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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】シート状イオン交換体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 47/12 20170101AFI20240401BHJP
   D01F 9/08 20060101ALI20240401BHJP
   B01J 39/10 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
B01J47/12
D01F9/08 D
B01J39/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020079094
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021171734
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 知代
(72)【発明者】
【氏名】近藤 吉史
(72)【発明者】
【氏名】関野 徹
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-188798(JP,A)
【文献】特開平10-043609(JP,A)
【文献】特開2005-162584(JP,A)
【文献】特開2000-095520(JP,A)
【文献】米国特許第06616860(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 39/00-49/90
D01F 9/08-9/32
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバーを90質量%よりも多く含有するシート状イオン交換体であって、
平均厚さが、30nm以上500nm以下であり、
前記ナノファイバーは、下記一般式(1)で表されるチタン酸化合物から構成される、シート状イオン交換体。
Na2-XxTi25 (1)
(前記一般式(1)中、xは0.50以上1.50以下の数を表す。)
【請求項2】
前記ナノファイバーは、層状である、請求項1に記載のシート状イオン交換体。
【請求項3】
前記ナノファイバーの平均繊維径は、5.0nm以上70.0nm以下である、請求項1又は2に記載のシート状イオン交換体。
【請求項4】
前記ナノファイバーの平均繊維長は、50nm以上700nm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のシート状イオン交換体。
【請求項5】
シートの面積の平均が、5μm2以上500μm2以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のシート状イオン交換体。
【請求項6】
前記一般式(1)中、xは1.00以上1.50以下の数を表す、請求項1~5のいずれか一項に記載のシート状イオン交換体。
【請求項7】
ナノファイバーを90質量%よりも多く含有するシート状イオン交換体の製造方法であって、
チタン源、水酸化ナトリウム及び水を含む懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、
前記懸濁液を用いて水熱合成により前記ナノファイバーを形成するナノファイバー形成工程と、
前記ナノファイバーを水に分散させる分散工程と、
前記分散工程により得られた分散液を凍結乾燥させる凍結乾燥工程と
を備え、
前記ナノファイバーは、下記一般式(1)で表されるチタン酸化合物から構成される、シート状イオン交換体の製造方法。
Na2-XxTi25 (1)
(前記一般式(1)中、xは0.50以上1.50以下の数を表す。)
【請求項8】
前記懸濁液中の前記水酸化ナトリウムの濃度は、3.0モル/L以上10.0モル/L以下である、請求項7に記載のシート状イオン交換体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状イオン交換体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性ストロンチウムイオン等の金属イオンをイオン交換法により除去するためのイオン交換体が知られている。例えば、特許文献1には、粒状チタン酸化合物から構成されるイオン交換体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2000-502595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術だけでは、取り扱い性及び金属イオン交換能に優れるイオン交換体を得ることは困難である。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、取り扱い性及び金属イオン交換能に優れるシート状イオン交換体、並びに取り扱い性及び金属イオン交換能に優れるシート状イオン交換体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るシート状イオン交換体は、ナノファイバーを主成分とし、平均厚さが30nm以上500nm以下である。前記ナノファイバーは、下記一般式(1)で表されるチタン酸化合物から構成される。
Na2-XxTi25 (1)
【0007】
前記一般式(1)中、xは0.50以上1.50以下の数を表す。
【0008】
ある実施形態では、前記ナノファイバーは、層状である。
【0009】
ある実施形態では、前記ナノファイバーの平均繊維径は、5.0nm以上70.0nm以下である。
【0010】
ある実施形態では、前記ナノファイバーの平均繊維長は、50nm以上700nm以下である。
【0011】
ある実施形態に係るシート状イオン交換体は、平均面積が5μm2以上500μm2以下である。
【0012】
ある実施形態では、前記一般式(1)中のxは、1.00以上1.50以下の数を表す。
【0013】
本発明に係るシート状イオン交換体の製造方法は、ナノファイバーを主成分とするシート状イオン交換体の製造方法である。本発明に係るシート状イオン交換体の製造方法は、懸濁液調製工程と、ナノファイバー形成工程と、分散工程と、凍結乾燥工程とを備える。前記懸濁液調製工程では、チタン源、水酸化ナトリウム及び水を含む懸濁液を調製する。前記ナノファイバー形成工程では、前記懸濁液を用いて水熱合成により前記ナノファイバーを形成する。前記分散工程では、前記ナノファイバーを水に分散させる。前記凍結乾燥工程では、前記分散工程により得られた分散液を凍結乾燥させる。前記ナノファイバーは、下記一般式(1)で表されるチタン酸化合物から構成される。
Na2-XxTi25 (1)
【0014】
前記一般式(1)中、xは0.50以上1.50以下の数を表す。
【0015】
ある実施形態では、前記懸濁液中の前記水酸化ナトリウムの濃度は、3.0モル/L以上8.0モル/L以下である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、取り扱い性及び金属イオン交換能に優れるシート状イオン交換体及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係るシート状イオン交換体の一例を示す部分断面図である。
図2】実施例のイオン交換体及び比較例のイオン交換体のそれぞれのX線回折による分析結果を示すグラフである。
図3】(a)及び(b)は、実施例のイオン交換体の表面の一部を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図4】(a)及び(b)は、実施例のイオン交換体に含まれるナノファイバーの一部を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図5】(a)及び(b)は、実施例のイオン交換体に含まれるナノファイバーの一部を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合がある。
【0019】
まず、本明細書中で使用される用語について説明する。「ファイバー」とは、幅(繊維径)に対する長さ(繊維長)の比(長さ/幅)が10以上であるものを指す。「ナノファイバー」とは、繊維径が1nm以上100nm以下のファイバーを指す。材料の「主成分」は、何ら規定していなければ、質量基準で、その材料に最も多く含まれる成分を意味する。「シート状」とは、物体(例えば、イオン交換体)の大きさを示す3つの寸法(詳しくは、長さ、幅、及び厚さ)の内、最も小さい寸法を厚さとし、最も大きい寸法を長さとした場合、厚さに対する長さの比(長さ/厚さ)が10以上である平面形状を意味する。
【0020】
シート状イオン交換体の平均厚さ及び平均面積の測定方法、並びにナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長の測定方法は、いずれも後述する実施例と同じ方法又はそれに準ずる方法である。
【0021】
<第1実施形態:シート状イオン交換体>
以下、図1を参照して、第1実施形態に係るシート状イオン交換体を説明する。なお、参照する図1は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数、形状等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。
【0022】
図1は、第1実施形態に係るシート状イオン交換体の一例を示す部分断面図である。図1に示すシート状イオン交換体10は、複数本のナノファイバー11を主成分とする。シート状イオン交換体10の厚さTの平均値(平均厚さ)は、30nm以上500nm以下である。ナノファイバー11は、下記一般式(1)で表されるチタン酸化合物から構成される。下記一般式(1)中、xは0.50以上1.50以下の数を表す。
Na2-XxTi25 (1)
【0023】
以下、一般式(1)で表されるチタン酸化合物を「特定チタン酸化合物」と記載することがある。
【0024】
第1実施形態に係るシート状イオン交換体10は、上述の構成を備えることにより、取り扱い性及び金属イオン交換能に優れる。その理由は、以下のように推測される。
【0025】
シート状イオン交換体10は、平均厚さが500nm以下である。このため、シート状イオン交換体10では、金属イオンのイオン交換サイトが比較的多くなる。また、シート状イオン交換体10では、ナノファイバー11が特定チタン酸化合物から構成されるため、ナノファイバー11中において、ナトリウムイオンと金属イオンとのイオン交換を速やかに行うことができる。これらのことから、シート状イオン交換体10は、金属イオン交換能に優れる。
【0026】
また、シート状イオン交換体10は、平均厚さが30nm以上であるため、使用時において飛散しにくい。よって、シート状イオン交換体10は、取り扱い性に優れる。
【0027】
シート状イオン交換体10は、例えば、シート状イオン交換体10の粉体として得られる。また、シート状イオン交換体10は、ナノファイバー11以外の成分(例えば、結着樹脂等)を含んでいてもよい。但し、金属イオン交換能をより向上させるためには、シート状イオン交換体10は、ナノファイバー11以外の成分の含有率が、シート状イオン交換体10の全量に対して、10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。金属イオン交換能を更に向上させるためには、シート状イオン交換体10は、ナノファイバー11から構成されること(ナノファイバー11のみで構成された集合体であること)が好ましい。シート状イオン交換体10がナノファイバー11のみで構成された集合体である場合、ナノファイバー11同士は、例えばファンデルワールス力で付着している。なお、ナノファイバー11を構成する特定チタン酸化合物は、水和していてもよい。
【0028】
金属イオン交換能により優れるシート状イオン交換体10を得るためには、ナノファイバー11が層状である(層状ナノファイバーである)ことが好ましい。層状ナノファイバーは、層間においてナトリウムイオンと金属イオンとのイオン交換を行うことができる。このため、ナノファイバー11が層状ナノファイバーであるシート状イオン交換体10は、金属イオン交換能により優れる。
【0029】
取り扱い性により優れるシート状イオン交換体10を得るためには、シート状イオン交換体10の平均厚さは、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。また、金属イオン交換能により優れるシート状イオン交換体10を得るためには、シート状イオン交換体10の平均厚さは、300nm以下であることが好ましい。
【0030】
取り扱い性により優れるシート状イオン交換体10を得るためには、ナノファイバー11の平均繊維径は、5.0nm以上であることが好ましい。また、金属イオン交換能により優れるシート状イオン交換体10を得るためには、ナノファイバー11の平均繊維径は、70.0nm以下であることが好ましく、30.0nm以下であることがより好ましい。
【0031】
取り扱い性により優れるシート状イオン交換体10を得るためには、ナノファイバー11の平均繊維長は、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。また、金属イオン交換能により優れるシート状イオン交換体10を得るためには、ナノファイバー11の平均繊維長は、700nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。
【0032】
取り扱い性により優れるシート状イオン交換体10を得るためには、シート状イオン交換体10の平均面積は、5μm2以上であることが好ましく、50μm2以上であることがより好ましい。また、金属イオン交換能により優れるシート状イオン交換体10を得るためには、シート状イオン交換体10の平均面積は、500μm2以下であることが好ましく、300μm2以下であることがより好ましく、100μm2以下であることが更に好ましい。
【0033】
金属イオン交換能により優れるシート状イオン交換体10を得るためには、特定チタン酸化合物を表す一般式(1)中のxは、1.00以上1.50以下の数を表すことが好ましく、1.05以上1.30以下の数を表すことがより好ましい。
【0034】
取り扱い性及び金属イオン交換能に更に優れるシート状イオン交換体10を得るためには、シート状イオン交換体10の平均厚さが100nm以上300nm以下であり、かつ特定チタン酸化合物を表す一般式(1)中のxが1.05以上1.30以下の数を表すことが好ましい。
【0035】
<第2実施形態:シート状イオン交換体の製造方法>
次に、本発明の第2実施形態に係るシート状イオン交換体の製造方法について説明する。第2実施形態に係るシート状イオン交換体の製造方法は、例えば上述した第1実施形態に係るシート状イオン交換体10の好適な製造方法である。以下、上述した第1実施形態と重複する内容については、説明を省略する。
【0036】
第2実施形態に係るシート状イオン交換体の製造方法は、懸濁液調製工程と、ナノファイバー形成工程と、分散工程と、凍結乾燥工程とを備える。以下、第2実施形態に係る製造方法が備える各工程について説明する。
【0037】
[懸濁液調製工程]
懸濁液調製工程では、チタン源、水酸化ナトリウム及び水を含む懸濁液を調製する。懸濁液は、例えば、チタン源の水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、及び水(より具体的には、超純水等)をビーカーに入れた後、ビーカー内容物を1分以上3分以下の時間で攪拌することにより、調製できる。チタン源としては、例えば、硫酸チタン(IV)、チタン(IV)イソプロポキシド、及び酸化チタンが挙げられる。特定チタン酸化合物を表す一般式(1)中のxを0.50以上1.50以下の範囲に調整し、かつ層状のナノファイバーを得るためには、チタン源としては硫酸チタン(IV)が好ましい。
【0038】
特定チタン酸化合物を表す一般式(1)中のxを0.50以上1.50以下の範囲に調整し、かつ層状のナノファイバーを得るためには、懸濁液中の水酸化ナトリウムの濃度は、3.0モル/L以上8.0モル/L以下であることが好ましい。また、チタン源として硫酸チタン(IV)を使用する場合、特定チタン酸化合物を表す一般式(1)中のxを0.50以上1.50以下の範囲に調整し、かつ層状のナノファイバーを得るためには、懸濁液中の硫酸チタン(IV)の濃度は、1.0モル/L以上2.0モル/L以下であることが好ましい。
【0039】
[ナノファイバー形成工程]
ナノファイバー形成工程では、懸濁液調製工程で得られた懸濁液を用いて、水熱合成によりナノファイバーを形成する。例えば、フッ素樹脂製の容器(以下、第1容器と記載することがある)に上記懸濁液を入れた後、オートクレーブ内に上記懸濁液が入った第1容器を静置し、オートクレーブを用いて加熱温度150℃以上220℃以下、かつ加熱時間12時間以上72時間以下の条件で水熱合成することにより、特定チタン酸化合物から構成されるナノファイバーを形成する。オートクレーブを用いて水熱合成する際、オートクレーブ内の圧力の上限値は、例えば15MPa程度である。ナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長は、各々、例えば水熱合成の条件(より具体的には、加熱温度、加熱時間等)を変更することにより、調整できる。
【0040】
ナノファイバー形成工程後、以下で説明する分散工程の前に、水熱合成後の第1容器内容物を吸引ろ過により固液分離した後、得られた固形分を水(より具体的には、超純水等)で洗浄する工程を設けてもよい。
【0041】
[分散工程]
分散工程では、ナノファイバー形成工程で得られたナノファイバーを水に分散させる。例えば、フッ素樹脂製の有底円筒状容器(以下、第2容器と記載することがある)に、ナノファイバー形成工程で得られたナノファイバーと、水(より具体的には、超純水等)とを入れた後、1分以上10分以下の時間、ナノファイバーを水中で超音波分散させる。分散工程で得られた分散液中のナノファイバーの濃度は、例えば、6.0g/L以上10.0g/L以下である。
【0042】
[凍結乾燥工程]
凍結乾燥工程では、分散工程により得られた分散液を凍結乾燥させる。例えば、液体窒素で冷却したエタノール浴中で分散工程後の第2容器(ナノファイバーの分散液が入った第2容器)を冷却することにより、上記分散液を、凍結させた後、乾燥させる。分散液の乾燥時間は、例えば10時間以上100時間以下であり、好ましくは24時間以上100時間以下である。
【0043】
シート状イオン交換体の平均厚さを、30nm以上500nm以下の範囲に容易に調整するためには、分散工程後の第2容器を、液体窒素で冷却したエタノール浴に入れた後、第2容器の底面の中心を通る法線方向を中心軸として、5分以上30分以下の時間、第2容器を回転させながら冷却することが好ましい。第2容器を回転させながら冷却することにより、第2容器の内壁面上で分散液を凍結させることができるため、平均厚さ30nm以上500nm以下のシート状イオン交換体が得られやすくなる。シート状イオン交換体の平均厚さを、30nm以上500nm以下の範囲により容易に調整するためには、第2容器を回転させる際の回転速度は、10rpm以上100rpm以下であることが好ましい。また、シート状イオン交換体の平均厚さを、30nm以上500nm以下の範囲により容易に調整するためには、第2容器を回転させながら冷却した後、更に、第2容器の内容物を、10時間以上100時間以下の時間、減圧乾燥させることが好ましい。
【0044】
シート状イオン交換体の平均厚さ及び平均面積は、各々、例えば、懸濁液調製工程で得られる懸濁液中の水酸化ナトリウムの濃度、ナノファイバー形成工程における水熱合成の条件(より具体的には、加熱温度、加熱時間等)、及び凍結乾燥工程における第2容器の回転速度のうちの少なくとも1つを変更することにより、調整できる。
【0045】
以上説明した工程を経て、例えば上述した第1実施形態に係るシート状イオン交換体10が得られる。
【実施例
【0046】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例の範囲に何ら限定されるものではない。
【0047】
<サンプルの作製>
以下、サンプルA-1、A-2、B-1及びB-2の作製方法について、それぞれ説明する。
【0048】
[サンプルA-1の作製]
ビーカーに、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウムの濃度:5.0モル/L)40.00mLと、超純水9.17mLと、硫酸チタン(IV)の水溶液(硫酸チタン(IV)の含有率:30質量%)6.87mLとを、この順で入れた後、ビーカー内容物を2分間攪拌することにより、懸濁液を調製した(懸濁液調製工程)。懸濁液中の水酸化ナトリウムの濃度は、3.6モル/Lであった。また、懸濁液中の硫酸チタン(IV)の濃度は、1.7モル/Lであった。
【0049】
次いで、容量100mLのフッ素樹脂製の容器(第1容器)に上記懸濁液を入れた後、オートクレーブ(三愛科学株式会社製「HU-100」)内に上記懸濁液が入った第1容器を静置し、上記オートクレーブを用いて加熱温度200℃、かつ加熱時間48時間の条件で水熱合成することにより、ナノファイバーを形成した(ナノファイバー形成工程)。
【0050】
次いで、水熱合成後の第1容器内容物を吸引ろ過により固液分離した後、得られた固形分を超純水で洗浄した。
【0051】
次いで、容量500mLのフッ素樹脂製の有底円筒状容器(第2容器)に、洗浄した固形分(ナノファイバー)と、超純水100mLとを入れた後、5分間、固形分(ナノファイバー)を水中で超音波分散させた(分散工程)。分散工程で得られた分散液中のナノファイバーの濃度は、7.5g/Lであった。
【0052】
次いで、液体窒素で冷却したエタノール浴中で分散工程後の第2容器(ナノファイバーの分散液が入った第2容器)を冷却することにより、上記分散液を、凍結させた後、乾燥させた(凍結乾燥工程)。詳しくは、まず、分散工程後の第2容器を、液体窒素で冷却したエタノール浴に入れた後、第2容器の底面の中心を通る法線方向を中心軸として、8分間、第2容器を手動で回転させながら冷却した。第2容器を回転させる際の回転速度は30rpmであった。次いで、第2容器の内容物を、48時間、減圧乾燥させた。この凍結乾燥工程により、第2容器の内壁面上で分散液を凍結乾燥させ、サンプルA-1を得た。
【0053】
[サンプルA-2の作製]
懸濁液調製工程において、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウムの濃度:5.0モル/L)40.00mLの代わりに、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウムの濃度:10.0モル/L)40.00mLを使用したこと以外は、サンプルA-1の作製と同じ方法で、サンプルA-2を得た。
【0054】
[サンプルB-1の作製]
懸濁液調製工程において、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウムの濃度:5.0モル/L)40.00mLの代わりに、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウムの濃度:1.0モル/L)40.00mLを使用したこと以外は、サンプルA-1の作製と同じ方法で、サンプルB-1を得た。
【0055】
[サンプルB-2の作製]
懸濁液調製工程において、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウムの濃度:5.0モル/L)40.00mLの代わりに、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウムの濃度:15.0モル/L)40.00mLを使用したこと以外は、サンプルA-1の作製と同じ方法で、サンプルB-2を得た。
【0056】
<分析及び評価>
[X線回折による分析]
サンプルA-1、A-2、B-1及びB-2について、それぞれX線回折測定装置(ブルカージャパン株式会社製「D8 ADVANCE」)を用いてX線回折を測定した。測定したそれぞれの回折パターンを図2のグラフに示す。図2中、回折パターンP1、回折パターンP2、回折パターンP3及び回折パターンP4は、それぞれサンプルB-1、サンプルA-1、サンプルA-2及びサンプルB-2の回折パターンを示す。
【0057】
図2に示す回折パターンP2及びP3から、サンプルA-1及びA-2を構成するチタン酸化合物の組成が、いずれもZ2Ti25(Z:Na及び/又はH)であることが確認された。また、図2に示す回折パターンP4から、サンプルB-2を構成するチタン酸化合物の組成が、Z2Ti37(Z:Na及び/又はH)であることが確認された。また、図2に示す回折パターンP1から、サンプルB-1の主成分がTiO2であることが確認された。
【0058】
[組成分析]
サンプルA-1及びA-2のそれぞれについて、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(株式会社パーキンエルマージャパン製「Optima 8300」)による分析、及び上述した[X線回折による分析]により、組成を決定した。詳しくは、まず、サンプルA-1及びA-2のそれぞれについて、上記高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置を用いてTi及びNaを定量した。そして、得られたTi及びNaの測定値、並びにX線回折測定により確認されたTiとO(酸素)との比率から、サンプルA-1及びA-2のそれぞれの組成を決定した。
【0059】
[走査型電子顕微鏡(SEM)による分析]
サンプルA-1及びA-2を、それぞれ走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製「SU9000」)を用いて観察した。図3(a)及び図3(b)は、それぞれサンプルA-1の表面の一部及びサンプルA-2の表面の一部を示す走査型電子顕微鏡写真である。また、図4(a)及び図4(b)は、それぞれサンプルA-1に含まれるナノファイバーの一部及びサンプルA-2に含まれるナノファイバーの一部を示す走査型電子顕微鏡写真である。図3(a)及び図3(b)に示すように、サンプルA-1及びA-2は、いずれもシート状のイオン交換体(詳しくは、シート状イオン交換体10の粉体)であった。また、図4(a)及び図4(b)に示すように、サンプルA-1及びA-2は、いずれもナノファイバー11のみで構成されたイオン交換体(詳しくは、イオン交換体の粉体)であった。
【0060】
なお、図示はしないが、サンプルB-1及びB-2についても走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製「SU9000」)を用いて観察した。その結果、サンプルB-1が、ファイバーから構成されておらず、粒子から構成されていることが確認された。また、サンプルB-2が、シート状ではなく、各々独立したナノファイバーの集合体であることが確認された。
【0061】
[透過型電子顕微鏡(TEM)による分析]
サンプルA-1及びA-2を、それぞれ透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEOL-2100」)を用いて観察した。図5(a)及び図5(b)は、それぞれサンプルA-1に含まれるナノファイバーの一部及びサンプルA-2に含まれるナノファイバーの一部を示す透過型電子顕微鏡写真である。図5(a)及び図5(b)に示すように、サンプルA-1及びA-2に含まれるナノファイバーは、いずれも層状のナノファイバー11であった。
【0062】
[平均厚さの測定]
サンプルA-1及びA-2のそれぞれの平均厚さを、原子間力顕微鏡(株式会社キーエンス製「VN-8010」)を用いて、測定角度0°、測定モードDFM-H、走査速度0.9秒の条件で測定した。詳しくは、上記原子間力顕微鏡を用いて、測定対象(サンプルA-1及びA-2のいずれか)を観察し、10個のイオン交換体を無作為に選択した。そして、選択した10個のイオン交換体について、上記条件で、それぞれ中央部の厚さを測定し、得られた10個の測定値の算術平均値を、測定対象の平均厚さとした。
【0063】
[平均面積の測定]
サンプルA-1及びA-2のそれぞれの平均面積を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製「SU9000」)を用いて測定した。詳しくは、上記走査型電子顕微鏡を用いて、測定対象(サンプルA-1及びA-2のいずれか)を観察し、10個のイオン交換体を無作為に選択した。そして、選択した10個のイオン交換体について、それぞれ倍率1300倍の条件で得られたSEM像から面積を測定した。得られた10個の測定値の算術平均値を、測定対象の平均面積とした。
【0064】
[平均繊維径の測定]
サンプルA-1及びA-2のそれぞれに含まれるナノファイバーの平均繊維径を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製「SU9000」)を用いて測定した。詳しくは、上記走査型電子顕微鏡を用いて、測定対象(サンプルA-1及びA-2のいずれか)を観察し、1個のイオン交換体を無作為に選択した。次いで、選択した1個のイオン交換体を構成するナノファイバーから無作為に50本選択した。そして、選択した50本のナノファイバーについて、それぞれ倍率30万倍の条件で得られたSEM像から繊維径(詳しくは、繊維の長さ方向の中央部の幅)を測定した。得られた50個の測定値の算術平均値を、測定対象の平均繊維径とした。
【0065】
[平均繊維長の測定]
サンプルA-1及びA-2のそれぞれに含まれるナノファイバーの平均繊維長を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製「SU9000」)を用いて測定した。詳しくは、上記走査型電子顕微鏡を用いて、測定対象(サンプルA-1及びA-2のいずれか)を観察し、1個のイオン交換体を無作為に選択した。次いで、選択した1個のイオン交換体を構成するナノファイバーから無作為に30本選択した。そして、選択した30本のナノファイバーについて、それぞれ倍率10万倍の条件で得られたSEM像から繊維長を測定した。得られた30個の測定値の算術平均値を、測定対象の平均繊維長とした。
【0066】
サンプルA-1及びA-2のそれぞれについて、組成、平均厚さ、平均面積、平均繊維径及び平均繊維長を、表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
[金属イオン交換能の評価]
まず、サンプルA-1、A-2、B-1及びB-2の金属イオン交換能を評価するための溶液として、濃度0.4ミリモル/Lの塩化ストロンチウム水溶液(以下、評価用溶液1と記載する)を準備した。
【0069】
次いで、容量50mLの遠沈管に、20mLの評価用溶液1と、10mgの評価対象(サンプルA-1、A-2、B-1及びB-2のいずれか)とを入れた後、温度25℃の雰囲気下、評価用溶液1と評価対象とが入った遠沈管を24時間振盪させた。
【0070】
次いで、振盪後の遠沈管内容物を固液分離し、得られた溶液を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(株式会社パーキンエルマージャパン製「Optima 8300」)により分析し、溶液中に残存したストロンチウムイオンの濃度(以下、残存濃度と記載する)を求めた。そして、遠沈管に入れる前の評価用溶液1中のストロンチウムイオンの濃度(以下、初期濃度と記載する)と、残存濃度とから、ストロンチウムイオンの除去率(単位:%)を、式「ストロンチウムイオンの除去率=100×(初期濃度-残存濃度)/初期濃度」に従って計算した。ストロンチウムイオンの除去率が高いほど、金属イオン交換能に優れていると評価した。以下、ここで測定されたストロンチウムイオンの除去率を、除去率1と記載する。
【0071】
また、別途、濃度1.0ミリモル/Lの塩化ストロンチウム水溶液(以下、評価用溶液2と記載する)と、濃度2.0ミリモル/Lの塩化ストロンチウム水溶液(以下、評価用溶液3と記載する)と、濃度4.0ミリモル/Lの塩化ストロンチウム水溶液(以下、評価用溶液4と記載する)とを準備した。そして、評価用溶液1を、評価用溶液2~4にそれぞれ変更したこと以外は、上述の評価用溶液1を用いた評価方法と同じ方法で、評価用溶液2~4のそれぞれを用いた場合のストロンチウムイオンの除去率(単位:%)を求めた。以下、評価用溶液2~4を用いた場合のストロンチウムイオンの除去率を、それぞれ除去率2~4と記載する。
【0072】
サンプルA-1、A-2、B-1及びB-2のそれぞれについて、除去率1~4を、表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
サンプルA-1及びA-2は、いずれも平均厚さ30nm以上500nm以下のシート状イオン交換体の粉体であった。サンプルA-1及びA-2のそれぞれに含まれるナノファイバーは、いずれも特定チタン酸化合物から構成されていた。
【0075】
一方、サンプルB-1は、ファイバーから構成されておらず、粒子から構成されていた。また、サンプルB-2は、シート状ではなく、各々独立したナノファイバーの集合体であった。
【0076】
表2に示すように、除去率1~4のいずれについても、サンプルA-1及びA-2は、サンプルB-1及びB-2に比べ、高い値を示した。なお、サンプルB-1は、ほとんど金属イオン交換能を有していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係るシート状イオン交換体は、例えば、金属イオンをイオン交換法により除去するための材料として利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 :シート状イオン交換体
11 :ナノファイバー
図1
図2
図3
図4
図5