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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】シリコンウエーハの強度の評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
H01L21/66 L
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021081880
(22)【出願日】2021-05-13
(65)【公開番号】P2022175481
(43)【公開日】2022-11-25
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】水澤 康
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-006708(JP,A)
【文献】特開2015-105853(JP,A)
【文献】特開平06-342838(JP,A)
【文献】特開平06-349917(JP,A)
【文献】特開平11-045922(JP,A)
【文献】特開平09-264801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウエーハの強度を評価する方法であって、
実験用ウエーハとして、複数のシリコンウエーハを準備するサブステップと、
前記複数の実験用ウエーハの表面に、絶縁膜からなるラインアンドスペースパターンを形成するサブステップと、
前記ラインアンドスペースパターンを形成した複数の実験用ウエーハに対して、ドライエッチング時間を振ってドライエッチングを行い、少なくとも一部の実験用ウエーハにおける前記ラインアンドスペースパターンのライン部とスペース部の境界部である端部をオーバーエッチングするサブステップと、
前記ドライエッチングを行った複数の実験用ウエーハに所定の熱処理を行うサブステップと、
前記熱処理を行った複数の実験用ウエーハに対して、選択エッチングを行って少なくとも一部の実験用ウエーハにおいて転位を顕在化させるサブステップと
を含み、これにより、前記ラインアンドスペースパターンの端部の断面が応力特異点となる端部形状にならず、かつ、前記シリコンウエーハに転位が発生するドライエッチング時間を決定する工程と、
評価対象のシリコンウエーハを準備するサブステップと、
前記評価対象のシリコンウエーハの表面に、絶縁膜からなる所定の寸法のラインアンドスペースパターンを形成するサブステップと、
前記ラインアンドスペースパターンを形成した評価対象のシリコンウエーハに対して前記決定したドライエッチング時間でドライエッチングを行い、前記ラインアンドスペースパターンの端部をオーバーエッチングするサブステップと、
前記ドライエッチングを行った評価対象のシリコンウエーハの断面形状から有限要素法で用いるモデルを作成するサブステップと、
前記評価対象のシリコンウエーハのラインアンドスペースパターンの端部における局所応力を、前記モデルに基づいて前記有限要素法で計算して求めるサブステップと
を含み、これにより、評価対象のシリコンウエーハの強度を評価する工程と
を有することを特徴とするシリコンウエーハの強度の評価方法。
【請求項2】
前記評価対象のシリコンウエーハの強度を評価する工程において、
予め、前記有限要素法によって求めた局所応力と、前記熱処理後に前記選択エッチングして得られた転位の密度の相関関係を取得しておき、
該相関関係を用いて、前記有限要素法によって求めた局所応力から、転位の発生の有無を推定することを特徴とする請求項1に記載のシリコンウエーハの強度の評価方法。
【請求項3】
前記絶縁膜を窒化膜とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコンウエーハの強度の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエーハの強度の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路を作製するための基板として、主にCZ(Czochra1ski)法によって作製されたシリコンウエーハ(以下、単にウエーハと表現する場合がある)が用いられている。近年の最先端デバイスでは、Fin構造やSTI(shallow trench isolation)構造の端部の局所応力によって発生する微小な転位がデバイス特性を悪化させる問題が発生しており、ウエーハ強度、特に表層強度の向上が重要な課題となっている。
【0003】
シリコンウエーハにおける転位はパターンずれ不良やリーク電流の原因となることから、ウエーハにおける転位挙動を把握し制御することは非常に重要である。
【0004】
ウエーハにおける転位挙動を評価する方法としては、機械的な試験(曲げ試験、引張試験)、熱応力を用いる方法(RTA処理時に発生する転位の長さを測定する方法)、ローゼット試験等がある。しかし、実際のデバイス構造を模した条件で転位挙動を評価できる方法は少ない。特に、応力と転位の挙動の関係が調査できる方法はさらに少ない。
【0005】
機械的試験で転位が発生する応力について、定量的に測定することはできるが、この値は、ひずみ速度、試験温度、サンプル中の欠陥密度、サンプル中の初期転位密度、サンプル中の不純物濃度などに依存することが知られている。また、機械的な試験はマクロな試験であるため、極微小の転位が発生する応力(例えば極微小な転位が導入される応力)を定量することができない。
【0006】
しかしデバイス構造では、極微小な領域(例えば数μm程度やそれ以下)での転位の発生がデバイス特性を悪化させるため、極微小領域での転位挙動を定量的に把握することは非常に重要である。具体的には、デバイス工程においては絶縁膜等の様々な異種材料がシリコンウエーハ上に堆積された状態で熱処理などが施される。その結果、異種材料とシリコンの熱膨張係数の差、異種材料自身の真性応力、および異種材料とシリコンの格子不整合が原因で非常に大きな応力がシリコンウエーハ表面に作用する場合がある。その応力値は有限要素法などで推量することが可能である(非特許文献1)。推量できた応力から転位が発生するかどうかを判断するためには、微小領域での転位の発生や転位密度と定量された応力の関係を知ることが非常に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-244442号公報
【文献】特開平5-347302号公報
【0008】
【文献】Materials Science and Engineering A 395 (2005) 62-69
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
デバイス構造を模した評価手法の例として、太田らが開発した方法がある(非特許文献1)。この方法は、ウエーハ表面にライン(Line)幅を振ったSiN膜のラインアンドスペース(Line & Space、以下、単にL&Sと表現する場合がある。)構造を形成した後に、熱処理を施し、SiN膜端部の局所応力により発生した転位の密度を選択エッチングで評価するというものである。この手法の特徴は、ライン幅を振ることで局所応力を振ることができ、転位密度と応力の関係や転位が発生する臨界応力を求めることができることである。
【0010】
ラインアンドスペースパターンにおいて、ライン幅が広くなると転位が発生しやすくなる。この理由は、ライン幅が広いほど、SiN膜端部の局所応力が高くなるためである。このとき、転位が発生する最小のライン幅での局所応力を臨界応力と言う。
【0011】
また、SiN膜端部近傍の応力分布は有限要素法を用いた解析で定量することができるが、SiN膜の端部が角部(応力特異点)となり、転位の発生に関係する膜端部の局所応力を直接求めることができず、応力特異場理論を用いた方法で評価しなければならない。
【0012】
この方法は、具体的には、L&S構造の断面をモデル化し、有限要素法で応力分布を計算する。その後、応力特異場理論を用いた式(1)で、応力特異点からの距離と分解せん断応力の関係を表す。
【0013】
【数1】
ここで、τRSSは分解せん断応力で、Kは応力場の強さを表すパラメーターで、rは応力特異点からの距離で、λは応力場の指数を表すパラメーターである。λは計算モデルの構造や材料で決定されるパラメーターで、Kは有限要素法の結果に合わせるように決定するパラメーターである。具体的には、実際の構造の場合を計算し、有限要素法でK値を求め、その値を指標として転位密度や臨界応力の関係を調査する。このK値を用いることで応力特異場を有する構造での転位の挙動を予測することが可能となる。しかし、実際に作用している応力がどの程度であるかはわからないという問題点がある。
【0014】
また、特許文献1でもデバイス構造での転位評価技術が言及されている。この手法は、素子分離領域のバーズビーク成長による応力を緩和するために、素子分離領域をあらかじめエッチングで深堀りして溝を形成することに関するものである。この深堀りする量と応力の関係を求めて、デバイスに転位が導入されないような構造を規定しているが、転位が導入されない応力値は、素子分離領域幅寸法、素子形成領域幅寸法、パッド酸化膜厚、窒化膜厚、溝の深さから求めており、直接応力値としては得られていない。
【0015】
加えて、特許文献1の先行技術では、応力特異点に関する言及はなく、転位が発生する応力を定量することはできない。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、有限要素法を用いて直接応力を求めることができるシリコンウエーハの強度の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、
シリコンウエーハの強度を評価する方法であって、
実験用ウエーハとして、複数のシリコンウエーハを準備するサブステップと、
前記複数の実験用ウエーハの表面に、絶縁膜からなるラインアンドスペースパターンを形成するサブステップと、
前記ラインアンドスペースパターンを形成した複数の実験用ウエーハに対して、ドライエッチング時間を振ってドライエッチングを行い、少なくとも一部の実験用ウエーハにおける前記ラインアンドスペースパターンのライン部とスペース部の境界部である端部をオーバーエッチングするサブステップと、
前記ドライエッチングを行った複数の実験用ウエーハに所定の熱処理を行うサブステップと、
前記熱処理を行った複数の実験用ウエーハに対して、選択エッチングを行って少なくとも一部の実験用ウエーハにおいて転位を顕在化させるサブステップと
を含み、これにより、前記ラインアンドスペースパターンの端部の断面が応力特異点となる端部形状にならず、かつ、前記シリコンウエーハに転位が発生するドライエッチング時間を決定する工程と、
評価対象のシリコンウエーハを準備するサブステップと、
前記評価対象のシリコンウエーハの表面に、絶縁膜からなる所定の寸法のラインアンドスペースパターンを形成するサブステップと、
前記ラインアンドスペースパターンを形成した評価対象のシリコンウエーハに対して前記決定したドライエッチング時間でドライエッチングを行い、前記ラインアンドスペースパターンの端部をオーバーエッチングするサブステップと、
前記ドライエッチングを行った評価対象のシリコンウエーハの断面形状から有限要素法で用いるモデルを作成するサブステップと、
前記評価対象のシリコンウエーハのラインアンドスペースパターンの端部における局所応力を、前記モデルに基づいて前記有限要素法で計算して求めるサブステップと
を含み、これにより、評価対象のシリコンウエーハの強度を評価する工程と
を有することを特徴とするシリコンウエーハの強度の評価方法を提供する。
【0018】
このようなシリコンウエーハの強度の評価方法では、実験用ウエーハを用いてラインアンドスペースパターンの端部におけるオーバーエッチング量の適切な量を調査することができ、評価用ウエーハでは、オーバーエッチング量を適切な量に制御することができるので、ラインアンドスペースパターンの端部を応力特異点とすることなく、有限要素法で端部の応力を定量することができる。
【0019】
この場合、前記評価対象のシリコンウエーハの強度を評価する工程において、予め、前記有限要素法によって求めた局所応力と、前記熱処理後に前記選択エッチングして得られた転位の密度の相関関係を取得しておき、該相関関係を用いて、前記有限要素法によって求めた局所応力から、転位の発生の有無を推定することができる。
【0020】
本発明のシリコンウエーハの強度の評価方法では、このように、局所応力から、転位の発生の有無を推定することもできる。この局所応力は、ラインアンドスペースパターンの端部を応力特異点とすることなく求めたものであるので、定量性が高い。
【0021】
また、本発明のシリコンウエーハの強度の評価方法では、前記絶縁膜を窒化膜とすることが好ましい。
【0022】
窒化膜の場合は成膜条件により真性応力(成膜時の応力)の変化が大きいため、絶縁膜として窒化膜を用いることにより、局所応力を変化させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のシリコンウエーハの強度の評価方法では、実験用ウエーハを用いてラインアンドスペースパターンの端部におけるオーバーエッチング量の適切な量を調査することができる。そのため、評価用ウエーハでは、オーバーエッチング量を適切な量に制御することができるので、ラインアンドスペースパターンの端部を応力特異点とすることなく、有限要素法で端部の応力を定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1、比較例1、2における、ドライエッチング時間ごとの、ドライエッチング、熱処理及び選択エッチング後のラインアンドスペース部の実体顕微鏡観察画像であり、〇印は転位によるエッチピットを示す。
図2】実施例1、比較例1、2における、ドライエッチング時間ごとの、ドライエッチング後の断面SEM観察画像である。
図3】比較例1で作成した、ドライエッチングの時間が132秒の場合の有限要素法の解析モデルを示す図である。
図4】局所応力とメッシュサイズの関係を示すグラフである。
図5】ドライエッチングの時間が137秒の場合の有限要素法の解析モデルを示す図である。
図6】ライン幅と転位ピット密度の関係を示すグラフである。
図7】最大分解せん断応力と転位ピット密度の関係を示すグラフである。
図8】本発明のシリコンウエーハの強度の評価方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をより具体的に説明する。
【0026】
[ドライエッチング時間を決定する工程]
まず、実験用ウエーハを用いて、評価対象のシリコンウエーハにラインアンドスペースパターンを形成したときに、ラインアンドスペースパターンの端部の断面が応力特異点となる端部形状にならず、かつ、シリコンウエーハに転位が発生するドライエッチング時間を決定する。この工程は、以下のように、各サブステップを含む。
【0027】
[サブステップS11:実験用ウエーハの準備]
まず、図8のS11に示したように、実験用ウエーハとして、複数のシリコンウエーハを準備する。実験用ウエーハは、評価用ウエーハと同等の特性(直径、導電型、抵抗率、酸素濃度等)を有するシリコンウエーハとすることが好ましいが、これに限定されない。
【0028】
[サブステップS12:実験用ウエーハにラインアンドスペースパターンを形成]
次に、図8のS12に示したように、複数の実験用ウエーハの表面に、絶縁膜からなるラインアンドスペースパターンを形成する。このサブステップは、例えば、予めシリコンウエーハ上に絶縁膜を形成し、所定のストライプ状の形状(ラインアンドスペース)になるようにフォトリソグラフィーを行い、ドライエッチングで絶縁膜を除去することでラインアンドスペース構造を形成することができる。このラインアンドスペースの寸法は評価するシリコンウエーハ表面に形成されたラインアンドスペースと同じにすることが好ましいが、違っていてもよい。実際のライン幅は5~10μm、スペース幅は3~15μmとすることが好ましい。例えば、ラインの幅は10μmでスペースの幅は5μmとすることができる。
【0029】
このとき、絶縁膜として、例えば酸化膜(シリコン酸化膜)または窒化膜(シリコン窒化膜)とすることができ、特に窒化膜であることが好ましい。窒化膜とする理由は、窒化膜の場合は成膜条件により真性応力(成膜時の応力)の変化が大きいためである。すなわち、絶縁膜として窒化膜を用いることにより、より適切に応力の変化を評価することができる。
【0030】
[サブステップS13:実験用ウエーハに対して、ドライエッチング時間を振ってドライエッチング]
次に、図8のS13に示したように、サブステップS12でラインアンドスペースパターンを形成した複数の実験用ウエーハに対して、ドライエッチング時間を振ってドライエッチングを行い、少なくとも一部の実験用ウエーハにおけるラインアンドスペースパターンの端部(本発明では、ラインアンドスペースパターンのライン部とスペース部の境界部を「端部」と称する。)をオーバーエッチングする。
【0031】
このときのドライエッチングの方法は公知の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、HBrガスとNFガスを用いた処理とすることができる。
【0032】
本発明者は、このドライエッチングサブステップでエッチング時間を長くすることによりラインアンドスペースパターンの端部を丸くすることができ、ラインアンドスペースパターンの端部においても応力特異点とならいようにすることができることを見出した。ラインアンドスペースパターンの端部が応力特異点とならないことで、有限要素法を用いた解析ができ、ラインアンドスペースパターンの端部の局所応力を定量することができる。
【0033】
このとき、ドライエッチング時間を振って得られたそれぞれのオーバーエッチング量の条件において、有限要素法においてメッシュサイズを変えて局所応力を求めたときに、どのメッシュサイズにおいても同等程度の局所応力が得られる場合は応力特異点を有していないと判断することができる。
【0034】
[サブステップS14:熱処理]
次に、図8のS14に示したように、サブステップS13でドライエッチングを行った複数の実験用ウエーハに所定の熱処理を行う。このときの熱処理は特に限定されず、転位を発生させることができればどんな熱処理であっても構わないが、デバイス熱処理に適用する熱処理条件とすることができる。例えば、熱処理温度:1000℃、熱処理時間:3分、熱処理雰囲気:Arとすることができる。
【0035】
[サブステップS15:選択エッチング]
次に、図8のS15に示したように、サブステップS14で熱処理を行った複数の実験用ウエーハに対して、選択エッチングを行って少なくとも一部の実験用ウエーハにおいて転位を顕在化させる。このときの選択エッチング液は、単結晶シリコンの転位を顕在化させるために用いることができる、公知の溶液を使用することができる。選択エッチング液例えば混酸液(組成は(容量比)、フッ酸(50%):硝酸(61%):酢酸(99.9%):超純水=1:15:1:4である)を用いることができる。
【0036】
以上のサブステップS11~S15により、ラインアンドスペースパターンの端部の断面が有限要素法において応力特異点となる端部形状にならず、かつ、シリコンウエーハに転位が発生するドライエッチング時間を決定することができる。ドライエッチングの時間が長すぎると転位が発生しなくなり、ウエーハ強度の評価ができなくなる。
【0037】
[評価対象のシリコンウエーハの強度を評価する工程]
次に、評価対象のシリコンウエーハの強度を評価する。ここでは、表面に評価対象のラインアンドスペースパターンを形成したシリコンウエーハに対し、上記のように決定したドライエッチング時間でラインアンドスペース端部のオーバーエッチングを行ってから有限要素法でラインアンドスペースパターン端部の応力を評価する。この工程は、以下のように、各サブステップを含む。
【0038】
[サブステップS21:評価ウエーハの準備]
まず、図8のS21に示したように、評価対象のシリコンウエーハ(評価用ウエーハ)を準備する。ここで準備する評価用ウエーハは、上記のように実験用ウエーハと同等の特性を有するシリコンウエーハとすることが好ましいが、これに限定されない。
【0039】
[サブステップS22:評価ウエーハにラインアンドスペースパターンを形成]
次に、図8のS22に示したように、評価対象のシリコンウエーハの表面に、絶縁膜からなる所定の寸法のラインアンドスペースパターンを形成する。このときの評価対象のウエーハのライン幅は上記のドライエッチング時間の条件を決定するときに形成したライン幅と違っていてもよい。ライン幅を振って、後述のように有限要素法で評価することにより、ライン幅の違いと局所応力との関係を定量的に見積もることができる。
【0040】
[サブステップS23:評価ウエーハのラインアンドスペースパターンの端部をオーバーエッチング]
次に、図8のS23に示したように、ラインアンドスペースパターンを形成した評価対象のシリコンウエーハに対して、上記で決定したドライエッチング時間でドライエッチングを行い、ラインアンドスペースパターンの端部をオーバーエッチングする。ドライエッチングの方法としては、実験用ウエーハの場合と同様とする。
【0041】
[サブステップS24:モデル作成]
次に、図8のS24に示したように、ドライエッチングを行った評価対象のシリコンウエーハの断面形状から有限要素法で用いるモデルを作成する。このサブステップで作成するモデルは、断面形状に基づいていればよく、その手法は特に限定されない。このとき、有限要素法のメッシュサイズはどのようなサイズで行っても構わない。
【0042】
[サブステップS25:評価ウエーハの局所応力の計算]
次に、図8のS25に示したように、評価対象のシリコンウエーハのラインアンドスペースパターンの端部における局所応力を、サブステップS24で作成されたモデルに基づいて有限要素法で計算して求める。
【0043】
以上の結果から、ラインアンドスペース構造を用いた強度評価方法として、ドライエッチングの時間は膜端部が応力特異点となる角部がなくなり、かつ選択エッチングで転位を観測できる条件を見出すことで、定量的に微小領域におけるシリコンウエーハの強度を評価することができるようになった。
【0044】
また特許文献2では、膜の断面のテーパー角が応力に影響するとあるが、本発明では、実際の断面構造を基に有限要素法のモデルを作成し、計算を行うことで、局所応力に対するテーパー角度や形状の影響も考慮することができる。
【0045】
本発明で求めた応力を定量化し、転位が発生する応力や転位密度の関係を求めることで、デバイス設計時に発生する応力により転位が発生するかどうかを事前に予測することができる。デバイス構造では、応力特異点の存在の影響ばかりで応力が発生することはなく、FinFET構造に代表されるように、シリコン部分の周囲が異種材料により囲まれている状態で、熱処理されることがある。この場合、シリコンと異種材料の間の熱膨張係数の差によりシリコン部分全体に応力がかかることが予想される。その際に、本発明で定量した応力と転位の発生や転位密度との関係を利用することができる。
【0046】
すなわち、上記の評価対象のシリコンウエーハの強度を評価する工程(サブステップS21~S25)において、予め、有限要素法によって求めた局所応力と、熱処理後に選択エッチングして得られた転位の密度の相関関係を取得しておく。この相関関係を用いて、有限要素法によって求めた局所応力から、転位の発生の有無を推定することができる。
【実施例
【0047】
以下に、本発明の実施例及び比較例をあげてさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0048】
[比較例1:エッチング時間が132秒の場合]
図8のサブステップS11~S13に沿って、直径200mmのp型PW(研磨済みシリコンウエーハ)(酸素濃度~15ppma:JEIDA)において、LP-CVD(低圧化学気相成長法)によりSiN膜を成膜(成膜温度:780℃、厚さ:200nm)した後に、フォトリソグラフィーでスペース幅を5μm、ライン幅を10μmとしたL&Sパターンを形成した後、132秒のドライエッチングを行った。
【0049】
その後、図8のサブステップS14~S15に沿って、転位を顕在化させるための熱処理(1000℃/3min/Ar)を施し、混酸液による選択エッチングを行い、実体顕微鏡で転位密度を測定した。また、ドライエッチング後の段階でラインアンドスペース部の断面をSEMで観察した。
【0050】
実体顕微鏡観察結果を図1(a)に示す。SiN膜端部に転位によるエッチピットが観察されることから、局所応力により転位が発生していることがわかった。
【0051】
断面SEM観察の結果を図2(a)に示す。この画像からSiN膜端部に角部ができてしまっていることがわかった。
【0052】
そこで、エッチング時間が132秒の場合の断面SEM観察結果を基にモデル(図3)を作成し、メッシュサイズを振った条件で有限要素法による応力解析を行った。
【0053】
その他の条件として、温度は上記の転位を顕在化させるための熱処理の場合と同じ1000℃とした。計算で用いた物性値は、シリコンのヤング率:170GPa、ポアソン比:0.20、線膨張係数:3.0×10-6-1、SiNのヤング率:300GPa、ポアソン比:0.25、線膨張係数:0.9×10-6-1とした。また、SiN膜の真性応力は実測値の2.3GPaとした。
【0054】
図4(記号:〇)に局所応力のメッシュサイズ依存性を示す。局所応力の値は、膜厚端部近傍における最大応力(X方向垂直応力)とした。その結果、エッチング時間が132秒の場合のモデルでは、局所応力はメッシュサイズが小さくなるほど大きくなり、応力特異点となり、応力を定量することができないとわかった。
【0055】
有限要素法によって得られた応力値を用いて、ライン幅を振った場合の実験結果で、ライン幅毎の局所応力を求め、ライン幅の転位密度依存性から応力値と転位密度の関係を求めたりする。また、ライン幅が狭い場合は転位が発生せず、あるライン幅以上に広くなると転位が発生し、そのライン幅に相当する応力が臨界応力を求めることもできる。臨界応力はその応力以上になると転位が発生するという応力である。転位密度と応力の関係でも臨界応力の場合でも、応力値は有限要素法で見積もる値であり、この値がメッシュサイズで大きく振れてしまった場合、以下のような問題がある。実際のデバイス構造での応力を見積もった場合で、応力が発生しているシリコン部分において転位が発生するかどうかを予測する際に、メッシュサイズにより応力がばらつくと、転位の発生を予測することができなくなる。具体的には、メッシュサイズが小さい場合では、有限要素法で見積もられる応力は大きく、臨界応力を大きく見積もってしまい、転位が発生しないように必要以上のデバイス構造を設計してデバイス作製コストを増加させてしまうことになる。一方で、メッシュサイズが大きい場合では、有限要素法で見積もられる応力は小さくなり、臨界応力を小さく見積もってしまい、過剰に応力を下げるようなデバイス構造にしてしまうことで、転位が発生し、本来の性能を発揮できなくなってしまう。以上のことから、適正な応力値を求めることは非常に重要である。
【0056】
[比較例2:エッチング時間が152秒の場合と172秒の場合]
比較例1におけるエッチング時間を152秒と172秒の場合も同様に評価した。このときの実体顕微鏡観察結果を図1(d)、(e)に示す。どちらのエッチング時間の場合でもSiN膜端部に転位によるエッチピットが観察されず、ウエーハ強度を評価することができないことがわかった。この理由は、エッチング時間が長くなり、局所応力が小さくなったために転位が発生しなくなったためである。
【0057】
エッチング時間が152秒の場合の断面SEM画像を基にモデルを作成し、有限要素法による応力解析を行った。その結果、局所応力の値は2GPa程度となり、後述の実施例1で示したエッチング時間が137秒の場合よりも小さくなることが確認できた。有限要素法による解析の条件は比較例1と同じである。
【0058】
[実施例1]
図8のサブステップS11、S12に沿って、直径200mmのp型-シリコンウエーハ(酸素濃度~15ppma)において、LP-CVDによりSiN膜を成膜(成膜温度:780℃、厚さ:200nm)した後に、フォトリソグラフィーにより、スペース幅を5μmとし、ライン幅を10μmとしたL&Sパターンを形成した。その後、図8のサブステップS13に沿って、時間を振ったドライエッチング(時間:132~172秒)を行った。その後、図8のサブステップS14、S15に沿って、転位を発生させるための熱処理(1000℃/3min/Ar)を施し、混酸液による選択エッチングを行い、実体顕微鏡で転位ピットの有無を観察した。また、ドライエッチング後の段階でラインアンドスペース部の断面をSEMで観察した。実体顕微鏡の結果を図1(a)~(e)に、断面SEMの結果を図2(a)~(e)に示した。なお、132秒、152秒、172秒については、比較例1、2と重複している。
【0059】
また、それぞれのエッチング時間における断面SEM画像を基に有限要素法のモデルを作成し、局所応力を見積もった。
【0060】
実体顕微鏡観察の結果、ドライエッチングの時間が132秒以上かつ142秒以下の場合では、転位によるエッチピットが観測された。一方、エッチング時間が142秒よりも長い場合には、転位によるエッチピットは観察されなかった。
【0061】
有限要素法による局所応力を見積もった結果、図4に示すようにドライエッチングの時間が132秒の場合、局所応力はメッシュサイズに依存してしまい、応力を定量することができなかった。一方、エッチング時間が137秒以上の場合では、局所応力はメッシュサイズによらず、一定となり応力を定量できることがわかった。有限要素法による解析条件は、温度が1000℃とし、シリコンのヤング率:170GPa、ポアソン比:0.20、線膨張係数:3.0×10-6-1、SiNのヤング率:300GPa、ポアソン比:0.25、線膨張係数:0.9×10-6-1とした。また、SiN膜の真性応力は実測値の2.3GPaとした。
【0062】
以上の結果から、転位が発生し、かつ有限要素法で応力が定量できる適切なエッチング時間は、132秒よりも長く、152秒よりも短いということがわかった。
【0063】
そこで、図8のサブステップS21、S22に沿って、評価対象である直径200mmのp型-シリコンウエーハ(酸素濃度~15ppma)において、LP-CVDによりSiN膜を成膜(成膜温度:780℃、厚さ:200nm)した後に、フォトリソグラフィーにより、スペース幅を5μmとし、ライン幅を1~10μmの範囲(0.2μmピッチ)で振ったL&Sパターンを形成した。その後、図8のサブステップS23に沿って、ドライエッチング(時間:137秒)で評価ウエーハに対し、オーバーエッチングを行った。その後、転位を発生させるための熱処理(1000℃/3min/Ar)を施し、混酸液による選択エッチングを行い、転位密度を実体顕微鏡で測定した。また、ドライエッチング後の段階でラインアンドスペース部の断面をSEMで観察した。
【0064】
転位密度を測定した結果、ライン幅が1.8μm以上で転位が観測され、その密度は、ライン幅が広いほど高くなった(図6)。
【0065】
また、図8のサブステップS24、S25に沿って、断面SEM観察結果を基にして、エッチング時間が137秒の場合の断面SEM観察結果を基にモデル(図5)を作成し、各ライン幅の条件で有限要素法による応力解析を行った。解析の条件として、温度は実験の場合と同じ1000℃とした。計算で用いた物性値は、シリコンのヤング率:170GPa、ポアソン比:0.20、線膨張係数:3.0×10-6-1、SiNのヤング率:300GPa、ポアソン比:0.25、線膨張係数:0.9×10-6-1とした。また、SiN膜の真性応力は実測値の2.3GPaとした。その結果、ライン幅が広いほど局所応力が大きくなることがわかった。
【0066】
加えて、有限要素法で見積もった応力値(σx、σz、τxz)から(2)式を用いて、分解せん断応力を計算した。分解せん断応力(τRSS)とは、転位の滑り面上において、転位の滑り方向に作用する応力で、座標変換から求めることができる。
【数2】
ここで、σxはX方向の垂直応力、σzはZ方向の垂直応力、τxzはX方向に垂直な面にZ方向に作用するせん断応力である。この計算で得られた膜端部の最大の分解せん断応力はライン幅が広いほど大きくなることが分かった。
【0067】
また、最大の分解せん断応力と転位密度の関係を図7に示す。その結果、転位密度は分解せん断応力が高いほど高くなることがわかった。加えて、分解せん断応力が2100MPa以上で転位が発生する、すなわちこのウエーハの臨界応力は2100MPaであることがわかった。
【0068】
図7に示した関係を利用することで、有限要素法で求めた局所応力から転位の発生の有無を推定することもできる。
【0069】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8