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  • 特許-積層体および積層体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】積層体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/16 20060101AFI20240402BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B32B25/16
B32B27/30 101
B32B27/30 A
B32B27/30 B
B32B27/30 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020025420
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021130220
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早坂 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】谷山 友哉
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-258905(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014029(WO,A1)
【文献】特開平11-172514(JP,A)
【文献】特開2018-145581(JP,A)
【文献】特表2008-512526(JP,A)
【文献】特表2014-530289(JP,A)
【文献】国際公開第2015/074106(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
A41D 19/00-19/04
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に積層された第1の重合体層と、前記第1の重合体層上に積層された第2の重合体層と、を有する積層体であって、
前記第1の重合体層が、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(A)を含み、
前記第2の重合体層が、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(B)、並びに、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、PTFE樹脂およびアクリル樹脂から選択される少なくとも一種の、ガラス転移温度が30℃以上200℃以下の重合体(C)を含む積層体。
【請求項2】
前記共役ジエン系重合体(B)が、ニトリル基含有共役ジエン系重合体である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記第2の重合体層を構成する重合体成分100重量%中における、前記共役ジエン系重合体(B)の含有量が20~99重量%である請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記重合体(C)のガラス転移温度が30℃以上150℃以下である請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記重合体(C)のガラス転移温度が50℃以上200℃以下である請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
基材上に、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(A)のラテックスを含む第1のラテックス組成物を含有するディップ層を形成する第1のディップ工程と、
前記第1のラテックス組成物を含有するディップ層を形成した基材上に、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(B)のラテックスおよびガラス転移温度が30℃以上200℃以下の重合体(C)のラテックスを含む第2のラテックス組成物を含有するディップ層を形成する第2のディップ工程と、を備える積層体の製造方法であって、
前記重合体(C)が、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、PTFE樹脂およびアクリル樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂である積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関し、さらに詳しくは、オイルグリップ性、摩耗後のオイルグリップ性、および耐オイル透過性に優れた積層体ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場での製造作業、軽作業、工事作業、農作業等の様々な用途で、繊維製手袋をゴムや樹脂等により被覆することで、耐溶剤性、グリップ性、耐摩耗性等を向上させた保護手袋が用いられている。
【0003】
このような保護手袋は、通常、人体と接触して使用されるものであるため、耐摩耗性などの機械的強度や耐久性に優れていることに加え、耐オイル透過性にも優れていることが求められている。
【0004】
たとえば、引用文献1には、繊維基材と、繊維基材上の少なくとも一部に付着し、ポリマーコーティングを形成する第1のポリマー組成物と、前記ポリマーコーティング上に存在し、第2のポリマー組成物を含む複数の突起構造とを有する手袋において、前記ポリマーコーティングと、前記複数の突起構造とが、異なるポリマー組成物を含む手袋が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/074106号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の技術によれば、オイルグリップ性、ドライグリップ性、およびウェットグリップ性に優れた手袋が得られるものの、手袋が摩耗した後においても優れたオイルグリップ性を発揮できるか(すなわち、摩耗後のオイルグリップ性)については検討されておらず、手袋が摩耗した後においても、オイルに濡れて使用される用途で好適に用いることができるという観点より、摩耗後のオイルグリップ性のさらなる改善が求められている。また、引用文献1に記載の手袋は、耐オイル透過性についても検討されておらず、オイルに濡れて使用される際に、オイルが透過することを防ぐという観点より、耐オイル透過性のさらなる改善も求められている。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、オイルグリップ性、摩耗後のオイルグリップ性、および耐オイル透過性に優れた積層体、ならびに、このような積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、基材と、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(A)を含む第1の重合体層と、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(B)およびガラス転移温度が10℃超の重合体(C)を含む第2の重合体層とを有する積層体であれば、オイルグリップ性、摩耗後のオイルグリップ性、耐オイル透過性に優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、基材と、前記基材上に積層された第1の重合体層と、前記第1の重合体層上に積層された第2の重合体層と、を有する積層体であって、前記第1の重合体層が、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(A)を含み、前記第2の重合体層が、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(B)およびガラス転移温度が10℃超の重合体(C)を含む積層体が提供される。
【0010】
本発明の積層体において、前記共役ジエン系重合体(B)が、ニトリル基含有共役ジエン系重合体であることが好ましい。
本発明の積層体において、前記第2の重合体層を構成する重合体成分100重量%中における、前記共役ジエン系重合体(B)の含有量が20~99重量%であることが好ましい。
本発明の積層体において、前記重合体(C)のガラス転移温度が30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、基材上に、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(A)を含む第1のラテックス組成物を含有するディップ層を形成する第1のディップ工程と、前記第1のラテックス組成物を含有するディップ層を形成した基材上に、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(B)およびガラス転移温度が10℃超の重合体(C)を含む第2のラテックス組成物を含有するディップ層を形成する第2のディップ工程と、を備える積層体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、オイルグリップ性、摩耗後のオイルグリップ性、および耐オイル透過性に優れた積層体、ならびに、このような積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、水溶性ポリマーの酸量を測定する際に得られる塩酸量-電気伝導度曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の積層体は、基材と、前記基材上に積層された第1の重合体層と、前記第1の重合体層上に積層された第2の重合体層と、を有する積層体であって、前記第1の重合体層が、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(A)を含み、前記第2の重合体層が、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(B)およびガラス転移温度が10℃超の重合体(C)を含む積層体である。
【0015】
<基材>
本発明で用いる基材としては、特に限定されないが、本発明の積層体を保護手袋として用いる場合には、繊維基材を好適に用いることができる。繊維基材を構成する繊維としては、綿、毛、麻、羊毛等の天然繊維、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、ナイロン等の合成繊維などを素材として用いることができ、これらの中でも、綿を用いることが好ましい。
【0016】
繊維基材を構成する繊維は、単繊維(上記の天然繊維や合成繊維などから取り出される一本一本)であってもよいし、複数の単繊維からなる撚糸であってもよいが、撚糸であることが好ましい。
【0017】
繊維基材としては、上述した繊維の編物または織物であってもよいし、不織布であってもよい。また、繊維基材は、縫製されたものであってもよい。
【0018】
<第1の重合体層>
第1の重合体層は、上記した基材上に形成される重合体層であり、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(A)を含むものである。
【0019】
第1の重合体層は、たとえば、基材を、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(A)のラテックスを含有する第1のラテックス組成物に浸漬し、第1のラテックス組成物を含有するディップ層を形成し、必要に応じて、乾燥等を行うことで、形成することができる。
【0020】
第1のラテックス組成物に含まれる、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(A)のラテックス(以下、適宜、「共役ジエン系重合体(A)のラテックス」とする。)を構成する、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(A)(以下、適宜、「共役ジエン系重合体(A)」とする。)としては、共役ジエン系単量体に由来の単位を有する重合体であればよく、特に限定されないが、たとえば、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、合成ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-イソプレン共重合ゴム、スチレン-イソプレン-スチレン共重合ゴムなどが挙げられる。これらのなかでも、本発明の効果がより顕著になるという観点から、合成ゴムが好ましく、NBRなどのニトリル基を含有する共役ジエン系重合体(以下、適宜、「ニトリル基含有共役ジエン系重合体」とする。)がより好ましい。
【0021】
ニトリル基含有共役ジエン系重合体としては、特に限定されないが、たとえば、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体、および共役ジエン単量体、ならびに、必要に応じて用いられる共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体を共重合したものを用いることができる。
【0022】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、特に限定されないが、ニトリル基を有し、炭素数が、好ましくは3~18であるエチレン性不飽和化合物を用いることができる。このようなα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ハロゲン置換アクリロニトリルなどが挙げられ、これらの中でも、アクリロニトリルが特に好ましい。なお、これらのα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
ニトリル基含有共役ジエン系重合体におけるα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは10~45重量%、より好ましくは20~40重量%であり、さらに好ましくは25~40重量%である。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、得られる積層体を、耐溶剤性に優れたものとすることができる。
【0024】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4~6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3-ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3-ブタジエンが特に好ましい。なお、これらの共役ジエン単量体は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ニトリル基含有共役ジエン系重合体における共役ジエン単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは40~80重量%、より好ましくは52~78重量%、さらに好ましくは55~75重量%である。共役ジエン単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、得られる積層体を、柔軟性に優れたものとすることができる。
【0026】
また、ニトリル基含有共役ジエン系重合体は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成する単量体、および共役ジエン単量体単位を形成する単量体と、共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体とを共重合したものであってもよい。
【0027】
このような共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体としては、特に限定されないが、たとえば、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、モノカルボン酸エステル基含有エチレン性不飽和単量体、ジカルボン酸ジエステル基含有エチレン性不飽和単量体、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体、リン酸基含有エチレン性不飽和単量体などが挙げられる。
【0028】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸およびその無水物;マレイン酸メチル、イタコン酸メチル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;などが挙げられる。
【0029】
モノカルボン酸エステル基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、アクリル酸メチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル;クロトン酸メチル等のクロトン酸エステル;などが挙げられる。
【0030】
ジカルボン酸ジエステル基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、マレイン酸ジメチル等のマレイン酸ジエステル;イタコン酸メチル等のイタコン酸ジエステル;などが挙げられる。
【0031】
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0032】
リン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸-3-クロロ-2-リン酸プロピル、(メタ)アクリル酸-2-リン酸エチル、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンリン酸などが挙げられる。
【0033】
これらの共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体は、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩として用いることもでき、また、1種単独を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体のなかでも、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体が好ましく、エチレン性不飽和モノカルボン酸がより好ましく、アクリル酸、メタクリル酸がさらに好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0034】
ニトリル基含有共役ジエン系重合体に、共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体の単位を含有させる場合における、共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体の単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは0.1~15重量%であり、より好ましくは1~10重量%、さらに好ましくは2~8重量%である。
【0035】
共役ジエン系重合体(A)のラテックスは、たとえば、上記の単量体を含有してなる単量体混合物を乳化重合することにより得ることができる。乳化重合に際しては、通常用いられる、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の重合副資材を使用することができる。
【0036】
乳化重合に用いる乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、および両性界面活性剤などが挙げられるが、アニオン性界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤の具体例としては、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、リノレン酸ナトリウム、ロジン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸カリウム、セチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、セチルベンゼンスルホン酸カリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸カリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸カリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム等のモノアルキルリン酸塩;等が挙げられる。
乳化重合に用いる乳化剤の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.5~10重量部、より好ましくは1~8重量部である。
【0037】
重合開始剤としては、特に限定されないが、ラジカル開始剤が好ましい。ラジカル開始剤としては、特に限定されないが、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;などが挙げられ、これらの中でも、無機過酸化物または有機過酸化物が好ましく、無機過酸化物がより好ましく、過硫酸塩が特に好ましい。これらの重合開始剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合開始剤の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01~2重量部、より好ましくは0.05~1.5重量部である。
【0038】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、たとえば、α-メチルスチレンダイマー;t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物;などが挙げられ、これらの中でも、メルカプタン類が好ましく、t-ドデシルメルカプタンがより好ましい。これらの分子量調整剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
分子量調整剤の使用量は、その種類によって異なるが、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1~1.5重量部、より好ましくは0.2~1.0重量部である。
【0039】
乳化重合は、通常、水中で行なわれる。水の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは80~500重量部、より好ましくは100~200重量部である。
【0040】
乳化重合に際し、必要に応じて、上記以外の重合副資材をさらに用いてもよい。重合副資材としては、キレート剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等が挙げられ、これらの種類、使用量とも特に限定されない。
【0041】
単量体の添加方法としては、たとえば、反応容器に使用する単量体を一括して添加する方法、重合の進行に従って連続的または断続的に添加する方法、単量体の一部を添加して特定の転化率まで反応させ、その後、残りの単量体を連続的または断続的に添加して重合する方法等が挙げられ、いずれの方法を採用してもよい。単量体を混合して連続的または断続的に添加する場合、混合物の組成は、一定としても、あるいは変化させてもよい。
また、各単量体は、使用する各種単量体を予め混合してから反応容器に添加しても、あるいは別々に反応容器に添加してもよい。
【0042】
乳化重合する際の重合温度は、特に限定されないが、通常、0~95℃であり、好ましくは5~70℃である。重合時間は、特に限定されないが、通常、5~40時間程度である。
【0043】
重合反応を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、固形分濃度やpHを調整してもよい。
【0044】
共役ジエン系重合体(A)のガラス転移温度は、10℃以下であり、好ましくは-45~-10℃、より好ましくは-40~-10℃である。共役ジエン系重合体(A)のガラス転移温度が高すぎると、得られる積層体は、耐オイル透過性に劣るものとなってしまう。なお、共役ジエン系重合体(A)のガラス転移温度を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、たとえば、共役ジエン系重合体(A)を構成する各単量体の単位の含有割合を上述した範囲とする方法などが挙げられる。
【0045】
また、共役ジエン系重合体(A)のラテックスを構成する共役ジエン系重合体(A)の粒子の体積平均粒子径は、好ましくは30~1000nm、より好ましくは50~500nm、さらに好ましくは70~200nmである。共役ジエン系重合体(A)の粒子の体積平均粒子径を上記範囲とすることにより、得られる重合体ラテックスの粘度をより適度なものとすることができ、これにより、得られる重合体ラテックスの取扱性がより向上するとともに、重合体層を成形する際の成形性が向上し、より均質な重合体層を有する積層体が得られるようになる。
【0046】
本発明で用いる第1のラテックス組成物は、共役ジエン系重合体(A)のラテックスに加えて、硫黄系架橋剤をさらに含有することが好ましい。
【0047】
硫黄系架橋剤としては、特に限定されないが、粉末硫黄、硫黄華、沈降性硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、カプロラクタムジスルフィド、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなどの硫黄供与性化合物;などが挙げられる。これらの硫黄系架橋剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
硫黄系架橋剤の含有量は、第1のラテックス組成物中に含まれる重合体成分100重量部に対し、好ましくは0.01~5重量部、より好ましくは0.05~3重量部、さらに好ましくは0.1~2重量部である。
【0049】
また、本発明で用いる第1のラテックス組成物は、硫黄系架橋剤に加えて、架橋促進剤(加硫促進剤)や、酸化亜鉛をさらに含有することが好ましい。
架橋促進剤(加硫促進剤)としては、特に限定されないが、たとえば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2-メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2-(2,4-ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2-(N,N-ジエチルチオ・カルバモイルチオ)ベンゾチアゾール、2-(2,6-ジメチル-4-モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2-(4′-モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4-モルホリニル-2-ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3-ビス(2-ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられ、これらの中でも、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。これらの架橋促進剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
架橋促進剤の含有量は、第1のラテックス組成物中に含まれる重合体成分100重量部に対し、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~5重量部である。また、酸化亜鉛の含有量は、第1のラテックス組成物中に含まれる重合体成分100重量部に対し、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~5重量部である。
【0051】
また、本発明で用いる第1のラテックス組成物は、水溶性ポリマーをさらに含有していてもよい。
【0052】
水溶性ポリマーとしては、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のビニル系化合物;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体およびその塩;ポリアクリル酸等のポリカルボン酸系化合物およびそのナトリウム塩;ポリエチレングリコールエーテル等のポリオキシエチレン誘導体;等が挙げられる。水溶性ポリマーとしては、セルロース誘導体およびその塩が好ましく、カルボキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩がより好ましい。水溶性ポリマーの含有量は、第1のラテックス組成物中に含まれる重合体成分100重量部に対し、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.1~5重量部である。
【0053】
水溶性ポリマーの酸量は、特に限定されないが、10mmol/g以下であることが好ましい。すなわち、本発明で用いる第1のラテックス組成物は、酸量が10mmol/g以下である水溶性ポリマーを含有することが好ましい。
【0054】
本発明で用いる第1のラテックス組成物が、共役ジエン系重合体(A)のラテックスに加えて、酸量が10mmol/g以下である水溶性ポリマーを含有する場合には、得られる積層体を、耐オイル透過性により優れたものとすることができる。
【0055】
水溶性ポリマーの酸量は、好ましくは10mmol/g以下であり、より好ましくは5mmol/g以下であり、さらに好ましくは2.5mmol/g以下である。水溶性ポリマーの酸量の下限は、特に限定されないが、通常0.001mmol/g以上である。水溶性ポリマーの酸量が上記範囲であることにより、得られる積層体が、耐オイル透過性により優れたものとなる。
【0056】
酸量が10mmol/g以下である水溶性ポリマーとしては、特に限定されないが、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のビニル系化合物;カルボン酸変性ポリビニルアルコール、カルボン酸変性ポリビニルピロリドン等のカルボン酸変性ビニル系化合物;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体およびその塩;ポリエチレングリコールエーテル等のポリオキシエチレン誘導体;等が挙げられる。これらの水溶性ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
水溶性ポリマーの酸量は、たとえば、以下の方法により測定できる。
まず、蒸留水で洗浄した200mlのガラス容器に、蒸留水を加えて固形分濃度を0.2~1%に調整した水溶性ポリマーの水溶液50g(水溶性ポリマーの水溶液50g中の、水溶性ポリマーの固形分量をW(g)とする)を入れ、溶液電導率計(京都電子工業社製:CM-117、使用セルタイプ:K-121)にセットして、攪拌を開始する。次に、攪拌を継続した状態にて、水溶液のpHが12以上になるように、0.1規定の水酸化ナトリウムを添加し、6分経過後の電気伝導度を測定し、得られた測定値を測定開始時の電気伝導度とする。そして、この水溶性ポリマー水溶液に、0.1規定の塩酸を0.5ml添加して30秒後に電気伝導度を測定し、再び0.1規定の塩酸を0.5ml添加して30秒後に電気伝導度を測定するという動作を、30秒間隔で、測定開始時の2倍の電気伝導度以上となるまで繰返し行う。そして、得られた電気伝導度データを、縦軸:電気伝導度(mS)、横軸:添加した塩酸の累計量(mmol)としたグラフ上にプロットし、図1に示すような2つの変曲点を有する塩酸量-電気伝導度曲線を得て、得られた2つの変曲点のX座標及び塩酸添加終了時のX座標を、値が小さい方から順にそれぞれP、PおよびPとし、X座標が零からPまで、PからPまで、およびPからPまで、の3つの区分内のデータについて、それぞれ、最小二乗法により近似直線L、L及びLを求める。また、LとLとの交点のX座標をA(mmol)、LとLとの交点のX座標をA(mmol)とする。そして、水溶性ポリマー1g当たりの酸量を、下記式から求める。
水溶性ポリマー1g当たりの酸量=(A-A)/W (mmol/g)
【0058】
なお、2種以上の水溶性ポリマーを組み合わせて用いる場合には、第1のラテックス組成物中の各水溶性ポリマーの存在比率と同じ比率で、各水溶性ポリマーを混合して得られる水溶性ポリマー混合物について、上記と同様に測定することにより得られる水溶性ポリマー混合物の酸量を、水溶性ポリマーの酸量とすることができる。
【0059】
水溶性ポリマーを、4重量%水溶液とした場合の粘度は、特に限定されないが、1mPa・s以上が好ましく、10mPa・s以上がより好ましく、20,000mPa・s以下が好ましく、10,000mPa・s以下がより好ましい。水溶性ポリマーを、1重量%水溶液とした場合の粘度は、特に限定されないが、1mPa・s以上が好ましく、10mPa・s以上がより好ましく、20,000mPa・s以下が好ましく、10,000mPa・s以下がより好ましい。水溶性ポリマー水溶液の粘度は、たとえば、B型粘度計を用いて、25℃、回転数6rpmの条件で測定することができる。
【0060】
水溶性ポリマーは、水に可溶であるものであればよく、水溶性ポリマーの水に対する溶解度は、特に限定されないが、温度25℃の水100gに対し、好ましくは1g以上であり、より好ましくは7g以上であり、特に好ましくは10g以上である。水溶性ポリマーの水に対する溶解度の上限は、特に限定されないが、通常、1000000g以下である。
【0061】
水溶性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、100以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、5,000,000以下が好ましく、3,000,000以下がより好ましい。
【0062】
水溶性ポリマーの配合量は、第1のラテックス組成物中に含まれる重合体成分100重量部に対し、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.1~5重量部であり、さらに好ましくは0.15~4.5重量部である。水溶性ポリマーの配合量が上記範囲内であると、得られる積層体が耐オイル透過性により優れたものとなる。
【0063】
本発明で用いる第1のラテックス組成物の固形分濃度は、好ましくは20~65重量%であり、より好ましくは30~60重量%、さらに好ましくは35~55重量%である。第1のラテックス組成物の固形分濃度を上記範囲にすることにより、第1のラテックス組成物の輸送効率を向上させることができ、かつ、第1のラテックス組成物の粘度が適度なものとなって第1のラテックス組成物の取扱性が向上する。
【0064】
第1のラテックス組成物の固形分濃度を上述した範囲とする方法としては、たとえば、共役ジエン系重合体(A)のラテックスなどの各成分の固形分濃度を調整する方法や、後述する濃縮処理または希釈処理により調整する方法が挙げられる。これらの中でも、濃縮処理により調整する方法が、生産性の観点より好ましい。
【0065】
本発明で用いる第1のラテックス組成物のpHは、好ましくは5~13であり、より好ましくは7~10、さらに好ましくは7.5~9である。第1のラテックス組成物のpHを上記範囲にすることにより、機械的安定性が向上して第1のラテックス組成物の移送時における粗大凝集物の発生を抑制することができ、かつ、第1のラテックス組成物の粘度が適度なものとなって第1のラテックス組成物の取扱性が向上する。
【0066】
本発明で用いる第1のラテックス組成物の25℃における粘度は、好ましくは1,000~100,000mPa・sであり、より好ましくは1,500~50,000mPa・s、さらに好ましくは2,500~20,000mPa・sである。第1のラテックス組成物の25℃における粘度は、たとえば、B型粘度計を用いて、25℃、回転数6rpmの条件で測定することができる。第1のラテックス組成物の25℃における粘度は、たとえば、第1のラテックス組成物中における重合体成分の濃度を調整する方法や、第1のラテックス組成物に対し、増粘作用を有する化合物を添加する方法などにより調整できる。
【0067】
また、本発明で用いる第1のラテックス組成物には、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウム、酸化チタンなどの充填剤を添加してもよい。また、本発明で用いる第1のラテックス組成物には、必要に応じて、上記水溶性塩や充填剤以外の添加剤、たとえば、老化防止剤、酸化防止剤、防腐剤、抗菌剤、湿潤剤、分散剤、顔料、染料、補強剤、pH調整剤などの各種添加剤を所定量添加することもできる。
【0068】
本発明で用いる第1のラテックス組成物は、たとえば、上記した成分を混合し、さらに、必要に応じて濃縮処理または希釈処理を施すことにより調製することができる。各成分の混合順序は特に限定されないが、各成分の分散性をより高めるという観点より、共役ジエン系重合体(A)のラテックスに、必要に応じて配合される各成分を添加し、混合する方法が好ましい。
【0069】
<第2の重合体層>
第2の重合体層は、上記した第1の重合体層上に形成される重合体層であり、ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(B)と、ガラス転移温度が10℃超である重合体(C)とを含有する。
【0070】
第2の重合体層は、たとえば、第1の重合体層を形成した基材(あるいは、第1のラテックス組成物を含有するディップ層を形成した基材)を、ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(B)のラテックスと、ガラス転移温度が10℃超である重合体(C)のラテックスとを含有する第2のラテックス組成物に浸漬し、第1の重合体層(あるいは、第1のラテックス組成物を含有するディップ層)上に、第2のラテックス組成物を含有するディップ層を形成し、必要に応じて、乾燥等を行うことで、形成することができる。
【0071】
第2のラテックス組成物に含まれる、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(B)のラテックス(以下、適宜、「共役ジエン系重合体(B)のラテックス」とする。)を構成する、ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(B)(以下、適宜、「共役ジエン系重合体(B)」とする。)としては、たとえば、上記共役ジエン系重合体(A)と同様のものが挙げられる。この場合において、共役ジエン系重合体(B)としては、共役ジエン系重合体(A)と同じ組成を有する重合体であってもよいし、互いに組成の異なる重合体であってもよい。
【0072】
すなわち、第2のラテックス組成物に含まれる、共役ジエン系重合体(B)のラテックスを構成する、共役ジエン系重合体(B)としては、共役ジエン系単量体に由来の単位を有する重合体であればよく、特に限定されないが、たとえば、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、合成ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-イソプレン共重合ゴム、スチレン-イソプレン-スチレン共重合ゴムなどが挙げられる。これらのなかでも、本発明の効果がより顕著になるという観点から、合成ゴムが好ましく、NBRなどのニトリル基を含有する共役ジエン系重合体(以下、適宜、「ニトリル基含有共役ジエン系重合体」とする。)がより好ましい。
【0073】
ニトリル基含有共役ジエン系重合体としては、特に限定されないが、たとえば、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体、および共役ジエン単量体、ならびに、必要に応じて用いられる共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体を共重合したものを用いることができる。
【0074】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、特に限定されないが、ニトリル基を有し、炭素数が、好ましくは3~18であるエチレン性不飽和化合物を用いることができる。このようなα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ハロゲン置換アクリロニトリルなどが挙げられ、これらの中でも、アクリロニトリルが特に好ましい。なお、これらのα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
ニトリル基含有共役ジエン系重合体におけるα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは10~45重量%、より好ましくは20~40重量%であり、さらに好ましくは25~40重量%である。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、得られる積層体を、耐溶剤性に優れたものとすることができる。
【0076】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4~6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3-ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3-ブタジエンが特に好ましい。なお、これらの共役ジエン単量体は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
ニトリル基含有共役ジエン系重合体における共役ジエン単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは40~80重量%、より好ましくは52~78重量%、さらに好ましくは55~75重量%である。共役ジエン単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、得られる積層体を、柔軟性に優れたものとすることができる。
【0078】
また、ニトリル基含有共役ジエン系重合体は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成する単量体、および共役ジエン単量体単位を形成する単量体と、共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体とを共重合したものであってもよい。
【0079】
このような共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体としては、特に限定されないが、たとえば、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、モノカルボン酸エステル基含有エチレン性不飽和単量体、ジカルボン酸ジエステル基含有エチレン性不飽和単量体、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体、リン酸基含有エチレン性不飽和単量体などが挙げられる。
【0080】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸およびその無水物;マレイン酸メチル、イタコン酸メチル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;などが挙げられる。
【0081】
モノカルボン酸エステル基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、アクリル酸メチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル;クロトン酸メチル等のクロトン酸エステル;などが挙げられる。
【0082】
ジカルボン酸ジエステル基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、マレイン酸ジメチル等のマレイン酸ジエステル;イタコン酸メチル等のイタコン酸ジエステル;などが挙げられる。
【0083】
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0084】
リン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸-3-クロロ-2-リン酸プロピル、(メタ)アクリル酸-2-リン酸エチル、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンリン酸などが挙げられる。
【0085】
これらの共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体は、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩として用いることもでき、また、1種単独を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体のなかでも、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体が好ましく、エチレン性不飽和モノカルボン酸がより好ましく、アクリル酸、メタクリル酸がさらに好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0086】
ニトリル基含有共役ジエン系重合体に、共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体の単位を含有させる場合における、共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体の単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは0.1~15重量%であり、より好ましくは1~10重量%、さらに好ましくは2~8
重量%である。
【0087】
共役ジエン系重合体(B)のラテックスは、たとえば、上記共役ジエン系重合体(A)のラテックスと同様に、上記の単量体を含有してなる単量体混合物を乳化重合することにより得ることができる。
【0088】
また、第2のラテックス組成物に含まれる、ガラス転移温度が10℃超である重合体(C)のラテックス(以下、適宜、「重合体(C)のラテックス」とする。)を構成する、ガラス転移温度が10℃超である重合体(C)(以下、適宜、「重合体(C)」とする。)としては、特に限定されず、ガラス転移温度が10℃超である重合体であればよく、特に限定されないが、得られる積層体のオイルグリップ性、摩耗後のオイルグリップ性、および耐オイル透過性をより高めることができるという観点より、ハロゲン原子を有する単量体単位を含有する重合体が好ましい。
【0089】
ハロゲン原子としては、特に限定されないが、たとえば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。これらのなかでも、得られる積層体のオイルグリップ性、摩耗後のオイルグリップ性、および耐オイル透過性をより高めることができるという観点から、塩素原子が好ましい。すなわち、重合体(C)としては、塩素原子を有する単量体単位を含有する重合体がより好ましい。
【0090】
ハロゲン原子を有する単量体単位を形成する、ハロゲン原子を有する単量体としては、特に限定されないが、たとえば、不飽和ハロゲン化アルキル、ハロゲン含有飽和カルボン酸の不飽和アルコールエステル、(メタ)アクリル酸ハロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ハロアシロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸(ハロアセチルカルバモイルオキシ)アルキルエステル、ハロゲン含有不飽和エーテル、ハロゲン含有不飽和ケトン、ハロメチル基含有芳香族ビニル化合物、ハロゲン含有不飽和アミド、およびハロアセチル基含有不飽和単量体などが挙げられる。これらのなかでも、得られる積層体のオイルグリップ性、摩耗後のオイルグリップ性、および耐オイル透過性をより高めることができるという観点から、不飽和ハロゲン化アルキルを用いることが好ましく、塩化ビニルがより好ましく、重合体(C)としては、塩化ビニル単位を主成分として有する、塩化ビニル樹脂であることがより好ましい。
【0091】
重合体(C)としての塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニルと、塩化ビニルと共重合可能な単量体との共重合体のいずれであってもよい。重合体(C)としての塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単独重合体が好ましい。塩化ビニル樹脂が共重合体である場合における、塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル単量体単位の含有量は、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは75重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0092】
塩化ビニルと共重合可能な単量体としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどのα-オレフィン単量体;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルピリジンなどの芳香族系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などのα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸;(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどのα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのα,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノエチルなどのα,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸モノエステル;マレイン酸ジメチル、フマル酸ジ-n-ブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジ-2-エチルヘキシルなどのα,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸多価エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミドなどのα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アミド;N-置換マレイミド類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルセチルエーテルなどのビニルエーテル単量体;塩化ビニリデンなどのビニリデン化合物;などが挙げられ、これらの中でも、ビニルエステル単量体、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステルが好ましく、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。すなわち、重合体(C)としての塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体、塩化ビニルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であることが好ましい。
【0093】
重合体(C)としての塩化ビニル樹脂のラテックスの製造方法としては、上記単量体を重合可能な方法であればよく、特に限定されないが、ラジカル重合による公知の乳化重合、播種乳化重合、微細懸濁重合による方法などが挙げられる。
【0094】
重合体(C)としての塩化ビニル樹脂の、JIS K 7367-2に従って測定したK値が、好ましくは50~95であり、より好ましくは60~80である。
【0095】
また、重合体(C)としての塩化ビニル樹脂としては、可塑剤を重合体(C)100重量部に対して20重量部以下含有するものであることが好ましく、含有しないものを用いることがより好ましく、これにより、得られる積層体のオイルグリップ性および摩耗後のオイルグリップ性をより高めることができるものである。なお、この場合において、「可塑剤を含有しない」とは、塩化ビニル樹脂のラテックスを構成する、塩化ビニル樹脂粒子中に可塑剤が実質的に含まれないような態様であればよく、たとえば、可塑剤の含有量が、10重量ppm以下に抑えられたものであればよい。
【0096】
なお、重合体(C)としては、塩化ビニル樹脂以外に、たとえば、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、PTFE樹脂、アクリル樹脂などを用いてもよい。重合体(C)としては、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、またはアクリル樹脂が好ましく、得られる積層体のオイルグリップ性、摩耗後のオイルグリップ性、および耐オイル透過性の観点から、塩化ビニル樹脂がより好ましい。なお、これらの重合体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
重合体(C)のラテックスを構成する、重合体(C)のガラス転移温度は、10℃超であり、好ましくは30℃以上であり、より好ましくは50℃以上であり、さらに好ましくは70℃以上である。また、重合体(C)のガラス転移温度の上限は、特に限定されないが、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは150℃以下である。
【0098】
重合体(C)のガラス転移温度が低すぎると、得られる積層体は、オイルグリップ性および摩耗後のオイルグリップ性に劣るものとなってしまう。なお、重合体(C)のガラス転移温度を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、たとえば、重合体(C)のラテックスとして、塩化ビニル樹脂のラテックスを使用する場合には、塩化ビニル樹脂中における、塩化ビニル単量体単位の含有量を、好ましくは50重量%以上、より好ましくは75重量%以上とする方法などが挙げられる。
【0099】
本発明で用いる第2のラテックス組成物は、ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(B)のラテックスと、ガラス転移温度が10℃超である重合体(C)のラテックスとを、ラテックス状態で混合することにより得られるラテックス組成物であることが好ましい。共役ジエン系重合体(B)のラテックスと、重合体(C)のラテックスとをラテックス状態で混合することにより、得られる積層体をより一層オイルグリップ性および摩耗後のオイルグリップ性に優れたものとすることができる。
【0100】
特に、共役ジエン系重合体(B)のラテックスと、重合体(C)のラテックスとを、ラテックス状態で混合することにより、ラテックス組成物中において、共役ジエン系重合体(B)の粒子と、重合体(C)の粒子とを均一に微分散させることができる。そして、このようなラテックス組成物を用いて第2の重合体層を形成した際に、共役ジエン系重合体(B)のマトリックス中に、重合体(C)が微分散させた状態で、これらを共析出させることができる。このため、微分散した重合体(C)の作用により、得られる積層体を、より一層オイルグリップ性および摩耗後のオイルグリップ性に優れたものとすることができる。さらに、形成される第2の重合体層中において、共役ジエン系重合体(B)のマトリックスを、連続かつ均一なものとすることが容易であるため、得られる積層体を耐オイル透過性にも優れたものとすることができるものである。なお、本発明においては、共役ジエン系重合体(B)のラテックスと、重合体(C)のラテックスとを、ラテックス状態で混合することにより、ラテックス組成物とするものが好ましいが、本発明で用いる第2のラテックス組成物は、共役ジエン系重合体(B)の粒子と、重合体(C)の粒子とが水媒体中に分散したものであればよく、これらのラテックスを混合することにより得られるものに特に限定されるものではない。
【0101】
重合体(C)のラテックスを構成する重合体(C)の粒子の体積平均粒子径は、好ましくは0.05~500μm、より好ましくは0.05~60μm、さらに好ましくは0.05~50μm、よりさらに好ましくは0.05μm以上3μm未満、特に好ましくは0.05μm以上、0.5μm未満である。重合体(C)の粒子の体積平均粒子径を上記範囲とすることにより、得られる積層体中において、共役ジエン系重合体(B)中に、重合体(C)をより良好に微分散させることができ、これにより、耐摩耗性を高めることができる。
【0102】
第2の重合体層中における、共役ジエン系重合体(B)の含有量および重合体(C)の含有量は、特に限定されないが、第2の重合体層中に含まれる重合体成分100重量部(重合体成分として、共役ジエン系重合体(B)および重合体(C)のみを含有するものである場合には、共役ジエン系重合体(B)と重合体(C)との合計100重量部)中における、共役ジエン系重合体(B)の含有量は、20~99重量部であることが好ましく、30~95重量部であることがより好ましく、40~90重量部であることがさらに好ましい。また、第2の重合体層中に含まれる重合体成分100重量部に対する、重合体(C)の含有量は、1~80重量部であることが好ましく、5~70重量部であることがより好ましく、10~50重量部であることがさらに好ましい。さらに、第2の重合体層中における、共役ジエン系重合体(B)と、重合体(C)との含有比率は、「共役ジエン系重合体(B):重合体(C)」の重量比で、好ましくは99:1~20:80、より好ましくは95:5~30:70、さらに好ましくは90:10~50:50であり、特に好ましくは85:15~60:40である。共役ジエン系重合体(B)、重合体(C)の含有量を上記範囲とすることにより、得られる積層体のオイルグリップ性および摩耗後のオイルグリップ性をより高めることができる。
【0103】
本発明で用いる第2のラテックス組成物は、共役ジエン系重合体(B)および重合体(C)に加えて、硫黄系架橋剤をさらに含有することが好ましい。
【0104】
第2のラテックス組成物に含まれる硫黄系架橋剤としては、上記第1のラテックス組成物の場合と同様のものを使用することができ、その含有量も同様とすることができる。
【0105】
また、本発明で用いる第2のラテックス組成物は、硫黄系架橋剤に加えて、架橋促進剤(加硫促進剤)、水溶性ポリマー、酸化亜鉛をさらに含有することが好ましい。
【0106】
第2のラテックス組成物に含まれる架橋促進剤(加硫促進剤)、水溶性ポリマー、酸化亜鉛としては、上記第1のラテックス組成物の場合と同様のものを使用することができ、その含有量も同様とすることができる。
【0107】
本発明で用いる第2のラテックス組成物の固形分濃度は、好ましくは20~65重量%であり、より好ましくは30~60重量%、さらに好ましくは35~55重量%である。第2のラテックス組成物の固形分濃度を上記範囲にすることにより、第2のラテックス組成物の輸送効率を向上させることができ、かつ、第2のラテックス組成物の粘度が適度なものとなって第2のラテックス組成物の取扱性が向上する。
【0108】
第2のラテックス組成物の固形分濃度を上述した範囲とする方法としては、たとえば、共役ジエン系重合体(B)のラテックスや、重合体(C)のラテックスなどの各成分の固形分濃度を調整する方法や、後述する濃縮処理または希釈処理により調整する方法が挙げられる。これらの中でも、濃縮処理により調整する方法が、生産性の観点より好ましい。
【0109】
本発明で用いる第2のラテックス組成物のpHは、好ましくは5~13であり、より好ましくは7~10、さらに好ましくは7.5~9である。第2のラテックス組成物のpHを上記範囲にすることにより、機械的安定性が向上して第2のラテックス組成物の移送時における粗大凝集物の発生を抑制することができ、かつ、第2のラテックス組成物の粘度が適度なものとなって第2のラテックス組成物の取扱性が向上する。
【0110】
本発明で用いる第2のラテックス組成物の25℃における粘度は、好ましくは1,000~100,000mPa・sであり、より好ましくは1,500~50,000mPa・s、さらに好ましくは2,500~20,000mPa・sである。第2のラテックス組成物の25℃における粘度は、たとえば、B型粘度計を用いて、25℃、回転数6rpmの条件で測定することができる。第2のラテックス組成物の25℃における粘度は、たとえば、第2のラテックス組成物中における重合体成分の濃度を調整する方法や、第2のラテックス組成物に対し、増粘作用を有する化合物を添加する方法などにより調整できる。
【0111】
また、本発明で用いる第2のラテックス組成物には、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウム、酸化チタンなどの充填剤を添加してもよい。また、本発明で用いる第2のラテックス組成物には、必要に応じて、上記水溶性塩や充填剤以外の添加剤、たとえば、老化防止剤、酸化防止剤、防腐剤、抗菌剤、湿潤剤、分散剤、顔料、染料、補強剤、pH調整剤などの各種添加剤を所定量添加することもできる。
【0112】
本発明で用いる第2のラテックス組成物は、たとえば、上記した成分を混合し、さらに、必要に応じて濃縮処理または希釈処理を施すことにより調製することができる。各成分の混合順序は特に限定されないが、各成分の分散性をより高めるという観点より、共役ジエン系重合体(B)のラテックスと、重合体(C)のラテックスとを予め混合した後に、必要に応じて配合される各成分を添加し、混合する方法が好ましい。共役ジエン系重合体(B)のラテックスと、重合体(C)のラテックスとを混合する方法としては、特に限定されないが、分散性をより高めるという観点より、共役ジエン系重合体(B)のラテックスと、重合体(C)のラテックスと、をラテックス状態で混合する方法(ラテックスブレンド)が好ましい。
【0113】
本発明で用いる第2のラテックス組成物は、濃縮処理を経て得られるものであることが好ましい。濃縮処理方法としては、特に限定されないが、たとえば、減圧蒸留、常圧蒸留、遠心分離、膜濃縮等の方法が挙げられる。これらのなかでも、加熱を伴う濃縮方法が好ましく、加熱を伴う減圧蒸留がより好ましい。加熱を伴う濃縮方法を採用することにより、臭気の原因となる菌を減少させる、あるいは、臭気の原因となる菌の増殖を抑制することができ、第2のラテックス組成物を低臭気性に優れたものとすることができる。
【0114】
加熱を伴う濃縮方法において、加熱温度は50℃~100℃が好ましい。また、減圧蒸留において、圧力は20kPa~90kPaが好ましい。
【0115】
濃縮処理は、第2のラテックス組成物に配合する成分の一部を含む混合物に対して施してもよく、または、第2のラテックス組成物に配合する成分のすべてを含む混合物に対して施してもよい。第2のラテックス組成物の分散性および生産効率の観点から、共役ジエン系重合体(B)のラテックスと重合体(C)のラテックスとの混合物に対して濃縮処理を施すことが好ましい。
【0116】
すなわち、本発明で用いる第2のラテックス組成物の製造方法としては、共役ジエン系重合体(B)のラテックスと重合体(C)のラテックスとを予め混合し、次いで、得られた混合物について濃縮処理を施すことで固形分濃度を高めた後、水溶性ポリマーおよび必要に応じて配合される各成分を添加し、混合することで、固形分濃度を上記範囲とする方法が好ましい。
【0117】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体は、上述した基材、第1の重合体層、および第2の重合体層を有する積層体であり、通常は、上述した基材、第1のラテックス組成物、および第2のラテックス組成物を用いて、ディップ成形することにより得られる。
【0118】
本発明の積層体は、上述した共役ジエン系重合体(A)を含有する第1の重合体層と、上述した共役ジエン系重合体(B)および重合体(C)を含有する第2の重合体層と、を少なくとも有する。
【0119】
本発明の積層体の製造方法は、第1のディップ工程として、基材を、第1のラテックス組成物に浸漬させることにより、基材上に、第1のラテックス組成物からなるディップ層を形成させる工程を備える。この際には、予め基材を所望の形状の成形用型に被せた状態で、基材を第1のラテックス組成物に浸漬させることが好ましい。
【0120】
基材を被せる成形用型としては、特に限定されないが、材質は磁器製、ガラス製、金属製、プラスチック製など種々のものを用いることができる。成形用型の形状は、最終製品の形状に合わせて、所望の形状とすればよい。たとえば、本発明の積層体を保護手袋として使用する場合には、基材を被せる成形用型として、手首から指先までの形状を有する成形用型など、各種の手袋用の成形用型を用いることが好ましい。
【0121】
また、基材を第1のラテックス組成物に浸漬させる前には、予め基材を凝固剤溶液に浸漬させ、基材に凝固剤溶液を付着させることが好ましい。この際には、予め基材を所望の形状の成形用型に被せた状態で、基材を凝固剤溶液に浸漬させることが好ましい。所望の形状の成形用型としては、上述したものが挙げられる。また、凝固剤溶液を基材に付着させ、基材に凝固剤溶液を付着させた後には、乾燥を行うことで、凝固剤溶液に含まれている溶媒を除去することが好ましい。この際の乾燥温度は、特に限定されず、用いる溶媒に応じて選択すればよいが、好ましくは10~80℃、より好ましくは15~70℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは600~1秒間、より好ましくは300~5秒間である。
【0122】
次いで、凝固剤溶液を付着させた基材を、所望の形状の成形用型に被せた状態のまま、第1のラテックス組成物に浸漬させることで、第1のラテックス組成物を凝固させて、基材上に、第1のラテックス組成物からなるディップ層を付着させる。
【0123】
そして、基材を、第1のラテックス組成物に浸漬させた後には、乾燥を行うことが好ましい。この際における乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは10~80℃、より好ましくは15~80℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは120分間~5秒間、より好ましくは60分間~10秒間である。
【0124】
また、第1のラテックス組成物からなるディップ層が付着した基材を、乾燥後、温水に浸漬することにより、洗浄してもよい。洗浄に用いる温水の温度は、特に限定されないが、好ましくは10~80℃、より好ましくは15~80℃である。また、洗浄時間は、特に限定されないが、好ましくは1分間~1時間、より好ましくは5~30分間である。そして、第1のラテックス組成物からなるディップ層が付着した基材を温水洗浄した場合は、温水洗浄後、再度乾燥を行うことが好ましい。この際における乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは10~80℃、より好ましくは15~80℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは120~1分間、より好ましくは60~5分間である。
【0125】
積層体を製造する際には、このように、ディップ層が付着した基材を温水に浸漬させる処理等を行うことにより、ディップ層から水溶性不純物(乳化剤、水溶性高分子、凝固剤など)を除去しておくことが好ましい。ディップ層から水溶性不純物を除去する処理は、ディップ層中の重合体成分を架橋させた後に行ってもよいが、より効率的に水溶性不純物を除去できるという観点より、基材を第1のラテックス組成物に浸漬させた後、ディップ層中の重合体成分を架橋させる前に行うことが好ましい。
【0126】
なお、第1のラテックス組成物として、硫黄系架橋剤を含有するものを用いる場合には、第1のラテックス組成物として、予め熟成(前加硫ともいう。)させたものを用いてもよい。
【0127】
熟成させる際の温度条件は、特に限定されないが、好ましくは20~50℃である。また、熟成させる際の時間は、基材と、第1のラテックス組成物を含むディップ層との剥離を防止する観点、得られる積層体を保護手袋として用いた場合における耐摩耗性を向上させる観点から、好ましくは4時間以上120時間以下、より好ましくは24時間以上72時間以下である。
【0128】
次いで、第2のディップ工程として、第1のラテックス組成物を含有するディップ層を形成した基材を、第2のラテックス組成物に浸漬させることにより、第1のラテックス組成物を含有するディップ層を形成した基材上に、第2のラテックス組成物からなるディップ層を形成させる。
【0129】
上記した第1のディップ工程においては、第1のラテックス組成物を含有するディップ層は、通常、その表面近傍に、凝固剤が存在する状態で形成されることとなる。そのため、第2のディップ工程においては、第2のディップ工程を行う前に、凝固剤を付着させる工程を経ることなく、第1のラテックス組成物を含有するディップ層が形成された基材を、第2のラテックス組成物に浸漬させることにより、基材上に、第2のラテックス組成物からなるディップ層を形成させることができる。あるいは、第2のディップ工程の前に、必要に応じて、第1のラテックス組成物を含有するディップ層が形成された基材を、凝固剤溶液に浸漬させ、第1のラテックス組成物を含有するディップ層の表面に凝固剤溶液を付着させた後、第2のラテックス組成物に浸漬させることにより、基材上に、第2のラテックス組成物からなるディップ層を形成させてもよい。
【0130】
そして、第1のラテックス組成物を含有するディップ層を形成した基材を、第2のラテックス組成物に浸漬させた後には、乾燥を行うことが好ましい。この際における乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは10~80℃、より好ましくは15~80℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは120分間~5秒間、より好ましくは60分間~10秒間である。
【0131】
なお、第2のラテックス組成物として、硫黄系架橋剤を含有するものを用いる場合には、第2のラテックス組成物として、予め熟成(前加硫ともいう。)させたものを用いてもよい。
【0132】
第2のラテックス組成物を熟成させる際の温度条件は、特に限定されないが、好ましくは20~50℃である。また、熟成させる際の時間は、第1のラテックス組成物からなるディップ層と、第2のラテックス組成物からなるディップ層との剥離を防止する観点、得られる積層体を保護手袋として用いた場合における耐摩耗性を向上させる観点から、好ましくは4時間以上120時間以下、より好ましくは24時間以上72時間以下である。
【0133】
次いで、基材に付着させた第1のラテックス組成物および第2のラテックス組成物を加熱することにより、第1のラテックス組成物および第2のラテックス組成物に含まれる重合体成分を架橋させることが好ましい。
【0134】
架橋のための加熱温度は、好ましくは60~160℃、より好ましくは80~150℃である。加熱温度を上記範囲にすることにより、架橋反応に要する時間を短くして積層体の生産性を向上させることができるとともに、過剰な加熱による重合体成分の酸化劣化を抑制して、得られる積層体の物性を向上させることができる。架橋のための加熱時間は、加熱温度に応じて適宜選択すればよいが、通常、5~120分である。
【0135】
なお、このようにして得られる積層体に対し、必要に応じて、基材上に形成される重合体層を20~80℃の温水に0.5~60分程度浸漬することにより、重合体層から水溶性不純物(乳化剤、水溶性高分子、凝固剤など)を除去しておくことが好ましい。このような重合体層を温水に浸漬させる処理は、重合体層中の重合体成分を架橋させた後に行なってもよいが、より効率的に水溶性不純物を除去できる点から、重合体層中の重合体成分を架橋させる前に行なうことが好ましい。
【0136】
温水に浸漬させた後には、さらに乾燥を行ってもよい。この際における乾燥温度、乾燥時間は、特に限定されないが、上述した、ラテックス組成物に浸漬させた後の乾燥工程における乾燥温度、乾燥時間と同様とすることができる。
【0137】
そして、以上のように基材を成形用型に被せた状態で基材上に、第1の重合体層および第2の重合体層を形成した後、成形用型から脱着(あるいは脱型)することによって、積層体を得ることができる。脱着方法としては、手で成形用型から剥したり、水圧や圧縮空気の圧力により剥したりする方法を採用することができる。
【0138】
積層体を成形用型から脱着する前、または脱着した後には、さらに60~120℃の温度で、10~120分の加熱処理(後架橋工程)を行ってもよい。また、積層体を成形用型から脱着した後には、積層体の内側および/または外側の表面に、塩素化処理やコーティング処理などによる表面処理層を形成してもよい。
【0139】
本発明の積層体を構成する第1の重合体層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.01~2.0mmであり、より好ましくは0.02~1.0mmであり、さらに好ましくは0.05~0.8mmである。第1の重合体層の厚みをこの範囲とすることにより、耐オイル透過性をより高めることができる。
【0140】
また、本発明の積層体を構成する第2の重合体層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.01~2.0mmであり、より好ましくは0.02~1.0mmであり、さらに好ましくは0.05~0.8mmである。第2の重合体層の厚みをこの範囲とすることにより、オイルグリップ性、および摩耗後のオイルグリップ性をより高めることができる。
【0141】
さらに、本発明の積層体において、第1の重合体層の厚みおよび第2の重合体層の厚みを合計した、重合体層全体の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.02~3.0mmであり、より好ましくは0.05~2.0mmであり、さらに好ましくは0.1~1.5mmである。また、第1の重合体層の厚みと、第2の重合体層の厚みとの比は、「第1の重合体層の厚み:第2の重合体層の厚み」で、好ましくは1:200~1:0.01、より好ましくは1:80~1:0.02、さらに好ましくは1:5~1:0.05である。
【0142】
このようにして得られる、本発明の積層体は、第2の重合体層として、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(B)およびガラス転移温度が10℃超の重合体(C)を含む層を有するものであるため、得られる積層体のオイルグリップ性および摩耗後のオイルグリップ性に優れたものである。また、本発明の積層体は、第1の重合体層として、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(A)を含む層を有するものであるため、得られる積層体の耐オイル透過性にも優れたものである。
【0143】
本発明の積層体は、上述のように、オイルグリップ性、摩耗後のオイルグリップ性、および耐オイル透過性に優れたものであり、たとえば、手袋用途、特に保護手袋用途に好適に用いることができるものである。
【実施例
【0144】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断りのない限り重量基準である。
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
【0145】
<ディップ成形用ラテックス組成物の固形分濃度>
アルミ皿(重量:X1)に試料2gを精秤し(重量:X2)、これを105℃の熱風乾燥器内で2時間乾燥させた。次いで、デシケーター内で冷却した後、アルミ皿ごと重量を測定し(重量:X3)、下記の計算式にしたがって、固形分濃度を算出した。
固形分濃度(重量%)=(X3-X1)×100/X2
【0146】
<体積平均粒子径>
各重合体のラテックスを構成する重合体の粒子の体積平均粒子径は、光散乱回折粒子測定装置(コールター社製、商品名「LS-230」)を用いて測定した。
【0147】
<保護手袋(積層体)のオイルグリップ性>
重さ1.0kg、2.0kg、3.0kg、4.0kg、5.0kg、7.0kg、および10kgの円錐状の金属モールドを用意し、これら金属モールドに試験油IRM903を付着させた。そして、作業者に、保護手袋(積層体)を装着してもらい、試験油IRM903を付着させた金属モールドを、重さの軽い方から順番に持ち上げてもらい、持ち上げることができた最大重量を求めた。なお、測定は、同一の作業者により行った。持ち上げることができた最大重量が大きいほど、オイルグリップ性に優れると判断できる。
【0148】
<摩耗後の保護手袋(積層体)のオイルグリップ性>
作業者に、保護手袋(積層体)を装着してもらい、保護手袋の指先を、洋紙研磨紙(ベルスター研磨材工業社製、粒度100)により、3分間研磨することにより摩耗させ、摩耗後の保護手袋(積層体)を得た。そして、得られた摩耗後の保護手袋(積層体)について、上記と同様に、オイルグリップ性について評価した。持ち上げることができた最大重量が大きいほど、摩耗後の保護手袋(積層体)のオイルグリップ性に優れると判断できる。
【0149】
<保護手袋(積層体)の耐オイル透過性>
JIS Z 0208に記載のカップ法を参考にして、以下の手順により保護手袋(積層体)の溶剤ガス透過率を測定した。
(1)保護手袋(積層体)を適当な円形の大きさに切り取り、サンプルとした。
(2)アルミカップとサンプルの重量(W)を測定した。
(3)n-ヘキサン50mLをアルミカップに入れた。
(4)n-ヘキサンが入ったアルミカップの上に、サンプル(積層体)の第2の重合体層が接液するように置いた。
(5)固定具を用いてアルミカップとサンプルとをしっかりと密着させた。
(6)アルミカップ全体の重量(W)を測定した。
(7)n-ヘキサンがサンプルに触れるようにするため、アルミカップをひっくり返し、室温でドラフト内に放置した。
(8)72時間放置後、アルミカップ全体の重量(W)を測定した。
(9)n-ヘキサンがサンプルを透過して蒸発した割合(溶剤ガス透過率)を以下の式で計算した。
溶剤ガス透過率(%)=100-((W-W)÷(W-W)×100)
溶剤ガス透過率の値が小さいほど、耐オイル透過性に優れると判断できる。
【0150】
<実施例1>
(コロイド硫黄の水分散液の調製)
コロイド硫黄(細井化学工業社製)1.0部、分散剤(花王社製、商品名「デモールN」)0.5部、5重量%水酸化カリウム水溶液(和光純薬工業社製)0.0015部、および水1.0部を、ボールミル中で48時間粉砕攪拌することで、固形分濃度50重量%のコロイド硫黄の水分散液を調製した。
【0151】
(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛の水分散液、酸化亜鉛の水分散液、酸化チタンの水分散液の調製)
コロイド硫黄に代えて、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製)、酸化亜鉛(正同化学工業社製)、および酸化チタンをそれぞれ使用した以外は、上記と同様にして、固形分濃度50重量%のジブチルジチオカルバミン酸亜鉛の水分散液、固形分濃度50重量%の酸化亜鉛の水分散液、および固形分濃度50重量%の酸化チタンの水分散液をそれぞれ調製した。
【0152】
(ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスの調製)
重合反応器に、共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン65部、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としてアクリロニトリル30部、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としてメタクリル酸5部、t-ドデシルメルカプタン0.4部、イオン交換水132部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.5部、過硫酸カリウム0.3部およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩0.05部を仕込み、重合温度を30~40℃に保持して重合を行い、重合転化率が94%に達するまで反応させることで、共重合体のラテックスを得た。
そして、得られた共重合体のラテックスから未反応単量体を除去した後、共重合体のラテックスのpHおよび固形分濃度を調整することで、固形分濃度40重量%、pH=8のニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスを得た。得られたニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックス中に含まれる、ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)について、ガラス転移温度(Tg)を測定したところ、-27℃であった。また、ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスを構成するニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)の粒子の体積平均粒子径は、110nmであり、ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)の単量体組成は、仕込み割合とほぼ同じ割合であった。
【0153】
(ニトリル基含有共役ジエン系重合体(B-1)のラテックスの調製)
ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスと同様にして、ニトリル基含有共役ジエン系重合体(B-1)のラテックスを得た。すなわち、ニトリル基含有共役ジエン系重合体(B-1)のラテックスとしては、上記したニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスと実質的に同じものを得た。
【0154】
(第1のディップ成形用ラテックス組成物の調製)
上記にて得られたニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)の重合体成分100部に対して、それぞれ固形分換算で、コロイド硫黄1.0部、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛1.0部、酸化亜鉛1.5部、および酸化チタン3.0部となるように、上記にて調製した各配合剤の水分散液を添加した。なお、各配合剤の水分散液を添加する際には、ラテックス組成物を撹拌した状態で、所定の量をゆっくり添加した。そして、各配合剤が均一に混合された後に、水溶性ポリマーとして、カルボキシメチルセルロース(ダイセル社製、商品名「Daicel2200」、重量平均分子量:550,000、酸量:3.7mmol/g)0.3部を添加し、固形分濃度を調整することで、固形分濃度40重量%、25℃における粘度3,000mPa・sである第1のディップ成形用ラテックス組成物を得た。
【0155】
(第2のディップ成形用ラテックス組成物の調製)
上記にて得られたニトリル基含有共役ジエン系重合体(B-1)のラテックスと、塩化ビニル樹脂(C-1)のラテックスとを、「ニトリル基含有共役ジエン系重合体(B-1):塩化ビニル樹脂(C-1)」の重量比で70:30となるように、混合し、5重量%の水酸化カリウムを添加することで、固形分濃度45重量%、pH=9.0のラテックス組成物を調製した。なお、塩化ビニル樹脂(C-1)のラテックスとしては、塩化ビニル樹脂(C-1)のラテックス(塩化ビニル樹脂(C-1)は、商品名「ビニブラン985」、日信化学工業株式会社製、塩化ビニル樹脂(C-1)のガラス転移温度(Tg)が80℃、塩化ビニル樹脂(C-1)の粒子の体積平均粒子径が0.07μmであり、塩化ビニル樹脂(C-1)は可塑剤を実質的に含まないものである。)を用いた。
【0156】
そして、上記にて得られたラテックス組成物の重合体成分100部に対して、それぞれ固形分換算で、コロイド硫黄1.0部、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛1.0部、酸化亜鉛1.5部、および酸化チタン3.0部となるように、上記にて調製した各配合剤の水分散液を添加した。なお、各配合剤の水分散液を添加する際には、ラテックス組成物を撹拌した状態で、所定の量をゆっくり添加した。そして、各配合剤が均一に混合された後に、水溶性ポリマーとして、カルボキシメチルセルロース(ダイセル社製、商品名「Daicel2200」、重量平均分子量:550,000、酸量:3.7mmol/g)1.0部を添加し、固形分濃度を調整することで、固形分濃度40重量%、25℃における粘度3,000mPa・sである第2のディップ成形用ラテックス組成物を得た。
【0157】
(凝固剤溶液の調製)
凝固剤としての硝酸カルシウムを、3.0重量%の割合でメタノールに溶解させることで、凝固剤溶液を調製した。
【0158】
(第1のディップ工程)
まず、上記にて得られた第1のディップ成形用ラテックス組成物を、温度30℃、48時間の条件にて、熟成(前加硫ともいう。)させた。次いで、手袋形状の繊維基材(材質:ナイロン、線密度:300デニール、ゲージ数:13ゲージ、厚み:0.8mm)を被せたセラミックス製手袋型を、上記にて調製した凝固剤溶液に5秒間浸漬し、凝固剤溶液から引き上げた後、温度30℃、1分間の条件で乾燥させた。その後、セラミックス製手袋型を、上記の第1のディップ成形用ラテックス組成物に5秒間浸漬し、第1のディップ成形用ラテックス組成物から引き上げた後、温度25℃、20分間の条件で乾燥させることで、繊維基材上に、第1のディップ層を形成した。
【0159】
そして、第1のディップ層を形成したセラミックス製手袋型を、35℃の温水に10分間浸漬して、洗浄した後、温度70℃、20分間の条件で乾燥させた。
【0160】
(第2のディップ工程)
次いで、第1のディップ層を形成したセラミックス製手袋型を、上記の第2のディップ成形用ラテックス組成物に5秒間浸漬し、第2のディップ成形用ラテックス組成物から引き上げた後、温度30度、30分間の条件で乾燥させることで、第1のディップ層上に、第2のディップ層を形成した。
【0161】
その後、第1のディップ層および第2のディップ層を形成したセラミックス製手袋型を、60℃の温水に90秒間浸漬して、ディップ層から水溶性の不純物を溶出させた後、温度30℃、10分間の条件で乾燥させ、さらに温度125℃、30分間の条件で熱処理を行う事で、第1のディップ層および第2のディップ層中の重合体に架橋処理を施すことで、それぞれ第1の重合体層、第2の重合体層とした。次いで、第1の重合体層および第2の重合体層が形成された繊維基材をセラミックス製手袋型から剥がすことで、第1の重合体層の厚みが0.15mm、第2の重合体層の厚みが0.08mm、第1の重合体層と第2の重合体層との厚みの比(第2の重合体層の厚み/第1の重合体層の厚み)が0.53、第1の重合体層および第2の重合体層の合計の厚みが0.23mmの保護手袋(積層体)を得た。
そして、得られた保護手袋(積層体)を用いて、オイルグリップ性、摩耗後のオイルグリップ性、および、耐オイル透過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0162】
<実施例2>
塩化ビニル樹脂(C-1)のラテックスに代えて、塩化ビニル樹脂(C-2)のラテックス(塩化ビニル樹脂(C-2)のガラス転移温度(Tg)が80℃、塩化ビニル樹脂(C-2)のK値が75、塩化ビニル樹脂(C-2)の粒子の体積平均粒子径が2μmであり、塩化ビニル樹脂(C-2)は可塑剤を実質的に含まないものである。)を使用した以外は、実施例1と同様にして、第2のディップ層を形成し、第1の重合体層の厚みが0.16mm、第2の重合体層の厚みが0.12mm、第1の重合体層と第2の重合体層との厚みの比(第2の重合体層の厚み/第1の重合体層の厚み)が0.75、第1の重合体層および第2の重合体層の合計の厚みが0.28mmの保護手袋(積層体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0163】
<実施例3>
塩化ビニル樹脂(C-1)のラテックスに代えて、塩化ビニル樹脂(C-3)のラテックス(塩化ビニル樹脂(C-3)のガラス転移温度(Tg)が80℃、塩化ビニル樹脂(C-3)のK値が59、塩化ビニル樹脂(C-3)の粒子の体積平均粒子径が20μmであり、塩化ビニル樹脂(C-3)は可塑剤を実質的に含まないものである。)を使用した以外は、実施例1と同様にして、第2のディップ層を形成し、第1の重合体層の厚みが0.17mm、第2の重合体層の厚みが0.13mm、第1の重合体層と第2の重合体層との厚みの比(第2の重合体層の厚み/第1の重合体層の厚み)が0.76、第1の重合体層および第2の重合体層の合計の厚みが0.30mmの保護手袋(積層体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0164】
<実施例4>
塩化ビニル樹脂(C-1)のラテックスに代えて、ポリスチレン樹脂(C-4)のラテックス(ポリスチレン樹脂(C-4)のガラス転移温度(Tg)が100℃、ポリスチレン樹脂(C-4)の粒子の体積平均粒子径が0.3μmであり、ポリスチレン樹脂(C-4)は可塑剤を実質的に含まないものである。)を使用した以外は、実施例1と同様にして、第2のディップ層を形成し、第1の重合体層の厚みが0.15mm、第2の重合体層の厚みが0.15mm、第1の重合体層と第2の重合体層との厚みの比(第2の重合体層の厚み/第1の重合体層の厚み)が1.00、第1の重合体層および第2の重合体層の合計の厚みが0.30mmの保護手袋(積層体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0165】
<実施例5>
塩化ビニル樹脂(C-1)のラテックスに代えて、アクリルビーズ(C-5)のラテックス(アクリルビーズ(C-5)のガラス転移温度(Tg)が90℃、アクリルビーズ(C-5)の粒子の体積平均粒子径が6μmであり、アクリルビーズ(C-5)は可塑剤を実質的に含まないものである。)を使用した以外は、実施例1と同様にして、第2のディップ層を形成し、第1の重合体層の厚みが0.16mm、第2の重合体層の厚みが0.14mm、第1の重合体層と第2の重合体層との厚みの比(第2の重合体層の厚み/第1の重合体層の厚み)が0.88、第1の重合体層および第2の重合体層の合計の厚みが0.30mmの保護手袋(積層体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0166】
<比較例1>
第2のディップ成形用ラテックス組成物を調製する際に、塩化ビニル樹脂(C-1)のラテックスを配合せず、ニトリル基含有共役ジエン系重合体(B-1)のラテックスの使用量を、重合体成分換算で100部に変更し、かつ、水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースの使用量を0.3部に変更した以外は、実施例1と同様にして、第2のディップ成形用ラテックス組成物を調製し、これを用いて第2のディップ層を形成することで、第1の重合体層の厚みが0.15mm、第2の重合体層の厚みが0.12mm、第1の重合体層と第2の重合体層との厚みの比(第2の重合体層の厚み/第1の重合体層の厚み)が0.80、第1の重合体層および第2の重合体層の合計の厚みが0.27mmの保護手袋(積層体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0167】
<比較例2>
(塩化ビニル樹脂ラテックスの調製)
塩化ビニル樹脂(C-2)のラテックスに、配合剤や水溶性ポリマーを添加せず、固形分濃度を調整することで、固形分濃度40重量%の塩化ビニル樹脂ラテックスを得た。
【0168】
(第1のディップ工程)
まず、上記にて得られた第1のディップ成形用ラテックス組成物を、温度30℃、48時間の条件にて、熟成(前加硫ともいう。)させた。次いで、手袋形状の繊維基材(材質:ナイロン、線密度:300デニール、ゲージ数:13ゲージ、厚み:0.8mm)を被せたセラミックス製手袋型を、上記にて調製した凝固剤溶液に5秒間浸漬し、凝固剤溶液から引き上げた後、温度30℃、1分間の条件で乾燥させた。その後、セラミックス製手袋型を、上記の第1のディップ成形用ラテックス組成物に5秒間浸漬し、第1のディップ成形用ラテックス組成物から引き上げた後、温度25℃、20分間の条件で乾燥させることで、繊維基材上に、第1のディップ層を形成した。
【0169】
(第2のディップ工程)
次いで、第1のディップ層を形成したセラミックス製手袋型を、上記にて調製した塩化ビニル樹脂ラテックスに5秒間浸漬し、塩化ビニル樹脂ラテックスから引き上げた後、温度30度、30分間の条件で乾燥させることで、第1のディップ層上に塩化ビニル樹脂ラテックスからなる、第2のディップ層を形成した。そして、第1のディップ層および第2のディップ層を形成したセラミックス製手袋型を、60℃の温水に90秒間浸漬して、ディップ層から水溶性の不純物を溶出させた後、温度30℃、10分間の条件で乾燥させ、さらに温度125℃、30分間の条件で熱処理を行う事で、架橋処理を施すことで、それぞれ第1の重合体層、第2の重合体層とした。次いで、第1の重合体層および第2の重合体層が形成された繊維基材をセラミックス製手袋型から剥がすことで、第1の重合体層の厚みが0.16mm、第2の重合体層の厚みが0.06mm、第1の重合体層と第2の重合体層との厚みの比(第2の重合体層の厚み/第1の重合体層の厚み)が0.38、第1の重合体層および第2の重合体層の合計の厚みが0.22mmの保護手袋(積層体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0170】
<比較例3>
(ポリスチレン樹脂ラテックスの調製)
ポリスチレン樹脂(C-4)のラテックスに、配合剤や水溶性ポリマーを添加せず、固形分濃度を調整することで、固形分濃度40重量%のポリスチレン樹脂ラテックスを得た。
【0171】
そして、塩化ビニル樹脂(A-3)のラテックスに代えて、ポリスチレン樹脂(C-4)のラテックスを用いた以外は、比較例2と同様にして、第1の重合体層の厚みが0.15mm、第2の重合体層の厚みが0.05mm、第1の重合体層と第2の重合体層との厚みの比(第2の重合体層の厚み/第1の重合体層の厚み)が0.33、第1の重合体層および第2の重合体層の合計の厚みが0.20mmの保護手袋(積層体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0172】
<比較例4>
第1のディップ工程を行わなかったこと、および、第2のディップ工程において、手袋形状の繊維基材(材質:ナイロン、線密度:300デニール、ゲージ数:13ゲージ、厚み:0.8mm)を被せたセラミックス製手袋型に、直接、第2のディップ成形用ラテックス組成物のディップを行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚み0.18mmの重合体層を有する保護手袋(積層体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0173】
【表1】
【0174】
表1に示すように、基材と、前記基材上に積層された第1の重合体層と、前記第1の重合体層上に積層された第2の重合体層と、を有する積層体であって、前記第1の重合体層が、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(A)を含み、前記第2の重合体層が、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(B)およびガラス転移温度が10℃超の重合体(C)を含む積層体によれば、オイルグリップ性、摩耗後のオイルグリップ性、および耐オイル透過性に優れたものとすることができる結果となった(実施例1~5)。
一方、第2の重合体層が、ガラス転移温度が10℃超の重合体(C)を含まない場合には、得られる積層体は、オイルグリップ性および摩耗後のオイルグリップ性に劣るものであった(比較例1)。
また、第1の重合体層上に、ガラス転移温度が10℃以下の共役ジエン系重合体(B)およびガラス転移温度が10℃超の重合体(C)を含む第2の重合体層を有さず、ガラス転移温度が10℃以下の重合体からなる層と、ガラス転移温度が10℃超の重合体からなる層とを別々に有する場合には、得られる積層体は、摩耗後のオイルグリップ性に劣るものであった(比較例2,3)。
さらに、重合体層を1層のみ有する場合には、得られる積層体は、耐オイル透過性に劣るものであった(比較例4)。
図1