(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】有機エレクトロニクス材料、インク組成物、有機層、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子、照明装置、表示素子、及び表示装置
(51)【国際特許分類】
H10K 50/155 20230101AFI20240402BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20240402BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20240402BHJP
H10K 50/17 20230101ALI20240402BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240402BHJP
H10K 71/12 20230101ALI20240402BHJP
H10K 71/30 20230101ALI20240402BHJP
H10K 77/10 20230101ALI20240402BHJP
H10K 85/10 20230101ALI20240402BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240402BHJP
【FI】
H10K50/155
G09F9/30 365
G09F9/30 308Z
C08G61/12
H10K50/17 171
H10K59/10
H10K71/12
H10K71/30
H10K77/10
H10K85/10
H10K85/60
(21)【出願番号】P 2020119705
(22)【出願日】2020-07-13
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】宮 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】加茂 和幸
(72)【発明者】
【氏名】福島 伊織
(72)【発明者】
【氏名】田村 尚幹
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 悟史
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/195559(WO,A1)
【文献】特開2005-093427(JP,A)
【文献】特開2013-155294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に1つ以上の電荷輸送性を有する構造単位を有し、かつ、少なくとも1つ以上の架橋性置換基を有する化合物と、
ハロゲン化アリール基を有するホウ素化合物と、を含
み、
前記分子内に1つ以上の電荷輸送性を有する構造単位を有し、かつ、少なくとも1つ以上の架橋性置換基を有する化合物がポリマーであり、
前記ポリマーが、ポリマーの末端部を構成する1価の構造単位として、下記2つの構造部位を有し、
前記ホウ素化合物がトリ(ハロゲン化アリール)ボランである、有機エレクトロニクス材料。
【化1】
(式中の*は他の構造単位との結合部位を表す。)
【請求項2】
前記ホウ素化合物がトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランである、請求項
1に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項3】
前記電荷輸送性を有する構造単位が、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フラン構造、及びフルオレン構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種の構造単位を含む、請求項
1又は2に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項4】
前記架橋性置換基が、炭素―炭素不飽和結合、炭素数3~5であるシクロアルキル基、環状エーテル基、ジケテン基、エピスルフィド基、ラクトン基、ラクタム基、及びヘテロ原子を有する複素環からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1~
3のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項5】
前記架橋性置換基が環状エーテル基であって、前記環状エーテル基がエポキシ基及びオキセタニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1~
4のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項6】
前記ポリマーが、分岐構造を有する、請求項
1~5のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項7】
前記ポリマーが、分岐構造を構成する3価の構造単位として、下記構造部位を有する、請求項6記載の有機エレクトロニクス材料。
【化2】
(式中の*は他の構造単位との結合部位を表す。)
【請求項8】
前記ポリマーが、電荷輸送性を有する構造単位として、下記構造部位を有する、請求項1~7のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【化3】
(式中の*は他の構造単位との結合部位を表す。)
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含む、インク組成物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料、又は請求項9に記載のインク組成物を用いて形成された、有機層。
【請求項11】
請求項10に記載の有機層を少なくとも一つ備える、有機エレクトロニクス素子。
【請求項12】
請求項10に記載の有機層を少なくとも一つ備える、有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項13】
フレキシブル基板をさらに備える、請求項12に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項14】
樹脂フィルム基板を更に備える、請求項12記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子。
【請求項16】
請求項12~14のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置。
【請求項17】
請求項12~14のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示装置。
【請求項18】
請求項16に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、有機エレクトロニクス材料、インク組成物、有機層、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子(「有機EL素子」ともいう)、照明装置、表示素子、及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプ等の代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0003】
有機EL素子は、使用する有機材料から、低分子化合物を用いる低分子型有機EL素子と、高分子化合物を用いる高分子型有機EL素子の2つに大別される。有機EL素子の製造方法は、主に真空系で成膜が行われる乾式プロセスと、凸版印刷、凹版印刷等の有版印刷、インクジェット等の無版印刷などにより成膜が行われる塗布式プロセスとの2つに大別される。簡易成膜が可能なため、塗布式プロセスは、今後の大画面有機ELディスプレイには不可欠な方法として期待されている。例えば、特許文献1には、3方向に分岐する構造を有するポリマーまたはオリゴマーを含む有機エレクトロニクス材料が開示されている。
【0004】
また、有機EL素子の発光効率及び/又は寿命を改善する目的で、電荷輸送性の化合物にイオン性化合物を混合して用いる試みがなされている。例えば、特許文献2には、正孔輸送性高分子化合物に、イオン性化合物としてトリス(4-ブロモフェニルアミニウムヘキサクロロアンチモネート)(tris(4-bromophenylaminium hexachloroantimonate):TBPAH)を混合することで、低電圧駆動が可能な有機電界発光素子が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2010/140553号
【文献】特開平11-251067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機EL素子の高効率化及び長寿命化のためには、有機層を多層化し、各々の層の機能を分離することが望ましい。しかし、塗布式プロセスにおいては、インク組成物を用いて多層化が行われるところ、上層を塗布する際に、上層に含まれる溶媒により下層が溶解してしまうという問題が生じることがある。
【0007】
本発明の実施形態は、上記に鑑み、塗布式プロセスに適し、耐溶剤溶解性(以下、「耐溶剤性」ともいう)に優れた有機層を形成することができる有機エレクトロニクス材料及びインク組成物を提供することを課題とする。本発明の他の実施形態は、有機エレクトロニクス素子の特性向上に適した有機層を提供することである。本発明の他の実施形態は、優れた特性を有する有機エレクトロニクス素子、有機EL素子、表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的の下、鋭意検討を重ねたところ、電荷輸送性を示す構造単位を有し、かつ、少なくとも1つ以上の架橋性置換基を有する化合物と、特定の構造を有するホウ素化合物とを含有する材料を用いて形成される有機層が、優れた耐溶剤性を示すことを見出した。
【0009】
本発明の実施形態の例を以下に列挙する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0010】
(1)分子内に1つ以上の電荷輸送性を有する構造単位を有し、かつ、少なくとも1つ以上の架橋性置換基を有する化合物と、ハロゲン化アリール基を有するホウ素化合物と、を含む有機エレクトロニクス材料。
【0011】
(2)前記ホウ素化合物がトリ(ハロゲン化アリール)ボランである、(1)に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0012】
(3)前記ホウ素化合物がトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランである、(1)又は(2)に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0013】
(4)前記電荷輸送性を有する構造単位が、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フラン構造、及びフルオレン構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種の構造単位を含む、(1)~(3)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【0014】
(5)前記架橋性置換基が、炭素―炭素不飽和結合、炭素数3~5であるシクロアルキル基、環状エーテル基、ジケテン基、エピスルフィド基、ラクトン基、ラクタム基、及びヘテロ原子を有する複素環からなる群から選択される少なくとも1種を含む(1)~(4)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【0015】
(6)前記架橋性置換基が環状エーテル基であって、前記環状エーテル基がエポキシ基及びオキセタニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含む(1)~(5)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【0016】
(7)前記分子内に1つ以上の電荷輸送性を有する構造単位を有し、かつ、少なくとも1つ以上の架橋性置換基を有する化合物がポリマーである(1)~(6)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【0017】
(8)前記ポリマーが分岐構造を有する(7)に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0018】
(9)(1)~(8)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含む、インク組成物。
【0019】
(10)(1)~(8)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料、又は(9)に記載のインク組成物を用いて形成された、有機層。
【0020】
(11)(10)に記載の有機層を少なくとも一つ備える、有機エレクトロニクス素子。
【0021】
(12)(10)に記載の有機層を少なくとも一つ備える、有機エレクトロルミネセンス素子。
【0022】
(13)フレキシブル基板をさらに備える、(12)に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0023】
(14)樹脂フィルム基板を更に備える、(12)記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0024】
(15)(12)~(14)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子。
【0025】
(16)(12)~(14)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置。
【0026】
(17)(12)~(14)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示装置。
【0027】
(18)(16)に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置。
【発明の効果】
【0028】
本発明の実施形態によれば、塗布式プロセスに適し、かつ、耐溶剤性に優れた有機層を形成することができる有機エレクトロニクス材料及びインク組成物を提供することができる。また、本発明の他の実施形態によれば、有機エレクトロニクス素子の特性の向上に適している有機層を提供することができる。本発明の他の実施形態によれば、優れた特性を有する有機エレクトロニクス素子、有機EL素子、表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態である有機EL素子の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0031】
[有機エレクトロニクス材料]
本発明の実施形態に係る有機エレクトロニクス材料は、電荷輸送性を示す構造単位及び架橋性置換基を有する化合物(以下、「電荷輸送性材料」ともいう)、及びハロゲン化アリール基を有するホウ素化合物(以下、「アリールホウ素化合物」ともいう)を含有する。
【0032】
<電荷輸送性材料>
電荷輸送性材料は、分子内に1つ以上の電荷輸送性を有する構造単位を有し、かつ、少なくとも1つ以上の架橋性置換基を有する化合物であればよく、低分子化合物であっても、ポリマーであってもよい。低分子化合物の構造の例として、以下が挙げられる。下記構造中、「T」は構造単位Tを、「L」は構造単位Lを表す。構造単位T及び構造単位Lについては、後述する。また、分子内に1つ以上の電荷輸送性を有する構造単位、及び架橋性置換基についても後述するものを用いることができる。
【0033】
【0034】
耐熱性や成膜性の観点からは、ポリマーであることが好ましく、有機溶剤への溶解性や昇華、再結晶等による精製が容易な観点からは低分子化合物であることが好ましい。「ポリマー」は、構造単位の繰り返し数が小さい、いわゆる「オリゴマー」も含む概念である。電荷輸送性材料は、市販のものでもよく、当業者が公知の方法で製造したものであってもよく、特に制限はない。また、電荷輸送性材料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
(電荷輸送性ポリマー)
以下、電荷輸送性ポリマーについて説明する。
電荷輸送性ポリマーは電荷を輸送する能力を有する。電荷輸送性ポリマーは、直鎖状であっても、又は、分岐構造を有していてもよい。電荷輸送性ポリマーは、好ましくは、2価の構造単位Lと末端部を構成する1価の構造単位Tとを少なくとも有し、分岐部を構成する3価以上の構造単位Bを更に有していてもよい。電荷輸送性ポリマーは、各構造単位を、それぞれ1種のみ有していても、又は、それぞれ複数種有していてもよい。電荷輸送性ポリマーにおいて、各構造単位は、「1価」~「3価以上」の結合部位において互いに結合している。
【0036】
(電荷輸送性ポリマーの構造)
電荷輸送性ポリマーに含まれる部分構造の例として、以下が挙げられる。電荷輸送性ポリマーは以下の部分構造を有するポリマーに限定されない。部分構造中、「L」は構造単位Lを、「T」は構造単位Tを、「B」は構造単位Bを表す。下記に示す電荷輸送性ポリマーに含まれる部分構造において式中の「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。以下の部分構造中、複数のLは、互いに同一の構造単位であっても、互いに異なる構造単位であってもよい。T及びBについても、同様である。
【0037】
直鎖状の電荷輸送性ポリマー
【0038】
【0039】
分岐構造を有する電荷輸送性ポリマー
【0040】
【0041】
(構造単位L)
構造単位Lは、電荷輸送性を有する2価の構造単位である。構造単位Lは、電荷を輸送する能力を有する原子団を含んでいればよく、特に限定されない。例えば、構造単位Lは、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ビフェニレン構造、ターフェニレン構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、テトラセン構造、フェナントレン構造、ジヒドロフェナントレン構造、ピリジン構造、ピラジン構造、キノリン構造、イソキノリン構造、キノキサリン構造、アクリジン構造、ジアザフェナントレン構造、フラン構造、ピロール構造、オキサゾール構造、オキサジアゾール構造、チアゾール構造、チアジアゾール構造、トリアゾール構造、ベンゾチオフェン構造、ベンゾオキサゾール構造、ベンゾオキサジアゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンゾチアジアゾール構造、ベンゾトリアゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。芳香族アミン構造は、好ましくはトリアリールアミン構造であり、より好ましくはトリフェニルアミン構造である。
【0042】
一実施形態において、構造単位Lは、優れた正孔輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ピロール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましく、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることがより好ましい。他の実施形態において、構造単位Lは、優れた電子輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、フルオレン構造、ベンゼン構造、フェナントレン構造、ピリジン構造、キノリン構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましい。
【0043】
構造単位Lの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Lは以下に限定されるものではない。
【0044】
【0045】
Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Rは全てが水素原子であってもよい。また、Rが置換基である場合、該置換基は、それぞれ独立に、-R1、-OR2、-SR3、-OCOR4、-COOR5、-SiR6R7R8、ハロゲン原子、及び、後述する架橋性置換基を含む基からなる群から選択されることが好ましい。R1~R8は、それぞれ独立に、水素原子;炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐のアルキル基;又は、炭素数2~30個のアリール基又はヘテロアリール基を表す。アルキル基は、更に、炭素数2~20個のアリール基又はヘテロアリール基により置換されていてもよく、アリール基又はヘテロアリール基は、更に、炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐のアルキル基により置換されていてもよい。Rは、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、又はアルキル置換アリール基である。Arは、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。アリール基とは、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団をいう。ヘテロアリール基とは、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団をいう。アリーレン基とは、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団をいう。また、ヘテロアリーレン基とは、芳香族複素環から水素原子2個を除いた原子団をいう。
【0046】
芳香族炭化水素の具体例として、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、フルオレン、及びフェナントレン等が挙げられる。芳香族複素環の具体例として、ピリジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントロリン、フラン、ピロール、チオフェン、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、トリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾトリアゾール、及びベンゾチオフェン等が挙げられる。
【0047】
また、後述する有機層の残膜率向上の観点から、上記構造のRが電子吸引性基である構造単位Lが好ましく、例えば、構造単位Lが電子吸引性基であるフルオロ基などのハロゲン原子を含むことが好ましい。
【0048】
(構造単位T)
構造単位Tは、電荷輸送性ポリマーの末端部を構成する1価の構造単位である。構造単位Tは、特に限定されず、例えば、置換又は非置換の、芳香族炭化水素構造、芳香族複素環構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。構造単位Tが構造単位Lと同じ構造を有していてもよい。一実施形態において、構造単位Tは、電荷の輸送性を低下させずに耐久性を付与するという観点から、置換又は非置換の芳香族炭化水素構造であることが好ましく、置換又は非置換のベンゼン構造であることがより好ましい。また、他の実施形態において、後述するように、電荷輸送性ポリマーが末端部に架橋性置換基を有する構造単位Tを含む構造であってもよい。当該架橋性置換基の詳細は、後述で説明する。構造単位Tは、価数以外において構造単位Lと同じ構造を有していても、又は、異なる構造を有していてもよい。
【0049】
構造単位Tの具体例として以下が挙げられる。構造単位Tは、以下に限定されるものではない。
【0050】
【0051】
Rは、構造単位LにおけるRとして挙げた水素原子又は置換基が挙げられる。電荷輸送性ポリマーが末端部に架橋性置換基を有する場合、Rの少なくとも1つが、架橋性置換基を含む基であることが好ましい。また、有機層の残膜率向上の観点から、上記構造のRが電子吸引性基である構造単位Tが好ましく、例えば、構造単位Tが電子吸引性基であるフルオロ基などのハロゲン原子を含むことが好ましく、パーハロゲン化アルキル基がより好ましく、パーフルオロアルキル基がさらに好ましく、パーフルオロメチル基が特に好ましい。さらに、上記構造のRが架橋性置換基を含む構造単位Tが好ましく、例えば、エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタニル基等の環状エーテル基を含むことが好ましく、上記構造のベンゼン構造と環状エーテル基とがエーテル結合されたものがより好ましい。
【0052】
(構造単位B)
構造単位Bは、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合に、分岐部を構成する3価以上の構造単位である。構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、好ましくは6価以下の構造単位であり、より好ましくは3価又は4価の構造単位である。構造単位Bは、電荷輸送性を有する単位であることが好ましい。例えば、構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、縮合多環式芳香族炭化水素構造、及び、これらの1種又は2種以上を含有する構造から選択される。構造単位Bは、価数以外において構造単位Lと同じ構造を有していても、又は、異なる構造を有していてもよく、また、構造単位Tと同じ構造を有していても、又は、異なる構造を有していてもよい。
【0053】
構造単位Bの具体例として以下が挙げられる。構造単位Bは以下に限定されるものではない。
【0054】
【0055】
Wは、3価の連結基を表し、例えば、炭素数2~30個のアレーントリイル基又はヘテロアレーントリイル基を表す。アレーントリイル基は、芳香族炭化水素から水素原子3個を除いた原子団である。ヘテロアレーントリイル基は、芳香族複素環から水素原子3個を除いた原子団である。Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、例えば、それぞれ独立に、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Arは、好ましくはアリーレン基、より好ましくはフェニレン基である。Yは、2価の連結基を表し、例えば、構造単位LにおけるR(ただし、架橋性置換基を含む基を除く。)として挙げた置換基のうち水素原子を1個以上有する基から、更に1個の水素原子を除いた2価の基が挙げられる。Zは、炭素原子、ケイ素原子、又はリン原子のいずれかを表す。構造単位中、縮合環、W、Y、及びArは、置換基を有していてもよく、置換基の例として、構造単位LにおけるRとして挙げた置換基等が挙げられる。
【0056】
(架橋性置換基)
一実施形態において、重合反応により硬化させ、溶剤への溶解度を変化させる観点から、電荷輸送性ポリマーは、架橋性置換基を少なくとも1つ有することが好ましい。「架橋性置換基」とは、熱及び/又は光を印加することにより、分子内及び/又は分子間で互いに結合を形成し得る官能基をいう。
【0057】
架橋性置換基としては、炭素-炭素不飽和結合を有する基(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、エチニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、メタクリロイルアミノ基、ビニルオキシ基、ビニルアミノ基等)、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等の炭素数3~5のシクロアルキル基;シクロプロペニル基、シクロブテニル基等の炭素数3~5のシクロアルケニル基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタニル基等の環状エーテル基;ジケテン基;エピスルフィド基;ラクトン基;ラクタム基等)、ヘテロ原子を有する複素環を有する基(例えば、フラン-イル基、ピロール-イル基、チオフェン-イル基、シロール-イル基)などが挙げられる。架橋性置換基としては、特に、エチニル基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シクロブテニル基、エポキシ基、及びオキセタニル基が好ましく、透明性及び有機エレクトロニクス素子の特性の観点から、ビニル基、シクロブテニル基、エポキシ基、又はオキセタニル基がより好ましく、反応性の観点からエポキシ基又はオキセタニル基がさらに好ましい。また、上記の炭素-炭素不飽和結合を有する基、小員環を有する基、及びヘテロ原子を有する複素環を有する基は置換基を有していてもよく、例えば、アルキル基を有することが好ましい。
【0058】
架橋性置換基の自由度を上げ、重合反応を生じさせやすくする観点からは、電荷輸送性ポリマーの主骨格と架橋性置換基とが、アルキレン鎖で連結されていてもよい。また、例えば、電極上に有機層を形成する場合、ITO(酸化インジウム-酸化錫)等の親水性電極との親和性を向上させる観点からは、エチレングリコール鎖、ジエチレングリコール鎖等の親水性の鎖で連結されていてもよい。更に、架橋性置換基を導入するために用いられるモノマーの調製が容易になる観点からは、電荷輸送性ポリマーは、アルキレン鎖及び/又は親水性の鎖の末端部、すなわち、これらの鎖と架橋性置換基との連結部、及び/又は、これらの鎖と電荷輸送性ポリマーの骨格との連結部に、エーテル結合又はエステル結合を有していてもよい。前述の「架橋性置換基を含む基」とは、架橋性置換基それ自体、又は、架橋性置換基とアルキレン鎖等とを合わせた基を意味する。架橋性置換基を含む基として、例えば、国際公開第2010/140553号に例示された基を好適に用いることができる。
【0059】
架橋性置換基は、電荷輸送性ポリマーの末端部(すなわち、構造単位T)に導入されていても、末端部以外の部分(すなわち、構造単位L又はB)に導入されていても、末端部と末端以外の部分の両方に導入されていてもよい。硬化性の観点からは、少なくとも末端部に導入されていることが好ましく、硬化性及び電荷輸送性の両立を図る観点からは、末端部のみに導入されていることが好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合、架橋性置換基は、電荷輸送性ポリマーの主鎖に導入されていても、側鎖に導入されていてもよく、主鎖と側鎖の両方に導入されていてもよい。
【0060】
架橋性置換基は、溶解度の変化に寄与する観点からは、電荷輸送性ポリマー中に多く含まれる方が好ましい。一方、架橋性置換基は、電荷輸送性を妨げない観点からは、電荷輸送性ポリマー中に含まれる量が少ない方が好ましい。架橋性置換基の含有量は、これらを考慮し、適宜設定できる。
【0061】
例えば、電荷輸送性ポリマー1分子あたりの架橋性置換基数は、十分な溶解度の変化を得る観点から、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。また、架橋性置換基数は、電荷輸送性を保つ観点から、1,000個以下が好ましく、500個以下がより好ましい。
【0062】
電荷輸送性ポリマー1分子あたりの架橋性置換基数は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、架橋性置換基の仕込み量(例えば、架橋性置換基を有するモノマーの仕込み量)、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。また、架橋性置換基数は、電荷輸送性ポリマーの1H NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける架橋性置換基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0063】
(数平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの数平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。数平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、2,000以上が更に好ましい。また、数平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下が更に好ましい。
【0064】
(重量平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。重量平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上が更に好ましい。また、重量平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、400,000以下が更に好ましい。
【0065】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0066】
(構造単位の割合)
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Lの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Lの割合は、構造単位T及び必要に応じて導入される構造単位Bを考慮すると、全構造単位を基準として、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下が更に好ましい。
【0067】
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Tの割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点、又は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点から、全構造単位を基準として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Tの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
【0068】
電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを有する場合、構造単位Bの割合は、有機EL素子の耐久性向上の観点から、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Bの割合は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点、又は、十分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。
【0069】
電荷輸送性ポリマーが架橋性置換基を有する場合、架橋性置換基の割合は、電荷輸送性ポリマーを効率よく硬化させるという観点から、全構造単位を基準として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上が更に好ましい。また、架橋性置換基の割合は、良好な電荷輸送性を得るという観点から、全構造単位を基準として、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。なお、ここでの「架橋性置換基の割合」とは、架橋性置換基を有する構造単位の割合をいう。
【0070】
電荷輸送性、耐久性、生産性等のバランスを考慮すると、構造単位L及び構造単位Tの割合(モル比)は、L:T=100:1~70が好ましく、100:3~50がより好ましく、100:5~30が更に好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを有する場合、構造単位L、構造単位T、及び構造単位Bの割合(モル比)は、L:T:B=100:10~200:10~100が好ましく、100:20~180:20~90がより好ましく、100:40~160:30~80が更に好ましい。
【0071】
構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量を用いて求めることができる。また、構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーの1H NMRスペクトルにおける各構造単位に由来するスペクトルの積分値を利用し、平均値として算出することができる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0072】
(電荷輸送性ポリマーの製造方法)
電荷輸送性ポリマーは、種々の合成方法により製造でき、特に限定されない。例えば、鈴木カップリング、根岸カップリング、薗頭カップリング、スティルカップリング、ブッフバルト・ハートウィッグカップリング等の公知のカップリング反応を用いることができる。鈴木カップリングは、芳香族ボロン酸誘導体と芳香族ハロゲン化物の間で、Pd触媒を用いたクロスカップリング反応を起こさせるものである。鈴木カップリングによれば、所望とする芳香環同士を結合させることにより、電荷輸送性ポリマーを簡便に製造できる。
【0073】
カップリング反応では、触媒として、例えば、Pd(0)化合物、Pd(II)化合物、Ni化合物等が用いられる。また、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)等を前駆体とし、ホスフィン配位子と混合することにより発生させた触媒種を用いることもできる。電荷輸送性ポリマーの合成方法については、例えば、国際公開第2010/140553号の記載を援用できる。
【0074】
<アリールホウ素化合物>
ハロゲン化アリール基を有するホウ素化合物(アリールホウ素化合物)はホウ素原子にハロゲン化アリール基が1つ以上結合した化合物であればよい。ホウ素原子は第13族原子であることから、ホウ素原子に水素原子又は置換基が3つまで結合することが可能であり、アリール基が1つ結合したモノアリールボラン、アリール基が2つ結合したビスアリールボラン、アリール基が3つ結合したトリアリールボランのいずれであってもよい。アリール基の1つ以上はハロゲン原子で置換された「ハロゲン化アリール基」である。ホウ素原子に結合する置換基は同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよい。アリールホウ素化合物の安定性の観点から、トリアリールボランが好ましく、トリ(ハロゲン化アリール)ボランがより好ましい。
【0075】
また、ハロゲン化アリール基は、ハロゲン原子で置換されたアリール基に限られず、ハロゲン原子で置換されたヘテロアリール基も含む概念である。
【0076】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、テトリル基、ピレニル等の縮合環芳香族炭化水素基;ビフェニル基、ターフェニル基等のポリフェニル基等が挙げられる。ヘテロアリール基としては、例えば、ピリジル基、フラニル基、チオフェニル基等の複素環芳香族基等が挙げられる。
【0077】
アリール基はハロゲン原子、炭素原子又は水素原子以外の原子を含有する官能基で置換されていてもよく、アリールホウ素化合物の安定性の観点から電子吸引性の官能基で置換されているアリール基が好ましい。電子吸引性基としては、例えば、エーテル基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。アリール基は、置換基を1つ以上有していることが好ましい。
【0078】
ハロゲン化アリール基に含まれるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子等が挙げられ、アリールホウ素化合物の安定性の観点から、フッ素原子を含むことが好ましい。また、電子に対する優れた安定性を得る観点から、ハロゲン化アリール基に含まれるハロゲン原子の数は大きい方が好ましい。
【0079】
トリアリールボランの具体例として以下が挙げられるがアリールホウ素化合物はこれに限定されるものではない。
【0080】
【0081】
上記構造式中、Ar1~Ar3は、それぞれ独立に、アリール基、又はハロゲン化アリール基を表し、Ar1~Ar3の少なくとも1つ以上はハロゲン化アリール基である。
【0082】
また、トリアリールボランは、トリ(ハロゲン化アリール)ボランである下記構造式に示すような構造であると好ましい。
【0083】
【0084】
上記構造式中、R1~R3は、水素原子又は置換基を表し、該置換基は、それぞれ独立に、-R11、-OR12、-SR13、-OCOR14、-COOR15、及び-SiR16R17R18からなる群から選択されることが好ましい。R11~R18は、それぞれ独立に、水素原子であるか、又は、炭素数1~22個の、直鎖、環状又は分岐の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びアルコキシ基、並びに炭素数2~30個の、アリール基及びヘテロアリール基、からなる群から選択される少なくとも1種である。上記アリール基及びヘテロアリール基は更に置換基を有していてもよい。該置換基は、炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐のアルキル基、又は炭素数2~30個のヘテロアリール基であることが好ましい。
【0085】
上記構造式中、X1~X3は、ハロゲン原子を表し、該ハロゲン原子は、それぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子からなる群から選択される少なくとも1種であり、ホウ素化合物の安定性の観点から、アリールホウ素化合物はフッ素原子を含むことが好ましい。
【0086】
上記構造式中のL、M、Nは、それぞれ独立に、0~5の整数を表し、lは5-Lを満たす整数を表し、mは5-Mを満たす整数を表し、nは5-Nを満たす整数を表し、L、M、Nのうち少なくとも1つは1以上の整数である。また、l、m、n、L、M、及びNが2以上の整数である場合、各置換基又は各ハロゲン原子は同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよく、例えば、lが2のとき、2つのR1が同じ置換基であってもよく、又は異なる置換基であってもよい。また、電子に対する優れた安定性を得る観点から、ハロゲン原子の数(L、M、Nの数)は大きい方が好ましく、例えば、1つのフェニル基に置換するハロゲン原子の数は、1つ以上が好ましく、3つ以上がより好ましく、5つが特に好ましい。
【0087】
上述のハロゲン化アリール基は、アリールホウ素化合物のルイス酸性を高めてアリールホウ素化合物を安定化させる作用がある。本実施形態におけるハロゲン化アリール基を有するホウ素化合物の安定性が向上することで、大気下又は高温化での分解を抑制することができ、混合物の取り扱い性が向上する。また、後述するが、本実施形態におけるハロゲン化アリール基を有するホウ素化合物は電荷輸送性ポリマーの硬化を促進させる重合開始剤として使用することができ、重合反応を進行しやすくなるため安定し、ハロゲン化アリール基を有するホウ素化合物を用いて形成された有機層の残膜率を増加(耐溶剤性を向上)させることができる。
【0088】
上記構造式の具体例として以下が挙げられる。上記構造式は以下に限定されるものではない。
【0089】
【0090】
上記構造式で示すアリールホウ素化合物は、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランであり、取り扱い容易性の観点から、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを用いることが好ましい。トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランは室温空気中で比較的安定な化合物であることから、容易に取り扱うことができる。
【0091】
アリールホウ素化合物は単独で用いてもよく、2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
<その他の成分>
有機エレクトロニクス素子の特性に悪影響を与えない範囲で、任意成分として酸化防止剤、黄変防止剤、紫外線吸収剤、可視光吸収剤、着色剤、可塑剤、安定剤、充填剤等のいわゆる添加剤を添加してもよい。また、有機EL素子の発光効率及び/又は寿命を改善する目的で、有機エレクトロニクス材料にイオン性化合物を混合して用いてもよい。イオン性化合物を混合して用いることで、有機EL素子の導電性の向上や安定性、長寿命化が見込まれる。
【0093】
(イオン性化合物)
本明細書等において、「イオン性化合物」とは、カチオンとアニオンからなる化合物のことをいう。導電性や安定性の観点からアニオンが電子求引性の有機置換基を含むものが好ましく、その例示としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基、ニトロ基、メシル基等のアルキルが置換したアルキルスルホニル基、トシル基、メシチル基等のアリール基が置換したアリールスルホニル基、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の炭素数が通常1以上12以下、好ましくは6以下のアシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数が通常2以上10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の炭素数が通常3以上、好ましくは4以上25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基、アセトキシ等の炭素数が通常2以上20以下のアシルオキシ基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の炭素数が通常1以上10以下、好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル、アルケニル、アルキニル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル、ハロアルケニル、ハロアルキニル基、ペンタフルオロフェニル基などの炭素数が通常6以上20以下のハロアリール基などが挙げられる。
【0094】
また、イオン性化合物におけるカチオンは、特に限定されないが、反応性や取り扱い性の観点から1価のカチオンが好ましい。イオン性化合物のカチオンは、より好ましくは、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウム、カルベニウム(トリチル)、アニリニウム、ビスムトニウム、アンモニウム、セレニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、オキソニウム、キノリニウム、ピロリジニウム、アミニウム、イモニウム、トロピリウム、モルホリニウム、ピペリジニウム、キノリウム、イソキノリウム、チアゾニウム、アクリジウムなどである。
【0095】
また、上記カチオンはポリマーに含有されていてもよい。ポリマーに含有されるカチオンとしては、例えば、特開2009-57436号公報や特開2017-59745号公報などに記載されている。
【0096】
また、イオン性化合物は、電荷輸送性向上の観点からオニウム塩であることが好ましい。オニウム塩とは、例えば、スルホニウムイオン、ヨードニウムイオン、セレニウムイオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、オキソニウムイオン、ビスムトニウムイオン等のカチオンと対アニオンからなる化合物をいう。アニオンの例としては、F-、Cl-、Br-、I-などのハロゲンイオン;OH-;ClO4
-;FSO3
-、ClSO3
-、CH3SO3
-、C6H5SO3
-、CF3SO3
-などのスルホン酸イオン類;HSO4
-、SO4
2-などの硫酸イオン類;HCO3
-、CO3
2-などの炭酸イオン類;H2PO4
-、HPO4
2-、PO4
3-などのリン酸イオン類;PF6
-、PF5OH-などのフルオロリン酸イオン類;BF4
-、B(C6F5)4
-、B(C6H4CF3)4
-などのホウ酸イオン類;AlCl4
-;BiF6
-;SbF6
-、SbF5OH-などのフルオロアンチモン酸イオン類;AsF6
-、AsF5OH-などのフルオロヒ素酸イオン類などが挙げられる。
【0097】
イオン性化合物は単独で用いてもよく、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
(重合開始剤)
有機エレクトロニクス材料は、重合開始剤を含むことができる。ここで、上記アリールホウ素化合物及び/又はイオン性化合物を電荷輸送性ポリマーの硬化を促進させる重合開始剤として用いることができる。重合を開始させる契機としては、熱、光、マイクロ波、放射線、電子線等の印加によって、重合可能な置換基を重合させる能力を発現するものであればよく、特に限定されないが、光照射及び/又は加熱によって重合を開始させるものであることが好ましく、加熱によって重合を開始させるものが最も好ましい。本実施形態におけるアリールホウ素化合物及び/又はイオン性化合物は、熱重合開始剤として使用することができる。すなわち、本実施形態においては、アリールホウ素化合物の少なくとも1種を熱重合開始剤として含むことができる。その結果、本実施形態における電荷輸送性ポリマーが熱重合反応することにより、有機薄膜に耐溶剤性を付与することができる。また、本実施形態では、アリールホウ素化合物の他に、光重合開始剤などのその他の重合開始剤を併せて用いてもよく、感光性および/または感熱性を向上させるための増感剤を含んでいてもよい。
【0099】
本実施形態において、熱重合開始剤として使用することができるアリールホウ素化合物を用いて有機層(有機薄膜)に耐溶剤性を付与するに際し、重合開始剤を用いる条件は、電荷輸送性化合物に対し、0.1~50質量%、より好ましくは0.1~25質量%、さらに好ましくは0.1~20質量%の重合開始剤を混合して用いることが好ましい。重合開始剤を混合する割合がこれより少ない場合、重合が効率よく進行せず溶解度を十分に変化させることができない。また、これより多い場合には、多量の重合開始剤および/または分解物が残存することで、洗浄による効果が低くなってしまう。
【0100】
[インク組成物]
また、本実施形態のインク組成物は、既述の有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含むことを特徴としており、その他の添加剤、例えば重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤などを含んでいてもよい。前記溶媒としては、水やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン、シクロヘキサン等の環状アルカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル、1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、その他、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられるが、好ましくは芳香族溶媒、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテルを使用することができる。
【0101】
本実施形態のインク組成物において、溶媒に対する有機エレクトロニクス材料の含有量は、種々の塗布プロセスに適用できる観点から0.1~50質量%とすることが好ましい。成膜時に残存溶媒を減少させる観点から有機エレクトロニクス材料の含有量は0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、有機エレクトロニクス材料を均一に溶解させる観点から含有量は40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0102】
[有機層]
本実施形態の有機層は、前記有機エレクトロニクス材料、又はインク組成物を用いて形成された層である。溶媒を含有する有機エレクトロニクス材料、又はインク組成物を用いることによって、塗布法により有機層を良好に形成できる。塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法;キャスト法;浸漬法;凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平版印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の有版印刷法;インクジェット法等の無版印刷法などの公知の方法が挙げられる。塗布法によって有機層を形成する場合、塗布後に得られた有機層(塗布層)を、ホットプレート又はオーブンを用いて乾燥させ、溶媒を除去してもよい。
【0103】
有機エレクトロニクス材料が、架橋性置換基を有する電荷輸送性材料及び/又は架橋性置換基を有する化合物を含有すると、光照射、加熱処理等によりこれらの重合反応を進行させ、有機層の溶解度を変化させることができる。有機エレクトロニクス材料において、アリールホウ素化合物及び/又はイオン性化合物は、重合開始剤として機能し得る。溶解度を変化させた有機層を積層することで、有機エレクトロニクス素子の多層化を容易に図ることが可能となる。有機層の形成方法については、例えば、国際公開第2010/140553号の記載を援用できる。
【0104】
乾燥後又は硬化後の有機層の厚さは、電荷輸送の効率を向上させる観点から、好ましくは0.1nm以上であり、より好ましくは1nm以上であり、更に好ましくは3nm以上である。また、有機層の厚さは、電気抵抗を小さくする観点から、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは200nm以下であり、更に好ましくは100nm以下である。
【0105】
有機層の製造方法において、上述の電荷輸送性材料である電子吸引性化合物と該熱重合開始剤とを混合した組成物より薄膜を形成した後、真空中、大気下あるいは窒素又はアルゴン等不活性ガス雰囲気下で加熱すればよい。加熱温度及び時間は、重合反応を十分に進行させられればよく、特に制限はないが、温度については、種々の基板を適用できることから、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。時間は、生産性を上げる観点から、好ましくは8時間以下、より好ましくは2時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。
【0106】
本実施形態の有機層は、後述する有機エレクトロニクス素子及び有機EL素子に用いることができ、いずれの素子も、従来よりも駆動電圧が低く、長い発光寿命を有する。
【0107】
[有機エレクトロニクス素子]
本実施形態の有機エレクトロニクス素子は、前記有機層を少なくとも一つ備える。有機エレクトロニクス素子として、例えば、有機発光ダイオード(OLED)等の有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ等が挙げられる。有機エレクトロニクス素子は、好ましくは、少なくとも一対の電極の間に有機層が配置された構造を有する。本実施形態の有機エレクトロニクス素子は、発光層、有機層、陽極、陰極、基板を備えていれば特に限定されない。有機層は、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、又は電子輸送層として使用することができる。
【0108】
[有機EL素子]
本実施形態の有機EL素子は、電荷輸送性材料とアリールホウ素化合物とを含む有機エレクトロニクス材料からなる有機層を少なくとも一つ備えることをその特徴とするものである。本実施形態の有機EL素子は、発光層、陽極、陰極、基板を備えていれば特に限定されない。有機層は、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、又は電子輸送層として使用することができる。正孔注入層又は正孔輸送層に、本実施形態の有機層を適用することが好ましい。
【0109】
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す断面模式図である。
図1に示す有機EL素子は、多層構造の素子であり、基板8、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層6、発光層1、電子輸送層7、電子注入層5、及び陰極4がこの順に積層された多層構造を有している。以下、各層について詳細に説明する。
【0110】
(発光層)
発光層に用いる材料としては、低分子化合物であっても、ポリマーであってもよく、デンドリマー等も使用可能である。蛍光発光を利用する低分子化合物としては、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクリドン、色素レーザー用色素(例えば、ローダミン、DCM1等)、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq3))、スチルベン、これらの誘導体が挙げられる。蛍光発光を利用するポリマーとしては、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン-トリフェニルアミン共重合体、及びこれらの誘導体や混合物が好適に利用できる。
【0111】
一方、近年、有機EL素子の高効率化のため、燐光有機EL素子の開発も活発に行われている。燐光有機EL素子では、一重項状態のエネルギーのみならず三重項状態のエネルギーも利用することが可能であり、内部量子収率を原理的には100%まで上げることが可能となる。燐光有機EL素子では、燐光を発するドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属を含む金属錯体系燐光材料を、ホスト材料にドーピングすることで燐光発光を取り出す(M.A.Baldo et al.,Nature,Vol.395,p.151(1998)、M.A.Baldo et al.,Apllied Physics Letters,Vol.75,p.4(1999)、M.A.Baldo et al.,Nature,Vol.403,p.750(2000)参照。)。
【0112】
本実施形態の有機EL素子においても、高効率化の観点から、発光層に燐光材料を用いることが好ましい。燐光材料としては、IrやPtなどの中心金属を含む金属錯体などが好適に使用できる。具体的には、Ir錯体としては、例えば、青色発光を呈するFIr(pic)〔イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C2]ピコリネート〕、緑色発光を呈するIr(ppy)3〔ファク トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム〕(前記M.A.Baldo et al.,Nature,Vol.403,p.750(2000)参照)又は赤色発光を呈する(btp)2Ir(acac){ビス〔2-(2’-ベンゾ[4,5-α]チエニル)ピリジナート-N,C3〕イリジウム(アセチル-アセトネート)}、Ir(piq)3〔トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム〕(前記Adachi et al.,Appl.Phys.Lett.,78no.11,2001,1622参照)等が挙げられる。
【0113】
Pt錯体としては、例えば、赤色発光を呈する2、3、7、8、12、13、17、18-オクタエチル-21H、23H-フォルフィンプラチナ(PtOEP)等が挙げられる。
燐光材料は、低分子又はデンドライド種、例えば、イリジウム核デンドリマーが使用され得る。また、これらの誘導体も好適に使用できる。
【0114】
また、発光層に燐光材料が含まれる場合、燐光材料の他に、ホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料としては、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよく、デンドリマーなども使用できる。
【0115】
低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-biphenyl)、mCP(1,3-bis(9-carbazolyl)benzene)、CDBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-2,2’-dimethylbiphenyl)などが、高分子化合物としては、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレンなどが使用でき、これらの誘導体も使用できる。
【0116】
発光層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。塗布法により形成する場合、有機EL素子を安価に製造することができるため、より好ましい。発光層を塗布法によって形成するには、燐光材料と、必要に応じてホスト材料を含む溶液を、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などの公知の方法で所望の基体上に塗布することで行うことができる。
【0117】
(陰極)
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg-Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金であることが好ましい。
【0118】
(陽極)
陽極としては、金属(例えば、Au)又は金属導電率を有する他の材料、例えば、酸化物(例えば、ITO)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン-ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))を使用することもできる。
【0119】
(正孔輸送層、正孔注入層)
上述の有機層を、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一方として使用することが好ましい。上述のとおり、有機エレクトロニクス材料を含む有機層を用いることにより、これらの層を容易に形成することができる。また、例えば、有機EL素子が、上述の有機層を正孔輸送層として有し、さらに正孔注入層を有する場合、正孔注入層には公知の材料を使用してもよい。また、有機EL素子が、上述の有機層を正孔注入層として有し、更に正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層には公知の材料を使用してもよい。さらに、有機EL素子が、上述の有機層を正孔輸送層及び正孔注入層として有してもよい。
【0120】
正孔注入層にトリフェニルアミン構造を含む材料を用いた場合、正孔の移動に対してエネルギー準位の観点から、正孔輸送層に上述の有機層を用いることが好適である。特に、正孔注入層に重合開始剤を含み、かつ正孔輸送層に、前述の電荷輸送性ポリマーとして、架橋性置換基を有する分岐ポリマーを用いた場合、正孔輸送層を硬化可能となり、よって、さらにその上層に有機エレクトロニクス材料及びインク組成物等から構成される発光層を塗布することが可能となる。
【0121】
(電子輸送層、電子注入層)
電子輸送層、電子注入層としては、例えば、フェナントロリン誘導体(例えば、2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline(BCP))、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体(2-(4-Biphenylyl)-5-(4-tert-butylphenyl-1,3,4-oxadiazole) (PBD))、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq3))などが挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も用いることができる。
【0122】
(基板)
本実施形態の有機EL素子に用いることができる基板として、ガラス、プラスチック等の種類は特に限定されることはなく、また、透明のものであれば特に制限は無いが、ガラス、石英、光透過性樹脂フィルム等が好ましく用いられる。樹脂フィルムを用いた場合には、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能であり、フレキシブル基板として機能するため特に好ましい。
【0123】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等を主成分とするフィルム等が挙げられる。
【0124】
また、樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気や酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素や窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0125】
(発光色)
本実施形態の有機EL素子における発光色は特に限定されるものではないが、白色発光素子は家庭用照明、車内照明、時計や液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0126】
白色発光素子を形成する方法としては、現在のところ単一の材料で白色発光を示すことが困難であることから、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させることで白色発光を得ている。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、青色、緑色、赤色の3つの発光極大波長を含有するもの、青色と黄色、黄緑色と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有するものが挙げられる。また発光色の制御は、燐光材料の種類と量を調整することによって行うことができる。
【0127】
[表示素子、照明装置、表示装置]
本実施形態の表示素子は、前記有機EL素子を備えたことを特徴としている。例えば、赤・緑・青(RGB)の各画素に対応する素子として、有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。
画像の形成方法には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。前者は、構造は単純ではあるが垂直画素数に限界があるため文字などの表示に用いる。後者は、駆動電圧は低く電流が少なくてすみ、明るい高精細画像が得られるので、高品位のディスプレイ用として用いられる。
【0128】
また、本実施形態の照明装置は、前記有機EL素子を備えたことを特徴としている。さらに、本実施形態の表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えたことを特徴としている。バックライト(白色発光光源)として上述の照明装置を用い、表示手段として液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置としてもよい。この構成は、公知の液晶表示装置において、バックライトのみを上述の照明装置に置き換えた構成であり、液晶素子部分は公知技術を転用することができる。
【実施例】
【0129】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0130】
(数平均分子量及び重量平均分子量の測定)
以下に記載の数平均分子量及び、溶離液にテトラヒドロフラン(THF)を用いたGPC(ポリスチレン換算)により測定した。測定条件は以下のとおりである。
送液ポンプ :L-6050 株式会社日立ハイテクノロジーズ
UV-Vis検出器:L-3000 株式会社日立ハイテクノロジーズ
カラム :Gelpack (R) GL-A160S/GL-A150S 日立化成株式会社
溶離液 :THF(HPLC用、安定剤を含まない) 和光純薬工業株式会社
流速 :1 mL/min
カラム温度 :室温
分子量標準物質 :標準ポリスチレン
【0131】
<イオン性化合物の合成>
(イオン性化合物1の合成)
200mL広口フラスコにフッ素樹脂コーティングされた磁気撹拌子を入れ、N,N-ジメチル-N-オクタデシルアミン(東京化成工業株式会社製)1.8gを秤量し、アセトン15mL及び純水3mLを加えて10分間撹拌した。得られた溶液を撹拌しながら10質量%塩酸水溶液2.2g滴下した。その後、白色の沈殿物が析出するまでロータリーエバポレーターを用いて溶媒を減圧した。得られた溶液(沈殿物含む)に、撹拌しながら10質量%テトラキス(ペンタフルオロフェニルボラート)ナトリウム塩水溶液46.5gを加えた後、30分間撹拌した。その後、有機層を純水で4回し、沈殿物を濾別した。得られた沈殿物を純水で洗浄後、真空下で乾燥した。乾燥した固体をメタノールに溶解し、0.2μmのメンブレンフィルターを用いて不溶物を除去した後、溶液を純水に注いで白色沈殿を濾別した。得られた白色沈殿物を真空乾燥して、イオン性化合物1を得た。イオン性化合物1の化学構造を下記式に示す。
【0132】
【0133】
<Pd触媒の調製>
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、ガラス製のサンプル管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム73.2mg(80μmol)を秤取り、トルエンを15mL加え、30分間撹拌した。同様に、ガラス製のサンプル管にトリス(t-ブチル)ホスフィン129.6mg(640μmol)を秤取り、トルエンを5mL加え、5分間撹拌した。これらの溶液を混合し、80℃で2時間撹拌し、得られた溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターで不溶物を除去した溶液を触媒とした。すべての溶媒は30分間以上窒素バブルにより脱気したもの使用した。
【0134】
<電荷輸送性材料の合成>
(電荷輸送性ポリマー1の合成)
200mLの三口丸底フラスコ(ガラス製)に、下記モノマー1を5.15g(10.0mmol)、下記モノマー2を1.93g(4.0mmol)、下記モノマー3を1.08g(4.0mmol)、下記モノマー4を1.17g(4.0mmol)及びトルエンを90mL加え、1質量%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液を7.8mL及び3M水酸化カリウム水溶液を14.2mL加えた。すべての溶媒は30分以上窒素バブルにより脱気したもの使用した。反応液が入ったフラスコに還流冷却管及び窒素ガスフロー管取り付け、60℃に加熱したオイルバスにフラスコを浸し30分間撹拌した。続けて上記調整したPd触媒溶液を2.0mL加え、オイルバスの温度を120℃にして反応を行った。反応液を、2時間、加熱還流した。ここまでの全ての操作は窒素気流下で行った。
【0135】
【0136】
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール-水(9:1)混合溶液に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール-水(9:1)混合溶液で洗浄した。得られた沈殿を酢酸エチルで洗浄し、溶出している固形物を真空乾燥した。乾燥した固形物をトルエンに溶解し、金属吸着剤(Strem Chemicals社製「Triphenylphosphine, polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymer」、沈殿物100mgに対して200mg)を加えて、一晩撹拌した。撹拌終了後、金属吸着剤と不溶物とをろ過して取り除き、溶液をメタノールに注いだ。沈殿物を吸引ろ過して、得られた沈殿物をメタノールで洗浄した後、固形物を真空乾燥し、電荷輸送性ポリマー1を得た。電荷輸送性ポリマー1の数平均分子量は18,000、重量平均分子量は55,000であった。
【0137】
(耐溶剤性の評価)
電荷輸送性ポリマー、並びに、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPB)又はイオン性化合物を用いて有機層を形成し、残膜率測定により耐溶解性の評価を次のように行った。すなわち、以下に示す工程で有機層を形成し、形成した有機層付き石英板をトルエンに浸漬し30秒間揺動した。有機層をトルエンに浸漬する前後の可視紫外分光法(UV-vis)スペクトルにおける吸収極大(λmax)の吸光度(Abs)の比から、以下の式を用いて、有機層の残膜率(%)を算出した。残膜率が大きいほど、耐溶剤性に優れている。
【0138】
残膜率(%)=(トルエン浸漬後の有機層の吸光度/トルエン浸漬前の有機層の吸光度A)×100
【0139】
(実施例1)
電荷輸送性ポリマー1(10.0mg)及びTPB(東京化成工業株式会社製)(0.10mg)をクロロベンゼン0.9mLに溶解してインク組成物を作製した。インク組成物を大気下で石英板上に3,000rpmでスピンコートした。次いで、窒素雰囲気化のグローブボックスにスピンコートした石英板を投入し、窒素雰囲気化ホットプレート上で、200℃、30分間の条件で加熱して硬化反応を行い、有機層を形成し、有機層の残膜率(%)を算出した。
【0140】
(実施例2)
実施例1において硬化反応の温度を175℃で行った以外は実施例1と同様にして残膜率を測定した。
【0141】
(実施例3)
実施例1において硬化反応の温度を150℃で行った以外は実施例1と同様にして残膜率を測定した。
【0142】
(実施例4)
実施例1において硬化反応の温度を125℃で行った以外は実施例1と同様にして残膜率を測定した。
【0143】
(比較例1)
実施例1においてTPBの代わりにイオン性化合物1を用いた以外は実施例1と同様にして残膜率を測定した。
【0144】
(比較例2)
実施例1においてTPBを用いずに(TPBが含まれない)インク組成物を用いた以外は実施例1と同様にして残膜率を測定した。
【0145】
(比較例3)
実施例1においてTPBの代わりにイオン性化合物1を用い、硬化温度を175℃で行った以外は実施例1と同様にして残膜率を測定した。
【0146】
(比較例4)
実施例1においてTPBの代わりにイオン性化合物1を用い、硬化温度を150℃で行った以外は実施例1と同様にして残膜率を測定した。
【0147】
(比較例5)
実施例1においてTPBの代わりにイオン性化合物1を用い、硬化温度を125℃で行った以外は実施例1と同様にして残膜率を測定した。
【0148】
以下、表1に実施例1~4の結果を、表2に比較例1~5の結果を示す。
【0149】
【0150】
【0151】
実施例1より、TPBを用いることによって、イオン性化合物1を用いる比較例1、TPB及びイオン性化合物1を用いない比較例2と比べて残膜率が向上していることが分かる。また、上記で記載したとおり、例えば、電荷輸送性ポリマーを構成する構造単位が異なっていても、本実施形態におけるアリールホウ素化合物を有機エレクトロニクス材料として用いることによって、実施例1と同様に、良好な残膜率を得ることができる。
さらに、実施例2~4より、TPBを用いることによって、比較例3~5のイオン性化合物を用いる場合と比べて、低温で硬化させても高い残膜率が維持されることが分かる。
【0152】
以上より、本実施形態におけるアリールホウ素化合物を有機エレクトロニクス材料として用いることによって、良好な有機層の積層が可能となる。
【符号の説明】
【0153】
1 発光層
2 陽極
3 正孔注入層
4 陰極
5 電子注入層
6 正孔輸送層
7 電子輸送層
8 基板