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特許7462394炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240329BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240329BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20240329BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240329BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240329BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20240329BHJP
   H01L 21/324 20060101ALN20240329BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652H
H01L29/78 652T
H01L29/06 301D
H01L29/06 301V
H01L29/78 658E
H01L29/78 658G
H01L29/78 655A
H01L21/265 Z
H01L21/265 602A
H01L21/324 X
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019164815
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021044355
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-04-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】俵 妙
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 伸二
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 亜樹
(72)【発明者】
【氏名】土田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】村田 晃一
【審査官】鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-150194(JP,A)
【文献】特開2019-102778(JP,A)
【文献】国際公開第2014/155651(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/027831(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 29/06
H01L 21/336
H01L 29/739
H01L 21/265
H01L 21/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の半導体基板と、
前記半導体基板のおもて面に設けられた、前記半導体基板より不純物濃度の低い第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層の、前記半導体基板側に対して反対側の表面に選択的に設けられた第2導電型の第2半導体層と、
前記第2半導体層の内部に選択的に設けられた、前記半導体基板よりも不純物濃度の高い第1導電型の第1半導体領域と、
前記第1半導体領域および前記第2半導体層を貫通して、前記第1半導体層に達するトレンチと、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
を備え、
前記トレンチの側壁は、前記半導体基板から前記第1半導体領域に向かう方向のテラス部と前記トレンチが並ぶ方向のステップ部とから構成され、
前記テラス部の表面粗さRaが0.1nm以下であることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
第1導電型の半導体基板のおもて面に、前記半導体基板よりも不純物濃度の低い第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の、前記半導体基板側に対して反対側に第2導電型の第2半導体層を形成する第2工程と、
前記第2半導体層の内部に選択的に、前記半導体基板よりも不純物濃度の高い第1導電型の第1半導体領域を形成する第3工程と、
前記第1半導体領域および前記第2半導体層を貫通して、前記第1半導体層に達するトレンチを形成する第4工程と、
前記トレンチを水素雰囲気中でアニールし、該アニール後、前記トレンチを水素と窒素を含む混合ガス雰囲気中でアニールする第5工程と、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する第6工程と、
を含み、
前記混合ガス雰囲気は、ガス流量比で水素ガスに対して、%~80%の割合で窒素ガスが添加されていることを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記混合ガス雰囲気は、ガス流量比で水素ガスに対して、4%~50%の割合で窒素ガスが添加されていることを特徴とする請求項2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記混合ガス雰囲気は、ガス流量比で水素ガスに対して、5%~50%の割合で窒素ガスが添加されていることを特徴とする請求項2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パワー半導体素子においては、素子のオン抵抗の低減を図るため、トレンチ構造を有する縦型MOSFET(Metal Oxied Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)が作製(製造)されている。縦型MOSFETでは、チャネルが基板表面に対して平行に形成されるプレーナ構造よりも基板表面に対して垂直に形成されるトレンチ構造の方が単位面積当たりのセル密度を増やすことができるため、単位面積当たりの電流密度を増やすことができ、コスト面から有利である。
【0003】
トレンチゲート構造は、炭化珪素からなる半導体基体(以下、炭化珪素基体とする)に形成したトレンチ内にMOSゲート(金属-酸化膜-半導体からなる絶縁ゲート)を埋め込んで、トレンチ側壁に沿った部分をチャネル(反転層)として利用した3次元構造である。このため、同じオン抵抗(Ron)の素子同士で比べた場合、トレンチゲート構造は、炭化珪素基体上に平板状にMOSゲートを設けたプレーナゲート構造よりも素子面積(チップ面積)を圧倒的に小さくすることができ、将来有望なデバイス構造といえる。
【0004】
ここで、半導体装置の電気特性は、キャリアの移動度により決定される。MOSFETの移動度は、フォノン散乱、クーロン散乱、界面ラフネス散乱の組み合わせで決まってくる(例えば、非特許文献1参照)。ここで、フォノン散乱は,シリコン結晶中の格子振動による散乱である。クーロン散乱は基板中のイオン化不純物やゲート絶縁膜中の固定電荷といったクーロン散乱源による散乱である。界面ラフネス散乱は,ゲート絶縁膜と基板との間の凹凸による散乱である。フォノン散乱は高温で、クーロン散乱は低電界で、界面ラフネス散乱は高電界で、それぞれ支配的な散乱である。
【0005】
また、チャネル移動度やゲート酸化膜の信頼性を向上させるため、基板表面の表面粗さRaを0.3nm以下とする平坦化を行う技術が公知である(例えば、特許文献1参照)。また、絶縁膜形成領域の半導体表面を、表面粗さ(粗さの標準偏差)Rmsが0.5nm以下となるように平坦化するため、水素雰囲気中で半導体基板のアニール処理を行う、または、不活性ガスと水素を混合した混合ガス雰囲気中で半導体基板のアニール処理を行う技術が公知である(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-069854号公報
【文献】特開2005-150398号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】石原 貴光、松沢 一也、MOSFETにおける高精度移動度モデルの構築、東芝レビュー Vol.58No.5(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、ゲートプロセスを改良することで、クーロン散乱を減らして、移動度を向上させることができる。また、ゲート絶縁膜と基板との間の凹凸を減らすことで、界面ラフネス散乱を抑制して、移動度を向上させることができる。
【0009】
また、現状のトレンチ型MOSFETでは、ゲート絶縁膜を形成する工程前の、トレンチ側壁の表面粗さRaは0.1nm以上であり、この表面粗さRaが界面ラフネス散乱に影響を及ぼし、移動度向上の妨げとなっている。ここで、表面粗さRaとは、表面の算術平均粗さ(Ra)のことである。
【0010】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、トレンチ側壁の表面粗さを減少させ、界面ラフネス散乱の影響を減らすことで、最大移動度を向上させた半導体装置および半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。第1導電型の半導体基板のおもて面に、前記半導体基板より不純物濃度の低い第1導電型の第1半導体層が設けられる。前記第1半導体層の、前記半導体基板側に対して反対側の表面に選択的に第2導電型の第2半導体層が設けられる。前記第2半導体層の内部に選択的に、前記半導体基板よりも不純物濃度の高い第1導電型の第1半導体領域が設けられる。前記第1半導体領域および前記第2半導体層を貫通して、前記第1半導体層に達するトレンチが設けられる。前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられる。前記トレンチの側壁は、前記半導体基板から前記第1半導体領域に向かう方向のテラス部と前記トレンチが並ぶ方向のステップ部とから構成される。記テラス部の表面粗さRaが0.1nm以下である。
【0012】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、第1導電型の半導体基板のおもて面に、前記半導体基板よりも不純物濃度の低い第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程を行う。次に、前記第1半導体層の、前記半導体基板側に対して反対側に第2導電型の第2半導体層を形成する第2工程を行う。次に、前記第2半導体層の内部に選択的に、前記半導体基板よりも不純物濃度の高い第1導電型の第1半導体領域を形成する第3工程を行う。次に、前記第1半導体領域および前記第2半導体層を貫通して、前記第1半導体層に達するトレンチを形成する第4工程を行う。次に、前記トレンチを水素雰囲気中でアニールし、該アニール後、前記トレンチを水素と窒素を含む混合ガス雰囲気中でアニールする第5工程を行う。次に、前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する第6工程を行う。前記混合ガス雰囲気は、ガス流量比で水素ガスに対して、%~80%の割合で窒素ガスが添加されている。
【0014】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記混合ガス雰囲気は、ガス流量比で水素ガスに対して、4%~50%の割合で窒素ガスが添加されていることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記混合ガス雰囲気は、ガス流量比で水素ガスに対して、5%~50%の割合で窒素ガスが添加されていることを特徴とする。
【0016】
上述した発明によれば、トレンチ形成後、水素アニールを行った後、窒素添加アニールを行う。これにより、平坦化した後、表面が窒素終端し固定化され、トレンチのテラス部の表面粗さRaを0.1nm以下とすることができる。このため、トレンチ側壁の表面粗さが減少され、界面ラフネス散乱の影響が減り、最大移動度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法によれば、トレンチ側壁の表面粗さを減少させ、界面ラフネス散乱の影響を減らすことで、最大移動度を向上させるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図2】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のトレンチの側壁部Aの拡大断面図である。
図3】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その1)。
図4】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その2)。
図5】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その3)。
図6】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その4)。
図7】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その5)。
図8】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その6)。
図9】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その7)。
図10】実施例にかかる炭化珪素半導体装置のテラス部の原子間力顕微鏡写真である。
図11】従来例1の炭化珪素半導体装置のテラス部の原子間力顕微鏡写真である。
図12】従来例2の炭化珪素半導体装置のテラス部の原子間力顕微鏡写真である。
図13】実施例の結果を水素ガスに対する窒素ガスの割合とテラス部の表面粗さ依存性の関係としてグラフ化したものである。
図14】実施例にかかる炭化珪素半導体装置と従来例1、2の炭化珪素半導体装置の最大移動度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。+および-を含めたnやpの表記が同じ場合は近い濃度であることを示し濃度が同等とは限らない。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けることで負の指数をあらわしている。
【0020】
(実施の形態)
本発明にかかる半導体装置は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成される。実施の形態においては、ワイドバンドギャップ半導体として例えば炭化珪素(SiC)を用いて作製された炭化珪素半導体装置について、MOSFETを例に説明する。図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【0021】
図1に示すように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置は、n+型炭化珪素基板(第1導電型の半導体基板)1の第1主面(おもて面)、例えば(0001)面(Si面)、にn型炭化珪素エピタキシャル層(第1導電型の第1半導体層)2が堆積されている。
【0022】
+型炭化珪素基板1は、例えば窒素(N)がドーピングされた炭化珪素単結晶基板である。n型炭化珪素エピタキシャル層2は、n+型炭化珪素基板1よりも低い不純物濃度で、例えば窒素がドーピングされている低濃度n型ドリフト層である。n型炭化珪素エピタキシャル層2の、n+型炭化珪素基板1側に対して反対側の表面は、n型高濃度領域6が形成されている。n型高濃度領域6は、n+型炭化珪素基板1よりも低くn型炭化珪素エピタキシャル層2よりも高い不純物濃度で、例えば窒素がドーピングされている高濃度n型ドリフト層である。以下、n+型炭化珪素基板1とn型炭化珪素エピタキシャル層2と後述するp型炭化珪素エピタキシャル層(第2導電型の第2半導体層)3とを併せて炭化珪素半導体基体とする。
【0023】
図1に示すように、n+型炭化珪素基板1の第2主面(裏面、すなわち炭化珪素半導体基体の裏面)には、裏面電極14が設けられている。裏面電極14は、ドレイン電極を構成する。裏面電極14の表面には、ドレイン電極パッド(不図示)が設けられている。
【0024】
炭化珪素半導体基体の第1主面側(p型炭化珪素エピタキシャル層3側)には、トレンチ構造が形成されている。具体的には、トレンチ18は、p型炭化珪素エピタキシャル層3のn+型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体基体の第1主面側)の表面からp型炭化珪素エピタキシャル層3を貫通してn型炭化珪素エピタキシャル層2に達する。トレンチ18の内壁に沿って、トレンチ18の底部および側壁にゲート絶縁膜9が形成されており、トレンチ18内のゲート絶縁膜9の内側にゲート電極10が形成されている。ゲート絶縁膜9によりゲート電極10が、n型炭化珪素エピタキシャル層2およびp型炭化珪素エピタキシャル層3と絶縁されている。ゲート電極10の一部は、トレンチ18の上方(ソース電極パッド15側)からソース電極パッド15側に突出してもよい。
【0025】
n型炭化珪素エピタキシャル層2のn+型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体基体の第1主面側)の表面層には、第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5が選択的に設けられている。第2p+型ベース領域5はトレンチ18の下に形成されており、第2p+型ベース領域5の幅はトレンチ18の幅よりも広い。第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5は、例えばアルミニウムがドーピングされている。
【0026】
第1p+型ベース領域4の一部をトレンチ18側に延在させることで第2p+型ベース領域5に接続した構造となっていてもよい。この場合、第1p+型ベース領域4の一部は、第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5とが並ぶ方向(以下、第1方向とする)xと直交する方向(以下、第2方向とする)yに、n型高濃度領域6と交互に繰り返し配置された平面レイアウトを有していてもよい。
【0027】
n型炭化珪素エピタキシャル層2の基体第1主面側には、p型炭化珪素エピタキシャル層3が設けられている。p型炭化珪素エピタキシャル層3の内部には、基体第1主面側にn+型ソース領域(第1導電型の第1半導体領域)7およびp++型コンタクト領域8が選択的に設けられている。n+型ソース領域7はトレンチ18に接している。また、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8は互いに接する。また、n型炭化珪素エピタキシャル層2の基体第1主面側の表面層の第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5に挟まれた領域と、p型炭化珪素エピタキシャル層3と第2p+型ベース領域5に挟まれた領域にn型高濃度領域6が設けられている。
【0028】
図1では、2つのトレンチMOS構造のみを図示しているが、さらに多くのトレンチ構造のMOSゲート(金属-酸化膜-半導体からなる絶縁ゲート)構造が並列に配置されていてもよい。
【0029】
層間絶縁膜11は、炭化珪素半導体基体の第1主面側の全面に、トレンチ18に埋め込まれたゲート電極10を覆うように設けられている。ソース電極13は、層間絶縁膜11に開口されたコンタクトホールを介して、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8に接する。ソース電極13は、層間絶縁膜11によって、ゲート電極10と電気的に絶縁されている。ソース電極13上には、ソース電極パッド15が設けられている。ソース電極13と層間絶縁膜11との間に、例えばソース電極13からゲート電極10側への金属原子の拡散を防止するバリアメタル(不図示)が設けられていてもよい。
【0030】
図2は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のトレンチの側壁部Aの拡大断面図である。図2に示すようにトレンチ18の側壁は、テラス部Bとステップ部Cとから構成される。ここで、テラス部Bは、z方向の側壁であり、ステップ部Cは、x方向の側壁である。
【0031】
ステップ部Cの表面粗さRaは、炭化珪素結晶の格子定数等で決まり、トレンチ18と炭化珪素結晶の角度に依存する。一方、テラス部Bの表面粗さRaは、エッチング、アニール等により、平坦化することが可能である。このため、実施の形態では、以下の製造方法で詳細に説明されるように、トレンチ18に対して、水素アニールを行った後、窒素添加アニールを行い、テラス部Bの表面粗さRaを0.1nm以下としている。これにより、トレンチ18の側壁の表面粗さRaを減少させ、界面ラフネス散乱の影響を減らすことで、最大移動度を向上させている。また、界面ラフネス散乱は高電界で支配的な散乱であるため、界面ラフネス散乱の影響を減らすことで、高電界側での移動度の低下を抑制することもできる。
【0032】
(実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法)
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。図3図9は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
【0033】
まず、n型の炭化珪素でできたn+型炭化珪素基板1を用意する。そして、このn+型炭化珪素基板1の第1主面上に、n型の不純物、例えば窒素原子をドーピングしながら炭化珪素でできた第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aを、例えば30μm程度の厚さまでエピタキシャル成長させる。この第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aは、n型炭化珪素エピタキシャル層2となる。ここまでの状態が図3に示されている。
【0034】
次に、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。そして、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化膜の開口部に注入し、深さ0.5μm程度の下部第1p+型ベース領域4aを形成する。下部第1p+型ベース領域4aと同時に、トレンチ18の底部となる第2p+型ベース領域5を形成してもよい。隣り合う下部第1p+型ベース領域4aと第2p+型ベース領域5との距離が1.5μm程度となるよう形成する。下部第1p+型ベース領域4aおよび第2p+型ベース領域5の不純物濃度を例えば5×1018/cm3程度に設定する。ここまでの状態が図4に示されている。
【0035】
次に、イオン注入用マスクの一部を除去し、開口部に窒素等のn型の不純物をイオン注入し、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の下部n型高濃度領域6aを設ける。下部n型高濃度領域6aの不純物濃度を例えば1×1017/cm3程度に設定する。
【0036】
次に、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面上に、窒素等のn型の不純物をドーピングした第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bを、0.5μm程度の厚さで形成する。第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bの不純物濃度が3×1015/cm3程度となるように設定する。以降、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aと第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bを合わせて、n型炭化珪素エピタキシャル層2となる。
【0037】
次に、第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bの表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。そして、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化膜の開口部に注入し、深さ0.5μm程度の上部第1p+型ベース領域4bを、下部第1p+型ベース領域4aに重なるように形成する。下部第1p+型ベース領域4aと上部第1p+型ベース領域4bは連続した領域を形成し、第1p+型ベース領域4となる。上部第1p+型ベース領域4bの不純物濃度を例えば5×1018/cm3程度となるように設定する。
【0038】
次に、イオン注入用マスクの一部を除去し、開口部に窒素等のn型の不純物をイオン注入し、第2炭化珪素エピタキシャル層2bの表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の上部n型高濃度領域6bを設ける。上部n型高濃度領域6bの不純物濃度を例えば1×1017/cm3程度に設定する。この上部n型高濃度領域6bと下部n型高濃度領域6aは少なくとも一部が接するように形成され、n型高濃度領域6を形成する。ただし、このn型高濃度領域6が基板全面に形成される場合と、形成されない場合がある。ここまでの状態が図5に示されている。
【0039】
次に、n型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、アルミニウム等のp型不純物をドーピングしたp型炭化珪素エピタキシャル層3を1.3μm程度の厚さで形成する。p型炭化珪素エピタキシャル層3の不純物濃度は4×1017/cm3程度に設定する。ここまでの状態が図6に示されている。
【0040】
次に、p型炭化珪素エピタキシャル層3および露出したn型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。この開口部にリン(P)等のn型の不純物をイオン注入し、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面の一部にn+型ソース領域7を形成する。n+型ソース領域7の不純物濃度は、p型炭化珪素エピタキシャル層3の不純物濃度より高くなるように設定する。次に、n+型ソース領域7の形成に用いたイオン注入用マスクを除去し、同様の方法で、所定の開口部を有するイオン注入用マスクを形成し、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面の一部にアルミニウム等のp型の不純物をイオン注入し、p++型コンタクト領域8を設ける。p++型コンタクト領域8の不純物濃度は、p型炭化珪素エピタキシャル層3の不純物濃度より高くなるように設定する。ここまでの状態が図7に示されている。
【0041】
次に、1700℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理(アニール)を行い、第1p+型ベース領域4、第2p+型ベース領域5、n+型ソース領域7、p++型コンタクト領域8の活性化処理を実施する。なお、上述したように1回の熱処理によって各イオン注入領域をまとめて活性化させてもよいし、イオン注入を行うたびに熱処理を行って活性化させてもよい。
【0042】
次に、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するトレンチ形成用マスクを例えば酸化膜で形成する。次に、ドライエッチングによってp型炭化珪素エピタキシャル層3を貫通し、n型炭化珪素エピタキシャル層2に達するトレンチ18を形成する。トレンチ18の底部はn型炭化珪素エピタキシャル層2に形成された第2p+型ベース領域5に達してもよい。次に、トレンチ形成用マスクを除去する。ここまでの状態が図8に示されている。
【0043】
次に、トレンチ18の底部およびトレンチ18の開口部の角を丸めるためのアニールを行う。アニールを行う前にトレンチ18のダメージを除去するための等方性エッチングを行ってもよい。アニールは、水素(H2)ガス雰囲気下で水素アニールを行った後、水素ガスに窒素(N2)ガスを添加した混合ガス雰囲気下で窒素添加アニールを行う。混合ガス雰囲気は、水素ガスに対して、5~50%の割合で窒素を含むガスが添加されていることが好ましい。
【0044】
ここで、水素アニールによりエッチングされ、トレンチ18のテラス部Bの表面が平坦化される。また、窒素添加アニールにより、トレンチ18のテラス部Bの表面のエッチングが抑制される。これにより、水素アニールで平坦化した後、窒素添加アニールで表面が窒素終端し固定化され、降温時に表面荒れが起こることがなくなる。このため、表面が平坦化されたままになり、トレンチ18のテラス部Bの表面粗さRaを0.1nm以下に保つことができる。
【0045】
また、ゲート絶縁膜9の形成面のトレンチ18の側壁が、予め窒素で終端されている。このため、ゲート絶縁膜9形成後のPost Oxidation Anneal(POA)処理時に窒素を含まない酸素(O2)アニールのみにしても、表面が窒化されているため、半導体装置の良好な特性を得ることができる。また、トレンチ18の側壁が窒素で終端されているため、ゲート絶縁膜9の窒化処理も不要となる。
【0046】
次に、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8の表面と、トレンチ18の底部および側壁と、に沿ってゲート絶縁膜9を形成する。このゲート絶縁膜9は、酸素雰囲気中において1000℃程度の温度の熱処理によって熱酸化によって形成してもよい。また、このゲート絶縁膜9は高温酸化(High Temperature Oxide:HTO)等のような化学反応によって堆積する方法で形成してもよい。
【0047】
次に、ゲート絶縁膜9上に、例えばリン原子がドーピングされた多結晶シリコン層を設ける。この多結晶シリコン層はトレンチ18内を埋めるように形成してもよい。この多結晶シリコン層をフォトリソグラフィによりパターニングし、トレンチ18内部に残すことによって、ゲート電極10を形成する。
【0048】
次に、ゲート絶縁膜9およびゲート電極10を覆うように、例えばリンガラスを1μm程度の厚さで成膜し、層間絶縁膜11を形成する。次に、層間絶縁膜11を覆うように、チタン(Ti)または窒化チタン(TiN)からなるバリアメタル(不図示)を形成してもよい。層間絶縁膜11およびゲート絶縁膜9をフォトリソグラフィによりパターニングしn+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8を露出させたコンタクトホールを形成する。その後、熱処理(リフロー)を行って層間絶縁膜11を平坦化する。ここまでの状態が図9に示されている。
【0049】
次に、コンタクトホール内および層間絶縁膜11の上にソース電極13となるニッケル(Ni)等の導電性の膜を設ける。この導電性の膜をフォトリソグラフィによりパターニングし、コンタクトホール内にのみソース電極13を残す。
【0050】
次に、n+型炭化珪素半導体基板1の第2主面上に、ニッケル等の裏面電極14を設ける。この後、1000℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理を行って、n+型ソース領域7、p++型コンタクト領域8およびn+型炭化珪素半導体基板1とオーミック接合するソース電極13および裏面電極14を形成する。
【0051】
次に、n+炭化珪素半導体基板1の第1主面上に、スパッタ法によって5μm程度の厚さのアルミニウム膜を堆積し、フォトリソグラフィによりソース電極13および層間絶縁膜11を覆うようにアルミニウムを除去し、ソース電極パッド15を形成する。
【0052】
次に、裏面電極14の表面に、例えばチタン(Ti)、ニッケルおよび金(Au)を順に積層することによって、ドレイン電極パッド(不図示)を形成する。以上のようにして、図1に示す炭化珪素半導体装置が完成する。
【0053】
以上、説明したように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置によれば、トレンチ形成後、水素アニールを行った後、窒素添加アニールを行う。これにより、平坦化した後、表面が窒素終端し固定化され、トレンチのテラス部の表面粗さRaを0.1nm以下とすることができる。このため、トレンチ側壁の表面粗さが減少され、界面ラフネス散乱の影響が減り、最大移動度を向上させることができる。
【0054】
(実施例)
図10は、実施例にかかる炭化珪素半導体装置のテラス部の原子間力顕微鏡写真である。実施例では、トレンチ18形成後、圧力300Torrとして1400℃で18分間の水素アニールを行った後、15分間の窒素添加アニールを行った。窒素添加アニールでは、水素ガスとの流量比(窒素ガス/水素ガス)を10%として窒素ガスを添加した。図10は、このアニール後、ゲート絶縁膜9形成前のテラス部Bの原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)の写真である。図10によると、実施例ではトレンチ18のテラス部Bの表面粗さRaが、0.0578nmとなった。なお、ここでの測定はゲート絶縁膜9形成前の値であるが、半導体装置完成後も同様の値であると推定される。
【0055】
次に、比較のため従来の方法で炭化珪素半導体装置を製造した。図11は、従来例1の炭化珪素半導体装置のテラス部の原子間力顕微鏡写真である。従来例1では、圧力300Torrとして1400℃で18分間の水素アニールのみを行った。図11によると、従来例1ではトレンチ18のテラス部Bの表面粗さRaが、0.1425nmとなった。
【0056】
また、図12は、従来例2の炭化珪素半導体装置のテラス部の原子間力顕微鏡写真である。従来例2では、圧力300Torrとして1400℃で18分間の窒素添加アニールのみを行った。窒素添加アニールでは、水素10%の割合で窒素ガスを添加した。図12によると、従来例2ではトレンチ18のテラス部Bの表面粗さRaが、0.2151nmとなった。
【0057】
このように、実施例では、トレンチ18のテラス部Bの表面粗さRaが0.1nm以下であるが、従来例1、従来例2では表面粗さRaが0.1nm以上となった。また、有効な条件範囲を確認するため、上記の実験における水素ガスと窒素ガスの流量比(窒素ガス/水素ガス)を5%、50%と振ったところ、表面粗さは、それぞれ、0.0879nm、0.0725nmとなっており、0.1nm以下に保たれていることが分かった。
【0058】
図13は、実施例の結果を水素ガスに対する窒素ガスの割合とテラス部の表面粗さ依存性の関係としてグラフ化したものである。この結果から、ガス流量比(窒素ガス/水素ガス)を1%~80%とすることで、表面が平滑化される。更に好ましくは4%~50%にすれば、表面粗さを0.1nm以下に保つことができる。また、ガス流量比は5%~50%が最も好ましい。
【0059】
図14は、実施例にかかる炭化珪素装置と従来例1、2の炭化珪素半導体装置の最大移動度を示す表である。図14は、実施例の最大移動度を1として、実施例に対する比率を示す。ここでは、上記のアニール条件で、ゲート絶縁膜9形成後の処理を同一にして炭化珪素半導体装置を製造して、実施例、従来例1、2の最大移動度を比較した。図14に示すように、実施例では、窒素添加アニールのみの場合の従来例2と比較して、最大移動度が8%向上していることがわかる。また、実施例では、水素アニールのみの場合の従来例1と比較して、最大移動度の差がない。これはゲート絶縁膜9の形成後の処理が同一のためである。
【0060】
また、本発明の実施の形態では、トレンチ型MOSFETを例に説明したが、これに限らず、トレンチ構造を有するIGBTなどのMOS型半導体装置など様々な構成の半導体装置に適用可能である。また、上述した各実施の形態では、ワイドバンドギャップ半導体として炭化珪素を用いた場合を例に説明したが、窒化ガリウム(GaN)など炭化珪素以外のワイドバンドギャップ半導体を用いた場合においても同様の効果が得られる。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法は、電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置などに使用されるパワー半導体装置に有用であり、特にトレンチゲート構造の半導体装置に適している。
【符号の説明】
【0062】
1 n+型炭化珪素基板
2 n型炭化珪素エピタキシャル層
2a 第1n型炭化珪素エピタキシャル層
2b 第2n型炭化珪素エピタキシャル層
3 p型炭化珪素エピタキシャル層
4 第1p+型ベース領域
4a 下部第1p+型ベース領域
4b 上部第1p+型ベース領域
5 第2p+型ベース領域
6 n型高濃度領域
6a 下部n型高濃度領域
6b 上部n型高濃度領域
7 n+型ソース領域
8 p++型コンタクト領域
9 ゲート絶縁膜
10 ゲート電極
11 層間絶縁膜
13 ソース電極
14 裏面電極
18 トレンチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14