IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許7463821オルガノポリシロキサンを含有する組成物の製造方法、硬化膜の製造方法および被覆物品の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】オルガノポリシロキサンを含有する組成物の製造方法、硬化膜の製造方法および被覆物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20240402BHJP
   C08G 77/14 20060101ALI20240402BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20240402BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240402BHJP
【FI】
C08L83/04
C08G77/14
C09D183/04
C09D7/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020075796
(22)【出願日】2020-04-22
(65)【公開番号】P2021172706
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】麻生 史拓
(72)【発明者】
【氏名】藤本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】根岸 千幸
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-119643(JP,A)
【文献】国際公開第2020/036074(WO,A1)
【文献】特開2005-350558(JP,A)
【文献】特開2016-092296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C09D183/00-183/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記平均式(I)で表される構造を有するオルガノポリシロキサン、および(B)比誘電率が7.0以上9.0以下であり、下記一般式(II)で表される化合物を含む溶剤15質量%以上を含有する組成物の製造方法であって、
加水分解性基を有するシラン化合物を、(B)溶剤の非存在下で加水分解縮合させて(A)オルガノポリシロキサンを合成した後、(B)溶剤を加える工程を含む、組成物の製造方法(但し、メチルトリメトキシシランおよびフェニルトリメトキシシランを、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの非存在下で加水分解縮合させてポリシロキサンを合成した後、ナフトキノンジアジド化合物、ジアセトンアルコールおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを混合、撹拌して組成物を製造する方法を除く。)。
【化1】
(式中、R1は、それぞれ独立に、水素原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素原子数1~8のアルキル基、アラルキル基もしくはアリール基を表し、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基またはアセチル基を表す。a、b、cおよびdは、それぞれ0≦a<1、0<b≦1、0≦c<1、0≦d<1、a+b+c+d=1を満たす数であり、eは0<e≦4を満たす数である。)
【化2】
〔式中、R3は、炭素原子数1~4のアルキル基、R4は、直鎖状または分岐状の炭素原子数1~4のアルキレン基、R5は、炭素原子数1~4のアルキル基または下記式
【化3】
(R3は上記と同じである。)
で表される基である。mは1~3の整数を表す。〕
【請求項2】
(A)オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が、1,000~500,000である請求項1記載の組成物の製造方法。
【請求項3】
組成物中の(A)オルガノポリシロキサンの含有量が、溶剤を含まない純分として0~80質量%である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
組成物を構成する溶剤全体における(B)成分の割合が、20~100質量%である請求項1~3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
組成物中の芳香族炭化水素溶剤の含有量が、2.0質量%以下である請求項1~4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
回転粘度計により測定される25℃での組成物の粘度が、100,000mPa・s以下である請求項1~5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
前記組成物が、さらに、硬化触媒を含有し、硬化性組成物である請求項1~6のいずれか1項記載の組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の製造方法により得られた組成物からなるコーティング剤を硬化させる工程を含む、硬化膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項記載の製造方法により得られた組成物からなるコーティング剤を基材の少なくとも一方の面に、直接または1種以上の他の層を介して塗布し、硬化させる工程を含む、被覆物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノポリシロキサンおよびアルキレングリコールアルキルエーテルアセテート等の所定の比誘電率を有する溶剤を含有する組成物、その製造方法、コーティング剤および被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
2015年9月に国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)が採択され、世界的に環境保全や暮らしの安全に対する関心が高まっている。日本国内のVOC(揮発性有機化合物:Volatile Organic Compounds)年間排出量を見てみると、2017年時点で、塗料分野が38%と他分野を圧倒して多くの割合を占めている。そのため、塗料業界においては光化学スモッグなどの環境汚染物質の発生が少なく、低温硬化性や速硬化性の省エネルギーで施行できる環境配慮塗料への要求が高まっている。
【0003】
一般的に、オルガノポリシロキサンを含有する塗料は、溶解性の高さからトルエンやキシレン等のTX溶剤が使われることが多い。しかしながら、TX溶剤は数ある溶剤の中でも環境への負荷が極めて高く、人体に対して麻酔作用がある他、毒性が強く、日本では毒物劇物取締法により劇物に指定されており、早期に代替溶剤が求められている。
【0004】
これに対し、環境配慮型アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート溶剤は、人や自然への負荷が小さく、取扱いも容易であることから、近年使用量が増加傾向にあるTXフリー溶剤である。また、この溶剤は、沸点が高く、溶剤ガスの曝露による人体への悪影響も少ないという利点を有する。さらに、揮発性が低いため作業性に優れ、塗膜にクラックや塗りムラが発生しにくいため、塗料用の溶剤として好適である。
【0005】
一方、重合性官能基を有するオルガノポリシロキサンとして、硬度および柔軟性の観点から、2価または3価のシロキサン結合を骨格にしたオルガノポリシロキサンを塗料の主原料とすることが多いが、その中でも硬度と下地との接着性の観点から3価のシロキサン結合は必須となる。
また、オルガノポリシロキサンの分子量によっても、塗布後の塗膜表面の状態が異なる。分子量が小さい場合、重合性官能基数の比率が大きくなるため、経時でのクラック発生の原因となる。また、分子量が大きい場合、活性の高いアルコキシ基の多くは製造時における加水分解縮合反応により消費され、生成物であるオルガノポリシロキサンには活性の低いアルコキシ基が少数残存しているのみとなり、その被膜は硬化性に劣るものが多い。その低硬化性を補うために、被膜形成時に高温での加熱などの追加工程を要する。
【0006】
具体的に、特許文献1には、縮合硬化性官能基の比率が特定の範囲にあるシリコーンレジン組成物の塗膜において、良好な塗膜表面と密着性が得られることが報告されている。特許文献2には、アルキレングリコールアルキルエーテルアセテートを溶剤にした低VOC塗料組成物の例が報告されており、良好な硬化およびポットライフ性の発現が示唆されている。
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、上記のものに加え、下記のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-200546号公報
【文献】特表2007-530734号公報
【文献】国際公開第2020/036074号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、TX溶剤フリーの環境配慮型溶剤とオルガノポリシロキサンとを含有する組成物、その製造方法、ならびに低温速硬化性、耐溶剤性に優れ、高い硬度を有する硬化被膜を与え得るコーティング剤、および被覆物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、重合性官能基を有するオルガノポリシロキサンと、アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート等の所定の比誘電率を有する溶剤とを含有する組成物を用いることで、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. (A)下記平均式(I)で表される構造を有するオルガノポリシロキサン、および(B)比誘電率が7.0以上9.0以下の溶剤15質量%以上を含有する組成物、
【化1】
(式中、R1は、それぞれ独立に、水素原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素原子数1~8のアルキル基、アラルキル基もしくはアリール基を表し、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基またはアセチル基を表す。a、b、cおよびdは、それぞれ0≦a<1、0<b≦1、0≦c<1、0≦d<1、a+b+c+d=1を満たす数であり、eは0<e≦4を満たす数である。)
2. (B)溶剤が下記一般式(II)で表される化合物を含む1記載の組成物、
【化2】
〔式中、R3は、炭素原子数1~4のアルキル基、R4は、直鎖状または分岐状の炭素原子数1~4のアルキレン基、R5は、炭素原子数1~4のアルキル基または下記式
【化3】
(R3は上記と同じである。)
で表される基である。mは1~3の整数を表す。〕
3. (A)オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が、1,000~500,000である1または2記載の組成物、
4. さらに、硬化触媒を含有し、硬化性組成物である1~3のいずれかに記載の組成物、
5. 1~4のいずれかに記載の組成物からなるコーティング剤、
6. 5記載のコーティング剤の硬化膜、
7. 基材と、該基材の少なくとも一方の面に、直接または1種以上の他の層を介して形成された、6記載の硬化膜とを有する被覆物品、
8. 加水分解性基を有するシラン化合物を、(B)比誘電率が7.0以上9.0以下の溶剤の非存在下で加水分解縮合させて、(A)上記平均式(I)で表される構造を有するオルガノポリシロキサンを合成した後、(B)比誘電率が7.0以上9.0以下の溶剤を加える工程を含む、1~4のいずれかに記載の組成物の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物は、重合性官能基を有するオルガノポリシロキサンおよびアルキレングリコールアルキルエーテルアセテート等の所定の比誘電率を有する溶剤を含有しているため、人体や生態、地球環境への負荷低減や緩和がなされ、さらに低温速硬化性、耐溶剤性に優れ、高硬度の被膜を与えることから、環境配慮塗料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
[(A)成分]
本発明の組成物に用いられる(A)成分は、下記平均式(I)で表される構造を有するオルガノポリシロキサンである。
【化4】
【0013】
式(I)において、R1は、それぞれ独立に、水素原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素原子数1~8のアルキル基、アラルキル基もしくはアリール基を表し、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基またはアセチル基を表す。
【0014】
1において、炭素原子数1~8のアルキル基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、i-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル基等が挙げられるが、炭素原子数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
アラルキル基の炭素原子数は7~20が好ましく、その具体例としては、ベンジル基、フェニルエチル基等が挙げられる。
アリール基の炭素原子数は6~18が好ましく、その具体例としては、フェニル、ナフチル基等の非置換アリール基;トリル、キシリル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル基等の炭素数7~18のアルキルアリール基などが挙げられるが、フェニル基が好ましい。
なお、上記アルキル基、アラルキル基およびアリール基は、その水素原子の一部または全部が、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子)で置換されていてもよく、その具体例としては、クロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
【0015】
aは0≦a<1を満たす数であるが、クラック抑制効果の観点から、0≦a≦0.3が好ましい。
bは0<b≦1を満たす数であるが、得られる硬化物の耐擦傷性の観点から、0.2≦b≦1が好ましい。
cは0≦c<1を満たす数であるが、組成物の硬化性および得られる硬化物の硬度の観点から、0≦c≦0.5が好ましい。
dは0≦d<1を満たす数であるが、組成物の硬化性および得られる硬化物の硬度の観点から、0≦d≦0.4が好ましい。
eは0<e≦4を満たす数であるが、縮合性官能基による縮合反応の抑制に効果的であることや、得られる硬化物の耐クラック性、耐水性および耐候性の観点から、eは0<e≦3を満たす数が好ましい。
なお、a+b+c+d=1である。
【0016】
本発明の(A)オルガノポリシロキサンは、単一の組成でも、組成の異なる複数の化合物の混合物であってもよい。
【0017】
本発明の(A)オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は特に限定されるものではないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で1,000~500,000が好ましく、1,500~300,000がより好ましい。重量平均分子量が1,000未満では縮合が十分に進まず、オルガノポリシロキサンの保存性が低くなるおそれがあり、また経時で縮合反応が生じ、耐クラック性に優れない可能性がある。500,000超の高分子量体では、オルガノポリシロキサンが溶剤に不溶となり、凹凸や塗りムラ等が発生するおそれがある。
【0018】
また、本発明の(A)オルガノポリシロキサンは、溶剤等を除く不揮発分が90質量%以上であることが好ましい。揮発分が多くなると、組成物を硬化した際のボイド発生による外観の悪化や機械的性質の低下の原因となるおそれがある。
【0019】
(A)成分の含有量(溶剤を含まない(A)成分純分)は、組成物中10~95質量%が好ましく、10~85質量%がより好ましく、20~80質量%がより一層好ましく、60~80質量%がさらに好ましい。(A)成分の含有量(不揮発分として)が10質量%未満では、塗工後に十分な厚さの硬化物が得られないおそれがあり、95質量%を超えると平滑な硬化物を与えないおそれがある。
【0020】
本発明の(A)オルガノポリシロキサンは、一般的なオルガノポリシロキサンの製造方法に従って製造することができる。例えば、加水分解性基を有するシラン化合物を加水分解縮合させて本発明のオルガノポリシロキサンを得ることができる。
【0021】
オルガノポリシロキサンを製造するための原料としては、加水分解性基であるクロルまたはアルコキシ基をケイ素原子上に1~4個含有し、上記条件を満たす有機置換基を有するシラン化合物であれば特に限定されるものではない。
その具体例としては、テトラクロルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリクロルシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、トリメチルクロルシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルイソプロポキシシラン、エチルトリクロルシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリクロルシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリクロルシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリクロルシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリクロルシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリクロルシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、プロピルメチルジクロルシラン、プロピルメチルジメトキシシラン、プロピルメチルジエトキシシラン、ヘキシルメチルジクロルシラン、ヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘキシルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジクロルシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ジフェニルジクロルシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジメチルフェニルクロルシラン、ジメチルフェニルメトキシシラン、ジメチルフェニルエトキシシラン、およびこれらの部分加水分解物等が挙げられるが、操作性、副生物の留去のしやすさ、および原料の入手の容易さから、メトキシシラン、エトキシシランが好適である。
【0022】
なお、上記シラン化合物は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
加水分解を実施するに際し、加水分解触媒を使用してもよい。加水分解触媒としては、従来公知の触媒を使用することができ、その水溶液がpH2~7の酸性を示すものが好ましく、特に酸性のハロゲン化水素、スルホン酸、カルボン酸、酸性または弱酸性の無機塩、イオン交換樹脂等の固体酸等が好ましい。酸性触媒の具体例としては、フッ化水素、塩酸、硝酸、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ギ酸、酢酸、マレイン酸、安息香酸、乳酸、燐酸、表面にスルホン酸またはカルボン酸基を有するカチオン交換樹脂等が挙げられる。
【0024】
加水分解触媒の使用量は特に限定されるものではないが、反応を速やかに進行させるとともに、反応後の触媒の除去の容易性を考慮すると、加水分解性シラン1モルに対して0.0002~0.5モルの範囲が好ましい。
【0025】
加水分解性シランと、加水分解縮合反応に要する水との量比は、特に限定されるものではないが、触媒の失活を防いで反応を十分に進行させるとともに、反応後の水の除去の容易性を考慮すると、加水分解性シラン1モルに対し、水0.1~10モルの割合が好ましい。
【0026】
加水分解縮合時の反応温度は、特に限定されるものではないが、反応率を向上させるとともに、加水分解性シランが有する有機官能基の分解を防止することを考慮すると、-10~150℃が好ましい。
【0027】
なお、加水分解縮合の際には、溶剤を使用してもよいが、後述する(B)成分は使用しない。使用できる有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらの有機溶剤を使用した場合は、ストリップ工程等の処理によりこれらを除去し、(B)成分に置換することが好ましい。
【0028】
[(B)成分]
本発明の組成物に用いられる(B)成分は、比誘電率が7.0以上9.0以下の溶剤である。このような比誘電率を有する溶媒としては、例えば、下記一般式(II)で表されるアルキレングリコールアルキルエーテルエステルまたはアルキレングリコールエステルが含まれていることが好ましい。(B)成分は1種単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。なお、本発明における比誘電率は、JIS C 2138:2007に準拠して測定温度20℃で測定される値である。
【0029】
【化5】
【0030】
式(II)において、R3は炭素原子数1~4のアルキル基、R4は直鎖状または分岐状の炭素原子数1~4のアルキレン基、R5は炭素原子数1~4のアルキル基または下記式
【0031】
【化6】
で表される基である。
【0032】
3およびR5の炭素原子数1~4のアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル基等が挙げられる。R4の炭素原子数1~4のアルキレン基の具体例としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン、ブチレン基等が挙げられる。複数の-COR3基を有する場合、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。mは1~3の整数である。
【0033】
上記一般式(II)で表される溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノメチルエーテルブチレート、エチレングリコールモノエチルエーテルブチレート、エチレングリコールモノブチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルブチレート、プロピレングリコールモノメチルエーテルブチレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルブチレート、メトキシブチルアセテート等のグリコールモノ脂肪酸エステル類;エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、エチレングリコールプロピオネートブチレート、エチレングリコールジプロピオネート、エチレングリコールジブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールプロピオネートブチレート、ジエチレングリコールジプロピオネート、ジエチレングリコールジブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールプロピオネートブチレート、プロピレングリコールジプロピオネート、プロピレングリコールジブチレート、ジプロピレングリコールアセテートプロピオネート、ジプロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールプロピオネートブチレート、ジプロピレングリコールジプロピオネート、ジプロピレングリコールジブチレート等のグリコールジ脂肪酸エステル類などが挙げられる。
これらの中でも、化学的安定性や入手のしやすさ、環境への影響を考えると、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
【0034】
(B)成分の含有量は、組成物中15質量%以上であり、15~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。(B)成分の含有量が、組成物中15質量%未満だと、平滑な硬化物が得られない。
【0035】
本発明の組成物は、TX溶剤を実質的に含有しないことが好ましい。なお、TX溶剤とは、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤をいう。なお、実質的に含有しないとは、TX溶剤の含有量が組成物中2.0質量%以下であることをいうが、0.5質量%以下が好ましく、0質量%でもよい。
【0036】
なお、本発明の組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜に任意の添加剤を加
えることができる。
添加剤の具体例としては、非反応性シリコーンオイル、反応性シリコーンオイル、シランカップリング剤等の密着付与剤、老化防止剤、防錆剤、着色剤、界面活性剤、レオロジー調整剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光剤、研磨剤、香料、充填剤、フィラー、染顔料、レベリング剤、反応性希釈剤、非反応性高分子樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、分散剤、帯電防止剤、チキソトロピー付与剤等が挙げられる。これらは、それぞれ1種単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて、適量用いることができる。
【0037】
本発明の組成物の粘度は特に限定されるものではないが、成形または塗布作業性を良好にし、スジムラ等の発生を抑制することを考慮すると、回転粘度計により測定される25℃での粘度が、100,000mPa・s以下が好ましく、20,000mPa・s以下がより好ましい。下限は特に限定されないが、10mPa・s程度が好ましい。
【0038】
[硬化性組成物]
本発明の組成物は、室温および加熱条件下で乾燥により被膜を形成することができるが、硬化速度を加速するため、または優れた被膜特性を得るために、硬化触媒、例えば縮合硬化触媒を添加してもよく、硬化触媒をさらに含有する硬化性組成物とすることができる。
【0039】
硬化触媒としては、公知の触媒から適宜選択して用いることができ、例えば、有機スズ化合物、有機チタニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物;塩酸、硫酸等の無機酸類;p-トルエンスルホン酸、各種脂肪族または芳香族カルボン酸等の有機酸類;アンモニア;水酸化ナトリウム等の無機塩基類、トリブチルアミン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)等の有機塩基類等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、複数種を併用しても構わない。
【0040】
本発明の組成物では、これらの中でも、有機スズ化合物、有機チタニウム化合物および有機アルミニウム化合物から選ばれる有機金属化合物が好ましく、具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ビスアセチルアセテート、ジオクチル錫ビスアセチルラウレート、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネート、テトラキスエチレングリコールメチルエーテルチタネート、テトラキスエチレングリコールエチルエーテルチタネート、ビス(アセチルアセトニル)ジプロピルチタネート、アセチルアセトンアルミニウム、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノノルマルブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテートジノルマルブチレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が好適であり、特に、反応性、溶解性の観点から、テトラブチルチタネート、アルミニウムエチルアセトアセテートジノルマルブチレート、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノノルマルブチレートおよびこれらの加水分解物が好ましい。
硬化触媒の含有量は、(A)オルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.01~30質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましい。
【0041】
[製造方法]
本発明の組成物は、例えば、上記(A)および(B)成分、ならびに任意成分を混合することで得ることができる。(A)成分の製造時、加水分解縮合の際に溶剤を使用する場合は、例えば、加水分解性基を有するシラン化合物を溶剤中で加水分解縮合させて、平均式(I)で表されるオルガノポリシロキサン(A)を得ることができるが、このとき(B)成分を反応溶剤として用いることはできない。
【0042】
組成物を構成する溶剤全体中における(B)成分の割合は、20~100質量%が好ましく、50~100質量%がより好ましく、(B)成分のみであってもよい。(B)成分以外の有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらの有機溶剤を使用した場合は、ストリップ工程等の処理によりこれらを除去し、(B)成分に置換する工程を有していてもよい。
【0043】
[コーティング剤および被覆物品]
上述した本発明の組成物は、コーティング剤として好適に利用でき、特に外壁塗料として好適に使用できるが、その適用用途は、コーティング剤に限定されるものではない。コーティング剤として使用する場合、例えば、基材の少なくとも一方の面に、直接または1種以上の他の層を介して、本発明の組成物を塗布し、それを硬化させることにより被膜を形成することで、基材の少なくとも一方の面に、直接または1種以上の他の層を介して形成されたコーティング剤の硬化膜を有する被覆物品を得ることができる。
【0044】
上記基材としては、特に限定されるものではないが、ガラス、シリコンウェハー、金属、プラスチック成形体、セラミックス、これらの複合物等が挙げられる。
また、これらの基材の表面が、化成処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸やアルカリ液で処理されている基材や、基材本体と表層が異なる種類の塗料で被覆された化粧合板等も用いることもできる。他の層としては、ポリエステル樹脂塗装、ポリウレタン樹脂塗装、アミノアルキド樹脂塗装、ラッカー塗装、吹付塗装、水性ワックス塗装により得られたものなどが挙げられる。
【0045】
コーティング剤の基材への塗布方法としては、公知の手法から適宜選択すればよく、例えば、フローコート、スピンコート、バーコーター、ワイヤーバー、刷毛塗り、スプレー、浸漬、ロールコート、カーテンコート、ナイフコート等の各種塗布方法を用いることができる。塗布量は特に制限されないが、通常は乾燥後の被膜の厚さが0.1~1,000μmとなる量が好ましく、1~100μmとなる量が好ましい。
【0046】
組成物を硬化させるための方法としては、常温硬化、加熱硬化等が挙げられる。
加熱温度は特に制限されないが、100~300℃が好ましく、150~250℃がより好ましい。
【実施例
【0047】
以下、実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、下記において、不揮発分はJIS K 5601-1-2:2008に準じて測定した値であり、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、HLC-8220 東ソー(株)製)を用いてテトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒として測定した値である。また、平均式(I)におけるa~eの値は、1H-NMRおよび29Si-NMR測定の結果から算出した。
【0048】
[1]オルガノポリシロキサン、およびアルキレングリコールアルキルエーテルアセテート溶剤を含有する組成物の製造
[実施例1-1]
ヘキサメチルジシロキサン(東京化成工業(株)製):32.5g(0.2モル)、メチルトリメトキシシラン:KBM-13(信越化学工業(株)製)299.0g(2.0モル)、ジメチルジメトキシシラン:KBM-22(信越化学工業(株)製)387.1g(3.0モル)、フェニルトリメトキシシラン:KBM-103(信越化学工業(株)製)803.7g(3.8モル)、ジフェニルジメトキシシラン:KBM-202(信越化学工業(株)製)25.3g(0.1モル)、メタンスルホン酸4.9gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水254.9gを添加し、80℃で2時間撹拌した。合成ハイドロタルサイト24.3gを投入し、2時間撹拌して中和した。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(ダウ・ケミカル社製、比誘電率8.3(20℃))984.8gを加え、減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、加圧濾過を行った。
得られた組成物は、粘度12.7mPa・s、不揮発分51.1質量%、溶剤を除くシリコーン成分の重量平均分子量3,500の液体であった。平均式(I)におけるa~eの値は、それぞれa=0、b=0.64、c=0.33、d=0.03、e=0.13であった。
【0049】
[実施例1-2]
ヘキサメチルジシロキサン(東京化成工業(株)製):32.4g(0.2モル)、メチルトリメトキシシラン:KBM-13(信越化学工業(株)製)672.8g(4.5モル)、フェニルトリメトキシシラン:KBM-103(信越化学工業(株)製)507.8g(2.4モル)、メタンスルホン酸3.5gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水222.3gを添加し、80℃で2時間撹拌した。合成ハイドロタルサイト18.5gを投入し、2時間撹拌して中和した。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(ダウ・ケミカル社製、比誘電率8.3(20℃))720.5gを加え、減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、加圧濾過を行った。
得られた組成物は、粘度20.2mPa・s、不揮発分53.5質量%、溶剤を除くシリコーン成分の重量平均分子量7,500の25℃で粘稠な液体であった。平均式(I)におけるa~eの値は、それぞれa=0、b=0.96、c=0、d=0.04、e=0.14であった。
【0050】
[実施例1-3]
メチルトリメトキシシラン:KBM-13(信越化学工業(株)製)598.0g(4.0モル)、フェニルトリメトキシシラン:KBM-103(信越化学工業(株)製)423.0g(2.0モル)、メタンスルホン酸3.5gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水194.4gを添加し、80℃で2時間撹拌した。合成ハイドロタルサイト15.2gを投入し、2時間撹拌して中和した。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(ダウ・ケミカル社製、比誘電率8.3(20℃))667.0gを加え、減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、加圧濾過を行った。
得られた組成物は、粘度42.2mPa・s、不揮発分52.5質量%、溶剤を除くシリコーン成分の重量平均分子量10,000の液体であった。平均式(I)におけるa~eの値は、それぞれa=0、b=1.0、c=0、d=0、e=0.23であった。
【0051】
[実施例1-4]
メチルトリメトキシシラン:KBM-13(信越化学工業(株)製)299.0g(2.0モル)、ジメチルジメトキシシラン:KBM-22(信越化学工業(株)製)387.0g(3.0モル)、フェニルトリメトキシシラン:KBM-103(信越化学工業(株)製)634.5g(3.0モル)、ジフェニルジメトキシシラン:KBM-202(信越化学工業(株)製)126.5g(0.5モル)、メタンスルホン酸4.8gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水237.6gを添加し、80℃で2時間撹拌した。合成ハイドロタルサイト23.6gを投入し、2時間撹拌して中和した。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(ダウ・ケミカル社製、比誘電率8.3(20℃))984.8gを加え、減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、加圧濾過を行った。
得られた組成物は、粘度12.9mPa・s、不揮発分50.6質量%、溶剤を除くシリコーン成分の重量平均分子量3,600の液体であった。平均式(I)におけるa~eの値は、それぞれa=0、b=0.66、c=0.34、d=0、e=0.12であった。
【0052】
[実施例1-5]
テトラメトキシシラン(東京化成工業(株)製):30.4g(0.2モル)、メチルトリメトキシシラン:KBM-13(信越化学工業(株)製)299.0g(2.0モル)、ジメチルジメトキシシラン:KBM-22(信越化学工業(株)製)387.1g(3.0モル)、フェニルトリメトキシシラン:KBM-103(信越化学工業(株)製)803.7g(3.8モル)、ジフェニルジメトキシシラン:KBM-202(信越化学工業(株)製)25.3g(0.1モル)、メタンスルホン酸4.9gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水254.9gを添加し、80℃で2時間撹拌した。合成ハイドロタルサイト23.9gを投入し、2時間撹拌して中和した。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(ダウ・ケミカル社製、比誘電率8.3(20℃))984.8gを加え、減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、加圧濾過を行った。
得られた組成物は、粘度19.9mPa・s、不揮発分50.3質量%、溶剤を除くシリコーン成分の重量平均分子量3,900の液体であった。平均式(I)におけるa~eの値は、それぞれa=0.03、b=0.64、c=0.33、d=0、e=0.11であった。
【0053】
[実施例1-6]
テトラメトキシシラン(東京化成工業(株)製):30.4g(0.2モル)、ヘキサメチルジシロキサン(東京化成工業(株)製):32.4g(0.2モル)、メチルトリメトキシシラン:KBM-13(信越化学工業(株)製)313.7g(2.1モル)、ジメチルジメトキシシラン:KBM-22(信越化学工業(株)製)386.9g(3.0モル)、フェニルトリメトキシシラン:KBM-103(信越化学工業(株)製)778.7g(3.6モル)、ジフェニルジメトキシシラン:KBM-202(信越化学工業(株)製)20.8g(0.1モル)、メタンスルホン酸4.8gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水253.2gを添加し、80℃で2時間撹拌した。合成ハイドロタルサイト23.9gを投入し、2時間撹拌して中和した。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(ダウ・ケミカル社製、比誘電率8.3(20℃))990.8gを加え、減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、加圧濾過を行った。
得られた組成物は、粘度22.2mPa・s、不揮発分51.2質量%、溶剤を除くシリコーン成分の重量平均分子量4,800の液体であった。平均式(I)におけるa~eの値は、それぞれa=0.03、b=0.62、c=0.32、d=0.03、e=0.11であった。
【0054】
[2]アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート溶剤を含まない組成物の製造
[比較例1-1]
ヘキサメチルジシロキサン(東京化成工業(株)製):32.4g(0.2モル)、メチルトリメトキシシラン:KBM-13(信越化学工業(株)製)299.0g(2.0モル)、ジメチルジメトキシシラン:KBM-22(信越化学工業(株)製)387.1g(3.0モル)、フェニルトリメトキシシラン:KBM-103(信越化学工業(株)製)803.7g(3.8モル)、ジフェニルジメトキシシラン:KBM-202(信越化学工業(株)製)25.3g(0.1モル)、メタンスルホン酸4.9g、キシレン(比誘電率2.37(20℃))990.2gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水254.9gを添加し、80℃で2時間撹拌した。重曹5.0gを投入し、2時間撹拌して中和した。減圧下にてメタノールを留去した後、水洗工程によって重曹を除去し、再び減圧留去により揮発成分を除去した後に加圧濾過にて精製した。
得られた組成物は、粘度10mPa・s、不揮発分49.4質量%、溶剤を除くシリコーン成分の重量平均分子量5,000の液体であった。平均式(I)におけるa~eの値は、それぞれa=0、b=0.64、c=0.33、d=0.03、e=0.13であった。
【0055】
[比較例1-2]
ヘキサメチルジシロキサン(東京化成工業(株)製):6.6g(0.04モル)、メチルトリメトキシシラン:KBM-13(信越化学工業(株)製)148.0g(1.0モル)、フェニルトリメトキシシラン:KBM-103(信越化学工業(株)製)111.7g(0.5モル)、メタンスルホン酸0.8g、キシレン(比誘電率2.37(20℃))160.0gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水49.8gを添加し、80℃で2時間撹拌した。重曹0.9gを投入し、2時間撹拌して中和した。減圧下にてメタノールを留去した後、水洗工程によって重曹を除去し、再び減圧留去により揮発成分を除去した後に加圧濾過にて精製した。
得られた組成物は、粘度15mPa・s、不揮発分52.4質量%、溶剤を除くシリコーン成分の重量平均分子量6,200の液体であった。平均式(I)におけるa~eの値は、それぞれa=0、b=0.96、c=0、d=0.04、e=0.17であった。
【0056】
[比較例1-3]
メチルトリメトキシシラン:KBM-13(信越化学工業(株)製)148.0g(1.0モル)、フェニルトリメトキシシラン:KBM-103(信越化学工業(株)製)111.7g(0.5モル)、メタンスルホン酸0.8g、キシレン(比誘電率2.37(20℃))160.0gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水49.2gを添加し、80℃で2時間撹拌した。重曹0.9gを投入し、2時間撹拌して中和した。減圧下にてメタノールを留去した後、水洗工程によって重曹を除去し、再び減圧留去により揮発成分を除去した後に加圧濾過にて精製した。
得られた組成物は、粘度25mPa・s、不揮発分51.9質量%、溶剤を除くシリコーン成分の重量平均分子量8,500の液体であった。平均式(I)におけるa~eの値は、それぞれa=0、b=1.0、c=0、d=0、e=0.21であった。
【0057】
[比較例1-4]
メチルトリメトキシシラン:KBM-13(信越化学工業(株)製)29.9g(0.2モル)、ジメチルジメトキシシラン:KBM-22(信越化学工業(株)製)38.3g(0.3モル)、フェニルトリメトキシシラン:KBM-103(信越化学工業(株)製)80.4g(0.4モル)、ジフェニルジメトキシシラン:KBM-202(信越化学工業(株)製)2.5g(0.01モル)、メタンスルホン酸0.5g、キシレン(比誘電率2.37(20℃))100.0gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水25.3gを添加し、80℃で2時間撹拌した。重曹0.6gを投入し、2時間撹拌して中和した。減圧下にてメタノールを留去した後、水洗工程によって重曹を除去し、再び減圧留去により揮発成分を除去した後に加圧濾過にて精製した。
得られた組成物は、粘度10mPa・s、不揮発分49.4質量%、溶剤を除くシリコーン成分の重量平均分子量5,000の液体であった。平均式(I)におけるa~eの値は、それぞれa=0、b=0.66、c=0.34、d=0、e=0.13であった。
【0058】
[比較例1-5]
テトラメトキシシラン(東京化成工業(株)製):30.4g(0.2モル)、メチルトリメトキシシラン:KBM-13(信越化学工業(株)製)299g(2.0モル)、ジメチルジメトキシシラン:KBM-22(信越化学工業(株)製)387.0g(3.0モル)、フェニルトリメトキシシラン:KBM-103(信越化学工業(株)製)803.7g(3.8モル)、ジフェニルジメトキシシラン:KBM-202(信越化学工業(株)製)25.3g(0.1モル)、メタンスルホン酸4.9g、キシレン(比誘電率2.37(20℃))1000.0gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水254.9gを添加し、80℃で2時間撹拌した。重曹5.0gを投入し、2時間撹拌して中和した。減圧下にてメタノールを留去した後、水洗工程によって重曹を除去し、再び減圧留去により揮発成分を除去した後に加圧濾過にて精製した。
得られた組成物は、粘度32.8mPa・s、不揮発分53.3質量%、溶剤を除くシリコーン成分の重量平均分子量7,600の液体であった。平均式(I)におけるa~eの値は、それぞれa=0.03、b=0.64、c=0.33、d=0、e=0.17であった。
【0059】
[比較例1-6]
ヘキサメチルジシロキサン(東京化成工業(株)製):32.4g(0.2モル)、テトラメトキシシラン(東京化成工業(株)製):30.4g(0.2モル)、メチルトリメトキシシラン:KBM-13(信越化学工業(株)製)299g(2.0モル)、ジメチルジメトキシシラン:KBM-22(信越化学工業(株)製)387.0g(3.0モル)、フェニルトリメトキシシラン:KBM-103(信越化学工業(株)製)803.7g(3.8モル)、ジフェニルジメトキシシラン:KBM-202(信越化学工業(株)製)25.3g(0.1モル)、メタンスルホン酸4.9g、キシレン(比誘電率2.37(20℃))1000.0gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水254.9gを添加し、80℃で2時間撹拌した。重曹5.0gを投入し、2時間撹拌して中和した。減圧下にてメタノールを留去した後、水洗工程によって重曹を除去し、再び減圧留去により揮発成分を除去した後に加圧濾過にて精製した。
得られた組成物は、粘度12mPa・s、不揮発分50.9質量%、溶剤を除くシリコーン成分の重量平均分子量4,900の液体であった。平均式(I)におけるa~eの値は、それぞれa=0.03、b=0.63、c=0.31、d=0.03、e=0.11であった。
【0060】
[3]被覆物品の製造
[実施例2-1~2-6,比較例2-1~2-6]
上記実施例1-1~1-6および比較例-1~-6で得られた組成物100質量部に対し、硬化触媒としてアルミニウムアルコキシド化合物(アルミニウムエチルアセトアセテートジノルマルブチレートおよびアルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノノルマルブチレートの混合物)DX-9740(信越化学工業(株)製)を5質量部加え、フローコートにより金属基板上に塗布し、180℃の乾燥機で30分加熱して焼付を行った。実施例2-1~2-6の組成物中の(B)成分の含有量は15質量%以上である。 得られた被覆物品についてラビング試験および鉛筆硬度を評価した。結果を表1に示す。
(1)ラビング試験
アセトンをベンコットM-3II(旭化成(株)製、面積4cm2)に浸し、荷重500gで表面を往復回数30回塗擦し、目視での塗膜外観を評価した。ラビング試験後に試験前の塗膜外観と比べ変化が見られないものをOK、塗膜の剥がれや白色化が見られたものをNGとした。
(2)鉛筆硬度
JIS K5600-5-4に準じて750g荷重にて測定した。なお、6Bの鉛筆で傷が見られた場合は<6Bとした。
【0061】
[実施例3-1~3-6,比較例3-1~3-6]
180℃の乾燥機で60分の加熱焼付に変更した以外は、上記実施例2-1~2-6,比較例2-1~2-6と同様の処方によって実施例3-1~3-6,比較例3-1~3-6の組成物を製造し、被覆物品の塗膜評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
[実施例4-1~4-6,比較例4-1~4-6]
180℃の乾燥機で120分の加熱焼付に変更した以外は、上記実施例2-1~2-6,比較例2-1~2-6と同様の処方によって実施例4-1~4-6,比較例4-1~4-6の組成物を製造し、被覆物品の評価を行った。結果を表3に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
表1に示されるように、(B)成分を含有する実施例2-1~2-6において、180℃30分で、アセトンラビング試験に耐える硬化膜となったのに対し、(B)成分を含有していない比較例2-1~2-6では、180℃30分においてアセトンラビングにより表面に白化が見られた。
また、180℃60分加熱を行った際の鉛筆硬度に関しても、表2に示されるように、実施例3-1~3-6において、比較例3-1~3-6に比べて鉛筆硬度が硬くなっている傾向が顕著にみられることから(B)成分による硬化促進が確認できる。
さらに長時間の180℃120分加熱を行った表3の結果では、実施例4-1~4-6においてはHB以上の高硬度の被膜であるのに対し、比較例4-1~4-6では2B以下のやわらかい膜であることが分かる。
すなわち、(B)成分を含有する実施例の組成物は、(B)成分を含有しない比較例の組成物に比べて低温で硬化し、高硬度の被覆物品を与える。