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特許7462570熱を用いたリチウム及び遷移金属を回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】熱を用いたリチウム及び遷移金属を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20240329BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20240329BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20240329BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20240329BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240329BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20240329BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20240329BHJP
   C22B 9/02 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B26/12
C22B23/00 102
C22B47/00
C22B3/44 101A
C22B1/02
C22B3/06
C22B9/02
C22B3/44 101Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020555095
(86)(22)【出願日】2019-04-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 EP2019058141
(87)【国際公開番号】W WO2019197192
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】18166709.8
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローデ,ウォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】アーダーマン,トルベン
(72)【発明者】
【氏名】リル,トーマス ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シエレ-アルント,カースティン
(72)【発明者】
【氏名】ゼーラー,ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイグニー,サビーネ
(72)【発明者】
【氏名】ゼーリンガー,ミヒャエル
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-203131(JP,A)
【文献】特開2017-115179(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106129511(CN,A)
【文献】特開2014-055312(JP,A)
【文献】国際公開第2012/090654(WO,A1)
【文献】特開平10-046266(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159745(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/050317(WO,A2)
【文献】中国特許出願公開第106848470(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/00
C22B 26/12
C22B 23/00
C22B 47/00
C22B 3/44
C22B 1/02
C22B 3/06
C22B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含有する使用済みのリチウムイオン電池から遷移金属を回収する方法であって、
(a)リチウムを含有する遷移金属酸化物材料と、揮発性有機化合物とを含む供給物を、不活性雰囲気から、2容量%~10容量%の酸素を含有する酸素含有雰囲気に変化させる雰囲気下で、400~1200℃の範囲の温度に加熱するステップ、
(b)加熱処理した前記材料を水で処理するステップ、
(c)ステップ(b)で得られた固体残渣を硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸及びクエン酸から選択される酸で処理するステップ、
(d)pH値を2.5~8に調節するステップ、
(e)ステップ(d)で得られた溶液又はスラリーから、Al、Cu、Fe、Znの化合物又はこれらの少なくとも2種の組合せを除去するステップ
(f)ニッケル及びコバルト並びに/又はマンガンを、(混合)水酸化物、オキシ水酸化物又は炭酸塩として沈殿させるステップ、
を含
ステップ(e)は、(e1)その溶液の金属ニッケル、金属コバルト若しくは金属マンガン又はこれらの少なくとも2種の任意の組合せによる処理を含み、その処理が、その溶液の流れを、金属ニッケル、金属コバルト若しくは金属マンガン又はこれらの少なくとも2種の組合せを塊又は顆粒の形態で充填したカラムに通して流すことにより行われる、方法。
【請求項2】
ステップ(e)がAl、Cu、Fe、Znの炭酸塩、酸化物、リン酸塩、水酸化物若しくはオキシ水酸化物又はこれらの少なくとも2種の組合せの沈殿の除去を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リチウムを含有する遷移金属酸化物材料が完全な電池、電池モジュール、電池セル、又は電池くずの形態で存在する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)が10~150バールの範囲の圧力のCO2下で行われる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)が5~100℃の範囲の温度で行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(b)が20分~10時間の範囲の持続時間を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(c)に先立って固固分離ステップを行って不溶性成分を金属又は金属酸化物成分から分離する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記固固分離ステップが磁気分離ステップである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(d)が水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、アンモニア及び水酸化カリウムの少なくとも1種の添加によって行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(f)においてニッケルの水酸化物、オキシ水酸化物又は炭酸塩としての沈殿が、pH値を8より高く上昇させることによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
リチウムを炭酸塩として沈殿させることによって回収することを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルを含有する使用済みのリチウムイオン電池から遷移金属を回収する方法であって、
(a)リチウムを含有する遷移金属酸化物材料を400~1200℃の範囲の温度に加熱するステップ、
(b)加熱処理した前記材料を水で処理するステップ、
(c)ステップ(b)からの固体残渣を硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸及びクエン酸から選択される酸で処理するステップ、
(d)pH値を2.5~8に調節するステップ、
(e)ステップ(d)で得られた溶液又はスラリーから、Al、Cu、Fe、Znの化合物又はこれらの少なくとも2種の組合せを除去するステップ
を含む、方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーの貯蔵は関心が高まっている主題である。電気エネルギーの効率的な貯蔵によって、電気エネルギーを都合のよいときに発生させ、必要なとき必要なところで使用できるであろう。二次電気化学電池はその再充電性のためこの目的によく適している。二次リチウム電池は、リチウムの小さい原子量及び大きいイオン化エネルギーのため高いエネルギー密度を提供するのでエネルギー貯蔵に関して特に興味深く、多くの携帯用電子機器、例えば携帯電話、ラップトップコンピューター、ミニカメラ(mini-camera)等に、また電気自動車にも電源として広く使用されている。特に原材料、例えばコバルト及びニッケルに対して増大する需要は将来難題を生じるであろう。
【0003】
リチウムイオン電池の寿命は無限ではない。したがって、使用済みのリチウムイオン電池の数が増大することが予想される。使用済みのリチウムイオン電池は、重要な遷移金属、例えば、限定されることはないが、コバルト及びニッケル、それに加えてリチウムを含有するので、新世代のリチウムイオン電池のための貴重な原材料源となりなり得る。その理由から、遷移金属、及び場合によってはリチウムまでをも使用済みのリチウムイオン電池から再生利用する目的で研究活動が増加して行われている。
【0004】
リチウムイオン電池又はリチウムイオン電池の仕様及び必要条件を満たさない部分、いわゆる規格外材料及び生産廃棄物も原材料源となり得る。
【0005】
2つの主要な方法は原材料の回収を対象とする。1つの主要な方法は、対応する電池くずの融解と、それに続く、融解プロセスから得られた金属合金(マット)の湿式冶金プロセスに基づく。他の主要な方法は、電池くず材料の直接湿式冶金プロセスである。そのような湿式冶金プロセスは遷移金属を水溶液として、又は沈殿形態で、例えば水酸化物として、別々に、又は既に新しい正極活物質を作製するのに望ましい化学量論的組成で与える。後者の場合、金属塩溶液の組成は単独の金属成分の添加によって望ましい化学量論的組成に調節し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の1つの目的は、ニッケル並びに、存在する場合、コバルト及びマンガンの容易な回収を可能にする方法を提供することであった。本発明の別の目的は、電池くずに含有されるさらなる有価元素、即ちリチウム、フッ素及びグラファイトとしての炭素を回収する方法を提供することであった。本発明の特定の目的は、ニッケル、場合により、コバルト及びマンガン、並びにリチウムの効率的な回収を可能にする方法を提供することであった。本発明のさらなる目的は、特に銅並びにAg、Au及び白金族金属のような貴金属を低い含量で含む前記遷移金属及びリチウムを高純度で回収する方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その結果、以下で本発明の方法又は本発明の再生利用方法とも呼ばれる、初めに定義された方法が見出された。本発明の方法は、以下でステップ(a)、ステップ(b)、ステップ(c)等とも呼ばれる、以下でさらに詳細に定義されるステップを含む。
(a)リチウムを含有する遷移金属酸化物材料を400~1200℃の範囲の温度に加熱するステップ、
(b)加熱処理した前記材料を水で処理するステップ、
(c)ステップ(b)で得られた固体残渣を硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸及びクエン酸から選択される酸で処理するステップ、
(d)pH値を2.5~8に調節するステップ、
(e)ステップ(d)で得られたスラリーから、Al、Cu、Fe、Znの化合物又はこれらの少なくとも2種の組合せを除去するステップ、並びに、場合により、
(f)ニッケル及びコバルトを混合水酸化物、オキシ水酸化物若しくは炭酸塩又は金属として沈殿させるステップ。
【0008】
ステップ(a)~(e)及び、該当する場合、ステップ(f)は上記の順に実施される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ステップ(a)
ステップ(a)は、リチウムを含有する遷移金属酸化物材料、例えば正極材料を400~1200℃、好ましくは600~900℃、より好ましくは700~850℃の範囲の温度に加熱することを含む。別の形態において、ステップ(a)における加熱は500~900℃、好ましくは600~850℃の温度への加熱である。ステップ(a)における加熱は外部加熱されたオーブン(例えば、電気的に加熱されたオーブン)又は内部バーナーを有するオーブン(例えば、ロータリーキルン)で行うことができる。ステップ(a)における加熱は0.001バール~100バールの圧力下、好ましくは周囲圧力以下(例えば、真空オーブン中)で行うことができる。
【0010】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(a)は20分~8時間、好ましくは30分~4時間、より好ましくは45分~2時間の範囲の持続時間を有する。
【0011】
前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は、リチウムイオン電池又はリチウムイオン電池の部品に由来する材料である。安全上の理由から、そのようなリチウムイオン電池は完全に放電させる。そうしないと、火事及び爆発の危険を構成するショートカットが起こり得る。そのようなリチウムイオン電池は分解し、パンチで穴を開け、例えばハンマーミルで粉砕し、又は例えば、産業用シュレッダーで細断することができる。
【0012】
好ましくは、リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は完全な電池、電池モジュール、電池セル、又は電池くずの形態で存在する。
【0013】
1つの形態において、リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は完全な電池、電池モジュール又は電池セルの形態で存在する。この場合、ステップ(a)における加熱はロータリーキルンで行うのが好ましい。ステップ(a)における完全な電池、電池モジュール又は電池セルの加熱後、得られた材料は、(例えば、シュレッダー又はハンマーミルにより)さらに細かく砕き、主として鉄及び非鉄金属を含有する様々な画分並びにグラファイト及びリチウム及び遷移金属を含有する粒子のような電極由来の物質を含む粒子状物質を含有する画分に分離してもよい。磁化可能な成分の分離は磁気分離により達成でき、導電性金属部分は渦電流分離器により分離でき、絶縁成分は電気選別により分離できる。センサーに基づく選別技術も使用できる。粒子状物質は篩い分け又は分級により分離できる。
【0014】
ステップ(a)を開始する前に、電解液、特に有機溶媒又は有機溶媒の混合物を含む電解液を、例えば機械的除去により、又は、例えば50~250℃の範囲の温度、大気圧以下で乾燥することにより、少なくとも部分的に除去するのが有利である。
【0015】
本発明の1つの実施形態において、前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は電池くずに由来する。本発明の好ましい実施形態において、前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は、機械的に処理した電池くず、例えばハンマーミル又は産業用シュレッダーで処理した電池くずに由来する。そのようなリチウムを含有する遷移金属酸化物材料は1μm~1cmの範囲の平均粒径(D50)を有し得る。
【0016】
本発明の1つの実施形態において、機械的に処理した電池くずは、リチウム遷移金属酸化物を集電体膜に結合するのに使用されたポリマー性結合剤を溶解し分離するために溶媒処理に供される。適切な溶媒はN-メチル-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びN-エチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホラミド、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル及びリン酸トリエチルの純粋な形態、又はこれらの少なくとも2種の混合物である。
【0017】
前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は規則的な形状を有し得るが、通常は不規則な形状を有する。しかしながら、軽い画分、例えば有機プラスチック及びアルミニウム箔又は銅箔製のハウジング部品を、例えば強制気流中で、できるだけ除去するのが好ましい。
【0018】
本発明の1つの実施形態において、前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は多量の不純物、例えば、限定されることはないが、リチウムイオン電池の他の部品又は部品の材料を含有しない。そのようなリチウムを含有する遷移金属酸化物材料は電池、電池モジュール若しくは電池セル又は正極若しくは正極活物質のような電池セル成分の生産から外れる規格外の材料を含み得る。
【0019】
しかしながら、前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は、0.1~95重量%、好ましくは0.1~80重量%の範囲の、ニッケル化合物以外の化合物、例えば該当する場合、ニッケル/コバルト化合物又はニッケル/コバルト/アルミニウム化合物又はニッケル/コバルト/マンガン化合物のようなニッケル化合物以外の化合物を含有し、極端な場合、価値のある材料は少数成分である。そのような他の成分の例は、以下で導電性炭素とも呼ばれる、導電性形態の炭素、例えばグラファイト、すす、及びグラフェンである。不純物のさらなる例は、銅及びその化合物、アルミニウム及びアルミニウムの化合物、例えばアルミナ、鉄、例えば鋼、及び鉄化合物、亜鉛及び亜鉛化合物、ケイ素及びケイ素化合物、例えばシリカ及び酸化ケイ素SiOy(ゼロ<y≦2)、スズ、ケイ素-スズ合金、並びに有機ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、及びフッ素化ポリマー、例えばポリフッ化ビニリデン等である。不純物のさらなる例は、液体電解質に由来し得るフッ化物及びリン化合物、例えば広く使用されているLiPF6及びLiPF6の加水分解から生じる生成物である。本発明の方法に対して出発材料として役立つ電池くずは多数の起源に由来することができ、したがって前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料はほとんどの実施形態において、該当する場合、ニッケル/コバルト化合物又はニッケル/コバルト/マンガン化合物又はニッケル/コバルト/アルミニウム化合物以外の化合物を含有し、そのような成分の1つはリチウムを含有する遷移金属酸化物材料全体を基準にして1~65重量%の範囲の導電性形態の炭素である。
【0020】
前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料が全体として又はほとんど全体として規格外材料に由来する実施形態において、炭素は、例えば石炭、木炭、亜炭、グラファイト若しくはすす又はさらにはポリマー粒子、例えばポリマー廃棄物として、ステップ(a)に先立って加えるのが有利である。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は、20ppm~3重量%の範囲の銅を金属として、又は1種以上のその化合物の形態で含有する。
【0022】
本発明の好ましい実施形態において、前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は、100ppm~30重量%の範囲のアルミニウムを金属として、又は1種以上のその化合物の形態で含有する。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は、100ppm~30重量%の範囲の鉄を金属若しくは合金として、又は1種以上のその化合物の形態で含有する。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は、20ppm~5重量%の範囲の亜鉛を金属若しくは合金として、又は1種以上のその化合物の形態で含有する。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は、20ppm~2重量%の範囲のジルコニウムを金属若しくは合金として、又は1種以上のその化合物の形態で含有する。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は、20ppm~2重量%の範囲のタングステンを金属若しくは合金として、又は1種以上のその化合物の形態で含有する。
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は、ポリマーに結合した有機フッ化物と1種以上のその無機フッ化物中の無機フッ化物との合計として計算して2%~8重量%の範囲のフッ素を含有する。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は、0.2%~2重量%の範囲のリンを含有する。リンは1種以上の無機化合物として存在し得る。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料は、20ppm~10重量%の範囲のケイ素を元素形態又は1種以上のその化合物の形態で含有する。
【0030】
前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料はニッケル及びコバルトを含有する。リチウムを含有する遷移金属酸化物材料の例はリチウム化ニッケルコバルトマンガン酸化物(「NCM」)若しくはリチウム化ニッケルコバルトアルミニウム酸化物(「NCA」)又はそれらの混合物に基づき得る。
【0031】
層状のニッケル-コバルト-マンガン酸化物の例は一般式Li1+x(NiaCobMncM1 d)1-xO2の化合物であり、ここでM1はMg、Ca、Ba、Al、Ti、Zr、Zn、Mo、V、W及びFeから選択され、さらなる変数は以下のように定義される。ゼロ≦x≦0.2、0.1≦a≦0.8、ゼロ≦b≦0.5、好ましくは0.05<b≦0.5、ゼロ≦c≦0.6、ゼロ≦d≦0.1及びa+b+c+d=1。
【0032】
好ましい実施形態において、一般式(I)
Li(1+x)[NiaCobMncM1 d](1-x)O2 (I)
の化合物において、M1はCa、Mg、Zr、Al及びBaから選択され、さらなる変数は上の通り定義される。
【0033】
リチウム化ニッケル-コバルトアルミニウム酸化物の例は一般式Li[NihCoiAlj]O2+rの化合物である。r、h、i及びjに対する典型的な値は、hが0.8~0.90の範囲であり、iが0.15~0.19の範囲であり、jが0.01~0.05の範囲であり、rがゼロ~0.4の範囲である。特に好ましいのは、Li(1+x)[Ni0.33Co0.33Mn0.33](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.5Co0.2Mn0.3](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.6Co0.2Mn0.2](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.7Co0.2Mn0.3](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.8Co0.1Mn0.1](1-x)O2(各々xは上に定義した通りである)、及びLi[Ni0.85Co0.18Al0.02]O2である。
【0034】
ステップ(a)はいかなる雰囲気下で行ってもよい。しかしながら、本発明の1つの実施形態において、ステップ(a)は不活性雰囲気下、例えば窒素又は希ガス下で行われる。本発明の1つの実施形態において、ステップ(a)は、例えば2~10容量%のいくらかの酸素を含有する雰囲気下で行われる。本発明の別の実施形態において、ステップ(a)は空気下で行われる。
【0035】
ステップ(a)中に雰囲気の組成が変化する本発明の別の実施形態において、これは、例えば雰囲気を酸素含有雰囲気に切り替える前に不活性雰囲気で揮散する揮発性有機化合物が供給物中に存在する場合に行い得る。好ましい形態において、雰囲気はステップ(a)中に不活性雰囲気から酸素含有雰囲気に変化させる。好ましい形態において、ステップ(a)を不活性雰囲気下若しくは酸素を含有する雰囲気下で行うか、又は雰囲気をステップ(a)中に不活性雰囲気から酸素含有雰囲気に変化させる。
【0036】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(a)は、蒸気の存在下、例えば気体状態の水を含有する不活性雰囲気下又は気体状態の水を含有する空気中で行われる。
【0037】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(a)は石灰、石英又はケイ酸塩の存在下で行われ、石灰が好ましい。石灰は消石灰及び生石灰(quicklime)又は生石灰(burnt lime)から選択され得る。本発明の好ましい実施形態において、ステップ(a)は、リチウムを含有する遷移金属酸化物材料を基準にして2~40重量%の石灰又は石英又はケイ酸塩の存在下で行われる。
【0038】
ステップ(a)を行った後、熱処理された前記リチウムを含有する遷移金属酸化物材料を、例えば室温又は室温よりいくらか高温、例えば25~90℃に冷却する。この冷却は、加熱された材料をオーブンから冷たい雰囲気に移すことによって行うことができる。より効率的な冷却は、熱い材料に水を噴霧するか又は熱い材料を水に懸濁させることによって達成し得る。後者の場合、熱い材料を冷却することで得られた水性相はステップ(b)に導入し得る。
【0039】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(b)に先立ってステップ(a1)を行う。前記ステップ(a1)は、例えば炭素又は有機ポリマーの乾式固固分離法による除去を含む。そのような乾式固固分離法の例は電気選別、篩い分け又はその他の分級、渦電流分離、磁気分離法及びこれらの方法の少なくとも2種の任意の組合せである。分級及び磁気分離並びに両者の組合せが好ましい。
【0040】
ステップ(b)
本発明の方法のステップ(b)は、加熱処理した前記材料(例えば、ステップ(a)又は(a1)で得られた材料)を水で、好ましくはCO2下10~150バール、好ましくは15~100バールの範囲の圧力において水で処理することを含む。
【0041】
ステップ(b)で使用される水は水道水又は脱イオン水でよく、後者が好ましい。ステップ(b)で使用される水は弱酸(例えば、炭酸、ギ酸、酢酸又は亜硫酸)又は強酸(例えば、硫酸、塩酸、硝酸)を含み得る。水は弱酸を0.1~10wt%、好ましくは1~10wt%の濃度で含み得る。水は強酸をpH5~6.5に調節された低い濃度で含む。好ましくは、水は炭酸を含み、これは好ましくは二酸化炭素雰囲気を、例えば10~150バール、好ましくは15~100バールの範囲の圧力で適用することにより得られる。1つの実施形態において、希酸は、溶液のpH値がpH4より高くpH7より低く保つように制御された手法で投与される。
【0042】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(b)は5~200℃、又は5~100℃、又は5~50℃、好ましくは15~35℃の範囲の温度で行われる。水の沸点より高い温度の場合、ステップ(b)は圧力下で行うことができる。
【0043】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(b)は20分~10時間、好ましくは1~3時間の範囲の持続時間を有する。
【0044】
本発明の1つの実施形態において、水とステップ(a)で得られた材料との比は重量で1:2~100:1、好ましくは1:1~10:1の範囲である。
【0045】
ステップ(b)のスラリーは、例えばボールミル又は撹拌ボールミルで、撹拌し、掻き混ぜ、又は粉砕処理に供することができる。多くの場合、そのような粉砕処理により、水性媒体がより良好に粒子状材料へ入り込むことになる。1つの実施形態において、ステップ(b)の混合物は、良好な混合を達成し不溶性成分の沈着を回避するために、少なくとも0.1W/lの力で撹拌し、若しくはポンプにより循環させ、又は循環させると共に撹拌する。
【0046】
1つの実施形態において、洗脱は固定床反応器又は一連の固定床反応器で行うことができる。
【0047】
ステップ(b)の終了時、該当する場合、圧力を解放してもよい。
【0048】
ステップ(b)で得られたスラリーは固液分離に供するのが好ましい。これは、ろ過若しくは遠心分離又はある種の沈降及びデカンテーションであることができる。固体残渣は水で洗浄し得る。そのような固体材料の、例えば50μm以下の平均直径を有する微細粒子を回収するために、凝集剤、例えばポリアクリレートを加え得る。
【0049】
固液分離により、LiHCO3及び/又はLi2CO3又はステップ(b)で使用されたそれぞれの酸のLi塩を含有する水溶液を得ることができる。この溶液から、水に対する溶解度が低いLi2CO3又は他のLi塩を直接又は水の蒸発による濃縮後、沈殿させることができる。LiHCO3の場合、これは加熱することによってより溶解性の低いLi2CO3として沈殿させることができる。有機酸のリチウム塩又は硝酸リチウムの水溶液は蒸発乾固させ、250℃を超える温度でか焼して炭酸リチウム又は酸化リチウムを得ることができる。排出ガスから、有機化合物又は硝酸として再生利用し得る窒素酸化物を回収することができる。
【0050】
ステップ(b)で残留する固体残渣は固液分離ステップにより回収することができる。これはろ過若しくは遠心分離又はある種の沈降及びデカンテーションであることができる。そのような固体材料の、例えば50μm以下の平均直径を有する微細粒子を回収するために、凝集剤、例えばポリアクリレートを加えてもよい。
【0051】
本発明において、ステップ(b)の残渣とも呼ばれる、固液分離ステップにより回収される固体残渣は次にステップ(c)に従って処理される。
【0052】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(c)に先立って得られた水性スラリーは固固分離ステップ(c1)に供される。固固分離ステップは炭素及びポリマーのような不溶性成分を金属又は金属酸化物成分から分離するのに役立つ。そのような固固分離ステップは機械的、カラム若しくは空気、又はハイブリッド浮選によって、又は磁気分離によって、又は重力分離技術によって行い得る。多くの実施形態において、標的成分を疎水性にする収集剤(collector)化合物をスラリーに加える。炭素及びポリマー粒子に対する典型的な収集剤化合物は炭化水素又は脂肪アルコールであり、リチウムを含有する遷移金属酸化物材料1t当たり1g~50kgの量で導入される。また、浮選を逆の意味で行う、即ち、もともと親水性の成分を特別な収集剤物質、例えば脂肪アルコール硫酸エステル塩(fatty alcohol sulfates)又はエステルクワット(esterquats)により強い疎水性の成分に変換することも可能である。好ましいのは炭化水素収集剤を使用する直接浮選である。浮選の炭素及びポリマー粒子に対する選択性を改良するために、泡相に混入する金属及び金属酸化物成分の量を低減する抑制剤を加えることができる。使用することができる作用物質はpH値を3~9の範囲に制御する酸又は塩基であり得る。また、金属若しくは金属酸化物表面に吸着するイオン性成分又は、例えばベタイン(betainic)形態のアミノ酸のような二極性成分でもよい。浮選の効率を増大するために、疎水性の標的粒子、例えば、ポリマー粒子、炭素質粒子、例えばグラファイト又は石炭と凝集体を形成する担体粒子を添加することが有利であり得る。磁性担体粒子を使用することにより、磁気により分離することができる磁性凝集体を形成し得る。標的成分が常磁性、フェリ磁性又は強磁性である場合、WHIMS、MIMS又はLIMS磁性分離器を使用する磁気分離によってこれらの成分を分離することも可能である。
【0053】
ステップ(c)
ステップ(c)では、ステップ(b)から得られた前記熱処理したリチウムを含有する遷移金属酸化物材料を、硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸及びクエン酸から選択される酸又はこれらの少なくとも2種の組合せ、例えば硝酸と塩酸の組合せで処理する。
【0054】
酸の水溶液の場合、酸の濃度は広い範囲、例えば0.1~99重量%、好ましくは10~96%の範囲で変化し得る。好ましくは、前記水性酸は-1.5~2の範囲のpH値を有する。酸の量は酸の過剰を維持するように調節される。好ましくは、ステップ(c)の終了時に得られる溶液のpH値は-0.5~2の範囲である。水性酸の好ましい例は、例えば10~98重量%の範囲の濃度を有する水性硫酸である。
【0055】
ステップ(c)に従う処理は20~200℃、好ましくは20~130℃の範囲の温度で行い得る。100℃を超える温度が望ましい場合、ステップ(c)は1バールより高い圧力で実施する。その他の場合は常圧が好ましい。本発明において常圧は1気圧又は1013ミリバールを意味する。
【0056】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(c)は、強酸に対して保護された容器、例えばモリブデン及び銅に富んだ鋼合金、ニッケル基合金、二相ステンレス鋼又はグラスライニング若しくはエナメルコート若しくはチタンメッキ鋼の容器で実施される。さらなる例は、耐酸性ポリマー、例えばポリエチレン、例えばHDPE及びUHMPE、フッ素化PE、PFA、PTFE、PVDF及びFEP(フッ素化エチレン-プロピレンコポリマー)製の、ポリマーライナー及びポリマー容器である。
【0057】
1つの形態において、ステップ(c)で得られたスラリーは撹拌し、掻き混ぜ、又は例えば、ボールミル若しくは撹拌ボールミルで粉砕処理に供してもよい。そのような粉砕処理により、水又は酸がより良好に粒子状材料へ入り込むことになる。
【0058】
例えば、ステップ(c)の反応混合物は、良好な混合を達成し、不溶性成分の沈着を回避するために、少なくとも0.1W/lの力で撹拌するか又はポンプにより循環させる。剪断は、バッフルを使用することによってさらに改良することができる。これらの剪断デバイスは全て十分に耐食性にする必要があり、容器自体について記載したものと類似の材料及びコーティングから作製し得る。
【0059】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(c)は10分~10時間、好ましくは1~3時間の範囲の持続時間を有する。
【0060】
ステップ(c)は空気雰囲気下又はN2で希釈した空気下で行い得る。しかし、ステップ(c)は、不活性雰囲気下、例えば窒素又は希ガス、例えばAr下で行うのが好ましい。
【0061】
ステップ(c)に従う処理により、少なくとも、炭素及び有機ポリマー以外の不純物を含む、正極活物質に由来する金属又は金属化合物、例えば前記NCM又はNCAの部分的な溶解が生じる。ほとんどの実施形態において、ステップ(c)を実施した後、スラリーが得られる。残りのリチウム及び遷移金属、例えば、限定されることはないが、ニッケル並びに、該当する場合、コバルト及びマンガンは溶液中にある。
【0062】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(c)は還元剤の存在下で行われる。還元剤の例は有機還元剤、例えばメタノール、エタノール、糖類、アスコルビン酸、尿素、デンプン又はセルロースを含有するバイオ素材、並びに無機還元剤、例えばヒドラジン及びその塩、例えば硫酸塩、及び過酸化水素である。ステップ(c)に好ましい還元剤はニッケル、コバルト、又はマンガン以外の金属系の不純物を残さないものである。ステップ(c)における還元剤の好ましい例はメタノール及び過酸化水素である。還元剤の助けにより、例えば、残りのCo3+をCo2+に、又はMn(+IV)若しくはMn3+をMn2+に還元することが可能である。
【0063】
本発明の好ましい実施形態において、Co及び、該当する場合、Mnの量を基準にして過剰の還元剤を使用する。そのような過剰は、Mnが存在する場合有利である。本発明の好ましい実施形態において、過剰の還元剤は残りのCo3+の量を基準にして使用する。
【0064】
ステップ(c)でいわゆる酸化性の酸が使用される実施形態において、使用されなかった酸化剤(oxidant)を除去するために還元剤を加えるのが好ましい。酸化性の酸の例は硝酸及び硝酸と塩酸の組合せである。本発明において、塩酸、硫酸及びメタンスルホン酸が非酸化性の酸の好ましい例である。
【0065】
1つの形態において、ステップ(c)は酸化剤(oxidizing agent)、例えば酸自体(例えば、硝酸のような酸化性の酸)又は酸素(例えば、空気)の存在下で行われる。酸素(例えば、空気)は2~250バール、好ましくは10~150バールの全圧の範囲の高圧で適用され得る。
【0066】
還元剤と酸化剤は通常別々の工程段階で使用される。いずれか一方を使用するのが十分であることが多い。特別な場合、例えば先行するステップ(a)及び(b)で得られた固体材料がいずれも溶解させる必要がある酸化物成分及び金属成分を含有するとき、別々のステップで両方を使用するのが有利であり得る。そのような場合、金属は酸化条件下で溶解され、一方酸化物は還元条件を必要とし得る。
【0067】
使用する水性酸の濃度に応じて、ステップ(c)で得られる液体相は1~15重量%まで、好ましくは6~11重量%の範囲の遷移金属濃度を有し得る。遷移金属濃度は使用する酸の対応する塩の溶解度に依存する。好ましくは、ステップ(c)は、溶液中の高い金属濃度を確保するために、主要な金属、例えばNi並びに、場合によりCo及びMnの遷移金属濃度が最小の溶解性の塩の溶解限度よりわずかに低くなるように行われる。
【0068】
ステップ(d)
ステップ(c)の後に実施してもよい任意のステップ(d1)は、固体、例えば炭素質材料及びポリマー並びに不溶性金属及び金属化合物の除去である。前記ステップ(d1)は凝集剤の添加を伴って又は伴わないでろ過、遠心分離又は沈着及びデカンテーションにより実施できる。ステップ(d1)で得られた固体残渣は水で洗浄してもよく、上記のような炭素質及びポリマー性成分を、例えば固固分離法により分離するためにさらに処理することができる。本発明の1つの実施形態において、ステップ(c)及びステップ(d1)は連続操作モードで順次行われる。
【0069】
ステップ(d)において、pH値(例えば、ステップ(c)で得ることができる上記スラリー又は溶液の)は2.5~8、好ましくは5.5~7.5、さらにより好ましくは6~7に調節される。pH値は慣用の手段により、例えば電位差滴定で決定することができ、20℃での連続液体相のpH値を指す。
【0070】
pH値の調節は水での希釈によって、若しくは塩基の添加によって、又はこれらの組合せによって行われる。適切な塩基の例は固体形態、例えばペレットとしての、又は好ましくは水溶液としてのアンモニア及びアルカリ金属水酸化物、例えばLiOH、NaOH又はKOHである。これらの少なくとも2種の組合せ、例えばアンモニアと水性苛性ソーダの組合せも実行可能である。ステップ(d)は好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、アンモニア及び水酸化カリウムの少なくとも1種の添加によって行われる。
【0071】
ステップ(e)
ステップ(e)では、ステップ(d)で得られた溶液又はスラリーからAl、Fe、Zn及びCuの化合物を除去する。Al、Fe、Zn及びCuの化合物は好ましくは炭酸塩、酸化物、リン酸塩、水酸化物又はオキシ水酸化物である。通常、Al、Fe、Zn及びCuの化合物の少なくとも1種、好ましくは少なくとも2種の組合せを除去する。好ましくは、ステップ(e)は、Al、Fe、Zn及びCuの炭酸塩、酸化物、リン酸塩、水酸化物若しくはオキシ水酸化物、又はこれらの少なくとも2種の組合せの沈殿の(例えば、固液分離による)除去を含む。前記沈殿はpH値の調節中に形成し得る。リン酸塩は化学量論的組成又は塩基性リン酸塩であり得る。いかなる理論にも縛られることを望まないが、リン酸塩はステップ(a)中に形成されるヘキサフルオロリン酸塩又はその分解生成物の加水分解によるリン酸塩形成が発生した際に生じ得る。前記沈殿は、ろ過により、又は遠心分離機の助けにより、又は沈降により除去することが可能である。好ましいフィルターはベルトフィルター、フィルタープレス、吸込フィルター、及びクロスフローフィルターである。ろ過助剤及び/又は凝集剤を加えて固液分離を改良することができる。
【0072】
本発明の好ましい実施形態において、ステップ(e)は任意のステップ(e1)を含む。ステップ(e1)は、ステップ(d)又はステップ(e)の後に得られた溶液の金属ニッケル、金属コバルト若しくは金属マンガン又はこれらの少なくとも2種の任意の組合せ(例えば、物理的混合物として、又は合金として)による処理を含む。前記金属ニッケル、コバルト、又はマンガンはシート、プレート、塊、顆粒、ターニング、ワイヤ、ブリケット、電極断片、粉末又はフォームの形態でよい。本発明において、シートは0.1~5mmの範囲の厚さ並びに同じか又は異なり各々1cm~10メートルの範囲の長さ及び幅を有し得る。プレートは、例えば、5.5mm~の範囲の厚さ並びに各々2cm~10メートルの範囲の同じか又は異なる長さ及び幅を有することができる。ターニングは、例えば、0.1~1mmの範囲の厚さ、1~5mmの範囲の幅及び1cm~20cmの範囲の長さを有し得る。ブリケットは2~3cmの範囲の長さ及び12~15mmの範囲の直径を有し得る。電極断片は、例えば、0.5~7.0mmの範囲の厚さを有することができる。多くの場合、未切断電極断片は1~3mmの範囲の厚さ及び不規則な横断面を有し、最も広いところで直径が40mmを超えず、平均直径が10~30mmの範囲である。切断電極は0.5~7.0mmの範囲の厚さ及び0.1~1,000cm2の横断面を有し得る。例えば、1mmの厚さ及び10cm×10cmの横断面又は5~7mmの範囲の厚さ及び55mm×55mmの横断面を有する、特にコバルトの切断電極を得ることが可能である。粉末及びフォームも使用することができ、例えば500nm~1000μmの範囲の平均粒径及びDIN 66131に従ってN2吸着により決定して0.0001~50m2/gの範囲のBET表面を有する特別に活性化された材料、例えばラネーニッケル及びラネーコバルトを含む。
【0073】
マンガン、コバルト又はニッケルの塊、顆粒及び粉末が好ましい。本発明の目的から、塊は5mm~10cmの範囲の長さ、幅及び高さを有し、最も小さい寸法と最も大きい寸法は1より大きく3以下の倍数(factor)だけ異なる。顆粒は2mm~1cmの範囲の平均の長さ、幅及び高さを有する。粉末は最大で1mm、好ましくは1~200μmの範囲の平均直径の粒子からなる。
【0074】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(e1)は10~90℃、好ましくは25~60℃の範囲の温度で行われる。
【0075】
任意のステップ(e1)では、ステップ(e)の後に得られた溶液を、例えばカラム内で、金属ニッケル、コバルト若しくはマンガン又はこれらの少なくとも2種の組合せと接触させる。そのような実施形態において、金属ニッケル、金属コバルト若しくは金属マンガン又はこれらの少なくとも2種の組合せを塊又は顆粒の形態で、例えば固定床として充填したカラムを提供し、溶液の流れをそのようなカラムに通して流すのが有利である。
【0076】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(e1)は常圧で行われる。本発明の1つの実施形態において、ステップ(e1)は10分~5時間、又は30分~5時間の範囲の持続時間を有する。ステップ(e1)をカラム内で行う場合、持続時間は平均滞留時間に対応する。本発明の1つの実施形態において、ステップ(e1)は1~6、好ましくはpH2~5の範囲のpH値で行う。ステップ(e1)におけるpH値が低ければ低いほど水素生成下で溶解するためにNi、Co及びMnから選択される金属の量が多くなる。
【0077】
1つの形態において、ステップ(d)、(e)又は(e1)で得られた溶液に含有される銅は、前記溶液を含有する電解液の電気分解により析出カソード上に銅を元素金属として析出させることによって回収される。電気分解は定電圧(potentiostatic)又は定電流(galvanostatic)で行うことができ、定電圧が好ましい。析出カソードに印加された電気化学電位は通常電解液中の銅の電気化学電位(Cu2++2e-→Cu0)に関して-50mV~-500mV、好ましくは-100mV~-400mV、特に-150mV~-300mVの範囲に保たれる。電解液は通常水性電解液である。電解液は1、2、3、4、又は5より高いpH、好ましくは5より高いpHを有し得る。電解液は10、9、又は8より低いpHを有し得る。別の形態において、電解液は4~8のpHを有し得る。電解液はpH値を調節するために緩衝塩、例えば酢酸の塩を含有し得る。析出カソードは金属又はガラス状炭素のような導電性材料のシートからなり得る。好ましいのは、回避するべきである水素の生成のために高い過電圧を提供する材料である。適切な金属は鉛である。カソードはまた、導電性粒子状物質、例えば金属又はグラファイト粒子から作成することもできる。これらの粒子は1~1000μm、好ましくは5~500μm、特に5~200μmの範囲の粒度d50を有する。析出カソードは少なくとも部分的に遷移金属酸化物材料から得ることができる。特に電気分解は、微粒子状のろ過助剤層の形態の析出カソードに電解液を通す電気化学フィルターフローセルで行われる。電気化学フィルターフローセルは通常、上記のようなアノード材料で作成することができるフローセルアノードを含む。フローセルアノードと析出カソードは上述のように隔膜又はカチオン交換膜により分離され得る。析出した金属は分離し、再度溶解し、例えば水酸化物として沈殿させる。
【0078】
ステップ(e1)の後に得られる混合物は、金属粒子又はその他の不必要な固体が次のステップに移されないことを確実にするために固液分離操作、好ましくはろ過によって処理してもよい。ステップ(e1)は、このステップの効率をさらに改良するために1回以上繰り返してもよい。
【0079】
ステップ(e1)は銅の微量(traces)の除去に特に有用である。ステップ(e1)を行うことにより、追加の精製ステップを必要とする新たな不純物が遷移金属の溶液中に導入されることはない。前記金属ニッケル、コバルト又はマンガンが微量の銅を含有していてもそれらが溶解することはない。
【0080】
さらなる精製ステップを加えてもよい。そのようなさらなる精製ステップは、例えば、制御されたpH値の硫化物、又は不純物元素と共に不溶性沈殿、例えばシュウ酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、又はケイ酸塩を形成することができるある種の他のアニオンを用いた他の沈殿反応を含み得る。さらなる選択肢は、例えば水性金属塩溶液と不混和性の炭化水素溶媒中の選択的抽出剤を使用する溶媒抽出を適用することによって、そのような不純物を選択的に分離することである。そのような抽出剤はジ(2-エチル-ヘキシル)リン酸及びリン酸トリ-n-ブチルのようなリン酸のジ-又はトリ-アルキルエステルに基づき得るか、又はヒドロキシオキシム、例えば2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノンオキシムに基づく。
【0081】
1つの形態において、該当する場合、ステップ(e)又は(e1)で得られた溶液中に含有されるニッケル及びコバルトを、100℃を超える温度及び5バールより高い分圧で溶液中に水素を注入して金属、例えばニッケル及び/又はコバルトを沈殿させ、場合により続いて得られた沈殿を分離することにより回収する。この分離はろ過、遠心分離又は沈降であることができる。ニッケル及びコバルトは磁性金属であるのでこれらの沈殿は磁気分離によって回収してもよい。水素ガスは100℃を超え、好ましくは130℃を超え、特に150℃を超える温度で注入される。好ましい形態において、水素ガスは150~280℃の温度で注入される。水素ガスは5バールより高く、好ましくは10バールより高く、特に15バールより高い分圧で注入される。好ましい形態において、水素ガスは5~60バールの分圧で注入される。
【0082】
溶液のpHは水素ガスの注入の前又は注入中に調節することができる。還元により酸が生成するのでその酸を連続的に中和して酸濃度を低く保つのが好ましい。一般に、水素ガスは4より高く、好ましくは6より高く、特に8より高いpH値でこし器に注入される。pH値は、pH値を制御しながら塩基を連続的に供給することにより調節することができる。適切な塩基はアンモニアである。好ましい形態において、水素還元は適切な緩衝系の存在下で行われる。そのような緩衝系の例はアンモニア及び炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムのようなアンモニウム塩である。そのような緩衝系を使用するとき、アンモニアとニッケル又はニッケル及びコバルトとの比は1:1~6:1、好ましくは2:1~4:1の範囲とするべきである。
【0083】
ニッケル-還元触媒及び/又はコバルト-還元触媒、例えば金属ニッケル、金属コバルト、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウムで変性した硫酸第一鉄、塩化パラジウム、硫酸クロム、炭酸アンモニウム、マンガン塩、塩化第二白金、塩化ルテニウム、テトラクロロ白金酸カリウム/アンモニウム、ヘキサクロロ白金酸アンモニウム/ナトリウム/カリウム又は銀塩(例えば、硝酸塩、酸化物、水酸化物、亜硝酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、炭酸塩、リン酸塩、アジド、ホウ酸塩、スルホン酸塩、若しくはカルボン酸塩又は銀)が水素ガスの注入中に溶液中に存在してもよい。遷移金属材料の対応する成分に由来する硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム及び硫酸マンガンがこし器内に存在してもよい。好ましいニッケル-還元触媒及び/又はコバルト-還元触媒は硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム、硫酸マンガン及び炭酸アンモニウムである。好ましいニッケル-還元触媒は金属ニッケル、特に金属ニッケル粉末である。好ましいコバルト-還元触媒は金属コバルト粉末である。これらのニッケル又はコバルトの金属粉末は還元プロセスの始めにその場で、又は別途(ex-situ)別の反応器で、水性Ni及びCo塩溶液を還元することによって得られる。
【0084】
好ましい形態において、溶液は溶解しているニッケルの塩を含有しており、元素形態のニッケルは水素注入により、場合によりニッケル-還元触媒の存在下で沈殿する。一の形態において、こし器が溶解しているコバルトの塩を含有し、元素形態のコバルトは水素注入により、場合によりコバルト-還元触媒の存在下で沈殿する。別の好ましい形態において、こし器は溶解しているニッケル及びコバルトの塩を含有しており、元素形態のニッケル及びコバルトは水素注入により、場合によりニッケル-還元触媒及びコバルト-還元触媒の存在下で沈殿する。別の好ましい形態に、こし器は溶解しているニッケル及びコバルトの塩を含有しており、元素形態のニッケルは水素注入により、場合によりニッケル-還元触媒の存在下で沈殿し、沈殿は0~50wt%の元素形態のコバルトを含有し得る。
【0085】
ステップ(f)
任意のステップ(f)は遷移金属を混合水酸化物又は混合炭酸塩として、好ましくは混合水酸化物として沈殿させることを含む。ニッケル及びコバルトが上記方法の1つにより(例えば、水素注入又は電気分解により)回収されている場合、ステップ(f)はマンガン並びに、該当する場合、残りのニッケル及びコバルトを沈殿させるのに役立つ。
【0086】
本発明の好ましい実施形態において、ステップ(f)は、アンモニア又は有機アミン、例えばジメチルアミン若しくはジエチルアミン、好ましくはアンモニア、及び少なくとも1種の無機塩基、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム若しくは重炭酸カリウム又はこれらの少なくとも2種の組合せを加えることによって行われる。好ましいのはアンモニア及び水酸化ナトリウムの添加である。
【0087】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(f)は10~85℃、好ましくは20~50℃の範囲の温度で行われる。本発明の1つの実施形態において、有機アミン又はアンモニアの濃度は0.05~1モル/l、好ましくは0.1~0.7モル/lの範囲である。用語「アンモニア濃度」は本明細書においてアンモニア及びアンモニウムの濃度を含む。母液中のNi2+及びCo2+の溶解度が各々1000ppm以下、より好ましくは各々500ppm以下であるアンモニアの量が特に優先される。
【0088】
本発明の1つの実施形態において、混合は本発明の方法のステップ(f)中に、例えば撹拌機、ローターステーターミキサー又はボールミルを用いて行う。少なくとも1W/l、好ましくは少なくとも3W/l、より好ましくは少なくとも5W/lの撹拌機出力を反応混合物中に導入することが優先される。本発明の1つの実施形態において、25W/l以下の撹拌機出力を反応混合物中に導入することができる。
【0089】
本発明の方法の任意のステップ(f)は1種以上の還元剤の存在下又は不在下で行うことができる。適切な還元剤の例はヒドラジン、第一級アルコール、例えば、限定されることはないが、メタノール又はエタノール、またアスコルビン酸、グルコース及びアルカリ金属亜硫酸塩である。ステップ(f)では還元剤を使用しないのが好ましい。遷移金属酸化物材料中に多量の、例えば、それぞれの正極活物質の遷移金属部分を基準にして少なくとも3mol-%のマンガンが存在する場合還元剤若しくは不活性雰囲気又は両方の組合せの使用が好ましい。
【0090】
本発明の方法のステップ(f)は、例えば、窒素若しくはアルゴンのような不活性ガス又は二酸化炭素の雰囲気下で行うことができる。
【0091】
本発明の1つの実施形態において、ステップ(f)は9~14の範囲のpH値で行い、水酸化物の場合、11~12.5のpH値、炭酸塩の場合、7.5~8.5の範囲のpH値が好ましい。pH値は、23℃で決定される母液のpH値を指す。
【0092】
ステップ(f)はバッチ式反応器で、又は好ましくは連続的に、例えば連続撹拌槽型反応器又は2つ以上、例えば2つ若しくは3つの連続撹拌槽型反応器のカスケードで実施し得る。
【0093】
本発明の方法のステップ(f)は空気下、不活性ガス雰囲気下、例えば希ガス若しくは窒素雰囲気下、又は還元性雰囲気下で行い得る。還元性ガスの例は、例えばSO2である。不活性ガス雰囲気下、特に窒素ガス下での作業が優先される。
【0094】
さらなる精製の目的で、ステップ(f)で回収された固体を酸、例えば塩酸又はより好ましくは硫酸に溶解し、再度沈殿させてもよい。
【0095】
本発明の方法は一部又は全体を、コンピューターに基づくプロセス制御系の一部としてセンサー及びアクチュエータにより制御される連続的なプロセスとして設定することができる。
【0096】
さらなるアルカリ金属、例えばナトリウムは本発明の方法の母液のいずれかから選択的結晶化技術によって回収し得る。
【0097】
本発明の方法を実施することにより、ニッケル並びに、該当する場合、マンガン及びコバルトも含有する使用済みの電池から遷移金属、ニッケル並びに、該当する場合、マンガン及びコバルトを非常に容易に正極活物質に変換することができる形態で回収することが可能である。特に、本発明の方法では、耐容される程度の痕跡量の不純物、例えば銅、鉄、及び亜鉛、例えば10ppm未満、好ましくはさらに少ない、例えば1~5ppmの銅のみを含有する遷移金属、例えばニッケル及びコバルト並びに場合によりマンガンを回収することが可能になる。
【実施例
【0098】
本発明を実施例によりさらに例示する。
【0099】
金属不純物及びリンはICP-OES(誘導結合プラズマ―光学発光分光分析)又はICP-MS(誘導結合プラズマ―質量分析)を用いた元素分析により決定した。全炭素は燃焼後熱伝導度検出器(CMD)で決定した。フッ素は、全フッ素については燃焼後又はイオン性フッ化物についてはH3PO4蒸留後イオン感受性電極(ISE)で検出した。固体の相組成は粉末X線回折法(PXRD)で決定した。
【0100】
ステップ(a)加熱
78.8gのニッケル、コバルト及びマンガンを同様なモル量で含有する近似式Li(Ni0.34Co0.33Mn0.33)O2の正極活物質、
62.2gのグラファイト及びすすの形態の有機炭素、
47.0gの有機電解液混合物(LiPF6を含有する)、
7.4gの結合剤としてのポリフッ化ビニリデン、
2.4gのアルミニウム粉末、
0.2gの鉄粉末、
2.0gの銅金属
を含有する192.7gの量の模擬使用済み電池くずを500mLの石英の丸底フラスコに入れ、フラスコがオーブンに浸かるようにして回転蒸発器に取り付けた。4.5時間以内に回転するフラスコをアルゴン流(20l/h)下800℃に加熱し、この温度に1時間保った。173.3gの量の熱処理材料を得た。この粉末102.7gを再びアルゴン流(20l/h)下800℃に、空気流(20l/h)下350℃及び350℃超に加熱し、空気下で1時間800℃に保った。これからNi/Co-合金、鉄マンガン酸化物、Li2CO3、LiF、及びグラファイトの相組成を含む99.0gの熱処理した材料が得られた。
【0101】
ステップ(b):水/CO2による処理
ステップ(a)に記載した空気下処理の後に得られた30.0gの材料を100mLの脱イオン水中に入れてスラリーにし、撹拌圧力オートクレーブ内で50バールCO2のCO2雰囲気に供した。懸濁液を3時間周囲温度で撹拌した。圧力を解放した後、スラリーをオートクレーブから回収し、ろ過した。100gの澄んだ未希釈のLiHCO3溶液をろ液として回収した。ろ液のリチウム含量は0.85wt%と決定され、抽出に使用した水の全量を基準にして61%の洗脱効率に相当していた。フィルターケーキを350gの水で洗浄し、オーブン内で乾燥した。残りの固体のPXRDは残留痕跡量のLi2CO3もないことを示していた。
【0102】
17.7gの回収された未希釈のろ液を95℃に加熱し、熱いうちにろ過した。0.37gの量の純粋なLi2CO3が固体として回収され、Li2CO3として計算して46%Liの回収率に相当した。
【0103】
ステップ(c):酸による処理
ステップ(b)の熱処理した粉末19.96gを4ツ口1L丸底フラスコ内で201gのH2SO4(96%H2SO4)に加えた。得られたスラリーを60℃で4時間撹拌した後500mlのビーカーに入れた103gの氷にゆっくり加え、温度を50℃未満に保った。さらに208gの氷水を使用して、残りのスラリーを洗浄してフラスコからビーカーに入れた。得られた混合物をガラスフリットでろ過し、固体残渣を301gの水で洗浄した。2.19gのNi、2.19gのCo、2.16gのMn、1ppm未満のCu、0.12gのFe、及び0.13gのAlを含有する844gの澄んだ赤色のろ液が得られた。これは、Ni、Co、及びMnに対して>97%の洗脱効率、並びにCuに対して100%の分離効率に相当する。
【0104】
ステップ(d):pHの調節
ステップ(c.1)の200gのろ液のpH値を、315gの4モル濃度の苛性ソーダ溶液を、続いて2.7gの1モル濃度の苛性ソーダ溶液を撹拌下で徐々に加えることによって6.5のpH値に調節した。
【0105】
ステップ(e):化合物の除去
沈殿形成を観察することができた。12時間撹拌した後、吸引ろ過により固体を除去した。そうして得られたろ液(515g)は15ppm未満のAl及びFe並びにCu<1ppmの不純物レベルを含有していた。
【0106】
非常に低い不純物レベルのNi、Co及びMnの高収率の回収に極めて適していた。
本発明は、以下の態様を含む。
[項1]
ニッケルを含有する使用済みのリチウムイオン電池から遷移金属を回収する方法であって、
(a)リチウムを含有する遷移金属酸化物材料を400~1200℃の範囲の温度に加熱するステップ、
(b)加熱処理した前記材料を水で処理するステップ、
(c)ステップ(b)で得られた固体残渣を硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸及びクエン酸から選択される酸で処理するステップ、
(d)pH値を2.5~8に調節するステップ、
(e)ステップ(d)で得られた溶液又はスラリーから、Al、Cu、Fe、Znの化合物又はこれらの少なくとも2種の組合せを除去するステップ
を含む、方法。
[項2]
追加のステップ(f)を含み、ステップ(f)がニッケル並びに、該当する場合、コバルト及び/又はマンガンを(混合)水酸化物、オキシ水酸化物又は炭酸塩として沈殿させることを含む、項1に記載の方法。
[項3]
ステップ(e)がAl、Cu、Fe、Znの炭酸塩、酸化物、リン酸塩、水酸化物若しくはオキシ水酸化物又はこれらの少なくとも2種の組合せの沈殿の除去を含む、項1又は2に記載の方法。
[項4]
リチウムを含有する遷移金属酸化物材料が完全な電池、電池モジュール、電池セル、又は電池くずの形態で存在する、項1から3のいずれか一項に記載の方法。
[項5]
ステップ(b)が10~150バールの範囲の圧力のCO 2 下で行われる、項1から4のいずれか一項に記載の方法。
[項6]
ステップ(b)が5~100℃の範囲の温度で行われる、項1から5のいずれか一項に記載の方法。
[項7]
ステップ(b)が20分~10時間の範囲の持続時間を有する、項1から6のいずれか一項に記載の方法。
[項8]
ステップ(a)を不活性雰囲気下若しくは酸素を含有する雰囲気下で行うか、又は雰囲気をステップ(a)中に不活性雰囲気から酸素含有雰囲気に変化させる、項1から7のいずれか一項に記載の方法。
[項9]
ステップ(c)に先立って固固分離ステップを行って炭素及びポリマーのような不溶性成分を金属又は金属酸化物成分から分離する、項1から8のいずれか一項に記載の方法。
[項10]
前記固固分離ステップが磁気分離ステップである、項9に記載の方法。
[項11]
ステップ(d)が水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、アンモニア及び水酸化カリウムの少なくとも1種の添加によって行われる、項1から10のいずれか一項に記載の方法。
[項12]
ステップ(f)においてニッケル及び、場合によりコバルト又はマンガンの水酸化物、オキシ水酸化物又は炭酸塩としての沈殿が、pH値を8より高く上昇させることによって行われる、項2に記載の方法。
[項13]
リチウムを炭酸塩として沈殿させることによって回収することを含む、項1から12のいずれか一項に記載の方法。