(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】検出装置、検出システムおよび検出方法
(51)【国際特許分類】
A01M 1/00 20060101AFI20240402BHJP
A01M 1/14 20060101ALI20240402BHJP
G01V 8/12 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
A01M1/00 Q
A01M1/14 E
G01V8/12 Z
(21)【出願番号】P 2019202919
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2019047525
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】久保田 修司
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-157561(JP,A)
【文献】特開2016-217857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 - 99/00
G01V 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体を検出する装置であって、
前記物体は、害虫であり、
内面が一定以下の反射率を有する筐体と、
前記筐体内に赤外線を放射する放射手段と、
赤外線を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に応じて、赤外線の反射強度を調整する調整手段と
、
前記筐体に交換可能に取り付けられ、前記害虫を捕獲するためのトラップ手段と、
前記筐体から前記トラップ手段が取り外されると電源を切断し、前記筐体に前記トラップ手段が装着されると電源を投入するスイッチ手段と
を含
み、
前記調整手段は、前記トラップ手段が交換される度に、前記筐体内に前記物体が存在しない状態で前記赤外線の反射強度が所定の値となるように調整する初期化処理を実行する、
検出装置。
【請求項2】
前記放射手段は、矩形波の入力を受けて変調した赤外線を放射し、
前記調整手段は、前記筐体内に前記物体が存在しない状態で前記赤外線の反射強度が所定の値となるように前記矩形波の周波数を調整する、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記放射手段は、矩形波の入力を受けて変調した赤外線を放射し、
前記調整手段は、前記筐体内に前記物体が存在しない状態で前記赤外線の反射強度が所定の値となるように前記矩形波のパルス幅を調整する、請求項1に記載の検出装置。
【請求項4】
前記放射手段は、入力される電流量に応じた赤外線を放射し、
前記調整手段は、前記筐体内に前記物体が存在しない状態で前記赤外線の反射強度が所定の値となるように前記電流量を調整する、請求項1に記載の検出装置。
【請求項5】
前記放射手段は、矩形波の入力を受けて変調した赤外線を放射し、
前記検出手段は、赤外線の検出量を増幅する増幅手段を含み、
前記調整手段は、前記筐体内に前記物体が存在しない状態で前記赤外線の反射強度が所定の値となるように前記増幅手段の増幅率を調整する、請求項1に記載の検出装置。
【請求項6】
前記検出装置は、前記反射強度が前記所定の値を超えたか否かに応じて前記物体を検出する、請求項2~5のいずれか1項に記載の検出装置。
【請求項7】
前記筐体内の温度を測定する温度測定手段と、
前記温度測定手段により測定された温度で、前記調整手段により調整された値が有効か否かを判定する温度補正制御手段と
を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の検出装置。
【請求項8】
前記温度補正制御手段は、前記筐体内に前記物体が存在しない状態で前記調整手段により調整された値を有効と判定し、決定値として前記温度測定手段により測定された前記温度と対応付けて記憶手段に記憶させる、請求項7に記載の検出装置。
【請求項9】
前記温度補正制御手段は、前記温度測定手段により測定された前記温度に対して前記記憶手段に前記決定値が記憶されていない場合、前記調整手段により調整された値を仮値として前記温度と対応付けて前記記憶手段に記憶させる、請求項8に記載の検出装置。
【請求項10】
前記温度補正制御手段は、各温度において予め測定された値を各温度における想定値とし、前記各温度と対応付けて記憶手段に記憶させ、前記想定値に個体誤差分を加味した値を参考値とする、請求項7~9のいずれか1項に記載の検出装置。
【請求項11】
前記温度補正制御手段は、各温度において予め測定された値に基づき導出された計算式から想定値を算出し、前記想定値に個体誤差分を加味した値を参考値とする、請求項7~9のいずれか1項に記載の検出装置。
【請求項12】
前記想定値である各温度における調整パラメータは、前記赤外線を放射するために入力される矩形波の周波数、前記矩形波のパルス幅、前記赤外線の検出量を増幅する増幅手段の増幅率から選択され、
選択された前記調整パラメータ以外の調整パラメータを固定値とする場合の該固定値を決定するための前処理手段を含む、請求項10または11に記載の検出装置。
【請求項13】
前記温度測定手段により測定された前記温度に対して記憶手段に有効と判定された値である決定値が記憶されていない場合、前記温度に最も近い温度と対応付けて記憶されている決定値または参考値を使用して、前記放射手段または前記検出手段を制御する動作制御手段を含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の検出装置。
【請求項14】
前記温度補正制御手段は、前記温度測定手段により測定された前記温度に対して前記記憶手段に前記決定値が記憶されており、前記物体の検出処理で該物体が未検出であった場合、それまでに記憶された前記各温度に対応付けられた前記各仮値を各決定値に変更し、前記各温度と対応付けて前記記憶手段に記憶させる、請求項9に記載の検出装置。
【請求項15】
物体を検出する検出システムであって、
前記物体は、害虫であり、
内面が一定以下の反射率を有する筐体と、
前記筐体内に赤外線を放射する放射手段と、
赤外線を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に応じて、赤外線の反射強度を調整する調整手段と
、
前記筐体に交換可能に取り付けられ、前記害虫を捕獲するためのトラップ手段と、
前記筐体から前記トラップ手段が取り外されると電源を切断し、前記筐体に前記トラップ手段が装着されると電源を投入するスイッチ手段と
を含
み、
前記調整手段は、前記トラップ手段が交換される度に、前記筐体内に前記物体が存在しない状態で前記赤外線の反射強度が所定の値となるように調整する初期化処理を実行する、
検出システム。
【請求項16】
物体を検出する検出装置が実行する検出方法であって、
前記物体は、害虫であり、
内面が一定以下の反射率を有する筐体内に放射手段から赤外線を放射するステップと、
検出手段により赤外線を検出するステップと、
前記検出手段の検出結果に基づき、前記物体を検出するステップと
、
前記筐体に交換可能に取り付けられた前記害虫を捕獲するためのトラップが取り外されると電源を切断し、前記筐体に前記トラップが装着されると電源を投入するステップと、
を含み、
前記検出手段の検出結果に応じて、赤外線の反射強度を調整するステップ
であって、前記トラップが交換される度に、前記筐体内に前記物体が存在しない状態で前記赤外線の反射強度が所定の値となるように調整する初期化処理を実行するステップ
をさらに含む、検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体を検出する装置、システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体を検出する技術として、赤外線(赤外光とも呼ばれる。)を使用したセンシング技術が知られている。赤外線を使用したセンシング方法としては、赤外線の発光部と受光部との間を物体が通過し、赤外線を遮ったか否かにより検出する方法と、発光部から放射された赤外線が物体に反射し、受光部で受光された光量が変化したか否かにより検出する方法とがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前者の方法では、物体が、赤外線が通る箇所を通過しないと検出できないことから、赤外線が通る箇所を複数にしなければならず、発光部と受光部が複数必要になり、コストがかかるという問題があった。
【0004】
一方、後者の方法では、空間内を乱反射して戻ってくる光量の変化をみるため、発光部と受光部は1組あればよい。物体の一例である害虫には、成長過程で様々な大きさのものが存在し、それらを識別するため、光量の変化の最小値と最大値の比率(ダイナミックレンジ)が大きくなければならない。しかしながら、ダイナミックレンジを大きくすると、光量の小さい変化が、害虫の大きさによるものか、または誤差によるものかの区別ができず、検出ミスが多くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、安価に提供することができ、検出ミスを低減することができる装置、システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、発明の一実施形態では、物体を検出する装置であって、前記物体は、害虫であり、
内面が一定以下の反射率を有する筐体と、
前記筐体内に赤外線を放射する放射手段と、
赤外線を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に応じて、赤外線の反射強度を調整する調整手段と、
前記筐体に交換可能に取り付けられ、前記害虫を捕獲するためのトラップ手段と、
前記筐体から前記トラップ手段が取り外されると電源を切断し、前記筐体に前記トラップ手段が装着されると電源を投入するスイッチ手段と
を含み、
前記調整手段は、前記トラップ手段が交換される度に、前記筐体内に前記物体が存在しない状態で前記赤外線の反射強度が所定の値となるように調整する初期化処理を実行する、検出装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安価に提供することができ、検出ミスを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】赤外線の検出値および温度と時間との関係を示した図。
【
図6】検出装置のハードウェア構成の一例を示した図
【
図7】検出装置の機能構成の一例を示したブロック図。
【
図8】検出装置が備える放射部の構成例を示した図。
【
図9】検出装置が備える検出部の構成例を示した図。
【
図10】検出装置が実行する初期キャリブレーション処理の一例を示したフローチャート。
【
図11】初期キャリブレーション処理後のキャリブレーション値を管理するテーブルの一例を示した図。
【
図12】受光側の特性曲線における利得変更範囲が異なる場合に、特性曲線の形状が異なる例を示した図。
【
図14】一定時間毎に実行するキャリブレーション処理および検出処理の一例を示したフローチャート。
【
図15】周波数選択処理時に参照するキャリブレーション値を管理するテーブルの一例を示した図。
【
図16】検出装置が実行する仮周波数を決定周波数として移行する処理の一例を示したフローチャート。
【
図17】仮周波数を決定周波数として移行するときのキャリブレーション値を管理するテーブルの一例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る検出装置は、赤外線を使用して物体を検出する装置であり、例えば害虫トラップのような閉空間に近い小さな空間の中の害虫の検出を赤外線によりセンシングする装置である。なお、本実施形態では、検出する物体としてゴキブリを例示する場合があるが、検出する物体はこれに限定されるものではない。
【0010】
検出装置は、放射部から赤外線を放射し、空間内で反射して戻ってくる赤外光と、害虫が捕獲されている状態で害虫に反射して戻ってくる赤外光の変化を捉え、害虫の捕獲状況を検出する。
【0011】
ここで、このような方式を採用する検出装置による問題点について説明しておく。赤外線の反射強度、すなわち反射して戻ってくる赤外光の光量(受光量)は、害虫が捕獲されていない場合と、捕獲している場合との差が検出できる範囲を、赤外線の検出部のダイナミックレンジに収まるように調整する必要がある。特に、害虫は、成長過程でサイズがミリ単位の小さなものからセンチ単位の大きなものまで存在するため、それらの差も検出できる大きいダイナミックレンジが必要である。
【0012】
一方で、ミリ単位の小さな害虫の検出については、光量の変化が小さいことから、ダイナミックレンジを大きくすると、光量の小さい変化が、害虫が捕獲されたことによるものか、または誤差によるものかの区別ができず、検出ミスが多くなる。
【0013】
誤差としては、害虫を捕獲するための空間を形成する筐体(ハウジング)の成形誤差、放射部や検出部の特性誤差、放射部や検出部の取り付け誤差、放射部や検出部を制御する制御部(CPU等の電子回路)の精度誤差、温度変化による光量の変化等がある。これらの誤差のうち、温度変化による誤差以外は、装置に固有の静的な誤差である。
【0014】
静的な誤差は、検出処理を実行する前に補正を行うことで小さくし、害虫の検出精度を向上させることができる。
【0015】
一般に、放射部の光源として使用されるLED(Light Emitting Diode)は、温度が上がると光量が減り、温度が下がると光量が増すという特性を有している。また、電子回路や検出部も、温度変化により出力値が変動する。このため、装置全体の温度特性を考慮する必要がある。温度は、動的に変化し、温度変化による光量の変化は、ミリ単位の害虫を検出する光量の変化に比較して充分に大きい。したがって、上記の静的な誤差のように、検出処理を実行する前に補正をしただけでは、検出ミスが数多く発生し、正確に害虫を検出することができない。
【0016】
図1は、実際に試験を行い、赤外線の検出値および温度と時間との関係を示した図である。試験を開始する際の環境温度を20℃とし、装置に固有の静的な誤差を小さくするため、調整(キャリブレーション)を行い、検出値としての反射した赤外線の光量(反射赤外線受光量)が閾値(0)になるように設定している。
【0017】
試験を開始すると、時間が経過するとともに温度が変化している。区間1では、温度が上下動を繰り返しながら徐々に低下している。光量は、温度の低下に伴って増大している。一旦20℃に戻し、区間2では、温度が上下動を繰り返しながら徐々に上昇している。光量は、20℃より高い温度になると、閾値以下となっている。なお、
図1では、光量がマイナス値であっても0を示すので、実際にマイナス値であるかどうかは不明である。
【0018】
温度が23℃になった時点(図中、Aで示す点)でミリ単位の物体を侵入させる。区間3は、物体を侵入させ、その位置を変えることなく侵入させたままの状態に維持した区間である。温度は、物体を侵入させたときは大きく上下動を繰り返しているが、その後、上下動が徐々に小さくなり、低下している。
【0019】
図1では、温度が23℃のように20℃より高い温度のときは、光量は閾値以下となる。その一方で、温度が20℃付近に低下し、キャリブレーションを行った環境に近くなると、光量が増大する。キャリブレーション温度の20℃より高い温度のときは、放射部の光源から放射する光量が減り、物体に反射して戻ってくる光量も減るからである。このため、物体を侵入させても、キャリブレーション温度の20℃に戻らないと、物体を検出することができない。
【0020】
これらのことから、検出処理を実行する前に、静的な誤差を小さくする初期キャリブレーションを行い、温度毎に光量を調整するためのキャリブレーションパラメータをもっておく必要がある。
【0021】
本実施形態に係る検出装置は、反射して戻ってくる光量を調整する機能を有し、この機能により初期キャリブレーションの実施、温度毎のキャリブレーションパラメータをもつことが可能となる。その結果、環境変化や環境誤差による物体の検出ミスを低減させることができる。また、従来の発光部と受光部に相当する放射部と検出部が1組で良いため、安価に提供することができる。
【0022】
本実施形態に係る検出装置について、図面を参照して詳細に説明する。
図2は、検出装置の外観の一例を示した図である。検出装置10は、筐体11を備える。筐体11は、物体検出部12と、機器部13とを含む。ここでは、物体検出部12と機器部13とを含む装置として説明するが、これに限られるものではない。例えば、機器部13の一部または全部を1以上の装置に分離し、検出システムとして複数の装置から構成されるものとしてもよい。
【0023】
なお、複数の装置から構成される場合、各装置は、ケーブル等により直接接続された構成に限らず、1以上のネットワークを介して接続された構成であってもよい。また、ネットワークは、有線、無線のいずれのネットワークであってもよい。
【0024】
物体検出部12と機器部13はそれぞれ、箱状のものとされ、内部に空間を有している。物体検出部12と機器部13は、隔壁14により互いに仕切られた状態で隣接している。物体検出部12は、内部の空間が検出空間とされ、外形が台形形状とされている。機器部13は、外形が直方体形状とされている。なお、これら形状は一例であり、これに限られるものではない。
【0025】
物体検出部12は、底壁12a、上壁12b、側壁12c~12eを含む。検出空間は、底壁12a、上壁12b、側壁12c~12e、隔壁14により囲まれた内側に形成される。
【0026】
底壁12aは、検出装置10が配置面上に配置される場合、底部に位置し、配置面と接触する。上壁12bは、底壁12aから上方に離間し、底壁12aに対向して設けられる。側壁12c~12eは、底壁12aと上壁12bとに連続し、隔壁14とともに周囲を包囲するように設けられる。側壁12c~12eは、底壁12aから上壁12bに向かうにつれて検出空間を先細にするようにテーパ状に傾斜している。
【0027】
側壁12c~12eはそれぞれ、底壁12aに連続する下側部分に開口15が設けられている。開口15は、底壁12aの縁に沿って延びる細長い矩形(スリット状)とされている。開口15は、害虫が外部から内部の検出空間へ侵入する侵入口となっている。
【0028】
筐体11は、検出空間に面する内面の赤外線の反射率が一定以下、例えば0.1%以下であるように、非金属の材料で作製され、色が黒色とされている。材料としては、プラスチック、ゴム、セラミック等を挙げることができ、軽量かつ安価に製造するため、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂)等のプラスチックを用いることができる。反射率は、ある面での入射光の光束に対する反射光の光束の割合である。なお、筐体11は、反射率が0.1%を超える材料で作製し、内面に反射率が0.1%以下の板、シート、フィルム、塗料等で被覆したものであってもよい。色は、反射率を低くするため、黒色が好ましいが、濃い茶色や濃い紺色等であってもよい。
【0029】
図3は、検出装置の内部の一例を示した斜視図であり、
図4は、検出装置の内部の一例を示した平面図である。
図3は、上壁12b側から見た内部の斜視図で、
図4は、底壁12aから見た内部の平面図である。これらの図では、底壁12aの短辺方向をx軸方向、長辺方向をy軸方向、上壁12bがある上方向をz軸方向と定義している。
図5は、筐体11をy軸方向に切断した断面図である。
【0030】
物体検出部12は、底壁12aの内面からz軸方向へ突出する隆起部12fを有する。隆起部12fは、筐体11と同じ材料で作製される。隆起部12fは、筐体11と異なる材料で作製されていてもよく、また、底壁12aと一体化されていてもよい。隆起部12fは、底壁12aの縁に沿って設けられた3つの開口15に沿って帯状に延び、開口15の近傍に配置される。これは、開口15を通して外部へ赤外線が放射されるのを抑制し、また、外部から開口15を通して内部へ侵入する赤外線を吸収するためである。
【0031】
隆起部12fは、上方から見ると、U字状に形成されるが、この形状に限定されるものではない。隆起部12fは、筐体11と同様、赤外線の反射率が0.1%以下の材料で作製することができる。また、隆起部12fは、反射率が0.1%を超える材料で作製し、その表面に反射率が0.1%以下の板、シート、フィルム、塗料等で被覆したものであってもよい。色も、筐体11と同様、黒色、濃い茶色や濃い紺色等とすることができる。
【0032】
開口15と隆起部12fとの距離や隆起部12fのz軸方向への突出寸法等は、開口15の形状や寸法、所望される上記の抑制効果等に応じて決定することができる。
【0033】
機器部13は、制御基板16と、電源17とを備える。制御基板16は、検出装置10の全体を制御する。電源17は、制御基板16が動作するために必要な電源を供給する。
【0034】
制御基板16は、支持脚13aにより底壁12a上に支持され、筐体11の上壁12bと底壁12aとの間に配置されている。制御基板16は、隔壁14を貫通してy軸方向である検出空間12gへと延びる板状の突出部13bを備える。突出部13bは、上面に放射部18が配置され、下面に赤外線を検出する検出部19が配置される。
【0035】
放射部18は、赤外線LEDとプリズムとを含んで構成される。赤外線LEDは、波長範囲が約700~2500nmの赤外線をy軸方向へ出射する。赤外線LEDの光軸は、y軸方向と平行であってもよいし、y軸方向に対して所定の角度で傾斜していてもよい。
【0036】
プリズムは、赤外線LEDの光軸上に離間して配置され、半円筒状の側面を有し、入射した赤外線をxy平面に沿って放射状に拡散して出射する。これにより、赤外線は、検出空間12g内の全体に放射される。
【0037】
検出部19は、例えば赤外線センサであり、受光した赤外線の強度を示す信号を出力する。赤外線センサとしては、赤外線フォトダイオードや赤外線フォトトランジスタ等を用いることができる。検出部19は、放射部18から放射され、側壁12c~12e等で反射して戻ってきた赤外線の反射光を受光し、受光した赤外線の強度を示す信号に変換して出力する。
【0038】
図6は、検出装置のハードウェア構成の一例を示した図である。検出装置10は、ハードウェアとして、放射部18と、検出部19と、電源17と、制御部20と、メモリ21と、入出力部22と、温度測定部23とを備える。
【0039】
制御部20は、CPU等であり、メモリ21に格納されたプログラムを実行し、検出装置10の全体の制御、後述する初期キャリブレーション処理や検出処理等を実行する。メモリ21は、記憶部として機能し、プログラムのほか、後述するテーブルや検出結果等のデータを記憶する。電源17は、蓄電池等で、制御部20へ電源を供給する。入出力部22は、通信I/F等で、外部のサーバ等との通信を制御する。温度測定部23は、温度センサ等で、筐体11内(検出空間)の温度を測定する。なお、制御部20は、メモリ21からプログラムを読み出し、実行して制御等を行うものに限らず、制御や各処理を専用に行う1以上の回路等により構成されていてもよい。
【0040】
図7は、検出装置の機能構成の一例を示したブロック図である。検出装置10は、制御部20により実現される機能部として、動作制御部25と、寸法検出部26と、計時部27と、調整部28と、温度補正制御部29とを含む。
【0041】
動作制御部25は、検出装置10の全体の動作を制御する。動作制御部25は、電源17から供給される電力を各構成要素に供給し、例えば放射部18の光源の点灯および消灯動作や検出部19の検出動作等を制御する。動作制御部25は、検出部19により検出され、出力された赤外線の受光信号に基づき、害虫の有無を判断する。筐体11内に害虫が侵入すると、害虫に反射した赤外線を受光し、出力する出力信号が変化する。動作制御部25は、この変化の有無により害虫の有無を判断する。
【0042】
寸法検出部26は、検出部19から出力された赤外線の受光信号に基づき、筐体11内に存在する害虫の寸法を検出する。寸法検出部26は、害虫が侵入する前の信号と、侵入した後の信号との差から、侵入した害虫のサイズを識別する。寸法検出部26は、信号の差に対応した寸法を検出するためにテーブル等を保持し、テーブル等を使用して、害虫のサイズを算出することができる。なお、寸法検出部26は、動作制御部25により害虫が検出された場合にのみ、寸法の検出処理を実行することができる。
【0043】
計時部27は、時間を計測し、計測時間を出力する。動作制御部25は、計時部27により出力された計測時間に基づき、温度測定部23に対して指示し、その時点での筐体11内の温度を測定させる。なお、動作制御部25は、温度測定部23により常に温度を監視させ、指定された温度になったところで温度測定部23から信号を出力させ、指定温度になった旨の通知を受けてもよい。
【0044】
調整部28は、動作制御部25からの指示を受け、必要に応じて温度に対する赤外線の受光量を調整するキャリブレーションパラメータ(キャリブレーション値)を調査する。
【0045】
温度補正制御部29は、温度測定部23が出力した温度を基に、調整部28で調査されたキャリブレーション値が有効か否かを判定する。温度補正制御部29は、筐体11内に害虫が存在しない状態で調整部28により調査されたキャリブレーション値を有効と判定し、決定したキャリブレーション値として温度測定部23から出力された温度と対応付けてメモリ21に記憶させる。また、温度補正制御部29は、温度測定部23から出力された温度に対してメモリ21に決定したキャリブレーション値が記憶されていない場合、調整部28により調査されたキャリブレーション値を仮のキャリブレーション値として温度と対応付けてメモリ21に記憶させる。仮のキャリブレーション値は、この時点では有効か無効かを判定できないキャリブレーション値である。
【0046】
温度補正制御部29は、温度測定部23が出力した温度と対応付けて記憶した、決定したキャリブレーション値や後述する参考値を動作制御部25に通知する。動作制御部25は、通知されたキャリブレーション値を設定し、放射部18または検出部19の動作を制御し、検出処理を実行する。温度補正制御部29は、検出処理の結果に応じて、メモリ21に記憶させた仮のキャリブレーション値を決定したキャリブレーション値に変更する。
【0047】
図8は、放射部18の構成例を示した図である。放射部18は、抵抗30と、赤外線LED31と、スイッチング素子32とを含んで構成される。抵抗30は、赤外線LED31へ過大な電流が流れるのを防止するための電流制限抵抗である。赤外線LED31は、光源として、電流の供給を受けて赤外線を放射する。
【0048】
スイッチング素子32は、スイッチとして機能し、スイッチをON/OFFし、赤外線LED31へ電流を流し、または電流が流れないように制御する。スイッチング素子32は、例えばn-MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等である。n-MOSFETは、ゲート、ドレイン、ソースの3つの領域を有し、ゲート-ソース間の電圧が閾値を超えた場合、ドレインからソースへ電流が流れ、スイッチONの状態になり、閾値より小さい電圧である場合は、ドレインからソースへは電流が流れず、スイッチOFFの状態になる。赤外線LED31は、ドレイン側に接続され、スイッチONの状態のときに点灯し、スイッチOFFの状態のときに消灯する。
【0049】
放射部18は、放射する赤外線を、自然界の赤外線と区別するために変調させる。この変調を実現するため、n-MOSFETのゲートには、パルス変調した電圧が印加される。ゲートには、例えば38kHz周波数のパルス変調された電圧が印加される。
【0050】
図9は、検出部19の構成例を示した図である。検出部19は、PINフォトダイオード33と、I-V変換部34と、増幅部35と、帯域制限フィルタ36と、復調部37とを含んで構成される。
【0051】
PINフォトダイオード33は、高速な応答特性を有し、変調された赤外線を電流に変換する。赤外線を電流に変換することができれば、PINフォトダイオード33に限定されるものではなく、PNフォトダイオードやAPDフォトダイオード等であってもよい。
【0052】
I-V変換部34は、PINフォトダイオード33からの電流を電圧に変換する。増幅部35は、電圧を信号とし、その信号を設定された増幅率で増幅する。帯域制限フィルタ36は、変調周波数である、例えば38kHzという周波数に中心周波数を合わせ、その周波数帯域の信号のみを通し、それ以外は減衰させるフィルタである。復調部37は、帯域制限フィルタ36を通過した信号を出力信号に変換する。
【0053】
放射部18から放射された赤外線は、一部が筐体11内で吸収され、一部は筐体11外へ漏れ、一部は反射して検出部19へ届く。検出部19は、反射した赤外線の受光量の変化により筐体11内の変化を検出する。この変化を検出する方法としては、例えば初期状態の反射光を一定にし、そのときの受光量の値を閾値とし、その閾値より受光量の値が大きくなれば、害虫等の物体が筐体11内に侵入し、物体からの反射が起こっていると判定する方法を採用することができる。なお、この方法は一例であるので、この方法に限定されるものではない。以下、この方法を採用するものとして詳細に説明する。
【0054】
この方法を実現するためには、装置毎にばらつきのある受光量を、初期状態で閾値に調整する必要がある。受光量の調整は、赤外線の照射側で実施してもよいし、受光側で実施してもよい。
【0055】
照射側で受光量を調整する方法としては、赤外線LED31へ供給する電流量を調整する方法や、スイッチング素子32のゲートへ印加する電圧(矩形波)の38kHzという変調周波数を変更する方法を一例として挙げることができる。後者の方法は、検出部19の帯域制限フィルタ36のフィルタ特性に応じて光量が変わることを利用するものである。また、照射側で受光量を調整する方法としては、スイッチング素子32のゲートへ印加する電圧(矩形波)の38kHzのパルス幅を変更することにより受光側のパルス復調(パルス検出)感度を調整する方法を挙げることもできる。
【0056】
受光側で受光量を調整する方法としては、検出部19の増幅部35に設定された増幅率を調整する方法を一例として挙げることができる。これらの方法は一例であるので、受光量を調整する方法はこれらの方法に限定されるものではない。なお、以下では、デジタル制御により簡単に実現することができる、上記の変調周波数を変更する方法を採用するものとして説明する。
【0057】
図10は、初期キャリブレーション処理の一例を示したフローチャートである。初期キャリブレーション処理は、検出装置10の電源投入時や初期化時に実施される。電源投入時や初期化時は、筐体11内に害虫が侵入していない可能性が高く、害虫が侵入していない状態とみなすことができるからである。
【0058】
初期キャリブレーション処理は、ステップ100から開始し、ステップ101では、温度測定部23として使用されるセンサ等の特性が安定するまで、一定時間が経過するのを待つ。一定時間が経過したか否かは、計時部27により計測される時間に基づき判断される。この判断は、動作制御部25が行う。
【0059】
一定時間が経過した後、ステップ102へ進み、動作制御部25は、温度測定部23に対して温度測定を指示し、温度測定部23がその指示を受けて、その時点での温度を測定する。このとき測定された温度が、初期キャリブレーション時の温度となる。説明を分かりやすくするため、測定された温度が20℃であったとする。
【0060】
温度の測定後、キャリブレーション処理に入る。キャリブレーション処理では、ステップ103で、調整部28が、変調周波数を初期値に設定し、周波数を初期化する。変調周波数は、検出部19の帯域制限フィルタ36の特性から38kHzが最大利得、すなわち最大の受光量を得る周波数となる。帯域制限フィルタ36の特性からは、変調周波数を38kHzより高くしても、低くしても、受光量は、最大の受光量から低下してくる。このため、キャリブレーション処理後の周波数は、38kHz以上と38kHz未満の2つの周波数で受光量が閾値となる。このことから、初期値は、38kHzとしてもよいし、38kHzより充分に高い周波数や充分に低い周波数にしてもよい。この例では、初期値を、例えば充分に高い周波数として40kHzに設定したとする。
【0061】
初期値を設定した後は、閾値となる周波数を探す。ステップ104では、放射部18が、設定された周波数の電圧を受け、その電圧に応じた赤外線を放射する。設定した周波数は38kHzより充分に高い40kHzであるため、充分に低い受光量となり、反射光量がなくなる。
【0062】
ステップ105では、検出部19が、一定時間が経過するのを待ち、一定時間に受光した累積値として受光量を検出する。検出が終了したところで、ステップ106で放射部18による赤外線の放射を停止する。
【0063】
ここで、閾値を受光量が0の時とし、40kHzから38kHzへ変調周波数を下げていくと、どこかの周波数で受光量が0から変化し、0より大きい値を取るようになる。その受光量が0から変化する周波数を、温度20℃のときのキャリブレーション値とする。この受光量の変化を検出するため、少なくとも最大の受光量となる周波数にしたときに充分に大きい受光量を検出することができるように赤外線の照射量を調整しておくことが必要である。
【0064】
ステップ107では、調整部28は、検出結果である受光量が閾値を超えたか否かを判断することにより、設定した周波数が、受光量が0から変化する周波数か否かを判断する。そうでない場合、ステップ108へ進み、調整部28が周波数を変更し、ステップ104へ戻る。一方、そうである場合、キャリブレーション処理を終了し、ステップ109へ進む。
【0065】
ステップ109では、調整部28が、得られたキャリブレーション値をメモリ21に記憶し、ステップ110で処理を終了する。キャリブレーション値は、初期キャリブレーション値で、周波数と温度の値である。
【0066】
図11は、初期キャリブレーション処理後のキャリブレーション値を管理するテーブルの一例を示した図である。テーブルは、各温度とそのとき設定すべき周波数の対応表となっている。周波数は、決定周波数と、仮周波数と、参照周波数とがある。
【0067】
決定周波数は、筐体11内に物体が侵入していない状態、もしくは侵入していないと判断できる状態でキャリブレーション処理を実行し、得られたキャリブレーション値である。また、決定周波数には、過去の仮周波数が、害虫が侵入していない状態であった、もしくは侵入していないと判断できる状態であったと判定できる場合の当該仮周波数も含まれる。
【0068】
仮周波数は、筐体11内に物体が侵入していないと判定できない状態でキャリブレーション処理を実行した場合に得られたキャリブレーション値である。参照周波数は、予め測定し記憶した各温度における設定周波数の想定値に対して、装置の個体誤差を考慮していない値のため、初期キャリブレーション時に得られたその時の温度と周波数から予め測定された記憶されている同じ温度における周波数値との差である静的な個体誤差(オフセット値)を、すべての温度範囲で各温度における周波数の想定値に同じオフセット値だけ加味したものである。また、参考周波数は、温度特性の個体差(動的な固体誤差)を考慮していないため、あくまで参考値として扱う値である。
【0069】
参照周波数の想定値は、テーブルに予め記憶したものであってよいが、これに限られるものではなく、例えば各温度において予め測定された値に基づき導出された温度特性を示す計算式から算出してもよい。なお、計算式から算出する場合も、初期キャリブレーション時に得られたオフセット値を加味するが、参照周波数の欄は設けなくてもよい。
【0070】
筐体11内に物体が存在しない場合にキャリブレーション処理を実行した場合、測定温度に対する周波数を決定できるので、決定周波数の欄に入力される。したがって、初期キャリブレーション処理で、測定温度が20℃のときに周波数が39.1kHzと決定された場合、
図11に示すように、温度20℃に対応する決定周波数の欄に39.1kHzが入力される。
【0071】
なお、温度の設定範囲は、物体が害虫の一種であるゴキブリである場合、活動温度が20~32℃前後であることが知られているため、例えば0~45℃とすることができる。
【0072】
ところで、想定値の温度特性が非線形な特性を示し、その特性を示す非線形カーブが周波数以外の調整パラメータによって異なる場合、静的な個体誤差(オフセット値)を加味するだけでは温度範囲の中で大きく想定値がずれる可能性がある。周波数以外の調整パラメータは、上記の矩形波のパルス幅、電流量、増幅率等である。想定値は、あくまで想定するために用いるものである。その一方で、決定周波数として採用されるまでに時間がかかる場合、想定値による検知結果がよりどころとなる。そうすると、想定値のずれ量は出来るだけ少ないほうが望ましい。
【0073】
変調周波数を使用して受信感度を調整する場合、受光側のフィルタ特性の周波数と利得との関係を示す特性曲線が、想定する温度範囲における受信感度を示す曲線となる。しかしながら、発光強度が異なると、使用する特性曲線の範囲が異なるため、想定値にずれが生じてしまう。
【0074】
図12は、受光側の特性曲線における利得変更範囲が異なる場合に、特性曲線の形状が異なる例を示した図である。
図12では、曲線の形状を点線と一点鎖線で例示し、その形状が異なっていることを示している。
【0075】
このようなずれをなくすため、初期キャリブレーション処理の前に前処理を行う。前処理は、その時の温度における周波数の想定値で受光量が予め定めた閾値以下になるように他の調整方法で発光量、すなわち赤外線の照射量を調整する処理である。他の調整方法としては、例えば電流量を調整する方法が挙げられる。
【0076】
ここでは、想定値を、調整パラメータの1つである周波数の想定値とし、他の調整パラメータとして電流量を調整し、調整して得られた電流量を固定値として決定するものとして説明する。しかしながら、これに限られるものではなく、調整パラメータは、周波数以外のパルス幅、電流量、増幅率等を選択してもよく、他の調整パラメータも、調整パラメータとして選択されたもの以外であれば、どのパラメータであってもよいし、選択されたもの以外の2以上のパラメータであってもよい。
【0077】
図13は、前処理の流れを示したフローチャートである。電源がONにされることにより、ステップ200から動作を開始する。ステップ201では、温度測定部23として使用されるセンサ等の特性が安定するまで、一定時間が経過するのを待つ。
【0078】
一定時間が経過した後、ステップ202へ進み、動作制御部25は、温度測定部23に対して温度測定を指示し、温度測定部23がその指示を受けて、その時点での温度を測定する。
【0079】
温度の測定後、前処理に入る。前処理は、前処理部により実施される。ステップ203で、前処理部は、その温度における参照周波数を設定する。ステップ204では、前処理部は、放射部18に対して指示し、設定された周波数の電圧を受け、その電圧に応じた赤外線を放射させる。
【0080】
ステップ205では、前処理部は、一定時間が経過するのを待ち、検出部19に対して指示し、一定時間に受光した累積値として受光量を検出させる。検出が終了したところで、ステップ206で放射部18による赤外線の放射を停止させる。
【0081】
ステップ207では、前処理部は、検出結果である受光量が閾値を超えたか否かを判断する。超えていない場合、ステップ208へ進み、前処理部は、電流量を調整して発光量を変更し、ステップ204へ戻る。一方、超えた場合、そのときの電流量を固定値として決定し、前処理を終了する。そして、ステップ209のキャリブレーション処理へ進む。キャリブレーション処理については、
図10を参照して既に説明したので、ここではその説明は省略する。キャリブレーション処理の後、ステップ210でパラメータを保存し、ステップ211で処理を終了する。
【0082】
このようにして前処理を行うことで、発光量の調整精度が粗い場合であっても、発光量の調整によりある程度の受信感度を示す曲線に近づき、ずれが少なくなくなり、残りのずれ量は線形のオフセット分として扱うことが可能となる。この場合、前処理の後に初期化キャリブレーションを実施すればずれ量を大幅に少なくすることができる。
【0083】
図14は、一定時間毎に実行するキャリブレーション処理および検出処理の一例を示したフローチャートである。キャリブレーション処理は、検出装置10の電源投入時や初期化時だけではなく、その後においても実施する必要がある。それは、検出装置10が動作している間は、筐体11内の温度が変化するからである。このため、一定時間毎に筐体11内の状態の変化を確認する必要がある。検出処理は、いつ実施してもよいが、一定時間毎に実行するキャリブレーション処理に合わせて実施することができる。
【0084】
計時部27は、一定時間毎にトリガー信号を発生させる。ステップ300から処理を開始し、ステップ301では、動作制御部25は、トリガー信号が発生するのを待ち、トリガー信号が発生したことを受けて温度測定部23に対して温度の測定を指示する。ステップ302では、温度測定部23がその指示を受けて筐体11内の温度を測定する。
【0085】
ステップ303で、温度補正制御部29は、温度測定部23により測定された温度が決定済み温度であるか否かを判断する。決定済み温度であるか否かは、キャリブレーション値を管理するテーブルにおいて、その温度に対応する有効な周波数である決定周波数の欄に、値が設定されているかどうかにより判断することができる。
【0086】
ステップ303でその温度が決定済み温度と判断した場合、温度補正制御部29は、ステップ304でテーブルを参照して、その温度に対応する決定周波数を取得し、動作制御部25に取得した決定周波数を通知する。動作制御部25は、通知された決定周波数を設定し、放射部18に入力する電圧の周波数を制御する。そして、ステップ305で、放射部18が、設定された周波数の電圧を受け、その電圧に応じた赤外線を放射する。
【0087】
ステップ306では、検出部19が、一定時間が経過するのを待ち、一定時間に受光した累積値として受光量を検出する。検出が終了したところで、ステップ307で放射部18による赤外線の放射を停止する。ステップ308では、動作制御部25および寸法検出部26が、受光量を基に、害虫が侵入しているかどうか、侵入している場合、どの程度のサイズの害虫か等の検出結果を出力し、その検出結果をメモリ21に記憶し、ステップ315で処理を終了する。
【0088】
ステップ303でその温度が決定済み温度ではないと判断した場合、温度補正制御部29は、ステップ309で、仮決定済み温度であるか否かを判断する。仮決定済み温度であるか否かは、キャリブレーション値を管理するテーブルにおいて、その温度に対応する仮周波数の欄に、値が設定されているかどうかにより判断することができる。
【0089】
ステップ309で仮決定済み温度でないと判断した場合、ステップ310へ進み、調整部28がキャリブレーション処理を実行する。キャリブレーション処理は、
図10のステップ103からステップ108までの処理である。キャリブレーション処理の実行後、ステップ311へ進み、温度補正制御部29がキャリブレーション値を仮パラメータとしてメモリ21に記憶し、ステップ309へ戻る。
【0090】
ステップ309で仮決定済み温度と判断した場合、ステップ312へ進み、動作制御部25は、周波数選択処理を実行する。周波数選択処理では、測定された現在の温度に近い温度に対応した決定周波数または参照周波数を選択する。
【0091】
現在の温度に対して一定温度範囲内の温度に対応した決定周波数が存在する場合、その決定周波数を選択する。一定温度範囲内の温度に対応した決定周波数が複数存在する場合は、複数の決定周波数のうち現在の温度に最も近い温度に対応した決定周波数を選択する。また、一定温度範囲内の温度に対応した決定周波数が存在しない場合、一定温度範囲内の温度に対応した参照周波数を選択し、参照周波数が複数存在する場合は現在の温度に最も近い温度に対応した参照周波数を選択する。なお、一定温度範囲は、周波数の設定精度や受光量の変化量等に応じて決定することができる。
【0092】
図15は、周波数選択処理時に参照するキャリブレーション値を管理するテーブルの一例を示した図である。例えば、現在の温度が17℃であった場合、テーブルを参照すると、決定周波数も、参照周波数も入力されていない。このとき、一定温度範囲を±1℃とした場合、その温度範囲内に16℃、18℃があり、18℃には決定周波数として39.1kHzが入力されているので、39.1kHzを選択する。なお、16℃に参照周波数39.2kHzが設定されているが、参照周波数は温度特性の個体誤差を考慮していない参考値であることから、決定周波数が優先される。
【0093】
現在の温度が15℃であった場合、決定周波数も、参照周波数も設定されていないため、14℃、16℃の周波数を参照する。14℃、16℃には、決定周波数は入力されていないが、参照周波数は入力されているため、現在の温度に最も近い温度に対応した参照周波数を選択する。
図15では、単に14℃、16℃と記載しているが、小数点以下の値も考慮していずれかの参照周波数を選択する。例えば、小数点以下を考慮し、現在の温度が15.1℃で、テーブル内の温度が±1℃内の14.2℃、15.7℃であった場合、最も近い15.7℃に対応した参照周波数39.2kHzを選択する。
【0094】
図15に示したテーブルには、測定温度が24℃のときのキャリブレーション処理で得られたキャリブレーション値として、38.9kHzという周波数が、仮周波数の欄に入力されている。
【0095】
再び
図14を参照して、周波数選択処理では、周波数を選択した後、放射部18に対して選択した周波数を設定する。周波数選択処理後、ステップ313で、検出処理を実行する。検出処理は、ステップ305からステップ307までの処理である。ステップ314では、動作制御部25および寸法検出部26は、受光量を基に、害虫が侵入しているかどうか等の仮の検出結果を出力し、その仮の検出結果をメモリ21に記憶し、ステップ315で処理を終了する。
【0096】
初期キャリブレーション処理後、一定時間毎にキャリブレーション処理を実行し、各時点で測定温度が異なっている場合、初期キャリブレーション処理により決定された周波数のみが決定周波数とされ、それ以外は仮周波数となる。初期キャリブレーション処理では、検出処理が実行されないため、決定周波数に対応する温度、すなわち決定済み温度では、筐体11内に害虫が侵入したか否かは不明である。
【0097】
一定時間毎に実行するキャリブレーション処理において、測定温度が決定済み温度である場合、ここで初めて検出処理が実行される。この検出処理において、害虫が侵入していないことを検出した場合、それまでに実行したキャリブレーション処理においても、害虫が侵入していない状態であったと判断できる。このため、それまでに実行したキャリブレーション処理で得られた仮周波数は、決定周波数とみなすことができる。
【0098】
一方、測定温度が決定済み温度である場合に実行された検出処理において、害虫が侵入していることを検出した場合、これまでの検出結果は仮の検出結果であり、どの時点で侵入したかを特定することができないため、利用することはできない。したがって、これまでに得られたすべての仮周波数は、決定周波数として利用することができない。よって、これまでに得られたすべての仮周波数は無効の周波数であり、削除することができる。この場合、害虫を除去し、初期化して再度、初期キャリブレーション処理から実行することができる。
【0099】
図16は、仮周波数を決定周波数として移行する処理の一例を示したフローチャートである。ステップ400から処理を開始し、ステップ401では、動作制御部25は、計時部27からトリガー信号が発生するのを待ち、トリガー信号が発生したことを受けて温度測定部23に対して温度の測定を指示する。ステップ402では、温度測定部23がその指示を受けて筐体11内の温度を測定する。
【0100】
ステップ403で、温度補正制御部29は、温度測定部23により測定された温度が決定済み温度であるか否かを判断する。決定済み温度であるか否かは、キャリブレーション値を管理するテーブルにおいて、その温度に対応する決定周波数の欄に、値が設定されているかどうかにより判断することができる。
【0101】
ステップ403でその温度が決定済み温度と判断した場合、温度補正制御部29は、ステップ404で、テーブルを参照して、その温度に対応する決定周波数を取得し、動作制御部25に取得した決定周波数を通知する。動作制御部25は、通知された決定周波数を設定し、放射部18に入力する電圧の周波数を制御する。そして、ステップ405で、放射部18が、設定された周波数の電圧を受けて、その電圧に応じた赤外線を放射する。そして、検出部19が、反射した赤外線を受光する。このようにして、検出処理を実行する。検出処理は、
図14のステップ305からステップ307までの処理である。
【0102】
ステップ406では、動作制御部25および寸法検出部26は、受光量を基に、害虫が侵入しているかどうか等の検出結果を出力し、その検出結果をメモリ21に記憶する。ステップ407では、温度補正制御部29が、検出結果を参照し、害虫が侵入しておらず、未検出であるか否かを確認し、未検出である場合、ステップ408へ進み、検出である場合、ステップ409へ進む。
【0103】
ステップ409では、温度補正制御部29が、テーブルに入力された仮周波数を、同じテーブルの決定周波数の欄に移行させる。そして、ステップ411へ進み、処理を終了する。
【0104】
ステップ409では、温度補正制御部29が、テーブルに入力された仮周波数をすべて削除する。そして、ステップ411へ進み、処理を終了する。
【0105】
ステップ403でその温度が決定済み温度でないと判断した場合、ステップ410へ進み、仮決定処理を実行する。仮決定処理は、
図14のステップ309からステップ314までの処理である。仮決定処理の終了後、ステップ411へ進み、処理を終了する。
【0106】
図17は、仮周波数を決定周波数として移行するときのキャリブレーション値を管理するテーブルの一例を示した図である。
図11に示すように20℃で初期化を行い、一定時間が経過した後のキャリブレーション処理で、
図15に示すように温度が24℃と測定され、仮周波数38.9kHzが得られている。さらに一定時間が経過した後のキャリブレーション処理で、温度が20℃と測定され、検出結果が未検出となっている。
【0107】
したがって、24℃のときのキャリブレーション処理でも、未検出と判断できるので、
図15に示した24℃のときの仮周波数38.9kHzを、
図17に示すように、同じく24℃の決定周波数へ移行する。
【0108】
仮周波数を決定周波数へ移行すると、24℃と26℃の決定周波数は入力されているが、その間の25℃の決定周波数が入力されていない空欄状態となる。24℃と26℃の決定周波数を参照すると、いずれも38.9kHzである。このように、ある温度の決定周波数が空欄で、その上下の温度の決定周波数が同じ周波数であった場合、その上下の温度に挟まれた当該ある温度の決定周波数も、その上下の温度の決定周波数と同じ周波数と判断することができる。
【0109】
そこで、25℃の決定周波数は、24℃と26℃の決定周波数と同じ38.9kHzと判断し、
図17に示すように、25℃の決定周波数の欄に38.9kHzを入力する。
【0110】
このようにして、各温度の周波数といったパラメータを随時決定し、入力していくことで、テーブルを決定周波数で埋め、測定された温度における決定周波数を設定し、検出処理を実行できるようになる。これにより、温度変化が生じても、検出ミスを低減し、検出結果を出力することができる。
【0111】
図18は、検出装置10の内部の別の例を示した斜視図である。検出装置10は、物体検出部12と、機器部13とを含むが、さらに、害虫を捕獲するためのトラップ部40と、トラップ部40を着脱するためのスイッチ部41とを含む。物体検出部12、機器部13については既に説明したので、ここではトラップ部40、スイッチ部41についてのみ説明する。
【0112】
トラップ部40は、害虫を捕獲する粘着部40aと、粘着部40aを取り囲み、底壁12aの下側の面と隣接する外縁部40bと、外縁部40bに設けられ、z軸方向に突出する突出部40cとを備える。底壁12aは、中央部に、例えば所定の大きさで矩形の開口50が形成される。底壁12aの下側に面にトラップ部40の外縁部40bを隣接させると、開口50内に粘着部40aが露出した状態になる。粘着部40aは、板状のトラップ部40の中央部に、粘着シートを貼付する等して形成される。
【0113】
スイッチ部41は、底壁12aに設けられ、突出部40cが挿入される挿入部を含み、挿入部への突出部40cの挿入によりスイッチをONにし、挿入部から突出部40cを引き抜くことによりスイッチをOFFにする。なお、これは一例であるので、この構成に限定されるものではない。
【0114】
スイッチ部41は、電源スイッチとして機能させることも可能である。この場合、トラップ部40を外すと、電源がOFFになり、トラップ部40を装着すると、電源をONにすることができる。例えば、突出部40cは、導電部を有し、スイッチ部41は、2つの接点を有し、突出部40cが挿入部へ挿入され、トラップ部40が装着されることにより2つの接点と導電部とが繋がり、電気的に接続して、電源をONにすることができる。これに対し、突出部40cが挿入部から引き抜かれ、トラップ部40が外されると、電気的な接続が解除され、電源をOFFにすることができる。このようにスイッチ部41を電源スイッチとして機能させることで、トラップ部40を装着すると、電源ONになり、初期化からスタートさせることができる。
【0115】
トラップ部40を交換すると、トラップの形状のばらつき等により、取り換え前の検出空間の状況と取り換え後の検出空間の状況に変化が生じ、赤外線の受光量も変化する。このため、トラップ部40を交換したタイミングで電源が一旦OFFになり、その後ONになることで、初期化処理としての初期キャリブレーション処理からやり直すことができる。
【0116】
このとき、初期キャリブレーション処理の結果が出力され、初期キャリブレーション処理の結果を示すフラグとともに外部のデータサーバ等へ通知することができる。データサーバ等は、この通知を受けることで、トラップ部40を交換した日時を記録することができる。
【0117】
これまで本発明を、検出装置、検出システムおよび検出方法として上述した実施の形態をもって説明してきた。しかしながら、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、他の実施の形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができるものである。また、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0118】
したがって、上記の制御部の各機能を実現するためのプログラムや、そのプログラムが記録された記録媒体、上記のプログラムが格納され、ダウンロード要求を受けて提供するサーバ装置等も提供することができるものである。また、検出システムは、上記のデータサーバ等を含んで構成されていてもよいものである。
【符号の説明】
【0119】
10…検出装置
11…筐体
12…物体検出部
12a…底壁
12b…上壁
12c~12e…側壁
12f…隆起部
12g…検出空間
13…機器部
13a…支持脚
13b…突出部
14…隔壁
15…開口
16…制御基板
17…電源
18…放射部
19…検出部
20…制御部
21…メモリ
22…入出力部
23…温度測定部
25…動作制御部
26…寸法検出部
27…計時部
28…調整部
29…温度補正制御部
30…抵抗
31…赤外線LED
32…スイッチング素子
33…PINフォトダイオード
34…I-V変換部
35…増幅部
36…帯域制限フィルタ
37…復調部
40…トラップ部
40a…粘着部
40b…外縁部
40c…突出部
41…スイッチ部
50…開口
【先行技術文献】
【特許文献】
【0120】
【文献】特許第2727293号公報
【文献】特開2017-192321号公報