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  • 特許-分離膜製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】分離膜製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20240402BHJP
   C01B 37/02 20060101ALI20240402BHJP
   C07C 31/08 20060101ALN20240402BHJP
【FI】
B01D71/02
C01B37/02
C07C31/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021502046
(86)(22)【出願日】2020-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2020006355
(87)【国際公開番号】W WO2020175247
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019035520
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴博
(72)【発明者】
【氏名】大森 詩織
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-120834(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121377(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181349(WO,A1)
【文献】特開2016-190200(JP,A)
【文献】特表平10-506363(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101028605(CN,A)
【文献】特開2010-142809(JP,A)
【文献】国際公開第2012/018007(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/158583(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/072215(WO,A1)
【文献】特開2007-061775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00-71/82
C02F 1/44
C01B 33/20-39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼よりなる多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を付着させて、種結晶付着済支持体を得る種結晶付着工程と、前記種結晶付着済支持体上にゼオライトからなる多孔性分離層を形成する分離層形成工程と、を含む分離膜製造方法であって、
前記ステンレス鋼は、水に対する接触角が90°以上であり、
前記種結晶付着工程は、前記多孔性支持体に対して、ゼオライト種結晶と、前記ステンレス鋼に対する接触角が30°以下の溶媒とを接触させることを含
ただし、前記種結晶付着工程において、天然モンモリロナイトを用いる場合を除く、
分離膜製造方法。
【請求項2】
前記種結晶付着工程において、前記多孔性支持体を前記溶媒で湿らせた後に、前記多孔性支持体に対して前記ゼオライト種結晶を擦り込むことで、前記種結晶付着済支持体を得る、請求項1に記載の分離膜製造方法。
【請求項3】
前記種結晶付着工程において、前記ゼオライト種結晶と、前記溶媒とを含むスラリー組成物と、前記多孔性支持体とを接触させることで、前記種結晶付着済支持体を得る、請求項1に記載の分離膜製造方法。
【請求項4】
前記溶媒は、炭素数5以下のアルコール類を含む、請求項1~3の何れかに記載の分離膜製造方法。
【請求項5】
前記溶媒の純度が、95体積%以上である、請求項1~4の何れかに記載の分離膜製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜製造方法に関するものである。特には、本発明の分離膜製造方法は、炭化水素混合物から一部の炭化水素を分離する際に好適に使用し得る分離膜を製造する際に、好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素数が等しい直鎖状炭化水素と分岐状炭化水素とを含む炭化水素混合物から分岐状炭化水素を低エネルギーで分離する方法として、膜分離法が用いられている。そして、分離膜としては、支持体上にゼオライトを膜状に形成してなるゼオライト膜が広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、多孔質金属支持体を非揮発性洗剤で前処理し、洗浄乾燥後、多孔質金属支持体を酸で最終処理し、最終処理した部分にゼオライト種結晶を担持もしくは付着させてゼオライト膜を製膜するゼオライト膜製膜方法が開示されている。かかるゼオライト膜製膜方法によれば、ステンレス製の多孔質金属支持体の表面にゼオライト膜を製膜することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-142809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のような、多孔質金属支持体を酸で最終処理することを含むゼオライト膜製膜方法では、操作が煩雑であり、処理時間も長かった。また、特に、機械的強度及び安定性等に優れる、ステンレス鋼よりなる多孔質金属支持体を用いた場合には、上記のような酸による処理を経ることなく、充分な分離性能を発揮し得る分離膜を形成することが難しかった。
そこで、本発明は、煩雑な操作及び長い処理時間が不要であるとともに、分離性能に優れる、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体を含む分離膜を製造することが可能な、分離膜製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、ステンレス鋼よりなる多孔質支持体に対して、所定の溶媒を用いてゼオライト種結晶を付着させて、多孔質支持体上でゼオライトを合成することで、煩雑な操作及び長い処理時間を必要とせずに、分離膜を形成することできることを新たに見出した。さらに、本発明者らは、得られた分離膜が、炭素数が等しい直鎖状炭化水素と分岐状炭化水素とを良好に分離することができることを確認し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の分離膜製造方法は、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を付着させて、種結晶付着済支持体を得る種結晶付着工程と、前記種結晶付着済支持体上にゼオライトからなる多孔性分離層を形成する分離層形成工程と、を含む分離膜製造方法であって、前記ステンレス鋼は、水に対する接触角が90°以上であり、前記種結晶付着工程は、前記多孔性支持体に対して、ゼオライト種結晶と、前記ステンレス鋼に対する接触角が30°以下の溶媒とを接触させることを含むことを特徴とする。このように、多孔性支持体を形成するステンレス鋼に対する接触角が30°以下の溶媒を用いてゼオライト種結晶を付着させて、多孔質支持体上でゼオライトを合成して多孔性分離層を形成することで、煩雑な操作及び長い処理時間を必要とせずに、分離性能に優れる分離膜を製造することができる。なお、「ゼオライト」とは、細孔構造を有する含Si化合物を意味する。また、ステンレス鋼の「水に対する接触角」は、実施例に記載の方法により測定することができる。そして、溶媒の「ステンレス鋼に対する接触角」は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0008】
また、本発明の分離膜製造方法の前記種結晶付着工程において、前記多孔性支持体を前記溶媒で湿らせた後に、前記多孔性支持体に対して前記ゼオライト種結晶を擦り込むことで、前記種結晶付着済支持体を得ることができる。湿らせた多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を擦り込むことで、ゼオライト種結晶を高い密度で多孔性支持体に付着させることができる。
【0009】
また、本発明の分離膜製造方法の前記種結晶付着工程において、前記ゼオライト種結晶と、前記溶媒とを含むスラリー組成物と、前記多孔性支持体とを接触させることで、前記種結晶付着済支持体を得ることができる。スラリー組成物と、多孔性支持体とを接触させることで、種結晶付着済支持体を得ることで、一層効率的に分離膜を製造することができる。
【0010】
また、本発明の分離膜製造方法において、前記溶媒は、炭素数5以下のアルコール類を含むことが好ましい。種結晶付着工程で用いる溶媒が炭素数5以下のアルコール類を含んでいれば、ゼオライト種結晶と溶媒との間の親和性が高く、多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を安定して付着させることができる。
【0011】
そして、本発明の分離膜製造方法において、前記溶媒の純度が、95体積%以上であることが好ましい。溶媒の純度が95体積%以上であれば、ゼオライト種結晶と溶媒との間の親和性が一層高く、多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を一層安定して付着させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、煩雑な操作及び長い処理時間が不要であるとともに、分離性能に優れる、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体を含む分離膜を製造することが可能な、分離膜製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例及び比較例で用いた試験装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の分離膜製造方法によれば、炭化水素混合物から一部の炭化水素を分離する際、より具体的には、炭素数が等しい直鎖状炭化水素と、分岐状炭化水素及び/又は環状炭化水素とを含む炭化水素混合物を膜分離する際に好適に用いることができる、分離膜を良好に製造することができる。
【0015】
(分離膜製造方法)
本発明の分離膜製造方法は、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を付着させて、種結晶付着済支持体を得る種結晶付着工程と、種結晶付着済支持体上にゼオライトからなる多孔性分離層を形成する分離層形成工程と、を含む分離膜製造方法である。そして、本発明の分離膜製造方法は、任意に、ゼオライト種結晶を準備する工程(種結晶準備工程)を含む。以下、各工程について詳述する。なお、各工程中にて使用可能な成分として例示列挙した各化合物等は、一種を単独で、或いは複数種を混合して用いることができる。複数種を併用する場合には、それらの合計配合量が、各所に記載した量比を満たすことが好ましい。
【0016】
<種結晶準備工程>
種結晶準備工程では、特に限定されることなく、既知のゼオライト種結晶の製造方法を用いてゼオライト種結晶を調製する。なお、種結晶準備工程では、例えば、既知の方途に従って、シリカ源、構造規定剤および水を混合して得た種結晶用水性ゾルを加熱し、水熱合成によりゼオライトの粗結晶を調製した後、任意に得られた粗結晶を乾燥および粉砕することにより、ゼオライト種結晶を調製することができる(例えば、国際公開第2016/121377号参照)。
【0017】
ここで、ゼオライト種結晶の平均粒子径は、50nm以上が好ましく、700nm以下が好ましく、600nm以下がより好ましく、550nm以下がさらに好ましい。ゼオライト種結晶の平均粒子径が上記範囲内であれば、良好な性状の多孔性分離層を形成し、分離の選択性を更に向上させることができる。
なお、「ゼオライト種結晶の平均粒子径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して測定した20個のゼオライト種結晶の粒子径の個数平均を算出することにより求めることができる。
【0018】
<種結晶付着工程>
種結晶付着工程では、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を付着させて、種結晶付着済支持体を得る。ここで、本発明の分離膜製造方法では、多孔性支持体を形成するステンレス鋼が、水に対する接触角が90°以上であること、及び、種結晶付着工程にて、多孔性支持体に対して、ゼオライト種結晶と、ステンレス鋼に対する接触角が30°以下の溶媒とを接触させることを特徴とする。これらの特徴を備えることにより、本発明の分離膜製造方法によれば、煩雑な操作及び長い処理時間が不要であるとともに、分離性能に優れる、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体を含む分離膜を製造することができる。以下、本工程における各要素について詳述する。
【0019】
<<ステンレス鋼よりなる多孔性支持体>>
ステンレス鋼よりなる多孔性支持体は、複数の細孔を有する、ステンレス鋼よりなる多孔質体である。「ステンレス鋼」とは、クロムを10.5質量%以上含む鋼を意味し、より具体的には、ISO 15510(上記クロム含有量に加えて、炭素含有量:1.2質量%以下を規定、JIS G 0203も同じ)に従うステンレス鋼を意味する。ステンレス鋼としては、特に限定されることなく、例えば、SUS(Steel Use Stainless)304、SUS316、及びSUS316L等が挙げられる。
【0020】
多孔性支持体を構成する材料としてのステンレス鋼の、水に対する接触角は、90°以上である必要があり、92°以上であることが好ましく、95°以上であることがより好ましい。概して、酸等を用いて表面処理をしていない、未処理のステンレス鋼は、水に対する接触角が90°以上、特には95°以上であり得る。未処理のステンレス鋼を酸処理することによって、水に対する接触角を低くすることができる。ステンレス鋼の水に対する接触角が低くなるということは、ステンレス鋼の水に対する接触角が高い場合と比較して、ステンレス鋼と水との親和性が高いことを意味する。このため、酸処理等を経て、水に対する接触角が低くなったステンレス鋼よりなる支持体を用いた場合には、かかる支持体をステンレス鋼に対する接触角が30°以下の溶媒と接触させる必要無く、種結晶付着済み支持体を得ることができると想定される。反対に、ステンレス鋼の水に対する接触角が90°以上と高ければ、かかるステンレス鋼は撥水性を有するため、従来的な、水を溶媒として用いた種結晶付着方法では、支持体に対して良好に種結晶を付着させることができない。そこで、本発明による分離膜製造方法を係る条件を満たす多孔性支持体に対して適用することで、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を安定して付着させることができるため、かかる多孔性支持体上に、良好に多孔性分離層を形成することができ、分離性能に優れる分離膜を形成することができる。
なお、ステンレス鋼の水に対する接触角は、特に限定されないが、通常、99°以下であり得る。
【0021】
なお、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体の形状は、特に限定されることなく、例えば、平膜状、平板状、チューブ状、ハニカム状などの任意の形状とすることができる。
【0022】
そして、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体の平均細孔径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.07μm以上であることが更に好ましく、0.1μm以上であることが特に好ましく、1.5μm以下であることが好ましく、1.2μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることがさらに好ましい。ステンレス鋼よりなる多孔性支持体の平均細孔径が上記範囲内であれば、分離性能に一層優れる分離膜を製造することができる。なお、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体の平均細孔径は、水銀圧入法に従って測定することができる。
【0023】
また、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体は、好ましくは、多孔性支持体の平均細孔径に対するゼオライト種結晶の平均粒子径の比が0.01以上3.0以下となるような多孔性支持体であることが好ましい。ゼオライト種結晶の平均粒子径とステンレス鋼よりなる多孔性支持体の平均細孔径との比率を上記範囲内とすることで、多孔膜分離層の形成効率を向上させうる。その理由は明らかではないが、上述した平均粒子径を有するゼオライト種結晶及び上述した平均細孔径を有する多孔性支持体を使用した場合、多孔性支持体の細孔中にゼオライト種結晶が入り込み、ゼオライトが成長する方向が適切に制限されるために、多孔性分離層を容易に形成することができるためであると推察される。
【0024】
<<ステンレス鋼に対する接触角が30°以下の溶媒>>
溶媒のステンレス鋼に対する接触角は、30°以下である必要があり、20°以下であることが好ましい。溶媒のステンレス鋼に対する接触角が20°以下であれば、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体との親和性をより高めることができる。なお、溶媒のステンレス鋼に対する接触角は、通常、5°以上であり得る。
【0025】
ステンレス鋼に対する接触角が30°以下の溶媒としては、特に限定されることなく、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、ペンタノール及びこれらの異性体等の炭素数5以下のアルコール等を含むアルコール類;アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類、並びに、トルエン及びヘキサン等の炭化水素化合物類、のうちの少なくとも一種を含む溶媒が挙げられる。中でも、ゼオライト種結晶との親和性の観点から、炭素数5以下のアルコール類が好ましい。ゼオライト種結晶と溶媒との親和性が高ければ、多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を安定して付着させることができる。なお、溶媒として、上述した複数の化合物の混合溶媒を用いることも可能であるが、単独溶媒を用いることがより好ましい。
【0026】
溶媒の純度は、95体積%以上であることが好ましく、97体積%以上であることがより好ましい。溶媒の純度が上記下限値以上であれば、ゼオライト種結晶と溶媒との間の親和性が一層高く、多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を一層安定して付着させることができる。なお、溶媒に混入し得る不純物としては、溶媒を製造する際に、不可避的に混入しうる不純物等が挙げられる。
【0027】
<<ゼオライト種結晶の付着方法>>
本工程において、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を付着させて、種結晶付着済支持体を得るための方途としては、下記の2通りの方途が挙げられる。
1)種結晶付着工程において、多孔性支持体を溶媒で湿らせた後に、多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を擦り込むことで、種結晶付着済支持体を得る。
2)種結晶付着工程において、ゼオライト種結晶と、溶媒とを含むスラリー組成物と、多孔性支持体とを接触させることで、種結晶付着済支持体を得る。
【0028】
上記1)に従う方途としては、具体的には、溶媒に1~60分間浸漬することにより予め溶媒で湿らせておいた多孔性支持体上にゼオライト種結晶を擦り込むことにより、ゼオライト種結晶を多孔性支持体に付着させることができる。かかる方途によれば、ゼオライト種結晶を高い密度で多孔性支持体に付着させることができる。なお、擦り込むゼオライト種結晶は、種結晶合成時に用いた溶媒成分等を実質的に含有しない、乾燥状態であることが好ましい。「溶媒成分等を実質的に含有しない」とは、種結晶合成時に用いた溶媒成分等の含有量が、0.5質量%以下であることを意味する。また、「擦り込む」とは、多孔性支持体の表面に対して、少なくとも厚み方向の外力を加えつつゼオライト種結晶を適用することを意味する。
【0029】
上記2)に従う方途としては、所謂、「塗布」、「濾過」、「含浸」等の方途が挙げられる。具体的には、「塗布」による場合には、ゼオライト種結晶を溶媒で湿潤させて得たスラリー組成物を多孔性支持体に塗布し、塗布したスラリー組成物を乾燥することにより、ゼオライト種結晶を多孔性支持体に付着させることができる。また、「濾過」による場合には、ゼオライト種結晶を溶媒中に分散させて得たスラリー組成物を多孔性支持体で濾過することによってゼオライト種結晶を多孔性支持体に付着させることができる。さらには、「含浸」による場合には、ゼオライト種結晶を溶媒中に分散させて得たスラリー組成物に対して、多孔性支持体を1~60分間含浸することによってゼオライト種結晶を多孔性支持体に付着させることができる。中でも、高い製造効率で分離膜を製造する観点から、2)に従う方途の中でも、「濾過」を選択することが好ましい。また、これらの方途にて用いるスラリー組成物の溶媒として、上述したステンレス鋼に対する接触角が30°以下の溶媒の中でも、炭素数5以下のアルコール類を用いることで、スラリー組成物中においてゼオライト種結晶を良好に分散させることができ、多孔性支持体に対して、ゼオライト種結晶を均一に付着させることができる。
【0030】
<<操作条件>>
本工程にて、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を付着させるにあたり、開放系ではなく、閉鎖系にて各種操作を実施することが好ましい。これは、ステンレス鋼に対する接触角が30°以下の溶媒が、操作中に揮発することにより所望の操作結果が得られなくなることを回避するためである。特に、ゼオライト種結晶の付着方法の中でも、上記2)に従う、スラリー組成物を用いる方途を採用した場合に、各種操作を閉鎖系で実施することの重要性が高い。スラリー組成物から溶媒が揮発すると、操作中にスラリー組成物中におけるゼオライト種結晶の分散性が低下することとなる。そこで、上記2)に従う方途における各種操作を、閉鎖系にて実施することで、溶媒の揮発を抑制して操作中のスラリー組成物中におけるゼオライト種結晶の分散性が低下することを抑制することができ、結果的に、多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を安定して付着させることができる。
【0031】
<<乾燥方法>>
そして、上述した何れかの方途に従ってステンレス鋼よりなる多孔性支持体に対して付着させたゼオライト種結晶は、溶媒を乾燥により除去することで多孔性支持体に固定できる。この際の乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上であり、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下である。
【0032】
<分離層形成工程>
分離層形成工程では、上記工程で得られた種結晶付着済支持体を、シリカ源及び構造規定剤を含む水性ゾルに浸漬し、水熱合成によりゼオライトを合成して多孔性支持体上に多孔性分離層を形成する。なお、分離層形成工程において多孔性支持体上に多孔性分離層を形成して得られた分離膜には、任意に、煮沸洗浄や焼成処理を施してもよい。かかる分離層形成工程における、水性ゾルの調製、ゼオライトの水熱合成、任意の煮沸洗浄及び焼成処理は、特に限定されることなく、既知の方途に従って実施することができる(例えば、国際公開第2016/121377号参照)。
【0033】
<<分離層の性状>>
上記に従って得られる分離層は、ゼオライトからなる多孔性分離層である。好ましくは、多孔性分離層を形成する「ゼオライト」は、MFI型細孔構造を有し、骨格構造がSiを含んでなる。多孔性分離層を形成するゼオライトが、かかる構造を有していれば、分離性能に一層優れた分離膜を得ることができる。
【0034】
<分離膜の分離性能>
本発明の分離膜製造方法に従って製造された分離膜(以下、「本分離膜」とも称する)は、炭化水素混合物から一部の炭化水素を分離する際の分離性能に優れる。より具体的には、炭化水素混合物は、炭素数が等しい直鎖状炭化水素と、分岐状炭化水素及び/又は環状炭化水素とを含む混合物である。中でも、本分離膜は、ナフサを熱分解してエチレンを生産する際に副生するC4留分や、C4留分から少なくともブタジエンの一部を回収した後に残る留分等の、炭素数が4の直鎖状炭化水素と、分岐状炭化水素及び/又は環状炭化水素を主成分として含む混合物の分離性能に優れる。また、本分離膜は、ナフサを熱分解してエチレンを生産する際に副生するC5留分や、C5留分から少なくともイソプレンの一部を回収した後に残る留分等の、炭素数が5の直鎖状炭化水素と、分岐状炭化水素及び/又は環状炭化水素とを主成分として含む混合物の分離性能に優れる。
なお、「主成分として含む」とは、直鎖状炭化水素と、分岐状炭化水素及び/又は環状炭化水素とを合計で50モル%以上含有することを指す。
【実施例
【0035】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」等は、特に断らない限り、質量基準である。また、圧力はゲージ圧である。
実施例及び比較例において、ゼオライト種結晶の平均粒子径、各種接触角、並びに、分離膜の分離性能は、下記の方法で測定及び評価した。
【0036】
<ゼオライト種結晶の平均粒子径>
走査型電子顕微鏡(SEM)を使用し、ゼオライト種結晶20個の粒子径を測定した。そして、得られた測定値の平均値を算出し、ゼオライト種結晶の平均粒子径とした。
【0037】
<接触角>
実施例、比較例で用いた多孔性支持体の形成材料としてのステンレス鋼よりなる、50mm×30mmの平板試料を試験片とした。各種接触角は、接触角計(協和界面科学株式会社製、ポータブル接触角計PCA-11を用いて、液滴法(液量2μl)にて測定した。
【0038】
<分離性能>
後述する膜分離試験の結果から、下記式(I)を用いて透過流束Fを算出した。また、下記式(II)を用いて分離係数αを算出した。そして、分離係数αと透過流束Fとの積(F×α)を算出し、その値に基づいて分離性能を評価した。F×αの値が大きいほど、分離性能に優れていることを示す。
F[Kg/(m2・h)]=W/(A×t) ・・・(I)
α=(Yn/Ybc)/(Xn/Xbc) ・・・(II)
なお、式(I)中、Wは、分離膜を透過した成分の質量[kg]であり、Aは、分離膜の有効面積[m2]であり、tは、処理時間[時間]である。また、式(II)中、Xnは、原料中の直鎖状炭化水素の含有割合[モル%]であり、Xbcは、原料中の分岐鎖状炭化水素及び環状炭化水素の含有割合[モル%]であり、Ynは、透過側サンプル中の直鎖状炭化水素の含有割合[モル%]であり、Ybcは、透過側サンプル中の分岐鎖状炭化水素及び環状炭化水素の含有割合[モル%]である。
また、透過側サンプルの取得にあたり、後述のように、サンプリング時間は10分間とした。試験開始後X分の時点における上記各値はそれぞれ、かかるX分の時点が、10分間のサンプリング時間の中間時点となるように取得した各サンプルを用いて算出した。
【0039】
(実施例1)
<種結晶用水性ゾルの調製>
濃度22.5質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液(東京化成工業社製)152.15g(構造規定剤としてのテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド換算で34.23g)と、超純水48.44gとをマグネチックスターラーで混合した。更に、シリカ源としてのテトラエトキシシラン(SIGMA-ALDLICH社製)99.41gを加えて、室温にて70分間マグネチックスターラーで混合することで、種結晶作製用の水性ゾルを調製した。
【0040】
<ゼオライト種結晶の作製>
種結晶用水性ゾルをフッ素樹脂製内筒付ステンレス鋼製耐圧容器内に入れ、130℃の熱風乾燥器中で48時間反応(水熱合成)させた。次に、得られた反応液を遠心分離機(4000rpm)で30分間遠心分離することにより固液分離し、固形分を回収した。そして、回収した固形分を80℃の恒温乾燥器中で12時間乾燥し、次いで、得られた乾燥固体を乳鉢にて粉砕し、電気炉にて昇温速度2℃/minで500℃まで昇温し、20時間保持することでゼオライト種結晶に残留している構造規定剤を除去することにより、ゼオライト種結晶を得た。得られたゼオライト種結晶は、X線回折測定により、MFI型構造を有していることが確認された。なお、ゼオライト種結晶の平均粒子径は、400nmであった。また、得られたゼオライト種結晶は、実質的に水分を含有しておらず(水分含有率が0.5質量%以下)、乾燥状態であった。
【0041】
<種結晶付着工程>
種結晶付着工程では、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体を溶媒で湿らせた後に、かかる多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を擦り込むことで、種結晶付着済み支持体を得た。
円筒状の、ステンレス製多孔質支持体(ステンレス:SUS304、外径:10mm、厚み:2.5mm、平均細孔径:1.0μm)を、エタノール(純度:99.5体積%)に10分間浸漬した。そして、エタノールに浸漬した後の湿った多孔性支持体の外表面上に、上記にて得られたゼオライト種結晶0.2gを擦り込み、80℃の乾燥器中で12時間乾燥させることで、多孔性支持体の表面にゼオライト種結晶を付着及び固定させた。
【0042】
<多孔性分離層用水性ゾルの調製>
濃度22.5質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液(東京化成工業社製)17.63g(構造規定剤としてのテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド換算で3.97g)と、超純水210.45gとを、室温にて10分マグネチックスターラーで混合した。更に、シリカ源としてのテトラエトキシシラン(SIGMA-ALDLICH社製)22.12gを加えて、室温にて60分間マグネチックスターラーで混合することで、多孔性分離層形成用の水性ゾルを調製した。なお、水性ゾルの組成は、モル比で、テトラエトキシシラン:テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水=1:0.2:117であった。
【0043】
<分離層形成工程>
上記にて得られた多孔性分離層用水性ゾルをステンレス鋼製耐圧容器内に入れた。次に、ゼオライト種結晶を付着させた多孔性支持体を多孔性分離層用水性ゾルに浸漬し、185℃の熱風乾燥器中で72時間反応(水熱合成)させて、多孔性支持体上に多孔性分離層を形成した。そして、多孔性分離層を形成した多孔性支持体に対し、洗浄液として蒸留水を使用して、1時間の煮沸洗浄を2回行った。その後、多孔性分離層を形成した多孔性支持体を80℃の恒温乾燥器で12時間乾燥させた。次いで、多孔性分離層中に含まれている構造規定剤(テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド)を除去するために焼成を行い、分離膜を得た。なお、焼成条件は、昇温速度:0.25℃/分、焼成温度:500℃、焼成時間(保持時間):20時間、降温速度0.38℃/分とした。
【0044】
そして、得られた分離膜について、多孔性分離層の層厚を測定した。また、多孔性分離層のX線回折測定を行い、X線回折パターンを得た。その結果、得られたX線回折パターンより、多孔性分離層はMFI型ゼオライトを含んでいることが確認された。
【0045】
<膜分離試験>
また、上記にて得られた分離膜を使用し、図1に示すような試験装置1を用いて、膜分離試験を行った。
【0046】
[試験装置]
図1に示す試験装置1は、原料タンク2と、送液ポンプ3と、第1熱交換器4と、分離装置5と、第2熱交換器7とを備えている。なお、分離装置5は、円筒管に、上記にて得られた分離膜を組み付けることにより構成されている。また、図1に示す試験装置1は、三方弁10を介して分離装置5に接続されたコールドトラップ6及びサンプリング用コールドトラップ13と、三方弁14を介してコールドトラップ6及びコールドトラップ13の下流側に接続された減圧ポンプ11とを備えている。更に、試験装置1は、原料タンク2と送液ポンプ3との間に、サンプリング用弁12を備えており、また、分離装置5の下流側に、背圧弁8及び圧力計9を備えている。
ここで、図1に示す試験装置1では、原料タンク2に充填された原料が、送液ポンプ3にて第1熱交換器4へと送られ、原料が気化する温度以上の温度に加温される。そして、気化した原料は、気相にて分離装置5へと送られ、分離膜を備える分離装置5により成分の分離(膜分離)が行われる。ここで、試験装置1においては、減圧ポンプ11により分離膜の透過側は減圧状態とされており、分離膜を透過した成分は、三方弁10を介して接続されたコールドトラップ6又はサンプリング用コールドトラップ13へと送られる。一方、分離装置5に備えられた分離膜を透過しなかった非透過成分は、第2熱交換器7で冷却することにより凝縮され、原料タンク2に還流される。なお、試験装置1では、分離装置5の下流側に設けた背圧弁8及び圧力計9により、背圧を調整している。そして、試験装置1では、三方弁10,14を切り替えることで、分離装置5に備えられた分離膜を透過した透過成分を、透過側のサンプルとして抽出することができる。
[膜分離]
図1に示す試験装置1を用いた膜分離試験は、以下のようにして実施した。
具体的には、まず、炭素数が5の直鎖状炭化水素、分岐状炭化水素、及び環状炭化水素を含むC5留分である炭素数5の炭化水素混合物を原料タンク2に充填し、脱気操作を3回行った後、送液ポンプ3にて、炭化水素混合物を、70℃に加温された第1熱交換器4を介して、液相にて分離装置5に供給し、次いで、第2熱交換器7により冷却し、原料タンク2に戻す原料循環処理を開始した。そして、原料循環処理開始後、系内の温度が定常状態に達するまで運転を行い、系内の温度が定常状態に達した後、背圧弁8により非透過側を180kPaに加圧するとともに、減圧ポンプ11を起動することで透過側(コールドトラップ6及びコールドトラップ13)を-100kPaに減圧し、系内の温度、圧力が安定したことを確認した後、透過側の三方弁10を開くことで、膜分離試験を開始した。即ち、温度70℃、非透過側と透過側の差圧280kPaの条件で膜分離試験を行った。
そして、膜分離試験を開始した後、5分経過した時点において、透過側のサンプルの抽出を開始した。具体的には、三方弁10,14を用いて、透過側の流路をコールドトラップ6側からサンプリング用コールドトラップ13側に切替えて、サンプリング用コールドトラップ13にて透過側のサンプルを凝縮液として捕集することにより抽出した。なお、この際におけるサンプリング時間は10分間とした。そして、透過側のサンプル(凝縮液)について、重量を秤量するとともに、ガスクロマトグラフにて、直鎖状成分と分岐鎖状成分、環状成分とのモル比率を測定した。そして、これらの測定結果を用いて膜分離試験開始後10分の時点における分離膜の分離性能を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
さらに、上記と同様の手順に従って、膜分離試験を開始してから1時間経過後のサンプルを採取した。そして、上記と同様にして、採取したサンプルを分析して、膜分離試験開始後1時間の時点における分離性能を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
(比較例1)
<種結晶付着工程>にてエタノールに代えて超純水を用いた以外は、実施例1と同様にして、分離膜の作製及び評価を行った。結果を表1に示す。なお、分離膜の多孔性分離層のX線回折測定の結果、多孔性分離層はMFI型ゼオライトを含んでいることが確認された。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例1における、溶媒としてエタノールを用いた<種結晶付着工程>では、多孔性支持体の溶媒への浸漬時間等を含む工程の所要時間は、従来的な水を用いた種結晶付着方法と同程度であった。このことから、本発明によれば、煩雑な操作を行わず、且つ、多孔性支持体を酸処理しないで使用することができるので長い処理時間を要することなく、表1に示すような分離性能を呈し得る、分離膜を製造することができたことが分かる。
一方、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体に対して、従来的な水を用いた種結晶付着方法を実施した比較例1では、十分な分離性能を呈し得る分離膜を製造することができなかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、煩雑な操作及び長い処理時間が不要であるとともに、分離性能に優れる、ステンレス鋼よりなる多孔性支持体を含む分離膜を製造することが可能な、分離膜製造方法を提供する。
【符号の説明】
【0052】
1 試験装置
2 原料タンク
3 送液ポンプ
4 第1熱交換器
5 分離装置
6 コールドトラップ
7 第2熱交換器
8 背圧弁
9 圧力計
10,14 三方弁
11 減圧ポンプ
12 サンプリング用弁
13 サンプリング用コールドトラップ
図1