(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】摩擦部材、摩擦材組成物、摩擦材及び車両
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20240402BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C09K3/14 520M
C09K3/14 520G
F16D69/02 G
(21)【出願番号】P 2021504721
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010339
(87)【国際公開番号】W WO2020183664
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 佑介
(72)【発明者】
【氏名】真柄 暁仁
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103772980(CN,A)
【文献】特開平09-291954(JP,A)
【文献】特開2015-059193(JP,A)
【文献】国際公開第2004/109138(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦材及び裏金を有する摩擦部材であって、前記摩擦材が、無機充填材、有機充填材、繊維基材及び結合材からなる群から選択される少なくとも1種を含有し、
前記摩擦材が、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、且つ、モース硬度6.4超の物質を含有しないか又は含有量が0.05質量%以下であり、鉱物繊維としてウォラストナイトを含有しており、
さらに、前記摩擦材が前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維
(但し、前記鉱物繊維はセラミック繊維を含まない。)を2種以上含有する、摩擦部材。
【請求項2】
前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維が、繊維長200μm以下の鉱物繊維と繊維長200μm超の鉱物繊維の2種を含有する、請求項1に記載の摩擦部材。
【請求項3】
前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維として、少なくともロックウールを含有する、請求項1又は2に記載の摩擦部材。
【請求項4】
前記摩擦材において、ウォラストナイトの含有量が前記摩擦材全量に対して3~10質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の摩擦部材。
【請求項5】
前記摩擦材において、鉱物繊維の合計含有量が前記摩擦材全量に対して3~35質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の摩擦部材。
【請求項6】
前記摩擦材がさらに酸化マグネシウムを含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の摩擦部材。
【請求項7】
前記摩擦材がさらにマイカを含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の摩擦部材。
【請求項8】
前記摩擦材がさらに有機繊維を含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の摩擦部材。
【請求項9】
前記摩擦材がさらに黒鉛を含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の摩擦部材。
【請求項10】
前記摩擦材がさらに金属硫化物を含有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の摩擦部材。
【請求項11】
前記摩擦材がさらに水酸化カルシウムを含有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の摩擦部材。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の摩擦部材を搭載した車両。
【請求項13】
無機充填材、有機充填材、繊維基材及び結合材からなる群から選択される少なくとも1種を含有し、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、且つ、モース硬度6.4超の物質を含有しないか又は含有量が0.05質量%以下であり、鉱物繊維としてウォラストナイトを含有する摩擦材組成物であって、さらに、前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維
(但し、前記鉱物繊維はセラミック繊維を含まない。)を2種以上含有する、摩擦材組成物。
【請求項14】
前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維が、[I]平均繊維長200μm超の鉱物繊維と[II]平均繊維長200μm以下の鉱物繊維とを含有する、請求項13に記載の摩擦材組成物。
【請求項15】
前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維として、少なくともロックウールを含有する、請求項13又は14に記載の摩擦材組成物。
【請求項16】
ウォラストナイトの含有量が摩擦材組成物全量に対して3~10質量%である、請求項13~15のいずれか1項に記載の摩擦材組成物。
【請求項17】
鉱物繊維の合計含有量が摩擦材組成物全量に対して3~35質量%である、請求項13~16のいずれか1項に記載の摩擦材組成物。
【請求項18】
さらに酸化マグネシウムを含有する、請求項13~17のいずれか1項に記載の摩擦材組成物。
【請求項19】
さらにマイカを含有する、請求項13~18のいずれか1項に記載の摩擦材組成物。
【請求項20】
さらに有機繊維を含有する、請求項13~19のいずれか1項に記載の摩擦材組成物。
【請求項21】
さらに黒鉛を含有する、請求項13~20のいずれか1項に記載の摩擦材組成物。
【請求項22】
さらに金属硫化物を含有する、請求項13~21のいずれか1項に記載の摩擦材組成物。
【請求項23】
さらに水酸化カルシウムを含有する、請求項13~22のいずれか1項に記載の摩擦材組成物。
【請求項24】
請求項13~23のいずれか1項に記載の摩擦材組成物を含有してなる摩擦材。
【請求項25】
請求項24に記載の摩擦材を搭載した車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦部材、摩擦材組成物、摩擦材及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、制動のためにディスクブレーキパッド及びブレーキライニング等の摩擦材が使用されている。これらの摩擦材は、相手材となるディスクロータ、ブレーキドラム等と摩擦することによって制動力を得る。そのため摩擦材には、使用条件に応じた適切な摩擦係数(効き特性)が求められるだけでなく、低周波から高周波までの幅広い周波数帯でのブレーキ鳴きが発生し難いこと(鳴き特性)、摩擦材の寿命が長いこと(耐摩耗性)等が要求される。
【0003】
摩擦材は、繊維基材としてスチール繊維を30~60質量%含有するセミメタリック材と、スチール繊維を30質量%未満含有するロースチール材と、スチール繊維を含有しないNAO(Non-Asbestos Organic)材に大別される。但し、スチール繊維を微量に含有する摩擦材もNAO材に分類されることがある。
【0004】
NAO材は、粉末又は繊維の状態の銅を含有するものが一般的となっている。しかし、銅、銅合金等を含有する摩擦材は、制動時に発生する摩耗粉中に銅を含むため、河川及び湖等を汚染する可能性が示唆されている。そのため、米国のカリフォルニア州及びワシントン州等では、2021年以降は銅を5質量%以上、2023年以降は銅を0.5質量%以上含有する摩擦材の販売及び新車への組み付けを禁止する法案が可決されており、これに対応するため、銅を含有しない、又は銅の含有量が少ないNAO材の開発が急務となっている。
【0005】
銅の代表的な機能の1つ目として、熱伝導率の付与が挙げられる。銅は熱伝導率が高いため、制動時に発生した熱を摩擦界面から拡散させることで、過度の温度上昇による摩耗を抑制する。
銅の代表的な機能の2つ目として、高温制動時における摩擦界面の保護が挙げられる。
銅は延性及び展性が高いため、制動によって摩擦材表面に延びて被膜を形成する。その結果、高速高温制動時に摩擦材の摩耗を低減すると共に、安定した摩擦係数の発現が可能となる。また、銅の延展膜が研削材を保持し易くなるため、低速低温制動時においても良好な摩擦係数を発現可能となる。
従って、銅を含有しない、又は銅の含有量が少ないNAO材を開発するためには、上記のような熱伝導率の向上、界面保護及び研削材保持の観点から、銅代替技術が必要となる。
【0006】
特に、安定した摩擦係数が得られない場合、ブレーキ鳴き及び異音が発生し易い傾向にあるため、銅を含有しない、又は銅の含有量が少ないNAO材において、(1)低周波から高周波までの幅広い周波数帯で安定した摩擦係数を有することでブレーキ鳴き及び異音が発生し難く[特性(1)]、且つ、(2)高い摩擦係数を持つ[特性(2)]NAO材が求められる。しかし、高い摩擦係数を有するNAO材にするためには、酸化アルミニウム等の金属酸化物などのモース硬度の高い研削材を含有させる必要があり、一方で、そのようなモース硬度の高い研削材を含有させるとブレーキ鳴き及び異音が発生し易い、つまり低周波から高周波までの幅広い周波数帯において安定した摩擦係数が得られない傾向にあるため、前記特性(1)及び(2)は二律背反の関係にあり、銅を含有しない、又は銅の含有量が少ないNAO材においてこれらを両立することは困難である。
【0007】
これまでに、銅を含有しない、又は銅の含有量が少ない摩擦材に関していくつか提案されている。例えば、特許文献1では、フェード等の過酷な条件下でも摩擦係数が安定し得るNAO材を提供することを課題として、純度99.0重量%以上の安定化又は部分安定化ジルコニアを配合したNAO材を発明しており、段落[0028]では、モース硬度7以上の無機物を非含有とすることで、ロータを削ることによるブレーキ振動及び摩耗増大を回避し得ることを教示している。
また、特許文献2では、長期にわたり安定した効力が得られ、摩擦係数及びブレーキ鳴きが悪化しない摩擦材を提供することを課題として、炭素元素を含む有機材料と、無機繊維とを含有する摩擦材において、前記有機材料の合計含有量が、摩擦材組成物全体の30質量%以下であり、前記無機繊維は、解繊された生体溶解性無機繊維であって、モース硬度が5以上7以下、耐熱温度が1,000℃以上、繊維長が1mm以上であり、モース硬度8以上の硬質無機粉末材を含まない摩擦材を発明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-216696号公報
【文献】特開2016-132702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載のNAO材は摩擦係数の安定化のために特殊なジルコニアを使用する必要があり、NAO材の組成設計が大きく制限されてしまうという問題がある。また、特許文献1に記載のNAO材ではブレーキ鳴き及び異音の抑制が不十分である。特許文献2に記載の摩擦材は確かに摩擦係数の安定性に優れており、高い摩擦係数を有することが記載されているが、金属材料であるアルミニウム粉を含有した組成での結果であり、たとえ金属粉を含有していなくても前記特性(1)及び(2)を両立し得るNAO材があれば、NAO材の開発にあたって組成設計の幅が広がるために好ましい。
【0010】
そこで、本発明の課題は、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であっても、(1)低周波から高周波までの幅広い周波数帯で安定した摩擦係数を有することでブレーキ鳴き及び異音が発生し難く、且つ、(2)高い摩擦係数を持つ摩擦材を有する摩擦部材、前記摩擦材を提供し得る摩擦材組成物、前記摩擦材、及び前記摩擦部材又は摩擦材を搭載した車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、モース硬度6.4超の物質を実質的に含有せず、鉱物繊維としてウォラストナイトを含有する摩擦材であれば前記課題が解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記[1]~[27]に関する。
【0012】
[1]摩擦材及び裏金を有する摩擦部材であって、
前記摩擦材が、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、且つ、モース硬度6.4超の物質を実質的に含有せず、鉱物繊維としてウォラストナイトを含有する、摩擦部材。
[2]前記摩擦材が前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維を1種以上含有する、上記[1]に記載の摩擦部材。
[3]前記摩擦材が前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維を2種以上含有する、上記[1]又は[2]に記載の摩擦部材。
[4]前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維が、繊維長200μm以下の鉱物繊維と繊維長200μm超の鉱物繊維の2種を含有する、上記[2]又は[3]に記載の摩擦部材。
[5]前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維として、少なくともロックウールを含有する、上記[2]~[4]のいずれかに記載の摩擦部材。
[6]前記摩擦材において、ウォラストナイトの含有量が前記摩擦材全量に対して3~10質量%である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の摩擦部材。
[7]前記摩擦材において、鉱物繊維の合計含有量が前記摩擦材全量に対して3~35質量%である、上記[2]~[6]のいずれかに記載の摩擦部材。
[8]前記摩擦材がさらに酸化マグネシウムを含有する、上記[1]~[7]のいずれかに記載の摩擦部材。
[9]前記摩擦材がさらにマイカを含有する、上記[1]~[8]のいずれかに記載の摩擦部材。
[10]前記摩擦材がさらに有機繊維を含有する、上記[1]~[9]のいずれかに記載の摩擦部材。
[11]前記摩擦材がさらに黒鉛を含有する、上記[1]~[10]のいずれかに記載の摩擦部材。
[12]前記摩擦材が、無機充填材、有機充填材、繊維基材及び結合材からなる群から選択される少なくとも1種を含有する、上記[1]~[11]のいずれかに記載の摩擦部材。
[13]上記[1]~[12]のいずれかに記載の摩擦部材を搭載した車両。
[14]銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、且つ、モース硬度6.4超の物質を実質的に含有せず、鉱物繊維としてウォラストナイトを含有する摩擦材組成物。
[15]前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維を1種以上含有する、上記[14]に記載の摩擦材組成物。
[16]前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維を2種以上含有する、上記[14]又は[15]に記載の摩擦材組成物。
[17]前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維が、[I]平均繊維長200μm超の鉱物繊維と[II]平均繊維長200μm以下の鉱物繊維とを含有する、上記[15]又は[16]に記載の摩擦材組成物。
[18]前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維として、少なくともロックウールを含有する、上記[15]~[17]のいずれかに記載の摩擦材組成物。
[19]ウォラストナイトの含有量が摩擦材組成物全量に対して3~10質量%である、上記[14]~[18]のいずれかに記載の摩擦材組成物。
[20]鉱物繊維の合計含有量が摩擦材組成物全量に対して3~35質量%である、上記[14]~[19]のいずれかに記載の摩擦材組成物。
[21]さらに酸化マグネシウムを含有する、上記[14]~[20]のいずれかに記載の摩擦材組成物。
[22]さらにマイカを含有する、上記[14]~[21]のいずれかに記載の摩擦材組成物。
[23]さらに有機繊維を含有する、上記[14]~[22]のいずれかに記載の摩擦材組成物。
[24]さらに黒鉛を含有する、上記[14]~[23]のいずれかに記載の摩擦材組成物。
[25]無機充填材、有機充填材、繊維基材及び結合材からなる群から選択される少なくとも1種を含有する、上記[14]~[24]のいずれかに記載の摩擦材組成物。
[26]上記[14]~[25]のいずれかに記載の摩擦材組成物を含有してなる摩擦材。
[27]上記[26]に記載の摩擦材を搭載した車両。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であっても、(1)低周波から高周波までの幅広い周波数帯で安定した摩擦係数を有することでブレーキ鳴き及び異音が発生し難く、且つ、(2)高い摩擦係数を持つ摩擦材を有する摩擦部材、前記摩擦材を提供し得る摩擦材組成物、前記摩擦材、及び前記摩擦部材又は摩擦材を搭載した車両を提供することができる。
本発明の摩擦部材、摩擦材及び摩擦材組成物は、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、つまり実質的に銅を含有していないため、環境に優しい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】バックプレートの一方の面に摩擦材(上張り材)が下張り材を介して配置された摩擦部材(ディスクブレーキパッド)の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る摩擦部材、摩擦材組成物、摩擦材及び車両について詳細に説明する。但し、以下の実施形態において、その構成要素は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。さらに、本明細書において、摩擦材組成物中の各成分の含有率は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、摩擦材組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
なお、本発明において、「通常制動時」とは、時速20~50kmで走行していて2~4MPaの油圧で制動を行う時のことをいい、「高速制動時」とは、時速100~200kmで走行していて2~4MPaの油圧で制動を行う時のことをいう。
また、本明細書における記載事項を任意に組み合わせた態様も本発明に含まれる。
【0016】
[摩擦材及び摩擦部材]
本実施形態に係る摩擦部材は、摩擦材及び裏金を有する摩擦部材であって、前記摩擦材が、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、且つ、モース硬度6.4超の物質を実質的に含有せず、鉱物繊維としてウォラストナイトを含有する摩擦部材である。
【0017】
本実施形態の摩擦材は、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であるため、環境に優しい。
なお、上記の「銅」とは、繊維状、粉末状等の銅;銅合金、銅化合物などに含まれる銅元素であり、「銅の含有量」は摩擦材全量に対する含有量を示す。
銅の含有量は、環境汚染を抑制する観点から、摩擦材全量に対して、0.4質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましく、銅を含有しないことが特に好ましい。
【0018】
(モース硬度6.4超の物質)
さらに、本実施形態の摩擦材は、モース硬度6.4超の物質を実質的に含有しない。該モース硬度6.4超の物質としては、酸化ジルコニウム(モース硬度7)、酸化アルミニウム(モース硬度9)等のモース硬度6.4超の金属酸化物;珪酸ジルコニウム(モース硬度7.5)等のモース硬度6.4超の金属珪酸塩などが挙げられる。
モース硬度6.4超の物質としては、上記の通り、モース硬度6.4超(又は6.5以上)の研削材が挙げられる。
ここで、本明細書において、「実質的に含有しない」とは、全く含有していない、つまり0質量%である他、例えば0.05質量%以下(場合によっては0.03質量%以下であったり、0.01質量%以下であったりしてもよい。)であって、含有させる意義に乏しい程度の含有量を含有する場合も含まれる。
【0019】
(ウォラストナイト[鉱物繊維])
本実施形態の摩擦材は、前記条件を満たした上で、鉱物繊維としてウォラストナイトを含有する。つまり、該ウォラストナイトは、繊維状ウォラストナイトである。該繊維状ウォラストナイトは、CaSiO3を主成分とする天然に産出されるケイ酸塩鉱物を粉砕分級し、繊維状に加工したものを指す。
前記繊維状ウォラストナイトの平均繊維長は、ブレーキ鳴き及び異音の発生を抑制する観点並びに高い摩擦係数を得る観点から、好ましくは20~1,000μm、より好ましくは40~850μm、さらに好ましくは100~850μm、特に好ましくは100~400μm、最も好ましくは100~200μmである。また、前記繊維状ウォラストナイトの平均繊維径は、ブレーキ鳴き及び異音の発生を抑制する観点並びに高い摩擦係数を得る観点から、好ましくは70μm以下、より好ましくは60μm以下である。平均繊維径の下限値に特に制限はないが、好ましくは5μm以上、より好ましくは8μm以上である。
なお、本明細書において、平均繊維長及び平均繊維径はそれぞれ、用いる無機繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維長及び繊維径を測定し、それから求められる平均値を示すが、市販品であればカタログ値を参照できる。なお、本明細書において、繊維径は、繊維の直径を指す。
【0020】
前記繊維状ウォラストナイトの平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は特に制限されるものではないが、好ましくは8以上であり、より好ましくは8~20、さらに好ましくは9~20、特に好ましくは10~16である。平均アスペクト比を8以上とすることで、ブレーキ鳴き及び異音の発生を抑制し、且つ高い摩擦係数を得ることができる。ここで、平均アスペクト比は、d50値(体積分布の累積中央値)を意味する。
また、結合材との親和性を高めるため、繊維状ウォラストナイトは、アミノシラン、エポキシシラン等で表面処理されていてもよい。
【0021】
摩擦材における前記ウォラストナイトの含有量は、特に制限されるものではないが、ブレーキ鳴き及び異音の発生を抑制する観点並びに高い摩擦係数を得る観点から、摩擦材全量に対して好ましくは3~10質量%、より好ましくは4~10質量%、さらに好ましくは5~9質量%、特に好ましくは6.0~8.5質量%である。
前記ウォラストナイトは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
〔摩擦材の構成成分〕
本実施形態の摩擦材は、無機充填材、有機充填材、繊維基材及び結合材からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。本発明においては、モース硬度6.4超の物質を実質的に含有しないため、言うまでもなく、無機充填材、有機充填材、繊維基材及び結合材においてもモース硬度6.4超の物質は含まれず、以下、特に明記しなくても同様である。例えば、本明細書において、単に「無機充填材」と称するときでも、モース硬度6.4以下(後述の通り、好ましくはモース硬度6以下)の無機充填材を指す。
以下、本実施形態の摩擦材が含有する前記ウォラストナイト以外の各成分について順に詳述する。
【0023】
<無機充填材>
本実施形態の摩擦材は無機充填材を含有することが好ましい。該無機充填材は、摩擦材の耐熱性、耐摩耗性、摩擦係数の安定性等の悪化を避けるための摩擦調整材としての機能を発現し得るものである。ここで、本発明においては、無機充填材は繊維形状のもの(つまり後述の無機繊維)を含まない。
相手材であるディスクロータの硬度は、一般的にはモース硬度4.5程度の鋳鉄であるため、モース硬度が5以上の無機充填材は、研削材として作用し、摩擦係数を上昇させる効果を有する。
無機充填材は、ブレーキ鳴き及び異音の発生を抑制する観点並びに高い摩擦係数を得る観点から、モース硬度6.4以下の無機充填材であり、モース硬度6以下の無機充填材であることが好ましい。
無機充填材は、1種を単独で使用してもいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記無機充填材としては、例えば、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等のチタン酸塩;硫化ビスマス、三硫化アンチモン、硫化スズ、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化亜鉛、硫化タングステン及び硫化マンガン等の金属硫化物;酸化マグネシウム、マイカ、黒鉛、コークス、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、クロマイト、四酸化三鉄、酸化亜鉛;鉄粉末、鋳鉄粉末、アルミニウム粉末、ニッケル粉末、スズ粉末、亜鉛粉末、及び前記金属のうちの少なくとも1つの金属を含有する合金粉末等の金属粉末などが挙げられる。無機充填材としては、これらの中から選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、ブレーキ鳴き及び異音の発生を抑制する観点並びに高い摩擦係数を得る観点から、酸化マグネシウム、黒鉛、チタン酸塩、金属硫化物、マイカ、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム及び硫酸バリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含有することがより好ましく、酸化マグネシウム、黒鉛、チタン酸カリウム、硫化スズ、マイカ、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム及び硫酸バリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含有することがさらに好ましく、少なくとも、酸化マグネシウム、黒鉛、金属硫化物、マイカ、水酸化カルシウム及び硫酸バリウムを含有することが特に好ましく、少なくとも、酸化マグネシウム、黒鉛、硫化スズ、マイカ、水酸化カルシウム及び硫酸バリウムを含有することが最も好ましい。
なお、特に制限されるものではないが、無機充填材としては、銅及び鉄系金属を含有しないものが好ましい。
【0025】
本実施形態の摩擦材中における無機充填材の総含有量は、摩擦材の耐熱性、耐摩耗性及び摩擦係数の安定性等の観点から、摩擦材全量に対して、40~85質量%が好ましく、45~80質量%がより好ましく、50~70質量%がさらに好ましい。
以下、好ましい無機充填材について、順に詳述する。
【0026】
(黒鉛)
本実施形態の摩擦材は、無機充填材として、黒鉛を含有することが好ましい。黒鉛を含有することで摩擦材により優れた熱伝導率を付与できる。黒鉛としては、特に制限されるものではなく、公知の黒鉛、つまり、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれも使用することができる。
黒鉛の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、1~50μmが好ましく、2~40μmがより好ましく、5~30μmがさらに好ましく、5~20μmが特に好ましい。黒鉛は、異なる平均粒子径を有するものを2種以上組み合わせて用いてもよい。黒鉛の平均粒子径が前記下限値以上であれば、熱伝導率が過度に上昇することが抑制され、摩擦熱がバックプレート側に伝熱してベーパーロックが発生することが抑制され易い傾向にある。また、前記上限値以下であれば、熱伝導率が向上し、成形時の結合材の硬化を促進し、優れた強度を示す傾向にある。なお、平均粒子径が前記範囲外の黒鉛を用いてもよい。
なお、本明細書において、平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定の方法を用いて測定したd50の値(体積分布のメジアン径、累積中央値)を意味し、以下同様である。平均粒子径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置、商品名:LA・920(株式会社堀場製作所製)で測定することができる。
【0027】
本実施形態の摩擦材が黒鉛を含有する場合、その含有量は、摩擦材全量に対して、0.5~20質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましく、2~10質量%がさらに好ましく、3~8質量%が特に好ましい。黒鉛の含有量が前記下限値以上であれば、熱伝導率を向上させ易い傾向にあり、前記上限値以下であれば、熱伝導率の過度な上昇を抑えると共に、摩擦係数の低下を抑制し易い傾向にある。
【0028】
(チタン酸塩)
チタン酸塩としては、例えば、チタン酸カリウム(6-チタン酸カリウム、8-チタン酸カリウム)、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム及びチタン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、チタン酸カリウムを含むことがより好ましい。
チタン酸塩の形状としては、特に制限されるものではないが、人体有害性を回避する観点から、非針状であることが好ましい。非針状のチタン酸塩とは、多角形、円、楕円等の形状を呈する板状チタン酸塩、不定形状のチタン酸塩などを意味する。チタン酸塩の形状は、例えば走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)観察によって解析することができる。
チタン酸塩はモース硬度が約4と低く、融点が1,000℃以上と比較的高いため、高速高温制動時に摩擦界面に介在することで摩擦材の摩耗増大を低減することができる。
【0029】
本実施形態の摩擦材がチタン酸塩を含有する場合、その含有量は、摩擦材全量に対して、2~25質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましく、3~15質量%がさらに好ましく、5~12質量%が特に好ましい。チタン酸塩の含有量が、前記下限値以上であれば、高速高温制動時の摩擦係数が良好となる傾向にあり、前記上限値以下であれば、低速低温制動時における摩擦係数の低下を抑制できる傾向にある。
【0030】
(金属硫化物)
金属硫化物としては、例えば、硫化ビスマス、三硫化アンチモン、硫化スズ、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化亜鉛、硫化タングステン及び硫化マンガン等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、人体への有害性が少ないという観点から、硫化ビスマス、硫化スズ、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化亜鉛、硫化タングステン及び硫化マンガンからなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、通常制動時の摩擦係数の安定性の観点から、硫化スズを含有することがより好ましい。
金属硫化物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
本実施形態の摩擦材が金属硫化物を含有する場合、その含有量は、摩擦材全量に対して、0.1~10質量%が好ましく、0.5~6質量%がより好ましく、1~5質量%がさらに好ましく、1~4質量%が特に好ましい。金属硫化物の含有量が、前記下限値以上であれば、ロータ摩耗を抑制できる傾向にあり、前記上限値以下であれば、摩擦係数の低下を抑制できる傾向にある。
【0032】
(マイカ)
マイカとしては、フロゴパイト(phlogopite、金雲母)、バイオタイト(biotite、黒雲母)、マスコバイト及び合成雲母等が挙げられる。マイカは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
フロゴパイトは、軟質マイカとして知られているものであり、組成式がKMg3AlSi3O10(OH)2である。また、フロゴパイトのMgの一部がFeに置換したものがバイオタイト(組成式:K(Mg,Fe)3AlSi3O10(OH)2)であり、フロゴパイトとアナイト(annite、鉄雲母、組成式:KFe3AlSi3O10(OH)2)の連続固溶体である。フロゴパイト及びバイオタイトは、モース硬度が2.0~2.5であり、マイカの中でも比較的軟質であるという特徴を有している。
バイオタイトにおけるMgとFeとのモル比(Mg/Fe)は特に限定されるものではなく、50/50以上が好ましく、60/40以上がより好ましく、80/20以上がさらに好ましい。なお、モル比(Mg/Fe)が100/0の場合がフロゴパイトであるため、モル比(Mg/Fe)の好ましい範囲の上限は100/0未満である。
硬質マイカとして知られているマスコバイト(muscovite、白雲母、組成式:KAl2AlSi3O10(OH)2)は、モース硬度2.5~3.5であり、また、合成雲母(Synthetic Mica、一例として組成式:KMg3(AlSi3)O10F2)のモース硬度は3.4であり、これらはマイカの中でも硬質なものとなっている。
マイカの平均粒子径に特に制限はないが、低周波異音が抑制され、さらに摩耗及びクラック等が生じ難いという観点から、好ましくは340~1,500μm、より好ましくは450~1,300μm、さらに好ましくは600~1,100μmである。
【0033】
本実施形態の摩擦材がマイカを含有する場合、その含有量は、摩擦材全量に対して、1~10質量%が好ましく、2~8質量%がより好ましく、3~8質量%がさらに好ましく、4~7質量%が特に好ましい。マイカの含有量が、前記下限値以上であれば、ロータ摩耗が良好となる傾向にあり、前記上限値以下であれば、摩擦係数の低下が抑制できる傾向にある。
【0034】
(炭酸カルシウム)
本実施形態の摩擦材が炭酸カルシウムを含有させることで、摩擦材の強度を向上させることができる。炭酸カルシウムとしては、市販されている炭酸カルシウムをそのまま使用することができる。炭酸カルシウムとしては、表面処理されているものであってもよいし、表面処理されていないものであってもよい。
炭酸カルシウムとしては、特に制限されるものではないが、BET法による比表面積が1.0~60m2/gの炭酸カルシウムを使用してもよい。
【0035】
本実施形態の摩擦材が炭酸カルシウムを含有する場合、その含有量は、摩擦材全量に対して、1~10質量%が好ましく、2~8質量%がより好ましく、2~6質量%がさらに好ましく、3~7質量%が特に好ましい。
【0036】
(水酸化カルシウム)
水酸化カルシウムは摩擦材のpHを増加させ、アラミド繊維が分解し易くなる傾向があるため、アラミド繊維と共に使用する際にはpHが高くなり過ぎないように使用量に注意することが好ましい。本実施形態の摩擦材が水酸化カルシウムを含有する場合、水酸化カルシウムの含有量は、摩擦材全量に対して、0.5~10質量%が好ましく、1~8質量%がより好ましく、2~5質量%がさらに好ましい。
【0037】
(硫酸バリウム)
硫酸バリウムの平均粒子径は、特に制限されるものではないが、1~100μmが好ましく、5~75μmがより好ましく、10~50μmがさらに好ましい。
なお、硫酸バリウムは摩擦材の体積を調整するための単なる充填材としての役割を果たす。つまり、硫酸バリウムの含有量は、他の成分の含有量に依存し、摩擦材を所定量とするための残部を硫酸バリウムで補充することができる。
【0038】
<有機充填材>
本実施形態の摩擦材は有機充填材を含有することが好ましい。有機充填材は、摩擦材の音振性能、耐摩耗性等を向上させるための摩擦調整剤として含まれるものである。ここで、本発明においては、有機充填材は繊維形状のもの(つまり後述の有機繊維)を含まない。
有機充填材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
有機充填材としては、カシューパーティクル、ゴム成分等が挙げられる。
【0039】
(カシューパーティクル)
カシューパーティクルとしては、例えば、カシューナッツシェルオイルを重合及び硬化させたものを粉砕して得られ、一般的にカシューダストと称されることもある。なお、カシューパーティクルは、未変性のカシューパーティクルであることが好ましい。
カシューパーティクルは、一般的に、硬化反応に使用する硬化剤の種類に応じて、茶系、茶黒系、黒系等に分類される。カシューパーティクルは、分子量等を調整することで、耐熱性及び音振性、さらに相手材であるロータへの被膜形成性等を制御し易くすることが可能である。カシューパーティクルの平均粒子径は、分散性の観点から、850μm以下であることが好ましく、750μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましい。カシューパーティクルの平均粒子径の下限値に特に制限はなく、200μm以上であってもよく、300μm以上であってもよく、400μm以上であってもよい。言うまでもなく、該上限値と下限値とを任意に組み合わせた数値範囲も、カシューパーティクルの平均粒子径の好ましい態様に含まれる。
カシューパーティクルとしては、市販品を使用することができる。
カシューパーティクルは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本実施形態の摩擦材がカシューパーティクルを含有する場合、その含有量は、摩擦材全量に対して、1~16質量%が好ましく、1.5~10質量%がより好ましく、2~7質量%がさらに好ましく、2~5質量%が特に好ましい。カシューパーティクルの含有量が前記範囲であると、摩擦材の低弾性化による鳴き等の音振性能を改善し易くなる傾向にある。
【0041】
(ゴム成分)
ゴム成分は、摩擦材に使用されている公知のものを使用することができ、例えば天然ゴム、合成ゴムが挙げられる。合成ゴムとしては、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム、イソプレンゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、タイヤトレッドゴムの粉砕粉(ゴム粉と称することがある。)等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、柔軟性及び製造コストのバランスの観点から、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、タイヤトレッドゴムの粉砕粉(ゴム粉)が好ましい。
本実施形態の摩擦材がゴム成分を含有する場合、その含有量は、摩擦材全量に対して、0.2~15質量%が好ましく、0.2~10質量%がより好ましく、0.3~6質量%がさらに好ましく、0.3~5質量%が特に好ましい。さらに、ゴム成分の含有量の前記数値範囲の上限値は3質量%以下であってもよいし、2質量%以下であってもよいし、1.5質量%以下であってもよい。ゴム成分の含有量を前記範囲とすることで、摩擦材の弾性率が高くなることを避けることができ、且つ鳴き等の制振性が悪化することを避けることができる傾向にあり、また、耐熱性の悪化及び熱履歴による強度低下を避けることができる傾向にある。
【0042】
本実施形態の摩擦材は、カシューパーティクル及びゴム成分からなる群から選択される1種以上を含有することが好ましく、カシューパーティクルとゴム成分とを併用することがより好ましい。また、カシューパーティクルとゴム成分とを併用する場合には、カシューパーティクルをゴム成分で被覆したものを用いてもよく、音振性能の観点から、カシューパーティクルとゴム成分とを別個に配合してもよい。
【0043】
本実施形態の摩擦材が有機充填材を含有する場合、その総含有量は、摩擦材全量に対して、1.2~20質量%が好ましく、2~10質量%がより好ましく、2~8質量%がさらに好ましい。さらに、有機充填材の含有量の前記数値範囲の上限値は5質量%以下であってもよいし、4質量%以下であってもよい。
有機充填材の含有量が上記範囲であると、摩擦材の低弾性化によって、鳴き等の音振性能が改善し易い傾向にあり、また、耐熱性の悪化及び熱履歴による強度低下を避け易い傾向にある。
【0044】
<繊維基材;有機繊維及び無機繊維>
繊維基材は補強作用を示すものである。繊維基材として、有機繊維及び無機繊維が挙げられる。繊維基材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の摩擦材においては、無機繊維として、前述した鉱物繊維のウォラストナイトを必須として含有するため、以下、ウォラストナイト以外の繊維基材について説明する。
【0045】
-有機繊維-
本実施形態の摩擦材は、有機繊維を含有することが好ましい。有機繊維とは、有機物を主成分とする繊維状の材料である。
前記有機繊維としては、麻、木綿、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、フェノール樹脂繊維(架橋構造を有する)等が挙げられる。有機繊維は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
有機繊維としては、耐熱性の観点から、アラミド繊維が好ましい。また、摩擦材の強度向上の観点から、有機繊維として、フィブリル化有機繊維を含有することが好ましく、フィブリル化アラミド繊維を含有することがより好ましい。フィブリル化有機繊維とは、分繊化し、毛羽立ちをもった有機繊維であり、商業的に入手することができる。
【0046】
本実施形態の摩擦材が有機繊維を含有する場合、その含有量は、特に制限されるものではないが、摩擦材全量に対して、好ましくは1~15質量%、より好ましくは1~10質量%、さらに好ましくは1.5~6質量%、特に好ましくは1.5~4質量%である。前記下限値以上であれば、良好なせん断強度、耐クラック性及び耐摩耗性が発現する傾向にあり、前記上限値以下であれば、摩擦材組成物中の有機繊維(フィブリル化有機繊維)と他材料の偏在によるせん断強度及び耐クラック性の悪化を効果的に抑制することができる傾向にある。
【0047】
-無機繊維-
本実施形態の摩擦材は、無機繊維として前記ウォラストナイトのみであってもよいが、前記ウォラストナイト以外の無機繊維を含有することも好ましい。無機繊維は、摩擦材の機械的強度及び耐摩耗性を向上する効果を発現し得るものである。
無機繊維としては、例えば、鉱物繊維(前記ウォラストナイトを除く。以下同様である。)、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、セピオライト(α型セピオライト及びβ型セピオライト)、アタパルジャイト、チタン酸カリウム繊維、シリカアルミナ繊維、耐炎化繊維等が挙げられる。
無機繊維は、金属及び金属合金以外の無機物を主成分とする繊維状の材料であることが好ましく、鉱物繊維、ガラス繊維がより好ましく、鉱物繊維がさらに好ましい。
無機繊維は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
(鉱物繊維)
前記鉱物繊維は、スラグウール等の高炉スラグ、バサルトファイバー等の玄武岩、その他の天然岩石等を主成分として溶融紡糸した人造無機繊維である。鉱物繊維としては、例えば、SiO2、Al2O3、CaO、MgO、FeO、Na2O等を含有する鉱物繊維、又はこれら化合物を1種もしくは2種以上含有する鉱物繊維等が挙げられる。鉱物繊維としては、アルミニウム元素を含む鉱物繊維が好ましく、Al2O3を含有する鉱物繊維がより好ましく、Al2O3とSiO2とを含有する鉱物繊維がさらに好ましい。
【0049】
本実施形態の摩擦材は、ブレーキ鳴き及び異音の発生を抑制する観点並びに高い摩擦係数を得る観点から、前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維を1種以上含有することが好ましく、前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維を2種以上含有することがより好ましく、前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維を2種含有することがさらに好ましい。
ブレーキ鳴き及び異音の発生を抑制する観点並びに高い摩擦係数を得る観点から、鉱物繊維としてロックウールが好ましく、つまり、本実施形態の摩擦材は、前記ウォラストナイト以外の鉱物繊維として、少なくともロックウールを含有することが好ましい。
また、鉱物繊維は表面処理されていてもよいし、表面処理されていなくてもよく、表面処理された鉱物繊維と表面処理されていない鉱物繊維とを併用する態様も好ましい。
【0050】
摩擦材に含まれる鉱物繊維の平均繊維長が大きくなるほど、せん断強度が低下する傾向にある。そのため、鉱物繊維の平均繊維長は、好ましくは500μm以下、より好ましくは100~400μm、さらに好ましくは120~340μmである。
【0051】
一方で、摩擦係数の安定性の観点から、[I]平均繊維長200μm超の鉱物繊維(以下、鉱物繊維[I]と称する。)と[II]平均繊維長200μm以下の鉱物繊維(以下、鉱物繊維[II]と称する。)とを併用する態様も好ましい。鉱物繊維[I]はウール状の鉱物繊維とも称され、その平均繊維長としては、好ましくは200超~500μm、より好ましくは200超~400μm、さらに好ましくは200超~300μm、特に好ましくは210~250μmである。また、鉱物繊維[II]はカット状の鉱物繊維とも称され、その平均繊維長としては、好ましくは50~200μm、より好ましくは100~200μm、さらに好ましくは100~180μm、特に好ましくは120~180μmである。
鉱物繊維[I]と鉱物繊維[II]とを併用する場合、摩擦材中における鉱物繊維[I]と鉱物繊維[II]との含有比率([I]/[II])は、質量比で、好ましくは5/95~50/50、より好ましくは10/90~45/55、さらに好ましくは15/85~40/60、特に好ましくは20/80~40/60である。
また、鉱物繊維の平均繊維径(直径)には特に制限はないが、通常、1~20μmであり、2~15μmであってもよく、2~8μmであってもよい。
【0052】
鉱物繊維は、人体有害性の観点から、生体溶解性であることが好ましい。ここで言う生体溶解性の鉱物繊維とは、人体内に取り込まれた場合でも短時間で一部分解され体外に排出される特徴を有する鉱物繊維である。具体的には、化学組成が、アルカリ酸化物及びアルカリ土類酸化物の総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びバリウムの酸化物の総量)が18質量%以上で、且つ、(a)短期吸入暴露による生体内耐久試験で、長さが20μm超の繊維の半減期が10日未満であること、(b)短期気管内注入による生体内耐久試験で、長さが20μm超の繊維の半減期が40日未満であること、(c)腹腔内投与試験で有意な発ガン性が無いこと、又は、(d)長期吸入暴露試験で発ガン性と結びつく病理所見又は腫瘍形成が無いこと、のいずれかを満たす繊維(EU指令97/69/ECのNota Q(発癌性適用除外)参照)を示す。このような生体分解性鉱物繊維としては、SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO(-K2O-Na2O)系繊維等が挙げられ、SiO2、Al2O3、CaO、MgO、FeO、K2O及びNa2O等から選択される少なくとも2種を任意の組み合わせで含有する鉱物繊維が挙げられる。
【0053】
(ガラス繊維)
ガラス繊維とは、ガラスを溶融及び紡糸して製造した繊維のことを指す。ガラス繊維は、原料がEガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス等であるものを使用することができ、これらの中でも、特に高強度であるという観点から、Eガラス又はSガラスを含有するガラス繊維を使用することが好ましい。また、結合材との親和性向上のため、ガラス繊維の表面をアミノシラン又はエポキシシラン等で処理したガラス繊維が好ましい。また、原料及び摩擦材組成物のハンドリング性向上の観点から、ガラス繊維をウレタン樹脂、アクリル樹脂又はフェノール樹脂等で集束したものを用いることができ、集束本数は50~1,000本であることが好ましく、分散性及びハンドリング性のバランスの観点から、50~500本であることがより好ましい。
【0054】
前記ガラス繊維の平均繊維長は、特に制限されるものではないが、好ましくは80~6,000μm、より好ましくは150~5,000μm、さらに好ましくは300~5,000μm、特に好ましくは1,000~5,000μm、最も好ましくは2,000~4,000μmである。平均繊維長が80μm以上であれば、摩擦材の強度が向上する傾向にあり、6,000μm以下であれば、分散性の低下が抑制される傾向にある。また、前記ガラス繊維の平均繊維径は、好ましくは5~20μm、より好ましくは7~15μmである。平均繊維径が5μm以上であれば、摩擦材組成物の混合時にガラス繊維が折損することを抑制することができ、20μm以下であれば、摩擦材の強度が向上する傾向にある。
【0055】
本実施形態の摩擦材がガラス繊維を含有する場合、その含有量は、特に制限されるものではないが、摩擦材全量に対して、0.5~10質量%であることが好ましく、2~6質量%であることがより好ましい。ガラス繊維の含有量をこの範囲とすることで、混合後の摩擦材組成物のハンドリング性を損なうことなく、靭性を付与することができ、摩擦材の強度を向上し易い傾向にある。
一方で、本実施形態の摩擦材は、ガラス繊維を含有していなくてもよい。
【0056】
本実施形態の摩擦材が前記ウォラストナイト以外の無機繊維を含有する場合、前記ウォラストナイトを含む無機繊維の総含有量は、摩擦材全量に対して、3~35質量%であることが好ましく、4~30質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましく、15~30質量%であることが特に好ましい。
【0057】
(金属繊維)
金属繊維としては、アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム等の金属単体又は合金形態の繊維、鋳鉄等の金属を主成分とする繊維などが挙げられる。合金形態の繊維(合金繊維)としては、鉄合金繊維、アルミニウム合金繊維等が挙げられる。金属繊維は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明においては、金属繊維を含有しない摩擦材であってもよい。
耐クラック性及び耐摩耗性の向上の観点からは、一般的には、銅繊維、銅合金繊維、鉄繊維及び鉄合金繊維が好まれる。しかし、銅又は銅合金の繊維を含有させる場合、環境中に摩耗粉として放出された際に、河川等の汚染を引き起こす恐れがあることから、摩擦材における銅の含有量は、銅元素として0.5質量%未満であり、より好ましくは0.3質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは実質的に銅を含まない態様である。なお、銅合金繊維としては、銅繊維、黄銅繊維、青銅繊維等が挙げられる。
また、鉄繊維又は鉄合金繊維を含有させる場合、鋳鉄製のディスクロータへの攻撃性を高めることから、摩擦材中における鉄の含有量は、鉄元素として0.5質量%未満とすることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは実質的に鉄を含まない態様である。
【0058】
<結合材>
本実施形態の摩擦材は、さらに、結合材を含有することが好ましい。結合材は、摩擦材に含有される有機充填材、繊維基材等を一体化して、強度を与えるものである。
結合材は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
結合材としては、通常、摩擦材に用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂(例えばストレートノボラックフェノール樹脂等)、アクリルゴム変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂等の各種変性フェノール樹脂などが挙げられる。これらの中でも、フェノール樹脂(例えばストレートノボラックフェノール樹脂等)、アクリルゴム変性フェノール樹脂が好ましく、柔軟性の観点からは、アクリルゴム変性フェノール樹脂を選択してもよい。
【0059】
本実施形態の摩擦材が結合材を含有する場合、その含有量は、摩擦材全量に対して、4~14質量%が好ましく、6~12質量%がより好ましく、8~10質量%がさらに好ましい。
結合材の含有量が上記範囲であると、摩擦材の強度低下をより抑制できる傾向にあり、また、摩擦材の気孔率が減少し、弾性率が高くなることによる鳴き等の音振性能悪化を抑制できる傾向にある。
【0060】
<その他の成分>
本実施形態の摩擦材は、必要に応じて、上記各成分以外のその他の材料を含有していてもよい。
その他の材料としては、例えば、亜鉛粉及びアルミ等の金属粉;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系ポリマーなどの有機添加剤が挙げられる。
本実施形態の摩擦材が上記その他の材料を含有する場合、その含有量としては、摩擦材全量に対して、それぞれ、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下であり、その他の材料を含有していなくてもよい。特に、本発明においては、たとえ金属粉を含有していなくても、(1)低周波から高周波までの幅広い周波数帯で安定した摩擦係数を有することでブレーキ鳴き及び異音が発生し難く、且つ、(2)高い摩擦係数を持つ点で有利である。
【0061】
<摩擦材の製造方法>
本実施形態の摩擦材は、一般に使用されている方法により製造することができる。
本実施形態の摩擦材の製造方法としては、例えば、本実施形態の摩擦材の組成を充足する摩擦材組成物を加熱加圧成形して製造する方法が挙げられる。詳細には、例えば、後述する本実施形態の摩擦材組成物を、レーディゲ(登録商標)ミキサー、加圧ニーダー、アイリッヒ(登録商標)ミキサー等の混合機を用いて均一に混合し、この混合物を成形金型にて予備成形し、得られた予備成形物を成形温度130~160℃、成形圧力20~50MPa、成形時間3~10分間の条件で成形し、得られた成形物を180~230℃で3~5時間熱処理する方法が挙げられる。なお、必要に応じて塗装、スコーチ処理、研磨処理等を行ってもよい。
【0062】
<摩擦材の用途>
本実施形態の摩擦材は、例えば、下記(1)~(3)の態様で用いられる。
(1)摩擦材のみの構成。
(2)裏金と、該裏金の上に形成させた、摩擦面となる本実施形態の摩擦材とを有する摩擦部材。
(3)上記(2)の構成において、裏金と摩擦部材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層、裏金と摩擦部材の接着を目的とした接着層をさらに介在させた構成。
これらの中でも、上記(2)又は(3)のように、本実施形態の摩擦材及び裏金を有する摩擦部材として用いられることが好ましい。
上記裏金は、摩擦部材の機械的強度の向上のために用いるものであり、その材質としては、鉄、ステンレス等の金属;無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチックなどが挙げられる。
上記プライマー層及び接着層としては、通常、ブレーキシュー等の摩擦部材に用いられるものであればよい。
【0063】
本実施形態の摩擦材は、ディスクブレーキパッド及びブレーキライニング等の摩擦部材として有用である。
図1を参照して本実施形態の摩擦材を用いた摩擦部材の一実施態様について具体的に説明すると、バックプレート1、摩擦材(
図1の場合は上張り材とも称する。)2及び下張り材3から構成され、バックプレート1の摩擦材が配置される面11(ここではバックプレート1の上面)に、下張り材3を介して摩擦材(上張り材)2が固着されたものである。本発明の摩擦材は、前記「上張り材」として用いることもできるし、前記「下張り材」として用いることもできるが、「上張り材」として用いることが好ましい。なお、「上張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材であり、「下張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材と裏金との間に介在する、摩擦材と裏金との接着部付近の剪断強度、耐クラック性向上を目的とした層のことである。
【0064】
本実施形態の摩擦材は、自動車等のディスクブレーキパッド、ブレーキライニングなどの摩擦材として好適である。また、本実施形態の摩擦材は、目的形状に成形、加工、貼り付け等の工程を施すことにより、クラッチフェーシング、電磁ブレーキ、保持ブレーキ等の摩擦材としても使用することができる。
【0065】
[摩擦材組成物]
本実施形態に係る摩擦材組成物は、銅を含まない、又は含んでいてもその含有量が、銅元素として0.5質量%未満の摩擦材組成物であって、且つ、モース硬度6.4超の物質を実質的に含有せず、鉱物繊維としてウォラストナイトを含有する摩擦材組成物である。
本実施形態の摩擦材組成物に含有される各成分の種類、及びその製造方法は、上記本実施形態の摩擦材と同様に説明されるものであり、その好適な態様もすべて同じである。なお、摩擦材組成物中における各成分の含有量の好適範囲は、本実施形態の摩擦材で説明した好適範囲と同じであるが、含有量の基準は「摩擦材組成物全量」とする。
さらに、本発明は本実施形態の摩擦材組成物を含有してなる摩擦材も提供する。本実施形態の摩擦材組成物を含有してなる摩擦材は、例えば、本実施形態の摩擦材組成物を予備成形した予備成形体を熱圧成形する方法、本実施形態の摩擦材組成物を直接熱圧成形し、必要に応じて熱処理を施して結合材を熱硬化する方法等によって製造することができる。具体的な製造方法は、上記本実施形態の摩擦材の製造方法及び後述する実施例に記載の通りである。
【0066】
[車両]
本発明は、本実施形態の摩擦部材を搭載した車両も提供する。例えば、本発明の摩擦部材を、ディスクブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング、電磁ブレーキ、保持ブレーキ等に用いた車両等が挙げられる。車両としては、大型自動車、中型自動車、普通自動車、大型特殊自動車、小型特殊自動車、大型自動二輪車及び普通自動二輪車等の、自動四輪車及び自動二輪車を含む各種自動車が挙げられる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本実施形態の摩擦材及び摩擦材組成物をさらに詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0068】
<実施例1~5及び比較例1~2>
[ディスクブレーキパッドの作製]
表1に示す配合比率に従って材料を配合し、各摩擦材組成物を得た。
次に、この摩擦材組成物をレーディゲ(登録商標)ミキサー(株式会社マツボー製、商品名:レーディゲ(登録商標)ミキサーM20)で混合し、この混合物を成形プレス機(森田油圧株式会社製)で予備成形した。次いで、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力30MPa、成形時間5分間の条件で成形プレス機(森田油圧株式会社製)を用いて、須川工業株式会社製の裏金(鉄製)と共に加熱加圧成形した。続いて、得られた成形品を210℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、ディスクブレーキパッド(摩擦材の厚さ;12mm、摩擦材投影面積;61cm2)を得た。
なお、実施例及び比較例において使用した各種材料の詳細は以下の通りである。また、実施例及び比較例において使用した各種材料は同じものとした。
【0069】
[結合材]
・フェノール樹脂
【0070】
[有機充填材]
・カシューパーティクル
・ゴム成分:ゴム粉
【0071】
[繊維基材]
(有機繊維)
・アラミド繊維
(無機繊維)
・ガラス繊維(平均繊維長3,000μm、平均繊維径13μm、アスペクト比230)
・鉱物繊維A:繊維状ウォラストナイト(平均繊維長150μm、平均繊維径12μm、アスペクト比13)
・鉱物繊維B:ロックウール(平均繊維長230μm、平均繊維径5.5μm、ウール状)
・鉱物繊維C:ロックウール(平均繊維長150μm、平均繊維径5.0μm、カット状)
【0072】
[無機充填材]
・黒鉛
・研削材A:酸化マグネシウム(モース硬度6)
・研削材B:酸化アルミニウム(モース硬度9)
・チタン酸塩:チタン酸カリウム
・金属硫化物:硫化スズ
・マイカ
・炭酸カルシウム
・水酸化カルシウム
・硫酸バリウム
【0073】
[評価試験]
各例で得たディスクブレーキパッドについて、ブレーキダイナモ試験機(新日本特機株式会社製)を用いて下記の性能評価を行った。
性能評価試験では、一般的なピンスライド式のコレット型キャリパー及び株式会社キリウ製のベンチレーテッドディスクローター(FC250(ねずみ鋳鉄))を用いた。
【0074】
(1.摩擦係数(μ)の評価)
AK-Masterに準拠した効力試験を実施し、通常走行時(40km/h)と高速走行時(120km/h)において、20~40bar(2~4MPa)の油圧で制動を行った際に発生する摩擦係数の平均値をそれぞれ求め、下記基準に従って評価した。
A:μが0.39以上(優秀)
B:μが0.34超、且つ、0.39未満(良好)
C:μが0.34以下(不適)
【0075】
(2.摩擦係数(μ)の安定性の評価)
通常制動時の摩擦係数に対する高速制動時の摩擦係数の変化率を算出し、下記基準に基づき判定を行った。
A:95%以上、且つ、105%以下(優秀)
B:90%超、且つ、95%未満、又は、105%超、且つ、110%以下(良好)
C:90%以下又は110%超(不適)
【0076】
【0077】
実施例1~5では、通常制動時及び高速制動時の摩擦係数が良好であり、且つ、通常制動時の摩擦係数に対する高速制動時の摩擦係数の変化率が小さく、摩擦係数の安定性に優れていた。つまり、実施例1~5では、高い摩擦係数を持つ摩擦材であって、且つ、低周波から高周波までの幅広い周波数帯で安定した摩擦係数を有する摩擦材が得られた。特に、繊維基材として、ウォラストナイトに加えて他の鉱物繊維をさらに2種含有させた実施例2~5では、ウォラストナイト以外の鉱物繊維が1種類である実施例1よりも、高速制動時の摩擦係数に優れ、且つ、摩擦係数の安定性もより一層優れる結果となった。
一方、モース硬度6.4超の研削材を含有する摩擦材とした比較例1~2では、摩擦係数が不十分となるか、又は、摩擦係数の安定性が不十分となった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の摩擦材、摩擦材組成物及び摩擦部材は、従来品と比較して、環境汚染のおそれのある銅を用いなくとも、(1)低周波から高周波までの幅広い周波数帯で安定した摩擦係数を有することでブレーキ鳴き及び異音が発生し難く、且つ、(2)高い摩擦係数を有するため、各種自動車等の車両用に好適である。
【符号の説明】
【0079】
1 バックプレート
11 バックプレートの摩擦材が配置される面
12 バックプレートの他方の面
2 摩擦材(上張り材)
3 下張り材