ガス分析部3は、図15に示すように、セル11にレーザ光を照射する光源たる複数の半導体レーザ12を備えるものであってもよい。そして、この信号処理装置14は、図16に示すように、半導体レーザ12の出力を制御する光源制御部15、光検出器13により得られた光強度信号から半導体レーザ12毎の信号を分離する信号分離部17、及び、信号分離部17により分離された半導体レーザ12毎の信号を受信し、その値を演算処理して測定対象成分の濃度を算出する信号処理部16等としての機能を発揮する。
【0133】
光源制御部15は、複数の半導体レーザ12それぞれをパルス発振させるとともに、レーザ光の発振波長を所定の周波数で変調させるものである。また、光源制御部15は、複数の半導体レーザ12がそれぞれ異なる測定対象成分に対応した発振波長となるように制御するものであり、互いに同じ発振周期で且つそれらの発振タイミングが互いに異なるようにパルス発振する。
【0134】
具体的に光源制御部15は、電流(又は電圧)制御信号を出力することによって各半導体レーザ12の電流源(又は電圧源)を制御する。本実施形態の光源制御部15は、図13に示すように、各半導体レーザ12を、所定の周期(例えば0.5~5MHz)で繰り返される所定のパルス幅(例えば10~100ns、Duty比5%)のパルス発振で疑似連続発振(疑似CW)させるものである。
【0135】
また、光源制御部15は、図13に示すように、電流源(又は電圧源)の駆動電流(駆動電圧)を所定周波数で変化させることにより温度変化を発生させてレーザ光の発振波長の掃引を行うものである。各半導体レーザにおけるレーザ光の発振波長は、図3に示すように、測定対象成分の光吸収スペクトルのピークを中心にして変調される。駆動電流を変化させる変調信号としては、三角波状、鋸波状又は正弦波状で変化するとともに、その周波数が例えば100Hz~10kHzの信号である。なお、図13には、変調信号が三角波状で変化する例を示している。
【0136】
このように1つの半導体レーザ12を疑似連続発振させて光検出器13により得られる光強度信号は、図14のようになる。このようにパルス列全体で吸収信号を取得することができる。
【0137】
また、光源制御部15は、複数の半導体レーザ12を互いに異なるタイミングでパルス発振する。具体的には、図17に示すように、複数の半導体レーザ12が順次パルス発振し、1つの半導体レーザ12におけるパルス発振の1周期内にその他の半導体レーザ12それぞれの1パルスが含まれる。つまり、1つの半導体レーザ12の互いに隣り合うパルス内にその他の半導体レーザ12それぞれの1パルスが含まれる。このとき、複数の半導体レーザ12のパルスは、互いに重複しないように発振される。
【0138】
信号分離部17は、光検出器13により得られた光強度信号から、複数の半導体レーザ12それぞれの信号を分離するものである。本実施形態の信号分離部17は、複数の半導体レーザ12それぞれに対応して設けられた複数のサンプルホールド回路と当該サンプルホールド回路により分離された光強度信号をデジタル変換するAD変換器とを有している。なお、サンプルホールド回路及びAD変換器は、複数の半導体レーザ12に共通の1つのものとしても良い。
【0139】
サンプルホールド回路は、対応する半導体レーザ12の電流(又は電圧)制御信号と同期されたサンプリング信号により、半導体レーザ12のパルス発振のタイミングと同期したタイミングで、光検出器13の光強度信号から、対応する半導体レーザ12の信号を分離して保持する。サンプルホールド回路は、半導体レーザ12のパルス発振の後半部分に対応する信号を分離して保持するように構成されている。この信号分離部17により分離された各半導体レーザ12の複数の信号を集めることにより1つの光吸収信号となり、1つの半導体レーザ12を疑似連続発振させた場合に得られる光吸収信号よりも波長分解能の良い光吸収信号を得ることができる。ここで、パルス内の吸収変化位置が変調信号により変化するので、パルス発振に対して同じタイミングで信号を採取することで、波形を再現できる。また、サンプルホールド回路によりパルス発振の一部分に対応する信号を分離しているので、AD変換器は処理速度の遅いものであってもよい。各半導体レーザ12毎に得られた複数の光吸収信号を時間平均して用いても良い。
【0140】
このように信号分離部17により分離された各半導体レーザ12の吸収信号を用いて信号処理部16は、各半導体レーザ12に対応する測定対象成分の濃度を算出する。なお、信号処理部16による測定対象成分の濃度の算出は前記実施形態と同様である。
【0141】
前記第1実施形態及び前記第2実施形態のガス分析部の各機能により、前記サンプル光の強度に関連する強度関連信号と、当該強度関連信号に対して所定の相関が得られる特徴信号とを用いて、前記測定対象成分の濃度に依存する代表値を算出する第1算出部、及び前記第1算出部により得られた代表値を用いて前記測定対象成分の濃度を算出する第2算出部の機能を発揮するものであったが、その他の演算方法を用いたものであっても良い。
【0142】
光源も、半導体レーザに関わらず、他のタイプのレーザでもよいし、測定精度を担保するに十分な半値幅をもつ単波長光源であって、波長変調さえできるものなら、どのような光源を用いてもよい。また、光源を強度変調するものであっても良い。
【0143】
前記各実施形態では、ガス流路6上に1つのガス分析部3を設ける構成であったが、図18に示すように、ガス分析部3の他にNDIR分析計8を併せて設けても良い。この場合、ガス流路6において、ガス分析部3の下流側に除湿器7を設け、除湿器7の下流側にNDIR分析計8が設けられる。なお、除湿器7は、ガス分析部3の上流側に設ける構成としても良い。また、ガス流路6を、ガス分析部3にガスを供給する第1流路とNDIR分析計8にガスを供給する第2流路とに分岐させる構成としても良い。このようにガス分析部3とNDIR分析計8とを併用することにより、測定レンジを広げることができる。例えばガス分析部3の測定レンジを200ppm以下とし、NDIR分析計8の測定レンジを200ppm~5%として、低濃度領域ではガス分析部3の測定結果を採用し、高濃度領域ではNDIR分析計8の測定結果を採用することなどができる。
【0144】
なお、NDIR分析計8の上流側にガス分析部3があると、ガス分析部3のセル11がバッファタンクのように作用し、信号が鈍り、感度が低下する恐れがある。このため、NDIR分析計8の感度を求める場合には、ガス流路6において、上流側にNDIR分析計8を設け、下流側にガス分析部3を設ける構成としても良い。この構成であれば、NDIR分析計8の感度を活かした分析を行うことができる。
【0145】
前記各実施形態の加熱炉2は、高周波誘導加熱炉式であったが、電気抵抗炉式であっても良い。また、加熱炉2は、赤外線ランプを用いて試料を加熱する赤外線ゴールドイメージ炉であっても良い。また、固定試料を収容した黒鉛るつぼを下部電極及び上部電極で挟持し、黒鉛るつぼに電流を流すことにより、固定試料を加熱させる方式のものであっても良い。また、本発明は、るつぼに収容した固定試料を燃焼させることによりガスを発生させるガス発生部を有する装置に適用可能である。
【0146】
前記各実施形態の試料保持体は、試料Wを収容するるつぼ等の容器Rであったが、試料Wを収容することなく、保持する構成であれば良い。試料Wを保持した試料保持体を加熱炉2内に配置することにより、試料Wは加熱される。
【0147】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明によれば、試料分析装置においてメンテナンスの頻度を減らしつつ、確実に測定対象成分を分析することができる。
図1
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