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特許7462238メントールの刺激抑制剤および刺激抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】メントールの刺激抑制剤および刺激抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240329BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20240329BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 31/16 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 31/075 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 8/42 20060101ALI20240329BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240329BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20240329BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240329BHJP
   A61L 15/20 20060101ALI20240329BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/20 D
A23L2/00 B
A61K31/16
A61K31/075
A61P43/00 111
A61P17/00
A61P1/02
A61K8/34
A61K8/42
A61Q11/00
A61Q13/00 101
A61Q19/00
A61L15/20
A61L15/42
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022206157
(22)【出願日】2022-12-23
(62)【分割の表示】P 2018114329の分割
【原出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2023024684
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】日下部 裕子
(72)【発明者】
【氏名】藤川 誠二
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 克也
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 利男
(72)【発明者】
【氏名】鎮守 浩明
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 結希
(72)【発明者】
【氏名】酒井 奈緒
(72)【発明者】
【氏名】庄子 昌克
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0156885(US,A1)
【文献】特開2007-176856(JP,A)
【文献】国際公開第2011/115034(WO,A1)
【文献】国際公開第03/074622(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0139918(US,A1)
【文献】特表2012-521192(JP,A)
【文献】特開2005-143461(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054737(WO,A1)
【文献】特表2009-531414(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107028779(CN,A)
【文献】特開2016-102076(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0161802(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107349306(CN,A)
【文献】特開2014-129243(JP,A)
【文献】特開2015-093859(JP,A)
【文献】特開2014-201552(JP,A)
【文献】国際公開第2017/146182(WO,A2)
【文献】特表2015-520756(JP,A)
【文献】特表2009-519003(JP,A)
【文献】特開平06-329528(JP,A)
【文献】特開平10-231238(JP,A)
【文献】特開2000-044924(JP,A)
【文献】特開2002-114649(JP,A)
【文献】特開2009-263664(JP,A)
【文献】特表2011-516092(JP,A)
【文献】特表平07-506868(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031932(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104146194(CN,A)
【文献】J. Agric. Food Chem.,2017年,Vol. 66,pp. 2319-2323,DOI: 10.1021/acs.jafc.6b04838
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷感剤である2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブチルアミドを有効成分とする、経口用の、TRPA1活性抑制剤。
【請求項2】
メントール1質量部に対する冷感剤の質量部の比が0.001~2(ただし、0.001以上0.1未満を除く)となるように配合することを特徴とする請求項1に記載のTRPA1活性抑制剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のTRPA1活性抑制剤とメントールを含有する飲食品(チューイングガム;2-フェニル-2-ブテナール、2-フェニル-2-ペンテナール、3-フェニル-4-ペンテナール、2-フェニル-4-ペンテナールを含むもの;または、スピラントールを含む菓子、を除く)。
【請求項4】
請求項1または2に記載のTRPA1活性抑制剤とメントールを含有する清涼飲料水。
【請求項5】
請求項1または2に記載のTRPA1活性抑制剤とメントールを含有する口腔用組成物(炭素数1~5の脂肪酸のエステルを含むもの;2-フェニル-2-ブテナール、2-フェニル-2-ペンテナール、3-フェニル-4-ペンテナール、または2-フェニル-4-ペンテナールを含むもの;過酸化物源を含むもの、または、N-エチル-L-メンチルホルムアミドを含むもの、を除く)。
【請求項6】
冷感剤である2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブチルアミドを有効成分とする、経口用の、メントール刺激抑制剤。
【請求項7】
メントール1質量部に対する冷感剤の質量部の比が0.001~2(ただし、0.001以上0.1未満を除く)となるように配合することを特徴とする請求項6に記載のメントール刺激抑制剤。
【請求項8】
請求項6または7に記載のメントール刺激抑制剤とメントールを含有する飲食品(チューイングガム;2-フェニル-2-ブテナール、2-フェニル-2-ペンテナール、3-フェニル-4-ペンテナール、2-フェニル-4-ペンテナールを含むもの;または、スピラントールを含む菓子、を除く)。
【請求項9】
請求項6または7に記載のメントール刺激抑制剤とメントールを含有する清涼飲料水。
【請求項10】
請求項6または7に記載のメントール刺激抑制剤とメントールを含有する口腔用組成物(炭素数1~5の脂肪酸のエステルを含むもの;2-フェニル-2-ブテナール、2-フェニル-2-ペンテナール、3-フェニル-4-ペンテナール、または2-フェニル-4-ペンテナールを含むもの;過酸化物源を含むもの、または、N-エチル-L-メンチルホルムアミドを含むもの、を除く)。
【請求項11】
冷感剤である2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブチルアミドを有効成分とする、経口用の、メントールの刺激抑制方法。
【請求項12】
メントール1質量部に対する冷感剤の質量部の比が0.001~2(ただし、0.001以上0.1未満を除く)となるように配合することを特徴とする請求項11に記載のメントール刺激抑制方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の刺激抑制方法により、飲食品中のメントールの刺激を抑制する方法。
【請求項14】
請求項11または12に記載の刺激抑制方法により、口腔用組成物中のメントールの刺激を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品、皮膚外用品、医薬品、日用・雑貨品、口腔衛生剤、飲食品で使用するメントールの刺激抑制剤及びその刺激抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
l-メントールは、ハッカ特有の冷涼な香味とコク味を有し、飲食品においてスッキリした清涼感の付与、リフレッシュ、眠気防止、気分転換を惹起することが知られている。一方、皮膚や口腔に冷たい感覚(冷涼感)を与える性質を生かし、歯磨き、洗口液、貼付剤
、化粧料などの飲食品以外にも多く利用されている。
しかし、その冷涼感は一時的なものであるため、その冷涼感をより強く、より持続させようとすると、l-メントールの使用量を増やさなければならなかった。
【0003】
l-メントールの冷涼感はTRPM8などの温度感受性チャネルを活性化することで惹起されるが、l-メントールは同時に他の刺激感受性のTRPチャネルも活性化するため、冷涼感以外にも不快なヒリヒリした感覚(これを刺激という)を発生させる。
とくに、これらTRPチャネルの感受性も濃度依存性があり、冷涼感を付加するためにl-メントールの添加量を増やそうとしても、刺激が強く、場合によっては、炎症を引き起こすほどの副作用が発生するため、l-メントールの使用量は自ずと制限されてしまう。
【0004】
また、刺激感受性のTRPA1チャネルは、l-メントールだけではなく、防腐剤や多価アルコールによっても活性化され、ヒリヒリする刺激を呈するため、TRPA1チャネルの活性化をコントロールする技術は、様々な活用が期待できる。
そこで、発明者らは、l-メントールがTRPA1チャネルを活性化させることに着目し、l-メントールによるTRPA1チャネル活性化を阻害する香料成分をスクリーニングし、飲食品および化粧料に好適なTRPA1阻害剤として活用することを意図した。
【0005】
飲食品および化粧料にTRPA1阻害剤を使用するためには、その阻害剤に特有の香気・香味がないこと、毒性がないことが要求される。皮膚や粘膜の刺激を緩和するTRPA1抑制剤として、2-メチル-4-フェニル-1-ペンタノール(特許文献1)や、ボルネオール、フェンチルアルコールなど(特許文献2)が知られている。2-メチル-4-フェニル-1-ペンタノールはグレープフルーツやシトラスなどの香気、ボルネオールは薫香、フェンチルアルコールは樟脳様の香気があり、汎用的に使用されるl-メントールと併用するには不向きな香調である。
l-メントールの舌への刺激を緩和するため、ビタミンEを併用する技術(特許文献3)では、ビタミンEが脂溶性であるためタブレット状の清涼菓子やサプリメントなどに使用法が限定される。
また、l-メントールとカフェインを併用する点眼剤(特許文献4)では、カフェインの中枢神経刺激作用により使用時の注意が必要となり、大量に使用することができない。
l-メントールとキシリトールを併用する液体口腔用組成物(特許文献5)などもあるが、糖アルコールの甘味料を使用することでの緩下作用に注意する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-155172号公報
【文献】特開2013-256473号公報
【文献】特開2011-55777号公報
【文献】特開2001-302518号公報
【文献】特開2000-178152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
l-メントールは冷涼感を得る目的で、歯磨き、洗口液などの口腔用組成物、シャンプー、入浴剤、化粧水などの化粧品、医薬部外品、チューインガム、キャンディー、タブレットなどの飲食品、目薬、貼付剤などの医薬品に広く活用されてきた。
【0008】
l-メントールの冷涼感の特徴は、冷涼効果の発現の立ち上がりが早い反面、効果の持続が短いことである。そのため、冷涼感の強度をあげたり、冷涼感の持続時間をのばすためには、l-メントールを増量する必要があった。
【0009】
しかし、単に、l-メントールを増量しただけでは、l-メントールによる刺激も強くなってしまい、l-メントールの上限の添加量は自ずと制限されていた。過去にもl-メントールの刺激を抑制・緩和する抑制剤が検討されてきたが、抑制剤自体の香味により、l-メントールが本来持つ、軽く華やかな冷涼感とコクのあるミント感が損なわれてしまうという欠点があった。
【0010】
そこで、l-メントール特有の香気や冷涼感を阻害せず、その刺激だけを抑制する抑制剤を提供することを課題とした。そのため、香気・香味がそもそも少ないか、それ自体の香気・香味があってもl-メントールよりも使用量が少ないためにl-メントールの特徴を損ねないか、ミント様の香調を有するなどのいずれかの特徴を持つ抑制剤について検討した。好ましくは、ミント様の香調を有し、少量でl-メントールの刺激を抑制することができる香料成分や使用方法(配合比)を見出すことが重要となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、l-メントールの特徴的な香調を阻害しないことが予想される香料の中から、l-メントールの刺激を抑制する香料成分をスクリーニングし、選択された香料成分の効果を官能評価法により検証することで、理想の抑制剤を見いだすことができた。
【0012】
ヒトの感覚刺激に関連するTRPチャネルは、多くのサブファミリー、チャネルの存在が知られているが、冷感、刺激の知覚は、複数のチャネルのシグナル伝達の相互作用によるものと考えられている。その相互作用が神経伝達経路をどのように伝わり、それらのシグナルにより知覚判断がどのようになされるかは未だ不明の点が多い。
従って、特定のチャネルの活性化だけではなく、実際のヒトの官能評価により効果を確認することが重要となってくる。
【0013】
そこで、活性阻害の効果を簡便かつ迅速に測定できるin vitroの系で抑制剤をスクリーニングしたのち、それらの抑制剤とl-メントールとの配合濃度を変えた試作品を作製し、それぞれの官能評価を行い、抑制剤とl-メントールの配合濃度の適正化を行った。
【0014】
l-メントールの刺激抑制のスクリーニングは、ヒト型TRPA1チャネルを発現した細胞に、l-メントールと香料成分を同時に投与したときのTRPA1チャネルの活性を測定し、香料成分によるl-メントールのTRPA1活性の半数阻害濃度(IC50)を指標に、抑制剤を選択した。
【0015】
ついで、選択された抑制剤とl-メントールを混合したチューインガム、洗口液、化粧水を作製し、官能評価で刺激の抑制効果および冷感の変化を確認した。
【0016】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブチルアミドと3-メントキシプロパン-1,2-ジオールの冷感剤から選ばれる1種以上を有効成分とするTRPA1活性抑制剤。
(2)TRPA1活性化がメントール刺激であることを特徴とする上記(1)のTRPA1活性抑制剤。
(3)メントール1質量部に対する冷感剤の質量部の比が0.001~2となるように配合することを特徴とする上記(2)のTRPA1活性抑制剤。
(4)上記(1)から(3)のいずれかのTRPA1活性抑制剤とメントールを含有する飲食品。
(5)上記(1)から(3)のいずれかのTRPA1活性抑制剤とメントールを含有する口腔用組成物。
(6)上記(1)から(3)のいずれかのTRPA1活性抑制剤とメントールを含有する皮膚外用剤。
(7)上記(1)から(3)のいずれかのTRPA1活性抑制剤とメントールを含有する香料組成物。
(8)2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブチルアミドと3-メントキシプロパン-1,2-ジオールの冷感剤から選ばれる1種以上を有効成分とするメントールの刺激抑制剤。
(9)メントール1質量部に対する冷感剤の質量部の比が0.001~2となるように配合することを特徴とする上記(8)のメントール刺激抑制剤。
(10)上記(8)または(9)のメントール刺激抑制剤とメントールを含有する飲食品。
(11)上記(8)または(9)のメントール刺激抑制剤とメントールを含有する口腔用組成物。
(12)上記(8)または(9)のメントール刺激抑制剤とメントールを含有する皮膚外用剤。
(13)上記(8)または(9)のメントール刺激抑制剤とメントールを含有する香料組成物。
【0017】
(14)2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブチルアミドと3-メントキシプロパン-1,2-ジオールの冷感剤から選ばれる1種以上を有効成分とするメントールの刺激抑制方法。
(15)メントール1質量部に対する冷感剤の質量部の比が0.001~2となるように配合することを特徴とする上記(14)のメントール刺激抑制方法。
(16)上記(14)または(15)の刺激抑制方法により、飲食品中のメントールの刺激を抑制する方法。
(17)上記(14)または(15)の刺激抑制方法により、口腔用組成物中のメントールの刺激を抑制する方法。
(18)上記(14)または(15)の刺激抑制方法により、皮膚外用剤中のメントールの刺激を抑制する方法。
(19)化粧料であることを特徴とする上記(6)または(12)の皮膚外用剤。
(20)エアゾール製品であることを特徴とする上記(6)または(12)の皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0018】
本発明の刺激抑制剤とl-メントールを併用することで、l-メントールの刺激だけを抑制することが可能になった。
さらに、l-メントールの使用量を増加してもその刺激が抑制されるため、冷涼感の向上および冷涼感の持続時間の延長が可能になる。具体的には化粧水、冷感スプレー、貼付剤などの皮膚表面で冷感を感じさせる商品や、チューインガムやタブレットなどの菓子や洗
口液や歯磨きなどの口腔用組成物による口腔内粘膜での冷感を感じさせる製品に活用することができる。
【0019】
本発明のl-メントールの刺激抑制剤は、l-メントール特有の香気や冷涼感を阻害せず、その刺激だけを抑制することができる。すなわち、l-メントールの刺激に弱い子供や
皮膚刺激に敏感な消費者にも、l-メントールの冷涼感を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔1〕本発明の刺激抑制剤
本発明の刺激感抑制剤は、メンチルアセテート、メンチルラクテート、N-エチル-p-メンタン-3-カルボアミド、N-エチル-エトキシカルボニルメチル-p-メンタン-3-カルボアミド、2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブチルアミド、3-メントキシプロパン-1,2-ジオール、3-メントキシ-2-メチルプロパン-1,2-ジオール、メントールプロピレングリコールカルボネート、イソプレゴール、メンタン-3,8-ジオールなどのミント様の香調を有する冷感剤であることを特徴とする。
特に、2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブチルアミドと3-メントキシプロパン-1,2-ジオールがl-メントールの刺激を抑制する効果が高く好ましい。
【0021】
〔2〕本発明の飲食品
本発明の飲食品は、清涼感を提供する飲食物であればよく、具体的には清涼飲料水、アイスクリーム、チューインガム、チューイングキャンディー、グミ、錠菓等があげられる。
【0022】
〔3〕本発明の口腔用組成物
本発明の口腔用組成物は、歯磨き、洗口液、口中清涼剤、シート状フィルムなどがあげられる。
【0023】
〔4〕本発明の化粧料
本発明の化粧料は、デオドラントスプレー、化粧水(ローション)、乳液、クリーム、オイル、軟膏、パック、リップ、口紅、ファンデーション、アイライナー、頬紅、マスカラ、アイシャドー、ひげ剃り用剤、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント、ヘアトニック、ヘアスプレー、ヘアローション、整髪料、育毛料、パーマネント液、染毛料、ボディソープ、ハンドソープ、洗顔料、石鹸類、浴用剤等があげられる。
【0024】
〔5〕本発明の医薬品および医薬部外品
本発明の医薬品および医薬部外品は、貼付剤、目薬など、冷涼感を付与することにより爽快感を提供するような商品特性を有するものである。具体的には、創傷治癒、皮膚のかゆみ及び発熱の緩和、筋肉の炎症の緩和などを目的とする貼付剤や、目の充血緩和、眼筋調節、抗炎症、抗アレルギーなどを目的とする目薬、デオドラントスプレー、浴用剤、薬用せっけん、薬用洗顔料、薬用ボディソープ、薬用シャンプー、薬用ヘアトニック、育毛料、生理用ナプキン類へ利用できる。
【0025】
〔6〕本発明の日用・雑貨品
本発明の日用・雑貨品は、おむつや尿とりパッド、パンティーライナー等の吸収性物品や、冷却シート・パッド、冷感スプレー、ティッシュペーパー、ウェットテッシュ、トイレットペーパー、マスク等があげられる。
【0026】
〔7〕本発明の香料組成物
さらに、本発明の刺激抑制剤は、上記の有効成分である冷感剤の他に、必要に応じて、飲食品用や香粧品用の各種香料を付加的成分として適宜配合することができる。 例えば、「特許庁公報 周知慣用技術集(香料) 第II部 食品用香料」(平成12(2000)年
1月14日発行、日本国特許庁)、「特許庁公報 周知慣用技術集(香料) 第III部
香粧品用香料」(平成13(2001)年6月15日発行、日本国特許庁)等に記載された香料原料(精油、エッセンス、コンクリート、アブソリュート、エキストラクト、オレオレジン、レジノイド、回収フレーバー、炭酸ガス抽出精油、合成香料)、各種植物エキス、酸化防止剤等が例示され、それぞれ本発明の効果を損なわない量で配合することができる。
【0027】
〔8〕本発明の冷感剤とl-メントールの濃度比
本発明の刺激抑制効果は刺激抑制剤とメントールが共存してさえいればよい。ただし、抑制剤の使用量が多くなると、l-メントールのハッカ特有の冷涼な香味とコク味がもたらす清涼感やリフレッシュ感が相対的に弱くなり、抑制剤自体の香味の影響が大きくなる。したがって、本発明の冷感剤とl-メントールの濃度比は限定されることが望ましく、l-メントール1質量部に対して抑制剤は0.001~2質量部であり、好ましくは0.01~1質量部、特に好ましくは0.01~0.2質量部であることが望ましい。
【0028】
本発明を以下の試験例や試作例を用いてさらに詳細に説明するが、以下は例示の目的にのみ用いられ、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0029】
〔試験例1〕
TRPA1活性抑制作用の測定および解析手法について示す。
(1)ヒトTRPA1安定発現株の作製
ヒトTRPA1発現ベクターはGeneCopoeia社より購入して用いた。HEK293細胞への発現ベクターの導入は、Lipofectamine LTX Reagent(Thermo Fisher Scientific社)を用いて行い、1mg/L ピューロマイシンにより、遺伝子が導入されている細胞を選抜した。
【0030】
(2)TRPA1活性の測定
蛍光カルシウムイメージング法を用いてHEK293細胞へ形質導入したTRPA1活性の測定を行った。まず培養したTRPA1発現細胞をポリ-D-リジンコートされた96ウェルプレートに播種し、37℃で一晩、インキュベートした後、培養液を除去し、Fluo-8NW(1.3×10-3μL)、界面活性剤(0.11μL)を含むハンクス緩衝溶液を100μL添加し、37℃で60分間インキュベートした。その後、蛍光プレートリーダーFlexstation 3(Molecular Devices社)にセットした。装置庫内温度37℃にした状態で励起波長480nmで励起させたときの蛍光イメージを検出波長520nmにて検出した。測定は60秒間行い、測定開始20秒後にTRPA1刺激物質であるメントールの終濃度が250μM、および各刺激抑制剤の終濃度が25、50、100、250、500、1000、2500μMとなるようにハンクス緩衝液にて希釈して調整した試験溶液を25μL添加し、その後の蛍光強度の変化によりTRPA1活性を評価した。TRPA1活性は試験溶液添加後の蛍光強度のピーク(Fpeak)を刺激抑制剤無添加時の蛍光強度(F0)で除算した蛍光強度比(Ratio;Fpeak/F0)で表した。
【0031】
(3)IC50の解析
刺激抑制剤濃度と前記により算出した蛍光強度比をもとにデータ解析ソフトウエア(カレイダグラフ)を用いて濃度応答曲線を作成し、これからメントール濃度が250μMのときに示すTRPA1活性を50%抑制する濃度(IC50値)を算出して、メントールに対する刺激抑制効果の指標とした。
【0032】
上記の方法により、l-メントールの刺激抑制に対する各成分のIC50を算出し、表1に記載した。
【0033】
【表1】
【0034】
〔試作例1〕 (チューインガムにおけるメントールの刺激抑制効果)
(1)ガム生地の作製
金属製のボールに紛体原料であるキシリトール、マルチトールおよび還元パラチノースを入れて均一化するまで混合した。次いでガムベースを電子レンジで45~55℃に加温後、前記紛体原料混合物と還元麦芽糖水飴を少量ずつ入れて均一化するまで手で練りこみ、表2のガム生地を作製した。
【0035】
【表2】
【0036】
(2)冷感剤入りガムの作製
前記(1)により作製したガム生地に対して、l-メントールと本発明の刺激抑制剤を表3に準じて添加し、常法に従って高剪断型ミキサーを用いて約50℃で混和し、冷却後ローラーにより圧展成形し、1個0.85gの粒ガムを調製した。なお、l-メントールと刺激抑制剤の配合比は表4および表5に記載している。
【0037】
【表3】
【0038】
(3)サンプルの評価
同一の評価サンプルを用いてl-メントールの冷涼感、刺激感の評価基準を事前にすり合わせた、よく訓練されたパネラー5名により、表3の処方例に従って試作されたチューインガムを咀嚼し、その冷涼感と刺激感に関して7段階の官能評価を行った。さらに、冷涼感及び刺激感について各パネラーの評価点数の平均値を得た。
1点:非常に弱く感じる。
2点:弱く感じる。
3点:やや弱く感じる。
4点:どちらとも言えない。
5点:やや強く感じる。
6点:強く感じる。
7点:非常に強く感じる。
【0039】
各水準で、冷涼感と刺激感の比を計算した。その値が比較例1の数値よりも高いほど、l-メントールの刺激を抑制しつつ、好ましい冷涼感を感じることができることを意味している。つまり、この比が高くなるように刺激抑制剤とメントールの濃度範囲を設定することが、好適なl-メントールの刺激抑制剤の使用方法になる。
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
いずれの水準でも、本発明の刺激抑制剤の影響で、l-メントールが本来持つ、軽く華やかな冷涼感とコクのあるミント感が損なわれないことを確認した。
【0043】
〔試作例2〕 (洗口液におけるメントールの刺激抑制効果)
(1)洗口液の作製
油系ベースおよび水系ベースはそれぞれあらかじめ原料を配合のうえ、60℃に加温して均一になるまで撹拌した。l-メントールと本発明の刺激抑制剤はエタノールで所定濃度
の希釈品を作製し、それらと油系ベースを100mL透明ガラス瓶に入れて均一になるま
で撹拌した。その後、水系ベースを加えて透明になるまで撹拌して洗口液を調製した。
【0044】
表6に洗口液の処方を示す。この処方に従って、比較例2、実施例3および4を得た。なお、l-メントールと刺激抑制剤の配合比は表7および表8に記載している。
【0045】
【表6】
【0046】
(2)サンプルの評価
同一の評価サンプルを用いてl-メントールの冷涼感、刺激感の評価基準を事前にすり合わせた、よく訓練されたパネラー5名により、表6の処方に従って試作された洗口液で20秒間口をゆすぎ、吐き出した直後の冷涼感と刺激感に関して7段階の官能評価を行った。さらに、冷涼感及び刺激感について各パネラーの評価点数の平均値を得た。
1点:非常に弱く感じる。
2点:弱く感じる。
3点:やや弱く感じる。
4点:どちらとも言えない。
5点:やや強く感じる。
6点:強く感じる。
7点:非常に強く感じる。
【0047】
各水準で、冷涼感と刺激感の比を計算した。その値が比較例2の数値よりも高いほど、l-メントールの刺激を抑制しつつ、好ましい冷涼感を感じることができることを意味している。つまり、この比が高くなるように刺激抑制剤とメントールの濃度範囲を設定することが、好適なl-メントールの刺激抑制剤の使用方法になる。
【0048】
【表7】
【0049】
【表8】
【0050】
いずれの水準でも、本発明の刺激抑制剤の影響で、l-メントールが本来持つ、軽く華やかな冷涼感とコクのあるミント感が損なわれないことを確認した。
【0051】
〔試作例3〕 (化粧水におけるメントールの刺激抑制効果)
(1)化粧水の作製
表9の処方に従い、室温下100mlガラス容器中、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、パラオキシ安息香酸メチルをエタノールに溶解させ、精製水と混合して作製した化粧料基剤に、PEG-20ソルビタンココエート、l-メントールと本発明の刺激抑制剤を配合し、化粧水を調製した。なお、l-メントールと刺激抑制剤の配合比は表10および表11に記載している。
【0052】
【表9】
【0053】
(2)サンプルの評価
同一の評価サンプルを用いてl-メントールの冷涼感、刺激感の評価基準を事前にすり合わせた、よく訓練されたパネラー5名により、表9の試作例に従って作製した化粧水0.1mLを手の甲に塗布し、3分後の冷涼感と刺激感に関して6段階の官能評価を行い、冷涼感及び刺激感について各パネラーの評価点数の平均値を得た。
0点:なにも感じない。
1点:かすかな感覚。
2点:1点と3点の間。
3点:はっきりとした感覚。
4点:3点と5点の間。
5点:非常に強い感覚。
【0054】
各水準で、冷涼感と刺激感の比を計算した。その値が比較例3の数値よりも高いほど、l-メントールの刺激を抑制しつつ、好ましい冷涼感を感じることができることを意味している。つまり、この比が高くなるように刺激抑制剤とメントールの濃度範囲を設定することが、好適なl-メントールの刺激抑制剤の使用方法になる。
【0055】
【表10】
【0056】
【表11】
【0057】
本発明によってl-メントールの冷涼感を損なわず、刺激感を抑制する効果を確認した。
【0058】
〔試作例4〕 (制汗剤におけるメントールの刺激抑制効果)
(1)制汗剤(デオドラントスプレー)の作製
表12の処方に従い、室温下200ml金属容器中に、植物性消臭剤、パラフェノールスルホン酸亜鉛、1,3-ブチレングリコール、ミリスチン酸イソプロピル、l-メントール、本発明の刺激抑制剤(2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブチルアミドまたは3-メントキシプロパン-1,2-ジオール)をエタノールに溶解させ作製した原液に、同量のLPGガスを混合し制汗剤を調製した。
【0059】
【表12】
【0060】
(2)サンプルの評価
同一の評価サンプルを用いてl-メントールの冷涼感、刺激感の評価基準を事前にすり合わせた、よく訓練されたパネラー5名により、表12の試作例に従って作製した制汗剤を評価した。比較例4に対し、実施例7を評価したところ、
・ヒリヒリ感が無く冷涼感のみを強く感じた。
・粘膜部分に使用しても冷涼感が実感できたが、刺激感や痛みを感じなかった。
・使用後に火照り感が無く、冷涼感が長く続いた。
などの評価であり、本発明によってl-メントールの冷涼感を損なわず、刺激感を抑制する効果を確認できた。
【0061】
〔試作例5〕 (シャンプーにおけるメントールの刺激抑制効果)
(1)シャンプーベースの作製
表13の処方に従い、水系ベースをビーカーに測り取り、85℃で加温しながら均一混合後、撹拌しながらココイルグルタミン酸Naなど活性剤を添加し、均一溶解させ、1%クエン酸水および水を添加してシャンプーベースを調製した。
【0062】
【表13】
【0063】
(2)冷感剤入りシャンプーの作製
表13の処方に従い作製したシャンプーベースに対して、l-メントールと本発明の刺激抑制剤を表14に準じて添加し、冷感剤入りシャンプーを調製した。
【0064】
【表14】
【0065】
同一の評価サンプルを用いてl-メントールの冷涼感、刺激感の評価基準を事前にすり合わせた、よく訓練されたパネラー5名により、表14の試作例に従って作製したシャンプーを評価した。比較例5に対し、実施例8を評価したところ、
・シャンプーを頭皮に塗布した時の刺激が低減し、冷涼感が維持された。
・洗い流し後の刺激感や痛みも低減。
・洗髪時にシャンプー液が顔にかかっても、刺激感や痛みをほとんど感じなかった。
・使用後に火照り感が無く、冷涼感が維持された。
などの評価であり、本発明によって、l-メントールの冷涼感を損なわず、刺激感を抑制
する効果を確認できた。
【0066】
〔試作例6〕 (生理用ナプキンにおけるメントールの刺激抑制効果)
(1)生理用ナプキンの作製
表15の処方に従い配合した冷感剤組成物を、生理用ナプキンに30μL塗布した。
【0067】
【表15】
【0068】
同一の評価サンプルを用いてl-メントールの冷涼感、刺激感の評価基準を事前にすり合わせた、よく訓練されたパネラー5名により、表15の試作例に従って作製した生理用ナプキンを評価した。比較例6に対し、実施例9を評価したところ、
・比較例6ではヒリヒリ感やチクチク感といった刺激感が強く、痛みを感じることもあったが、実施例9では刺激感や痛みがほとんどなく、比較例6と同程度の冷涼感を感じられ、その効果は長く続いた。
・肌の赤みやカユミが軽減した。
・使用時の不快感が軽減した。
などの評価であり、本発明によってl-メントールの冷涼感を損なわず、刺激感を抑制す
る効果を確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
メントールによる刺激感を抑え、好ましい冷涼感を従来よりも強く感じさせる製品を提供することができる。