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特許7463299ハイドロゲル形成用組成物、ハイドロゲル、及びハイドロゲル形成用組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ハイドロゲル形成用組成物、ハイドロゲル、及びハイドロゲル形成用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/00 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
C08F299/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020568176
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2020002007
(87)【国際公開番号】W WO2020153382
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2019008738
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 明士
(72)【発明者】
【氏名】小林 悟朗
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-513408(JP,A)
【文献】特開平04-007302(JP,A)
【文献】特開平04-222892(JP,A)
【文献】特開平08-206188(JP,A)
【文献】特開平09-080045(JP,A)
【文献】特開平04-292169(JP,A)
【文献】Stephanie J. Bryant et al.,Synthesis and Characterization of Photopolymerized Multifunctional Hydrogels: Water-Soluble Poly(Vinyl Alcohol) and Chondroitin Sulfate Macromers forChondrocyte Encapsulation,Macromolecules,米国,American Chemical Society,2004年07月08日,37,6726-6733
【文献】スチルバゾリウム化PVA高濃度水溶液の光ゲル化挙動,JSR TECHNICAL REVIEW,日本,日本合成ゴム株式会社総務部広報室,1991年03月25日,No.97,50-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 299/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和基を有する重合度450以上のビニルアルコール系重合体を含むハイドロゲル形成用組成物であり、前記エチレン性不飽和基の導入率が、ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位中0.01~10モル%であり、且つ日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて検出できる微生物が存在しないことを特徴とするハイドロゲル形成用組成物であって、
前記エチレン性不飽和基が、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルフェニル基、ノルボルネニル基及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であるハイドロゲル形成用組成物。
【請求項2】
請求項1記載のハイドロゲル形成用組成物の製造方法であって、前記ビニルアルコール系重合体と溶媒とを混合した組成物調製液を滅菌することを特徴とするハイドロゲル形成用組成物の製造方法。
【請求項3】
前記滅菌がオートクレーブによる滅菌である、請求項に記載のハイドロゲル形成用組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載のハイドロゲル形成用組成物を架橋することを特徴とするハイドロゲルの製造方法。
【請求項5】
請求項1記載のハイドロゲル形成用組成物を架橋することを特徴とする架橋ハイドロゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体を含む滅菌されたハイドロゲル形成用組成物に関する。また、本発明は、前記ハイドロゲル形成用組成物を用いたハイドロゲル、及び前記ハイドロゲル形成用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略称することがある)は、親水性、反応性、生分解性、生体適合性、及び低毒性等に優れた特長を有する水溶性合成ポリマーであり、架橋することで柔軟性及び強度が高いゲルを形成する。ポリビニルアルコールからなるハイドロゲル材料は、3Dプリンターやモールドを用いて様々な形状に成形することでコンタクトレンズ(例えば特許文献1)、臓器モデル(例えば特許文献2)、ドラッグデリバリー担体(例えば非特許文献1)、細胞や微生物のカプセル化担体(例えば非特許文献2)等に用いることが可能である。また、医療機器をPVAハイドロゲルにてコーティング(例えば特許文献3)することで血液適合性等の物性を付与することも可能である。更に、現場で特定の場所に注入してPVAハイドロゲルを形成させるような用途、例えば人工脊椎椎間板核(例えば特許文献4)、地盤改良材(例えば特許文献5)、防汚塗料(例えば特許文献6)等の多岐にわたる用途が提案されている。
【0003】
従来、PVAを架橋してゲルを得る方法としては、例えば、アルデヒド基を2つ以上含有する架橋剤(グルタルアルデヒド等)による架橋方法が知られていた。しかし、近年ではグルタルアルデヒドよりも効率的に架橋できる方法として、エチレン性不飽和基をペンダントに有するPVAマクロマーが提案されている(特許文献1、4及び非特許文献3)。このPVAマクロマーは、光や熱等の刺激により速やかに硬化するといった刺激硬化性がある。
前記PVAマクロマーを用いる場合、まずエチレン性不飽和基をペンダントに有するPVAマクロマーを水系溶媒に溶解したインクを製造するが、通常の環境で製造されたインクは流通段階を含む長期間の貯蔵によりカビが発生するという問題ある。そして、前記用途のうち、ドラッグデリバリー担体、細胞や微生物のカプセル化担体、人工髄核等は体内でPVAハイドロゲルを形成させるか、PVAハイドロゲルを形成させた後にそのまま体内へ導入することからインク自体を事前に滅菌しておく必要がある。
【0004】
エチレン性不飽和基を有するPVAマクロマーを水系溶媒に溶解したインクを滅菌する方法としては、例えば非特許文献4及び5に、細孔径0.22μmフィルターにPVAインクを通すことでろ過滅菌する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表平10-513408号公報
【文献】特開2011-008213号公報
【文献】特表2002-506813号公報
【文献】特表2008-510021号公報
【文献】特開2007-246770号公報
【文献】国際公開第2017/010459号
【非特許文献】
【0006】
【文献】アクタバイオマテリアリア(Acta Biomaterialia)、2010年、第6巻、p.3899-3907
【文献】ジャーナルオブケミカルテクノロジーアンドバイオテクノロジー(Journal of Chemical Technology and Biotechnology)、2000年、第75巻、p.541-546
【文献】ジャーナルオブポリマーサイエンス:パートA:ポリマーケミストリー(Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry)、1997年、第35巻、p.3603-3611
【文献】バイオマテリアルズ(Biomaterials)、2002年、第23巻、p.4325-4332
【文献】マクロモレキュールズ(Macromolecules)、2004年、第37巻、p.6726-6733
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献4及び5に記載されたフィルターによるろ過滅菌によれば、滅菌されたPVAインクを製造することが可能であるが、ろ過時の圧力損失の関係で重合度が450よりも小さいPVAしか用いることができないという問題がある。そして、重合度450未満のPVAマクロマーを原料としたPVAハイドロゲルは、その機械的強度が脆弱であるという問題があった。
【0008】
なお、ろ過滅菌以外の滅菌法として、ガンマ線滅菌や電子線滅菌等のエネルギー線を用いる方法が挙げられるが、エチレン性不飽和基が反応し、PVAマクロマーが架橋するという問題がある。
一方、PVAマクロマーの固体をエチレンオキサイドガス滅菌して、隔離された無菌環境下で滅菌された水系溶媒に溶解してPVAインクを製造する方法もあるが、この方法では操作が極めて煩雑となり、装置を含めて多大なコストがかかる。
更に、オートクレーブにより滅菌する方法が挙げられるが、非特許文献1等には既に架橋したPVAハイドロゲルに対してオートクレーブ滅菌する方法のみが開示されており、PVAインクを滅菌する点については開示されていない。非特許文献1等の技術は架橋後のPVAハイドロゲルを滅菌するものであり、例えば細胞や微生物を含む架橋したPVAハイドロゲルをオートクレーブ滅菌すると、含有させた細胞や微生物も死滅してしまう。さらに人工髄核では体内にPVAインクを注入して硬化させるため、流動性のあるPVAインクの状態で滅菌しておく必要があるが、非特許文献1等の技術ではこれに対応できない。
【0009】
本発明は、機械的強度が高く、且つ滅菌されたハイドロゲルを形成することができるハイドロゲル形成用組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、前記ハイドロゲル形成用組成物を用いたハイドロゲル、及び前記ハイドロゲル形成用組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が鋭意検討を行った結果、エチレン性不飽和基を有する重合度450以上のビニルアルコール系重合体であって、エチレン性不飽和基の導入率が、ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位中0.01~10モル%であるビニルアルコール系重合体を用いると、エチレン性不飽和基の密度が低いため、オートクレーブ等により滅菌できることを見出した。また、重合度が450以上のビニルアルコール系重合体を用いているため、これを含むハイドロゲル形成用組成物を架橋して得られたハイドロゲルが機械的強度に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明は、下記[1]~[5]に関する。
[1]エチレン性不飽和基を有する重合度450以上のビニルアルコール系重合体を含むハイドロゲル形成用組成物であり、前記エチレン性不飽和基の導入率が、ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位中0.01~10モル%であり、且つ日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて検出できる微生物が存在しないことを特徴とするハイドロゲル形成用組成物。
[2]前記エチレン性不飽和基が、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルフェニル基、ノルボルネニル基及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である、前記[1]に記載のハイドロゲル形成用組成物。
[3]前記[1]又は[2]に記載のハイドロゲル形成用組成物の製造方法であって、前記ビニルアルコール系重合体と溶媒とを混合した組成物調製液を滅菌することを特徴とするハイドロゲル形成用組成物の製造方法。
[4]前記滅菌がオートクレーブによる滅菌である、前記[3]に記載のハイドロゲル形成用組成物の製造方法。
[5]前記[1]又は[2]に記載のハイドロゲル形成用組成物を架橋したハイドロゲル。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、機械的強度が高く、且つ滅菌されたハイドロゲルを形成することができるハイドロゲル形成用組成物を提供できる。また、本発明は、前記ハイドロゲル形成用組成物を用いたハイドロゲル、及び前記ハイドロゲル形成用組成物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、詳細に説明する。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、「メタクリル」と「アクリル」との総称を意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、「メタクリロイル」と「アクリロイル」との総称を意味する。
【0014】
[ハイドロゲル形成用組成物]
本発明のハイドロゲル形成用組成物は、エチレン性不飽和基を有する重合度450以上のビニルアルコール系重合体を含むハイドロゲル形成用組成物であり、前記エチレン性不飽和基の導入率が、ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位中0.01~10モル%であり、且つ日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて検出できる微生物が存在しないことを特徴とするものである。
本発明のハイドロゲル形成用組成物は、エチレン性不飽和基を有する重合度450以上のビニルアルコール系重合体を用いているため、機械強度に優れるハイドロゲルを得ることが可能である。また、形成用組成物中のエチレン性不飽和基の密度が低いPVAマクロマーを用いているためオートクレーブ等により滅菌できる。
【0015】
<エチレン性不飽和基を有する重合度450以上のビニルアルコール系重合体>
本発明のハイドロゲル形成用組成物は、エチレン性不飽和基を有する重合度450以上のビニルアルコール系重合体(以下、単に「ビニルアルコール系重合体」ともいう)を用いるものである。
本発明において用いる前記ビニルアルコール系重合体としては、エチレン性不飽和基を有し、重合度が450以上であって、ビニルアルコール由来の構造単位を重合体中に50モル%超含有するものであれば特に制限はなく、ビニルエステル由来の構造単位を含有してもよい。前記ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位に対するビニルアルコール由来の構造単位及びビニルエステル由来の構造単位の合計量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上である。
【0016】
前記エチレン性不飽和基としては特に制限はなく自由に選択できるが、以下に述べる活性エネルギー線、熱、レドックス開始剤等によりビニルアルコール系重合体鎖間で架橋を形成することができる基が好ましい。前記エチレン性不飽和基としてはラジカル重合性基を用いることがより好ましく、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルフェニル基、シクロヘキセニル基、シクロペンテニル基、ノルボルネニル基、ジシクロペンテニル基等の環式不飽和炭化水素基及びこれらの誘導体が挙げられる。これらのエチレン性不飽和基は、ビニルアルコール系重合体鎖の側鎖や末端のいずれに存在してもよい。
なお、本発明における「ビニル基」には、エテニル基だけでなく、アリル基やアルケニル基等の鎖式不飽和炭化水素基、ビニルオキシカルボニル基等も含む。
【0017】
前記ラジカル重合性基の中でも、ハイドロゲルの機械的強度を向上させる観点から、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルフェニル基、ノルボルネニル基及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。また、反応性の観点からは、末端不飽和炭素結合を有する官能基が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基がより好ましい。
【0018】
ビニルアルコール系重合体の重合度は、ハイドロゲル形成用組成物を架橋して得られるハイドロゲルの脆化を抑制する観点から、450以上であることが求められる。重合度が450未満であるとハイドロゲルの機械的強度が極端に低下し、重合度が450以上であれば良好な機械的強度を示すためである。ハイドロゲル形成用組成物の高粘度化を抑制し、加工容易性を向上させる観点から、ビニルアルコール系重合体の重合度は、好ましくは10,000以下、より好ましくは5,000以下、更に好ましくは3,000以下であり、好ましくは500以上、より好ましくは1,000以上、更に好ましくは1,500以上である。なお、ビニルアルコール系重合体は、異なる重合度のものを2種以上混合して用いてもよい。
本明細書におけるビニルアルコール系重合体の重合度は、JIS K 6726:1994に準じて測定される重合度をいう。具体的には、ビニルアルコール系重合体と後述する原料となるポリビニルアルコールとの重合度は同一とみなせるため、原料となるポリビニルアルコールを精製した後に30℃の水中で測定した極限粘度から求めることができる。
【0019】
<ビニルアルコール系重合体の製造方法>
本発明において用いるビニルアルコール系重合体、すなわちエチレン性不飽和基を有する重合度450以上のビニルアルコール系重合体の製造方法としては、原料となるポリビニルアルコール(以下、「原料PVA」とも略称する)の側鎖や末端官能基等を介してエチレン性不飽和基を導入する方法や、原料PVAの製造過程でビニルエステル系単量体と、ビニルエステル系単量体以外の他の単量体であって、水酸基以外の反応性置換基を有する単量体とを共重合した後、該共重合体中の前記反応性置換基とエチレン性不飽和基を有する化合物とを反応させることにより、エチレン性不飽和基を導入する方法等が挙げられる。
【0020】
まず、原料PVAは、ビニルエステル系単量体を重合して得られるポリビニルエステルをけん化し、該ポリビニルエステル中のエステル基を水酸基に変換することによって製造することができる。
前記ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n-酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、及びオレイン酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル;安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられる。これらの1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
前記ビニルエステル系単量体の中でも、脂肪族ビニルエステルが好ましく、製造コストの観点から、酢酸ビニルがより好ましい。すなわち前記ポリビニルエステルは、酢酸ビニルを重合したポリ酢酸ビニルであることが好ましい。
【0021】
また、前記ポリビニルエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてビニルエステル系単量体以外の他の単量体に由来する構造単位を含んでもよい。該他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン等のα-オレフィン;(メタ)アクリル酸又はその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸又はその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその塩若しくは4級塩、N-メチロール(メタ)アクリルアミド又はその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸又はその塩、エステル若しくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等を挙げることができる。これらの1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記ポリビニルエステルが他の単量体に由来する構造単位を含む場合、他の単量体に由来する構造単位の含有量は、該ポリビニルエステルを構成する全構造単位に対して20モル%未満であることが好ましく、10モル%未満であることがより好ましく、5モル%未満であることが更に好ましい。
【0023】
前記ポリビニルエステルをけん化する方法は、特に制限されず、従来と同様の方法で行うことができる。例えば、アルカリ触媒又は酸触媒を用いる加アルコール分解法、加水分解法等が適用できる。中でも、メタノールを溶剤とし苛性ソーダ(NaOH)触媒を用いるけん化反応が簡便であり好ましい。
【0024】
原料PVAの重合度は450以上であり、具体的な好適範囲は、前記ビニルアルコール系重合体の重合度と同一である。また、原料PVAは、異なる重合度のものを2種以上混合して用いてもよい。
なお、本明細書における原料PVAの重合度は、前述のとおり、JIS K 6726:1994に準じて測定される重合度をいう。具体的には、原料PVAをけん化し、精製した後に30℃の水中で測定した極限粘度から求めることができる。
【0025】
原料PVAのけん化度は、原料PVAの水溶性を向上させる観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは65モル%以上である。
また、後述するハイドロゲル形成用組成物の高粘度化を抑制し、該ハイドロゲル形成用組成物の保存安定性を向上させる観点から、原料PVAのけん化度は、好ましくは99モル%以下である。
本明細書において、原料PVAのけん化度は、原料PVAを構成する、けん化によりビニルアルコール単位に変換されうる構造単位(例えば酢酸ビニル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)を意味し、JIS K 6726:1994に準じて測定することができる。
【0026】
原料PVAの20℃における4質量%粘度は、0.5~100mPa・sが好ましく、1~80mPa・sがより好ましく、2~60mPa・sが更に好ましい。前記粘度が前記範囲内であると、ハイドロゲル形成用組成物の粘度を低く抑えつつ、保存安定性を向上させることができる。
なお、本明細書における粘度は、原料PVAが4質量%の水溶液について、JIS K 6726:1994の回転粘度計法に準じてB型粘度計(回転数12rpm)を用いて温度20℃での粘度をいう。
【0027】
原料PVAへの前記エチレン性不飽和基の導入は、原料PVAの側鎖や末端官能基等を介して行うことが好ましく、原料PVAの側鎖の水酸基にエチレン性不飽和基を含有する化合物(以下、「エチレン性不飽和基含有化合物」とも略称する)を反応させることがより好ましい。
原料PVAの側鎖である水酸基に対して反応させるエチレン性不飽和基含有化合物として、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸無水物、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸又はその誘導体が挙げられ、これらの化合物を塩基存在下で、エステル化反応又はエステル交換反応させることにより、(メタ)アクリロイル基を導入できる。前記エチレン性不飽和基含有化合物の中でも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸無水物、及び(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましく、(メタ)アクリル酸ビニルが更に好ましい。
【0028】
また、原料PVAの側鎖である水酸基に対して反応させるエチレン性不飽和基含有化合物としては、分子内にエチレン性不飽和基とグリシジル基とを含む化合物が挙げられ、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの化合物を、塩基存在下でエーテル化反応させることにより、原料PVAに対して(メタ)アクリロイル基やアリル基を導入することができる。
【0029】
更に、原料PVAの1,3-ジオール基に対して反応させるエチレン性不飽和基含有化合物としては、例えば、アクリルアルデヒド(アクロレイン)、メタクリルアルデヒド(メタクロレイン)、5-ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒド、7-オクテナール、3-ビニルベンズアルデヒド、及び4-ビニルベンズアルデヒド等の分子内にエチレン性不飽和基とアルデヒド基とを含む化合物が挙げられる。これらの化合物を酸触媒存在下でアセタール化反応させることにより、原料PVAに対してエチレン性不飽和基を導入することができる。より具体的には、例えば5-ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒド、3-ビニルベンズアルデヒドや4-ビニルベンズアルデヒド等をアセタール化反応させることにより原料PVAに対してノルボルネニル基やビニルフェニル基を導入することができる。また、N-(2,2-ジメトキシエチル)(メタ)アクリルアミド等を反応させることにより原料PVAに対して(メタ)アクリロイルアミノ基を導入することが可能である。
原料PVAを用いてエチレン性不飽和基を導入する方法は例示された前記反応以外も用いることができ、2種以上の反応を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
前記エチレン性不飽和基を導入する他の方法としては、原料PVAの製造過程で、ビニルエステル系単量体と、ビニルエステル系単量体以外の他の重合性単量体であって、水酸基以外の反応性置換基を有する単量体とを共重合し、その後けん化することで共重合変性ポリビニルアルコール(以下、「共重合変性PVA」とも略称する)を得た後、共重合変性PVA中に存在するカルボキシ基や、共重合変性PVA中に存在するアミノ基等とエチレン性不飽和基含有化合物とを反応させる方法が挙げられる。なお、カルボキシ基を有する共重合変性PVAを「カルボン酸変性PVA」、アミノ基を有する共重合体を「アミノ変性PVA」という場合がある。
【0031】
カルボン酸変性PVAを構成する単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸無水物等及びその誘導体等が挙げられる。カルボン酸変性PVAは、例えばビニルエステル系単量体とα,β-不飽和カルボン酸無水物等又はその誘導体とを共重合し、その後けん化し、導入されたカルボキシ基に対して、例えばグリシジルメタクリレートを酸性条件で反応させることでエステル結合を生成させメタクリロイル基を導入できる。
【0032】
また、アミノ変性PVAは、ビニルエステル系単量体とN-ビニルホルムアミド等とを共重合し、その後けん化し、導入されたアミノ基に対して、例えばアクリル酸無水物を塩基存在下でアミド化反応させることによりアクリロイルアミノ基を導入できる。また、前記アミノ変性PVAのアミノ基に対して例えばアジピン酸ジビニルをアミド化反応させることによりビニルオキシカルボニル基を導入できる。共重合変性PVAを経てエチレン性不飽和基を導入する方法は例示された前記反応以外も用いることができ、2種以上の反応を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体としては、製造容易性の観点から、1,3-ジオール基等の原料PVAの側鎖の水酸基を介してエチレン性不飽和基を導入したビニルアルコール系重合体が好ましく、原料PVAの側鎖の水酸基に対して(メタ)アクリル酸又はその誘導体をエステル化反応又はエステル交換反応させたビニルアルコール系重合体や、原料PVAの1,3-ジオール基に対して分子内にエチレン性不飽和基とアルデヒド基とを含む化合物をアセタール化反応させたビニルアルコール系重合体がより好ましい。
【0034】
〔エチレン性不飽和基の導入率〕
エチレン性不飽和基の導入率は、ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位中0.01~10モル%である。エチレン性不飽和基の導入率が前記下限値以上であると架橋反応を促進しハイドロゲルを迅速に形成することができる。一方、エチレン性不飽和基の導入率が前記上限値以下であると、得られるハイドロゲルの弾性率を向上させることができる。これらの観点から、エチレン性不飽和基の導入率は、ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位中、好ましくは0.05モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、更に好ましくは0.5モル%以上である。そして、ハイドロゲルの脆化を抑制する観点から、好ましくは8モル%以下、より好ましくは5モル%以下、更に好ましくは3モル%以下、より更に好ましくは2モル%以下、より更に好ましくは1.5モル%以下である。
【0035】
<ハイドロゲル形成用組成物の製造方法>
本発明のハイドロゲル形成用組成物の製造方法に特に制限はないが、例えば、滅菌した前記ビニルアルコール系重合体と、滅菌した溶媒とを無菌下で混合する方法(以下、「前滅菌法」と略称することがある)や、前記ビニルアルコール系重合体と溶媒とを混合した組成物調製液を滅菌する方法(以下、「後滅菌法」と略称することがある)等が挙げられる。以下に具体的な方法を説明する。
【0036】
前記ビニルアルコール系重合体、溶媒、及び組成物調製液等の本発明において滅菌する必要がある化合物等の滅菌方法に特に制限はなく、日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて検出できる微生物が存在しないように滅菌できればどのような方法でもよい。
具体的な滅菌方法としては、例えば、オートクレーブ滅菌法、エチレンオキサイドガス滅菌法、過酸化水素低温プラズマ滅菌法、乾熱滅菌法、グルタルアルデヒド等による化学滅菌法、ガンマ線又は電子線による放射線滅菌法等を用いることが可能である。なお、本発明においては、重合度が450以上のビニルアルコール系重合体を用いているため、ろ過滅菌法を採用することは困難であるが、前記前滅菌法に用いる溶媒を滅菌する方法としては、ろ過滅菌法を採用することができる。
これらの中でも、操作の簡便さ、ビニルアルコール系重合体の安定性の観点から、後滅菌法が好ましく、オートクレーブ滅菌法を採用することが好ましい。
【0037】
オートクレーブ滅菌の条件は特に制限はないが、例えば、110~135℃、飽和水蒸気中、10~40分間行うことが好ましい。ビニルアルコール系重合体の安定性の観点から、オートクレーブ滅菌の条件は、115~130℃で15~35分間行うことがより好ましく、120~130℃で15~30分間行うことが更に好ましく、120~125℃で15~20分間行うことが好ましい。
なお、本発明のオートクレーブ滅菌とは、高圧蒸気滅菌器中で加熱蒸気により滅菌処理する方法を指す。通常、オートクレーブ滅菌は加熱蒸気の温度が115℃の場合30分間、121℃の場合20分間、あるいは126℃の場合15分間行うが、高圧蒸気滅菌器及び製剤のスケールに応じて適宜前記条件にて行うことができる。
【0038】
本発明のハイドロゲル形成用組成物に用いることができる溶媒としては、水が好ましく、水溶性有機溶媒を含有してもよい。水溶性有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のモノアルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の水溶性有機溶媒を混合して使用してもよい。
【0039】
前記ハイドロゲル形成用組成物が前記水溶性有機溶媒を含有する場合、その含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
前記ハイドロゲル形成用組成物中の溶媒の含有量は、50質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、そして、99質量%以下が好ましく、98質量%以下がより好ましく、95質量%以下が更に好ましい。
【0040】
また、ハイドロゲル形成用組成物中の前記ビニルアルコール系重合体の含有量は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましい。また、ハイドロゲル形成用組成物の高粘度化を抑制し、良好な成形性を得る観点から、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましく、30質量%以下がより更に好ましい。前記ビニルアルコール系重合体の含有量が1質量%未満では得られるゲルの強度が低く、50質量%を越えるとハイドロゲル形成用組成物の粘度が高くなる。
【0041】
前記溶媒は緩衝液又は培地であってもよい。上記緩衝液又は培地としては、一般的に細胞培養に使用されているものであれば特に制限はないが、緩衝液としては、例えばクエン酸緩衝液、フタル酸緩衝液、3,3-ジメチルグルタル酸緩衝液、酢酸緩衝液、カコジル酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、N-エチルモルホリン緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液等の一般的な緩衝液;リン酸緩衝生理食塩水、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)緩衝液、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンプロパンスルホン酸(HEPPS)緩衝液、Earle液、Hanks液等の生化学用緩衝液;培地としては、イーグル最小必須培地(E-MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(D-MEM)、ハムF-12培地等の動物細胞培養用培地;植物・微生物用培地等が挙げられる。
【0042】
<任意成分>
本発明のハイドロゲル形成用組成物は、ハイドロゲルの用途に応じて適宜下記成分を含有することができる。
〔ポリチオール〕
本発明のハイドロゲル形成用組成物は、ポリチオールを含んでもよい。前記エチレン性不飽和基としてビニル基を有するビニルアルコール系重合体を用いる場合、硬化を促進する観点から、例えば分子内に2つ以上のチオール基を有するポリチオールを添加して、チオール-エン反応を利用して架橋してもよい。このようなポリチオールとしては、水溶性を示すものが好ましく、例えばジチオスレイトール等の水酸基を有するポリチオール;3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、ポリエチレングリコールジチオール、マルチアームポリエチレングリコール等の末端チオール化物等のエーテル結合を含有するポリチオール等が挙げられる。
【0043】
チオール-エン反応はビニル基とチオール基が原理的には1対1で反応するため、チオール基がビニル基に対して大過剰とならないように前記ポリチオールを添加することが好ましい。具体的には、ビニル基1モルに対するチオール基の量は、0.1~5モルが好ましく、0.3~2モルがより好ましく、0.5~1モルが更に好ましい。ビニル基1モルに対するチオール基の量が前記範囲であれば、ハイドロゲルの機械的強度等が向上する。なお、チオール-エン反応による硬化は、エチレン性不飽和基としてビニルオキシカルボニル基を有するビニルアルコール系重合体について用いてもよい。
【0044】
〔ポリマー粒子〕
本発明のハイドロゲル形成用組成物は、ポリマー粒子を含んでもよい。ポリマー粒子は通常の乳化重合により製造できる硬質及び軟質のポリマー粒子を用いることができる。ハイドロゲル形成用組成物がポリマー粒子を含有すると、ハイドロゲルに外的な応力がかかった際にポリマー粒子が応力を緩和し、及び/又は崩壊し、応力を散逸することでハイドロゲルに発生する微小なクラックの進展を止めることができる。このため、ゲル全体が崩壊することを防ぎ、ゲルの強靭性が増す。
【0045】
ポリマー粒子を構成する重合体は一種の単量体単位からなる重合体でもよく、複数種の単量体単位からなる共重合体でもよい。また、複数の重合体の混合物であってもよい。
前記単量体としては、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン;スチレン、α-メチルスチレン、tert-ブチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリル酸及びその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル;酢酸ビニル、n-プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物;エテン、プロペン、n-ブテン、イソブテン等のモノオレフィン;臭化ビニル、臭化ビニリデン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化エチレン;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸及びその塩;マレイン酸エステル、イタコン酸エステル等の不飽和ジカルボン酸エステル;トリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;シクロペンタジエン、ノルボルナジエン等の環状ジエン;インデン、テトラヒドロインデン等のインデン類;エチレンオキシド、プロピレンオキシド、オキセタン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル;チイラン、チエタン等の環状スルフィド;アジリジン、アゼチジン等の環状アミン;1,3-ジオキソラン、1,3,5-トリオキサン、スピロオルソエステル等の環状アセタール;2-オキソザリン、イミノエーテル等の環状イミノエーテル;β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート;ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等の環状シロキサン;等が挙げられる。
これらの中でも、生産性の観点から共役ジエン、芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体が好ましく、(メタ)アクリル酸n-ブチル、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0046】
本発明のハイドロゲル形成用組成物に含まれるポリマー粒子としては、水への分散性の観点から、表面が界面活性剤等により親水化されたポリマーが好ましい。また、ポリマー粒子の製造方法は特に限定されないが、例えば乳化重合、懸濁重合、樹脂の自己乳化や機械的乳化等により製造することができる。
【0047】
ポリマー粒子の平均粒子径は、好ましくは0.01~10μmであり、より好ましくは0.02~1μmであり、更に好ましくは0.04~0.5μmである。平均粒子径が大きい場合は、ゲル自体が白濁して透明性が失われる傾向があり、かつ、粒子が沈降し易くなるが、少量の含有量であってもゲル強度の向上が期待できる。一方、平均粒子径が小さい場合は、ゲル強度の向上のためには含有量を増やす必要があるが、高い透明性を有するゲルが得られる傾向がある。
なお、本発明における平均粒子径とは、動的光散乱測定装置で測定した平均粒子径を指す。
【0048】
ポリマー粒子の製造方法にかかる乳化重合においては、通常界面活性剤を用いる。かかる界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、高級脂肪酸ナトリウム、ロジン系ソープ等のアニオン系界面活性剤;アルキルポリエチレングリコール、ノニルフェノールエトキシレート等のノニオン系界面活性剤;塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム等のカチオン系界面活性剤;コカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン等の両性界面活性剤等を用いることができる。また部分けん化PVA(けん化度70~90モル%)、メルカプト基変性PVA(けん化度70~90モル%)、β-ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物塩、(メタ)アクリル酸エチルコポリマー等の高分子界面活性剤を用いることも可能である。
【0049】
前記製造方法にかかる乳化重合においては、通常ラジカル重合開始剤を用いる。かかるラジカル重合開始剤としては、水溶性無機系重合開始剤、水溶性アゾ系重合開始剤、油溶性アゾ系重合開始剤、有機過酸化物等が挙げられる。また、ラジカル重合開始剤としてレドックス系重合開始剤を用いてもよい。更に乳化重合の系内に必要に応じて金属イオンキレート剤、増粘抑制剤としての電解質、連鎖移動剤を添加してもよい。
【0050】
また、ポリマー粒子の製造方法としては、天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、イソブチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体、ハロゲン化イソブチレン-イソプレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の部分水素添加物、ポリクロロプレン等のゴム等の重合体を予め製造しておき、これらを水中に乳化又は懸濁させてスプレードライ等により取り出す方法によっても製造することができる。ガラス転移温度が25℃以下の重合体粒子を前記方法によって製造すると粒子同士が融着して水等に再分散しにくくなるため、乳化剤として例えば高分子界面活性剤である部分けん化PVA等を用いて乳化させることが好ましい方法である。
【0051】
ハイドロゲル形成用組成物がポリマー粒子を含有する場合、その含有量は、2~20質量%が好ましく、3~18質量%がより好ましく、5~15質量%が更に好ましい。ポリマー粒子の含有量が前記範囲内であると、ハイドロゲル形成用組成物を架橋してなるハイドロゲルの機械的強度が向上する。
【0052】
〔無機粒子〕
本発明のハイドロゲル形成用組成物は、水不溶性の無機粒子が含まれてもよい。水不溶性の無機粒子としては、例えば沈降シリカ、ゲル状シリカ、気相法シリカ、コロイダルシリカ等のシリカ;アルミナ、ヒドロキシアパタイト、ジルコニア、酸化亜鉛、チタン酸バリウム等のセラミック;ゼオライト、タルク、モンモリロナイト等の鉱物;硫酸カルシウム等の石膏;酸化カルシウム、酸化鉄等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;ケイソウ土、土壌、粘土、砂、砂利等が挙げられる。これらの無機粒子は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。水不溶性の無機粒子を添加することで、ゲルに高い機械物性や磁性等の機能を付与することができる。また、無機粒子を含む成形されたハイドロゲルを乾燥、更には焼結等を行うことにより成形された無機焼結体を得ることも可能である。
【0053】
ハイドロゲル形成用組成物が無機粒子を含有する場合、その含有量は、2~20質量%が好ましく、3~18質量%がより好ましく、5~15質量%が更に好ましい。無機粒子の含有量が前記範囲内であると、ハイドロゲル形成用組成物を架橋してなるハイドロゲルの機械的強度が向上する。
【0054】
〔カルボキシ基を含有する水溶性ポリマー(相互貫入ゲル)〕
本発明のハイドロゲル形成用組成物は、カルボキシ基を含有する水溶性ポリマーが含まれていてもよい。カルボキシ基を含有する水溶性ポリマーとしては、特に安全性の観点から、天然由来の多糖類が好ましく、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、LMペクチン、カルボキシメチルデンプン及びこれらの誘導体等が挙げられる。
カルボキシ基を含有する水溶性ポリマーを含む本発明のハイドロゲル形成用組成物を前記方法により硬化させ、その後、カルボキシ基を有する水溶性ポリマーをマグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛等の多価金属イオンにより架橋してもよい。以上のようにラジカル重合開始剤によって架橋されたエチレン性不飽和基を有するPVAと多価金属イオンによって架橋されたカルボキシ基を有する水溶性ポリマーとの相互貫入型ゲルとすることでハイドロゲルの機械的強度を飛躍的に高めることが可能である。
【0055】
ハイドロゲル形成用組成物が前記水溶性ポリマーを含有する場合、その含有量は、0.1~10質量%が好ましく、0.5~8質量%がより好ましく、1~4質量%が更に好ましい。前記水溶性合成ポリマーの含有量が前記範囲内であると、ハイドロゲル形成用組成物を架橋してなるハイドロゲルの機械的強度が向上する。
【0056】
〔単量体〕
前記ハイドロゲル形成用組成物は、更に単量体を含有してもよい。該単量体としてはアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、N,N-ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のα,β-不飽和カルボン酸;ビニルピリジン;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート;スチレンスルホン酸;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水溶性ラジカル重合性単量体や、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和基を分子内に2つ以上有する架橋剤等が挙げられる。
前記ハイドロゲル形成用組成物中の単量体の含有量は、ハイドロゲルの機械的強度を向上させる観点から、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
【0057】
〔細胞、生理活性物質、酵素〕
本発明のハイドロゲル形成用組成物は、細胞、生理活性物質や酵素が含まれてもよい。本明細書に係る用語「細胞」には、特に限定されるわけではないが、好ましくは、多能性幹細胞、組織幹細胞、体細胞、医薬品等の有用物質生産や治療等に用いられる哺乳動物由来の株化細胞及び昆虫細胞が含まれる。
【0058】
細胞には、付着性細胞及び浮遊細胞が含まれるが、これらに限らない。付着性細胞とは、細胞培養にあたり、培養容器や担体等に付着することで増殖する細胞をいう。浮遊性細胞とは細胞増殖において基本的に培養容器や担体等への付着を必要としない細胞をいう。浮遊性細胞には、培養容器や担体等に弱く付着することが可能な細胞を含む。
【0059】
上記多能性幹細胞とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞であり、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、生殖幹細胞(GS細胞)等である。
【0060】
上記組織幹細胞とは、分化する組織が限定されているが、様々な細胞種へ分化可能な能力(分化多能性)を有する幹細胞を意味し、例えば組織幹細胞は、骨髄未分化間葉系幹細胞、骨格筋幹細胞、造血系幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、脂肪組織幹細胞、表皮幹細胞、腸管幹細胞、精子幹細胞、膵臓幹細胞(膵管上皮幹細胞等)、白血球系幹細胞、リンパ球系幹細胞、角膜系幹細胞等が挙げられる。
【0061】
上記体細胞とは、多細胞生物を構成する細胞のことを指し、例えば、骨芽細胞、軟骨細胞、造血細胞、上皮細胞(乳腺上皮細胞等 )、内皮細胞(血管内皮細胞等)、表皮細胞、繊維芽細胞、間葉由来細胞、心筋細胞、筋原細胞、平滑筋細胞、生体由来骨格筋細胞、ヒト腫瘍細胞、繊維細胞、EBウイルス変異細胞、肝細胞、腎細胞、骨髄細胞、マクロファージ、肝実質細胞、小腸細胞、乳腺細胞、唾液腺細胞、甲状腺細胞、皮膚細胞、形質細胞、T細胞、B細胞、キラー細胞、リンパ芽細胞、及び膵β細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
上記哺乳動物由来の株化細胞としては、CRFK細胞、3T3細胞、A549細胞、AH130細胞、B95-8細胞、BHK細胞、BOSC23細胞、BS-C-1細胞、C3H10T1/2細胞、C-6細胞、CHO細胞、COS細胞、CV-1細胞、F9細胞、FL細胞、FL5-1細胞、FM3A細胞、G-361細胞、GP+E-86細胞、GP+envAm12細胞、H4-II-E細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、HEp-2細胞、HL-60細胞、HTC細胞、HUVEC細胞、IMR-32細胞、IMR-90細胞、K562細胞、KB細胞、L細胞、L5178Y細胞、L-929細胞、MA104細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、MIA PaCG-2細胞、N18細胞、Namalwa細胞、NG108-15細胞、NRK細胞、OC10細胞、OTT6050細胞、P388細胞、PA12細胞、PA317細胞、PC-12細胞、PER.C6細胞、PG13細胞、QGH細胞、Raji細胞、RPMI-1788細胞、SGE1細胞、Sp2/O-Ag14細胞、ST2細胞、THP-1細胞、U-937細胞、V79細胞、VERO細胞、WI-38細胞、ψ2細胞、及びψCRE細胞等が挙げられる{細胞培養の技術(日本組織培養学会編集、株式会社朝倉書店発行、1999年)}。
【0063】
上記昆虫細胞としては、カイコ細胞(BmN細胞及びBoMo細胞等)、クワコ細胞、サクサン細胞、シンジュサン細胞、ヨトウガ細胞(Sf9細胞及びSf21細胞等)、クワゴマダラヒトリ細胞、ハマキムシ細胞、ショウジョウバエ細胞、センチニクバエ細胞、ヒトスジシマカ細胞、アゲハチョウ細胞、ワモンゴキブリ細胞及びイラクサキンウワバ細胞(Tn-5細胞、HIGH FIVE細胞及びMG1細胞等)等が挙げられる{昆虫バイオ工場(木村滋編著、株式会社工業調査会発行、2000年)}。
【0064】
上記細胞は互いに凝集していてもよく、分化していてもよい。凝集した細胞は器官としての機能を有していてもよい。細胞は生体から採取された直後のものでもよく、培養したものでもよい。生体から採取した細胞は器官を形作っていてもよい。
【0065】
生理活性物質としては、例えばゼラチン、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、合成RGDペプチド等の細胞接着性タンパク質又はペプチド;繊維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等の成長因子;ヘパリン、ヒアルロン酸等の酸性多糖類、各種医薬品等が挙げられる。酵素としては、例えばプロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ等が挙げられる。
【0066】
前記ハイドロゲル形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、更に光吸収剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、着色剤、防腐剤等の添加剤が含まれていてもよい。これらは、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0067】
<ハイドロゲル形成用組成物の硬化>
本発明のハイドロゲル形成用組成物は、後述する架橋工程において活性エネルギー線や熱により前記ビニルアルコール系重合体を架橋させることによりゲル化させることができ、これにより本発明のハイドロゲルを得ることができる。活性エネルギー線としては、例えば、ガンマ線、紫外線、可視光線、赤外線(熱線)、ラジオ波、アルファ線、ベータ線、電子線、プラズマ流、電離線、粒子線等が挙げられる。
【0068】
〔ラジカル重合開始剤〕
前記活性エネルギー線のうち、紫外線、可視光線、赤外線(熱線)等や熱により前記ビニルアルコール系重合体を架橋する場合、ハイドロゲル形成用組成物がラジカル重合開始剤を含有することが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤、及び熱ラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0069】
熱ラジカル重合開始剤は熱をトリガーとしてラジカル重合を起こすため、エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体をオートクレーブで滅菌してハイドロゲル形成用組成物を調製した後、熱ラジカル重合開始剤を添加する必要がある。その際、熱ラジカル重合開始剤は前記滅菌方法のうち最適な方法により滅菌することが好ましい。熱ラジカル重合開始剤の滅菌方法としては、例えば熱ラジカル重合開始剤の固体をエチレンオキサイドガス滅菌する方法や熱ラジカル重合開始剤の水溶液をろ過滅菌する方法が挙げられる。
【0070】
熱ラジカル重合開始剤としては、熱によりラジカル重合を開始するものであれば特に制限はなく、ラジカル重合で一般的に用いられるアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤等が挙げられる。ハイドロゲルの透明性及び物性を向上させる観点から、気体を発生しない過酸化物系開始剤が好ましく、前記ハイドロゲル形成用組成物が水系溶媒である観点から、水溶性の高い過酸化物系開始剤がより好ましい。具体的には、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物が挙げられ、中でも過硫酸ナトリウムが好ましく、ペルオキソ二硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0071】
また、還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤を用いてもよい。レドックス系開始剤であれば過酸化物系開始剤と還元剤の混合という刺激により第1のポリマーネットワークを形成し、硬化させることができる。レドックス系開始剤として組み合わせる還元剤としては公知の還元剤を用いることができるが、これらの中でも水溶性の高いN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ハイドロサルファイトナトリウム等が好ましい。
【0072】
ハイドロゲルの透明性や物性を損なわない範囲内では、水溶性のアゾ系開始剤を用いてもよい。具体的には、例えば2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(商品名「VA-044」)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物(商品名「VA-044B」)、2,2’-アゾビス[2-メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩(商品名「V-50」)、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]四水和物(商品名「VA-057」)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](商品名「VA-061」)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](商品名「VA-086」)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)(商品名「V-501」)(以上、和光純薬工業(株)製)等が挙げられる。
【0073】
本発明のハイドロゲル形成用組成物が熱ラジカル重合開始剤を含む場合、温度100℃未満で加熱することが好ましい。加熱温度は、用いる熱ラジカル重合開始剤の種類により適宜調整することができ、好ましくは30~90℃、より好ましくは35~80℃である。
【0074】
光ラジカル重合開始剤は光をトリガーとしてラジカル重合を起こすため、通常熱に対して安定な場合が多い。従って、光ラジカル重合開始剤をビニルアルコール系重合体及び溶媒と混合した後、オートクレーブ滅菌してハイドロゲル形成用組成物を調製してもよい。もちろん熱ラジカル重合開始剤と同様に、組成物調製液をオートクレーブ滅菌してハイドロゲル形成用組成物を調製した後に、光ラジカル重合開始剤を適切に滅菌して添加してもよい。
【0075】
光ラジカル重合開始剤としては、紫外線、可視光等の活性エネルギー線の照射等によってラジカル重合を開始させるものであれば特に制限はなく、水溶性を示すものが好ましい。具体的には、例えばα-ケトグルタル酸、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(商品名「IRGACURE2959」、BASFジャパン(株)製)、フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム塩(商品名「L0290」、東京化成工業(株)社製)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](商品名「VA-086」、和光純薬工業(株)製)、エオジンY等が挙げられる。
【0076】
ハイドロゲル形成用組成物が光ラジカル重合開始剤を含む場合、照射処理に使用できる活性エネルギー線としては、可視光線、紫外線等が挙げられ、好ましくは高圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等の紫外線である。
【0077】
前記ハイドロゲル形成用組成物中のラジカル重合開始剤の含有量は、ラジカル重合開始剤の種類により適宜調整することができるが、架橋反応を促進し、ハイドロゲルの機械的強度を向上させる観点から、5×10-6質量%以上が好ましく、1×10-5質量%以上がより好ましい。そして、該ラジカル重合開始剤の含有量は、ゲル中に残留するラジカル重合開始剤の低減及びハイドロゲルの脆化を抑制する観点から、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。
【0078】
[ハイドロゲル]
本発明のハイドロゲルは、前記ハイドロゲル形成用組成物を架橋したものであり、より具体的には、滅菌された前記ハイドロゲル形成用組成物を硬化させることで任意の形状のハイドロゲルを得ることができる。
例えば滅菌されたハイドロゲル形成用組成物を所定の型枠等に流し込んだ後、前記の方法に従って硬化させることで形状が付与されたハイドロゲルを製造できる。また3Dプリンターのように材料押出堆積法やインクジェット法を用いる場合は、滅菌されたハイドロゲル形成用組成物をシリンジやプリンターヘッドから吐出した後に、光や熱等の刺激により硬化させ、所望の形状に成形することが可能である。更に光造形法では光重合開始剤を含む滅菌されたハイドロゲル形成用組成物を所望の型の容器に入れ、光造形することで所望の形状に成形することが可能である。またハイドロゲルは公知の技術、例えば懸濁重合法、膜乳化法、微小流体法、ノズル押出法、噴霧乾燥法(スプレードライ)等によって粒子状に成形することも可能である。
【0079】
本発明のハイドロゲル、及びハイドロゲル形成用組成物は、親水性、反応性、生分解性、生体適合性、低毒性等に優れ、滅菌されていながら機械的強度も高い。そのため3Dプリンターやモールドを用いて様々な形状に成形することでコンタクトレンズ;臓器モデル;ドラッグデリバリー担体;細胞や微生物のカプセル化担体;医療機器コーティング;人工脊椎椎間板核;地盤改良材;防汚塗料等の様々な分野で好適に用いることができる。
【実施例
【0080】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0081】
[使用原料]
合成例、実施例及び比較例において使用した主な成分を以下に示す。
<原料ポリビニルアルコール>
・PVA117:ポリビニルアルコール(商品名「PVA117」、重合度1700、けん化度約98~99モル%、粘度(4%,20℃)25~31mPa・s、(株)クラレ製)
・PVA217:ポリビニルアルコール(商品名「PVA217」、重合度1700、けん化度約87~89モル%、粘度(4%,20℃)20.5~24.5 mPa・s、(株)クラレ製)
・PVA105:ポリビニルアルコール(商品名「PVA105」、重合度500、けん化度約98~99mol%、粘度(4%,20℃)5.2~6 mPa・s、(株)クラレ製)
・PVA103:ポリビニルアルコール(商品名「PVA103」、重合度300、けん化度約98~99モル%、粘度(4%,20℃)3.2~3.8mPa・s、(株)クラレ製)
なお、原料PVAの重合度は、JIS K 6726:1994に準じて測定される。
【0082】
<エチレン性不飽和基含有化合物>
・メタクリル酸ビニル:東京化成工業(株)製
・5-ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒド:東京化成工業(株)製
【0083】
<カルボキシ基を有する水溶性ポリマー>
・アルギン酸ナトリウム(NSPLLR):商品名「ダックアルギンNSPLLR」、1質量%水溶液の粘度(温度:20℃)40~50mPa・s、キッコーマンバイオケミファ(株)製
【0084】
<光ラジカル重合開始剤>
・Irgacure2959:1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(商品名「IRGACURE2959」、BASFジャパン(株)製)
・L0290:フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム塩(商品名「L0290」、東京化成工業(株)製)
【0085】
<熱ラジカル重合開始剤>
・ペルオキソ二硫酸ナトリウム:和光純薬工業(株)製
【0086】
<ポリチオール>
・3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール:東京化成工業(株)製
【0087】
<単量体>
・アクリル酸n-ブチル:日本触媒(株)製
・トリメチロールプロパントリメタクリレート:商品名「ライトエステルTMP」、共栄社化学(株)製
・アリルメタクリレート:東京化成工業(株)製
・ジシクロペンタニルメタクリレート:商品名「ファンクリルFA-513M」、日立化成(株)製
【0088】
<乳化剤>
・商品名「エレミノールJS-20」三洋化成工業(株)製
<溶媒>
・イオン交換水:電気伝導率0.08×10-4S/m以下のイオン交換水
【0089】
[合成例で合成した化合物の測定方法]
<エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体の重合度>
下記合成例において得られたエチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体の重合度は、JIS K 6726:1994に準じて測定した。
【0090】
<エチレン性不飽和基の導入率>
下記合成例において得られたエチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体のエチレン性不飽和基の導入率は、プロトンNMRにより測定した。エチレン性不飽和基のシグナルとビニルアルコール系重合体のシグナルの積分値の比から導入率が求められる。
〔プロトンNMR測定条件〕
装置:日本電子株式会社製 核磁気共鳴装置「JNM-ECX400」
温度:25℃
【0091】
<乳化液中の平均粒子径>
ポリマー粒子の乳化液(0.1mL)とイオン交換水(10mL)の混合液を動的光散乱測定装置(装置名:FPAR-1000、大塚電子(株)製)を用いて粒子の粒度分布を体積基準で測定し、メディアン径を平均粒子径として測定した。
【0092】
実施例及び比較例における操作及び評価は、以下に示す方法に従って行った。
(オートクレーブ滅菌)
アルプ(株)製オートクレーブ滅菌器(KTS-2322型)を用いて121℃、20分間で滅菌を行った。
【0093】
<エチレン性不飽和基を有するポリビニルアルコールの合成>
〔合成例1〕
40g(単量体繰り返し単位:908mmol)のPVA117を1Lのジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコに入れ、350mLのジメチルスルホキシド(DMSO)を加えてメカニカルスターラーにて撹拌を開始した。ウオーターバスにより80℃まで昇温後、80℃で撹拌を4時間続けた。前記原料PVAが溶解したことを目視で確認した後、80℃で加熱撹拌しながらメタクリル酸ビニル1.2g(10.8mmol)を加え、更に80℃で3時間撹拌した。放冷後、2Lのメタノール中に撹拌しながら反応溶液を注ぎいれた。撹拌を止め、1時間そのまま放置した。得られた固体を回収した後、更に1Lのメタノールに1時間浸漬して洗浄した。この洗浄作業を合計3回行った。回収した固体を室温で一晩真空乾燥してメタクリロイル化PVA117を得た。該メタクリロイル化PVA117のエチレン性不飽和基(メタクリロイルオキシ基)の導入率はPVAの繰り返し単位に対して1.2モル%であった(以下、「MA-PVA117(1.2)」と略称する)。
【0094】
〔合成例2~3〕
表1に示すとおり、原料PVA又はメタクリロイルオキシ基の導入率を変更したこと以外は合成例1と同様にしてメタクリロイル化PVAを製造した。
【0095】
〔合成例4〕
60g(モノマー繰り返し単位:1.36mol)の「PVA117」を1Lのジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコに入れ、540mLのイオン交換水を加えてメカニカルスターラーにて撹拌を開始した。ウオーターバスにより80℃まで温度を上昇させて、撹拌を4時間続けた。原料PVAが溶解したことを目視で確認し、40℃まで温度を低下させた。40℃で撹拌しながら5-ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒド2.5g(20.5mmol)、10体積%硫酸水溶液22mLを直接加え、更に40℃で4時間撹拌した。放冷後、1規定NaOH水溶液を80mL添加して中和し、分画分子量3500の透析膜に入れて脱塩した(5Lのイオン交換水に対して4回実施)。2Lのメタノール中に撹拌しながら脱塩後の水溶液を注ぎいれ、1時間そのまま放置した。得られた固体を回収した後、更に1Lのメタノールに1時間浸漬して洗浄した。回収した固体を室温で一晩真空乾燥してノルボルネン化PVAを得た。ノルボルネン導入率はPVAのモノマー繰り返し単位に対して1.3モル%であった(以下、Nor-PVA117(1.3)と略称する)。
【0096】
〔比較合成例1~2〕
表1に示すとおり、原料PVA又はメタクリロイルオキシ基の導入率を変更したこと以外は合成例1と同様にして、MA-PVA103(2.0)及びMA-PVA117(12)を製造した。
【0097】
【表1】
【0098】
<ポリマー粒子の合成>
〔合成例A;アクリル酸n-ブチル(BA)/ジシクロペンタニルメタクリレート(TCDMA)粒子〕
(工程1)
乾燥させた2Lの耐圧重合槽にイオン交換水240g、「エレミノールJS-20」91.368g、ペルオキソ二硫酸ナトリウム1.08gを添加した後、30分間窒素ガスにてバブリングすることで脱酸素処理を行い、水溶液を得た。
該水溶液を60℃に昇温した後、ポリマー粒子を形成する単量体混合物(アクリル酸n-ブチル:トリメチロールプロパントリメタクリレート:アリルメタクリレート=360:1.8:3.6(重量比))365.4gを脱酸素処理した後、10mL/分の速度で連続的に添加した。
【0099】
(工程2)
総単量体転化率が99質量%を超えたことを確認した時点で、前記工程1で得られた乳化液に、ジシクロペンタニルメタクリレート45gを脱酸素処理した後、10mL/分の速度で連続的に添加した。
【0100】
(工程3)
総単量体転化率が99質量%を超えたことを確認した時点で、前記工程2で得られた乳化液を100℃に昇温し、2時間撹拌することで残留重合開始剤の分解処理を行った。重合槽を25℃まで冷却して、ポリマー粒子(BA/TCDMA粒子)の乳化液を取り出した。乳化液中の平均粒子径は47.4nm、固形分濃度は28質量%であった。
【0101】
[実施例1]
10gのMA-PVA117(1.2)に90mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解し、ビニルアルコール系重合体の溶液を得た。室温まで冷却後、この溶液に水溶性光重合開始剤である「Irgacure2959」を0.1質量%となるように溶解し、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間、表2中「AC」と表記)することで流動性のあるハイドロゲル形成用組成物を作製した。日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて微生物の存在を観察したところ、微生物が存在しないことが確認できた。
次いで、1mm厚のスペーサーを挟み込んだガラス板間にこの溶液を流し込み、GSユアサ製メタルハライドランプを用いて145mW/cmにて30秒(照射エネルギー量:1200mJ/cm)の紫外線(UV)を照射したところ十分に硬化し、強靭な一体感のあるゲルが得られた。
【0102】
[実施例2]
20gのMA-PVA117(1.2)に80mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解し、ビニルアルコール系重合体溶液を得た。この溶液15gに合成例AのBA/TCDMA粒子の乳化液(固形分濃度28質量%)を9g、イオン交換水を6g加えて撹拌した。続けて、水溶性光重合開始剤である「Irgacure2959」を0.1質量%となるように溶解し、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間)することで流動性のあるハイドロゲル形成用組成物を作製した。日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて微生物の存在を観察したところ、微生物が存在しないことが確認できた。
この溶液を実施例1と同様にUVを照射したところ十分に硬化し、強靭な一体感のあるゲルが得られた。
【0103】
[実施例3]
10gのMA-PVA117(1.2)に90mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解し、ビニルアルコール系重合体溶液を得た。室温まで冷却後、この溶液に水溶性光重合開始剤である「L0290」を0.1質量%となるように溶解し、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間)することで流動性のあるハイドロゲル形成用組成物を作製した。日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて微生物の存在を観察したところ、微生物が存在しないことが確認できた。
次いで、1mm厚のスペーサーを挟み込んだガラス板間にこの溶液を流し込み、DWS社製UV Curing Unit S2にてUV光を4分照射したところ十分に硬化し、強靭な一体感のあるゲルが得られた。
【0104】
[実施例4]
10gのMA-PVA117(1.2)に90mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解し、ビニルアルコール系重合体溶液を得た。このエチレン性不飽和基含有PVA溶液をオートクレーブ滅菌(121℃、20分間)することで流動性のあるハイドロゲル形成用組成物を作製した。日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて微生物の存在を観察したところ、微生物が存在しないことが確認できた。
次に0.2gのペルオキソ二硫酸ナトリウムを2mLのイオン交換水に溶解して作製した熱ラジカル重合開始剤溶液を0.22μmフィルターでろ過滅菌し、1mLの滅菌された熱ラジカル重合開始剤溶液をハイドロゲル形成用組成物に添加した。
次いで、1mm厚のスペーサーを挟み込んだガラス板間にこの溶液を流し込み、80℃にて30分間硬化させたところ十分に硬化し、強靭な一体感のあるゲルが得られた。
【0105】
[実施例5]
10gのMA-PVA117(1.2)に90mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解し、エチレン性不飽和基含有PVA溶液を得た。室温まで冷却後、このエチレン性不飽和基含有PVA溶液に2gのアルギン酸ナトリウム(NSPLLR)を加えて室温で3時間撹拌した。アルギン酸を含むMA-PVA水溶液に対して水溶性光重合開始剤である「Irgacure2959」を0.1質量%となるように溶解し、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間)することで流動性のあるハイドロゲル形成用組成物を作製した。日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて微生物の存在を観察したところ、微生物が存在しないことが確認できた。
次いで、1mm厚のスペーサーを挟み込んだガラス板間にこの溶液を流し込み、GSユアサ製メタルハライドランプを用いて145mW/cmにて30秒(照射エネルギー量:1200mJ/cm)の紫外線(UV)を照射した。得られたハイドロゲルを塩化カルシウム水溶液(1g塩化カルシウム/100mL水)に30分浸漬し、相互貫入型ゲルからなるハイドロゲルを得た。
【0106】
[実施例6]
MA-PVA117(1.2)にかえて、MA-PVA217(2.0)を使用したこと以外は実施例1と同様にしてハイドロゲル形成用組成物を作製し、UVを照射したところ十分に硬化し、強靭な一体感のあるゲルが得られた。なお、前記ハイドロゲル形成用組成物について、日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて微生物の存在を観察したところ、微生物が存在しないことが確認できた。
【0107】
[実施例7]
MA-PVA117(1.2)にかえて、MA-PVA105(2.0)を使用したこと以外は実施例3と同様にしてハイドロゲル形成用組成物を作製し、UVを照射したところ十分に硬化し、強靭な一体感のあるゲルが得られた。なお、前記ハイドロゲル形成用組成物について、日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて微生物の存在を観察したところ、微生物が存在しないことが確認できた。
【0108】
[実施例8]
10gのNor-PVA117(1.3)に90mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解して室温まで冷却し、更にポリチオールとして3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオールを0.26g加えビニルアルコール系重合体溶液を得た。この溶液に対して水溶性光重合開始剤である「Irgacure2959」を0.1質量%となるように溶解し、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間)することで流動性のあるハイドロゲル形成用組成物を作製した。日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて微生物の存在を観察したところ、微生物が存在しないことが確認できた。
この形成用組成物を実施例1と同様にUVを照射したところ十分に硬化し、強靭な一体感のあるゲルが得られた。
【0109】
[比較例1]
10gのMA-PVA103(2.0)に90mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解した。室温まで冷却後、水溶性光重合開始剤である「Irgacure2959」を0.1質量%となるように溶解した。この溶液を0.22μmフィルターでろ過滅菌し、ハイドロゲル形成用組成物を調製した。日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて微生物の存在を観察したところ、微生物が存在しないことが確認できた。
この溶液を実施例1と同様にUVを照射したところ硬化するものの、きわめて脆弱なゲルが得られた。
【0110】
[比較例2]
10gのMA-PVA103(2.0)に90mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解した。室温まで冷却後、水溶性光重合開始剤である「L0290」を0.1質量%となるように溶解した。この溶液を0.22μmフィルターでろ過滅菌し、ハイドロゲル形成用組成物を調製した。日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて微生物の存在を観察したところ、微生物が存在しないことが確認できた。
この溶液を実施例3と同様にUVを照射したところ、硬化するものの、極めて脆弱なゲルが得られた。
【0111】
[比較例3]
ろ過滅菌にかえてオートクレーブ滅菌を使用したこと以外は比較例1と同様にしてハイドロゲル形成用組成物を作製した。これにUVを照射したところ、硬化するものの、極めて脆弱なゲルが得られた。なお、前記ハイドロゲル形成用組成物について、日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて微生物の存在を観察したところ、微生物が存在しないことが確認できた。
【0112】
[比較例4]
10gのMA-PVA117(12)に90mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解した(溶解しない固形分が溶液中に残留していた)。室温まで冷却後、この溶液に水溶性光重合開始剤である「Irgacure2959」を0.1質量%となるように溶解し、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間、表2中「AC」と表記)することで流動性のあるハイドロゲル形成用組成物を作製した。日本薬局方一般試験法に規定する無菌試験法(直接法)にて微生物の存在を観察したところ、微生物が存在しないことが確認できた。
この溶液を実施例3と同様にUVを照射したところ、ゲルが得られなかった。
【0113】
<ゲルの引張破断強度の評価>
実施例1~8及び比較例1~4で得られたゲルの引張強度を次の手順により測定した。実施例1~8及び比較例1~4にて作製した1mm厚のハイドロゲルを取り出し、特開2015-004059号公報に記載された方法に従ってJIS K 6251:2017の3号規格のダンベルカッターを用いて試験片を切り出した。修正液を使用して試験片に標点を2つ付け、ノギスでその標点間距離を測定した。マイクロメータを使用して、試験片の幅と厚みを測定した。イーストン社製引張試験機(5566型)に試験片をセットして、画像データを取得しながら破断応力及び破断歪を測定した。本評価においては、数値が大きいほどゲルの機械強度が高いことを示す。
【0114】
【表2】
【0115】
表2より、実施例1~8は、比較例1~4と比べて引張破断強度が高く、機械強度に優れることが分かる。実施例2及び5では、それぞれポリマー粒子及びカルボキシ基を有する水溶性ポリマーを添加しており、特に実施例5では相互貫入型ハイドロゲルを形成しているため、引張破断強度を大幅に高めることが可能であった。
比較例1~3は、いずれも重合度450以下のビニルアルコール系重合体を用いているため、実施例1~8と比べて引張破断強度が低く、機械的強度が圧倒的に劣る。比較例4はエチレン性不飽和基の導入率が本発明の範囲を超えるため、ゲル自体が形成できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明のハイドロゲル形成用組成物は、親水性、反応性、生分解性、生体適合性、低毒性等に優れ、滅菌されていながら機械的強度も高い。そのため3Dプリンターやモールドを用いて様々な形状に成形することでコンタクトレンズ;臓器モデル;ドラッグデリバリー担体;細胞や微生物のカプセル化担体;医療機器コーティング;人工髄核;地盤改良材;防汚塗料等の様々な分野で好適に用いることができる。