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特許7463005可溶性置換基を有するビスアントラセン誘導体およびそれらを用いた有機電界発光素子
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  • 特許-可溶性置換基を有するビスアントラセン誘導体およびそれらを用いた有機電界発光素子 図1
  • 特許-可溶性置換基を有するビスアントラセン誘導体およびそれらを用いた有機電界発光素子 図2
  • 特許-可溶性置換基を有するビスアントラセン誘導体およびそれらを用いた有機電界発光素子 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】可溶性置換基を有するビスアントラセン誘導体およびそれらを用いた有機電界発光素子
(51)【国際特許分類】
   C07C 211/54 20060101AFI20240401BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240401BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240401BHJP
【FI】
C07C211/54 CSP
C09K11/06 620
H05B33/14 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020002062
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021109841
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】金 容旭
(72)【発明者】
【氏名】李 戴▲チョル▼
(72)【発明者】
【氏名】川村 久幸
(72)【発明者】
【氏名】白木 真司
(72)【発明者】
【氏名】大和田 宰
(72)【発明者】
【氏名】荒井 綾斗
(72)【発明者】
【氏名】笹部 久宏
(72)【発明者】
【氏名】城戸 淳二
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/114263(WO,A2)
【文献】特開平08-012600(JP,A)
【文献】特開2015-159238(JP,A)
【文献】特開2008-303365(JP,A)
【文献】特開2008-244424(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0351816(US,A1)
【文献】特表2009-534376(JP,A)
【文献】特開2006-114844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物。
【化1】
(一般式(1)において、X及びYは置換基を示し、かつXとYは同一ではなく,
Xは下記一般式(2):
【化2】
(一般式(2)において、Ra及びRbは、R2~R5の位置を含めてそれぞれが結合する環に対して独立にモノ、ジ、トリ、テトラ、又はペンタ置換であってよい置換基を表すか又は非置換を表し、Rcは、R1及びR6の位置を含めてRcが結合する環に対してモノ、ジ、トリ、又はテトラ置換であってよい置換基を表すか又は非置換を表し、前記置換基は独立にアルキル及びアリール基から選択される基であり;但し、式中でR1とR2、R3とR4、及びR5とR6がそれぞれ結合している位置の炭素原子は、その1組以上が、それぞれ独立に、単結合を介して直接結合しているか、又は、アルキレン、アリーレン、-O-、 -S-、シリレン(SiR11R12)(R11及びR12は独立にアルキル又はアリール基を表す)、-NR-、または-BR-(Rは、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す)を介して結合していてもよく;式中の*は一般式(1)の左側のアントラセン環と結合する位置を示し、一般式(2)のトリフェニルアミン誘導体の窒素原子に対してオルト、メタ、又はパラ位のいずれかである。)で示され、且つ
Yは1つのオルト位にアリール置換基を有するフェニル基である。)
【請求項2】
Yがo-ビフェニル基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物からなる、有機電界発光素子用発光材料。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の一般式(1)で示される化合物を含むことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の一般式(1)で示される化合物を含む発光層を有することを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項6】
一般式(1)で示される化合物を発光層中にエミッターとして含むことを特徴とする請求項5に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
さらに、アミノ基を有しない芳香族炭化水素であるアントラセン誘導体化合物を発光層中にホスト材料として含むことを特徴とする、請求項6に記載の有機電界発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶性置換基を有する新規ビスアントラセン誘導体、及び前記ビスアントラセン誘導体を含む有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子(以下において有機ELデバイスともいう)では、通常、アノードとカソードおよびこれらの電極間に配置された、発光層を含めた有機物層を含む構造を有する。有機ELデバイスでは、アノード及びカソードからそれぞれ注入された正孔及び電子が再結合して生じる励起子のエネルギーを利用して発光材料分子から発光が生じる。ここで、一般に、有機ELデバイスの有機物層は、その有機ELデバイスの特性、例えば、発光効率を高めるためにそれぞれ異なる機能を備えた異なる物質を含んでなる複数の層からなる多層構造を有し、それら複数の層は、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び電子注入層などからなる。しかし、これらの層はそのうちのいくつかの機能を1つの層が担うことができ、したがって、これらの層のいくつかは省略してもよい。さらに、これらの有機物層に加えて、電極表面の平坦性を高めるための平坦化層、発光層に正孔、電子、及び/又は励起子を閉じ込めるための、正孔阻止層、電子阻止層、及び/又は正孔阻止層を有機ELデバイスの有機層に含めることもできる。
【0003】
このような構造を有する有機ELデバイスにおいて、二つの電極の間に電圧を印加した場合、アノードからは正孔が、カソードからは電子が有機物層に注入され、注入された正孔と電子が結合した時に発光性分子においてその分子の基底状態エネルギーよりも高いエネルギーを有する励起子が形成され、この励起子が基底状態に戻る時に発光が生じる。このような有機ELデバイスは、自発光型の発光デバイスであって、従来のバックライトを用いる液晶デバイスと比較して、高輝度、高効率、低い駆動電圧、広い視野角、高いコントラスト、及び高速応答などの特性を有しうることが知られている。
【0004】
有機ELデバイスの発光機能としては、一重項励起子の励起状態から基底状態への遷移に伴って生じる蛍光発光、励起子の励起三重項状態から基底状態への遷移に伴って生じるリン光発光を利用するものが知られている。さらに、近年は、遅延蛍光発光を生じる有機化合物を発光材料として用いる、高い発光効率を示す有機ELデバイスも開発されている。
【0005】
有機ELデバイスにおいて用いられる発光材料は、発光色に応じ、青色、緑色、赤色の発光材料と、より良い天然色を実現するために必要な黄色および橙色の発光材料に分類することができる。一方、発光層を一つの物質だけから形成した場合、分子間相互作用によって最大発光波長が長波長に移動して色純度が低下したり、発光減衰効果によってデバイスの効率が低下したりする問題が発生しうるので、発光の高い色純度及び発光効率の向上のために、発光材料及びホスト材料を含むホスト/ドーパント系を発光層に用いることができる。
【0006】
より高い発光効率、高い色純度、より長い寿命を目指して、様々な化学構造を有する発光性化合物がこれまでに開発されている。有機ELデバイスの発光材料として用いることができる化合物として、米国特許5635308号明細書には、ビスアントラセン誘導体を有機ELデバイスの青色発光材料として用いる方法が記載されている。
【0007】
また、特許第6381201号公報には、特定の置換基を導入することにより高効率発光を示すビスアントラセン誘導体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第5635308号明細書
【文献】特許第6381201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
有機ELデバイスのための発光材料のうち、青色発光材料については、発光効率、寿命等の特性のさらなる改善が特に望まれている。本発明は、有機ELデバイスのための、より高い発光効率を示す発光材料、特に青色発光材料を提供しようとするものである。特に、素子の生産性に優れている、塗布法による有機ELデバイスに適した青色発光材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は下記一般式(1)で表される化合物を有機ELデバイス、すなわち有機電界発光素子の発光材料として用いる。
【0011】
したがって、本発明の有機ELデバイスは、カソード、アノード、及び前記カソード及びアノードの間に配置された有機層を含み、有機層が下記一般式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする。
【化1】
式(1)中、X及びYは置換基を表し、XとYは同一の構造を有しない。
Xは、第三級アミン構造を含むアリール基であり、Yは1つのオルト位にアルキル又はアリール置換基を有するフェニル基である。
【0012】
上記式(1)において、Xは、下記一般式(2)で示される置換基であることが好ましい。
【0013】
【化2】
【0014】
一般式(2)中、Ra及びRbはR2~R5の位置を含めてそれぞれが結合する環に対して独立にモノ、ジ、トリ、テトラ、又はペンタ置換であってよい置換基を表すか又は非置換を表し、Rcは、R1及びR6の位置を含めてRcが結合する環に対してモノ、ジ、トリ、又はテトラ置換であってよい置換基を表すか又は非置換を表し、前記の置換基は独立にアルキル、特に炭素数1~10の直鎖状、分岐状、又は環状アルキル基、及びアリール基、特に炭素数6~20のアリール基からなる群から選択される基である。アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなどが挙げられるがこれらに限定されない。アルキル基としてはメチル基又はtert-ブチル基が特に好ましい。アリール基としては、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、ナフチルなどの基が挙げられるがこれらに限定されない。但し、R1とR2、R3とR4、及びR5とR6がそれぞれ結合する炭素原子はそのうちの1組から3組、好ましくは1組又は2組がそれぞれ独立に、特に好ましくは1組が、単結合を介して直接結合しているか、あるいは、アルキレン、特に炭素数1~6のアルキレン、アリーレン、特に炭素数6~20のアリーレン、-O-、 -S-、シリレン(SiR11R12) (R11及びR12は独立にアルキル、好ましくは炭素数1~10の直鎖状、分岐状、もしくは環状アルキル基、又はアリール基、特に炭素数6~20のアリール基、好ましくは、フェニル、トリル、もしくはナフチルを表し、特に好ましくはSiR11R12はジフェニルシリレンである)、-NR-、又は-BR-(Rは、水素原子、アルキル基、好ましくは炭素数1~10の直鎖状、分岐状、もしくは環状アルキル、又はアリール基、好ましくは炭素数6~20のアリール基、特に好ましくは、フェニル、トリル、もしくはナフチル基を表す)を介して結合することにより、環構造を形成していてもよい。
【0015】
一般式(2)の一番右のベンゼン環はR1及びR6の位置も含めてその任意の位置で、一般式(1)の左側のアントラセン環と結合していることができ、一般式(2)中の*は一般式(1)の左側のアントラセン環と結合する位置を示す。*のついた結合は上記トリフェニルアミンの窒素原子に対して、ベンゼン環のオルト、メタ、又はパラ位のいずれであってもよい。
【0016】
一般式(2)において、R1とR2、R3とR4、及びR5とR6がそれぞれ結合している位置のベンゼン環の炭素原子うち2組以上が、単結合、アルキレン(アルキリデンを含む)、アリーレン、-O-、及び-S-などから選択される結合又は架橋基を介して結合されている場合、各組の2個の炭素原子は、各組がそれぞれ単結合で結合されていても、各組がそれぞれ同じ種類の架橋基で架橋されていても、各組がそれぞれ異なる種類の架橋基で連結されていても、あるいは、単結合で連結されている組と任意の架橋基を介して連結されている組の組み合わせであってもよい。特に、一般式(2)中でR1とR2が結合している位置のベンゼン環の炭素原子、R3とR4が結合している位置のベンゼン環の炭素原子、又はR5とR6が結合している位置のベンゼン環の炭素原子が、単結合、-C(CH-、-O-、-S-、-Si(Ph)-、-N(Ph)-、-B(Ph)-、又は1,2-フェニレン基で連結されていることが好ましい。また、一般式(2)において、R1とR2が結合している位置のベンゼン環の炭素原子、R3とR4が結合している位置のベンゼン環の炭素原子、及びR5とR6が結合している位置にあるベンゼン環の炭素原子のうち2組が単結合で連結されていてもよい。また、式中のR1とR2が結合している位置のベンゼン環の炭素原子、R3とR4が結合している位置のベンゼン環の炭素原子、及びR5とR6が結合している位置のベンゼン環の炭素原子のうち1組が単結合で連結され、別の一組の2個の炭素原子が-C(CH-、-O-、-S-、-Si(Ph)-、-N(Ph)-、-B(Ph)-、又は1,2-フェニレン基で連結されていてもよい。
【0017】
一般式(1)中、Yは、その1つのo-位(オルト位)にアルキル又はアリール基を置換基として有するフェニル基である。置換基としては、炭素数1~10の直鎖状、分岐状、又は環状アルキル基、炭素数6~20のアリール基を挙げることができる。アルキル基として、メチル、エチル、プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。アリール基としては、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。なお、2つ以上のアリール基が連結した基、例えば、ビフェニル、ターフェニル、ナフチルフェニル基などもアリール基に含まれる。
Yは、o-ビフェニル基(あるいは2-ビフェニル基)であることが特に好ましい。
【0018】
一般式(1)で表される化合物の例として、以下に示す化学式で表される化合物が挙げられる。
【0019】
【化3】
【0020】
【化4】
【0021】
【化5】
【0022】
【化6】
【0023】
【化7】
【0024】
【化8】
【0025】
本発明はまた、一般式(1)で表される化合物からなる、有機電界発光素子(有機ELデバイスともいう)用発光材料を提供する。
【0026】
本発明は、上記一般式(1)で表される化合物を含む有機電界発光素子、特に、一般式(1)で表される化合物を含む有機層を備えた有機ELデバイスにも関する。
本発明の有機ELデバイスにおいて、上記一般式(1)で表される化合物を含有する有機層が発光層であることが好ましい。
【0027】
上記一般式(1)で表される化合物は、有機ELデバイスの発光層中にエミッター(発光体)として含まれていることが特に好ましい。
したがって、本発明の化合物は、有機ELデバイスのためのエミッターとして有用である。
【0028】
本発明の有機ELデバイスは、発光層にエミッターとして一般式(1)で表される化合物を含むのに加えて、発光層中にさらにホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料は、特に限定されないが、エミッターとして使用する化合物とは異なるアントラセン誘導体化合物、好ましくは分子内にアミノ基を有しない芳香族炭化水素であるアントラセン誘導体化合物であることが好ましい。アントラセン誘導体化合物とは、アントラセン骨格にさらに置換基が置換した化合物をいう。アントラセン誘導体化合物の例として、9,10-ジフェニルアントラセン、9,10-ジ(1-ナフチル)アントラセン、9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン、9,10-ジフェニルアントラセン、9-(ナフタレン-1-イル)-10-(ナフタレン-2-イル)アントラセン(α,β-ADN)、2-メチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン、2-メチル-9,10-ジ(1-ナフチル)アントラセン、2-メチル-9-(ナフタレン-1-イル)-10-(ナフタレン-2-イル)アントラセンを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明の有機ELデバイスにおいて、上記一般式(1)で表される化合物は、発光層に含まれていること、特に発光層の質量を基準にして0.1~10質量%含まれていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、有機ELデバイスの典型的な構造を模式的に示す図である。
図2図2は、PAPAP-1及びPAPAP-0のトルエン溶液 (10-5M) の吸収 (UV-vis) スペクトル(左)及び発光 (PL) スペクトル(右)を示す図である。
図3図3は、PAPAP-1及びPAPAP-12のトルエン溶液 (10-5M) の吸収 (UV-vis) スペクトル(左)及び発光 (PL) スペクトル(右)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明する。
【0032】
本発明の有機ELデバイスは、カソード、アノード、及び前記カソード及びアノードの間に配置された有機層を含み、その有機層、特に発光層が上で説明した下記一般式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする。
【化9】
【0033】
一般式(1)の化合物は、特に、発光材料として有用である。
【0034】
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子、すなわち有機ELデバイスは、上記一般式(1)で表される化合物を含有する有機層を含む。有機層は発光層であり、一般式(1)で表される化合物を発光層中の発光材料として用いることが好ましい。
【0035】
有機ELデバイスは、一般に、第1電極と第2電極およびそれらの間に配置された1つ以上の有機物層を含み、第1電極及び第2電極のうち少なくとも1つが光透過性電極である。これら2つの電極の間に電圧を印加して、アノードから正孔を注入し、カソードから電子を注入すると、正孔と電子が有機物層中で再結合し、再結合によって生じる励起子のエネルギーを利用して有機物層中に含まれる発光体(エミッター)が発光する。有機ELデバイスは、その有機物層からの発光を、光透過性電極側から取り出す構造を有する。有機ELデバイスのデバイス構造は一つに限定されず、様々なデバイス構造が提案されている。発光方式についても、トップ・エミッション型、ボトム・エミッション型、及び両面エミッション(両面発光)型などが知られている。本発明の有機ELデバイスの有機物層は1層からなる単層構造であってもよいが、発光層を含む2層以上の多層構造であってもよい。本発明の有機ELデバイスの有機物層が多層構造を有する場合は、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層などが積層された構造であってもよい。さらに、電極表面を平坦化するための平坦化層、正孔阻止層、電子阻止層、及び励起子阻止層などの様々な層を設けて、有機ELデバイスの特性を向上させることができることが知られており、本発明の有機ELデバイスにも適用できる。本発明の一般式(1)の化合物は、全ての発光方式及び構造の有機ELデバイスにおいて用いることができる。したがって、本発明の一般式(1)の化合物を含む有機ELデバイスは、その発光の方式及びデバイス構造は特定にものに限定されない。
【0036】
有機ELデバイスの典型的な構造を図1に示す。図1において、1は基板、2はアノード、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は有機発光層、6は電子輸送層、そして、7はカソードを示している。通常、図1のような構造の有機ELデバイスを正方向構造の有機ELデバイスという。本発明の有機ELデバイスは、このような正方向構造であることができるが、この構造のものに限定されず、逆方向構造の有機ELデバイス、すなわち、基板、カソード、電子輸送層、有機発光層、正孔輸送層、正孔注入層および正極が順次積層された構造を有していてもよい。また、これらの複数の有機層からいくつかを省略することもできる。また、本発明の有機ELデバイスは、上述したデバイス構造のものに限定されず、有機ELデバイスの構造として公知のどのようなデバイス構造を有していてもよい。
【0037】
本発明の一般式(1)の化合物は、有機ELデバイスのための発光材料、特に青色発光材料として用いることができる。
【0038】
本発明に係る有機ELデバイスは、一般式(1)の化合物を発光材料、特に青色発光材料として用いることを条件とするほかは、公知の有機ELデバイスの製造方法および有機ELデバイスに用いられる材料を用いて製造することができる。例えば、本発明に係る有機ELデバイスは、スパッタリングや電子ビーム蒸着などの物理蒸着(PVD)法を利用して、基板上に金属、合金、または導電性を有する金属酸化物、及びそれらの組み合わせを蒸着してアノードを形成し、その上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、及び電子輸送層などから選択される1つ以上の層を含む有機物層を形成した後、その上にカソードとして用いることのできる物質を蒸着することによって製造することができる。このような方法の他にも、前述したように逆方向構造の有機ELデバイスを製作するために、基板上にカソード物質から有機物層、アノード物質を順次蒸着して有機ELデバイスを作ることもできる。また、上述した有機物層のいくつかを省略すること及び上述したもの以外の有機物層を追加することもできる。
【0039】
前記有機物層を形成する方法として、溶液法、例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレードコーティング、スクリーン印刷、又はインクジェット印刷、あるいは熱転写法などの方法を用いることもできる。さらに、異なる有機層に対して、溶液法と蒸着法を組み合わせて用いることもできる。
【0040】
アノードのための材料としては、通常、有機物層への正孔注入が円滑になるように仕事関数の大きい物質を用いることが好ましい。本発明で用いられるアノード材料の具体例としては、バナジウム、クロム、銅、亜鉛、金などの金属、またはこれらの合金;亜鉛酸化物、インジウム酸化物、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)などの金属酸化物;ZnO:AlまたはSnO:Sbなどの金属と酸化物の組み合わせ;ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ[3,4-(エチレン-1,2-ジオキシ)チオフェン](PEDOT)、ポリピロールおよびポリアニリンなどの導電性高分子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
カソードのための材料としては、通常、有機物層への電子注入が容易になるように仕事関数の小さい物質を用いることが好ましい。カソード材料の具体例としては、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、チタニウム、インジウム、イットリウム、リチウム、ガドリニウム、アルミニウム、銀、スズ、及び鉛などの金属又はこれらの合金;LiF/Al又はLiO/Alなどの多層構造の物質などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
本発明の有機ELデバイスの正孔注入層の材料には公知の正孔注入材料を用いることができる。正孔注入材料は、低い電圧においてアノードからの正孔の注入を円滑に受けられる物質であって、正孔注入材料の最高被占軌道(HOMO)が、アノード材料の仕事関数と正孔注入層に隣接するアノードと反対側の有機物層のHOMOとの間であることが好ましい。正孔注入材料の具体的な例としては、金属ポルフィリン、オリゴチオフェン、アリールアミン系の有機物、ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン系の有機物、キナクリドン系の有機物、ペリレン系の有機物、アントラキノンおよびポリアニリンとポリチオフェン系の導電性高分子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
正孔輸送層の材料としては、公知の正孔輸送材料を用いることができる。正孔輸送材料は、アノードや正孔注入層から正孔の輸送を受けて発光層に正孔を移動させることができる材料であって、正孔移動度の大きい材料が好適である。具体的な例としてはアリールアミン系の化合物;カルバゾール系の化合物;アントラセン系の化合物;ピレン系の化合物;導電性高分子、および共役部分と非共役部分が共に存在するブロック共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の有機ELデバイスにおいては、発光層の発光材料として、上記一般式(1)で表されるビスアントラセン誘導体を用いる。以下の実施例において示すとおり、本発明の一般式(1)の化合物は、有機ELデバイスのための発光材料、特に青色発光材料として用いることができる。
【0045】
本発明の一般式(1)で表されるビスアントラセン誘導体を有機ELデバイスのための発光材料として用いる場合、ビスアントラセン誘導体を単独で発光層に用いてもよいが、ビスアントラセン誘導体をドーパント、すなわちゲスト材料として、ホスト材料と組み合わせて用いることが特に好ましい。ホスト材料として好適に用いることができる化合物は、一般式(1)のビスアントラセン誘導体よりも大きなバンドギャップを有しており、かつ電荷輸送性を有する化合物であり、その中から選択して任意の化合物をホスト材料として用いることができる。有機ELデバイスの発光層において、発光材料をゲストとしてホスト材料と組み合わせて用いる方法は周知の技術である。有機ELデバイスの発光層のためのホスト材料として用いることができる多くの化合物が当技術分野において知られている。ホスト材料の例としては、以下のものに限定されないが、例えば、4,4’-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル、4,4'-ビス(2,2-ジフェニルビニル)ビフェニル、9,9'-ビアントラセン、4,4'-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル、2,6-ビス[3-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]ピリジン、ビス[2-(2-ピリジニル)フェノラート]ベリリウム (II)、4,4'-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)-2,2'-ジメチルビフェニル、2,8-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ジベンゾチオフェン、2,6-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ピリジン、2,2''-ビ-9,9'-スピロビ[9H-フルオレン] 、9,9-ビス[4-(1-ピレニル)フェニル]フルオレン、9,10-ビス(4-メトキシフェニル)アントラセン、4,4'-ビス(2,2-ジフェニルビニル)ビフェニル、ビス[2-[(オキソ)ジフェニルホスフィノ]フェニル] エーテル、9,10-ジフェニルアントラセン、9,10-ジ(1-ナフチル)アントラセン、1,3-ジ-9-カルバゾリルベンゼン、9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン、9-(ナフタレン-1-イル)-10-(ナフタレン-2-イル)アントラセン(α,β-ADN)、3,3'-ジ(9H-カルバゾール-9-イル)-1,1'-ビフェニル、9,9'-ジフェニル-9H,9'H-3,3'-ビカルバゾール、3,3''-ジ(9H-カルバゾール-9-イル)-1,1':3',1''-ターフェニル、9-[3-(ジベンゾフラン-2-イル)フェニル]-9H-カルバゾール、ジフェニル[9,9'-スピロビ[9H-フルオレン]-2-イル]ホスフィンオキシド、1,4-ジ(1-フェニル)ベンゼン、2,7-ジ(1-ピレニル)-9,9'-スピロビ[9H-フルオレン]、2-メチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン、2-メチル-9,10-ジ(1-ナフチル)アントラセン、ポリ(N-ビニルカルバゾール) 、9-フェニル-3,6-ビス[4-(1-フェニルベンゾイミダゾール-2-イル)フェニル]カルバゾール、2-(9,9'-スピロビ[フルオレン]-2-イル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム、1,3,5-トリ(9H-カルバゾール-9-イル)ベンゼン、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム、4,4',4''-トリ-9-カルバゾリルトリフェニルアミン、1,3,5-トリ(1-ナフチル)ベンゼン、9,9',10,10'-テトラフェニル-2,2'-ビアントラセン、及び2,2'':7'',2''''-テル-9,9'-スピロビ[9H-フルオレン]を挙げることができる。
【0046】
本発明の一般式(1)で表される化合物と組み合わせて用いるホスト材料として、特に、分子内にアミノ基を有しない芳香族炭化水素であるアントラセン誘導体化合物を用いることが好ましい。
それらの中でも特に好ましい化合物として、9,10-ジフェニルアントラセン、9,10-ジ(1-ナフチル)アントラセン、9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン、9,10-ジフェニルアントラセン、9-(ナフタレン-1-イル)-10-(ナフタレン-2-イル)アントラセン(α,β-ADN)、2-メチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン、2-メチル-9,10-ジ(1-ナフチル)アントラセン、2-メチル-9-(ナフタレン-1-イル)-10-(ナフタレン-2-イル)アントラセンを挙げることが出来る。
【0047】
本発明の有機ELデバイスにおいては、前記一般式(1)で表される化合物が、発光層に、発光層の質量を基準にして0.1~10質量%含まれるように、ホスト材料と組み合わせて用いることが好ましい。
【0048】
本発明の有機ELデバイスは、電子輸送層を有していてもよい。電子輸送層を形成するための電子輸送材料としては、カソードから電子の注入を円滑に受けて、それを発光層に移動させることができる材料であって、電子移動度の大きい物質を用いることが好ましい。電子輸送材料の具体例としては8-ヒドロキシキノリンのAl錯体;Alqを含む錯体;有機ラジカル化合物;ヒドロキシフラボン-金属錯体;アントラセン系の化合物;ピレン系の化合物;ベンゾオキサゾール、ベンズチアゾール及びベンズイミダゾール系の化合物;ピリジル系の化合物;フェナントロリン系の化合物;キノリン系の化合物;キナゾリン系の化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの化合物に金属または金属化合物をドーピングすることによって電子輸送層を形成してもよい。
【0049】
上述した各層の他に、必要に応じて、電極表面を平坦化するための平坦化層;正孔、電子、及び励起子を目的とする有機層に閉じ込めるための、正孔阻止層、電子阻止層、及び励起子阻止層から選択される層を、有機ELデバイスに用いることもでき、そのような技術は公知の技術である。そのほかにも、有機ELデバイスに関する公知の技術を、本発明の一般式(1)の化合物を含む有機ELデバイスに適用することができる。
【0050】
さらに、本発明の一般式(1)で表される化合物は有機溶媒に溶けるので、本発明の化合物を含む溶液を用いた塗布法によって、有機ELデバイスの有機層、特に発光層を形成することができる。
【0051】
以下に、本発明の理解を助けるために比較例と好ましい実施例の結果を示すが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例
【0052】
[合成実施例]
以下の比較例において用いた化合物PAPAP-0は以下の化学式で表される化合物である。
【0053】
【化10】
PAPAP-0は、例えばAdv. Funct. Mater. 24, p. 2064-2071, 2014に示されるような公知の方法により製造することができる。今回は以下の合成方法により合成した。
【0054】
【化11】
【0055】
すなわち、四つ口フラスコに9-ブロモアントラセン及び4-ベンゾニトリルボロン酸を入れ、炭酸カリウム水溶液、エタノール、トルエン、及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウムからなる混合溶液中で、窒素下で加熱還流後、得られた生成物を精製し、黄白色固体であるAn-Ph-CNを収率95%で得た。次いで、四つ口フラスコ中で、An-Ph-CN、N-ブロモスクシンイミド、及びクロロホルムからなる混合溶液を窒素下で加熱還流させた後、得られた生成物を精製し、黄白色固体であるBr-AP-CNを収率95%で得た。次いで、四つ口フラスコにBr-AP-CN及び4-クロロフェニルボロン酸を入れ、炭酸カリウム水溶液、エタノール、トルエン、及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウムからなる混合溶液中で、窒素下で加熱還流後、CN-PAP-Clを得る。次いで四つ口フラスコ中で、CN-PAP-Cl、ビス(ピナコラート)ジボロン、S-Phos、1,4-ジオキサン、酢酸カリウム、及び酢酸パラジウムからなる混合溶液を、窒素下で加熱還流後、得られた生成物を精製し、黄色固体であるCN-PAP-Bpinを収率96%で得た。次いで、四つ口フラスコにCN-PAP-Bpin及びCN-PA-Brを入れ、それらを炭酸カリウム水溶液、エタノール、トルエン、及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウムからなる混合溶液中で、窒素下で加熱還流後、得られた生成物を精製し、橙色固体であるPAPAP-0を収率86%で得た。
【0056】
PAPAP-1は下記構造式で表され、PAPAP-0の合成方法に準拠した下に示す方法により製造することができる。
【0057】
【化12】
【0058】
【化13】
【0059】
すなわち、四つ口フラスコに9-ブロモアントラセン及び4-クロロフェニルボロン酸を入れ、炭酸カリウム水溶液、エタノール、トルエン、及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウムからなる混合溶液中で、窒素下で加熱還流後、得られた生成物を精製し、黄白色固体であるAn-Ph-Clを収率87.7%で得た。次いで四つ口フラスコ中で、An-Ph-Cl、ビス(ピナコラート)ジボロン、S-Phos、1,4-ジオキサン、酢酸カリウム、及び酢酸パラジウムからなる混合溶液を、窒素下で加熱還流後、得られた生成物を精製し、黄色固体であるAn-Ph-Bpinを収率57%で得た。次いで、四つ口フラスコに9-ブロモ-10-([1,1’-ビフェニル]-2-イル)アントラセン及びAn-Ph-Bpin を入れ、炭酸カリウム水溶液、エタノール、トルエン、及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウムからなる混合溶液中で、窒素下で加熱還流後、得られた生成物を精製し、黄白色固体であるAPA-2-ビフェニルを収率72.5%で得た。次いで、四つ口フラスコ中で、APA-2-ビフェニル、N-ブロモスクシンイミド、及びクロロホルムからなる混合溶液を窒素下で加熱還流後、得られた生成物を精製し、黄白色固体であるBr-APA-2-ビフェニルを収率92%で得た。次いで、四つ口フラスコにBr-APA-2-ビフェニル及び4-(ジフェニルアミノ)フェニルボロン酸を入れ、炭酸カリウム水溶液、エタノール、トルエン、及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウムからなる混合溶液中で、窒素下で加熱還流後、得られた生成物を精製し、黄白色固体であるPAPAP-1を収率91%で得た。
【0060】
PAPAP-12は下記構造式で表され、PAPAP-0の合成方法に準拠した、下に示す方法により製造することができる。
【0061】
【化14】
【0062】
【化15】
【0063】
すなわち、四つ口フラスコに9-ブロモアントラセン及び4-クロロフェニルボロン酸を入れ、炭酸カリウム水溶液、エタノール、トルエン、及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウムからなる混合溶液中で、窒素下で加熱還流後、得られた生成物を精製し、黄白色固体であるAn-Ph-Clを収率87.7%で得た。次いで四つ口フラスコ中で、An-Ph-Cl、ビス(ピナコラート)ジボロン、S-Phos、1,4-ジオキサン、酢酸カリウム、及び酢酸パラジウムからなる混合溶液を、窒素下で加熱還流後、得られた生成物を精製し、黄色固体であるAn-Ph-Bpinを収率57%で得た。次いで、四つ口フラスコに9-ブロモ-10-([1,1’-ビフェニル]-2-イル)アントラセン及びAn-Ph-Bpin を入れ、エタノール、トルエン、炭酸カリウム水溶液、及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウムからなる混合溶液中で、窒素下で加熱還流後、得られた生成物を精製し、黄白色固体であるAPA-2-ビフェニルを収率72.5%で得た。次いで、四つ口フラスコ中で、APA-2-ビフェニル、N-ブロモスクシンイミド、及びクロロホルムからなる混合溶液を、窒素下で加熱還流後、得られた生成物を精製し、黄白色固体であるBr-APA-2-ビフェニルを収率92%で得た。次いで、四つ口フラスコにBr-APA-2-ビフェニル及び3-(ジフェニルアミノ)フェニルボロン酸を入れ、炭酸カリウム水溶液、エタノール、トルエン、及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウムからなる混合溶液中で、窒素下で加熱還流後、得られた生成物を精製し、黄白色固体であるPAPAP-12を収率26%で得た。
【0064】
[実施例1]PAPAP誘導体の溶解性試験
上記合成実施例で得た PAPAP-1及びPAPAP-0に対して、シクロヘキサノンを溶媒として用いて溶解性試験をした。 PAPAP-1及びPAPAP-0をそれぞれ10mg計りとり、シクロヘキサノンを1mL加え、温度約100℃にて熱攪拌を行なった。
【0065】
熱攪拌によって溶解性試験を行うことにより、シクロヘキサノンに対してPAPAP-1は可溶であり、PAPAP-0は不溶であることを確認した。
【0066】
[光学特性評価]
試験サンプルの光学特性評価に用いた機器及び測定条件は以下の通りである。
(1) 紫外・可視 (UV-vis) 分光光度計
(株)島津製作所 UV-2600
測定条件 ; スキャンスピード 中速、測定範囲 200~800 nm サンプリングピッチ
0.5 nm, スリット幅 0.5 nm
(2) 蛍光分光光度計
(株)堀場製作所 FluoroMax 2
光源 : キセノンランプ Integration Time : 5.0 sec
Exicit Mono Slits : 0.300 mm, Emiss Mono Slits : 0.300 mm
(3) 発光量子収率測定
(株)浜松ホトニクス 積分球、起光照射装置 L10092 + A10079
励起光 : 300 ~ 400 nm
【0067】
[実施例2]
PAPAP-1のトルエン溶液 (10-5M) を調製し、吸収 (UV-vis) ・発光 (PL) スペクトルを測定した。結果を図2に示す。UV-vis 吸収スペクトルの結果から、PAPAP-1の吸収端がPAPAP-0よりも長波長化していることが観測された(図2左)。またPLスペクトル(図2右)からも発光波長が長波長化していることが観測された。
【0068】
[実施例3]
PAPAP-1のトルエン溶液 (10-5M) を調製し、発光量子収率を測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0069】
[比較例1]
比較例1として、PAPAP-1に代えてPAPAP-0を用いて、実施例2、3に記載した工程と同じ工程を行うことによって、吸収 (UV-vis) ・発光 (PL) スペクトル、発光量子収率を測定した。
【0070】
[評価結果]
実施例2、3及び比較例1のそれぞれの評価結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
[実施例4]
最初に、予めパターン形成されたITO(indium tin oxide)が100nmの厚さで薄膜蒸着されたガラス基板を、洗剤を溶かした蒸留水に入れて超音波で洗浄した。この時、洗剤としてはフィッシャー社(Fisher Co.)の製品を使用し、蒸留水はミリポア社(Millipore Co.)製品のフィルタで2次ろ過した蒸留水を使用した。上記ITOを30分間洗浄した後、蒸留水で2回繰り返して超音波洗浄を10分間行った。蒸留水洗浄が終わった後、アセトン、蒸留水、イソプロピルアルコール溶剤で順次超音波洗浄をしてから乾燥後、UV-オゾン(O)を用いた表面処理を行った。その後、有機層を形成させるために、正孔注入層、正孔輸送層(HTL)、及び発光層をスピンコートにより順次成膜した。スピンコートによる成膜後、前述の各層が堆積した基板を蒸着装置に入れ、約10-4~約10-5 Paの真空度において、発光層の上にホールブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極を一層ずつ順次堆積させた。
【0073】
より具体的には、上記ITO透明電極上に、下記の化合物Aと下記化合物Bを8:2の重量比で混合した混合物のトルエン溶液(混合物の濃度1質量%)をスピンコート法により塗布し、窒素雰囲気下、ホットプレートで220℃、30分の条件で硬化させ、膜厚40nmの正孔注入層を形成した。
【0074】
【化16】
【0075】
正孔注入層の上に、下記の化合物Cをトルエンに対して1%の重量比で溶解した組成物をスピンコート法により塗布し、ホットプレートで200℃、30分の条件で熱処理して、膜厚20nmの正孔輸送層を形成した。
【0076】
【化17】
【0077】
発光層には、発光ホスト材料として9-(ナフタレン-1-イル)-10-(ナフタレン-2-イル)アントラセン(α,β-ADN)及びドーパント材料としてPAPAP-1を用いた。これらの成分を含む溶液を基材に塗布し溶媒を除去することによって発光層を形成した。溶媒にはシクロヘキサノンを用い、溶液の濃度を2mg/mlに調整し、スピンコート法により膜厚約20nmの層を形成した。ドーパント材料のドーピング量は、ホスト材料の総量を基準にして10質量%だった。
【0078】
次に、発光層の上に、ホールブロック層、電子輸送層、金属層を順次形成させるために、基板を蒸着装置に移し、ホールブロック層を、2-(3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)-[1,1-ビフェニル]-3-イル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン (DBT-TRZ) を用いて、約5nmの厚さの層に形成した。電子輸送層は、ホスト材料として、1,4-ジ(1,10-フェナントロリン-2-イル)ベンゼン ( DPB ) 、ゲスト材料として 8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム ( Liq ) を用いて、約30nmの厚さの層に形成した。ドーパント材料のドーピング量は、ホスト材料の総量を基準にして20質量%だった。電子注入層は、8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム ( Liq )を用いて約1nmの厚さの層に形成し、第二の電極はアルミニウム(Al)を用いて約75nmの厚さの層に形成した。上述した方法にしたがって有機ELデバイスを作製した。
【0079】
[有機ELデバイスの作製及び評価結果]
上述した方法に準拠して作製した有機ELデバイスの発光特性を、浜松ホトニクス株式会社の PHOTONICMULTI-CHANNEL ANALYZER PMA-11 を使用して測定した。測定結果を下の表に示す
【0080】
発光層を形成するときに発光ホスト材料を用いずにPAPAP-1のみを用いてPAPAP-1のノンドープ型有機ELデバイスを作製した。発光特性の測定結果を以下の表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
実施例4で作製した、PAPAP-1のドープ型有機ELデバイスの発光特性の測定結果を以下の表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
表2に示した結果から、本発明の一つの態様である化合物PAPAP-1を発光層(EML)の材料として用いることによって、従来技術であるPAPAP-0を用いた場合には、作製することが困難であった塗布型有機ELデバイスの作製に成功したことがわかる。また表3に示した結果から、発光層を発光材料のみからなる層から発光層をホスト材料にドーピングしたドープ膜に変えることで、有機ELデバイスの発光効率が向上していることがわかる。
【0085】
以下の試験において用いた化合物PAPAP-1及びPAPAP-12は以下の化学式で表される化合物である。
【0086】
【化18】
【0087】
[実施例5]PAPAP誘導体の溶解性の比較試験
溶媒としてシクロヘキサノンを用いて、PAPAP-12及びPAPAP-1の溶解性試験をした。PAPAP-12及びPAPAP-1をそれぞれ10mg計りとり、それぞれにシクロヘキサノンを1ml加え、温度約100℃にて熱攪拌を行なった。
【0088】
熱攪拌条件下で溶解性試験を行うことによって、シクロヘキサノンに対してPAPAP-1及びPAPAP-12はともに可溶であることを確認した。
【0089】
[光学特性評価]
以下の光学特性評価に用いた機器及び測定条件は以下の通りである。
(1) 紫外・可視 (UV-vis) 分光光度計
(株) 島津製作所 UV-2600
測定条件 ; スキャンスピード 中速、測定範囲 200~800 nm サンプリングピッチ
0.5 nm, スリット幅 0.5 nm
(2) 蛍光分光光度計
(株)堀場製作所 FluoroMax 2
光源 : キセノンランプ Integration Time : 5.0 sec
Exicit Mono Slits : 0.300 mm, Emiss Mono Slits : 0.300 mm
(3) 発光量子収率測定
(株)浜松ホトニクス 積分球、起光照射装置 L10092 + A10079
励起光 : 300 ~ 400 nm
【0090】
[実施例6]
PAPAP-12のトルエン溶液 (10-5M) を調製し、吸収 (UV-vis) ・発光 (PL) スペクトルを測定した。結果を図3に示す。UV-vis吸収スペクトルの結果から、PAPAP-12の吸収端がPAPAP-1よりも短波長化していることが観測された。またPLスペクトルからも発光波長が短波長化していることが観測された。
【0091】
[実施例7]
PAPAP-12のトルエン溶液 (10-5M) を調製し、発光量子収率を測定した。測定結果を以下の表4に示す。
【0092】
PAPAP-12に代えてPAPAP-1を用いて、実施例2、3に記載した工程と実質的に同じ工程を行うことによって、吸収 (UV-vis) ・発光 (PL) スペクトル、発光量子収率を測定した。
【0093】
[評価結果]
実施例6、7の評価結果を、表4に示す。
【0094】
【表4】
【0095】
PAPAP-1と比較してPAPAP-12は、発光波長が短く、半値幅が狭く、発光量子収率が高いことがわかる。
【0096】
[実施例8]
最初に、予めパターン形成をし、洗浄をしたITO-ガラス基板に対して、UV-オゾン(O)を用いた表面処理を行った。ITO-ガラス基板のITO層(第一の電極)の厚さは約100nmだった。表面処理の後、有機層を形成させるために、正孔注入層、正孔輸送層(HTL)、発光層をスピンコートにより順次成膜した。スピンコートによる成膜後、前述の各層が堆積した基板を蒸着装置に入れ、約10-4~約10-5Paの真空度において、発光層の上にホールブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極を1つずつ順次堆積させた。
【0097】
より具体的には、上記ITO透明電極上に、下記の化合物Aと下記化合物Bを8:2の重量比で混合した混合物のトルエン溶液(混合物の濃度1質量%)をスピンコート法により塗布し、窒素雰囲気下、ホットプレートで220℃、30分の条件で硬化させ、膜厚40nmの正孔注入層を形成した。
【0098】
【化19】
【0099】
正孔注入層の上に、下記の化合物Cをトルエンに対して1%の重量比で溶解した組成物をスピンコート法により塗布し、ホットプレートで200℃、30分の条件で熱処理して、膜厚20nmの正孔輸送層を形成した。
【0100】
【化20】
【0101】
発光層には、発光ホスト材料として9-(ナフタレン-1-イル)-10-(ナフタレン-2-イル)アントラセン(α,β-ADN)及びドーパント材料としてPAPAP-12を用いた。これらの成分を含む溶液を基材に塗布し溶媒を除去することによって発光層を形成した。溶媒にはシクロヘキサノンを用い、溶液の濃度を2mg/mlに調整し、スピンコート法により膜厚約20nmの層を形成した。ドーパント材料のドーピング量は、ホスト材料の総量を基準にして10質量%だった。
【0102】
次に、発光層の上に、ホールブロック層、電子輸送層、金属層を順次形成させるために、基板を蒸着装置に移し、ホールブロック層を、2-(3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)-[1,1-ビフェニル]-3-イル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン (DBT-TRZ) を用いて、約5nmの厚さの層に形成した。電子輸送層は、ホスト材料として、1,4-ジ(1,10-フェナントロリン-2-イル)ベンゼン ( DPB )、 ゲスト材料として8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム ( Liq ) を用いて、約30nmの厚さの層に形成した。ドーパント材料のドーピング量は、ホスト材料の総量を基準にして20質量%だった。電子注入層は、8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム ( Liq )を用いて約1nmの厚さの層に形成し、第二の電極はアルミニウム(Al)を用いて約75nmの厚さの層に形成した。上述した方法にしたがって有機ELデバイスを作製した。
【0103】
[有機ELデバイスの作製及び評価結果]
上述した方法に準拠して作製した有機ELデバイスの発光特性を、浜松ホトニクス株式会社のPHOTONICMULTI-CHANNEL ANALYZER PMA-11 を使用して測定した。測定結果を下の表に示す
【0104】
発光層を形成するときに発光ホスト材料を用いずにPAPAP-12のみを用いてPAPAP-12のノンドープ型有機ELデバイスを作製した。発光特性の測定結果を以下の表5に示す。
【0105】
【表5】
【0106】
発光層を形成するときに上述したように発光ホスト材料を用いて、PAPAP-12のドープ型有機ELデバイスを作製した。発光特性の測定結果を以下の表6に示す。
【0107】
【表6】
【0108】
表5に示した結果から、本発明の一つの態様である化合物PAPAP-12を発光材料として用いて形成した発光層(EML)を有する有機ELデバイスは、PAPAP-1を発光材料として用いた場合よりも発光波長が短波長化した。また表5及び6に示した結果から発光層をノンドープ膜からドープ膜に変えることで発光効率が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の化合物は、有機電界発光素子のための材料、特に青色発光材料として用いることができる。
【符号の説明】
【0110】
1 ・・・基板
2 ・・・アノード
3 ・・・正孔注入層
4 ・・・正孔輸送層
5 ・・・有機発光層
6 ・・・電子輸送層
7 ・・・カソード
図1
図2
図3