(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240402BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240402BHJP
C08G 63/672 20060101ALI20240402BHJP
C08J 7/046 20200101ALI20240402BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/30 A
C08G63/672
C08J7/046 CFD
(21)【出願番号】P 2020534745
(86)(22)【出願日】2019-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2019030269
(87)【国際公開番号】W WO2020027276
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2018146976
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115737(WO,A1)
【文献】特開2004-091618(JP,A)
【文献】特表2017-514722(JP,A)
【文献】特開2014-034112(JP,A)
【文献】特開2015-227437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08G 63/672
C08J 7/046
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル層及びハードコート層を有する積層体であって、前記ポリエステル層に含まれるポリエステルが、ジオールに由来する構造単位及びジカルボン酸に由来する構造単位を有し、前記ジカルボン酸に由来する構造単位の主たる構造単位が、2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位であ
り、
前記ハードコート層の厚さが1.0~5.0μm以下である、積層体。
【請求項2】
前記ジオールに由来する構造単位の主たる構造単位が、1,2-エタンジオールに由来する構造単位である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記積層体のハードコート層側の表面鉛筆硬度が2H以上である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記ハードコート層の表面鉛筆硬度が、前記ポリエステル層の表面鉛筆硬度と同等以上である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記ハードコート層の押込弾性率が10~10000MPaである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記ポリエステル層に含まれるポリエステルの曲げ弾性率が2500~4000MPaである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記ポリエステル層に含まれるポリエステルの還元粘度が、0.5~4dL/gである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記ハードコート層がアクリル樹脂を含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
更に加飾層を有する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の積層体からなるフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル層及びハードコート層を有する積層体についての発明である。本発明は、高い表面硬度を有し、かつカールなどの変形が少なく、加工性や取り扱い性に優れ、しかも耐屈曲性にも優れた積層体についての発明である。
【背景技術】
【0002】
2,5-フランジカルボン酸は、バイオマス由来の原料から製造可能である。このため、2,5-フランジカルボン酸を原料として用いたポリエステルは、環境に配慮された材料として、近年、注目されている。また、2,5-フランジカルボン酸を原料として用いたポリエステルは、ガスバリア性に優れることから、アルミ蒸着層との積層体とすることが行われている(例えば、特許文献1~4)。
【0003】
ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)に代表されるポリエステルは、加工性に優れるため、様々な形状に加工されて利用されている。但し、ポリエステルは、耐摩耗性や耐傷付性などが要求される用途では、表面硬度が十分ではない場合がある。この場合、ポリエステル層の表面にハードコート層を設けた積層体とすることが行われている(例えば、特許文献5参照)。
【0004】
【文献】特開2007-146153号公報
【文献】特開2008-291243号公報
【文献】特開2016-102173号公報
【文献】国際公開第2017/115737号
【文献】特開2001-109388号公報
【0005】
ポリエステル層の表面にハードコート層を形成した積層体では、フィルムやシート等の低剛性部材の場合、ハードコート層の熱収縮や、ポリエステル層とハードコート層との熱膨張率の差から、カールなどの変形が生じることがあった。このため、積層体を所望の形状に加工することが困難になる場合や、積層体の取り扱いが困難になる場合があった。また、十分な剛性を有する積層体であっても、積層体をさらに所望の形状に屈曲させようとした際に、ハードコート層が割れてしまう等の不具合が生じることがあった。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ポリエステル層とハードコート層とを有する積層体であって、高い表面硬度を有し、かつカールなどの変形が少なく、加工性、取り扱い性および耐屈曲性に優れる積層体を提供することを目的とする。また、本発明は、各種成形用途やフレキシブルディスプレイ等の耐屈曲性(易変形性)が要求される部材に好適な積層体を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者は、特定のポリエステルを用いることで、ハードコート層を積層してもカールなどの変形が少なく、加工性や取り扱い性に優れ、しかも屈曲性にも優れた高表面硬度の積層体とすることができることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、以下を要旨とする。
【0009】
[1] ジオールに由来する構造単位とジカルボン酸に由来する構造単位とを有するポリ
エステルであって、該ジカルボン酸に由来する構造単位が、2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位を主たる構造単位として含有するポリエステルを含む層と、ハードコート層とを有する積層体。
[2] 前記ポリエステルは、前記ジオールに由来する構造単位が、1,2-エタンジオールに由来する構造単位を主たる構造単位として含有するポリエステルである、[1]に記載の積層体。
[3] 加飾層を有する、[1]または[2]に記載の積層体。
[4] [1]から[3]のいずれか一つに記載の積層体からなるフィルム。
【0010】
本発明の要旨は、より詳細には、以下のとおりである。
【0011】
本発明の第1の要旨は、ポリエステル層及びハードコート層を有する積層体であって、前記ポリエステル層に含まれるポリエステルが、ジオールに由来する構造単位及びジカルボン酸に由来する構造単位を有し、前記ジカルボン酸に由来する構造単位の主たる構造単位が、2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位である、積層体に存する。
本発明の第2の要旨は、前記ジオールに由来する構造単位の主たる構造単位が、1,2-エタンジオールに由来する構造単位である、第1の要旨に記載の積層体に存する。
本発明の第3の要旨は、前記積層体のハードコート層側の表面鉛筆硬度が2H以上である、第1又は第2の要旨に記載の積層体に存する。
【0012】
本発明の第4の要旨は、前記ハードコート層の厚さが30μm以下である、第1~3のいずれか1つの要旨に記載の積層体に存する。
本発明の第5の要旨は、前記ハードコート層の表面鉛筆硬度が、前記ポリエステル層の表面鉛筆硬度と同等以上である、第1~4のいずれか1つの要旨に記載の積層体に存する。
本発明の第6の要旨は、前記ハードコート層の押込弾性率が10~10000MPaである、第1~5のいずれか1つの要旨に記載の積層体に存する。
【0013】
本発明の第7の要旨は、前記ポリエステル層に含まれるポリエステルの曲げ弾性率が2500~4000MPaである、第1~6のいずれか1つの要旨に記載の積層体に存する。
本発明の第8の要旨は、前記ポリエステル層に含まれるポリエステルの還元粘度が、0.5~4dL/gである、第1~7のいずれか1つの要旨に記載の積層体に存する。
本発明の第9の要旨は、前記ハードコート層がアクリル樹脂を含む、第1~8のいずれか1つの要旨に記載の積層体に存する。
本発明の第10の要旨は、更に加飾層を有する、第1~9のいずれか1つの要旨に記載の積層体に存する。
本発明の第11の要旨は、第1~10のいずれか1つの要旨に記載の積層体からなるフィルムに存する。
【0014】
なお、第3の要旨に係る“積層体のハードコート層側の表面鉛筆硬度”は、積層体についての“ハードコート層が積層された側”の表面鉛筆硬度のことを言う。また、第5の要旨に係る“ハードコート層の表面鉛筆硬度”は、“ハードコート層”としての表面鉛筆硬度のことを言う。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリエステル層とハードコート層とを有する積層体であって、高い表面硬度を有し、かつカールなどの変形が少なく、加工性、取り扱い性および耐屈曲性に優れた積層体を提供することができる。
【0016】
本発明の積層体は、各種の成形が必要な用途やフレキシブルディスプレイ等の耐屈曲性(易変形性)が要求される部材に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための代表的な態様を説明する。但し、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の態様に限定されない。
【0018】
本発明の積層体は、ポリエステルを含む層(以下、「本発明に係るポリエステル層」と称す場合がある。)とハードコート層(以下、「本発明に係るハードコート層」と称す場合がある。)を有する。本発明に係るポリエステル層に含まれるポリエステル(以下、「本発明に係るポリエステル」と称す場合がある。)は、ジオールに由来する構造単位とジカルボン酸に由来する構造単位とを有する。そして、本発明に係るポリエステルが有するジカルボン酸に由来する構造単位は、2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位を主たる構造単位として有する。
【0019】
すなわち、本発明の積層体は、ポリエステル層及びハードコート層を有する積層体であって、前記ポリエステル層に含まれるポリエステルが、ジオールに由来する構造単位及びジカルボン酸に由来する構造単位を有し、前記ジカルボン酸に由来する構造単位の主たる構造単位が、2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位である、積層体である。
【0020】
本発明において、「………に由来する構造単位」とは、原料の単量体(モノマー)に由来して、ポリマー(ポリエステル)に取り込まれた構造単位をさす。以下、「に由来する構造単位」は、単に「単位」と称す場合がある。例えば「ジオールに由来する構造単位」を「ジオール単位」、「ジカルボン酸に由来する構造単位」を「ジカルボン酸単位」、「2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位」を「2,5-フランジカルボン酸単位」、「1,2-エタンジオールに由来する構造単位」を「1,2-エタンジオール単位」、と各々称す場合がある。
【0021】
本発明において、「主たる構造単位」とは、当該「構造単位」の中で、最も多くの割合を占める構造単位をさす。本発明において、主たる構造単位は、通常、当該構造単位中の50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%を占める。従って、本発明に係るポリエステルは、2,5-フランジカルボン酸単位を、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸単位100モル%中に、通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%含有する。
【0022】
[本発明に係るポリエステル]
<ジカルボン酸単位>
本発明に係るポリエステルは、ジカルボン酸単位として下記構造式(1)で表される2,5-フランジカルボン酸単位を主たる構造単位として有する。すなわち、本発明に係るポリエステルは、主たるジカルボン酸原料として、2,5-フランジカルボン酸及び/又はその誘導体を用いて製造される。ここで、2,5-フランジカルボン酸単位として取り込まれる2,5-フランジカルボン酸の誘導体としては、2,5-フランジカルボン酸の無水物、2,5-フランジカルボン酸の炭素数1~4の低級アルキルエステル、2,5-フランジカルボン酸の塩化物等が挙げられる。
【0023】
【0024】
本発明に係るポリエステルは、2,5-フランジカルボン酸単位を有することにより、表面硬度を高くすることができる。また、本発明に係るポリエステルの表面硬度が高くなることにより、これを含む本発明に係るポリエステル層の表面硬度が高くなる。そして、このポリエステル層を有する本発明の積層体(ハードコート層を有する側)の表面硬度を高めることが可能となる。そこで、積層体の表面硬度として所望の表面硬度を達成するために必要なハードコート層の厚さを薄くすることができる。また、本発明の積層体は、本発明に係るハードコート層を薄くすることにより、カールなどの変形が生じ難くなり、加工性および取り扱い性に優れる。そして、本発明の積層体は、本発明に係るハードコート層を薄くすることにより、耐屈曲性にも優れる。
【0025】
従来、2,5-フランジカルボン酸単位を有するポリエステルについては、表面にハードコート層を形成することおよびそれにより得られる上述の作用効果は知られていない。すなわち、これらの知見は、本発明者により初めて見出された。
【0026】
本発明に係るポリエステルが、2,5-フランジカルボン酸単位を有することにより、その表面硬度が高くなる理由については、以下のように推定される。
すなわち、2,5-フランジカルボン酸単位は、回転運動が起こりがたいため、フラン環の平面性が高く、フラン環がパッキング構造をとりやすいためと考えられる。
【0027】
本発明に係るポリエステルは、ジカルボン酸単位として、2,5-フランジカルボン酸単位以外の構造単位を有していてもよい。他のジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,6-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸およびテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。本発明に係るポリエステルが有する2,5-フランジカルボン酸以外のジカルボン酸単位は、1種類のみであっても、任意の組み合わせと比率の2種類以上であってもよい。
【0028】
ジカルボン酸単位における2,5-フランジカルボン酸単位の割合は、ポリエステルの硬度が高くなりやすい点では、多いことが好ましい。そこで、全ジカルボン酸単位100モル%のうち、通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上が、2,5-フランジカルボン酸単位であることがよい。そして、全ジカルボン酸単位が2,5-フランジカルボン酸単位であることが最も好ましい。すなわち、本発明に係るポリエステルが有する2,5-フランジカルボン酸単位以外のジカルボン酸単位の割合は、本発明に係るポリエステルが有する全ジカルボン酸単位100モル%中に、通常50モル%以下、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは10モル%以下であることがよい。そして、本発明に係るポリエステルは、2,5-フランジカルボン酸単位以外のジカルボン酸単位を有さないことが最も好ましい。
【0029】
<ジオール単位>
本発明に係るポリエステルは、ジオール単位を有する。すなわち、本発明に係るポリエステルは、原料として、ジオールを用いて製造される。本発明に係るポリエステルが有するジオール単位としては、特に制限はない。
【0030】
本発明に係るポリエステルが有するジオール単位を構成するジオールとしては、例えば、1,2-エタンジオール、2,2’-オキシジエタノール、2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタノール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソソルバイド等の脂環式ジオール、およびキシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等が挙げられる。
本発明に係るポリエステルが有するジオール単位は、1種類のみであっても、任意の組み合わせと比率の2種類以上であってもよい。
【0031】
これらのうち、ジオールとしては、本発明に係るポリエステル層の表面硬度向上の観点から、1,4-ブタンジオール、1,2-エタンジオールおよび1,3-プロパンジオール等の脂肪族ジオールが好ましく、1,4-ブタンジオールおよび1,2-エタンジオールが更に好ましく、1,2-エタンジオールが特に好ましい。
【0032】
本発明に係るポリエステルが、上述の好ましいジオール単位を有することにより、ポリエステル層の表面硬度が高くなる理由については、以下のように推定される。
すなわち、ジオールの炭素鎖が短いことにより、ポリエステルが剛直な構造になるため、分子運動が起こり難いためと考えられる。
【0033】
本発明に係るポリエステルが有する上述の好ましいジオール単位の割合は、本発明に係るポリエステルが有する全ジオール単位100モル%中に、通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であることがよい。そして、本発明に係るポリエステルは、全ジオール単位が上述の好ましいジオール単位であることが最も好ましい。
【0034】
上述のとおり、本発明に係るポリエステルが有するジオール単位は、1,2-エタンジオールを主たる構造単位とすることが好ましい。そこで、本発明に係るポリエステルが有する全ジオール単位100モル%中の、通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%が1,2-エタンジオールであることがよい。
【0035】
本発明に係るポリエステルは、ジカルボン酸単位として2,5-フランジカルボン酸単位を有し、ジオール単位として上述の好ましいジオール単位を有することが特に好ましい。その理由は、2,5-フランジカルボン酸単位による回転運動の抑制とジオールの炭素鎖が短いことによる剛直性により、本発明に係るポリエステル層の表面硬度が高くなるからである。
【0036】
<他の共重合成分に由来する構造単位>
本発明に係るポリエステルは、上述のジカルボン酸単位およびジオール単位以外の、共重合成分に由来する構造単位を有してもよい。他の共重合成分としては、例えば、3官能以上の官能基を含有する化合物などが挙げられる。
【0037】
3官能以上の官能基を有する化合物としては、3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸(或いはその無水物、酸塩化物、又は低級アルキルエステル)、3官能以上のヒドロキシカルボン酸(或いはその無水物、酸塩化物、又は低級アルキルエステル)及び3官能以上のアミン類などが挙げられる。
【0038】
3官能以上の多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
これらは、1種類のみであっても、任意の組み合わせと比率の2種類以上であってもよい。
【0039】
3官能以上の多価カルボン酸又はその無水物としては、トリメシン酸、プロパントリカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、シクロペンタテトラカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0040】
これらは、1種類を単独で用いても、2種類以上を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
【0041】
3官能以上のヒドロキシカルボン酸としては、リンゴ酸、ヒドロキシグルタル酸、ヒドロキシメチルグルタル酸、酒石酸、クエン酸、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
【0042】
本発明に係るポリエステルが有する、他の共重合成分に由来する構造単位の割合は、溶融粘度の点では多いことが好ましい。一方で、本発明に係るポリエステルが有する、他の共重合成分に由来する構造単位の割合は、ポリマーの架橋が適度に進行し、安定にストランドを抜き出しやすく、成形性や機械物性に優れる点では少ないことが好ましい。そこで、本発明に係るポリエステルが有する、他の共重合成分に由来する構造単位の割合は、本発明に係るポリエステルを構成する全構造単位の合計100モル%に対して、5モル%以下、特に4モル%以下、とりわけ3モル%以下とすることが好ましい。
【0043】
本発明に係るポリエステルが有するジカルボン酸単位とジオール単位の合計割合は、本発明に係るポリエステルを構成する全構造単位の合計100モル%に対して、95モル%以上、特に96モル%以上、とりわけ97モル%以上とすることが好ましい。
【0044】
<鎖延長剤>
本発明に係るポリエステルの製造に際し、カーボネート化合物、ジイソシアネート化合物、ジオキサゾリン化合物、珪酸エステル等の鎖延長剤を使用してもよい。例えば、本発明に係るポリエステルの製造に際し、ジフェニルカーボネート等のカーボネート化合物をポリエステルの全構造単位100モル%に対して、20モル%以下、好ましくは10モル%以下となるように用いて、ポリエステルカーボネートを得ることもできる。
【0045】
この場合、カーボネート化合物としては、具体的には、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジアミルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が例示される。その他、フェノール類、アルコール類のようなヒドロキシ化合物から誘導される、同種又は異種のヒドロキシ化合物からなるカーボネート化合物も、本発明に係るポリエステルの製造に際し、使用可能である。
【0046】
また、ジイソシアネート化合物としては、具体的には、2,4-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの混合体、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の公知のジイソシアネートなどが例示できる。
【0047】
珪酸エステルとしては、具体的には、テトラメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジフェニルジヒドロキシラン等が例示できる。
【0048】
また、溶融張力を高めるために、本発明に係るポリエステルの製造に際し、少量のパーオキサイドを用いてもよい。
【0049】
これらは、いずれも1種類を単独で用いても、2種類以上を任意の組み合わせと比率で使用してもよい。
【0050】
<末端封止剤>
本発明に係るポリエステルの製造に際しては、ポリエステル末端基を、カルボジイミド、エポキシ化合物、単官能性のアルコール又はカルボン酸で封止してもよい。
【0051】
この場合、末端封止剤として用いるカルボジイミド化合物としては、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物(ポリカルボジイミド化合物を含む)等が挙げられる。具体的には、モノカルボジイミド化合物として、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が例示される。
【0052】
これらのポリエステル末端基の封止剤は、1種類を単独で用いても、2種類以上を任意の組み合わせと比率で使用してもよい。
【0053】
<ポリエステルの製造方法>
本発明に係るポリエステルの製造方法としては、ポリエステル樹脂の製造に関する公知の方法が採用できる。また、この際の反応条件は、従来から採用されている公知の反応条件から適切な条件を設定することができ、特に制限されない。
【0054】
具体的には、本発明に係るポリエステルは、2,5-フランジカルボン酸成分を必須成分とするジカルボン酸成分と、ジオールとを、エステル化反応又はエステル交換反応させた後、重縮合反応を行うことにより、製造することができる。
【0055】
ここで、「…成分」とは、ポリエステルにおいて、当該単位となる化合物を言う。すなわち、「2,5-フランジカルボン酸成分」は、ポリエステルにおいて、2,5-フランジカルボン酸単位となる2,5-フランジカルボン酸及び/又はその誘導体のことを言う。また、「ジカルボン酸成分」は、ポリエステルにおいて、ジカルボン酸単位となるジカルボン酸及び/又はその誘導体のことを言う。
【0056】
本発明に係るポリエステルの製造に用いる、ジカルボン酸及び/又はその誘導体、ジオール及び他の共重合成分等の原料の種類等については、前述したとおりである。すなわち、本発明に係るポリエステルの原料となるジカルボン酸は、2,5-フランジカルボン酸成分以外のジカルボン酸成分(ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸の低級アルキルエステル(アルキル基の炭素数1~4)、ジカルボン酸の塩化物等)を併用してもよい。また、本発明に係るポリエステルの原料となるジオールは、1,2-エタンジオールが好ましい。そして、必要な物性等に応じて他の共重合成分等を併用してもよい。また、反応に際しては、必要な物性等に応じて、前述の鎖延長剤や末端封止剤を用いてもよい。
【0057】
エステル化又はエステル交換反応は、通常、ジカルボン酸成分及びジオールと、必要に応じて用いられるその他の共重合成分等を、攪拌機及び留出管を備えた反応槽に仕込み、好ましくは触媒の存在下、不活性ガス雰囲気の減圧下で攪拌しつつ行う。ここで、反応により生じた水分等の副生成物は、系外へ留去しながら反応を進行させる。原料の使用比率、すなわち、ジカルボン酸成分に対するジオールのモル比は、通常1.0~2.0モル倍である。
【0058】
<触媒>
本発明に係るポリエステルの製造に用いる触媒としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルの製造に用いることのできる任意の触媒を選択することができる。例えば、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、アンチモン、スズ、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、コバルト、鉛、セシウム、マンガン、リチウム、カリウム、ナトリウム、銅、バリウム、カドミウム等の金属化合物が好適である。触媒としては、中でも、高活性である点から、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、マグネシウム化合物、スズ化合物、亜鉛化合物、鉛化合物が好適であり、チタン化合物が最も好ましい。
【0059】
触媒として使用されるチタン化合物としては、特に制限されない。好ましい例としては、例えば、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラヒドロキシエチルチタネート、テトラフェニルチタネート等のテトラアルコキシチタネート等の有機チタン化合物が挙げられる。これらの中では、価格や入手の容易さ等から、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等が好ましく、高活性である点から、最も好ましい触媒はテトラブチルチタネートである。
【0060】
これらの触媒は、1種類を単独で用いても、2種類以上を任意の組み合わせと比率で併用してもよい。
【0061】
触媒の使用量は、多い方が、重合反応速度が速いため好ましい。また、触媒の使用量は、触媒コスト、ポリエステル中の触媒残渣量の低減、ポリエステルの安定性が良好な点からは少ないことが好ましい。そこで、触媒の使用量は、生成するポリエステルに残存する触媒由来の金属換算量で、下限値は、好ましくは0.0001重量%、より好ましくは0.0005重量%、更に好ましくは0.001重量%である。また、上限値は、好ましくは1重量%、より好ましくは0.5重量%、更に好ましくは0.1重量%である。
【0062】
触媒をポリエステルの原料組成物に添加するタイミングは、ポリエステルを製造する際に触媒が機能できれば、特に限定されない。すなわち、触媒は、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。触媒は、原料仕込み時と減圧開始時に分けて添加してもよい。
【0063】
<反応条件>
本発明に係るポリエステルの製造は、通常、エステル化またはエステル交換反応によって生成する留出物を反応系外に留去させながら重合度を高めていくことにより行われる。反応は、加熱と減圧を適用することによって進行させる。
【0064】
反応温度は、十分な重合度を有するポリエステルが得やすい点では高いことが好ましい。一方で、反応温度は、ポリエステルの熱分解や着色、ジオールの環化によるエーテル化合物の副生や熱分解等の副反応が抑制され、ポリエステルの末端酸価が大きくなり過ぎない点から低いことが好ましい。具体的には、反応温度は、通常150℃以上、好ましくは160℃以上がよい。一方で、反応温度は、通常300℃以下、好ましくは290℃以下、更に好ましくは280℃以下がよい。
【0065】
反応は、任意の温度に到達した時点で減圧を開始し、最終的な減圧度は、通常1.33×103Pa以下、好ましくは0.40×103Pa以下の条件で行うことがよい。減圧時間は、通常1時間以上、好ましくは2~15時間で行うことがよい。
【0066】
上述の溶融重合によって得られたポリエステルについて、更に融点以下の温度で重合させる固相重合を行ってもよい。本発明に係るポリエステルは、平面性が高いことから結晶性を有する。そこで、上述の溶融重合によって得られたポリエステルは、更に固相重合を施すことにより、分子量を上げることが可能である。
【0067】
固相重合を行う場合、通常、ペレット状または粉末状のポリエステルを、窒素ガス雰囲気下、または減圧下において加熱する。この場合の温度条件は、通常80~260℃、好ましくは100~250℃の範囲で選ぶのがよい。固相重合は、通常、溶融重合より低い温度で重合反応が行われる。そこで、固相重合を行った場合は、溶融重合のみの場合に比べ、ポリエステルの熱分解や加水分解等の副反応が抑えられ、末端酸価が低く、着色が少なく、分子量が大きなポリエステルを得やすい。
【0068】
<添加剤>
本発明に係るポリエステルの製造では、その特性が損なわれない範囲において、各種の添加剤を用いてもよい。添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、結晶核剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0069】
これらの添加剤は、重合反応前に反応装置に添加してもよいし、重合反応開始から重合反応終了前に添加してもよいし、重合反応終了後の生成物の抜出前に添加してもよい。また、抜出後の生成物に添加剤を添加してもよい。また、ポリエステルを成形する時に、結晶核剤、強化剤、増量剤等を添加して、ポリエステルと共に成形してもよい。
【0070】
本発明に係るポリエステルの製造には、各種のフィラーを用いてもよい。ポリエステルの製造において、フィラーは、ポリエステルの剛性の改良および滑剤等として機能する。本発明に係るポリエステル中のフィラーの含有量は、多い方が、その添加効果が十分に得られやすい点で好ましい。本発明に係るポリエステル中のフィラーの含有量は、少ない方が、ポリエステル本来の引張伸びや耐衝撃性が維持されたポリエステルを得やすい点で好ましい。
【0071】
ポリエステルの製造に用いるフィラーは、無機系でも有機系でもよい。
【0072】
無機系フィラーとしては、無水シリカ、雲母、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ藻土、アロフェン、ベントナイト、チタン酸カリウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、カオリン、カオリナイト、ガラス、石灰石、カーボン、ワラステナイト、焼成パーライト、珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム等の珪酸塩、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸第二鉄、酸化亜鉛、酸化鉄、リン酸アルミニウム、硫酸バリウム等の塩類等が挙げられる。これらの無機系フィラーは、1種類を単独で用いても、2種類以上を任意の組み合わせと比率で併用してもよい。
【0073】
ポリエステル中の無機系フィラーの含有量は、通常1重量%以上であり、好ましくは3重量%以上であり、更に好ましくは5重量%以上である。また、ポリエステル中の無機系フィラーの含有量は、通常80重量%以下であり、好ましくは70重量%以下であり、更に好ましくは60重量%以下である。
【0074】
有機系フィラーとしては、生澱粉、加工澱粉、パルプ、キチン・キトサン質、椰子殻粉末、竹粉末、樹皮粉末、ケナフや藁等の粉末等が挙げられる。また、有機系フィラーとしては、パルプ等の繊維をナノレベルに解繊したナノファイバーセルロース等も挙げられる。これらの有機系フィラーは、1種類を単独で用いても、2種類以上を任意の組み合わせと比率で併用してもよい。
【0075】
ポリエステル中の有機系フィラーの含有量は、通常0.1重量%以上であり、好ましくは1重量%以上である。また、ポリエステル中の有機系フィラーの含有量は、通常70重量%以下であり、好ましくは50重量%以下である。
【0076】
本発明に係るポリエステルの製造に用いる結晶核剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタンウィスカー、マイカ、タルク、窒化ホウ素、CaCO3、TiO2、シリカ、層状ケイ酸塩、ポリエチレンワックスおよびポリプロピレンワックス等が挙げられる。これらのうち、結晶核剤としては、タルク、窒化ホウ素、シリカ、層状ケイ酸塩、ポリエチレンワックスおよびポリプロピレンワックスが好ましく、中でも、タルクおよびポリエチレンワックスが好ましい。これらの結晶核剤は、1種類を単独で用いても、2種類以上を任意の組み合わせと比率で併用してもよい。
【0077】
結晶核剤が無機材料である場合、結晶核剤の添加効果の面から、その粒径は小さいことが好ましい。結晶核剤の平均粒径は、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下、最も好ましくは0.5μm以下である。結晶核剤の平均粒径の下限は、通常0.1μmである。
【0078】
本発明に係るポリエステルの製造に用いる結晶核剤の量は、ポリエステルに対して、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上である。また、結晶核剤の量の上限は、ポリエステルに対して、好ましくは30重量%、より好ましくは10重量%、さらに好ましくは5重量%、最も好ましくは1重量%である。結晶核剤の量が多いと、結晶化促進の効果を十分に得やすい点で好ましい。結晶核剤の量が少ないと、ポリエステル本来の機械物性及びしなやかさ等が十分に得やすい点で好ましい。
【0079】
上述した核剤以外の、他の機能を目的とした添加剤が、核剤として作用する場合もある。例えば、剛性改良のために用いる無機フィラー、熱安定剤として用いる有機安定剤、樹脂の製造或いは成形加工過程で混入した異物等も結晶核剤となり得る。従って、本発明でいう結晶核剤とは、常温で固体であり、結晶成長に寄与する微小物質物が含まれる。
【0080】
[本発明に係るポリエステル層]
本発明の積層体を構成する本発明に係るポリエステル層は、上述の本発明に係るポリエステルまたは本発明に係るポリエステルを含むポリエステル組成物を、フィルム、シートなどの形状に成形することにより製造される。
【0081】
一般的に「フィルム」及び「シート」とは、その長さ及び幅に比べて、厚さが薄い形状の物品のことを言う。ここで、一般的に「フィルム」とは、その長さ及び幅に比べて厚さが極めて薄い形状の物品のことを言う。また、ロール形状の物品を「フィルム」と呼ぶことが多い。そして、一般的に「シート」とは、フィルムよりは、その厚さが厚めで小さい物品のことを言う。フィルムおよびシートの定義については、JIS規格 K6900で定められている。しかしながら、シートとフィルムには、明確な境界はない。また、本発明において、両者を区別する必要もない。そこで、本発明における「フィルム」は、一般的に「フィルム」と称されている形状の物品に限らず、一般的に「シート」と称されている形状の物品も含む。
【0082】
<ポリエステル層の形状>
本発明に係るポリエステル層の形状は、上述のフィルムやシートに限らず、より厚みのある板やブロックや塊状などであってもよい。また、本発明に係るポリエステル層は、平面状に限らず、曲面状でも、凹凸のある形状などの不定形状であっても構わない。
【0083】
本発明に係るポリエステル層の厚さは、特に制限されない。ポリエステル層の厚さは、その用途に応じて適宜選択される。ポリエステル層の厚さは、厚い方が機械強度やハンドリングの点で好ましい。ポリエステル層の厚さは、薄い方が生産コストの点で好ましい。そこで、本発明に係るポリエステル層の厚さは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることが更に好ましい。そして、本発明に係るポリエステル層の厚さは、500μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることが更に好ましく、125μm以下であることが特に好ましく、75μm以下であることが最も好ましい。
【0084】
本発明の積層体の用途の一例として、インサート成形シートやインモールド転写シート等の加飾成形用フィルムの基材が挙げられる。このような用途において、本発明に係るポリエステル層の厚さは、10~250μm、特に10~125μmであることが好ましい。
【0085】
本発明の積層体をITO基材フィルムやディスプレイ用カバーシートとして使用する場合、ポリエステル層の厚さは10~188μm、特に10~125μmであることが好ましい。
特に、本発明の積層体が耐カール性を発現しやすいことから、ポリエステル層は、厚さ10~75μmの薄いフィルムであることが好ましい。
【0086】
<ポリエステル層の成形方法>
本発明に係るポリエステル層は、押出成形法や射出成形法などの成形方法により得ることができる。
ポリエステル層を押出成形する場合は、押出機・口金は通常220~280℃、キャストロールは25~80℃程度に設定することが好ましい。
ポリエステル層を射出成形する場合は、通常加熱シリンダは220~280℃、金型は40~80℃程度に設定することが好ましい。
これらの成形方法のうち、押出成形によれば、射出成形では制限される大面積の積層体、すなわち広幅かつ長尺の積層体を容易に得ることができるため、好ましい。
【0087】
<ポリエステル層の組成>
本発明に係るポリエステル層は、ポリエステルを主成分とする。本発明に係るポリエステル層に、ポリエステルは、50重量%以上、特に70重量%以上、とりわけ90重量%以上含まれることが好ましい。ポリエステル層に含まれるポリエステルの量の上限は、100重量%である。
【0088】
本発明に係るポリエステル層に含まれるポリエステルは、前述の本発明に係るポリエステルを主成分とする。ポリエステル層に含まれる、本発明に係るポリエステルの量は、表面鉛筆硬度が高くなる点では多いことが好ましい。また、ポリエステル層に含まれる本発明に係るポリエステルの量は、前述のポリエステル以外の共重合成分や添加剤等を用いる効果が発現しやすい点では、少ないことが好ましい。そこで、本発明に係るポリエステル層に、本発明に係るポリエステルは、50重量%以上、特に70重量%以上、とりわけ90重量%以上含まれることが好ましい。本発明に係るポリエステル層に含まれる本発明に係るポリエステルの量の上限は、100重量%である。
【0089】
<ポリエステル層の物性>
前述のとおり、本発明に係るポリエステル層は、表面硬度が高い層とすることができる。樹脂層等の表面硬度は、一般的に、表面鉛筆硬度により規定される。樹脂層等の表面鉛筆硬度は、後述の実施例に記載した方法で測定することができる。本発明に係るポリエステル層の表面鉛筆硬度は、厚いハードコート層を積層しなくても積層体として高硬度になりやすい点では高いことが好ましい。本発明に係るポリエステル層の表面鉛筆硬度は、好ましくはH以上、より好ましくは2H以上である。本発明に係るポリエステル層の表面鉛筆硬度の上限は、通常9Hである。
【0090】
樹脂の曲げ弾性率は、一般的に、樹脂の強度を評価する指標である。ポリエステルの曲げ弾性率は、後述の実施例に記載した方法で測定できる。本発明に係るポリエステル層に含まれるポリエステルの曲げ弾性率は、特に限定されないが、表面硬度の点では大きいことが好ましい。本発明に係るポリエステル層に含まれるポリエステルの曲げ弾性率は、2500MPa以上であることが好ましく、2800MPa以上であることがより好ましく、3000MPa以上であることがさらに好ましい。また、本発明に係るポリエステル層に含まれるポリエステルの曲げ弾性率は、4000MPa以下であることが好ましく、3800MPa以下であることがより好ましく、3600MPa以下であることがさらに好ましい。本発明に係るポリエステル層に含まれるポリエステルの曲げ弾性率は、2500~4000MPaであることが特に好ましい。
【0091】
樹脂の還元粘度(ηsp/c)は、主に樹脂を成形する際の流動性に影響する物性である。本発明に係るポリエステル層に含まれるポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は、特に限定されないが、フィルムとしての成形性や、成形品の強度が強くなりやすい点では大きいことが好ましい。また、ポリエステルの還元粘度は、ポリエステル層を形成する際に樹脂組成物の流動性に優れ、射出成形する際の成形性に優れる点では小さいことが好ましい。すなわち、還元粘度が特定の範囲であることにより、ポリエステル層をフィルムに成形する場合や射出成形によりポリエステル層を成形する場合における成形性が良好となり、得られた成形品の強度が高まる傾向にある。本発明に係るポリエステル層に含まれるポリエステルの還元粘度は、好ましくは0.5dL/g以上、より好ましくは0.6dL/g以上、さらに好ましくは0.7dL/g以上である。また、本発明に係るポリエステル層に含まれるポリエステルの還元粘度は、好ましくは4.0dL/g以下、より好ましくは3.8dL/g以下、さらに好ましくは3.5dL/g以下である。本発明に係るポリエステル層に含まれるポリエステルの還元粘度は、0.5~4dL/gであることが特に好ましい。ポリエステル層に含まれるポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は、後述の実施例に記載した方法で測定できる。
【0092】
[ハードコート層]
本発明の積層体は、本発明に係るポリエステル層とハードコート層とを有する。
【0093】
本発明の積層体は、本発明に係るポリエステル層の1つの面にのみハードコート層を有するものであってもよく、複数の面にハードコート層を有するものであってもよい。すなわち、本発明に係るポリエステル層がフィルムである場合、ハードコート層は、該ポリエステル層の一方の面のみにあっても、両方の面にあってもよい。
【0094】
本発明において、ハードコート層は、本発明の積層体の表面硬度を向上させる機能を奏する層のことを言う。従って、本発明に係るハードコート層の表面鉛筆硬度は、本発明に係るポリエステル層の表面鉛筆硬度と同等以上であることが好ましく、本発明に係るポリエステル層の表面鉛筆硬度より高いことが更に好ましい。本発明の積層体は、ハードコート層を有することにより、表面硬度が向上し、耐傷性等が向上する。本発明の積層体が有するハードコート層の表面鉛筆硬度は、特に限定はないが、B以上であることが好ましく、H以上がより好ましく、2H以上が更に好ましい。
【0095】
本発明において、ハードコート層の表面鉛筆硬度と、ポリエステル層の表面鉛筆硬度の比較は、ハードコート層を設けた積層体の表面鉛筆硬度と、積層体からハードコート層を剥がした後のポリエステル層の表面鉛筆硬度の比較により、確認することができる。ここで、ハードコート層の表面鉛筆硬度は、表面鉛筆硬度が、その下にある層の影響を受けない厚さであるハードコート層の表面鉛筆硬度のことを言う。後述する実施例では、188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、厚さ30μmのハードコート層を設けた際の、ハードコート側から測定した表面鉛筆硬度を測定し、ハードコート層のみの表面鉛筆硬度とした。
【0096】
樹脂層等における押込弾性率は、樹脂層の屈曲率を示す指標である。ハードコート層の押込弾性率は、ハードコート層が高硬度になりやすい点では、高いことが好ましい。ハードコート層の押込弾性率は、ハードコート層の屈曲率が優れる点では、低いことが好ましい。そこで、本発明の積層体が有するハードコート層の押込弾性率は、10MPa以上であることが好ましく、30MPa以上であることがより好ましく、50MPa以上であることが更に好ましく、100MPa以上であることが最も好ましい。また、本発明の積層体が有するハードコート層の押込弾性率は、10000MPa以下であることが好ましく、8000MPa以下であることが更に好ましく、5000MPa以下であることが特に好ましく、3000MPa以下であることが最も好ましい。ハードコート層の押込弾性率は、押込弾性率が、その下にある層の影響を受けない厚さであるハードコート層の表押込弾性率のことを言う。後述する実施例3および4では、ポリエステルフィルム上に、厚さ13μmのハードコート層を設けた際の、ハードコート側から測定した押込弾性率を測定し、ハードコート層のみの押込弾性率とした。
【0097】
本発明の積層体が有するハードコート層は、通常用いられるハードコート剤を用いて形成されたものであれば特に限定はない。ハードコート剤は、例えば、(メタ)アクリレートやエポキシに代表される有機系のハードコート剤や、ポリシロキサン(-Si-O-)nに代表される無機系のハードコート剤などが挙げられる。これらのうち、形成されるハードコート層が耐屈曲性に優れることから、ハードコート剤は、有機系のハードコート剤が好ましく、(メタ)アクリレートがさらに好ましい。中でも、ポリエステル層との密着性および耐屈曲性に優れることから、ハードコート剤は、ウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。ここで、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」と「メタクリレート」の一方又は双方を表す。
【0098】
ハードコート層は、架橋樹脂を含むことが好ましく、アクリル樹脂を含むことがより好ましく、多官能(メタ)アクリレート構造を有するアクリル樹脂が特に好ましい。多官能(メタ)アクリレート構造を有するアクリル樹脂は、アクリル樹脂であっても、ウレタンアクリル樹脂であってもよい。
【0099】
アクリル樹脂の原料モノマーとしての(メタ)アクリレートとしては、特に限定されるものではない。(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;ジアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート;メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリール(メタ)アクリレート、フェニルフェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート等のエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等の単官能(メタ)アクリレート;1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ) アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールジ(メタ)アクリレート;ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート等のビスフェノール変性ジ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレート、エポキシジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンエチレンオキサイド変性テトラ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート等のイソシアヌル酸変性トリ(メタ)アクリレート、およびペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー等のウレタン(メタ)アクリレート等の三官能以上の多官能(メタ)アクリレート挙げられる。
【0100】
本発明に係るハードコート層を形成するためのハードコート処理の方法としては、ポリオルガノシロキサンや架橋型アクリル等による熱硬化法や、ハードコート剤として1官能又は多官能(メタ)アクリレートモノマー又はオリゴマー等を複数組み合わせ、これに光重合開始剤を硬化触媒として添加した紫外線硬化性樹脂組成物を用いる紫外線硬化法などが好適に用いられる。
【0101】
このようなハードコート剤は、ポリエステル用として市販されているものがあり、硬度や取り扱い性などを考慮して適宜選択して使用すればよい。また、ハードコート剤には、必要に応じて、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、帯電防止剤、防曇剤等が適宜含まれていてもよい。
【0102】
本発明に係るハードコート層の形成に用いるハードコート剤には、表面硬度を高くするためにポリシロキサン(-Si-O-)nに代表される珪素含有重合体が含まれていてもよい。ポリシロキサンは、シラン化合物を酸の存在下加水分解して製造されたものが好ましい。
【0103】
シラン化合物の例としては、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン等のクロロシラン;メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン;ヘキサメチルジシラザン等のシラザンが挙げられる。
【0104】
更には、ハードコート剤には、シリカゾルや酸化チタン等の金属酸化物微粒子が含まれていてもよい。ハードコート剤にこれらの金属酸化物微粒子が含まれていることにより、本発明の積層体の表面硬度をさらに向上させることができる。これらの金属酸化物微粒子は、金属アルコキシドの加水分解により製造することができる。これらの金属酸化物微粒子は、通常、均一な微粒子として得られるため、透明性が向上して好ましい。このとき、β-ジケトンを併用するとキレート効果により表面硬度を一層向上させることができる。
【0105】
ハードコート剤には、ポリシロキサン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などの各種樹脂;シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、アクリロニトリルゴム等の各種ゴムの溶液または微粒子が配合されていてもよい。ハードコート剤にこれらの成分が配合されると、ハードコート層の耐屈曲性が向上し、応力により亀裂を生じ難くなる。この場合、形成されるハードコート層の透明性の観点では、前述の微粒子の平均粒径は、小さいことが好ましい。そこで、前述の微粒子の平均粒径は、300nm以下であることが好ましく、150nm以下であることが更に好ましい。前述の微粒子の平均粒径は、微粒子の製造のしやすさから通常0.1nm以上である。
【0106】
また、ハードコート剤は、ポリエステル層の光劣化を抑制する観点から、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。紫外線吸収剤を含むハードコート剤により、紫外線吸収剤を含むハードコート層を形成することにより、ポリエステル層の光劣化が抑制される。この結果、ポリエステル層とハードコート層との密着性が向上し、耐候性が向上する。
【0107】
紫外線吸収剤としては、ハードコート剤の性能が低下しない限り、公知の無機及び有機紫外線吸収剤を使用することができる。中でも、無機紫外線吸収剤として知られる酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化インジウム(In2O3、ITO)等の無機酸化物微粒子を使用すると、表面硬度を高くすることができるため、特に好ましい。上述の無機酸化物微粒子を使用する際に、金属アルコキシドとβ-ジケトンとの加水分解反応物を使用すると、密着性が向上するため好ましい。
【0108】
上述の紫外線吸収剤は、ハードコート層100重量部に対し0.1~20重量部程度含まれることが好ましい。紫外線吸収剤の含有量が上記範囲であると、耐擦傷性に優れるハードコート層と、光劣化し難いポリエステル層との積層体とすることができる。ハードコート層100重量部に対する紫外線吸収剤の含有量は、0.3~20重量部であることがさらに好ましく、0.5~10重量部であることが最も好ましい。
【0109】
ハードコート層の厚さは、積層体に要求される表面硬度に応じて決めればよい。ハードコート層の厚さは、積層体の表面硬度が高くなりやすい点では、厚いことが好ましい。ハードコート層の厚さは、積層体にカールなどの変形が生じ難く、加工性、取扱性および耐屈曲性に優れる点では、薄いことが好ましい。前述の通り、本発明の積層体は、2,5-フランジカルボン酸単位を含むポリエステル層を有することにより、薄いハードコート層であっても十分な表面硬度を得ることができる。すなわち、本発明に係るポリエステル層は表面硬度が高いため、積層体を所望の表面硬度とするために必要なハードコート層の厚さを薄くすることができる。そこで、本発明に係るハードコート層の厚さは、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることが更に好ましく、1.0μm以上であることが特に好ましい。また、本発明に係るハードコート層の厚さは、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが特に好ましく、5.0μm以下であることが最も好ましい。ハードコート層の厚さは、0.1~10μmが好ましく、1.0~5.0μmがより好ましい。
【0110】
ポリエステル層の表面にハードコート処理を行ってハードコート層を設ける方法としては、ディッピング、かけ流し、スプレー、ロールコータ、フローコータ等による方法が挙げられる。これらの他、ハードコート層を設ける方法としては、ポリエステルを押出製膜後に、インラインで、ハードコート剤を基材上に連続で塗工して硬化させる方法が挙げられる。インラインコート法では、ロールコータ、フローコータ、バーコータ、グラビア、スロットダイ、コンマコータ等の通常の塗工手段を用いればよい。特に、無溶媒系の紫外線硬化性ハードコート剤を用いたインラインコート法を用いれば、工程の簡略化、溶媒を使用しないことによる環境負荷低減、溶媒揮発のためのエネルギーコスト低減、などの効果が見込まれる。
【0111】
本発明の積層体は、本発明に係るポリエステル層とハードコート層との間にプライマー層等のその他の層を有していてもよい。また、本発明の積層体は、ハードコート層の上に、更に反射防止層や防汚層等の機能層および加飾層等のその他の層を有していてもよい。
【0112】
[プライマー層]
本発明の積層体は、本発明に係るポリエステル層とハードコート層との間に、その他の層を有していてもよい。本発明に係るポリエステル層とハードコート層との間に設けられる層としては、一般的に、プライマー層と言われる層が挙げられる。
【0113】
本発明の積層体がプライマー層を有することにより、ハードコート層が剥離し難くすることができる。ハードコート層が剥離する要因としては、以下のようなことが起きることが考えられる。
(1) ポリエステル層とハードコート層とで線膨張係数が異なるために、温度変化による膨張や収縮の差による応力を受ける。
(2) 空気中の水分がハードコート層に浸入し、ハードコート層が劣化しやすくなる。
(3) 紫外線によってポリエステル層が劣化しやすくなる。
【0114】
そこで、本発明の積層体は、ポリエステル層にプライマー層を介してハードコート層が形成されていることが好ましい。
【0115】
プライマー層は、一般的に、ポリエステル層とハードコート層との密着性を向上させる目的で設ける層のことを言う。プライマー層は、硬度、耐摩耗性、耐光性等の性能を付加するために、異種のバインダー樹脂を併用したり、金属、酸化物、樹脂等の微粒子を含んでいたり、紫外線吸収剤を含んでいたりしていてもよい。
【0116】
プライマー層に含まれるバインダー樹脂は、一般的な樹脂プライマーであれば特に限定はない。プライマー層に含まれるバインダー樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ケトン樹脂、ビニル樹脂、および、熱可塑性アクリル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、湿気硬化性アクリル樹脂、シランやシロキサンで変性したアクリル樹脂などの各種アクリル樹脂などが挙げられる。プライマー層に含まれるバインダー樹脂は、1種類のみであっても、任意の組み合わせと比率の2種類以上であってもよい。
これらの中でも、ハードコート層との接着性に優れることから、アクリル樹脂が含まれることが好ましい。
【0117】
前記アクリル樹脂は、非反応性モノマーである(メタ)アクリル酸誘導体からなる熱可塑性アクリル樹脂が好ましく使用される。アクリル樹脂は、少なくともその一部が熱硬化性および/または湿気硬化性であると、硬化が進行しやすい点で好ましい。熱硬化性および/または湿気硬化性のアクリル樹脂は、反応性モノマーである(メタ)アクリル酸誘導体を含む共重合体である。また、公知の架橋剤の併用により硬化を促進させることもできる。
【0118】
非反応性の(メタ)アクリル酸誘導体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4-メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4-t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の1価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;環状ヒンダードアミン構造を有する(メタ)アクリル酸単量体類;2-(2’-ヒドロキシ-5’-(メタ)アクリロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-5’-(2-(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’-メチル-5’-(8-(メタ)アクリロキシオクチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-(2-(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-(4-(メタ)アクリロキシブトキシ)ベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-(2-(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシ-4’-(2-(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2,2’,4-トリヒドロキシ-4’-(2-(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-(3-(メタ)アクリロキシ-1-ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン等の紫外線吸収性基含有(メタ)アクリル酸誘導体類が挙げられる。また、これらの(メタ)アクリル酸誘導体と共重合可能な他の単量体、例えば、ポリオレフィン系単量体、ビニル系単量体等を併用してもよい。
【0119】
反応性基を含有する(メタ)アクリル酸誘導体としては、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、1-〔3-(メタ)アクリロキシプロピル〕ペンタメトキシジシラン、1-〔3-(メタ)アクリロキシプロピル〕-1-メチル-テトラメトキシジシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルシランとテトラメトキシシランとの共加水分解縮合物、3-(メタ)アクリロキシプロピルシランとメチルトリメトキシシランとの共加水分解縮合物などのアルコキシシリル基含有(メタ)アクリル酸誘導体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(エチレングリコール単位数は、例えば2~20)、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(プロピレングリコール単位数は、例えば2~20)等の多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸等の(メタ)アクリル酸類;(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸2-(N-メチルアミノ)エチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類等が挙げられる。
【0120】
架橋剤と反応可能な基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、コハク酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、マレイン酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、フタル酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2-(メタ)アクリオイルオキシエチル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらは、単独で重合して使用してもよく、2種類以上を任意の比率と組み合わせで重合して使用してもよい。
【0121】
架橋剤としては、前記アクリル樹脂における架橋化基点により架橋するものであれば特に限定されない。架橋剤としては、エポキシ系化合物、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物、ヒドラジド系化合物、イソシアネート系化合物、アジリジン系化合物、アミン系化合物、金属キレート系化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。中でも、エポキシ系化合物、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物が好ましい。
【0122】
エポキシ系化合物としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、N,N,N′,N′-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N′-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、ビスフェノールA・エピクロルヒドリン型のエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0123】
市販のカルボジイミド系化合物としては、日清紡ケミカル株式会社製の「カルボジライトSV-02」「カルボジライトV-02」、「カルボジライトV-02-L2」、「カルボジライトV-04」、「カルボジライトV-06」、「カルボジライトE-01」、「カルボジライトE-02」、「カルボジライトE-04」等が挙げられる。
市販のオキサゾリン系化合物としては、株式会社日本触媒製の「エポクロスWS-300」「エポクロスWS-500」、「エポクロスWS-700」、「エポクロスK-2010E」、「エポクロスK-2020E」、「エポクロスK-2030E」等が挙げられる。
【0124】
ヒドラジド系化合物としては、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0125】
イソシアネート系化合物としては、トルイレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化トルイレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物;「スミジュールN」(住友バイエルウレタン株式会社製)等のビュレットポリイソシアネート化合物;「デスモジュールIL」、「デスモジュールHL」(以上、バイエルA.G.社製);「コロネートEH」(日本ポリウレタン工業株式会社製)のようなイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物;「スミジュールL」(住友バイエルウレタン株式会社製)、「コロネートHL」(日本ポリウレタン工業株式会社製)、「タケネートWD-725」「タケネートWD-720」「タケネートWD-730」「タケネートWB-700」(以上、三井化学ポリウレタン株式会社製)等のアダクト型のポリイソシアネート化合物;「アクアネート100」、「アクアネート110」、「アクアネート200」、「アクアネート210」(以上、日本ポリウレタン工業株式会社製)等の自己乳化型の水分散ポリイソシアネート化合物;ブロックイソシアネート等が挙げられる。
【0126】
アジリジン系化合物としては、株式会社日本触媒製の「ケミタイトPZ-33」、「ケミタイトDZ-22E」等が挙げられる。
【0127】
アミン系化合物としては、株式会社日本触媒製の「エポミンSP-003」、「エポミンSP-006」、「エポミンSP-012」、「エポミンSP-018」、「エポミンSP-200」、「エポミンP-1000」等のポリエチレンイミン;「ポリメントSK-1000」、「ポリメントNK-100PM」、「ポリメントNK-200PM」等のアミノエチル化アクリルポリマー等が挙げられる。
【0128】
金属キレート系化合物としては、株式会社マツモト交商製の「オルガチックスTC-400」、「オルガチックスTC-300」、「オルガチックスTC-310」、「オルガチックスTC-315」等のチタンキレート系;「オルガチックスZB-126」等のジルコニウムアシレート系アルミニウムキレート系;亜鉛キレート系等が挙げられる。
【0129】
架橋剤は、アクリル樹脂に対して、0.01~10重量%の範囲となるように配合することが好ましい。
【0130】
熱硬化性アクリル樹脂と熱可塑性アクリル樹脂とを併用する際は、熱硬化性アクリル樹脂と熱可塑性アクリル樹脂との重量比が95:5~30:70であることが好ましい。さらに好ましい熱硬化性アクリル樹脂と熱可塑性アクリル樹脂との重量比は、90:10~35:65、とりわけ80:20~40:60である。熱可塑性アクリル樹脂を上記重量比の範囲で使用することにより、プライマー層のプライマーとしての効果を維持しつつ、プライマー層の線膨張係数が小さくなりやすい。その結果、経時的な温度変化で発生するプライマー層の膨張・収縮に起因する応力が低減されるため、被膜にクラックが発生し難くなる。
【0131】
また、アクリル樹脂は、高温時の高分子の流動に起因する応力を減少させ、被膜にクラックが発生し難くなりやすい観点から、その重量平均分子量は、下限が5,000であることが好ましく、10,000であることがより好ましく、15,000であることがさらに好ましい。一方、プライマー層の流動性が高く、良好な塗工適性を発揮しやすい観点から、アクリル樹脂の重量平均分子量の上限は、800,000が好ましく、700,000がより好ましく、600,000がさらに好ましい。
【0132】
上述のとおり、プライマー層は、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。プライマー層に紫外線吸収剤を含む場合、ポリエステル層表面の光劣化を抑制しやすくすることができ、その結果、ポリエステル層とプライマー層との耐候密着性が向上する。紫外線吸収剤としては、例えば、一般的に用いられる無機系、有機系の各種紫外線吸収剤を用いることができる。樹脂プライマーに保持され、ポリエステル層とハードコート層の密着を妨げないためには、有機紫外線吸収剤が好ましく、化学結合により樹脂プライマーに固定された固定化有機紫外線吸収剤が特に好ましい。
【0133】
固定化紫外線吸収剤は、ブリードアウトによる消失や水による流出が起こり難い。有機紫外線吸収剤の固定化は、ラジカル反応基によるプライマー樹脂モノマーとの反応、アルコキシシリル基によるシラノール結合、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基等のシランカップリング剤の反応活性基を介した結合等によって行われる。特に、紫外線吸収性ビニル系単量体と、アルコキシシリル基を含有するビニル系単量体と、共重合可能な他の単量体との共重合体であるアルコキシ基含有共重合体ポリマーを使用したプライマー層は、密着性が高く、耐候性に優れる。
【0134】
プライマー層の厚さは、紫外線吸収等のプライマー層の機能がより有効に機能しやすい点では、厚いことが好ましい。プライマー層の厚さは、プライマー層の割れやプライマー層とポリエステル層の剥離が生じ難い点では、薄いことが好ましい。そこで、プライマー層を設ける場合、プライマー層の厚さは、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることが更に好ましい。また、プライマー層の厚さは、2.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることが更に好ましい。すなわち、プライマー層の厚さは、0.01~2.0μmが特に好ましい。特にプライマー層が紫外線吸収剤を含む場合には、紫外線を遮蔽するのに十分な紫外線吸収剤量を得るためには、プライマー層の厚さは0.1μm以上であるのが好ましい。
【0135】
プライマー層の形成方法としては、ハードコート層と同様にディッピング、かけ流し、スプレー、ロールコータ、フローコータ、押出製膜後にインラインでプライマー層用の塗布液を基材上に連続で塗工して硬化させる方法などが挙げられる。インラインコート法では、ロールコータ、フローコータ、バーコータ、グラビア、スロットダイ、コンマコータ等の通常の塗工手段を用いればよい。
【0136】
[加飾層]
本発明の積層体は、意匠性などを付与するために加飾層を有していてもよい。本発明の積層体は、意匠性を付与しやすい点では、加飾層を有していることが好ましい。
【0137】
この場合、本発明の積層体は、加飾層/本発明に係るポリエステル層/本発明に係るハードコート層の積層構造であることが好ましい。加飾層は、通常、以下に示す意匠性を付与するための絵柄層、或いは絵柄層と絵柄層による意匠性を高めるためのインキ層とで構成される。
【0138】
絵柄層は、種々の模様を、インキと印刷機を使用して印刷することにより形成される。模様としては、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様等が挙げられる。また、模様としては、これらの模様を複合した寄木、パッチワーク等の模様も挙げられる。これらの模様は、通常の、黄色、赤色、青色、および黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成することができる。この他、模様を構成する個々の色の版を用意して行う、特色による多色印刷等によっても形成することができる。
【0139】
絵柄層に用いる絵柄インキとしては、バインダーに顔料、染料などの着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤などを適宜混合したものなどが使用される。
【0140】
該バインダーとしては、特に制限はなく、例えば、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/アクリル系共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、酢酸セルロース系樹脂などの中から任意のものが、1種単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0141】
着色剤としては、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料、又は染料、アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料等が用いられる。
【0142】
インキ層を形成するインキは、バインダー樹脂として非架橋性樹脂を有するインキであることが好ましい。インキは、例えば、熱可塑性(非架橋型)ウレタン樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂などが好適である。また、必要に応じて、インキには、低光沢領域の発現の程度、低光沢領域とその周囲との艶差のコントラストを調整するために、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又は塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などを混合することができる。
【0143】
インキ層を形成するインキが着色剤を含有していることにより、インキ自体でも絵柄模様を与えることができるが、必ずしも着色されているインキを用いる必要はない。絵柄層が表現しようとする模様のうち、艶を消して、視覚的に凹部を表現したい部分とインキ層を同調させることによって、艶差による視覚的凹部を有する模様が得られる。例えば、絵柄層によって木目模様を表現しようとする場合には、木目の導管部分にインキ層のインキ部分を同調させることにより、艶差により導管部分が視覚的に凹部となった模様が得られる。絵柄層の上に、直接又は透明性の高いプライマー層を介して、絵柄層の上にインキ層を印刷等により設けることで、絵柄層との同調が容易であり、優れた意匠表現を実現させることができる。
【0144】
インキ層を形成するインキの塗布量については、低光沢領域が得やすい点では多いことが好ましい。一方で、インキの塗布量は、加飾シート表面の艶差が得られやすく、インキの印刷に際して機械的制約がなく、また経済的にも有利である点では、少ないことが好ましい。そこで、インキの塗布量は、0.1g/m2以上であることが好ましく、0.5g/m2以上であることが更に好ましい。インキの塗布量は、10g/m2以下であることが好ましく、5g/m2以上であることが更に好ましい。すなわち、インキの塗布量は、0.1~10g/m2の範囲であることが特に好ましく、0.5~5g/m2の範囲であることが最も好ましい。
【0145】
インキ層を形成するためのインキ組成物には、体質顔料を含有させることが好ましい。体質顔料を含有させることによって、インキ組成物にチキソ性を付与することができ、版を用いてインキ層を印刷する際に、インキ組成物の形状が維持されやすい。このことにより、凸部から凹部に移行する端部における凹凸の鮮映性(シャープネス)を強調することができ、メリハリのある意匠表現が可能となる。
【0146】
この場合に用いる体質顔料としては、特に限定されず、例えばシリカ、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等から適宜選択される。
【0147】
これらのうち、吸油度、粒径、細孔容積等の材料設計の自由度が高く、意匠性、白さ、インキとしての塗工安定性に優れた材料であるシリカが好ましく、特に微粉末のシリカが好ましい。シリカの粒径としては、インキに添加した際にインキのチキソ性が極端に高くなり難く、インキの粘性が低く、印刷のコントロールがしやすい点では、大きいことが好ましい。また、シリカの粒径は、塗布厚さよりも小さく、粒子の頭だしが起こりにくく、目立ち難く、視覚的な違和感が起こり難い点では、小さいことが好ましい。そこで、シリカの粒径は、0.1~5μmの範囲が好ましい。特に、導管模様部分の艶消しをする場合、導管模様部分のインキの塗布厚さが通常5μm以下であることから、シリカの粒径が上記範囲であることが好ましい。
【0148】
これらの体質顔料のインキ組成物における含有量は、インキ組成物へのチキソ性付与の点では多いことが好ましい。また、インキ組成物における体質顔料の含有量は、低艶を付与する効果が低下し難い点では、少ないことが好ましい。そこで、具体的には、インキ組成物における体質顔料の含有量は、5~15重量%の範囲であることが好ましい。
【0149】
[インサート成形用加飾フィルム]
本発明の積層体は、このように本発明に係るポリエステル層の一方の面に加飾層を形成し、他方の面に本発明に係るハードコート層を形成することにより、特に、以下に記載するインサート成形用加飾フィルムとして好適に用いることができる。
【0150】
即ち、車両内外装部品等の製造分野等では、加飾フィルムを射出成形金型内に配置し、ここへ溶融樹脂を射出して樹脂と加飾フィルムとを一体化するインサート成形が広く採用されている。このようなインサート成形に用いられる加飾フィルムは、溶融樹脂の射出側となるバッカー層、接着剤層、加飾層、基材としてのポリエステル層、表面層としてのハードコート層がこの順で積層された積層構造とされる。本発明の積層体は、このようなインサート成形用加飾フィルムとして有用である。
【0151】
このようなインサート成形用加飾フィルムにおいて、加飾層表面の接着剤層を構成する接着剤としては、前記加飾層やバッカー層との接着性に優れていることが好ましい。このような接着剤としては、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエチレン系、ポリアミド系、ポリ塩化ビニル系、ポリクロロプレン系、カルボキシル化ゴム系、熱可塑性スチレン-ブタジエンゴム系、アクリル系、スチレン系、セルロース系、アルキド系、ポリ酢酸ビニル系、エチレン酢酸ビニル共重合体系、ポリビニルアルコール系、エポキシ系、シリコーン系、天然ゴム、合成ゴムなどの各樹脂から選ばれた1種、あるいは2種以上の混合物が挙げられる。このような接着剤は、加飾フィルムとして、成形時の温度に耐えられることを考慮して選択する。
【0152】
市販の接着剤としては、例えば、住友スリーエム株式会社製商品名467MP等が使用できる。
【0153】
加飾層とバッカー層を接着させる接着剤層の厚さは、接着力の発現しやすさの点では厚いことが好ましい。また、接着剤層の厚さは延伸性や成形性の点では薄いことが好ましい。そこで、接着剤層の厚さは、5μm以上が好ましく、20μm以上が更に好ましい。また、接着剤層の厚さは、80μm以下が好ましく、50μm以下が更に好ましい。すなわち、接着剤層の厚さは、5~80μmが特に好ましく、さらに好ましくは20~50μmである。
【0154】
バッカー層の厚さは、通常100~500μmである。バッカー層としては、ABS樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0155】
このようなインサート成形用加飾フィルムを用いてインサート成形を行うには、通常、このインサート成形用加飾フィルムを所定の射出成形金型に合うように予備成形を行い、賦形させた加飾フィルムを射出成形金型内に設置した後、射出成形金型を型閉めし、溶融樹脂を射出成形金型内に射出し、冷却固化させた樹脂と加飾シートを一体化させる。最後に、溶融樹脂の冷却固化後、射出成形金型の型開きを行い、成形品の表面が加飾フィルムで覆われたインサート成形品を射出成形金型より取り出す。射出する溶融樹脂としては、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0156】
[本発明の積層体]
本発明の積層体の形状は、フィルム(シート)、より厚みのある板、ブロック、塊状などの何れの形状であってもよい。また、本発明の積層体は、平面状に限らず、曲面状でも、凹凸のある形状などの不定形状であっても構わない。
【0157】
本発明の積層体は、本発明の積層体が有する耐屈曲性が活かせるため、フィルムであることが好ましい。本発明の積層体の厚さは、特に制限されない。本発明の積層体の厚さは、本発明の積層体が有する各層の合計値となる。
【0158】
前述のとおり、本発明の積層体は、高い表面硬度を有し、かつカールなどの変形が少なく、加工性、取り扱い性および耐屈曲性に優れる。
【0159】
本発明の積層体のハードコート層を有する側の表面鉛筆硬度は、特に限定されない。本発明の積層体のハードコート層を有する側の表面鉛筆硬度は、傷つき難さの点では高いことが好ましい。また、本発明の積層体のハードコート層を有する側の表面鉛筆硬度は、耐屈曲性の点では柔らかいことが好ましい。そこで、本発明の積層体のハードコート層を有する側の表面鉛筆硬度は、2H以上であることが好ましく、4H以上であることが更に好ましく、5H以上であることが特に好ましい。本発明の積層体のハードコート層を有する側の表面鉛筆硬度は、通常9H以下である。本発明の積層体が複数の面にハードコート層を有する場合は、少なくともハードコート層を有する何れかの面側の表面鉛筆硬度が上述のとおりであることが好ましい。本発明の積層体の表面鉛筆硬度は、後述する実施例に記載した方法により測定することができる。
【0160】
本発明の積層体のハードコート層を有する側の押込弾性率は、表面硬度の点では、高いことが好ましい。また、本発明の積層体のハードコート層を有する側の押込弾性率は、耐屈曲性の点では、低いことが好ましい。そこで、本発明の積層体のハードコート層を有する側の押込弾性率は、100MPa以上であることが好ましく、500MPa以上であることが更に好ましい。また、本発明の積層体のハードコート層を有する側の押込弾性率は、10000MPa以下であることが好ましく、3000MPa以下であることが更に好ましい。
【0161】
[フィルム]
本発明の積層体からなるフィルムは、本発明に係るハードコート層を形成したことによる高い表面硬度を有すると共に、基材の本発明に係るポリエステル層が2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位を含むことによる優れた耐カール性、耐屈曲性から、フレキシブルフィルム等として有用である。
【0162】
以下に、本発明の積層体からなるフィルムの製造例の一例を示す。但し、本発明の積層体からなるフィルムの製造方法は、何ら以下の方法に限定されるものではない。
【0163】
まず、本発明に係るポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるために、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めておくことが好ましい。そこで、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に、得られた未延伸シートは、通常、二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常80~140℃、好ましくは85~120℃であり、延伸倍率は通常2.5~7倍、好ましくは3.0~6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する延伸温度は、通常70~170℃であり、延伸倍率は、通常3.0~7倍、好ましくは3.5~6倍である。そして、引き続き180~270℃の温度で、緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0164】
また、本発明におけるポリエステルフィルムの製造において同時二軸延伸法を採用することもできる。この方法は、同時二軸延伸法は前記の未延伸シートを、通常70~120℃、好ましくは80~110℃で、温度コントロールされた状態で、二方向に同時に延伸する方法である。ここで、延伸倍率としては、面積倍率で4~50倍、好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。そして、引き続き、170~250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来から公知の延伸方式を採用することができる。
【0165】
上述のポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面にプライマー処理やハードコート処理を行う、いわゆる塗布延伸法(インラインコーティング)を施す場合は、一軸延伸後のシートに、プライマー層又はハードコート層形成用の塗布液を塗布すればよい。塗布延伸法により、ポリエステルフィルム上にプライマーやハードコート層を設ける場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に、塗布層の厚さを延伸倍率に応じて薄くすることができ、ハードコートフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
【実施例】
【0166】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0167】
以下の実施例および比較例における評価方法は下記のとおりである。
【0168】
(1)ポリエステルの還元粘度(ηsp/c)の測定
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させた溶液について、30℃で測定した。
【0169】
(2)シリカ粒子の平均粒径の測定
透過型電子顕微鏡(略称TEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「H-7650」、加速電圧100kV)を使用して、プライマー層を観察し、シリカ粒子10個の粒径の平均値を平均粒径とした。
【0170】
(3)プライマー層の厚さの測定
プライマー層を有するポリエステルフィルムのプライマー層の表面をRuO4で染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により、厚さ方向に切断して作製した切片をRuO4で染色し、プライマー層断面をTEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「H-7650」、加速電圧100kV)を用いて測定した。
【0171】
(4)ポリエステル層の厚さの測定
積層体をエポキシ樹脂中に包埋し、ミクロトームによりポリエステル層の厚さ方向に切断した。ポリエステル層断面を走査型電子顕微鏡(略称SEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「S-4300N」、加速電圧15kV)を用いて測定し、任意の10箇所の平均値をポリエステル層の厚さとした。
【0172】
(5)ハードコート層の厚さの測定
積層体をエポキシ樹脂中に包埋し、ミクロトームによりハードコート層の厚さ方向に切断した。ハードコート層断面を走査型電子顕微鏡(略称SEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「S-4300N」、加速電圧15kV)を用いて測定し、任意の10箇所の平均値をハードコート層の厚さとした。
【0173】
(6)表面鉛筆硬度の測定
トライボギアHEIDON-14DR(新東科学株式会社製)を用いて、JIS K5600-5-4(1999)に準拠して、得られた積層体のハードコート層の表面鉛筆硬度を測定した。
ポリエステル層の表面鉛筆硬度は、後述する参考例で得られたポリエステルフィルムの、プライマー層と逆側から測定した。
ハードコート層の表面鉛筆硬度は、厚さ188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、厚さ30μmのハードコート層を設け、そのハードコート側から測定した。
【0174】
(7)カール量の測定
積層体を、縦50mm×横50mmの大きさに裁断した。裁断された積層体を、平坦な面の上に置き、平坦な面から浮き上った積層体の四隅の、平坦な面からの浮き上がり高さをそれぞれ測定し、その合計をカール量とした。
【0175】
(8)ハードコート層の押込弾性率の測定
微小硬度計「DUH-211」(株式会社島津製作所製)を用いて、以下の条件で、ハードコート層の押込弾性率を測定した。ハードコート層の押込弾性率は、ポリエステルフィルム上に、厚さ13μmのハードコート層を設けた際の、ハードコート層側から測定した押込弾性率とした。
試験モード:負荷除荷試験
試験力:1mN
最小試験力:0.002mN
負荷速度:0.0060mN/sec
負荷保持時間:2sec
除荷保持時間:0sec
深さフルスケール:1μm
圧子弾性率:1.140×106N/mm2
圧子ポアソン比:0.07
圧子種類:Triangular115
長さ読み取り回数:3
【0176】
(9)ポリエステルの曲げ弾性率の測定
小型混練機(Xplore instruments社製 XploreシリーズMC15)を用い、ポリエステエル(A)をホッパーから供給し、回転数100rpm、240℃、窒素雰囲気下で3分間混練した。その後、パージ孔から240℃に設定した射出成形用シリンダーに溶融樹脂を移し、金型温度30℃の条件で成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの試験片を得た。得られた試験片を、ISO178に準拠して、23℃において曲げ弾性率を測定した。
ポリエステル(B)は、融点がポリエステル(A)よりも高いため、混練温度と射出成形用シリンダー温度を280℃にした以外はポリエステル(A)と同様にして、曲げ弾性率を測定した。
【0177】
(10)接着性の測定
積層体のハードコート層に、10×10のクロスカットを入れ、24mm幅のテープ(ニチバン株式会社製「セロテープ」(登録商標)CT-24)を貼り付け、180度の剥離角度で急激にはがした。剥離面を観察し、剥離面積が5%以下ならば◎、5%を超え20%以下ならば○、20%を超えるならば×とした。
【0178】
(11)耐屈曲性の測定
JIS-K5600-5-1(1999)に準拠した耐屈曲性(円筒形マンドレル法)に基づき、直径が10mmの鉄棒に、積層体をハードコート層が外側に位置するように折り返して巻き付け、その巻き付けた部分のハードコート層にクラックが生じていないものを◎、ややクラックが生じているものを○、クラックが多く生じているものは×とした。
【0179】
[実施例1]
<ポリエステル(A)の製造>
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧口を備えた反応容器に、ポリエステル原料として、2,5-フランジカルボン酸85.7重量部、1,2-エタンジオール68.2重量部を仕込み、反応容器内を窒素雰囲気にした。
次に、オイルバスに反応容器を投入し、撹拌を開始して210℃まで昇温し、210℃で1時間反応させて留出液を回収した。反応液が透明になったところで、テトラブチルチタネートを予め5重量%溶解させた1,2-エタンジオール溶液0.71重量部を添加した。
続いて1時間30分かけて260℃まで昇温すると同時に、圧力が130Pa程度になるように徐々に減圧した。減圧開始から3時間経過したところで撹拌を停止、復圧して重縮合反応を終了し、ポリエステル(A)を得た。得られたポリエステル(A)の還元粘度は0.68dL/gであった。得られたポリエステル(A)の曲げ弾性率は、3500MPaであった。
【0180】
<プライマー液(A)の製造>
下記に記載のアクリル樹脂、オキサゾリン化合物、およびシリカ粒子をそれぞれ87重量部(アクリル樹脂の固形物として)、10重量部、3重量部混合して、プライマー液(A)を製造した。
・アクリル樹脂
メチルメタクリレート:エチルメタクリレート:エチルアクリレート:アクリロニトリル:N-メチロールアクリルアミド:アクリル酸=40:22:21:10:3:4(モル%)から形成されるアクリル樹脂の水分散体(乳化剤:アニオン系界面活性剤)
・オキサゾリン化合物
オキサゾリン基及びポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリルポリマー。オキサゾリン基量=4.5mmol/g
・シリカ粒子
平均粒径70nmのコロイダルシリカ
【0181】
<ハードコート液(A)の製造>
下記に記載の多環能アクリレート、光重合開始剤、および溶媒を下記の比率で混合してハードコート液(A)を製造した
・多官能アクリレート
NKエステルA-DPH(新中村化学社製):100重量部
・光重合開始剤
IRgacure184(BASF製):5重量部
・溶媒
トルエン:100重量部
ハードコート液(A)を厚さ188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布、硬化させて、厚さ30μmのハードコート層を設けた。そのハードコート層側から測定した表面鉛筆硬度は、2Hであった。
【0182】
<積層体の製造>
ポリエステル(A)を原料として押出機に供給し、280℃に加熱溶融した後、45℃に設定した冷却ロール上に押出し、冷却固化させて、未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用して、フィルム温度100℃で縦方向に5.0倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、プライマー液(A)を塗布し、テンターに導き、横方向に120℃で4.5倍延伸し、200℃で10秒熱処理を行った後、横方向に3%弛緩し、プライマー層を有する厚さ23μmのポリエステルフィルムを得た。プライマー層の厚さ(乾燥後)は、0.1μmであった。
【0183】
得られたポリエステルフィルムに、ハードコート液(A)を塗布し、熱風式乾燥機を用いて80℃で5分間乾燥させ、次いでUV照射機(Fusion Light Hammer 6Fusion社製)を用いて、該ハードコート液(A)の塗布層を硬化させ、ハードコート層を有する積層体を得た。ハードコート層の厚さは1.5μmであった。UV照射条件はスピード:4.0m/min、照射量:50%、光源:無電極ランプとした。積層体の厚さは、24.5μmであった。得られた積層体の接着性は、○であった。
【0184】
[実施例2]
ハードコート層の厚さが3.0μmとなるように形成したこと以外は、実施例1と同様にして、ハードコート層を有する積層体を得た。積層体の厚さは、26μmであった。得られた積層体の接着性は、○であった。
【0185】
[実施例3]
ハードコート層の厚さが13μmとなるように形成したこと以外は、実施例1と同様にして、ハードコート層を有する積層体を得た。積層体の厚さは、36μmであった。積層体の接着性は、○であった。ハードコート側から測定した押込弾性率は、5800MPaであった。
【0186】
[実施例4]
ハードコート剤として、多官能ウレタンアクリレートである、HX-RPH(共栄社化学株式会社、ハードコート層としての表面鉛筆硬度は9H)を用いて、ハードコート層の厚さが13μmとなるように形成したこと以外は、実施例1と同様にして、ハードコート層を有する積層体を得た。積層体の厚さは、36μmであった。積層体の接着性は、◎であった。ハードコート側から測定した押込弾性率は、1200MPaであった。
【0187】
実施例1~実施例4で得られた積層体の評価結果を下記表1に示す。
実施例1~実施例4で得られた積層体は、いずれも表面鉛筆硬度が高く、耐摩耗性や耐傷付性に優れた積層体であった。また、カール量は小さく、耐カール性は良好であった。さらに、実施例3、4は、耐屈曲性も良好であった。
【0188】
[比較例1]
<ポリエステル(B)の製造>
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧口を備えた反応容器に、ポリエステル原料として、テレフタル酸ジメチル100重量部と1,2-エタンジオール60重量部を用い、エチルアシッドフォスフェートを生成ポリエステルに対して30ppm、触媒として酢酸マグネシウム・四水和物を、生成ポリエステルに対して100ppm添加して、窒素雰囲気下、260℃でエステル化反応をさせた。引き続いて、テトラブチルチタネートを生成ポリエステルに対して50ppm添加し、2時間30分かけて280℃まで昇温すると共に、絶対圧力0.3kPaまで減圧し、さらに80分、溶融重縮合させて還元粘度0.63dL/gのポリエステル(B)を得た。得られたポリエステル(B)の曲げ弾性率は、2200MPaであった。
【0189】
<積層体の製造>
ポリエステル(B)を原料として押出機に供給し、280℃に加熱溶融した後、25℃に設定した冷却ロール上に押出し、冷却固化させて、未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用して、フィルム温度85℃で縦方向に3.2倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、プライマー液(A)を塗布し、テンターに導き、横方向に110℃で4.0倍延伸し、220℃で10秒熱処理を行った後、横方向に3%弛緩し、厚さ(乾燥後)0.1μmのプライマー層を有する厚さ23μmのポリエステルフィルムを得た。
【0190】
得られたポリエステルフィルムの表面鉛筆硬度はBであった。比較例1の積層体は、実施例1~4の積層体より、表面鉛筆硬度が低かった。すなわち、比較例1の積層体は、実施例1~4の積層体より、耐摩耗性および耐傷付性が劣っている。
【0191】
得られたポリエステルフィルムに、実施例1と同様にしてハードコート層を設けて、積層体を得た。積層体の厚さは、24.5μmであった。得られた積層体の評価結果を表1に示す。
この積層体の表面の鉛筆硬度は、実施例1、2の積層体の表面の鉛筆硬度よりも、低かった。そのため、耐摩耗性、耐傷付性に劣るものである。
【0192】
[比較例2]
ハードコート層の厚さが7.5μmとなるように形成したこと以外は、比較例1と同様にして、積層体を得た。積層体の厚さは、30.5μmであった。得られた積層体の評価結果を表1に示す。
この積層体の表面鉛筆硬度は、ハードコート層の厚さが厚いため、比較例1よりも高かったが、実施例1~4の積層体の表面鉛筆硬度よりも低かった。そのため、耐摩耗性、耐傷付性は、十分ではない。一方で、カール量が大きく、耐カール性に劣る。
【0193】
[参考例]
ポリエステル(A)を原料として押出機に供給し、280℃に加熱溶融した後、45℃に設定した冷却ロール上に押出し、冷却固化させて、未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用して、フィルム温度100℃で縦方向に5.0倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、プライマー液(A)を塗布し、テンターに導き、横方向に120℃で4.5倍延伸し、200℃で10秒熱処理を行った後、横方向に3%弛緩し、プライマー層を有する厚さ23μmのポリエステルフィルムを得た。プライマー層の厚さ(乾燥後)は、0.1μmであった。得られたポリエステルフィルムのプライマー層と逆側の表面鉛筆硬度は、Hであった。
【0194】
【0195】
[加飾層を有する積層体の製造]
実施例1で得られたポリエステルフィルムのハードコート層と逆側の上に、アクリル系樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体樹脂とをバインダー樹脂とした印刷インキ(アクリル樹脂:50重量%、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体樹脂:50重量%)を、塗工量3g/m2でグラビア印刷を施して、木目模様の加飾層を形成することができる。さらに、接着剤(住友スリーエム株式会社製:467MP)を、ラミネーターでABSバッカー(RP東プラ株式会社製:厚さ300μm)にラミネートし、厚さ50μmの接着剤層を形成し、セパレーターを剥がしながらラミネーターで、加飾層を形成してあるポリエステルフィルムの加飾層側に貼り合わせ、加飾フィルム(バッカー層/接着剤層/加飾層/ポリエステルフィルム)を作製することができる。
更にこのようにして得られる加飾フィルムのポリエステルフィルム側に、実施例1に記載の方法で、厚さ1.5μmのハードコート層を設けることができる。
このようにして得られるハードコート層を有する加飾フィルムは、ハードコート層を有する面の鉛筆硬度が高いために傷が付きにくく、しかもハードコート層の厚さが薄いことから耐屈曲性が良好な加飾フィルムとして好適に用いることができる。
【0196】
以上の結果から明らかなように、本発明によれば、ハードコート層の厚さを薄くしても高い表面硬度を得ることができ、これにより耐カール性、取り扱い性に優れた積層体とすることができる。また、このようにハードコート層が薄いことで、耐屈曲性、加工性にも優れたものとなる。
【0197】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2018年8月3日付で出願された日本特許出願2018-146976に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明の積層体は、表面硬度が高く、かつ耐カール性、屈曲性も良好であり、例えばインサート成形シートやインモールド転写シート等の加飾成形用フィルムの基材や、ITO基材フィルム、ディスプレイ用カバーシートとして好適に使用することができる。