(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】芳香族ジアミン誘導体
(51)【国際特許分類】
C07D 307/91 20060101AFI20240402BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20240402BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240402BHJP
【FI】
C07D307/91 CSP
C09K11/06 635
H05B33/14 B
(21)【出願番号】P 2020023854
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】五郎丸 英貴
(72)【発明者】
【氏名】小松 英司
(72)【発明者】
【氏名】庄司 良子
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-542735(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009307(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0017544(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0351816(US,A1)
【文献】特表2009-538839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/91
C09K 11/06
H10K 50/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される芳香族ジアミン誘導体。
【化1】
[式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基
が複数個連結した基である
。R
1
及びR
2は、置換基を有していてもよい。Am
1は、下記一般式(2a)で表される置換基である。Am
2は、下記一般式(2b)で表される置換基である。Yは、
酸素原子である。
【化2】
式(2a)及び(2b)中、アスタリクス(*)は、式(1)との結合を表す。
Ar
1
及びAr
3
は、それぞれ独立に、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基
が複数個連結した基である。
Ar
2
は下記式(4a)で表される置換基であり、Ar
4
は下記式(4b)で表される置換基である。Ar
1~Ar
4は、置換基を有していてもよい。]
【化3】
[式(4a)中、アスタリクス(*)は、式(2a)中の窒素原子との結合を表し、X
1
は、酸素原子、硫黄原子、N-R
41
、又はC(R
51
)(R
61
)を表す。R
31
は、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が複数個連結した基を表す。R
41
、R
51
、R
61
は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が複数個連結した基を表す。nは0から7の整数を表す。R
31
、R
41
、R
51
、R
61
は、置換基を有していてもよい。]
【化4】
[式(4b)中、アスタリクス(*)は、式(2b)中の窒素原子との結合を表し、X
2
は、酸素原子、硫黄原子、N-R
42
、又はC(R
52
)(R
62
)を表す。R
32
は、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が複数個連結した基を表す。R
42
、R
52
、R
62
は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が複数個連結した基を表す。mは0から7の整数を表す。R
32
、R
42
、R
52
、R
62
は、置換基を有していてもよい。]
【請求項2】
前記式(1)が、下記式(3)である請求項1に記載の芳香族ジアミン誘導体。
【化5】
[式(3)中、R
1、R
2、Am
1及びAm
2は、式(1)と同様である。]
【請求項3】
請求項1又は2に記載の芳香族ジアミン誘導体を含有する有機電界発光素子用発光材料。
【請求項4】
請求項3に記載の有機電界発光素子用発光材料と、沸点が150℃以上の溶剤を2種以上含むOLED用組成物。
【請求項5】
請求項3に記載の有機電界発光素子用発光材料を含む有機電界発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ジアミン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜型の電界発光素子としては、無機材料を使用したものに代わり、有機薄膜を用いた有機電界発光素子の開発が行われるようになっている。有機電界発光素子(OLED)は、通常、陽極と陰極の間に、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層などを有する。この各層に適した材料が開発されつつあり、発光色も赤、緑、青と、それぞれ開発が進んでいる。
【0003】
しかしながら、赤色発光素子及び緑色発光素子と比較して、青色発光素子は、効率、寿命の観点で満足できるものが実現されておらず、さらなる高効率化、長寿命化が望まれている。
【0004】
例えば、青色発光素子に用いられる発光材料として、特許文献1には、下記式(A)で示される化合物(化合物(A))と下記式(B)で示される化合物(化合物(B))が開示されている。
【0005】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された化合物(A)は、発光波長が短くなり、素子の発光効率が低くなる課題がある。また、化合物(B)は青色発光を示すものの、素子の効率が十分に高くなく、駆動寿命についても改善の余地があるものである。
【0008】
本発明は、発光効率が高く、十分な寿命を有する青色有機電界発光素子を作製し得る化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、例えば下記式(1)で表される化合物を用いることにより、上記課題が解決できることが分かり本発明に到達した。すなわち、本発明は下記<1>~<7>に関するものである。
【0010】
<1>下記式(1)で表される芳香族ジアミン誘導体。
【0011】
【0012】
[式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基である。R1及びR2は、互いに結合して環を形成してもよい。R1及びR2は、置換基を有していてもよい。Am1は、下記一般式(2a)で表される置換基である。Am2は、下記一般式(2b)で表される置換基である。Yは、ヘテロ原子である。
【0013】
【0014】
式(2a)及び(2b)中、アスタリクス(*)は、式(1)との結合を表す。Ar1~Ar4は、それぞれ独立に、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基である。Ar1及びAr2は、互いに結合して環を形成してもよい。Ar3及びAr4は、互いに結合して環を形成してもよい。Ar1~Ar4は、置換基を有していてもよい。]
<2>前記式(1)が、下記式(3)である<1>に記載の芳香族ジアミン誘導体。
【0015】
【0016】
[式(3)中、R1、R2、Am1及びAm2は、式(1)と同様である。]
<3>前記Ar2が、下記式(4a)で表される置換基である<1>又は<2>に記載の芳香族ジアミン誘導体。
【0017】
【0018】
[式(4a)中、アスタリクス(*)は、式(2a)中の窒素原子との結合を表し、X1は、酸素原子、硫黄原子、N-R41、又はC(R51)(R61)を表す。R31は、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基を表す。R41、R51、R61は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基を表す。nは0から7の整数を表す。R31、R41、R51、R61は、置換基を有していてもよい。]
<4>前記Ar4が、下記式(4b)で表される置換基である<1>から<3>のいずれか1つに記載の芳香族ジアミン誘導体。
【0019】
【0020】
[式(4b)中、アスタリクス(*)は、式(2b)中の窒素原子との結合を表し、X2は、酸素原子、硫黄原子、N-R42、又はC(R52)(R62)を表す。R32は、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基を表す。R42、R52、R62は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基を表す。mは0から7の整数を表す。R32、R42、R52、R62は、置換基を有していてもよい。]
<5><1>から<4>のいずれか1つに記載の芳香族ジアミン誘導体を含有する有機電界発光素子用発光材料。
<6><5>に記載の有機電界発光素子用発光材料と、沸点が150℃以上の溶剤を2種以上含むOLED用組成物。
<7><5>に記載の有機電界発光素子用発光材料を含む有機電界発光素子。
【発明の効果】
【0021】
本発明の化合物(上記式(1)で表される化合物)を有する有機電界発光素子用発光材料によれば、発光効率が高く、十分な寿命を有する青色有機電界発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の青色有機電界発光素子の構造例を示す断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0024】
本発明において、単に「複素環」又は「炭化水素環」と称した場合には、芳香族性を有する環及び芳香族性を有しない環のいずれをも含むものとする。
本発明において、単に「芳香環」と称した場合には、炭化水素芳香環及び複素芳香環のいずれも含むものとする。
本発明において、「置換基を有していてもよい」とは、置換基を1以上有していてもよいことを意味するものとする。
【0025】
[芳香族ジアミン誘導体]
本発明の化合物は、下記式(1)で表される芳香族ジアミン誘導体である。
【0026】
【0027】
[式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基である。R1及びR2は、互いに結合して環を形成してもよい。R1及びR2は、置換基を有していてもよい。Am1は、下記一般式(2a)で表される置換基である。Am2は、下記一般式(2b)で表される置換基である。Yは、ヘテロ原子である。
【0028】
【0029】
式(2a)及び(2b)中、アスタリクス(*)は、式(1)との結合を表す。Ar1~Ar4は、それぞれ独立に、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基である。Ar1及びAr2は、互いに結合して環を形成してもよい。Ar3及びAr4は、互いに結合して環を形成してもよい。Ar1~Ar4は、置換基を有していてもよい。]
【0030】
本発明の化合物は、ベンゾインデノ-ジベンゾメタロール骨格を有している。この骨格は、ベンゾインデノ-フルオレン骨格と比べて対称性が低い。対称性が低くなると、分子同士は会合しにくく、濃度消光を抑えることができることが知られている。しかしながら、実際にどのような骨格を用いれば濃度消光を効率的に抑えることができるかは不明であった。本発明らは、様々な骨格を持つ化合物を検討した結果、本発明の化合物によって得られる有機電界発光素子の発光効率が特に向上することを発見した。
【0031】
なお、ベンゾフロ-ジベンゾフラン骨格を有する化合物は対称性が高くなるため、当該化合物によって得られる有機電界発光素子の発光効率向上は見込めないと予想される。
【0032】
また、一般的にフルオレン骨格の9位は酸化による分解を受けやすいため、ベンゾインデノ-フルオレン骨格よりもベンゾインデノ-ジベンゾメタロール骨格のほうが化学的に安定であるといえ、有機電界発光素子の長寿命化にも寄与していると考えられる。
【0033】
<R1、R2>
R1及びR2は、それぞれ独立に、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基である。R1及びR2は、互いに結合して環を形成してもよい。R1及びR2は、置換基を有していてもよい。
【0034】
アルキル基としては、例えば炭素数10以下のアルキル基を用いることができる。
【0035】
炭素数10以下のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基と、分岐、直鎖又は環状のプロピル基、分岐、直鎖又は環状のブチル基、分岐、直鎖又は環状のペンチル基、分岐、直鎖又は環状のペンチル基、分岐、直鎖又は環状のヘキシル基、分岐、直鎖又は環状のオクチル基、分岐、直鎖又は環状のノニル基、分岐、直鎖又は環状のデシル基が挙げられる。
【0036】
化合物の安定性の観点から、メチル基、エチル基、分岐、直鎖又は環状のプロピル基、分岐、直鎖又は環状のブチル基が好ましく、特に好ましくはメチル基である。
【0037】
芳香族炭化水素基としては、炭素数が6以上、60以下の芳香族炭化水素基が好ましく、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環等の、6員環の単環若しくは2~5縮合環の一価の基が挙げられる。
【0038】
化合物の安定性及び溶解性の観点から、より好ましくは、フェニル基、ナフチル基である。
【0039】
芳香族複素環基としては、炭素数が3以上、60以下の芳香族複素環基が好ましく、具体的には、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の、5~6員環の単環若しくは2~4縮合環の一価の基が挙げられる。
【0040】
化合物の安定性の観点から、より好ましくは、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基である。
【0041】
芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基としては、上記した芳香族炭化水素基及び上記した芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基が挙げられる。これらは、同じ基が複数連結した基でもよく、異なる基が複数連結した基でも構わない。
【0042】
芳香族炭化水素基同士が複数連結した基としては、例えばオルト-ビフェニル基、メタ-ビフェニル基、パラ-ビフェニル基、ターフェニル基等が挙げられる。
【0043】
化合物の安定性及び溶解性の観点から、特に好ましくは、オルト-ビフェニル基、メタ-ビフェニル基である。
【0044】
R1及びR2として、特に好ましくは、化合物の安定性の観点からメチル基、フェニル基である。
【0045】
<Y>
Yは、ヘテロ原子である。
ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、セレン原子等が挙げられる。
化合物の安定性の観点から、酸素原子、硫黄原子が好ましく、酸素原子がより好ましい。
【0046】
<Ar1~Ar4>
Ar1~Ar4は、それぞれ独立に、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基である。Ar1及びAr2は、互いに結合して環を形成してもよい。Ar3及びAr4は、互いに結合して環を形成してもよい。Ar1~Ar4は、置換基を有していてもよい。
【0047】
芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基の具体例及び好ましい範囲は、R1及びR2で記載したものと同様である。
【0048】
上記式(1)は、化合物の安定性及び発光波長の観点から、下記式(3)であることが好ましい。
【0049】
【0050】
[式(3)中、R1、R2、Am1及びAm2は、式(1)と同様である。]
【0051】
また、Ar2、は下記式(4a)で表される置換基であることが好ましい。
【0052】
【0053】
[式(4a)中、アスタリクス(*)は、式(2a)中の窒素原子との結合を表し、X1は、酸素原子、硫黄原子、N-R41、又はC(R51)(R61)を表す。R31は、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基を表す。R41、R51、R61は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基を表す。nは0から7の整数を表す。R31、R41、R51、R61は、置換基を有していてもよい。]
【0054】
なお、式(4a)中、nが0の場合、式(4a)で表される置換基は7つの水素原子を有する。
【0055】
<X1>
X1は、酸素原子、硫黄原子、N-R41、又はC(R51)(R61)を表す。
化合物の安定性の観点から特に好ましくは、酸素原子である。
【0056】
<R31、R41、R51、R61>
R31は、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基を表す。R41、R51、R61は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基を表す。
【0057】
アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基の具体例及び好ましい範囲は、R1、R2で記載したものと同様である。
【0058】
また、Ar4、は下記式(4b)で表される置換基であることが好ましい。
【0059】
【0060】
[式(4b)中、アスタリクス(*)は、式(2b)中の窒素原子との結合を表し、X2は、酸素原子、硫黄原子、N-R42、又はC(R52)(R62)を表す。R32は、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基を表す。R42、R52、R62は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基を表す。mは0から7の整数を表す。R32、R42、R52、R62は、置換基を有していてもよい。]
【0061】
なお、式(4b)中、mが0の場合、式(4b)で表される置換基は7つの水素原子を有する。
【0062】
<X2>
X2は、酸素原子、硫黄原子、N-R42、又はC(R52)(R62)を表す。
化合物の安定性の観点から特に好ましくは、酸素原子である。
【0063】
<R32、R42、R52、R62>
R32は、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基を表す。R42、R52、R62は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基を表す。
【0064】
アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した基の具体例及び好ましい範囲は、R1、R2で記載したものと同様である。
【0065】
<置換基群Z>
R1、R2、R31、R32、R41、R42、R51、R52、R61、R62、Ar1~Ar4がそれぞれ有していてもよい置換基としては、例えば以下置換基群Zから選ばれるいずれかのものを用いることができる。
【0066】
置換基群Zとして、以下の構造が挙げられる。
例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、ドデシル基等の、炭素数が通常1以上、好ましくは4以上であり、通常24以下、好ましくは12以下である、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基;
例えば、ビニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルケニル基;
例えば、エチニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルキニル基;
例えば、メトキシ基、エトキシ基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルコキシ基;
例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるアリールオキシ基若しくはヘテロアリールオキシ基;
例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルコキシカルボニル基;
例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるジアルキルアミノ基;
例えば、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N-カルバゾリル基等の、炭素数が通常10以上、好ましくは12以上であり、通常36以下、好ましくは24以下のジアリールアミノ基;
例えば、フェニルメチルアミノ基等の、炭素数が通常7以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるアリールアルキルアミノ基;
例えば、アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアシル基;
例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;
例えば、トリフルオロメチル基等の、炭素数が通常1以上であり、通常12以下、好ましくは6以下のハロアルキル基;
例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下、好ましくは12以下のアルキルチオ基;
例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるアリールチオ基;
例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるシリル基;
例えば、トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるシロキシ基;
シアノ基;
例えば、フェニル基、ナフチル基等の、炭素数が通常6以上であり、通常36以下、好ましくは24以下である芳香族炭化水素基;
例えば、チエニル基、ピリジル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上であり、通常36以下、好ましくは24以下である芳香族複素環基。
【0067】
上記の置換基群Zの中でも、好ましくは、前記アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基である。電荷輸送性の観点からは、置換基を有さないことがさらに好ましい。
【0068】
また、上記置換基群Zの各置換基は更に置換基を有していてもよい。それら置換基としては、上記置換基(置換基群Z)と同じのものを用いることができる。
【0069】
<具体例>
以下に、式(1)で表される芳香族ジアミン誘導体の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
上記化合物の中で特に好ましい化合物としては、例えば、化合物(A-10)、化合物(A-15)、化合物(A-21)、化合物(A-22)(後述の化合物1)が挙げられる。
【0074】
これらの化合物は、対称性の低いベンゾインデノ-ジベンゾフラン骨格を有しているため、分子同士が凝集しにくく、有機電界発光素子の発光効率を向上させることができる。また、これらの化合物は、置換基として炭素数4以上のアルキル基を有しており、化合物の溶解性及び膜安定性を向上させることができる。
【0075】
<芳香族ジアミン誘導体の用途>
本発明の芳香族ジアミン誘導体は、有機電界発光素子に用いられる材料、すなわち有機電界発光素子の青色発光材料として好適に使用可能であり、その他の発光素子等の発光材料としても好適に使用可能である。
【0076】
[OLED組成物]
本発明の芳香族ジアミン誘導体は、溶剤とともに使用されることが好ましい。以下、本発明の芳香族ジアミン誘導体と溶剤とを含有する組成物(以下、「OLED用組成物」又は単に「組成物」と称す場合がある。)について説明する。
【0077】
本発明のOLED用組成物は、上述の芳香族ジアミン誘導体及び溶剤を含有する。本発明のOLED用組成物は通常湿式成膜法で層や膜を形成するために用いられ、特に有機電界発光素子の有機層を形成するために用いられることが好ましい。該有機層は、特に発光層であることが好ましい。
【0078】
つまり、本発明のOLED用組成物は、有機電界発光素子の有機層形成用組成物であることが好ましく、更に有機電界発光素子の発光層形成用組成物として用いられることが特に好ましい。
【0079】
OLED用組成物における本発明の芳香族ジアミン誘導体の含有量は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、通常30.0質量%以下、好ましくは20.0質量%以下である。組成物中の芳香族ジアミン誘導体をこの範囲とすることにより、隣接する層(例えば、正孔輸送層や正孔阻止層)から発光層へ効率よく、正孔や電子の注入が行われ、駆動電圧を低減することができる。なお、本発明の芳香族ジアミン誘導体は組成物中に、1種のみ含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0080】
本発明のOLED用組成物を例えば有機電界発光素子の有機層形成用に用いる場合には、上述の芳香族ジアミン誘導体や溶剤の他、有機電界発光素子、特に発光層に用いられる電荷輸送性化合物を含有することができる。
【0081】
本発明のOLED用組成物を用いて、有機電界発光素子の発光層を形成する場合には、本発明の芳香族ジアミン誘導体を発光材料とし、他の電荷輸送性化合物を電荷輸送ホスト材料として含むことが好ましい。
【0082】
本発明のOLED用組成物に含有される溶剤は、湿式成膜により芳香族ジアミン誘導体を含む層を形成するために用いる、揮発性を有する液体成分である。
【0083】
該溶剤は、溶質である本発明の芳香族ジアミン誘導体及び後述の電荷輸送性化合物が良好に溶解する有機溶剤であれば特に限定されない。
【0084】
好ましい溶剤としては、例えば、n-デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メシチレン、フェニルシクロヘキサン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル類、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
【0085】
中でも好ましくは、アルカン類、芳香族炭化水素類、芳香族エステル類であり、特に、フェニルシクロヘキサン及び、芳香族エステル類は、好ましい粘度と沸点を有している。
【0086】
これらの溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0087】
用いる溶剤の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、また、通常350℃以下、好ましくは330℃以下、より好ましくは沸点300℃以下である。溶剤の沸点がこの範囲を下回ると、湿式成膜時において、組成物からの溶剤蒸発により、成膜安定性が低下する可能性がある。溶剤の沸点がこの範囲を上回ると、湿式成膜時において、成膜後の溶剤残留により、成膜安定性が低下する可能性がある。
【0088】
特に、上記溶剤のうち、沸点が150℃以上の溶剤を2種以上と組み合わせることにより、均一な塗布膜を作製することができる。沸点150℃以上の溶剤が1つ以下であると、塗布時に均一な膜が形成されない場合があると考えられる。
【0089】
溶剤の含有量は、OLED用組成物において好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは50質量%以上、また、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.90質量%以下、特に好ましくは99.00質量%以下である。
【0090】
通常発光層の厚みは3~200nm程度であるが、溶剤の含有量がこの下限を下回ると、組成物の粘性が高くなりすぎ、成膜作業性が低下する可能性がある。一方、溶剤の含有量がこの上限を上回ると、成膜後、溶剤を除去して得られる膜の厚みが十分でなくなるため、成膜が困難となる傾向がある。
【0091】
上記した、本発明のOLED用組成物が含有し得る他の電荷輸送性化合物としては、従来有機電界発光素子用材料として用いられているものを使用することができる。例えば、ピリジン、カルバゾール、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クリセン、ナフタセン、フェナントレン、コロネン、フルオランテン、ベンゾフェナントレン、フルオレン、アセトナフトフルオランテン、クマリン、p-ビス(2-フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体、キナクリドン誘導体、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン、アリールアミノ基が置換された縮合芳香族環化合物、アリールアミノ基が置換されたスチリル誘導体等が挙げられる。
【0092】
これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0093】
また、OLED用組成物中の他の電荷輸送性化合物の含有量は、OLED用組成物中の本発明の芳香族ジアミン誘導体1質量部に対して、通常1000質量部以下、好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下であり、また、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上である。
【0094】
本発明のOLED用組成物には、必要に応じて、上記の化合物等の他に、更に他の化合物を含有していてもよい。他の化合物としては、好ましくは、酸化防止剤として知られているジブチルヒドロキシトルエンや、ジブチルフェノール等のフェノール類が挙げられる。
【0095】
[有機電界発光素子]
本発明の芳香族ジアミン誘導体を用いて有機電界発光素子(以下、「本発明の有機電界発光素子」と称す場合がある。)を製造することができる。以下に本発明の芳香族ジアミン誘導体を含む本発明の有機電界発光素子について説明する。
【0096】
本発明の有機電界発光素子は、好ましくは、基板上に少なくとも陽極、陰極及び前記陽極と前記陰極の間に少なくとも1層の有機層を有するものであって、前記有機層のうち少なくとも1層が本発明の芳香族ジアミン誘導体を含む。前記有機層は発光層を含む。
【0097】
本発明の芳香族ジアミン誘導体を含む有機層は、本発明の組成物を用いて形成された層であることがより好ましく、湿式成膜法により形成された層であることがさらに好ましい。前記湿式成膜法により形成された層は、該発光層であることが好ましい。
【0098】
本発明において湿式成膜法とは、成膜された膜を乾燥して膜形成を行う方法をいう。成膜方法、即ち、塗布方法として、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等、湿式で成膜される方法を採用することができる。
【0099】
図1は本発明の有機電界発光素子10に好適な構造例を示す断面の模式図であり、
図1において、符号1は基板、符号2は陽極、符号3は正孔注入層、符号4は正孔輸送層、符号5は発光層、符号6は正孔阻止層、符号7は電子輸送層、符号8は電子注入層、符号9は陰極を各々表す。
【0100】
これらの構造に適用する材料は、公知の材料を適用することができ、特に制限はないが、各層に関しての代表的な材料や製法を一例として以下に記載する。また、公報や論文等を引用している場合、該当内容を当業者の常識の範囲で適宜、適用、応用することができるものとする。
【0101】
<基板1>
基板1は、有機電界発光素子の支持体となるものであり、通常、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。これらのうち、ガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。基板1は、外気による有機電界発光素子の劣化が起こり難いことからガスバリア性の高い材質とするのが好ましい。このため、特に合成樹脂製の基板等のようにガスバリア性の低い材質を用いる場合は、基板1の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を上げるのが好ましい。
【0102】
<陽極2>
陽極2は、発光層側の層に正孔を注入する機能を担う。陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック或いはポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0103】
陽極2の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式法により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板上に塗布することにより形成することもできる。また、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0104】
陽極2は、通常、単層構造であるが、適宜、積層構造としてもよい。陽極2が積層構造である場合、1層目の陽極上に異なる導電材料を積層してもよい。
【0105】
陽極2の厚みは、必要とされる透明性と材質等に応じて、決めればよい。特に高い透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率が60%以上となる厚みが好ましく、80%以上となる厚みが更に好ましい。陽極2の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下である。一方、透明性が不要な場合は、陽極2の厚みは必要な強度等に応じて任意に厚みとすればよく、この場合、陽極2は基板1と同一の厚みでもよい。
【0106】
陽極2の表面に成膜を行う場合は、成膜前に、紫外線+オゾン、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ等の処理を施すことにより、陽極上の不純物を除去すると共に、そのイオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させておくのが好ましい。
【0107】
<正孔注入層3>
陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層は、通常、正孔注入輸送層又は正孔輸送層と呼ばれる。そして、陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層が2層以上ある場合に、より陽極2側に近い方の層を正孔注入層3と呼ぶことがある。正孔注入層3は、陽極2から発光層5側に正孔を輸送する機能を強化する点で、用いることが好ましい。正孔注入層3を用いる場合、通常、正孔注入層3は、陽極2上に形成される。
【0108】
正孔注入層3の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下である。
【0109】
正孔注入層3の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点では、湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0110】
正孔注入層3は、正孔輸送性化合物を含むことが好ましく、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含むことがより好ましい。更には、正孔注入層3は、カチオンラジカル化合物を含むことが好ましく、カチオンラジカル化合物と正孔輸送性化合物とを含むことが特に好ましい。
【0111】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は、通常、正孔注入層3となる正孔輸送性化合物を含有する。また、湿式成膜法の場合は、通常、更に溶剤も含有する。正孔注入層形成用組成物は、正孔輸送性が高く、注入された正孔を効率よく輸送できる組成物が好ましい。このため、正孔移動度が大きく、トラップとなる不純物が製造時や使用時等に発生し難いことが好ましい。また、安定性に優れ、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光に対する透明性が高いことが好ましい。特に、正孔注入層3が発光層5と接する場合は、発光層5からの発光を消光しないものや発光層5とエキサイプレックスを形成して、発光効率を低下させないものが好ましい。
【0112】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から、4.5eV~6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、キナクリドン系化合物等が挙げられる。
【0113】
上述の例示化合物のうち、非晶質性及び可視光透過性の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、芳香族三級アミン化合物が特に好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0114】
芳香族三級アミン化合物の種類は、特に制限されないが、表面平滑化効果により均一な発光を得やすい点から、重量平均分子量が1000以上1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)を用いるのが好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例としては、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物等が挙げられる。
【0115】
【0116】
(式(I)中、Ar51及びAr52は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族基又は置換基を有していてもよい複素芳香族基を表す。Ar53~Ar55は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族基又は置換基を有していてもよい複素芳香族基を表す。Qは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar51~Ar55のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【0117】
下記に連結基を示す。
【0118】
【0119】
(上記各式中、Ar56~Ar66は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族基又は置換基を有していてもよい複素芳香族基を表す。Ra~Rbは、それぞれ独立して、水素原子又は任意の置換基を表す。)
【0120】
Ar51~Ar66の芳香族基及び複素芳香族基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基が好ましい。
【0121】
式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号に記載のもの等が挙げられる。
【0122】
(電子受容性化合物)
正孔注入層3は、正孔輸送性化合物の酸化により、正孔注入層3の導電率を向上させることができるため、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
【0123】
電子受容性化合物としては、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、電子親和力が5eV以上である化合物が更に好ましい。
【0124】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。
【0125】
具体的には、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開第2005/089024号);塩化鉄(III)(特開平11-251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物;トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(特開2003-31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体及びヨウ素等が挙げられる。
【0126】
(カチオンラジカル化合物)
カチオンラジカル化合物としては、正孔輸送性化合物から一電子取り除いた化学種であるカチオンラジカルと、対アニオンとからなるイオン化合物が好ましい。但し、カチオンラジカルが正孔輸送性の高分子化合物由来である場合、カチオンラジカルは高分子化合物の繰り返し単位から一電子取り除いた構造となる。
【0127】
カチオンラジカルとしては、正孔輸送性化合物として前述した化合物から一電子取り除いた化学種であることが好ましい。正孔輸送性化合物として好ましい化合物から一電子取り除いた化学種であることが、非晶質性、可視光の透過率、耐熱性、及び溶解性などの点から好適である。
【0128】
ここで、カチオンラジカル化合物は、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物を混合することにより生成させることができる。即ち、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを混合することにより、正孔輸送性化合物から電子受容性化合物へと電子移動が起こり、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンとからなるカチオンイオン化合物が生成する。
【0129】
PEDOT/PSS(Adv.Mater.,2000年,12巻,481頁)やエメラルジン塩酸塩(J.Phys.Chem.,1990年,94巻,7716頁)等の高分子化合物由来のカチオンラジカル化合物は、酸化重合(脱水素重合)することによっても生成する。
【0130】
ここでいう酸化重合は、モノマーを酸性溶液中で、ペルオキソ二硫酸塩等を用いて化学的に、又は、電気化学的に酸化するものである。この酸化重合(脱水素重合)の場合、モノマーが酸化されることにより高分子化されるとともに、酸性溶液由来のアニオンを対アニオンとする、高分子の繰り返し単位から一電子取り除かれたカチオンラジカルが生成する。
【0131】
(湿式成膜法による正孔注入層3の形成)
湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合、通常、正孔注入層3となる材料を、当該材料が可溶な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に湿式成膜法により成膜し、乾燥させることにより形成させる。成膜した膜の乾燥は、湿式成膜法による発光層5の形成における乾燥方法と同様に行うことができる。
【0132】
正孔注入層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点では、低い方が好ましく、一方、正孔注入層3に欠陥が生じ難い点では、高い方が好ましい。具体的には、0.01質量%以上であるのが好ましく、0.1質量%以上であるのが更に好ましく、0.5質量%以上であるのが特に好ましく、また、一方、70質量%以下であるのが好ましく、60質量%以下であるのが更に好ましく、50質量%以下であるのが特に好ましい。
【0133】
溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
【0134】
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル及び1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。
【0135】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。
【0136】
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3-イソプロピルビフェニル、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
【0137】
アミド系溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0138】
これらの他、ジメチルスルホキシド等も用いることができる。好ましくは、芳香族炭化水素系溶剤と、芳香族エステル系溶剤である。
【0139】
正孔注入層3の湿式成膜法による形成は、通常、正孔注入層形成用組成物を調製後に、これを、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより行われる。正孔注入層3は、通常、成膜後に、加熱や減圧乾燥等により塗布膜を乾燥させる。
【0140】
(真空蒸着法による正孔注入層3の形成)
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、通常、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種類又は2種類以上を真空容器内に設置された坩堝に入れ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々を別々の坩堝に入れ)、真空容器内を真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、坩堝を加熱して(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々の坩堝を加熱して)、坩堝内の材料の蒸発量を制御しながら蒸発させ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々独立に蒸発量を制御しながら蒸発させ)、坩堝に向き合って置かれた基板上の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種類以上の材料を用いる場合は、それらの混合物を坩堝に入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0141】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、50℃以下で行われる。
【0142】
<正孔輸送層4>
正孔輸送層4は、陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層である。正孔輸送層4は、本発明の有機電界発光素子では、必須の層では無いが、陽極2から発光層5に正孔を輸送する機能を強化する点では、この層を設けることが好ましい。正孔輸送層4を設ける場合、通常、正孔輸送層4は、陽極2と発光層5の間に形成される。また、上述の正孔注入層3がある場合は、正孔注入層3と発光層5の間に形成される。
【0143】
正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、一方、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0144】
正孔輸送層4の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点では、湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0145】
正孔輸送層4は、通常、正孔輸送層4となる正孔輸送性化合物を含有する。正孔輸送層4に含まれる正孔輸送性化合物としては、特に、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5-234681号公報)、4,4’,4’’-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体などが挙げられる。また、例えばポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7-53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等も好ましく使用できる。
【0146】
(湿式成膜法による正孔輸送層4の形成)
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、通常、上述の正孔注入層3を湿式成膜法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに正孔輸送層形成用組成物を用いて形成させる。
【0147】
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、通常、正孔輸送層形成用組成物は、更に溶剤を含有する。正孔輸送層形成用組成物に用いる溶剤は、上述の正孔注入層形成用組成物で用いる溶剤と同様の溶剤を使用することができる。
【0148】
正孔輸送層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度は、正孔注入層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度と同様の範囲とすることができる。
【0149】
正孔輸送層4の湿式成膜法による形成は、前述の正孔注入層3の成膜法と同様に行うことができる。
【0150】
(真空蒸着法による正孔輸送層4の形成)
真空蒸着法で正孔輸送層4を形成する場合についても、通常、上述の正孔注入層3を真空蒸着法で形成する場合と同様にして、正孔注入層3の構成材料の代わりに正孔輸送層4の構成材料を用いて形成させることができる。蒸着時の真空度、蒸着速度及び温度などの成膜条件などは、前記正孔注入層3の真空蒸着時と同様の条件で成膜することができる。
【0151】
<発光層5>
発光層5は、一対の電極間に電界が与えられた時に、陽極2から注入される正孔と陰極9から注入される電子が再結合することにより励起され、発光する機能を担う層である。発光層5は、陽極2と陰極9の間に形成される層であり、発光層5は、陽極2の上に正孔注入層3がある場合は、正孔注入層3と陰極9の間に形成され、陽極2の上に正孔輸送層4がある場合は、正孔輸送層4と陰極9との間に形成される。
【0152】
発光層5の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜に欠陥が生じ難い点では厚い方が好ましく、また、一方、薄い方が低駆動電圧としやすい点で好ましい。このため、発光層5の膜厚は、3nm以上であるのが好ましく、5nm以上であるのが更に好ましく、また、一方、200nm以下であるのが好ましく、100nm以下であるのが更に好ましい。
【0153】
発光層5は、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、電荷輸送性を有する材料(電荷輸送性材料)とを含有する。発光材料としては、いずれかの発光層に、本発明の芳香族ジアミン誘導体が含まれていればよく、適宜他の発光材料を用いてもよい。以下、本発明の芳香族ジアミン誘導体以外の他の発光材料について詳述する。
【0154】
(発光材料)
発光材料は、所望の発光波長で発光し、本発明の効果を損なわない限り、式(1)で表される芳香族ジアミン誘導体以外にも他の発光材料を併用することができる。発光材料は、蛍光発光材料でも、燐光発光材料でもよいが、発光効率が良好である材料が好ましく、有機電界発光素子の発光効率の観点から燐光発光材料が好ましい。
【0155】
蛍光発光材料としては、例えば、以下の材料が挙げられる。
【0156】
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光発光材料)としては、例えば、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、クリセン、p-ビス(2-フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0157】
緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光発光材料)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(C9H6NO)3などのアルミニウム錯体等が挙げられる。
【0158】
黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光発光材料)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
【0159】
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光発光材料)としては、例えば、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0160】
また、燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)の第7~11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体等が挙げられる。周期表の第7~11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。
【0161】
有機金属錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0162】
好ましい燐光発光材料として、具体的には、例えば、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2-フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2-フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2-フェニルピリジン)白金、トリス(2-フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2-フェニルピリジン)レニウム等のフェニルピリジン錯体及びオクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等のポルフィリン錯体等が挙げられる。
【0163】
高分子系の発光材料としては、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(4-sec-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(1,4-ベンゾ-2{2,1’-3}-トリアゾール)]などのポリフルオレン系材料、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]などのポリフェニレンビニレン系材料が挙げられる。
【0164】
(電荷輸送性材料)
電荷輸送性材料は、正電荷(正孔)又は負電荷(電子)輸送性を有する材料であり、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、公知の材料を適用可能である。
【0165】
電荷輸送性材料は、従来、有機電界発光素子の発光層5に用いられている化合物等を用いることができ、特に、発光層5のホスト材料として使用されている化合物が好ましい。
【0166】
電荷輸送性材料としては、具体的には、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物等の正孔注入層3の正孔輸送性化合物として例示した化合物等が挙げられる他、アントラセン系化合物、ピレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、フェナントロリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、シロール系化合物等の電子輸送性化合物等が挙げられる。
【0167】
また、例えば、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5-234681号公報)、4,4’,4’’-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン系化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン系化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のフルオレン系化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール系化合物等の正孔輸送層4の正孔輸送性化合物として例示した化合物等も好ましく用いることができる。また、この他、2-(4-ビフェニリル)-5-(p-ターシャルブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu-PBD)、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール(BND)などのオキサジアゾール系化合物、2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール系化合物、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)などのフェナントロリン系化合物等も挙げられる。
【0168】
(湿式成膜法による発光層5の形成)
発光層5の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよいが、成膜性に優れることから、湿式成膜法が好ましい。
【0169】
湿式成膜法により発光層5を形成する場合は、通常、上述の正孔注入層3を湿式成膜法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに、発光層5となる材料を可溶な溶剤(発光層用溶剤)と混合して調製した発光層形成用組成物を用いて形成させる。本発明においては、この発光層形成用組成物として、前述の本発明のOLED用組成物を用いることが好ましい。
【0170】
溶剤としては、例えば、正孔注入層3の形成について挙げたエーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤の他、アルカン系溶剤、ハロゲン化芳香族炭化水系溶剤、脂肪族アルコール系溶剤、脂環族アルコール系溶剤、脂肪族ケトン系溶剤及び脂環族ケトン系溶剤などが挙げられる。用いる溶剤は、本発明のOLED用組成物の溶剤としても例示した通りであり、以下に溶剤の具体例を挙げるが、本発明の効果を損なわない限り、これらに限定されるものではない。
【0171】
例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル系溶剤;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル系溶剤;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル系溶剤;トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、3-イソプロピルビフェニル、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶剤;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;n-デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン系溶剤;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール系溶剤;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール系溶剤;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン系溶剤;シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン系溶剤等が挙げられる。これらのうち、アルカン系溶剤及び芳香族炭化水素系溶剤、芳香族エステル系溶剤が特に好ましい。
【0172】
また、より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、用いる溶剤の沸点は、前述の通り、通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、また、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは沸点230℃以下である。
【0173】
溶剤の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、発光層形成用組成物、即ちOLED用組成物中の溶剤の合計含有量は、多い方が低粘性となり成膜作業が行いやすい点で好ましく、また、一方、少ない方が厚膜で成膜しやすい点で好ましい。前述の通り、溶剤の含有量は、OLED用組成物において好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは50質量%以上、また、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.90質量%以下、特に好ましくは99.00質量%以下である。
【0174】
湿式成膜後の溶剤除去方法としては、加熱又は減圧を用いることができる。加熱方法において使用する加熱手段としては、膜全体に均等に熱を与えることから、クリーンオーブン、ホットプレートが好ましい。
【0175】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、加熱時間を短くする点では高いほうが好ましく、材料へのダメージが少ない点では低い方が好ましい。加熱温度の上限は通常250℃以下であり、好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。加熱温度の下限は通常30℃以上であり、好ましくは50℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上である。上記上限を超える温度は、通常用いられる電荷輸送材料又は燐光発光材料の耐熱温度より高く、電荷輸送材料又は燐光発光材料が分解や結晶化する可能性があり好ましくない。上記下限未満の温度では溶剤の除去に長時間を要するため、好ましくない。加熱工程における加熱時間は、発光層形成用組成物中の溶剤の沸点や蒸気圧、材料の耐熱性、及び加熱条件によって適切に決定される。
【0176】
(真空蒸着法による発光層5の形成)
真空蒸着法により発光層5を形成する場合には、通常、発光層5の構成材料(前述の発光材料、電荷輸送性化合物等)の1種類又は2種類以上を真空容器内に設置された坩堝に入れ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々を別々の坩堝に入れ)、真空容器内を真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、坩堝を加熱して(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々の坩堝を加熱して)、坩堝内の材料の蒸発量を制御しながら蒸発させ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々独立に蒸発量を制御しながら蒸発させ)、坩堝に向き合って置かれた正孔注入層3又は正孔輸送層4の上に発光層5を形成させる。なお、2種類以上の材料を用いる場合は、それらの混合物を坩堝に入れ、加熱、蒸発させて発光層5を形成することもできる。
【0177】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、50℃以下で行われる。
【0178】
<正孔阻止層6>
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0179】
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0180】
このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2-メチル-8-キノラト)アルミニウム-μ-オキソ-ビス-(2-メチル-8-キノリノラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11-242996号公報)、3-(4-ビフェニルイル)-4-フェニル-5(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7-41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10-79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005/022962号に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0181】
正孔阻止層6の形成方法に制限はなく、前述の発光層5の形成方法と同様にして形成することができる。
【0182】
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上であり、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0183】
<電子輸送層7>
電子輸送層7は有機電界発光素子の電流効率をさらに向上させることを目的として、発光層5又は正孔素子層6と電子注入層8との間に設けられる。
【0184】
電子輸送層7は、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極9又は電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0185】
このような条件を満たす電子輸送性化合物としては、具体的には、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59-194393号公報)、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3-ヒドロキシフラボン金属錯体、5-ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6-207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5-331459号公報)、2-t-ブチル-9,10-N,N’-ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0186】
電子輸送層7の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上であり、また、一方、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0187】
電子輸送層7は、発光層5と同様にして湿式成膜法、或いは真空蒸着法により発光層5又は正孔阻止層6上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0188】
<電子注入層8>
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく、電子輸送層7又は発光層5へ注入する役割を果たす。
【0189】
電子注入を効率よく行うには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。
【0190】
電子注入層8の膜厚は、0.1~5nmが好ましい。
【0191】
また、陰極9と電子輸送層7との界面に電子注入層8として、LiF、MgF2、Li2O、Cs2CO3等の極薄絶縁膜(膜厚0.1~5nm程度)を挿入することも、有機電界発光素子の発光効率を向上させる有効な方法である(Appl.Phys.Lett.,70巻,152頁,1997年;特開平10-74586号公報;IEEETrans.Electron.Devices,44巻,1245頁,1997年;SID 04 Digest,154頁)。
【0192】
さらに、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10-270171号公報、特開2002-100478号公報、特開2002-100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は通常5nm以上、好ましくは10nm以上で、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0193】
電子注入層8は、発光層5と同様にして湿式成膜法或いは真空蒸着法により、発光層5或いはその上の正孔阻止層6又は電子輸送層7上に積層することにより形成される。
湿式成膜法の場合の詳細は、前述の発光層5の場合と同様である。
【0194】
<陰極9>
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8又は発光層5など)に電子を注入する役割を果たす。陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なう上では、仕事関数の低い金属を用いることが好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金などが用いられる。具体例としては、例えば、マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、アルミニウム-リチウム合金等の低仕事関数の合金電極などが挙げられる。
【0195】
有機電界発光素子の安定性の点では、陰極9の上に、仕事関数が高く、大気に対して安定な金属層を積層して、低仕事関数の金属からなる陰極9を保護するのが好ましい。積層する金属としては、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が挙げられる。
陰極の膜厚は通常、陽極2と同様である。
【0196】
<その他の構成層>
以上、
図1に示す層構成の有機電界発光素子を中心に説明してきたが、本発明の有機電界発光素子における陽極2及び陰極9と発光層5との間には、その性能を損なわない限り、上記説明にある層の他にも、任意の層を有していてもよく、また発光層5以外の任意の層を省略してもよい。
【0197】
例えば、正孔阻止層8と同様の目的で、正孔輸送層4と発光層5の間に電子阻止層を設けることも効果的である。電子阻止層は、発光層5から移動してくる電子が正孔輸送層4に到達することを阻止することで、発光層5内で正孔との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔輸送層4から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割がある。
【0198】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。また、発光層5を湿式成膜法で形成する場合、電子阻止層も湿式成膜法で形成することが、有機電界発光素子製造が容易となるため、好ましい。
【0199】
このため、電子阻止層も湿式成膜適合性を有することが好ましく、このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8-TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号)等が挙げられる。
【0200】
なお、
図1とは逆の構造、即ち、基板1上に陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2をこの順に積層することも可能であり、少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。
【0201】
さらには、
図1に示す層構成を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その際には段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO(インジウム・スズ酸化物)、陰極がAlの場合はその2層)の代わりに、例えばV
2O
5等を電荷発生層として用いると段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0202】
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
【0203】
[表示装置及び照明装置]
本発明の有機電界発光素子を用いて表示装置及び照明装置を製造することができる。本発明の有機電界発光素子を用いた表示装置及び照明装置の形式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【0204】
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発刊、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機電界発光素子を用いて表示装置及び照明装置を形成することができる。
【実施例】
【0205】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例における各種の条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と下記実施例の値又は実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
【0206】
なお、本明細書では、Meはメチル基を意味し、Etはエチル基を意味し、Buはn-ブチル基を意味し、Butはtert-ブチル基を意味し、Acはアセチル基を意味し、Phはフェニル基を意味し、dppfは1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンを意味し、dbaはジベンジリデンアセトンを意味し、amphosは、[4-(N,N-ジメチルアミノ)フェニル]ジ-tert-ブチルホスフィンを意味し、THFはテトラヒドロフランを意味する。
【0207】
<化合物1の合成例>
(中間体1の合成)
【0208】
【0209】
1-ブロモ-2-ナフトエ酸10.7gをメタノール100mLに加えた後、室温で撹拌しながら濃硫酸27mLを滴下した。80℃のオイルバスで4.5時間撹拌した。反応溶液を室温に戻し、反応溶液を氷水約300mLに少しずつ添加した後、吸引ろ過を行った。ろ取物をジクロロメタン約100mLに溶かし、硫酸マグネシウムと白土を加えて室温で撹拌した。シリカゲルにて濾過して溶媒を留去することで、中間体1の白色固体10.8gを得た。
【0210】
(中間体2の合成)
【0211】
【0212】
窒素雰囲気下、3-ブロモジベンゾフラン6.14gとビス(ピナコラト)ジボロン7.72gとPdCl2(dppf)CH2Cl20.61gと酢酸カリウム12.2gを1,4-ジオキサン(脱水)100mLに加え、90℃にて4.5時間撹拌した。反応溶液を室温に冷却後、シリカゲルにて濾過して溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することで、中間体2の白色固体5.99gを得た。
【0213】
(中間体3の合成)
【0214】
【0215】
中間体1(5.41g)と中間体2(5.99g)と2mol/Lのりん酸三カリウム水溶液24mLをトルエン50mLとエタノール20mLの混合溶媒に加えた後、撹拌しながらで窒素置換を行った。Pd(PPh3)40.45gを加え、100℃にて4.5時間撹拌した。反応溶液を室温に冷却後、水層を除去した。有機層の溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することで、中間体3の白色固体6.65gを得た。
【0216】
(中間体4の合成)
【0217】
【0218】
窒素雰囲気下、ブロモベンゼン9.9gをTHF(脱酸素)70mLに溶解して、ドライアイス-アセトン浴にて冷却し-78℃で10分間撹拌した。内温が-65℃を超えないように1.55mol/Lのn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液35mLを滴下し、ドライアイス-アセトン浴で冷却したまま1時間撹拌した。そこへ中間体3(6.3g)を添加した後、ドライアイス-アセトン浴を外して室温で1.5時間撹拌した。蒸留水約20mLを滴下した後、ジクロロメタンと水を加えて分液洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過して溶媒を減圧留去することで、中間体4を含む粗生成物約12gを得た。中間体4はこれ以上の精製を行わずに次の反応に用いた。
【0219】
(中間体5の合成)
【0220】
【0221】
上記(中間体4の合成)で得られた中間体4を含む粗生成物約12gを酢酸50mLに溶解させ、室温で撹拌しながら濃硫酸1mLを滴下した後、80℃で1時間撹拌した。反応溶液を室温に冷却後、エタノール50mLを加え、吸引ろ過し、ろ取物をエタノールとメタノールで洗浄した。得られた粗精製物を、ジクロロメタンとメタノールの混合溶媒で再結晶することで、中間体5の白色固体6.05gを得た。
【0222】
(中間体6の合成)
【0223】
【0224】
中間体5(6.05g)をジクロロメタン220mLに溶解させ、室温で撹拌しながら臭素1.8mLとジクロロメタン20mLの混合溶液を室温で滴下した後、室温で15分間撹拌した。反応溶液に亜硫酸ナトリウム水溶液を臭素色がなくなるまで添加した後、メタノールを加えて吸引ろ過した。ろ取物をメタノール、水、メタノールの順番で洗浄し、乾燥させることで、中間体6の白色固体6.08gを得た。
【0225】
(中間体7の合成)
【0226】
【0227】
中間体6(4.00g)をジクロロメタン900mLに溶解させ、室温で撹拌しながら臭素0.8mLとジクロロメタン10mLの混合溶液を室温で滴下した後、室温で30分間撹拌した。反応溶液に酢酸50mLと鉄粉0.5gを加え、室温で10時間撹拌した。亜硫酸ナトリウム水溶液を臭素色がなくなるまで添加した後、水層を除去した。
【0228】
有機層の溶媒を留去し、得られた残渣をジクロロメタンとメタノールの混合溶媒で懸濁洗浄した。吸引ろ過し、ろ取物を酢酸エチルとエタノールの混合溶媒で懸濁洗浄した。吸引ろ過し、ろ取物を乾燥させることで、中間体7を含む粗生成物約3.5gを得た。中間体7はこれ以上の精製を行わずに次の反応に用いた。
【0229】
(中間体8の合成)
【0230】
【0231】
窒素雰囲気下、Pd2(dba)3CHCl30.52gとdppf1.1gをトルエン(脱酸素)5mLに溶解し、60℃で撹拌することで触媒溶液を調製した。別途、窒素雰囲気下、4-ブロモジベンゾフラン10.0g、p-オクチルアニリン8.7g、ナトリウム-t-ブトキシド7.8gをトルエン(脱酸素)100mLに溶解して60℃で撹拌し、上記の触媒溶液をシリンジで加え、100℃にて1時間撹拌した。
【0232】
反応溶液を室温に冷却後、溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することで、中間体8の白色固体14.1gを得た。
【0233】
(化合物1の合成)
【0234】
【0235】
窒素雰囲気下、Pd2(dba)3CHCl390mgとamphos200mgをトルエン(脱酸素)5mLに溶解し、60℃で撹拌することで触媒溶液を調製した。別途、窒素雰囲気下、中間体7(1.5g)、中間体8(3.0g)、ナトリウム-t-ブトキシド1.2gをトルエン(脱酸素)50mLに溶解して60℃で撹拌し、上記の触媒溶液をシリンジで加え、100℃にて1.5時間撹拌した。反応溶液を室温に冷却して活性白土とトルエンを加えて室温で10分間撹拌した。吸引濾過後、ろ液の溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、化合物1を0.66g得た。
【0236】
<比較化合物1の合成例>
(中間体9の合成)
【0237】
【0238】
中間体1(1.7g)と9,9-ジフェニルフルオレン-2-ボロン酸2.3gと2mol/Lのりん酸三カリウム水溶液10mLをトルエン50mLとエタノール20mLの混合溶媒に加えた後、撹拌しながら窒素置換を行った。Pd(PPh3)4 0.25gを加え、100℃にて8時間撹拌した。反応溶液を室温に冷却後、水層を除去した。有機層の溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することで、中間体9の白色固体3.1gを得た。
【0239】
(中間体10の合成)
【0240】
【0241】
窒素雰囲気下、ブロモベンゼン3.3gをTHF(脱酸素)15mLに溶解して、ドライアイス-アセトン浴にて冷却し-78℃で10分間撹拌した。内温が-65℃を超えないように1.55mol/Lのn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液12mLを滴下し、ドライアイス-アセトン浴で冷却したまま1時間撹拌した。そこへ中間体9(3.1g)を添加した後、ドライアイス-アセトン浴を外して室温で2時間撹拌した。蒸留水約10mLを滴下した後、ジクロロメタンと水を加えて分液洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過して溶媒を減圧留去することで、中間体10を含む粗生成物約4gを得た。中間体10はこれ以上の精製を行わずに次の反応に用いた。
【0242】
(中間体11の合成)
【0243】
【0244】
上記(中間体10の合成)で得られた中間体10を含む粗生成物約4gを酢酸50mLとTHF50mLの混合溶媒に加え、室温で撹拌しながら濃硫酸5mLを滴下した後、100℃のオイルバスで3時間還流撹拌した。反応溶液を室温に冷却後、メタノール100mLを加え、吸引ろ過した。ろ取物をメタノールで洗浄後、乾燥させることで、中間体11の白色固体3.3gを得た。
【0245】
(中間体12の合成)
【0246】
【0247】
中間体11(1.0g)をクロロホルム300mLに溶解させ、酢酸70mLを加えた。室温で撹拌しながらベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド2.0gと塩化亜鉛1.9gを加えた後、室温で6.5時間、70℃で6.5時間撹拌した。反応溶液を室温に冷却後、反応溶液を減圧濃縮し、メタノールを加えた。生じた沈殿を吸引ろ過した。ろ取物をメタノールで洗浄し、乾燥させることで、中間体12の淡黄色固体1.2gを得た。
【0248】
(比較化合物1の合成)
【0249】
【0250】
窒素雰囲気下、Pd2(dba)3CHCl347mgとamphos110mgをトルエン(脱酸素)5mLに溶解し、60℃で撹拌することで触媒溶液を調製した。別途、窒素雰囲気下、中間体12(1.2g)、ジフェニルアミン0.60g、ナトリウム-t-ブトキシド0.66gをトルエン(脱酸素)300mLに溶解して60℃で撹拌し、上記の触媒溶液をシリンジで加え、100℃にて3時間撹拌した。反応溶液を室温に冷却して活性白土を加えて室温で10分間撹拌した。吸引濾過後、ろ液の溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した後、得られた黄色固体を酢酸エチルとエタノールの混合溶媒で洗浄し、乾燥させることで、比較化合物1を0.71g得た。
【0251】
<有機電界発光素子の作製と評価>
以下、上記化合物を用いて有機電界発光素子を作製し、性能を評価した結果を示す。
【0252】
[実施例1]
有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を50nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。このようにITOをパターン形成した基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0253】
正孔注入層形成用組成物として、下記式(P-1)で表される繰り返し構造を有する正孔輸送性高分子化合物3.0質量%と、下記式(HI-1)で表される酸化剤0.6質量%とを、安息香酸エチルに溶解させた組成物を調製した。
【0254】
【0255】
この溶液を、大気中で上記基板上にスピンコートし、大気中ホットプレートで、240℃で30分間乾燥させ、膜厚40nmの均一な薄膜を形成し、正孔注入層とした。
【0256】
次に、下記の構造式(HT-1)を有する電荷輸送性高分子化合物100質量部を、シクロヘキシルベンゼンに溶解させ、2.0質量%の溶液を調製した。
【0257】
【0258】
この溶液を、上記正孔注入層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで、230℃で30分間乾燥させ、膜厚25nmの均一な薄膜を形成し、正孔輸送層とした。
【0259】
引続き、発光層の材料として、下記の構造式(H-1)で表される化合物を95質量部、下記の構造式(D-1)で表される化合物を5質量部秤量し、シクロヘキシルベンゼンに溶解させ4.0質量%の溶液を調製した。ここで、下記の構造式(D-1)で表される化合物は、前述の化合物1である。
【0260】
【0261】
この溶液を、上記正孔輸送層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで、120℃で20分間乾燥させ、膜厚40nmの均一な薄膜を形成し、発光層とした。
【0262】
発光層までを成膜した基板を真空蒸着装置に設置し、装置内を2×10-4Pa以下になるまで排気した。
【0263】
次に、下記の構造式(HB-1)で表される化合物及び8-ヒドロキシキノリノラトリチウムを2:3の膜厚比で、発光層上に真空蒸着法にて1Å/秒の速度で共蒸着し、膜厚30nmの正孔阻止層を形成した。
【0264】
【0265】
続いて、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプと直交するように基板に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置した。そして、アルミニウムをモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度1~8.6Å/秒で膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極を形成した。以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
【0266】
[比較例1]
発光層の材料として、上記の構造式(D-1)で表される化合物の代わりに、下記の構造式(D-2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。ここで、下記の構造式(D-2)で表される化合物は、比較化合物1である。
【0267】
【0268】
[有機電界発光素子の評価]
得られた実施例1及び比較例1の有機電界発光素子の、輝度1000cd/m2で発光させたときの電流効率(cd/A)を測定した。実施例1の有機電界発光素子の電流効率を100としたときの、比較例1の有機電界発光素子の電流効率の相対値(以下「相対電流効率」と記す。)を下記の表1に記した。
【0269】
また、得られた実施例1及び比較例1の有機電界発光素子を20mA/cm2で駆動させ、20%輝度減衰寿命(LT80)を測定した。実施例1の有機電界発光素子の20%減衰寿命を100とした場合の、比較例1の有機電界発光素子の20%輝度減衰寿命の相対値(以下「相対減衰寿命」と記す。)を求め、表1に記した。
【0270】
【0271】
表1の結果に表すが如く、本発明の有機電界発光素子は比較例の有機電界発光素子より、電流効率が向上し、20%輝度減衰寿命も向上することが分かった。
【符号の説明】
【0272】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
10 有機電界発光素子