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特許7461948試料ガス分析装置、試料ガス分析方法及び試料ガス分析用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】試料ガス分析装置、試料ガス分析方法及び試料ガス分析用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20240328BHJP
【FI】
G01N21/3504
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021530516
(86)(22)【出願日】2020-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2020020444
(87)【国際公開番号】W WO2021005900
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2019125780
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】ラマス デ アンダ ホルヘ エドアード
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/031331(WO,A1)
【文献】特開2018-91827(JP,A)
【文献】特開2000-346801(JP,A)
【文献】特開2014-206541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01J 3/00-G01J 4/04
G01J 7/00-G01J 9/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガスに光を照射して得られる分光スペクトルを用いて多変量解析することにより前記試料ガス中の測定対象成分の濃度を分析する、フーリエ変換型赤外分光法を用いた試料ガス分析装置であって、
多変量解析に用いる複数の前記測定対象成分に対応した複数のスペクトルデータからなるライブラリデータを格納するライブラリデータ格納部と、
前記ライブラリデータ格納部に格納された前記複数のライブラリデータを用いて、多変量解析により前記試料ガス中の前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部とを備え、
前記試料ガスは、前記測定対象成分である第1の成分と、当該第1の成分と共存する干渉成分である第2の成分を含み、
前記ライブラリデータ格納部は、前記複数のスペクトルデータの一部として、共存影響を受けてスペクトル形状が変化した前記第1の成分の共存影響スペクトルデータ、又は前記第2の成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を格納しており、
前記濃度算出部は、前記第1の成分の共存影響スペクトルデータ又は前記第2の成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いて、多変量解析により前記第1の成分の濃度を算出する、試料ガス分析装置。
【請求項2】
前記濃度算出部は、前記第1の成分の共存影響スペクトルデータ又は前記第2の成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いて、前記第2の成分の共存影響を抑えた前記第1の成分の濃度を算出する、請求項1に記載の試料ガス分析装置。
【請求項3】
前記濃度算出部は、前記第1の成分の共存影響スペクトルデータ又は前記第2の成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いて、前記第1の成分に対する前記第2の成分の干渉影響を抑えた前記第1の成分の濃度を算出する、請求項1又は2に記載の試料ガス分析装置。
【請求項4】
前記試料ガスは、前記第1の成分及び前記第2の成分と共存する第3の成分を含み、
前記ライブラリデータ格納部は、前記複数のスペクトルデータの一部として、共存影響を受けてスペクトル形状が変化した前記第1の成分の共存影響スペクトルデータ、前記第2の成分の共存影響スペクトルデータ、又は前記第3の成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも1つを格納している、請求項1乃至3の何れか一項に記載の試料ガス分析装置。
【請求項5】
前記濃度算出部は、前記第1の成分の共存影響スペクトルデータ、前記第2の成分の共存影響スペクトルデータ又は前記第3の成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いて、前記第2の成分又は前記第3の成分の少なくとも一方の共存影響を抑えた前記第1の成分の濃度を算出する、請求項4記載の試料ガス分析装置。
【請求項6】
前記濃度算出部は、前記第1の成分の共存影響スペクトルデータ、前記第2の成分の共存影響スペクトルデータ又は前記第3の成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いて、前記第2の成分又は前記第3の成分の少なくとも一方の干渉影響を抑えた前記第1の成分の濃度を算出する、請求項4又は5記載の試料ガス分析装置。
【請求項7】
前記濃度算出部は、前記第1の成分の共存影響スペクトルデータ、前記第2の成分の共存影響スペクトルデータ又は前記第3の成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いて、前記第1の成分又は前記第2の成分の少なくとも一方の干渉影響を抑えた前記第3の成分の濃度を算出する、請求項4乃至6の何れか一項に記載の試料ガス分析装置。
【請求項8】
前記第2の成分は、HO又はCOである、請求項4乃至7の何れか一項に記載の試料ガス分析装置。
【請求項9】
前記第2の成分及び前記第3の成分は、一方がHOであり、他方がCOである、請求項4乃至8の何れか一項に記載の試料ガス分析装置。
【請求項10】
前記試料ガスは、内燃機関から排出される排ガスである、請求項1乃至9の何れか一項に記載の試料ガス分析装置。
【請求項11】
試料ガスに光を照射して得られる分光スペクトルを用いて多変量解析することにより前記試料ガス中の測定対象成分の濃度を分析する、フーリエ変換型赤外分光法を用いた試料ガス分析方法であって、
多変量解析に用いる複数の前記測定対象成分に対応した複数のスペクトルデータからなるライブラリデータを用いて、多変量解析により前記試料ガス中の前記測定対象成分の濃度を算出するものであり、
前記試料ガスは、前記測定対象成分である第1の成分と、当該第1の成分と共存する干渉成分である第2の成分とを含み、
前記複数のスペクトルデータの一部として、共存影響を受けてスペクトル形状が変化した前記第1の成分の共存影響スペクトルデータ、又は前記第2の成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いて、多変量解析により前記第1の成分の濃度を算出する、試料ガス分析方法。
【請求項12】
試料ガスに光を照射して得られる分光スペクトルを用いて多変量解析することにより前記試料ガス中の測定対象成分の濃度を分析する、フーリエ変換型赤外分光法を用いた試料ガス分析用プログラムであって、
多変量解析に用いる複数の前記測定対象成分に対応した複数のスペクトルデータからなるライブラリデータを格納するライブラリデータ格納部と、
前記ライブラリデータ格納部に格納された前記複数のライブラリデータを用いて、多変量解析により前記試料ガス中の前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部と、としての機能をコンピュータに発揮させるものであり、
前記試料ガスは、前記測定対象成分である第1の成分と、当該第1の成分と共存する干渉成分である第2の成分とを含み、
前記ライブラリデータ格納部は、前記複数のスペクトルデータの一部として、共存影響を受けてスペクトル形状が変化した前記第1の成分の共存影響スペクトルデータ、又は前記第2の成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を格納しており、
前記濃度算出部は、前記第1の成分の共存影響スペクトルデータ又は前記第2の成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いて、多変量解析により前記第1の成分の濃度を算出する、試料ガス分析用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ガス分析装置、試料ガス分析方法及び試料ガス分析用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の試料ガス分析装置としては、特許文献1に示すように、試料ガスに光を照射して得られる吸収スペクトルを用いて多変量解析することにより試料ガスに含まれる測定対象成分の濃度を算出する、例えばフーリエ変換赤外分光(FTIR)法を用いたものがある。
【0003】
FTIR法を用いた分析は、試料ガスに含まれる多成分を連続的且つ同時に分析できるといったメリットがある。また、例えばエンジン排ガス分野で用いる場合には、試料ガスたる排ガスを直接サンプルセルに導入して分析することができ、排ガスに水分が含まれている状態で測定対象成分の濃度を算出する、所謂Wet測定することができる点も強みである。
【0004】
上記の多変量解析には、1又は複数の測定対象成分毎のスペクトルデータ群からなるライブラリデータが用いられる。このスペクトルデータ群は、濃度が既知の測定対象成分のスペクトルデータの他に、前記測定対象成分に干渉影響を与える干渉成分のスペクトルデータが含まれている。このライブラリデータを用いることによって、測定対象成分に対する干渉成分の干渉影響を低減した濃度測定が可能となる。なお、干渉影響は、測定対象成分のスペクトルと、他の成分のスペクトルとが互いに重なり合うことにより生じる影響である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-265842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本願発明者は、上記の多変量解析により得られた測定対象成分の濃度が取り得ない値になるという事象があることを見出した。そして、本願発明者は、この事象が以下の要因により生じていることを見出した。
【0007】
ライブラリデータに含まれている干渉成分は単体又は窒素等で希釈された状態で存在する場合のスペクトルデータであるのに対して、実際の測定により得られる測定吸収スペクトルは、特定の測定対象成分と共存成分(特定の測定対象成分とは異なる別の測定対象成分)との共存影響、及び干渉成分同士の共存影響によってスペクトルのブロードニングが発生している。このため、ブロードニングが発生している測定吸収スペクトルを、ブロードニングしていないスペクトルデータを用いて多変量解析すると、上記の事象が発生してしまう。なお、共存影響は、干渉影響とは異なるものであり、スペクトルの重なりではなく、測定対象成分と他の成分との分子間相互作用によりスペクトルに変化を与えるために生じる影響である。
【0008】
そこで、本発明は上記の問題点を解決すべくなされたものであり、測定対象成分が受ける共存影響による測定誤差を低減することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明に係る試料ガス分析装置は、試料ガスに光を照射して得られる分光スペクトルを用いて多変量解析することにより前記試料ガス中の測定対象成分の濃度を分析する試料ガス分析装置であって、多変量解析に用いる複数の前記測定対象成分に対応した複数のスペクトルデータからなるライブラリデータを格納するライブラリデータ格納部と、前記ライブラリデータ格納部に格納された前記複数のライブラリデータを用いて、多変量解析により前記試料ガス中の前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部とを備え、前記測定対象成分のうち、第1の測定対象成分と第2の測定対象成分とが共存しており、前記ライブラリデータ格納部は、前記複数のスペクトルデータの一部として、共存影響を受けてスペクトル形状が変化した前記第1の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ、又は前記第2の測定対象成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を格納していることを特徴とする。
【0010】
この試料ガス分析装置であれば、複数のスペクトルデータの一部として、第1の測定対象成分と第2の測定対象成分とが共存することによって、共存影響を受けてスペクトル形状が変化した第1の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ、又は第2の測定対象成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を格納しており、濃度算出部はこれら複数のスペクトルデータを用いて多変量解析するので、第1の測定対象成分に対する第2の測定対象成分の共存影響による測定誤差を低減することができる。
【0011】
ここで、前記濃度算出部は、前記第1の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ又は前記第2の測定対象成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いて、前記第2の測定対象成分の共存影響を抑えた前記第1の測定対象成分の濃度を算出することが考えられる。
【0012】
また、前記濃度算出部は、前記第1の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ又は前記第2の測定対象成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いて、前記第1の測定対象成分に対する前記第2の測定対象成分の干渉影響を抑えた前記第1の測定対象成分の濃度を算出することが考えられる。これにより、第2の測定対象成分の共存影響及び干渉影響を抑えた第1の測定対象成分の濃度を算出することができ、第1の測定対象成分の濃度の測定誤差をより一層低減することができる。
【0013】
測定誤差をより一層低減するためには、前記第1の測定対象成分と前記第2の測定対象成分と第3の測定対象成分とが共存しており、前記ライブラリデータ格納部は、前記複数のスペクトルデータの一部として、共存影響を受けてスペクトル形状が変化した前記第1の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ、前記第2の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ、又は前記第3の測定対象成分の共存影響スペクトルデータを格納していることが望ましい。
【0014】
ここで、前記濃度算出部は、前記第1の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ、前記第2の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ又は前記第3の測定対象成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いて、前記第2の測定対象成分又は前記第3の測定対象成分の少なくとも一方の干渉影響を抑えた前記第1の測定対象成分の濃度を算出することが考えられる。
【0015】
また、前記濃度算出部は、前記第1の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ、前記第2の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ又は前記第3の測定対象成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いて、前記第2の測定対象成分又は前記第3の測定対象成分の少なくとも一方の干渉影響を抑えた前記第1の測定対象成分の濃度を算出することが考えられる。これにより、第2の測定対象成分及び/又は第3の測定対象成分の共存影響及び干渉影響を抑えた第1の測定対象成分の濃度を算出することができ、第1の測定対象成分の濃度の測定誤差をより一層低減することができる。
【0016】
さらに、前記濃度算出部は、前記第1の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ、前記第2の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ又は前記第3の測定対象成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いて、前記第1の測定対象成分又は前記第2の測定対象成分の少なくとも一方の干渉影響を抑えた前記第3の測定対象成分の濃度を算出することが望ましい。
【0017】
前記第2の測定対象成分は、HO又はCOであることが考えられる。
【0018】
試料ガス分析装置は、内燃機関から排出される排ガス中の1又は複数の測定対象成分を定量分析するものであることが考えられる。この場合、排ガス中に含まれるHO及びCOは他の成分に比べて濃度が高く、他の成分に対して与える共存影響も大きくなる。
このため、前記第2の測定対象成分及び前記第3の測定対象成分は、一方がHOであり、他方がCOであることが望ましい。
【0019】
フーリエ変換型赤外分光法を用いたものであることが望ましい。
【0020】
また、本発明に係る試料ガス分析方法は、試料ガスに光を照射して得られる分光スペクトルを用いて多変量解析することにより前記試料ガス中の複数の測定対象成分の濃度を分析する試料ガス分析方法であって、多変量解析に用いる前記複数の測定対象成分に対応した複数のスペクトルデータからなるライブラリデータを用いて、多変量解析により前記試料ガス中の複数の測定対象成分の濃度を算出するものであり、前記複数のスペクトルデータの一部として、前記複数の測定対象成分のうち、第1の測定対象成分と第2の測定対象成分とが共存することによって、共存影響を受けてスペクトル形状が変化した前記第1の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ、又は前記第2の測定対象成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を用いることを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る試料ガス分析用プログラムは、試料ガスに光を照射して得られる分光スペクトルを用いて多変量解析することにより前記試料ガス中の測定対象成分の濃度を分析する試料ガス分析用プログラムであって、多変量解析に用いる複数の前記測定対象成分に対応した複数のスペクトルデータからなるライブラリデータを格納するライブラリデータ格納部と、前記ライブラリデータ格納部に格納された前記複数のライブラリデータを用いて、多変量解析により前記試料ガス中の前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部と、としての機能をコンピュータに発揮させるものであり、前記測定対象成分のうち、第1の測定対象成分と第2の測定対象成分とが共存しており、前記ライブラリデータ格納部は、前記複数のスペクトルデータの一部として、共存影響を受けてスペクトル形状が変化した前記第1の測定対象成分の共存影響スペクトルデータ、又は前記第2の測定対象成分の共存影響スペクトルデータの少なくとも一方を格納していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
以上に述べた本発明によれば、測定対象成分が受ける共存影響による測定誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る排ガス測定システムの全体模式図である。
図2】同実施形態の排ガス分析装置の構成を示す模式図である。
図3】同実施形態の演算処理装置の機能ブロック図である。
図4】同実施形態のライブラリデータを示す模式図である。
図5】同実施形態の2成分又は3成分の場合のライブラリデータのパターンを示す模式図である。
図6】同実施形態の濃度算出部の濃度演算を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0024】
100・・・試料ガス分析装置
1 ・・・光源
4 ・・・光検出器
52 ・・・ライブラリデータ格納部
53 ・・・濃度算出部
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係る排ガス分析装置について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
本実施形態の排ガス分析装置100は、例えば排ガス測定システム200の一部を構成するものである。この排ガス測定システム200は、図1に示すように、シャシダイナモ300と、シャシダイナモ300上を走行する供試体である試験車両Vの排ガスをサンプリングする例えば定容量サンプリング装置(CVS)等の排ガス採取装置400と、サンプリングされた排ガス中の測定対象成分を分析する排ガス分析装置100とを備えている。
【0027】
具体的に排ガス分析装置100は、図2に示すように、光源1、干渉計(分光部)2、測定セル3、光検出器4、演算処理装置5等を具備した、フーリエ変換型赤外分光法(FTIR)を用いた分析装置である。
【0028】
光源1は、ブロードなスペクトルを有する赤外光(多数の波数の光を含む連続光)を射出するものであり、例えばタングステン・ヨウ素ランプや、高輝度セラミック光源が用いられる。
【0029】
干渉計2は、同図に示すように、1枚のハーフミラー(ビームスプリッタ)21、固定鏡22及び移動鏡23を具備した、いわゆるマイケルソン干渉計を利用したものである。この干渉計2に入射した光源1からの赤外光は、ハーフミラー21によって反射光と透過光に分割される。一方の光は固定鏡22で反射され、もう一方は移動鏡23で反射されて、再びハーフミラー21に戻り、合成されて、この干渉計2から射出される。
【0030】
測定セル3は、サンプリングされた排ガスが導入される透明セルであり、干渉計2から出た光が、測定セル3内の排ガスを透過して光検出器4に導かれるようにしてある。
【0031】
光検出器4は、排ガスを透過した赤外光を検出して、その検出信号(光強度信号)を演算処理装置5に出力するものである。本実施形態の光検出器4は、MCT(HgCdTe)検出器であるが、その他の赤外線検出素子を有する光検出器であっても良い。
【0032】
演算処理装置5は、バッファ、増幅器などを有したアナログ電気回路と、CPU、メモリ、DSPなどを有したデジタル電気回路と、それらの間に介在するA/Dコンバータ等を有したものである。
【0033】
この演算処理装置5は、メモリに格納した所定プログラムにしたがってCPUやその周辺機器が協動することにより、図3に示すように、試料を透過した光のスペクトルを示す透過光スペクトルデータを光検出器4の検出信号から算出し、透過光スペクトルデータから赤外吸収スペクトルデータを算出して、排ガス中の種々の成分を特定し、かつそれぞれの成分濃度を算出する機能を発揮する。
【0034】
具体的に演算処理装置5は、スペクトルデータ生成部51と、ライブラリデータ格納部52と、濃度算出部53とを具備している。
【0035】
移動鏡23を進退させ、排ガスを透過した光強度を移動鏡23の位置を横軸にとって観測すると、単波数の光の場合、干渉によって光強度はサインカーブを描く。一方、排ガスを透過した実際の光は連続光であり、前記サインカーブは波数毎に異なるから、実際の光強度は、各波数の描くサインカーブの重ね合わせとなり、干渉パターン(インターフェログラム)は波束の形となる。
【0036】
スペクトルデータ生成部51は、移動鏡23の位置を例えば図示しないHeNeレーザなどの測距計(図示しない)によって求めるとともに、移動鏡23の各位置における光強度を光検出器4によって求め、これらから得られる干渉パターンを高速フーリエ変換(FFT)することによって、各波数成分を横軸とした透過光スペクトルデータに変換する。そして、例えば測定セルが空の状態で予め測定しておいた透過光スペクトルデータに基づいて、排ガスの透過光スペクトルデータを赤外吸収スペクトルデータにさらに変換する。
【0037】
ライブラリデータ格納部52は、多変量解析に用いる複数の測定対象成分(例えば、CO、CO、NO、HO、NO、COH、HCHO、CH等)毎の既知のスペクトルデータ群からなるライブラリデータや検量線データ等を格納している。
【0038】
本実施形態のライブラリデータ格納部52は、測定対象成分毎のスペクトルデータ群の一部として、2つ以上の測定対象成分が共存することによって、1つの測定対象成分が共存するその他の測定対象成分から共存影響を受けてスペクトル形状が変化した共存影響スペクトルデータを格納している。例えば、特定の測定対象成分(請求項における「第1の測定対象成分」に相当。)のスペクトルデータ群の一部として、特定の測定対象成分とは異なる別の測定対象成分(請求項における「第2の測定対象成分、第3の測定対象成分」に相当。干渉成分ともいう。)の共存影響を受けた共存影響スペクトルデータを格納している。また、ライブラリデータ格納部52は、特定の測定対象成分のスペクトルデータ群の一部として、2つ以上の干渉成分が共存するとともに特定の測定対象成分が含まれないガスのスペクトルデータ(以下、干渉成分共存スペクトル)を格納している。ここで、測定対象成分以外の2つ以上の干渉成分としては、例えば他の干渉成分よりも濃度が大きく、他の成分に与える共存影響が大きくなるHO及びCOを例に挙げることができる。
【0039】
例えば、スペクトルデータ群は、図4に示すように、
(1)測定対象成分A~C単体の濃度既知(例えば0~100%において10%毎)の校正スペクトル(A~C)、
(2)ゼロガスのスペクトル(ベーススペクトル)、
(3)濃度既知の測定対象成分A~Cと濃度既知の1又は複数の干渉成分とが共存する場合に、各測定対象成分が共存影響を受けてスペクトル形状が変化した各測定対象成分の共存影響スペクトル(A、A、AB+C、B、B、BA+C、C、C、CA+B等)、
(4)濃度既知の複数の干渉成分が共存する場合の干渉成分共存スペクトル(A+B、B+C、A+C、A+B+C等)、等を含んでいる。
【0040】
図5に測定対象成分が2成分の場合のスペクトルのパターン(スペクトルデータ群)と3成分の場合のスペクトルのパターン(スペクトルデータ群)を示している。なお、図5に示すパターンは一例であり、これらのスペクトルを全て持つ必要がない。
【0041】
具体的に(3)共存影響スペクトルは、例えば、
濃度既知の測定対象成分(例えばCO)が、濃度既知のCOから共存影響を受けてスペクトル形状が変化したCOの共存影響スペクトル、
濃度既知の測定対象成分(例えばCO)と、濃度既知のCO及び濃度既知のHOから共存影響を受けてスペクトル形状が変化したCOの共存影響スペクトル、等を含んでいる。
【0042】
また、(4)干渉成分共存スペクトルは、例えば、
(a)12%CO及び12%HOが共存するガスのスペクトル、
(b)12%CO及び15%HOが共存するガスのスペクトル、
(c)15%CO及び12%HOが共存するガスのスペクトル、
(d)15%CO及び15%HOが共存するガスのスペクトル、等を含んでいる。
【0043】
このようにスペクトルデータ群には、各測定対象成分の複数の濃度と各干渉成分の複数の濃度の組み合わせからなる複数の共存影響スペクトルと、各干渉成分の複数の濃度の組み合わせからなる複数の干渉成分共存スペクトルとが含まれている。これら共存影響スペクトル及び干渉成分共存スペクトルは、測定された吸収スペクトルにおける共存影響を補正するためのスペクトルである。
【0044】
濃度算出部53は、スペクトルデータ生成部51により得られた赤外吸収スペクトルデータと、ライブラリデータ格納部に格納されたライブラリデータ等とから、多変量解析により、赤外吸収スペクトルデータの各ピーク位置(波数)及びその高さから測定試料に含まれる種々の成分(例えばCO、CO、NO、HO、NO等)を特定し、かつそれぞれの成分の濃度を算出する。ここで、濃度算出部53は、共存影響スペクトル及び干渉成分共存スペクトルを用いているので、測定対象成分に対する干渉成分の共存影響及び干渉成分同士の共存影響を補正して、測定対象成分の濃度を算出することになる。
【0045】
濃度算出部53の濃度演算を模式的に図6に示す。濃度算出部53は、複数の測定対象成分に共存影響がない場合には、通常の校正スペクトル(A~C等)を用いて濃度を演算する。一方、複数の測定対象成分の少なくとも1つにおいて共存影響がある場合には、共存影響スペクトル(必要ならば更に干渉成分共存スペクトル)を用いて濃度を演算する。ここで、複数の測定対象成分の少なくとも1つに干渉影響がある場合には、共存影響スペクトルを用いて共存影響及び干渉影響を抑えた濃度を演算する。なお、使用する校正スペクトルは、ユーザがライブラリデータから選択することができる。
【0046】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態の試料ガス分析装置100によれば、2つ以上の測定対象成分が共存することによって、1つの測定対象成分が共存するその他の測定対象成分から共存影響を受けてスペクトル形状が変化した共存影響スペクトルデータを格納しており、濃度算出部は共存影響スペクトルを用いて多変量解析するので、測定対象成分が受ける共存影響による測定誤差を低減することができる。
【0047】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0048】
例えば、前記実施形態では、他の成分よりも比較的濃度が高いHO及びCOが共存する場合の共存影響を補正するためにHO又はCOの共存影響スペクトル、HO及びCOの干渉成分共存スペクトルを用いていたが、その他の成分(例えばCOやCH等)が共存する場合の共存影響スペクトル又は干渉成分共存スペクトルを用いてもよいし、3種類以上の干渉成分が共存する場合の共存影響スペクトル又は干渉成分共存スペクトルを用いても良い。最も精度を上げるためには、スペクトルデータ格納部は、全ての干渉成分同士の組み合わせ、全ての測定対象成分と干渉成分との組み合わせのスペクトルデータを格納することが考えられる。
【0049】
前記実施形態では、自動車排ガス用のFTIR法を用いた試料ガス分析装置について説明したが、船舶、航空機、発電機からの排ガス等様々な燃焼排ガスの分析にも用いることができる。また、燃料排ガスに限られず、燃料電池用メタノールの改質システム用のFTIR法を用いた試料ガス分析や、電池から発生するガスの分析等、様々な試料ガスの分析に用いることができる。その他、ICP発光分析法を用いた分析装置やラマン分光法を用いた分析装置等の干渉成分により測定成分が干渉影響を受ける分析装置に用いることができる。
【0050】
加えて、本発明に係る試料ガス分析装置は、FTIR法を用いたものに限らず、例えば非分散型赤外吸収(NDIR)法、量子カスケードレーザ赤外分光(QCL-IR)法、非分散型紫外吸収(NDUV)法、紫外分光(UVA)法などを用いて、試料ガスに含まれる多成分を定量分析するものであっても良い。
【0051】
さらに、前記実施形態の排ガス測定システム200は、シャシダイナモを用いて完成車両Vを試験するものであったが、例えばエンジンダイナモメータを用いてエンジンの性能を試験するものであっても良いし、ダイナモメータを用いてパワートレインの性能を試験するものであっても良い。
【0052】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、測定対象成分とは異なる別の測定対象成分の共存影響による測定誤差を低減することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6