(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】消臭用エアロゲル材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/28 20060101AFI20240401BHJP
B01J 20/24 20060101ALI20240401BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240401BHJP
B01J 20/32 20060101ALI20240401BHJP
A61L 9/014 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C08J9/28 102
C08J9/28 CEP
B01J20/24 A
B01J20/28 A
B01J20/32 Z
A61L9/014
(21)【出願番号】P 2020555640
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2019043934
(87)【国際公開番号】W WO2020100752
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2018212433
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「森林資源を有効活用した革新的新素材の創成と応用の開拓(「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業)、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】坂田 一郎
(72)【発明者】
【氏名】古月 文志
(72)【発明者】
【氏名】アダヴァン・キリヤンキル・ビピン
(72)【発明者】
【氏名】植木 貴之
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106311155(CN,A)
【文献】特許第4998981(JP,B2)
【文献】特開2010-043144(JP,A)
【文献】特表2010-526158(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106422997(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28
9/00- 9/42
C08B 1/00-37/18
B01J20/00-20/28
A61L 9/00- 9/22
D01F 1/00- 6/96
9/00- 9/04
B82Y 5/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーと遷移金属イオンとの複合体が三次元ネットワーク構造を形成しているエアロゲル材料の製造方法であって、
(a)セルロースナノファイバーの懸濁液に、遷移金属イオンを含有する溶液を添加し、混合溶液を得る工程、
(b)前記混合溶液を撹拌して、セルロースナノファイバーと遷移金属イオンの複合体を得る工程、
(c)工程(b)で得られた複合体から遊離状態の遷移金属イオンを除去する工程、及び
(d)工程(c)で得られた複合体を凍結乾燥して、エアロゲル構造体を得る工程
を含
み、
工程(c)が、前記遷移金属イオンを除去した後に、カーボンナノ材料の分散液を添加して前記複合体と混合する工程をさらに含む、
当該製造方法。
【請求項2】
N-オキシル化合物を触媒として植物繊維を酸化することにより、工程(a)で用いられる前記セルロースナノファイバーを得る工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーが、カルボキシル基又はカルボキシレート基を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバー中におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量が0.1~5.0mmol/gである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記複合体が、キレート結合を介して遷移金属イオンがセルロースナノファイバーと結合することで錯体を形成した構造を有する、請求項1~4のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(c)が、遠心分離及び/又は脱イオン水による洗浄により、遊離状態の遷移金属イオンを除去することを含む、請求項1~5のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項7】
工程(d)が、3~10重量%の複合体を含有する溶液を調整し、当該溶液の希釈液を凍結乾燥することを含む、請求項1~
6のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記遷移金属イオンが、銅、コバルト、ニッケル、バナジウム、チタン、クロム(III)、マンガン、亜鉛、及び鉄よりなる群から選択される1種以上の2価の金属イオンである、請求項1~
7のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項9】
セルロースナノファイバーと遷移金属イオンとの複合体が三次元ネットワーク構造を形成しているエアロゲル材料であって、
前記エアロゲル材料が、カーボンナノ材料をさらに含み、
前記複合体が、キレート結合を介して遷移金属イオンがセルロースナノファイバーと結合することで錯体を形成した構造を有しており、
前記エアロゲル材料の密度が5~15mg/cm
3の範囲であり、
前記エアロゲル材料中の遷移金属の含有量が、セルロースナノファイバーに対して0.1~200モル%である、
ことを特徴とするエアロゲル材料。
【請求項10】
前記セルロースナノファイバーが、カルボキシル基又はカルボキシレート基を有する、
請求項9に記載のエアロゲル材料。
【請求項11】
前記セルロースナノファイバー中におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量が0.1~5.0mmol/gである、
請求項10に記載のエアロゲル材料。
【請求項12】
直径3~5nmの直線状の形状を有する、
請求項9~11のいずれか1に記載のエアロゲル材料。
【請求項13】
前記遷移金属イオンが、銅、コバルト、ニッケル、バナジウム、チタン、クロム(III)、マンガン、亜鉛、及び鉄よりなる群から選択される1種以上の2価の金属イオンである、
請求項9~12のいずれか1に記載のエアロゲル材料。
【請求項14】
臭気性物質を吸着するための消臭用吸着体である、
請求項9~13のいずれか1に記載のエアロゲル材料。
【請求項15】
前記臭気性物質が、アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素、メチルメルカプタン、ホルムアルデヒド、及びキシレンより成る群から選択される1以上の化合物である、
請求項14に記載のエアロゲル材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーと遷移金属イオンとの複合体により構成され、臭気物質の消臭に好適な新規エアロゲル材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の石油由来の高分子材料に代替として、近年、環境面から再生可能資源であるバイオマス材料の実用化が重要な課題となっており、例えば、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロースから得られるセルロースナノファイバーが注目されている。
【0003】
ナノサイズの繊維径をもったセルロースナノファイバーは、植物繊維由来であることから生産・廃棄に関する環境負荷が小さいことに加え、強度、弾性、熱安定性、水系分散性等の優れた特定を有する。そのため、フィルター部材、樹脂及びゴムの配合用充填剤等の工業上の用途、或いは、化粧品や食品の配合剤の用途など様々な分野における利用が期待されている。
【0004】
セルロースナノファイバーは、典型的には、木材繊維(パルプ)を微細化することによって得ることができる。例えば、TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)を用いて天然セルロース繊維を化学変性(酸化)し、これによりパルプが解繊しやすく均一な幅を有するセルロースナノファイバーを得る製造方法が知られている(非特許文献1等)。
【0005】
また、かかる製造方法によって得られたセルロースナノファイバーに金属粒子を担持させた複合体が、悪臭成分等の化合物を吸着する性質を有することが報告されている(非特許文献2)。しかしながら、従来のセルロースナノファイバー/金属の複合体では、化合物を吸着する官能基(吸着サイト)が少なく及び吸着体のトータル有効比表面積が小さいため、吸着速度が遅く、吸着容量も十分ではないなどの吸着体の構造に由来する本質的な問題点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Isogaiら、Nanoscale, 3, 71-85、2011年
【文献】Kogaら、Chem. Commun. , 46,8567-8569, 2010年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、臭気性物質を吸着する吸着サイトを豊富に含み吸着効率に優れた、セルロースナノファイバー由来の新規吸着用材料、及びその製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、酸化セルロースナノファイバーを過剰量の遷移金属イオンと接触させ、キレート結合を介したセルロースナノファイバー/遷移金属の複合体を形成させ、これ所定条件下で凍結乾燥させることにより、非表面積が大きく超低密度スポンジ状の三次元構造を有するエアロゲル材料を効率的に合成できることを見出した。併せて、かかるエアロゲル材料は、臭気性物質等の化合物を吸着するための吸着サイトを豊富に有しており、優れた吸着速度及び吸着容量を有することを見出した。さらに、セルロースナノファイバー/遷移金属の複合体に加えて、カーボンナノ材料を含むエアロゲル材料とすることで、吸着特性が著しく向上することも見出した。これらの知見に基づき、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、一態様において、
<1>セルロースナノファイバーと遷移金属イオンとの複合体が三次元ネットワーク構造を形成しているエアロゲル材料の製造方法であって、(a)セルロースナノファイバーの懸濁液に、遷移金属イオンを含有する溶液を添加し、混合溶液を得る工程、(b)前記混合溶液を撹拌して、セルロースナノファイバーと遷移金属イオンの複合体を得る工程、(c)工程(b)で得られた複合体から遊離状態の遷移金属イオンを除去する工程、及び(d)工程(c)で得られた複合体を凍結乾燥して、エアロゲル構造体を得る工程を含む、当該製造方法;
<2>N-オキシル化合物を触媒として植物繊維を酸化することにより、工程(a)で用いられる前記セルロースナノファイバーを得る工程をさらに含む、上記<1>に記載の製造方法;
<3>前記セルロースナノファイバーが、カルボキシル基又はカルボキシレート基を有する、上記<1>又は<2>に記載の製造方法;
<4>前記セルロースナノファイバー中におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量が0.1~5.0mmol/gである、上記<3>に記載の製造方法;
<5>前記複合体が、キレート結合を介して遷移金属イオンがセルロースナノファイバーと結合することで錯体を形成した構造を有する、上記<1>~<4>のいずれか1に記載の製造方法;
<6>工程(c)が、遠心分離及び/又は脱イオン水による洗浄により、遊離状態の遷移金属イオンを除去することを含む、上記<1>~<5>のいずれか1に記載の製造方法;
<7>工程(c)が、工程(b)で得られた複合体から遊離状態の遷移金属イオンを除去した後に、カーボンナノ材料の分散液を添加して複合体と混合する工程をさらに含む、上記<1>~<6>のいずれか1に記載の製造方法;
<8>工程(d)が、3~10重量%の複合体を含有する溶液を調整し、当該溶液の希釈液を凍結乾燥することを含む、上記<1>~<7>のいずれか1に記載の製造方法;及び
<9>前記遷移金属イオンが、銅、コバルト、ニッケル、バナジウム、チタン、クロム(III)、マンガン、亜鉛、及び鉄よりなる群から選択される1種以上の2価の金属イオンである、上記<1>~<8>のいずれか1に記載の製造方法;
を提供するものである。
【0010】
また、別の態様において、本発明は、上記製造方法によって得られるエアロゲル材料及びそれを用いる消臭方法にも関し
<10>セルロースナノファイバーと遷移金属イオンとの複合体が三次元ネットワーク構造を形成しているエアロゲル材料であって、前記複合体が、キレート結合を介して遷移金属イオンがセルロースナノファイバーと結合することで錯体を形成した構造を有しており、前記エアロゲル材料の密度が5~15mg/cm3の範囲であり、前記エアロゲル材料中の遷移金属の含有量が、セルロースナノファイバーに対して0.1~200モル%である、ことを特徴とするエアロゲル材料;
<11>カーボンナノ材料をさらに含む、上記<10>に記載のエアロゲル材料;
<12>前記セルロースナノファイバーが、カルボキシル基又はカルボキシレート基を有する、上記<10>又は<11>に記載のエアロゲル材料;
<13>前記セルロースナノファイバー中におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量が0.1~5.0mmol/gである、上記<12>に記載のエアロゲル材料;
<14>直径3~5nmの直線状の形状を有する、上記<10>~<13>のいずれか1に記載のエアロゲル材料;
<15>前記遷移金属イオンが、銅、コバルト、ニッケル、バナジウム、チタン、クロム(III)、マンガン、亜鉛、及び鉄よりなる群から選択される1種以上の2価の金属イオンである、上記<10>~<14>のいずれか1に記載のエアロゲル材料;
<16>臭気性物質を吸着するための消臭用吸着体である、上記<10>~<15>のいずれか1に記載のエアロゲル材料;及び
<17>前記臭気性物質が、アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素、メチルメルカプタン、ホルムアルデヒド、及びキシレンより成る群から選択される1以上の化合物である、上記<16>に記載のエアロゲル材料;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、セルロースナノファイバーと遷移金属イオンとの複合体により構成され、非表面積が大きく超低密度スポンジ状の三次元構造を有する新規エアロゲル材料を効率的に製造することができる。
【0012】
本発明のエアロゲル材料は、吸着サイトを豊富に有しており、優れた吸着速度及び吸着容量で臭気性物質等の化合物を吸着及び固定化でき、併せて、吸着した臭気性物質等を分解して吸着サイトを自己回復することができる。これにより、臭気性物質等の濃度が検出限界以下のレベルまで消臭する効果を奏するため、消臭用吸着体として好適である。さらに、さらに、当該エアロゲル材料中に、セルロースナノファイバー/遷移金属の複合体に加えて、カーボンナノ材料を含むことにより、吸着特性が著しく向上するという効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明のエアロゲルの外形を示す画像である。
【
図2】
図2は、本発明のエアロゲルにおけるCNF/ M
2+複合体のTEM画像である。
【
図3】
図3は、本発明のエアロゲルの内部構造を示す電子顕微鏡イメージ画像である。
【
図4】
図4は、本発明のエアロゲルの内部構造を示す電子顕微鏡イメージ画像である。
【
図5】
図5は、本発明のエアロゲルについて行ったEDS元素分析チャートである。
【
図6】
図6は、アンモニアに対する吸着試験の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、トリメチルアミンに対する吸着試験の結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、硫化水素に対する吸着試験の結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、アンモニアに対する吸着の結果について、使用エアロゲル量の比較を示すグラフである。
【
図10】
図10は、本発明のCNTを含むエアロゲル、CNTを含まないエアロゲル、及び活性炭(比較例)を用いた、各種臭気物質に対する吸着試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0015】
1.エアロゲル材料の製造
本発明の製造方法は、セルロースナノファイバーと遷移金属イオンとの複合体が三次元ネットワーク構造を形成しているエアロゲル材料を製造するための方法である。より具体的には、本発明の製造方法は、以下の(a)~(d)の工程を含むことを特徴とする。
(a)セルロースナノファイバーの懸濁液に、遷移金属イオンを含有する溶液を添加し、混合溶液を得る工程、
(b)前記混合溶液を撹拌して、セルロースナノファイバーと遷移金属イオンの複合体を得る工程、
(c)工程(b)で得られた複合体から遊離状態の遷移金属イオンを除去する工程、及び
(d)工程(c)で得られた複合体を凍結乾燥して、エアロゲル構造体を得る工程。
【0016】
工程(a)と(b)は、セルロースナノファイバーと遷移金属イオンを接触させ、エアロゲル材料の骨格を形成するセルロースナノファイバー/遷移金属の複合体を得る工程である。
【0017】
まず、工程(a)では、セルロースナノファイバーを懸濁させた溶液と、遷移金属イオンを含有する溶液をそれぞれ調製し、これら2つの溶液を混ぜて混合溶液が得られる。セルロースナノファイバー懸濁液における溶媒は、好ましくは水、例えば、脱イオン水を用いることができる。セルロースナノファイバー懸濁液におけるセルロースナノファイバー含有量は、特に限定されないが、典型的には、0.1~5.0重量%、好ましくは、0.5~2.0重量%とすることができる。
【0018】
ここで、「セルロースナノファイバー」とは、植物繊維(パルプ)を解繊して得られる微細なセルロース繊維を意味し、一般に繊維径(幅)がナノメートルオーダー(1~1000nm)を有するものである。その長さは、特に限定されないが、通常数マイクロメートル程度の長さを有する。
【0019】
工程(a)で原料として用いられるセルロースナノファイバーは、キレート結合(配位結合)により錯形成し得る官能基を有するものであり、好ましくは、そのような官能基としてカルボキシル基又はカルボキシレート基を有する。より好ましくは、セルロースナノファイバー中におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量が0.1~5.0mmol/g、好ましくは、0.5~2.0mmol/gである。セルロースナノファイバー中のカルボキシル基又はカルボキシレート基の含有量は、中和滴定などの公知の手法によって求めることができる(例えば特開2008-001728号公報)。
【0020】
カルボキシル基又はカルボキシレート基を有するセルロースナノファイバーは、一般に、天然のセルロース繊維等の植物繊維を化学変性させ、微細化処理により解繊して得ることができる。典型的には、N-オキシル化合物である2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)を触媒として用いた化学変性反応により、植物繊維を酸化させる公知の方法を用いることができる。かかる酸化反応により、セルロース繊維等の植物繊維表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にカルボキシル基またはカルボキシレート基を有するセルロース系ファイバーを得ることができる。したがって、本発明の製造方法は、工程(a)の前工程として、 N-オキシル化合物を触媒として植物繊維を酸化することにより、工程(a)で用いられる前記セルロースナノファイバーを得る工程を含むことができる。
【0021】
TEMPO触媒酸化は、例えば、Isogaiら、Nanoscale, 3, 71-85、2011(非特許文献1)等に詳細な工程が説明されている。ここで、触媒として用いられ得るN-オキシル化合物は、ニトロキシラジカルを生じさせ、植物繊維の酸化反応を促進し得るものであれば、TEMPO以外の化合物も用いることができる。また、酸化反応には、公知の共酸化剤を反応溶液中に追加的に用いてもよい。そのような酸化剤としては、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムは好ましい。
【0022】
上記セルロースナノファイバーを得るための化学変性反応における植物繊維の量、触媒量、共酸化剤の量、反応溶液のpH、或いは反応時間や反応温度等の反応条件は、当業者が適宜設定することができる。
【0023】
セルロースナノファイバーの原料となる植物繊維は、特に限定されないが、天然セルロースであることが好ましい。天然セルロースとしては、例えば、木材原料をパルプ化したものを用いることができる。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材を例示することができる。
【0024】
化学変性(酸化)後の微細化処理は、例えばパルプを回転する砥石間で磨砕するグラインダー法、高圧ホモジナイザーを用いた対向衝突法、ボールミル、ロールミル、カッターミル等を用いる粉砕法などの機械的処理が挙げられる。通常、得られるセルロースナノファイバーが所望のサイズになるまで、解繊処理が繰り返し行われる。
【0025】
セルロースナノファイバーの繊維長、繊維径(幅)は特に限定されないが、例えば、繊維長0.1~10μm、繊維径1~100nm程度、好ましくは2.5~20nm程度であることができる。かかる繊維長や繊維径は走査型または透過型電子顕微鏡像(SEMまたはTEM)、あるいは原子間力顕微鏡像(AFM)から求めることができる。
【0026】
また、工程(a)で用いられる遷移金属イオンを含有する溶液は、遷移金属の塩を溶媒に溶解させることで調製することができる。溶媒は、好ましくは水、例えば、脱イオン水を用いることができる。遷移金属イオンは、セルロースナノファイバーと結合し得るものであれば特に制限されないが、好ましくは、周期表8~12族に属する遷移金属元素のイオンであり、より好ましくは、これらの2価の金属イオンである。例えば、遷移金属イオンは、銅、コバルト、ニッケル、バナジウム、チタン、クロム(III)、マンガン、亜鉛、及び鉄なる群から選択される1種以上の2価の金属イオンであることができる。後述のように、当該遷移金属は、エアロゲル材料に吸着した臭気物質を触媒作用によって分解する機能を奏するものである。遷移金属塩としては、これら遷移金属カチオンと任意のアニオンとの塩を用いることができるが、例えば、これら遷移金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、および酢酸塩を用いることができる。
【0027】
遷移金属イオン溶液の濃度は、セルロースナノファイバーとキレート結合(配位結合)により結合し得る金属イオンの理論値よりも過剰量となるような金属イオン濃度であることが好ましい。例えば、セルロースナノファイバー中のカルボキシル基及びカルボキシレート基の量に対して、モル量で、0.1~10倍が好ましく、0.5~2倍がさらに好ましい。例えば、遷移金属イオン溶液の濃度は、0.1~1000mmol/lの範囲とすることができる。
【0028】
次に、工程(b)は、工程(a)で調製した混合溶液を撹拌して、セルロースナノファイバーと遷移金属イオンの複合体を得る工程である。ここで、撹拌の時間や温度等の条件は、適宜設定することができる。ここで、得られるセルロースナノファイバー/遷移金属の複合体は、セルロースナノファイバー中のカルボキシル基又はカルボキシレート基において、キレート結合を介して遷移金属イオンがセルロースナノファイバーと結合することで錯体を形成した構造を有する。
【0029】
工程(c)は、工程(b)で得られたセルロースナノファイバー/遷移金属の複合体から遊離状態、すなわちセルロースナノファイバーとの錯形成に用いられずに溶液中に残存する過剰量の遷移金属イオンを除去する工程である。かかる遷移金属イオンは、遠心分離及び/又は脱イオン水による洗浄によって除去することができる。好ましくは、遠心分離を行った後、さらに脱イオン水による洗浄を複数回行うことができる。
【0030】
また、好ましい態様において、工程(c)は、工程(b)で得られた複合体から遊離状態の遷移金属イオンを除去した後に、カーボンナノ材料の分散液を添加して複合体と混合する工程をさらに含むことができる。これにより、上記セルロースナノファイバー/遷移金属の複合体に加えて、カーボンナノ材料をさらに含むエアロゲル構造体を得ることができる。
【0031】
ここで用いられるカーボンナノ材料としては、炭素の六員環を有するグラフェンシートを含む物質をいい、ホウ素や窒素等の炭素以外の元素を含有していてもよい。カーボンナノ材料の例としては、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、グラフェン、カーボンナノホーン(CNH)、フラーレン、又はそれらの組み合わせを挙げることができるし、これらを化学的に修飾した物質であってもよい。カーボンナノ材料の製造方法は特に制限されず、従来から公知の方法によって製造することができ、また、市販のものをそのまま用いることもできる。好ましくは、カーボンナノ材料は、カーボンナノチューブである。
【0032】
カーボンナノチューブは、一般に、炭素の六員環配列構造を有する1枚のシート状グラファイト(グラフェンシート)が円筒状に巻かれた直径数nm程度のチューブ状構造を有する材料である。本明細書において「カーボンナノチューブ」には、1枚のシート状グラファイトで構成された単層カーボンナノチューブの他、前記筒状のシートが軸直角方向に複数積層した多層カーボンナノチューブ(カーボンナノチューブの内部にさらに径の小さいカーボンナノチューブを1個以上内包する多層カーボンナノチューブ)、単層カーボンナノチューブの端部が円錐状で閉じた形状のカーボンナノホーン、内部にフラーレンを内包するカーボンナノチューブなども包含される。これらのカーボンナノチューブは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0033】
カーボンナノチューブの平均径(軸方向に対して直交する方向の直径又は横断面径)は、例えば、0.5nm~1μm、好ましくは1~100nmの範囲から選択でき、単層カーボンナノチューブの場合には、例えば、0.5~10nm、好ましくは1~5nm程度であり、多層カーボンナノチューブの場合は、例えば、5~300nm、好ましくは10~100nm程度である。カーボンナノチューブの平均長は、例えば、1~1000μm、好ましくは5~500μmの範囲である。
【0034】
工程(c)で用いられるカーボンナノ材料の分散液は、カーボンナノ材料を溶媒中に分散させた溶液である。溶媒としては、水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒であってもよいが、好ましくは、水である。当該分散液は、必要に応じて、分散剤を含むことができ、かかる分散剤としては、界面活性剤、各種高分子材料(水溶性高分子材料等)などを用いることができる。本発明では、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤のいずれを用いることも可能であるが、分散能が高い点からイオン性界面活性剤が好ましい。
【0035】
分散液中のカーボンナノ材料の含有量は、特に制限されないが、例えば、1~300g/L、好ましくは、10~200g/Lである。また、最終的なエアロゲル材料中のカーボンナノ材料は、例えば、0.5~30重量%、好ましくは、1~10重量%であることができる。
【0036】
工程(d)は、工程(c)で得られたセルロースナノファイバー/遷移金属の複合体を結乾燥して、エアロゲル構造体を得る工程である。ここで、「エアロゲル」とは、セルロースナノファイバー/遷移金属の複合体が、三次元ネットワーク構造を形成することにより、体積の大部分が空隙から成る非結晶質のナノ多孔体構造を意味する。当該エアロゲルは、その多孔体構造により、非表面積が大きく、超低密度スポンジ状の構造特性を有する。
【0037】
かかる凍結乾燥は、典型的には、セルロースナノファイバー/遷移金属の複合体を脱イオン水等の溶媒中に溶解させ、コロイド状の溶液とした後に、必要に応じて当該コロイド状溶液の希釈液を調整し、液体窒素等により凍結し、乾燥器を用いて乾燥することによって行われる。このコロイド状の溶液は、好ましくは、3~10重量%、好ましくは、3~7重量%の複合体を含有する。希釈液を用いる場合には、0.5~5重量%の濃度まで希釈することができる。かかる比較的濃厚な複合体含有量とすることで、コロイド状溶液の状態で、既に複合体がゲル状態に近い三次元ネットワーク構造を形成しており、この状態で凍結乾燥させることにより、非表面積が大きく超低密度スポンジ状の三次元ネットワーク構造を有するナノ多孔体であるエアロゲルを得ることができる。
【0038】
このように、本発明の製造方法によって得られるエアロゲルは、非表面積が大きいスポンジ状構造を有しているため、吸着サイトを豊富に有しており、臭気性物質等の化合物を吸着するための消臭用吸着体として好適である。かかるエアロゲルの特性等の詳細については後述する。
【0039】
2.エアロゲル材料
本発明は、さらに、上記製造方法によって得られるエアロゲル材料にも関する。すなわち、本発明に係るエアロゲル材料は、
セルロースナノファイバーと遷移金属イオンとの複合体が三次元ネットワーク構造を形成しているエアロゲル材料であって、
前記複合体が、キレート結合を介して遷移金属イオンがセルロースナノファイバーと結合することで錯体を形成した構造を有しており、
前記エアロゲル材料の密度が5~15mg/cm3の範囲であり、
前記エアロゲル材料中の遷移金属の含有量が、セルロースナノファイバーに対して0.1~200モル%である、
ことを特徴とする。
【0040】
セルロースナノファイバー/遷移金属の複合体におけるセルロースナノファイバーについては、既に述べたとおりである。好ましくは、当該セルロースナノファイバーはカルボキシル基又はカルボキシレート基を有し、それらの含有量は、好ましくは0.1~5.0mmol/g、より好ましくは、0.5~2.0mmol/gである。また、遷移金属の種類等についても上述したとおりであり、好ましくは、セルロースナノファイバー/遷移金属の複合体を形成する遷移金属イオンは、銅、コバルト、ニッケル、バナジウム、チタン、クロム(III)、マンガン、亜鉛、及び鉄よりなる群から選択される1種以上の2価の金属イオンである。
【0041】
上述のとおり、本発明のエアロゲル材料は、非表面積が大きく超低密度スポンジ状の三次元ネットワーク構造を有するナノ多孔体である。当該エアロゲル材料の密度は、5~15mg/cm3の範囲であり、10mg/cm3程度であることが好ましい。
【0042】
また、前記エアロゲル材料中の遷移金属の含有量が、セルロースナノファイバーに対して0.1~200モル%(1molのセルロースナノファイバー対するモル率)であることができる。或いは、重量%での表示では、エアロゲル材料全体において1~20重量%、好ましくは5~15重量%であることができる。かかる遷移金属の含有量は、例えば、エネルギー分散型X線分析法(EDS)による元素分析によって測定することができる。
【0043】
前記エアロゲル材料の形状等は特に限定されないが、典型的には、直径(繊維径)が3~5nmの直線状の形状を有する。
【0044】
好ましい態様において、本発明のエアロゲル材料は、セルロースナノファイバー/遷移金属の複合体に加えて、カーボンナノ材料をさらに含むことができる。エアロゲル中に孤立分散されたカーボンナノ材料が存在することにより、臭気性物質等の化合物に対する吸着特性が著しく向上し、より高い消臭性能が得られる。かかるカーボンナノ材料の詳細については、既に述べたとおりである。上述のとおり、エアロゲル材料中のカーボンナノ材料は、例えば、0.5~30重量%、好ましくは、1~10重量%であることができる。
【0045】
本発明のエアロゲル材料は、上述のとおり、非表面積が大きいスポンジ状構造を有し、セルロースナノファイバーの表面上に存在するカルボキシル基又はカルボキシレート基と遷移金属がキレート結合を形成している吸着サイトを豊富に有しているため、臭気性物質等の化合物の吸着能に優れている。そのため、臭気性物質を吸着するための消臭用吸着体としての用途に好適である。そのような臭気性物質としては、例えば、アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素、メチルメルカプタン、ホルムアルデヒド、及びキシレンより成る群から選択される1以上の化合物であることができるが、必ずしもこれらに限らない。
【0046】
必ずしも理論に拘束されるものではないが、本発明のエアロゲル材料は、以下の機構により臭気性物質の吸着・分解を行うことができると考えられる。エアロゲル材料中のセルロースナノファイバー/遷移金属の複合体は、イオン状態の遷移金属とのキレート結合を介してアンモニアやトリメチルアミンと結合し、これをエアロゲル材料中に固定化(吸着)する。一方、硫化水素に対しては、遷移金属の硫化物を形成することにより、この毒性の極めて高い有害ガスを固定化(吸着)することができる。さらに、金属状態(無電荷状態)となった遷移金属は、触媒として機能し、アンモニア、トリメチルアミン並びに硫化水素等の臭気性物質を分解し、吸着サイトが自己回復する。かかる機構により、優れた吸着速度及び吸着容量を達成することができる。
【0047】
このように、かかるエアロゲル材料を用いて、臭気性物質を効率的に吸着・分解することができる。したがって、本発明は、当該エアロゲル材料を用いて臭気性物質を吸着させることを含む消臭方法において有用である。
【0048】
例えば、本発明のエアロゲル材料は、空気清浄機やエアコンなどに搭載することで消臭効果を発揮でき、或いは、劇毒ガスである硫化水素を対処する非常事態に備えるガスマスクや、家畜のし尿に起因する悪臭問題の軽減または解決等の用途において好適に用いることができる。
【0049】
また、セルロースナノファイバー/遷移金属の複合体(錯体)は、可視光領域に吸収帯を有しており、臭気性物質が上述のように複合体中の遷移金属とキレート結合を介して結合することによって吸収体がシフトするため、その色調が変化する。すなわち、本発明のエアロゲル材料は、臭気性物質吸が吸着されたことをその色調の変化によってセンシング可能であるため、当該エアロゲル材料を用いた臭気センサとしての用途において好適に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0051】
1.セルロースナノファイバー/遷移金属の複合体の合成
文献(Saitoら、 Biomacromolecules、 8、 2485-2491 、2007)の記載に従い、セルロース繊維をTEMPO触媒により化学変性の後、微細化処理を行い、カルボキシル基を豊富に含む酸化セルロースナノファイバーを合成した。
【0052】
上記で得た酸化セルロースナノファイバー100gを300mLの脱イオン水に分散させ(2wt%)、銅の1M硫酸塩100mLを添加し、混合溶液を機械的に撹拌した。混合物を一晩放置して反応を収量させた。得られたセルロースナノファイバー/遷移金属の複合体(CNF / M2+)を10,000rpmで20分間遠心分離して、沈殿物を分離した。得られた沈殿物を脱イオン水で5回洗浄して、過剰の金属イオンを除去した。銅硫酸塩を、それぞれコバルト硫酸塩及びニッケル硫酸塩に換えて、同様にCNF / M2+複合体を合成した。
【0053】
2.セルロースナノファイバー/遷移金属エアロゲルの合成
次いで、CNFCNF/ M
2+複合体/ M
2+複合体の0.5~5重量%溶液を調製し、ゲル化していることを確認した。当該ゲル溶液を脱イオン水に分散させ、成形容器に注入した。この溶液を液体窒素中で凍結させ、凍結乾燥機を用いて乾燥させてエアロゲルを得た(
図1)。
【0054】
当該エアロゲルのTEM(透過電子顕微鏡)による拡大イメージ画像を
図2に示す。得られたエアロゲル中のCNF/ M
2+複合体は、
図2に示すように繊維状の外形を有していた。また、
図3及び
図4は、エアロゲルの内部構造を示す電子顕微鏡画像である。
図3及び
図4に示すように、本発明のエアロゲルは、空孔比率が大きいスポンジ状の三次元多孔体構造を有していることを確認した。
【0055】
また、得られたエアロゲルについて、EDS元素分析を行った結果を
図5に示す。
図5は、それぞれ、上から、CNFエアロゲル、CNF / Co
2+複合体のエアロゲル、NF / Ni
2+複合体のエアロゲル、及びCNF / Cu
2+複合体のエアロゲルについての結果である。この結果、エアロゲル中の遷移金属含有量は、それぞれ0重量%、9.1重量%、13.3重量%、6.0重量%であることが分かった。
【0056】
さらに、得られたエアロゲルの密度を測定した結果、5~15mg/cm3であることが分かった。得られたエアロゲル中のカルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量を測定した結果、0.2mmol/gであった。
【0057】
3.吸着実験
3-1.種々の遷移金属を用いたエアロゲルの吸着実験
上記で得られた3種のエアロゲル(Cu、Co、Ni)500mgを、それぞれポリフッ化ビニル製の袋に入れ、密封した。次いで、9Lの空気及び試験ガスを添加して、所望のガス濃度が得られるようにした。用いた試験ガスは、アンモニア、トリメチルアミン、及び硫化水素をそれぞれ用いた。一定の各時間間隔でバッグ内のガス濃度をガス検出管で測定した。比較例として、遷移金属を含まないセルロースナノファイバーのみからなるエアロゲル(CNF)を用いて同様の実験を行った。結果を
図6~
図9に示す。
【0058】
図6~8の結果から、本発明のエアロゲルを用いた場合には、アンモニア、トリメチルアミン、及び硫化水素のいずれに対しても、30分以内に、これら臭気物質の濃度が検出限界以下のレベルまで消臭されることが実証された。一方、遷移金属を含まない比較例(CNF)では、180分経過後でも、ほとんど消臭効果は得られなかった。
【0059】
また、
図9に示すように、用いるエアロゲル(CNF / Cu
2+)の量を500mgから750mgに増加させたところ、アンモニアに対する消臭能が有意に増加することも確認された。
【0060】
3-2.CNTを含有するエアロゲル、及び活性炭との比較実験
次に、本発明のエアロゲル(CNF / Cu2+複合体)にカーボンナノチューブ(CNT)を添加した場合の吸着特性の変化を測定した。また、比較例として、市販の活性炭を用いた場合の吸着特性も併せて測定した。吸着実験は、3-1.と同様の手順で行った。
【0061】
CNT含有エアロゲルは、凍結乾燥前にCNF分散液を添加した以外は、上記1.及び2.に示した合成方法と同様の手順で作製した。すなわち、過剰の金属イオンを除去した後に、CNF / M2+複合体の0.5~5重量%溶液を100mL調製し、これに200g/LのCNT分散液100mLを添加した。混合溶液がゲル化していることを確認した。当該ゲル溶液を脱イオン水に分散させ、成形容器に注入した。この溶液を液体窒素中で凍結させ、凍結乾燥機を用いて乾燥させてCNT含有エアロゲルを得た。なお、用いたCNTは、平均径12nm、平均長5μmのものを用いた(Nanocyl社製、商品名「NC7000C」)。また、分散液は、水を溶媒とし、分散剤として1.0wt%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(関東化学株式会社製)の界面活性剤を用いた。
【0062】
図10に、臭気物質であるアンモニア、トリメチルアミン、メチルメルカプタン、硫化水素に対する吸着実験の結果を示す。図中の検体(1)は、CNF / Cu
2+複合体のみからなるエアロゲルであり、検体(2)は、CNTを含有するCNF / Cu
2+複合体のエアロゲルである。また、対照品は、活性炭であり、空試験は吸着物質と接触させない場合のガス濃度変化を示すものである。
【0063】
図10の結果から、CNTを含有する検体(2)は、CNTを含有しない検体(1)と比べて優れた吸着特性を示すことが分かった。特に、検体(2)は、トリメチルアミン、メチルメルカプタン、及び硫化水素に対して、15%以上の吸着能の向上が見られた。
【0064】
また、比較例の活性炭は、アンモニアに対する吸着性はほとんど示さなかったのに対し、検体(1)及び(2)は、いずれの臭気物質に対しても優れた吸着特性を示したことから、本発明のエアロゲルは、幅広い種類の臭気物質に対する吸着性を有することが分かった。
【0065】
以上の結果は、セルロースナノファイバー/遷移金属複合体よりなる本発明のエアロゲル材料が、臭気物質に対して優れた吸着能及び消臭効果を有することを実証するものである。