(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】レアメタルの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 59/00 20060101AFI20240401BHJP
B09B 3/80 20220101ALI20240401BHJP
C22B 3/10 20060101ALI20240401BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20240401BHJP
C22B 3/38 20060101ALI20240401BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240401BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C22B59/00
B09B3/80 ZAB
C22B3/10
C22B3/26
C22B3/38
C22B3/44 101A
C22B7/00 Z
(21)【出願番号】P 2020076330
(22)【出願日】2020-04-22
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 宏太
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150588(JP,A)
【文献】特開2019-014928(JP,A)
【文献】特開2017-165995(JP,A)
【文献】特開2014-001430(JP,A)
【文献】特開平03-115534(JP,A)
【文献】特表2000-507308(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103305708(CN,A)
【文献】特開2021-172843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
B09B 3/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Scの回収方法であって、前記方法は、
ScとThとを含む溶液を提供する工程と、
前記ScとThとを含む溶液に対して溶媒抽出を実施する工程と、
前記溶媒抽出の油相に対してスクラビングを実施する工程と、
を含み、
前記スクラビングを実施する工程が、
硫酸を含む溶液でスクラビングを実施する第1サブ工程と、
前記第1サブ工程の後で、塩酸を含む溶液でスクラビングを実施する第2サブ工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、
前記第1サブ工程の硫酸を含む溶液が、H
2O
2を含まない、方法。
【請求項3】
請求項2の方法であって、
前記方法が、塩酸を含む溶液でスクラビングした後のスクラビング後液を、塩酸を含む溶液で浸出させるために再利用する工程を含む、方法。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載の方法であって、前記ScとThとを含む溶液が、チタン鉱石から四塩化チタンを製造する際に生じる塩化残渣に由来する、方法。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載の方法であって、前記ScとThとを含む溶液を提供する工程が、前記ScとThとを含む溶液に硫酸イオンを添加することを含む、方法。
【請求項6】
請求項5の方法であって、前記硫酸イオンを添加することが、硫酸イオンを含む酸性溶液でpHを調節することを含む、
方法。
【請求項7】
請求項5又は6の方法であって、前記ScとThとを含む溶液を提供する工程が、以下を含む、方法:
・塩酸を使用して、ScとThを含む固体状物質又はスラリー状物質から、ScとThを浸出させること、
・固液分離を行い、ScとThを含む浸出後液を得ること、
・前記浸出後液を中和すること、及び、
・前記中和後の浸出後液に対して固液分離を行い、前記ScとThを含む溶液を得ること。
【請求項8】
請求項5~7いずれか1項に記載の方法であって、前記溶媒抽出を実施する工程が、抽出剤として有機リン酸系抽出剤を使用することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レアメタル回収方法に関する。より具体的には、レアメタルの一種であるScの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンはクロール法によりチタン鉱石から精製される。このクロール法では、チタン鉱石とコークスが流動床反応炉に投入され、塩素ガスが流動床反応炉の下部から吹入される。その結果、気体状の四塩化チタンが生成され、これを回収してマグネシウム等で還元し、最終的にはスポンジチタンが生成される。
【0003】
しかし、チタン鉱石の中には、チタン以外にも有用な物質が含まれている。特許文献1では、ScとThとを含む原料からScを回収する方法を開示している。また、原料として、特許文献1では、チタン鉱石とコークスと塩素ガスを反応させて気体又は液体状四塩化チタンを生成する際に生じる固体残渣を使用することを開示している。
【0004】
特許文献2では、Scを含む水相に対して溶媒抽出を行うこと、更には、塩酸水溶液を加えてスクラビングを実施することを開示している。非特許文献1では、硫酸と過酸化水素を使用して、スクラビングすることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-150588号公報
【文献】特開平9-291320号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】A PROCESS FLOWSHEET FOR THE EXTRACTION OF SCANDIUM FROM NIOCORP’S NIOBIUM SCANDIUM ELK CREEK DEPOSIT(Extraction 2018: Proceedings of the First Global Conference on Extractive,January pp.2523-2539)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
工業上の有用性の観点から、Scを回収する際に純度を向上させることが望まれる。換言すれば、Sc以外の不純物の量を低減させることが望まれる。Scを回収する際の不純物の一種としてThが挙げられる。このThは、Scに対する溶媒抽出の際に、Scと同様の挙動を示す傾向がある。従って、Scを回収する際に、不純物であるThの混入を低減させることが困難であった。
【0008】
以上の問題に鑑み、本発明では、Thの混入を低減させたScの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が鋭意検討したところ、溶媒抽出後の工程に着目した。具体的には、硫酸によるThに対するスクラビングの選択性が高いことを見出した。即ち、Scに対するスクラビング効果が低い一方で、Thに対するスクラビング効果が高いという新たな硫酸の性質を見出した。この知見を応用して、溶媒抽出後に硫酸を用いてスクラビングすることで、Thの混入を低減させながらScを回収することができた。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいて完成され、一側面において、以下の発明を包含する。
(発明1)
Scの回収方法であって、前記方法は、
ScとThとを含む溶液を提供する工程と、
前記ScとThとを含む溶液に対して溶媒抽出を実施する工程と、
前記溶媒抽出の油相に対してスクラビングを実施する工程と、
を含み、
前記スクラビングを実施する工程が、
硫酸を含む溶液でスクラビングを実施する第1サブ工程と、
前記第1サブ工程の後で、塩酸を含む溶液でスクラビングを実施する第2サブ工程と、
を含む、方法。
(発明2)
発明1の方法であって、
前記第1サブ工程の硫酸を含む溶液が、H2O2を含まない、方法。
(発明3)
発明2の方法であって、
前記方法が、塩酸を含む溶液でスクラビングした後のスクラビング後液を、塩酸を含む溶液で浸出させるために再利用する工程を含む、方法。
(発明4)
発明1~3いずれか1つに記載の方法であって、前記ScとThとを含む溶液が、チタン鉱石から四塩化チタンを製造する際に生じる塩化残渣に由来する、方法。
(発明5)
発明1~4いずれか1つに記載の方法であって、前記ScとThとを含む溶液を提供する工程が、前記ScとThとを含む溶液に硫酸イオンを添加することを含む、方法。
(発明6)
発明5の方法であって、前記硫酸イオンを添加することが、硫酸イオンを含む酸性溶液でpHを調節することを含む、
方法。
(発明7)
発明5又は6の方法であって、前記ScとThとを含む溶液を提供する工程が、以下を含む、方法:
・塩酸を使用して、ScとThを含む固体状物質又はスラリー状物質から、ScとThを浸出させること、
・固液分離を行い、ScとThを含む浸出後液を得ること、
・前記浸出後液を中和すること、及び、
・前記中和後の浸出後液に対して固液分離を行い、前記ScとThを含む溶液を得ること。
(発明8)
発明5~7いずれか1つに記載の方法であって、前記溶媒抽出を実施する工程が、抽出剤として有機リン酸系抽出剤を使用することを含む、方法。
【発明の効果】
【0011】
一側面において、本発明の方法は、硫酸を含む溶液でスクラビングを実施する第1サブ工程を含む。これにより、Scのスクラビング量を最小限にして、Thをスクラビングすることができる。そして、Scの純度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、本発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0013】
1.概要
一実施形態において、本発明は、Scの回収方法に関する。前記方法は、少なくとも以下の工程を含む。
・ScとThとを含む溶液を提供する工程と、
・ScとThとを含む溶液に対して溶媒抽出を実施する工程と、
・溶媒抽出の油相に対してスクラビングを実施する工程と、
ここで、スクラビングを実施する工程が、
硫酸を含む溶液でスクラビングを実施する第1サブ工程と、
前記第1サブ工程の後で、塩酸を含む溶液でスクラビングを実施する第2サブ工程と、
を含む。
以下では、各工程について、詳述する。
【0014】
2.ScとThとを含む溶液を提供する工程
2-1.ScとThとを含む溶液の調製
ScとThとを含む溶液については、任意の方法で調製することができる。典型的には、ScとThとを含む溶液は、チタン鉱石から四塩化チタンを製造する際に生じる塩化残渣に由来する物であってもよい。
【0015】
従来、チタンは、チタン鉱石からクロール法により精製されるのが一般的である。生成フローの一例として、チタン鉱石とコークスを流動床反応炉に投入する。そして、流動床反応炉の下部から塩素ガスを吹入させる。チタン鉱石は塩素ガスと反応し、四塩化チタンを生じる。四塩化チタンは反応炉内の温度では気体状態にある。この気体状態の四塩化チタンが、次の冷却システムに送られ、冷却される。冷却された四塩化チタンは液体状になり、回収される。
【0016】
気体状態の四塩化チタンが次の冷却システムに送られる際に、気流に乗って微粉状の不純物が一緒に冷却システムに送られる。該不純物には、チタン以外の物質(例えば、Sc、Th等)、未反応の鉱石、未反応のコークス等が含まれる。こうした不純物は、冷却システムにおいて、固体の形状で回収される。本明細書では、この回収された物を塩化残渣と呼ぶ。塩化残渣はスラリー化してもよいし、乾燥粒子群の形態であってもよい。典型的には、スラリー化した物を用いて、Scを回収することができる。
【0017】
上記固体物質又はスラリーは、ScとThを含み、塩酸を使用して、Scを浸出させることができる。この際に、望ましくないことではあるが、Thの一部も一緒に浸出される。塩酸の濃度、及びその他の浸出条件は特に限定されず、公知の条件を採用してもよい。
【0018】
浸出後は、固液分離を行い、残渣と浸出後液とを分離することができる。ScとThの一部は、浸出後液側に分配される。
【0019】
固液分離後の浸出後液に対して、中和を行うことができる。pHを浸出時よりもアルカリ側に調整する工程を含むことができる。これにより、Scを溶液中に残しつつ、Thを沈殿させることができる。
【0020】
中和工程におけるpH範囲は、特に限定されないが、1.3~2.5が好ましい。1.3未満だと、Thの沈殿が生じにくい。一方で、pHが2.5を超えると、Thの沈殿の量が増加せず、むしろ、Scも沈殿するようになる。より好ましい範囲は、pHが1.8~2.3である。これにより、Scが沈殿によってロスすることなく、大部分のThを沈殿させることができる。
【0021】
こうして、中和後の浸出後液に対して、再度、固液分離を行う。これにより、沈殿状態のThは除去される。一方で、液体側では、ScとThを含む溶液を得ることができる。上記中和工程で、全てのThを沈殿させることはできず、一部のThは、Scと一緒に、溶液中に溶解した状態で残る。従って、中和後の固液分離によって得られる溶液は、Scの他に、除去できなかったThを含む。
【0022】
なお、このようにして得られたScとThを含む溶液に対して、溶媒抽出を行う前に、硫酸イオンを添加してもよい。
【0023】
2-2.硫酸イオンの添加
ScとThとを含む溶液を提供する工程は、ScとThとを含む溶液に硫酸イオンを添加することを含むことができる。ここで、添加するとは、任意の態様で実施することができ、ScとThとを含む溶液に硫酸イオンを含む粉末を投入して撹拌する形態に限定されない。例えば、ScとThとを含む溶液に、硫酸イオンを含む溶液を投入してもよいし、或いはその逆であってもよい。
【0024】
硫酸イオンを供給する物質は、固体状態であってもよく、液体状態であってもよい。また、硫酸イオンを供給する物質の例として、硫酸(H2SO4)、及び、硫酸塩を含む。硫酸塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム等が含まれる。硫酸イオンは、溶媒抽出の際に、水相から油相へのThの移動を抑制し、Thを水相に維持するという性質がある。さらに言えば、前記性質は、Scとの関係において、選択的である。具体的には、硫酸イオンは、水相から油相へのThの移動を抑制し、一方で、水相から油相へのScの移動を阻害しないという性質がある。これにより、溶媒抽出の際に、Scに混入するThの量を低減することができる。
【0025】
好ましくは、ScとThとを含む溶液に硫酸イオンを添加することは、硫酸イオンを含む酸性溶液でpHを調節することを含む。硫酸イオンを含む酸性溶液としては、例えば、上述した硫酸塩と、酸(例えば、塩酸)との組み合わせ、或いは、硫酸を含む。好ましくは、成分の簡潔性等の観点から、硫酸である。
【0026】
硫酸イオンを含む酸性溶液により、ScとThとを含む溶液のpHは酸性側に調節される。これにより、Thは、水相にイオンとして存在する状態が安定となる傾向が強くなる。そして、当該傾向により、溶媒抽出の際に、水相に維持される。また、酸性側に調節されることにより、溶媒抽出において、クラッドの発生を抑制することができる。以下の説明は、本発明を限定することを意図するものではないが、pHとクラッドの発生には以下のような関係があると推測される。
・まず、pHが高いと不純物(Fe等)によって抽出剤が消費される量が高まる。
・これにより、Scの量の観点から抽出剤が不十分となる。
・この結果、クラッドが発生する。
・従って、pHを低くすることでクラッドの発生を抑制することができる。
【0027】
なお、pHを調節する際に、最終目標となるpHの範囲として、限定されるものではないが、-1.0~1.0、好ましくは、-0.5~0.5の範囲となるように調節してもよい。
【0028】
3.ScとThとを含む溶液に対して溶媒抽出を実施する工程
上述したように、ScとThを含む溶液に対して、溶媒抽出を行う。より具体的には、溶媒抽出を行って、油相側に、Scを移動させる。ここで、上述した硫酸イオンを予め添加した場合には、油相側に移動するThの量が低減する。これにより、Scの純度が向上する。
【0029】
使用する抽出剤は、特に限定されないが、例えば、有機リン酸系抽出剤であってもよく、具体的には、酸性リン酸エステルであるD2EHPA(Di-(2-ethylhexyl)phosphoric acid)や、ホスホン酸エステルである2-ethylhexyl 2-ethylhexylphosphonicacidや、ホスフィン酸エステルとしてはdi(2,4,4‘-trimethylpentyl) phosphinic acidであってもよい。
【0030】
油相と水相の比率である、O/A比率(体積比)についても特に限定されないが、1/10~1/2であってもよく、好ましくは、1/6~1/4であってよい。O/A比率を高くすれば、クラッドの発生を抑制できるが、その一方でTh等が油相に分配される量が多くなる。O/A比率を低くすれば、Th等が油相に分配される量を低減できるが、その一方で、クラッドの発生が顕著になる。そこで、好ましくは、溶媒抽出前に、pHを酸性側に調節することで、クラッドの発生を抑制しながら、Th等が油相に分配される量を低減できる。
【0031】
4.溶媒抽出の油相に対してスクラビングを実施する工程
溶媒抽出後は、油相に対してスクラビングを実施する。より具体的には、油相に移動したSc以外の不純物量を低減させる。
【0032】
スクラビングを実施する工程は、少なくとも以下のサブ工程を含む。
・硫酸を含む溶液でスクラビングを実施する第1サブ工程
・第1サブ工程の後で、塩酸を含む溶液でスクラビングを実施する第2サブ工程
以下各サブ工程について説明する。
【0033】
4-1.硫酸を含む溶液でスクラビングを実施する第1サブ工程
上記溶媒抽出により、Scが油相に移動する一方で、全てのThは水相側にとどまることが理想的である。しかし、現実には、微量のThが油相側に移動する。そこで、油相側に移動してきたThを除去するべく更にスクラビングを行うことが好ましい。
【0034】
好ましくは、少なくとも二段階でスクラビングを実施することができる。第1サブ工程として、硫酸(H2SO4)を含む溶液でスクラビングを実施することができる。硫酸を含む溶液は、Thに対するスクラビングの効果の選択性が高い。即ち、Scについてはスクラビングされることなく、Thだけを選択的にスクラビングすることができる。硫酸の濃度については、特に限定されず、0.5mol/L~5mol/L、好ましくは、1mol/L~4mol/Lであってもよい。
【0035】
好ましくは、硫酸を含むスクラビング液は、H2O2を含まなくてもよい。不純物濃度が高い場合には(例えば、非特許文献1に示すように)、スクラビングにおける負荷が高くなる。従って、硫酸による効果を補助すべく、H2O2を更に添加する可能性がある。しかし、一実施形態において、本発明では、原料における不純物量がそもそも低いため、H2O2を必要としない。
【0036】
4-2.塩酸を含む溶液でスクラビングを実施する第2サブ工程
第1サブ工程の後は、塩酸を含む溶液でスクラビングを実施する。これにより、油相側に移動してきた他の金属元素(例えば、Fe)をスクラビングすることができる。塩酸を含む溶液は、Feに対するスクラビングの効果の選択性が高い。即ち、Scについてはスクラビングされることなく、Feだけを選択的にスクラビングすることができる。塩酸の濃度は、特に限定されず、3mol/L~5mol/L、好ましくは、3.5mol/L~4.5mol/Lであってもよい。
【0037】
上記2つのサブ工程については、重要なポイントが2つある。1つめの重要なポイントは、第1サブ工程と第2サブ工程を組み合わせるという点である。硫酸を使用したスクラビング(第1サブ工程)では、Thに対するスクラビング効果が優れているが、Feに対するスクラビング効果は、塩酸を使用したスクラビング効果(第2サブ工程)と比べると劣る。一方で、塩酸を使用したスクラビング効果(第2サブ工程)では、Feに対するスクラビング効果が優れている。しかし、Thに対するスクラビング効果はある程度得られるものの、硫酸を使用したスクラビング(第1サブ工程)と比べると劣る。そこで、両者を組み合わせることで、互いの欠点を補うことができる。
【0038】
2つめの重要なポイントは、第1サブ工程の後に、第2サブ工程を行うという点である。第2サブ工程における塩酸を使用したスクラビング液は、その組成が塩酸を利用した浸出液と同一又は類似している。従って、第2サブ工程においてスクラビングを実施した後の液(スクラビング後液)は、塩酸を利用した浸出反応に再利用できる可能性がある。
【0039】
仮に、第1サブ工程を行うことなく(或いは順序を入れ替えて)、第2サブ工程を行った場合には、以下のような事象が発生する可能性がある。スクラビング対象となる油相にはThが含まれており、第2サブ工程によって、Feとともに、ある程度のThがスクラビング後液に含まれることになる。Thは一般的に忌避される物質であるため、こうしたスクラビング後液は、再利用には適さなくなる可能性がある。
【0040】
そこで、第1サブ工程の後に第2サブ工程を行うことにより、第2サブ工程のスクラビング後液にThが含まれる度合いを低減できる。これは、第1サブ工程によって、既に油相からThがスクラビングされているからである。
【0041】
以上の2つのサブ工程を実施することで、Thがスクラビングされ、且つScを含む油相を得ることができる。
【0042】
5.溶媒抽出以降の工程(スクラビングより後の工程)
上記スクラビングを経た後は、公知の手段(特許文献1~2)を用いてScを回収することができる。例えば、NaOH等のアルカリ性水溶液で晶析剥離を行い、水酸化スカンジウムスラリーを得て、水酸化スカンジウムスラリーを濾過してか焼し、最後はSc2O3の形で回収することができる。もしくは、得られたSc(OH)3を浸出し、シュウ酸等のカルボン酸を用いてスカンジウムをカルボン酸スカンジウムの形で沈殿させ更にか焼して、Sc2O3の形態で回収することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の理解を促進するため、更に具体的な実施例を開示する。
【0044】
塩化残渣は、チタン製錬において揮発した四塩化チタンを回収するための炉において、固形物として回収された物質である。該塩化残渣は、東邦チタニウム株式会社から入手した。また、該塩化残渣は、水洗済みのスラリー状態であった。
【0045】
スラリー、固体及び溶液中におけるSc、Th、及びFeの量の分析については、アルカリ融解-ICP発光分光分析法を用いた(ICP-AES、セイコーインスツル株式会社製、SPS7700)。
【0046】
上述したスラリーを塩酸で浸出させ、固液分離を行い、浸出後液を得た。浸出液に対して、中和を行い、更に固液分離を行い、Sc等を含む溶液を得た。
【0047】
6.実施例(スクラビング前の溶媒抽出)
上記Sc等を含む溶液に対して硫酸又は塩酸を添加した。硫酸又は塩酸の添加量は、最終濃度が表1に記載の濃度となるようにした。その後、D2EHPAを7.5%、改質剤としてTBPを3%含む有機溶媒を、O/A比率(体積比)が1/5になるように添加した。その後、水相側に残存したSc、Th、及びFeを測定し、抽出率(元々水相側に存在していた量に対して、油相側に分配された量)を算出した。
結果を表1に示す。
【表1】
【0048】
上記実験例1~4いずれにおいても、Scは100%油相側に抽出されていた。しかし、実験例4を参照すると、塩酸を添加した場合、Scだけでなく、Thも同程度の抽出率で油相側に抽出されてしまった。しかし、実験例2~3を参照すると、硫酸を添加した場合、Scの抽出率100%を達成する一方で、Thの抽出率を抑制することができた。このTh抽出率の違いは、単純にpHを調節する効果だけでは説明がつかない。なぜならば、実験例4では、実験例2と同等のpHに調整しているからである。しかし、実験例2では、Th抽出率の抑制効果が、実験例4よりも優れている。従って、Thの抽出率の抑制効果は、硫酸の水素イオンではなく、硫酸イオンによるものであることが示された。更に、実験例3では、硫酸イオン濃度が高くなるにしたがってThの抽出率の抑制効果が上がる事が示された。
【0049】
また、実験例1では、クラッドの発生が観察されたが、一方で、実験例2~4では観察されなかった。また、実験例1の変形例として、O/A比を1/5.7に変更(実験例1A)した実験と、O/A比を1/3.5に変更(実験例1B)した実験を実施した。実験例1Aでは、実験例1と比べると、Thの抽出率を抑えることができたが、クラッドが発生してしまった。一方で、実験例1Bでは、実験例1と比べると、クラッドが観察されなかったが、Thの抽出率が実施例1と同等であった。このように、硫酸の添加は、クラッドの発生を防ぎながら、O/A比率を下げることができ、そして、O/A比率を下げることにより、Thの抽出率を抑制する作用があることが示された。
【0050】
7.実施例(スクラビングによるTh等の除去)
Scを含む油相に対して、表2の条件でスクラビングを実施した。O/A比率(体積比)は1/1であった。スクラビング率は、スクラビング後の有機相中の各元素の濃度を、スクラビング前の有機相中の各元素の濃度で割って算出した。
【表2】
実験例5~6を参照すると、塩酸を含むスクラビング液では、Thをある程度スクラビングするものの、Feをより顕著にスクラビングする傾向が見られた。一方で、実験例7~9を参照すると、硫酸を含むスクラビング液では、Feをある程度スクラビングするものの、Thをより顕著にスクラビングする傾向が見られた。また、実験例5~9において、塩酸及び硫酸のいずれも、Scのスクラビングには大きく影響しなかった。実験例10を参照すると、Th及びFeいずれに対してもスクラビング効果を示すものの、選択性は見られなかった。
【0051】
以上のことから、塩酸を含むスクラビング液で処理する前に、硫酸を含むスクラビング液で処理することで、塩酸を含むスクラビング後液に含まれるTh量を低減できることが示された。従って、塩酸を含むスクラビング後液を、浸出工程などに再利用することができることが示された。
【0052】
8.実施例(スクラビングの組み合わせ)
また、両方のスクラビングを組み合わせたときの効果を確認する目的で、硫酸を含むスクラビング液で処理する工程と、当該工程の後に塩酸を含むスクラビング液で処理する工程とを組み合わせて実施した。具体的には、硫酸1mol/L、O/A比率1/1でのスクラビングを1段実施し、その後で、塩酸4mol/l、O/A比1/4でのスクラビングを向流で4段実施した。結果として、Scのスクラビング率は、0.0%、Thのスクラビング率は、99.6%、Feのスクラビング率は、99.8%であった。
【0053】
従って、両方のスクラビングを組み合わせることで、Th及びFeの両方について、良好なスクラビング率を達成することができた。
【0054】
9.実施例(スクラビングの組み合わせによって得られるSc(OH)
3
の品位)
また、2つのスクラビングを組み合わせた場合と、従来の1段階のスクラビングだけの場合とで、最終的に得られるSc(OH)3の品位を比較する実験を実施した。2つのスクラビングを組み合わせた場合については、上記「8.実施例(スクラビングの組み合わせ)」で述べた条件でスクラビングを実施し、その後2MのNaOHで逆抽出を行い、Sc(OH)3スラリーを得た。比較対象では、1段階のスクラビングとして、塩酸4mol/l、O/A比1/4でのスクラビングを向流で4段実施し、その後2MのNaOHで逆抽出を行い、Sc(OH)3スラリーを得た。
【0055】
各スラリーについて、Sc、Th、Feの品位を測定し、Th/Sc比率(mg比率)、及びFe/Sc比率(mg比率)を算出した。比較対象では、Th/Sc比率が6.3×10-3であり、Fe/Sc比率が1.3×10-3であった。
【0056】
一方で、スクラビングを組み合わせた場合では、Th/Sc比率が1.3×10-4であり、Fe/Sc比率が1.3×10-4であった。
【0057】
従って、スクラビングを組み合わせることで、Scの純度が向上することが示された。
【0058】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、本発明の具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。