(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】磁気記録媒体用スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
G11B 5/851 20060101AFI20240329BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
G11B5/851
C23C14/34 A
(21)【出願番号】P 2021533123
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2020028611
(87)【国際公開番号】W WO2021010490
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2019132859
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 知成
(72)【発明者】
【氏名】櫛引 了輔
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-160530(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170138(WO,A1)
【文献】特開2016-115379(JP,A)
【文献】特開平11-175944(JP,A)
【文献】特開昭59-088807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/851
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn及びVから選択される少なくとも1種以上、Pt、残部がCoおよび不可避不純物からなる金属相と、少なくともBとOを含有
し、Mg及びAlを含まない酸化物相と、からなる磁気記録媒体用スパッタリングターゲット
であって、
前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの金属相成分の合計に対して、Ptを1mol%以上30mol%以下、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%以上10mol%以下含有し、
前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物相を25vol%以上40vol%以下含有する
ことを特徴とする磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
Mn及びVから選択される少なくとも1種以上、Cr及びRuから選択される少なくとも1種以上、Pt、残部がCoおよび不可避不純物からなる金属相と、少なくともBとOを含有する酸化物相と、からなる磁気記録媒体用スパッタリングターゲット
であって、
前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの金属相成分の合計に対して、Ptを1mol%以上30mol%以下、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%以上10mol%以下、CrもしくはRuから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%超過30mol%以下含有し、
前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物相を25vol%以上40vol%以下含有する
ことを特徴とする磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記酸化物相は、V、Ru、Ti、Si、Ta、Cr、Nb、Mn、Co、Ni、Zn、Y、Mo、W、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Lu、およびZrから選択される少なくとも1の元素の酸化物をさらに含有することを特徴とする請求項1
又は2に記載の磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項4】
Mn及びVから選択される少なくとも1種以上、Pt、残部がCoおよび不可避不純物からなる金属相と、
Mg及びAlを含まない酸化物相と、からなる磁気記録媒体用スパッタリングターゲット
であって、
前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの金属相成分の合計に対して、Ptを1mol%以上30mol%以下、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%以上10mol%以下含有し、
前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物相を25vol%以上40vol%以下含有する
ことを特徴とする磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項5】
Mn及びVから選択される少なくとも1種以上、Cr及びRuから選択される少なくとも1種以上、Pt、残部がCoおよび不可避不純物からなる金属相と、酸化物相と、からなる磁気記録媒体用スパッタリングターゲット
であって、
前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの金属相成分の合計に対して、Ptを1mol%以上30mol%以下、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%以上10mol%以下、CrもしくはRuから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%超過30mol%以下含有し、
前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物相を25vol%以上40vol%以下含有する
ことを特徴とする磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記酸化物相は、B、V、Ru、Ti、Si、Ta、Cr、Nb、Mn、Co、Ni、Zn、Y、Mo、W、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Lu、およびZrから選択される少なくとも1の元素の酸化物を含有することを特徴とする請求項
4又は5に記載の磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記酸化物相は、SiO
2、TiO
2、Cr
2O
3、Nb
2O
5、Ta
2O
5、MoO
3、WO
3、CoO、B
2O
3及びこれらの任意の組み合わせから選択される1種以上の酸化物を含有することを特徴とする請求項
4~
6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用スパッタリングターゲットに関し、詳しくは、Co、Pt、および酸化物を含有してなるスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブの磁気ディスクにおいては、情報信号が磁気記録媒体の微細なビットに記録されている。磁気記録媒体の記録密度をさらに向上させるためには、1つの記録情報を保持するビットの大きさを縮小しながら、情報品質の指標であるノイズに対する信号の比率も増大させる必要がある。ノイズに対する信号の比率を増大させるためには、信号の増大またはノイズの低減が必要不可欠である。
【0003】
現在、情報信号の記録を担う磁気記録媒体として、CoPt基合金-酸化物のグラニュラ構造からなる磁性薄膜が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。このグラニュラ構造は、柱状のCoPt基合金結晶粒とその周囲を取り囲む酸化物の結晶粒界とからなっている。
【0004】
このような磁気記録媒体を高記録密度化する際には、記録ビット間の遷移領域を平滑化してノイズを低減させることが必要である。記録ビット間の遷移領域を平滑化するためには、磁性薄膜に含まれるCoPt基合金結晶粒の微細化が必須である。
【0005】
一方、磁性結晶粒が微細化すると、1つの磁性結晶粒が保持できる記録信号の強さは小さくなる。磁性結晶粒の微細化と記録信号の強さとを両立するためには、結晶粒の中心間距離を低減させることが必要である。
【0006】
他方、磁気記録媒体中のCoPt基合金結晶粒の微細化が進むと、超常磁性現象により記録信号の熱安定性が損なわれて記録信号が消失してしまうという、いわゆる熱揺らぎ現象が発生することがある。この熱揺らぎ現象は、磁気ディスクの高記録密度化への大きな障害となっている。
【0007】
この障害を解決するためには、各CoPt基合金結晶粒において、磁気エネルギーが熱エネルギーに打ち勝つように磁気エネルギーを増大させることが必要である。各CoPt基合金結晶粒の磁気エネルギーはCoPt基合金結晶粒の体積vと結晶磁気異方性定数Kuとの積v×Kuで決定される。このため、CoPt基合金結晶粒の磁気エネルギーを増大させるためには、CoPt基合金結晶粒の結晶磁気異方性定数Kuを増大させることが必要不可欠である(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
また、大きいKuを持つCoPt基合金結晶粒を柱状に成長させるためには、CoPt基合金結晶粒と粒界材料との相分離を実現させることが必須である。CoPt基合金結晶粒と粒界材料との相分離が不十分で、CoPt基合金結晶粒間の粒間相互作用が大きくなってしまうと、CoPt基合金-酸化物のグラニュラ構造からなる磁性薄膜の保磁力Hcが小さくなってしまい、熱安定性が損なわれて熱揺らぎ現象が発生しやすくなってしまう。したがって、CoPt基合金結晶粒間の粒間相互作用を小さくすることも重要である。
【0009】
磁性結晶粒の微細化および磁性結晶粒の中心間距離の低減は、Ru下地層(磁気記録媒体の配向制御のために設けられた下地層)の結晶粒を微細化させることにより達成できる可能性がある。
【0010】
しかしながら、結晶配向を維持しながらRu下地層の結晶粒を微細化することは困難である(例えば、非特許文献3参照)。そのため、現行の磁気記録媒体のRu下地層の結晶粒の大きさは、面内磁気記録媒体から垂直磁気記録媒体に切り替わったときの大きさとほとんど変わらず、約7nm~8nmとなっている。
【0011】
一方、Ru下地層ではなく、磁気記録層に改良を加える観点から、磁性結晶粒の微細化を進める検討もなされており、具体的には、CoPt基合金-酸化物磁性薄膜の酸化物の添加量を増加させて磁性結晶粒体積比率を減少させて、磁性結晶粒を微細化させることが検討された(例えば、非特許文献4参照)。そして、この手法によって磁性結晶粒の微細化は達成された。しかしながら、この手法では、酸化物添加量の増加により結晶粒界の幅が増加するため、磁性結晶粒の中心間距離を低減させることはできない。
【0012】
また、従来のCoPt基合金-酸化物磁性薄膜に用いられる単一の酸化物の他に第2酸化物を添加することが検討された(例えば、非特許文献5参照)。しかしながら、複数の酸化物材料を添加する場合、その材料の選定の指針が明確になっておらず、現在でも、CoPt基合金結晶粒に対する粒界材料として用いる酸化物について検討が続けられている。本発明者らは低融点と高融点の酸化物を含有させること(具体的には、融点が450℃と低いB2O3と、CoPt合金の融点(約1450℃)よりも融点の高い高融点酸化物とを含有させること)が効果的であることを見出し、B2O3と高融点酸化物とを含有するCoPt基合金と酸化物を含む磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【非特許文献】
【0014】
【文献】T.Oikawa et al.,IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,2002年9月,VOL.38,NO.5,p.1976-1978
【文献】S.N.Piramanayagam,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2007年,102,011301
【文献】S.N.Piramanayagam et al.,APPLIED PHYSICS LETTERS,2006年,89,162504
【文献】Y.Inaba et al.,IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,2004年7月,VOL.40,NO.4,p.2486-2488
【文献】I.Tamai et al.,IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,2008年11月,VOL.44,NO.11,p.3492-3495
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、さらなる高容量化のために、一軸磁気異方性を向上させ、粒間交換結合を低減させ、熱安定性及びSNR(信号ノイズ比)を向上させた磁性薄膜を作製可能な磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、特許文献1において採用した酸化物成分の制御とは異なり、金属成分に着目して、V又はMnを含む合金相を有するスパッタリングターゲットを用いることにより、スパッタリングによって得られる磁性薄膜の結晶性磁気異方性定数Kuの低下を最小限に抑制し、αを低減させることができることを見出し、一軸磁気異方性の向上、及び粒間交換結合の低減が実現できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明によれば、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上、Pt、残部がCoおよび不可避不純物からなる金属相と、少なくともBとOを含有する酸化物相と、からなる磁気記録媒体用スパッタリングターゲットが提供される。
【0018】
前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの金属相成分の合計に対して、Ptを1mol%以上30mol%以下、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%以上10mol%以下含有し、前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物相を25vol%以上40vol%以下含有することが好ましい。
【0019】
また、本発明によれば、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上、Cr及びRuから選択される少なくとも1種以上、Pt、残部がCoおよび不可避不純物からなる金属相と、少なくともBとOを含有する酸化物相と、からなる磁気記録媒体用スパッタリングターゲットが提供される。
【0020】
前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの金属相成分の合計に対して、Ptを1mol%以上30mol%以下、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%以上10mol%以下、Cr及びRuから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%超過30mol%以下含有し、前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物相を25vol%以上40vol%以下含有することが好ましい。
【0021】
前記少なくともBとOを含有する酸化物相は、V、Ru、Ti、Si、Ta、Cr、Al、Nb、Mn、Co、Ni、Zn、Y、Mo、W、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Lu、およびZrから選択される少なくとも1の元素の酸化物をさらに含有してもよい。
【0022】
さらに、本発明によれば、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上、Pt、残部がCoおよび不可避不純物からなる金属相と、酸化物相と、からなる磁気記録媒体用スパッタリングターゲットが提供される。
【0023】
前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの金属相成分の合計に対して、Ptを1mol%以上30mol%以下、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%以上10mol%以下含有し、前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物相を25vol%以上40vol%以下含有することが好ましい。
【0024】
また、本発明によれば、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上、Cr及びRuから選択される少なくとも1種以上、Pt、残部がCoおよび不可避不純物からなる金属相と、酸化物相と、からなる磁気記録媒体用スパッタリングターゲットが提供される。
【0025】
前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの金属相成分の合計に対して、Ptを1mol%以上30mol%以下、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%以上10mol%以下、Cr及びRuから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%超過30mol%以下含有し、前記磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物相を25vol%以上40vol%以下含有することが好ましい。
【0026】
前記酸化物相は、B、V、Ru、Ti、Si、Ta、Cr、Al、Nb、Mn、Co、Ni、Zn、Y、Mo、W、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Lu、およびZrから選択される少なくとも1の元素の酸化物をさらに含有してもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いることにより、一軸磁気異方性の向上、及び粒間交換結合の低減により、熱安定性及びSNRが向上した高記録密度磁気記録媒体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施例1における焼結体テストピースの厚さ方向断面の走査型電子顕微鏡(加速電圧15keV)の観察写真(上段:900倍、下段:3000倍)
【
図4】実施例2における焼結体テストピースの厚さ方向断面の走査型電子顕微鏡(加速電圧15keV)の観察写真(上段:900倍、下段:3000倍)
【
図6】実施例1,2及び比較例1の磁性膜の膜面垂直方向のXRDプロファイル
【
図7】実施例1,2及び比較例1の磁性膜(成膜16nm)のTEM観察画像
【
図8】実施例1,2及び比較例1の磁性膜のMsの測定結果を示すグラフ
【
図9】実施例1,2及び比較例1の磁性膜のHcの測定結果を示すグラフ
【
図10】実施例1,2及び比較例1の磁性膜のHnの測定結果を示すグラフ
【
図11】実施例1,2及び比較例1の磁性膜のαを示すグラフ
【
図12】実施例1,2及び比較例1の磁性膜のKu
Grainの測定結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書では、磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを単にスパッタリングターゲットまたはターゲットと記載することがある。
【0030】
(1)第一実施形態
本発明の第一実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットは、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上、Pt、残部がCoおよび不可避不純物からなる金属相と、少なくともBとOを含有する酸化物相と、からなることを特徴とする。
【0031】
第一実施形態のターゲットは、Ptを1mol%以上30mol%以下、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%以上10mol%以下含有し、金属相の残部はCo及び不可避不純物であり、磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの全体に対して、少なくともBとOを含有する酸化物相を25vol%以上40vol%以下含有することが好ましい。
【0032】
BとOを含有する酸化物相とは、ホウ素酸化物を含有する相であることを意味する。ホウ素酸化物としては、B2O3が一般的であるが、BとOが非化学量論比で結合している酸化物も含まれる。しかし、非化学量論比のホウ素酸化物そのものを分析することは困難であるため、ホウ素酸化物のICP分析では同定されたBが全量B2O3であると仮定して計算している。本明細書においても、ホウ素酸化物をB2O3として説明する。
【0033】
Mn及びVから選択される1種以上、Co、及びPtは、スパッタリングによって形成される磁性薄膜のグラニュラ構造において、磁性結晶粒(微小な磁石)の構成成分となる。以下、本明細書において、Mn及びVから選択される1種以上を「X」と略記し、第一実施形態のターゲットを用いて成膜する磁気記録媒体の磁性薄膜に含まれる磁性結晶粒を「CoPtX合金結晶粒」ともいう。
【0034】
Coは強磁性金属元素であり、磁性薄膜のグラニュラ構造の磁性結晶粒(微小な磁石)の形成において中心的な役割を果たす。スパッタリングによって得られる磁性薄膜中のCoPtX合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくするという観点および得られる磁性薄膜中のCoPtX合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を維持するという観点から、第一実施形態に係るスパッタリングターゲット中のCoの含有割合は、金属成分の全体に対して25mol%以上98.5mol%以下とすることが好ましい。
【0035】
Ptは、所定の組成範囲でCo及びXと合金化することにより合金の磁気モーメントを低減させる機能を有し、磁性結晶粒の磁性の強さを調整する役割を有する。スパッタリングによって得られる磁性薄膜中のCoPtX合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくするという観点および得られる磁性薄膜中のCoPtX合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を調整するという観点から、第一実施形態に係るスパッタリングターゲット中のPtの含有割合は、金属成分の全体に対して1mol%以上30mol%以下とすることが好ましい。
【0036】
本発明者らは、V及びMnが、磁性薄膜中の酸化物相によるCoPtX合金結晶粒(磁性結晶粒)の分離性を向上させる機能を有し、粒間交換結合を低減させることができることを知見した。CoPtX-B
2O
3ターゲット(X=V又はMn)を用いてスパッタリングにより成膜した磁性薄膜と、CoPt-B
2O
3ターゲットを用いてスパッタリングにより成膜した磁性薄膜とを比較すると、隣接するCoPtX合金結晶粒の隔壁としてB
2O
3酸化物相が深さ方向により深く存在しており(
図7:TEM観察画像)、磁化曲線における横軸(負荷磁場)と交わる地点の傾きαはより小さく(
図11)、磁性結晶粒の分離性が向上していることが確認できる。一方、単位粒子当たりの結晶磁気異方性定数Ku
grainは同等であり(
図12)、磁性薄膜の一軸磁気異方性が良好であることが確認できる。後述する実施例から、MnよりVの方がαの低減幅が大きく、Kuの低減幅が小さいことが判明しており、Vがより好ましいといえる。
【0037】
第一実施形態に係るスパッタリングターゲット中のXの含有割合は、金属相成分の全体に対して0.5mol%以上10mol%以下とすることが好ましく、1mol%以上10mol%未満がより好ましく、5mol%以下とすることが特に好ましい。Mn及びVは、それぞれ単独あるいは組み合わせて、スパッタリングターゲットの金属相成分として含有させることができる。特にMnとVとを組み合わせて用いることで、粒間交換結合をより低減させ、かつ、一軸磁気異方性を維持することができるため、好ましい。
【0038】
酸化物相は、磁性薄膜のグラニュラ構造において、磁性結晶粒(微小な磁石)同士の間を仕切る非磁性マトリックスとなる。第一実施形態に係るスパッタリングターゲットの酸化物相は、少なくともBとOを含む。他の酸化物として、V、Ru、Ti、Si、Ta、Cr、Al、Nb、Mn、Co、Ni、Zn、Y、Mo、W、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Lu、およびZrから選択される少なくとも1の元素の酸化物を含んでいてもよい。他の酸化物として具体的には、VO2、VO3、V2O5、RuO2、TiO2、SiO2、Ta2O5、Cr2O3、Al2O3、Nb2O5、MnO、Mn3O4、CoO、Co3O4、NiO、ZnO、Y2O3、MoO2、WO3、La2O3、CeO2、Nd2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Yb2O3、Lu2O3およびZrO2を挙げることができる。
【0039】
一般的なホウ素酸化物であるB2O3は融点が450℃と低いため、スパッタリングによる成膜過程において、析出する時期が遅く、CoPtX合金結晶粒が柱状に結晶成長している間は、柱状のCoPtX合金結晶粒の間に液体の状態で存在する。このため、最終的には、B2O3は柱状に結晶成長したCoPtX合金結晶粒同士を仕切る結晶粒界となるように析出し、磁性薄膜のグラニュラ構造において、磁性結晶粒(微小な磁石)同士の間を仕切る非磁性マトリックスとなる。磁性薄膜中の酸化物の含有量を多くした方が磁性結晶粒同士の間を確実に仕切りやすくなり、磁性結晶粒同士を独立させやすくなるので好ましい。この点から、第一実施形態に係るスパッタリングターゲット中に含まれる酸化物の含有量は25vol%以上であることが好ましく、28vol%以上であることがより好ましく、29vol%以上であることがさらに好ましい。ただし、磁性薄膜中の酸化物の含有量が多くなりすぎると、酸化物がCoPtX合金結晶粒(磁性結晶粒)中に混入して、CoPtX合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶性に悪影響を与えて、CoPtX合金結晶粒(磁性結晶粒)においてhcp以外の構造の割合が増えるおそれがある。また、磁性薄膜における単位面積あたりの磁性結晶粒の数が減るため、記録密度を高めにくくなる。これらの点から、第一実施形態に係るスパッタリングターゲット中に含まれる酸化物相の含有量は40vol%以下であることが好ましく、35vol%以下であることがより好ましく、31vol%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
第一実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいて、スパッタリングターゲット全体に対する金属相成分の合計の含有割合および酸化物相成分の合計の含有割合は、目的とする磁性薄膜の成分組成によって決まり、特に限定されているわけではないが、スパッタリングターゲット全体に対する金属相成分の合計の含有割合は例えば89.4mol%以上96.4mol%以下とすることができ、スパッタリングターゲット全体に対する酸化物相成分の合計の含有割合は例えば3.6mol%以上11.6mol%以下とすることができる。
【0041】
第一実施形態に係るスパッタリングターゲットのミクロ構造は特に限定されるわけではないが、金属相と酸化物相とが微細に分散し合ったミクロ構造とすることが好ましい。このようなミクロ構造とすることにより、スパッタリングを実施している際に、ノジュールやパーティクル等の不具合が発生しにくくなる。
【0042】
第一実施形態に係るスパッタリングターゲットは、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0043】
所定の組成となるように各金属成分を秤量してCoPt合金溶湯を作製する。そして、ガスアトマイズを行い、CoPt合金アトマイズ粉末を作製する。作製したCoPt合金アトマイズ粉末を分級して、所定の粒径以下(例えば106μm以下)とする。
【0044】
作製したCoPt合金アトマイズ粉末に、V及びMnから選択される1種以上のX金属粉末、B2O3粉末、及び必要に応じて他の酸化物粉末(例えばTiO2粉末、SiO2粉末、Ta2O5粉末、Cr2O3粉末、Al2O3粉末、ZrO2粉末、Nb2O5粉末、MnO粉末、Mn3O4粉末、CoO粉末、Co3O4粉末、NiO粉末、ZnO粉末、Y2O3粉末、MoO2粉末、WO3粉末、La2O3粉末、CeO2粉末、Nd2O3粉末、Sm2O3粉末、Eu2O3粉末、Gd2O3粉末、Yb2O3粉末、およびLu2O3粉末)を加えてボールミルで混合分散して、加圧焼結用混合粉末を作製する。CoPt合金アトマイズ粉末、X金属粉末ならびにB2O3粉末、及び必要に応じて他の酸化物粉末をボールミルで混合分散することにより、CoPt合金アトマイズ粉末、X金属粉末ならびにB2O3粉末、及び必要に応じて他の酸化物粉末が微細に分散し合った加圧焼結用混合粉末を作製することができる。
【0045】
得られるスパッタリングターゲットを用いて作製される磁性薄膜において、B2O3及び必要に応じて他の酸化物によって磁性結晶粒同士の間を確実に仕切って磁性結晶粒同士を独立させやすい点、CoPtX合金結晶粒(磁性結晶粒)がhcp構造となりやすい点、および記録密度を高める点から、B2O3粉末及び必要に応じて他の酸化物粉末の合計の加圧焼結用混合粉末の全体に対する体積分率は、25vol%以上40vol%以下であることが好ましく、28vol%以上35vol%以下であることがより好ましく、29vol%以上31vol%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
作製した加圧焼結用混合粉末を、例えば真空ホットプレス法により加圧焼結して成形し、スパッタリングターゲットを作製する。加圧焼結用混合粉末はボールミルで混合分散されており、CoPt合金アトマイズ粉末と、X金属粉末と、B2O3粉末と必要に応じて他の酸化物粉末とが微細に分散し合っているので、本製造方法により得られたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行っているとき、ノジュールやパーティクルの発生等の不具合は発生しにくい。なお、加圧焼結用混合粉末を加圧焼結する方法は特に限定されず、真空ホットプレス法以外の方法でもよく、例えばHIP法等を用いてもよい。
【0047】
加圧焼結用混合粉末を作製する際に、アトマイズ粉末に限定されず、各金属単体の粉末を用いてもよい。この場合には、各金属単体粉末と、B2O3粉末と、必要に応じて他の酸化物粉末と、をボールミルで混合分散して加圧焼結用混合粉末を作製することができる。
【0048】
また、他の酸化物は、加圧焼結用混合粉末作製時又は焼結時に金属相の原料であるCo、V及びMnの少なくとも一部が酸化して形成されたものでもよい。
【0049】
(2)第二実施形態
本発明の第二実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットは、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上、Cr及びRuから選択される少なくとも1種以上、Pt、残部がCoおよび不可避不純物からなる金属相と、少なくともBとOを含有する酸化物相と、からなることを特徴とする。
【0050】
第二実施形態のターゲットは、Ptを1mol%以上30mol%以下、Cr及びRuから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%超過30mol%以下、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%以上10mol%以下、残余はCo及び不可避不純物からなる金属相を含有し、磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの全体に対して、少なくともBとOを含有する酸化物を25vol%以上40vol%以下含有することが好ましい。
【0051】
BとOを含有する酸化物相とは、ホウ素酸化物を含有する相であることを意味する。ホウ素酸化物としては、B2O3が一般的であるが、BとOが非化学量論比で結合している酸化物も含まれる。しかし、非化学量論比のホウ素酸化物そのものを分析することは困難であるため、ホウ素酸化物のICP分析では同定されたBが全量B2O3であると仮定して計算している。本明細書においても、ホウ素酸化物をB2O3として説明する。
【0052】
Mn及びVから選択される1種以上(以下「X」ともいう。)、Cr及びRuから選択される1種以上(以下「M」ともいう。)、Co、及びPtは、スパッタリングによって形成される磁性薄膜のグラニュラ構造において、磁性結晶粒(微小な磁石)の構成成分となる。以下、本明細書において、第二実施形態の磁性結晶粒を「CoPtXM合金結晶粒」ともいう。
【0053】
Coは強磁性金属元素であり、磁性薄膜のグラニュラ構造の磁性結晶粒(微小な磁石)の形成において中心的な役割を果たす。スパッタリングによって得られる磁性薄膜中のCoPtXM合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくするという観点および得られる磁性薄膜中のCoPtXM合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を維持するという観点から、第二実施形態に係るスパッタリングターゲット中のCoの含有割合は、金属成分の全体に対して25mol%以上98mol%以下とすることが好ましい。
【0054】
Ptは、所定の組成範囲でCo、X及びMと合金化することにより合金の磁気モーメントを低減させる機能を有し、磁性結晶粒の磁性の強さを調整する役割を有する。スパッタリングによって得られる磁性薄膜中のCoPtXM合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくするという観点および得られる磁性薄膜中のCoPtXM合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を調整するという観点から、第二実施形態に係るスパッタリングターゲット中のPtの含有割合は、金属相成分の全体に対して1mol%以上30mol%以下とすることが好ましい。
【0055】
Cr及びRuから選択される少なくとも1種以上は、所定の組成範囲でCoと合金化することによりCoの磁気モーメントを低下させる機能を有し、磁性結晶粒の磁性の強さを調整する役割を有する。スパッタリングによって得られる磁性薄膜中のCoPtXM合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくするという観点および得られる磁性薄膜中のCoPtXM合金結晶粒の磁性を維持するという観点から、第二実施形態に係るスパッタリングターゲット中のCr及びRuから選択される少なくとも1種以上の含有割合は、金属相成分の全体に対して0.5mol%超過30mol%以下とすることが好ましい。Cr及びRuは、それぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができ、Co及びPtと共にスパッタリングターゲットの金属相を形成する。後述する実施例から、CrよりRuの方がKuの低下幅を小さくできることが判明したことから、Ruがより好ましいといえる。
【0056】
本発明者らは、V及びMnが磁性薄膜中の酸化物相によるCoPtXM合金結晶粒(磁性結晶粒)の分離性を向上させる機能を有し、粒間交換結合を低減させることができることを知見した。一方で、結晶磁気異方性定数Kuを大きく低減させることはない。後述する実施例から、MnよりVの方がαの低減幅が大きく、Kuの低減幅が小さいことが判明しており、Vがより好ましいといえる。
【0057】
第二実施形態に係るスパッタリングターゲット中のXの含有割合は、金属相成分の全体に対して0.5mol%以上10mol%以下とすることが好ましく、1mol%以上10mol%未満がより好ましく、5mol%以下とすることが特に好ましい。Mn及びVは、それぞれ単独あるいは組み合わせて、スパッタリングターゲットの金属相成分として含有させることができる。特にVとMnとを組み合わせて用いることで、粒間交換結合を低減させ、かつ、一軸磁気異方性を向上させることができるため、好ましい。
【0058】
酸化物相は、磁性薄膜のグラニュラ構造において、磁性結晶粒(微小な磁石)同士の間を仕切る非磁性マトリックスとなる。第二実施形態に係るスパッタリングターゲットの酸化物相は、少なくともBとOを含む。他の酸化物成分として、V、Ru、Ti、Si、Ta、Cr、Al、Nb、Mn、Co、Ni、Zn、Y、Mo、W、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Lu、およびZrから選択される少なくとも1の元素の酸化物を含んでいてもよい。他の酸化物として具体的には、VO2、VO3、V2O5、RuO2、TiO2、SiO2、Ta2O5、Cr2O3、Al2O3、Nb2O5、MnO、Mn3O4、CoO、Co3O4、NiO、ZnO、Y2O3、MoO2、WO3、La2O3、CeO2、Nd2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Yb2O3、Lu2O3およびZrO2を挙げることができる。
【0059】
一般的なホウ素酸化物であるB2O3は融点が450℃と低いため、スパッタリングによる成膜過程において、析出する時期が遅く、CoPtXM合金結晶粒が柱状に結晶成長している間は、柱状のCoPtXM合金結晶粒の間に液体の状態で存在する。このため、最終的には、B2O3は柱状に結晶成長したCoPtXM合金結晶粒同士を仕切る結晶粒界となるように析出し、磁性薄膜のグラニュラ構造において、磁性結晶粒(微小な磁石)同士の間を仕切る非磁性マトリックスとなる。磁性薄膜中の酸化物の含有量を多くした方が磁性結晶粒同士の間を確実に仕切りやすくなり、磁性結晶粒同士を独立させやすくなるので好ましい。この点から、第二実施形態に係るスパッタリングターゲット中に含まれる酸化物の含有量は25vol%以上であることが好ましく、28vol%以上であることがより好ましく、29vol%以上であることがさらに好ましい。ただし、磁性薄膜中の酸化物の含有量が多くなりすぎると、酸化物がCoPtXM合金結晶粒(磁性結晶粒)中に混入して、CoPtXM合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶性に悪影響を与えて、CoPtXM合金結晶粒(磁性結晶粒)においてhcp以外の構造の割合が増えるおそれがある。また、磁性薄膜における単位面積あたりの磁性結晶粒の数が減るため、記録密度を高めにくくなる。これらの点から、第二実施形態に係るスパッタリングターゲット中に含まれる酸化物相の含有量は40vol%以下であることが好ましく、35vol%以下であることがより好ましく、31vol%以下であることがさらに好ましい。
【0060】
第二実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいて、スパッタリングターゲット全体に対する金属相成分の合計の含有割合および酸化物相成分の合計の含有割合は、目的とする磁性薄膜の成分組成によって決まり、特に限定されているわけではないが、スパッタリングターゲット全体に対する金属相成分の合計の含有割合は例えば88.2mol%以上96.4mol%以下とすることができ、スパッタリングターゲット全体に対する酸化物相成分の合計の含有割合は例えば3.6mol%以上11.8mol%以下とすることができる。
【0061】
第二実施形態に係るスパッタリングターゲットのミクロ構造は特に限定されるわけではないが、金属相と酸化物相とが微細に分散し合ったミクロ構造とすることが好ましい。このようなミクロ構造とすることにより、スパッタリングを実施している際に、ノジュールやパーティクル等の不具合が発生しにくくなる。
【0062】
第二実施形態に係るスパッタリングターゲットは、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0063】
所定の組成となるように、Cr及びRuから選択される1種以上のM金属粉末、Co及びPtを秤量してCoPtM合金溶湯を作製する。そして、ガスアトマイズを行い、CoPtM合金アトマイズ粉末を作製する。作製したCoPtM合金アトマイズ粉末を分級して、所定の粒径以下(例えば106μm以下)とする。
【0064】
作製したCoPtM合金アトマイズ粉末に、V及びMnから選択される1種以上のX金属粉末、B2O3粉末、及び必要に応じて他の酸化物粉末(例えばTiO2粉末、SiO2粉末、Ta2O5粉末、Cr2O3粉末、Al2O3粉末、ZrO2粉末、Nb2O5粉末、MnO粉末、Mn3O4粉末、CoO粉末、Co3O4粉末、NiO粉末、ZnO粉末、Y2O3粉末、MoO2粉末、WO3粉末、La2O3粉末、CeO2粉末、Nd2O3粉末、Sm2O3粉末、Eu2O3粉末、Gd2O3粉末、Yb2O3粉末、およびLu2O3粉末)を加えてボールミルで混合分散して、加圧焼結用混合粉末を作製する。CoPtM合金アトマイズ粉末、X金属粉末及びB2O3粉末並びに必要に応じて他の酸化物粉末をボールミルで混合分散することにより、CoPtM合金アトマイズ粉末、X金属粉末及びB2O3粉末、並びに必要に応じて他の酸化物粉末が微細に分散し合った加圧焼結用混合粉末を作製することができる。
【0065】
得られるスパッタリングターゲットを用いて作製される磁性薄膜において、B2O3及び必要に応じて他の酸化物によって磁性結晶粒同士の間を確実に仕切って磁性結晶粒同士を独立させやすい点、CoPtXM合金結晶粒(磁性結晶粒)がhcp構造となりやすい点、および記録密度を高める点から、B2O3粉末及び必要に応じて他の酸化物粉末の合計の加圧焼結用混合粉末の全体に対する体積分率は、25vol%以上40vol%以下であることが好ましく、28vol%以上35vol%以下であることがより好ましく、29vol%以上31vol%以下であることがさらに好ましい。
【0066】
作製した加圧焼結用混合粉末を、例えば真空ホットプレス法により加圧焼結して成形し、スパッタリングターゲットを作製する。加圧焼結用混合粉末はボールミルで混合分散されており、CoPtM合金アトマイズ粉末とX金属粉末とB2O3粉末と必要に応じて他の酸化物粉末とが微細に分散し合っているので、本製造方法により得られたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行っているとき、ノジュールやパーティクルの発生等の不具合は発生しにくい。なお、加圧焼結用混合粉末を加圧焼結する方法は特に限定されず、真空ホットプレス法以外の方法でもよく、例えばHIP法等を用いてもよい。
【0067】
加圧焼結用混合粉末を作製する際に、アトマイズ粉末に限定されず、各金属単体の粉末を用いてもよい。この場合には、各金属単体粉末と、必要に応じてB粉末と、B2O3粉末と、必要に応じて他の酸化物粉末と、をボールミルで混合分散して加圧焼結用混合粉末を作製することができる。
【0068】
また、他の酸化物は、加圧焼結用混合粉末作製時又は焼結時に金属相の原料であるCo、Cr、Ru、V及びMnの少なくとも一部が酸化して形成されたものでもよい。
【0069】
(3)第三実施形態
本発明の第三実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットは、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上、Pt、残部がCoおよび不可避不純物からなる金属相と、酸化物相と、からなることを特徴とする。
【0070】
第三実施形態のターゲットは、Ptを1mol%以上30mol%以下、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%以上10mol%以下、残余はCo及び不可避不純物からなる金属相を含有し、磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの全体に対して、酸化物を25vol%以上40vol%以下含有することが好ましい。
【0071】
第三実施形態は、酸化物相がホウ素酸化物を含むものに限定されない点を除いて第一実施形態と同様であるため、説明は割愛し、ホウ素酸化物を含む酸化物相に限定されない理由を説明する。
【0072】
後述する実施例により明かなように、金属相がV又はMnを含むものであれば、酸化物としてホウ素酸化物を含まないものでも、Kuの低減が少なく、αが低下することが判明している。酸化物としてSiO2及びTiO2を含む場合には、αが低下するのみではなくKuも増加するので特に好ましい。酸化物として、SiO2、TiO2、Cr2O3、Nb2O5、Ta2O5、MoO3、WO3、CoO、B2O3及びこれらの任意の組み合わせを用いる場合に、αが低下し、Kuの低下は小さいことが確認できている。酸化物は、柱状に結晶成長したCoPtX合金結晶粒同士を仕切る結晶粒界となるように析出し、磁性薄膜のグラニュラ構造において、磁性結晶粒(微小な磁石)同士の間を仕切る非磁性マトリックスとなる。
【0073】
第三実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットは、上述した酸化物に加えて、V、Ru、Al、Mn、Co、Ni、Zn、Y、Mo、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Lu、およびZrから選択される少なくとも1の元素の酸化物をさらに含んでいてもよい。他の酸化物として具体的には、VO2、VO3、V2O5、RuO2、Al2O3、MnO、Mn3O4、Co3O4、NiO、ZnO、Y2O3、MoO2、La2O3、CeO2、Nd2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Yb2O3、Lu2O3およびZrO2を挙げることができる。
【0074】
(4)第四実施形態
本発明の第四実施形態に係る磁気記録媒体用スパッタリングターゲットは、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上、Cr及びRuから選択される少なくとも1種以上、Pt、残部がCoおよび不可避不純物からなる金属相と、酸化物相と、からなることを特徴とする。
【0075】
第四実施形態のターゲットは、Ptを1mol%以上30mol%以下、Cr及びRuから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%超過30mol%以下、Mn及びVから選択される少なくとも1種以上を0.5mol%以上10mol%以下、残余はCo及び不可避不純物からなる金属相を含有し、磁気記録媒体用スパッタリングターゲットの全体に対して、酸化物を25vol%以上40vol%以下含有することが好ましい。
【0076】
第四実施形態は、ホウ素酸化物を含む酸化物相に限定されない点を除いて第二実施形態と同様であり、また、任意の酸化物を含み得る点については第三実施形態と同様であるため、説明は割愛する。
【実施例】
【0077】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに説明する。
【0078】
(実施例1)
実施例1として作製したターゲット全体の組成は、(75Co-20Pt-5V)-30vol%B2O3(金属成分については原子比で示す)であり、モル比で表すと、92.47(75Co-20Pt-5V)-7.53B2O3である。
【0079】
実施例1に係るターゲットの作製に際しては、まず、50Co-50Pt合金および100Coアトマイズ粉を作製した。具体的には、合金アトマイズ粉は組成がCo:50at%、Pt:50at%となるように各金属を秤量し、両組成とも1500℃以上に加熱して合金溶湯とし、ガスアトマイズを行ってそれぞれ50Co-50Pt合金、100Coアトマイズ粉末を作製した。
【0080】
作製した50Co-50Pt合金および100Coアトマイズ粉末を150メッシュのふるいで分級して、それぞれ粒径が106μm以下の50Co-50Pt合金および100Coアトマイズ粉末を得た。
【0081】
(75Co-20Pt-5V)-30vol%B2O3の組成となるように、分級後の50Co-50Pt合金と100Coアトマイズ粉末に、V粉末、およびB2O3粉末を添加してボールミルで混合分散を行い、加圧焼結用混合粉末を得た。
【0082】
得られた加圧焼結用混合粉末を用いて、焼結温度:810℃、焼結圧力:24.5MPa、焼結時間:30分、雰囲気:5×10
-2Pa以下の真空条件でホットプレスを行い、焼結体テストピース(φ30mm)を作製した。作製した焼結体テストピースの相対密度は98.8%であった。なお、計算密度は8.90g/cm
3である。得られた焼結体テストピースの厚さ方向断面を鏡面研磨し、走査型電子顕微鏡(SEM:JEOL製JCM-6000Plus)を用い加速電圧15keVにて観察した結果を
図1に示す。また同装置に設置されたエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて断面組織の組成分析を行った結果を
図2に示す。これらの結果により金属相(75Co-20Pt-5V合金相)と酸化物相(B
2O
3)とは微細に分散されていることが確認できた。得られた焼結体テストピースをICP分析した結果を表3に示す。
【0083】
次に、作製した加圧焼結用混合粉末を用いて、焼結温度:810℃、焼結圧力:24.5MPa、焼結時間:60分、雰囲気:5×10-2Pa以下の真空条件でホットプレスを行い、φ153.0×1.0mm+φ161.0×4.0mmのターゲットを1つ作製した。作製したターゲットの相対密度は98.3%であった。
【0084】
作製したターゲットを用いてDCスパッタ装置(エイコーエンジニアリング製ES-3100W)でスパッタリングを行い、(75Co-20Pt-5V)-30vol%B2O3からなる磁性薄膜をガラス基板上に成膜させ、磁気特性測定用サンプルおよび組織観察用サンプルを作製した。具体的には、ガラス基板と金属膜との密着性を確保するための層としてTaをArガス圧0.6Pa、投入電力500Wの条件で5nm成膜した。次に、配向膜を形成するためのシード層としてNi90W10を0.6Pa、500Wで6nm成膜した。続いて、hcp構造下地としてRuを0.6Pa、500Wで10nm成膜した後、表面凹凸形状を形成する為にRuを8.0Pa、500Wで10nm成膜した。さらに、磁性コラムの分離性をよくする目的でCo-25Cr-50Ru-30vol%TiO2を0.6Pa、300Wで1nm成膜した。その上に、磁性層として(Co-20Pt-5V)-30vol%B2O3を4.0Pa、500Wでそれぞれ4nm、8nm、12nm、16nm成膜した。最後に、表面保護層としてCを0.6Pa、300Wで7nm成膜した。これらのサンプルの層構成は、ガラス基板に近い方から順に表示して、Ta(5nm,0.6Pa)/Ni90W10(6nm,0.6Pa)/Ru(10nm,0.6Pa)/Ru(10nm,8.0Pa)/Co-25Cr-50Ru-30vol%TiO2(1nm、4.0Pa)/(Co-20Pt-5V)-30vol%B2O3(Ynm(Y=4、8、12又は16),4Pa)/C(7nm,0.6Pa)である。括弧内の左側の数字は膜厚を示し、右側の数字はスパッタリングを行ったときのAr雰囲気の圧力を示す。実施例1で作製したターゲットを用いて成膜した磁性薄膜はCoPtV合金-酸化物(B2O3)であり、垂直磁気記録媒体の記録層となる磁性薄膜である。なお、この磁性薄膜を成膜する際には基板は昇温させておらず、室温で成膜した。
【0085】
得られた磁気特性測定用サンプルの磁気特性の測定には、振動試料型磁力計(VSM:(株)玉川製作所製 TM-VSM211483-HGC型)、トルク磁力計((株)玉川製作所製 TM-TR2050-HGC型)及び極カー効果測定装置(MOKE:ネオアーク(株)製 BH-810CPM-CPC)を用いた。
【0086】
実施例1の磁気特性測定用サンプルのグラニュラ媒体磁化曲線の一例(Y=12nm)を
図3に示す。
図3の横軸は加えた磁場の強さであり、
図3の縦軸は単位体積当たりの磁化の強さである。
【0087】
磁気特性測定用サンプルのグラニュラ媒体磁化曲線の測定結果から、飽和磁化(Ms)、保磁力(Hc)、
核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)を求めた。また、磁気異方性定数(Ku)はトルク磁力計を用いて測定した。それらの値を、他の実施例および比較例の結果と合わせて表1、
図8~12に示す。
【0088】
また、得られた組織観察用サンプルの構造の評価(磁性結晶粒の粒径等の評価)には、X線回折装置(XRD:((株)リガク製 SmartLab)および透過電子顕微鏡(TEM:(株)日立ハイテクノロジーズ製 H-9500)を用いた。膜面垂直方向のXRDプロファイルを
図6及び表2、TEM画像を
図7に示す。
【0089】
(実施例2)
実施例2として作製したターゲット全体の組成は、(75Co-20Pt-5Mn)-30vol%B
2O
3(金属成分については原子比で示す)であり、モル比で表すと、92.51(75Co-20Pt-5Mn)-7.49B
2O
3である。ターゲットの組成を実施例1から変更した以外は、実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルおよび組織観察用サンプルを作製して観察を行った。結果を
図4及び
図5に示す。用いたMn粉末は平均粒径3μm以下であり、焼結温度:840℃、焼結圧力:24.5MPa、焼結時間:30分、雰囲気:5×10
-2Pa以下の真空条件でホットプレスを行い、焼結体テストピース(φ30mm)を作製した。作製した焼結体テストピースの相対密度は102.6%であった。なお、計算密度は8.97g/cm
3である。得られた焼結体テストピースの厚さ方向断面を金属顕微鏡で観察したところ、金属相(75Co-20Pt-5Mn合金相)と酸化物相(B
2O
3)とは微細に分散されていることが確認できた。得られた焼結体テストピースをICP分析した結果を表3に示す。
【0090】
次に、作製した加圧焼結用混合粉末を用いて、焼結温度:840℃、焼結圧力:24.5MPa、焼結時間:60min、雰囲気:5×10-2Pa以下の真空条件でホットプレスを行い、φ153.0×1.0mm+φ161.0×4.0mmのターゲットを1つ作製した。作製したターゲットの相対密度は104.8%であった。
【0091】
次に実施例1と同様に膜に関する磁気特性の評価及び組織観察を行った。磁気特性の測定結果をターゲットの組成とともに表1、
図8~12に示す。また、組織観察の膜面垂直方向のXRDプロファイルを
図6及び表2、TEM画像を
図7に示す。
【0092】
(比較例1)
ターゲット全体の組成を(80Co-20Pt)-30vol%B
2O
3(金属成分については原子比で示す)として、実施例1及び2と同様に焼結体テストピース及びターゲットを作製し、磁性薄膜を成膜し、評価した。磁気特性の測定結果をターゲットの組成とともに表1、
図8~12に示し、組織観察の膜面垂直方向のXRDプロファイルを
図6に示し、XRDプロファイルから読み取れるCoPt(002)のピーク位置(2θ)及びC軸の格子定数を表2に示し、TEM画像を
図7に示す。得られた焼結体テストピースをICP分析した結果を表3に示す。
【0093】
表1の略記号の意味は以下のとおりである。
tMag1:積層膜のうち磁性層の膜厚
Ms
Grain:積層膜の磁性層のうち磁性粒子のみの飽和磁化
Hc:Kerrで測定した保磁力
Hn:Kerrで測定した核形成磁場
α:Kerrで測定した磁化曲線における横軸(負荷磁場)と交わる地点の傾き
Hc-Hn:Kerrで測定した保磁力と核形成磁場の差
Ku
Grain:積層膜の磁性層のうち磁性粒子のみの結晶磁気異方性定数
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
図6及び表2より、実施例1(V)及び実施例2(Mn)は、比較例1(Co)よりもCoPt(002)ピークが低角へシフトしていることが確認できる。このことから、V又はMnの少なくとも一部はCoと置換しているといえる。しかしながら、ピーク位置から計算されるCoPt相のC軸の格子定数の変化は0.1Å以下である。また、CoPt相の構造変化は確認されない。一方、Ru及びNiWについてはピークのシフトは確認されない。
【0098】
図7より、V又はMnを含む磁性薄膜は、V又はMnを含まない磁性薄膜(X=Co)と比較すると、隣接する磁性カラムの間の隙間が深さ方向により深く延在している様子が確認できる。このことから、V又はMnを含むターゲットを用いることで、磁性結晶粒の分離性が向上していることが確認できる。
【0099】
図8より、比較例1(Co)に対して、成膜4nmの場合に実施例1(V)及び実施例2(Mn)では若干のMsの増大が確認されるが、成膜8nm以上ではほぼ同等であり、CoPtX合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を維持できることがわかる。
【0100】
図9より、V又はMnを含む磁性薄膜は、V又はMnを含まない磁性薄膜(X=Co)と比較すると、同等程度または僅かに低いHcを示している。しかし、組成の最適化やVとMnを組み合わせて投入することなどにより更なる向上が見込める。
【0101】
図10より、比較例1(Co)に対して、実施例1(V)ではHnの低下が確認される。実施例2(Mn)では実施例1(V)よりも更なるHnの低下が確認される。このことは磁性結晶粒の分離性が向上していることを示唆している。
【0102】
図11より、V又はMnを含む磁性薄膜は、V又はMnを含まない磁性薄膜(X=Co)と比較して低いαを示しており、磁性結晶粒の分離性が向上していることが確認できる。
【0103】
図12より、V又はMnを含む磁性薄膜は、V又はMnを含まない磁性薄膜(X=Co)と比較して同等のKuを示しており、高い一軸磁気異方性を維持していることが確認できる。
【0104】
(実施例3~4、比較例2)
酸化物相を30vol%SiO2に代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表4に示す。
【0105】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてSiO2を含む実施例3~4は、比較例2よりもαが低減し、Kuが増加しており、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を示すといえる。
【0106】
(実施例5~6、比較例3)
酸化物相を30vol%TiO2に代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表4に示す。
【0107】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてTiO2を含む実施例5~6は、比較例3よりもαが低減し、Kuが増加しており、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を示すといえる。
【0108】
(実施例7~8、比較例4)
酸化物相を30vol%Cr2O3に代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表4に示す。
【0109】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてCr2O3を含む実施例7~8は、比較例4よりもαが低減し、Kuの低下は0.95以下と小さく、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を維持しているといえる。
【0110】
(実施例9~10、比較例5)
酸化物相を30vol%Nb2O5に代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表4に示す。
【0111】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてNb2O5を含む実施例9~10は、比較例5よりもαが低減し、Kuの低下は0.39以下と小さく、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を維持しているといえる。
【0112】
(実施例11~12、比較例6)
酸化物相を30vol%Ta2O5に代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表4に示す。
【0113】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてTa2O5を含む実施例11~12は、比較例6よりもαが低減し、Kuの低下は0.47以下と小さく、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を維持しているといえる。
【0114】
(実施例13~14、比較例7)
酸化物相を30vol%MoO3に代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表5に示す。
【0115】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてMoO3を含む実施例13~14は、比較例7よりもαが低減し、Kuの低下は0.30以下と小さく、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を維持しているといえる。
【0116】
(実施例15~16、比較例8)
酸化物相を30vol%WO3に代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表5に示す。
【0117】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてWO3を含む実施例15~16は、比較例8よりもαが低減し、Kuの低下は0.51以下と小さく、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を維持しているといえる。
【0118】
(実施例17~18、比較例9)
酸化物相を15vol%B2O3-15vol%SiO2に代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表5に示す。
【0119】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてB2O3及びSiO2を含む実施例17~18は、比較例9よりもαが低減し、Kuの低下は0.18以下と小さく、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を維持しているといえる。
【0120】
(実施例19~20、比較例10)
酸化物相を15vol%SiO2-15vol%TiO2に代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表5に示す。
【0121】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてSiO2及びTiO2を含む実施例19~20は、比較例10よりもαが低減し、Kuは増加又は0.01の低下と非常に小さく、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を示すといえる。
【0122】
(実施例21~22、比較例11)
酸化物相を20vol%B2O3-5vol%Cr2O3に代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表5に示す。
【0123】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてB2O3及びCr2O3を含む実施例21~22は、比較例11よりもαが低減し、Kuの低下は0.54以下と小さく、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を維持しているといえる。
【0124】
(実施例23~24、比較例12)
酸化物相を10vol%SiO2-10vol%TiO2-10vol%CoOに代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表5に示す。
【0125】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてSiO2、TiO2及びCoOを含む実施例23~24は、比較例12よりもαが低減し、Kuの低下は0.35と小さく、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を示すといえる。
【0126】
(実施例25~26、比較例13)
酸化物相を20vol%SiO2-5vol%TiO2-5vol%CoOに代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表6に示す。
【0127】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてSiO2、TiO2及びCoOを含む実施例25~26は、比較例13よりもαが低減し、Kuの低下は1.02と小さく、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を示すといえる。
【0128】
(実施例27~28、比較例14)
酸化物相を20vol%B2O3-5vol%SiO2-5vol%Cr2O3に代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表6に示す。
【0129】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてSiO2、TiO2、及びCoOを含む実施例27~28は、比較例14よりもαが低減し、Kuが増加または0.19と非常に小さい低下を示し、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を示すといえる。
【0130】
(実施例29~30、比較例15)
酸化物相を20vol%B2O3-3vol%SiO2-3vol%TiO2-10vol%CoOに代えた以外は実施例1~2及び比較例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表6に示す。
【0131】
金属相にV又はMnを含み、酸化物相としてB2O3、SiO2、TiO2及びCoOを含む実施例29~30は、比較例15よりもαが低減し、Kuが増加し、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を示すといえる。
【0132】
(実施例31)
金属相組成を79Co-20Pt-1Vに代えた以外は実施例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表6に示す。
【0133】
金属相にVを1mol%含む実施例31は、Vを5mol%含む実施例1よりαの低下幅が小さいが、Kuの低下幅が0.04と小さくなった。
【0134】
(実施例32)
金属相組成を79Co-20Pt-1Mnに代えた以外は実施例2と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表6に示す。
【0135】
金属相にMnを1mol%含む実施例32は、Mnを5mol%含む実施例2よりαの低下幅が小さいが、Kuの低下幅が小さくなった。
【0136】
(実施例33)
金属相組成を70Co-20Pt-10Vに代えた以外は実施例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表6に示す。
【0137】
金属相にVを10mol%含む実施例33は、Vを5mol%含む実施例1と同様にαが低下したが、Kuの低下幅が大きくなった。
【0138】
(実施例34)
金属相組成を70Co-20Pt-10Mnに代えた以外は実施例2と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表6に示す。
【0139】
金属相にMnを10mol%含む実施例34は、Mnを5mol%含む実施例2と同様にαが低下したが、Kuの低下幅が大きくなった。
【0140】
(比較例16)
金属相組成を65Co-20Pt-15Vに代えた以外は実施例1と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表6に示す。
【0141】
Vを15mol%含む比較例16は、Vを1~10mol%含む実施例1、31及び33よりもKuの低下幅が著しく大きかった。
【0142】
(比較例17)
金属相組成を65Co-20Pt-15Mnに代えた以外は実施例2と同様にして調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表6に示す。
【0143】
Mnを15mol%含む比較例17は、Mnを1~10mol%含む実施例2、32及び34よりもKuの低下幅が著しく大きかった。
【0144】
(実施例35~36、比較例18)
実施例35は金属相組成を75Co-20Pt-2Cr-3Vに代えた以外は実施例1と同様にして、実施例36は金属相組成を75Co-20Pt-2Cr-3Mnに代えた以外は実施例2と同様にして、比較例18は金属相組成を75Co-20Pt-5Crに代えた以外は比較例1と同様にして、それぞれ調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表6に示す。
【0145】
金属相組成にCrをさらに含む実施例35~36は、実施例1~2よりもKuの低下が小さくなり、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を示すといえる。
【0146】
(実施例37~38、比較例19)
実施例37は金属相組成を75Co-20Pt-2Ru-3Vに代えた以外は実施例1と同様にして、実施例38は金属相組成を75Co-20Pt-2Ru-3Mnに代えた以外は実施例2と同様にして、比較例19は金属相組成を75Co-20Pt-5Ruに代えた以外は比較例1と同様にして、それぞれ調製した磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして厚さ8nmの磁性層を成膜させ、保磁力(Hc)、核形成磁場(Hn)、横軸と交わる地点の傾き(α)、結晶磁気異方性定数(Ku)を測定した。結果を表6に示す。
【0147】
金属相組成にRuをさらに含む実施例37~38は、実施例1~2よりもKuの低下が小さくなり、磁性結晶粒の分離性が向上し、高い一軸磁気異方性を示すといえる。
【0148】
表4~6に示す結果から、金属相にVを含む方がMnを含むよりもαの低下が大きく、Kuの低減が小さいことがわかる。V又はMnを含むことにより、磁性結晶粒の分離性の向上及び高い一軸磁気異方性の維持が達成されると共に、Vが磁性結晶粒の分離性のより一層の向上、高い一軸磁気異方性のより一層の維持に効果があるといえる。また、いずれの酸化物であっても磁性結晶粒の分離性の向上及び高い一軸磁気異方性の維持を達成することができ、SiO2又はTiO2を含むとより一層の効果があるといえる。さらにB2O3を含むことにより一軸磁気異方性(Ku)を高くすることができ、SiO2又はTiO2を含むことにより高い一軸磁気異方性(Ku)を維持しつつαを低減することができることが確認された。
【0149】