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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】加工シナモン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20240401BHJP
【FI】
A23L27/10 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022522210
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2021018326
(87)【国際公開番号】W WO2021230338
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2020085863
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩畑 慎一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 卓也
(72)【発明者】
【氏名】里見 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 晴菜
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-061015(JP,A)
【文献】特開2016-013077(JP,A)
【文献】特開2000-228963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シナモンを、0.3MPa・G以上0.5MPa・G未満の蒸気圧力、3.0%以上の酸素濃度、35℃以上120℃以下の過熱度、及び120秒未満の処理時間の条件下、過熱水蒸気により処理した加工シナモン。
【請求項2】
過熱水蒸気による処理後、粉砕処理した、請求項1に記載の加工シナモン。
【請求項3】
加工シナモン全量に対する35メッシュパスのサイズ画分の割合が95質量%以上である、請求項2に記載の加工シナモン。
【請求項4】
シナモンを、0.3MPa・G以上0.5MPa・G未満の蒸気圧力、3.0%以上の酸素濃度、35℃以上120℃以下の過熱度、及び120秒未満の処理時間の条件下、過熱水蒸気により処理することを含む、加工シナモンの製造方法。
【請求項5】
過熱水蒸気による処理を、ロータリーバルブ式装置を用いて行う、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
過熱水蒸気による処理後、粉砕処理することを含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
加工シナモン全量に対する35メッシュパスのサイズ画分の割合が95質量%以上となるように粉砕処理することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
加工シナモン30mgに、900μLの70%メタノール溶液と、100μLの10ppm13-2,4-ジクロロフェノール溶液を添加して、均一になるように撹拌した後、15,000rpmで10分間遠心分離し、得られた上清800μLをフィルターろ過し、液体クロマトグラフィー質量分析法(LCMS)で測定した場合に、
13-2,4-ジクロロフェノールに対する(+)-カテキンのピーク面積比が0.1以上である、及び/又は、13-2,4-ジクロロフェノールに対する(-)-エピカテキンのピーク面積比が2.5以上である加工シナモン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工シナモン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シナモンは古くから香辛料として菓子や料理に使用される。またトースト、飲料、果物に好ましい風味を付与する目的で添加される場合もある。
シナモン等の香辛料を、殺菌などを目的として過熱水蒸気により処理することが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、未粉砕の香辛料又は840μm以上の粒度を有する香辛料を、0.05MPa・G以上0.30MPa・G未満の蒸気の圧力、4.0%より高く8.0%以下の酸素濃度、及び70℃以上120℃以下の過熱度で過熱水蒸気により処理した加工香辛料が記載されている。特許文献1では香辛料の一例としてシナモンが記載されている。特許文献1では、上記条件での過熱水蒸気処理により香辛料に香ばしい香りが付与されると記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、スパイス及びハーブから選ばれる1種以上の未粉砕の香辛料を、酸素濃度3%以下の低酸素若しくは無酸素条件の密閉系下において、飽和水蒸気若しくは過熱水蒸気のいずれか又はこれらの組み合わせにて処理してなる香辛料が記載されている。特許文献2の実施例1では、過熱水蒸気装置の酸素濃度を3%に設定して、シナモン(スティック状)を、ステンレス製トレイに重ならない様に均一に広げ、150~240℃の処理温度、3.5分の処理時間で連続式処理装置を用いて処理したことが記載されている。特許文献2では、上記条件での過熱水蒸気処理により、焙煎特有の香ばしい香りと、フレッシュな風味を併せ持つ香辛料が得られると記載されている。
【0005】
特許文献3では、実験例3において、粉粒物質(黒胡椒)をロータリーバルブ式加熱処理装置で、182~194℃、4~6kg/cm・G(0.4M~0.6MPa・G)の加熱水蒸気条件、5~10秒の加熱時間で処理したことが記載されており、十分な殺菌効果が確認されたことも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-013077号公報
【文献】特開2007-61015号公報
【文献】特開平10-211103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シナモンは喫食時に渋味が感じられる場合がある。特に、シナモンの配合量を高めた食品や、シナモンをふりかけた果物において、渋味が顕著に感じられ、シナモンが有する甘味が感じられにくくなる。
【0008】
特許文献1及び2では、所定条件の過熱水蒸気処理が香辛料の香ばしい香りを増すことが記載されているが、シナモンに特有の渋味を低減させる手段については記載されていない。
そこで本発明は、シナモンの渋味を抑え、甘味を高めた加工シナモン及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは驚くべきことに、シナモンを所定の条件で過熱水蒸気処理することにより、渋味が抑制され、甘味が高められることを見出し以下の発明を完成するに至った。
【0010】
(1)シナモンを、0.3MPa・G以上0.5MPa・G未満の蒸気圧力、3.0%以上の酸素濃度、35℃以上120℃以下の過熱度、及び120秒未満の処理時間の条件下、過熱水蒸気により処理した加工シナモン。
(2)過熱水蒸気による処理後、粉砕処理した、(1)に記載の加工シナモン。
(3)加工シナモン全量に対する35メッシュパスのサイズ画分の割合が95質量%以上である、(2)に記載の加工シナモン。
【0011】
(4)シナモンを、0.3MPa・G以上0.5MPa・G未満の蒸気圧力、3.0%以上の酸素濃度、35℃以上120℃以下の過熱度、及び120秒未満の処理時間の条件下、過熱水蒸気により処理することを含む、加工シナモンの製造方法。
(5)過熱水蒸気による処理を、ロータリーバルブ式装置を用いて行う、(4)に記載の方法。
(6)過熱水蒸気による処理後、粉砕処理することを含む、(4)又は(5)に記載の方法。
(7)加工シナモン全量に対する35メッシュパスのサイズ画分の割合が95質量%以上となるように粉砕処理することを含む、(6)に記載の方法。
【0012】
(8)加工シナモン30mgに、900μLの70%メタノール溶液と、100μLの10ppm13-2,4-ジクロロフェノール溶液を添加して、均一になるように撹拌した後、15,000rpmで10分間遠心分離し、得られた上清800μLをフィルターろ過し、液体クロマトグラフィー質量分析法(LCMS)で測定した場合に、
13-2,4-ジクロロフェノールに対する(+)-カテキンのピーク面積比が0.1以上である、及び/又は、13-2,4-ジクロロフェノールに対する(-)-エピカテキンのピーク面積比が2.5以上である加工シナモン。
【0013】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2020-085863号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0014】
本明細書に開示する加工シナモンは、渋味が抑制され、自然な甘味が高められている。
本明細書に開示する加工シナモンの製造方法によれば上記の好ましい特徴を有する加工シナモンを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<シナモン>
本明細書において原料となるシナモンとしては、カシア(Cinnamomum cassia)、セイロン(Cinnamomum verum)等が例示できる。シナモンとは一般的に香辛料として用いられるシナモンの樹皮の部分を指す。シナモンの樹皮は、通常は乾燥されたものである。
【0016】
原料として用いるシナモンが、渋味の強いシナモンである場合に、本明細書に記載の所定の条件での過熱水蒸気処理よる渋味の抑制効果が高いため好ましい。カシアは、セイロンよりも渋味が強いため、本明細書に記載の所定の条件での過熱水蒸気処理に供するのに適している。
【0017】
原料として用いるシナモンは、シナモンの樹皮を適当な寸法に破砕したものであることが好ましい。特に、最大幅3cm以下の寸法に破砕されたシナモンを用いた場合に、過熱水蒸気処理よる渋味の抑制効果、甘味の向上効果が高いため好ましい。シナモンの寸法の下限は特に限定されないが、好ましくは、最大幅が0.5cm以上の寸法であることが好ましい。最大幅とは、原料として用いるシナモンの破砕片を平面視したときに、シナモンの内部のみを通り且つ最も長くなるように直線的に引いた線分の長さである。例えばシナモンが直方体の形状である場合、対角線の長さが最大幅に該当する。
【0018】
<加工シナモンの製造方法>
本発明の一以上の実施形態によれば、シナモンを、0.3MPa・G以上0.5MPa・G未満の蒸気圧力、3.0%以上の酸素濃度、35℃以上120℃以下の過熱度、及び120秒未満の処理時間の条件下、過熱水蒸気により処理することを含む、加工シナモンの製造方法が提供される。
【0019】
本発明の別の一以上の実施形態によれば、前記方法により製造された加工シナモンが提供される。
【0020】
上記の実施形態によれば、渋味が抑制され、自然な甘味が増強された加工シナモンが提供される。
【0021】
蒸気圧力を0.3MPa・G以上0.5MPa・G未満とすることで、香り立ちがよく、好ましい香りを有する加工シナモンが得られる。蒸気圧力(ゲージ圧)が0.3MPa・G未満であると香り立ちの良い加工シナモンが得られない。一方蒸気圧力が0.5MPa・G以上であると香りが悪くなり、蒸気圧力が高くなるほど香りが喪失する。蒸気圧力は好ましくは0.30~0.45MPa・G、より好ましくは0.35~0.45MPa・Gである。ここで蒸気圧力の単位MPa・Gにおいて、「・G」はゲージ圧であることを示す。
【0022】
酸素濃度を3.0%以上とすることで、好ましい香りを有する加工シナモンが得られる。酸素濃度が3.0%未満であると香りが悪くなり、酸素濃度が低いほど香りが喪失する。酸素濃度は好ましくは3.0~4.0%、さらに好ましくは3.2~3.8%である。酸素濃度を4.2%以下とすることで、香り立ちがより向上する。
【0023】
過熱度を35℃以上120℃以下とすることで、香り立ちがよく、好ましい香りを有する加工シナモンが得られる。過熱度が35℃未満であると香り立の良い加工シナモンが得られない。一方過熱度が120℃超であると香りが悪くなり、過熱度が高くなるほど香りが喪失する。過熱度は好ましくは50~100℃、さらに好ましくは60~80℃である。
【0024】
処理時間を120秒未満とすることで、好ましい香りを有する加工シナモンが得られる。処理時間が120秒以上であると香りが悪くなり、処理時間が長いほど香りが喪失する。処理時間は好ましくは4秒以上120秒未満であり、より好ましくは10秒以上120秒未満であり、より好ましくは4~20秒、さらに好ましくは10~15秒である。処理時間を4秒以上とすることで、香り立ちがより向上する。
【0025】
過熱水蒸気処理において、酸素は大気(空気)により供給することができる。本明細書では、以下の方法により酸素濃度を算出することができる。下記の式で(過熱水蒸気の絶対圧(MPa))とは、(過熱水蒸気のゲージ圧(MPa))+0.1(MPa)を指す。
酸素濃度(%)=(大気の酸素濃度(%))×(大気の気圧(MPa))/[(大気の気圧(MPa))+(過熱水蒸気の絶対圧(MPa))]
【0026】
過熱水蒸気処理に用いる装置は、特に限定されない。過熱水蒸気処理に用いる装置の例としては、焙煎するシナモン原料を収容した密閉空間に過熱水蒸気を投入する形式の装置(例えばロータリーバルブ式装置)、焙煎するシナモン原料を、過熱水蒸気を含む密閉配管または容器に投入する形式の装置(例えば気流式装置)、焙煎するシナモン原料を、開放空間に投入する形式の装置(例えば連続式装置)が挙げられる。これらの装置のなかでも、焙煎するシナモン原料を収容した密閉空間に過熱水蒸気を投入する形式の装置は香り成分が気流により損失しないことから好ましく、ロータリーバルブ式装置が特に好ましい。ロータリーバルブ式装置は、対象物を投入したセルに直接過熱水蒸気を注入して殺菌する装置で、セルがロータリーバルブ等によりなる装置である。処理するシナモン原料の体積に対して処理する空間(セルの体積)が小さいため、セル内の空気が水蒸気によって希釈されず、また処理空間外に押し出されにくく、過熱水蒸気の圧力を設定することで酸素濃度を設定しやすい。
【0027】
過熱水蒸気処理を経て得られた加工シナモンは、そのまま食用に用いてもよいが、より好ましくは、処理後に更に粉砕処理を施すことが好ましい。粉砕処理された加工シナモンは甘味が感じられ易い。特に、加工シナモン全量に対する35メッシュパスのサイズ画分の割合が95質量%以上となるように粉砕処理することが好ましく、加工シナモン全量に対する40メッシュパスのサイズ画分の割合が95質量%以上となるように粉砕処理することがより好ましく、加工シナモン全量に対する50メッシュパスのサイズ画分の割合が95質量%以上となるように粉砕処理することが更に好ましい。ここで35、40及び50メッシュ、並びに後述する18メッシュとは、ASTM E11-20で規格された、ふるいのメッシュサイズを指す。18メッシュは目開き1mm、35メッシュは目開き500μm、40メッシュは目開き425μm、50メッシュは目開き300μmに相当する。
【0028】
加工シナモンの粉砕処理は、スタンプ式粉砕機、高速粉砕ミル、ハンマーミル等の粉砕機を用いて行うことができる。必要に応じて、粉砕後の加工シナモン粉末を、篩を使って篩別し、篩を通過しない画分は回収して再度粉砕処理に用いることができる。
【0029】
<加工シナモンの成分の特徴>
本発明の更に別の一以上の実施形態によれば、加工シナモン30mgに、900μLの70%メタノール溶液と、100μLの10ppm13-2,4-ジクロロフェノール溶液を添加して、均一になるように撹拌した後、15,000rpmで10分間遠心分離し、得られた上清800μLをフィルターろ過し、液体クロマトグラフィー質量分析法(LCMS)で測定した場合に、
13-2,4-ジクロロフェノール(13-2,4-ジクロロフェノールと推定されるイオン)に対する(+)-カテキン((+)-カテキンと推定されるイオン)のピーク面積比Aが0.1以上である、及び/又は、13-2,4-ジクロロフェノール(13-2,4-ジクロロフェノールと推定されるイオン)に対する(-)-エピカテキン((-)-エピカテキンと推定されるイオン)のピーク面積比Bが2.5以上である加工シナモンが提供される。
【0030】
シナモンの渋味の原因となるシンナムタンニンは加熱処理により分解すると(+)-カテキン及び(-)-エピカテキンに分解されると推定される。本明細書に開示する条件での過熱水蒸気による加熱処理により、シナモンのシンナムタンニンは分解され、(+)-カテキン及び(-)-エピカテキンが増加することにより、前記のピーク面積比A及びピーク面積比Bが前記範囲の加工シナモンが得られる。この特性を有する加工シナモンは渋味が抑制されており、自然な甘味が向上している。
【0031】
前記LCMSの試料の調製方法及び分析条件の具体例としては実施例に記載の条件が挙げられる。分析に用いる加工シナモンは好ましくは粉砕処理された加工シナモンであり、より好ましくは35メッシュパスの加工シナモンの粉末である。
【0032】
13-2,4-ジクロロフェノールのピーク面積は、13-2,4-ジクロロフェノールと推定されるイオンの、抽出イオンクロマトグラムにおけるピーク面積を指す。13-2,4-ジクロロフェノールと推定されるイオンとしては、13-2,4-ジクロロフェノールに由来すると推定される代表イオン(フラグメント化していないイオン)、例えば、m/z166.9770±0.1000(特に166.9770)のイオンを採用することができる。13-2,4-ジクロロフェノールに由来する代表イオンであることは、LCの保持時間も参照して推定することができる。
【0033】
(+)-カテキンのピーク面積は、(+)-カテキンと推定されるイオンの、抽出イオンクロマトグラムにおけるピーク面積を指す。(+)-カテキンと推定されるイオンとしては、(+)-カテキンに由来すると推定される代表イオン(フラグメント化していないイオン)、例えば、m/z289.0716±0.1000(特に289.0716)のイオンを採用することができる。(+)-カテキンに由来する代表イオンであることは、LCの保持時間も参照して推定することができる。
【0034】
(-)-エピカテキンのピーク面積は、(-)-エピカテキンと推定されるイオンの、抽出イオンクロマトグラムにおけるピーク面積を指す。(-)-エピカテキンと推定されるイオンとしては、(-)-エピカテキンに由来すると推定される代表イオン(フラグメント化していないイオン)、例えば、m/z289.0716±0.1000(特に289.0716)のイオンを採用することができる。(-)-エピカテキンに由来する代表イオンであることは、LCの保持時間も参照して推定することができる。
【0035】
前記各成分のピーク面積は、LCMSによる質量スペクトルデータから、各成分に対応する質量電荷比のイオン強度を、時間の関数として表した抽出イオンクロマトグラム(横軸:時間、縦軸:イオン強度)でのピーク面積を指す。
【0036】
ピーク面積比Aは、(+)-カテキンと推定されるイオンのピーク面積を、内部標準としての13-2,4-ジクロロフェノールと推定されるイオンのピーク面積で割った値である。ピーク面積比Aはより好ましくは0.15以上、より好ましくは0.20以上、より好ましくは0.23以上である。ピーク面積比Aの上限は限定されないが、例えば1.00以下、好ましくは0.50以下である。
【0037】
ピーク面積比Bは、(-)-エピカテキンと推定されるイオンのピーク面積を、内部標準としての13-2,4-ジクロロフェノールと推定されるイオンのピーク面積で割った値である。ピーク面積比Bはより好ましくは3.0以上、より好ましくは3.5以上、より好ましくは4.0以上である。ピーク面積比Bの上限は限定されないが、例えば10.0以下、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.0以下である。
【0038】
<加工シナモンの利用方法>
本明細書に開示する各実施形態に係る加工シナモンは、そのまま使用しても良いし、スパイス、砂糖、造粒剤等の他の成分と組み合わせた製品としてもよい。スパイスとしてはカルダモン、クローブ、ナツメグ等が例示できる。スパイスは、加工シナモンの2倍量以下配合することが好ましい。砂糖は、加工シナモンの1~99倍量配合することが好ましい。造粒剤としては、硬化油脂、デキストリン、コーンスターチ、馬鈴薯デンプン等が例示できる。加工シナモンは、造粒剤としともに造粒されていてもよい。
【0039】
加工シナモンを食品に添加する場合の添加量は特に限定されないが、具体例として例えば以下の加工シナモンの添加量が挙げられる。
トーストに1枚当たり0.4g;
コーヒー1杯に0.05g;
紅茶1杯あたり0.05g;
林檎、桃、パイナップル等の果実に0.2g;
クッキーレシピに0.04g/枚;
アップルパイに0.4g。
【実施例
【0040】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
<加工シナモンの調製>
シナモン(Cinnamomum cassia)の樹皮を粗砕し、一辺15mm程度に粉砕し、50メッシュ振動篩にかけて50メッシュパスサイズの微粉を除去した。得られたシナモン原料を過熱水蒸気により加熱処理した。
【0042】
過熱水蒸気殺菌装置として、ロータリーバルブ式過熱水蒸気殺菌装置と、気流式過熱水蒸気殺菌装置を用いた。ロータリーバルブ式過熱水蒸気殺菌装置として、株式会社大河原製作所製の粒専用殺菌装置SIRVを用いた。気流式過熱水蒸気殺菌装置として、株式会社大河原製作所製の造粉粉体殺菌装置KPUを用いた。
【0043】
過熱水蒸気殺菌装置による過熱水蒸気処理条件(水蒸気圧、酸素濃度、過熱度、処理時間)は下記の通りである。
【0044】
過熱水蒸気処理を経たシナモンを「加工シナモン」と称する。
【0045】
過熱水蒸気処理後の加工シナモンを連続式の乾燥槽にて乾燥した。
【0046】
乾燥後の加工シナモンを株式会社奈良機械製作所製ハンマーミルを用い粉砕し、自動振動篩にて篩分けし、35メッシュパスサイズ(実施例1~4、比較例1~4、参考例1~2)、或いは、18メッシュパスサイズ(実施例5)の紛体を回収した。
【0047】
実施例1~5、比較例1~4及び参考例1ではベトナム産のシナモンを用いた。
参考例1は、1辺が7cm以上の寸法のベトナム産のシナモン原料を過熱水蒸気により処理せずに粉砕した試料(生シナモン粉末)である。
参考例2は、市販の中国産の粉末シナモン(加熱処理の有無は不明)試料である。
【0048】
【表1】
【0049】
<評価1:甘味と渋味の評価>
得られた加工シナモン粉体を、スプーンを用いて粉のままなめて甘味と渋味を評価した。評価は5名のパネラー(A、B、C、D、E)が行い、下記の基準により甘味と渋味さをそれぞれ5段階の点数で評価し、その平均点を求めた。
(甘味の基準)
5:砂糖のように強い甘味をもつ
4:甘味がはっきりあり、やや軽いが甘味料として使える
3:甘味がはっきりあり、甘味料としてかろうじて使える
2:甘味をわずかに感じるが甘味料としては使用できない
1:全く甘味を感じない
(渋味の基準)
5:全く渋みを感じない
4:わずかに渋みを感じるが、喫食時に苦痛はない
3:渋みは感じるが、喫食時に大きな苦痛はない
2:渋みが強く、やや口の中に違和感を感じる
1:渋みが強く、舌に膜が張ったように感じる
【0050】
甘味及び渋味の評価結果を次表に示す。各パネラーによる評価の素点とその平均値を示す。
【0051】
【表2】
【0052】
<評価2:LCMS分析>
実施例1、比較例1、比較例4、参考例1及び参考例2の加工シナモン粉末を、以下の手順で液体クロマトグラフ質量スペクトル(LCMS)分析に供した。
【0053】
(内部標準液の調製)
1mg/mLの13-2,4-ジクロロフェノール/アセトン溶液を、100μL計り取り、70(v/v)%メタノール水溶液で10mLに定容して、13-2,4-ジクロロフェノールの濃度を10ppmとした。
【0054】
(LCMS分析試料液の調製)
1.5mLチューブに、各加工シナモン粉末を30mgずつ秤量した(n=3)。
続いて70(v/v)%メタノール水溶液を900μL添加し、更に、前記内部標準液を100μL添加した。各成分を添加後に、前記チューブの内容物が均一になるように撹拌した。
前記チューブを15,000rpmで10分間遠心した。
遠心後、上清800μLをフィルターろ過したものを分析試料液とした。
【0055】
(LCMS分析)
前記分析試料液を、Thermo Fisher Scientific社のLCMS装置(LC-orbitrapVelosMS)を用いてLC-orbitrapMSにより分析した。
分析条件は以下の通り:
LC条件:
注入量:10μL
カラム:Imtakt Unison UK-C18カラム、粒径5μm、長さ25cm×内径4.6mm
カラム温度:25℃
溶媒条件:A/B=100/0(0-15min)→70/30(35min)→50/50(40~62min)→0/100(70-80min)
A液:0.1%ギ酸水溶液
B液:アセトニトリル
MS条件:
極性:ネガティブ
モード:Scan(m/z100-1500)
分解能:30,000
ddMS:Top1、MS3(分解能7,500)
I Spray Voltage:3.5kV
キャピラリー温度:300℃
【0056】
(内部標準に対するピーク面積比の算出方法)
LCMSトータルイオンクロマトグラムから、各成分と推定される代表イオンをイオンクロマトグラム抽出し、それぞれのピークの面積を算出した。
【0057】
LCの保持時間72.82分、m/z166.9770のイオンのピーク面積を、13-2,4-ジクロロフェノールのピーク面積と推定した。以下の説明ではこの面積を、13-2,4-ジクロロフェノールのピーク面積と称する。
【0058】
LCの保持時間44.29分、m/z289.0716のイオンのピーク面積を、(+)-カテキンのピーク面積と推定した。以下の説明ではこの面積を、(+)-カテキンのピーク面積と称する。
【0059】
LCの保持時間45.64分、m/z289.0716のイオンのピーク面積を、(-)-エピカテキンのピーク面積と推定した。以下の説明ではこの面積を、(-)-エピカテキンのピーク面積と称する。
【0060】
(+)-カテキンのピーク面積の、13-2,4-ジクロロフェノールのピーク面積に対する面積比((+)-カテキンのピーク面積/13-2,4-ジクロロフェノールのピーク面積)を算出した。
【0061】
また、(-)-エピカテキンのピーク面積の、13-2,4-ジクロロフェノールのピーク面積に対する面積比((-)-エピカテキンのピーク面積/13-2,4-ジクロロフェノールのピーク面積)を算出した。
【0062】
測定はn=3で行い、(+)-カテキンピーク面積比及び(-)-エピカテキンピーク面積比のそれぞれについて平均値及び標準偏差を求めた。
結果を次表に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
実施例1の加工シナモン粉末では、(+)-カテキンと推定されるピークの面積、及び、(-)-エピカテキンと推定されるピークの面積が、比較例1、4、参考例1、2と比較して顕著に増加していることが確認された。
【0065】
シナモンの渋味の原因となるシンナムタンニンは加熱処理により分解すると(+)-カテキン及び(-)-エピカテキンに分解されると推定される。そして、実施例1の加工シナモンでは、比較例1、4、参考例1、2よりシンナムタンニンの分解の程度が高く、その結果、甘味が向上し、渋味が低減されたものと推定される。
【0066】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。