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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240328BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20240328BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240328BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20240328BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20240328BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20240328BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L53/02
C08L67/02
C08L25/04
C08L71/12
C08K3/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022552050
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2021034941
(87)【国際公開番号】W WO2022065399
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2020160966
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 星哉
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-170844(JP,A)
【文献】特開平02-000651(JP,A)
【文献】特開2015-203071(JP,A)
【文献】特表2009-503218(JP,A)
【文献】国際公開第2021/132286(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する多分岐型ブロック共重合体の水素添加物を1~100質量部含む樹脂組成物であり、
前記熱可塑性樹脂(A)が、
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)、ポリスチレン系樹脂(A-2)、及びポリフェニレンサルファイド系樹脂(A-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、
前記多分岐型ブロック共重合体の水素添加物が、
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する3以上の鎖(bα)と、カップリング剤に由来する1つの核(bβ)とを含むスター型ブロック共重合体の水素添加物B-1-2)、及び
共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む主鎖(bγ)と、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する側鎖(bδ)とを含むグラフト型ブロック共重合体の水素添加物B-2-2)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、
前記重合体ブロック(b2)は、
共役ジエン化合物に由来する構造単位としてイソプレンに由来する構造単位を含み
そのビニル結合量は、4~20モル%である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A)として、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)を含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(A)として、ポリスチレン系樹脂(A-2)を含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(A)として、ポリフェニレンサルファイド系樹脂(A-3)を含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記多分岐型ブロック共重合体の水素添加物のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した標準ポリスチレン換算の数平均分子量が700,000以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記多分岐型ブロック共重合体の水素添加物に含まれる共役ジエン化合物に由来する構造単位中の炭素-炭素二重結合の水素添加率が80モル%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記多分岐型ブロック共重合体の水素添加物が、
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)および共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する3以上の鎖(bα)と、カップリング剤に由来する1つの核(bβ)とを含むスター型ブロック共重合体の水素添加物(B-1-2)であり、
該スター型ブロック共重合体に含まれる共役ジエン化合物に由来する構造単位中の炭素-炭素二重結合の水素添加率が80モル%以上である、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
多分岐型ブロック共重合体の水素添加物として、スター型ブロック共重合体の水素添加物B-1-2)を含み、
そのスター型ブロック共重合体の水素添加物B-1-2)に含まれる核(bβ)が、ジビニルベンゼンに由来する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、
無機充填剤(C)を1~200質量部を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物から得られる成形品。
【請求項11】
金属及び非金属無機固体からなる群から選択される少なくとも1つから形成された無機部材と、該無機部材の表面の少なくとも一部を被覆する、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された樹脂部材とを含む請求項10に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂及び多分岐型ブロック共重合体又はその水素添加物を含む樹脂組成物及び該樹脂組成物から得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂をはじめとする、熱可塑性樹脂は、その特性に応じ、自動車、電気・電子部品等の種々の用途で成形品として活用されてきている。例えば、これら樹脂は、無機材料からなる部材にインサート成形するなどして、無機部材と樹脂部材とを含む成形品として活用することが検討されてきている。
【0003】
これら成形品の用途では、電気・電子部品への活用、自動車分野での電気自動車への技術の広がりなどにより、従来と比べても、これら成形品では、耐衝撃性のみならず、耐ヒートショック性のさらなる向上が求められるようになっている。このような耐衝撃性、耐ヒートショック性を熱可塑性樹脂に付与する場合、ゴム組成物をはじめとする、耐衝撃性改質成分、耐ヒートショック性改質成分を添加することが従来から行われている。
例えば、特許文献1では、耐ヒートショック性の向上を1つの目的として、特定のポリブチレンテレフタレート樹脂と、特定のスチレン系熱可塑性エラストマーと、ガラス繊維を配合してなる、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が検討されている。
また、特許文献2では、長期耐熱性の向上を1つの目的として、ポリアリーレンサルファイド樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、オキサゾリン基含有非晶性ポリマー及び耐衝撃性改質樹脂を必須成分とするポリアリーレンサルファイド樹脂組成物が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-155447号公報
【文献】特開2000-103964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これら特許文献1及び2の技術では、樹脂組成物の耐衝撃性を維持しつつ、耐ヒートショック性を向上させるという点ではさらなる改善の余地があった。
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、耐衝撃性及び耐ヒートショック性の向上した、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンサルファイド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物、該樹脂組成物から得られる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンサルファイド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの熱可塑性樹脂と、特定の多分岐型ブロック共重合体又はその水素添加物を含む樹脂組成物が、耐衝撃性及び耐ヒートショック性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の〔1〕~〔12〕を提供するものである。
〔1〕熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)を1~100質量部含む樹脂組成物であり、
前記熱可塑性樹脂(A)が、
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)、ポリスチレン系樹脂(A-2)、及びポリフェニレンサルファイド系樹脂(A-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、
前記多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)が、
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する3以上の鎖(bα)と、カップリング剤に由来する1つの核(bβ)とを含むスター型ブロック共重合体又はその水素添加物(B-1)、及び
共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む主鎖(bγ)と、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する側鎖(bδ)とを含むグラフト型ブロック共重合体又はその水素添加物(B-2)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、樹脂組成物。
〔2〕前記熱可塑性樹脂(A)として、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)を含む〔1〕に記載の樹脂組成物。
〔3〕前記熱可塑性樹脂(A)として、ポリスチレン系樹脂(A-2)を含む〔1〕に記載の樹脂組成物。
〔4〕前記熱可塑性樹脂(A)として、ポリフェニレンサルファイド系樹脂(A-3)を含む〔1〕に記載の樹脂組成物。
【0008】
〔5〕前記多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)に含まれる共役ジエン化合物に由来する構造単位として、イソプレンに由来する単位を含む〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の樹脂組成物。
〔6〕前記多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した標準ポリスチレン換算の数平均分子量が700,000以上である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の樹脂組成物。
〔7〕前記多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)が、
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)および共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する3以上の鎖(bα)と、カップリング剤に由来する1つの核(bβ)とを含むスター型ブロック共重合体の水素添加物(B-1-2)、及び
共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む主鎖(bγ)と、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する側鎖(bδ)とを含むグラフト型ブロック共重合体の水素添加物(B-2-2)からなる群より選ばれる少なくとも1つの多分岐型ブロック共重合体の水素添加物(B2)であり、
該多分岐型ブロック共重合体に含まれる共役ジエン化合物に由来する構造単位中の炭素-炭素二重結合の水素添加率が80モル%以上である、〔1〕~〔6〕のいずれか記載の樹脂組成物。
【0009】
〔8〕前記多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)および共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する3以上の鎖(bα)と、カップリング剤に由来する1つの核(bβ)とを含むスター型ブロック共重合体の水素添加物(B-1-2)であり、
該スター型ブロック共重合体に含まれる共役ジエン化合物に由来する構造単位中の炭素-炭素二重結合の水素添加率が80モル%以上である、〔7〕に記載の樹脂組成物。
〔9〕多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)として、スター型ブロック共重合体又はその水素添加物(B-1)を含み、
そのスター型ブロック共重合体又はその水素添加物(B-1)に含まれる核(bβ)が、ジビニルベンゼンに由来する、〔1〕に記載の樹脂組成物。
〔10〕さらに、前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、無機充填剤(C)を1~200質量部を含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0010】
〔11〕〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の樹脂組成物から得られる成形品。
〔12〕金属及び非金属無機固体からなる群から選択される少なくとも1つから形成された無機部材と、該無機部材の表面の少なくとも一部を被覆する、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の樹脂組成物から形成された樹脂部材とを含む〔11〕に記載の成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐衝撃性及び耐ヒートショック性の向上した、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンサルファイド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物、該樹脂組成物から得られる成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
<熱可塑性樹脂(A)>
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)を含む。熱可塑性樹脂(A)は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)、ポリスチレン系樹脂(A-2)、及びポリフェニレンサルファイド系樹脂(A-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。なお、熱可塑性樹脂(A)には上記ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)、ポリスチレン系樹脂(A-2)、及びポリフェニレンサルファイド系樹脂(A-3)以外の樹脂は含まれない。
【0013】
<ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)>
本発明で用いられるポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)とは、テレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体と、1,4-ブタンジオールおよび/またはそのエステル形成性誘導体とを重縮合することによって得られる重合体である。テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸ジメチルなどのテレフタル酸のアルキルエステルなどが挙げられる。1,4-ブタンジオールのエステル形成性誘導体としては、例えば、1,4-ブタンジオールエステルなどのジオールのアルキルエステルなどが挙げられる。
【0014】
特性を損なわない範囲であれば、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とともに、他のジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を共重合したものであってもよい。また、1,4-ブタンジオールまたはそのエステル形成性誘導体とともに、他のジオールまたはそのエステル形成性誘導体を共重合したものであってもよい。
【0015】
共重合成分として用いられるジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、例えば、イソフタル酸、アジピン酸、シュウ酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸又はこれらジカルボン酸のアルキルエステルなどが挙げられる。
これら化合物は1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0016】
また、共重合成分として用いられるジオール又はそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、分子量400~6000のポリエチレングリコールやポリ1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の長鎖グリコール、又はこれらジオールの脂肪酸エステルなどが挙げられる。
これら化合物は1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0017】
これら共重合成分は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)を形成する原料の20重量%以下が好ましい。
【0018】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)として用いる共重合体の好ましい例としては、例えば、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレートなどが挙げられる。
これら共重合体は1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。また、ポリブチレンテレフタレート(単独重合体)を1種単独で用いてもよく、単独重合体と上記共重合体を2種以上併用してもよい。
これらポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)の中でも、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0019】
<ポリスチレン系樹脂(A-2)>
本発明で用いられるポリスチレン系樹脂(A-2)としては、例えば、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリt-ブチルスチレン等のポリアルキルスチレン;ポリクロロスチレン、ポリブロモスチレン、ポリフルオロスチレン、ポリフルオロスチレン等のポリハロゲン化スチレン;ポリクロロメチルスチレン等のポリハロゲン置換アルキルスチレン;ポリメトキシスチレン、ポリエトキシスチレン等のポリアルコキシスチレン;ポリカルボキシメチルスチレン等のポリカルボキシアルキルスチレン;ポリビニルベンジルプロピルエーテル等のポリアルキルエーテルスチレン;ポリトリメチルシリルスチレン等のポリアルキルシリルスチレン;ポリ(ビニルベンジルジメトキシホスファイド)等が挙げられる。
これらポリスチレン系樹脂(A-2)の中でも、ポリスチレンが好ましい。
【0020】
<ポリフェニレンサルファイド系樹脂(A-3)>
本発明に使用するポリフェニレンサルファイド(以下、「PPS」と略記する)系樹脂(A-3)としては、一般にPPS系樹脂として取り扱われる樹脂を用いることができるが、通常一般式(1)〔-Ar-S-〕(式(1)中、-Ar-は少なくとも1つの炭素6員環を含む2価の芳香族基を示す)で示される繰り返し単位を主要構造単位として有する樹脂であり、特に、前記一般式(1)で示される構造単位を70モル%以上含有する樹脂が、耐熱性と耐薬品性とに優れる点から好ましい。
【0021】
この一般式(1)で示される構造単位を70モル%以上含有する樹脂の中でも、特に、一般式(2)〔-φ-S-〕(式(2)中、-φ-はp-フェニレン基を示す)で表わされる繰り返し単位を有する、PPS系樹脂が好ましく、とりわけ一般式(2)で表わされる繰り返し単位を、70モル%以上含有するPPS系樹脂が、十分な強度が得られ、かつ、靭性、耐薬品性にも優れる点から好ましい。
【0022】
ここで、PPS系樹脂(A-3)中に含有される、前記一般式(1)で示される構造単位との共重合成分としては、下記化学式で示されるような、メタ結合、エーテル結合、スルホン結合、スルフィドケトン結合、ビフェニル結合、置換フェニルスルフィド結合、3官能フェニルスルフィド、ナフチル結合などを含む構造単位などが挙げられる。共重合体成分の含有率は、30モル%未満が好ましいが、3官能性以上の結合を含む構造単位を含有させる場合は、共重合成分の含有率は、5モル%以下、中でも3モル%以下であることが好ましい。
【0023】
【化1】
【0024】
【化2】
【0025】
【化3】
【0026】
【化4】
【0027】
【化5】
【0028】
【化6】
【0029】
【化7】
(上記式中、Rはアルキル基、ニトロ基、フェニル基又はアルコキシ基を表す。)
【0030】
【化8】
【0031】
【化9】
【0032】
本発明で用いるPPS系樹脂(A-3)は、実質的に線状で分岐又は架橋構造を有しない分子構造、或いは、分岐や架橋を有する構造の何れでもよいが、実質的に線状構造を有するものが、反応性、相溶性等の点から好ましい。
【0033】
この様なPPS系樹脂(A-3)の重合方法としては、特に限定されるものではないが、求核置換反応による重合として、方法(1)として、ハロゲン置換芳香族化合物と硫化アルカリとを反応させる方法があり、具体的には、
(1)-1:p-ジクロルベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、
(1)-2:p-ジクロルベンゼンを、極性溶媒中で、硫化ナトリウムと反応させる方法、
(1)-3:p-ジクロルベンゼンを、極性溶媒中で、水硫化ナトリウム及び水酸化ナトリウムと反応させる方法、
(1)-4:p-ジクロルベンゼンを、極性溶媒中で、硫化水素と水酸化ナトリウムの存在下で重合させる方法、
が挙げられ、また、方法(2)として、p-クロルチオフェノール等のチオフェノ-ル類を炭酸カリウムや炭酸ナトリウム等のアルカリ触媒又は沃化銅等の銅塩の共存下で自己縮合させる方法が挙げられる。また、方法(1)にて使用し得る極性溶媒としては、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤やスルホラン等が挙げられる。
【0034】
また、求電子置換反応による重合として、(3)ベンゼン等の芳香族化合物をフリ-デルクラフツ反応によりルイス酸触媒存在下塩化硫黄と縮合させる方法等が挙げられる。
【0035】
これらのなかでも特に、PPS系樹脂(A-3)の分子量が高くなり、かつ、収率が高くなる点から(1)-2の方法が好ましく、具体的には、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp-ジクロルベンゼンを反応させる方法が最も適当である。また、該方法(1)-2においては、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩を添加したり、水酸化アルカリを添加したりすることが好ましい。
【0036】
また、PPS系樹脂(A-3)は、実質的に線状構造を有するものが、反応性、相溶性等の点から好ましい。実質的に線状構造を有するPPS系樹脂を製造する方法は、特に特定されないが、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどの有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロゲン化芳香族化合物及び酢酸リチウム等の有機アルカリ金属カルボン酸塩を反応させる方法、有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロゲン化芳香族化合物を反応させる重合反応の途上で多量の水を添加しつつ且つ同時に重合温度を上昇させる水添加二段重合法などが挙げられる。
【0037】
本発明で好適に使用される実質的に線状構造を有するPPS系樹脂は、酸処理の後洗浄されたものであることが特に好ましい。
【0038】
この酸処理に使用される酸としては、PPS系樹脂を分解する作用を有するものでなければ特に制限はないが、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸、プロピル酸等を挙げることができ、なかでも酢酸、塩酸が好ましく使用される。酸処理の方法としては、酸または酸水溶液にPPS系樹脂を浸漬する方法等がある。この際、必要に応じ撹拌または加熱することができる。例えば、酢酸により酸処理する場合、pH4の水溶液を80~90℃に加熱した中にPPS系樹脂を浸漬し、30分間撹拌することにより、十分な効果が得られる。酸処理されたPPS系樹脂は、残存している酸または塩等を物理的に除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。このときに使用される水としては、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。
【0039】
上記酸処理には、PPS系樹脂の粉粒体を用いても、或いは重合後のスラリ-状態にあるPPS系樹脂をそのまま酸処理に供してもよい。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)を含む。前記多分岐型ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する。
【0041】
本発明において多分岐型ブロック共重合体とは、複数の重合体ブロックを有し、これら重合体ブロック同士、若しくは重合体ブロックを有する鎖及び他の重合体鎖が分岐点を介さずに結合、又は、分岐点を介して、直接若しくは間接的に結合をしているものを意味する。ここで、分岐点を介して直接結合とは、分岐点にそれぞれの重合体ブロック(又は重合体鎖)が直接結合していることを意味し、分岐点を介して間接的に結合とは、分岐点に少なくとも一つの重合体ブロック(又は重合体鎖)が連結鎖を通じて分岐点に結合していることを意味する。
【0042】
つまり、直接分岐点に結合とは、重合体ブロック(又は重合体鎖)を構成する単量体単位に由来する部分に、分岐点が直接結合していることを意味する。連結鎖を通じて分岐点と結合とは、重合体ブロック(又は重合体鎖)を構成する単量体単位に由来する部分に、連結鎖となる一方の末端が結合し、その連結鎖の他方の末端に、分岐点が直接結合していることを意味する。
【0043】
例えば、後述するスター型ブロック共重合体では、典型的には、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロックを含有する3以上の鎖と、上記分岐点に相当する核(典型的には、後述するカップリング剤に含まれるアニオン重合活性末端と反応する官能基に由来する部分)が直接結合している。
【0044】
また例えば、後述するグラフト型ブロック共重合体では、主鎖に1,2-結合をしたブタジエン単位が含まれる場合、1,2-結合をしたブタジエン単位に分岐点が結合する場合、下記式(III-1)で示される場合が、主鎖に直接分岐点と結合している場合であり、下記式(III-2)で示される場合が、主鎖に連結鎖を通じて分岐点と結合している場合であり、下記式(III-3)で示される側鎖のCH2部分に直接、重合体鎖が結合している場合が、分岐点を介さずに直接結合している場合である。
【0045】
【化10】
【0046】
上記式(III-1)および(III-2)中、Z0は分岐点であり、R2aは連結鎖である。R2aは2価の有機基であるが、ヘテロ原子を有していてもよいアルキレン基が好ましい。
【0047】
重合体ブロック(又は重合体鎖)が直接分岐点に結合していること、また、重合体ブロック(又は重合体鎖)が分岐点を介さずに直接結合していることが好ましい一態様である。
【0048】
本発明で使用する多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)は、
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する3以上の鎖(bα)と、カップリング剤に由来する1つの核(bβ)とを含むスター型ブロック共重合体(B-1-1)又はその水素添加物(B-1-2)(以下、これらを総称してスター型ブロック共重合体等(B-1)ともいう。)、及び
共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む主鎖(bγ)と、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する側鎖(bδ)とを含むグラフト型ブロック共重合体(B-2-1)又はその水素添加物(B-2-2)(以下、これらを総称してグラフト型ブロック共重合体等(B-2)ともいう。)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことに特徴がある。
【0049】
[スター型ブロック共重合体(B-1-1)]
上記スター型ブロック共重合体(B-1-1)は、3以上の鎖(bα)と、カップリング剤に由来する1つの核(bβ)とを含む。
スター型ブロック共重合体(B-1-1)では、典型的には、上記鎖(bα)と、上記分岐点に相当する核(bβ)(典型的には、後述するカップリング剤に含まれるアニオン重合活性末端と反応する官能基に由来する部分)が直接結合している。また、かかるスター型ブロック共重合体は、直鎖状ブロック共重合体との混合物であってもよい。
【0050】
得られる樹脂組成物の耐衝撃性及び耐ヒートショック性の向上、製造の容易さから、スター型ブロック共重合体(B-1-1)1つあたりに含まれる鎖の平均本数は、好ましくは3~50本、より好ましくは5~30本、さらに好ましくは7~20本である。かかる平均本数は、下記式(β1-1)により求めることができる。
(平均本数)=(スター型ブロック共重合体(B-1-1)の数平均分子量)÷(鎖(bα)の数平均分子量)(β1-1)
【0051】
(核(bβ))
上記核(bβ)は、カップリング剤に由来する。このカップリング剤は、鎖(bα)となる重合体の活性末端、典型的には、アニオン重合活性末端と反応する官能基を2以上有する化合物である。
【0052】
上記カップリング剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、1,2,4-トリビニルベンゼン、1,3-ジビニルナフタレン、1,8-ジビニルナフタレン、1,3,5-トリビニルナフタレン、2,4-ジビニルフェニル、3,5,4-トリビニルナフタレン、1,2-ジビニル-3,4-ジメチルベンゼン、1,5,6-トリビニル-3,7-ジエチルナフタレン等のアルケニル基を2つ以上有する芳香族ビニル化合物;
クロロホルム、四塩化炭素、ブロモホルム、四臭化炭素、ヨードホルム、テトラヨードメタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,1,2,2-テトラブロモエタン、ヘキサクロロエタン、1,2,3-トリクロロプロパン、1,2,3-トリブロモプロパン、1,2,4-トリクロロプロパン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、1,4-ビス(トリクロロメチル)ベンゼン等のハロゲン基を2つ以上有するハロゲン化炭化水素;
1,3-ジクロロ-2-プロパノン、2,4-ジブロモ-3-ペンタノン、1,2,4,5-ジエポキシ-3-ペンタノン、1,2,11,12-ジエポキシ-8-ペンタデカノン等のハロゲン基、エポキシ基に代表される、アニオン活性末端と反応可能な官能基を2つ以上有するケトン化合物;
ベンゼン-1,2,4-トリイソシアネート、ナフタレン-1,2,5,7-テトライソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ナフタレン-1,3,7-トリイソシアネート等のイソシアネート基を2つ以上有する化合物;
エポキシ化1,2-ポリブタジエン、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、1,2,5,6,9,10-トリエポキシデカン等のエポキシ基を2つ以上有する化合物;
シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、テレフタル酸ジエチル等のカルボン酸エステル基を2つ以上有する化合物;
ピロメリット酸無水物等の酸無水物基を2つ以上有する化合物;
ビスジメトキシメチルシリルエタン、ビスジエトキシメチルシリルエタン、ビスジエトキシエチルシリルペンタン、ビスジブトキシメチルシリルエタン、ビストリメトキシシリルへキサン、ビストリエトキシシリルエタン、ビストリプロポキシシリルペンタン、テトラエトキシシラン、ビスジクロロメチルシリルエタン、ビスジブロモエチルシリルヘキサン、ビスジブロモプロピルシリルヘプタン、ビストリクロロシリルエタン、ビストリブロモシリルヘキサン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、(ジクロロメチル)トリクロロシラン、ヘキサクロロジシラン等のハロゲン基、アルコキシ基に代表される、アニオン活性末端と反応可能な官能基を2つ以上有するシラン化合物;
テトラクロロスズ、メチルトリクロロスズ、ブチルトリクロロスズ、テトラメトキシスズ等のハロゲン基、アルコキシ基に代表される、アニオン活性末端と反応可能な官能基を2つ以上有するスズ化合物;などが挙げられる。
【0053】
上記平均本数の調整、入手容易性、製造コストなどの観点からは、これらカップリング剤の中でも、上記アルケニル基を2つ以上有する芳香族ビニル化合物が好ましく、ジビニルベンゼンがより好ましい。
【0054】
また、上記平均本数の調整などの観点からは、上記アルケニル基を2つ以上有する芳香族ビニル化合物とアルケニル基を1つ有する芳香族ビニル化合物との混合物をカップリング剤として使用することができる。
上記アルケニル基を1つ有する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチル-o-メチルスチレン、α-メチル-m-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、β-メチル-o-メチルスチレン、β-メチル-m-メチルスチレン、β-メチル-p-メチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチル-2,6-ジメチルスチレン、α-メチル-2,4-ジメチルスチレン、β-メチル-2,6-ジメチルスチレン、β-メチル-2,4-ジメチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、α-クロロ-o-クロロスチレン、α-クロロ-m-クロロスチレン、α-クロロ-p-クロロスチレン、β-クロロ-o-クロロスチレン、β-クロロ-m-クロロスチレン、β-クロロ-p-クロロスチレン、2,4,6-トリクロロスチレン、α-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、α-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、o-ブロモメチルスチレン、m-ブロモメチルスチレン、p-ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン、N-ビニルカルバゾール等が挙げられる。これら芳香族ビニル化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
これらの中でも、製造コストの観点から、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、及びこれらの混合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0055】
(鎖(bα))
上記スター型ブロック共重合体(B-1-1)には3以上の鎖(bα)が含まれる。この鎖(bα)には、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)が含有される。
【0056】
(重合体ブロック(b1))
鎖(bα)に含有される重合体ブロック(b1)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位(以下、「芳香族ビニル化合物単位」と略称することがある。)を含有する。重合体ブロック(b1)中、芳香族ビニル化合物単位の含有量は、得られるスター型ブロック共重合体等(B-1)の樹脂組成物中での分散が細かく、得られる樹脂組成物の耐衝撃性(機械的特性)、耐ヒートショック性に優れるという観点から、好ましくは70モル%超であり、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、よりさらに好ましくは95モル%以上であり、実質的に100モル%であることが特に好ましい。
【0057】
上記芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチル-o-メチルスチレン、α-メチル-m-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、β-メチル-o-メチルスチレン、β-メチル-m-メチルスチレン、β-メチル-p-メチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチル-2,6-ジメチルスチレン、α-メチル-2,4-ジメチルスチレン、β-メチル-2,6-ジメチルスチレン、β-メチル-2,4-ジメチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、α-クロロ-o-クロロスチレン、α-クロロ-m-クロロスチレン、α-クロロ-p-クロロスチレン、β-クロロ-o-クロロスチレン、β-クロロ-m-クロロスチレン、β-クロロ-p-クロロスチレン、2,4,6-トリクロロスチレン、α-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、α-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、o-ブロモメチルスチレン、m-ブロモメチルスチレン、p-ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン、N-ビニルカルバゾール等が挙げられる。これら芳香族ビニル化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0058】
これらの中でも、製造コストと物性バランスの観点から、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、及びこれらの混合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0059】
本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、重合体ブロック(b1)は芳香族ビニル化合物以外の他の不飽和単量体に由来する構造単位(以下、「他の不飽和単量体単位」と略称することがある。)を、重合体ブロック(b1)中30モル%以下の割合で含有していてもよいが、好ましくは20モル%未満、より好ましくは15モル%未満、さらに好ましくは10モル%未満、よりさらに好ましくは5モル%未満、特に好ましくは0モル%である。
【0060】
該他の不飽和単量体としては、例えばブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、ミルセン、ファルネセン、イソブチレン、メタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン等からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。重合体ブロック(b1)が該他の不飽和単量体単位を含有する場合の結合形態は特に制限はなく、ランダム、テーパー状のいずれでもよい。
【0061】
(数平均分子量)
鎖(bα)に含まれる重合体ブロック(b1)の数平均分子量(Mn)は特に制限はないが、重合体ブロック(b1)のMnは、好ましくは3,000~60,000、より好ましくは4,000~50,000である。スター型ブロック共重合体(B-1-1)の鎖(bα)が、上記範囲内のMnである重合体ブロック(b1)を有することにより、機械強度がより向上し、成形加工性にも優れる。
なお、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0062】
(重合体ブロック(b1)の含有量)
スター型ブロック共重合体(B-1-1)における重合体ブロック(b1)の含有量は、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。重合体ブロック(b1)の含有量が前記上限値以下であれば、得られるスター型ブロック共重合体等(B-1)は適度な柔軟性および成形性を有する傾向にある。また、上記重合体ブロック(b1)の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。重合体ブロック(b1)の含有量が前記下限値以上であれば、得られるスター型ブロック共重合体等(B-1)の樹脂組成物中での分散が細かく、その樹脂組成物の耐衝撃性、耐ヒートショック性に優れ、また各種用途に好適な機械的特性及び成形加工性を有するスター型ブロック共重合体等(B-1)とできる傾向にある。
なお、スター型ブロック共重合体(B-1-1)における重合体ブロック(b1)の含有量は、1H-NMR測定により求めることができる。
【0063】
鎖(bα)には、前記重合体ブロック(b1)を少なくとも1つ含有されていればよい。鎖(bα)に重合体ブロック(b1)が2つ以上含有されている場合には、それら重合体ブロック(b1)は、同一であっても異なっていてもよい。また、異なる鎖(bα)に、含有される重合体ブロック(b1)は、同一であっても異なっていてもよい。なお、本明細書において「重合体ブロックが異なる」とは、重合体ブロックを構成するモノマー単位、数平均分子量、立体規則性、及び複数のモノマー単位を有する場合には各モノマー単位の比率及び共重合の形態(ランダム、グラジェント、ブロック)のうち少なくとも1つが異なることを意味する。
【0064】
(重合体ブロック(b2))
鎖(bα)に含有される重合体ブロック(b2)は、共役ジエン化合物に由来する構造単位(以下、「共役ジエン化合物単位」と略称することがある。)を含有する。重合体ブロック(b2)中、共役ジエン化合物単位の含有量は、得られる樹脂組成物の成形加工性、耐衝撃性、耐ヒートショック性の観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上であり、実質的に100モル%であることが特に好ましい。
【0065】
上記共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、ミルセン、ファルネセンなどが挙げられる。これら共役ジエン化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0066】
これらの中でも、ブタジエン、イソプレン、ファルネセンが好ましい。また、共役ジエン化合物として、イソプレンを含むことが好ましい一形態である。例えば、共役ジエン化合物として、イソプレン単独で使用、イソプレンとブタジエンの併用、イソプレンとファルネセンの併用などが好ましい。
【0067】
例えば、イソプレンとブタジエンを併用する場合、それらの配合比率[イソプレン/ブタジエン](質量比)に特に制限はないが、好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、さらに好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~65/35である。なお、該混合比率[イソプレン/ブタジエン]をモル比で示すと、好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、さらに好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~55/45である。
【0068】
鎖(bα)に重合体ブロック(b2)が2つ以上含有されている場合には、それら重合体ブロック(b2)は、同一であっても異なっていてもよい。また、異なる鎖(bα)に、含有される重合体ブロック(b2)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0069】
(重合体ブロック(b2)のビニル結合量)
重合体ブロック(b2)の共役ジエン化合物成単位のビニル結合量は特に制限されないが、そのビニル結合量は、好ましくは1~60モル%、より好ましくは2~40モル%、さらに好ましくは3~30モル%、特に好ましくは4~20モル%である。なお、重合体ブロック又は重合体鎖などのビニル結合量は、後述するアニオン重合により、多分岐型ブロック共重合体を製造する場合には、使用する溶媒の種類、必要に応じて使用される極性化合物、重合温度などを制御することにより所望の値とすることができる。
【0070】
本発明において、「ビニル結合量」とは、特定の重合体、重合体鎖、または重合体ブロック(例えば、重合体ブロック(b2))に含まれる、共役ジエン化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、1,2-結合、3,4-結合(ファルネセン以外の場合)、及び3,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン化合物に由来する構造単位(1,4-結合(ファルネセン以外の場合)及び1,13-結合(ファルネセンの場合)以外で結合をしている共役ジエン化合物に由来する構造単位)の合計モル%を意味する。なお、本発明において、水素添加前の重合体に含まれる共役ジエン化合物に由来する構造単位での結合形態から求められるビニル結合量を、水素添加後の重合体においても、その重合体のビニル結合量と定義する。ビニル結合量は、水素添加前の重合体において、1H-NMRを用いて1,2-結合、3,4-結合(ファルネセン以外の場合)、及び3,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン化合物に由来する構造単位に由来のピークと1,4-結合(ファルネセン以外の場合)及び1,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン化合物に由来する構造単位に由来するピークの面積比から算出する。
【0071】
(その他の構造単位)
重合体ブロック(b2)は、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、前記共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。この場合、重合体ブロック(b2)において、共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは50モル%未満、より好ましくは30モル%未満、さらに好ましくは20モル%未満、よりさらに好ましくは10モル%未満、特に好ましくは0モル%である。
【0072】
該他の重合性の単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、N-ビニルカルバゾール、ビニルナフタレン及びビニルアントラセン等の芳香族ビニル化合物、並びにメタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1,3-シクロヘプタジエン、1,3-シクロオクタジエン等からなる群から選択される少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられる。
【0073】
(数平均分子量)
鎖(bα)に含まれる重合体ブロック(b2)のMnは特に制限はないが、成形加工性等の観点から、重合体ブロック(b2)のMnは、好ましくは10,000~800,000であり、より好ましくは20,000~600,000であり、さらに好ましくは30,000~500,000、特に好ましくは50,000~300,000、最も好ましくは70,000~200,000である。
【0074】
鎖(bα)には、上記重合体ブロック(b2)を少なくとも1つ有していればよい。ブロック共重合体が重合体ブロック(b2)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(b2)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0075】
本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、鎖(bα)には、前記重合ブロック(b1)及び(b2)以外の他の単量体で構成される重合ブロックを含有していてもよい。鎖(bα)全体に対する、前記重合体ブロック(b1)及び前記重合体ブロック(b2)の合計含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、実質的に100質量%であることが特に好ましい。90質量%以上であれば、耐衝撃性及び耐ヒートショック性がより向上した樹脂組成物が得られる。
【0076】
(重合体ブロック(b1)と重合体ブロック(b2)の結合様式)
鎖(bα)に重合体ブロック(b1)と重合体ブロック(b2)とが含有されている限りその結合形式は限定されず、直鎖状、分岐状、放射状、又はこれらの2つ以上が組合わさった結合様式のいずれでもよい。また、これら重合ブロック同士が直接結合していても、他の重合ブロックを介して間接的に結合していてもよい。これらの中でも、重合体ブロック(b1)と重合体ブロック(b2)の結合形式は、これら重合体ブロックが直接結合し、直鎖状であることが好ましい。このような結合形式の例としては、重合体ブロック(b1)をb1、重合体ブロック(b2)をb2と表し、核(bβ)に近い順から各重合体ブロックを表したときに、b2-b1で示されるジブロック共重合体鎖、b2-b1-b2又はb1-b2-b1で示されるトリブロック共重合体鎖、b2-b1-b2-b1又はb1-b2-b1-b2で示されるテトラブロック共重合体鎖、b2-b1-b2-b1-b2又はb1-b2-b1-b2-b1で示されるペンタブロック共重合体鎖などが挙げられる。
【0077】
これらの中でも、耐衝撃性及び耐ヒートショック性がより向上した樹脂組成物が得られること、製造が容易なことなどから、核(bβ)に近い順から各重合体ブロックを表したときに、b2-b1で示されるジブロック共重合体鎖が好ましい。
【0078】
前記スター型ブロック共重合体(B-1-1)の製造方法は特に制限はない。例えば、共役ジエン化合物を含む単量体、及び芳香族ビニル化合物を含む単量体を重合して、重合体ブロック(b2)及び重合体ブロック(b1)を含有する鎖(bα)となる活性末端重合体を作製し、その活性末端と、カップリング剤とを反応させることにより、3以上の鎖(bα)と核(bβ)とを含むスター型ブロック共重合体(B-1-1)が作製できる。
【0079】
鎖(bα)となる活性末端重合体は、公知の重合方法を用いて製造することができる。例えば、重合末端に不活性な溶媒中、アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物を開始剤として、必要に応じて極性化合物の存在下で、単量体をアニオン重合させることにより、活性末端重合体を得ることができる。
【0080】
上記活性末端重合体は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する活性末端重合体である。活性末端重合体を構成する、重合体ブロック(b1)及び(b2)の構造単位となる単量体の具体例、好適態様等の説明、また、その重合体に含まれ得る他の単量体単位等に関する説明は、前記鎖(bα)に関する説明と同様である。
【0081】
アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物としては、有機アルカリ金属化合物が好ましく、有機リチウム化合物がより好ましい。上記有機リチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウムなどが挙げられる。
【0082】
上記溶媒としては、例えば、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0083】
上記アニオン重合の際には、極性化合物を添加してもよい。極性化合物は、アニオン重合において、通常、反応を失活させず、共役ジエン化合物単位部分のミクロ構造(ビニル結合量)を調整するため用いられる。極性化合物としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル、2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物などが挙げられる。極性化合物は、アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物の活性末端1モルに対して、通常0.01~1000モルの量で使用される。
【0084】
上記アニオン重合の温度は、通常-80~150℃の範囲、好ましくは0~100℃の範囲、より好ましくは10~90℃の範囲である。重合様式は回分式あるいは連続式のいずれでもよい。
【0085】
活性末端重合体の活性末端と、カップリング剤との反応は、典型的には、上述のようにしてアニオン重合で得られた活性末端重合体を含む溶液に、カップリング剤を添加することによって行われる。これにより、活性末端重合体の末端アニオンと、カップリング剤中アニオン重合活性末端と反応する官能基とが反応する。
【0086】
カップリング剤の、活性末端重合体に対する添加量は、例えばスター型ブロック共重合体あたりの鎖(bα)の本数が所望の本数となるように、適宜設定すればよい。カップリング剤として、アルケニル基を2つ以上有する芳香族ビニル化合物と、アルケニル基を1つ有する芳香族ビニル化合物との混合物を用いる場合を除き、活性末端重合体の活性末端1モルあたりのカップリング剤の添加量は、通常0.5~20モル、好ましくは1~10モル、より好ましくは2~5モルである。一方、カップリング剤として、アルケニル基を2つ以上有する芳香族ビニル化合物と、アルケニル基を1つ有する芳香族ビニル化合物との混合物を用いる場合、活性末端重合体の活性末端1モルあたりのアルケニル基を2つ以上有する芳香族ビニル化合物の添加量は、通常0.5~20モル、好ましくは1~10モル、より好ましくは2~5モルである。また、活性末端重合体の活性末端1モルあたりのアルケニル基を1つ以上有する芳香族ビニル化合物の添加量は、通常2~80モル、好ましくは4~40モルである。
【0087】
上記反応の温度は、通常-80~150℃の範囲、好ましくは0~100℃の範囲、より好ましくは10~90℃の範囲である。上記反応の時間は、通常0.5~50時間の範囲、好ましくは1~20時間の範囲である。反応様式は回分式あるいは連続式のいずれでもよい。
【0088】
上記カップリング剤は希釈して用いてもよく、希釈溶媒としては、活性末端に対して不活性で反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、トルエン、ベンゼン、キシレン等の飽和脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素が挙げられる。
【0089】
また、カップリング反応の際に添加剤としてルイス塩基を加えてもよい。ルイス塩基としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン等のエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエチルアミン、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、N-メチルモルホリン等のアミン類などが挙げられる。これらルイス塩基は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0090】
上記カップリング反応においては、上記活性末端重合体を合成した反応容器に上記カップリング剤を添加してもよいし、逆に上記カップリング剤に対して上記活性末端重合体を添加してもよい。また、上述のように、上記活性末端重合体、上記カップリング剤のいずれも、必要に応じて溶媒で希釈して用いてもよい。また、上記活性末端重合体は1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよく、上記カップリング剤も、1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0091】
上記カップリング反応におけるカップリング率は50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。上記カップリング率が50%未満では、得られる樹脂組成物の耐衝撃性及び耐ヒートショック性が低下するため好ましくない。カップリング率は、GPC測定で得られたカップリング未反応の上記活性末端重合体に由来する成分のピーク面積と全てのピーク面積の総和を用いて下記式(β1-2)より求める。
(カップリング率(%))=[{(全てのピーク面積の総和)-(活性末端重合体に由来する成分のピーク面積)}/(全てのピーク面積の総和)]×100 (β1-2)
カップリング率はカップリング剤の添加量を多くしたり、ルイス塩基の添加量を多くしたり、反応温度を高くしたり、反応時間を長くしたりすることによって高めることができる。カップリング反応は、カップリング率が所望の範囲になるまで行うことができる。その後、メタノール、イソプロパノール等の重合停止剤を添加することで、カップリング反応を停止できる。
【0092】
[グラフト型ブロック共重合体(B-2-1)]
グラフト型ブロック共重合体(B-2-1)では、主鎖(bγ)と側鎖(bδ)とを含む。グラフト型ブロック共重合体では、上記式(III-1)~(III-3)で例示したように、主鎖(bγ)と側鎖(bδ)が分岐点を介さずに直接結合、又は分岐点を介して、主鎖(bγ)と側鎖(bδ)が直接若しくは間接的に、結合している。なお、本発明でグラフト型ブロック共重合体とは、高分子鎖からなる主鎖を幹、高分子鎖からなる側鎖を枝、として有し、その重合体鎖中、典型的には側鎖中に、異なる重合体ブロックを2以上有する重合体をいう。
【0093】
(主鎖(bγ))
主鎖(bγ)は、共役ジエン化合物に由来する構造単位(以下、「共役ジエン化合物単位」と略称することがある。)を含有する。主鎖(bγ)中、共役ジエン化合物単位の含有量は、製造容易性や得られる樹脂組成物の成形加工性、耐衝撃性、耐ヒートショック性の観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上であり、実質的に100モル%であることが特に好ましい。
【0094】
上記共役ジエン化合物の具体例、好適態様等の説明は、前記スター型ブロック共重合体(B-1-1)の鎖(bα)に含まれる重合体ブロック(b2)に関する説明と同様である。
【0095】
主鎖(bγ)は、その重合体鎖骨格中に、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物などのビニル単量体に由来する構造単位以外のユニット(例えば、カップリング剤の残渣に由来するSi原子やN原子を有するユニット)を含まないことが好ましい。主鎖骨格中に前記ビニル単量体に由来する構造単位以外のユニットが含まれると、後述する分岐点であるヘテロ原子と炭素の結合が切断されるような条件、又はせん断若しくは熱によって、主鎖骨格が開裂するため、物性が低下しやすい傾向にある。なお、主鎖となる重合体鎖末端には、単量体に由来する構造単位以外の基を有していてもよい。
【0096】
(主鎖(bγ)のビニル結合量)
主鎖(bγ)の共役ジエン化合物成単位のビニル結合量は特に制限されないが、そのビニル結合量は、好ましくは3~80モル%、より好ましくは4~60モル%、さらに好ましくは6~30モル%である。
【0097】
(その他の構造単位)
主鎖(bγ)は、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、前記共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。この場合、主鎖(bγ)において、共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは50モル%未満、より好ましくは30モル%未満、さらに好ましくは20モル%未満、よりさらに好ましくは10モル%未満、特に好ましくは0モル%である。
上記他の重合性の単量体の具体例の説明は、前記スター型ブロック共重合体(B-1-1)の鎖(bα)に含まれる重合体ブロック(b2)に関する説明と同様である。
【0098】
主鎖(bγ)のMnは1,000以上1,000,000以下であることが好ましい一態様であり、2,000以上500,000以下がより好ましく、3,000以上100,000以下がさらに好ましい。上記主鎖(bγ)のMnが前記範囲内であると、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。
【0099】
(側鎖(bδ))
上記グラフト型ブロック共重合体(B-2-1)には側鎖(bδ)が含まれる。この鎖(bδ)には、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)が含有される。
上記側鎖(bδ)に含まれる重合体ブロック(b1)及び(b2)に関する具体例、好適態様等の説明、また側鎖(bδ)に含まれ得る他の重合体ブロックに関する説明は、前記スター型ブロック共重合体(B-1-1)の鎖(bα)に関する説明と同様である。
【0100】
側鎖(bδ)は、その重合体鎖骨格中に、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物などのビニル単量体に由来する構造単位以外のユニット(例えば、カップリング剤の残渣に由来するSi原子やN原子を有するユニット)を含まないことが好ましい。側鎖(b)の重合体鎖骨格中に前記ビニル単量体に由来する構造単位以外のユニットが含まれると、後述する分岐点であるヘテロ原子と炭素の結合が切断されるような条件、又はせん断若しくは熱、によって、側鎖(b)の重合体鎖骨格が開裂するため、物性が低下しやすい傾向にある。なお、側鎖となる重合体鎖末端には、単量体に由来する構造単位以外の基を有していてもよい。
【0101】
上記グラフト型ブロック共重合体(B-2-1)は、例えば、(i)マクロモノマー(側鎖の構造単位となる単量体を重合した重合体の活性末端に、重合性官能基を有する化合物を反応させて得られるマクロモノマー)と主鎖の構造単位となる単量体とを重合する方法;(ii)テトラメチルエチレンジアミンなどの極性化合物の存在下であらかじめ合成した主鎖を構成する重合体と有機アルカリ金属化合物とを反応させることで主鎖をリチオ化した後に、側鎖の構造単位となる単量体を重合する方法;(iii)主鎖の構成要素となる2つの活性末端を有する重合体と側鎖の構成要素となる1つの活性末端を有する重合体の混合物を調製し、この混合物に3以上の反応性部位を有するカップリング剤を加えて反応させる方法;(iv)あらかじめ合成した主鎖の構成要素となる重合体を官能基で変性し、該官能基変性重合体と側鎖の構造単位となる単量体を重合した重合体の活性末端とを反応させる方法;などが挙げられる。
【0102】
上記グラフト型ブロック共重合体(B-2-1)の好ましい一形態である、グラフト型ブロック共重合体(B-2-1A)は、
共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体からなる主鎖(bγ)に、分岐点である価数が3以上のヘテロ原子1つを介して、上記重合体ブロック(b1)及び重合体ブロック(b2)を含有する側鎖(bδ)が結合した構造を有しており、
前記主鎖(bγ)は、直接又は連結鎖を通じて分岐点と結合し、
前記側鎖(bδ)は直接分岐点に結合しており、
前記ヘテロ原子がSi、Sn、Ge、Pb、P、B、及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、
前記分岐点の少なくとも1つには、アルコキシ基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基(c)が直接結合しており、
グラフト型ブロック共重合体(B-2-1A)は、1分子あたりの前記分岐点に直接結合する官能基(c)の平均個数Xとグラフト型ブロック共重合体(B-2-1A)1分子あたりの分岐点の平均個数Yが下記式(2);
0<(X/Y)<1 (2)
の関係を満たすものである。
【0103】
かかるグラフト型ブロック共重合体(B-2-1A)は、例えば、前述したアニオン重合などにより、主鎖(bγ)となる共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む未変性共役ジエン系重合体(F')を作製した後に、その未変性共役ジエン系重合体(F')に含まれる炭素-炭素二重結合に、下記式(IV)で示されるシラン化合物(IV)(例えば、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン)を未変性共役ジエン系重合体(F')に含まれる炭素-炭素二重結合に、必要に応じてラジカル発生剤(例えば、t-ブチルパーオキシピバレート)の存在下で、ラジカル付加反応させ、
【0104】
【化11】
【0105】
(式(IV)中、R4は炭素数1~6の2価のアルキレン基を示し、R5、及びR6はそれぞれ独立に炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルキル基、又は水素原子を示し、nは1~3の整数であり、nが2以上の場合、R5は同一でも異なっていてもよく、3-nが2以上の場合、R6は同一でも異なっていてもよい。)
【0106】
下記式(V)で示される部分構造を官能基として有する官能基変性共役ジエン系重合体(F)を作製する工程;
【0107】
【化12】
(式(V)中、R4、R5、R6、及びnの定義は式(IV)と同一である。)
【0108】
得られた官能基変性共役ジエン系重合体(F)に、側鎖(bδ)となるアニオン重合により作製された、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体ブロック(b2)を含有する活性末端重合体(I)をカップリング反応させる工程;
を含む製造方法によって作製できる。
【0109】
この製造方法でグラフト型ブロック共重合体(B-2-1A)を製造する場合には、上記分岐点に直接結合する官能基(c)の個数を所望の範囲に調整するために、前記カップリング反応の工程の後に、前記グラフト型ブロック共重合体(B-2-1A)中のアルコキシ基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの残存する官能基(未反応で存在する官能基V)の一部を不活性化する工程(以下、不活性化工程と称する);を含むことが好ましい一態様である。アルコキシ基及び水酸基を不活性化するために用いる試薬としては、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム等のアルキルリチウム類が使用できる。
【0110】
なお上記製造方法によりグラフト型ブロック共重合体(B-2-1A)を製造する場合には、平均個数(X/Y)を(2)の条件とするためには、(X/Y)の値が1以上となるようなモル比で上記カップリング反応を行い、その後、(X/Y)が1未満となるように上述した残存する官能基(未反応の官能基V)の一部を不活性化する方法が挙げられる。
【0111】
上記グラフト型ブロック共重合体(B-2-1)の他の好ましい一形態である、グラフト型ブロック共重合体(B-2-1B)は、共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体からなる主鎖(bγ)が、上記重合体ブロック(b1)及び重合体ブロック(b2)を含有する側鎖(bδ)と、主鎖(bγ)に含まれる分岐部分となる単量体単位と直接結合したグラフト型ブロック共重合体(B-2-1B)である。
前記分岐部分となる単量体単位(及び連結部位)がヘテロ原子を含まないことが好ましい。グラフト型ブロック共重合体(B-2-1B)が、上記分岐部分などの分岐点にヘテロ原子を含む場合、せん断安定性や熱安定性が悪化する場合がある。
【0112】
上記グラフト型ブロック共重合体(B-2-1B)では、主鎖(bγ)に含まれる、分岐部分となる単量体単位に含まれる側鎖(bδ)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基でないことが好ましい。連結部分が前記芳香族基である場合には、せん断安定性や熱安定性が悪化する場合がある。ここでいう、芳香族基とは、芳香族ビニル化合物が有する、CH2=CR(Rは、水素、置換されていてもよいアルキル基、又は置換されていてもよいアリール基)以外の芳香環を含む基を意味する。
【0113】
ここで「連結部分が、芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではない」とは、主鎖に含まれる分岐部分となる単量体単位自体が、芳香族ビニル化合物以外の単量体(例えば共役ジエン)に由来する単量体単位であること、あるいは主鎖に含まれる分岐部分となる単量体単位自体が、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位であっても、その芳香族ビニル化合物が有する芳香族基に、側鎖(bδ)が結合していないこと、を意味する。
以下、具体例で説明をする。芳香族ビニル化合物が例えば、芳香族基中にアニオン活性が高い(有機リチウム化合物との反応性が高い)置換基を有する4-メチルスチレンの場合は、4-メチルスチレン由来のメチル基の部分の反応性が高く、このメチル基の部分に側鎖(bδ)が結合してしまう。
【0114】
一方、アニオン活性が高い置換基を芳香族基中には有さない芳香族ビニル化合物、例えばスチレンの場合は、主鎖(bγ)の骨格となる、スチレンに由来する単量体単位の(-CH2-CH2-)部分に含まれる、ベンゼン環が結合するCH2に隣接するCH2の部分に側鎖(bδ)が結合する。この場合、スチレン由来のベンゼン環には、側鎖(bδ)が結合しておらず、主鎖(bγ)に含まれる分岐部分中の連結部分が、芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではないことになる。
【0115】
【化13】
【0116】
主鎖(bγ)に芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む場合には、この芳香族ビニル化合物単位となる芳香族ビニル化合物としては、スチレン、およびα-メチルスチレンが好ましい。
【0117】
上記グラフト型ブロック共重合体(B-2-1B)1分子あたり側鎖(bδ)の平均本数は、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましく、15以上であることが特に好ましい。グラフト型ブロック共重合体(B-2-1B)1分子あたり側鎖(bδ)の平均本数は、例えば、後述する製造方法によりグラフト型ブロック共重合体(B-2-1B)を製造する場合には、その工程(A'-1)における共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体(M)をリチオ化反応に使用する有機アルカリ金属化合物と主鎖の構造単位となる共役ジエン系重合体の仕込み比より算出される。
【0118】
グラフト型ブロック共重合体(B-2-1B)では、側鎖(bδ)の側鎖密度が1.6モル%以上であることが好ましく、2.0モル%以上であることがより好ましく、3.0モル%以上がさらに好ましく、4.5モル%以上がよりさらに好ましく、6.0モル%以上が特に好ましい。
【0119】
本発明において、側鎖(bδ)の側鎖密度は、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)1分子あたり側鎖(bδ)の平均本数と主鎖(bγ)の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を用いて下記式(A)より求める。
(側鎖密度)=(グラフト型ブロック共重合体(B-2-1B)1分子あたり側鎖(bδ)の平均本数)/[(主鎖(bγ)の数平均分子量Mn)/(スチレン単位の分子量)]×100 (A)
【0120】
なお、主鎖(bγ)のMnは、後述するグラフト型ブロック共重合体(B-2-1B)の製造方法でグラフト型ブロック共重合体(B-2-1B)を製造する場合、主鎖の構成要素となるあらかじめ合成した共役ジエン系重合体(M)の標準ポリスチレン換算のMnである。
【0121】
かかるグラフト型ブロック共重合体(B-2-1B)は、例えば、前述したアニオン重合などにより、主鎖(bγ)となる共役ジエン化合物に由来する構造単位を含む重合体(M)を作製した後に、その重合体(M)を有機リチウム化合物と反応させることにより、重合体(M)に含まれるアニオン活性部位をリチオ化する工程(A'-1);
上記重合体ブロック(b1)及び重合体ブロック(b2)を含有する側鎖(bδ)となるように、共役ジエン化合物、および芳香族ビニル化合物などの単量体を添加して、重合体(M)中のリチオ化された部分から重合して、主鎖である重合体(M)に対し側鎖を形成し、共役ジエン系グラフト重合体を作製する工程(B');
を含む製造方法によって作製できる。かかる製造方法の場合、重合体(M)に含まれるアニオン活性部位をリチオ化する工程の後に、トリイソブチルアルミ等のルイス酸を添加する工程(A'-2)を含んでいてもよい。
【0122】
なお上記製造方法によりグラフト型ブロック共重合体(B-2-1A)を製造する場合には、側鎖密度を上記所望の条件とするためには、重合体(M)1個に対する、重合体(M)に含まれるアニオン活性部位をリチオ化する個数を制御することなどにより行うことができる。
【0123】
(水素添加物)
スター型ブロック共重合体(B-1-1)及びグラフト型ブロック共重合体(B-2-1)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、水素添加されていない多分岐型ブロック共重合体(以下、未水添多分岐型ブロック共重合体ともいう)は、水素添加され、スター型ブロック共重合体の水素添加物(B-1-2)及びグラフト型ブロック共重合体の水素添加物(B-2-2)として用いられてもよい。
かかる水素添加物の作製は、例えば、未水添多分岐型ブロック共重合体を不活性有機溶媒中に溶解または分散し、水添触媒の存在下に水素添加反応(水添反応)することにより行われる。水添反応により、未水添多分岐型ブロック共重合体に含まれる共役ジエン化合物由来の炭素-炭素二重結合の少なくとも一部が水素添加され、多分岐型ブロック共重合体の水素添加物とすることができる。
【0124】
水添反応は、水素圧力を0.1~20MPa程度、好ましくは0.5~15MPa、より好ましくは0.5~5MPa、反応温度を20~250℃程度、好ましくは50~180℃、より好ましくは70~180℃、反応時間を通常0.1~100時間程度、好ましくは1~50時間として実施することができる。
【0125】
水添触媒としては、例えば、ラネーニッケル;Pt、Pd、Ru、Rh、Ni等の金属をカーボン、アルミナ、珪藻土等の単体に担持させた不均一系触媒;遷移金属化合物とアルキルアルミニウム化合物、アルキルリチウム化合物等との組み合わせからなるチーグラー系触媒;メタロセン系触媒等が挙げられる。
【0126】
このようにして得られた水素添加物は、例えば水素添加反応を溶液中で行った場合には、その反応終了後の溶液にメタノール等に注ぐことにより凝固させた後、加熱又は減圧乾燥させるか、反応終了後の溶液をスチームと共に熱水中に注ぎ、溶媒を共沸させて除去するいわゆるスチームストリッピングを施した後、加熱又は減圧乾燥することにより取得できる。
【0127】
多分岐型ブロック共重合体の水素添加物は、耐熱性及び耐候性の観点から、水素添加前の多分岐型ブロック共重合体中の共役ジエン化合物に由来する構造単位に含まれる炭素-炭素二重結合の水素添加率は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは97モル%以上である。なお、水素添加率は、1H-NMRを用いて、重合体中の共役ジエン化合物に由来する構造単位に含まれる炭素-炭素二重結合の含有量を、水素添加の前後それぞれにおいて算出し、これら含有量から求めた値である。
【0128】
多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)の数平均分子量(Mn)は好ましくは700,000以上であり、より好ましくは800,000以上5,000,000以下である。多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)のMnが前記範囲内であると、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。また、多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)を含む重合体組成物の加工性が向上する傾向にある。
【0129】
多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)の分子量分布(Mw/Mn)は1.0~20.0が好ましく、1.0~10.0がより好ましく、1.0~5.0がさらに好ましく、1.0~2.0が特に好ましい。Mw/Mnが前記範囲内であると。多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)の粘度のばらつきが小さく、より好ましい。なお、本発明において、分子量分布(Mw/Mn)は、GPCの測定により求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比を意味する。
【0130】
多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)として、スター型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B-1)を用いる場合、そのスター型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B-1)の実質ゴム数平均分子量は特に制限はないが、成形加工性等の観点から、実質ゴム数平均分子量は、好ましくは20,000~1,600,000であり、より好ましくは40,000~1,200,000であり、さらに好ましくは60,000~1,000,000、特に好ましくは100,000~600,000、最も好ましくは140,000~400,000である。
【0131】
かかる実質ゴム数平均分子量は、核(bα)または主鎖(bγ)に重合体ブロック(b2)が結合している場合、以下の(MnA)(MnB)のうち大きい方を示す。
(MnA);核(bα)または主鎖(bγ)に結合している重合体ブロック(b2)のMnの2倍値
(MnB);多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)が含む重合体ブロック(b2)のMnのうち最大値
一方、核(bα)または主鎖(bγ)に重合体ブロック(b2)が結合していない場合、実質ゴム平均分子量は上記(MnB)を示す。
【0132】
多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)は、その製造に用いる重合触媒、水素添加触媒(水添触媒)などに由来する触媒残渣量の総量が、金属換算で0~500ppmの範囲にあることが好ましい。例えば、水素添加前の多分岐型ブロック共重合体を製造するための重合触媒として、後述するような有機リチウム化合物等の有機アルカリ金属を用いた場合には、リチウム等のアルカリ金属が含まれ得る。また、多分岐型ブロック共重合体の水素添加において、水添触媒としてチーグラー系触媒を用いた場合には、ニッケルやアルミニウムが含まれ得る。触媒残渣量の総量が上記範囲にあることにより、加工等する際にタックが低下せず、また多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)の耐熱性や透明性が向上する。多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)の触媒残渣量の総量は、金属換算で、より好ましくは0~300ppm、さらに好ましくは0~200ppmである。なお、触媒残渣量は、例えば誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)や偏光ゼーマン原子吸光分光光度計を用いることにより測定できる。
【0133】
多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)の触媒残渣量をこのような特定の量とする方法としては、多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)を精製し、触媒残渣を十分に除去する方法などが挙げられる。精製する方法としては、水若しくは温水、酸性水溶液、又はメタノール、アセトンなどに代表される有機溶媒による洗浄、又は超臨界流体二酸化炭素による洗浄が好ましい。洗浄に酸性水溶液を用いることでさらに洗浄効率を高めることができる。用いる酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の一価又は多価の強酸;酢酸、プロピオン酸、コハク酸、クエン酸等の一価又は多価カルボン酸;炭酸、リン酸等の一価又は多価の弱酸が好ましい。洗浄回数としては、経済的な観点から1~20回が好ましく、1~10回がより好ましい。また、洗浄温度としては、20~100℃が好ましく、40~90℃がより好ましい。また重合反応前に、重合の阻害を行うような不純物を蒸留や吸着剤により除去し、単量体の純度を高めた後に重合を行うことによっても、必要な重合触媒量が少なくてすむため、触媒残渣量を低減することができる。
【0134】
本発明の樹脂組成物では、上記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)を1~100質量部含む。
得られる樹脂組成物の耐衝撃性、耐ヒートショック性、機械特性の観点からは、多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)の前記樹脂組成物中の含有量は、上記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは5~30質量部、より好ましくは10~25質量部である。
【0135】
本発明の樹脂組成物は無機充填剤(C)を含んでいてもよい。無機充填剤(C)が樹脂組成物に含まれると、その樹脂組成物から得られる成形品の成形収縮率及び線膨張係数を低下させることができる傾向にあり、また、高低温衝撃性を向上させることができる場合がある。無機充填剤(C)としては、目的に応じて繊維状、非繊維状(粉粒状、板状)等種々の形状の無機充填剤が用いられる。
【0136】
繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、異形ガラス、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維;ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属からなる金属繊維が挙げられる。これらの中でも、典型的に使用される繊維状充填剤は、ガラス繊維、カーボン繊維である。
【0137】
粉粒状充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ粉末、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉;珪酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウオラストナイト等の珪酸塩からなる珪酸塩粉末;酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物からなる金属酸化物粉末;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩からなる金属炭酸塩粉末;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩からなる金属硫酸塩粉末;炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素等の窒化物からなる窒化物粉末;金属粉末が挙げられる。
【0138】
板状充填剤としては、例えば、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔が挙げられる。
これら無機充填剤(C)は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
これら無機充填剤(C)は、必要に応じて、収束剤、表面処理剤などで処理を施した後使用してもよい。
【0139】
無機充填剤(C)の含有量はその目的に応じ適宜設定すればよいが、無機充填剤(C)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、通常1~200質量部、好ましくは20~100質量部である。無機充填剤(C)の含有量が前記下限値未満であると耐衝撃性や耐ヒートショック等の物性向上効果が見られない傾向にあり、無機充填剤(C)の含有量が前記上限値を超えると成形作業が困難になる場合がある。
【0140】
本発明の樹脂組成物は難燃剤を含んでいてもよい。難燃剤は、本発明で得られる樹脂組成物及び成形品に難燃性を付与できる。難燃剤としては、樹脂の難燃剤として一般的に使用される物が使用できる。
難燃剤としては、例えば、有機塩素化合物や有機臭素化合物等のハロゲン系難燃剤;リン酸塩、リン酸エステル、含窒素リン化合物、赤リン等のリン系難燃剤;ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム等のその他の無機系難燃剤;などが挙げられる。これら難燃剤の中でも、ハロゲン系難燃剤、特に有機臭素化合物が好適である。有機臭素化合物としては、好ましくは、臭素化芳香族ビスイミド化合物、臭素化芳香族エポキシ化合物、臭素化ポリカーボネート、臭素化ベンジルアクリレート及びその重合物、臭素化ポリスチレン等が挙げられる。
難燃剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0141】
また、本発明の樹脂組成物に上記難燃剤を含有させる場合、必要に応じて、難燃剤の効果を高めるために、難燃助剤を含ませてもよい。難燃助剤としては、樹脂の難燃助剤として一般的に使用される物が使用できる。
難燃助剤としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等のアンチモン化合物;二酸化錫、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属酸化物又は金属水酸化物などが挙げられる。特に、難燃剤としてハロゲン系難燃剤(典型的には有機臭素化合物)を用いた場合、難燃助剤としては、アンチモン化合物が好ましい。
難燃助剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0142】
難燃剤の含有量はその目的に応じ適宜設定すればよいが、難燃剤の含有量は、樹脂組成物中、好ましくは1~25質量%、より好ましくは5~20質量%、さらに好ましくは10~20質量%である。難燃剤の含有量が上記下限値未満であると十分な難燃性が得られない場合があり、前記上限値を超えると耐ヒートショック性等所望の物性が損なれる場合がある。なお、難燃剤と難燃助剤を併用する場合も、これらの合計含有量が上記範囲にあることが好ましい。
【0143】
また、樹脂組成物又は成形品の用途によっては、UL規格94の難燃区分「V-0」を要求される場合がある。この場合、フッ素系樹脂などを難燃剤と共に用いることが好ましい。
フッ素系樹脂には、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等のフッ素含有モノマーの単独重合体又は共重合体;前記フッ素含有モノマーと、エチレン、プロピレン、(メタ)アクリレートなどの共重合性モノマーとの共重合体が含まれる。
フッ素系樹脂の具体例としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライドなどの単独重合体;テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体などが挙げられる。
【0144】
これらのフッ素系樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。また、これらフッ素系樹脂としては、粒状の形態の物が使用できる。フッ素系樹脂の添加量は熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部程度、より好ましくは0.1~5質量部程度、さらに好ましくは0.2~1質量部程度である。
【0145】
本発明の樹脂組成物はエポキシ化合物を含んでいてもよい。本発明の樹脂組成物に添加されるエポキシ化合物は、分子内に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有する化合物であり、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂(ジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジメチルグリシジルフタレート、ジメチルグリシジルヘキサヒドロフタレート、ダイマー酸グリシジルエステル、アロマティックジグリシジルエステル、シクロアリファティックジグリシジルエステル等)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-パラアミノフェノール、トリグリシジル-メタアミノフェノール、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、ジグリシジルトリブロムアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン等)、複素環式エポキシ樹脂(例えば、トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)、ヒダントイン型エポキシ樹脂等)、環式脂肪族エポキシ樹脂(例えば、ビニルシクロヘクセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシアジペート、アリサイクリックジエポキシカルボキシレート等)、エポキシ化ブタジエン等が挙げられる。
【0146】
前記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂にはポリヒドロキシ化合物のグリシジルエーテル[ビスフェノール型エポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールAD型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂等)、レゾルシン型エポキシ樹脂等の芳香族ポリヒドロキシ化合物のグリシジルエーテル、脂肪族エポキシ樹脂(例えば、アルキレングリコールやポリオキシアルキレングリコールのグリシジルエーテル等)など]、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等)などが含まれる。
【0147】
上記エポキシ化合物のうち、ビスフェノール型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂が好ましく、中でもビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0148】
上記エポキシ化合物のエポキシ当量は、典型的には250~1200g/eq程度、好ましくは300~1100g/eq程度、さらに好ましくは400~1000g/eq程度である。また、エポキシ化合物の数平均分子量は、典型的には200~50,000、好ましくは300~10,000、さらに好ましくは400~6,000程度である。
【0149】
エポキシ化合物の含有量はその目的に応じ適宜設定すればよいが、エポキシ化合物の含有量は、熱可塑性樹脂(A)、多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)並びに必要に応じて含まれる無機充填剤(C)、難燃剤、難燃助剤、及びフッ素系樹脂の合計100質量部に対し、通常0.1~1.5質量部である。0.1質量部未満では耐ヒートショック性向上効果に乏しい場合があり、1.5質量部を超えると、エポキシ化合物による架橋の影響が大きくなりすぎ、生産性の点で問題となる場合がある。
【0150】
本発明の樹脂組成物は、イソシアネート化合物及びカルボン酸二無水物からなる群より選ばれた少なくとも1つの多官能性化合物が含まれていてもよい。
【0151】
多官能性化合物としては、例えば、トリグリシジルジイソシアネート、ジイソシアネート系化合物、カルボン酸二無水物が挙げられる。より具体的には、多官能性化合物として、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネートトリデンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート及び上記イソシアネートの誘導体(重合体ウレタン、ウレチジオン2量体より高次のオリゴマー、シアヌレート重合体)等のジイソシアネート系化合物;ピロメリット酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物及び下記一般式
【0152】
【化14】
【0153】
(ただし、上記式中、Xは-O-、-SO2-、-CO-または2価の炭化水素基を示す。)
で表わされる、例えばビス(3,4-ジカルボキシフェニル)アルカン酸二無水物などのテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
多官能性化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0154】
多官能性性化合物の含有量は、樹脂組成物中、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%、さらに好ましくは0.5~3重量%である。多官能性化合物の含有量が前記下限値未満であると、耐ヒートショック性等の物性向上に対する効果が十分ではない場合があり、多官能性化合物の含有量が前記上限値を超えると、樹脂組成物の粘度が増加する等、成形性の問題が生じる場合がある。
【0155】
本発明の樹脂組成物は芳香族多価カルボン酸エステルを含んでいてもよい。本発明の樹脂組成物に使用する芳香族多価カルボン酸エステルとは、下記一般式で表される化合物である。
【0156】
【化15】
【0157】
(上記式中、Xは-COORを表し、Rはアルキル基、nは2~4の整数であり、各XのRは同一であっても異なっていてもよい)
特にnが3以上の化合物が、耐熱性が高く、好ましい。上記芳香族多価カルボン酸エステルとしては、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステルが好ましい。
【0158】
前記芳香族多価カルボン酸(アルキルエステル)に含まれるアルキル基としては、例えばトリオクチル基、トリイソデシル基、トリス(2-エチルヘキシル)基、トリブチル基などが挙げられる。これら例示されたアルキル基のうち、少なくとも一種類を有するアルキルエステルであることが、前記芳香族多価カルボン酸としては望ましい。
芳香族多価カルボン酸エステルは一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0159】
芳香族多価カルボン酸エステルの含有量は、樹脂組成物中、好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.5~7質量%、さらに好ましくは1~5質量%である。芳香族多価カルボン酸エステルの含有量が上記下限値未満であると耐ヒートショック性等所望の物性が十分ではない場合があり、前記上限値を超えると剛性等所望の物性を損なう場合、芳香族多価カルボン酸エステルが樹脂組成物又は成形品表面に染み出すなどの不具合が発生する場合がある。
【0160】
前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)の場合、本発明の樹脂組成物は、カルボジイミド化合物が含まれていてもよい。
【0161】
カルボジイミド化合物とは、分子中にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物である。カルボジイミド化合物としては、主鎖が脂肪族の脂肪族カルボジイミド化合物、主鎖が脂環族の脂環族カルボジイミド化合物、主鎖が芳香族の芳香族カルボジイミド化合物の何れも使用できるが、耐加水分解性の点で芳香族カルボジイミド化合物の使用が好ましい。
【0162】
脂肪族カルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド等が、脂環族カルボジイミド化合物としてはジシクロヘキシルカルボジイミド等が挙げられる。
【0163】
芳香族カルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N'-フェニルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-p-メトキシフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロルフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-o-トリイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド等のモノ又はジカルボジイミド化合物及びポリ(フェニレンカルボジイミド)、ポリ(4,4'-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5'-ジメチル-4,4'-ビフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,5'-ジメチル-4,4'-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1-メチル-3,5-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリエチルフェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミド化合物が挙げられ、これらは2種以上併用することもできる。
これらの中でも特にジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ポリ(4,4'-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(フェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)が好ましい。
【0164】
また、カルボジイミド化合物としては、分子量が2,000以上のものを使用することが好ましい。分子量が2,000未満のものでは、溶融混練時や成形時に滞留時間が長い場合など、ガスや臭気が発生するおそれがある。
【0165】
カルボジイミド化合物の添加量は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3~2.0当量となる量であることが好ましい。
【0166】
カルボジイミド化合物が少なすぎると、得られる樹脂組成物の耐ヒートショック性改良効果が得られない場合がある。また多すぎると流動性の低下や、コンパウント時や成形加工時にゲル成分、炭化物の生成が起こりやすく、機械特性が低下し、湿熱下で急激な強度低下が起きる。これはポリブチレンテレフタレート系樹脂とガラス繊維との密着性がカルボジイミド化合物により阻害されるためである。カルボジイミド化合物の上記添加量は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A-1)の末端カルボキシル基量を1とした場合、より好ましくカルボジイミド官能基量が0.5~2.0当量となる量、さらに好ましくは0.8~1.5当量となる量である。
【0167】
本発明の樹脂組成物には、その特性を阻害しない範囲で、上記以外の添加剤が含まれていてもよい。かかる添加剤としては、例えば、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸およびそのエステル、シリコンオイル等の離型剤;ヒンダードフェノール系化合物、亜燐酸エステル系化合物、硫黄含有エステル化合物系等の熱安定剤;結晶化促進剤;紫外線吸収剤あるいは耐候性付与剤;染料、顔料、発泡剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0168】
また、本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。かかる熱可塑性樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロンMXD6等のポリアミド樹脂;液晶ポリマー、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体、アクリロニトリル/エチレン/スチレン共重合体等のアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体等のオレフィン系樹脂、アイオノマー樹脂などが挙げられる。
【0169】
また、本発明の樹脂組成物は、エラストマー又は熱硬化性樹脂を含んでいてもよい。
かかるエラストマーとしては、例えば、ナイロンエラストマー、アクリルゴム、アクリルコアシェルポリマー、イソブチレン/イソプレンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴムなどが挙げられる。
かかる熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0170】
本発明の樹脂組成物の調製方法に特に制限はなく、公知の手段を利用して調製できる。例えば、熱可塑性樹脂(A)、多分岐型ブロック共重合体、又はその水素添加物(B)、及び、必要に応じて含まれる成分を、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、コニカルブレンダー、ブラベンダー等の混合機を用いて混合することによって製造できる。またこの混合を行った後、一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等の混練機を用いて、例えば80~350℃で溶融混練することにより、本発明の樹脂組成物を調製できる。
【0171】
<成形品>
本発明の樹脂組成物は、これを成形して、成形品として用いることができる。
本発明の樹脂組成物の成形方法としては、例えば押出成形、射出成形、中空成形、圧縮成形、真空成形、カレンダー成形などが挙げられる。これら方法によって各種形状の成形品、シート、フィルムなどが得られる。また、メルトブロー法、スパンボンド法等の方法により、不織布、繊維状物となった成形品を作製することもできる。
【0172】
本発明の成形品は、例えば、本発明の樹脂組成物から形成された樹脂部材のみを含んでもよく、あるいは、本発明の樹脂組成物から形成された樹脂部材と他の材料から形成された異なる部材とを含むものであってもよい。
【0173】
他の材料としては、金属及び非金属無機固体からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。金属としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉄、真鍮及びそれらの合金などが挙げられる。非金属無機固体としては、例えば、ガラス、セラミックスなどが挙げられる。
【0174】
本発明の樹脂組成物から形成された樹脂部材と上記無機部材とを含む成形品の場合、該無機部材の少なくとも一部を被覆するように、本発明の樹脂組成物から形成された樹脂部材が設けられている成形品が好ましい一形態である。
【0175】
また、上記無機部材と本発明の樹脂組成物から形成された樹脂部材を含む成形品は、本発明の樹脂組成物の有する特性を生かしつつ、この樹脂組成物の欠点を補う目的で使用されることが好ましい一形態である。そのため、成形時に本発明の樹脂組成物(典型的には樹脂組成物の溶融物)と接触したとき、形が変化しない物、また溶融しない物が使用されることが望まれる。
例えば、所望の形状の無機部材に対して、本発明の樹脂組成物を圧縮成形して、無機部材の表面を被覆するようにして成形品を作製できる。
【0176】
また、無機部材と、本発明の樹脂組成物から形成される樹脂部材とを有する成形品はインサート成形によっても作製できる。
インサート成形では、まず、成形用金型に所望の形状の無機部材をあらかじめ挿入し、その無機部材の表面の少なくとも一部を被覆するように、その金型内に溶融した本発明の樹脂組成物を流して、無機部材と樹脂部材とを含む成形品を作製する。樹脂組成物を金型に充填するための成形法としては射出成形法、押出成形法、圧縮成形法などがあるが、射出成形法が一般的である。
【0177】
射出成形法の場合、あらかじめ所望の形状(例えば棒、ピン、ネジなどの形状)を有するように形成された無機部材に対して、本発明の樹脂組成物を所望の形状となるように成形するようにして、上記無機部材と本発明の樹脂組成物から形成される樹脂部材とを含む成形品は形成されることが望ましい。
【0178】
本発明の樹脂組成物から形成された樹脂部材と上記無機部材とを含む成形品は、電気自動車をはじめとする自動車用部品、電子部品等の種々の用途に好適に用いられる。特に、激しい温度昇降を受けた場合であってもヒートショックによるクラックが発生しにくいことから自動車用部品用途に好適に使用される。
【実施例
【0179】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
後述の製造例で得られたブロック共重合体又はその水素添加物の物性評価方法を以下に示す。
【0180】
<重合体ブロック(b1)の含有量>
水添前のブロック共重合体をCDCl3に溶解して1H-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行い、スチレンに由来するピーク強度とジエンに由来するピーク強度の比から重合体ブロック(b1)の含有量(重量%)を算出した。
【0181】
<数平均分子量(Mn)>
下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を求めた。
(GPC測定装置及び測定条件)
・装置 :GPC装置「HLC-8020」(東ソー株式会社製)
・分離カラム :東ソ-株式会社製の「TSKgel GMHXL」、「G4000HXL」及び「G5000HXL」を直列に連結した。
・溶離液 :テトラヒドロフラン
・溶離液流量 :0.7mL/min
・サンプル濃度:5mg/10mL
・カラム温度 :40℃
・検出器 :示差屈折率(RI)検出器
・検量線 :標準ポリスチレンを用いて作成
【0182】
<重合体ブロック(b2)におけるビニル結合量>
水添前のブロック共重合体をCDCl3に溶解して1H-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行った。1,2-結合、3,4-結合(ファルネセン以外の場合)、及び3,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン化合物に由来する構造単位に由来のピークと1,4-結合(ファルネセン以外の場合)及び1,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン化合物に由来する構造単位に由来するピークの面積比から算出した。
【0183】
<カップリング率>
上記GPC測定で得られた、カップリング未反応のポリマー成分、即ち鎖(bα)のピーク面積と、全てのピーク面積の総和を用いて下式より求めた。
(カップリング率(%))=〔(全てのピーク面積の総和)-(鎖(bα)のピーク面積)〕÷(全てのピーク面積の総和)×100
【0184】
<鎖(bα)の平均本数>
前述の数平均分子量(Mn)、および下式より求めた。
(鎖(bα)平均本数)=(スター型ブロック共重合体等(B-1)のMn)÷(鎖(bα)のMn)
【0185】
<重合体ブロック(b2)の水素添加率>
水添前および水添後のブロック共重合体をCDCl3に溶解して1H-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行った。重合体ブロック(b2)の水素添加率は、得られたスペクトルの4.2~6.0ppmに現れる炭素-炭素二重結合が有するプロトンのピークから、下記式により算出した。
水素添加率={1-(水添後のブロック共重合体1モルあたりに含まれる炭素-炭素二重結合のモル数)/(水添前のブロック共重合体1モルあたりに含まれる炭素-炭素二重結合のモル数)}×100(モル%)
【0186】
[製造例1]
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン2410g、アニオン重合開始剤として濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液3.9gを仕込んだ。
【0187】
耐圧容器内を50℃に昇温した後、芳香族ビニル化合物としてスチレン212gを加えて1時間重合させ、重合体ブロック(b1)を合成した。得られた溶液の一部をサンプリングし、GPCで重合体ブロック(b1)のMnを測定した。その後、同容器内に容器内温度50℃で、共役ジエン化合物としてイソプレン393gを1時間かけて加えた後、2時間重合させ、重合体ブロック(b1)-重合体ブロック(b2)から成る鎖(bα)を合成した。得られた溶液の一部をサンプリングし、GPCで鎖(bα)のMnを測定した。さらに同容器内に容器内温度50℃で、カップリング剤としてジビニルベンゼン2.5gとスチレン8.0g(活性末端重合体の活性末端1モルあたりの添加量は、それぞれ3モル、12モル)を加えて2時間重合させた。その後、メタノール0.31gを添加して重合反応を停止させ、スター型ブロック共重合体(B-1-1A)を含む反応液を得た。得られた溶液の一部をサンプリングし、GPCでスター型ブロック共重合体(B-1-1A)のMnを測定した。
【0188】
該反応液に、オクチル酸ニッケル及びトリメチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下で添加し、水素圧力1MPa、80℃の条件で3時間反応させた。該反応液を放冷及び放圧させた後、水洗により上記触媒を除去し、真空乾燥させることにより、スター型ブロック共重合体の水素添加物(以下、B-1-2A)を得た。前記物性評価の結果を表1に示した。
【0189】
[製造例1']
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、シクロヘキサン2410g、濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液2.0gを仕込み、耐圧容器内を50℃に昇温した後、芳香族ビニル化合物としてスチレン106gを加えて1時間重合させ、重合体ブロック(b1')を合成した。得られた溶液の一部をサンプリングし、GPCで重合体ブロック(b1')のMnを測定した。その後、同容器内に容器内温度50℃で、共役ジエン化合物としてイソプレン393gを1時間かけて加えた後、2時間重合させ、さらに芳香族ビニル化合物としてスチレン106gを加えて2時間重合させた。その後、メタノール0.15gを添加して重合反応を停止させ、重合体ブロック(b1')-重合体ブロック(b2')-重合体ブロック(b1')から成る直鎖型ブロック共重合体(B-1-1A')を含む反応液を得た。得られた溶液の一部をサンプリングし、GPCで直鎖型ブロック共重合体(B-1-1A')のMnを測定した。以降は製造例1と同様に水素添加、水洗、真空乾燥を実施して、直鎖型ブロック共重合体の水素添加物(以下、B-1-2A')を得た。前記物性評価の結果を表1に示した。
【0190】
[製造例2]
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、シクロヘキサン2410g、濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液3.9gを仕込み、耐圧容器内を50℃に昇温した後、芳香族ビニル化合物としてスチレン165gを加えて1時間重合させ、重合体ブロック(b1)を合成した。得られた溶液の一部をサンプリングし、GPCで重合体ブロック(b1)のMnを測定した。その後、同容器内に容器内温度50℃で、共役ジエン化合物としてイソプレン/ブタジエン(217g/172g)を1時間かけて加えた後、2時間重合させ、重合体ブロック(b1)-重合体ブロック(b2)から成る鎖(bα)を合成した。得られた溶液の一部をサンプリングし、GPCで鎖(bα)のMnを測定した。さらに同容器内に容器内温度50℃で、カップリング剤としてジビニルベンゼン2.5gとスチレン8.0g(活性末端重合体の活性末端1モルあたりの添加量は、それぞれ3モル、12モル)を加えて2時間重合させた。その後、メタノール0.31gを添加して重合反応を停止させ、スター型ブロック共重合体(B-1-1B)を含む反応液を得た。得られた溶液の一部をサンプリングし、GPCでスター型ブロック共重合体(B-1-1B)のMnを測定した。以降は製造例1と同様に水素添加、水洗、真空乾燥を実施して、直鎖型ブロック共重合体の水素添加物(以下、B-1-2B)を得た。前記物性評価の結果を表1に示した。
【0191】
[製造例2']
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、シクロヘキサン2410g、濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液2.0gを仕込み、耐圧容器内を50℃に昇温した後、芳香族ビニル化合物としてスチレン82.7gを加えて1時間重合させ、重合体ブロック(b1')を合成した。得られた溶液の一部をサンプリングし、GPCで重合体ブロック(b1')のMnを測定した。その後、同容器内に容器内温度50℃で、共役ジエン化合物としてイソプレン/ブタジエン(217g/172g)を1時間かけて加えた後、2時間重合させ、さらに芳香族ビニル化合物としてスチレン82.7gを加えて2時間重合させた。その後、メタノール0.15gを添加して重合反応を停止させ、重合体ブロック(b1')-重合体ブロック(b2')-重合体ブロック(b1')から成る直鎖型ブロック共重合体(B-1-1B')を含む反応液を得た。得られた溶液の一部をサンプリングし、GPCで直鎖型ブロック共重合体(B-1-1B')のMnを測定した。以降は製造例1と同様に水素添加、水洗、真空乾燥を実施して、直鎖型ブロック共重合体の水素添加物(以下、B-1-2B')を得た。前記物性評価の結果を表1に示した。
【0192】
【表1】
【0193】
[実施例1、3、4、及び比較例1、2、5、6、7]
表2に示す各成分をその配合比に従って、ブラベンダー(ブラベンダー社製、「プラストグラフEC 50ccミキサー」)に投入し、シリンダー温度250℃、スクリュー回転数100rpmで3分間溶融混練して樹脂組成物を得た。
【0194】
得られた樹脂組成物をプレス成形(250℃、3分)してシート(1)(厚み3mm)を作製した。得られたシート(1)から、長さ6.4cm×幅1.3cm×厚み3mmの試験片用サンプルを切り出し、これに2mmノッチ付けし、試験片(1)を作製した。得られた試験片(1)により、23℃でのIZOD衝撃強度を評価した。
【0195】
また、得られた樹脂組成物をプレス成形(250℃、3分)してシート(2)(厚み1mm)を作製した。得られたシート(2)から、長さ5.5cm×幅5.5cm×厚み1mmの樹脂プレートを複数枚切り出し、これらを120℃で3時間真空乾燥した。6cm×7cm×2mmの金枠内の中央に、乾燥した樹脂プレート、ステンレスプレート(5cm×5cm×1mm)、乾燥した樹脂プレートを各1枚、この順に置き、プレス成形(250℃、3分)して、ステンレスプレートに樹脂プレート2枚が被覆された樹脂部材と無機部材からなる成形品を作製した。得られた樹脂部材と無機部材からなる成形品について、気槽式温度サイクル試験器(楠本化成製、「NT530A」)を用いて、140℃、1時間30分加熱、-30℃まで降温、-30℃、1時間30分冷却、140℃まで昇温、の過程を1サイクルとする、耐ヒートショック試験を行い、成型品にクラックが入るまでのサイクル数を測定し、耐ヒートショック性を評価した。
【0196】
[実施例2、及び比較例3、4]
表2に示す各成分をその配合比に従って、ブラベンダー(ブラベンダー社製、「プラストグラフEC 50ccミキサー」)に投入し、シリンダー温度200℃、スクリュー回転数100rpmで3分間溶融混練して樹脂組成物を得た。
【0197】
得られた樹脂組成物をプレス成形(230℃、3分)してシート(3)(厚み3mm)を作製した。得られたシート(3)から、長さ6.4cm×幅1.3cm×厚み3mmの試験片用サンプルを切り出し、これに2mmノッチ付けし、試験片(2)を作製した。得られた試験片(2)により、23℃でのIZOD衝撃強度を評価した。
【0198】
また、得られた樹脂組成物をプレス成形(230℃、3分)してシート(4)(厚み1mm)を作製した。得られたシート(4)から、長さ5.5cm×幅5.5cm×厚み1mmの樹脂プレートを複数枚切り出し、これらを80℃で3時間真空乾燥した。6cm×7cm×2mmの金枠内の中央に、乾燥した樹脂プレート、ステンレスプレート(5cm×5cm×1mm)、乾燥した樹脂プレートを各1枚、この順に置き、プレス成形(230℃、3分)して、ステンレスプレートに樹脂プレート2枚が被覆された樹脂部材と無機部材からなる成形品を作製した。得られた樹脂部材と無機部材からなる成形品について、気槽式温度サイクル試験器(楠本化成製、「NT530A」)を用いて、85℃、1時間加熱、0℃まで降温、0℃、1時間冷却、85℃まで昇温、の過程を1サイクルとする耐ヒートショック試験を行い、成型品にクラックが入るまでのサイクル数を測定し、耐ヒートショック性を評価した。
【0199】
【表2】
【0200】
表2に示す各成分は下記の通りである。
・A-1:ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、トレコン1401X31(東レ製)
・A-2:ポリスチレン樹脂(PS)、G210C(トーヨースチロール製)
・C-1:ガラス繊維、T127(日本電子硝子製)
・酸化防止剤:アデカスタブAO-60(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、株式会社ADEKA製)
【0201】
表2から、実施例1で得られたPBTと本願で規定の多分岐型ブロック共重合体の水素添加物を含む樹脂組成物の成形品(樹脂プレート)は、比較例2で得られた樹脂成分としてPBTのみを含む樹脂組成物の成形品と比較して、IZOD衝撃強度が向上し、比較例1で得られたPBTと直鎖型ブロック共重合体の水素添加物を含む樹脂組成物の成形品と比較して、IZOD衝撃強度が同程度となっている。また、実施例1で得られた樹脂部材と無機部材からなる成形品は、比較例2の樹脂成分としてPBTのみを含む樹脂組成物から得られた樹脂部材と無機部材からなる成形品、比較例1のPBTと直鎖型ブロック共重合体の水素添加物を含む樹脂組成物から得られた樹脂部材と無機部材からなる成形品、いずれと比較しても、耐ヒートショック性に優れることがわかる。
【0202】
また、実施例2で得られたPSと本願で規定の多分岐型ブロック共重合体の水素添加物を含む樹脂組成物の成形品(樹脂プレート)は、比較例4で得られた樹脂成分としてPSのみを含む樹脂組成物の成形品と比較して、IZOD衝撃強度が向上し、比較例3で得られたPSと直鎖型ブロック共重合体の水素添加物を含む樹脂組成物の成形品と比較して、IZOD衝撃強度が同程度となっている。また、実施例2で得られた樹脂部材と無機部材からなる成形品は、比較例4の樹脂成分としてPSのみを含む樹脂組成物から得られた樹脂部材と無機部材からなる成形品、比較例3のPSと直鎖型ブロック共重合体の水素添加物を含む樹脂組成物から得られた樹脂部材と無機部材からなる成形品、いずれと比較しても、耐ヒートショック性に優れることがわかる。
【0203】
さらに、実施例3、4で得られたPBTとガラス繊維と本願で規定の多分岐型ブロック共重合体の水素添加物を含む樹脂組成物の成形品(樹脂プレート)は、比較例7で得られた樹脂成分としてPBTとガラス繊維のみを含む樹脂組成物の成形品と比較して、IZOD衝撃強度が向上し、比較例5、6で得られたPBTとガラス繊維と直鎖型ブロック共重合体の水素添加物を含む樹脂組成物の成形品と比較して、IZOD衝撃強度が同程度となっている。また、実施例3、4で得られた樹脂部材と無機部材からなる成形品は、比較例7の樹脂成分としてPBTとガラス繊維のみを含む樹脂組成物から得られた樹脂部材と無機部材からなる成形品、比較例5、6のPBTとガラス繊維と直鎖型ブロック共重合体の水素添加物を含む樹脂組成物から得られた樹脂部材と無機部材からなる成形品、いずれと比較しても、耐ヒートショック性に優れることがわかる。
【0204】
なお、実施例1~4で得られた多分岐型ブロック共重合体の水素添加物(B-1-1)を含む樹脂組成物から得られた樹脂部材と無機部材からなる成形品が直鎖型ブロック共重合体の水素添加物(B-1-1')を含む樹脂組成物から得られた樹脂部材と無機部材からなる成形品よりも耐ヒートショック性が優れる理由の詳細は確かではないが、多分岐型ブロック共重合体の水素添加物(B-1-1)が、直鎖型ブロック共重合体の水素添加物(以下、B-1-1')よりも、樹脂組成物中でより分散が細かくなり、耐ヒートショック試験時に生じる応力を緩和しやすくなったと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0205】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、及びポリフェニレンサルファイド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む樹脂組成物は、耐ヒートショック性に優れるため、例えばこの樹脂組成物の成形品として、電気・電子部品、電気自動車をはじめとする自動車用の部品などとして好適に用いることができ有用である。