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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】メタノールの分離方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/76 20060101AFI20240402BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C07C29/76
C07C31/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020031115
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2020143050
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019036227
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】豊田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】二宮 航
(72)【発明者】
【氏名】日野 智道
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/119286(WO,A1)
【文献】特開2006-306762(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102266729(CN,A)
【文献】特開2017-127857(JP,A)
【文献】特開2012-066242(JP,A)
【文献】国際公開第2012/018007(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101857522(CN,A)
【文献】特開2011-051975(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102276416(CN,A)
【文献】窪田 好浩 他,“ゼオライト開発の現状”,真空,2006年,第49巻, 第4号,pp. 205-212
【文献】田口 明,“ゼオライトによるトリチウムの分離”,富山大学水素同位体科学研究センター研究報告,2010年,第29-30巻,pp. 5-16
【文献】BAERLOCHER, C. et al.,Atlas of Zeolite Framework Types Sixth Revised Edition,2007年,pp. 72-73, 96-97, 108-109, 212-213
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/00
C07C 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルと、を含む混合物から、ゼオライト膜を用いて、メタノールを分離する方法であって、
前記ゼオライト膜は、平均細孔径が0.30nm以上0.50nm以下であり、かつ、Si/Alモル比が7.5以上であるゼオライトを含
前記ゼオライト膜を構成するゼオライトの総質量に対する前記ゼオライトの割合が50質量%以上であることを特徴とするメタノールの分離方法。
【請求項2】
前記ゼオライト膜は、Si/Alモル比が7.5以上12.5以下である、請求項1に記載のメタノールの分離方法。
【請求項3】
前記ゼオライト膜が含む前記ゼオライトの環構造が、酸素8員環構造である、請求項1又は2に記載のメタノールの分離方法。
【請求項4】
前記ゼオライト膜を構成するゼオライトの総質量に対する前記ゼオライトの割合が70質量%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のメタノールの分離方法。
【請求項5】
前記炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルが、(メタ)アクリル酸メチルである、請求項1~のいずれか1項に記載のメタノールの分離方法。
【請求項6】
前記混合物の温度が30℃以上の条件下で、前記ゼオライト膜によるメタノールの分離を行う、請求項1~のいずれか1項に記載のメタノールの分離方法。
【請求項7】
前記混合物中の、前記メタノールと、前記炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとの合計含有量に対する、前記メタノールの含有量が10質量%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のメタノールの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールと炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物から、ゼオライト膜を用いて、メタノールを分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるエステルは様々な用途に使用されている。例えば、プロピオン酸エステルのうち、プロピオン酸メチルはメタクリル酸メチルの原料として、プロピオン酸エチル及びプロピオン酸ベンジルは合成香料として使用されている。また、(メタ)アクリル酸エステルはポリマーを製造するためのモノマーとして使用され、得られたポリマーは成形材料、塗料、接着剤などとして使用されている。また、酪酸エチル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソペンチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、カプロン酸エチル、カプロン酸アリル、カプロン酸イソアミル、カプリル酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸ベンジル、フェニル酢酸エチル、桂皮酸メチル、桂皮酸エチル、サリチル酸メチル、サリチル酸ベンジル等は、合成香料として使用されている。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸のいずれか一方又は両方を意味するものであり、従って、上記(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのいずれか一方又は両方を意味する。
【0003】
通常、カルボン酸のメチルエステルは、対応するカルボン酸を、酸触媒存在下、メタノールと反応させることで製造されている。一方、炭素数2以上のアルコールのエステルは、カルボン酸のメチルエステルとのエステル交換反応によって製造されている。なお、以後、炭素数2以上のアルコールを高級アルコール、炭素数2以上のアルコールのエステルを高級エステルと称することがある。
【0004】
カルボン酸とメタノールによるエステル化反応においては、(カルボン酸の)メチルエステル、(残存する)メタノールおよび水の混合物が得られることが知られている。また、メチルエステルと高級アルコールとのエステル交換反応においては、メチルエステル、高級エステルおよびメタノールの混合物が得られることが知られている。
【0005】
酸触媒存在下のエステル化反応は平衡反応であるが、通常、メタノールはカルボン酸に対して過剰モル使用されて、カルボン酸はほとんど消費され、未反応カルボン酸は限りなく少なくなる。したがって、反応後の反応液は、過剰のメタノールと、反応生成物であるメチルエステル、反応副生成物である水の混合物となる。
【0006】
一方、エステル交換反応も同様に平衡反応であり、通常、メチルエステルは高級アルコールに対して過剰モル使用されるので、高級アルコールはエステル交換反応によりほとんど消費される。したがって、反応後の反応液は、反応副生成物であるメタノール、未反応のメチルエステルおよび反応生成物である高級エステルの混合物となる。このうち、反応生成物である高級エステルは、メタノール及びメチルエステルとの沸点差が大きいので、分離が比較的容易であり、この高級エステルを除いたメタノールとメチルエステルの混合物を得ることができる。
【0007】
従って、メタノールとメチルエステルの混合物を、それぞれの成分に分離して回収することができれば、酸触媒存在下のエステル化反応、あるいはエステル交換反応の原料として再利用することができる。この場合、回収された原料に相当する成分(例えば、メタノール)に含まれる、反応生成物に相当する成分(例えば、メチルエステル)の濃度は可能な限り低いことが望ましい。
【0008】
メタノールとメチルエステルは通常蒸留により分離されているが、蒸留は熱エネルギーを非常に多く消費するプロセスである。さらに、メチルエステルのうち、特にプロピオン酸メチル又は(メタ)アクリル酸メチルと、メタノールとの混合物を、通常の蒸留によりそれぞれの成分に分離しようとすると、共沸混合物を形成するため、共沸組成以上に分離することはできない。具体的には、大気圧でのメタノールの沸点が64.7℃で、プロピオン酸メチルの沸点が79.8℃であるのに対し、メタノールとプロピオン酸メチルからなる共沸混合物の共沸組成は大気圧で沸点62.45(℃)、メタノール/プロピオン酸メチル=47.5/52.5(質量%)である。また、大気圧でのアクリル酸メチルの沸点が80℃であるのに対し、メタノールとアクリル酸メチルからなる共沸混合物の共沸組成は大気圧で沸点62.5(℃)で、メタノール/アクリル酸メチル=54/46(質量%)である。さらに、大気圧でのメタクリル酸メチルの沸点が99.5℃であるのに対し、メタノールとメタクリル酸メチルからなる共沸混合物の共沸組成は大気圧で沸点64.2(℃)で、メタノール/メタクリル酸メチル=82/18(質量%)である(非特許文献1参照)。
【0009】
そこで、メタノールと(メタ)アクリル酸メチルとの分離については、メタノールと共沸混合物を形成する有機溶剤を別途添加して蒸留を行い、それぞれの成分に分離する方法がこれまでに提案されている(特許文献1~3参照)。
【0010】
この方法を用いれば、確かに通常の蒸留よりは効率良くメタノールと(メタ)アクリル酸メチルを分離することができる。しかし、それでも各成分を完全に分離することは困難であり、また、添加する有機溶剤も加熱する必要があるため、通常の蒸留より熱エネルギーをさらに多く消費することとなる。
【0011】
蒸留以外の方法では水を加えてメタノールを抽出する方法等もあるが、プロピオン酸メチルや(メタ)アクリル酸メチルもある程度水に溶解性を示すため、これらの成分を完全に分離することは困難を伴う。また、混合物において、特にメタノールの濃度が高い場合には、水でメタノールを完全に抽出することが非常に困難となり、それぞれの成分に分離しようとするとプロセスが複雑化するため好ましくない。
【0012】
一方、近年、混合物、特に共沸混合物の分離に膜を用いる分離方法が提案されている。膜を用いる分離は、蒸留のみによる分離と比較して、熱エネルギーの消費量の点で優れている。分離に使用する膜としては、有機系のポリビニルアルコール膜、ポリイミド膜や、無機系のゼオライト膜がある。有機系の膜は、無機系の膜と比較して生産性の点で優れ、無機系の膜は、分離性、耐熱性、耐薬品性の点で優れている。
【0013】
共沸混合物の分離に膜を用いる分離方法としては、例えば、耐薬品性を有する特殊なポリイミド中空糸膜を用いて、メタノールとメタクリル酸メチルとの混合物の蒸気を分離する方法が提案されている(特許文献4参照)。
【0014】
この方法によれば、共沸組成より高濃度のメタノールを得ることができる。しかし、膜に透過される前の混合物の蒸気の組成が不明であり、また、膜透過後のメタノール濃度は最高で95.6質量%であり、数質量%のメタクリル酸メチルを含有する。さらに、通常、有機系の膜は、耐熱性や耐薬品性に課題があるとされている。この方法では、特殊な処理を施すことで耐薬品性が向上したとされているが、実施例では8時間の透過における分離性能のみ言及されており、繰り返し使用により分離性能が維持できるかは不明である。
【0015】
一方、無機系の膜では、FAU型の結晶構造を持つX型ゼオライト膜、Y型ゼオライト膜を用いて、共沸混合物である水とエタノール、エタノールとシクロヘキサン、エタノールとベンゼン、メタノールとベンゼン、メタノールとメチル-t-ブチルエーテルを分離する方法が提案されている(特許文献5、6参照)。
【0016】
この方法によれば、例示された共沸混合物中から水、メタノール、あるいはエタノールを比較的効率よく高濃度で分離することができる。しかし、共沸混合物として例示されているものは、水/アルコール系溶剤、アルコール系溶剤/炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤/エーテル系溶剤の混合物であり、メタノールと炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルからなる混合物は記載されていない。さらに、60℃以下の比較的低い温度でアルコール系溶剤が透過する分離結果として例示されているものには、ゼオライト膜を透過する成分が100%に近い高濃度で分離されている場合には透過流速(全透過量)が小さく、透過流速が大きい場合にはゼオライト膜を透過する成分がそれほど高濃度で分離されず、透過した成分が100%に近い高濃度で分離されて、かつ透過流速が大きい場合は記載されていない。
【0017】
また、Y型ゼオライト膜やZSM-5型ゼオライト膜を用いて、共沸混合物であるメタノールと酢酸メチルとを分離する方法が提案されている(特許文献7、8参照)。
【0018】
この方法によれば、多段蒸留塔より少ない熱エネルギーで、共沸組成より高濃度の酢酸メチルを得ることができる。しかし、共沸混合物として例示されているものには、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルからなる混合物は記載されていない。また、特許文献7では、分離の際、混合物の蒸気を高温高圧で供給する必要がある。
一方、特許文献9にはメタノールと炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物から、FAU型の結晶構造を有するゼオライト膜を用いて、メタノールを分離する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】米国特許第2916512号明細書
【文献】特開昭57-9740号公報
【文献】特公平1-19374号公報
【文献】特開2007-63171号公報
【文献】特開平10-212117号公報
【文献】特開平8-257301号公報
【文献】特開2006-306762号公報
【文献】特開2006-247599号公報
【文献】特開2011-51975号公報
【非特許文献】
【0020】
【文献】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry A16巻 「Methanol」、VCH、1990年、pp465-486
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
メタノールと上記エステル化合物とを含む混合物からメタノールを分離する技術の実用化のためには、該混合物から効率良くメタノールを分離できることが求められる。しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献9に記載されるゼオライト膜を用いてメタノールを分離した場合、メタノールの分離透過性能が十分ではない場合があることが判明した。
そこで、本発明は、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物から、従来よりも、メタノールを効率良く高濃度で分離できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、特定のゼオライト膜を用いることにより、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸から誘導されるメチルエステルと、を含む混合物から、メタノールを効率良く高濃度で分離することができることを見出した。
【0023】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]に係る発明である。
[1]メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルと、を含む混合物から、ゼオライト膜を用いて、メタノールを分離する方法であって、
前記ゼオライト膜は、平均細孔径が0.30nm以上0.73nm以下であり、かつ、Si/Alモル比が2.0以上であるゼオライトを含む、ことを特徴とするメタノールの分離方法。
【0024】
[2]前記ゼオライト膜が含む前記ゼオライトの環構造が、酸素8員環構造、酸素10員環構造、又は酸素12員環構造である、[1]に記載のメタノールの分離方法。
【0025】
[3]前記炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルが、(メタ)アクリル酸メチルである、[1]又は[2]に記載のメタノールの分離方法。
【0026】
[4]前記混合物の温度が30℃以上の条件下で、前記ゼオライト膜によるメタノールの分離を行う、[1]~[3]のいずれかに記載のメタノールの分離方法。
【0027】
[5]前記混合物中の、前記メタノールと、前記炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとの合計含有量に対する、前記メタノールの含有量が10質量%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のメタノールの分離方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルと、を含む混合物から、従来よりも、メタノールを効率良く高濃度で分離できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例1、2及び比較例1~5におけるメタノールの分離性能試験に用いた装置の概略図である。
図2】実施例3~5におけるメタノールの分離性能試験に用いた装置の概略図である。
図3】実施例6~11におけるメタノールの分離性能試験に用いた装置の概略図である。
図4】実施例12におけるメタノールの分離性能試験に用いた装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<メタノールの分離方法>
以下に、本発明のメタノールの分離方法の一実施形態について詳細に説明する。なお、以下に記載する実施形態は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定はされない。
【0031】
本発明のメタノールの分離方法は、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステル(以降、第一のメチルエステルと称することがある)と、を含む混合物から、特定のゼオライト膜を用いて分離操作を行うことにより、当該ゼオライト膜にメタノールを透過させて、該混合物からメタノールを分離するものである。本発明では、当該ゼオライト膜は、平均細孔径が0.30nm以上0.73nm以下(3.0Å以上7.3Å以下)であり、かつ、Si/Alモル比が2.0以上のゼオライト(以降、第一のゼオライトと称することがある)を少なくとも含む。以下、ゼオライト膜について詳細に説明する。
【0032】
(ゼオライト膜)
ゼオライトとは、四面体構造を有するTO4単位(Tは中心原子であり、Si、Al等を表す。)が酸素原子を共有して三次元的に連結し、開かれた規則的なミクロ細孔を形成している結晶性物質を意味する。具体的には、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association;以下、これを「IZA」ということがある。)の構造委員会データ集に記載のあるケイ酸塩、リン酸塩、ゲルマニウム塩、ヒ酸塩等が含まれる。
【0033】
ケイ酸塩としては、例えば、アルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が挙げられる。リン酸塩としては、例えば、アルミノリン酸塩、ガロリン酸塩、ベリロリン酸塩等が挙げられる。ゲルマニウム塩としては、アルミノゲルマニウム塩等が挙げられる。ヒ酸塩としては、例えば、アルミノヒ酸塩等が挙げられる。
【0034】
なお、ゼオライト膜は、上記ゼオライトを膜状に形成したものであり、支持体上に製膜されていることが好ましい。本発明に用いるゼオライト膜は、上記特定の平均細孔径及びSi/Alモル比を有する第一のゼオライトを含んでいればよく、支持体を除くゼオライト膜は、1種のゼオライト(即ち、第一のゼオライトのみ)により構成されていてもよいし、2種以上のゼオライトにより構成されていてもよい。ゼオライト膜が2種以上のゼオライトにより構成される場合、該2種以上のゼオライトは積層構造であってもよい。しかしながら、メタノールをより高濃度で効率良く分離する観点から、ゼオライト膜を構成するゼオライトの総質量に対する、上記第一のゼオライトの割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であること(即ち、第一のゼオライトでゼオライト膜が構成されること)が特に好ましい。このように、本発明では、上記混合物からメタノールを分離する際に用いるゼオライト膜の少なくとも一部が、上述した第一のゼオライトで構成されていればよい。
なお、ゼオライト膜が含むことができる第一のゼオライト以外のゼオライトとしては、例えば、上述の特定の平均細孔径を有するゼオライト以外の公知のゼオライト、又は上述のSi/Alモル比を有さない公知のゼオライトが挙げられる。
【0035】
上述したように、第一のゼオライトの平均細孔径は0.30nm以上、0.73nm以下である。また、第一のゼオライトのSi/Alモル比は2.0以上である。第一のゼオライトを含むゼオライト膜を使用することにより、メタノールと、上記第一のメチルエステルと、を含む混合物からメタノールを効率よく高濃度で分離することができる。このメカニズムは明らかではないが、下記の理由が考えられる。
【0036】
通常、炭素数3以上のカルボン酸から誘導される第一のメチルエステルの動的分子径は0.70nm(7.0Å)よりも大きい。そのため、平均細孔径が0.73nm以下のゼオライトを含むゼオライト膜を用いることで、ゼオライト膜を透過する混合物中の第一のメチルエステル量を抑えることができる。
【0037】
一方、メタノールの動的分子径は0.40nm(4.0Å)程度であるために、ゼオライトの平均細孔径が少なくとも0.40nmあれば、メタノールが透過しやすくなると考えられる。しかしながら、実際には、ゼオライトの平均細孔径がメタノールの動的分子径程度であっても、メタノールを効率良く透過させられない場合がある。これは、ゼオライト膜のSi/Alモル比は小さいほど、ゼオライトの親水性は高くなる傾向があるが、通常、メタノールは、第一のメチルエステルよりも親水性が高いために、ゼオライト表面やゼオライト細孔内にメタノール分子が吸着してしまい、分離操作の際にメタノールの透過が阻害されてしまうことが考えられる。そこで、ゼオライトのSi/Alモル比を2.0以上とすることで、ゼオライト膜の親水性が低くなり、ゼオライト細孔内へのメタノール分子の吸着による透過阻害を抑制することができ、その結果、平均細孔径が少なくとも0.3nmの平均細孔径を有するゼオライトを用いれば、メタノールを効率良く透過することができると考えられる。
【0038】
なお、本発明において、ゼオライトの平均細孔径はIZAが定める結晶学的なチャネル直径を意味するものとする。従って、例えば、ゼオライトの平均細孔径が0.30nm以上0.73nm以下であるとは、ゼオライトの細孔(チャネル)形状が真円形の場合は、その平均直径が0.30nm以上0.73nm以下であることを意味し、該細孔形状が楕円形の場合は、短径が0.30nm以上0.73nm以下であることを意味する。なお、ゼオライトの平均細孔径は、ゼオライトの結晶構造に依存するために、ゼオライトの結晶構造を特定することによりゼオライトの平均細孔径を特定することができる。ゼオライトの結晶構造とゼオライトの結晶学的なチャンネル直径との関係は、ATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Sixth Revised Edition 2007 ELSEVIERに記載されているために、後述の方法により特定したゼオライトの結晶構造から当該公知文献を参照して、ゼオライトの平均細孔径を特定することができる。
【0039】
また、ゼオライトのSi/Alモル比は、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により測定できる。具体的には、公知の国際公開第2015/159986号に記載の方法を用いることができる。
【0040】
メタノールを効率良く高濃度で分離する観点から、上記第一のゼオライトの平均細孔径は、0.32nm以上であることが好ましく、0.35nm以上であることがより好ましい。また、同様の観点から、第一のゼオライトの平均細孔径は、0.70nm以下であることが好ましく、0.65nm以下であることがより好ましく、0.50nm以下であることがさらに好ましく、0.40nm以下であることが最も好ましい。
【0041】
ゼオライト細孔内へのメタノール分子の吸着をより抑制する観点から、第一のゼオライトのSi/Alモル比は、2.5以上であることが好ましく、2.8以上であることがより好ましく、3.5以上であることがより好ましい。一方、ゼオライト膜は疎水性であることが好ましいために、第一のゼオライトのSi/Alモル比の好ましい上限値は特にない。
【0042】
第一のゼオライトの環構造は、上述の平均細孔径及びSi/Alモル比を有していれば特段の制限はなく、好ましくは、酸素8員環構造、酸素10員環構造、又は12員環構造が挙げられる。また、第一のゼオライトの結晶構造は、上述の平均細孔径及びSi/Alモル比を有していれば特段の制限はないが、以下の構造であることが好ましい。即ち、第一のゼオライトの結晶構造は、CHA型、DDR型、MOR型、MFI型、ERI型、OFF型、EPI型、FER型、KFI型、LEV型、MER型、MFS型、MOZ型、MTW型、PAU型、RHO型、又はTER型であることが好ましい。これらのなかでも、本発明の効果をより発揮することから、酸素8員環構造のゼオライトが好ましく、特に、第一のゼオライトの結晶構造は、CHA型又はDDR型であることがより好ましく、CHA型であることがさらに好ましい。なお、ゼオライト膜を構成する各ゼオライトの結晶構造は、X線回折データから特定することができる。
【0043】
ゼオライト膜の厚さは、特段の制限はない。しかしながら、粒界等の膜の欠陥部からの上記第一のメチルエステルの透過を可能な限り抑制し、かつ、十分なメタノールの透過速度を確保する観点から、ゼオライト膜の厚さは、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。同様の観点から、ゼオライト膜の厚さは、1.0μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましく、一方、60μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。なお、ゼオライト膜の厚さは、走査型電子顕微鏡写真(SEM)により撮影した断面画像を解析することにより特定することができる。なお、ゼオライト膜が支持体を含んで構成される場合、ゼオライト膜の厚さとは支持体を除いた厚さを意味するものとする。
【0044】
ゼオライト膜は上述の通り、支持体上に形成されることが好ましいが、機械的強度の観点から、多孔質(管状)支持体上に形成されていることが特に好ましい。多孔質支持体の成分としては、シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナなどのアルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体(セラミックス支持体)、ステンレスなどの無機化合物であることが好ましい。また、膜の分離性能を考慮すると、上記支持体としては、アルミナ、シリカ、ムライト、ステンレスのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体が好ましい。
【0045】
ゼオライト膜の製造方法は、特段の制限はなく、公知の方法により製造することができる。例えば、多孔質支持体の表面に所望のゼオライト結晶を析出させることにより製造することができる。多孔質支持体の表面にゼオライト結晶を析出させるには、例えば、多孔質支持体表面に所望のゼオライトのNa型ゼオライト等を種結晶として塗布し、アルミノシリケートゲルに浸漬して、水熱合成を行うことが好ましい。水熱合成における昇温と保温は、オイルなどの熱媒、熱風、マイクロ波により行うことができる。アルミノシリケートゲルから膜表面へのゼオライトの結晶加速度を考慮すると、保温する温度は100℃以上140℃以下が好ましく、保温する時間は、1時間以上27時間以下であることが好ましい。
【0046】
なお、通常、ゼオライトの平均細孔径は、ゼオライトの結晶構造に依存する。従って、所望の平均細孔径を有する結晶構造を有するゼオライトを製造することによりゼオライトの平均細孔径を制御することができる。
【0047】
ゼオライトのSi/Alモル比を調整する方法は、特段の制限はないが、ゼオライトを構成するSi原料とAl原料の仕込みモル比を、所望のゼオライトのSi/Alモル比となるように調整する方法が最も簡便である。すなわち、Si/Alモル比を大きくしたい場合は、Si原料のAl原料に対する仕込みモル比を大きくすればよく、逆にSi/Alモル比を小さくしたい場合は、Si原料のAl原料に対する仕込みモル比を小さくすればよい。
【0048】
なお、ゼオライト膜は、所望の平均細孔径及びSi/Alモル比を有する市販品を使用してもよい。
【0049】
(メタノールと第一のメチルエステルとを含む混合物)
本発明に用いる混合物は、少なくとも成分として、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導される第一のメチルエステルとを含む。第一のメチルエステルとしては、特に制限はないが、例えば、プロピオン酸メチル、(メタ)アクリル酸メチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、クロトン酸メチル、吉草酸メチル、イソ吉草酸メチル、2-メチル酪酸メチル、ピバル酸メチル、チグリン酸メチル、アンゲリカ酸メチル、カプロン酸メチル(ヘキサン酸メチル)、エナント酸メチル(ヘプタン酸メチル)、カプリル酸メチル(オクタン酸メチル)、安息香酸メチル、フェニル酢酸メチル、桂皮酸メチル、サリチル酸メチルなどの炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルを用いることができる。これらの中でも、メタノールと共沸混合物を形成し、蒸留による分離が困難な点から、メタノールとプロピオン酸メチル、又はメタノールと(メタ)アクリル酸メチルの分離において、本発明に係るゼオライト膜を用いた分離方法は有効であり、メタクリル酸メチルとメタノールとの分離において該ゼオライト膜を用いた分離方法は特に有効である。従って、上記第一のメチルエステルは、プロピオン酸メチル又は(メタ)アクリル酸メチルであることが好ましく、メタクリル酸メチルであることがより好ましい。
【0050】
なお、混合物中に含まれる第一のメチルエステルは、1種であっても2種以上であってもよい。
【0051】
なお、通常、他の分離方法の場合、混合物中のメタノール濃度が低ければ低いほど、メタノールの分離が困難になる傾向がある。しかし、本発明においては、混合物中のメタノール濃度が低い場合でも、効率的に高濃度のメタノールを得ることができる。従って、メタノールと、第一のメチルエステルとを含む混合物の組成は、特に限定されない。しかしながら、本発明の効果をより発揮することから、当該混合物は、以下の組成とすることが好ましい。即ち、混合物中の、メタノールと第一のメチルエステルとの合計含有量(全量)に対する、メタノールの含有量(濃度)は、10質量%以上であることが好ましい。一方、メタノールと第一のメチルエステルの合計含有量に対するメタノールの含有量が、95質量%以下の場合に本発明はより有効であり、85質量%以下の場合に本発明はさらに有効であり、80質量%以下の場合に特に有効である。
【0052】
メタノールと、第一のメチルエステルとを含む混合物は、さらに他の化合物を含有していてもよい。該他の化合物としては、例えば、水、炭素数3以上のカルボン酸より誘導される(メチルエステル以外の)アルキルエステル、炭素数2以上のアルコール等が挙げられる。混合物中のこれら他の化合物の含有割合は、メタノールを効率的に高濃度で分離する観点から、混合物総質量に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0053】
なお、混合物中の各成分(メタノール、第一のメチルエステル及び他の化合物)の含有割合及びその組成は、ガスクロマトグラフィー等により特定することができる。
なお、分離操作後に得られたメタノール中に、第一のメチルエステル等の他の化合物が含まれていてもよく、当該メタノールが除去された混合物中に、メタノールが含まれていてもよい。しかし、当然ながら、分離操作後のメタノール中の他の化合物の含有割合、及び、メタノール除去後の混合物中のメタノールの含有割合は、いずれも低ければ低いほど好ましい。
【0054】
(メタノールの分離操作)
メタノールと、第一のメチルエステルとを含む混合物から、上述のゼオライト膜を用いてメタノールを分離する際の膜分離操作では、メタノールが選択的に蒸気の状態でゼオライト膜を透過し、第一のメチルエステルはほとんど透過されない。蒸気の状態で透過された高濃度のメタノールは冷却して液体の状態にすることが好ましい。
【0055】
本発明における、メタノールと、第一のメチルエステルとの混合物を、上述のゼオライト膜により分離する方法としては、混合物を液体の状態(浸透気化法)又は蒸気の状態(蒸気透過法)で分離装置に供給し、ゼオライト膜により分離する方法が挙げられる。装置をコンパクト化できる点では浸透気化法が好ましく、相変化を伴わず熱エネルギーの消費を低減できる点では蒸気透過法が好ましい。蒸気透過法の場合には、蒸留と組み合わせて使用することが、分離の選択性、熱エネルギーの消費を低減できる点から好ましい。なお、上記ゼオライト膜は、下記理由により、特に、蒸気透過法におけるメタノールの分離時に有効であるために、効率的にメタノールを分離するには、蒸気透過法においてメタノールを分離することが好ましい。
【0056】
蒸気透過法は浸透気化法に比べ、運転温度を高くすることができるため、高い透過速度を得ることができる。上記ゼオライト膜は、平均細孔径が第一のメチルエステルの分子径よりも小さい(又は同等以下の)第一のゼオライトを含むため、運転温度を高くしても第一のメチルエステルの透過を抑制することができる。従って、高温での運転時も高いメタノール分離性能を維持することができる。
【0057】
メタノールの効率的な膜分離を実現する観点から、膜に対する透過側と供給側でメタノールの濃度差を設けることが好ましい。濃度差を設ける具体的な手段としては、透過側と供給側でできるだけ大きな差圧をつけるか、あるいは透過側にメタノールが滞留しないようにメタノール以外の気体を流すことが挙げられる。できるだけ大きな差圧をつけるためには、供給側を加圧にするか、あるいは透過側を減圧状態にすることが好ましい。実現の容易さと透過性を考慮すれば、供給側の圧力を50kPa以上470kPa以下とし、透過側の圧力を0.5kPa以下とすることが好ましく、供給側の圧力を大気圧(101.3kPa)とし、透過側の圧力を0.1kPa以下とすることがより好ましい。透過側にメタノールが滞留しないように流すメタノール以外の気体としては、メタノールと反応せず不活性で、入手の容易なことを考慮すれば、空気、窒素、アルゴン等が好ましい。
【0058】
メタノール分離中の供給側の温度、すなわち供給側の混合物の温度は、特段の制限はないが、0℃以上、200℃以下であることが好ましい。また、メタノールの透過量を向上させるために、供給側の混合物の温度は30℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。一方、消費する熱エネルギーを抑える観点から、当該温度は、180℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。なお、蒸気透過法により、混合物を蒸気の状態で分離装置に供給する場合には、メタノールの透過量を多くするために、膜分離の前に蒸気を過熱して供給することもできる。
【0059】
以上のように、本発明の分離方法によれば、メタノールと、第一のメチルエステルとを含む混合物からメタノールを効率よく分離することができる。
【実施例
【0060】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
図1に示す装置を用いて、浸透気化法により、メタノールの分離性能試験を行った。以下に詳細を説明する。
【0062】
図1に示す装置は、恒温水槽1の内部に、供給液が充填されて密閉されている供給液用容器2が設置されており、該供給液中には、一方の末端が封止されたゼオライト膜3が浸漬されていた。なお、供給液としては、メタノール濃度が10質量%のメタノール及びメタクリル酸メチルの混合溶液0.25Lを用いた。また、ゼオライト膜3としては、長さ100mmに切断したCHA型の結晶構造を有する単管状のゼオライト膜A(三菱ケミカル株式会社製、商品名:ZEBREX ZX1、Si/Alモル比:7.5-12.5、平均細孔径:0.38nm、有効膜面積:18.84cm)を用いた。また、ゼオライト膜3の他方の末端は、シリコンチューブ4を介して減圧ライン5に接続させた。減圧ライン5は、切り替え用コック6により分岐しており、各ラインは、液体窒素が充填されたデュワー管8内部に設置された第1のトラップ管7又は第2のトラップ管10を経由して真空ポンプ9に連結させた。そして、真空ポンプ9によりゼオライト膜3の透過側を減圧状態とすることで、供給液中の成分がゼオライト膜3を蒸気状態で透過するようにした。そして、透過した蒸気成分は、減圧ライン5を通り、第1のトラップ管7又は第2のトラップ管10において、液体窒素により冷却され、液体の状態で捕集された。なお、分離性能試験中、供給液の温度は、恒温水槽1により一定の温度に保持した。
【0063】
上述した装置を用いて、供給液用容器2中の供給液(即ち、混合物)の温度を50℃に保持し、ゼオライト膜3の透過側の圧力が0.1kPa以下で保持されるように真空ポンプ9により圧力を調整して、メタノールの分離性能試験を開始した。なお、分離性能試験開始後、0.5時間経過後に、切り替え用コック6により、ゼオライト膜3を透過した蒸気が通過するライン5を切り替えるとともに、第1のトラップ管7に捕集された透過液の質量とメタノール濃度を測定した。測定後は、供給液の組成が変化するのを防ぐために、該透過液は供給液用容器2に戻した。その後、再び、0.5時間経過した時点で、再度、切り替え用コック6により、透過液が通過するライン5を切り替えるとともに、第2のトラップ管10に捕集された透過液の質量とメタノール濃度を測定し、同様に、該透過液を供給用溶液2に戻した。このような操作を繰り返し、透過液の質量及びメタノール濃度の変化がほとんどなくなった時点で操作を終了した。操作終了時に測定した透過液の質量及びメタノール濃度をメタノールの分離性能試験の結果として用い、透過液の質量から下記式(1)により透過流量(透過流速)Q[kg/(m・h)]を算出した。また、メタノールの分離係数Xは、透過液中のメタノール濃度(質量%)及び供給液中のメタノール濃度(質量%)を用いて下記式(2)により算出した。得られた結果を表1に示す。
【0064】
Q=w/(A×t) ・・・(1)
w:透過物質量(kg)
A:ゼオライト膜の有効膜面積(m
t:透過時間(h)
【0065】
X={(透過液中のメタノール濃度)/(100-透過液中のメタノール濃度)}/{(供給液中のメタノール濃度)/(100-供給液中のメタノール濃度)}・・・式(2)
【0066】
[実施例2]
供給液を、メタノール濃度が50質量%である、メタノール/メタクリル酸メチルの混合物に変更した以外は、実施例1と同様の方法によりメタノールの分離性能試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0067】
[実施例3]
図2に示す装置を用いて、蒸気透過方式によるメタノールの分離性能試験を行った。以下に詳細を説明する。
【0068】
図2に示す装置は、供給液用容器2である三口丸底フラスコが、供給液を加熱するためのマントルヒーター11上に設置されており、供給液用容器2の上部を、一方の末端が封止されているゼオライト膜3が設置されたゼオライト膜設置容器12に連結させた。なお、供給液としては、メタノールとメタクリル酸メチルとの混合溶液を用いた。また、ゼオライト膜3としては、実施例1と同様に、上記ゼオライト膜Aを用いた。供給液用容器2の上部及びゼオライト膜設置容器12には、リボンヒーター14が巻き付けられており、分離性能試験中は、マントルヒーター11より加熱されることにより発生した供給液の蒸気が、一定温度に保持されて、滞りなくゼオライト膜設置容器12に到達できるようにした。さらに、供給液用容器2及びゼオライト膜設置容器12は、それぞれ、コンデンサー13と接続させ、分離性能試験中は、ゼオライト膜3を透過しなかった供給液の蒸気がコンデンサー13により冷却されて供給液用容器2に戻るようにした。また、系内に発生する蒸気により系内が加圧状態とならないように均圧ライン15を大気中に開放させた。一方、ゼオライト膜3の他方の末端側の構成は、図1の装置と同じ構成とした。
【0069】
上述した装置を用いて、マントルヒーター11により、供給液を十分に加熱して蒸気を発生させるとともに、リボンヒーター14で蒸気の温度(分離時の混合物の温度に相当)を100℃に保持した。その後、コンデンサー13により発生する還流の影響により、供給液の蒸気の組成の変動が無くなった時点で、ゼオライト膜3の透過側の圧力が0.1kPa以下で保持されるように真空ポンプ9により圧力を調整して、メタノールの分離性能試験を開始した。なお、ゼオライト膜設置容器12中の供給液の蒸気成分は、メタノール濃度が51質量%のメタノールとメタクリル酸メチルの混合物であった。
【0070】
以後は、実施例1と同様の操作を行い、透過液の質量及びメタノール濃度を測定し、透過液の透過流量Q[kg/(m・h)]及びメタノールの分離係数を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0071】
[実施例4~5]
ゼオライト膜設置容器12中の蒸気の保持温度、即ち、分離時の混合物の温度を表1に示すように変更した以外は、実施例3と同様の方法によりメタノールの分離性能試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0072】
[実施例6]
図3に示す装置を用いて、浸透気化法により、メタノールの分離性能試験を行った。以下に詳細を説明する。
【0073】
図3に示す装置では、膜ハウジング17に一方の末端が封止されたゼオライト膜3が、中空状のSUS製ねじ込み治具16を介して接続されていた。また、膜ハウジング17は、液循環プランジャーポンプ19を介して、供給液が充填されている供給液用容器2とラインで接続され、分離性能試験中は、液循環プランジャーポンプ19により、供給液用容器2中の供給液を膜ハウジング17に送液させた。さらに、供給液用容器2にはリボンヒーター14が巻き付けられており、分離性能試験中は、供給液の温度を一定に保持した。なお、供給液としては、メタノール濃度が75.0質量%のメタノールとメタクリル酸メチルの混合溶液2.5Lを用いた。また、ゼオライト膜3としては、長さ100mmに切断したCHA型の結晶構造を持つ単管状ゼオライト膜B(三菱ケミカル株式会社製、商品名:ZEBREX ZX2、Si/Alモル比:2.5-5.0、平均細孔径:0.38nm、有効膜面積:377cm)を用いた。
【0074】
また、膜ハウジング17は、液循環プランジャーポンプ19を介するラインとは別のラインでも供給液用容器2と接続されていた。これにより、分離性能試験中、ゼオライト膜3を透過しなかった供給液は、再度、供給液用容器2に戻るようにした。一方、ゼオライト膜3の他方の末端側(中空状のSUS製ねじ込み治具側)は、コンデンサー13に接続されている以外は、図1の装置と同じ構成とした。また、装置全体を耐圧構造とすることにより、大気圧における供給液の沸点を超える温度においても浸透気化方式での測定を可能とした。なお、図3の装置では、分離性能試験時に、膜ハウジング17内の供給液は液状で存在しているが、図1の装置と同様に真空ポンプ9によりゼオライト膜3の透過側は減圧状態となっているために、該成分がゼオライト膜を透過する際は蒸気の状態で透過することになる。
【0075】
上述した装置を用いて、膜ハウジング17内の温度を50℃に保持し、ゼオライト膜3の透過側の圧力が0.1kPa以下で保持されるように真空ポンプ9により圧力を調整して、メタノールの分離性能試験を開始した。その後の操作は実施例1と同様の方法で行ったが、本実施例においては、第1のトラップ管7で捕集された透過液を供給液用容器2に戻さずに、供給液用容器2に接続された補充液タンク21から補充液ポンプ22を用いて、ゼオライト膜3の透過成分と同じ組成の溶液を供給することにより、供給液の組成を一定に保った。得られた結果を表1に示す。
【0076】
[実施例7]
供給液の温度を表1に示す温度に変更した以外は、実施例6と同様の方法によりメタノールの分離性能試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0077】
[実施例8]
上記ゼオライト膜Bの代わりに、公知のDDR型の結晶構造を有するゼオライト膜C(Si/Alモル比:∞、平均細孔径:0.36nm)を用いて、膜ハウジング17内の温度を32℃で保持した以外は、実施例6と同様の方法によりメタノール分離性能試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0078】
[実施例9~11]
膜ハウジング17内の温度を、表1に示すようにそれぞれ変更した以外は、実施例8と同様の方法により分離性能試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0079】
[実施例12]
図4に示す装置を用いて、蒸気透過方式によりメタノール分離性能試験を行った。以下に詳細を説明する。
【0080】
図4に示す装置では、恒温水槽1内に、ゼオライト膜3が設置されたゼオライト膜設置容器27が設けられており、該ゼオライト膜設置容器27は、供給液が充填されている供給液用容器2と、気化器26と供給液ポンプ24を介してラインで接続されていた。なお、供給液としては、メタノール濃度が50質量%のメタノールとメタクリル酸メチルとの混合溶液0.3Lを用いた。また、ゼオライト膜3としては、実施例8と同様に上記ゼオライト膜Cを用いた。このような構成とすることにより、供給液ポンプ24を操作することで、恒温水槽1内の気化器26に供給液を供給し、気化器26内部で供給液を気化させ、発生した蒸気を恒温水槽1内に設置されたゼオライト膜設置容器27に導入した。また、ゼオライト膜設置容器27は、コンデンサー13(図面左側の位置のコンデンサー13)を介して供給液用容器2とラインで接続されており、操作中は、ゼオライト膜3を透過しなかった蒸気成分はコンデンサーで冷却されて、供給液用容器2に戻されるようにした。一方、ゼオライト膜3を透過した蒸気成分は、他のコンデンサー13(図面右側の位置のコンデンサー13)で冷却される。このコンデンサー13に接続される構成は図3の装置と同じ構成にした。
【0081】
上述した装置を用いて、供給液温度が120℃となるように加熱し、ゼオライト膜3の透過側の圧力が0.1kPa以下で保持されるように真空ポンプ9により圧力を調整して、メタノールの分離性能試験を開始した。以後の操作は実施例1と同様の方法で行った。得られた結果を表1に示す。
【0082】
[比較例1]
ゼオライト膜3として、LTA型の結晶構造を有するゼオライト膜D(三菱ケミカル株式会社製、商品名:ZEBREX ZX0、Si/Alモル比:1.0、平均細孔径:0.41nm、有効膜面積:377cm)を用いた。また、供給液として、メタノール濃度が75質量%のメタノールとメタクリル酸メチルの混合溶液を用いた。これら以外は、実施例1と同様の方法によりメタノールの分離性能試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0083】
[比較例2]
ゼオライト膜3として、公知の特開2011-51975号公報に記載の方法を参照して得たFAU(Y)型ゼオライト膜E(Si/Alモル比:25.0、平均細孔径:0.74nm、支持体:α-アルミナ、有効膜面積:18.84cm)を用いた。また、供給液として、メタノール濃度が75質量%のメタノールとメタクリル酸メチルの混合溶液を用いた。これら以外は、実施例1と同様の方法によりメタノールの分離性能試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0084】
[比較例3~5]
供給液の温度を表1に示すように変更した以外は、比較例2と同様の方法によりメタノールの分離性能試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1の結果より、メタノール濃度が75質量%の供給液を用いた例を比較すると、LTA型又はFAU型の結晶構造を有するゼオライト膜を用いた比較例1~5に対して、CHA型又はDDR型の結晶構造を有するゼオライト膜を用いた実施例6~11では、透過液中のメタノール濃度が高いことが分かった。また、供給液中のメタノール濃度が75質量%よりも低い実施例1~5及び実施例12においても同様に、これらの比較例に対して、透過液中のメタノール濃度が高いことが分かった。特に分離性能を考慮すると、比較例1~5に対して、実施例1~12では大幅に分離係数が向上していることが分かる。特に、供給液中のメタノール濃度及び分離時の温度が同じである実施例6、10と比較例1、2とを比較すると、比較例1、2に対して、実施例6、10の分離係数は9倍以上になっていることが分かる。以上の結果から、本発明は、メタノールの分離に効果的である。また、比較例1~5に対して、実施例1~12においては、透過流量も向上していることから、本発明では、効率的にメタノールの分離が可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0087】
1 恒温水槽
2 供給液用容器
3 ゼオライト膜
4 シリコンチューブ
5 減圧ライン
6 切り替え用コック
7 第1のトラップ管
8 デュワー管
9 真空ポンプ
10 第2のトラップ管
11 マントルヒーター
12、27 ゼオライト膜設置容器
13 コンデンサー
14 リボンヒーター
15 均圧ライン
16 中空状のSUS製ねじ込み治具
17 膜ハウジング
19 液循環プランジャーポンプ
21 補充液タンク
22 補充液ポンプ
24 供給液ポンプ
26 気化器
27 ゼオライト膜設置容器
図1
図2
図3
図4