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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
C23C14/24 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022011982
(22)【出願日】2022-01-28
(65)【公開番号】P2023110493
(43)【公開日】2023-08-09
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 由季
(72)【発明者】
【氏名】竹見 崇
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-117915(JP,A)
【文献】国際公開第2012/098927(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0222191(US,A1)
【文献】特開2014-214379(JP,A)
【文献】特開2004-111305(JP,A)
【文献】特表2015-523728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動しながら基板に成膜する蒸発源ユニットを備えた成膜装置であって、
前記蒸発源ユニットは、それぞれ蒸着物質を放出する第1の蒸発源、第2の蒸発源、及び第3の蒸発源を含み、
前記蒸発源ユニットの成膜時の移動方向において、前記第1の蒸発源、前記第2の蒸発源、第3の蒸発源の順に並んでおり、
前記移動方向における前記第1の蒸発源及び前記第2の蒸発源の間の距離は、前記移動方向における前記第2の蒸発源及び前記第3の蒸発源の間の距離よりも長い、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置であって、
記移動方向と交差する横方向から見た場合に、前記第1の蒸発源の蒸着物質の放出角度は、前記第2の蒸発源の蒸着物質の放出角度よりも小さい、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1から2までのいずれか一項に記載の成膜装置であって、
前記第1の蒸発源の蒸着物質の放出範囲と前記第2の蒸発源の蒸着物質の放出範囲とが前記移動方向に重複しない、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記第1の蒸発源の蒸着物質の放出範囲と前記第2の蒸発源の蒸着物質の放出範囲とが前記移動方向に重複せず、
前記第2の蒸発源の蒸着物質の放出範囲と前記第3の蒸発源の蒸着物質の放出範囲とが前記移動方向に重複する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の成膜装置であって、
前記第1の蒸発源は第1の蒸着物質を放出し、
前記第2の蒸発源は前記第1の蒸着物質と異なる第2の蒸着物質を放出し、
前記成膜装置は、前記第2の蒸着物質の基板への飛散を許容しながら、前記第1の蒸着物質の基板への飛散を遮断するシャッタをさらに備える、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
請求項5に記載の成膜装置であって、
前記蒸発源ユニットが前記移動方向の第1の側に移動する際の第1の速度と、前記蒸発源ユニットが前記第1の側と逆側の第2の側に移動する際の第2の速度とが異なり、
前記シャッタは、前記蒸発源ユニットが前記第2の側に移動している間に前記第1の蒸着物質の基板への飛散を遮断する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
請求項6に記載の成膜装置であって、
前記蒸発源ユニットが前記第2の側に移動している間は、前記第1の蒸着物質及び前記第2の蒸着物質の基板への飛散が許容される、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一項に記載の成膜装置であって、
前記蒸発源ユニットは、前記移動方向において基板と蒸着物質の放出範囲とが重なる間は等速で移動する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
請求項8に記載の成膜装置であって、
前記蒸発源ユニットは、前記移動方向において移動する側が変わる際に速さが変化する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項10】
請求項1に記載の成膜装置であって、
第1の蒸発源、第2の蒸発源及び第3の蒸発源からの蒸着物質の放出状態をそれぞれ監視する第1の監視手段、第2の監視手段及び第3の監視手段をさらに備え、
前記蒸発源ユニットの成膜時の移動方向において、前記第1の監視手段、前記第1の蒸発源、前記第2の監視手段、前記第2の蒸発源、前記第3の蒸発源、前記第3の監視手段の順に並ぶ、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項11】
請求項1に記載の成膜装置であって、
記第1の蒸発源の蒸着物質の放出角度は、前記移動方向と交差する横方向から見た場合に、前記第2の蒸発源の側の方が前記第2の蒸発源の側と反対の側よりも小さい、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか一項に記載の成膜装置を用いて基板に成膜する、
ことを特徴とする成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の製造においては、蒸発源から放出された蒸着物質が基板に付着することで基板に薄膜が形成される。特許文献1には、複数の蒸発源を用いて複数種類の蒸着物質を基板に蒸着させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-196684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
成膜装置において、複数層(例えば2層)の成膜を行うことが考えられる。このような場合、例えば1層目の蒸着物質と2層目の蒸着物質が混ざってしまうこと等による成膜品質の低下を抑制することが望まれる。
【0005】
本発明は、成膜装置において複数層の成膜を行う際に成膜品質の低下を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によれば、
移動しながら基板に成膜する蒸発源ユニットを備えた成膜装置であって、
前記蒸発源ユニットは、それぞれ蒸着物質を放出する第1の蒸発源、第2の蒸発源、及び第3の蒸発源を含み、
前記蒸発源ユニットの成膜時の移動方向において、前記第1の蒸発源、前記第2の蒸発源、第3の蒸発源の順に並んでおり、
前記移動方向における前記第1の蒸発源及び前記第2の蒸発源の間の距離は、前記移動方向における前記第2の蒸発源及び前記第3の蒸発源の間の距離よりも長い、
ことを特徴とする成膜装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成膜装置において複数層の成膜を行う際に成膜品質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係る成膜システムの構成を模式的に示す平面図。
図2】一実施形態に係る成膜装置の構成を模式的に示す平面図。
図3図2の成膜装置の正面図。
図4】蒸発源ユニットの構成を説明するための図であって、蒸発源ユニットを横から見た模式図。
図5】蒸発源及び監視装置の位置関係を説明するための模式的な平面図。
図6】蒸発源ユニットの配置構成を説明するための図。
図7】成膜装置の成膜処理における動作説明図。
図8】一実施形態に係る成膜装置の構成を模式的に示す正面図。
図9】成膜装置の成膜処理における動作説明図。
図10】成膜装置の成膜処理における動作説明図。
図11】成膜装置の成膜処理における動作説明図。
図12】成膜装置の成膜処理における動作説明図。
図13】一実施形態に係る成膜装置の構成を模式的に示す正面図。
図14】成膜装置の成膜処理における動作説明図。
図15】成膜装置の成膜処理における動作説明図。
図16】蒸発源ユニットの構成を説明するための図であって、蒸発源ユニットを横から見た模式図。
図17】(A)は有機EL表示装置の全体図、(B)は1画素の断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第1実施形態>
(成膜システムの概要)
図1は、一実施形態に係る成膜装置1が設けられる成膜システムSYの構成を模式的に示す平面図である。成膜システムSYは、搬入されてくる基板に対して成膜処理を行い、処理後の基板を搬出するシステムである。例えば、成膜システムSYが複数並んで設けられることで電子デバイスの製造ラインが構成される。電子デバイスとしては、例えばスマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルが挙げられる。成膜システムSYは、成膜装置1の他、搬入室60と、基板搬送室62と、搬出室64と、マスクストック室66と、を含む。なお、成膜装置1の構成については後述する。
【0011】
搬入室60には、成膜装置1において成膜が行われる基板100が搬入される。基板搬送室62には、基板100を搬送する搬送ロボット620が設けられる。搬送ロボット620は、搬入室60に搬入された基板100を成膜装置1に搬送する。また、搬送ロボット620は、成膜装置1において成膜処理が終了した基板100を搬出室64に搬送する。搬送ロボット620により搬出室64に搬送された基板100は、搬出室64から成膜システムSYの外部に搬出される。なお、成膜システムSYが複数並んで設けられる場合には、上流側の成膜システムSYの搬出室64が下流側の成膜システムSYの基板搬送室62を兼ねていてもよい。また、マスクストック室66には、成膜装置1での成膜に用いられるマスク101がストックされる。マスクストック室66にストックされるマスク101は、搬送ロボット620により成膜装置1に搬送される。
【0012】
成膜システムSYを構成する成膜装置1及び各室の内部は、真空ポンプ等の排気機構により真空状態に維持される。なお、本実施形態において「真空」とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされた状態、換言すれば減圧状態をいう。
【0013】
(成膜装置)
(概要)
図2は、一実施形態に係る成膜装置1の構成を模式的に示す平面図である。図3は、図2の成膜装置1の正面図である。なお、以下の図において矢印X及びYは互いに直交する水平方向を示し、矢印Zは垂直方向(鉛直方向)を示す。
【0014】
成膜装置1は、基板に対して蒸発源を移動させながら蒸着を行う成膜装置である。成膜装置1は、例えばスマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられ、複数台でその製造ラインを構成し得る。成膜装置1で蒸着が行われる基板の材質としては、ガラス、樹脂、金属等を適宜選択可能であり、ガラス上にポリイミド等の樹脂層が形成されたものが好適に用いられる。蒸着物質としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などが用いられる。成膜装置1は、例えば表示装置(フラットパネルディスプレイなど)や薄膜太陽電池、有機光電変換素子(有機薄膜撮像素子)等の電子デバイスや、光学部材等を製造する製造装置に適用可能であり、特に、有機ELパネルを製造する製造装置に適用可能である。また、本実施形態では成膜装置1はG8Hサイズのガラス基板(1100mm×2500mm、1250mm×2200mm)に対して成膜を行うが、成膜装置1が成膜を行う基板のサイズは適宜設定可能である。
【0015】
成膜装置1は、蒸発源ユニット10と、移動ユニット20と、複数の成膜ステージ30A、30Bと、を備える。蒸発源ユニット10、移動ユニット20及び成膜ステージ30A、30Bは、使用時に真空に維持されるチャンバ45の内部に配置される。本実施形態では、複数の成膜ステージ30A、30Bがチャンバ45内の上部にY方向に離間して設けられており、その下方に蒸発源ユニット10及び移動ユニット20が設けられている。また、チャンバ45には、基板100の搬入、搬出を行うための複数の基板搬入口44A及び44Bが設けられている。
【0016】
また、成膜装置1は、蒸発源ユニット10に電力を供給する電源41と、蒸発源ユニット10及び電源41を電気的に接続する電気接続部42を含む。電気接続部42は水平方向に可動のアームの内部を電気配線が通って構成されており、後述するようにXY方向に移動する蒸発源ユニット10に対して電源41からの電力が供給可能となっている。
【0017】
また、成膜装置1は、各構成要素の動作を制御する制御部43を含む。例えば、制御部43は、CPUに代表されるプロセッサ、RAM、ROM等のメモリ及び各種インタフェースを含んで構成され得る。例えば、制御部43は、ROMに記憶されたプログラムをRAMに読み出して実行することで、成膜装置1による各種の処理を実現する。なお、例えば成膜システムSYを統括的に制御するホストコンピュータ等が、成膜装置1の各構成要素の動作を直接制御する態様も採用可能である。
【0018】
詳しくは後述するが、成膜装置1においては、蒸発源ユニット10が、基板100の短手方向にわたって配置された状態で基板100の長手方向に移動しながら成膜する。
【0019】
(成膜ステージ)
成膜ステージ30Aは、基板100Aに対して成膜が行われるステージである。成膜ステージ30Aは、基板100A及びマスク101Aを支持するとともに、これらの位置調整を行う。成膜ステージ30Aは、基板支持部32Aと、マスク支持部34Aと、支柱35Aと、アライメント機構36Aとを含む。
【0020】
基板支持部32Aは、基板100Aを支持する。本実施形態では、基板支持部32Aは、基板100Aの短辺がY方向、基板100Aの長辺がX向に延びるように基板100Aを支持する。また、基板支持部32Aは、基板100Aの縁を基板100Aの下側から支持する。しかしながら、基板支持部32Aは、基板100Aの縁を挟持することで基板を支持してもよいし、静電チャック又は粘着チャック等によって基板100Aを吸着することで基板100Aを支持してもよい。例えば、基板支持部32Aは、基板搬送室62の搬送ロボット620から基板100Aを受け取ることができる。また、基板支持部32Aは、不図示の昇降機構により昇降可能であり、搬送ロボット620から受け取った基板100Aをマスク支持部34Aに支持されたマスク101Aの上に重ね合わせることができる。昇降機構には、ボールねじ機構等の公知の技術を用いることができる。
【0021】
マスク支持部34Aは、マスク101Aを支持する。本実施形態では、マスク支持部34Aには、不図示の開口が設けられ、この開口を介してマスク101Aと重ね合わされた基板100Aの成膜面に対して蒸着物質が飛散する。また、マスク支持部34Aは、支柱35Aによってチャンバ45に支持される。
【0022】
アライメント機構36Aは、基板100Aとマスク101Aとのアライメントを行う。アライメント機構36Aは、基板支持部32Aとマスク支持部34Aの水平方向の相対位置を調整することで、基板支持部32Aに支持された基板100Aとマスク支持部32に支持されたマスク101Aとのアライメントを行う。基板100Aとマスク101Aのアライメントについては公知の技術を用いることができるため、詳細な説明は省略する。一例として、アライメント機構36Aは、不図示のカメラにより基板100A及びマスク101Aに形成されたアライメント用のマークを検知する。そして、アライメント機構36Aは、基板100Aに形成されたマークにより算出される基板100Aの位置と、マスク101Aに形成されたマークにより算出されるマスク101Aの位置の関係が所定の条件を満たすように、基板100A及びマスク101Aの位置関係を調整する。
【0023】
アライメント機構36Aによるアライメントが終了すると、基板支持部32Aは支持している基板100Aをマスク101Aの上に重ね合わせる。基板100A及びマスク101Aが重ね合わせられた状態で、蒸発源ユニット10による基板100Aへの成膜が行われる。
【0024】
成膜ステージ30Bについては、成膜ステージ30Aと同様の構成を有し得る。すなわち、成膜ステージ30Bは、基板支持部32B、マスク支持部34B、支柱35B及びアライメント機構36Bを有し、これらは基板支持部32A、マスク支持部34A、支柱35A及びアライメント機構36Aにそれぞれ対応する。
【0025】
本実施形態の成膜装置1は、複数の成膜ステージ30A、30Bを有するいわゆるデュアルステージの成膜装置1である。例えば、成膜ステージ30Aにおいて基板100Aに対して蒸着が行われている間に、成膜ステージ30Bにおいて基板100B及びマスク101Bのアライメントを行うことができ、成膜プロセスを効率的に実行することができる。
【0026】
(蒸発源ユニット)
次に、蒸発源ユニット10について説明する。なお、ここでは各要素の概要を説明し、詳細な配置構成や動作例については後述する((蒸発源ユニットの配置構成)(動作例)参照)。
【0027】
図4は、蒸発源ユニット10の構成を説明するための図であって、蒸発源ユニット10を横(Y方向)から見た模式図である。図5は、蒸発源11a~11r及び監視装置12a~12rの位置関係を説明するための模式的な平面図である。
【0028】
蒸発源ユニット10は、移動しながら蒸着物質を放出して基板100に成膜を行う。本実施形態では、蒸発源ユニット10は、複数の蒸発源11a~11r、複数の監視装置12a~12r、防着板13、制限部14、カバー部15、及びシャッタ161~163を含む。
【0029】
複数の蒸発源11a~11rは、蒸着物質を放出する。本実施形態では、複数の蒸発源11a~11rはそれぞれ、蒸着物質を収容する収容部を含む。各収容部には、蒸発した蒸着物質を放出するための放出部がそれぞれ形成される。放出部は、例えば収容部の上面に形成された開口や、収容部の上面に設けられ収容部の内外を連通する筒状の部材であってもよい。
【0030】
収容部に収容された蒸着物質は、不図示のヒータにより加熱されて蒸発し、放出部からチャンバ45の内部空間450へと放出される。なお、収容部に収容された蒸着物質を加熱するヒータとしては、例えば電熱線を用いたシーズヒータを用いることができる。
【0031】
本実施形態では、複数の蒸発源11a~11rは、互いに蒸発源ユニット10の移動方向(X方向)に離間した三つの蒸発源群17A~17Cに分けることができる。蒸発源群17Aは、蒸発源ユニット10の移動方向に交差する横方向(Y方向)に並んだ複数の蒸発源11a~11fを含む。蒸発源群17Bは、蒸発源ユニット10の移動方向に交差する横方向(Y方向)に並んだ複数の蒸発源11g~11lを含む。蒸発源群17Cは、蒸発源ユニット10の移動方向に交差する横方向(Y方向)に並んだ複数の蒸発源11m~11rを含む。
【0032】
また、三つの蒸発源群17A~17Cは、蒸発源ユニット10の移動方向(X方向)において、蒸発源群17A、蒸発源群17B、蒸発源群17Cの順にならんでいる。すなわち、蒸発源群17A~17Cに含まれる蒸発源に着目すると、例えば、蒸発源11a、蒸発源11g、蒸発源11mが、蒸発源ユニット10の移動方向(X方向)においてこの順に並んでいる。
【0033】
複数の監視装置12a~12rは、複数の蒸発源11a~11rからの蒸着物質の放出状態をそれぞれ監視する。本実施形態の監視装置12a~12rは、図4において監視装置12aに示されるように、ケース121の内部に膜厚センサとして水晶振動子123を備えている。水晶振動子123には、ケース121に形成された導入部122を介して蒸発源11a~11rから放出された蒸着物質が導入されて付着する。水晶振動子123の振動数は蒸着物質の付着量により変動する。よって、制御部43は、水晶振動子123の振動数を監視することで、基板100に蒸着した蒸着物質の膜厚を算出することができる。単位時間に水晶振動子123に付着する蒸着物の量は、蒸発源11a~11rからの蒸着物質の放出量と相関を有するため、結果的に複数の蒸発源11a~11rからの蒸着物質の放出状態を監視することができる。なお、本実施形態では、各蒸発源11a~11rからの蒸着物質の放出状態を各監視装置12a~12rにより独立に監視することで、その結果に基づき各蒸発源11a~11rの各加熱部の出力をより適切に制御することができる。これにより、基板100に蒸着される蒸着物質の膜厚を効果的に制御することができる。
【0034】
防着板13は、複数の蒸発源11a~11rから放出された蒸着物質がチャンバ45の壁部等に付着することを防ぐ板である。防着板13は、上部が開放されるとともに、平面視で複数の蒸発源11a~11rを囲むように設けられている。
【0035】
制限部14は、複数の蒸発源11a~11rから放出された蒸着物質の放出範囲を制限する。本実施形態では、制限部14は、複数の板部材141~145を含む。板部材141、142は、複数の蒸発源11a~11fのX方向の放出範囲を制限する。板部材143は、複数の蒸発源11g~11lのX方向の放出範囲を制限する。板部材144は、複数の蒸発源11g~11rのX方向の放出範囲を制限する。板部材145は、複数の蒸発源11m~11rのX方向の放出範囲を制限する。
【0036】
また、板部材141には、監視装置12a~12fへと飛散する蒸着物質が通過する筒状部材146a~146fが設けられる(図4にはこれらを代表して筒状部材146aが示されている)。板部材143には、監視装置12g~12lへと飛散する蒸着物質が通過する筒状部材146g~146lが設けられる(図4にはこれらを代表して筒状部材146gが示されている)。板部材145には、監視装置12m~12rへと飛散する蒸着物質が通過する筒状部材146m~146rが設けられる(図4にはこれらを代表して筒状部材146mが示されている)。
【0037】
ここで、筒状部材146gの蒸発源11g側の開口の高さは、板部材144の上端よりも低く設定されている。これにより、蒸発源11mから放出された蒸着物質が筒状部材146gを通って監視装置12gに到達することを抑制することができる。また、筒状部材146mの蒸発源11m側の開口の高さは、板部材144の上端よりも低く設定されている。これにより、蒸発源11gから放出された蒸着物質が筒状部材146mを通って監視装置12mに到達することを抑制することができる。
【0038】
カバー部15は、蒸着物質が板部材141~145を回り込んで監視装置12a~12rに到達することを防止する。カバー部15は、防着板13と板部材141との間を覆うカバー部材151、板部材142と板部材143との間を覆うカバー部材152、及び板部材145と防着板13との間を覆うカバー部材153とを含む。
【0039】
シャッタ161~163は、蒸着物質の基板100への飛散を遮断する。詳細には、シャッタ161~163はそれぞれ、蒸発源群17A~17Cから放出される蒸着物質の基板100への飛散を遮断する遮断位置(図4参照)、及び蒸着物質の基板100への飛散を許容する許容位置(図6参照)の間で変位可能に設けられている。例えば、シャッタ161は、蒸発源群17Aに含まれる蒸発源11a~11fから放出される蒸着物質の基板への飛散を遮断する遮断位置、及び蒸発源群17Aに含まれる蒸発源11a~11fから放出される蒸着物質の基板への飛散を許容する許容位置の間で変位可能に設けられている。すなわち、シャッタ161のみに着目すると、シャッタ161は、遮断位置において蒸発源11g~11rから放出される蒸着物質の基板への飛散を許容しながら、蒸発源11a~11fから放出される蒸着物質の基板への飛散を遮断する。シャッタ162~163についても同様のことがいえる。
【0040】
(移動ユニット)
再び図2及び図3を参照する。移動ユニット20は、蒸発源ユニット10を移動する。つまり、蒸発源ユニット10は、移動ユニット20によって移動しながら基板100に対して成膜することができる。移動ユニット20は、X方向に移動させるX方向移動部22と、蒸発源ユニット10をY方向に移動させるY方向移動部24とを含む。
【0041】
X方向移動部22は、蒸発源ユニット10に設けられる構成要素として、モータ221と、モータ221により回転する軸部材に取り付けられたピニオン222と、ガイド部材223とを含む。また、X方向移動部22は、蒸発源ユニット10を支持する枠部材224と、枠部材224の上面に形成され、ピニオン222と噛み合うラック225と、ガイド部材223が摺動するガイドレール226とを含む。蒸発源ユニット10は、モータ221の駆動により回転するピニオン222がラック225と噛み合うことで、ガイドレール226に沿ってX方向に移動する。
【0042】
Y方向移動部24は、Y方向に延び、X方向に離間する2つの支持部材241A及び241Bを含む。2つの支持部材241A及び241Bは、X方向移動部22の枠部材224の短辺を支持している。Y方向移動部24は、不図示のモータ及びラック・アンド・ピニオン機構等の駆動機構を含み、2つの支持部材241A及び241Bに対して枠部材224をY方向に移動させることにより、蒸発源ユニット10をY方向に移動させる。Y方向移動部24は、蒸発源ユニット10を、成膜ステージ30Aに支持された基板100Aの下方の位置と、成膜ステージ30Bに支持された基板100Bの下方の位置との間でY方向に移動させる。
【0043】
(蒸発源ユニットの配置構成)
図6は、蒸発源ユニット10の配置構成を説明するための図である。図6には、蒸発源ユニット10の移動方向(X方向)における、蒸発源11a、11g、11mの放出範囲R1~R3が示されている。なお、ここでは、蒸発源11a、11g、11mが示されているが、蒸発源11b~11fは蒸発源11aと、蒸発源11h~11lは蒸発源11gと、蒸発源11n~11rは蒸発源11mと、それぞれ同様の構成を有し得る。
【0044】
本実施形態では、蒸発源11aの放出部110a及び制限部14の板部材141、142の位置関係により、放出範囲R1が決まる。また、蒸発源11gの放出部110g及び制限部14の板部材143、144の位置関係により、放出範囲R3が決まる。また、蒸発源11mの放出部110m及び制限部14の板部材144、145の位置関係により、放出範囲R3が決まる。
【0045】
具体的には、放出部110a及び板部材141の上端部を通過する仮想直線VL1と、放出部110a及び板部材142の上端部を通過する仮想直線VL2の間の範囲が、放出範囲R1となる。なお、このように幾何学的に画定される放出範囲R1外に飛散する蒸着物質も存在し得るが、ここでは幾何学的に画定された範囲を放出範囲R1とする。同様に、放出部110g及び板部材143の上端部を通過する仮想直線VL3と、放出部110g及び板部材144の上端部を通過する仮想直線VL4の間の範囲が、放出範囲R2となる。さらに、放出部110m及び板部材144の上端部を通過する仮想直線VL5と、放出部110m及び板部材145の上端部を通過する仮想直線VL6の間の範囲が、放出範囲R3となる。
【0046】
さて、本実施形態の蒸発源ユニット10のように複数の蒸発源を有する蒸発源ユニットを用いて成膜を行う場合、一つの蒸発源ユニットにより基板100に対して複数層(例えば2層)の成膜を行うことが考えられる。
【0047】
例えば、蒸発源ユニット10において、蒸発源11a~11fがフッ化リチウム(LiF)又はイッテルビウム(Yb)を放出し、蒸発源11g~11lがマグネシウム(Mg)を放出し、蒸発源11m~11rが銀(Ag)を放出する。そして、フッ化リチウム又はイッテルビウムの層(1層目)と、銀マグネシウム(AgMg)の層(2層目)を基板100に成膜する。なお、上記はあくまで例示であって、成膜材料については限定されない。
【0048】
しかし、このような場合に、1層目の蒸着物質と2層目の蒸着物質が混ざってしまうと、成膜品質の低下に繋がる場合がある。そこで、本実施形態では、以下の配置構成により、複数層の成膜において蒸着物質が混ざることによる成膜品質の低下を抑制している。
【0049】
すなわち、本実施形態では、蒸発源ユニット10の移動方向(X方向)における蒸発源11a及び蒸発源11gの間の距離L12は、当該移動方向における蒸発源11g及び蒸発源11mの間の距離L23よりも長い。これにより、蒸発源11aによる蒸着物質の放出範囲R1と、蒸発源11gによる蒸着物質の放出範囲R2とが重なりにくくなるので、1層目の蒸着物質と2層目の蒸着物質が混ざりにくくなり、成膜品質の低下を抑制することができる。
【0050】
なお、ここでは、距離L12は蒸発源11aの移動方向(X方向)の中心と蒸発源11gの移動方向(X方向)の中心との間の距離である。また、距離L23は蒸発源11gの移動方向(X方向)の中心と蒸発源11mの移動方向(X方向)の中心との間の距離である。
【0051】
また、本実施形態では、移動方向(X方向)と交差する横方向(Y方向)から見た場合に、蒸発源11aの蒸着物質の放出角度θ1は、蒸発源11gの蒸着物質の放出角度θ2よりも小さい。これにより、蒸発源11aによる蒸着物質の放出範囲R1と、蒸発源11gによる蒸着物質の放出範囲R2とが重なりにくくなるので、1層目の蒸着物質と2層目の蒸着物質が混ざりにくくなり、成膜品質の低下を抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態では、蒸発源11aの放出角度θ1は、移動方向(X方向)と交差する横方向(Y方向)から見た場合に、蒸発源11gの側の方が蒸発源11gの側と反対の側よりも小さい。詳細には、蒸発源11aの放出部110aを通過する仮想鉛直線VLc及び仮想直線VL2がなす角度θ11は、仮想鉛直線VLc及び仮想直線VL1がなす角度θ12よりも小さい。これにより、蒸発源11aから放出される蒸着物質が蒸発源11gの側に飛散しにくくなる。したがって、蒸発源11aによる蒸着物質の放出範囲R1と、蒸発源11gによる蒸着物質の放出範囲R2とが重なりにくくなるので、1層目の蒸着物質と2層目の蒸着物質が混ざりにくくなり、成膜品質の低下を抑制することができる。なお、放出範囲R1において、蒸発源11gの側は蒸発源ユニット10の内側であり、蒸発源11gの側と反対の側は蒸発源ユニット10の外側であるといえる。
【0053】
なお、本実施形態では、距離L12が距離L23よりも長く、かつ、放出角度θ1が放出角度θ2よりも小さいが、これらのいずれかのみを満たす構成も採用可能である。
【0054】
また、本実施形態では、蒸発源11aの放出範囲R1と、蒸発源11gの放出範囲R2とが移動方向(X方向)に重複しない。詳細には、基板100の成膜面の高さにおいて、放出範囲R1と放出範囲R2とが移動方向(X方向)に重複しない。これにより、シャッタ161~163が全て許容位置に位置している場合であっても、蒸発源11aから放出される蒸着物質と蒸発源11gから放出される蒸着物質とが混ざることを抑制できる。よって、1層目の蒸着物質と2層目の蒸着物質が混ざることを抑制しつつ、一方向に移動しながらの一回の成膜動作で基板100に対して2層の成膜を行うことができる。
【0055】
一方で、本実施形態では、蒸発源11gの放出範囲R2と、蒸発源11mの放出範囲R3とが移動方向(X方向)に重複する。詳細には、基板100の成膜面の高さにおいて、放出範囲R2と放出範囲R3とが移動方向(X方向)に重複する。これにより、蒸発源11gから放出される蒸着物質と蒸発源11rから放出される蒸着物質の化合物或いは混合物の層を基板100に蒸着させる共蒸着を行うことができる。
【0056】
また、本実施形態では、移動方向(X方向)において、監視装置12a、蒸発源11a、監視装置12g、蒸発源11g、蒸発源11m、監視装置12mの順に並んでいる。すなわち、蒸発源11g及び蒸発源11mの間よりも距離が長い蒸発源11a及び蒸発源11gの間に監視装置12gが配置される。よって、放出範囲R1と放出範囲R2の重複を防ぐために設けたスペースに監視装置12gが配置されるので、蒸発源ユニット10の構成要素をコンパクトに配置でき、装置の大型化を抑制することができる。また、監視装置12a~12rを監視対象の蒸発源11a~11rの近くに配置できるので、監視装置12a~12rの監視精度の低下を抑制することができる。
【0057】
(動作例)
図7は、成膜装置1の成膜処理における動作説明図である。なお、初期状態(状態ST1の状態となる前)において、蒸発源ユニット10は、位置(x1,y1)に位置しているものとする。動作の概略として、蒸発源ユニット10は、成膜ステージ30Aの基板100Aに対して成膜した後に、成膜ステージ30Bの基板100Bに対して成膜する。さらにいえば、蒸発源ユニット10は、成膜ステージ30A及び成膜ステージ30Bの下方をX方向(基板の長手方向)に往復移動しながら基板に成膜を行う。ここでは、蒸発源ユニット10は、各基板に対して、X方向正側に移動しながらの成膜を一回、X方向負側に移動しながらの成膜を一回の計二回、移動しながらの成膜を行う。以下、各基板に対する一回目の成膜を往方向の成膜と、二回目の成膜を復方向の成膜と、それぞれ表記する場合がある。
【0058】
状態ST1は、蒸発源ユニット10が基板100Aに対する往方向の成膜を行った後の状態である。蒸発源ユニット10は、位置(x1,y1)から位置(x2,y1)に移動しながら基板100Aに対して往方向の成膜を行う。この方向の成膜では、シャッタ161~163はいずれも許容位置に位置している。よって、基板100Aに対して、進行方向前側の蒸発源群17Aによる1層目の成膜がなされた後に、進行方向後側の蒸発源群17B、17Cによる2層目の成膜がなされる。
【0059】
状態ST2は、蒸発源ユニット10が基板100Aに対する復方向の成膜を行った後の状態である。蒸発源ユニット10は、位置(x2,y1)から位置(x1,y1)に移動しながら基板100Aに対して復方向の成膜を行う。この方向の成膜では、シャッタ162~163は許容位置に位置する一方で、シャッタ161が遮断位置に位置している。よって、100Aに対して、蒸発源群17B、17Cによる2層目の成膜がなされる。
【0060】
本実施形態では、1層目の成膜は往方向のみで行われ、2層目の成膜は往方向及び復方向の両方で行われる。したがって、1層目の膜厚に対して2層目の膜厚をより厚くすることができる。なお、1層目の膜厚及び2層目の膜厚を同程度にしたい場合には、往方向の成膜においてシャッタ162~163を遮断位置に位置させてもよい。
【0061】
また、蒸発源ユニット10が移動方向の一方側に移動する際の速度と、その逆側に移動する際の速度とが異なっていてもよい。例えば、1層目の膜厚に対して2層目の膜厚をより厚くしたい場合には、復方向の移動速度を往方向の移動速度よりも遅くしてもよい。このように、蒸発源ユニット10の移動速度を適宜調整することで、複数層の成膜において各層の膜厚の相対的な関係を調整することができる。
【0062】
また、本実施形態では、蒸発源群17B、17Cについては往方向及び復方向の両方で基板100Aに対して蒸着物質を飛散させるので、蒸発源群17Bから放出される蒸着物質と蒸発源群17Cから放出される蒸着物質の厚み方向の混合具合の均一化を図ることができる。
【0063】
また、本実施形態では、蒸発源ユニット10は、移動方向において基板100Aと放出範囲R1~R3が重なる間は等速で移動する。例えば、基板100Aに対する往方向の成膜では、移動を開始してから基板100Aの成膜面と放出範囲R1が重なる位置に到達するまでに加速を終え、基板100Aの成膜面と放出範囲R3が重なる位置を過ぎてから減速を始める。このように、成膜中は等速で移動することで、基板100Aに成膜される膜の移動方向の均一化を図ることができる。別の側面から見ると、蒸発源ユニット10は、成膜中は等速で移動するので、移動方向において移動する側が変わる際に、すなわち折返しの際に速さが変化しているといえる。
【0064】
図7の説明に戻る。状態ST3は、蒸発源ユニット10が成膜ステージ30Aから成膜ステージ30Bに移動した後の状態である。蒸発源ユニット10は、移動ユニット20のY方向移動部24により、位置(x1,y1)から位置(x1,y2)までY方向に移動する。移動中、シャッタ161~163は、チャンバ45内に蒸着物質が飛散するのを抑制するために遮断位置に位置していてもよいし、次の基板100Bに対する成膜に備えて許容位置に位置していてもよい。
【0065】
状態ST4は、蒸発源ユニット10が基板100Bに対する往方向の成膜を行った後の状態である。蒸発源ユニット10は、位置(x1,y2)から位置(x2,y2)に移動しながら基板100Bに対して往方向の成膜を行う。この方向の成膜では、シャッタ161~163はいずれも許容位置に位置している。よって、100Bに対して、進行方向前側の蒸発源群17Aによる1層目の成膜がなされた後に、進行方向後側の蒸発源群17B、17Cによる2層目の成膜がなされる。
【0066】
状態ST5は、蒸発源ユニット10が基板100Bに対する復方向の成膜を行った後の状態である。蒸発源ユニット10は、位置(x2,y2)から位置(x1,y2)に移動しながら基板100Bに対して復方向の成膜を行う。この方向の成膜では、シャッタ162~163は許容位置に位置する一方で、シャッタ161が遮断位置に位置している。よって、100Bに対して、蒸発源群17B、17Cによる2層目の成膜がなされる。
【0067】
状態ST6は、蒸発源ユニット10が成膜ステージ30Bから成膜ステージ30Aに移動した後の状態である。蒸発源ユニット10は、移動ユニット20のY方向移動部24により、位置(x1,y2)から位置(x1,y1)までY方向に移動する。移動中、シャッタ161~163は、チャンバ45内に蒸着物質が飛散するのを抑制するために遮断位置に位置していてもよいし、次の基板100Aに対する成膜に備えて許容位置に位置していてもよい。状態ST6の後、蒸発源ユニット10は、状態ST1に戻って次の基板100Aに対して成膜を行う。
【0068】
なお、成膜ステージ30Aにおいて基板100Aに対する成膜が行われている間に、成膜ステージ30Bにおいて基板100Bの搬入及び搬出並びに基板100Bとマスク101Bとのアライメントが適宜実行される。また、成膜ステージ30Bにおいて基板100Bに対する成膜が行われている間に、成膜ステージ30Aにおいて基板100Aの搬入及び搬出並びに基板100Aとマスク101Aとのアライメントが適宜実行される。
【0069】
以上説明したように、本実施形態によれば、成膜装置において複数層の成膜を行う際に成膜品質の低下を抑制することができる。
【0070】
<第2実施形態>
(成膜装置の概要)
図8は、一実施形態に係る成膜装置91の構成を模式的に示す正面図である。図8の成膜装置91は、主として、蒸発源ユニット910が基板の長手方向にわたって設けられ、蒸発源ユニット910が基板の短手方向(Y方向)に移動しながら成膜を行う点で図2の成膜装置1と異なる。また、複数の成膜ステージが並んでいる方向と蒸発源ユニッが移動しながら成膜を行う方向とが同一か同一ではないかという点で異なる。以下、第1実施形態と同様の構成については同様の符号を付して説明を省略する。
【0071】
成膜装置91は、蒸発源ユニット910を含む。蒸発源ユニット910は複数の蒸発源911a~911rを含む。なお、図8では代表して蒸発源911a、911g、911mが示されている。蒸発源911b~911fは、蒸発源911aとX方向に並んで設けられる。蒸発源911h~911lは、蒸発源911gとX方向に並んで設けられる。蒸発源911n~911rは、蒸発源911mとX方向に並んで設けられる。
【0072】
蒸発源ユニット910は、移動ユニット920により基板100の短手方向(Y方向)に往復移動可能である。移動ユニット920には公知の技術を用いることができるため詳細な説明を省略する。一例として、移動ユニット920は、複数の蒸発源911a~911rが載置される移動体9201と、移動体9201に回転可能に支持された転動体9202と、不図示の駆動部とを含むリニアガイドである。すなわち、移動体9201は、ラック・アンド・ピニオン等の不図示の駆動部により駆動されると、転動体9202を介してチャンバ45の床に設けられたレール451に沿って移動する。このような構成により、蒸発源911a~911rの移動機構が1軸で成り立つため、チャンバ45内の機構を簡素化することができる。
【0073】
また、本実施形態では、蒸発源ユニット910は、蒸発源ユニット10と同様に、蒸発源911aの放出範囲R91と蒸発源911gの放出範囲R92とが蒸発源ユニット910の移動方向(Y方向)に重複しない。すなわち、蒸発源ユニット910は、蒸発源ユニット10と同様、蒸発源911aから放出される蒸着物質と蒸発源911gから放出される蒸着物質とが混ざることを抑制できる。よって、1層目の蒸着物質(蒸発源911a~911fから放出される蒸着物質)と2層目の蒸着物質(蒸発源911g~911lから放出される蒸着物質及び蒸発源911m~911rから放出される蒸着物質)とが混ざることを抑制しつつ、一方向に移動しながらの一回の成膜動作で基板100に対して2層の成膜を行うことができる。
【0074】
また、本実施形態では、成膜ステージ30A、30Bの下方に、シャッタ916A、916Bがそれぞれ設けられている。シャッタ916Aは、基板100Aに対する蒸着物質の飛散を遮断する成膜ステージ30Aの下方の遮断位置、及び基板100Aに対する蒸着物質の飛散を許容する、当該遮断位置からY方向+Y側にずれた許容位置の間で移動可能である。また、シャッタ916Bは、基板100Bに対する蒸着物質の飛散を遮断する成膜ステージ30Bの下方の遮断位置、及び基板100Bに対する蒸着物質の飛散を許容する、当該遮断位置からY方向+Y側にずれた許容位置の間で移動可能である。シャッタ916A、916Bの移動機構としては公知の技術を用いることができるため説明を省略する。
【0075】
(動作例1)
図9及び図10は、成膜装置91の成膜処理における動作説明図である。概略として、蒸発源ユニット910は、成膜ステージ30Aの下方を一往復しながら基板100Aに対して成膜した後に、成膜ステージ30Bの下方を一往復しながら基板100Bに対して成膜する。
【0076】
状態ST901は、初期状態であり、蒸発源ユニット910が成膜ステージ30Aよりも-Y側の位置POS10に位置している状態である。このとき、シャッタ916A及びシャッタ916Bはそれぞれ遮断位置にある。
【0077】
状態ST902は、蒸発源ユニット910がY方向+Y側に移動しながら基板100Aに成膜している状態である。このとき、シャッタ916Aは蒸発源ユニット910の移動に連動してY方向+Y側に移動する。さらにいえば、シャッタ916Aは、放出範囲R91とY方向に重複しないように移動する。よって、基板100Aに対して、蒸発源911a~911fによる1層目の成膜がなされた後に、蒸発源911g~911l及び蒸発源911m~911rによる2層目の成膜がなされる。状態ST903は、蒸発源ユニット910がY方向+Y側に移動しながらの基板100Aに対する成膜を終えた状態である。
【0078】
状態ST904は、蒸発源ユニット910がY方向-Y側に移動しながら基板100Aに成膜している状態である。このとき、シャッタ916Aは蒸発源ユニット910の移動に連動してY方向-Y側に移動する。さらにいえば、シャッタ916Aは、放出範囲R91とY方向に重複するように移動する。よって、基板100Aに対して、蒸発源911g~911l及び蒸発源911m~911rによる2層目の成膜がなされる。状態ST905は、蒸発源ユニット910がY方向-Y側に移動しながらの基板100Aに対する成膜を終えた状態である。
【0079】
状態ST906は、蒸発源ユニット910がY方向+Y側に移動しながら基板100Bに成膜している状態である。このとき、シャッタ916Bは蒸発源ユニット910の移動に連動してY方向+Y側に移動する。さらにいえば、シャッタ916Bは、放出範囲R91とY方向に重複しないように移動する。よって、基板100Bに対して、蒸発源911a~911fによる1層目の成膜がなされた後に、蒸発源911g~911l及び蒸発源911m~911rによる2層目の成膜がなされる。状態ST907は、蒸発源ユニット910がY方向+Y側に移動しながらの基板100Bに対する成膜を終えた状態である。
【0080】
状態ST908は、蒸発源ユニット910がY方向-Y側に移動しながら基板100Bに成膜している状態である。このとき、シャッタ916Bは蒸発源ユニット910の移動に連動してY方向-Y側に移動する。さらにいえば、シャッタ916Bは、放出範囲R91とY方向に重複するように移動する。よって、基板100Bに対して、蒸発源911g~911l及び蒸発源911m~911rによる2層目の成膜がなされる。状態ST908の後、状態ST901に戻り、次の基板100Aに対する成膜が行われる。
【0081】
(動作例2)
図11及び図12は、成膜装置91の成膜処理における動作説明図である。概略として、蒸発源ユニット910は、Y方向+Y側に移動しながら基板100A、基板100Bに対してこの順に成膜する。
【0082】
状態ST911は、初期状態であり、蒸発源ユニット910が成膜ステージ30Aよりも-Y側の位置POS10に位置している状態である。このとき、シャッタ916A及びシャッタ916Bはそれぞれ遮断位置にある。
【0083】
状態ST912は、蒸発源ユニット910がY方向+Y側に移動しながら基板100Aに成膜している状態である。このとき、シャッタ916Aは蒸発源ユニット910の移動に連動してY方向+Y側に移動する。さらにいえば、シャッタ916Aは、放出範囲R91とY方向に重複しないように移動する。よって、基板100Aに対して、蒸発源911a~911fによる1層目の成膜がなされた後に、蒸発源911g~911l及び蒸発源911m~911rによる2層目の成膜がなされる。
【0084】
状態ST913は、蒸発源ユニット910がY方向+Y側に移動しながらの基板100Aに対する成膜を終えた状態である。蒸発源ユニット910は、基板100Bに対する成膜に進むため、引き続きY方向+Y側に移動している。また、このとき、シャッタ916Aは許容位置に位置している。
【0085】
状態ST914は、蒸発源ユニット910がさらにY方向+Y側に移動しながら基板100Bに成膜している状態である。このとき、シャッタ916Bは蒸発源ユニット910の移動に連動してY方向+Y側に移動する。さらにいえば、シャッタ916Bは、放出範囲R91とY方向に重複しないように移動する。よって、基板100Bに対して、蒸発源911a~911fによる1層目の成膜がなされた後に、蒸発源911g~911l及び蒸発源911m~911rによる2層目の成膜がなされる。なお、このとき、シャッタ916Aは、許容位置から遮断位置へと移動している。
【0086】
状態ST915は、蒸発源ユニット910がY方向+Y側に移動しながらの基板100Bに対する成膜を終えた状態である。このとき、シャッタ916Bは許容位置に位置している。
【0087】
状態ST916は、蒸発源ユニット910がY方向-Y側に移動し始めた状態である。このとき、シャッタ916Bは、許容位置から遮断位置へとY方向-Y側に移動している。さらにいえば、シャッタ916Bは、蒸発源ユニット910から放出された蒸着物質が基板100Bに到達しないように、蒸発源ユニット910よりも先行してY方向-Y側に移動する。
【0088】
その後、蒸発源ユニット910は、Y方向-Y側に移動を続け、状態ST911の状態に戻り、次の基板100A、基板100Bに対して成膜を行う。
【0089】
なお、基板100Aの成膜後、シャッタ916Aが遮断位置にある間(例えば状態ST914~次の周期の状態ST911の間)に、成膜ステージ30Aにおいて基板100Aの搬入及び搬出並びに基板100Aとマスク101Aとのアライメントが適宜実行される。また、基板100Bの成膜後、シャッタ916Bが遮断位置にある間(例えば状態ST916~次の周期の状態ST913の間)に、成膜ステージ30Bにおいて基板100Bの搬入及び搬出並びに基板100Bとマスク101Bとのアライメントが適宜実行される。
【0090】
このように、本実施形態では、蒸発源ユニット910は一方方向(Y方向+Y側)に移動しながら基板100A、基板100Bに対して成膜を行い、逆方向(Y方向-Y側)に移動しながら初期位置(成膜開始位置)に戻る。
【0091】
ここで、蒸発源ユニット910の移動速度は、成膜の際に、初期位置に戻る際よりも大きくてもよい。これにより、成膜プロセスの中で基板に対する成膜時間の割合を増やすことができ、基板に形成される膜厚を厚くすることができる。
【0092】
<第3実施形態>
(成膜装置の概要)
図13は、一実施形態に係る成膜装置991の構成を模式的に示す正面図である。図3の成膜装置991は、主として、三つ目のシャッタ916Cを有する点で図8の成膜装置91と異なる。以下、第2実施形態と同様の構成については同様の符号を付して説明を省略する。
【0093】
成膜装置991は、三つのシャッタ916A~916Cを有する。シャッタ916Aは、成膜ステージ30Aの基板100Aへの蒸着物質の飛散を遮断する成膜ステージ30Aの下方の遮断位置POS31、及び基板100Aに対する蒸着物質の飛散を許容する、当該遮断位置からY方向-Y側にずれた許容位置POS32との間で移動する。シャッタ916Bは、成膜ステージ30Bの基板100Bへの蒸着物質の飛散を遮断する成膜ステージ30Bの下方の遮断位置POS33、及び基板100Bに対する蒸着物質の飛散を許容する、当該遮断位置からY方向+Y側にずれた許容位置POS34との間で移動する。シャッタ916Cは、遮断位置POS31、及び遮断位置POS33の間で移動する。なお、遮断位置POS31及び遮断位置POS33の間には、基板100A、100Bへの蒸着物質の飛散を許容する許容位置POS35が設けられている。
【0094】
本実施形態では、成膜装置991は、三つのシャッタ916A~916Cを用いて基板100A、100Bへの蒸着物質の飛散を許容又は遮断しながら、成膜処理を実行する。
【0095】
(動作例)
図14及び図15は、成膜装置991の成膜処理における動作説明図である。概略として、蒸発源ユニット910は、Y方向+Y側に移動しながら基板100A、基板100Bに対してこの順に成膜する。
【0096】
状態ST921は、初期状態であり、蒸発源ユニット910が成膜ステージ30Aよりも-Y側の位置POS10に位置している状態である。このとき、シャッタ916A~916Cはそれぞれ、許容位置POS32、遮断位置POS33、遮断位置POS31に位置する。すなわち、基板100Aはシャッタ916Cにより覆われ、基板100Bはシャッタ916Bにより覆われている。
【0097】
状態ST922は、蒸発源ユニット910がY方向+Y側に移動しながら基板100Aに成膜している状態である。このとき、シャッタ916Cは蒸発源ユニット910の移動に連動してY方向+Y側に移動する。さらにいえば、シャッタ916Cは、放出範囲R91とY方向に重複しないように移動する。よって、基板100Aに対して、蒸発源911a~911fによる1層目の成膜がなされた後に、蒸発源911g~911l及び蒸発源911m~911rによる2層目の成膜がなされる。また、このとき、シャッタ916Aも蒸発源ユニット910の移動に連動してY方向+Y側に移動する。さらにいえば、シャッタ916Aは放出範囲R93とY方向に重複しないように、進行方向で蒸発源ユニット910の後側を移動する。
【0098】
状態ST923は、蒸発源ユニット910がY方向+Y側に移動しながらの基板100Aに対する成膜を終えた状態である。蒸発源ユニット910は、基板100Bに対する成膜に進むため、引き続きY方向+Y側に移動している。また、このとき、シャッタ916Aは遮断位置POS31に位置し、シャッタ916Cは許容位置POS35に位置している。
【0099】
状態ST924は、蒸発源ユニット910がさらにY方向+Y側に移動しながら基板100Bに成膜している状態である。このとき、シャッタ916Bは蒸発源ユニット910の移動に連動してY方向+Y側に移動する。さらにいえば、シャッタ916Bは、放出範囲R91とY方向に重複しないように移動する。よって、基板100Bに対して、蒸発源911a~911fによる1層目の成膜がなされた後に、蒸発源911g~911l及び蒸発源911m~911rによる2層目の成膜がなされる。なお、このとき、シャッタ916Cも、蒸発源ユニット910の移動に連動してY方向+Y側に移動する。さらにいえば、シャッタ916Cは放出範囲R93とY方向に重複しないように、進行方向で蒸発源ユニット910の後側を移動する。
【0100】
状態ST925は、蒸発源ユニット910がY方向+Y側に移動しながらの基板100Bに対する成膜を終えた状態である。このとき、シャッタ916Bは許容位置POS34に位置し、シャッタ916Cは遮断位置POS33に位置している。すなわち、この状態では基板100A及び基板100Bに対する蒸着物質の飛散は遮断されている。
【0101】
状態ST926は、蒸発源ユニット910がY方向-Y側に移動し始めた状態である。このとき、シャッタ916B、916Cは、Y方向-Y側に移動している。さらにいえば、シャッタ916Bは、蒸発源ユニット910から放出された蒸着物質が基板100Bに到達しないように、蒸発源ユニット910に連動してY方向-Y側に移動する。
【0102】
その後、蒸発源ユニット910は、Y方向-Y側に移動を続け、状態ST921の状態に戻り、次の基板100A、基板100Bに対して成膜を行う。
【0103】
本実施形態では、三つのシャッタ916A~916Cを用いて成膜処理を行うことで、基板100A、100Bに対して蒸着物質が飛散していない状態において、基板100A、100Bがシャッタ916A~916Cにより覆われている時間をより長く確保することができる。したがって、基板100A、100Bの搬入、搬出或いはアライメントの時間をより長く確保することができる。
【0104】
<変形例>
蒸発源の数、形状等の構成は適宜変更可能である。例えば、蒸発源ユニット10は、三つの蒸発源群17A~17Cを含むが、二つの蒸発源群、或いは四つ以上の蒸発源群を含んでもよい。また、各蒸発源群が含む蒸発源の数も適宜変更可能である。また、複数の蒸発源で構成される蒸発源群に代えて、一つの蒸発源が蒸発源ユニット10の移動方向に交差する交差方向に延在して設けられてもよい。この一つの蒸発源に、交差方向に互いに離間した複数の放出部が設けられていてもよい。そして、このように交差方向に長い蒸発源が蒸発源ユニット10の移動方向に互いに離間して複数設けられてもよい。
【0105】
また、監視装置12a~12rの配置等の構成も適宜変更可能である。図16は、蒸発源ユニット10の構成を説明するための図であって、蒸発源ユニットを横から見た模式図である。この例では、監視装置12a及び監視装置12aとY方向に並んだ不図示の監視装置12b~12fが、X方向で蒸発源11a~11fと蒸発源11g~11lの間に設けられている。このような配置によっても、放出範囲R1と放出範囲R2の重複を防ぐために設けたスペースを有効に活用することができる。
【0106】
<電子デバイスの製造方法>
次に、電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。この例の場合、図1に例示した成膜システムSYが製造ライン上に複数設けられる。
【0107】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。図17(A)は有機EL表示装置50の全体図、図17(B)は1画素の断面構造を示す図である。
【0108】
図17(A)に示すように、有機EL表示装置50の表示領域51には、発光素子を複数備える画素52がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。
【0109】
なお、ここでいう画素とは、表示領域51において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。カラー有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子52R、第2発光素子52G、第3発光素子52Bの複数の副画素の組み合わせにより画素52が構成されている。画素52は、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子の3種類の副画素の組み合わせで構成されることが多いが、これに限定はされない。画素52は少なくとも1種類の副画素を含めばよく、2種類以上の副画素を含むことが好ましく、3種類以上の副画素を含むことがより好ましい。画素52を構成する副画素としては、例えば、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子と黄色(Y)発光素子の4種類の副画素の組み合わせでもよい。
【0110】
図17(B)は、図17(A)のA-B線における部分断面模式図である。画素52は、基板53上に、第1の電極(陽極)54と、正孔輸送層55と、赤色層56R・緑色層56G・青色層56Bのいずれかと、電子輸送層57と、第2の電極(陰極)58と、を備える有機EL素子で構成される複数の副画素を有している。これらのうち、正孔輸送層55、赤色層56R、緑色層56G、青色層56B、電子輸送層57が有機層に当たる。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0111】
また、第1の電極54は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層55と電子輸送層57と第2の電極58は、複数の発光素子52R、52G、52Bにわたって共通で形成されていてもよいし、発光素子ごとに形成されていてもよい。すなわち、図17(B)に示すように正孔輸送層55が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成された上に赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bが副画素領域ごとに分離して形成され、さらにその上に電子輸送層57と第2の電極58が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成されていてもよい。
【0112】
なお、近接した第1の電極54の間でのショートを防ぐために、第1の電極54間に絶縁層59が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層60が設けられている。
【0113】
図17(B)では正孔輸送層55や電子輸送層57が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を有する複数の層で形成されてもよい。また、第1の電極54と正孔輸送層55との間には第1の電極54から正孔輸送層55への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成してもよい。同様に、第2の電極58と電子輸送層57の間にも電子注入層を形成してもよい。
【0114】
赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bのそれぞれは、単一の発光層で形成されていてもよいし、複数の層を積層することで形成されていてもよい。例えば、赤色層56Rを2層で構成し、上側の層を赤色の発光層で形成し、下側の層を正孔輸送層又は電子ブロック層で形成してもよい。あるいは、下側の層を赤色の発光層で形成し、上側の層を電子輸送層又は正孔ブロック層で形成してもよい。このように発光層の下側又は上側に層を設けることで、発光層における発光位置を調整し、光路長を調整することによって、発光素子の色純度を向上させる効果がある。
【0115】
なお、ここでは赤色層56Rの例を示したが、緑色層56Gや青色層56Bでも同様の構造を採用してもよい。また、積層数は2層以上としてもよい。さらに、発光層と電子ブロック層のように異なる材料の層が積層されてもよいし、例えば発光層を2層以上積層するなど、同じ材料の層が積層されてもよい。
【0116】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。ここでは、赤色層56Rが下側層56R1と上側層56R2の2層からなり、緑色層56Gと青色層56Bは単一の発光層からなる場合を想定する。
【0117】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1の電極54が形成された基板53を準備する。なお、基板53の材質は特に限定はされず、ガラス、プラスチック、金属などで構成することができる。本実施形態においては、基板53として、ガラス基板上にポリイミドのフィルムが積層された基板を用いる。
【0118】
第1の電極54が形成された基板53の上にアクリル又はポリイミド等の樹脂層をバーコートやスピンコートでコートし、樹脂層をリソグラフィ法により、第1の電極54が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層59を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。なお、本実施形態では、絶縁層59の形成までは大型基板に対して処理が行われ、絶縁層59の形成後に、基板53を分割する分割工程が実行される。
【0119】
絶縁層59がパターニングされた基板53を第1の成膜装置1に搬入し、正孔輸送層55を、表示領域の第1の電極54の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層55は、最終的に1つ1つの有機EL表示装置のパネル部分となる表示領域51ごとに開口が形成されたマスクを用いて成膜される。
【0120】
次に、正孔輸送層55までが形成された基板53を第2の成膜装置1に搬入する。基板53とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、正孔輸送層55の上の、基板53の赤色を発する素子を配置する部分(赤色の副画素を形成する領域)に、赤色層56Rを成膜する。ここで、第2の成膜室で用いるマスクは、有機EL表示装置の副画素となる基板53上における複数の領域のうち、赤色の副画素となる複数の領域にのみ開口が形成された高精細マスクである。これにより、赤色発光層を含む赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの赤色の副画素となる領域のみに成膜される。換言すれば、赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの青色の副画素となる領域や緑色の副画素となる領域には成膜されずに、赤色の副画素となる領域に選択的に成膜される。
【0121】
赤色層56Rの成膜と同様に、第3の成膜装置1において緑色層56Gを成膜し、さらに第4の成膜装置1において青色層56Bを成膜する。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置1において表示領域51の全体に電子輸送層57を成膜する。電子輸送層57は、3色の層56R、56G、56Bに共通の層として形成される。
【0122】
電子輸送層57までが形成された基板を第6の成膜装置1に移動し、第2の電極58を成膜する。本実施形態では、第1の成膜装置1~第6の成膜装置1では真空蒸着によって各層の成膜を行う。しかし、本発明はこれに限定はされず、例えば第6の成膜装置1における第2の電極58の成膜はスパッタによって成膜するようにしてもよい。その後、第2の電極58までが形成された基板を封止装置に移動してプラズマCVDによって保護層60を成膜して(封止工程)、有機EL表示装置50が完成する。なお、ここでは保護層60をCVD法によって形成するものとしたが、これに限定はされず、ALD法やインクジェット法によって形成してもよい。
【0123】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0124】
1:成膜装置、10:蒸発源ユニット、11a~11r:蒸発源、100:基板、101:マスク
図1
図2
図3
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図5
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