(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】改変型アクチビンA
(51)【国際特許分類】
C12N 15/19 20060101AFI20240401BHJP
C07K 14/52 20060101ALI20240401BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240401BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240401BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240401BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240401BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240401BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20240401BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C12N15/19 ZNA
C07K14/52
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A01H5/00 A
C12P21/02 C
(21)【出願番号】P 2020556175
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2019044744
(87)【国際公開番号】W WO2020100993
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018214630
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512330433
【氏名又は名称】株式会社UniBio
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100181168
【氏名又は名称】丸山 智裕
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】高山 英士
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 理紗
(72)【発明者】
【氏名】竹本 浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕之
(72)【発明者】
【氏名】川端 潤
(72)【発明者】
【氏名】吉中 喬慈
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/099067(WO,A2)
【文献】WANG X. et al.,Structure and activation of pro-activin A,Nat. Commun.,2016年07月04日,Vol.7, No.12052,pp.1-11
【文献】FISCHER W.H. et al.,Residues in the C-terminal region of activin A determine specificity for follistatin and type II receptor binding,J. Endocrinol.,2003年01月,Vol.176, No.1,pp.61-68
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変されたプロ領域を含むアクチビンAであって、前記改変されたプロ領域のアミノ酸配列が、以下の(a)
又は(b)のアミノ酸配列を含むものである
、アクチビンA。
(a) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸配列が欠失したアミノ酸配列、
(b) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸配列が1~10個のアミノ酸からなるスペーサー配列で置換された、アミノ酸配
列
【請求項2】
前記(b)において、前記スペーサー配列を構成するアミノ酸が、グリシン、アラニン及びセリンから選択される少なくとも1種のアミノ酸である、請求項
1に記載のアクチビンA。
【請求項3】
プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有する、請求項
1又は2に記載のアクチビンA。
【請求項4】
前記プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼが、植物の内在性プロテアーゼである、請求項3に記載のアクチビンA。
【請求項5】
改変されたプロ領域を含むアクチビンAであって、前記改変されたプロ領域のアミノ酸配列が、以下の(e)~(g)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むものである
、アクチビンA。
(e) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列、
(f) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、かつ、当該アミノ酸配列を含むアクチビンAがプロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有するものである、アミノ酸配列、
(g) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して
95%以上の
同一性を有するアミノ酸配列であって、かつ、当該アミノ酸配列を含むアクチビンAがプロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有するものである、アミノ酸配列
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のアクチビンAを含む、組成物。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のアクチビンAをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項
7に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項9】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のアクチビンAを発現する形質転換体。
【請求項10】
形質転換体が植物である、請求項
9に記載の形質転換体。
【請求項11】
アクチビンAをアポプラストで発現する、請求項
10に記載の形質転換体。
【請求項12】
請求項
9~
11のいずれか一項に記載の形質転換体から発現されたアクチビンAを回収する工程を含む、アクチビンAの製造方法。
【請求項13】
以下の工程を含む、アクチビンAの製造方法。
(a) 請求項
9~
11のいずれか一項に記載の形質転換体から発現されたアクチビンAを回収する工程、及び
(b) 得られたアクチビンAをプロタンパク質転換酵素で処理する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変されたアミノ酸配列を含むアクチビンAに関する。
【背景技術】
【0002】
アクチビンAは、TGFβ(transforming growth factor-β)スーパーファミリーに属するサイトカインであり、赤血球分化因子や中胚葉誘導因子として発生・分化に関与し、また、様々な細胞において多様な機能を調節している生理学上並びに産業上有用なタンパク質である。
一方、タンパク質を製造する方法としては、当該タンパク質を植物において一過性発現することにより製造する方法が知られており(非特許文献1:Sainsbury et al., Curr. Opin. Plant Biol., 19, 1-7, 2014)、アポプラストにおいて目的タンパク質を発現させる方法も知られている(特許文献1:特表2005-501558)。
しかしながら、植物でタンパク質を発現させる場合、発現させた目的タンパク質が植物の内在性のプロテアーゼにより分解され、その収量が低下する問題が指摘されている(非特許文献2:Mandal MK. et al., Front Plant Sci., 7, 267, 2015)。特に、アポプラストには様々なスペクトル(範囲)の特異性を有するプロテアーゼが豊富に存在し(非特許文献3:Pillary P. et al., Bioengineered, 5: 1, 15-20, 2014)、また、目的タンパク質においてプロテアーゼが認識する部位はタンパク質の種類によって異なるため、これを予測することは困難である。これに対し、タンパク質局在化シグナルを用いて局在を変更したり、プロテアーゼ阻害剤を植物内で共発現させる方法が知られている(非特許文献2、非特許文献3)。
アクチビンAについては、その立体構造が複数報告されている(非特許文献4:Wang X. et al., Nat. Commun. 2016 Jul 4;7:12052)。プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼにより認識される部位の構造情報は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Sainsbury et al., Curr. Opin. Plant Biol., 19, 1-7, 2014
【文献】Mandal MK. et al., Front Plant Sci., 7, 267, 2015
【文献】Pillary P. et al., Bioengineered, 5: 1, 15-20, 2014
【文献】Wang X. et al., Nat. Commun. 2016 Jul 4;7: 12052
【文献】Koretz K. et al., Histochemistry, 86: 5, 471-8, 1987
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来知られていた方法によっても、アクチビンAについてはいまだにプロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼ(以下、本明細書において、単に「プロテアーゼ」と称する場合がある。)による分解の問題が解決されていない。したがって、前記プロテアーゼにより分解されにくい(前記プロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有する)新規アクチビンAが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、アクチビンAにおいて従来知られていなかったプロテアーゼの認識部位を見出した。そして、アクチビンAのプロ領域のアミノ酸配列を改変することにより、プロテアーゼにより分解されにくい改変型アクチビンAを作製することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
(1)プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有する、アクチビンA。
(2)前記プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼが、植物の内在性プロテアーゼである、上記(1)に記載のアクチビンA。
(3)改変されたプロ領域を含む、上記(1)又は(2)に記載のアクチビンA。
(4)前記改変されたプロ領域のアミノ酸配列が、配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の180番目から201番目までのアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むものである、上記(3)に記載のアクチビンA。
(5)改変されたプロ領域を含むアクチビンAであって、改変されたプロ領域のアミノ酸配列が、配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の180番目から201番目までのアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むものである、アクチビンA。
(6)前記改変されたプロ領域のアミノ酸配列が、以下の(a)~(d)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むものである、上記(5)に記載のアクチビンA。
(a) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸配列が欠失したアミノ酸配列、
(b) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸配列が1~10個のアミノ酸からなるスペーサー配列で置換された、アミノ酸配列、
(c) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸の少なくとも一つが他のアミノ酸で置換された、アミノ酸配列、
(d) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の180番目から201番目までのアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列
(7)前記(b)において、前記スペーサー配列を構成するアミノ酸が、グリシン、アラニン及びセリンから選択される少なくとも1種のアミノ酸である、上記(6)に記載のアクチビンA。
(8)前記(c)において、前記他のアミノ酸がアラニン、セリン、グリシン、バリン、ロイシン及びイソロイシンから選択されるものである、上記(6)に記載のアクチビンA。
(9)プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有する、上記(5)~(8)のいずれかに記載のアクチビンA。ここで、プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼとしては、植物の内在性プロテアーゼが挙げられる。
(10)前記改変されたプロ領域のアミノ酸配列が、以下の(e)~(g)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むものである、上記(5)に記載のアクチビンA。
(e) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列、
(f) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、かつ、当該アミノ酸配列を含むアクチビンAがプロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有するものである、アミノ酸配列、
(g) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、かつ、当該アミノ酸配列を含むアクチビンAがプロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有するものである、アミノ酸配列
(11)上記(1)~(10)のいずれかに記載のアクチビンAをコードするポリヌクレオチド。
(12)上記(11)に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
(13)上記(1)~(10)のいずれかに記載のアクチビンAを発現する形質転換体。
(14)形質転換体が植物である、上記(13)に記載の形質転換体。
(15)アクチビンAをアポプラストで発現する、上記(14)に記載の形質転換体。
(16)上記(13)~(15)のいずれかに記載の形質転換体から発現されたアクチビンAを回収する工程を含む、アクチビンAの製造方法。
(17)以下の工程を含む、アクチビンAの製造方法。
(a) 上記(13)~(15)のいずれかに記載の形質転換体から発現されたアクチビンAを回収する工程、及び
(b) 得られたアクチビンAをプロタンパク質転換酵素で処理する工程
【発明の効果】
【0008】
本発明の改変型アクチビンAを用いることにより、アクチビンAをプロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼ存在下(例えば植物体内)で製造する際に、改変されていない野生型アクチビンAと比較してアクチビンAの収量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ヒトアクチビンAの構造を示す模式図である。
【
図2】プロテアーゼによる改変型アクチビンAの分解が抑制されたことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。また、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる2018年11月15日に出願された日本国特許出願(特願2018-214630号)の明細書及び図面に記載の内容を包含する。
【0011】
1.概要
アクチビンAは、TGFβスーパーファミリーに属するサイトカインであり、赤血球分化因子や中胚葉誘導因子として発生・分化に関与し、また、様々な細胞において多様な機能を調節している生理学上並びに産業上有用なタンパク質である。
一方、目的タンパク質を製造する方法としては、当該タンパク質を植物において一過性発現することにより製造する方法が挙げられるが、植物でタンパク質を発現させる場合、発現させた目的タンパク質が、プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼ(例えば、植物の内在性のプロテアーゼ)により分解され、その収量が低下する問題が指摘されている。特に、アポプラストに内在性のプロテアーゼが豊富に存在することは、アポプラストにおいて目的タンパク質を発現させる上で大きな障害となる。さらに、目的タンパク質においてプロテアーゼが認識する部位はタンパク質の種類によって異なるため、これを予測することは困難である。
これに対し、従来技術では、タンパク質局在化シグナルを用いてタンパク質発現局在を変更したり、プロテアーゼ阻害剤を植物体内で共発現させる方法が用いられたが、アクチビンAについてはプロテアーゼによる分解の問題がいまだ解決されてない。
このような状況において、本発明者は、アクチビンAにおいて従来知られていなかったプロテアーゼの認識部位を見出し、アクチビンAのプロ領域(本明細書において「プロドメイン」ともいう)のアミノ酸配列を改変することにより、プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼにより分解されにくい(前記プロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有する)改変型アクチビンAを作製することに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、アクチビンAのプロ領域のアミノ酸配列を改変することにより、前記プロテアーゼにより分解されにくい改変型アクチビンAを提供するものである。本発明者は生理活性を有する成熟領域のアミノ酸配列を改変することなく、プロ領域のアミノ酸配列を改変することによりアクチビンAが前記プロテアーゼにより分解されにくくなることを見出した。
本発明の改変型アクチビンAは、アクチビンAをプロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼ存在下(例えば植物体内)で製造する際に、改変されていない野生型アクチビンAと比較してその収量を向上させることができる点において極めて有用なものである。
【0012】
2.アクチビンA及びその改変体
アクチビンAは、TGFβ(transforming growth factor-β)スーパーファミリーに属するサイトカインであり、赤血球分化因子や中胚葉誘導因子として発生・分化に関与し、また、様々な細胞において多様な機能を調節するタンパク質である。
本発明は、アクチビンAのプロ領域のアミノ酸配列を改変することにより、プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼにより分解されにくい(前記プロテアーゼの分解に対する抵抗性を有する)アクチビンAを提供するものであり、前記プロテアーゼ存在下でアクチビンAを製造する際に、改変されていない野生型アクチビンAと比較してアクチビンAの収量を向上させることができる。
【0013】
本発明において、「アクチビンA」とは、プロアクチビンAと成熟アクチビンAの両方又はいずれか一方を意味し、本発明において「アクチビンA」と称する場合、アクチビンAはプロアクチビンAと成熟アクチビンAとの混合物であってもよいし、いずれか一方のタンパク質であってもよい。プロアクチビンAは、成熟アクチビンAの前駆体であり、プロ領域、プロタンパク質変換酵素の認識領域及び成熟領域を含むタンパク質である(
図1)。
本発明において、プロアクチビンAのアミノ酸配列としては、例えば、配列番号1(ヒト)、配列番号2(マウス)又は配列番号3(ラット)に示されるものが挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明において、プロ領域のアミノ酸配列としては、限定されるものではなく、例えば、配列番号4(ヒト)、配列番号5(マウス)、又は配列番号6(ラット)に示されるものであり、プロタンパク質変換酵素の認識領域は配列番号7に示されるものであり、成熟領域(成熟アクチビンA)のアミノ酸配列は配列番号8に示されるものである。これらのアミノ酸配列や立体構造情報は、当業者であればGenBankやUniProt Protein Data Bank (PDB)など公知のデータベースから容易に入手することができる。例えば、ヒトプロアクチビンAのGenBankのアクセッション番号はNP_002183.1であり、PDBのアクセッション番号は5HLYである。
【0014】
成熟アクチビンAは、プロアクチビンAがプロタンパク質変換酵素(フーリン(Furin))により切断されることにより生じる、成熟領域を含むタンパク質である。成熟アクチビンAは、116アミノ酸残基のβA鎖がジスルフィド結合により結合したホモダイマーである。
【0015】
本発明において、アクチビンAが由来する動物の種類は限定されるものではなく、例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、サル及びウシなどが挙げられるが、好ましくはヒトである。アクチビンAの成熟領域のアミノ酸配列は、ヒト、マウス、ラット、ネコ、ブタ及びウシにおいて100%の相同性を有する。
【0016】
本発明は、プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有するアクチビンAを提供する。本発明において、「プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼ」は、アクチビンAを分解(例えば切断)する活性を有する限り、限定されない。本発明におけるプロテアーゼは、植物、非ヒト哺乳動物及びこれに由来する細胞、細菌、酵母、真菌等を宿主とした形質転換体に含まれる内在性プロテアーゼでも、前記形質転換体の外に存在するプロテアーゼでもよい。好ましくは、植物の内在性プロテアーゼ、または、植物外に存在するプロテアーゼであり、より好ましくは、植物の内在性プロテアーゼである。特に、植物体内(例えばアポプラスト)には様々なスペクトル(範囲)の特異性を有するプロテアーゼが豊富に存在するため(Pillary P. et al., Bioengineered, 5: 1, 15-20, 2014)、植物の内在性プロテアーゼは、アクチビンAを分解する活性を有する限り、限定されない。
一方、ある特定のプロテアーゼがアクチビンAを分解する活性を有するかどうかは、当業者であれば、SDS-PAGE、ウェスタンブロッティング法などの公知の方法を用いて評価することができる。
また、本発明において、「プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有する」とは、具体的には、プロアクチビンAを形質転換体内で発現させ、抽出し、必要に応じて精製して得られるタンパク質を解析した場合に、得られるタンパク質全体に対して通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは84%以上のプロアクチビンAが含まれていることをいうが、必ずしも100%のプロアクチビンAが含まれていなければならない(分解が100%抑制されなければならない)ことを意味しない。このプロアクチビンAの含有量又は含有率は、実施例に記載するようにウェスタンブロッティングで測定することができる。すなわち、改変型アクチビンAがプロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有するかどうかは、ウェスタンブロッティングを用いてタンパク質全体に対するプロアクチビンAの含有量又は含有率を測定することで評価することができる。
本発明において、「プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼ」は「プロテアーゼ(プロタンパク質転換酵素(Furin)を除く)」と表記してもよい。
【0017】
本発明は、改変されたプロ領域を含むアクチビンAである。改変されたプロ領域とは、プロ領域に存在するループ領域と予想される配列を改変したものであり、好ましくはプロ領域に存在するループ領域のうち、少なくとも一つのループ領域と予想される配列を削除したものである。ここで、ループ領域とは、ループ構造を有する部分であり、より具体的には、配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までをいう。
本発明において、改変されたプロ領域のアミノ酸配列は、配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の180番目から201番目までのアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むものである(本明細書において、「改変型アクチビンA」とも称する)。
【0018】
また、本発明は、改変されたプロ領域を含むアクチビンAであって、改変されたプロ領域のアミノ酸配列が、配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の180番目から201番目までのアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有するアクチビンAを提供する。
【0019】
改変されたプロ領域のアミノ酸配列としては、以下の(a)~(d)のアミノ酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(a) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸配列が欠失したアミノ酸配列、
(b) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸配列が1~10個のアミノ酸からなるスペーサー配列で置換された、アミノ酸配列、
(c) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸の少なくとも一つが他のアミノ酸で置換された、アミノ酸配列、
(d) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の180番目から201番目までのアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列
【0020】
また、改変されたプロ領域のアミノ酸配列としては、以下の(a)~(d)のアミノ酸配列であって、かつ、当該アミノ酸配列を含むアクチビンAがプロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有するものであるアミノ酸配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(a) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸配列が欠失したアミノ酸配列、
(b) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸配列が1~10個のアミノ酸からなるスペーサー配列で置換された、アミノ酸配列、
(c) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸の少なくとも一つが他のアミノ酸で置換された、アミノ酸配列、
(d) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の180番目から201番目までのアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列
【0021】
上記(a)のアミノ酸配列は、配列番号9(ヒト)、配列番号10(マウス)及び配列番号11(ラット)のいずれかに示されるものである。
上記(b)のアミノ酸配列において、「スペーサー配列」とは、1~10個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、構成するアミノ酸は、グリシン、アラニン及びセリンから選択される少なくとも一種である。すなわち、スペーサー配列は、例えばグリシンのみ、アラニンのみというように一種のみのアミノ酸で構成されるアミノ酸配列でもよいし、グリシンとアラニン、グリシンとアラニンとロイシンというように二種以上のアミノ酸から構成されるアミノ酸配列でもよい。スペーサー配列のアミノ酸の数は、1~10個であり、好ましくは1~5個、より好ましくは1~4個、更に好ましくは1~3個である。より具体的には、スペーサー配列として、例えば、-G-、-GG-、-GGG-、-GGGG-が挙げられる。なお、本発明において、スペーサーが1個のアミノ酸残基からなるときは、「スペーサー配列」を「スペーサー残基」と称してもよい。
当業者は、後述する分子可視化ソフトウェアを用いてスペーサー配列を構成するアミノ酸候補の種類及び数並びにアミノ酸配列候補を探索することができる。また、本発明においては、スペーサー配列の代わりに、PDBに登録された部分構造であり、その末端の相対座標がアクチビンAの挿入部位の座標と一致し、ペプチド結合が構成可能で、かつ挿入後の立体構造障害がなければ、それらの部分構造を挿入することも可能である。
【0022】
上記(b)のアミノ酸配列としては、例えば、スペーサー配列として1個のグリシンを含む配列番号12(ヒト)、配列番号13(マウス)及び配列番号14(ラット)のいずれかに示されるアミノ酸配列、スペーサー配列として2個のグリシンを含む配列番号15(ヒト)、配列番号16(マウス)及び配列番号17(ラット)のいずれかに示されるアミノ酸配列、スペーサー配列として3個のグリシンを含む配列番号18(ヒト)、配列番号19(マウス)及び配列番号20(ラット)のいずれかに示されるアミノ酸配列が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
上記(c)のアミノ酸配列において、「他のアミノ酸」は、アクチビンAにおいて立体障害を生じない限り、限定されるものではなく、例えば、アラニン、セリン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシンなどが挙げられる。
【0024】
上記(d)のアミノ酸配列において、挿入されるアミノ酸は、アクチビンAにおいて立体障害を生じない限り、限定されるものではなく、例えば、アラニン、セリン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシンなどが挙げられる。
【0025】
本発明において、改変されたプロ領域のアミノ酸配列としては、上記の配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列のほか、
(f) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/若しくは付加されたアミノ酸配列であって、かつ、当該アミノ酸配列を含むアクチビンAがプロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有するものである、アミノ酸配列、
(g) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、かつ、当該アミノ酸配列を含むアクチビンAがプロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有するものである、アミノ酸配列、を使用することができる。
【0026】
上記(f)のアミノ酸配列において、配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/若しくは付加されたアミノ酸配列としては、以下のアミノ酸配列が挙げられる。
(i) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列において1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
(ii) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列において1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、
(iii) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列において1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列、
(iv) 上記(i)~(iii) の組合せにより変異されたアミノ酸配列
【0027】
上記(g)のアミノ酸配列において、配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列としては、配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性を有するアミノ酸配列が挙げられる。
アミノ酸配列の相同性については、当業者であればFASTA、BLASTなどの公知のデータベースを用いて容易に調べることができる。
【0028】
本発明において、「プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性」とは、アクチビンAがプロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼにより分解されにくい性質を意味する。また、本発明において、「プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有する」とは、上記のとおり、具体的には、プロアクチビンAを形質転換体内で発現させ、抽出し、必要に応じて精製して得られるタンパク質を解析した場合に、得られるタンパク質全体に対して通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは84%以上のプロアクチビンAが含まれていることをいうが、必ずしも100%のプロアクチビンAが含まれていなければならない(分解が100%抑制されなければならない)ことを意味しない。改変型アクチビンAがプロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼによる分解に対する抵抗性を有するかどうかは、実施例に記載するように、ウェスタンブロッティングを用いてタンパク質全体に対するプロアクチビンAの含有量又は含有率を測定することで評価することができる。
【0029】
また、本発明は、改変されたプロ領域を含むアクチビンAであって、改変されたプロ領域のアミノ酸配列が、配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の180番目から201番目までのアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロタンパク質変換酵素により切断された場合に赤芽球への分化誘導活性を有する、アクチビンAを提供する。
【0030】
上記改変されたプロ領域のアミノ酸配列としては、以下の(a)~(g)のアミノ酸配列を含み、かつ、プロタンパク質変換酵素により切断された場合に赤芽球への分化誘導活性を有するアクチビンAが挙げられるが、これらに限定されない。
(a) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸配列が欠失したアミノ酸配列、
(b) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸配列が1~10個のアミノ酸からなるスペーサー配列で置換された、アミノ酸配列、
(c) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の182番目から199番目までのアミノ酸の少なくとも一つが他のアミノ酸で置換された、アミノ酸配列、
(d) 配列番号4~6のいずれかに示されるアミノ酸配列の180番目から201番目までのアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列
(e) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列、
(f) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/若しくは付加されたアミノ酸配列、
(g) 配列番号9~20のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
【0031】
本発明において、「プロタンパク質変換酵素により切断された場合に赤芽球への分化誘導活性を有する」とは、プロタンパク質変換酵素により切断することにより得られたアクチビンA(プロアクチビンAと成熟アクチビンAとの混合物又は成熟アクチビンA)が、任意の赤芽球系培養細胞(例えば、F5-5細胞、K562細胞など)を赤芽球へ分化誘導する活性を有することを意味する。
【0032】
赤芽球への分化誘導活性は、公知の方法、例えば、赤芽球系培養細胞の培養液に被験ポリペプチド(被験アクチビンA)を添加し、培養後の細胞をアミノエチルカルバゾール(AEC)等により染色して、分化率について被験アクチビンAのED50値を測定することにより評価することができる。
【0033】
本発明において、改変されたプロ領域を含むアクチビンAのアミノ酸配列としては、例えば、配列番号9~20に示されるアミノ酸配列をそれぞれ含むアクチビンAのアミノ酸配列(配列番号21~32に示されるアミノ酸配列)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
アクチビンAに改変(欠失、置換、付加又はこれらの組合せ)を加えた場合の立体構造の解析及びシミュレーションは、タンパク質の構造をPDBなどのデータを元に3D画像で表示する分子可視化ソフトウェアを用いて行うことができる。このようなソフトウェアとしては、Chimera、PyMOLなどが挙げられる。例えば、上記(a)のアミノ酸配列において、182番目から199番目までのアミノ酸配列が欠失した場合であって、スペーサー配列を挿入しない場合に立体障害が生じるかどうかをChimeraによるin silicoの解析によりシミュレーションすることができる。また、上記(b)のアミノ酸配列においては、上記ソフトウェアを用いてスペーサー配列を構成するアミノ酸の種類及びその数又はアミノ酸配列候補を探索することができる。同様に、上記(c)及び(d)のアミノ酸配列においても、182番目から199番目までのアミノ酸を他のアミノ酸で置換したり、他のアミノ酸を挿入した場合に立体障害等が生じるかどうかなどをシミュレーションすることができる。すなわち、当業者であれば、このような分子可視化ソフトウェアを用いることにより、アクチビンAにおいて欠失、置換及び/又は付加しても立体障害を生じないアミノ酸残基を適宜選択することができる。
【0035】
また、アミノ酸の化学的性質又は物理学的性質(極性/非極性、酸性/塩基性、親水性/疎水性、側鎖の大きさなど)は公知であり、当業者であれば、これらの性質に基づいて欠失、置換及び/又は付加するアミノ酸を適宜選択することができる。構造又は性質が類似するアミノ酸同士の置換は、ポリペプチドの生物活性を実質的に阻害する可能性が低いと予測される。
1)極性アミノ酸:リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、システイン
2)非極性アミノ酸:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、プロリン
3)酸性アミノ酸:アスパラギン酸、グルタミン酸
4)塩基性アミノ酸:リジン、アルギニン、ヒスチジン
5)中性アミノ酸:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、メチオニン、システイン、プロリン
6)脂肪族アミノ酸:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン
7)芳香族アミノ酸:フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン
8)ヒドロキシル基を有するアミノ酸:セリン、スレオニン
9)アミド基を有するアミノ酸:アスパラギン、グルタミン
10)含硫アミノ酸:メチオニン、システイン
11)疎水性アミノ酸:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、システイン、プロリン(但し、グリシン、チロシン、トリプトファン、システインは親水性アミノ酸に分類されることもある)
12)親水性アミノ酸:リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン
【0036】
3.ポリヌクレオチド、ベクター、形質転換体
(1)ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、本発明の改変型アクチビンAをコードするDNA又はRNAであればその塩基配列は限定されるものではない。当業者は、アクチビンAを発現する宿主の種類に応じてポリヌクレオチドのコドンを最適化することができる。この最適化により、宿主における改変アクチビンAの発現量を向上させることができる。本発明の改変型アクチビンAをコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号33~36のいずれかに示される塩基配列(いずれもヒトの塩基配列)を含むポリヌクレオチド若しくは該塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明のポリヌクレオチドとしては、配列番号33~36のいずれかに示される塩基配列を含む若しくは該塩基配列からなるポリヌクレオチドのほか、配列番号33~36のいずれかに示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼの分解に対する抵抗性を有するアクチビンAをコードするポリヌクレオチドを使用することができる。本発明において、「ストリンジェントな条件」とは、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual(4th edition)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012))等を参照することができる。
また、本発明のポリヌクレオチドとしては、配列番号33~36のいずれかに示される塩基配列と50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性を有し、かつ、プロタンパク質転換酵素(Furin)以外のプロテアーゼの分解に対する抵抗性を有するアクチビンAをコードするポリヌクレオチドを使用することができる。
【0038】
ポリヌクレオチドに変異を導入する方法は公知であり、例えば、当業者は、Kunkel法やGapped duplex法等の部位特異的突然変異誘発法、オーバーラップエクステンションPCR(overlap extension PCR)法、QuikChange法など、公知の方法を用いて当業者は本発明のポリヌクレオチドに変異を導入することができる。本発明のポリヌクレオチドに変異を導入することにより、アクチビンAのアミノ酸配列を改変することができる。
【0039】
本発明においては、アクチビンAをアフィニティー精製するために、アフィニティータグをアクチビンAに付加することができる。アフィニティータグとしては、例えばヒスチジンタグ(連続するヒスチジン残基からなるアミノ酸配列)、GSTタグ、FLAGタグ、c-mycタグなどを用いることができるが、これらに限定されない。ヒスチジンタグの付加方法は公知であり、当業者であれば公知の方法に基づいて容易にヒスチジンタグを本発明のアクチビンAのN末端に付加することができる。アクチビンAのN末端にヒスチジンタグを付加したアミノ酸配列の一例は配列番号37に示される。
本発明においては、アクチビンAにシグナル配列を付加することもできる。シグナル配列としては、KDELシグナル等が挙げられる。シグナル配列を付加する方法は公知であり、植物細胞内で発現させるために最適化した配列を用いることができる。
【0040】
(2)ベクター
本発明において、「ベクター」としては、上記(1)に記載した本発明のポリヌクレオチドを含むものであれば限定されるものではなく、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター、アグロバクテリウムなどを用いることができる。植物を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、植物ウイルスベクター、アグロバクテリウムなどを用いることができ、より具体的には、例えば、TMVベクター、PVXベクター、CPMVベクター、CMVベクター、PPVベクター、AIMVベクター、ZYMVベクター等を用いることができる。本発明において使用されるベクターは、一過性発現用のベクターでも恒常的発現用のベクターでもいずれでもよい。当業者であれば、ベクターを導入する宿主の種類及び目的に応じて、使用するベクターを適宜選択することができる。
本発明のベクターには、本発明のポリヌクレオチドのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。なお、選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。
【0041】
(3)形質転換体
本発明においては、上記(2)に記載したベクターを宿主に導入することにより、形質転換体を得ることできる。本発明において、「形質転換体」は非ヒト形質転換体である。本発明において、「宿主」とは本発明のベクターを導入する対象となる生物であって、目的の改変型アクチビンAを発現するものをいう。宿主としては、本発明の改変型アクチビンAを発現するものであれば限定されず、例えば、植物、非ヒト哺乳動物及びこれに由来する細胞、細菌、酵母、真菌等を用いることができるが、植物が好ましい。植物としては、例えばタバコ属植物、コケ植物(ヒメツリガネゴケ(P. patens)等)、ジャガイモ(S. tuberosum等)、イネ科植物(O. sativa等)、アブラナ科植物、レタスが挙げられるが、タバコ属植物が好ましい。タバコ属植物としては、例えば、ベンサミアナタバコ(N. benthamiana)、タバコ(N. tabacum)、ニコチアナ・エクセルシオ(N. excelsior)などが挙げられるが、これらに限定されない。非ヒト哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、サル及びウシ並びにこれらに由来する細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。細菌としては、例えば大腸菌が挙げられるが、これに限定されない。
宿主へのベクターの導入は、公知の方法を用いて行うことができる。公知の遺伝子導入方法としては、例えば、ウイルスベクターを用いた方法、アグロインフェクション法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE-デキストラン法、電気穿孔法、カチオン性脂質法等が挙げられるが、宿主が植物である場合は、植物ウイルスベクターを用いた方法、アグロインフェクション法が好ましい。これらの方法に用いることができるベクターは、上記(2)に「植物を宿主として用いる場合のベクター」として記載したとおりである。
【0042】
本発明において、宿主として植物を用いる場合は、形質転換の前に植物を栽培する。植物の栽培方法は下記の通りである。
まず、肥料を入れた育苗トレイに種子を播種し、播種後の植物を人工気象器にて光サイクルを調節して数日間生育させる。肥料として液体肥料を用いる場合は、水耕栽培用ウレタンマットに液体肥料を染み込ませて育苗トレイに収めることができる。
次に、育苗した植物体を栽培(前期)用パネルに移植し、移植後のパネルを人工気象器にセットし、例えば、湛液方式(deep flow technique、DFT方式)にて数日間栽培する。
その後、栽培(前期)用パネルから植物体を取り出し、栽培(後期)用パネルに定植する。移植後の栽培(後期)用パネルを人工気象器にセットし、DFT方式にて数日間栽培し、植物体を得る。
【0043】
上記の方法において、肥料としては液体肥料を用いることができるが、これらに限定されない。液体肥料を用いる場合は、水耕栽培用ウレタンマットに液体肥料を染み込ませて育苗トレイに収めることができる。
本発明において、液体肥料は市販のものを適宜組合せて使用することができ、限定されるものではない。液体肥料は、脱塩素水に溶解することができる。また、液体肥料は、電気伝導度及びpHを調整して用いることができ、当業者であれば公知の方法を用いてこれらを調整することができる。
本発明において、環境条件としては、例えば、温度が10~40℃(例えば28℃)、相対湿度が60~80%、CO2濃度が300~5000 ppm(例えば400 ppm、500 ppm)、栽培日数が栽培前期で0日~35日間(例えば9日間)、栽培後期で0日~35日間(例えば7日間)に設定することができるが、これらに限定されず、当業者であれば植物の生育状況等に応じてこれらの条件を適宜調整することができる。
本発明において、水耕栽培の方式としては、主に湛液方式(deep flow technique: DFT方式)と薄膜方式(Nutrient Film Technique: NFT方式)を用いることができる。
【0044】
上記の通り、宿主が植物である場合は、植物ウイルスベクターを用いた方法、アグロインフェクション法を用いることができる。これらの方法は当業者によく知られているが、例としてアグロインフェクション法を簡潔に説明すると下記の通りである。
まず、上記(2)に記載した本発明のベクターをアグロバクテリウムに電気穿孔法等により導入し、アグロバクテリウムを形質転換する。本発明に用いることができるアグロバクテリウムとしては、限定されるものではないが、例えば、GV3101株、LBA4404株、EHA101株、EHA105株、AGL1株等が挙げられる。
次に、形質転換したアグロバクテリウムを、植物の葉などに感染させる。アグロバクテリウムを植物に感染させる方法としては、例えば、真空浸潤(Vacuum Infiltration)法、シリンジインフィルトレーション法、リーフディスク法、葉面散布法などが挙げられる。真空浸潤法を用いる場合の手順としては、例えば、まず、栽培した植物を逆さにしてビーカー中のアグロバクテリウムの菌液に全ての葉が完全に液中に浸かるように浸漬させる。その後、当該ビーカーを真空デシケーターに入れ、数分間(例えば1分間)静置し、減圧する。その後、バルブを一気に開放して復圧を行う。復圧終了後、植物を正立に戻し、人工気象器に植える。感染後、人工気象器を用いて例えばDFT方式にて1~14日間(例えば6日)栽培する。環境条件は、上記と同様であり、当業者であれば植物の生育状況等に応じてこれらの条件を適宜調整することができる。
これにより、植物の形質転換体を作製することができる。アグロバクテリウムを植物に感染させる際には、別のベクターをそれぞれ含む複数種のアグロバクテリウムを同時に感染させてもよい。その際、本発明のベクター以外のベクターを含むアグロバクテリウムを組み合わせ用いてもよく、そのようなベクターとしては、例えば、大麦またはイネαアミラーゼのシグナルペプチドを含むベクター、PhiC31インテグラーゼ発現ベクターなどが挙げられる。
その他の宿主由来の形質転換体についても、当業者であれば、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual(4th edition)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012))等の公知の方法に基づいて容易に作製することができる。
【0045】
4.アクチビンAの製造方法
本発明においては、上記3.に記載した本発明の形質転換体からアクチビンAを回収することにより、アクチビンAを製造することができる。また、本発明の方法においては、回収したアクチビンA(プロアクチビンA)を精製し、精製したプロアクチビンAをプロタンパク質転換酵素(例えばフーリン(Furin))で処理することにより、プロ領域が除去された成熟領域のアクチビンA(成熟アクチビンA)を得ることができる。
【0046】
アクチビンAの製造方法に用いる形質転換体の種類は限定されるものではないが、例えば形質転換体が植物である場合のアクチビンAの製造方法は下記の通りである。
まず、アグロバクテリウムの感染後1~14日(例えば6日)栽培した形質転換した植物体の葉を採取し、抽出用緩衝液を用いてアクチビンA(プロアクチビンA)を抽出する。採取する植物体の葉の量は植物体の種類によって異なる。また、抽出を行うまでの間は-80℃で凍結保存することができる。抽出用緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液などが挙げられるが、これらに限定されない。pHは上記緩衝液が適切に作用する範囲を含め、通例pH2~11の間で調製される。
次に、抽出液中に含まれるアクチビンAの精製を行う。精製は、通常の方法、例えば水性二相分配、硫安分画、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等を単独または適宜組み合わせることによって行うことができる。
得られた精製物質が目的のタンパク質、すなわちアクチビンAであることの確認は、通常の方法、例えばSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、N末端アミノ酸配列分析、ウエスタンブロッティング、酵素免疫測定法(ELISA)、質量分析等により行うことができる。
これにより、精製されたアクチビンA(プロアクチビンA)を得ることができる。
【0047】
さらに、精製されたプロアクチビンAをプロタンパク質転換酵素(フーリン(Furin))で処理することにより、プロ領域が除去された成熟領域のアクチビンA(成熟アクチビンA)を得ることができる。また、実験には、プロ領域と成熟アクチビンAとの混合物を用いても良い。
得られた成熟アクチビンA(又はプロ領域と成熟アクチビンAとの混合物)の活性は、例えば、成熟アクチビンA を添加した培地でF5-5細胞株(Friend赤芽球系白血病細胞株)を培養した後、AEC(アミノエチルカルバゾール)染色し、分化率について成熟アクチビンAのED50値(分化率が50%となる成熟型アクチビンAの濃度を示す。)を測定することにより評価することができる。
【0048】
5.アクチビンAを含む組成物
本発明は、本発明の改変型アクチビンAを含む組成物を提供することができる。本発明の組成物は、改変型アクチビンAのほか、生理食塩水、緩衝液、賦形剤等の公知の添加物を含むことができる。
【0049】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
1.改変型アクチビンAの設計
本実施例においては、プロ領域の特定の配列を削除した配列を設計した。
植物により一過性発現させたプロアクチビンAを抽出後にウエスタンブロッティングに供したところ、複数の予期せぬ分解物が確認された。そこで、部位特異的変異導入配列を複数設計し、QuikChange(アジレント社)を用いて変異導入を行い、上記初期配列と同様に過剰発現後の発現タンパク質を評価したところ、複数の配列で分解が減少していることが確認された。この配列はプロドメインのループ領域と予想されるPro182-Gly199を除去した配列であった。PDB 5HLYを用いてH181及びE200の2面角を調節し、両残基をペプチド結合したところ、立体障害が生じないことがわかり、Mut3-1として設計した。また、上記H181とE200との間に適切なリンカー配列を導入し、発現スクリーニングを実施するために(Gly)n(n=1~4)を導入した配列を設計した。SuperLooper(http://bioinf-applied.charite.de/superlooper/description.php)によるとリンカー導入残基H181,E200の相対位置座標を有する上記リンカー(Gly)n(n=2,3)が、登録されているPDB構造情報から抽出されたため(GGを有する3DZM,2VK3,5AA5、GGGを有する4GNO)、Mut3-2: n=1、Mut3-3: n=2、Mut3-4: n=3として配列を設計した。
【実施例2】
【0051】
改変型アクチビンAの製造
実施例1で設計した改変型アクチビンAの情報に基づいて、以下の手法により改変型アクチビンAを製造した。
【0052】
1.ベクターの調製
N末端にヒスチジンタグ(HHHHHH)を付加したプロアクチビンA発現ベクターを以下の通り作製した。タバコモザイクウイルス(TMV)3'-プロベクター(pICH31070, NOMAD社)のBsa I siteに、N末端にヒスチジンタグを付加したプロアクチビンA遺伝子をGolden Gate Cloning法 (Engler et al., 2008)で挿入し、pN-His-ProActivinを作製した。
次に、改変型プロアクチビンA遺伝子発現 TMV 3'-プロベクターを以下の通り作製した。pN-His-ProActivinを鋳型にしてQuikChange Lightning Kit (アジレント社) を用いて、下記の変異導入プライマーでPCRを行いpMut3-1を作製した。
5'-CCAACAGCAGAAGCACGAGAGATCTGAGTTGC-3'(配列番号38)
5'-GCAACTCAGATCTCTCGTGCTTCTGCTGTTGG-3(配列番号39)
【0053】
2.形質転換体の作製
(1)宿主植物の栽培
本実施例では、宿主植物としてタバコ属植物であるベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)を用いた。
(1-1)播種
播種用液体肥料(大塚ハウスS1号(大塚アグリテクノ株式会社)0.78 g/L、大塚ハウス2号(大塚アグリテクノ株式会社)0.25 g/L、pH 5.0)を 水耕栽培用ウレタンマット(江松化成 W587.5 mm×D282 mm×H28 mm:12×2マス 穴径φ9 mm)にしみこませ、育苗トレー(W600 mm×D300 mm×H300 mm)に収め、ベンサミアナタバコ(Nictiana benthamiana)種子を播種した。
【0054】
(1-2)育苗
播種後の植物を人工気象器 (NC-410HC) (日本医化器械製作所)にて室温28℃、16時間昼/8時間夜の光サイクルにて12日間生育させた。
【0055】
(1-3)栽培(前期)
育苗に用いたウレタンマットを1マスずつ分離し、栽培(前期)用パネル(W600 mm×D300 mm 30穴)に移植した。移植後の栽培(前期)用パネルを人工気象器 (LH-410SP) (日本医化器械製作所) にセットし、湛液方式(deep flow technique, DFT方式)にて9日間栽培した。環境条件および液体肥料条件は以下のとおりに制御した。
《環境条件》
- 温度:28℃
- 相対湿度:40~60%
- CO2濃度:400 ppm
- 照明:平均光合成光量子束密度(PPFD):140 μmol/m2・秒、24 h連続照射、三波長蛍光灯「ルピカライン」(三菱電機株式会社)
《液体肥料条件》
液体肥料は、肥料A液(大塚ハウスS1号150 g/L、大塚ハウス5号(大塚アグリテクノ株式会社)2.5 g/L)、肥料B液(大塚ハウス2号100 g/L)をそれぞれ脱塩素水に溶解し、等量に混合して使用した。pH調整にはpH調整剤ダウン(大塚アグリテクノ株式会社)および4% KOH水溶液を用いた。液体肥料の電気伝導度(electrical conductivity, EC)およびpHは「らくらく肥料管理機3」(株式会社セムコーポレーション)を用いてEC: 2.3 mS/cm、pH 6.0になるように調整した。
【0056】
(1-4)栽培(後期)
栽培(前期)用パネルより植物体を取り出し、栽培(後期)用パネル(W600 mm×D300 mm 6穴)に定植した。移植後の栽培(後期)用パネルを人工気象器 (LH-410SP) (日本医化器械製作所) にセットし、DFT方式にて7日間(播種後28日間)栽培した。環境条件は以下のとおり制御した。
《環境条件》
- 温度:28℃
- 相対湿度:60~80%
- CO2濃度:500 ppm
- 照明:平均光合成光量子束密度(PPFD):140 μmol/m2・秒、24 h連続照射、三波長蛍光灯「ルピカライン」(三菱電機株式会社)
【0057】
(2)形質転換体の作製
(2-1)Vacuum Infiltration(真空浸潤法)による感染
上記「1.」で作製した本発明のベクターを、それぞれエレクトロポレーション法によりアグロバクテリウムGV3101株に導入し、イネαアミラーゼのシグナルペプチドを含む5'-プロベクター(pICH20155, NOMAD社) 、ならびにPhiC31インテグラーゼ発現ベクター(pICH14011, NOMAD社)をそれぞれ保有するGV3101株とともにアグロインフィルトレーション法でベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)に感染させた。
具体的には、上記「2.(1)」で得られた播種後28日目のベンサミアナタバコを逆さにしてビーカー中のアグロバクテリウム菌液に全ての葉が完全に液中に浸るように沈めた。
その後、該ビーカーを真空デシケーター (FV-3P) (東京硝子器械株式会社) に入れ-0.09 MPaに1分間静置し、減圧した。その後、バルブを一気に開放して復圧をおこなった。
復圧終了後、植物を正立に戻し、人工気象器 (LH-410SP) (日本医化器械製作所) に植えた。
(2-2)感染葉の栽培(発現工程)
感染後の栽培は人工気象器 (LH-410SP) (日本医化器械製作所) を用いて行った。DFT方式にて6日間栽培した。環境条件は以下のとおり制御した。
《環境条件》
- 温度:28℃
- 相対湿度:60~80%
- CO2濃度:500 ppm
- 照明:平均光合成光量子束密度(PPFD):140 μmol/m2・秒、24 h連続照射、三波長蛍光灯「ルピカライン」(三菱電機株式会社)
【0058】
3.改変型プロアクチビンAの製造
(1)抽出
形質転換したベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)から感染6日後のタバコ葉を収穫した。抽出を行うまで-80℃で凍結保管した。
抽出用緩衝液として、0.1 Mリン酸ナトリウム、0.5 M アルギニン、 5 mM亜硫酸ナトリウム、pH 8.0 (またはリン酸緩衝液)を用いた。
【0059】
(2)精製
(2-1)硫安分画による精製
上記の方法で回収した上清液に35%飽和硫安溶液となるように硫安を添加した。1時間室温にて撹拌した後、室温で15,000×g, 15分間遠心して35%硫安分画上清液を回収した。続いて60%飽和硫安となるように硫安を添加し、1時間室温にて撹拌した。その溶液を15,000×g, 15分間遠心して、60~90%硫安分画沈殿を回収した。
(2-2)アフィニティクロマトグラフィーによる精製
50 gのアクチビンA発現タバコ葉60%~90%硫安分画沈殿に対し、10 mLのヒスチジン(His)タグアフィニティ精製用平衡化溶液(20 mM HEPES, 150 mM NaCl, 10%(w/v) グリセロール, pH 8.0)を添加し、沈殿を溶解した。この溶液をHisタグアフィニティ精製用平衡化溶液で平衡化したHisTrap HP 1mLカラム(GEヘルスケア社)に滞留時間3分の速度で流し、その後Hisタグアフィニティ精製用洗浄溶液(20 mM HEPES, 150 mM NaCl, 20 mM イミダゾール, 10%(w/v) グリセロール, pH 8.0)でカラムを洗浄した。最後にHisタグアフィニティ精製用溶出溶液(20 mM HEPES, 150 mM NaCl, 200 mM イミダゾール, 10%(w/v) グリセロール, pH 8.0)を流し、溶出ピークを回収して改変型プロアクチビンAを得た。
【0060】
4.成熟アクチビンAの製造
上記方法で得られた改変型プロアクチビンA(Mut3-1~Mut3-4(それぞれ配列番号9、12、15及び18のアミノ酸配列を含む))に対し、25 mM Tris-HCl, pH 8.0, 10% Glycerol, 1 mM CaCl2条件下でプロタンパク質転換酵素(フーリン(Furin))を添加して成熟型アクチビンAを得た。
本実施例により、プロ領域のアミノ酸配列が改変されたアクチビンA(改変型プロアクチビンA及び成熟アクチビンA)を製造することができた。
【実施例3】
【0061】
1.
改変型プロアクチビンAの機能解析
実施例2の「3.改変型プロアクチビンAの製造」で得られた精製された改変型プロアクチビンAをウェスタンブロッティングを用いて解析することで、植物の内在性のプロテアーゼによる分解の挙動を確認した。具体的には、抗体としてPenta-His Antibody HRP Conjugate(QIAGEN社)を用いて、改変型アクチビンAを含む各サンプルのウェスタンブロッティングを行った。発光試薬としてLumiGLO Reagent and Peroxide(Cell Signaling Technology社)を用い、ImageQuant LAS 500(GEヘルスケア社)により検出した。得られたウェスタンブロッティング像を
図2に示す。対照として、野生型アクチビンA(図中N-His-Activin A)(配列番号37)を用いた。また、解析ソフトImageJを用いてデンシトメトリー解析を行った結果を表1に示す。表1において、他のポリペプチドは、発現タンパク質が植物の内在性プロテアーゼにより分解されることにより生じたペプチドである。
【表1】
すなわち、本発明の改変型アクチビンAは、改変されていないアクチビンA(野生型アクチビンAであるN-His-Activin A)と比較して、植物の内在性のプロテアーゼによる分解が顕著に抑制された(
図2)。
本実施例により、本発明の改変型アクチビンAがプロテアーゼに分解されにくい性質(プロテアーゼによる分解に対する抵抗性)を有するものであることが示された。また、本実施例により、本発明の改変型アクチビンAは、アクチビンAを発現宿主内、精製工程、利用する試薬・培地等に存在するプロテアーゼ存在下で製造する際に、改変されていないアクチビンAと比較してその発現量及び/または収量を向上させることができる点で極めて有用なものであることが示された。
【0062】
2.
成熟アクチビンAの活性評価
実施例2の「4.成熟アクチビンAの製造」で得られた成熟アクチビンAについて活性評価をおこなった。インキュベーター(37℃、5%CO
2)内で培養したF5-5細胞を96ウェルプレート内に播種し、非特許文献5(Koretz K. et al., Histochemistry, 86: 5, 471-8, 1987)に記載された方法に基づき、各成熟アクチビンAを添加後にインキュベーター内で培養した後の分化率をAEC(アミノエチルカルバゾール、東京化成)により染色して求めた。野生型アクチビンA(N-His-Activin A)由来の成熟アクチビンAおよび改変型アクチビンA(Mut3-1~Mut3-4)由来の成熟アクチビンAのED
50値を求めた結果を表2に示す。
【表2】
表2に示されるように、改変型アクチビンA由来の成熟アクチビンA(表2中「Mut3-1」~「Mut3-4」)のED
50値は、いずれも5 ng/mL未満であり、野生型アクチビンA由来の成熟アクチビンA(表2中「N-His-Activin A」)と同等であった。
この結果により、改変型アクチビンAをFurinで処理して得られた成熟アクチビンAは、F5-5細胞から赤芽球への分化誘導能を野生型アクチビンAと同等に有すること、すなわち成熟アクチビンAとしての活性を野生型アクチビンAと同等に有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の改変型アクチビンAを用いることにより、アクチビンAをプロテアーゼ存在下で製造する際にその収量を向上させることができる。
【配列表フリーテキスト】
【0064】
配列番号9~32及び37:合成ペプチド
配列番号33~36、38及び39:合成DNA
【配列表】