IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 田中貴金属工業株式会社の特許一覧

特許7462511Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲット及びその製造方法
<>
  • 特許-Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲット及びその製造方法 図1
  • 特許-Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲット及びその製造方法 図2
  • 特許-Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲット及びその製造方法 図3
  • 特許-Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲット及びその製造方法 図4
  • 特許-Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲット及びその製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20240329BHJP
   C04B 35/5835 20060101ALI20240329BHJP
   C04B 35/645 20060101ALI20240329BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20240329BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20240329BHJP
   G11B 5/708 20060101ALI20240329BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20240329BHJP
   C22C 5/04 20060101ALN20240329BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C04B35/5835
C04B35/645
C22C1/05 E
G11B5/65
G11B5/708
G11B5/851
C22C5/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020136266
(22)【出願日】2020-08-12
(65)【公開番号】P2022032462
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】山本 孝充
(72)【発明者】
【氏名】西浦 正紘
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 健太
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘典
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 恭伸
(72)【発明者】
【氏名】松田 朋子
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-189923(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185266(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/064995(WO,A1)
【文献】特開2019-163515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C04B 35/5835
C04B 35/645
C22C 1/05
G11B 5/65
G11B 5/708
G11B 5/851
C22C 5/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットであって、
BNおよびホウ素酸化物からなる非磁性成分を含み、
相対密度が88%以上であり、
酸素含有量が4000wtppmを超え10,000wtppm以下であり、
下記の手順で求めた全ホウ素濃度(wt%)に対する水溶性ホウ素濃度(wt%)の割合が1.0%以上であることを特徴とする、Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲット:
(全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の求め方)
(1)スパッタリングターゲットから4mm角の試料片を切断し、当該試料片を粉砕して、粉砕物を調製し、
(2)当該粉砕物を目開き106μm及び300μmの篩を用いて分級し、目開き300μmの篩を通過して目開き106μmの篩上に残った粉末0.50gを25℃の純水100mlに浸漬し、1時間放置した後、JIS P 3801に規定される5種Aのろ紙でろ過し、
(3)ろ液を200mlのメスフラスコでメスアップして、ICP分析により液中B濃度を求め、
(4)純水200mlのみをICP分析によりブランクB濃度を求め、
(5)液中B濃度からブランクB濃度を差し引き、液体容量の200mlを乗じて、溶出した水溶性B質量を算出し、
(6)粉末質量0.50g中の水溶性B質量から粉末1gあたりの水溶性B濃度を算出し、
(7)上記(2)で目開き106μmの篩上の粉末を秤量して、アルカリ溶融した後、ICP分析により粉末1g中全B濃度を算出し、
(8)粉末1g中水溶性B濃度を粉末1g中全B濃度で除す。
【請求項2】
非磁性成分として、さらにCを含むことを特徴とする、請求項1に記載のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットの切断面におけるBの存在領域にOが存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲット。
【請求項4】
Ptを10mol%以上55mol%以下含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1に記載のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲット。
【請求項5】
BNを10mol%以上55mol%以下含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1に記載のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲット。
【請求項6】
さらにCを0mol%以上20mol%以下含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1に記載のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲット。
【請求項7】
Ag、Au、Co、Cr、Cu、Ge、Ir、Ni、Pd、Rh、Ruから選択される1種以上の元素をさらに含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1に記載のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲット。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1に記載のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットの製造方法であって、
下記(A)~(E):
(A)まずBN粉末のみを酸素及び/又は水分を含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、次に残りの原料粉末を当該媒体撹拌ミルに投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気とした後に混合する;
(B)まずBN粉末のみをアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミルで粉砕した後に酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させ、次いで当該媒体撹拌ミルに残りの原料粉末を投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気として混合する;
(C)原料粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合した後、混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる;
(D)原料粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、所定の混合時間を経過する前に混合を中断して酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させた後、再び混合を再開する;又は
(E)原料粉末をアルゴンガスと酸素及び/又は水分とを含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合する;
から選択される態様にて、媒体撹拌ミル内にて100rpm以上200rpm以下の回転数で合計2時間以上6時間以下混合して、原料粉末混合物を調製すること、及び
当該原料粉末混合物のうち目開き300μmの篩を通過した粉末を採取して、焼結することを含むFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットの製造方法であって、
下記(A1)~(E1):
(A1)まずBN粉末のみを酸素及び/又は水分を含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、次にFe粉末及びPt粉末を当該媒体撹拌ミルに投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気とした後に混合する;
(B1)まずBN粉末のみをアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミルで粉砕した後に酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させ、次いで当該媒体撹拌ミルにFe粉末及びPt粉末を投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気として混合する;
(C1)BN粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合した後、混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる;
(D1)BN粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、所定の混合時間を経過する前に混合を中断して酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させた後、再び混合を再開する;又は
(E1)BN粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガスと酸素及び/又は水分とを含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合する;
から選択される態様にて、媒体撹拌ミル内にて100rpm以上200rpm以下の回転数で合計2時間以上6時間以下混合して、原料粉末混合物を調製すること、及び
当該原料粉末混合物のうち目開き300μmの篩を通過した粉末を採取して、焼結することを含むFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
請求項2に記載のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットの製造方法であって、
下記(A2)~(E2):
(A2)まずBN粉末のみを酸素及び/又は水分を含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、次にC粉末、Fe粉末及びPt粉末を当該媒体撹拌ミルに投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気とした後に混合する;
(B2)まずBN粉末のみをアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミルで粉砕した後に酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させ、次いで当該媒体撹拌ミルにC粉末、Fe粉末及びPt粉末を投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気として混合する;
(C2)BN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合した後、混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる;
(D2)BN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、所定の混合時間を経過する前に混合を中断して酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させた後、再び混合を再開する;又は
(E2)BN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガスと酸素及び/又は水分とを含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合する;
から選択される態様にて、媒体撹拌ミル内にて100rpm以上200rpm以下の回転数で合計2時間以上6時間以下混合して、原料粉末混合物を調製すること、及び
当該原料粉末混合物のうち目開き300μmの篩を通過した粉末を採取して、焼結することを含むFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項11】
前記焼結は、600℃以上1200℃以下の焼結温度、及び30MPa以上200MPa以下の焼結圧力で行われることを特徴とする、請求項8~10のいずれか1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性薄膜の製造に用いられるBN含有スパッタリングターゲット及びその製造方法に関し、特にFeとPtとBN(窒化ホウ素)とを含むFe-Pt-BN系スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブなどの磁気記録媒体のグラニュラー構造磁性薄膜を製造するためのスパッタリングターゲットとして、強磁性金属であるFe又はCoを主成分として、SiOなどの酸化物、B(ホウ素)、C(炭素)、BN(窒化ホウ素)などの非磁性材を含む焼結体が用いられている。BNは潤滑剤として優れた性能を発揮するが、焼結性が劣るために高密度の焼結体を製造することが難しく、スパッタリング中にパーティクルが発生し、製品歩留まりが低下し、機械加工性が悪いなどの問題があった。
【0003】
かかる問題を解決するために、BNとSiOを合金化して焼結性を改善する方法(日本特許第5567227号公報)、Fe-Pt合金粉末を使用することで酸化鉄の形成を抑制してスパッタリングターゲットの酸素含有量を低下させる方法(日本特許第5689543号公報)、AgCu合金又はAuCu合金を添加して焼結性を改善する方法(日本特許第6285043号公報及び日本特許第6084711号公報)などが提案されている。
【0004】
日本特許第5567227号公報には、非磁性材料である六方晶系BN粒子を石英又は非晶質のSiO粒子と一緒にFe-Pt系の母材金属に分散させることによって、スパッタリング時に発生するパーティクル量を低減した高密度のスパッタリングターゲットを提供すること、及びBNに対して1mol%以上のSiOを含有させ、BNとSiOとを固溶させた状態で含有させることにより、六方晶系BNの焼結性を著しく向上できることが開示されている。具体的な製造方法として、Fe、Pt、SiO及びBNの各原料粉末を、媒体撹拌ミルを用いて300rpmで2時間混合して得られる混合粉末をホットプレスした後、熱間等方加圧加工を行うことが記載されている。また、得られるFe-Pt系磁性材焼結体は、加圧面に対する断面において、バックグラウンド強度に対する六方晶系BN(002)面のX線回折ピーク強度比が1.50以上であり、結晶化したSiOであるクリストバライト(101)面のX線回折ピーク強度比が1.40以下であることが記載されている。さらに、SiOを含まない点を除いて同じ製造条件で製造した比較例(Fe-Pt-BN系、Fe-Pt-BN-酸化物系、及びFe-Pt-BN-非磁性材系)においては、六方晶系BN(002)面のX線回折ピーク強度比は実施例と同程度であるが、パーティクル数が645個以上と著しく多くなっていることが記載されている。しかし、比較例についてのFE-EPMA観察結果について何ら言及がなく、どのような分散状況であるのか不明である。
【0005】
日本特許第5689543号公報には、Fe-Pt合金粉末を使用することによって、酸素量を4000wtppm以下まで低減したFe-Pt-BN系の磁性材焼結体を作製できること、作製された焼結体は、機械加工性が良好となり、割れやチッピングの発生を抑制できることが開示されている。具体的な製造方法として、粒径が0.5μm以上10μm以下のFe-Pt合金粉末、及びBN粉末を乳鉢に投入して均一に混合した混合粉末をホットプレスした後、熱間等方加圧加工を行うことが記載されている。一方、Fe粉末、Pt粉末及びBN粉末を、媒体撹拌ミルを用いて300rpmで2時間混合する点を除いて同じ製造条件で製造した比較例(Fe-Pt-BN系、Fe-Pt-BN-非磁性材系)においては、酸素含有量が11500wtppm以上と高く、酸化鉄が形成され、チッピングが発生したことが記載されている。なお、チッピングの発生を抑制することができると異常放電やパーティクルの発生が少ないと紹介されているが、実施例及び比較例においてパーティクルの発生について何ら言及がなく、パーティクルの発生を抑制できたか否かは不明である。
【0006】
日本特許第6285043号公報及び日本特許第6084711号公報には、C及び/又はBNを含有するFePt系焼結体スパッタリングターゲットに、低融点のAgCu合金又はAuCu合金を添加することによって低い焼結温度で焼結体の密度を上げることが開示されている。日本特許第6285043号公報には、AgとCuからなるAgCu合金が共晶反応によってその融点が779.1℃まで低下すること、日本特許第6084711号公報にはAuとCuからなるAuCu合金が共晶反応によってその融点が910℃まで低下することがそれぞれ記載されている。日本特許第6285043号公報には、比較例4としてFe粉末、Pt粉末、BN粉末、Au粉末を媒体撹拌ミルにて300rpmで2時間処理した後、Ag粉末とBN粉末をV字型混合機で混ぜ合わせた後、更に150μmの篩を用いて混合した粉末を焼結及び熱間等方加圧加工を施したところ、パーティクル数が833個と大幅に増加したことが記載されている。同様に、日本特許第6084711号公報には、Fe粉末、Pt粉末、BN粉末、Au粉末を媒体撹拌ミルにて300rpmで2時間処理した後、Au粉末とBN粉末をV字型混合機で混ぜ合わせた後、更に150μmの篩を用いて混合した粉末を焼結及び熱間等方加圧加工を施したところ、パーティクル数が256個と大幅に増加したことが記載されている。
【0007】
以上、上記の特許文献には、SiO、AgCu合金又はAuCu合金を主成分と同レベルで添加すること若しくは酸素量を4000wtppm以下に低減することによりFe-Pt-BN系焼結体によるパーティクル発生を低減する技術が開示されているが、これらの条件の一つでも満たさない場合にはパーティクル数を低減できていない。また、SiO、AgCu合金又はAuCu合金を主成分と同レベルで添加することにより、成膜したい組成がこれらの元素を含まない場合には、成膜したい組成との乖離が大きく、膜の所望の磁気特性が得られなくなる可能性がある。したがって、成膜したい組成がSiO、AgCu合金又はAuCu合金を含まない場合には、BNの焼結性を改善し、パーティクル発生を低減させることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5567227号公報
【文献】特許第5689543号公報
【文献】特許第6285043号公報
【文献】特許第6084711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の特許文献1~4に開示されている発明とは異なるアプローチにより、高い相対密度を有するFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットのパーティクル発生の問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットでは、BNの融点が高く、均一微細な組織にすることが困難であり、均一微細な組織にするとBNが微粉砕されて複合材料の焼結を阻害し、焼結性が悪化することを確認し、BNの少なくとも一部をホウ素酸化物に変換して、融点を低下させることにより、BN含有複合材料の焼結性を向上させることで、パーティクル発生を低減できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明によれば、Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットであって、
BNおよびホウ素酸化物からなる非磁性成分を含み、
相対密度が88%以上であり、
酸素含有量が4000wtppmを超え10,000wtppm以下であり、
下記の手順で求めた全ホウ素濃度(wt%)に対する水溶性ホウ素濃度(wt%)の割合が1.0%以上であることを特徴とする、Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットが提供される。
(全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の求め方)
(1)スパッタリングターゲットから4mm角の試料片を切断し、当該試料片を粉砕して、粉砕物を調製し、
(2)当該粉砕物を目開き106μm及び300μmの篩を用いて分級し、目開き300μmの篩を通過して目開き106μmの篩上に残った粉末0.50gを25℃の純水100mlに浸漬し、1時間放置した後、JIS P 3801に規定される5種Aのろ紙でろ過し、
(3)ろ液を200mlのメスフラスコでメスアップして、ICP分析により液中B濃度を求め、
(4)純水200mlのみをICP分析によりブランクB濃度を求め、
(5)液中B濃度からブランクB濃度を差し引き、液体容量の200mlを乗じて、溶出した水溶性B質量を算出し、
(6)粉末質量0.50g中の水溶性B質量から粉末1gあたりの水溶性B濃度を算出し、
(7)上記(2)で目開き106μmの篩上の粉末を秤量して、アルカリ溶融した後、ICP分析により粉末1g中全B濃度を算出し、
(8)粉末1g中水溶性B濃度を粉末1g中全B濃度で除す。
【0012】
また、本発明によれば、Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットであって、
BNおよびホウ素酸化物並びに炭素(C)からなる非磁性成分を含み、
相対密度が88%以上であり、
酸素含有量が4000wtppmを超え10,000wtppm以下であり、
上記の手順で求めた全ホウ素濃度(wt%)に対する水溶性ホウ素濃度(wt%)の割合が1.0%以上であることを特徴とする、Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットが提供される。
【0013】
前記Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットの切断面におけるBの存在領域にはOが存在する。
【0014】
前記Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、Ptを10mol%以上55mol%以下含むことが好ましい。
【0015】
前記Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、BNを10mol%以上55mol%以下含むことが好ましい。
【0016】
前記Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、さらにCを0mol%以上20mol%以下含むことが好ましい。
【0017】
前記Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、Ag、Au、Co、Cr、Cu、Ge、Ir、Ni、Pd、Rh、Ruから選択される1種以上の元素をさらに含むことができる。
【0018】
また、本発明によれば、前記Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットの製造方法が提供される。本発明の製造方法は、原料粉末を下記(A)~(E)のいずれかの態様で媒体撹拌ミル内にて100rpm以上200rpm以下の回転数で合計2時間以上6時間以下混合して原料粉末混合物を調製すること、及び当該原料粉末混合物のうち目開き300μmの篩を通過した粉末を採取して、焼結することを含み、BN粉末表面の少なくとも一部を酸化させることを特徴とする。
【0019】
(A)まずBN粉末のみを酸素及び/又は水分を含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、次に残りの原料粉末を当該媒体撹拌ミルに投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気とした後に混合する態様。
(B)まずBN粉末のみをアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミルで粉砕した後に酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させ、次いで当該媒体撹拌ミルに残りの原料粉末を投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気として混合する態様。
(C)原料粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合した後、混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる態様。
(D)原料粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、所定の混合時間を経過する前に混合を中断して酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させた後、再び混合を再開する態様。
(E)原料粉末をアルゴンガスと酸素及び/又は水分とを含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合する態様。
【0020】
より具体的には、非磁性成分がBN及びホウ素酸化物からなる場合、前記原料粉末混合物は、下記(A1)~(E1)のいずれかの態様で調製されることが好ましい。
(A1)まずBN粉末のみを酸素及び/又は水分を含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、次にFe粉末及びPt粉末を当該媒体撹拌ミルに投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気とした後に混合する態様。
(B1)まずBN粉末のみをアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミルで粉砕した後に酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させ、次いで当該媒体撹拌ミルにFe粉末及びPt粉末を投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気として混合する態様。
(C1)BN粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合した後、混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる態様。
(D1)BN粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、所定の混合時間を経過する前に混合を中断して酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させた後、再び混合を再開する態様。
(E1)BN粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガスと酸素及び/又は水分とを含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合する態様。
【0021】
また、非磁性成分がBN、ホウ素酸化物及び炭素(C)からなる場合、前記原料粉末混合物は、下記(A2)~(E2)の何れかの態様で調製されることが好ましい。
(A2)まずBN粉末のみを酸素及び/又は水分を含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、次にC粉末、Fe粉末及びPt粉末を当該媒体撹拌ミルに投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気とした後に混合する態様。
(B2)まずBN粉末のみをアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミルで粉砕した後に酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させ、次いで当該媒体撹拌ミルにC粉末、Fe粉末及びPt粉末を投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気として混合する態様。
(C2)BN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合した後、混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる態様。
(D2)BN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、所定の混合時間を経過する前に混合を中断して酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させた後、再び混合を再開する態様。
(E2)BN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガスと酸素及び/又は水分とを含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合する態様。
【0022】
前記焼結は、600℃以上1200℃以下の焼結温度、及び30MPa以上200MPa以下の焼結圧力で行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、88%以上の相対密度を有し、マグネトロンスパッタリング時のパーティクル発生数を低減できる。
また、本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、SiO、AgCu合金、AuCu合金などを添加することなく、パーティクルの発生を低減できるので、スパッタ膜の磁気特性に影響を与えることが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットにおける組織の模式図
図2】実施例2のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットのEPMA画像
図3】実施例及び比較例における全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量との関係を示すグラフ
図4】実施例及び比較例における全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合とパーティクル数との関係を示すグラフ
図5】実施例及び比較例における酸素含有量とパーティクル数との関係を示すグラフ
【好ましい実施形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
[第一実施形態]
第一実施形態のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、BNおよびホウ素酸化物からなる非磁性成分を含み、相対密度が88%以上であり、酸素含有量が4000wtppmを超え10,000wtppm以下であり、下記の手順で求めた全ホウ素濃度(wt%)に対する水溶性ホウ素濃度(wt%)の割合が1.0%以上であることを特徴とする。
(全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の求め方)
(1)スパッタリングターゲットから4mm角の試料片を切断し、当該試料片を粉砕して、粉砕物を調製し、
(2)当該粉砕物を目開き106μm及び300μmの篩を用いて分級し、目開き300μmの篩を通過して目開き106μmの篩上に残った粉末0.50gを25℃の純水100mlに浸漬し、1時間放置した後、JIS P 3801に規定される5種Aのろ紙でろ過し、
(3)ろ液を200mlのメスフラスコでメスアップして、ICP分析により液中B濃度を求め、
(4)純水200mlのみをICP分析によりブランクB濃度を求め、
(5)液中B濃度からブランクB濃度を差し引き、液体容量の200mlを乗じて、溶出した水溶性B質量を算出し、
(6)粉末質量0.50g中の水溶性B質量から粉末1gあたりの水溶性B濃度を算出し、
(7)上記(2)で目開き106μmの篩上の粉末を秤量して、アルカリ溶融した後、ICP分析により粉末1g中全B濃度を算出し、
(8)粉末1g中水溶性B濃度を粉末1g中全B濃度で除す。
【0027】
本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、4000wtppmを超え10,000wtppm以下、好ましくは4000wtppmを超え8,000wtppm以下の酸素を含み、全ホウ素濃度(wt%)に対する水溶性ホウ素濃度(wt%)の割合が1.0%以上、好ましくは2.0%以上、より好ましくは2.0%以上10.0以下である。上記割合で水溶性ホウ素が検出されることは、BN及びBは水に不溶であるため、酸化ホウ素Bなどのホウ素酸化物が含まれていることの証左となる。
【0028】
すなわち、本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、全ホウ素濃度(wt%)に対する水溶性ホウ素濃度(wt%)の割合が1.0%以上、好ましくは2.0%以上、より好ましくは2.0%以上10.0%以下となる量のホウ素酸化物を含む。
【0029】
全ホウ素に対する水溶性ホウ素の割合及び酸素含有量が上記範囲内にあれば、高融点のBNの少なくとも一部が、低融点の酸化ホウ素に置換されて、Fe-Pt-BN系複合材料の焼結性が改善される。後述する実施例及び比較例に詳述するように、EPMA分析(分析条件は後述する。)によって、本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットの切断面におけるBの存在領域にOが存在することが確認できる。切断面におけるBの存在領域にOが存在することから、BNの少なくとも一部が低融点の酸化ホウ素に置換されている状態は、図1の模式図に示すように、BNの表面に酸化ホウ素(B)が形成されている状態と考えられる。
【0030】
さらに、本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、88%以上の相対密度、好ましくは90%以上の相対密度を有する。相対密度が88%未満であると、スパッタリングターゲットとして実用化できない。
【0031】
本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、BNおよびホウ素酸化物からなる非磁性成分を含む。本発明において、非磁性成分は、スパッタリングされた後のグラニュラー構造磁性薄膜において金属成分を隔離する粒界材として作用する。本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、パーティクル発生の原因となるSiOを含まない。
【0032】
本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、Ptを10mol%以上55mol%以下、好ましくは15mol%以上50mol%以下含むことが望ましい。Ptの含有量を上記範囲とすることで、成膜後のFe-Pt系合金の磁気特性を良好に維持することができる。
【0033】
本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、BNを10mol%以上55mol%以下、好ましくは15mol%以上50mol%以下、より好ましくは20mol%以上45mol%以下含むことが望ましい。上記範囲内であれば、BNが磁気記録媒体のグラニュラー構造磁性薄膜の粒界材として機能する。
【0034】
本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、Ag、Au、Co、Cr、Cu、Ge、Ir、Ni、Pd、Rh、Ruから選択される1種以上の金属元素をさらに含み得る。これらの追加金属元素の総量は、Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲット全体の0mol%以上20mol%以下、好ましくは0mol%以上15mol%以下とすることができ、上記範囲内であればFe-Pt系合金の磁気特性を良好に維持することができる。
【0035】
本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、BN粉末、Fe粉末及びPt粉末を媒体撹拌ミル内にて100rpm以上200rpm以下の回転数で合計2時間以上6時間以下混合して原料粉末混合物を調製すること、及び当該原料粉末混合物のうち目開き300μmの篩を通過した粉末を採取して、焼結することを含み、原料粉末混合物を調製する際に少なくともBN粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させて、BN表面の少なくとも一部を酸化させた原料粉末混合物を調製することを特徴とする方法により製造することができる。
【0036】
媒体撹拌ミルの回転数が低すぎるとBNを均一に分散することができず、回転数が高すぎると微細な粒子が形成されてしまい、相対密度が低下し、スパッタリングターゲットとして実用化できないので好ましくない。また、混合時間が短すぎると水溶性ホウ素が十分に形成されず、混合時間が長すぎると水溶性ホウ素は十分に形成されるものの酸素含有量が多くなり、所望の磁気特性が得られない可能性がある。また、酸素含有量が多すぎると、主成分であるFeの酸化が進行して鉄酸化物が増加し、Fe-Pt-BN系焼結体をスパッタリングターゲットに加工する際に割れチッピングが発生し、焼結体の機械加工性が悪化するおそれもある。
【0037】
本発明の製造方法において、原料粉末の混合時のBN表面と酸素及び/又は水分を含有するガスとの接触の態様は、下記(A1)~(E1)から任意に選択することができる。
(A1)まずBN粉末のみを酸素及び/又は水分を含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、次にFe粉末及びPt粉末を当該媒体撹拌ミルに投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気として混合する態様。
(B1)まずBN粉末のみをアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミルで粉砕した後に酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させ、次いで当該媒体撹拌ミルにFe粉末及びPt粉末を投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気として混合する態様。
(C1)BN粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合した後、混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる態様。
(D1)BN粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、所定の混合時間を経過する前に混合を中断して酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させた後、再び混合を再開する態様。
(E1)BN粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガスと酸素及び/又は水分とを含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合する態様。
【0038】
態様(A1)~(E1)の場合、撹拌混合後の混合粉末の酸素含有量が4000wtppmを超え10,000wtppm以下となるよう、媒体撹拌ミル内に含まれる酸素量および/または水分量、あるいは混合粉末と接触させる酸素量および/または水分量を調整する。酸素量および/または水分量の調整は、混合粉末の質量や媒体撹拌ミルの容積に合わせて、酸素含有雰囲気の酸素分圧および/または水分含有雰囲気の露点で調整することができる。
【0039】
態様(A1)の場合、BN粉末のみを酸素含有雰囲気の媒体撹拌ミル内で撹拌する条件は、例えば回転数100rpm以上200rpm以下で1時間以上3時間以下とし、Fe粉末及びPt粉末を投入した後の撹拌混合時間との合計が2時間以上6時間以下とする。BN粉末のみを撹拌する酸素含有雰囲気としては、例えば30vol%の酸素を含有するアルゴンガス雰囲気を好適に挙げることができる。
【0040】
態様(B1)の場合、BN粉末のみをアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で撹拌する条件としてBN粉末が微細化されすぎないことが必要であり、例えば回転数100rpm以上200rpm以下で1時間以上3時間以下とし、Fe粉末及びPt粉末を投入した後の撹拌混合時間との合計が2時間以上6時間以下とする。粉砕したBN粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる態様としては、粉末を媒体撹拌ミルから取り出して、大気中でバットに広げて所定時間放置する態様を好適に挙げることができる。BN粉末の微粒子を大気と接触させることで、態様(C1)よりも酸素と接触するBNの表面積が大きくなり、BN表面が酸化してホウ素酸化物が形成されやすくなる。
【0041】
態様(C1)の場合、BN粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合した後、混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと例えば30分以上接触させることができる。媒体撹拌ミル内での混合条件は、例えば回転数100rpm以上200rpm以下で合計2時間以上6時間以下とする。混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる態様は、態様(B1)と同様に、混合粉末を大気中でバットに広げて所定時間放置する態様を好適に挙げることができる。
【0042】
態様(D1)の場合、例えばアルゴンガスを封入した媒体撹拌ミル内でBN粉末、Fe粉末及びPt粉末を混合し、撹拌混合時間の途中に1回以上撹拌混合を停止し、混合粉末を媒体撹拌ミルから取り出して、酸素及び/又は水分を含有するガスと30分以上接触させた後に、再度、アルゴンガスを封入した媒体撹拌ミル内で撹拌混合することができる。混合途中での混合粉末と酸素及び/又は水分を含有するガスとの接触の回数は1回以上5回以下とすることができる。媒体撹拌ミル内での混合条件は、例えば回転数100rpm以上200rpm以下で合計2時間以上6時間以下とする。混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる態様は、態様(B1)及び(C1)と同様に、混合粉末を大気中でバットに広げて所定時間放置する態様を好適に挙げることができる。
【0043】
態様(E1)の場合、BN粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガスと酸素及び/又は水分とを含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合する条件は、例えば回転数100rpm以上200rpm以下で2時間以上6時間以下とする。アルゴンガスと酸素及び/又は水分を含有する雰囲気としては、たとえば30vol%の酸素を含むアルゴンガス雰囲気を好適に挙げることができる。
【0044】
上記態様(A1)~(E1)の混合の場合、Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットにおける全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合は、BNが分解してホウ素酸化物が形成された割合を示す。BNの分解すなわちホウ素酸化物の形成は、まずBNが粉砕された後に、酸素又は水分との接触によってBが酸化されることにより進行する。BNが粉砕されすぎると、相対密度が低下するため、ホウ素酸化物が過剰に形成されない程度に媒体撹拌ミル内での混合は緩やかな条件とすることが必要である。
【0045】
追加成分としてAg、Au、Co、Cr、Cu、Ge、Ir、Ni、Pd、Rh、Ruから選択される1種以上の金属元素を含む場合には、これらの追加元素を含む金属単体粉末又は合金粉末(以下「金属粉末」という。)を上記態様(A1)~(E1)のいずれにおいてもFe粉末及びPt粉末と一緒に添加することができる。
【0046】
Fe粉末としては、平均粒径1μm以上10μm以下のものを用いることが好ましい。平均粒径が小さすぎると発火の危険性や不可避不純物濃度が高くなる可能性が生じ、平均粒径が大きすぎるとBNを均一に分散することができないので好ましくない。
【0047】
Pt粉末としては、平均粒径0.1μm以上10μm以下のものを用いることが好ましい。平均粒径が小さすぎると不可避不純物濃度が高くなる可能性が生じ、平均粒径が大きすぎるとBNを均一に分散することができないので好ましくない。
【0048】
BN粉末としては、平均粒径2μm以上10μm以下のものを用いることが好ましい。上記範囲外だと所望の分散状態を達成することができないので好ましくない。
【0049】
その他追加成分として用いる金属粉末としては、平均粒径0.1μm以上20μm以下のものを用いることが好ましい。平均粒径が小さすぎると不可避不純物濃度が高くなる可能性が生じ、平均粒径が大きすぎると均一に分散することができないので好ましくない。
【0050】
焼結は、600℃以上1200℃以下、好ましくは700℃以上1100℃以下の焼結温度、及び30MPa以上200MPa以下、好ましくは50MPa以上100MPa以下の焼結圧力で行われることが望ましい。焼結温度が低すぎると相対密度が低くなり、焼結温度が高すぎると酸化ホウ素(B)が形成されるよりも多くのBNが分解する恐れがあるので好ましくない。
【0051】
[第二実施形態]
第二実施形態のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、C、BNおよびホウ素酸化物からなる非磁性成分を含み、相対密度が88%以上であり、酸素含有量が4000wtppmを超え10,000wtppm以下であり、第一実施形態で説明した手順で求めた全ホウ素濃度(wt%)に対する水溶性ホウ素濃度(wt%)の割合が1.0%以上であることを特徴とする。
【0052】
第二実施形態のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、非磁性成分として第一実施形態のBNおよびホウ素酸化物に加えて、Cを含む。第二実施形態のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、第一実施形態と同様、パーティクル発生の原因となるSiOを含まない。
【0053】
本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、BNを10mol%以上55mol%以下、好ましくは15mol%以上50mol%以下、より好ましくは20mol%以上45mol%以下含むことが望ましい。
【0054】
非磁性成分としてCを含む場合、BNとCの合計は10mol%以上55mol%以下、好ましくは15mol%以上50mol%以下、より好ましくは20mol%以上45mol%以下であることが望ましい。この場合、Cは0mol%超過20mol%以下、好ましくは0mol%超過15mol%以下であることが望ましい。上記範囲内であれば、CがBNと共に磁気記録媒体のグラニュラー構造磁性薄膜の粒界材として機能する。
【0055】
第二実施形態のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、非磁性材としてCをさらに含む点を除いて第一実施形態のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットと同様である。
【0056】
本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、Ptを10mol%以上55mol%以下、好ましくは15mol%以上50mol%以下含むことが望ましい。Ptの含有量を上記範囲とすることで、成膜後のFe-Pt系合金の磁気特性を良好に維持することができる。
【0057】
本発明のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、Ag、Au、Co、Cr、Cu、Ge、Ir、Ni、Pd、Rh、Ruから選択される1種以上の金属元素をさらに含み得る。これらの追加金属元素の総量は、Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲット全体の0mol%以上20mol%以下、好ましくは0mol%以上15mol%以下とすることができ、上記範囲内であればFe-Pt系合金の磁気特性を良好に維持することができる。
【0058】
第二実施形態のFe-Pt-BN系スパッタリングターゲットは、BN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末を媒体撹拌ミル内にて100rpm以上200rpm以下の回転数で合計2時間以上6時間以下混合して原料粉末混合物を調製すること、及び当該原料粉末混合物のうち目開き300μmの篩を通過した粉末を採取して、焼結することを含み、原料粉末混合物を調製する際に、少なくともBN表面を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させて、少なくとも一部を酸化させることを特徴とする方法により製造することができる。
【0059】
上記原料粉末混合物は、下記(A2)~(E2)のいずれかの態様で調製することができる。
(A2)まずBN粉末のみを酸素及び/又は水分を含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、次にC粉末、Fe粉末及びPt粉末を当該媒体撹拌ミルに投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気とした後に混合する態様。
(B2)まずBN粉末のみをアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミルで粉砕した後に酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させ、次いで当該媒体撹拌ミルにC粉末、Fe粉末及びPt粉末を投入した後、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガス雰囲気として混合する態様。
(C2)BN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合した後、混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる態様。
(D2)BN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合し、所定の混合時間を経過する前に混合を中断して酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させた後、再び混合を再開する態様。
(E2)BN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガスと酸素及び/又は水分とを含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合する態様。
【0060】
態様(A2)~(E2)の場合、撹拌混合後の混合粉末の酸素含有量が4000wtppmを超え10,000wtppm以下となるよう、媒体撹拌ミル内に含まれる酸素量および/または水分量、あるいは混合粉末と接触させる酸素量および/または水分量を調整する。酸素量および/または水分量の調整は、混合粉末の質量や媒体撹拌ミルの容積に合わせて、酸素含有雰囲気の酸素分圧および/または水分含有雰囲気の露点で調整することができる。
【0061】
態様(A2)の場合、BN粉末のみを酸素含有雰囲気の媒体撹拌ミル内で撹拌する条件は、例えば回転数100rpm以上200rpm以下で1時間以上3時間以下とし、C粉末、Fe粉末及びPt粉末を投入した後の撹拌混合時間との合計が2時間以上6時間以下とする。BN粉末のみを撹拌する酸素含有雰囲気としては、例えば30vol%の酸素を含有するアルゴンガス雰囲気を好適に挙げることができる。
【0062】
態様(B2)の場合、BN粉末のみをアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で撹拌する条件としてBN粉末が微細化されすぎないことが必要であり、例えば回転数100rpm以上200rpm以下で1時間以上3時間以下とし、C粉末、Fe粉末及びPt粉末を投入した後の撹拌混合時間との合計が2時間以上6時間以下とする。粉砕したBN粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる態様としては、粉末を媒体撹拌ミルから取り出して、大気中でバットに広げて所定時間放置する態様を好適に挙げることができる。BN粉末の微粒子を大気と接触させることで、態様(C2)よりも酸素と接触するBNの表面積が大きくなり、BN表面が酸化してホウ素酸化物が形成されやすくなる。
【0063】
態様(C2)の場合、BN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガス雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合した後、混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと例えば30分以上接触させる。媒体撹拌ミル内での混合条件は、例えば回転数100rpm以上200rpm以下で合計2時間以上6時間以下とする。混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる態様は、態様(B2)と同様に、混合粉末を大気中でバットに広げて所定時間放置する態様を好適に挙げることができる。
【0064】
態様(D2)の場合、例えばアルゴンガスを封入した媒体撹拌ミル内でBN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末を混合し、撹拌混合時間の途中に1回以上撹拌混合を停止し、混合粉末を媒体撹拌ミルから取り出して、酸素及び/又は水分を含有するガスと30分以上接触させた後に、再度、アルゴンガスを封入した媒体撹拌ミル内で撹拌混合することができる。混合途中での混合粉末と酸素及び/又は水分を含有するガスとの接触の回数は1回以上5回以下とすることができる。媒体撹拌ミル内での混合条件は、例えば回転数100rpm以上200rpm以下で合計2時間以上6時間以下とする。混合粉末を酸素及び/又は水分を含有するガスと接触させる態様は、態様(B2)及び(C2)と同様に、混合粉末を大気中でバットに広げて所定時間放置する態様を好適に挙げることができる。
【0065】
態様(E2)の場合、BN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末をアルゴンガスと酸素及び/又は水分とを含有する雰囲気の媒体撹拌ミル内で混合する条件は、例えば回転数100rpm以上200rpm以下で2時間以上6時間以下とする。アルゴンガスと酸素及び/又は水分とを含有する雰囲気としては、30vol%の酸素及び/又は水分を含有するアルゴンガス雰囲気が好ましい。
【0066】
上記態様(A2)~(E2)の混合の場合、Fe-Pt-BN系スパッタリングターゲットにおける全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合は、BNが分解してホウ素酸化物が形成された割合を示す。BNの分解すなわちホウ素酸化物の形成は、まずBNが粉砕された後に、酸素又は水分との接触によってBが酸化されることにより進行する。BNが粉砕されすぎると、相対密度が低下するため、ホウ素酸化物が過剰に形成されない程度に媒体撹拌ミル内での混合は緩やかな条件とすることが必要である。
【0067】
追加成分としてAg、Au、Co、Cr、Cu、Ge、Ir、Ni、Pd、Rh、Ruから選択される1種以上の金属元素を含む場合には、これらの追加元素を含む金属単体粉末又は合金粉末(以下「金属粉末」という。)を上記態様(A2)~(E2)のいずれにおいてもFe粉末及びPt粉末と一緒に添加することができる。
【0068】
C粉末としては、平均粒径2μm以上10μm以下のものを用いることが好ましい。上記範囲外だと所望の分散状態を達成することができないので好ましくない。
【0069】
BN粉末、Fe粉末、Pt粉末、その他追加の成分及び焼結条件は、第一実施形態において説明したものと同様であるから、重複する説明は割愛する。
【実施例
【0070】
以下、実施例及び比較例により、本発明を具体的に説明する。以下の実施例及び比較例におけるスパッタリングターゲットの相対密度、パーティクル数、酸素含有量及び全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合の測定方法は以下のとおりである。
【0071】
[相対密度]
置換液として純水を用いて、アルキメデス法で密度を測定する。焼結体の質量を測定し、焼結体を置換液中に浮遊させた状態で浮力(=焼結体の体積)を測定する。焼結体の質量(g)を焼結体の体積(cm)で除して実測密度(g/cm)を求める。焼結体の組成に基づいて計算した理論密度との比率(実測密度/理論密度×100)が相対密度である。
【0072】
[パーティクル数]
表2に示す混合条件及び焼結条件にて調製した焼結体を直径153mm、厚さ2mmに加工し、直径161mm、厚さ4mmのCu製パッキングプレートにインジウムでボンディングして、スパッタリングターゲットを調製する。このスパッタリングターゲットをマグネトロンスパッタリング装置に取り付け、出力500W、ガス圧1PaのArガス雰囲気下で、4時間放電した後、40秒間のスパッタリングで基板上に付着したパーティクル数をパーティクルカウンターで測定する。
【0073】
[酸素含有量]
(1)スパッタリングターゲットから2mm角の試料片をボルトクリッパーで切断して、分析サンプル0.1gを秤量し、
(2)酸素・窒素分析装置で、最高温度2684℃の条件で測定する。
【0074】
[全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合]
(1)スパッタリングターゲットから4mm角の試料片をボルトクリッパーで切断し、当該試料片を粉砕して、粉砕物を調製し、
(2)当該粉砕物を目開き106μm及び300μmの篩を用いて分級し、目開き300μmの篩を通過して目開き106μmの篩上に残った粉末0.50gを25℃の純水100mlに浸漬し、1時間放置した後、JIS P 3801に規定される5種Aのろ紙でろ過し、
(3)ろ液を200mlのメスフラスコでメスアップして、ICP分析により液中B濃度を求め、
(4)純水200mlのみをICP分析によりブランクB濃度を求め、
(5)液中B濃度からブランクB濃度を差し引き、液体容量の200mlを乗じて、溶出した水溶性B質量を算出し、
(6)粉末質量0.50g中の水溶性B質量から粉末1gあたりの水溶性B濃度を算出し、(7)上記(2)で目開き106μmの篩上の粉末0.15gとNaCO粉末(関東化学(株)製の炭酸ナトリウム特級)0.5gとNa粉末(関東化学(株)製の過酸化ナトリウム鹿1級)2.0gをジルコニウム坩堝に入れて、
(8)700℃で50秒間加熱後、900℃で200秒間加熱し、さらに坩堝を回転させながら900℃で200秒間加熱する条件でアルカリ溶融し、
(9)アルカリ溶融後の坩堝を、純水40mlと塩酸(関東化学(株)製の特級塩酸)30mlの混合溶液に1時間浸漬し、
(10)溶液を100mlのメスフラスコでメスアップして、その溶液を25倍希釈し、ICP分析により液中B濃度を求め、粉末1gあたりの全B濃度を算出し、
(11)粉末1gあたりの水溶性B濃度を粉末1gあたりの全B濃度で除す。
【0075】
[EPMA分析]
スパッタリングターゲットから2mm角の試料片を切断し、粒度1200のSiC研磨紙で研磨した後1μmのダイヤモンドスプレーを用いてバフ研磨した試料片を、表1に示すEPMA分析条件にて、EPMA装置(JXA-8500F)を用いて、分析した。
【0076】
【表1】
【0077】
[実施例1]
Fe-31.5Pt-30BN(比率はmol%、残部はFeおよび不可避不純物。以下の実施例及び比較例にて同じ。)の組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末190.28g、平均粒子径1μmのPt粉末543.83g、平均粒子径4μmのBN粉末65.90gを秤量して、媒体撹拌ミル(媒体:ジルコニアボール)に投入し、媒体撹拌ミル内の雰囲気をアルゴンガスに置換後、150rpmで4時間混合した。この混合粉末を目開き300μmの篩で分級し、通過した粉末をバットに広げて大気と30分接触させ、混合粉中のBN粒子近傍にホウ素酸化物(B)を形成させた。その粉末を、焼結圧力66MPa、焼結温度900℃、保持時間1時間の条件で焼結して、焼結体を得た。
【0078】
この焼結体の相対密度を測定後、焼結体をスパッタリングターゲットに加工してパーティクル数を測定した。次に、スパッタリングターゲットから試料片を切り出して、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度は93.8%、パーティクル数は53個、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合は3.6%、酸素含有量は6275wtppmであった。
【0079】
[実施例2]
Fe-30Pt-30BN-10Cの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末143.73g、平均粒子径1μmのPt粉末502.08g、平均粒子径4μmのBN粉末63.88g、平均粒子径3μmのC粉末10.30gを秤量して、媒体撹拌ミル(媒体:ジルコニアボール)に投入し、媒体撹拌ミル内の雰囲気をアルゴンガスに置換後、150rpmで4時間混合した。この混合粉末を目開き300μmの篩で分級し、通過した粉末をバットに広げて大気と30分接触させ、混合粉中のBN粒子近傍にBを形成させた。その粉末を、焼結圧力66MPa、焼結温度900℃、保持時間1時間の条件で焼結して、焼結体を得た。
【0080】
この焼結体の相対密度を測定後、焼結体をスパッタリングターゲットに加工してパーティクル数を測定した。次に、スパッタリングターゲットから試料片を切り出して、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度は92.9%、パーティクル数は38個、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合は3.1%、酸素含有量は6033wtppmであった。
【0081】
また、スパッタリグターゲットから2mm角の試料片を切断し、EPMA分析を行った。結果を図2に示す。図2から、B及びNの存在する領域は一致し、Oの存在する領域はB及びNが存在する領域と重複し、Fe及びPtの存在する領域と重複しないことがわかる。よって、OはBNの存在する領域に存在し、ホウ素酸化物を形成していると考えられる。
【0082】
[実施例3]
原料粉末の混合条件を150rpmで2時間に代えた以外は実施例2と同様にして焼結体を得て、評価した。相対密度95.6%、パーティクル数83個、水溶性ホウ素濃度の割合1.8%、酸素含有量4106wtppmであった。
【0083】
[実施例4]
まず、平均粒子径4μmのBN粉末100.00gのみを媒体撹拌ミル(媒体:ジルコニアボール)に投入し、媒体撹拌ミル内の雰囲気を30vol%OとArガスの混合ガス雰囲気として150rpmで2時間混合した。
【0084】
次に、Fe-30Pt-30BN-10Cの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末143.73g、平均粒子径1μmのPt粉末502.08g、上記粉砕処理をしたBN粉末63.88g、平均粒子径3μmのC粉末10.30gを秤量して、媒体撹拌ミル(媒体:ジルコニアボール)に投入し、媒体撹拌ミル内の雰囲気をアルゴンガスに置換後、150rpmで2時間混合して、原料粉末混合物を調製した。
調製した原料粉末混合物を焼結圧力66MPa、焼結温度900℃、保持時間1時間の条件で焼結して、焼結体を得た。
【0085】
得られた焼結体を用いて、実施例2と同様に相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度94.8%、パーティクル数57個、水溶性ホウ素濃度の割合3.5%、酸素含有量5665wtppmであった。
【0086】
[実施例5]
まず、平均粒子径4μmのBN粉末100.00gのみを媒体撹拌ミル(媒体:ジルコニアボール)に投入し、媒体撹拌ミル内の雰囲気をArガス雰囲気として150rpmで2時間混合して粉砕した後、BN粉末をバットに広げて大気と30分接触させ、混合粉中のBN粒子近傍にホウ素酸化物(B)を形成させた。
【0087】
次に、実施例4と同じ組成になるように、平均粒子径7μmのFe粉末143.73g、平均粒子径1μmのPt粉末502.08g、上記粉砕処理をしたBN粉末63.88g、平均粒子径3μmのC粉末10.30gを秤量して、媒体撹拌ミル(媒体:ジルコニアボール)に投入し、当該媒体撹拌ミル内をアルゴンガスに置換後150rpmで2時間混合して、原料粉末混合物を調製した。
調製した原料粉末混合物を焼結圧力66MPa、焼結温度900℃、保持時間1時間の条件で焼結して、焼結体を得た。
【0088】
得られた焼結体を用いて、実施例2と同様に相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度94.0%、パーティクル数48個、水溶性ホウ素濃度の割合5.4%、酸素含有量7706wtppmであった。
【0089】
[実施例6]
実施例4と同じ組成となるように各原料粉末を秤量し、BN粉末、C粉末、Fe粉末及びPt粉末を媒体撹拌ミルに投入し、媒体撹拌ミル内を酸素30vol%含むArガス雰囲気とした後、150rpmで2時間混合して、原料粉末混合物を調製した。
調製した原料粉末混合物を焼結圧力66MPa、焼結温度900℃、保持時間1時間の条件で焼結して、焼結体を得た。
【0090】
得られた焼結体を用いて、実施例2と同様に相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度92.9%、パーティクル数78個、水溶性ホウ素濃度の割合2.9%、酸素含有量4638ppmであった。
【0091】
[実施例7]
Fe-31.5Pt-7Ag-30BNの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末145.91g、平均粒子径1μmのPt粉末509.70g、平均粒子径10μmのAg粉末62.63g、平均粒子径4μmのBN粉末61.76gを秤量した以外は実施例1と同様にして原料粉末混合物を調製し、焼結体を得た。
【0092】
得られた焼結体を用いて、実施例1と同様に相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度95.2%、パーティクル数49個、水溶性ホウ素濃度の割合4.1%、酸素含有量5981wtppmであった。
【0093】
[実施例8]
Fe-31.5Pt-7Co-30BNの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末151.43g、平均粒子径1μmのPt粉末528.97g、平均粒子径3μmのCo粉末35.51g、平均粒子径4μmのBN粉末64.10gを秤量した以外は実施例1と同様にして原料粉末混合物を調製し、焼結体を得た。
【0094】
得られた焼結体を用いて、実施例1と同様に相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度93.7%、パーティクル数41個、水溶性ホウ素濃度の割合4.8%、酸素含有量5883wtppmであった。
【0095】
[実施例9]
Fe-31.5Pt-7Rh-30BNの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末148.33g、平均粒子径1μmのPt粉末518.15g、平均粒子径10μmのRh粉末60.74g、平均粒子径4μmのBN粉末62.79gを秤量した以外は実施例1と同様にして原料粉末混合物を調製し、焼結体を得た。
【0096】
得られた焼結体を用いて、実施例1と同様に相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度92.5%、パーティクル数43個、水溶性ホウ素濃度の割合3.8%、酸素含有量6121wtppmであった。
【0097】
[実施例10]
Fe-35Pt-30BNの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末172.79g、平均粒子径1μmのPt粉末603.60g、平均粒子径4μmのBN粉末65.83gを秤量して、媒体撹拌ミルに投入して回転数150pmで3時間混合した以外は実施例1と同様にして原料粉末混合物を調製し、焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度95.0%、パーティクル数67個、水溶性ホウ素濃度の割合3.4%、酸素含有量5372wtppmであった。
【0098】
[実施例11]
Fe-32.5Pt-35BNの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末157.91g、平均粒子径1μmのPt粉末551.60g、平均粒子径4μmのBN粉末75.58gを秤量した以外は実施例10と同様にして原料粉末混合物を調製し、焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度94.1%、パーティクル数77個、水溶性ホウ素濃度の割合3.3%、酸素含有量4833wtppmであった。
【0099】
[実施例12]
Fe-27.5Pt-45BNの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末129.51g、平均粒子径1μmのPt粉末452.40g、平均粒子径4μmのBN粉末94.19gを秤量した以外は実施例10と同様にして原料粉末混合物を調製し、焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度91.4%、パーティクル数94個、水溶性ホウ素濃度の割合2.8%、酸素含有量5296wtppmであった。
【0100】
[実施例13]
Fe-35Pt-20BN-10Cの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末173.45g、平均粒子径1μmのPt粉末605.89g、平均粒子径4μmのBN粉末44.05g、平均粒子径3μmのC粉末10.66gを媒体撹拌ミル(媒体:ジルコニアボール)に投入し、回転速度150rpmで3時間混合した以外は実施例2と同様にして焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度96.2%、パーティクル数61個、水溶性ホウ素濃度の割合3.7%、酸素含有量5141wtppmであった。
【0101】
[実施例14]
Fe-30Pt-30BN-10Cの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末14.73g、平均粒子径1μmのPt粉末502.08g、平均粒子径4μmのBN粉末63.88g、平均粒子径3μmのC粉末10.30gを媒体撹拌ミル(媒体:ジルコニアボール)に投入し、原料粉末の混合条件を回転速度150rpmで3時間に代えた以外は実施例2と同様にして焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度95.1%、パーティクル数62個、水溶性ホウ素濃度の割合3.3%、酸素含有量5308wtppmであった。
【0102】
[実施例15]
原料粉末混合物の焼結条件を焼結圧力66MPa、焼結温度を700℃に代えた以外は実施例14と同様にして焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度93.3%、パーティクル数82個、水溶性ホウ素濃度の割合2.9%、酸素含有量5224wtppmであった。
【0103】
[実施例16]
原料粉末の混合条件を回転数150pmで6時間に代えた以外は実施例2と同様にして焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度90.7%、パーティクル数33個、水溶性ホウ素濃度の割合7.3%、酸素含有量7688wtppmであった。
【0104】
[実施例17]
Fe-25Pt-10Au-30BN-10Cの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末116.99g、平均粒子径1μmのPt粉末408.33g、平均粒子径4μmのBN粉末62.40g、平均粒子径3μmのC粉末10.06g、平均粒子径1μmのAu粉末165.05gを媒体撹拌ミル(媒体:ジルコニアボール)に投入し、150rpmで3時間混合した以外は実施例2と同様にして焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度96.1%、パーティクル数55個、水溶性ホウ素濃度の割合2.5%、酸素含有量4935wtppmであった。
【0105】
[実施例18]
Fe-25Pt-10Ag-30BN-10Cの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末116.89g、平均粒子径1μmのPt粉末408.33g、平均粒子径4μmのBN粉末62.34g、平均粒子径3μmのC粉末10.06g、平均粒子径10μmのAg粉末90.31gを媒体撹拌ミル(媒体:ジルコニアボール)に投入した以外は実施例17と同様にして焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度95.7%、パーティクル数49個、水溶性ホウ素濃度の割合2.8%、酸素含有量5184wtppmであった。
【0106】
[実施例19]
Fe-25Pt-10Cu-30BN-10Cの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末121.19g、平均粒子径1μmのPt粉末423.33g、平均粒子径4μmのBN粉末64.63g、平均粒子径3μmのC粉末10.43g、平均粒子径3μmのCu粉末55.16gを媒体撹拌ミル(媒体:ジルコニアボール)に投入した以外は実施例17と同様にして焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度95.9%、パーティクル数66個、水溶性ホウ素濃度の割合2.6%、酸素含有量4799wtppmであった。
【0107】
[実施例20]
Fe-25Pt-10Rh-30BN-10Cの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末119.55g、平均粒子径1μmのPt粉末417.61g、平均粒子径4μmのBN粉末63.76g、平均粒子径3μmのC粉末10.28g、平均粒子径10μmのRh粉末88.12gを媒体撹拌ミル(媒体:ジルコニアボール)に投入した以外は実施例17と同様にして焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度94.0%、パーティクル数88個、水溶性ホウ素濃度の割合2.8%、酸素含有量5041wtppmであった。
【0108】
[実施例21]
Fe-25Pt-10Ge-30BN-10Cの組成となるように、平均粒子径7μmのFe粉末112.65g、平均粒子径1μmのPt粉末393.51g、平均粒子径4μmのBN粉末60.08g、平均粒子径3μmのC粉末9.69g、平均粒子径10μmのGe粉末58.61gを媒体撹拌ミル(媒体:ジルコニアボール)に投入し、焼結温度を700℃に変えた以外は実施例17と同様にして焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度97.0%、パーティクル数60個、水溶性ホウ素濃度の割合2.3%、酸素含有量5222wtppmであった。
【0109】
[比較例1]
混合条件を150rpmで30分に代えた以外は実施例2と同様にして、焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度95.4%、パーティクル数563個、水溶性ホウ素濃度の割合0.2%、酸素含有量1318wtppmであった。
【0110】
[比較例2]
混合条件を150rpmで12時間に代えた以外は実施例2と同様にして、焼結体を得て、相対密度、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度87.4%、水溶性ホウ素濃度の割合13.8%、酸素含有量12066wtppmであった。相対密度が87.4%と低く、スパッタリングターゲットとして実用性が低いため、パーティクル数は測定しなかった。
【0111】
[比較例3]
混合条件を300rpmで5分に代えた以外は実施例2と同様にして、焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度96.3%、パーティクル数1376個、水溶性ホウ素濃度の割合0.1%、酸素含有量483wtppmであった。
【0112】
[比較例4]
混合条件を300rpmで30分に代えた以外は実施例2と同様にして、焼結体を得て、相対密度、パーティクル数、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度91.4%、パーティクル数713個、水溶性ホウ素濃度の割合0.6%、酸素含有量2046ppmであった。
【0113】
[比較例5]
混合条件を300rpmで2時間に代えた以外は実施例2と同様にして、焼結体を得て、相対密度、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度86.5%、水溶性ホウ素濃度の割合2.2%、酸素含有量4467wtppmであった。相対密度が86.5%と低く、スパッタリングターゲットとして実用性が低いため、パーティクル数は測定しなかった。
【0114】
[比較例6]
混合条件を460rpmで6時間に代えた以外は実施例2と同様にして、焼結体を得て、相対密度、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量を測定した。相対密度79.2%、水溶性ホウ素濃度の割合10.2%、酸素含有量8782wtppmであった。相対密度が79.2%と低く、スパッタリングターゲットとして実用性が低いため、パーティクル数は測定しなかった。
【0115】
実施例および比較例における全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合と酸素含有量との関係を図3に示し、全ホウ素濃度に対する水溶性ホウ素濃度の割合とパーティクルの発生数との関係を図4に示し、同酸素含有量とパーティクルの発生数との関係を図5に示す。
【0116】
図4から、全ホウ素濃度(wt%)に対する水溶性ホウ素濃度(wt%)の割合が1.0%未満の範囲ではパーティクル数が500個を超えるが、全ホウ素濃度(wt%)に対する水溶性ホウ素濃度(wt%)の割合が1.0%以上の範囲ではパーティクル数は100個以下と非常に少ないことがわかる。
【0117】
図5から、酸素濃度が4000wtppm未満の範囲ではパーティクル数が500個を超えるが、酸素濃度が4000wtppm以上10,000wtppm以下の範囲ではパーティクル数は100個以下と非常に少ないことがわかる。
【0118】
以上の結果から、全ホウ素濃度(wt%)に対する水溶性ホウ素濃度(wt%)の割合が1.0%以上、酸素含有量が4000wtppm超過10,000wtppm以下の実施例1~21は、相対密度が88%以上であって、かつパーティクル数が100個未満であり、高い相対密度と低いパーティクル数の両条件を満たし、上記要件を満たさない比較例1~6は、相対密度が88%未満でありスパッタリングターゲットとして実用化できない(比較例2、5及び6)か又は相対密度は88%以上であってもパーティクル数が500個超過と著しく大きい(比較例1、3及び4)ことがわかる。
【0119】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5